説明

溶鋼中の燐濃度を精度よく推定する方法

【課題】吹錬時の中間測定結果情報に基づいてO使用量と冷却材使用量を決定し、吹止後の溶鋼温度と、C及びP濃度を目標値に制御する転炉吹錬において、吹止後の溶鋼中のP濃度を精度よく推定する方法であって、脱Pを転炉のみで行って工程数を少なくし、熱裕度を向上させる。
【解決手段】溶銑予備処理にて脱Pを行っていない溶銑を用いて転炉吹錬を行い、吹錬時の中間測定時にサブランスに取付けた酸素センサーによってスラグ中の酸素ポテンシャルPOを測定し、吹止後、溶鋼の凝固温度から鋼中C濃度を推定すると共に、この溶鋼中のC濃度の推定値より溶鋼中の酸素ポテンシャルPOを推定し、その後スラブ中の酸素ポテンシャルPOの測定値と溶鋼中の酸素ポテンシャルPOの測定値から吹止後の溶鋼中のP濃度を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉吹錬での脱燐方法において、吹止後における溶鋼中の燐(以下、元素記号のPという)濃度を精度よく推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉吹錬では従来、吹錬開始時点での操業情報を用いて吹止後の溶鋼濃度と、溶鋼中の炭素(以下、元素記号のCという)濃度を目標値に制御するスタティック制御と、これらの情報にサブランスを用いて測定した中間測定結果情報を加えて吹止後の溶鋼温度と溶鋼中のC濃度及びP濃度を目標値に制御するダイナミック制御が行われている。
【0003】
図1は、上述する転炉吹錬でのフローを示すもので、スタティック制御では溶銑性状、主原料配合、その他の吹錬条件などの吹錬開始時点での操業情報と、吹止後の溶鋼温度及びC濃度、二次精錬処理前のP濃度との関係を示すモデル式を構築し、これらのモデル式に基づいて溶鋼温度、溶鋼中のC及びP濃度が目標値に一致するように酸素使用量と冷却材使用量を決定して操業を行い、ダイナミック制御では吹錬中、サブランスにより測定した溶鋼温度Tと溶鋼の凝固温度を中間測定し、測定したこの溶鋼温度T及び凝固温度より推定した溶鋼中のC濃度Cと、前記中間測定後の酸素使用量ΔO、冷却材投入量ΔSOREと、吹止後の溶鋼温度T及びC濃度C、RH処理前のP濃度Pとの関係を示す以下の酸素モデル数1式、温度モデル数2式、Pモデル数3式を構築し、これら各数1〜3式に以下の表1に示す実績値のWCH、O、TCaO、SORE、ΔCaCO、CaF、HMR、CMR、HMSi及びHMP、中間測定値のT、溶鋼の凝固温度からの推定値C、目標値のT、C、P、出鋼済みチャージ実績から重回帰分析により求めた係数c、各モデル式の学習項ΔCを代入し、数1式と数3式を連立して求めたΔOとΔSORE及び数2式と数3式を連立して求めたΔOとΔSOREのうち、ΔO値が大きい方のΔOとΔSOREを決定し、スタティック制御での軌道修正を行っている。
【0004】
【数1】

【0005】
【数2】

【0006】
【数3】

【0007】
【表1】

【0008】
前述のダイナミック制御を行ったのちの吹止後の溶鋼中のP濃度は、吹止後に測定した溶鋼の凝固温度から溶鋼中のC濃度を推定し、該C濃度を重回帰分析の説明変数として溶鋼中PO及びスラグ中POを推定し、これより吹止後の溶鋼中のP濃度を推定していた(図2)。
【0009】
図3は、吹止後の溶鋼中のC濃度と、溶鋼中及びスラブ中の酸素ポテンシャルPOの関係を示すものであるが、図示するようにスラグ中酸素ポテンシャルlogPOのバラつきが特に大きくなっており、このため吹止後のP濃度の推定精度を損ねている、と考えられる。
【0010】
これに対し特許文献1には、吹錬時にスラグ中酸素ポテンシャルPOを固体電解質を利用した酸素センサーを用いて直接測定し、これより吹止後のP濃度を推定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−223047号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に開示されるように、スラグ中の酸素ポテンシャルPOを直接測定すると、溶鋼中のC濃度から推定するのに比べ、吹止後のP濃度の推定精度が格段に向上するが、特許文献記載の1記載の方法では、転炉吹錬での脱Pに溶銑予備処理にて脱Pを行った溶銑が用いられ、脱Pが溶銑予備処理と転炉吹錬において二度にわたって行われている。
【0013】
本発明は、溶鋼中のP濃度を精度よく推定する方法において、脱Pを転炉のみで行って工程数を少なくし、熱裕度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に係わる発明は、溶銑予備処理にて脱Pを行っていない溶銑を用いて転炉吹錬を行い、吹錬時にサブランスに取付けた酸素センサーによりスラグ中の酸素ポテンシャルPOを測定し、吹止後、溶鋼の凝固温度から溶鋼中のC濃度を推定すると共に、この溶鋼中のC濃度の推定値より溶鋼中の酸素ポテンシャルPOを推定し、その後、前記スラブ中の酸素ポテンシャルPOの測定値と溶鋼中の酸素ポテンシャルPOの測定値から吹止後の溶鋼中のP濃度を推定することを特徴とし、
請求項2に係わる発明は、溶銑予備処理にて脱Pを行っていない溶銑を用いて転炉吹錬を行い、吹錬時にサブランスに取付けた酸素センサーによって溶鋼中及びスラグ中の酸素ポテンシャルPOを測定したのち、スラグ中の酸素ポテンシャルPOと溶鋼中の酸素ポテンシャルPOの上記各測定値から溶鋼中のP濃度を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、吹止後の溶鋼中のP濃度は、溶鋼中の酸素ポテンシャルPOとスラグ中の酸素ポテンシャルPOから推定されるが、スラグ中の酸素ポテンシャルPOには酸素センサーによって測定された測定値が用いられるため、溶鋼中のC濃度を重回帰分析の説明変数として用いて推定していたのと比べ、P濃度を精度よく推定することができ、これにより転炉吹錬の安定化、成分不的中の削減による歩留向上を図ることができること、脱Pは転炉のみで行われ、溶銑予備処理を転炉で行われるのと比べ、工程数が少なくなり、熱裕度が向上すること等の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来法による転炉吹錬でのフローを示す図。
【図2】同従来法による溶鋼中のP濃度の推定方法を示す図。
【図3】溶鋼中のC濃度と酸素ポテンシャルPOの関係を示す図。
【図4】本発明法における転炉吹錬でのフローを示す図。
【図5】本発明法における溶鋼中のP濃度の推定方法を示す図。
【図6】二次精錬処理前P濃度の計算値と実績値の関係を示す図。
【図7】P濃度の実績値と推定値のバラ付きを示すグラフ。
【図8】従来法での二次精錬処理前P濃度の計算値と実績値の関係を示す図。
【図9】従来法でのP濃度の実績値と推定値のバラ付きを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
図4は、前述の図1と同様、転炉吹錬でのフローを示すもので、スタティック制御においては、前述したように吹錬開始時点での操業情報を用いて転炉の次工程である二次精錬処理前温度及び二次精錬処理前成分(C及びP濃度)が目標値となるように酸素使用量と冷却材投入量を算出し、ダイナミック制御においては、吹止の数分前、例えば2分前にサブランスにより溶鋼温度Tと溶鋼の凝固温度とスラグ中の酸素ポテンシャルPOを測定した。
【0018】
サブランスによるスラグ中の酸素ポテンシャルPOの測定は、例えばサブランスに取付けられ、ヘレウスエレクトロナイト社によって開発された、ジルコニア固体電解質を介した酸素濃淡電池への原理により測定した起電力からPOに変換する装置によって行われ(この種の酸素センサーが特許文献1及び特開2000−214127号にも開示されている)、上記測定のタイミングは吹錬終了時が最も溶鋼中のP濃度の推定精度がよいが、吹錬中であってもサブランス測定から吹止までの酸素使用量が少ない場合は、溶鋼中のP濃度を良好に推定することができる。
【0019】
次に前述の溶鋼POと、中間測定後の酸素使用量ΔO、冷却材投入量ΔSORE、吹止後の目標とする溶鋼温度T及びC濃度C、二次精錬処理前のP濃度Pとの関係を示す前述の酸素モデル数1式、温度モデル数2式及び以下のPモデル数4式を構築し、これら各数1、2及び4式に実測値のWCH、O、TCaO、SORE、ΔCaCO、CaF、HMR、CMR、HMSi及びHMP、中間測定のT及びPO2、溶鋼中の推定C濃度、目標値のT、C、P、出鋼済みチャージ実績から重回帰分析により求めた以下の表2に示す係数ci、各モデル式の学習項Δcを代入し、数1式と数4式を連立して求めたΔOとΔSORE及び数2式と数4式を連立して求めたΔOとΔSOREのうち、ΔO値が大きい方のΔOとΔSOREを決定した。
【0020】
【数4】

【0021】
そして吹止後の鋼中P濃度を吹止後に測定した溶鋼の凝固温度から求めた鋼中C濃度から推定した鋼中ΔOと中間測定して求めたスラグ中POの差を重回帰分析の説明変数として求めた(図5)
【0022】
また表2に示す係数の妥当性を検証するため、二次精錬処理前の鋼中P濃度について計算値と実績値を比較した。図6は本方法による結果を示すもので、寄与率R=0.4643であった。
【0023】
【表2】

【0024】
図7はチャージ数N=123での(実績P濃度−計算P濃度)とチャージ数のグラフを示すもので、平均値xは−0.03、標準偏差σは1.58であった。
【0025】
比較のため従来法により求めた式1、2及び4の係数σiに表2に示す係数を用いた以外は前記実施形態と同様にしてΔOとΔSOREを求めてダイナミック制御を行い、吹止後の鋼中P濃度を前記と同様にして求めた。図8は、二次精錬処理前における鋼中P濃度の計算値と実績値の比較を示す図で、寄与率R=0.2474であった。図9は、チャージ数N=123での(実績P濃度−計算P濃度)とチャージ数のグラフを示すもので、平均値xは−0.07、標準偏差σは2.28であった。
【0026】
以上のように、中間測定でスラグ中の酸素ポテンシャルPOを求めてダイナミック制御を行い、二次精錬処理前の溶鋼中のP濃度を求めた場合、図6と図8の対比で見られるように、寄与率Rは従来法では0.2474であったのが、0.4643と大幅に向上し、また誤差のバラつきに関しては、図7と図9の対比で見られるように、標準偏差で2.28×10−3%から1.58×10−3%に改善することができた。
【0027】
前記実施形態では、スラグ中の酸素ポテンシャルPOの計測がサブランスに取付けた酸素センサーによって行われ、溶鋼中の酸素ポテンシャルPOは溶鋼の凝固温度から求めた溶鋼中のC濃度から測定しているが、別の実施形態では、酸素センサーによってスラグ中の酸素ポテンシャルPOと共に、(成功率は高くないが)溶鋼中の酸素ポテンシャルPOが測定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶銑予備処理にて脱Pを行っていない溶銑を用いて転炉吹錬を行い、吹錬時にサブランスに取付けた酸素センサーによりスラグ中の酸素ポテンシャルPOを測定し、吹止後、溶鋼の凝固温度から溶鋼中Cの濃度を推定すると共に、この溶鋼中のC濃度の推定値より溶鋼中の酸素ポテンシャルPOを推定し、その後、前記スラグ中の酸素ポテンシャルPOの測定値と溶鋼中の酸素ポテンシャルPOの推定値から吹止後の溶鋼中の燐濃度を推定することを特徴とする燐濃度推定方法。
【請求項2】
溶銑予備処理にて脱Pを行っていない溶銑を用いて転炉吹錬を行い、吹錬時にサブランスに取付けた酸素センサーによって溶鋼中及びスラグ中の酸素ポテンシャルPOを測定したのち、スラグ中の酸素ポテンシャルPOと溶鋼中の酸素ポテンシャルPOの上記各測定値から溶鋼中のP濃度を推定することを特徴とする燐濃度推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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