説明

溶融鉄の製造方法

【課題】高炉スラグ顕熱を利用し溶銑を製造する方法を提供する。
【解決手段】高炉1の高炉炉床部に設置された高炉出銑口2より溶銑と高炉スラグの混合物3が排出され,大樋4で溶銑5と分離された溶融高炉スラグ6は,高炉鋳床に設置された溶滓樋7を通り,高炉鋳床内に設置された流銑鉢または高炉鋳床端に設置された流銑鍋8に暫時滞留させて,大樋4で分離しきれずに溶融高炉スラグ9に混入する溶銑をさらに分離する。酸化鉄及び炭材,若しくは酸化鉄,金属鉄及び炭材を含有する混合粉体12,又は酸化鉄及び炭材,若しくは酸化鉄,金属鉄及び炭材を含有する塊状物質13を流銑鉢または流銑鍋8内の高炉スラグ9に投入し,高炉スラグ顕熱を利用して混合粉体12又は塊状物質13を溶融させ,かつ混合粉体12又は塊状物質13に含まれる酸化鉄が炭材で還元されて生成する溶融鉄10’を溶融高炉スラグ9から流銑鍋8で分離回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,鉄鋼製造の製銑工程における高炉の出銑口から排出され比重差により溶銑から分離された溶融高炉スラグの顕熱を利用し,酸化鉄を含有する鉱石類および廃棄物を原料として溶融鉄を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉スラグは溶銑と混合した状態で高炉出銑口より大樋に排出されて,比重2.8程度の溶融している高炉スラグ(以下,溶融高炉スラグと呼称する)が上層を形成し,比重7.0程度の溶銑は下層を形成し,上層の溶融高炉スラグが大樋の上部から溢流して排出されることにより,溶融高炉スラグは溶銑から分離される。
【0003】
大樋で溶銑から分離された溶融高炉スラグは,高炉鋳床に設置された溶滓樋を通って,非特許文献1に記載されているように,高炉鋳床端に設置された高炉スラグ処理設備にて徐冷処理若しくは水砕急冷処理され,または,高炉鋳床端に設置された溶滓鍋に注入されて高炉スラグ処理場まで移動されたのち徐冷処理若しくは水砕急冷処理などの冷却処理をされて,高炉スラグ半製品になる。
【0004】
これらの高炉スラグ半製品はさらに加工処理されて,徐冷された高炉スラグ(高炉徐冷スラグ)は路盤材あるいはコンクリート粗骨材等として,水砕急冷された高炉スラグ(高炉水砕スラグ)は高炉セメント原料あるいはコンクリート細骨材等として利用される。
【0005】
大樋から高炉鋳床端の高炉スラグ処理設備または溶滓鍋までの間には,非特許文献2に記載されているように,大樋で比重分離された溶融高炉スラグに,分離しきれずになお混入する溶銑をさらに分離するために,流銑鉢または流銑鍋と呼ばれる,高炉スラグを暫時滞留させる設備が通常設置されている。
【0006】
ここで,高炉出銑口より排出される溶銑の温度は1500℃以上あり,比重分離された後の溶融高炉スラグは,流銑鉢または流銑鍋においても未だ1450℃程度の高温のまま存在する。
【0007】
一方,通常の高炉スラグ組成であれば,徐冷処理あるいは水砕急冷処理などの冷却処理に必要な溶融高炉スラグ温度は1350℃程度であるため,現状の処理方法においては,溶融高炉スラグの顕熱は1450℃程度から1350℃程度までの100℃程度が無駄に捨てられていた。
【0008】
ここで,従来,特許文献1に炭素質還元剤と酸化鉄を含む成形体を,溶融鉄若しくは溶融鉄浴上の溶融スラグに供給し,成形体中の酸化鉄を還元して生成する還元鉄を溶融鉄浴中に取り込ませる発明が開示されている。
【0009】
しかし,特許文献1に開示された発明は,成形体中の酸化鉄を還元して生成する還元鉄を溶融鉄浴中に取り込ませたのちに溶融鉄と溶融スラグを分離して,溶融スラグを冷却処理することになるため,やはり溶融スラグの顕熱がすべて無駄になるという問題があった。
【0010】
また,特許文献2に製鉄所で発生するフライアッシュと鉄分含有廃棄物を混合,造粒してブリケットとして,このブリケットを溶銑上又は溶鋼上に投入し,溶融スラグの塩基度を調整すると共に,鉄分含有廃棄物中の酸化鉄を還元することで鉄の歩留まりを向上させる発明が開示されている。
【0011】
しかし,特許文献2に開示された発明は,鉄分含有廃棄物中の酸化鉄を還元したのちに溶融スラグを分離して,溶融スラグを冷却処理することになるため,やはり溶融スラグの顕熱がすべて無駄になるという問題があった。
【0012】
【特許文献1】特開平10−195513号公報
【特許文献2】特開2002−88410号公報
【非特許文献1】鉄鋼製造法,第1分冊,製銑・製鋼,日本鉄鋼協会編,丸善,昭和51年第4刷,p.366−367
【非特許文献2】鉄鋼製造法,第1分冊,製銑・製鋼,日本鉄鋼協会編,丸善,昭和51年第4刷,p.358
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明においては,上述のように,1450℃から1350℃までの100℃程度が無駄に捨てられていた溶融高炉スラグの顕熱を有効に活用し,溶融鉄を製造する方法を提供することを第一の目的とする。
【0014】
また,その際,製鉄ダスト等の従来廃棄物とされていたものを製造する溶融鉄の原料として有効活用する方法を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)高炉出銑口から排出され比重差により溶銑から分離された溶融高炉スラグに,酸化鉄及び炭材,又は酸化鉄,金属鉄及び炭材を含有する混合粉体を装入し,前記溶融高炉スラグが冷却処理されることによって失われる溶融高炉スラグ顕熱の一部を利用して,前記酸化鉄を前記炭材中の炭素により還元して溶融鉄を得ることを特徴とする溶融鉄の製造方法。
(2)高炉出銑口から排出され比重差により溶銑から分離された溶融高炉スラグに,酸化鉄及び炭材,又は酸化鉄,金属鉄及び炭材を含有する塊状物質を装入し,前記溶融高炉スラグが冷却処理されることによって失われる溶融高炉スラグ顕熱の一部を利用して,前記酸化鉄を前記炭材中の炭素により還元して溶融鉄を得ることを特徴とする溶融鉄の製造方法。
(3)塊状物質の比重が溶融高炉スラグより大きいことを特徴とする(2)記載の溶融鉄の製造方法。
(4)前記混合粉体又は前記塊状物質に含まれる,金属鉄と炭材中の炭素を除く酸化物からなる混合物の融点が1300℃以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の溶融鉄の製造方法。
(5)前記炭材中の炭素量が,前記酸化鉄中の酸素量に対し,等モル以上存在することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の溶融鉄の製造方法。
(6)前記炭材中の炭素量(モル量)が,前記酸化鉄の還元に必要な量(モル量)よりも余剰であって,前記溶融高炉スラグに前記混合粉体又は前記塊状物質とともに酸素又は酸素富化空気を供給することを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の溶融鉄の製造方法。
(7)前記溶融高炉スラグに,更に炭材,及び,酸素又は酸素富化空気を供給することを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の溶融鉄の製造方法。
(8)前記混合粉体又は前記塊状物質の原料として,還元鉄の篩い下粉,還元鉄ダスト,製鉄ダスト,石炭フライアッシュ,製鋼スラグの少なくとも何れか一つを使用することを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の溶融高炉スラグの顕熱を利用した溶融鉄の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば,従来無駄に捨てられていた,溶融高炉スラグの顕熱を有効に活用し,溶融鉄を製造することができる。
【0017】
また,その際に従来は,廃棄物とされるか,又は回転床炉等で還元され電気炉で溶融されて溶融鉄を製造する原料とされる製鉄ダスト等を,燃料ガスや電力等のあらたなエネルギーを用いることなく,製鉄ダスト等に含まれる鉄分を溶融鉄として回収することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の溶融高炉スラグの顕熱を利用した溶融鉄の製造方法は,高炉出銑口から排出され比重差により溶銑から分離された溶融高炉スラグに,
1)酸化鉄及び炭材,又は酸化鉄,金属鉄及び炭材を含有する混合粉体を溶融高炉スラグに装入し,または,
2)酸化鉄及び炭材,又は酸化鉄,金属鉄及び炭材を含有する塊状物質を溶融高炉スラグに装入して,
前記溶融高炉スラグの高温の顕熱を利用して,前記混合粉体又は前記塊状物質を溶融させると共に前記酸化鉄を前記炭材中の炭素により還元して溶融鉄を得ることを特徴とする。
【0019】
図1の本発明に関わる溶融高炉スラグの顕熱を利用した溶融鉄製造プロセスの一例に基づき,本発明の実施形態について詳細説明を行う。
【0020】
高炉1の高炉炉床部に設置された高炉出銑口2より溶銑と高炉スラグの混合物3が排出され,大樋4にて比重7.0程度の重い溶銑5と比重2.8程度の軽い高炉スラグ6とに比重分離される。大樋4で溶銑5と分離された溶融高炉スラグ6(溶滓とも言う)は,高炉鋳床に設置された溶滓樋7を通り,高炉鋳床内に設置された流銑鉢(図示しない)または高炉鋳床端に設置された流銑鍋8に暫時滞留させて,大樋4で分離しきれずに溶融高炉スラグ9に混入する溶銑をさらに比重分離する。
【0021】
この流銑鉢又は流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9に,酸化鉄及び炭材,又は酸化鉄,金属鉄及び炭材を含有する混合粉体12を連続的に装入するか,あるいは酸化鉄及び炭材,又は,酸化鉄,金属鉄及び炭材を含有する塊状物質13を溶融高炉スラグ9に連続的に装入する。
【0022】
前記混合粉体12および前記塊状物質13に含まれる酸化鉄としては,鉄鉱石粉を使用することができる。さらに,前記混合粉体12および前記塊状物質13に含まれる酸化鉄又は金属鉄としては,流動層炉,ロータリーキルン又は回転床炉などの還元鉄製造プロセスで製造した還元鉄を篩い分けし,一定以上の大きさの還元鉄を製品とした以外の還元鉄の篩い下粉を使用することもできる。さらに,前記還元鉄製造プロセスで発生する還元鉄ダストを使用することもできる。さらに,高炉,転炉,電炉,コークス炉,焼結機,圧延機,若しくは表面処理設備の少なくともいずれか一つが設置されている製鉄所から発生する製鉄ダスト若しくは製鉄スラジ等の,酸化鉄又は金属鉄を含有する物質を使用することもできる。
【0023】
前記混合粉体12および前記塊状物質13に含まれる炭材としては,コークス粉,石炭粉を使用することができる。さらに,前記製鉄ダスト,微粉炭焚火力発電プラント等から発生する石炭フライアッシュ等の,炭素を含有する物質を使用することができる。
【0024】
前記混合粉体12および前記塊状物質13は,上記の酸化鉄及び炭材,又は酸化鉄,金属鉄及び炭材の他に,石灰石,珪石,蛇紋岩,ドロマイト,又は転炉や溶銑予備処理工程から発生する製鋼スラグの合計を50質量%以下含有することができる。
【0025】
前記混合粉体12は,ロータリーミキサー等の混合設備を使用して,前述の原料を混合して製造する。
【0026】
前記塊状物質13は,ロータリーミキサー等の混合設備を使用して,前述の原料にベントナイト,セメント又は糖蜜などをバインダーとして添加し,かつ水分を調整した材料を混合し,造粒機,押出成型機又は加圧成型機等を使用して,前記材料を塊成化して製造する。
【0027】
前記混合粉体12を,吹込みタンク内に貯留し,タンク下部からロータリーフィーダー又はテーブルフィーダー等の切り出し装置を使用して搬送配管内に連続的に切り出し,搬送配管内を空気,酸素富化空気または窒素ガス等の不活性ガス等で搬送し,搬送配管端部に耐摩耗性フレキシブルホース等を介して設置したインジェクションノズル(ノズル)15を流銑鍋内の溶融高炉スラグ9中に浸漬し,ノズル15先端から流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9中に連続的にインジェクションする。前記混合粉体12はガスで搬送されるので,配管内の閉塞や配管摩耗を抑制するために,前記混合粉体12は1mm以下の粒径であることが望ましい。
【0028】
前記塊状物質13を,ホッパー(図示しない)に貯留し,ホッパー下部からロータリーフィーダー又はテーブルフィーダー等の切り出し装置(図示しない)を使用してベルトコンベアー(図示しない)上に切り出し,ベルトコンベアー端部から装入用シュート(図示しない)を介して流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9表面に連続的に投入する。前記塊状物質13は溶融高炉スラグ9表面に投入されるので,溶融高炉スラグ9表面からの飛散を抑制するために,前記塊状物質13は1mm以上の粒径であることが望ましい。また,溶解速度は粒径が小さいほど速く大きくなるほど遅くなるため,溶け残りがないように50mmを超えない粒径であることが望ましい。塊状物質13を溶融高炉スラグ9に投入した際に,塊状物質13が粉化して粉体が生成し,その粉体がスラグ表面から飛散することの無いような強度を塊状物質13が持つような塊成化方法であれば良い。また,前述の原料の一部若しくは全部を粉砕して粒度分布を調整し,塊成化後の塊状物質13の強度を上げることもできる。
【0029】
前記混合粉体12又は前記塊状物質13が溶融高炉スラグ9に装入されて昇温されると,前記混合粉体12又は前記塊状物質13に含まれる酸化鉄は,式(1)又は式(2)に示すように,前記混合粉体12又は前記塊状物質13に含まれる炭材中の炭素により還元される。
FeO+C=Fe+CO ・・・・・・・・・・(1)
Fe+3C=2Fe+3CO ・・・・・(2)
【0030】
生成したFeは溶融鉄10’となって流銑鍋8の底部に比重分離された溶銑10中に回収される。生成したCOガスは流銑鍋8の上部空間で大気中の酸素と反応して燃焼し,その燃焼熱の一部は流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9に伝熱し,前記混合粉体12および前記塊状物質13の溶融に必要な熱,および式(1)又は式(2)に示す酸化鉄の還元反応に必要な熱の一部を供給することができる。
【0031】
前記塊状物質13の比重が溶融高炉スラグ9より大きいと,塊状物質13が溶融高炉スラグ9に沈むのでさらに良い。溶融高炉スラグ9に浮く場合は,溶融高炉スラグ9が流銑鍋8内に滞留する時間内(装入されてから溶融高炉スラグ14と共に流銑鍋8から排出されるまでの時間内)に,塊状物質13に含まれる酸化鉄の還元と塊状物質13の溶融が終了する必要がある。塊状物質13に含まれる酸化鉄の還元と塊状物質13の溶融が終了しないと,未反応または未溶解の前記塊状物質13の一部が溶融高炉スラグ14と共に流銑鍋8から排出され,高炉スラグ半製品中に混入して,高炉スラグ半製品の品質が低下する。前記塊状物質13が溶融高炉スラグ9に沈むことで,前記塊状物質13が溶融高炉スラグ14と共に流銑鍋8から排出されることはなくなり,且つ溶融高炉スラグ9から前記塊状物質13への伝熱速度が大きくなり,塊状物質13の温度上昇速度が大きくなり,塊状物質13に含まれる酸化鉄の還元速度を大きくすると共に塊状物質13の溶融時間を短くすることができる。
【0032】
溶融高炉スラグ9の比重は2.8程度なので,酸化鉄及び炭材,又は酸化鉄,金属鉄及び炭材を含有する原料の配合を調整し,混合した材料を塊成化し,塊状物質13の比重を2.8超に調整することができる。例えば,塊状物質13には50質量%程度またはそれ以上の鉄分が含まれることが望ましい。鉄の含有量が50質量%未満となると溶融鉄の原料となる塊状物質13の比重が小さくなり,溶融高炉スラグ9中で沈みにくくなる。また,前述の原料の一部若しくは全部を粉砕して粒度分布を調整し,塊成化後の塊状物質13の比重を大きくすることもできる。さらに,加圧成型機を用いる場合は,前記材料を成型する際に,大きな成型圧力をかけることにより空隙率を小さくして,溶融鉄の原料となる塊状物質13の比重を2.8超にすることもできる。
【0033】
前記混合粉体12又は前記塊状物質13に含まれる金属鉄と炭材中の炭素を除く酸化物(Fe,FeO,CaO,SiO,Al,MgO等)を成分とする化合物の融点が1300℃以下になるように,酸化鉄,金属鉄及び炭材を含有する原料の配合割合を調整したり,酸化物成分を主体とする石灰石,珪石,蛇紋岩,ドロマイト,又は転炉や溶銑予備処理工程から発生する製鋼スラグ等の少なくともいずれか一つを副原料として添加して,前記混合粉体12又は前記塊状物質13の組成を調整することにより,1450℃程度の溶融高炉スラグ9への混合粉体12又は塊状物質13の速やかな溶解が可能となり,未溶解の混合粉体12又は塊状物質13が,流銑鉢または流銑鍋8に続いて設置された溶融高炉スラグ14の処理設備にて徐冷処理または水砕急冷処理されて製造される高炉スラグ半製品中に混じらないようにすることが可能である。例えば,前記混合粉体12又は前記塊状物質13のCaO(質量%)とSiO(質量%)の比を調整したり,Fe(質量%)とSiO(質量%)の比を調整したりすることによって,混合粉体12又は塊状物質13に含まれる金属鉄と炭材中の炭素を除く酸化物(Fe,FeO,CaO,SiO,Al,MgO等)を成分とする化合物の融点が1300℃以下になるようにすることが可能である。
【0034】
酸化鉄及び炭材,又は酸化鉄,金属鉄及び炭材を含有する混合粉体12又は塊状物質13の,金属鉄と炭材中の炭素を除く酸化物成分(Fe,FeO,CaO,SiO,Al,MgO等)の混合物の融点が1300℃以下であるかどうかは,事前に実験により確かめることができる。
【0035】
酸化鉄が炭素で還元される際には,式(1)又は式(2)に示すように,混合粉体12又は塊状物質13に含有される酸化鉄中の酸素は,混合粉体12又は塊状物質13に含有される炭材中の炭素とモル比1:1の等モルで反応するので,混合粉体12又は塊状物質13に含有される酸化鉄中の酸素量に対し,混合粉体12又は塊状物質13に含有される炭素量が等モル以上存在するように,各配合原料を予め分析して得た炭素質量%と酸化鉄質量%から,その配合割合を調整する。混合粉体12又は塊状物質13に含有される酸化鉄中の酸素モル量よりも,混合粉体12又は塊状物質13に含有される炭素モル量が多くなるように,各配合原料を予め分析して得た炭素質量%と酸化鉄質量%から,その配合割合を調整すれば,酸化鉄中の酸素モル量と炭素モル量の差に相当する量の炭素は余剰の炭素となる。
【0036】
混合粉体12又は塊状物質13に含有される炭材中の炭素量が酸化鉄の還元に必要な量よりも余剰に存在する場合,または,流銑鉢若しくは流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9にコークス又は石炭等の炭材を更に添加する場合は,混合粉体12又は塊状物質13に含まれる金属鉄および酸化鉄が還元されて生成した金属鉄は比重が溶融高炉スラグ9よりも大きいので溶融高炉スラグ9の底部に沈降するのに対し,余剰の炭素または添加したコークス又は石炭等の炭材中の炭素は比重が溶融高炉スラグ9よりも小さいので溶融高炉スラグ9の表面に浮上する。
【0037】
なお,添加するコークス又は石炭等の炭材中の炭素が粉状の場合は,当該炭材を流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9内に混合粉体12と同様な方法でインジェクションする。添加したコークス又は石炭等の炭材中の炭素が塊状の場合は,当該炭材を流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9上に塊状物質13と同様な方法で投入する。
【0038】
混合粉体12を流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9にインジェクションする場合は,搬送用のガスに酸素又は酸素富化空気を使用しても良く,あるいは混合粉体12のインジェクションノズル15とは別に,酸素又は酸素富化空気吹込み専用のノズルを設置しても良い。酸素又は酸素富化空気吹込み専用のノズル先端を,流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9の表面から離して酸素又は酸素富化空気を溶融高炉スラグ9表面に吹き付けても良く,または流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9内に浸漬して酸素又は酸素富化空気を溶融高炉スラグ9内に吹き込んでも良い。
【0039】
塊状物質13を流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9に投入する場合は,酸素又は酸素富化空気吹込み専用のノズルを設置する。酸素又は酸素富化空気吹込み専用のノズル先端を,流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9の表面から離して酸素又は酸素富化空気を溶融高炉スラグ9表面に吹き付けても良く,または流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9内に浸漬して酸素又は酸素富化空気を溶融高炉スラグ9内に吹き込んでも良い。
【0040】
溶融高炉スラグ9表面に吹きつけた酸素11または酸素富化空気は,溶融高炉スラグ9の底部に沈降する金属鉄を再酸化することなく,高炉スラグ9の表面に浮上する余剰の炭素または添加したコークス又は石炭等の炭材中の炭素を燃焼することが可能となる。
【0041】
溶融高炉スラグ9内部に吹込まれた酸素11または酸素富化空気は溶融高炉スラグ9の表面に向かって速やかに浮上するので,溶融高炉スラグ9の底部に沈降する金属鉄を再酸化することなく,高炉スラグ9の表面に浮上する余剰の炭素または添加したコークス又は石炭等の炭材中の炭素を酸素11または酸素富化空気で燃焼することが可能となる。
【0042】
すなわち,余剰の炭素または添加したコークス又は石炭等の炭材中の炭素を酸素11または酸素富化空気によって燃焼させ,その燃焼熱の一部が流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9に伝熱し,前記混合粉体12および前記塊状物質13の溶融に必要な熱,および式(1)又は式(2)に示す酸化鉄の還元反応に必要な熱の一部を供給することができる。
【0043】
その結果,溶融鉄の原料となる混合粉体12又は塊状物質13の処理量を多くし,流銑鉢または流銑鍋8で回収する溶融鉄10’(元々混入していた溶銑10を含む)の量を増やすことが可能である。
【0044】
尚,混合粉体12と酸素11または酸素富化空気を溶融高炉スラグ9に吹込むノズルは,N2などの不活性ガスまたは空気による混合粉体12を吹込む管と酸素11または酸素富化空気を吹込む管からなる二重管構造とすることも可能である。
【0045】
また,溶融高炉スラグ9に吹込まれた酸素11または酸素富化空気は,溶融高炉スラグ9の表面に向かって速やかに上昇するので,下方に向かってインジェクションされた酸素11または酸素富化空気が溶融高炉スラグ9の底部に滞留した溶融鉄10’(元々混入していた溶銑10を含む)に直接触れないようにノズル15の高さを調節することにより,溶融鉄10’を再酸化することなく,高炉スラグ9の表面に浮上する炭素を燃焼し,その燃焼熱で溶融高炉スラグ9を加熱することができる。
【0046】
前述の還元鉄の篩い下粉,還元鉄ダスト,製鉄ダスト若しくは製鉄スラジ,石炭フライアッシュ,製鋼スラグ等の,通常廃棄物となるか,大きなエネルギーや労力を投入しないと利用できない物質を,混合粉体12又は塊状物質13の原料とし,溶融高炉スラグの顕熱を利用して溶融鉄を製造することにより,資源を経済的に有効利用することが可能となる。
【0047】
流銑鉢または流銑鍋8にて比重分離された溶融高炉スラグ14は,流銑鉢または流銑鍋8の上部から排出され,その後,鋳床端に設置された高炉スラグ処理設備にて徐冷または水砕急冷処理され,または溶滓鍋に注入されてスラグ処理場まで移動されたのち高炉スラグ処理設備にて徐冷または水砕急冷処理されて路盤材,高炉セメント原料またはコンクリート細骨材といったスラグ製品に加工される。
【0048】
そして,流銑鉢または流銑鍋8にて比重分離された溶融鉄10’は,流銑鉢または流銑鍋8から排出され,その後,大樋4から比重分離されて排出された溶銑5に合流されることで,溶銑量を増加させることも可能となる。
尚,溶融鉄10’は,溶銑5と合流させずに,単独で使用することも可能である。
【実施例】
【0049】
図1の設備を用いて,試験した実施例について以下に述べる。
溶銑及び溶滓3の排出量が13,000トン/日の高炉1で,高炉出銑口2から溶滓としては毎分2トンで排出され,その温度は出銑口2直後で1530℃である。出銑口2から溶銑とともに排出された溶滓は大樋4で溶銑から分離され,溶融高炉スラグ6として鋳床を,溶滓樋7を通って流れ,鋳床端に設置された流銑鍋8に注入されている。また,分離された溶銑5は製鋼工程へ搬送される。本発明の処理を行う前には,流銑鍋8における溶融高炉スラグ9の温度は1450℃であった。用いた原料を表1から表5に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【0055】
(実施例1)
混合粉体12の原料とする鉄鉱石粉とコークス粉の組成を表1に示す。鉄鉱石粉の粒径は1mm以下であった。鉄鉱石粉1トンに対してコークス粉200kgをロータリーミキサーで混合して混合粉体12を製造した。混合粉体の粒径は1mm以下であった。
前記混合粉体12を,吹込みタンク内に貯留し,タンク下部からロータリーフィーダーを使用して搬送配管内に連続的に切り出し,搬送配管内を空気で搬送し,搬送配管端部に耐摩耗性フレキシブルホースを介して設置したインジェクションノズル15を流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9中に浸漬し,ノズル15先端から流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9中に連続的に毎分0.05トンで投入した。
【0056】
混合粉体12中の酸化鉄は,溶融高炉スラグ9からの熱を得て,混合粉体12中の炭素により還元されて溶融高炉スラグ9中に溶解し溶融鉄10’となる。比重の重い溶融鉄10’は溶融高炉スラグ9中を沈降し流銑鍋8の底部に滞留する。溶融高炉スラグ9から分離された溶融鉄10’の量は,毎分0.023トンであった。
【0057】
流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9の温度は50℃低下し,1400℃になったが,流銑鍋8の上部から溶融高炉スラグ14が排出され,この溶融高炉スラグ14は水砕処理が可能であった。
【0058】
従来無駄に棄てられていた溶融高炉スラグ温度50℃低下に相当する高温の溶融高炉スラグ顕熱が有効に熱源として利用され,33トン/日に相当する量の溶融鉄10’を流銑鍋8で製造することが可能であった。
【0059】
(実施例2)
塊状物質13の原料とする鉄鉱石粉とコークス粉の組成を表1に,ベントナイトの組成を表2に示す。鉄鉱石粉1トンに対してコークス粉200kgとベントナイト60kgをロータリーミキサーで混合して,ブリケットマシンで加圧成型して塊状物質13を製造した。塊状物質の粒径は1〜50mmであり,比重は2.2であった(溶融高炉スラグの比重=2.8)。前記塊状物質13を,ホッパーに貯留し,ホッパー下部からロータリーフィーダーを使用してベルトコンベアー上に切り出し,ベルトコンベアー端部から流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9表面に連続的に毎分0.05トンで投入した。
【0060】
塊状物質13中の酸化鉄は,溶融高炉スラグ9からの熱を得て,塊状物質13中の炭素により還元されて溶融高炉スラグ9中に溶解し溶融鉄10’となる。比重の重い溶融鉄10’は溶融高炉スラグ9中を沈降し流銑鍋8の底部に滞留する。溶融高炉スラグ9から分離された溶融鉄10’の量は,毎分0.022トンであった。
【0061】
流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9は,温度が50℃低下して1400℃になったが,流銑鍋8の上部から排出され,このあと水砕処理が可能であった。
【0062】
従来無駄に棄てられていた溶融高炉スラグ温度50℃低下に相当する高温の溶融高炉スラグ顕熱が有効に熱源として利用され,31トン/日に相当する量の溶融鉄10’を流銑鍋8で製造することが可能であった。
【0063】
(実施例3)
塊状物質13の原料とする鉄鉱石粉とコークス粉の組成を表1に,ベントナイトの組成を表2に,還元鉄篩下粉の組成を表3に示す。鉄鉱石粉1トンに対してコークス粉250kg,還元鉄篩下粉1トン,およびベントナイト113kgをロータリーミキサーで混合して,ブリケットマシンで加圧成型して塊状物質13を製造したところ,前記塊状物質13の見掛け比重は2.9となった。塊状物質の粒径は1〜50mmであった。前記塊状物質13を,ホッパーに貯留し,ホッパー下部からロータリーフィーダーを使用してベルトコンベアー上に切り出し,ベルトコンベアー端部から流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9表面に連続的に毎分0.1トンで投入した。
【0064】
塊状物質13中の酸化鉄は,溶融高炉スラグ9からの熱を得て,塊状物質13中の炭素により還元されて溶融高炉スラグ9中に溶解し溶融鉄10’となる。比重の重い溶融鉄10’は溶融高炉スラグ9中を沈降し流銑鍋8の底部に滞留する。溶融高炉スラグ9から分離された溶融鉄10’の量は,毎分0.12トンであった。
【0065】
流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9は,温度が100℃低下して1350℃になったが,流銑鍋8の上部から排出され,このあと水砕処理が可能であった。
【0066】
従来無駄に棄てられていた溶融高炉スラグ温度100℃低下に相当する高温の溶融高炉スラグ顕熱が有効に熱源として利用され,172トン/日に相当する量の溶融鉄10’を流銑鍋8で製造することが可能であった。
【0067】
実施例2のように塊状物質13の比重が溶融高炉スラグ9(比重2.8程度)より小さいと,塊状物質13が溶融高炉スラグ9に浮き,溶融高炉スラグ9が流銑鍋8内に滞留する時間内に,塊状物質13に含まれる酸化鉄の還元と塊状物質13の溶融が終了する必要がある。塊状物質13に含まれる酸化鉄の還元と塊状物質13の溶融が終了しないと,未反応または未溶解の塊状物質13の一部が高炉スラグ14と共に流銑鍋8から排出され,高炉スラグ半製品中に混入して,高炉スラグ半製品の品質が低下するからである。
【0068】
これに対して,実施例3のように塊状物質13の比重が溶融高炉スラグ9(比重2.8程度)より大きいと,塊状物質13が溶融高炉スラグ9中に沈むので,未反応または未溶解の塊状物質13の一部が高炉スラグ14と共に流銑鍋8から排出されることはなくなり,且つ溶融頃スラグ9から前記塊状物質13への伝熱速度が大きくなり,塊状物質13の温度上昇速度が大きくなり,塊状物質13に含まれる酸化鉄の還元速度を大きくすると共に塊状物質13の溶融時間を短くすることができるので処理量を大きくすることができる。実施例2にくらべ実施例3では処理量が大きくなっている。
【0069】
(実施例4)
混合粉体12の原料とする鉄鉱石粉とコークス粉の組成を表1に,転炉スラグの組成を表4に示す。鉄鉱石粉1トンに対してコークス粉200kgとロッドミルで予め1mm以下に粉砕した転炉スラグ粉74kgをロータリーミキサーで混合して混合粉体12を製造した。混合粉体の粒径は1mm以下であった。
【0070】
前記混合粉体12中の塩基度CaO/SiOと呼ばれるCaOmass量とSiOmass量との比は1.0となった。前記混合粉体12を黒鉛るつぼに装入して加熱昇温し,混合粉体12の溶融温度をあらかじめ測定したところ1300℃で完全に溶融していた。
【0071】
前記混合粉体12を,吹込みタンク内に貯留し,タンク下部からロータリーフィーダーを使用して搬送配管内に連続的に切り出し,搬送配管内を空気で搬送し,搬送配管端部に耐摩耗性フレキシブルホースを介して設置したインジェクションノズル15を流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9中に浸漬し,ノズル15先端から流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9中に連続的に毎分0.1トンで投入した。
【0072】
混合粉体12中の酸化鉄は,溶融高炉スラグ9からの熱を得て,混合粉体12中の炭素により還元されて溶融高炉スラグ9中に溶解し溶融鉄10’となる。比重の重い溶融鉄10’は溶融高炉スラグ9中を沈降し流銑鍋8の底部に滞留する。溶融高炉スラグ9から分離された溶融鉄10’の量は,毎分0.033トンであった。
【0073】
流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9は,温度が100℃低下して1350℃になったが,流銑鍋8の上部から排出され,このあと水砕処理が可能であった。
【0074】
従来無駄に棄てられていた溶融高炉スラグ温度100℃低下に相当する高温の溶融高炉スラグ顕熱が有効に熱源として利用され,48トン/日に相当する量の溶融鉄10’を流銑鍋8で製造することが可能であった。
【0075】
(実施例5)
混合粉体12の原料とする鉄鉱石粉とコークス粉の組成を表1に示す。鉄鉱石粉1トンに対してコークス粉249kgをロータリーミキサーで混合して混合粉体12を製造した。混合粉体の粒径は1mm以下であった。前記混合粉体12中には混合粉体1249kg当たり18.26kmolの被還元酸素量と同じく18.26kmolの炭素量が,すなわち被還元酸素量と等モルの炭素量が含まれている。
【0076】
前記混合粉体を,吹込みタンク内に貯留し,タンク下部からロータリーフィーダーを使用して搬送配管内に連続的に切り出し,搬送配管内を空気で搬送し,搬送配管端部に耐摩耗性フレキシブルホースを介して設置したインジェクションノズル15を流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9中に浸漬し,ノズル15先端から流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9中に連続的に毎分0.05トンで投入した。
【0077】
混合粉体12中の酸化鉄は,溶融高炉スラグ9からの熱を得て,混合粉体12中の炭素により還元されて溶融高炉スラグ9中に溶解し溶融鉄10’となる。比重の重い溶融鉄10’は溶融高炉スラグ9中を沈降し流銑鍋8の底部に滞留する。溶融高炉スラグ9から分離された溶融鉄10’の量は,毎分0.027トンであった。
【0078】
流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9は,温度が50℃低下して1400℃になったが,流銑鍋8の上部から排出され,このあと水砕処理が可能であった。
【0079】
従来無駄に棄てられていた溶融高炉スラグ温度50℃低下に相当する高温の溶融高炉スラグ顕熱が有効に熱源として利用され,39トン/日に相当する量の溶融鉄10’を流銑鍋8で製造することが可能であった。
【0080】
(実施例6)
混合粉体12の原料とする鉄鉱石粉とコークス粉の組成を表1に示す。鉄鉱石粉1トンに対してコークス粉300kgをロータリーミキサーで混合して混合粉体12を製造した。混合粉体の粒径は1mm以下であった。前記混合粉体12中には,混合粉体1300kg当たり18.26kmolの被還元酸素量と,同じく22.00kmolの炭素量が,すなわち3.74kmolの余剰の炭素量が含まれている。
【0081】
前記混合粉体12を,吹込みタンク内に貯留し,タンク下部からロータリーフィーダーを使用して搬送配管内に連続的に切り出し,混合粉体1300kg当たり3.74kmol(83.8Nm)の酸素を富化した空気で搬送し,搬送配管端部に耐摩耗性フレキシブルホースを介して設置したインジェクションノズル15を流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9中に浸漬し,ノズル15先端から流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9中に連続的に毎分0.15トンで投入した。
【0082】
混合粉体12中の酸化鉄は,溶融高炉スラグ9からの熱を得て,混合粉体12中の炭素により還元されて溶融高炉スラグ9中に溶解し溶融鉄10’となる。比重の重い溶融鉄10’は溶融高炉スラグ9中を沈降し流銑鍋8の底部に滞留する。溶融高炉スラグ9から分離された溶融鉄10’の量は,毎分0.078トンであった。
流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9は,温度が50℃低下して1400℃になったが,流銑鍋8の上部から排出され,このあと水砕処理が可能であった。
従来無駄に棄てられていた溶融高炉スラグ温度50℃低下に相当する高温の溶融高炉スラグ顕熱と余剰炭素の燃焼熱が有効に熱源として利用され,113トン/日に相当する量の溶融鉄10’を流銑鍋8で製造することが可能であった。
【0083】
溶融高炉スラグ9表面に吹きつけた酸素富化空気(酸素11を吹きつけた場合も同様)は,溶融高炉スラグ9の底部に沈降する金属鉄を再酸化することなく,高炉スラグ9の表面に浮上する余剰の炭素または添加したコークス又は石灰等の炭材中の炭素を燃焼することが可能となる。
溶融高炉スラグ9内部に吹込まれた酸素富化空気(酸素11)は溶融高炉スラグ9の表面に向かって速やかに浮上するので,溶融高炉スラグ9の底部に沈降する金属鉄を再酸化することなく,高炉スラグ9の表面に浮上する余剰の炭素または添加したコークス又は石灰等の炭材中の炭素を酸素富化空気(酸素11)で燃焼することが可能となった。
すなわち,余剰の炭素または添加したコークス又は石炭等の炭材中の炭素を酸素富化空気(酸素11)によって燃焼させ,その燃焼熱の一部が流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9に伝熱し,前記混合粉体12および前記塊状物質13の溶融に必要な熱,および式(1)又は式(2)に示す還元反応に必要な熱の一部を供給することができた。
その結果,溶融鉄の原料となる混合粉体12(塊状物質13についても同様)の処理量を多くし,流銑鉢または流銑鍋8で回収する溶融鉄10’(元々混入していた溶銑10を含む)の量を増やすことが可能となる。
【0084】
(実施例7)
塊状物質13の原料とする鉄鉱石粉とコークス粉の組成を表1に,ベントナイトの組成を表2に示す。鉄鉱石粉1トンに対してコークス粉249kgとベントナイト50kgをロータリーミキサーで混合して,ブリケットマシンで加圧成型して塊状物質13を製造した。塊状物質の粒径は1〜10mmであり,比重は2.2であった(溶融高炉スラグの比重=2.8)。前記塊状物質13中には1299kg当たり18.26kmolの被還元酸素量と同じく18.26kmolの炭素量が,すなわち被還元酸素量と等モルの炭素量が含まれている。前記塊状物質13を,ホッパーに貯留し,ホッパー下部からロータリーフィーダーを使用してベルトコンベアー上に切り出し,ベルトコンベアー端部から流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9表面に連続的に毎分0.10トンで投入した。
【0085】
さらに,表1に組成を示すコークス粉を,吹込みタンク内に貯留し,タンク下部からロータリーフィーダーを使用して搬送配管内に連続的に切り出し,前記塊状物質1299kg当たりコークス粉100kg,すなわちコークス粉中の炭素量が7.3kmolとなる量を7.33kmol(164Nm3)の酸素を富化した空気で搬送し,搬送配管端部に耐摩耗性フレキシブルホースを介して設置したインジェクションノズル15を流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9中に浸漬し,ノズル15先端から流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9中に連続的に投入した。
【0086】
塊状物質13中の酸化鉄は,溶融高炉スラグ9からの熱を得て,塊状物質13中の炭素により還元されて溶融高炉スラグ9中に溶解し溶融鉄10’となる。比重の重い溶融鉄10’は溶融高炉スラグ9中を沈降し流銑鍋8の底部に滞留する。溶融高炉スラグ9から分離された溶融鉄10’の量は,毎分0.052トンであった。
【0087】
流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9は,温度が50℃低下して1400℃になったが,流銑鍋8の上部から排出され,このあと水砕処理が可能であった。
従来無駄に棄てられていた溶融高炉スラグ温度50℃低下に相当する高温の溶融高炉スラグ顕熱と余剰炭素の燃焼熱が有効に熱源として利用され,75トン/日に相当する量の溶融鉄10’を流銑鍋8で製造することが可能であった。
【0088】
(実施例8)
混合粉体12の原料とする焼結機ダストと高炉ダストの組成を表5に示す。焼結機ダスト1トンに対して高炉ダスト755kgをロータリーミキサーで混合して混合粉体12を製造した。混合粉体の粒径は1mm以下であった。
前記混合粉体12を,吹込みタンク内に貯留し,タンク下部からロータリーフィーダーを使用して搬送配管内に連続的に切り出し,搬送配管内を空気で搬送し,搬送配管端部に耐摩耗性フレキシブルホースを介して設置したインジェクションノズル15を流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9中に浸漬し,ノズル15先端から流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9中に連続的に毎分0.1トンで投入した。
【0089】
混合粉体12中の酸化鉄は,溶融高炉スラグ9からの熱を得て,混合粉体12中の炭素により還元されて溶融高炉スラグ9中に溶解し溶融鉄10’となる。比重の重い溶融鉄10’は溶融高炉スラグ9中を沈降し流銑鍋8の底部に滞留する。溶融高炉スラグ9から分離された溶融鉄10’の量は,毎分0.046トンであった。
【0090】
流銑鍋8内の溶融高炉スラグ9の温度は100℃低下し,1350℃になったが,流銑鍋8の上部から排出され,このあと水砕処理が可能であった。
従来無駄に棄てられていた溶融高炉スラグ温度100℃低下に相当する高温の溶融高炉スラグ顕熱が有効に熱源として利用され,67トン/日に相当する量の溶融鉄10’を流銑鍋8で製造することが可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明に係る溶融高炉スラグの顕熱を利用した溶融鉄製造プロセスの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0092】
1:高炉
2:出銑口
3:溶銑及び溶滓
4:大樋
5:溶銑
6:溶滓(溶融高炉スラグ)
7:溶滓樋
8:流銑鍋
9:溶融高炉スラグ
10:溶銑
10’:溶融鉄
11:酸素または酸素富化空気
12:(溶融鉄の原料となる)混合粉体
13:(溶融鉄の原料となる)塊状物質
14:溶融高炉スラグ
15:溶融鉄の原料となる混合粉体,酸素または酸素富化空気を吹込むノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉出銑口から排出され比重差により溶銑から分離された溶融高炉スラグに,酸化鉄及び炭材,又は酸化鉄,金属鉄及び炭材を含有する混合粉体を装入し,前記溶融高炉スラグが冷却処理されることによって失われる溶融高炉スラグ顕熱の一部を利用して,前記酸化鉄を前記炭材中の炭素により還元して溶融鉄を得ることを特徴とする溶融鉄の製造方法。
【請求項2】
高炉出銑口から排出され比重差により溶銑から分離された溶融高炉スラグに,酸化鉄及び炭材,又は酸化鉄,金属鉄及び炭材を含有する塊状物質を装入し,前記溶融高炉スラグが冷却処理されることによって失われる溶融高炉スラグ顕熱の一部を利用して,前記酸化鉄を前記炭材中の炭素により還元して溶融鉄を得ることを特徴とする溶融鉄の製造方法。
【請求項3】
塊状物質の比重が溶融高炉スラグより大きいことを特徴とする請求項2記載の溶融鉄の製造方法。
【請求項4】
前記混合粉体又は前記塊状物質に含まれる,金属鉄と炭材中の炭素を除く酸化物からなる混合物の融点が1300℃以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶融鉄の製造方法。
【請求項5】
前記炭材中の炭素量が,前記酸化鉄中の酸素量に対し,等モル以上存在することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の溶融鉄の製造方法。
【請求項6】
前記炭材中の炭素量(モル量)が,前記酸化鉄の還元に必要な量(モル量)よりも余剰であって,前記溶融高炉スラグに前記混合粉体又は前記塊状物質とともに酸素又は酸素富化空気を供給することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の溶融鉄の製造方法。
【請求項7】
前記溶融高炉スラグに,更に,炭材,及び,酸素又は酸素富化空気を供給することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の溶融鉄の製造方法。
【請求項8】
前記混合粉体又は前記塊状物質の原料として,還元鉄の篩い下粉,還元鉄ダスト,製鉄ダスト,石炭フライアッシュ,製鋼スラグの少なくともいずれか一つを使用することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の溶融鉄の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−204825(P2007−204825A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26915(P2006−26915)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】