説明

溶銑製造方法及び転炉製鋼方法

【課題】未還元の酸化鉄分を含有する還元鉄を含鉄冷材の一部又は全部として含鉄冷材の溶解を行うに際し、炭材原単位及び酸素原単位を良好に保って溶解を行うことのできる溶銑製造方法及び生産性の高い溶解を行うための最適な溶融スラグ生成条件を提供する。
【解決手段】種湯の存在する溶解炉に還元鉄、炭材、酸素を供給して溶銑を得るに際し、種湯のみ存在する溶解前溶銑浴深さと、溶解完了時の溶解後溶銑深さとの関係が、溶解前溶銑浴深さ/溶解後溶銑浴深さにより定まる指標Rsmを0.6〜0.85に制御する。また、溶解炉内に存在するスラグ量について、溶解開始前の残留スラグ量と溶解終了時のスラグ量との関係が、溶解開始前の残留スラグ量/溶解終了時のスラグ量により定まる指標Rssを0.1〜0.5に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄分を主成分とするダストを還元した還元鉄を原料とする溶銑製造方法及びその溶銑を用いた転炉製鋼方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粒銑、型銑、製鉄所発生スクラップ等の固形含鉄冷材を原料とする転炉製鋼法として、従来、種湯の存在する溶解専用転炉に含鉄冷材、炭材、酸素を供給して、溶解専用転炉での所要種湯量と別の精錬専用転炉での所要精錬量の合計量の高炭素溶鉄を得、この高炭素溶鉄を原料として精錬専用転炉で酸素精錬することにより所要成分の溶鋼を得る転炉製鋼法が知られており、また、溶解専用転炉で使用する炭材の硫黄含有量が高くて、高炭素溶鉄の硫黄含有量が高い場合、精錬専用転炉で酸素精錬前に、取鍋で脱硫処理することも知られている(特許文献1)。
【0003】
このような全量含鉄冷材を原料とする溶解専用転炉と精錬専用転炉からなる製鋼法において、溶解専用転炉と精錬専用転炉で鉄分を主成分するダストの発生を皆無にできない。従って、溶解専用転炉と精錬専用転炉で発生する鉄分を主成分するダストを効率的にリサイクルすることにより、ダストの処理問題を解決すると共に鉄歩留りを向上させる必要がある。
【0004】
特許文献2には、溶解専用転炉と精錬専用転炉で発生するダストと15%までの石灰分あるいは、35%までの炭材を複合させて皿型造粒法、圧縮成形法等で塊成化し、転炉上方より自然落下により装入、再使用するに際し、転炉内ガス発生による上昇ガス流のために転炉外に逸散を防止するため、溶解専用転炉では粒度10mm以上、精錬専用転炉では粒度5mm以上の塊成化ダストを再使用する方法が提案されている。この方法によれば、発生ダストの処理の問題を解決できると共に発生ダストを鉄分として効率的に回収可能であり、有益である。
【0005】
溶解専用転炉や精錬専用転炉で発生するダストは純酸素を供給、例えば上吹きを行っていることから、鉄分の大部分は酸化されている。酸化鉄、例えば酸化第一鉄を還元して溶融するには、純鉄の約4倍の熱量が理論的に必要となる。従って、酸化鉄を含む塊成化ダストを、例えば溶解専用転炉にリサイクルすると、溶鉄を製造するために必要な熱量は、塊成化ダストをリサイクルしない場合に比べて増加する。
【0006】
一方、酸素供給設備能力、炭材供給設備能力、集塵排ガス処理設備能力によって、溶解専用転炉の炉内熱供給速度(酸素供給速度、炭材供給速度)の上限は固定されているので、溶鉄を製造するために必要な熱量の増加により溶鉄の生産速度は低下してくる、という問題点がある。また、上述の還元に必要な熱源として純酸素と炭材、例えば石炭との燃焼熱を用いるために、その分だけ酸素、炭材原単位が増加し、炭材例えば石炭中のSによる製造溶鉄中〔S〕の増加が問題となる。
【0007】
特許文献3には、図5にフローを示すように、溶解専用転炉1及び精錬専用転炉3で発生するダストに炭材を内装させて塊成化し、予備還元炉8で高温加熱して内装炭材を還元材として予備還元後、高温状態で含鉄冷材の一部として種湯の存在する溶解専用転炉1に供給し再使用するダスト利用方法が開示されている。これにより、塊成化ダストを予備還元後、高温状態で溶解専用転炉に供給するため、溶解専用転炉1に還元熱源としての酸素と炭材の供給量が低減され、酸素、炭材原単位が低減されるので、溶鉄の生産性の低下を抑制でき、また製造溶鉄中〔S〕の増加を抑制できる。
【0008】
種湯が存在する転炉内で屑鉄を溶解する溶解方法において、特許文献4においては、上吹き酸素吹錬時の炉内スラグ量と酸素ジェットによるスラグ凹み深さの好適な関係について開示している。屑鉄溶解時に、上吹き酸素によるスラグの凹み深さLとスラグ厚みLS0の比を0.5〜1に制御することにより、高着熱効率を維持したままで二次燃焼率を大幅に向上し、屑鉄溶解に必要な炭材及び酸素の原単位を顕著に低減する。
【0009】
【特許文献1】特公平4−11603号公報
【特許文献2】特公平4−38813号公報
【特許文献3】特開2000−45012号公報
【特許文献4】特開平8−260022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3に記載の方法において、予備還元した還元鉄の金属化率は100%ではない。特許文献3には、還元温度を上げる、あるいはダストへの内装石炭量比率を上げることで金属化率を上げられることが記載されているが、還元温度を上げることは予備還元炉の生産性低下や予備還元に要するエネルギー原単位の悪化を引き起こし、内装石炭量比率を上げることは還元鉄塊の粉化を引き起こし、更にそれに伴い溶解炉への還元鉄投入時の飛散ロスの増加を引き起こす。予備還元炉の生産性確保、還元鉄の溶解炉への投入時の飛散ロス防止を両立するには、原料ダスト成分にもよるが、金属化率を80〜85%程度とすることが好ましい。そうすると、たとえ80〜85%まで金属化されているとはいっても、還元鉄を溶解専用転炉に供給して溶解するに際し、金属化されていない残りの15〜20%分を還元して金属化するためには余剰の熱量が必要となる。このため、装入含鉄冷材として還元鉄を用いる場合は、スクラップを用いる場合と比較して余剰の酸素と炭材を供給することが必要となる。
【0011】
含鉄冷材の溶解にあたっては、溶解及び温度上昇のために必要な熱量を、供給した炭材と酸素との燃焼熱によって補っている。また、含鉄冷材の溶解は主に浸炭反応により進行するので、溶解により消費された溶銑中の炭素濃度を補うための炭材供給が必要となる。さらに未還元の酸化鉄分を含有する還元鉄を用いる場合は、上記のとおり余剰の炭材が必要となる。
【0012】
溶解炉における炭材の供給については、底吹きによる供給が有効である。炭材の比重は軽いので、上方から溶銑に供給したのでは効率よく溶銑中に炭素を溶解させることができないのに対し、底吹きによる供給であれば溶銑浴との接触機会が多く、効率よく炭素を供給することが可能だからである。
【0013】
未還元の酸化鉄分を含有する還元鉄を含鉄冷材の一部又は全部として含鉄冷材の溶解を行ったところ、溶解を完了するまでに必要とする炭材原単位及び酸素原単位が、物質バランス・熱バランスから計算される所要量を超えて必要とすることが判明した。
【0014】
本発明は、未還元の酸化鉄分を含有する還元鉄を含鉄冷材の一部又は全部として含鉄冷材の溶解を行うに際し、炭材原単位及び酸素原単位を良好に保って溶解を行うことのできる溶銑製造方法を提供することを第1の目的とする。
【0015】
種湯の存在する溶解炉で含鉄冷材を溶解するに際し、特許文献4にも記載の通り、上吹き酸素による火点が溶融スラグ層を突き破らない範囲で酸素吹き込みを行うことが好適であり、そのために溶解炉内の溶銑の上に溶融スラグ層を形成する。
【0016】
ところで、還元鉄を含鉄冷材として溶解する場合においては、溶解炉における前ヒートの溶解が終了した後、種湯を残して溶銑を出銑した後に、溶解炉内の溶融スラグは基本的に排滓し、その後次のヒートの溶解に移行していた。溶融スラグを残しておくと、フォーミングやスロッピングなどにより操業が不安定になったり、還元鉄がスラグに巻かれて浸炭溶解を阻害すると考えるためである。このような考え方に基づいて還元鉄を含鉄冷材として溶解を行ったところ、溶解に要する時間が増大し、そのために溶解の生産性が十分に向上しないという問題が生じた。
【0017】
本発明は、未還元の酸化鉄分を含有する還元鉄を含鉄冷材の一部又は全部として含鉄冷材の溶解を行うに際し、生産性の高い溶解を行うための最適な溶融スラグ生成条件を提供することを第2の目的とする。
【0018】
前述の通り、還元鉄の金属化率はせいぜい80〜85%である。還元鉄を溶解炉に供給して溶解するに際し、金属化されていない残りの15〜20%分を金属化しかつ必要な熱を確保するために余剰の酸素と炭材を供給することが必要となり、溶鉄の生産速度を低下させる要因となる。
【0019】
本発明は、固形含鉄冷材を原料とし溶解専用転炉と精錬専用転炉を用いて溶鋼を得るに際し、これら転炉で発生するダストを予備還元して溶鉄原料とする転炉精錬法において、溶鉄の生産速度を低下させずに還元鉄を用いることのできる方法を提供することを第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
第1の発明について説明する。
【0021】
溶銑への炭材の供給を底吹きによって行うこととすれば、前述の通り炭材と溶銑浴との接触機会が多く、溶銑浴中に効率よく炭素を供給することが可能となる。
【0022】
種湯の存在する溶解炉に含鉄冷材を装入したとき、スクラップなどについては比重が7.8程度であって、溶銑の比重6.6〜7.0よりも大きいため、スクラップは種湯である溶銑浴中に沈み込み、結果として溶銑浴の深さは深くなる。一方、還元鉄は、スラグ、未還元の酸化鉄、気孔を多く含むため、比重が2〜4程度と溶銑に比べ小さい。そのため、装入された還元鉄は種湯である溶銑浴表面に浮かんでしまい、還元鉄装入後でも溶銑浴の深さは深くならない。即ち、含鉄冷材としてスクラップを装入したときに比較し、還元鉄を装入したときは装入後の溶銑浴深さが浅くなる。
【0023】
従って、含鉄冷材として主に還元鉄を用いて溶解を行う場合であって、特に種湯量が少ない場合には、溶解の初期段階において溶銑浴深さが浅くなり、炭材と溶銑浴との接触機会が不足し、供給した炭材の一部は溶銑中に溶解せず、溶銑浴表面から吹き抜けてしまう。還元鉄を含鉄冷材の一部又は全部として含鉄冷材の溶解を行ったときに、溶解を完了するまでに必要とする炭材原単位及び酸素原単位が過剰に必要になる現象が見られたのは、溶解初期の溶銑浴深さが浅すぎたことが原因であると判明した。
【0024】
本発明の第1は、鉄分を主成分とするダストを還元した還元鉄であって未還元の酸化鉄分を含有するものを溶解して溶銑を得る方法であって、種湯の存在する溶解炉に上記還元鉄、炭材、酸素を供給して溶銑を得るに際し、種湯のみ存在する溶解前溶銑浴深さと、溶解完了時の溶解後溶銑深さとの関係が、下記(1)式により定まる指標Rsmを0.6〜0.85に制御することを特徴とする溶銑製造方法である。
Rsm=溶解前溶銑浴深さ/溶解後溶銑浴深さ (1)
【0025】
本発明はこれにより、溶解初期から溶銑浴深さを十分に保持することができるので、底吹きで供給した炭材を安定して溶銑中に溶解させることが可能となり、溶解に必要とする酸素原単位、炭材原単位を低減することができる。また1ヒート当たりの製造溶銑量が増すと、炉内空間を占有する割合が増すため、燃焼空間が減少し、二次燃焼率が低下する。従って、100t規模の炉で溶解を行う場合においては、1ヒート当たりの溶銑製造量は最大30t程度が望ましい。
【0026】
次に、第2の発明について説明する。
【0027】
前述のとおり、還元鉄を含鉄冷材として溶解する場合においては、溶解炉における前ヒートの溶解が終了した後、種湯を残して溶銑を出銑した後に、溶解炉内の溶融スラグは基本的に排滓し、その後次のヒートの溶解に移行していた。含鉄冷材を装入し、上吹き送酸を開始すると同時あるいはそれ以降にスラグ改質材として生石灰やドロマイトを添加する。これらスラグ改質材及び還元鉄に含まれるスラグ分が滓化することによって溶融スラグが形成される。
【0028】
ところが、これらスラグ成分の滓化速度が遅く、含鉄冷材の溶解が終了すべき時刻に到達してもまだスラグ分が完全には溶解しないという状況にあることが判明した。これに対し、前ヒート終了時に溶解炉内に存在する溶融スラグの一部を炉内に残し、この残留スラグを次ヒートのスラグとして活用すると、新たに添加するスラグ改質材の量が減少することもあり、スラグの滓化は急速に進行し、その結果として供給酸素が無駄に消費される度合いが減少し、生産性の向上が得られることがわかった。
【0029】
本発明の第2は、上記第1の発明に加え、溶解炉内に存在するスラグ量について、溶解開始前の残留スラグ量と溶解終了時のスラグ量との関係が、下記(2)式により定まる指標Rssを0.1〜0.5に制御することを特徴とする溶銑製造方法である。
Rss=溶解開始前の残留スラグ量/溶解終了時のスラグ量 (2)
【0030】
本発明はこれにより、スラグの溶融状態の維持、即ち、スラグの流動性を確保し、還元鉄の溶解及び還元鉄中に含まれる未還元の酸化鉄分の還元反応の確保が可能となる。
【0031】
最後に、第3の発明について説明する。
【0032】
固形含鉄冷材を原料とし溶解専用転炉と精錬専用転炉を用いて溶鋼を得る溶解・精錬方法において、溶解専用転炉1と精錬専用転炉3として、同じ炉容の転炉を用いる場合が一般的である。同一炉容の転炉を3基有する転炉工場において、そのうちの2基を溶解専用転炉1として用い、残りの1基を精錬専用転炉3として用いた場合、2基の溶解専用転炉1を用いての溶鉄の生産能力は、1基の精錬専用転炉3をフル生産した場合の溶鉄所要量を賄う能力に足りない。従って、特許文献3に記載の方法においては、精錬専用転炉3が生産余力を残した状態での製造を余儀なくされる。このような場合において、溶解原料としての含鉄冷材に未還元の酸化鉄分を含む還元鉄を用いることとすると、この酸化鉄分を還元するために余分の酸素と炭材を消費するため、溶解・精錬全体の生産性を低下させる原因となる。
【0033】
これに対し、スクラップなどの含鉄冷材を溶解する溶解炉(以下「第1溶解専用転炉」ともいう。)とは別に、還元鉄を溶解する専用溶解炉(以下「第2溶解専用転炉」ともいう。)を設けることとすれば、第1溶解専用転炉2基のみで溶鉄を生産した場合と比較して合計溶鉄生産量を増大することができ、それでも精錬専用転炉3については生産余力を用いることによってすべての生産溶鉄を原料として精錬を行うことが可能である。結果として、既存の3基転炉を保有する転炉工場において3基の転炉をより有効活用して溶鋼生産能力を増大することが可能となる。
【0034】
即ち、本発明の第3は、第1溶解専用転炉、還元鉄溶解専用転炉(第2溶解専用転炉)、精錬専用転炉、予備還元炉を設け、種湯の存在する第1溶解専用転炉に含鉄冷材、炭材、酸素を供給して、第1溶解専用転炉での所要種湯量と精錬専用転炉に供給する溶銑量の合計量の高炭素溶鉄を得、第2溶解専用転炉において還元鉄を溶解して第2溶解専用転炉での所要種湯量と精錬専用転炉に供給する溶銑量の合計量の高炭素溶鉄を得、これら高炭素溶鉄を原料として精錬専用転炉で酸素精錬することにより所要成分の溶鋼を得るに際し、第2溶解専用転炉での還元鉄の溶解に際して上記第1、第2の発明の溶銑製造方法を用いることを特徴とする転炉製鋼方法である。
【発明の効果】
【0035】
本発明の溶銑製造方法は第1に、鉄分を主成分とするダストを還元した還元鉄であって未還元の酸化鉄分を含有するものを溶解して溶銑を得る方法において、種湯のみ存在する溶解前溶銑浴深さと、溶解完了時の溶解後溶銑深さとの関係を調整することにより、底吹きで供給した炭材を安定して溶銑中に溶解させることが可能となり、溶解に必要とする酸素原単位、炭材原単位を低減することができる。
【0036】
本発明の溶銑製造方法は第2に、上記第1の発明に加え、溶解開始前の残留スラグ量と溶解終了時のスラグ量との関係を調整することにより、スラグの流動性を確保し、還元鉄の溶解及び還元鉄中に含まれる未還元の酸化鉄分の還元反応の確保が可能となる。
【0037】
本発明の転炉製鋼方法は、スクラップなどの含鉄冷材を溶解する溶解炉(第1溶解専用転炉)とは別に、還元鉄を溶解する専用溶解炉(第2溶解専用転炉)を設けることにより、第1溶解専用転炉で還元鉄を完全金属化するために余剰に酸素・炭材を使用する必要がなくなり、第1溶解専用転炉の溶鉄生産速度を向上することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
第1の発明について説明する。
【0039】
含鉄冷材の溶解は主に浸炭反応により進行するため、溶解の進行に伴って溶銑中の炭素濃度が低下する。この溶銑中炭素濃度を補うための炭材供給と炭材含有炭素分の溶銑浴への効率的な溶解が重要である。さらに本発明のように未還元の酸化鉄を含有する還元鉄を溶解する場合、この酸化鉄分の還元を行うための炭素供給、及び吸熱反応である還元反応によって低下した溶銑浴温度を上昇させるための燃焼用炭素の供給が必要となり、スクラップのような含鉄冷材を溶解する場合に比較してより多くの炭材の供給が必要となる。
【0040】
炭材の供給に際し、供給された炭材が効率よく溶銑に溶解するためには、底吹きによる供給が必要である。炭材の比重は軽く、上方から供給したのでは溶銑浴の上部に浮いてしまい、溶銑浴との接触機会が少なく効率が低いのに対し、底吹きによる供給であれば溶銑浴との接触機会が多く、効率の良い炭素供給が可能だからである。
【0041】
底吹きによって多量の炭材を供給するに際しては、多量のキャリアガスが必要であり、底吹きガスが溶銑浴上部へ直接吹き抜けしてしまわないためには、底吹きからの炭材供給量に応じ、吹き抜けしない溶銑浴深さが必要である。
【0042】
ところが前述のとおり、種湯の存在する溶解炉に還元鉄を装入したとき、還元鉄は、スラグ、未還元の酸化鉄、気孔を多く含むため、比重が2〜4程度と溶銑に比べ小さい。そのため、装入された還元鉄は種湯である溶銑浴表面に浮かんでしまい、還元鉄装入後でも溶銑浴の深さは深くならない。即ち、含鉄冷材としてスクラップを装入したときに比較し、還元鉄を装入したときは装入後の溶銑浴深さが浅くなる。
【0043】
このように、スクラップに比べ多量の炭材を消費する一方で、溶銑浴深さを増大させにくい還元鉄の溶解において効率の良い炭材供給を行うためには、溶銑浴の深さを最適化することが不可欠である。
【0044】
含鉄冷材投入前の溶解炉内における種湯の量が少ないと、溶解前の溶銑浴深さが浅くなり、溶解開始直後の溶銑浴深さが不足し、供給した炭材が有効に溶銑に着炭せずに吹き抜ける比率が高くなる。それに対し、種湯の量を多くして溶解前の溶銑浴深さを深くすれば、溶解開始直後から溶銑浴深さを十分に確保し、供給した炭材を有効に溶銑に溶解させることが可能となる。
【0045】
一方、種湯の量が多すぎると、溶解炉炉壁と炉内溶銑との接触面積が多くなり、溶解炉炉壁を通して外部へ逃げる熱ロスが増大する。その結果、溶解作業の熱効率が低下するので、余剰の炭材及び酸素の供給を必要とすることとなる。
【0046】
本発明においては、種湯のみ存在する溶解前溶銑浴深さと、溶解完了時の溶解後溶銑深さとの関係が、下記(1)式により定まる指標Rsmを0.6〜0.85に制御する。
Rsm=溶解前溶銑浴深さ/溶解後溶銑浴深さ (1)
【0047】
種湯の存在する溶解炉に、未還元の酸化鉄分をFeOとして約20%含有する還元鉄、炭材、酸素を供給して溶銑を得るに際し、還元鉄を炉上から投入しつつ、上吹き酸素と底吹きあるいは上方からの炭材供給を行った。炭材供給量と酸素供給量の比率を一定に維持しつつ、種湯量を変化させることによって(1)式のRsmを種々の値に変化させ、一定量の還元鉄を溶解するのに要した酸素量(酸素原単位)を比較した。図1には、Rsmの値と酸素原単位との関係を示す。
【0048】
図1において、Rsmが0.6未満であると、酸素原単位の値が増大している。還元鉄の溶解初期における溶銑浴深さが浅すぎ、供給した炭材の一部が吹き抜けて有効に溶銑に溶解しなかったためである。一方、Rsmが0.85を超えると、種湯の量が多すぎて炉壁からの熱ロスが増大し、その結果溶解に要する酸素原単位が増大する結果となった。
【0049】
一方、Rsmが0.6以上0.85以下であれば、酸素原単位が少なく、効率の良い溶解を行うことができる。Rsmをこの範囲に制御すれば、反応によって消費された溶銑浴中の炭素分を速やかに補って溶銑浴上に浮遊する還元鉄に十分な炭素を供給しつつ、熱効率が良く生産性が高い溶解が可能となる。酸素原単位が少なくて済むということから、炭材原単位もこれに連動して低減することができる。また、溶解炉の酸素供給速度が設備制約から定まっているので、酸素原単位が少ないということは溶解に要する時間を短縮することができ、溶解の生産性を向上させることができる。
【0050】
さらに、好ましくはRsmが0.6〜0.80であると更に生産性が増大する。Rsmが0.62〜0.75程度であるとさらに好ましい。
【0051】
第2の発明について説明する。
【0052】
前述のとおり、本発明の第2は、上記第1の発明に加え、溶解炉内に存在するスラグ量について、溶解開始前の残留スラグ量と溶解終了時のスラグ量との関係が、下記(2)式により定まる指標Rssを0.1〜0.5に制御することを特徴とする溶銑製造方法である。
Rss=溶解開始前の残留スラグ量/溶解終了時のスラグ量 (2)
【0053】
前ヒートの溶解が完了し種湯を残して溶銑を出銑した後、前ヒートの溶融スラグの一部を排滓すると、溶解炉内に一部の溶融スラグが残留する。この残留スラグが上記(2)式における溶解開始前の残留スラグ量である。そして、当該ヒートの溶解において、スラグ改質材として投入した生石灰やドロマイト、及び還元鉄中に含まれるスラグ分が溶解してスラグ量が増大し、(2)式における溶解終了時のスラグ量が定まる。
【0054】
種湯の存在する溶解炉に、未還元の酸化鉄分をFeOとして約20%含有する還元鉄、炭材、酸素を供給して溶銑を得るに際し、還元鉄を炉上から投入しつつ、上吹き酸素と底吹きあるいは上方からの炭材供給を行った。溶解開始前の残留スラグ量を調整し、併せて溶解中におけるスラグ改質材の投入量を調整し、これによって上記(2)式のRssを種々の値に変化させ、溶解処理を行った。
【0055】
この際、溶解終了時のスラグ滓化状況を評価するため、「実塩基度/装入塩基度」の比を評価した。実塩基度とは、溶解終了時にサンプリングした溶融スラグの分析値から求めた塩基度(CaO/SiO2)である。又装入塩基度とは、溶解操業時に装入した原料・副原料の成分から計算される塩基度であり、残留スラグの成分影響を考慮するため、前溶解後のスラグ成分と残留スラグ量を考慮し求めた値である。サンプリングしたスラグは溶融したスラグであり、実塩基度/装入塩基度の比が1に近いほど、スラグの溶融化(滓化)が進んでいることを示している。
【0056】
また同時に、二次燃焼率を評価した。二次燃焼率は(3)式で定義し、実際には煙道ガスの分析値に基づいて、炉口での侵入空気による燃焼の影響を差し引いた下記(4)式によって計算した。煙道ガスの分析は、CO,CO2,N2,H2,O2はガスクロマトグラフィーで、H2Oは吸収法(JIS Z8808)で行った。
PCR = [(CO2%) + (H2O%)]/[(CO2%) + (CO%) + (H2O%) + (H2%)]×100(%) (3)
PCR = [ (CO2%)i + (H2O%)i - { (O2%)a / (N2%)a ×2・((N2%)i - QN2 / Qi ×100) - 2・(O2%)i }] / [ (CO2%)i +(CO%)i + (H2O%)i +(H2%)i ] ×100 (%) (4)
Qi : 煙道ガス風量 (Nm3/h)
QN2:炉内窒素ガス吹き込み量 (Nm3/h)
(X%):炉内ガス中X成分の濃度 (vol%)
(X%)a:空気中X成分の濃度 (vol%)
(X%)i:煙道ガス中のX成分の濃度 (vol%)
【0057】
結果を図2に示す。横軸にRssを指標に取り、実塩基度/装入塩基度の値と二次燃焼率の値の変化を表示している。
【0058】
Rssが小さくなると、特にRssが0.1未満となると、実塩基度/装入塩基度の比が目に見えて1より小さい値となっている。溶解終了時においてスラグが十分に滓化していないことを示している。指標Rssが小さいとき、即ち、残留スラグ量が少ないときは、還元鉄に含有されるスラグ分やスラグ改質材として添加されるCaOやMgOの滓化(溶融化)速度が小さく、スラグの流動性が低い状況となる。その結果、還元鉄に含有されるスラグ分の剥離性が阻害され還元鉄の溶解・還元速度の低下が生じる。
【0059】
一方で、Rssが大きくなり、特にRssが0.5を超えると、二次燃焼率が低下している。指標Rssが大きいとき、スラグの流動性は確保されるが、炉内のスラグ量が多いためガス燃焼の空間が狭くなることで二次燃焼比率の低下が生じるからである。二次燃焼率の低下は溶銑中Cの燃焼により発生したガスの発生熱量の低下となり、炭材原単位の増大に伴う酸素原単位の増大へと繋がり生産性を低下させてしまう。
【0060】
従って、Rssの値を0.1〜0.5の範囲に制御することにより、スラグの溶融状態の維持、即ち、スラグの流動性を確保し、還元鉄の溶解及び還元鉄中に含まれる未還元の酸化鉄分の還元反応の確保が可能となる。即ち、Rsmを0.65程度に制御することに加え、Rssを0.1〜0.5の範囲に制御することでスラグの溶融状態と二次燃焼率を維持した生産性の高い溶銑製造が可能である。さらに、好ましくはRss:0.15〜0.40であると更に生産性が増大する。
【0061】
第3の発明について説明する。
【0062】
図3に本発明の実施の形態の一例を示すプロセスフローを示す。
【0063】
種湯の溶融鉄および溶融スラグが存在している第1溶解専用転炉1の炉内に、粒銑、型銑、製鉄所発生スクラップ等の固形含鉄冷材を供給し、例えば酸素上吹きランスから酸素が、底吹きノズルから非酸化性ガス、例えば窒素ガスをキャリアーガスとして石炭が吹き込まれ、これによって供給した固形含鉄冷材を溶解する。
【0064】
この第1溶解専用転炉1にて製造した高炭素溶鉄は、種湯分を炉内に残湯させて取鍋に出湯する。必要に応じて溶融スラグの一部を排滓する。出湯、排滓のための傾動時、含鉄冷材の一括装入時等の含鉄冷材の非溶解時には、底吹きノズルの閉塞を防止するため、底吹きノズルから非酸化性ガスが吹き込まれる。
【0065】
本発明では、種湯の存在する還元鉄溶解炉(第2溶解専用転炉9)に還元鉄、炭材、酸素を供給し、第2溶解専用転炉9での所要種湯量と精錬専用転炉3に供給する溶銑量の合計量の高炭素溶鉄を得る。この第2溶解専用転炉9については後で詳述する。
【0066】
第1溶解専用転炉1から取鍋に出湯された高炭素溶鉄は、第2溶解専用転炉9で溶解した高炭素溶鉄とともに、KR、インジェクション等の脱硫設備2にて脱硫される。脱硫後の高炭素溶鉄は、精錬専用転炉3に装入されて酸素供給され脱炭処理する。この精錬専用転炉3は、例えば一般的な上底吹き転炉を用いている。
【0067】
このような第1溶解専用溶転炉1、第2溶解専用転炉9、精錬専用転炉3でそれぞれ発生するダストは、図3のプロセスフローに示すように、OG方式の湿式集塵装置4にて回収され、ダストスラリーとなり、さらにフィルタープレス5による脱水後、塊成化装置6、例えばパンペレタイザーにバインダーとして石灰、還元材として石炭を追加混合して供給し、これによって、ペレット化される。この際、後述する、乾燥、加熱還元後、熱間にて溶解専用転炉に装入する際、炉内上昇ガス流で飛散してロスとならない粒径、例えば10mm以上にする。製造ペレットは、乾燥炉7に装入される。乾燥後、引き続き、例えば、予備還元炉8として回転炉床型予備還元炉を用い、空気−LNGバーナー加熱雰囲気で内装石炭を還元材として加熱還元され、還元鉄が製造される。なお、本発明においては複数の予備還元炉8を装備していても溶鉄の生産能力を増大させることが可能である。
【0068】
例えば、ダスト組成:T.Fe=62%、M.Fe=21%、FeO=34%,Fe23 =22%のダストを用い、石炭内装量を10%、バインダー(石灰)量:10%、粒径:10〜15mm、水分:1%以下のダストペレットとし、回転炉床型予備還元炉にて1200〜1300℃で予備還元すれば、金属化率80〜85%前後に予備還元された還元鉄を製造することができる。
【0069】
このように製造した還元鉄を、特許文献3に記載のように第1溶解専用転炉1の原料の一部として使用する場合を考える。
【0070】
第1溶解専用転炉1での還元鉄使用原単位を100kg/ton、還元鉄の装入温度を1000℃としたとき、還元鉄の金属化率と第1溶解専用転炉1での酸素原単位、石炭原単位との関係を図4に示す。図4から明らかなように、還元鉄の金属化率が100%のときと比較し、金属化率が低くなるほど第1溶解専用転炉1での酸素原単位と石炭原単位が増大することが明らかである。第1溶解専用転炉1での溶解所要時間は、酸素原単位や石炭原単位が増大するにともなって増大するから、投入する還元鉄の金属化率が80〜85%程度であるということは、それによって第1溶解専用転炉1の酸素原単位と石炭原単位が増大し、結果として溶解所要時間が増大して第1溶解専用転炉1の生産性を悪化させる原因となることがわかる。
【0071】
本発明においては、第1溶解専用転炉1とは別に還元鉄溶解炉(第2溶解専用転炉9)を用意し、還元鉄はこの第2溶解専用転炉9において溶解することを特徴とする。第1溶解専用転炉1では還元鉄を溶解しないため、還元鉄に含まれる酸化鉄起因の酸素原単位の増大及び石炭原単位の増大を防止することができるので、第1溶解専用転炉1での溶鉄生産性を向上することが可能となる。
【0072】
さらに、本発明においては、溶鉄の生産を第1溶解専用転炉1と第2溶解専用転炉9の2つで分担し、還元鉄以外の含鉄冷材については第1溶解専用転炉1で溶解し、還元鉄はもっぱら第2溶解専用転炉9で溶解するので、第1溶解専用転炉1のみで還元鉄を含む含鉄冷材のすべてを溶解する特許文献3に記載の方法と比較し、溶鉄の生産能力を増大する結果を得ることができる。
【0073】
第1溶解専用転炉1と精錬専用転炉3として、同じ炉容の転炉を用いる場合が一般的である。同一炉容の転炉を3基有する転炉工場において、そのうちの2基を第1溶解専用転炉1として用い、残りの1基を精錬専用転炉3として用いた場合、2基の第1溶解専用転炉1を用いての溶鉄の生産能力は、1基の精錬専用転炉3をフル生産した場合の溶鉄所要量を賄う能力に足りない。従って、特許文献3に記載の方法においては、精錬専用転炉3が生産余力を残した状態での製造を余儀なくされる。このような場合、本発明のように第2溶解専用転炉9を用意して還元鉄の溶解を第2溶解専用転炉9に任せることとすると、第1溶解専用転炉2基のみで溶鉄を生産した場合と比較して合計溶鉄生産量を増大することができ、それでも精錬専用転炉3については生産余力を用いることによってすべての生産溶鉄を原料として精錬を行うことが可能である。結果として、既存の3基転炉を保有する転炉工場において3基の転炉をより有効活用して溶鋼生産能力を増大することが可能となる。
【実施例】
【0074】
(実施例1)
種湯の存在する溶解炉に含鉄冷材、炭材、酸素を供給して溶銑を製造した。含鉄冷材として、本発明例は鉄分を主成分とするダストを還元した還元鉄であって未還元の酸化鉄分を含有するものを用い、比較としてスクラップを用いた。
【0075】
還元鉄は主原料として溶解炉、転炉、電気炉等から発生するダストを、還元材としてCを含有する炭材を配合、混錬し、造粒したものを、還元炉にて加熱、還元処理して製造した。主原料としては、他にスラッジを混合しても良い。また、造粒は双ロール型のブリケットマシーンを使用して行ったが、転動法によるペレット造粒でも良い。還元炉は炉直径20mの回転床炉型の炉を使用し、LNGバーナーで還元温度を1300〜1400℃に制御し、還元を行った。還元鉄中の鉄分の金属化率は78〜83%である。
【0076】
溶解操業では炉上から還元鉄の投入を行い、上吹きランスから8000Nm3/hrで酸素供給をするとともに、溶解後の温度が1390〜1410℃、溶銑のC濃度が4.0〜4.3に維持できるように、底吹きノズルからN2ガスをキャリアーガスとして炭材供給を行った。スラグは溶解終了後のスラグ排出量を調整するとともに、石炭や還元鉄から発生するスラグの成分調整を行うため石灰やMgOを添加し、スラグの塩基度が1.5〜1.7になるように副材添加量を調整し、溶解開始前と溶解終了後のスラグの重量比が一定になるように制御した。また、スラグの過度のフォーミング状態を抑制することや、スラグ内の酸化鉄分の還元を促進するため、一定量の石炭を炉上より添加した。
【0077】
表1に製造結果を示す。表1のNo.1〜4が含鉄冷材にスクラップを用いた比較例、No.5〜7は含鉄冷材に還元鉄を用いたがRsmの値が本発明範囲から外れる比較例、No.8〜11は含鉄冷材に還元鉄を用いた本発明例である。Rsmが本発明範囲を外れるものにアンダーラインを付している。
【0078】
【表1】

【0079】
含鉄冷材がスクラップの場合、Rsmの範囲が本願範囲外であっても、スクラップが溶銑浴に沈み込むことで深い溶銑浴深さが確保でき、高い生産性を維持できている。含鉄冷材が還元鉄の場合、溶銑浴の深さを、指標Rsmが0.6〜0.85の範囲になるように制御すれば、溶解速度の低下を回避した生産性の確保が可能である。
【0080】
(実施例2)
前記(1)式におけるRsmが0.65程度になるように溶解量を調整し、還元鉄の溶解・還元による溶銑製造を行った。上吹きランスから酸素を8000Nm3/hrで供給するとともに底吹きノズルから石炭を供給しつつ、金属化率78〜83%の還元鉄を炉口から溶銑浴に投入し、一回の吹錬につき29〜31tonの溶銑溶解・還元操業を実施した。溶解後の溶銑C濃度を4.0〜4.3質量%に維持しつつ、溶解後の溶銑温度は1390〜1410℃になるように操業を行った。
【0081】
前ヒート溶解終了後の溶融スラグ排滓量を調整し、Rssを0.05〜0.55の範囲で変化させた。石炭や還元鉄から発生するスラグの成分調整を行うため石灰やMgOを添加し、スラグの塩基度が1.5〜1.7になるように調整した。また、スラグの過度のフォーミング状態を抑制することや、スラグ内の酸化鉄分の還元を促進するため、一定量の石炭を炉上より添加した。
【0082】
表2に結果を示す。Rssが本発明範囲を外れるものにアンダーラインを付している。
【0083】
【表2】

【0084】
No.1〜7のいずれも、Rsmが上記第1の発明範囲内に入っているため、従来に比較すると良好な生産性を実現している。一方、No.2〜6は、さらにRssが上記第2の発明の範囲内にも入っているため、さらに高い生産性を実現するとともに、高い二次燃焼率を実現することができた。
【0085】
表2のNo.1は、Rssが本発明範囲を下限側に外れており、No.2〜6と比較して溶解時間が長く、生産性が低い値となっている。Rssが0.1以下であるため、図2に示すように溶解終了時においてもスラグは十分に滓化されていない。そのためスラグの流動性が低く、還元鉄に含有されるスラグ分の剥離性が阻害され還元鉄の溶解・還元速度が低下し、結果として溶解に要する時間が長くなったものと考えられる。
【0086】
表2のNo.7は、溶解前の残留スラグ量が多かったため、溶解の全工程を通じて炉内のスラグ量が多く、そのため炉内でのガスの燃焼空間を狭めることとなり、二次燃焼率の低下を招いた。そのため、溶解に要する炭材原単位の増大に伴って酸素原単位も増大し、生産性を低下させる結果となった。
【0087】
(実施例3)
2基の第1溶解専用転炉で溶銑を製造し1基の精錬専用転炉で溶鋼を製造するプロセスにおいて、新しい第2溶解専用転炉を使用して還元鉄の専用溶解を実施した。各溶解炉の操業条件を表3に示す。
【0088】
【表3】

【0089】
比較例1においては、図5に示すように、第2溶解専用転炉を用いず、還元鉄を含む含鉄冷材を種湯が存在する第1溶解専用転炉1に供給し、炉内に石炭を吹き込むと共に酸素を供給し含鉄冷材を溶解し高炭素溶鉄を得る。予備還元炉8で製造した還元鉄は、取鍋によって第1溶解専用転炉まで運ばれる。
【0090】
本発明例及び比較例2については、図3に示すように、還元鉄を除く含鉄冷材(スクラップなど)を種湯が存在する第1溶解専用転炉1に供給し、炉内に石炭を吹き込むと共に酸素を供給し含鉄冷材を溶解し高炭素溶鉄を得ると共に、還元鉄を種湯が存在する第2溶解専用転炉9に供給し、炉内に石炭を吹き込むと共に酸素を供給し含鉄冷材を溶解し高炭素溶鉄を得る。得られた高炭素溶鉄について引き続き脱硫設備2で脱硫処理を行い、精錬専用転炉3にて脱炭処理を実施した。
【0091】
本発明例、比較例1、比較例2の操業条件及び操業成績を、表4に一覧表として示す。
【0092】
【表4】

【0093】
本発明例では、第2溶解専用転炉9において、Rsm、RssをRsm=0.65、Rss=0.2に制御し操業を実施した。比較例2では、第2溶解専用転炉9において、Rsm、RssをRsm=0.58、Rss=0.55に制御し操業を実施した。その結果、第2溶解専用転炉9の溶銑製造能力を、本発明例は比較例2と比較して1.5倍にまで増大させることが可能となり、2基の第1溶解専用転炉1の溶銑製造能力を1.1に第2溶解専用転炉9の溶銑製造能力0.15を加え従来比1.25の溶銑製造が可能となり、予備還元炉8から連続鋳造機に至るプロセス全体の生産性を1.25倍にすることが可能となった。即ち、製鋼工程一貫での能力増大を図ることが可能となり、25%の生産性増大を達成することができた。
【0094】
なお、比較例2においては、第2溶解専用転炉9を導入することによって、還元鉄使用に起因した酸素使用量増大による溶解時間の増大を回避し2基の第1溶解専用転炉1の溶銑製造能力を1.1にすることで、第2溶解専用転炉9の溶銑製造能力とあわせて従来比1.2の溶銑製造が可能となり、予備還元炉8から連続鋳造機に至るプロセス全体の生産性を、比較例1に比較して1.2倍にすることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】Rsmと酸素原単位との関係を示す図である。
【図2】Rssと実塩基度/装入塩基度及び二次燃焼率との関係を示す図である。
【図3】本発明のプロセスフローを示す図である。
【図4】予備還元ダストの金属化率と溶解専用転炉での酸素原単位、石炭原単位、生産性との関係を示す図である。
【図5】従来のプロセスフローを示す図である。
【符号の説明】
【0096】
1 第1溶解専用転炉(溶解専用転炉)
2 脱硫設備
3 精錬専用転炉
4 湿式集塵装置
5 フィルタープレス
6 塊成化装置
7 乾燥炉
8 予備還元炉
9 第2溶解専用転炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄分を主成分とするダストを還元した還元鉄であって未還元の酸化鉄分を含有するものを溶解して溶銑を得る方法であって、
種湯の存在する溶解炉に上記還元鉄、炭材、酸素を供給して溶銑を得るに際し、種湯のみ存在する溶解前溶銑浴深さと、溶解完了時の溶解後溶銑深さとの関係が、下記(1)式により定まる指標Rsmを0.6〜0.85に制御することを特徴とする溶銑製造方法。
Rsm=溶解前溶銑浴深さ/溶解後溶銑浴深さ (1)
【請求項2】
溶解炉内に存在するスラグ量について、溶解開始前の残留スラグ量と溶解終了時のスラグ量との関係が、下記(2)式により定まる指標Rssを0.1〜0.5に制御することを特徴とする請求項1に記載の溶銑製造方法。
Rss=溶解開始前の残留スラグ量/溶解終了時のスラグ量 (2)
【請求項3】
第1溶解専用転炉、還元鉄溶解専用転炉(以下「第2溶解専用転炉」ともいう)、精錬専用転炉、予備還元炉を設け、
種湯の存在する第1溶解専用転炉に含鉄冷材、炭材、酸素を供給して、第1溶解専用転炉での所要種湯量と精錬専用転炉に供給する溶銑量の合計量の高炭素溶鉄を得、第2溶解専用転炉において還元鉄を溶解して第2溶解専用転炉での所要種湯量と精錬専用転炉に供給する溶銑量の合計量の高炭素溶鉄を得、これら高炭素溶鉄を原料として精錬専用転炉で酸素精錬することにより所要成分の溶鋼を得るに際し、
第2溶解専用転炉での還元鉄の溶解に際して請求項1又は2に記載の溶銑製造方法を用いることを特徴とする転炉製鋼方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−177294(P2007−177294A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377693(P2005−377693)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】