滑り−転がり接触における鋼鉄要素の摩耗を減少させるための方法
本発明においては、滑り接触または滑り−転がり接触している表面を有する二つの鋼鉄要素の一方または両方の摩耗を減少させるための方法を提供する。その方法には、HPF摩擦調節組成物をその二つの鋼鉄要素の一方または両方の一つまたは二つ以上の接触表面に塗布することを含む。具体的な例としては、そのHPF摩擦調節組成物が、レオロジー調節剤、潤滑剤、摩擦調節剤ならびに効力維持剤、抗酸化剤、粘稠性調節剤および凝固点降下剤の一つまたは二つ以上を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レールの摩耗、鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御するための方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、一つ若しくは二つ以上のレールの摩耗、一つ若しくは二つ以上の鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御するための方法に関し、ここでその一つまたは二つ以上のレールおよびその一つまたは二つ以上の鉄道車両の車輪は、滑り接触または滑り−転がり接触している。
【背景技術】
【0002】
滑り接触または転がり−滑り接触をしている金属機械部品の摩擦と摩耗を制御することは、多くの機械や機械式システムの設計および運転においては非常に重要である。たとえば多くの貨物列車、客車および大量輸送システムを含む鋼鉄レールおよび鋼鉄車輪輸送システムでは、大きな騒音を発生したり、機械部品たとえば車輪、レール、それに枕木などその他のレール部品などで著しい摩耗が生じるような問題がある。そのような騒音発生および機械部品の摩耗は、そのシステムの運転時に車輪とレールとの間で発生する摩擦力と挙動に直接起因していると考えてよい。
【0003】
車輪がレール上を転がる動的システムにおいては、常に移動している接触ゾーンが存在する。考察と解析の目的では、この接触ゾーンが固定されているとして、レールと車輪とがその接触ゾーンを移動していくと考える方が便利である。接触ゾーンを車輪がレールと全く同じ方向に移動しているならば、この車輪はレールの上で最適な状態の転がり接触をしている。しかしながら、車輪とレールとが変形されたり(profiled)、たびたびずらされたり、厳密な転がり以外の運動にさらされるので、接触ゾーンを通過していく車輪とレールとのそれぞれの速度が、必ずしも同じにはならないことがある。しばしばこれが観察されるのが、固定軸を持つ車両がカーブを通過する場合であり、両方のレール上で真の転がり接触が保たれるのは、内側および外側の車輪が異なった周速で回転した時だけである。ほとんどの固定軸を持つ車両では、このような事は起こりえない。したがって、そのような状態では、車輪がレールに対して、転がりと滑りとを組合せた動きをとる。滑り運動はまた、斜面で牽引力が維持できなくなり、駆動輪がスリップしたような場合にも起きる。
【0004】
滑り運動の大きさは、接触点におけるレールと車輪との速度の違いを百分率であらわしたものに、大まかに依存している。この百分率による差は、クリーページ(creepage)と呼ばれている。
【0005】
クリーページが約1%より大きくなると、滑りによる摩擦力が顕著にあらわれ、この摩擦力によって騒音と部品の摩耗が生じる(H.ハリソン(H.Harrison)、T.マッケニー(T.McCanney)およびJ.コッター(J.Cotter)(2000)、「リーセント・ディベロップメンツ・イン・COF・メジャーメンツ・アト・ザ・レール/ホイール・インターフェース(Recent Developments in COF Measurements at the Rail/Wheel Interface)」、プロシーディングス・ザ・5th・インターナショナル・カンファレンス・オン・コンタクト・メカニックス・アンド・ウェア・オブ・レール/ホイール・システムズ・CM2000(Proceedings The 5th International Conference on Contact Mechanics and Wear of Rail/Wheel Systems CM2000)(セイケンシンポジウム(SEIKEN Symposium) No.27)、p.30〜34、ここに引用することにより本明細書に組み入れられているものとする)。騒音が発生するのは、車輪とレールシステムとの間に存在する負の摩擦特性の結果である。負の摩擦特性というのは、クリープ曲線が飽和している領域において、システムのクリーページが大きくなるにつれて、車輪とレールとの間の摩擦が一般に減少していく性質を言う。理論的には、車輪−レールシステムにおける騒音と摩耗レベルとを減少させるかあるいは無くするためには、その機械式システムを非常に剛直にするか、運動している部品の間の摩擦力を非常に低いレベルとするか、あるいは、摩擦特性を負から正に変える、すなわち、クリープ曲線が飽和している領域で、車輪とレールとの間の摩擦を増加させてやればよい。残念ながら、ほとんどの列車に使用されているような車輪及びレールシステムの場合のように、機械式システムの剛直性をさらに上げることは不可能なことが多い。それに代わる方法として、車輪とレールとの間の摩擦力を減少させるとなると、粘着力と制動力の大きな妨げとなり、必ずしも鉄道用途には適したものではない。騒音レベルと部品の摩耗とを減少させるためには、車輪とレールとの間に正の摩擦特性を持たせることが、多くの場合、有効である。
【0006】
また、軌道の上で列車を移動させるためにはクリアランスの存在が必須であるが、その存在のために絶えず前後運動が生じ、その結果列車の車輪とレールとの摩耗が加速されることも知られている。これらの影響によって、波紋状のパターンがレール表面上に生じることがあり、これは波状摩耗と呼ばれている。波状摩耗があると、滑らかなレール・車輪の界面の場合を超えて、騒音レベルが高くなり、この問題は最終的には、レールおよび車輪の表面を研磨したり機械加工したりして解決するしかない。そのためには、時間も費用もかかる。
【0007】
数多くの潤滑剤が当業界には公知であり、それらの中には、鉄道や高速輸送システムにおいてレールおよび車輪の摩耗を抑制することを目的として設計されたものもある。たとえば米国特許第4,915,856号明細書には、固形の耐摩耗性、耐摩擦性潤滑剤が開示されている。この製品は、固体ポリマー担体中に抗摩耗剤および抗摩擦剤を組合せて分散させたもので、レールの頭頂部に塗布するためのものである。車輪に対して担体が摩擦されることによって、抗摩耗剤および抗摩擦剤が活性化される。しかしながら、この製品は正の摩擦特性を示さない。また、この製品の固形組成物は効力維持性の面で劣る。
【0008】
米国特許第5,308,516号明細書、米国特許第5,173,204号明細書および国際公開第90/15123号パンフレットは、高い正の摩擦特性を有する固形摩擦調節組成物に関するものである。これらの組成物では、クリーページの関数として摩擦が増加することを表し、樹脂を含んでいて、それによりこれらの配合を固相状態に保っている。ここで用いられた樹脂は、アミンおよびポリアミドエポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレンまたはポリプロピレン樹脂などを含む。しかしながらこれらは、最適の効果を得ようとすると、クローズドループシステムとして、連続して塗布をしてやることが必要である。
【0009】
欧州特許出願公開第0 372 559号明細書は、潤滑のための固形コーティング組成物に関するもので、その組成物は、塗布した場所で最適な摩擦係数を付与すると同時に、摩耗損失を低下させることが可能である。しかしながらこの組成物は、正の摩擦特性を有していない。さらに、これらの組成物が、それらが塗布された表面における耐久性あるいは効力維持性が最適化されているかについては何の示唆もない。
【0010】
固形状スティック組成物を含め、従来技術の組成物を使用するのに伴う、いくつもの欠点が存在する。第一に、騒音が路線の中の2,3の特定の場所だけで問題になっているような場合に、摩擦調節用のスティック組成物を鉄道車両に装備させ、全域のレールに塗布させるのは、無駄が多い。第二に、軌道によっては保全サイクルが長くて、120日にもなるものがある。現在のスティック技術では、固形の潤滑剤や摩擦調節剤でこのような長い期間にわたって効力が続くものはない。第三に、北米の貨物輸送の実態では、大陸のいたる所で、貨車が切り離されるので、全部とは言わないまでも多くの貨車に摩擦調節剤スティックを取り付ける必要があり、これは費用もかかるし、実際的ではない。同様に、固形のスティックを使用してレールの頭頂部の摩擦を管理するためには、クローズドシステムにして、摩擦調節剤製品をレール上に充分に蓄積させねばならない。クローズドシステムとは、実質的には専用の車両のみを走らせ、外部の列車の進入又は退去を認めないシステムである。都市輸送システムが典型的にはクローズドシステムであるのに対し、貨物輸送システムは典型的には広く車両が相互に乗り入れているオープンシステムである。そのようなシステムにおいては、固形状スティック技術はあまり実用的ではない。
【0011】
従来技術における潤滑剤組成物の多くは、固形のスティック状であるかまたは粘稠な液体(ペースト状)のいずれかの配合となっているので、霧化スプレーとして滑りシステムおよび転がり−滑りシステムに塗布することはできない。液状の摩擦調節組成物を霧化スプレーにより塗布すれば、多くの場合、レールシステムに塗布する組成物の量を減らすことができ、また、所望の位置に摩擦調節組成物を、より均等に分散させることができる。さらに、霧化スプレーはすぐに乾くので、好ましくない機関車の車輪のスリップの可能性を、最小限に抑えることができる。
【0012】
固形状のスティックを使用して車輪に塗布する塗布システムに比較して、レールの頭頂部または鉄道車両の車輪に液体系の組成物を塗布することの方が明らかに有利である。液状システムを使用することにより、ハイレール(hirail)、線路脇(wayside)あるいは車上(onboard)システムなど、場所に応じた塗布方法が可能となる。固形の塗布システムでは、車輪に連続的に薬剤を塗布していくので、このように場所に応じた塗布をするようなことはできない。さらに、固形状のスティック塗布法では移行率が低いので、線路の条件が完全に整わない限り、効果が得られないであろう。これは、クラス1鉄道路線(Class 1 rail line)ではあり得ない状況である。その理由は、カバーすべき軌道が膨大で、また、固形状スティック潤滑剤を備えていない車両があるからである。液状システムでは、薬剤はレールの頭頂部に塗布され、列車の車軸すべてが接触しうるので、薬剤の効果が即座に得られ、そのような問題を避けることができる。しかしながら、常にそのようになるとも限らないのであって、その理由は、塗布された膜が、レールに付着したまま残って、摩擦制御作用を発揮する能力に限度があるからである。ある種の状況においは、液状薬剤がたった1編成の列車が通過するだけで失われてしまうこともある。
【0013】
国際公開第98/13445号パンフレット(引用することにより、本明細書に組み入れたものとする)には、転がり−滑り接触をしている2種の鋼鉄体の間で正の摩擦特性を有する一連の摩擦組成物を示す数種の水性組成物が記載されている。摩擦調節に関しての好ましい性質をいくつか示しはするものの、これらの組成物では効力維持性が低く、長期間にわたってレール上に留まることができず、好適な効果を得るには繰り返し塗布する必要がある。また、それらの組成物は水系であるために、使用可能な温度範囲の下限に限度がある。それらの組成物も、特定の用途では有用ではあるとはいうものの、最適の効果を得るには繰り返し塗布する必要があり、それにともない費用がかさむ。その上に、それらの液状組成物のいくつかの特性が原因で、それらの組成物は霧化スプレーで塗布するには適していないことが判明した。国際公開第02/26919号パンフレット(引用することにより、本明細書に組み入れたものとする)にも、水系の摩擦制御剤が開示されていて、それには、鋼鉄表面上におけるその組成物の有利な性能を引き延ばすための効力維持剤が含まれる。
【0014】
米国特許第6,387,854号明細書および米国特許第5,492,642号明細書には、約2,500のMWを有するポリオキシアルキレングリコール潤滑剤、約12,000のMWを有するポリオキシアルキレングリコール増粘剤および溶媒(たとえばプロピレングリコール)を含む水系の潤滑性組成物が開示されている。しかしながら、米国特許第6,387,854号明細書および米国特許第5,492,642号明細書に開示されている組成物は、正の摩擦特性を有していない。それらの物質は、摩擦調節剤、たとえば本明細書に記載するHPF組成物とは区別される純然たる潤滑剤である。レールの頭頂部に塗布しようとすると、これらのタイプの潤滑剤では、車輪のスリップまたはブレーキの問題を避けるためには、精巧で複雑で高価な制御システムを必要とする。本明細書に記載されているような真の摩擦調節剤ならばその種の塗布制御を必要としない。
【0015】
重量牽引(heavy haul)の際の、曲線部における高い横圧による悪影響に対する関心が高まっている。定量的な関係を得るのは困難ではあるが、高い横圧は、軌道構造の劣化、レールの摩耗およびレールの転覆脱線を加速する大きな因子であると考えられる。横圧は、車輪−レールの界面における摩擦係数(COF)、列車運転状況、軌道の形態、貨車軌道舵取り性能および車輪/レールの変形(profiling)などに依存する(D.クレッガー(D.Creggar)、セブンス・アニュアル・アドバンスト・レール・マネージメント・レール/ホイール・インターフェース・セミナー(Seventh Annual Advanced Rail Management Rail/Wheel Interface Seminar)、シカゴ(Chicago)、2000年5月)。鉄道がコスト削減、効率向上していくにつれて、レール頭頂部の摩擦の制御は、横圧を制御するための実行可能なオプションとして注目をあびるようになり、軌道の応力状態とそれに伴う軌道の構造劣化を抑える、代わりのアプローチ方法を表すものとなってきた。列車による横圧によりよく対応するために、軌道部品のグレードアップと強化に頻繁に投資する代わりとして、この技術は、車輪−レールの界面の摩擦管理を改良することによってそれら力を軽減させることが可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、滑り接触または滑り−転がり接触している表面を有する二つの鋼鉄要素、特に、滑り接触または滑り−転がり接触している車両の車輪とレールとの一方または両方の摩耗を減少させるための方法を提供する。その方法は、二つの鋼鉄表面の一方または両方の一つまたは二つ以上の表面に対して高い正の(HPF)摩擦調節組成物を塗布することを含む。
【0017】
本発明の1つの目的は、従来技術の欠陥を克服することである。上記の目的は、主クレームの特徴を組み合わせることにより達成される。従クレームには、本発明のさらに有利な実施態様が開示されている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、レールの摩耗、鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御するための方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、一つ若しくは二つ以上のレールの摩耗、一つ若しくは二つ以上の鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御するための方法に関し、ここでその一つまたは二つ以上のレールおよびその一つまたは二つ以上の鉄道車両の車輪は、滑り接触または滑り−転がり接触している。
【0019】
本発明は、レールの摩耗、鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御するための方法を提供し、それには、一つ若しくは二つ以上のレールまたは一つ若しくは二つ以上の鉄道車両の車輪の一つまたは二つ以上の接触表面に高い正の摩擦(HPF)組成物を塗布することを含むが、ここでその一つまたは二つ以上のレールおよびその一つまたは二つ以上の鉄道車両の車輪は、滑り接触または滑り−転がり接触している。
【0020】
本発明はさらに、上述の方法に関し、そこでは、そのHPF組成物が、レオロジー調節剤、潤滑剤、摩擦調節剤ならびに効力維持剤、抗酸化剤、粘稠性調節剤および凝固点降下剤の一つまたは二つ以上を含む。
【0021】
本発明はさらに先に定義した方法に関し、そこではHPF組成物は以下のものを含む:
(a)約30〜約95パーセントの水;
(b)約0.5〜約50パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.02〜約40重量パーセントの潤滑剤および
(d)約0.5〜約30重量パーセントの摩擦調節剤ならびに
以下のものの一つまたは二つ以上:
(i)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤;
(ii)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤;
(iii)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤および
(iv)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤。
【0022】
本発明さらに、上述の方法を提供し、そこではHPF組成物は以下のものを含む:
(a)約40〜約95パーセントの水;
(b)約0.5〜約50パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.5〜約40パーセントの効力維持剤;
(d)約0.5〜約40重量パーセントの潤滑剤および
(e)約0.5〜約25重量パーセントの摩擦調節剤。
【0023】
本発明はさらに、上述の方法に関し、そこではHPF組成物は以下のものを含む:
(a)約40〜約95重量パーセントの水;
(b)約0.5〜約50重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤;
(d)約0.5〜約40重量パーセントの潤滑剤;
(e)約0.5〜約25重量パーセントの摩擦調節剤および
(f)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤。
【0024】
本発明はなおさらに先に定義した方法に関し、そこではHPF組成物は以下のものを含む:
(a)約50〜約80重量パーセントの水;
(b)約1〜約10重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約1〜約5重量パーセントの摩擦調節剤;
(d)約1〜約16重量パーセントの効力維持剤および
(e)約1〜約13重量パーセントの潤滑剤。
【0025】
本発明はさらに、上述の方法を提供し、そこではHPF組成物は以下のものを含む:
(a)約50〜約80重量パーセントの水;
(b)約1〜約10重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約1〜約5重量パーセントの摩擦調節剤;
(d)約1〜約16重量パーセントの効力維持剤;
(e)約1〜約13重量パーセントの潤滑剤および
(f)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤。
【0026】
本発明はさらに、上述の方法に関し、そこではHPF組成物は以下のものを含む:
(a)約30〜約55重量パーセントの水;
(b)約0.5〜約20重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤;
(d)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤;
(e)約0.5〜約20重量パーセントの効力維持剤;
(f)約0.02〜約30重量パーセントの潤滑剤および
(g)約0.5〜約30重量パーセントの摩擦調節剤。
【0027】
本発明はさらに、先に定義した方法に向けられており、そこでは、その一つまたは二つ以上のレールが、ローレール(low rail)およびハイレール(high rail)を含み、それぞれが、ヘッドとゲージフェース/ゲージコーナーを有しており、ここでそのHPF組成物をローレールのヘッドまたはローレールとハイレールとの両方のヘッドに塗布し、そしてここで、ハイレールおよびローレールの両方の摩耗を制御する。
【0028】
本発明はさらに、上述の方法に関し、ここでその方法は、線路脇(trackside)用グリース潤滑剤を塗布することなく、実施される。
【0029】
本発明はさらに、先に定義した方法に向けられており、そこでは、その一つまたは二つ以上のレールが、ローレールおよびハイレールを含み、それぞれが、ヘッドとゲージフェース/ゲージコーナーを有しており、ここでそのHPF組成物をローレールのヘッドまたはローレールとハイレールとの両方のヘッドに塗布し、そしてそのHPF組成物をローレール、ハイレールまたはローレールとハイレールとの両方のゲージフェース/ゲージコーナーにも塗布し、そしてここで、ハイレールおよびローレールの両方の摩耗を制御する。
【0030】
本発明はさらに、先に定義した方法に向けられており、そこでは、その一つまたは二つ以上のレールが、ローレールおよびハイレールを含み、それぞれが、ヘッドとゲージフェース/ゲージコーナーとを有しており、ここでそのHPF組成物をローレールのヘッドまたはローレールとハイレールとの両方のヘッドに塗布し、そして、中性摩擦特性(LCF)組成物をハイレールのゲージフェース/ゲージコーナーまたはローレールとハイレールとの両方のゲージフェース/ゲージコーナーに塗布し、そしてここで、ハイレールおよびローレールの両方の摩耗を制御する。
【0031】
本発明はさらに、先に定義した方法に関し、そこでは、そのLCF組成物が、レオロジー調節剤、潤滑剤ならびに効力維持剤、抗酸化剤、粘稠性調節剤および凝固点降下剤の一つまたは二つ以上を含む。
【0032】
本発明はさらに、先に定義した方法に関し、そこではLCF組成物は以下のものを含む:
(a)約30〜約95パーセントの水;
(b)約0.5〜約50パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.02〜約40重量パーセントの潤滑剤および
以下のものの一つまたは二つ以上:
(i)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤;
(ii)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤;
(iii)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤および
(iv)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤。
【0033】
また別な例においては、そのLCF組成物は以下のものを含む:
(a)約40〜約80重量パーセントの水;
(b)約0.5〜約50重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤;および
(d)約1〜約40重量パーセントの潤滑剤。
【0034】
さらなる例においては、そのLCF組成物は以下のものを含む:
(a)約40〜約80重量パーセントの水;
(b)約0.5〜約50重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約1〜約40重量パーセントの潤滑剤;
(d)約0.5〜約90重量パーセントの効力維持剤;および
(e)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤。
【0035】
さらなる例においては、そのLCF組成物は以下のものを含む:
(a)約30〜約55重量パーセントの水;
(b)約0.5〜約20重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤;
(d)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤;
(e)約0.5〜約20重量パーセントの効力維持剤;および
(f)約1〜約30重量パーセントの潤滑剤。
【0036】
本発明はさらに、滑り−転がり接触している表面を有する二つの鋼鉄要素の一方または両方の摩耗を減少させるための方法を提供し、それには、その二つの鋼鉄要素の一方または両方の一つまたは二つ以上の表面に高い正の摩擦(HPF)組成物を塗布することが含まれる。
【0037】
本発明の方法において使用される組成物は、各種の塗布技術に充分に適合した性質を示し、それによって、塗布することが必要な組成物の量を最小限とすることができる。それらの塗布技術を使用することによって、組成物を正確な量で投与することが可能となる。たとえば液状の組成物は表面上に噴霧するのに適していて、それによって、表面に均一なコーティングを与え、塗布する組成物の量を最適化することができる。さらに、塗布技術を組み合わせたり、アプリケーターの位置を組み合わせたりすることによって、組成物の組合せを滑り−転がり接触している異なった表面に塗布して、摩耗を最適化し、騒音や他の性質、たとえば横圧及び牽引力を抑制する。
【0038】
本発明の方法は、線路脇用グリース潤滑剤の塗布を必要としないので、経済的に有利であり、かつ、線路脇用グリースを環境中に噴霧することによる汚染を減少させることができる。
【0039】
本発明の開示では、本発明について必要な特徴を必ずしもすべて記述している訳ではないが、本発明は、記載された特徴の部分的な組合せの中にも存在している。
【0040】
上記およびその他の本発明の特徴は、添付した図面について言及される以下の記述から、さらに明瞭になるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明は、レールの摩耗、鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御するための方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、一つ若しくは二つ以上のレールの摩耗、一つ若しくは二つ以上の鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御するための方法に関し、ここでその一つまたは二つ以上のレールおよびその一つまたは二つ以上の鉄道車両の車輪は、滑り接触または滑り−転がり接触している。
【0042】
以下の記述は、例示だけを目的として好ましい実施態様を示すものであり、本発明を実施するために必要な特徴の組合せに何ら制限を加えるものではない。
【0043】
本発明の高い正の(HPF)摩擦調節組成物は、一般に、レオロジー調節剤、潤滑剤、摩擦調節剤ならびに効力維持剤、抗酸化剤、粘稠性調節剤および凝固点降下剤の一つまたは二つ以上を含む。本発明の組成物に含ませることができるその他の任意成分としては、濡れ剤および保存剤が挙げられる。液状配合物を所望する場合には、本発明の摩擦調節組成物はさらに、水またはその他の組成物と相溶性のある溶媒を含んでいてもよい。水またはその他の相溶性溶媒を含む場合には、本発明の組成物は液状配合物として使用しても効果はあるが、組成物をペースト状または固形物の形状に配合することも可能で、そのような組成物も、本明細書に記載された摩擦組成物の多くの特徴を示す。本明細書に記載される組成物にはまた、必要に応じて、濡れ剤、分散剤、抗菌剤などを加えることができる。
【0044】
「抗酸化剤」という用語が意味するのは、化学物質、化合物またはその組合せであって、効力維持剤の有無に関わらず、表面に保持される摩擦調節組成物の量を増やし、それによって運転の有効寿命を長くしたり、摩擦調節組成物の耐久性を向上させたりするものである。抗酸化剤の例を挙げれば(但しこれらに限定されるわけではない):アミン型抗酸化剤、たとえば(限定されるわけではない)ウィングステイ(Wingstay,登録商標)29;スチレン化フェノール型抗酸化剤、たとえば(限定されるわけではない)ウィングステイ(Wingstay,登録商標)S;ヒンダード型抗酸化剤、たとえば(限定されるわけではない)ウィングステイ(Wingstay,登録商標)L;チオエステル型抗酸化剤(第二級抗酸化剤としても知られている)、たとえば(限定されるわけではない)ウィングステイ(Wingstay,登録商標)SN−1;またはそれらの組合せであって、たとえば(限定されるわけではない)、ヒンダードフェノールおよびチオエステルを含む相乗効果ブレンド物、たとえば(限定されるわけではない)オクトライト(Octolite,登録商標)424−50などがある。
【0045】
好適な抗酸化剤は、グッドイヤー・ケミカルズ(Goodyear Chemicals)からのウィングステイ(Wingstay,登録商標)S、ウィングステイ(Wingstay,登録商標)L、ウィングステイ(Wingstay,登録商標)SN−1およびチアルコ・ケミカル(Tiarco Chemical)からのオクトライト(Octolite,登録商標)424−50である。
【0046】
「正の摩擦特性」という用語が意味するのは、滑り接触または転がり−滑り接触している二つの表面の間の摩擦係数が、その二つの表面の間のクリーページが増加するにつれて増加する性質である。「クリーページ」という用語は、当業界で使用される一般的な用語であって、その意味は当業者のよく知るところである。たとえば鉄道産業においては、車輪とレールとの接触点において、接触ゾーンは固定してレールと車輪とが移動するものと仮定した時に、レールの滑り移動速度の大きさの、車輪の接線速度の大きさに対する差を百分率であらわしたものがクリーページである。
【0047】
ある摩擦調節組成物が正の摩擦特性を示すかどうかを調べるには、当業界では各種の方法を使用することができる。実験室的には、たとえば(限定的にとらえてはならない)ディスク・レオメータまたはアムスラー(Amsler)試験機を使用して正の摩擦特性を調べることができる(H.ハリソン(H.Harrison)、T.マッケニー(T.McCanney)およびJ.コッター(J.Cotter)(2000)、「リーセント・ディベロップメントツ・イン・COF・メジャーメンツ・アト・ザ・レール/ホイール・インターフェース(Recent Developments in COF Measurements at the Rail/Wheel Interface)」、プロシーディングス・ザ・5th・インターナショナル・カンファレンス・オン・コンタクト・メカニックス・アンド・ウェア・オブ・レール/ホイール・システムズ・CM2000(Proceedings The 5th International Conference on Contact Mechanics and Wear of Rail/Wheel Systems CM2000)(セイケンシンポジウム(SEIKEN Symposium) No.27)、p.30〜34、参考として引用し本明細書に組み入れる)。アムスラー試験機には2枚の平行なディスクがあり、この2枚のディスクに加える荷重を変えながらそれぞれを回転させる。この試験機は、滑り−転がり接触をしている二つの鋼鉄表面をシミュレートするよう設計されている。それらのディスクに変速装置が付けられていて、一方のディスクの回転軸が他方よりも約10%早く回転するようになっている。ディスクの径を変えることによって、クリープレベルを変化させることが可能である。ディスクの間の摩擦により発生するトルクを測定し、そのトルク測定値から摩擦係数を算出する。摩擦調節剤組成物の摩擦特性を測定する際には、摩擦特性の測定を実施する前に、その摩擦調節組成物を完全に乾燥させておくのが好ましい。しかしながら、濡れ状態または半乾燥状態の摩擦調節組成物を使用して測定することによって、その摩擦調節組成物についてのさらなる情報が得られることもある。同様にして、クリープ特性を測定するには、特別設計の台車と車輪を有する列車を使用するが、それによって、レールと車輪との間の接触面に作用する力を測定し、横方向と縦方向のクリープ速度を同時に求めることができる。
【0048】
当業者には自明のことであるが、別の2種類のローラーシステムを使用して組成物の摩擦調節特性を測定することもできる(たとえばA.マツモ(A.Matsumo)、Y.サトウ(Y.Sato)、H.オノ(H.Ono)、Y.ワン(Y.Wang)、M.ヤマモト(M.Yamamoto)、M.タニモト(M.Tanimoto)およびY.オカ(Y.Oka)(2000)、「クリープ・フォース・キャラクタリスティクス・ビトウィーン・レール・アンド・ホイール・オン・スケールド・モデル(Creep force characteristics between rail and wheel on scaled model)、プロシーディングス・ザ・5th・インターナショナル・カンファレンス・オン・コンタクト・メカニックス・アンド・ウェア・オブ・レール/ホイール・システムズ・CM2000(Proceedings The 5th International Conference on Contact Mechanics and Wear of Rail/Wheel Systems CM2000)(セイケンシンポジウム(SEIKEN Symposium) No.27)、p.197〜202、参考として引用し本明細書に組み入れる」。実走行での、組成物の滑り摩擦特性を測定するには、たとえば(限定されるわけではない)、プッシュ・トライボメータ(push tribometer)またはトライボレーラー(TriboRailer)を使用することができる(H.ハリソン(H.Harrison)、T.マッケニー(T.McCanney)およびJ.コッター(J.Cotter)(2000)、「リーセント・ディベロップメントツ・イン・COF・メジャーメンツ・アト・ザ・レール/ホイール・インターフェース(Recent Developments in COF Measurements at the Rail/Wheel Interface)」、プロシーディングス・ザ・5th・インターナショナル・カンファレンス・オン・コンタクト・メカニックス・アンド・ウェア・オブ・レール/ホイール・システムズ・CM2000(Proceedings The 5th International Conference on Contact Mechanics and Wear of Rail/Wheel Systems CM2000)(セイケンシンポジウム(SEIKEN Symposium) No.27)、p.30〜34、参考として引用し本明細書に組み入れる)。
【0049】
図1Aに、中性の摩擦特性(LCF)を有することを特徴とする組成物についてのアムスラー試験機で測定した%クリープ曲線に対する典型的な摩擦係数をグラフであらわしているが、クリーページが大きくなっても摩擦係数は低い。ここで判るように、LCFの特徴は、プッシュ・トライボメータで測定したときに、摩擦係数が約0.2未満であることである。実走行の条件下では、LCFは約0.15以下の摩擦係数を示しているのが好ましい。正の摩擦特性とは、システムのクリーページが大きくなるにつれて、車輪とレールとのシステムの間の摩擦が大きくなっていく特性である。図1Bおよび図1Cにはそれぞれ、高い正の摩擦(HPF)特性を有することを特徴とする組成物および非常に高い正の摩擦(VHPF)特性を有することを特徴とする組成物についての%クリープ曲線に対する典型的な摩擦係数をグラフであらわしている。ここで判るように、HPFの特徴は、プッシュ・トライボメータで測定したときに摩擦係数が約0.28から約0.4であることである。実走行の条件下では、HPFは約0.35の摩擦係数を示しているのが好ましい。VHPFの特徴は、プッシュ・トライボメータで測定したときに、摩擦係数が約0.45から約0.55であることである。実走行の条件下では、VHPFは0.5の摩擦係数を示しているのが好ましい。
【0050】
軌道の曲線部で発生する車輪の鳴き(squeal)には、車輪のフランジとレールのゲージフェースとの間の接触、レールヘッドにおける車輪の横クリープによるスティックスリップを含むいくつかの原因が考えられる。理論に束縛されることなく言えば、レールヘッドにおける車輪の横クリープが車輪の鳴きの最大の原因であろうと考えられるのに対し、車輪のフランジとレールのゲージとの間の接触は、重要ではあるものの二次的な役割を果たしている。本明細書に記載するような検討から、車輪の鳴きを効果的に抑制するためには、レールと車輪との界面が異なれば、異なった摩擦調節組成物を塗布するのがよいことがわかる。たとえばレールヘッドをこする車輪の踏み面(wheel tread)の横方向のスリップスティックを減らすためには、レールのヘッドと車輪との界面上に正の摩擦特性を有する組成物を塗布するのがよく、また、列車車両の案内車軸(lead axle)でのフランジ効果を減少させるためには、レールのゲージフェースと車輪のフランジとに低摩擦調節組成物を塗布するのがよい。
【0051】
「接触表面」という用語が意味するのは、第二の要素の表面と接触している第一の要素の表面である。たとえばその第一の要素がレールであり、その第二の表面が鉄道車両の車輪であるとすると、そのレールの上の接触表面は、そのレールのヘッドであるとすることができ、それが鉄道車両の車輪の踏み面の表面と接触することができるし、あるいは、レールのゲージフェース/ゲージコーナーが、鉄道車両の車輪のフランジの内側表面と接触することができる。
【0052】
「ハイレール」および「ローレール」という用語が意味するのはそれぞれ、傾斜をつけた曲線部にある軌道の部分での外側のレールおよび内側のレールである。
【0053】
「ゲージフェース/ゲージコーナー」という用語が意味するのは、レールの内側垂直断面(ゲージフェース)およびゲージフェースとレールのヘッドとの間の表面(ゲージコーナー)であって、それらはフランジの内側表面および鉄道車両の車輪の凹形の上側フランジ(すなわち、内側の踏み面)表面と接触することができる。
【0054】
「レールのヘッド」という用語が意味するのは、レールの頭頂部または水平の部分であって、鉄道車両の車輪の踏み面と接触できる部分である。
【0055】
「レオロジー調節剤」という用語が意味するのは、液体たとえば(限定されるわけではない)水を吸収し、物理的に膨潤することが可能な化合物である。レオロジー調節剤は増粘剤としても作用し、組成物中の成分を分散させた形態で保持するのに有効である。この添加剤は液相中に活性成分を均一な状態で懸濁させ、その組成物の流動性および粘度を調節する役目を果たす。またこの添加剤は、摩擦調節組成物の乾燥特性を調節する機能を果たしていてもよい。さらに、レオロジー調節剤は連続相マトリックスを形成して、不連続相マトリックス中にある固体状潤滑剤を維持することを可能とする。レオロジー調節剤は、(これらに限定されるわけではない)クレーたとえばベントナイト(モンモリロナイト)およびヘクトライト、たとえば(限定されるわけではない)ヘクタブライト(Hectabrite,登録商標);レオレート(Rheolate,登録商標)244(ウレタン);カセイン;カルボキシメチルセルロース(CMC、たとえばセルフロー(Celflow,登録商標));カルボキシ−ヒドロキシメチルセルロース;メチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシエチル基およびそれらの混合からなる群より選択される置換基を用いてそれぞれ置換したアンヒドログルコース単位を含む置換セルロース化合物;エトキシメチルセルロース、キトサン、デンプンおよびそれらの混合物などがある。アンヒドログルコース単位を含む置換セルロース化合物の例を非限定的に挙げれば、メトセル(METHOCEL)(登録商標)(ダウ・ケミカル・カンパニー(Dow Chemical Company))、メトロース(Metolose)(登録商標)(信越(ShinEtsu))、メセロース(Mecellose)(登録商標)HPMC(サムスン(Samsung))およびHBR(ヒドロキシエチルセルロース)などを含む。
【0056】
具体的な実施態様において、レオロジー調節剤は、メチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシエチル基およびそれらの混合からなる群より選択される置換基を用いてそれぞれ置換されたアンヒドログルコース単位を含む置換セルロース化合物である。また別な実施態様においては、その置換セルロース化合物のそれぞれのアンヒドログルコース単位は、平均して約1.3〜約1.9個の置換基で置換されている。
【0057】
「粘稠性調節剤」という用語が意味するのは、本発明の摩擦調節組成物を所望の粘稠性で配合することを可能とする各種の物質である。粘稠性調節剤の例を挙げれば(これらに限定されるわけではない)、グリセリン、アルコール、グリコールたとえばプロピレングリコールまたはそれらの組合せなどがある。それに加えて、粘稠性調節剤は摩擦調節組成物の他の性質を変えることも可能であって、たとえば組成物の低温における性質を変えて、ある程度は凝固点降下剤として機能し、それによって、本発明の摩擦調節組成物を各種の温度条件下で使用できるように配合することを可能とする。
【0058】
「凝固点降下剤」という用語が意味するのは、本発明の組成物に添加したときに、その結果として、その凝固点降下剤を含まない場合の同一の組成物の凝固点に比較して、その組成物の凝固点を低下させるような物質であって、例を挙げれば、凝固点降下剤を含まない同一の組成物に比較して、その組成物の凝固点を少なくとも1℃または少なくとも10℃、あるいは少なくとも15℃低下させるようなものである。凝固点降下剤は、粘稠性調節剤にさらに加えて、本発明の組成物に添加することができる。凝固点降下剤を含む、本発明のHPF組成物を塗布することで得られる膜の摩擦係数は、約0.3〜約0.4となるべきである。
【0059】
凝固点降下剤の例を非限定的に挙げれば、グリコールたとえばプロピレングリコールまたはグリコールエーテル、より詳しくは、プロピレングリコールエーテルまたはエチレングリコールエーテル、たとえば(限定されるわけではない)ダウアノール(Dowanol,登録商標)EB(エチレングリコールブチルエーテル)などがある。凝固点降下剤は、ジプロピレングリコールメチルエステル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコール三級ブチルエーテル、プロピレングリコールノルマルプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートおよびエチレングリコールブチルエーテルからなる群より選択することができる。しかしながら、この群は非限定的なものであると理解すべきである。
【0060】
凝固点降下剤が塩であってもよく、たとえばベタインHCl、塩化セシウム、塩化カリウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、クロム酸カリウム、塩化ナトリウム、ギ酸ナトリウムまたはトリポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0061】
さらに、凝固点降下剤が、金属酢酸塩、たとえば酢酸カリウムまたは酢酸ナトリウムを含む組成物であってもよい。そのような組成物の例としては、(限定されるわけではない)酢酸カリウムを含むクライオテック(Cryotech,登録商標)E36や、酢酸ナトリウムを含むクライオテック(Cryotech,登録商標)NAACなどが挙げられる。
【0062】
さらに凝固点降下剤が、酸、たとえばクエン酸、乳酸またはコハク酸、ヘテロサイクリックアミンたとえばニコチン酸アミド、アリールアルコールたとえばフェノール、アミノ酸、アミノ酸誘導体たとえばトリメチルグリシンまたは炭水化物たとえばD−(+)−キシロースなどであってもよい。
【0063】
本発明のHPFまたはVHPF組成物を用いて処理したレールの上で列車が明らかに滑りを起こすようなことを防止するためには、場合によっては液状の粘稠性調節剤および液状の凝固点降下剤の両方を含むそれらの組成物の溶媒成分が、(i)組成物をレールに塗布した直後に蒸発してしまうか、または(ii)その処理をしたレールに列車の車輪が接触することによって発生する圧力および熱のもとで、容易に蒸発、脱水または分解するかまたはその(i)と(ii)の両方であることが好ましい。潤滑剤成分たとえばHPFおよびLCF組成物を含む本発明のいくつかの組成物においては、その組成物に潤滑性を付与する凝固点降下剤成分の存在が受容可能であり、その凝固点降下剤成分は、蒸発、脱水または分解によってその組成物から容易に除去される必要はない。凝固点降下剤が、たとえば93℃以上の高い引火点を有することを特徴とするのが望ましい。しかしながら、低い引火点を有する凝固点降下剤もまた、本明細書の記載にしたがって使用できる。
【0064】
実施例10において、いくつかの液状凝固点降下剤候補物(それらに限定される訳ではない)について、アムスラー試験機を用いて評価して、それらが、移動している機関車の車輪とレールとの界面に存在することをシミュレートした条件下で、1対の金属ディスクの表面で、それらそれぞれが蒸発、脱水または分解するのに必要な時間を測定している。その実施例においては、それらのディスクの金属表面からの消失する時間が比較的に短かいことを示した液状凝固点降下剤は、正の摩擦特性を示す摩擦調節組成物、たとえばHPFおよびVHPF組成物において使用するのに適していると判定した。しかしながら、それらの組成物が、LCF組成物においても同様に使用することが可能であることは理解されたい。「比較的に消失時間が短い」ということが意味しているのは、プロピレングリコール(1,2 プロパンジオール)の消失時間よりも短い消失時間であるということである。実施例10において使用された条件下では、プロピレングリコールを用いた場合で、摩擦係数が0.4となるのに約2,500秒を要した(表15、実施例10参照)。したがって、実施例10において定義される装置と条件とを使用した試験をしたときに、約2,500秒以下の消失時間を有する凝固点降下剤を、VHPF、HPFおよびLCF組成物中で使用することが可能である。
【0065】
逆に、ディスクの金属表面からの消失時間が比較的長いことを示す、すなわち、実施例10で定義される条件を用いて求めた消失時間が約2500秒よりも長い凝固点降下剤は、潤滑剤を含む摩擦調節組成物、たとえばLCFおよびHPF組成物において使用するのに適している。
【0066】
実施例10において試験した凝固点降下剤の消失時間が、それらの蒸気圧の値と相関していることが見出された。そのような相関があることが示唆しているのは、蒸気圧を使用することで、液状凝固点降下剤の候補物が、本発明の摩擦調節組成物、たとえばVHPF、HPFまたはLCF組成物として使用するのに適しているかどうかを判定することもできるということである。たとえばプロピレングリコールの蒸気圧は約0.129(20℃;表15、実施例10参照)であり、したがって、約0.1(20℃)以上の蒸気圧を有することを特徴とする液状凝固点降下剤は、正の摩擦特性を示す摩擦調節組成物、たとえばHPFおよびVHPF組成物、さらにはLCF組成物において使用することが可能である。同様にして、約0.1(20℃)未満の蒸気圧を有することを特徴とする凝固点降下剤は、潤滑剤を含む摩擦調節組成物、たとえばLCFおよびHPF組成物において使用するのに適している。
【0067】
ディスクの金属表面から消失する時間が比較的に短かいかあるいはその蒸気圧が0.1(20℃)より大であることを示した凝固点降下剤は、正の摩擦特性を示す摩擦調節組成物、たとえばHPF、VHPFおよびLCF組成物において好適に使用することが可能である。短い消失時間を示す好適な凝固点降下剤の例を非限定的に挙げれば、アーコソルブ(Arcosolv,登録商標)PMA(ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート)、アーコソルブ(Arcosolv,登録商標)PTB(ジプロピレングリコール三級ブチルエーテル)、アーコソルブ(Arcosolv,登録商標)PnP(ジプロピレングリコールノルマルプロピルエーテル)、アーコソルブ(Arcosolv,登録商標)PNB(プロピレングリコールノルマルブチルエーテル)、プログライド(Proglyde,登録商標)DMM(ジプロピレングリコールジメチルエーテル)、ダウアノール(Dowanol,登録商標)DPM(ジプロピレングリコールメチルエーテル)、ダウアノール(Dowanol,登録商標)DPnP(ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル)およびプロピレングリコールがある。
【0068】
ディスクの金属表面からの比較的長い消失時間を示すかまたはその蒸気圧が0.1(20℃)未満であり、そして潤滑剤を含む摩擦調節組成物、たとえばLCFおよびHPF組成物の中で使用することが可能な凝固点降下剤の例を非限定的に示すと、ヘキシレングリコール、ダウアノール(Dowanol,登録商標)DPnB(ジプロピレングリコールブトキシエーテル)およびアーコソルブ(Arcosolv,登録商標)TPM(トリプロピレングリコールメチルエーテル)が挙げられる。
【0069】
注目すべきは、本明細書に記載の組成物の中で凝固点降下剤を組み合わせて使用することも可能であって、2種以上の凝固点降下剤を併用することで、凝固点が低下するという相乗作用が観察された(表16および17、実施例11を参照)。
【0070】
たとえばプロピレングリコールを7%(w/w)含む組成物は、約−3℃の凝固点を示し、ダウアノール(Dowanol,登録商標)DPMを23.5%(w/w)含む組成物は、約−6℃の凝固点を示す。しかしながら、プロピレングリコール(7%w/w)とダウアノール(Dowanol,登録商標)DPM(23.5%w/w)の両方を含む組成物は−24.5℃の凝固点を示す(表16、実施例11参照)。プロピレングリコールまたはダウアノール(Dowanol,登録商標)DPMのいずれかだけをそれ自体30.5%(w/w、プロピレングリコールおよびダウアノール(Dowanol,登録商標)DPMの全量)含む組成物では、それぞれ、−15℃または−9℃の凝固点を示すにとどまる。
【0071】
同様にして、プロピレングリコールを14.83%(w/w)含む組成物は、約−4℃の凝固点を示し、プログライド(Proglyde,登録商標)DMMを19.0%(w/w)含む組成物は、約−3℃の凝固点を示す。プロピレングリコール(14.83%w/w)とプログライド(Proglyde,登録商標)DMM(19.0%w/w)の両方を含む組成物は、−28.0℃の凝固点を示す(表16、実施例11参照)。しかしながら、プロピレングリコールまたはプログライド(Proglyde,登録商標)DPMのいずれかだけをそれ自体33.83.0%(w/w、プロピレングリコールおよびダウアノール(Dowanol,登録商標)DPMの全量)含む組成物は、それぞれ、−20℃または−10℃の凝固点を示すにとどまる。他の凝固点降下剤の組合せにおいても、同様の相乗作用が起きることが観察された。
【0072】
「摩擦調節剤」という用語が意味しているのは、本発明の摩擦調節組成物に正の摩擦特性を付与する物質または液状摩擦調節組成物に、摩擦調節剤が存在しない同等の組成物と比較して、正の摩擦特性を加える物質である。この摩擦調節剤は、微粉化した鉱物質を含み、その粒径が約0.5ミクロンから約10ミクロンの範囲であるのが好ましい。さらに、この摩擦調節剤は水に対しては可溶、不溶、一部可溶のいずれでもよく、その組成物を表面に塗布し、組成物の液体成分を蒸発させた後で、その粒径が約0.5ミクロンから約10ミクロンの範囲に保たれているのが好ましい。米国特許第5,173,204号明細書および国際公開第98/13445号パンフレット(参考として引用し本明細書に組み入れる)に記載されているような摩擦調節剤を本明細書に記載した組成物に使用してもよい。摩擦調節剤は以下のようなものを含んでもよい(これらに限定されるわけではない):
・ホワイティング(炭酸カルシウム);
・炭酸マグネシウム;
・タルク(ケイ酸マグネシウム);
・ベントナイト(天然クレー);
・炭じん(磨砕石炭);
・永久白(硫酸カルシウム);
・アスベストール(アスベストからのアスベスチン誘導体);
・チャイナ・クレー;カオリン系クレー(ケイ酸アルミニウム);
・無定形シリカ(合成品);
・天然スレート粉;
・珪藻土;
・ステアリン酸亜鉛;
・ステアリン酸アルミニウム;
・炭酸マグネシウム;
・鉛白(酸化鉛);
・塩基性炭酸鉛;
・酸化亜鉛;
・酸化アンチモン;
・ドロマイト(MgCOCaCO);
・硫酸カルシウム;
・硫酸バリウム(たとえばバリテン(Baryten));
・ポリエチレン繊維;
・酸化アルミニウム;
・酸化マグネシウム;および
・酸化ジルコニウム
またはそれらの組合せ。
【0073】
「効力維持剤」という用語が意味しているのは、化学物質、化合物またはその組合せであって、運転の有効寿命を長くしたり、滑り−転がり接触をしている2つ以上の表面の間での摩擦調節組成物の耐久性を向上させたりするものである。効力維持剤は、膜の強度および基材への付着性を付与したり、増強したりする。効力維持剤は、摩擦組成物の成分と会合し、塗布した表面の上に膜を形成し、それによって、滑り−転がり接触にさらされる表面上での組成物の耐久性を向上させることが可能であるのが好ましい。典型的には、効力維持剤は、状況によって異なるが、凝集あるいは重合した後に、所望の性質(たとえば膜強度や基材への付着性の向上など)が発揮される。
【0074】
効力維持剤が潤滑剤と摩擦調節剤成分とを結合させる能力を有しているのが好ましく、それにより、これらの成分が薄い層を形成して、車輪とレールとの接触域からの転移に耐えられるようになる。また、効力維持剤が、使用中に物理的に損なわれることなく、また使用中に燃え尽きてしまわないことがないのが好ましい。好適な効力維持剤は、固形物のとりこみ能力が高く、粘度が低く、また所望によっては、膜形成最低温度が低いものであるのが望ましい。効力維持剤の例を挙げれば以下のようなものがある(これらに限定されるわけではない):
・アクリル樹脂、たとえば(限定されるわけではない)ロープレックス(Rhoplex,登録商標)AC264、ロープレックス(Rhoplex,登録商標)MV−23LOまたはマインコート(Maincote,登録商標)HG56(ローム&ハース(Rohm & Haas));
・ポリビニル化合物、たとえば(限定されるわけではない)エアフレックス(Airflex,登録商標)728(エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ(Air Products and Chemicals))、エバノール(Evanol,登録商標)(デュポン(Dupont))、ロバーセ(Rovace,登録商標)9100またはロバーセ(Rovace,登録商標)0165(ローム&ハース(Rohm & Haas));
・オキサゾリン、たとえば(限定されるわけではない)アクアゾル(Aquazol,登録商標)50および500(ポリマー・ケミストリー(Polymer Chemistry));
・スチレンブタジエン化合物、たとえば(限定されるわけではない)ダウ・ラテックス(Dow Latex)226および240(登録商標)(ダウ・ケミカル・カンパニー(Dow Chemical Co.));
・スチレンアクリレート、たとえば(限定されるわけではない)アクロナール(Acronal,登録商標)S760(BASF)、ロープレックス(Rhoplex,登録商標)E−323LO、ロープレックス(Rhoplex,登録商標)HG−74P(ローム&ハース(Rohm & Haas))、エマルション(Emulsion,登録商標)E−1630、E−3233(ローム&ハース(Rohm & Haas));
・樹脂および硬化剤からなる2成分システムを含むエポキシ。樹脂は、摩擦調節組成物のために使用される溶媒によってその選択をすることができる。たとえば(これによって限定されると考えてはならない)水性配合物では、樹脂として適しているのは水性のエポキシで、例を挙げれば、アンカレス(Ancares,登録商標)AR550(すなわち、2,2’−[(1−メチルエチリデン)ビス(4,1−フェニレンオキシメチレン)]ビスオキシランホモポリマー、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ(Air Products and Chemicals))、エポタフ(EPOTUF,登録商標)37−147(すなわち、ビスフェノールA系エポキシ、ライヒホールド(Reichhold))などがある。アミンまたはアミド硬化剤としては、たとえば(限定されるわけではない)アンクアミン(Anquamine,登録商標)419および456およびアンカミン(Ancamine,登録商標)K54(エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ(Air Products and Chemicals))を水性エポキシ配合物では使用することができる。しかしながら、硬化剤なしでエポキシ樹脂単独で使用すると、効力維持性が向上することが認められた。エポキシ樹脂は硬化剤と混合して使用するのが好ましい。組成物に添加することが可能なその他の成分としては、汚れた表面への組成物の付着を促進するための炭化水素樹脂があり、たとえば(限定されるわけではない)エポジル−L(EPODIL−L,登録商標)(エア・プロダクツ・リミテッド(Air Products Ltd.))がある。有機系の溶媒が使用されている場合には、非水系のエポキシ樹脂と硬化剤が使用されてもよい:
・アルキド、変性アルキド;
・アクリル系ラテックス;
・アクリル系エポキシハイブリッド;
・ウレタンアクリル樹脂;
・ポリウレタン分散体;および
・各種のゴム類および樹脂、である。
【0075】
効力維持剤を含む摩擦調節組成物では、効力維持剤を約0.5から約40重量%含ませた組成物においては、効力維持性の向上が観察される。組成物には、約1から約20重量%の効力維持剤が含まれているのが好ましい。
【0076】
エポキシは2成分系であるので、エポキシ混合物における樹脂または硬化剤の量を変えることによって、この効力維持剤の性質を調整することができる。たとえばエポキシ樹脂と硬化剤とからなる摩擦調節組成物における効力維持性の向上は、組成物中にエポキシ樹脂が約1〜約50重量%含まれる場合に認められるが、このことについては以下で詳しく記す。組成物に約2〜約20重量%のエポキシ樹脂が含まれているのが好ましい。さらに、樹脂に対する硬化剤の割合を増やして、たとえば(限定されるわけではない)0.005〜0.8(樹脂:硬化剤の比)とすると、やはり効力維持性が上がる結果となる。以下においても述べるが、硬化剤なしでエポキシ樹脂を含む摩擦調節組成物でも、高い効力維持性がやはり認められる。理論に束縛されることなく言えば、硬化剤がないと、塗布したエポキシ膜が弾力性を持ち続け、そのために滑りおよび転がり接触で鋼鉄の表面で発生する高い圧力にも耐えられることになると考えられる。
【0077】
組成物の効力維持性は、アムスラー試験機またはその他先に述べた適当な装置を使用し、効果が持続されるサイクル数を調べることによって、測定することができる(図3A参照)。さらに鉄道産業においては、その間に所望の効果、たとえば(限定されるわけではない)騒音抑制、牽引力の抑制、横圧の抑制あるいは摩擦レベルなどが維持されている、車軸の通過数の関数としてあるいはプッシュ・トライボメータ(push tribometer)を使用して効力維持性を測定することができる(図3Bおよび3C参照)。理論に束縛されることなく言えば、滑り接触および転がり−滑り接触している表面の間、たとえば(限定されるわけではない)車輪とレールとの界面に効力維持剤が耐久性の膜を形成する能力を有しているのだと考えられる。
【0078】
さらに、本発明の摩擦調節組成物を混合し、基材に塗布するためには溶媒も使用することができる。塗布する際の必要性、たとえば組成物のコスト、要求される乾燥速度、環境への配慮などに応じて溶媒は有機溶媒を使用しても水溶媒であってもよい。有機溶媒としては、たとえば(限定されるわけではない)メタノールがあるが、塗布した組成物の乾燥時間を短縮したり、汚れた基材に対する組成物のなじみを向上させたりあるいは乾燥時間の短縮と汚れた基材へのなじみ向上との両方を目的としてその他の溶媒を使用することもできる。溶媒として好ましいのは水である。水性システムでは普通、効力維持剤は溶媒の中に本当に溶解しているのではなく、分散体となっている。
【0079】
「潤滑剤」という用語が意味しているのは、滑り接触または転がり−滑り接触をしている二つの面の間の摩擦係数を下げることが可能な化学物質、化合物またはその混合物である。潤滑剤の例を挙げれば(限定されるわけではない)二硫化モリブデン、グラファイト、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛および炭素製品、たとえば(限定されるわけではない)炭じんおよび炭素繊維などである。本発明の組成物に使用するならば、潤滑剤としては二硫化モリブデン、グラファイトおよびテフロン(Teflon,登録商標)が好ましい。
【0080】
本発明の摩擦調節組成物にはその他の成分、たとえば(限定されるわけではない)保存剤、濡れ剤、粘稠性調節剤、中和剤および消泡剤を、単独または組合せて含めることができる。
【0081】
保存剤の例を非限定的に挙げれば(限定されるわけではない)アンモニア、アルコール、殺菌剤、たとえば(限定されるわけではない)オキサバン(Oxaban,登録商標)Aがある。中和剤の例を非限定的に挙げると、AMP−95(登録商標)(2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールの溶液)がある。消泡剤の例を非限定的に挙げると、コロイズ648(Colloids 648,登録商標)またはコロイズ675(Colloids 675,登録商標)がある。
【0082】
本発明の組成物に加えることができる濡れ剤としては、たとえば(限定されるわけではない)ノニルフェノキシポリオールまたはCo−630(登録商標)(ユニオン・カーバイド(Union Carbide))がある。この濡れ剤は、レオロジー調節剤、摩擦調節剤および潤滑剤からなるマトリックスの中で、潤滑剤と摩擦調節剤粒子との周囲に水の層を形成させる役割を果たす。濡れ剤によって、液状の摩擦調節組成物中に効力維持剤が分散しやすくなる。濡れ剤はまた、滑り接触および転がり−滑り接触をしている表面、たとえば(限定されるわけではない)鋼鉄の車輪と鋼鉄のレールとのような表面の間に存在するグリースを乳化させることもできる。また、濡れ剤は分散を調節する働きもしていて、組成物中の固形粒子の凝集を最小限に抑える。
【0083】
国際公開第02/26919号パンフレット(参考として引用し本明細書に組み入れる)に記載があるように、改良された効力維持性を有する摩擦調節組成物を使用することに伴う利点は、貨物輸送および大量輸送システムにおける鋼鉄レールおよび鋼鉄車輪システムにおける横圧の抑制がある。横圧を抑制することによって、レールの摩耗(ゲージの広がり)が減少し、レール敷設替えのコストが削減できる横圧は、曲線部あるいは接線部の軌道に適当なストレーンゲージをとりつけて決定することができる。ここで図2を参照すると、そこには、本発明の液状の摩擦調節組成物の存在下または非存在下における、各種のタイプの車両の場合の鋼鉄車輪と鋼鉄レールシステムにかかる横圧の大きさが示されている。図2からわかるように、本発明による摩擦調節組成物(この場合はHPF)を使用すると、乾燥したレールと車輪とのシステムで測定した場合の横圧に比較して、横圧の最大値と平均値が少なくとも約50%減少している。
【0084】
改良された効力維持性を有する摩擦調節組成物を使用することに伴うまた別の利点は、エネルギー消費量の削減であり、これはたとえば(限定されるわけではない)貨物輸送および大量輸送システムにおける鋼鉄レールおよび鋼鉄車輪システムにおける牽引力により測定できる。エネルギー消費量が削減されれば、運転コストの削減につながる。本発明による摩擦調節組成物(この場合はHPF)を使用すると、乾燥したレールと車輪とのシステムで測定した牽引力に比較して、HPFの塗布割合を上げるにつれて、牽引力が少なくとも約13から約30%減少する。
【0085】
水系の薬剤をレールの頭頂部に塗布するにはいくつかの方法がある。たとえば(限定するわけではない)そのような方法には、車上(onboard)、線路脇(wayside、tracksideとも言う)あるいはハイレール(hirail)などのシステムなどがある。車上システムでは、液状物をタンク(通常は最後の駆動用機関車の後に取り付ける)からレール上に噴霧する。線路脇(waysaide=trackside)では、軌道に沿って装置を設置しておいて、接近する列車によりトリガされた後、レール上に薬剤をポンプで送る。ハイレールというのは、ピックアップトラックを改造したもので、レールの上を走らせることができる。このトラックには1つまたは複数の貯液タンクとポンプと空気噴霧システムが備えられていて、それにより軌道上に薄い膜を塗布できるようになっている。このハイレールでは、線路脇に固定された自動化装置とは異なり、必要な時に必要な場所で組成物を塗布することが可能である。たった数台のハイレール車さえあれば、広大な地域をカバーすることができるが、それにひきかえ、車上システムでは列車1編成あたり少なくとも1台の機関車には薬剤を分散するための設備を設けておかなければならない。
【0086】
本発明の摩擦調節組成物を車上(噴霧可能)組成物として使用するのならば、その組成物の粘度は最高約7,000cP(25℃)まであるいは約1,000〜約5,000cP(25℃)とする。しかしながら、必要があれば1,000cPより低い粘度でも使用できる。低粘度のものを使用する場合には、その組成物の内容物が均一な懸濁液または溶液で維持できるような粘度とするのが望ましい。別な方法として、その組成物を撹拌して成分を溶液状態に保つことも可能である。摩擦調節組成物を線路脇用組成物として使用するのならば、その組成物の粘度は、約5,000〜約200,000cP(25℃)または約7,000〜約30,000cP(25℃)とする。しかしながら、たとえばペーストのように、粘度が200,000cPを超えても、最終の組成物がポンプ輸送可能で流動性を有しているのなら使用することが可能である。本発明による組成物の粘度は、当業者には公知のことであるが、本発明の組成物を構成している成分の量を変化させることによって調節することが可能である。
【0087】
ここで図3を参照すると、滑り−転がり接触をしている二つの鋼鉄表面の間での液状摩擦調節組成物の耐久性に対する、効力保持剤、たとえば(限定されるわけではない)アクリル樹脂の効果が示されている。この場合のアムスラー試験機による効力維持性は、たとえば(限定されるわけではない)摩擦係数を約0.4未満あるいは用途に応じて必要とされる他の適切なレベル以下に維持している効果を摩擦調節組成物が発揮しているサイクル数により決定されている。この組成物の効力維持性は、たとえば(限定されるわけではない)効力維持剤が約1重量/重量%(w/w)から約15%w/wの範囲で、組成物中に含まれる効力維持剤の重量パーセントにほぼ直線的に依存している。この範囲においては、アムスラー試験機を使用した測定では、効力維持性が約5000サイクルから約13000サイクルにまで上昇し、この組成物の有効な耐久性と使用性が約2.5倍に上がったことを示している。効力維持性が上昇することは、実走行条件下でも同様に観察され、車軸が少なくとも約5000回通過するまでは横圧が減少していることが観察された(図3B、3C)。効力維持剤を含む本明細書に記載された摩擦調節剤組成物の長期間にわたる同様な効果が、他の性質、たとえば騒音の抑制や牽引力の抑制などの面でも本発明の組成物を塗布することにより観察される。効力維持剤を加えないと、約数百回の車軸が通過したところで、横圧の上昇、騒音レベルの上昇、あるいは牽引力の上昇が観察される。
【0088】
本発明の組成物の粘度は、当業者公知の各種方法、たとえばブルックフィールド(Brookfield)LVDV−E型粘度計を用いて測定することができる。このDV型では、較正したスプリングを介してスピンドルを(試験液の中に挿入して)回転させる。スピンドルに対する流体の粘性抵抗をスプリングの変位から測定する。スプリングの変位は回転変換器で測定され、それによってトルク信号が得られる。DVの測定範囲(cPsで表す)は、スピンドルの回転速度、スピンドルの大きさと形状、その中でスピンドルを回転させる容器および較正したスプリングの最大トルクによって決まる。
【0089】
本発明の組成物の効果を長持ちさせる効力維持剤の効き目を最高に発揮させるには、この摩擦調節組成物を塗布してから使用するより前に可能な限り長い時間かけて固化させておく必要がある。しかしながら、この時間の長さは、実走行の条件下では変化する可能性がある。実走行の試験では、本明細書に記載されているように、摩擦調節剤組成物を軌道に塗布し、塗布中および後に処理した軌道の上を通過する車両で横圧を測定すると、横圧は最初低下するが、車軸が約1200回以上通過すると横圧が上昇するのが観察された。しかしながら、この組成物を使用前に固化させておくと、横圧の低下は約5,000から約6,000回の車軸通過の間観察された。したがって、本明細書に記載される液状の摩擦組成物の固化時間を短くするために、水も含めるが水だけに限定されず、組成物を均質に塗布することが可能で、容易に乾燥するような相溶性のよい溶媒ならいかなるものであっても本発明の液状組成物に使用することができる。さらに、本発明では、組成物を固化させるための時間を短くするために、迅速に乾燥するあるいは急速に硬化するような膜形成性のある効力維持剤、たとえばエポキシ系の膜形成性の効力維持剤をも対象としている。そのようなエポキシ系の組成物が膜の強度を上昇させることも見出されている。組成物に1種または複数の抗酸化剤を添加することによって本発明の組成物の効力をいっそう長持ちさせることができるが、これについては、以下で詳細に述べる。さらに、急速な固化時間が必要な場合には、0.1(20℃)を超える蒸気圧を有することを特徴とする凝固点降下剤を使用することもできる。
【0090】
アクリル樹脂で得られた結果とは対照的に、ベントナイト(レオロジー調節剤)の量を変化させても図4にみられるように効力維持性には影響がない。
【0091】
本明細書で開示されているように、組成物に抗酸化剤を添加すると、摩擦調節組成物の効力維持性がさらに高められる。効力維持剤として、たとえば(限定されるわけではない)スチレンブタジエンを含む液状の摩擦調節組成物に抗酸化剤、この場合はオクトライト424−50(Octolite 424−50,登録商標)を添加した効果を図5および7Bに示している。システムに抗酸化剤を添加することによって、組成物が消尽されてしまうまでのサイクル数が増加した。消尽速度が低いほど、より長く効力維持性が保たれるということを示している。抗酸化剤の例を非限定的に挙げれば、限定することなしに、ウイングステイ(Wingstay,登録商標)S(スチレン化抗酸化剤)、ウイングステイ(Wingstay,登録商標)L(ヒンダード抗酸化剤)、ウイングステイ(Wingstay,登録商標)SN−1(チオエステル抗酸化剤)およびオクトライト(Octolite,登録商標)424−50(相乗作用性抗酸化剤)などがある。その他の抗酸化剤を摩擦調節組成物に添加して、組成物の効力維持性を向上させる効果を得ることもできる。抗酸化剤を存在させることによって各種の組成物で消尽速度が低下することが観察された。
【0092】
理論に束縛されることなく言えば、抗酸化剤を添加したときに摩擦調節組成物の効力維持性が向上するのは、効力維持剤が、たとえば(限定されるわけではない)アクリル系ポリマーのロープレックス(Rhoplex,登録商標)AC−264(実施例8、表13、図7B)およびスチレン−ブタジエンランダムコポリマーのダウ・ラテックス226NA(Dow Latex 226NA,登録商標)(図5)の酸化を阻害する能力を有しているからだと考えられる。これらの効力維持剤はいずれも、効力維持剤が大気中の酸素に暴露されることによって起きる酸化のために、損傷を受ける可能性がある。この酸化反応は、車輪とレールとの界面のような高温の環境では著しく促進されるかも知れない。
【0093】
図7Bには、アクリル系の効力維持剤が存在するところに一連の抗酸化剤を添加した場合の組成物の消尽速度への影響を示している。この図に示されているのは、アクリル系の効力維持剤(ロープレックス(Rhoplex,登録商標)AC−264)と以下の抗酸化剤とのそれぞれを含む組成物における消尽速度の低下であるが、それらの抗酸化剤は、スチレン化抗酸化剤のたとえば(限定されるわけではない)ウイングステイ(Wingstay,登録商標)S、ヒンダード抗酸化剤のたとえば(限定されるわけではない)ウイングステイ(Wingstay,登録商標)L、チオエステル抗酸化剤のたとえば(限定されるわけではない)ウイングステイ(Wingstay,登録商標)SN−1および相乗作用性抗酸化剤のたとえば(限定されるわけではない)オクトライト(Octolite,登録商標)424−50などのいずれかである。抗酸化剤を存在させることによって各種の組成物で消尽速度が低下することが観察された。
【0094】
ポリマーの酸化はフリーラジカル連鎖反応により起きる。ポリマーの製造の際にペルオキシドが使用され、ポリマーが生成した後にも、未反応のペルオキシドが幾分か残存している。これらのペルオキシドが後になって応力、熱などによって開裂し、生成したフリーラジカルが今度は大気中の酸素と反応してペルオキシラジカルを形成する。フリーラジカル連鎖反応の内容は、次の3つのステップに分けることができる:
(a)開始反応:
ペルオキシドが分裂してアルキルのフリーラジカルが生成する。
R−OO−R→2R・+O2
(b)生長反応:
このアルキルラジカルは酸素と容易に反応してペルオキシラジカルを生成する。
R・+O2→ROO・
ペルオキシラジカルが反応してポリマーを切断し、新しいラジカルとカルボン酸とを生成する。
ROO・+RH→ROOH+R・
(c)停止反応:
ラジカル2つが反応して安定な化合物となる。
2R・→R−R
ROO・+R・→ROOR(エステル)
【0095】
生長反応は、停止反応が起きるまでは何回でも繰返され、そのためにポリマー骨格が損傷をうける。理論に束縛されることなく言えば、鎖の切断(ポリマー鎖の分解)により分子がより小さくなり、分子間の相互結合が少なくなるので、その結果、バインダーが基材からより容易に除去されることになる。
【0096】
抗酸化剤を含むが、効力維持剤を含まない組成物では、この効力維持性が向上するのが観察される。図6には、効力維持剤を含まない液状の摩擦調節組成物に、抗酸化剤(この場合はオクトライト(Octlite,登録商標)424−50)を添加した時の効果を示している。図6からわかるように、効力維持剤が無い場合であっても、抗酸化剤を添加すればその組成物の効力維持性が向上する結果となり、それは得られたサイクル数が上がることにおいて示されている。図7Aに見られるように、効力維持剤がない場合にも、一連の抗酸化剤によって、組成物の効力維持性がそのように向上することが観察される。図7Aに示されているのは、アミン抗酸化剤、たとえば(限定されるわけではない)ウイングステイ(Wingstay,登録商標)29、スチレン化抗酸化剤、たとえば(限定されるわけではない)ウイングステイ(Wingstay,登録商標)S、ヒンダード抗酸化剤、たとえば(限定されるわけではない)ウイングステイ(Wingstay,登録商標)L、チオエステル抗酸化剤、たとえば(限定されるわけではない)ウイングステイ(Wingstay)SN−1および相乗作用性抗酸化剤、たとえば(限定されるわけではない)オクトライト(Octolite,登録商標)424−50を添加したときの効果である。いずれの場合においても、組成物の消尽速度が低下している。理論に束縛されることなく言えば、これはMoS2の酸化が防止されているためだと考えられる。酸素が存在するとMoS2はMoO3に酸化されうる。MoO3は摩擦係数が高いことで知られており、それはポリマー膜に影響を与えることはないが、効力維持性を低下させる可能性がある。大気酸素に対して抗酸化剤がMoS2と競合するので、その結果抗酸化剤の濃度が高いほど、MoS2の消尽速度が低くなる。
【0097】
本発明の1つの態様においては、高い正の摩擦(high positive frictional: HPF)特性を示す液状の摩擦調節組成物が提供され、その組成物は以下のものを含む:
(a)約30〜約95パーセントの水;
(b)約0.5〜約50パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.02〜約40重量パーセントの潤滑剤および
(d)約0.5〜約30重量パーセントの摩擦調節剤ならびに
以下のものの一つまたは二つ以上:
(i)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤;
(ii)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤;
(iii)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤および
(iv)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤。
【0098】
場合によってはその組成物に、抗菌剤、消泡剤および濡れ剤が含まれていてもよい。
【0099】
本発明のまた別な態様においては、非常に高い正の摩擦(very high positive friction: VHPF)特性を示す液状の摩擦調節組成物が提供され、その組成物は以下のものを含む:
(a)約30〜約95パーセントの水;
(b)約0.5〜約50パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.5〜約30重量パーセントの摩擦調節剤ならびに
以下のものの一つまたは二つ以上:
(i)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤;
(ii)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤;
(iii)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤および
(iv)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤。
【0100】
場合によってはその組成物に、抗菌剤、消泡剤および濡れ剤が含まれていてもよい。
【0101】
本発明のさらに別な態様においては、低い摩擦係数(low coefficient of friction: LCF)を有する液状摩擦調節組成物が提供され、その組成物は以下のものを含む:
(a)約30〜約95パーセントの水;
(b)約0.5〜約50パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.02〜約40重量パーセントの潤滑剤および
以下のものの一つまたは二つ以上:
(i)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤;
(ii)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤;
(iii)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤および
(iv)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤。
【0102】
場合によってはその組成物に、抗菌剤、消泡剤および濡れ剤が含まれていてもよい。
【0103】
本発明の摩擦調節組成物は、滑り接触または転がり−滑り接触している表面、たとえば鉄道車輪フランジまたはレールのゲージフェースの上の摩擦を緩和するために使用することができる。しかしながら、本発明の摩擦調節組成物は、滑り接触または転がり−滑り接触をしているその他の、金属表面、非金属表面あるいは部分的に金属、たとえば(限定されるわけではない)第五車輪(fifth−wheel)用途、の表面における摩擦を緩和するためにも使用できると考えられる。
【0104】
本発明の組成物は、レール表面や連結部のような金属表面に当業者公知の各種の方法で塗布することができる。たとえば(限定されるわけではない)本発明の組成物を懸濁液、ゲルまたはペーストの形態で塗布することもできるし、あるいは適当な直径、たとえば直径約1/8インチのビーズとして塗布してもよい。
【0105】
本発明の組成物は、ゲルの形状で製造することが可能であるが、それには、たとえば凝固点降下剤たとえばプログライド(Proglyde,登録商標)DMMを、置換度が比較的低いレオロジー調節剤、たとえばメトセル(Methocel,登録商標)K4M(それぞれ平均約1.4個の置換基で置換されたアンヒドログルコース単位を含む置換セルロース化合物)と共に使用することによって製造する。理論に束縛されることなく言えば、その組成物のゲル化は、凝固点降下剤によるレオロジー調節剤の膨潤によってもたらされる。そのような組成物のゲル化度を低下させるには、その凝固点降下剤を比較的高い親水性を有するもの、たとえばアーコソルブ(Arcosolv,登録商標)PnPと置きかえるかまたはそのレオロジー調節剤を比較的高い親水性を有するものまたは比較的高い置換度を有するもの、たとえばメトロース(Metolose)(登録商標)60SH−4000(それぞれ平均約1.9個の置換基で置換されたアンヒドログルコース単位を含む置換セルロース化合物)で置きかえるかのいずれかの方法を用いることにより可能となる。特定のゲル化度を得るために必要な凝固点降下剤とレオロジー調節剤との特定の組合せは、当業者ならば容易に決めることができる。
【0106】
場合によっては、ブラシまたは微細な霧化スプレーを用いて液状の摩擦調節組成物を塗布するのが好ましい。微細霧化スプレーは、組成物の乾燥がより早く、レールの頭頂部に組成物をより均等に分散させ、また横圧の抑制と効力維持性との面でも改良をもたらすことができる。本発明の液状の摩擦調節組成物を霧化スプレーで塗布する方法は、輸送システムでの車上からの塗布、機関車からの車上塗布、ハイレール車を利用した塗布などがあるが、霧化スプレー法はこれらのシステムに限定されるわけではない。
【0107】
霧化スプレー塗布法はまた、本発明の液状の摩擦調節剤を組合せて使用し、レールと車輪との界面での相互作用を最適化するために、レールの別々な場所に塗布するのにも適している。たとえば1組のアプリケーターとノズルシステムとで摩擦調節剤、たとえば(限定されるわけではない)HPF組成物をレールの一方、特にローレール(内側のレール)またはローレールとハイレールとの両方のヘッド(頭頂)部に塗布して、レールの頭頂部をこする車輪踏み面の横方向のスリップスティックを抑制するのに対し、もう1組のアプリケーターとノズルシステムとで低摩擦組成物、たとえば(限定されるわけではない)HPFまたはLCF組成物をハイレール(外側レール)またはローレールとハイレールとの両方のゲージフェース/ゲージコーナーに塗布して、鉄道車両の案内車軸の車輪のフランジ効果を抑制させる。また別な例においては、デュアルノズルの能力を有する第一のアプリケーターを用いて一方または両方のレールのヘッド部分にHPF組成物を塗布し、デュアルノズルの能力を有する第二のアプリケーターを用いて同一または異なったタイプのHPF組成物を、イレール(外側レール)、ローレール(内側のレール)またはハイレールとローレールとの両方のゲージフェース/ゲージコーナーに塗布することもできる。別な方法として、デュアルノズルアプリケーターを用いて同一のレールのヘッド部分とゲージフェース/ゲージコーナーとに同一または別々の組成物を塗布することも可能である。そのようなアプリケーターの1例は、ポルテック・レール・プロダクツ・インコーポレーテッド(Portec Rail Products,Inc.)からの、ロード・ランナー(Road−Runner,登録商標)361・ハイレール潤滑システムが挙げられる。また別な例においては、単一ノズルアプリケーターを使用し、ノズルの位置と噴霧パターンを調節することによって、HPF組成物をレールのヘッドとゲージフェースの両方に塗布することもできる。本発明の1種の摩擦調節剤を霧化スプレーとして、たとえばレールのゲージフェースに塗布し、第2の摩擦調節剤をビーズまたは固形状スティックとしてレールヘッドの上に塗布することも可能である。
【0108】
図8A〜Dに示しているのは、軌道の一部において、両方のレールのヘッドまたはローレールのみのヘッドにHPF組成物を噴霧塗布すると、その軌道の一部における両方のレールにおいて、摩擦調節組成物を塗布しなかった場合に比較して、ヘッド損耗(head loss)が抑制され、ゲージ摩耗速度が低下する結果が得られる、ということである。具体的には、図8A〜Dにおけるデータは、その軌道の一部のローレールにHPF組成物を噴霧塗布すると、60〜75%(曲率によって変化する)の範囲で、%ヘッド損耗とゲージ摩耗速度の両方が抑制されることを示している。
【0109】
したがって、本発明は、レールの摩耗、鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御するための方法を提供し、それには、一つ若しくは二つ以上のレールまたは一つ若しくは二つ以上の鉄道車両の車輪の一つまたは二つ以上の接触表面にHPF組成物を塗布することを含むが、ここでその一つまたは二つ以上のレールおよびその一つまたは二つ以上の鉄道車両の車輪は、滑り接触または滑り−転がり接触している。
【0110】
HPF組成物を、実施例15で試験した軌道の一部のローレールに対してのみ塗布したにもかかわらず、ヘッドおよびゲージの摩耗速度における減少が、ローレール、ハイレールの両方において観察されたということは注目に値する。ローレールだけにHPF組成物を塗布した結果として、ハイレールにおいてヘッドおよびゲージの摩耗速度が低下したということは、横圧とフランジ力の減少の結果であろう。図9A〜Bは、軌道の一部のローレールの頭頂部にHPF摩擦調節組成物を塗布した1年の期間の間に、顕著なゲージ摩耗またはヘッド損耗が起きていないことを示している。ハイレールに対してまたはローレールとハイレールとの両方に対してグリース潤滑剤を一切塗布しなくても、ヘッドおよびゲージの摩耗速度における同様の低下および同様のヘッドおよびゲージ摩耗が、HPF組成物をローレールに噴霧することによって達成できた。本発明の方法では、ハイレール(外側レール)または両方のレールのゲージフェース/ゲージコーナーにグリース潤滑剤を塗布する必要がないので、他の塗布方法よりもコスト効果が高く、また、線路脇用グリースを噴霧することが原因の環境への汚染を減らすという利点も有している。
【0111】
さらに本発明は、レールの摩耗、鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御するための方法に関し、それには、一つ若しくは二つ以上のレールまたは一つ若しくは二つ以上の鉄道車両の車輪の一つまたは二つ以上の接触表面にHPF組成物を塗布することを含み、ここでその一つまたは二つ以上のレールおよびその一つまたは二つ以上の鉄道車両の車輪が滑り接触または滑り−転がり接触しており、ここでその一つまたは二つ以上のレールが、それぞれヘッドとゲージフェース/ゲージコーナーとを有するローレールおよびハイレールを含み、ここでそのHPF組成物は、ローレールのヘッドまたはローレールとハイレールとの両方のヘッドに塗布し、そしてここで、ローレールおよびハイレール両方の摩耗が制御される。
【0112】
さらに、本発明は、レールの摩耗、鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御することを提供し、それには、一つ若しくは二つ以上のレールまたは一つ若しくは二つ以上の鉄道車両の車輪の一つまたは二つ以上の接触表面に、HPF組成物を塗布することを含むが、ここでその一つまたは二つ以上のレールおよびその一つまたは二つ以上の鉄道車両の車輪は、滑り接触または滑り−転がり接触しており、ここでそのHPF組成物はローレールのヘッドに塗布される。
【0113】
霧化スプレーとして塗布することを配慮した本発明による液状摩擦調節組成物は、好ましいことには各種の特性を示すが、そのような特性としてはたとえば(限定されるわけでない)塗布設備の噴霧ノズルを閉塞させる可能性のある粗い混入物の抑制および塗布設備の噴霧システムを通過して適切に流れるようにする粘度の抑制および粒子のアグロメレーションの最小化などが挙げられる。たとえば(限定されるわけでない)ベントナイトのような物質は、直径の小さいノズルを閉塞させるような粗い粒子を含んでいる可能性がある。しかしながら、粒径をたとえば(限定されるわけでない)約50μmより小さい粒子に制御された物質は、噴霧用途に使用することができる。
【0114】
別な方法として(限定されるわけではない)本発明の液状の摩擦調節組成物を線路脇(wayside=trackside)の設備から塗布することもでき、その場合は、ホイールカウンター(wheel counter)によってポンプを起動させ、細いノズルを通してレールの頭頂部に本発明の組成物を流し出す。そのような実施態様では、その設備は曲線部の入り口より前に位置させるのが好ましく、調節組成物は車輪によって曲線部に拡げられ、本発明の組成物によって騒音、横圧、波状摩耗の生成をそれぞれ単独あるいは組合せて低減させることができる。
【0115】
本発明の液状の摩擦調節組成物のうちの特定のものでは、線路脇からの塗布に用いる方がより適しているかも知れない。たとえば線路脇から塗布するための組成物では、完全な乾燥状態にはならず、乾くと表面に薄い皮を張るようになるのが好ましい。「完全に」乾燥する組成物であると、線路脇のアプリケーターのノズル部分を閉塞させてしまい、除去するのが困難となる可能性がある。線路脇から用いるための液状の摩擦調節組成物は、バインダーまたはレオロジー調節剤としては、ベントナイトに代えてカルボキシメチルセルロース(CMC)または置換セルロース化合物の形態を含むのが好ましい。
【0116】
本発明の液状の摩擦調節組成物を調製するには、高速ミキサーを使用して成分を分散させるのがよい。混合用バットの中に適当量の水を入れ、レオロジー調節剤を徐々に加えて、すべてのレオロジー調節剤が完全に濡れた状態にする。次いで摩擦調節剤を少量ずつ加えていくが、加えるたびに完全に分散させ、その後で次の摩擦調節剤の添加を行う。混合物に潤滑剤が含まれる場合には、成分を少量ずつ加えていくが、加えるたびに完全に分散させ、その後で次の潤滑剤の添加を行う。その後で、効力維持剤、凝固点降下剤およびその他の成分、たとえば濡れ剤、抗菌剤などを残りの水と共に加え、この組成物を充分に混合する。
【0117】
本発明の摩擦調節組成物の調製法について上に開示を行ったが、本発明の精神および範囲から外れることなく、この配合を調製するには各種の変法が存在することは、当業者のよく知るところである。
【0118】
本発明の液状の摩擦調節組成物は、表面に塗布した後、そして摩擦調節剤組成物として機能させるより前に、脱水させるのが好ましい。たとえば(限定するわけではない)本発明の組成物をレール表面が列車の車輪と接触するより前に塗布しておいてもよい。本発明の組成物中の水及びその他の液体成分を列車の車輪が接触する前に蒸発させておくのがよい。脱水した時に本発明の液状の摩擦調節組成物が固体状の膜となっているのが好ましく、それにより組成物中の他の成分、たとえば摩擦調節剤および(添加されていれば)潤滑剤などの付着が促進される。さらに、脱水後には、レオロジー調節剤が水の再吸収を抑えることもするので、雨その他の原因により表面からそれが消失してしまうことを防ぐことができる。しかしながら、本発明が対象としているある種の用途においては、列車に取り付けたポンプまたはそれに代わるもので、本発明の液状の摩擦調節組成物をレールの上に直接スプレーすることもでき、その組成物は列車の接近を感知するセンサーに従ってレールの上に送られる。鋼鉄レール上を鋼鉄車輪が移動する際の摩擦力と高温のために充分な熱が発生して組成物を急速に脱水させる可能性があるということは、当業者のよく知るところである。
【0119】
本発明の摩擦調節剤組成物には、当業者が考えれば、本発明の範囲と精神を逸脱することなく置き換えたり変更したりすることが可能であるような成分が含まれている。さらに、本発明の摩擦調節剤組成物を他の潤滑剤や摩擦調節剤組成物と組合せて使用できるということも十分考えられる。たとえば(限定されるわけではない)本発明の組成物を、他の摩擦調節組成物、たとえば(限定されるわけではない)米国特許第5,308,516号明細書および米国特許第5,173,204号明細書に開示されているようなものと共に使用してもよい(それらの特許を参考として引用し本明細書に組み入れる)。そのような実施態様においては、本発明の摩擦調節組成物をレールヘッドに塗布し、他方では、摩擦係数を低下させる組成物をゲージフェースや車輪のフランジ部に塗布するようなことも十分考えられる。
【0120】
これまでの記述は、いかなる点においても特許請求されている本発明を限定するものではなく、さらに、これまでに述べてきた態様の組合せも、発明による解決のために完全に必要というわけではない。
【0121】
本発明を以下の実施例によりさらに詳しく説明する。しかしながら、これらの実施例は説明の目的のためだけのものであり、いかなる点においても本発明の範囲を限定するのに使用すべきではない、ということは理解しておかれたい。
【0122】
実施例1: 液状摩擦調節組成物の特性解析
アムスラー(Amsler)試験法
効力維持性についてはアムスラー試験機を用いて試験した。この試験機は、列車の車輪とレールとの間の接触をシミュレートするもので、二つの物体の間の摩擦係数の経時変化を測定する。アムスラー試験機では、車輪とレールとをシミュレートするために2枚の異なったディスクを使用する。その2枚のディスクは、調節可能なスプリングを用いて一定の力での接触を保つようになっている。組成物をクリーンにしたディスクの上に、制御された方法に従って塗布し、そのディスクの上に所望の厚みを作らせる。本明細書に開示された解析をするために、組成物は細いペイントブラシを用いて塗布し、ディスクの表面に完全な塗膜を作る。組成物の塗布量は、組成物を塗布する前後のディスクの重量測定により求める。組成物の塗布量はディスク1枚あたり2から12mgである。組成物は完全に乾燥させてから試験をする。典型的には、塗装後のディスクを少なくとも8時間放置して乾燥させる。これらのディスクをアムスラー試験機にとりつけ、接触状態にして約680から745Nの荷重をかけ、異なった直径のディスクの組み合わせを使用することにより、異なったクリープレベルでも同等のヘルツ圧力(Hertzian Pressure)(MPa)となるようにする。特に断らない限り、試験はクリープレベル3%で実施する(ディスクの径は53mmおよび49.5mm、表1参照)。すべてのディスクサイズの組合せ(およびクリープレベル3〜30%)において、上側のディスクよりも下側のディスクの回転速度を10%高くする。アムスラー試験機で測定したトルクの値から、コンピューターを使用して摩擦係数を求める。試験は摩擦係数が0.4に達するまで継続し、それぞれの試験組成物についてサイクル数または秒数を求める。
【0123】
【表1】
【0124】
LCF、HPFまたはVHPFの標準製造法:
1)約半量の水の中にレオロジー調節剤の全量を加え、約5分間かけてこの混合物を分散させる;
2)(もし加えるならば)濡れ剤、たとえば(限定されるわけでない)Co−630を添加し、約5分間かけて分散させる;
3)消泡剤、たとえば(限定されるわけでない)コロイズ(Colloids,登録商標)675(登録商標)および(もし加えるならば)中和剤、たとえば(限定されるわけでない)AMP−95(登録商標)を添加し、その混合物を分散させる;
4)(もし加えるならば)摩擦調節剤を少量ずつその混合物に添加するが、添加するたびに完全に分散させ、その後に次の添加を行う;
5)(もし加えるならば)潤滑剤を少量ずつ添加するが、添加するたびに完全に分散させ、その後に次の添加を行う;
6)混合物を5分間分散させる;
7)バットからサンプルを採り、必要に応じて粘度、比重、濾過試験を行って、内容物を所望の規格に適合するように調整する;
8)分散機の速度を落とし、効力維持剤、粘稠性調節剤、凝固点降下剤(もし加えるならば)および保存剤を添加する。場合によっては、それまでに加えていなかった濡れ剤および消泡剤を添加して分散させることもできる;
9)残りの水を添加して、完全に混合する。
【0125】
凝固点温度の標準測定法
凝固点温度は、ニスク・インストラメンツ(Nisku Instruments)からの凝固点測定器を用いて求めた。その試験器はもともと、ジェット燃料の凝固点を測定するためのASTM試験法(ASTM D2386)のために設計されたものである。一般的には、試験を実施するためには、サンプルを試験管にとり、それを冷媒として固体二酸化炭素で冷却したイソプロピルアルコールが入っているデュワー瓶の中に入れ、温度計と撹拌器をサンプルチューブの中にサンプルの液レベルより下で挿入する。試験操作の間、撹拌器を用いてサンプルに一定の撹拌を加える。冷却させながらサンプルの温度挙動を追跡して、温度が平坦域になったところをそのサンプルの凝固点とする。
【0126】
LCF、HPFおよびVHPF組成物のサンプルの例を下記の表2、3および4に示す。それらの組成物のそれぞれについてアムスラー試験の結果を、表1A、1Bおよび1Cに示す。
【0127】
【表2】
【0128】
表2のLCF組成物は、先に述べたようにして調製し、アムスラー試験機を用いて試験する。LCF組成物についてのアムスラー試験の結果を図1Aに示す。これらの結果から、LCF組成物は、クリープレベルが上がっても摩擦係数が低いことが特徴であることがわかる。
【0129】
【表3】
【0130】
表3に記したHPF組成物について、クリープレベルを変えてアムスラー試験をした結果を図1Bに示す。HPF組成物は、クリープレベルを上げると摩擦係数も大きくなるのが特徴である。
【0131】
効力維持剤を添加することによる、他の鋼鉄表面と滑り−転がり接触をしている鋼鉄表面に塗布したHPF組成物の効果の延長
表3の組成物で、アクリル樹脂の効力維持剤(ロープレックス(Rhoplex)284)のレベルを0%、3%、7%、10%と変化させた。効力維持剤の量を増やす場合には、水と置き換える形にした(重量%基準)。これら成分量を変えた組成物をアムスラー試験機で(クリープレベル、3%)試験して、その組成物が摩擦係数を低い一定の値に保ち得る時間の長さを測定した。摩擦係数が0.4に達するまで試験を続けた。その結果を図3Aに示したが、効力維持剤を加えていくと、HPF組成物の効果(摩擦係数の減少)の持続時間が長くなることがわかる。効力維持剤を全く含まないHPF組成物では、約3000サイクル後には係数が0.4に達する。効力維持剤を3%含んだHPF組成物では、そのサイクル数が4,000に増加する。アクリル樹脂の効力維持剤を7%含むHPF組成物では、6200サイクルまでは摩擦係数が0.4以下であり、アクリル樹脂の効力維持剤を10%含むHPF組成物では8,200サイクルにまで達する。
【0132】
表3の組成物を変更して、数種類の異なった効力維持剤が組成物中に16%のレベルで含まれるようにした。効力維持剤は、水と置き換える形で添加した(重量%基準)。こうして得られる各種の組成物をアムスラー試験機で試験(クリープレベル、3%)して、その組成物の摩擦係数が0.4以下を保つサイクル数を測定した。結果を表3Aに示す。
【0133】
【表4】
【0134】
これらの結果から、一連の膜形成性の効力保持剤は、本発明の摩擦調節組成物の効力維持性を改良させていることがわかる。
【0135】
エポキシ系の効力維持剤の効果
表3の組成物を変更して、エポキシ系の効力維持剤(アンカレッズ(Ancarez,登録商標)AR550)のレベルを0%、8.9%、15%および30%とした。効力維持剤の量を増やす場合には、重量%基準で水と置き換える形にした。こうして得られる各種の組成物をアムスラー試験機で試験(クリープレベル、3%)して、その組成物の摩擦係数が0.4以下を保つ、サイクル数を測定した。その結果から、エポキシ系の効力維持剤を加えていくと、HPF組成物の効果(摩擦係数の減少)の持続時間が長くなることがわかる。効力維持剤を全く含まないHPF組成物では、約3,200サイクル後には摩擦係数が増加をしめす。エポキシ系の効力維持剤を8.9%含んだHPF組成物では、そのサイクル数が約7957サイクルにまで増加する。エポキシ系の効力維持剤を15%含むHPFでは、約15983サイクルまでは摩擦係数が低いままであり、エポキシ系の効力維持剤を30%含むHPFでは、約16750サイクルまでの間摩擦係数が低い。
【0136】
異なった種類の硬化剤についても試験をして、滑り−転がり接触をしている二つの鋼鉄表面の間における組成物の効力維持性に何らかの変化が認められるかどうかを見た。アンクアミン(Anquamine)419またはアンクアミン(Anquamine)456を樹脂の硬化剤に対する比(重量%基準)で約0.075から約0.18までの範囲で加えても、HPFの効力維持性は、それまでに観察された高いレベルから変化なく、約3,000から約4,000秒(15480サイクル)であり、硬化剤を試験した全範囲でそうであった。エポキシ系の効力維持剤(アンカレッズ(Ancarez,登録商標)AR550;HPF組成物中に28重量%)を含む組成物にこれら2種類のどちらの硬化剤を併用しても、その効力維持性に対する影響はなく、増減はなかった。しかしながら、アンカミン(Ancamine)K54の量を樹脂の硬化剤に対する比(重量%基準)で0.07から約0.67まで増やしていくと、HPF組成物の効力維持性は上昇していき、0.07(樹脂:硬化剤、重量%;試験した他の硬化剤と当量)の場合で約4,000秒(15500サイクル)、0.28(樹脂:硬化剤、重量%)で約5,000秒(19350サイクル)、0.48(樹脂:硬化剤、重量%)で7,000秒(27,000サイクル)、そして0.67(樹脂:硬化剤、重量%)で約9,300秒(35990サイクル)となった。
【0137】
硬化剤をまったく含まず、エポキシの量が28重量%のHPF組成物について、アムスラー試験機により測定した効力維持性は、エポキシと硬化剤とを含むHPF組成物の場合(約4,000秒、15500サイクル)よりも高く、約6900秒(26700サイクル)となった。摩擦調節組成物中のエポキシ樹脂の量を増やすとさらに高い効力維持性が観察され、たとえば樹脂を78%含む組成物では8,000秒(アムスラー試験機による測定)となる。しかしながら、組成物に添加し得る樹脂の量は、摩擦調節剤の効果がうち消される程には多くしてはならない。摩擦調節剤組成物と硬化剤のために別々の貯蔵容器を使用することに制限がある状況下や、摩擦調節組成物を簡便に塗布する必要があるような場合には、硬化剤を全く使用しない配合の有用性が発揮されるであろう。
【0138】
これらの結果から、エポキシ樹脂によって、本発明の摩擦調節組成物の効力維持性が改良されることがわかる。
【0139】
【表5】
【0140】
表4に記載された組成物についてのアムスラー試験の結果を図1Cに示す。VHPF組成物は、クリープレベルを上げると摩擦係数も大きくなるのが特徴である。
【0141】
実施例2:液状摩擦調節組成物−組成例1
この実施例では、高い正の摩擦係数を示すことを特徴とする別の液状の摩擦調節組成物の調製について述べる。この組成物の成分を表5に記す。
【0142】
【表6】
【0143】
プロピレングリコールは低温時の性能を向上させるために、約20%まで増やしてもよい。この組成物は実施例1と同様にして調製する。
【0144】
霧化スプレーシステムを使用してレールの頭頂部に表6の組成物を塗布したが、このスプレーシステムには、液状の組成物を一連の定量ポンプを介して容器からフィードするメインポンプを使用した。組成物が計量されて空気・液体ノズルに送られ、そこでメインの液流が100psiの空気によって霧化される。このようにして、決められた量の組成物をレールの頭頂部に塗布することができる。塗布割合としては、0.05L/マイル、0.1L/マイル、0.094L/マイル、0.15L/マイルを用いた。この組成物を試験用軌道に塗布したが、これは全周2.7マイルの高荷重軌道で、典型的な条件に合わせた幾つかの軌道区域で構成されている。試験用の列車は積算で1日当たり1.0百万グロストン(MTG)の交通密度とし、高車軸荷重の39トンを使用する。列車の速度は、最高で40mphとする。この試験の間、牽引力と横圧は常法にしたがって測定した。
【0145】
非コーティング軌道(レール頭頂部の処理なし、ただし、線路脇用潤滑油(典型的にはオイル)は使用)では、横圧が約9から約13キップ(kips)の間で変動した(図3B参照)。HPF(表5の組成物)をレールの頭頂部に塗布すると、横圧が約10キップ(対照、HPF塗布なし)から、塗布割合が0.05L/マイルの時で約7.8キップ、0.1L/マイルで約6キップ、0.094L/マイルで約5キップ、0.15L/マイルで約4キップとなった(ハイレール測定;図3D)。表5のHPF組成物の場合でも、効力維持剤の存在下と非存在下では同様な結果が得られた。
【0146】
HPF組成物の効力維持性を調べるために、HPF(表5のもの、効力維持剤を含む)をレールの頭頂部に塗布し、16時間かけて固化させてから列車を通過させた。約5000回の車軸通過までは、横圧が減少しているのが観察された(図3C)。効力維持剤をまったく使用しないと、100〜200回の車軸通過後には、横圧の上昇が観察される(データ省略)。列車が軌道を通過するのに合わせて表5のHPF組成物をレールの頭頂部に塗布し、固化に全く時間をかけなかった場合には、その中間のレベルの効力維持性が観察される。これらの条件下では、HPFの塗布を止めると、約1200回の車軸通過後には横圧が増加することが観察される(図3D)。
【0147】
表5の液状の摩擦調節組成物を使用することにより騒音が抑制されることも観察される。HPF塗布の有りまたは無しの状態における騒音レベルを、B&K騒音計を用いて記録した。レールの頭頂部処理が全くない場合、騒音レベルは約85から95デシベルであったが、0.047L/マイルの割合でHPFを塗布すると、騒音レベルは約80デシベルまで低下した。
【0148】
レールの頭頂部にHPFを塗布することによって、牽引力(kw/時)が低下することも観察される。HPFの塗布がない場合、全くの無処理では牽引力が約332kw/時であるのに対し、線路脇用潤滑剤の存在下では牽引力は約307kw/時となるのが観察される。HPF(表5の組成物)を塗布すると、塗布割合が0.15L/マイルの場合で、牽引力は約130〜約228となるのが観察された。
【0149】
したがって、表5のHPF組成物を使用することによって、レールの曲線部における横圧、騒音、エネルギー消費量および軽レールシステム(light rail system)における波状摩耗の開始を抑制することができる。この液状摩擦調節組成物は霧化スプレーによってレールに塗布することができるが、塗布方法が霧化スプレーに限定されることはないし、この組成物をレールにしか使用しないというわけでもない。さらに、効力維持剤を加えることによりHPF組成物の効力維持性が向上するのが観察されるが、これは、アムスラー試験機を使用して観察されたデータを支持するものである。
【0150】
実施例3:液状の摩擦調節組成物−HPF組成例2
この実施例においては、高い正の摩擦係数を示すことを特徴とする液状組成物について述べる。この組成物の成分を表6に記す。
【0151】
【表7】
【0152】
この液状摩擦調節組成物は実施例1と同様にして調製し、霧化スプレーによってレールに塗布することができるが、塗布方法が霧化スプレーに限定されることはないし、この組成物をレールにしか使用しないというわけでもない。
【0153】
この液状の摩擦調節組成物は、レールの曲線部における横圧、騒音、波状摩耗の開始を抑制し、エネルギー消費量を抑えることができるので、レールシステム中において使用するのには好適である。
【0154】
実施例4:液状の摩擦調節組成物−組成例3
この実施例では、高い正の摩擦係数を示すことを特徴とする、線路脇から使用される複数の液状の摩擦調節組成物の調製について述べる。これらの組成物の成分を表7に記す。
【0155】
【表8】
【0156】
プロピレングリコールは低温時の性能を向上させるために、約20%まで増やしてもよい。メトセル(Methocel,登録商標)F4Mは、薬剤の粘度を上昇させるために約3%まで増やしてもよい。メトセル(Methocel,登録商標)はまた、ベントナイト/グリセリンの組合せと置換えることもできる。
【0157】
上に開示した液状の摩擦調節組成物は線路脇用摩擦調節組成物として使用できるが、そのような使用法だけに限定されるものではない。
【0158】
実施例5:液状摩擦調節組成物−組成例4
この実施例では、高い正の摩擦係数を示すことを特徴とするその他いくつかの液状の摩擦調節組成物の調製について述べる。これらの組成物の成分を表8に記す。
【0159】
【表9】
【0160】
プロピレングリコールは低温時の性能を向上させるために約20%まで増やしてもよい。
【0161】
この液状摩擦調節組成物およびその変更処方は、霧化スプレーによってレールに塗布することができるが、塗布方法が霧化スプレーに限定されることはないし、この組成物をレールにしか使用しないというわけでもない。
【0162】
本発明の液状の摩擦調節組成物は、レールの曲線部における横圧、騒音、波状摩耗の開始を抑制し、エネルギー消費量を抑える。
【0163】
実施例6:液状摩擦調節組成物−組成例5
この実施例では、非常に高い正の摩擦係数を示すことを特徴とする別の液状の摩擦調節組成物の調製について述べる。この組成物の成分を表9に記す。
【0164】
【表10】
【0165】
プロピレングリコールは低温時の性能を向上させるために約20%増やしてもよい。
【0166】
この液状摩擦調節組成物およびその変更処方は、霧化スプレーによってレールに塗布することができるが、塗布方法が霧化スプレーに限定されることはないし、この組成物をレールにしか使用しないというわけでもない。
【0167】
本発明の液状の摩擦調節組成物は、レールの曲線部における横圧、騒音、波状摩耗の開始を抑制し、エネルギー消費量を抑える。
【0168】
実施例7:液状摩擦調節組成物−組成例6
この実施例では、低い摩擦係数を示すことを特徴とする液状の摩擦調節組成物の調製について述べる。この組成物の成分を表10に記す。
【0169】
【表11】
【0170】
実施例7:液状摩擦調節組成物−組成例7
この実施例では、低い摩擦係数を示すことを特徴とする液状の摩擦調節組成物であって、効力維持剤のロープレックス(Rhoplex,登録商標)AC264を含むものと含まないものの調製について述べる。これらの組成物の成分を表11に記す。
【0171】
【表12】
【0172】
これらの組成物の効力維持性を、実施例1と同様にしてアムスラー試験機を用いて測定した。それぞれの組成物について、30%のクリープレベルで、摩擦係数が0.4に達する点までのサイクル数を測定した。効力維持剤がない場合には、LCFで摩擦係数が0.4に達するまでのサイクル数は300〜1100サイクルであった。効力維持剤があると、そのサイクル数は20,000〜52,000サイクルにまで上がった。
【0173】
実施例8:効力維持剤の存在下または非存在下における抗酸化剤を含む組成物
スチレンブタジエン系効力維持剤
組成物を実施例1と同様にして調製したが、ただし、標準製造法のステップ1において組成物に、効力維持剤(たとえばダウ(Dow)226)と同時に、チオエステルとヒンダードフェノールの相乗効果ブレンド、この場合にはオクトライト(Octolite,登録商標)424−50を抗酸化剤として加えた。抗酸化剤系の摩擦調節組成物の例を表12に記す。この組成物には、スチレンブタジエン系の効力維持剤(ダウ226NA(Dow 226NA,登録商標))が含まれている。
【0174】
【表13】
【0175】
これらの組成物の効力維持性を、実施例1の記載と実質的に同様にしてアムスラー試験機を用いて測定した。それぞれの組成物を8枚のディスクに、乾燥重量1g〜7gの範囲で塗布した。ディスクは少なくとも2時間は乾燥させ、次いで3%クリープの条件でアムスラー試験機にかけた。それぞれの試験では、摩擦調節組成物の消尽重量と、摩擦係数(CoF)が0.40に達するまでの時間とをベースにした点で結果を表した。これらの点(重量、時間)をグラフにして、回帰分析にかけた。これにより、それぞれのサンプルについての測定点の集合と最適適合の直線とが得られた。回帰分析で得られた点を利用して消尽速度(重量/時間)に換算した。これらの消尽速度を平均し、データの標準誤差を計算した。消尽速度が低いほど、より長く効力維持性が保たれるということを示している。
【0176】
効力維持剤が存在し、抗酸化剤が存在または非存在の場合についての典型的な実験例を図5に示す。ダウ・ラテックス226(Dow Latex 226,登録商標)(スチレン系効力維持剤)を含むが抗酸化剤を含まない組成物では、図5に示された消尽速度は、0.0013mg/分であった。ダウ・ラテックス226(Dow Latex 226,登録商標)と抗酸化剤(オクトライト(Octolite,登録商標)424−50)とを含む組成物では、消尽速度は0.0005mg/分となり、抗酸化剤が存在するとその組成物の効力維持性が高くなることがわかる。
【0177】
効力維持剤と組合せてウィングステイ(Wingstay,登録商標)Sを使用した場合にも同様の結果が得られ、その組成物では消尽速度が0.0009mg/分であった(データは示さず)。
【0178】
さらに、効力維持剤がなくても、抗酸化剤のオクトライト(Octolite,登録商標)424−50が存在すれば、その組成物の効力維持性が同様に向上することも観察される(図6)。
【0179】
アクリル樹脂系効力維持剤
組成物を実施例1と同様にして調製したが、ただし、標準製造法のステップ1で組成物に、効力維持剤と同時に、抗酸化剤(この場合にはオクトライト(Octolite,登録商標)424−50)を添加した。この場合の効力維持剤は、アクリル系のロープレックス(Rhoplex,登録商標)AC−264であった。抗酸化剤系の摩擦調節組成物の例を表13に記す。
【0180】
【表14】
【0181】
表13に記した組成物の効力維持性を実施例8の場合と同様にしてアムスラー試験機を用いて測定した。抗酸化剤がない組成物の場合の消尽速度が0.0026mg/分であるのに対し、アクリル系の効力維持剤、ロープレックス(Rhoplex,登録商標)AC264を含む組成物の消尽速度は約0.0019となったので、効力維持剤の存在下では組成物の効力維持性が向上することがわかる。
【0182】
実施例9:各種の抗酸化剤を含む組成物
組成物を実施例1と同様にして調製したが、ただし、標準製造法のステップ1で組成物に効力維持剤を添加または非添加で各種の抗酸化剤を加えた。試験に用いた抗酸化剤は以下のものである:
アミン型抗酸化剤、たとえばウイングステイ(Wingstay,登録商標)29(グッドイヤー・ケミカルズ(Goodyear Chemicals));
スチレン化フェノール型抗酸化剤、たとえばウイングステイ(Wingstay,登録商標)S(グッドイヤー・ケミカルズ(Goodyear Chemicals));
ヒンダード型抗酸化剤、たとえばウイングステイ(Wingstay,登録商標)L(グッドイヤー・ケミカルズ(Goodyear Chemicals));
チオエステル型抗酸化剤、たとえばウイングステイ(Wingstay,登録商標)SN−1(グッドイヤー・ケミカルズ(Goodyear Chemicals));
ヒンダードフェノールとチオエステルとを含む相乗効果ブレンド、たとえばオクトライト(Octolite,登録商標)424−50(チアルコ・ケミカル(Tiarco Chemical))。
試験した組成物を表14に記す。
【0183】
【表15】
【0184】
表14に記した組成物の効力維持性を実施例8の場合と同様にしてアムスラー試験機を用いて測定した。それぞれの組成物の消尽速度は図7Aに示されている。図7Aからわかるように、抗酸化剤を含まない摩擦調節組成物の場合に比較して、すべての抗酸化剤が摩擦調節組成物の効力維持性の向上を示した。抗酸化剤の濃度を高くすると(「相乗効果剤HC」)、消尽速度を低下させる効果が一段と大きくなった。
【0185】
表14に記したのと同様な一連の組成物を調製したが、ただし、組成物には効力維持剤(ロープレックス(Rhoplex,登録商標)AC−264)を添加し(8.82重量%)、それに相当する分だけ水の重量%を減らした。これらの組成物の効力維持性は、実施例8の場合と同様にしてアムスラー試験機で測定した。それぞれの組成物の消尽速度は図7Bに示されている。抗酸化剤を含まない摩擦調節組成物の場合に比較して、試験したすべての抗酸化剤が摩擦調節組成物の効力維持性の向上を示した。この場合もまた、抗酸化剤の濃度を高くすると(「相乗効果剤HC」)、消尽速度を低下させる効果が一段と大きくなった。
【0186】
実施例10:金属表面から液状の凝固点降下剤を除去するのに必要な時間
凝固点降下剤を含むHPFまたはVHPF組成物を用いて処理した金属表面の滑り−転がり接触における滑りを抑制する目的で、その組成物の凝固点降下剤成分を選択して、鋼鉄表面の間で発生する、たとえば列車の車輪が処理したレールに接触することによる、圧力および熱のもとで、蒸発、脱水または分解するような特性を有するようにすることができる。
【0187】
この実施例においては、摩擦調節組成物の液状成分の一部を形成することが可能な液状凝固点降下剤の候補のいくつかについて、レール/車両の車輪界面をシミュレートした1対の接触している金属表面から、それらを除去するのに必要な時間に関する評価を行う。接触している金属表面から、プロピレングリコールの場合よりも短い消失時間を示すような凝固点降下剤が、本発明のVHPF、HPFおよびLCF組成物において適していると考えられる。プロピレングリコールの場合よりも長い消失時間を示す凝固点降下剤は、HPFおよびLCF組成物の中で使用することができる。
【0188】
凝固点降下剤は、フリージング・ポイント・デバイス(Freezing Point Device,ニスク・インストラメンツ(Nisku Instruments)製)を使用して凝固点温度を試験することによって識別された。サンプルの凝固点降下剤をサンプルチューブにとり、それを固体二酸化炭素で冷却したイソプロピルアルコールが入っているデュワー瓶の中に挿入する。温度計と撹拌器とをサンプルチューブの中へ入れる。サンプルの凝固点は、サンプルの温度低下が一定となるところを観察する。凝固点降下剤を求めるためには、その降下剤を水と共に混合し、−20℃の凝固点を得るために必要な降下剤の量を求めた(データは示さず)。降下剤−水混合物中に50%(w/w)以下の量で存在し、その凝固点が−20℃以下であるような凝固点降下剤は、さらなる試験をするのに適したものとみなした。
【0189】
凝固点降下剤の消失時間は、実施例1に記載したようなアムスラー試験機を用いて求めたが、ただし、レールディスク上に所望の厚みのコーティングを与えるよう調節しながら、クリーンにしたレールディスクに凝固点降下剤だけを塗布した。凝固点降下剤は、細いペイントブラシを用いて塗布し、レールディスクの表面に完全な塗膜を作るようにした。組成物の塗布量は、組成物を塗布する前後のディスクの重量測定により求めた。コーティングの量は、ディスク1枚あたり、2〜12mgの範囲であった。そのディスクをアムスラー試験機の上に取り付け、互いに接触させて、約760Nの荷重下においた。塗布したサンプルは、試験の前に乾燥時間を与えることなく、レールディスクに塗布した直後に試験を行った。試験は3〜4%のクリープレベルで実施した(ディスク直径53mmおよび49.5mm)。摩擦係数は、アムスラー試験機の二つのホイールを一定速度(232.2RPM)で回転させながら測定したトルクから、コンピューターを用いて求めた。ディスクからそれぞれのサンプルを除去するのに必要な時間、すなわち消失時間は、摩擦係数を0.4に達するようにするのに必要とした時間とした。この試験の結果を表15に示す。
【0190】
【表16】
【0191】
これらの試験から、凝固点降下剤のいくつかは、プロピレングリコール(2468秒)の消失時間よりも短い消失時間を示し、そのためHPF、VHPFおよびLCF組成物において使用するのに適していることが示された。
【0192】
潤滑剤成分たとえばHPFおよびLCF組成物を含む本発明のいくつかの組成物においては、その組成物に潤滑性を付与する溶媒成分の存在が受容可能であり、その凝固点降下剤成分は、蒸発、脱水または分解によってその組成物から直ちに除去される必要はない。したがって、プロピレングリコールの消失時間よりも長い消失時間を示す凝固点降下剤もまた、本発明のHPFまたはLCF組成物の中で使用できる。
【0193】
凝固点降下剤の消失時間は、それらの蒸気圧の値と相関がある。したがって、蒸気圧の値もまた、候補化合物の群から好適な凝固点降下剤の候補を選択する際の手段として使用することができる。約0.1(20℃)以上の蒸気圧を有することを特徴とする凝固点降下剤は、正の摩擦特性を示す摩擦調節組成物、たとえばHPFおよびVHPF組成物、さらにはLCF組成物において使用することができる。同様にして、約0.1(20℃)未満の蒸気圧を有することを特徴とする凝固点降下剤は、潤滑剤を含む摩擦調節組成物、たとえばLCFおよびHPF組成物において使用するのに好適であろう。
【0194】
実施例11:HPF液状摩擦調節組成物
この実施例においては、高い正の摩擦係数を示すことを特徴とする液状組成物について述べる。それらの組成物の成分および関連する凝固点を、表16および17にリストアップした。表16および17において、左から右への順で、PG(プロピレングリコール);ダウアノール(Dowanol,登録商標)DPM;プログライド(Proglyde,登録商標)DMM(2種の濃度);アクロソルブ(Acrosolv,登録商標)PTB;アクロソルブ(Acrosolv,登録商標)PnP;およびクライオテック(Cryotech,登録商標)PnPを凝固点降下剤(FDP)として使用している。
【0195】
2種以上の凝固点降下剤を共に混合すると相乗効果、すなわち凝固点の低下が認められるので、本明細書に記載する組成物の中で、凝固点降下剤を組み合わせたものを使用することも可能である。たとえばプロピレングリコール(7%w/w)とダウアノール(Dowanol,登録商標)DPM(23.5%w/w)の両方を含む組成物は−24.5℃の凝固点を示すが(表16参照)、それに対して、プロピレングリコールまたはダウアノール(Dowanol,登録商標)DPMのいずれかだけをそれ自体30.5%(w/w、プロピレングリコールおよびダウアノール(Dowanol,登録商標)DPMの全量)含む組成物は、それぞれ、−15℃または−9℃の凝固点を示すにとどまる。同様にして、プロピレングリコール(14.83%w/w)とプログライド(Proglyde,登録商標)DMM(19.0%w/w)との両方を含む組成物は、−28.0℃の凝固点を示す(表16参照)。しかしながら、プロピレングリコールまたはプログライド(Proglyde,登録商標)DPMのいずれかだけをそれ自体33.83.0%(w/w、プロピレングリコールおよびダウアノール(Dowanol,登録商標)DPMの全量)含む組成物は、それぞれ、−20℃または−10℃の凝固点を示すにとどまる。同様の相乗効果が得られることが、凝固点降下剤の他の組合せにおいても観察された(たとえば表16参照)。
【0196】
【表17】
【0197】
【表18】
【0198】
この液状摩擦調節組成物は実施例1と同様にして調製し、霧化スプレーによってレールに塗布することができるが、塗布方法を霧化スプレーに限定することはないし、この組成物をレールにしか使用しないというわけでもない。
【0199】
液状の制御組成物のそれぞれを日光に暴露されるレールの区間に塗布し、薬剤が塗布された直後にそのレールの上に18軸からなる列車を通過させた。レールの頭頂部の摩擦係数をプッシュ・トライボメータ(push tribometer)で測定すると、いずれの場合も約0.33であることが判ったが、これは、薬剤に要求される範囲の内である。
【0200】
この液状の摩擦調節組成物は、レールの曲線部における横圧、騒音、波状摩耗の開始を抑制し、エネルギー消費量を抑えることができるので、レールシステム中において使用するのには好適である。
【0201】
実施例12:摩擦調節組成物(HPF)
この実施例においては、高い正の摩擦係数を示すことを特徴とするまた別の組成物について述べる。この組成物の成分を表18に記す。この組成物は、−28℃の凝固点を示す。
【0202】
【表19】
【0203】
この摩擦調節組成物は、混合ドラムの中に室温で、水の全量の内の35%に、レオロジー調節剤(すなわち、ベントナイト(モンモリロナイトナトリウム))および濡れ剤(すなわち、ノニルフェノキシポリオール)を徐々に添加して調製する。この混合物の成分を充分に混合すると、粘稠なゲルが形成される。混合しながら、残りの成分を以下の順序で加える:水(残りの65%)、アンモニア、エーテルE.B.(使用するならば)、その他各種液状物、必要に応じて固体の潤滑剤(たとえばモリブデン)およびその他の固形物。それらの成分を完全に混合して、均質な混合物とすることにより、固体の潤滑剤を確実に充分に分散させる。得られる組成物は粘度が高く、チキソトロピックな液状物で、静置するとゼリー状となる。撹拌またはポンプ輸送すると、その組成物の粘度が低下する。その組成物は、連続相がレオロジー調節剤であるマトリックスであって、不連続相の固体潤滑剤を含む。
【0204】
上述の組成物は、当業者周知のたとえばポンプまたはブラシの手段を用いて、連結部またはレール表面などに塗布することができる。その組成物は、組成物の膜がレールの上に均質に広がるように塗布する。その膜は、直径がおよそ1/8インチのビーズとなるのが好ましい。
【0205】
結合剤は、組成物中の水を吸収することによって機能する。時間が経過すると、組成物が脱水されて固体のビーズを残し、それによって、潤滑剤および摩擦調節剤が、前に使用されたグリースまたはポリマー潤滑剤組成物の上でレールへ付着するのを促進する。 その結合剤はさらに、レールの上を車輪が通過した後も潤滑剤および摩擦調節剤の分散状態を維持し、また水の再吸収を抑制する。したがって、その組成物は雨によって簡単に除去されるようなことはない。
【0206】
この摩擦調節組成物は、レールの曲線部における横圧、騒音、波状摩耗の開始を抑制し、エネルギー消費量を抑えることができるので、レールシステム中において使用するのには好適である。
【0207】
実施例13:液状摩擦調節組成物(VHPF)
この実施例においては、高い正の摩擦係数を示すことを特徴とする液状組成物について述べる。この組成物の成分を表19に記す。この組成物は、−28℃の凝固点を示す。
【0208】
【表20】
【0209】
この液状摩擦調節組成物は実施例22と同様にして調製し、霧化スプレーによってレールに塗布することができるが、塗布方法を霧化スプレーに限定することはないし、この組成物をレールにしか使用しないというわけでもない。
【0210】
この組成物は、滑りの相対速度(クリーページ)が0から約2.5%に上がるにつれて、0〜0.45の範囲の正の鋼鉄対鋼鉄摩擦特性を与え、クリーページが約30%まで上がると、その値も約0.72まで上がる。それらの摩擦係数のレベルは、従来の潤滑剤によって得られる鋼鉄対鋼鉄の摩擦係数よりも実質的に高く、米国特許第5,173,204号明細書および米国特許第5,308,516号明細書に開示されている潤滑剤組成物の摩擦係数よりも高い。
【0211】
実施例14:液状摩擦調節組成物(LCF)
この実施例においては、高い正の摩擦係数を示すことを特徴とする液状組成物について述べる。この組成物の成分を表20に記す。この組成物は、−28℃の凝固点を示す。
【0212】
【表21】
【0213】
この液状摩擦調節組成物は実施例22と同様にして調製し、霧化スプレーによってレールに塗布することができるが、塗布方法を霧化スプレーに限定することはないし、この組成物をレールにしか使用しないというわけでもない。
【0214】
実施例12に記載したのと同様な試験を実施したところ同様の結果が得られた。
【0215】
実施例15:レールの頭頂部へのHPF摩擦調節組成物塗布によるレールの摩耗の抑制
この実施例では、レールの頭頂部にHPF摩擦調節組成物を塗布することによってレールのゲージおよびヘッドの摩耗速度を抑制することが可能であることを示す。この実施例においては、ノース・バンクーバー(North Vancouver)とスクアミッシュ(Squamish)との間の35.5マイルのメイン軌道(マイル3.5から39まで)において、ハイレール(Hi−rail)塗布システムから霧化スプレーとして下記のHPF摩擦調節組成物を塗布した。
【0216】
【表22】
【0217】
噴霧塗布は、1週間に5日実施した。マイル3.5から14までの間のすべての曲線部において、両方のレールの頭頂部に、レール1本あたり1.5L/マイルの量で塗布した。マイル14からマイル39までは、曲線部のローレールのみに塗布し、その量はレール1本あたり0.5L/マイルの速度であった。
【0218】
その軌道部分の特性は下記の表に示す通りである。
【0219】
【表23】
【0220】
上記軌道部分における年間平均の輸送トン数は一定で13〜14MGTであった。貨物列車は268,000ポンド(軸荷重33.5トン)である。ほとんどのレールは、ヘッド部分を特別に硬化させたものである。油圧及び機械式のゲージフェースグリース潤滑器によって、軌道のゲージフェースは潤滑されていた。
【0221】
車上搭載型の光学的レールの摩耗測定システムを用いて、レールの摩耗速度と、1997年から現在までに蓄積されたデータに基づく年間軌道プログラム基準(annual track program requirements)を求めた(N.E.フーパー(N.E.Hooper)「レデューシング・レール・コスツ・スルー・イノベーティブ・メソッヅ(Reducing Rail Costs through Innovative Methods)」、レールウェイ・トラック・アンド・ストラクチャーズ(Railway Track and Structures)、1993年7月)。摩擦調節剤塗布の前および後においてノース・バンクーバー(North Vancouver)とスクアミッシュ(Squamish)との間で集めたレールの摩耗データを、インダストリアル・メトリックス・インコーポレーテッド(Industrial Metrics Inc.)からのレール・ウェア・アナリスト(Rail Wear Analyst)ソフトウェア(バージョン8.1.)を用いて解析した。このソフトウェアを使用すれば、大量のレーザーベースまたは光学ベースのレールの摩耗データを、詳しく加工、解析することが可能となる。このソフトウェアは、レールの摩耗速度を従来の値と比較する場合には、特に有用である。図8A〜Dの結果は、1トンあたりに正規化した%ヘッド損耗およびゲージ摩耗速度を曲率の関数として示しているが、A)は1997年6月から2001年6月までの期間(ベースライン)であり、B)は2001年6月から2002年6月までの期間(摩擦調節剤塗布)である。このデータから、TOR摩擦調節剤のスプレー塗布を導入することで、%ヘッド損耗とゲージ摩耗速度のいずれもが、60〜75%の範囲(曲率の大きさに依存する)で抑制されていることが判る。この期間においては、輸送トン数は比較的一定のレベルに留まっていた。図9A〜Bには、1997年から始まって継続的に年ごとに測定した、特定の1カ所の半マイルの区間における、ゲージ摩耗およびヘッド損耗を示している。2002年5月(摩擦調節剤塗布後1年)の測定値が黒で示されていて、その前年以降実質的に摩耗が増えていないことを示している。
【0222】
線路脇用グリース潤滑剤の塗布をせずに、同様の実験を実施したが、その結果%ヘッドおよびゲージ両方の摩耗速度においては同様の抑制が得られ、レールのゲージおよびヘッドの摩耗が同様に制御されていることを示していた。
【0223】
すべての参考文献は、参考として引用し本明細書に組み入れられているものとする。
【0224】
本発明について、好ましい実施態様を述べてきた。しかしながら、本明細書に記載された発明の範囲を逸脱することなく各種の変更や修正が可能であることは、当業熟練者には明らかであろう。明細書中の、「含んだ」(comprising)という用語は、非制限的な(open−ended)用語として使用されており、「含むが、限定はされない(including but not limited to)」というのと実質的に等価であり、また、「含む」(comprises)という用語もそれと同じような意味をもっている。参考文献を引用したからといっても、それらが、本発明に対する先行技術であると認めているわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0225】
【図1】3つのタイプの異なる摩擦調節配合について、摩擦係数と%クリープの関係を表したグラフである。図1Aは、中性の摩擦特性を有することを特徴とする摩擦調節剤における摩擦係数と%クリープの関係を示している(実施例1、LCF参照)。図1Bは、正の摩擦特性を有することを特徴とする摩擦調節剤における摩擦係数と%クリープの関係を示している(実施例1、HPF参照)。図1Cは、正の摩擦特性、さらに詳しくは非常に高い正の摩擦特性を有することを特徴とする摩擦調節剤における摩擦係数と%クリープの関係を示している(実施例1、VHPF参照)。
【図2】乾燥した車輪−レールシステムおよび本発明の液状の摩擦調節組成物を含む車輪−レールシステムについて、貨車の騒音である鳴きを表したグラフである。
【図3】本発明の液状の摩擦調節組成物の効力維持性を表したグラフである。図3Aは、アムスラー試験機を使用して測定した効力維持性を組成物中の効力維持剤(ロープレックス(Rhoplex)AC264)の重量パーセントの関数として表している。図3Bは、摩擦調節剤組成物を一切使用せずに6度の曲線部を繰返して列車を通過させたときの横圧のベースラインを示す。図3Cは6度の曲線部に実施例1(HPF)の摩擦調節組成物を塗布し、固化時間をおかずに繰返して列車を通過させた時の横圧の低下を示す。図3Dは、6度の曲線部に実施例1(HPF)の摩擦調節組成物を0.150L/マイルの割合で塗布した後で、繰返して列車を通過させた時の横圧の低下を示す。横圧の増加が観察されるのは車軸が約5,000回通過してから後であって、摩擦調節剤組成物を列車の運行の前に固化させておく。効力維持剤を使用しないと、約100から200回の車軸通過後には、横圧の上昇が観察される(データ省略)。図3Eは、摩擦調節組成物の塗布割合を上げると、横圧が減少する結果をまとめたものである。
【図4】本発明の液状の摩擦調節組成物の効力維持性を組成物中のレオロジー調節剤の重量パーセントの関数として表したグラフである。
【図5】抗酸化剤(たとえばオクトライト424−50(Octlite 424−50)(登録商標)、ただしこれに限定されるわけではない)および効力維持剤(たとえばダウ・ラテックス226(Dow Latex 226)(登録商標)、ただしこれに限定されるわけではない)を含む液状の摩擦調節組成物の効力維持性をサイクル数および組成物の消尽量の関数として表したグラフである。
【図6】抗酸化剤(たとえばオクトライト424−50(Octlite 424−50)(登録商標)、ただしこれに限定されるわけではない)は含むが効力維持剤を含まない液状の摩擦調節組成物の効力維持性を、サイクル数および組成物の消尽量の関数として表したグラフである。
【図7】効力維持剤の存在下または非存在下における各種の抗酸化剤を含む液状の摩擦調節組成物の効力維持性を表したグラフである。図7Aは、効力維持剤が存在しない場合の各種の抗酸化剤を含む液状の摩擦調節組成物の効力維持性をサイクル数および組成物の消尽量の関数として示したものである。図7Bは、アクリル樹脂系の効力維持剤(ロープレックスAC264(Rhoplex AC264)(登録商標))を存在させた場合の各種の抗酸化剤を含む液状の摩擦調節組成物の効力維持性をサイクル数および組成物の消尽量の関数として示したものである。
【図8】ブリティッシュ・コロンビア州ノース・バンクーバー(North Vancouver,BC)とブリティッシュ・コロンビア州スクアミッシュ(Squamish,BC)との間の軌道の一部におけるゲージとヘッドの摩耗速度(トンあたりに正規化)を曲率の関数として表したグラフである。図8Aは、1997年6月から2001年6月までの軌道のレールゲージ摩耗速度のベースラインを表す。図8Bは、2001年6月から2002年6月までの1年間における軌道のレールゲージ摩耗速度を表すが、ここで、その1年間は軌道のヘッド部分にはHPF摩擦調節組成物を噴霧した。図8Cは、1997年6月から2001年6月までの軌道のヘッド摩耗速度のベースラインを表す。図8Dは、2001年6月から2002年6月までの1年間における軌道のヘッド摩耗速度を表すが、ここで、その1年間は軌道のヘッド部分にはHPF摩擦調節組成物を噴霧した。
【図9A−B】1999年1月から2000年5月までの間、ブリティッシュ・コロンビア州ノース・バンクーバー(North Vancouver,BC)とブリティッシュ・コロンビア州スクアミッシュ(Squamish,BC)との間の1/2マイルの軌道部分におけるレールゲージ摩耗およびレールヘッド摩耗を表したグラフである。その軌道は、2002年5月の測定をするまで、約1年間にわたってHPF摩擦調節組成物を用いて処理した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、レールの摩耗、鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御するための方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、一つ若しくは二つ以上のレールの摩耗、一つ若しくは二つ以上の鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御するための方法に関し、ここでその一つまたは二つ以上のレールおよびその一つまたは二つ以上の鉄道車両の車輪は、滑り接触または滑り−転がり接触している。
【背景技術】
【0002】
滑り接触または転がり−滑り接触をしている金属機械部品の摩擦と摩耗を制御することは、多くの機械や機械式システムの設計および運転においては非常に重要である。たとえば多くの貨物列車、客車および大量輸送システムを含む鋼鉄レールおよび鋼鉄車輪輸送システムでは、大きな騒音を発生したり、機械部品たとえば車輪、レール、それに枕木などその他のレール部品などで著しい摩耗が生じるような問題がある。そのような騒音発生および機械部品の摩耗は、そのシステムの運転時に車輪とレールとの間で発生する摩擦力と挙動に直接起因していると考えてよい。
【0003】
車輪がレール上を転がる動的システムにおいては、常に移動している接触ゾーンが存在する。考察と解析の目的では、この接触ゾーンが固定されているとして、レールと車輪とがその接触ゾーンを移動していくと考える方が便利である。接触ゾーンを車輪がレールと全く同じ方向に移動しているならば、この車輪はレールの上で最適な状態の転がり接触をしている。しかしながら、車輪とレールとが変形されたり(profiled)、たびたびずらされたり、厳密な転がり以外の運動にさらされるので、接触ゾーンを通過していく車輪とレールとのそれぞれの速度が、必ずしも同じにはならないことがある。しばしばこれが観察されるのが、固定軸を持つ車両がカーブを通過する場合であり、両方のレール上で真の転がり接触が保たれるのは、内側および外側の車輪が異なった周速で回転した時だけである。ほとんどの固定軸を持つ車両では、このような事は起こりえない。したがって、そのような状態では、車輪がレールに対して、転がりと滑りとを組合せた動きをとる。滑り運動はまた、斜面で牽引力が維持できなくなり、駆動輪がスリップしたような場合にも起きる。
【0004】
滑り運動の大きさは、接触点におけるレールと車輪との速度の違いを百分率であらわしたものに、大まかに依存している。この百分率による差は、クリーページ(creepage)と呼ばれている。
【0005】
クリーページが約1%より大きくなると、滑りによる摩擦力が顕著にあらわれ、この摩擦力によって騒音と部品の摩耗が生じる(H.ハリソン(H.Harrison)、T.マッケニー(T.McCanney)およびJ.コッター(J.Cotter)(2000)、「リーセント・ディベロップメンツ・イン・COF・メジャーメンツ・アト・ザ・レール/ホイール・インターフェース(Recent Developments in COF Measurements at the Rail/Wheel Interface)」、プロシーディングス・ザ・5th・インターナショナル・カンファレンス・オン・コンタクト・メカニックス・アンド・ウェア・オブ・レール/ホイール・システムズ・CM2000(Proceedings The 5th International Conference on Contact Mechanics and Wear of Rail/Wheel Systems CM2000)(セイケンシンポジウム(SEIKEN Symposium) No.27)、p.30〜34、ここに引用することにより本明細書に組み入れられているものとする)。騒音が発生するのは、車輪とレールシステムとの間に存在する負の摩擦特性の結果である。負の摩擦特性というのは、クリープ曲線が飽和している領域において、システムのクリーページが大きくなるにつれて、車輪とレールとの間の摩擦が一般に減少していく性質を言う。理論的には、車輪−レールシステムにおける騒音と摩耗レベルとを減少させるかあるいは無くするためには、その機械式システムを非常に剛直にするか、運動している部品の間の摩擦力を非常に低いレベルとするか、あるいは、摩擦特性を負から正に変える、すなわち、クリープ曲線が飽和している領域で、車輪とレールとの間の摩擦を増加させてやればよい。残念ながら、ほとんどの列車に使用されているような車輪及びレールシステムの場合のように、機械式システムの剛直性をさらに上げることは不可能なことが多い。それに代わる方法として、車輪とレールとの間の摩擦力を減少させるとなると、粘着力と制動力の大きな妨げとなり、必ずしも鉄道用途には適したものではない。騒音レベルと部品の摩耗とを減少させるためには、車輪とレールとの間に正の摩擦特性を持たせることが、多くの場合、有効である。
【0006】
また、軌道の上で列車を移動させるためにはクリアランスの存在が必須であるが、その存在のために絶えず前後運動が生じ、その結果列車の車輪とレールとの摩耗が加速されることも知られている。これらの影響によって、波紋状のパターンがレール表面上に生じることがあり、これは波状摩耗と呼ばれている。波状摩耗があると、滑らかなレール・車輪の界面の場合を超えて、騒音レベルが高くなり、この問題は最終的には、レールおよび車輪の表面を研磨したり機械加工したりして解決するしかない。そのためには、時間も費用もかかる。
【0007】
数多くの潤滑剤が当業界には公知であり、それらの中には、鉄道や高速輸送システムにおいてレールおよび車輪の摩耗を抑制することを目的として設計されたものもある。たとえば米国特許第4,915,856号明細書には、固形の耐摩耗性、耐摩擦性潤滑剤が開示されている。この製品は、固体ポリマー担体中に抗摩耗剤および抗摩擦剤を組合せて分散させたもので、レールの頭頂部に塗布するためのものである。車輪に対して担体が摩擦されることによって、抗摩耗剤および抗摩擦剤が活性化される。しかしながら、この製品は正の摩擦特性を示さない。また、この製品の固形組成物は効力維持性の面で劣る。
【0008】
米国特許第5,308,516号明細書、米国特許第5,173,204号明細書および国際公開第90/15123号パンフレットは、高い正の摩擦特性を有する固形摩擦調節組成物に関するものである。これらの組成物では、クリーページの関数として摩擦が増加することを表し、樹脂を含んでいて、それによりこれらの配合を固相状態に保っている。ここで用いられた樹脂は、アミンおよびポリアミドエポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレンまたはポリプロピレン樹脂などを含む。しかしながらこれらは、最適の効果を得ようとすると、クローズドループシステムとして、連続して塗布をしてやることが必要である。
【0009】
欧州特許出願公開第0 372 559号明細書は、潤滑のための固形コーティング組成物に関するもので、その組成物は、塗布した場所で最適な摩擦係数を付与すると同時に、摩耗損失を低下させることが可能である。しかしながらこの組成物は、正の摩擦特性を有していない。さらに、これらの組成物が、それらが塗布された表面における耐久性あるいは効力維持性が最適化されているかについては何の示唆もない。
【0010】
固形状スティック組成物を含め、従来技術の組成物を使用するのに伴う、いくつもの欠点が存在する。第一に、騒音が路線の中の2,3の特定の場所だけで問題になっているような場合に、摩擦調節用のスティック組成物を鉄道車両に装備させ、全域のレールに塗布させるのは、無駄が多い。第二に、軌道によっては保全サイクルが長くて、120日にもなるものがある。現在のスティック技術では、固形の潤滑剤や摩擦調節剤でこのような長い期間にわたって効力が続くものはない。第三に、北米の貨物輸送の実態では、大陸のいたる所で、貨車が切り離されるので、全部とは言わないまでも多くの貨車に摩擦調節剤スティックを取り付ける必要があり、これは費用もかかるし、実際的ではない。同様に、固形のスティックを使用してレールの頭頂部の摩擦を管理するためには、クローズドシステムにして、摩擦調節剤製品をレール上に充分に蓄積させねばならない。クローズドシステムとは、実質的には専用の車両のみを走らせ、外部の列車の進入又は退去を認めないシステムである。都市輸送システムが典型的にはクローズドシステムであるのに対し、貨物輸送システムは典型的には広く車両が相互に乗り入れているオープンシステムである。そのようなシステムにおいては、固形状スティック技術はあまり実用的ではない。
【0011】
従来技術における潤滑剤組成物の多くは、固形のスティック状であるかまたは粘稠な液体(ペースト状)のいずれかの配合となっているので、霧化スプレーとして滑りシステムおよび転がり−滑りシステムに塗布することはできない。液状の摩擦調節組成物を霧化スプレーにより塗布すれば、多くの場合、レールシステムに塗布する組成物の量を減らすことができ、また、所望の位置に摩擦調節組成物を、より均等に分散させることができる。さらに、霧化スプレーはすぐに乾くので、好ましくない機関車の車輪のスリップの可能性を、最小限に抑えることができる。
【0012】
固形状のスティックを使用して車輪に塗布する塗布システムに比較して、レールの頭頂部または鉄道車両の車輪に液体系の組成物を塗布することの方が明らかに有利である。液状システムを使用することにより、ハイレール(hirail)、線路脇(wayside)あるいは車上(onboard)システムなど、場所に応じた塗布方法が可能となる。固形の塗布システムでは、車輪に連続的に薬剤を塗布していくので、このように場所に応じた塗布をするようなことはできない。さらに、固形状のスティック塗布法では移行率が低いので、線路の条件が完全に整わない限り、効果が得られないであろう。これは、クラス1鉄道路線(Class 1 rail line)ではあり得ない状況である。その理由は、カバーすべき軌道が膨大で、また、固形状スティック潤滑剤を備えていない車両があるからである。液状システムでは、薬剤はレールの頭頂部に塗布され、列車の車軸すべてが接触しうるので、薬剤の効果が即座に得られ、そのような問題を避けることができる。しかしながら、常にそのようになるとも限らないのであって、その理由は、塗布された膜が、レールに付着したまま残って、摩擦制御作用を発揮する能力に限度があるからである。ある種の状況においは、液状薬剤がたった1編成の列車が通過するだけで失われてしまうこともある。
【0013】
国際公開第98/13445号パンフレット(引用することにより、本明細書に組み入れたものとする)には、転がり−滑り接触をしている2種の鋼鉄体の間で正の摩擦特性を有する一連の摩擦組成物を示す数種の水性組成物が記載されている。摩擦調節に関しての好ましい性質をいくつか示しはするものの、これらの組成物では効力維持性が低く、長期間にわたってレール上に留まることができず、好適な効果を得るには繰り返し塗布する必要がある。また、それらの組成物は水系であるために、使用可能な温度範囲の下限に限度がある。それらの組成物も、特定の用途では有用ではあるとはいうものの、最適の効果を得るには繰り返し塗布する必要があり、それにともない費用がかさむ。その上に、それらの液状組成物のいくつかの特性が原因で、それらの組成物は霧化スプレーで塗布するには適していないことが判明した。国際公開第02/26919号パンフレット(引用することにより、本明細書に組み入れたものとする)にも、水系の摩擦制御剤が開示されていて、それには、鋼鉄表面上におけるその組成物の有利な性能を引き延ばすための効力維持剤が含まれる。
【0014】
米国特許第6,387,854号明細書および米国特許第5,492,642号明細書には、約2,500のMWを有するポリオキシアルキレングリコール潤滑剤、約12,000のMWを有するポリオキシアルキレングリコール増粘剤および溶媒(たとえばプロピレングリコール)を含む水系の潤滑性組成物が開示されている。しかしながら、米国特許第6,387,854号明細書および米国特許第5,492,642号明細書に開示されている組成物は、正の摩擦特性を有していない。それらの物質は、摩擦調節剤、たとえば本明細書に記載するHPF組成物とは区別される純然たる潤滑剤である。レールの頭頂部に塗布しようとすると、これらのタイプの潤滑剤では、車輪のスリップまたはブレーキの問題を避けるためには、精巧で複雑で高価な制御システムを必要とする。本明細書に記載されているような真の摩擦調節剤ならばその種の塗布制御を必要としない。
【0015】
重量牽引(heavy haul)の際の、曲線部における高い横圧による悪影響に対する関心が高まっている。定量的な関係を得るのは困難ではあるが、高い横圧は、軌道構造の劣化、レールの摩耗およびレールの転覆脱線を加速する大きな因子であると考えられる。横圧は、車輪−レールの界面における摩擦係数(COF)、列車運転状況、軌道の形態、貨車軌道舵取り性能および車輪/レールの変形(profiling)などに依存する(D.クレッガー(D.Creggar)、セブンス・アニュアル・アドバンスト・レール・マネージメント・レール/ホイール・インターフェース・セミナー(Seventh Annual Advanced Rail Management Rail/Wheel Interface Seminar)、シカゴ(Chicago)、2000年5月)。鉄道がコスト削減、効率向上していくにつれて、レール頭頂部の摩擦の制御は、横圧を制御するための実行可能なオプションとして注目をあびるようになり、軌道の応力状態とそれに伴う軌道の構造劣化を抑える、代わりのアプローチ方法を表すものとなってきた。列車による横圧によりよく対応するために、軌道部品のグレードアップと強化に頻繁に投資する代わりとして、この技術は、車輪−レールの界面の摩擦管理を改良することによってそれら力を軽減させることが可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、滑り接触または滑り−転がり接触している表面を有する二つの鋼鉄要素、特に、滑り接触または滑り−転がり接触している車両の車輪とレールとの一方または両方の摩耗を減少させるための方法を提供する。その方法は、二つの鋼鉄表面の一方または両方の一つまたは二つ以上の表面に対して高い正の(HPF)摩擦調節組成物を塗布することを含む。
【0017】
本発明の1つの目的は、従来技術の欠陥を克服することである。上記の目的は、主クレームの特徴を組み合わせることにより達成される。従クレームには、本発明のさらに有利な実施態様が開示されている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、レールの摩耗、鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御するための方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、一つ若しくは二つ以上のレールの摩耗、一つ若しくは二つ以上の鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御するための方法に関し、ここでその一つまたは二つ以上のレールおよびその一つまたは二つ以上の鉄道車両の車輪は、滑り接触または滑り−転がり接触している。
【0019】
本発明は、レールの摩耗、鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御するための方法を提供し、それには、一つ若しくは二つ以上のレールまたは一つ若しくは二つ以上の鉄道車両の車輪の一つまたは二つ以上の接触表面に高い正の摩擦(HPF)組成物を塗布することを含むが、ここでその一つまたは二つ以上のレールおよびその一つまたは二つ以上の鉄道車両の車輪は、滑り接触または滑り−転がり接触している。
【0020】
本発明はさらに、上述の方法に関し、そこでは、そのHPF組成物が、レオロジー調節剤、潤滑剤、摩擦調節剤ならびに効力維持剤、抗酸化剤、粘稠性調節剤および凝固点降下剤の一つまたは二つ以上を含む。
【0021】
本発明はさらに先に定義した方法に関し、そこではHPF組成物は以下のものを含む:
(a)約30〜約95パーセントの水;
(b)約0.5〜約50パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.02〜約40重量パーセントの潤滑剤および
(d)約0.5〜約30重量パーセントの摩擦調節剤ならびに
以下のものの一つまたは二つ以上:
(i)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤;
(ii)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤;
(iii)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤および
(iv)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤。
【0022】
本発明さらに、上述の方法を提供し、そこではHPF組成物は以下のものを含む:
(a)約40〜約95パーセントの水;
(b)約0.5〜約50パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.5〜約40パーセントの効力維持剤;
(d)約0.5〜約40重量パーセントの潤滑剤および
(e)約0.5〜約25重量パーセントの摩擦調節剤。
【0023】
本発明はさらに、上述の方法に関し、そこではHPF組成物は以下のものを含む:
(a)約40〜約95重量パーセントの水;
(b)約0.5〜約50重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤;
(d)約0.5〜約40重量パーセントの潤滑剤;
(e)約0.5〜約25重量パーセントの摩擦調節剤および
(f)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤。
【0024】
本発明はなおさらに先に定義した方法に関し、そこではHPF組成物は以下のものを含む:
(a)約50〜約80重量パーセントの水;
(b)約1〜約10重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約1〜約5重量パーセントの摩擦調節剤;
(d)約1〜約16重量パーセントの効力維持剤および
(e)約1〜約13重量パーセントの潤滑剤。
【0025】
本発明はさらに、上述の方法を提供し、そこではHPF組成物は以下のものを含む:
(a)約50〜約80重量パーセントの水;
(b)約1〜約10重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約1〜約5重量パーセントの摩擦調節剤;
(d)約1〜約16重量パーセントの効力維持剤;
(e)約1〜約13重量パーセントの潤滑剤および
(f)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤。
【0026】
本発明はさらに、上述の方法に関し、そこではHPF組成物は以下のものを含む:
(a)約30〜約55重量パーセントの水;
(b)約0.5〜約20重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤;
(d)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤;
(e)約0.5〜約20重量パーセントの効力維持剤;
(f)約0.02〜約30重量パーセントの潤滑剤および
(g)約0.5〜約30重量パーセントの摩擦調節剤。
【0027】
本発明はさらに、先に定義した方法に向けられており、そこでは、その一つまたは二つ以上のレールが、ローレール(low rail)およびハイレール(high rail)を含み、それぞれが、ヘッドとゲージフェース/ゲージコーナーを有しており、ここでそのHPF組成物をローレールのヘッドまたはローレールとハイレールとの両方のヘッドに塗布し、そしてここで、ハイレールおよびローレールの両方の摩耗を制御する。
【0028】
本発明はさらに、上述の方法に関し、ここでその方法は、線路脇(trackside)用グリース潤滑剤を塗布することなく、実施される。
【0029】
本発明はさらに、先に定義した方法に向けられており、そこでは、その一つまたは二つ以上のレールが、ローレールおよびハイレールを含み、それぞれが、ヘッドとゲージフェース/ゲージコーナーを有しており、ここでそのHPF組成物をローレールのヘッドまたはローレールとハイレールとの両方のヘッドに塗布し、そしてそのHPF組成物をローレール、ハイレールまたはローレールとハイレールとの両方のゲージフェース/ゲージコーナーにも塗布し、そしてここで、ハイレールおよびローレールの両方の摩耗を制御する。
【0030】
本発明はさらに、先に定義した方法に向けられており、そこでは、その一つまたは二つ以上のレールが、ローレールおよびハイレールを含み、それぞれが、ヘッドとゲージフェース/ゲージコーナーとを有しており、ここでそのHPF組成物をローレールのヘッドまたはローレールとハイレールとの両方のヘッドに塗布し、そして、中性摩擦特性(LCF)組成物をハイレールのゲージフェース/ゲージコーナーまたはローレールとハイレールとの両方のゲージフェース/ゲージコーナーに塗布し、そしてここで、ハイレールおよびローレールの両方の摩耗を制御する。
【0031】
本発明はさらに、先に定義した方法に関し、そこでは、そのLCF組成物が、レオロジー調節剤、潤滑剤ならびに効力維持剤、抗酸化剤、粘稠性調節剤および凝固点降下剤の一つまたは二つ以上を含む。
【0032】
本発明はさらに、先に定義した方法に関し、そこではLCF組成物は以下のものを含む:
(a)約30〜約95パーセントの水;
(b)約0.5〜約50パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.02〜約40重量パーセントの潤滑剤および
以下のものの一つまたは二つ以上:
(i)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤;
(ii)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤;
(iii)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤および
(iv)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤。
【0033】
また別な例においては、そのLCF組成物は以下のものを含む:
(a)約40〜約80重量パーセントの水;
(b)約0.5〜約50重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤;および
(d)約1〜約40重量パーセントの潤滑剤。
【0034】
さらなる例においては、そのLCF組成物は以下のものを含む:
(a)約40〜約80重量パーセントの水;
(b)約0.5〜約50重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約1〜約40重量パーセントの潤滑剤;
(d)約0.5〜約90重量パーセントの効力維持剤;および
(e)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤。
【0035】
さらなる例においては、そのLCF組成物は以下のものを含む:
(a)約30〜約55重量パーセントの水;
(b)約0.5〜約20重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤;
(d)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤;
(e)約0.5〜約20重量パーセントの効力維持剤;および
(f)約1〜約30重量パーセントの潤滑剤。
【0036】
本発明はさらに、滑り−転がり接触している表面を有する二つの鋼鉄要素の一方または両方の摩耗を減少させるための方法を提供し、それには、その二つの鋼鉄要素の一方または両方の一つまたは二つ以上の表面に高い正の摩擦(HPF)組成物を塗布することが含まれる。
【0037】
本発明の方法において使用される組成物は、各種の塗布技術に充分に適合した性質を示し、それによって、塗布することが必要な組成物の量を最小限とすることができる。それらの塗布技術を使用することによって、組成物を正確な量で投与することが可能となる。たとえば液状の組成物は表面上に噴霧するのに適していて、それによって、表面に均一なコーティングを与え、塗布する組成物の量を最適化することができる。さらに、塗布技術を組み合わせたり、アプリケーターの位置を組み合わせたりすることによって、組成物の組合せを滑り−転がり接触している異なった表面に塗布して、摩耗を最適化し、騒音や他の性質、たとえば横圧及び牽引力を抑制する。
【0038】
本発明の方法は、線路脇用グリース潤滑剤の塗布を必要としないので、経済的に有利であり、かつ、線路脇用グリースを環境中に噴霧することによる汚染を減少させることができる。
【0039】
本発明の開示では、本発明について必要な特徴を必ずしもすべて記述している訳ではないが、本発明は、記載された特徴の部分的な組合せの中にも存在している。
【0040】
上記およびその他の本発明の特徴は、添付した図面について言及される以下の記述から、さらに明瞭になるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明は、レールの摩耗、鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御するための方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、一つ若しくは二つ以上のレールの摩耗、一つ若しくは二つ以上の鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御するための方法に関し、ここでその一つまたは二つ以上のレールおよびその一つまたは二つ以上の鉄道車両の車輪は、滑り接触または滑り−転がり接触している。
【0042】
以下の記述は、例示だけを目的として好ましい実施態様を示すものであり、本発明を実施するために必要な特徴の組合せに何ら制限を加えるものではない。
【0043】
本発明の高い正の(HPF)摩擦調節組成物は、一般に、レオロジー調節剤、潤滑剤、摩擦調節剤ならびに効力維持剤、抗酸化剤、粘稠性調節剤および凝固点降下剤の一つまたは二つ以上を含む。本発明の組成物に含ませることができるその他の任意成分としては、濡れ剤および保存剤が挙げられる。液状配合物を所望する場合には、本発明の摩擦調節組成物はさらに、水またはその他の組成物と相溶性のある溶媒を含んでいてもよい。水またはその他の相溶性溶媒を含む場合には、本発明の組成物は液状配合物として使用しても効果はあるが、組成物をペースト状または固形物の形状に配合することも可能で、そのような組成物も、本明細書に記載された摩擦組成物の多くの特徴を示す。本明細書に記載される組成物にはまた、必要に応じて、濡れ剤、分散剤、抗菌剤などを加えることができる。
【0044】
「抗酸化剤」という用語が意味するのは、化学物質、化合物またはその組合せであって、効力維持剤の有無に関わらず、表面に保持される摩擦調節組成物の量を増やし、それによって運転の有効寿命を長くしたり、摩擦調節組成物の耐久性を向上させたりするものである。抗酸化剤の例を挙げれば(但しこれらに限定されるわけではない):アミン型抗酸化剤、たとえば(限定されるわけではない)ウィングステイ(Wingstay,登録商標)29;スチレン化フェノール型抗酸化剤、たとえば(限定されるわけではない)ウィングステイ(Wingstay,登録商標)S;ヒンダード型抗酸化剤、たとえば(限定されるわけではない)ウィングステイ(Wingstay,登録商標)L;チオエステル型抗酸化剤(第二級抗酸化剤としても知られている)、たとえば(限定されるわけではない)ウィングステイ(Wingstay,登録商標)SN−1;またはそれらの組合せであって、たとえば(限定されるわけではない)、ヒンダードフェノールおよびチオエステルを含む相乗効果ブレンド物、たとえば(限定されるわけではない)オクトライト(Octolite,登録商標)424−50などがある。
【0045】
好適な抗酸化剤は、グッドイヤー・ケミカルズ(Goodyear Chemicals)からのウィングステイ(Wingstay,登録商標)S、ウィングステイ(Wingstay,登録商標)L、ウィングステイ(Wingstay,登録商標)SN−1およびチアルコ・ケミカル(Tiarco Chemical)からのオクトライト(Octolite,登録商標)424−50である。
【0046】
「正の摩擦特性」という用語が意味するのは、滑り接触または転がり−滑り接触している二つの表面の間の摩擦係数が、その二つの表面の間のクリーページが増加するにつれて増加する性質である。「クリーページ」という用語は、当業界で使用される一般的な用語であって、その意味は当業者のよく知るところである。たとえば鉄道産業においては、車輪とレールとの接触点において、接触ゾーンは固定してレールと車輪とが移動するものと仮定した時に、レールの滑り移動速度の大きさの、車輪の接線速度の大きさに対する差を百分率であらわしたものがクリーページである。
【0047】
ある摩擦調節組成物が正の摩擦特性を示すかどうかを調べるには、当業界では各種の方法を使用することができる。実験室的には、たとえば(限定的にとらえてはならない)ディスク・レオメータまたはアムスラー(Amsler)試験機を使用して正の摩擦特性を調べることができる(H.ハリソン(H.Harrison)、T.マッケニー(T.McCanney)およびJ.コッター(J.Cotter)(2000)、「リーセント・ディベロップメントツ・イン・COF・メジャーメンツ・アト・ザ・レール/ホイール・インターフェース(Recent Developments in COF Measurements at the Rail/Wheel Interface)」、プロシーディングス・ザ・5th・インターナショナル・カンファレンス・オン・コンタクト・メカニックス・アンド・ウェア・オブ・レール/ホイール・システムズ・CM2000(Proceedings The 5th International Conference on Contact Mechanics and Wear of Rail/Wheel Systems CM2000)(セイケンシンポジウム(SEIKEN Symposium) No.27)、p.30〜34、参考として引用し本明細書に組み入れる)。アムスラー試験機には2枚の平行なディスクがあり、この2枚のディスクに加える荷重を変えながらそれぞれを回転させる。この試験機は、滑り−転がり接触をしている二つの鋼鉄表面をシミュレートするよう設計されている。それらのディスクに変速装置が付けられていて、一方のディスクの回転軸が他方よりも約10%早く回転するようになっている。ディスクの径を変えることによって、クリープレベルを変化させることが可能である。ディスクの間の摩擦により発生するトルクを測定し、そのトルク測定値から摩擦係数を算出する。摩擦調節剤組成物の摩擦特性を測定する際には、摩擦特性の測定を実施する前に、その摩擦調節組成物を完全に乾燥させておくのが好ましい。しかしながら、濡れ状態または半乾燥状態の摩擦調節組成物を使用して測定することによって、その摩擦調節組成物についてのさらなる情報が得られることもある。同様にして、クリープ特性を測定するには、特別設計の台車と車輪を有する列車を使用するが、それによって、レールと車輪との間の接触面に作用する力を測定し、横方向と縦方向のクリープ速度を同時に求めることができる。
【0048】
当業者には自明のことであるが、別の2種類のローラーシステムを使用して組成物の摩擦調節特性を測定することもできる(たとえばA.マツモ(A.Matsumo)、Y.サトウ(Y.Sato)、H.オノ(H.Ono)、Y.ワン(Y.Wang)、M.ヤマモト(M.Yamamoto)、M.タニモト(M.Tanimoto)およびY.オカ(Y.Oka)(2000)、「クリープ・フォース・キャラクタリスティクス・ビトウィーン・レール・アンド・ホイール・オン・スケールド・モデル(Creep force characteristics between rail and wheel on scaled model)、プロシーディングス・ザ・5th・インターナショナル・カンファレンス・オン・コンタクト・メカニックス・アンド・ウェア・オブ・レール/ホイール・システムズ・CM2000(Proceedings The 5th International Conference on Contact Mechanics and Wear of Rail/Wheel Systems CM2000)(セイケンシンポジウム(SEIKEN Symposium) No.27)、p.197〜202、参考として引用し本明細書に組み入れる」。実走行での、組成物の滑り摩擦特性を測定するには、たとえば(限定されるわけではない)、プッシュ・トライボメータ(push tribometer)またはトライボレーラー(TriboRailer)を使用することができる(H.ハリソン(H.Harrison)、T.マッケニー(T.McCanney)およびJ.コッター(J.Cotter)(2000)、「リーセント・ディベロップメントツ・イン・COF・メジャーメンツ・アト・ザ・レール/ホイール・インターフェース(Recent Developments in COF Measurements at the Rail/Wheel Interface)」、プロシーディングス・ザ・5th・インターナショナル・カンファレンス・オン・コンタクト・メカニックス・アンド・ウェア・オブ・レール/ホイール・システムズ・CM2000(Proceedings The 5th International Conference on Contact Mechanics and Wear of Rail/Wheel Systems CM2000)(セイケンシンポジウム(SEIKEN Symposium) No.27)、p.30〜34、参考として引用し本明細書に組み入れる)。
【0049】
図1Aに、中性の摩擦特性(LCF)を有することを特徴とする組成物についてのアムスラー試験機で測定した%クリープ曲線に対する典型的な摩擦係数をグラフであらわしているが、クリーページが大きくなっても摩擦係数は低い。ここで判るように、LCFの特徴は、プッシュ・トライボメータで測定したときに、摩擦係数が約0.2未満であることである。実走行の条件下では、LCFは約0.15以下の摩擦係数を示しているのが好ましい。正の摩擦特性とは、システムのクリーページが大きくなるにつれて、車輪とレールとのシステムの間の摩擦が大きくなっていく特性である。図1Bおよび図1Cにはそれぞれ、高い正の摩擦(HPF)特性を有することを特徴とする組成物および非常に高い正の摩擦(VHPF)特性を有することを特徴とする組成物についての%クリープ曲線に対する典型的な摩擦係数をグラフであらわしている。ここで判るように、HPFの特徴は、プッシュ・トライボメータで測定したときに摩擦係数が約0.28から約0.4であることである。実走行の条件下では、HPFは約0.35の摩擦係数を示しているのが好ましい。VHPFの特徴は、プッシュ・トライボメータで測定したときに、摩擦係数が約0.45から約0.55であることである。実走行の条件下では、VHPFは0.5の摩擦係数を示しているのが好ましい。
【0050】
軌道の曲線部で発生する車輪の鳴き(squeal)には、車輪のフランジとレールのゲージフェースとの間の接触、レールヘッドにおける車輪の横クリープによるスティックスリップを含むいくつかの原因が考えられる。理論に束縛されることなく言えば、レールヘッドにおける車輪の横クリープが車輪の鳴きの最大の原因であろうと考えられるのに対し、車輪のフランジとレールのゲージとの間の接触は、重要ではあるものの二次的な役割を果たしている。本明細書に記載するような検討から、車輪の鳴きを効果的に抑制するためには、レールと車輪との界面が異なれば、異なった摩擦調節組成物を塗布するのがよいことがわかる。たとえばレールヘッドをこする車輪の踏み面(wheel tread)の横方向のスリップスティックを減らすためには、レールのヘッドと車輪との界面上に正の摩擦特性を有する組成物を塗布するのがよく、また、列車車両の案内車軸(lead axle)でのフランジ効果を減少させるためには、レールのゲージフェースと車輪のフランジとに低摩擦調節組成物を塗布するのがよい。
【0051】
「接触表面」という用語が意味するのは、第二の要素の表面と接触している第一の要素の表面である。たとえばその第一の要素がレールであり、その第二の表面が鉄道車両の車輪であるとすると、そのレールの上の接触表面は、そのレールのヘッドであるとすることができ、それが鉄道車両の車輪の踏み面の表面と接触することができるし、あるいは、レールのゲージフェース/ゲージコーナーが、鉄道車両の車輪のフランジの内側表面と接触することができる。
【0052】
「ハイレール」および「ローレール」という用語が意味するのはそれぞれ、傾斜をつけた曲線部にある軌道の部分での外側のレールおよび内側のレールである。
【0053】
「ゲージフェース/ゲージコーナー」という用語が意味するのは、レールの内側垂直断面(ゲージフェース)およびゲージフェースとレールのヘッドとの間の表面(ゲージコーナー)であって、それらはフランジの内側表面および鉄道車両の車輪の凹形の上側フランジ(すなわち、内側の踏み面)表面と接触することができる。
【0054】
「レールのヘッド」という用語が意味するのは、レールの頭頂部または水平の部分であって、鉄道車両の車輪の踏み面と接触できる部分である。
【0055】
「レオロジー調節剤」という用語が意味するのは、液体たとえば(限定されるわけではない)水を吸収し、物理的に膨潤することが可能な化合物である。レオロジー調節剤は増粘剤としても作用し、組成物中の成分を分散させた形態で保持するのに有効である。この添加剤は液相中に活性成分を均一な状態で懸濁させ、その組成物の流動性および粘度を調節する役目を果たす。またこの添加剤は、摩擦調節組成物の乾燥特性を調節する機能を果たしていてもよい。さらに、レオロジー調節剤は連続相マトリックスを形成して、不連続相マトリックス中にある固体状潤滑剤を維持することを可能とする。レオロジー調節剤は、(これらに限定されるわけではない)クレーたとえばベントナイト(モンモリロナイト)およびヘクトライト、たとえば(限定されるわけではない)ヘクタブライト(Hectabrite,登録商標);レオレート(Rheolate,登録商標)244(ウレタン);カセイン;カルボキシメチルセルロース(CMC、たとえばセルフロー(Celflow,登録商標));カルボキシ−ヒドロキシメチルセルロース;メチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシエチル基およびそれらの混合からなる群より選択される置換基を用いてそれぞれ置換したアンヒドログルコース単位を含む置換セルロース化合物;エトキシメチルセルロース、キトサン、デンプンおよびそれらの混合物などがある。アンヒドログルコース単位を含む置換セルロース化合物の例を非限定的に挙げれば、メトセル(METHOCEL)(登録商標)(ダウ・ケミカル・カンパニー(Dow Chemical Company))、メトロース(Metolose)(登録商標)(信越(ShinEtsu))、メセロース(Mecellose)(登録商標)HPMC(サムスン(Samsung))およびHBR(ヒドロキシエチルセルロース)などを含む。
【0056】
具体的な実施態様において、レオロジー調節剤は、メチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシエチル基およびそれらの混合からなる群より選択される置換基を用いてそれぞれ置換されたアンヒドログルコース単位を含む置換セルロース化合物である。また別な実施態様においては、その置換セルロース化合物のそれぞれのアンヒドログルコース単位は、平均して約1.3〜約1.9個の置換基で置換されている。
【0057】
「粘稠性調節剤」という用語が意味するのは、本発明の摩擦調節組成物を所望の粘稠性で配合することを可能とする各種の物質である。粘稠性調節剤の例を挙げれば(これらに限定されるわけではない)、グリセリン、アルコール、グリコールたとえばプロピレングリコールまたはそれらの組合せなどがある。それに加えて、粘稠性調節剤は摩擦調節組成物の他の性質を変えることも可能であって、たとえば組成物の低温における性質を変えて、ある程度は凝固点降下剤として機能し、それによって、本発明の摩擦調節組成物を各種の温度条件下で使用できるように配合することを可能とする。
【0058】
「凝固点降下剤」という用語が意味するのは、本発明の組成物に添加したときに、その結果として、その凝固点降下剤を含まない場合の同一の組成物の凝固点に比較して、その組成物の凝固点を低下させるような物質であって、例を挙げれば、凝固点降下剤を含まない同一の組成物に比較して、その組成物の凝固点を少なくとも1℃または少なくとも10℃、あるいは少なくとも15℃低下させるようなものである。凝固点降下剤は、粘稠性調節剤にさらに加えて、本発明の組成物に添加することができる。凝固点降下剤を含む、本発明のHPF組成物を塗布することで得られる膜の摩擦係数は、約0.3〜約0.4となるべきである。
【0059】
凝固点降下剤の例を非限定的に挙げれば、グリコールたとえばプロピレングリコールまたはグリコールエーテル、より詳しくは、プロピレングリコールエーテルまたはエチレングリコールエーテル、たとえば(限定されるわけではない)ダウアノール(Dowanol,登録商標)EB(エチレングリコールブチルエーテル)などがある。凝固点降下剤は、ジプロピレングリコールメチルエステル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコール三級ブチルエーテル、プロピレングリコールノルマルプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートおよびエチレングリコールブチルエーテルからなる群より選択することができる。しかしながら、この群は非限定的なものであると理解すべきである。
【0060】
凝固点降下剤が塩であってもよく、たとえばベタインHCl、塩化セシウム、塩化カリウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、クロム酸カリウム、塩化ナトリウム、ギ酸ナトリウムまたはトリポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0061】
さらに、凝固点降下剤が、金属酢酸塩、たとえば酢酸カリウムまたは酢酸ナトリウムを含む組成物であってもよい。そのような組成物の例としては、(限定されるわけではない)酢酸カリウムを含むクライオテック(Cryotech,登録商標)E36や、酢酸ナトリウムを含むクライオテック(Cryotech,登録商標)NAACなどが挙げられる。
【0062】
さらに凝固点降下剤が、酸、たとえばクエン酸、乳酸またはコハク酸、ヘテロサイクリックアミンたとえばニコチン酸アミド、アリールアルコールたとえばフェノール、アミノ酸、アミノ酸誘導体たとえばトリメチルグリシンまたは炭水化物たとえばD−(+)−キシロースなどであってもよい。
【0063】
本発明のHPFまたはVHPF組成物を用いて処理したレールの上で列車が明らかに滑りを起こすようなことを防止するためには、場合によっては液状の粘稠性調節剤および液状の凝固点降下剤の両方を含むそれらの組成物の溶媒成分が、(i)組成物をレールに塗布した直後に蒸発してしまうか、または(ii)その処理をしたレールに列車の車輪が接触することによって発生する圧力および熱のもとで、容易に蒸発、脱水または分解するかまたはその(i)と(ii)の両方であることが好ましい。潤滑剤成分たとえばHPFおよびLCF組成物を含む本発明のいくつかの組成物においては、その組成物に潤滑性を付与する凝固点降下剤成分の存在が受容可能であり、その凝固点降下剤成分は、蒸発、脱水または分解によってその組成物から容易に除去される必要はない。凝固点降下剤が、たとえば93℃以上の高い引火点を有することを特徴とするのが望ましい。しかしながら、低い引火点を有する凝固点降下剤もまた、本明細書の記載にしたがって使用できる。
【0064】
実施例10において、いくつかの液状凝固点降下剤候補物(それらに限定される訳ではない)について、アムスラー試験機を用いて評価して、それらが、移動している機関車の車輪とレールとの界面に存在することをシミュレートした条件下で、1対の金属ディスクの表面で、それらそれぞれが蒸発、脱水または分解するのに必要な時間を測定している。その実施例においては、それらのディスクの金属表面からの消失する時間が比較的に短かいことを示した液状凝固点降下剤は、正の摩擦特性を示す摩擦調節組成物、たとえばHPFおよびVHPF組成物において使用するのに適していると判定した。しかしながら、それらの組成物が、LCF組成物においても同様に使用することが可能であることは理解されたい。「比較的に消失時間が短い」ということが意味しているのは、プロピレングリコール(1,2 プロパンジオール)の消失時間よりも短い消失時間であるということである。実施例10において使用された条件下では、プロピレングリコールを用いた場合で、摩擦係数が0.4となるのに約2,500秒を要した(表15、実施例10参照)。したがって、実施例10において定義される装置と条件とを使用した試験をしたときに、約2,500秒以下の消失時間を有する凝固点降下剤を、VHPF、HPFおよびLCF組成物中で使用することが可能である。
【0065】
逆に、ディスクの金属表面からの消失時間が比較的長いことを示す、すなわち、実施例10で定義される条件を用いて求めた消失時間が約2500秒よりも長い凝固点降下剤は、潤滑剤を含む摩擦調節組成物、たとえばLCFおよびHPF組成物において使用するのに適している。
【0066】
実施例10において試験した凝固点降下剤の消失時間が、それらの蒸気圧の値と相関していることが見出された。そのような相関があることが示唆しているのは、蒸気圧を使用することで、液状凝固点降下剤の候補物が、本発明の摩擦調節組成物、たとえばVHPF、HPFまたはLCF組成物として使用するのに適しているかどうかを判定することもできるということである。たとえばプロピレングリコールの蒸気圧は約0.129(20℃;表15、実施例10参照)であり、したがって、約0.1(20℃)以上の蒸気圧を有することを特徴とする液状凝固点降下剤は、正の摩擦特性を示す摩擦調節組成物、たとえばHPFおよびVHPF組成物、さらにはLCF組成物において使用することが可能である。同様にして、約0.1(20℃)未満の蒸気圧を有することを特徴とする凝固点降下剤は、潤滑剤を含む摩擦調節組成物、たとえばLCFおよびHPF組成物において使用するのに適している。
【0067】
ディスクの金属表面から消失する時間が比較的に短かいかあるいはその蒸気圧が0.1(20℃)より大であることを示した凝固点降下剤は、正の摩擦特性を示す摩擦調節組成物、たとえばHPF、VHPFおよびLCF組成物において好適に使用することが可能である。短い消失時間を示す好適な凝固点降下剤の例を非限定的に挙げれば、アーコソルブ(Arcosolv,登録商標)PMA(ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート)、アーコソルブ(Arcosolv,登録商標)PTB(ジプロピレングリコール三級ブチルエーテル)、アーコソルブ(Arcosolv,登録商標)PnP(ジプロピレングリコールノルマルプロピルエーテル)、アーコソルブ(Arcosolv,登録商標)PNB(プロピレングリコールノルマルブチルエーテル)、プログライド(Proglyde,登録商標)DMM(ジプロピレングリコールジメチルエーテル)、ダウアノール(Dowanol,登録商標)DPM(ジプロピレングリコールメチルエーテル)、ダウアノール(Dowanol,登録商標)DPnP(ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル)およびプロピレングリコールがある。
【0068】
ディスクの金属表面からの比較的長い消失時間を示すかまたはその蒸気圧が0.1(20℃)未満であり、そして潤滑剤を含む摩擦調節組成物、たとえばLCFおよびHPF組成物の中で使用することが可能な凝固点降下剤の例を非限定的に示すと、ヘキシレングリコール、ダウアノール(Dowanol,登録商標)DPnB(ジプロピレングリコールブトキシエーテル)およびアーコソルブ(Arcosolv,登録商標)TPM(トリプロピレングリコールメチルエーテル)が挙げられる。
【0069】
注目すべきは、本明細書に記載の組成物の中で凝固点降下剤を組み合わせて使用することも可能であって、2種以上の凝固点降下剤を併用することで、凝固点が低下するという相乗作用が観察された(表16および17、実施例11を参照)。
【0070】
たとえばプロピレングリコールを7%(w/w)含む組成物は、約−3℃の凝固点を示し、ダウアノール(Dowanol,登録商標)DPMを23.5%(w/w)含む組成物は、約−6℃の凝固点を示す。しかしながら、プロピレングリコール(7%w/w)とダウアノール(Dowanol,登録商標)DPM(23.5%w/w)の両方を含む組成物は−24.5℃の凝固点を示す(表16、実施例11参照)。プロピレングリコールまたはダウアノール(Dowanol,登録商標)DPMのいずれかだけをそれ自体30.5%(w/w、プロピレングリコールおよびダウアノール(Dowanol,登録商標)DPMの全量)含む組成物では、それぞれ、−15℃または−9℃の凝固点を示すにとどまる。
【0071】
同様にして、プロピレングリコールを14.83%(w/w)含む組成物は、約−4℃の凝固点を示し、プログライド(Proglyde,登録商標)DMMを19.0%(w/w)含む組成物は、約−3℃の凝固点を示す。プロピレングリコール(14.83%w/w)とプログライド(Proglyde,登録商標)DMM(19.0%w/w)の両方を含む組成物は、−28.0℃の凝固点を示す(表16、実施例11参照)。しかしながら、プロピレングリコールまたはプログライド(Proglyde,登録商標)DPMのいずれかだけをそれ自体33.83.0%(w/w、プロピレングリコールおよびダウアノール(Dowanol,登録商標)DPMの全量)含む組成物は、それぞれ、−20℃または−10℃の凝固点を示すにとどまる。他の凝固点降下剤の組合せにおいても、同様の相乗作用が起きることが観察された。
【0072】
「摩擦調節剤」という用語が意味しているのは、本発明の摩擦調節組成物に正の摩擦特性を付与する物質または液状摩擦調節組成物に、摩擦調節剤が存在しない同等の組成物と比較して、正の摩擦特性を加える物質である。この摩擦調節剤は、微粉化した鉱物質を含み、その粒径が約0.5ミクロンから約10ミクロンの範囲であるのが好ましい。さらに、この摩擦調節剤は水に対しては可溶、不溶、一部可溶のいずれでもよく、その組成物を表面に塗布し、組成物の液体成分を蒸発させた後で、その粒径が約0.5ミクロンから約10ミクロンの範囲に保たれているのが好ましい。米国特許第5,173,204号明細書および国際公開第98/13445号パンフレット(参考として引用し本明細書に組み入れる)に記載されているような摩擦調節剤を本明細書に記載した組成物に使用してもよい。摩擦調節剤は以下のようなものを含んでもよい(これらに限定されるわけではない):
・ホワイティング(炭酸カルシウム);
・炭酸マグネシウム;
・タルク(ケイ酸マグネシウム);
・ベントナイト(天然クレー);
・炭じん(磨砕石炭);
・永久白(硫酸カルシウム);
・アスベストール(アスベストからのアスベスチン誘導体);
・チャイナ・クレー;カオリン系クレー(ケイ酸アルミニウム);
・無定形シリカ(合成品);
・天然スレート粉;
・珪藻土;
・ステアリン酸亜鉛;
・ステアリン酸アルミニウム;
・炭酸マグネシウム;
・鉛白(酸化鉛);
・塩基性炭酸鉛;
・酸化亜鉛;
・酸化アンチモン;
・ドロマイト(MgCOCaCO);
・硫酸カルシウム;
・硫酸バリウム(たとえばバリテン(Baryten));
・ポリエチレン繊維;
・酸化アルミニウム;
・酸化マグネシウム;および
・酸化ジルコニウム
またはそれらの組合せ。
【0073】
「効力維持剤」という用語が意味しているのは、化学物質、化合物またはその組合せであって、運転の有効寿命を長くしたり、滑り−転がり接触をしている2つ以上の表面の間での摩擦調節組成物の耐久性を向上させたりするものである。効力維持剤は、膜の強度および基材への付着性を付与したり、増強したりする。効力維持剤は、摩擦組成物の成分と会合し、塗布した表面の上に膜を形成し、それによって、滑り−転がり接触にさらされる表面上での組成物の耐久性を向上させることが可能であるのが好ましい。典型的には、効力維持剤は、状況によって異なるが、凝集あるいは重合した後に、所望の性質(たとえば膜強度や基材への付着性の向上など)が発揮される。
【0074】
効力維持剤が潤滑剤と摩擦調節剤成分とを結合させる能力を有しているのが好ましく、それにより、これらの成分が薄い層を形成して、車輪とレールとの接触域からの転移に耐えられるようになる。また、効力維持剤が、使用中に物理的に損なわれることなく、また使用中に燃え尽きてしまわないことがないのが好ましい。好適な効力維持剤は、固形物のとりこみ能力が高く、粘度が低く、また所望によっては、膜形成最低温度が低いものであるのが望ましい。効力維持剤の例を挙げれば以下のようなものがある(これらに限定されるわけではない):
・アクリル樹脂、たとえば(限定されるわけではない)ロープレックス(Rhoplex,登録商標)AC264、ロープレックス(Rhoplex,登録商標)MV−23LOまたはマインコート(Maincote,登録商標)HG56(ローム&ハース(Rohm & Haas));
・ポリビニル化合物、たとえば(限定されるわけではない)エアフレックス(Airflex,登録商標)728(エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ(Air Products and Chemicals))、エバノール(Evanol,登録商標)(デュポン(Dupont))、ロバーセ(Rovace,登録商標)9100またはロバーセ(Rovace,登録商標)0165(ローム&ハース(Rohm & Haas));
・オキサゾリン、たとえば(限定されるわけではない)アクアゾル(Aquazol,登録商標)50および500(ポリマー・ケミストリー(Polymer Chemistry));
・スチレンブタジエン化合物、たとえば(限定されるわけではない)ダウ・ラテックス(Dow Latex)226および240(登録商標)(ダウ・ケミカル・カンパニー(Dow Chemical Co.));
・スチレンアクリレート、たとえば(限定されるわけではない)アクロナール(Acronal,登録商標)S760(BASF)、ロープレックス(Rhoplex,登録商標)E−323LO、ロープレックス(Rhoplex,登録商標)HG−74P(ローム&ハース(Rohm & Haas))、エマルション(Emulsion,登録商標)E−1630、E−3233(ローム&ハース(Rohm & Haas));
・樹脂および硬化剤からなる2成分システムを含むエポキシ。樹脂は、摩擦調節組成物のために使用される溶媒によってその選択をすることができる。たとえば(これによって限定されると考えてはならない)水性配合物では、樹脂として適しているのは水性のエポキシで、例を挙げれば、アンカレス(Ancares,登録商標)AR550(すなわち、2,2’−[(1−メチルエチリデン)ビス(4,1−フェニレンオキシメチレン)]ビスオキシランホモポリマー、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ(Air Products and Chemicals))、エポタフ(EPOTUF,登録商標)37−147(すなわち、ビスフェノールA系エポキシ、ライヒホールド(Reichhold))などがある。アミンまたはアミド硬化剤としては、たとえば(限定されるわけではない)アンクアミン(Anquamine,登録商標)419および456およびアンカミン(Ancamine,登録商標)K54(エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ(Air Products and Chemicals))を水性エポキシ配合物では使用することができる。しかしながら、硬化剤なしでエポキシ樹脂単独で使用すると、効力維持性が向上することが認められた。エポキシ樹脂は硬化剤と混合して使用するのが好ましい。組成物に添加することが可能なその他の成分としては、汚れた表面への組成物の付着を促進するための炭化水素樹脂があり、たとえば(限定されるわけではない)エポジル−L(EPODIL−L,登録商標)(エア・プロダクツ・リミテッド(Air Products Ltd.))がある。有機系の溶媒が使用されている場合には、非水系のエポキシ樹脂と硬化剤が使用されてもよい:
・アルキド、変性アルキド;
・アクリル系ラテックス;
・アクリル系エポキシハイブリッド;
・ウレタンアクリル樹脂;
・ポリウレタン分散体;および
・各種のゴム類および樹脂、である。
【0075】
効力維持剤を含む摩擦調節組成物では、効力維持剤を約0.5から約40重量%含ませた組成物においては、効力維持性の向上が観察される。組成物には、約1から約20重量%の効力維持剤が含まれているのが好ましい。
【0076】
エポキシは2成分系であるので、エポキシ混合物における樹脂または硬化剤の量を変えることによって、この効力維持剤の性質を調整することができる。たとえばエポキシ樹脂と硬化剤とからなる摩擦調節組成物における効力維持性の向上は、組成物中にエポキシ樹脂が約1〜約50重量%含まれる場合に認められるが、このことについては以下で詳しく記す。組成物に約2〜約20重量%のエポキシ樹脂が含まれているのが好ましい。さらに、樹脂に対する硬化剤の割合を増やして、たとえば(限定されるわけではない)0.005〜0.8(樹脂:硬化剤の比)とすると、やはり効力維持性が上がる結果となる。以下においても述べるが、硬化剤なしでエポキシ樹脂を含む摩擦調節組成物でも、高い効力維持性がやはり認められる。理論に束縛されることなく言えば、硬化剤がないと、塗布したエポキシ膜が弾力性を持ち続け、そのために滑りおよび転がり接触で鋼鉄の表面で発生する高い圧力にも耐えられることになると考えられる。
【0077】
組成物の効力維持性は、アムスラー試験機またはその他先に述べた適当な装置を使用し、効果が持続されるサイクル数を調べることによって、測定することができる(図3A参照)。さらに鉄道産業においては、その間に所望の効果、たとえば(限定されるわけではない)騒音抑制、牽引力の抑制、横圧の抑制あるいは摩擦レベルなどが維持されている、車軸の通過数の関数としてあるいはプッシュ・トライボメータ(push tribometer)を使用して効力維持性を測定することができる(図3Bおよび3C参照)。理論に束縛されることなく言えば、滑り接触および転がり−滑り接触している表面の間、たとえば(限定されるわけではない)車輪とレールとの界面に効力維持剤が耐久性の膜を形成する能力を有しているのだと考えられる。
【0078】
さらに、本発明の摩擦調節組成物を混合し、基材に塗布するためには溶媒も使用することができる。塗布する際の必要性、たとえば組成物のコスト、要求される乾燥速度、環境への配慮などに応じて溶媒は有機溶媒を使用しても水溶媒であってもよい。有機溶媒としては、たとえば(限定されるわけではない)メタノールがあるが、塗布した組成物の乾燥時間を短縮したり、汚れた基材に対する組成物のなじみを向上させたりあるいは乾燥時間の短縮と汚れた基材へのなじみ向上との両方を目的としてその他の溶媒を使用することもできる。溶媒として好ましいのは水である。水性システムでは普通、効力維持剤は溶媒の中に本当に溶解しているのではなく、分散体となっている。
【0079】
「潤滑剤」という用語が意味しているのは、滑り接触または転がり−滑り接触をしている二つの面の間の摩擦係数を下げることが可能な化学物質、化合物またはその混合物である。潤滑剤の例を挙げれば(限定されるわけではない)二硫化モリブデン、グラファイト、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛および炭素製品、たとえば(限定されるわけではない)炭じんおよび炭素繊維などである。本発明の組成物に使用するならば、潤滑剤としては二硫化モリブデン、グラファイトおよびテフロン(Teflon,登録商標)が好ましい。
【0080】
本発明の摩擦調節組成物にはその他の成分、たとえば(限定されるわけではない)保存剤、濡れ剤、粘稠性調節剤、中和剤および消泡剤を、単独または組合せて含めることができる。
【0081】
保存剤の例を非限定的に挙げれば(限定されるわけではない)アンモニア、アルコール、殺菌剤、たとえば(限定されるわけではない)オキサバン(Oxaban,登録商標)Aがある。中和剤の例を非限定的に挙げると、AMP−95(登録商標)(2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールの溶液)がある。消泡剤の例を非限定的に挙げると、コロイズ648(Colloids 648,登録商標)またはコロイズ675(Colloids 675,登録商標)がある。
【0082】
本発明の組成物に加えることができる濡れ剤としては、たとえば(限定されるわけではない)ノニルフェノキシポリオールまたはCo−630(登録商標)(ユニオン・カーバイド(Union Carbide))がある。この濡れ剤は、レオロジー調節剤、摩擦調節剤および潤滑剤からなるマトリックスの中で、潤滑剤と摩擦調節剤粒子との周囲に水の層を形成させる役割を果たす。濡れ剤によって、液状の摩擦調節組成物中に効力維持剤が分散しやすくなる。濡れ剤はまた、滑り接触および転がり−滑り接触をしている表面、たとえば(限定されるわけではない)鋼鉄の車輪と鋼鉄のレールとのような表面の間に存在するグリースを乳化させることもできる。また、濡れ剤は分散を調節する働きもしていて、組成物中の固形粒子の凝集を最小限に抑える。
【0083】
国際公開第02/26919号パンフレット(参考として引用し本明細書に組み入れる)に記載があるように、改良された効力維持性を有する摩擦調節組成物を使用することに伴う利点は、貨物輸送および大量輸送システムにおける鋼鉄レールおよび鋼鉄車輪システムにおける横圧の抑制がある。横圧を抑制することによって、レールの摩耗(ゲージの広がり)が減少し、レール敷設替えのコストが削減できる横圧は、曲線部あるいは接線部の軌道に適当なストレーンゲージをとりつけて決定することができる。ここで図2を参照すると、そこには、本発明の液状の摩擦調節組成物の存在下または非存在下における、各種のタイプの車両の場合の鋼鉄車輪と鋼鉄レールシステムにかかる横圧の大きさが示されている。図2からわかるように、本発明による摩擦調節組成物(この場合はHPF)を使用すると、乾燥したレールと車輪とのシステムで測定した場合の横圧に比較して、横圧の最大値と平均値が少なくとも約50%減少している。
【0084】
改良された効力維持性を有する摩擦調節組成物を使用することに伴うまた別の利点は、エネルギー消費量の削減であり、これはたとえば(限定されるわけではない)貨物輸送および大量輸送システムにおける鋼鉄レールおよび鋼鉄車輪システムにおける牽引力により測定できる。エネルギー消費量が削減されれば、運転コストの削減につながる。本発明による摩擦調節組成物(この場合はHPF)を使用すると、乾燥したレールと車輪とのシステムで測定した牽引力に比較して、HPFの塗布割合を上げるにつれて、牽引力が少なくとも約13から約30%減少する。
【0085】
水系の薬剤をレールの頭頂部に塗布するにはいくつかの方法がある。たとえば(限定するわけではない)そのような方法には、車上(onboard)、線路脇(wayside、tracksideとも言う)あるいはハイレール(hirail)などのシステムなどがある。車上システムでは、液状物をタンク(通常は最後の駆動用機関車の後に取り付ける)からレール上に噴霧する。線路脇(waysaide=trackside)では、軌道に沿って装置を設置しておいて、接近する列車によりトリガされた後、レール上に薬剤をポンプで送る。ハイレールというのは、ピックアップトラックを改造したもので、レールの上を走らせることができる。このトラックには1つまたは複数の貯液タンクとポンプと空気噴霧システムが備えられていて、それにより軌道上に薄い膜を塗布できるようになっている。このハイレールでは、線路脇に固定された自動化装置とは異なり、必要な時に必要な場所で組成物を塗布することが可能である。たった数台のハイレール車さえあれば、広大な地域をカバーすることができるが、それにひきかえ、車上システムでは列車1編成あたり少なくとも1台の機関車には薬剤を分散するための設備を設けておかなければならない。
【0086】
本発明の摩擦調節組成物を車上(噴霧可能)組成物として使用するのならば、その組成物の粘度は最高約7,000cP(25℃)まであるいは約1,000〜約5,000cP(25℃)とする。しかしながら、必要があれば1,000cPより低い粘度でも使用できる。低粘度のものを使用する場合には、その組成物の内容物が均一な懸濁液または溶液で維持できるような粘度とするのが望ましい。別な方法として、その組成物を撹拌して成分を溶液状態に保つことも可能である。摩擦調節組成物を線路脇用組成物として使用するのならば、その組成物の粘度は、約5,000〜約200,000cP(25℃)または約7,000〜約30,000cP(25℃)とする。しかしながら、たとえばペーストのように、粘度が200,000cPを超えても、最終の組成物がポンプ輸送可能で流動性を有しているのなら使用することが可能である。本発明による組成物の粘度は、当業者には公知のことであるが、本発明の組成物を構成している成分の量を変化させることによって調節することが可能である。
【0087】
ここで図3を参照すると、滑り−転がり接触をしている二つの鋼鉄表面の間での液状摩擦調節組成物の耐久性に対する、効力保持剤、たとえば(限定されるわけではない)アクリル樹脂の効果が示されている。この場合のアムスラー試験機による効力維持性は、たとえば(限定されるわけではない)摩擦係数を約0.4未満あるいは用途に応じて必要とされる他の適切なレベル以下に維持している効果を摩擦調節組成物が発揮しているサイクル数により決定されている。この組成物の効力維持性は、たとえば(限定されるわけではない)効力維持剤が約1重量/重量%(w/w)から約15%w/wの範囲で、組成物中に含まれる効力維持剤の重量パーセントにほぼ直線的に依存している。この範囲においては、アムスラー試験機を使用した測定では、効力維持性が約5000サイクルから約13000サイクルにまで上昇し、この組成物の有効な耐久性と使用性が約2.5倍に上がったことを示している。効力維持性が上昇することは、実走行条件下でも同様に観察され、車軸が少なくとも約5000回通過するまでは横圧が減少していることが観察された(図3B、3C)。効力維持剤を含む本明細書に記載された摩擦調節剤組成物の長期間にわたる同様な効果が、他の性質、たとえば騒音の抑制や牽引力の抑制などの面でも本発明の組成物を塗布することにより観察される。効力維持剤を加えないと、約数百回の車軸が通過したところで、横圧の上昇、騒音レベルの上昇、あるいは牽引力の上昇が観察される。
【0088】
本発明の組成物の粘度は、当業者公知の各種方法、たとえばブルックフィールド(Brookfield)LVDV−E型粘度計を用いて測定することができる。このDV型では、較正したスプリングを介してスピンドルを(試験液の中に挿入して)回転させる。スピンドルに対する流体の粘性抵抗をスプリングの変位から測定する。スプリングの変位は回転変換器で測定され、それによってトルク信号が得られる。DVの測定範囲(cPsで表す)は、スピンドルの回転速度、スピンドルの大きさと形状、その中でスピンドルを回転させる容器および較正したスプリングの最大トルクによって決まる。
【0089】
本発明の組成物の効果を長持ちさせる効力維持剤の効き目を最高に発揮させるには、この摩擦調節組成物を塗布してから使用するより前に可能な限り長い時間かけて固化させておく必要がある。しかしながら、この時間の長さは、実走行の条件下では変化する可能性がある。実走行の試験では、本明細書に記載されているように、摩擦調節剤組成物を軌道に塗布し、塗布中および後に処理した軌道の上を通過する車両で横圧を測定すると、横圧は最初低下するが、車軸が約1200回以上通過すると横圧が上昇するのが観察された。しかしながら、この組成物を使用前に固化させておくと、横圧の低下は約5,000から約6,000回の車軸通過の間観察された。したがって、本明細書に記載される液状の摩擦組成物の固化時間を短くするために、水も含めるが水だけに限定されず、組成物を均質に塗布することが可能で、容易に乾燥するような相溶性のよい溶媒ならいかなるものであっても本発明の液状組成物に使用することができる。さらに、本発明では、組成物を固化させるための時間を短くするために、迅速に乾燥するあるいは急速に硬化するような膜形成性のある効力維持剤、たとえばエポキシ系の膜形成性の効力維持剤をも対象としている。そのようなエポキシ系の組成物が膜の強度を上昇させることも見出されている。組成物に1種または複数の抗酸化剤を添加することによって本発明の組成物の効力をいっそう長持ちさせることができるが、これについては、以下で詳細に述べる。さらに、急速な固化時間が必要な場合には、0.1(20℃)を超える蒸気圧を有することを特徴とする凝固点降下剤を使用することもできる。
【0090】
アクリル樹脂で得られた結果とは対照的に、ベントナイト(レオロジー調節剤)の量を変化させても図4にみられるように効力維持性には影響がない。
【0091】
本明細書で開示されているように、組成物に抗酸化剤を添加すると、摩擦調節組成物の効力維持性がさらに高められる。効力維持剤として、たとえば(限定されるわけではない)スチレンブタジエンを含む液状の摩擦調節組成物に抗酸化剤、この場合はオクトライト424−50(Octolite 424−50,登録商標)を添加した効果を図5および7Bに示している。システムに抗酸化剤を添加することによって、組成物が消尽されてしまうまでのサイクル数が増加した。消尽速度が低いほど、より長く効力維持性が保たれるということを示している。抗酸化剤の例を非限定的に挙げれば、限定することなしに、ウイングステイ(Wingstay,登録商標)S(スチレン化抗酸化剤)、ウイングステイ(Wingstay,登録商標)L(ヒンダード抗酸化剤)、ウイングステイ(Wingstay,登録商標)SN−1(チオエステル抗酸化剤)およびオクトライト(Octolite,登録商標)424−50(相乗作用性抗酸化剤)などがある。その他の抗酸化剤を摩擦調節組成物に添加して、組成物の効力維持性を向上させる効果を得ることもできる。抗酸化剤を存在させることによって各種の組成物で消尽速度が低下することが観察された。
【0092】
理論に束縛されることなく言えば、抗酸化剤を添加したときに摩擦調節組成物の効力維持性が向上するのは、効力維持剤が、たとえば(限定されるわけではない)アクリル系ポリマーのロープレックス(Rhoplex,登録商標)AC−264(実施例8、表13、図7B)およびスチレン−ブタジエンランダムコポリマーのダウ・ラテックス226NA(Dow Latex 226NA,登録商標)(図5)の酸化を阻害する能力を有しているからだと考えられる。これらの効力維持剤はいずれも、効力維持剤が大気中の酸素に暴露されることによって起きる酸化のために、損傷を受ける可能性がある。この酸化反応は、車輪とレールとの界面のような高温の環境では著しく促進されるかも知れない。
【0093】
図7Bには、アクリル系の効力維持剤が存在するところに一連の抗酸化剤を添加した場合の組成物の消尽速度への影響を示している。この図に示されているのは、アクリル系の効力維持剤(ロープレックス(Rhoplex,登録商標)AC−264)と以下の抗酸化剤とのそれぞれを含む組成物における消尽速度の低下であるが、それらの抗酸化剤は、スチレン化抗酸化剤のたとえば(限定されるわけではない)ウイングステイ(Wingstay,登録商標)S、ヒンダード抗酸化剤のたとえば(限定されるわけではない)ウイングステイ(Wingstay,登録商標)L、チオエステル抗酸化剤のたとえば(限定されるわけではない)ウイングステイ(Wingstay,登録商標)SN−1および相乗作用性抗酸化剤のたとえば(限定されるわけではない)オクトライト(Octolite,登録商標)424−50などのいずれかである。抗酸化剤を存在させることによって各種の組成物で消尽速度が低下することが観察された。
【0094】
ポリマーの酸化はフリーラジカル連鎖反応により起きる。ポリマーの製造の際にペルオキシドが使用され、ポリマーが生成した後にも、未反応のペルオキシドが幾分か残存している。これらのペルオキシドが後になって応力、熱などによって開裂し、生成したフリーラジカルが今度は大気中の酸素と反応してペルオキシラジカルを形成する。フリーラジカル連鎖反応の内容は、次の3つのステップに分けることができる:
(a)開始反応:
ペルオキシドが分裂してアルキルのフリーラジカルが生成する。
R−OO−R→2R・+O2
(b)生長反応:
このアルキルラジカルは酸素と容易に反応してペルオキシラジカルを生成する。
R・+O2→ROO・
ペルオキシラジカルが反応してポリマーを切断し、新しいラジカルとカルボン酸とを生成する。
ROO・+RH→ROOH+R・
(c)停止反応:
ラジカル2つが反応して安定な化合物となる。
2R・→R−R
ROO・+R・→ROOR(エステル)
【0095】
生長反応は、停止反応が起きるまでは何回でも繰返され、そのためにポリマー骨格が損傷をうける。理論に束縛されることなく言えば、鎖の切断(ポリマー鎖の分解)により分子がより小さくなり、分子間の相互結合が少なくなるので、その結果、バインダーが基材からより容易に除去されることになる。
【0096】
抗酸化剤を含むが、効力維持剤を含まない組成物では、この効力維持性が向上するのが観察される。図6には、効力維持剤を含まない液状の摩擦調節組成物に、抗酸化剤(この場合はオクトライト(Octlite,登録商標)424−50)を添加した時の効果を示している。図6からわかるように、効力維持剤が無い場合であっても、抗酸化剤を添加すればその組成物の効力維持性が向上する結果となり、それは得られたサイクル数が上がることにおいて示されている。図7Aに見られるように、効力維持剤がない場合にも、一連の抗酸化剤によって、組成物の効力維持性がそのように向上することが観察される。図7Aに示されているのは、アミン抗酸化剤、たとえば(限定されるわけではない)ウイングステイ(Wingstay,登録商標)29、スチレン化抗酸化剤、たとえば(限定されるわけではない)ウイングステイ(Wingstay,登録商標)S、ヒンダード抗酸化剤、たとえば(限定されるわけではない)ウイングステイ(Wingstay,登録商標)L、チオエステル抗酸化剤、たとえば(限定されるわけではない)ウイングステイ(Wingstay)SN−1および相乗作用性抗酸化剤、たとえば(限定されるわけではない)オクトライト(Octolite,登録商標)424−50を添加したときの効果である。いずれの場合においても、組成物の消尽速度が低下している。理論に束縛されることなく言えば、これはMoS2の酸化が防止されているためだと考えられる。酸素が存在するとMoS2はMoO3に酸化されうる。MoO3は摩擦係数が高いことで知られており、それはポリマー膜に影響を与えることはないが、効力維持性を低下させる可能性がある。大気酸素に対して抗酸化剤がMoS2と競合するので、その結果抗酸化剤の濃度が高いほど、MoS2の消尽速度が低くなる。
【0097】
本発明の1つの態様においては、高い正の摩擦(high positive frictional: HPF)特性を示す液状の摩擦調節組成物が提供され、その組成物は以下のものを含む:
(a)約30〜約95パーセントの水;
(b)約0.5〜約50パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.02〜約40重量パーセントの潤滑剤および
(d)約0.5〜約30重量パーセントの摩擦調節剤ならびに
以下のものの一つまたは二つ以上:
(i)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤;
(ii)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤;
(iii)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤および
(iv)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤。
【0098】
場合によってはその組成物に、抗菌剤、消泡剤および濡れ剤が含まれていてもよい。
【0099】
本発明のまた別な態様においては、非常に高い正の摩擦(very high positive friction: VHPF)特性を示す液状の摩擦調節組成物が提供され、その組成物は以下のものを含む:
(a)約30〜約95パーセントの水;
(b)約0.5〜約50パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.5〜約30重量パーセントの摩擦調節剤ならびに
以下のものの一つまたは二つ以上:
(i)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤;
(ii)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤;
(iii)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤および
(iv)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤。
【0100】
場合によってはその組成物に、抗菌剤、消泡剤および濡れ剤が含まれていてもよい。
【0101】
本発明のさらに別な態様においては、低い摩擦係数(low coefficient of friction: LCF)を有する液状摩擦調節組成物が提供され、その組成物は以下のものを含む:
(a)約30〜約95パーセントの水;
(b)約0.5〜約50パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.02〜約40重量パーセントの潤滑剤および
以下のものの一つまたは二つ以上:
(i)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤;
(ii)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤;
(iii)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤および
(iv)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤。
【0102】
場合によってはその組成物に、抗菌剤、消泡剤および濡れ剤が含まれていてもよい。
【0103】
本発明の摩擦調節組成物は、滑り接触または転がり−滑り接触している表面、たとえば鉄道車輪フランジまたはレールのゲージフェースの上の摩擦を緩和するために使用することができる。しかしながら、本発明の摩擦調節組成物は、滑り接触または転がり−滑り接触をしているその他の、金属表面、非金属表面あるいは部分的に金属、たとえば(限定されるわけではない)第五車輪(fifth−wheel)用途、の表面における摩擦を緩和するためにも使用できると考えられる。
【0104】
本発明の組成物は、レール表面や連結部のような金属表面に当業者公知の各種の方法で塗布することができる。たとえば(限定されるわけではない)本発明の組成物を懸濁液、ゲルまたはペーストの形態で塗布することもできるし、あるいは適当な直径、たとえば直径約1/8インチのビーズとして塗布してもよい。
【0105】
本発明の組成物は、ゲルの形状で製造することが可能であるが、それには、たとえば凝固点降下剤たとえばプログライド(Proglyde,登録商標)DMMを、置換度が比較的低いレオロジー調節剤、たとえばメトセル(Methocel,登録商標)K4M(それぞれ平均約1.4個の置換基で置換されたアンヒドログルコース単位を含む置換セルロース化合物)と共に使用することによって製造する。理論に束縛されることなく言えば、その組成物のゲル化は、凝固点降下剤によるレオロジー調節剤の膨潤によってもたらされる。そのような組成物のゲル化度を低下させるには、その凝固点降下剤を比較的高い親水性を有するもの、たとえばアーコソルブ(Arcosolv,登録商標)PnPと置きかえるかまたはそのレオロジー調節剤を比較的高い親水性を有するものまたは比較的高い置換度を有するもの、たとえばメトロース(Metolose)(登録商標)60SH−4000(それぞれ平均約1.9個の置換基で置換されたアンヒドログルコース単位を含む置換セルロース化合物)で置きかえるかのいずれかの方法を用いることにより可能となる。特定のゲル化度を得るために必要な凝固点降下剤とレオロジー調節剤との特定の組合せは、当業者ならば容易に決めることができる。
【0106】
場合によっては、ブラシまたは微細な霧化スプレーを用いて液状の摩擦調節組成物を塗布するのが好ましい。微細霧化スプレーは、組成物の乾燥がより早く、レールの頭頂部に組成物をより均等に分散させ、また横圧の抑制と効力維持性との面でも改良をもたらすことができる。本発明の液状の摩擦調節組成物を霧化スプレーで塗布する方法は、輸送システムでの車上からの塗布、機関車からの車上塗布、ハイレール車を利用した塗布などがあるが、霧化スプレー法はこれらのシステムに限定されるわけではない。
【0107】
霧化スプレー塗布法はまた、本発明の液状の摩擦調節剤を組合せて使用し、レールと車輪との界面での相互作用を最適化するために、レールの別々な場所に塗布するのにも適している。たとえば1組のアプリケーターとノズルシステムとで摩擦調節剤、たとえば(限定されるわけではない)HPF組成物をレールの一方、特にローレール(内側のレール)またはローレールとハイレールとの両方のヘッド(頭頂)部に塗布して、レールの頭頂部をこする車輪踏み面の横方向のスリップスティックを抑制するのに対し、もう1組のアプリケーターとノズルシステムとで低摩擦組成物、たとえば(限定されるわけではない)HPFまたはLCF組成物をハイレール(外側レール)またはローレールとハイレールとの両方のゲージフェース/ゲージコーナーに塗布して、鉄道車両の案内車軸の車輪のフランジ効果を抑制させる。また別な例においては、デュアルノズルの能力を有する第一のアプリケーターを用いて一方または両方のレールのヘッド部分にHPF組成物を塗布し、デュアルノズルの能力を有する第二のアプリケーターを用いて同一または異なったタイプのHPF組成物を、イレール(外側レール)、ローレール(内側のレール)またはハイレールとローレールとの両方のゲージフェース/ゲージコーナーに塗布することもできる。別な方法として、デュアルノズルアプリケーターを用いて同一のレールのヘッド部分とゲージフェース/ゲージコーナーとに同一または別々の組成物を塗布することも可能である。そのようなアプリケーターの1例は、ポルテック・レール・プロダクツ・インコーポレーテッド(Portec Rail Products,Inc.)からの、ロード・ランナー(Road−Runner,登録商標)361・ハイレール潤滑システムが挙げられる。また別な例においては、単一ノズルアプリケーターを使用し、ノズルの位置と噴霧パターンを調節することによって、HPF組成物をレールのヘッドとゲージフェースの両方に塗布することもできる。本発明の1種の摩擦調節剤を霧化スプレーとして、たとえばレールのゲージフェースに塗布し、第2の摩擦調節剤をビーズまたは固形状スティックとしてレールヘッドの上に塗布することも可能である。
【0108】
図8A〜Dに示しているのは、軌道の一部において、両方のレールのヘッドまたはローレールのみのヘッドにHPF組成物を噴霧塗布すると、その軌道の一部における両方のレールにおいて、摩擦調節組成物を塗布しなかった場合に比較して、ヘッド損耗(head loss)が抑制され、ゲージ摩耗速度が低下する結果が得られる、ということである。具体的には、図8A〜Dにおけるデータは、その軌道の一部のローレールにHPF組成物を噴霧塗布すると、60〜75%(曲率によって変化する)の範囲で、%ヘッド損耗とゲージ摩耗速度の両方が抑制されることを示している。
【0109】
したがって、本発明は、レールの摩耗、鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御するための方法を提供し、それには、一つ若しくは二つ以上のレールまたは一つ若しくは二つ以上の鉄道車両の車輪の一つまたは二つ以上の接触表面にHPF組成物を塗布することを含むが、ここでその一つまたは二つ以上のレールおよびその一つまたは二つ以上の鉄道車両の車輪は、滑り接触または滑り−転がり接触している。
【0110】
HPF組成物を、実施例15で試験した軌道の一部のローレールに対してのみ塗布したにもかかわらず、ヘッドおよびゲージの摩耗速度における減少が、ローレール、ハイレールの両方において観察されたということは注目に値する。ローレールだけにHPF組成物を塗布した結果として、ハイレールにおいてヘッドおよびゲージの摩耗速度が低下したということは、横圧とフランジ力の減少の結果であろう。図9A〜Bは、軌道の一部のローレールの頭頂部にHPF摩擦調節組成物を塗布した1年の期間の間に、顕著なゲージ摩耗またはヘッド損耗が起きていないことを示している。ハイレールに対してまたはローレールとハイレールとの両方に対してグリース潤滑剤を一切塗布しなくても、ヘッドおよびゲージの摩耗速度における同様の低下および同様のヘッドおよびゲージ摩耗が、HPF組成物をローレールに噴霧することによって達成できた。本発明の方法では、ハイレール(外側レール)または両方のレールのゲージフェース/ゲージコーナーにグリース潤滑剤を塗布する必要がないので、他の塗布方法よりもコスト効果が高く、また、線路脇用グリースを噴霧することが原因の環境への汚染を減らすという利点も有している。
【0111】
さらに本発明は、レールの摩耗、鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御するための方法に関し、それには、一つ若しくは二つ以上のレールまたは一つ若しくは二つ以上の鉄道車両の車輪の一つまたは二つ以上の接触表面にHPF組成物を塗布することを含み、ここでその一つまたは二つ以上のレールおよびその一つまたは二つ以上の鉄道車両の車輪が滑り接触または滑り−転がり接触しており、ここでその一つまたは二つ以上のレールが、それぞれヘッドとゲージフェース/ゲージコーナーとを有するローレールおよびハイレールを含み、ここでそのHPF組成物は、ローレールのヘッドまたはローレールとハイレールとの両方のヘッドに塗布し、そしてここで、ローレールおよびハイレール両方の摩耗が制御される。
【0112】
さらに、本発明は、レールの摩耗、鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御することを提供し、それには、一つ若しくは二つ以上のレールまたは一つ若しくは二つ以上の鉄道車両の車輪の一つまたは二つ以上の接触表面に、HPF組成物を塗布することを含むが、ここでその一つまたは二つ以上のレールおよびその一つまたは二つ以上の鉄道車両の車輪は、滑り接触または滑り−転がり接触しており、ここでそのHPF組成物はローレールのヘッドに塗布される。
【0113】
霧化スプレーとして塗布することを配慮した本発明による液状摩擦調節組成物は、好ましいことには各種の特性を示すが、そのような特性としてはたとえば(限定されるわけでない)塗布設備の噴霧ノズルを閉塞させる可能性のある粗い混入物の抑制および塗布設備の噴霧システムを通過して適切に流れるようにする粘度の抑制および粒子のアグロメレーションの最小化などが挙げられる。たとえば(限定されるわけでない)ベントナイトのような物質は、直径の小さいノズルを閉塞させるような粗い粒子を含んでいる可能性がある。しかしながら、粒径をたとえば(限定されるわけでない)約50μmより小さい粒子に制御された物質は、噴霧用途に使用することができる。
【0114】
別な方法として(限定されるわけではない)本発明の液状の摩擦調節組成物を線路脇(wayside=trackside)の設備から塗布することもでき、その場合は、ホイールカウンター(wheel counter)によってポンプを起動させ、細いノズルを通してレールの頭頂部に本発明の組成物を流し出す。そのような実施態様では、その設備は曲線部の入り口より前に位置させるのが好ましく、調節組成物は車輪によって曲線部に拡げられ、本発明の組成物によって騒音、横圧、波状摩耗の生成をそれぞれ単独あるいは組合せて低減させることができる。
【0115】
本発明の液状の摩擦調節組成物のうちの特定のものでは、線路脇からの塗布に用いる方がより適しているかも知れない。たとえば線路脇から塗布するための組成物では、完全な乾燥状態にはならず、乾くと表面に薄い皮を張るようになるのが好ましい。「完全に」乾燥する組成物であると、線路脇のアプリケーターのノズル部分を閉塞させてしまい、除去するのが困難となる可能性がある。線路脇から用いるための液状の摩擦調節組成物は、バインダーまたはレオロジー調節剤としては、ベントナイトに代えてカルボキシメチルセルロース(CMC)または置換セルロース化合物の形態を含むのが好ましい。
【0116】
本発明の液状の摩擦調節組成物を調製するには、高速ミキサーを使用して成分を分散させるのがよい。混合用バットの中に適当量の水を入れ、レオロジー調節剤を徐々に加えて、すべてのレオロジー調節剤が完全に濡れた状態にする。次いで摩擦調節剤を少量ずつ加えていくが、加えるたびに完全に分散させ、その後で次の摩擦調節剤の添加を行う。混合物に潤滑剤が含まれる場合には、成分を少量ずつ加えていくが、加えるたびに完全に分散させ、その後で次の潤滑剤の添加を行う。その後で、効力維持剤、凝固点降下剤およびその他の成分、たとえば濡れ剤、抗菌剤などを残りの水と共に加え、この組成物を充分に混合する。
【0117】
本発明の摩擦調節組成物の調製法について上に開示を行ったが、本発明の精神および範囲から外れることなく、この配合を調製するには各種の変法が存在することは、当業者のよく知るところである。
【0118】
本発明の液状の摩擦調節組成物は、表面に塗布した後、そして摩擦調節剤組成物として機能させるより前に、脱水させるのが好ましい。たとえば(限定するわけではない)本発明の組成物をレール表面が列車の車輪と接触するより前に塗布しておいてもよい。本発明の組成物中の水及びその他の液体成分を列車の車輪が接触する前に蒸発させておくのがよい。脱水した時に本発明の液状の摩擦調節組成物が固体状の膜となっているのが好ましく、それにより組成物中の他の成分、たとえば摩擦調節剤および(添加されていれば)潤滑剤などの付着が促進される。さらに、脱水後には、レオロジー調節剤が水の再吸収を抑えることもするので、雨その他の原因により表面からそれが消失してしまうことを防ぐことができる。しかしながら、本発明が対象としているある種の用途においては、列車に取り付けたポンプまたはそれに代わるもので、本発明の液状の摩擦調節組成物をレールの上に直接スプレーすることもでき、その組成物は列車の接近を感知するセンサーに従ってレールの上に送られる。鋼鉄レール上を鋼鉄車輪が移動する際の摩擦力と高温のために充分な熱が発生して組成物を急速に脱水させる可能性があるということは、当業者のよく知るところである。
【0119】
本発明の摩擦調節剤組成物には、当業者が考えれば、本発明の範囲と精神を逸脱することなく置き換えたり変更したりすることが可能であるような成分が含まれている。さらに、本発明の摩擦調節剤組成物を他の潤滑剤や摩擦調節剤組成物と組合せて使用できるということも十分考えられる。たとえば(限定されるわけではない)本発明の組成物を、他の摩擦調節組成物、たとえば(限定されるわけではない)米国特許第5,308,516号明細書および米国特許第5,173,204号明細書に開示されているようなものと共に使用してもよい(それらの特許を参考として引用し本明細書に組み入れる)。そのような実施態様においては、本発明の摩擦調節組成物をレールヘッドに塗布し、他方では、摩擦係数を低下させる組成物をゲージフェースや車輪のフランジ部に塗布するようなことも十分考えられる。
【0120】
これまでの記述は、いかなる点においても特許請求されている本発明を限定するものではなく、さらに、これまでに述べてきた態様の組合せも、発明による解決のために完全に必要というわけではない。
【0121】
本発明を以下の実施例によりさらに詳しく説明する。しかしながら、これらの実施例は説明の目的のためだけのものであり、いかなる点においても本発明の範囲を限定するのに使用すべきではない、ということは理解しておかれたい。
【0122】
実施例1: 液状摩擦調節組成物の特性解析
アムスラー(Amsler)試験法
効力維持性についてはアムスラー試験機を用いて試験した。この試験機は、列車の車輪とレールとの間の接触をシミュレートするもので、二つの物体の間の摩擦係数の経時変化を測定する。アムスラー試験機では、車輪とレールとをシミュレートするために2枚の異なったディスクを使用する。その2枚のディスクは、調節可能なスプリングを用いて一定の力での接触を保つようになっている。組成物をクリーンにしたディスクの上に、制御された方法に従って塗布し、そのディスクの上に所望の厚みを作らせる。本明細書に開示された解析をするために、組成物は細いペイントブラシを用いて塗布し、ディスクの表面に完全な塗膜を作る。組成物の塗布量は、組成物を塗布する前後のディスクの重量測定により求める。組成物の塗布量はディスク1枚あたり2から12mgである。組成物は完全に乾燥させてから試験をする。典型的には、塗装後のディスクを少なくとも8時間放置して乾燥させる。これらのディスクをアムスラー試験機にとりつけ、接触状態にして約680から745Nの荷重をかけ、異なった直径のディスクの組み合わせを使用することにより、異なったクリープレベルでも同等のヘルツ圧力(Hertzian Pressure)(MPa)となるようにする。特に断らない限り、試験はクリープレベル3%で実施する(ディスクの径は53mmおよび49.5mm、表1参照)。すべてのディスクサイズの組合せ(およびクリープレベル3〜30%)において、上側のディスクよりも下側のディスクの回転速度を10%高くする。アムスラー試験機で測定したトルクの値から、コンピューターを使用して摩擦係数を求める。試験は摩擦係数が0.4に達するまで継続し、それぞれの試験組成物についてサイクル数または秒数を求める。
【0123】
【表1】
【0124】
LCF、HPFまたはVHPFの標準製造法:
1)約半量の水の中にレオロジー調節剤の全量を加え、約5分間かけてこの混合物を分散させる;
2)(もし加えるならば)濡れ剤、たとえば(限定されるわけでない)Co−630を添加し、約5分間かけて分散させる;
3)消泡剤、たとえば(限定されるわけでない)コロイズ(Colloids,登録商標)675(登録商標)および(もし加えるならば)中和剤、たとえば(限定されるわけでない)AMP−95(登録商標)を添加し、その混合物を分散させる;
4)(もし加えるならば)摩擦調節剤を少量ずつその混合物に添加するが、添加するたびに完全に分散させ、その後に次の添加を行う;
5)(もし加えるならば)潤滑剤を少量ずつ添加するが、添加するたびに完全に分散させ、その後に次の添加を行う;
6)混合物を5分間分散させる;
7)バットからサンプルを採り、必要に応じて粘度、比重、濾過試験を行って、内容物を所望の規格に適合するように調整する;
8)分散機の速度を落とし、効力維持剤、粘稠性調節剤、凝固点降下剤(もし加えるならば)および保存剤を添加する。場合によっては、それまでに加えていなかった濡れ剤および消泡剤を添加して分散させることもできる;
9)残りの水を添加して、完全に混合する。
【0125】
凝固点温度の標準測定法
凝固点温度は、ニスク・インストラメンツ(Nisku Instruments)からの凝固点測定器を用いて求めた。その試験器はもともと、ジェット燃料の凝固点を測定するためのASTM試験法(ASTM D2386)のために設計されたものである。一般的には、試験を実施するためには、サンプルを試験管にとり、それを冷媒として固体二酸化炭素で冷却したイソプロピルアルコールが入っているデュワー瓶の中に入れ、温度計と撹拌器をサンプルチューブの中にサンプルの液レベルより下で挿入する。試験操作の間、撹拌器を用いてサンプルに一定の撹拌を加える。冷却させながらサンプルの温度挙動を追跡して、温度が平坦域になったところをそのサンプルの凝固点とする。
【0126】
LCF、HPFおよびVHPF組成物のサンプルの例を下記の表2、3および4に示す。それらの組成物のそれぞれについてアムスラー試験の結果を、表1A、1Bおよび1Cに示す。
【0127】
【表2】
【0128】
表2のLCF組成物は、先に述べたようにして調製し、アムスラー試験機を用いて試験する。LCF組成物についてのアムスラー試験の結果を図1Aに示す。これらの結果から、LCF組成物は、クリープレベルが上がっても摩擦係数が低いことが特徴であることがわかる。
【0129】
【表3】
【0130】
表3に記したHPF組成物について、クリープレベルを変えてアムスラー試験をした結果を図1Bに示す。HPF組成物は、クリープレベルを上げると摩擦係数も大きくなるのが特徴である。
【0131】
効力維持剤を添加することによる、他の鋼鉄表面と滑り−転がり接触をしている鋼鉄表面に塗布したHPF組成物の効果の延長
表3の組成物で、アクリル樹脂の効力維持剤(ロープレックス(Rhoplex)284)のレベルを0%、3%、7%、10%と変化させた。効力維持剤の量を増やす場合には、水と置き換える形にした(重量%基準)。これら成分量を変えた組成物をアムスラー試験機で(クリープレベル、3%)試験して、その組成物が摩擦係数を低い一定の値に保ち得る時間の長さを測定した。摩擦係数が0.4に達するまで試験を続けた。その結果を図3Aに示したが、効力維持剤を加えていくと、HPF組成物の効果(摩擦係数の減少)の持続時間が長くなることがわかる。効力維持剤を全く含まないHPF組成物では、約3000サイクル後には係数が0.4に達する。効力維持剤を3%含んだHPF組成物では、そのサイクル数が4,000に増加する。アクリル樹脂の効力維持剤を7%含むHPF組成物では、6200サイクルまでは摩擦係数が0.4以下であり、アクリル樹脂の効力維持剤を10%含むHPF組成物では8,200サイクルにまで達する。
【0132】
表3の組成物を変更して、数種類の異なった効力維持剤が組成物中に16%のレベルで含まれるようにした。効力維持剤は、水と置き換える形で添加した(重量%基準)。こうして得られる各種の組成物をアムスラー試験機で試験(クリープレベル、3%)して、その組成物の摩擦係数が0.4以下を保つサイクル数を測定した。結果を表3Aに示す。
【0133】
【表4】
【0134】
これらの結果から、一連の膜形成性の効力保持剤は、本発明の摩擦調節組成物の効力維持性を改良させていることがわかる。
【0135】
エポキシ系の効力維持剤の効果
表3の組成物を変更して、エポキシ系の効力維持剤(アンカレッズ(Ancarez,登録商標)AR550)のレベルを0%、8.9%、15%および30%とした。効力維持剤の量を増やす場合には、重量%基準で水と置き換える形にした。こうして得られる各種の組成物をアムスラー試験機で試験(クリープレベル、3%)して、その組成物の摩擦係数が0.4以下を保つ、サイクル数を測定した。その結果から、エポキシ系の効力維持剤を加えていくと、HPF組成物の効果(摩擦係数の減少)の持続時間が長くなることがわかる。効力維持剤を全く含まないHPF組成物では、約3,200サイクル後には摩擦係数が増加をしめす。エポキシ系の効力維持剤を8.9%含んだHPF組成物では、そのサイクル数が約7957サイクルにまで増加する。エポキシ系の効力維持剤を15%含むHPFでは、約15983サイクルまでは摩擦係数が低いままであり、エポキシ系の効力維持剤を30%含むHPFでは、約16750サイクルまでの間摩擦係数が低い。
【0136】
異なった種類の硬化剤についても試験をして、滑り−転がり接触をしている二つの鋼鉄表面の間における組成物の効力維持性に何らかの変化が認められるかどうかを見た。アンクアミン(Anquamine)419またはアンクアミン(Anquamine)456を樹脂の硬化剤に対する比(重量%基準)で約0.075から約0.18までの範囲で加えても、HPFの効力維持性は、それまでに観察された高いレベルから変化なく、約3,000から約4,000秒(15480サイクル)であり、硬化剤を試験した全範囲でそうであった。エポキシ系の効力維持剤(アンカレッズ(Ancarez,登録商標)AR550;HPF組成物中に28重量%)を含む組成物にこれら2種類のどちらの硬化剤を併用しても、その効力維持性に対する影響はなく、増減はなかった。しかしながら、アンカミン(Ancamine)K54の量を樹脂の硬化剤に対する比(重量%基準)で0.07から約0.67まで増やしていくと、HPF組成物の効力維持性は上昇していき、0.07(樹脂:硬化剤、重量%;試験した他の硬化剤と当量)の場合で約4,000秒(15500サイクル)、0.28(樹脂:硬化剤、重量%)で約5,000秒(19350サイクル)、0.48(樹脂:硬化剤、重量%)で7,000秒(27,000サイクル)、そして0.67(樹脂:硬化剤、重量%)で約9,300秒(35990サイクル)となった。
【0137】
硬化剤をまったく含まず、エポキシの量が28重量%のHPF組成物について、アムスラー試験機により測定した効力維持性は、エポキシと硬化剤とを含むHPF組成物の場合(約4,000秒、15500サイクル)よりも高く、約6900秒(26700サイクル)となった。摩擦調節組成物中のエポキシ樹脂の量を増やすとさらに高い効力維持性が観察され、たとえば樹脂を78%含む組成物では8,000秒(アムスラー試験機による測定)となる。しかしながら、組成物に添加し得る樹脂の量は、摩擦調節剤の効果がうち消される程には多くしてはならない。摩擦調節剤組成物と硬化剤のために別々の貯蔵容器を使用することに制限がある状況下や、摩擦調節組成物を簡便に塗布する必要があるような場合には、硬化剤を全く使用しない配合の有用性が発揮されるであろう。
【0138】
これらの結果から、エポキシ樹脂によって、本発明の摩擦調節組成物の効力維持性が改良されることがわかる。
【0139】
【表5】
【0140】
表4に記載された組成物についてのアムスラー試験の結果を図1Cに示す。VHPF組成物は、クリープレベルを上げると摩擦係数も大きくなるのが特徴である。
【0141】
実施例2:液状摩擦調節組成物−組成例1
この実施例では、高い正の摩擦係数を示すことを特徴とする別の液状の摩擦調節組成物の調製について述べる。この組成物の成分を表5に記す。
【0142】
【表6】
【0143】
プロピレングリコールは低温時の性能を向上させるために、約20%まで増やしてもよい。この組成物は実施例1と同様にして調製する。
【0144】
霧化スプレーシステムを使用してレールの頭頂部に表6の組成物を塗布したが、このスプレーシステムには、液状の組成物を一連の定量ポンプを介して容器からフィードするメインポンプを使用した。組成物が計量されて空気・液体ノズルに送られ、そこでメインの液流が100psiの空気によって霧化される。このようにして、決められた量の組成物をレールの頭頂部に塗布することができる。塗布割合としては、0.05L/マイル、0.1L/マイル、0.094L/マイル、0.15L/マイルを用いた。この組成物を試験用軌道に塗布したが、これは全周2.7マイルの高荷重軌道で、典型的な条件に合わせた幾つかの軌道区域で構成されている。試験用の列車は積算で1日当たり1.0百万グロストン(MTG)の交通密度とし、高車軸荷重の39トンを使用する。列車の速度は、最高で40mphとする。この試験の間、牽引力と横圧は常法にしたがって測定した。
【0145】
非コーティング軌道(レール頭頂部の処理なし、ただし、線路脇用潤滑油(典型的にはオイル)は使用)では、横圧が約9から約13キップ(kips)の間で変動した(図3B参照)。HPF(表5の組成物)をレールの頭頂部に塗布すると、横圧が約10キップ(対照、HPF塗布なし)から、塗布割合が0.05L/マイルの時で約7.8キップ、0.1L/マイルで約6キップ、0.094L/マイルで約5キップ、0.15L/マイルで約4キップとなった(ハイレール測定;図3D)。表5のHPF組成物の場合でも、効力維持剤の存在下と非存在下では同様な結果が得られた。
【0146】
HPF組成物の効力維持性を調べるために、HPF(表5のもの、効力維持剤を含む)をレールの頭頂部に塗布し、16時間かけて固化させてから列車を通過させた。約5000回の車軸通過までは、横圧が減少しているのが観察された(図3C)。効力維持剤をまったく使用しないと、100〜200回の車軸通過後には、横圧の上昇が観察される(データ省略)。列車が軌道を通過するのに合わせて表5のHPF組成物をレールの頭頂部に塗布し、固化に全く時間をかけなかった場合には、その中間のレベルの効力維持性が観察される。これらの条件下では、HPFの塗布を止めると、約1200回の車軸通過後には横圧が増加することが観察される(図3D)。
【0147】
表5の液状の摩擦調節組成物を使用することにより騒音が抑制されることも観察される。HPF塗布の有りまたは無しの状態における騒音レベルを、B&K騒音計を用いて記録した。レールの頭頂部処理が全くない場合、騒音レベルは約85から95デシベルであったが、0.047L/マイルの割合でHPFを塗布すると、騒音レベルは約80デシベルまで低下した。
【0148】
レールの頭頂部にHPFを塗布することによって、牽引力(kw/時)が低下することも観察される。HPFの塗布がない場合、全くの無処理では牽引力が約332kw/時であるのに対し、線路脇用潤滑剤の存在下では牽引力は約307kw/時となるのが観察される。HPF(表5の組成物)を塗布すると、塗布割合が0.15L/マイルの場合で、牽引力は約130〜約228となるのが観察された。
【0149】
したがって、表5のHPF組成物を使用することによって、レールの曲線部における横圧、騒音、エネルギー消費量および軽レールシステム(light rail system)における波状摩耗の開始を抑制することができる。この液状摩擦調節組成物は霧化スプレーによってレールに塗布することができるが、塗布方法が霧化スプレーに限定されることはないし、この組成物をレールにしか使用しないというわけでもない。さらに、効力維持剤を加えることによりHPF組成物の効力維持性が向上するのが観察されるが、これは、アムスラー試験機を使用して観察されたデータを支持するものである。
【0150】
実施例3:液状の摩擦調節組成物−HPF組成例2
この実施例においては、高い正の摩擦係数を示すことを特徴とする液状組成物について述べる。この組成物の成分を表6に記す。
【0151】
【表7】
【0152】
この液状摩擦調節組成物は実施例1と同様にして調製し、霧化スプレーによってレールに塗布することができるが、塗布方法が霧化スプレーに限定されることはないし、この組成物をレールにしか使用しないというわけでもない。
【0153】
この液状の摩擦調節組成物は、レールの曲線部における横圧、騒音、波状摩耗の開始を抑制し、エネルギー消費量を抑えることができるので、レールシステム中において使用するのには好適である。
【0154】
実施例4:液状の摩擦調節組成物−組成例3
この実施例では、高い正の摩擦係数を示すことを特徴とする、線路脇から使用される複数の液状の摩擦調節組成物の調製について述べる。これらの組成物の成分を表7に記す。
【0155】
【表8】
【0156】
プロピレングリコールは低温時の性能を向上させるために、約20%まで増やしてもよい。メトセル(Methocel,登録商標)F4Mは、薬剤の粘度を上昇させるために約3%まで増やしてもよい。メトセル(Methocel,登録商標)はまた、ベントナイト/グリセリンの組合せと置換えることもできる。
【0157】
上に開示した液状の摩擦調節組成物は線路脇用摩擦調節組成物として使用できるが、そのような使用法だけに限定されるものではない。
【0158】
実施例5:液状摩擦調節組成物−組成例4
この実施例では、高い正の摩擦係数を示すことを特徴とするその他いくつかの液状の摩擦調節組成物の調製について述べる。これらの組成物の成分を表8に記す。
【0159】
【表9】
【0160】
プロピレングリコールは低温時の性能を向上させるために約20%まで増やしてもよい。
【0161】
この液状摩擦調節組成物およびその変更処方は、霧化スプレーによってレールに塗布することができるが、塗布方法が霧化スプレーに限定されることはないし、この組成物をレールにしか使用しないというわけでもない。
【0162】
本発明の液状の摩擦調節組成物は、レールの曲線部における横圧、騒音、波状摩耗の開始を抑制し、エネルギー消費量を抑える。
【0163】
実施例6:液状摩擦調節組成物−組成例5
この実施例では、非常に高い正の摩擦係数を示すことを特徴とする別の液状の摩擦調節組成物の調製について述べる。この組成物の成分を表9に記す。
【0164】
【表10】
【0165】
プロピレングリコールは低温時の性能を向上させるために約20%増やしてもよい。
【0166】
この液状摩擦調節組成物およびその変更処方は、霧化スプレーによってレールに塗布することができるが、塗布方法が霧化スプレーに限定されることはないし、この組成物をレールにしか使用しないというわけでもない。
【0167】
本発明の液状の摩擦調節組成物は、レールの曲線部における横圧、騒音、波状摩耗の開始を抑制し、エネルギー消費量を抑える。
【0168】
実施例7:液状摩擦調節組成物−組成例6
この実施例では、低い摩擦係数を示すことを特徴とする液状の摩擦調節組成物の調製について述べる。この組成物の成分を表10に記す。
【0169】
【表11】
【0170】
実施例7:液状摩擦調節組成物−組成例7
この実施例では、低い摩擦係数を示すことを特徴とする液状の摩擦調節組成物であって、効力維持剤のロープレックス(Rhoplex,登録商標)AC264を含むものと含まないものの調製について述べる。これらの組成物の成分を表11に記す。
【0171】
【表12】
【0172】
これらの組成物の効力維持性を、実施例1と同様にしてアムスラー試験機を用いて測定した。それぞれの組成物について、30%のクリープレベルで、摩擦係数が0.4に達する点までのサイクル数を測定した。効力維持剤がない場合には、LCFで摩擦係数が0.4に達するまでのサイクル数は300〜1100サイクルであった。効力維持剤があると、そのサイクル数は20,000〜52,000サイクルにまで上がった。
【0173】
実施例8:効力維持剤の存在下または非存在下における抗酸化剤を含む組成物
スチレンブタジエン系効力維持剤
組成物を実施例1と同様にして調製したが、ただし、標準製造法のステップ1において組成物に、効力維持剤(たとえばダウ(Dow)226)と同時に、チオエステルとヒンダードフェノールの相乗効果ブレンド、この場合にはオクトライト(Octolite,登録商標)424−50を抗酸化剤として加えた。抗酸化剤系の摩擦調節組成物の例を表12に記す。この組成物には、スチレンブタジエン系の効力維持剤(ダウ226NA(Dow 226NA,登録商標))が含まれている。
【0174】
【表13】
【0175】
これらの組成物の効力維持性を、実施例1の記載と実質的に同様にしてアムスラー試験機を用いて測定した。それぞれの組成物を8枚のディスクに、乾燥重量1g〜7gの範囲で塗布した。ディスクは少なくとも2時間は乾燥させ、次いで3%クリープの条件でアムスラー試験機にかけた。それぞれの試験では、摩擦調節組成物の消尽重量と、摩擦係数(CoF)が0.40に達するまでの時間とをベースにした点で結果を表した。これらの点(重量、時間)をグラフにして、回帰分析にかけた。これにより、それぞれのサンプルについての測定点の集合と最適適合の直線とが得られた。回帰分析で得られた点を利用して消尽速度(重量/時間)に換算した。これらの消尽速度を平均し、データの標準誤差を計算した。消尽速度が低いほど、より長く効力維持性が保たれるということを示している。
【0176】
効力維持剤が存在し、抗酸化剤が存在または非存在の場合についての典型的な実験例を図5に示す。ダウ・ラテックス226(Dow Latex 226,登録商標)(スチレン系効力維持剤)を含むが抗酸化剤を含まない組成物では、図5に示された消尽速度は、0.0013mg/分であった。ダウ・ラテックス226(Dow Latex 226,登録商標)と抗酸化剤(オクトライト(Octolite,登録商標)424−50)とを含む組成物では、消尽速度は0.0005mg/分となり、抗酸化剤が存在するとその組成物の効力維持性が高くなることがわかる。
【0177】
効力維持剤と組合せてウィングステイ(Wingstay,登録商標)Sを使用した場合にも同様の結果が得られ、その組成物では消尽速度が0.0009mg/分であった(データは示さず)。
【0178】
さらに、効力維持剤がなくても、抗酸化剤のオクトライト(Octolite,登録商標)424−50が存在すれば、その組成物の効力維持性が同様に向上することも観察される(図6)。
【0179】
アクリル樹脂系効力維持剤
組成物を実施例1と同様にして調製したが、ただし、標準製造法のステップ1で組成物に、効力維持剤と同時に、抗酸化剤(この場合にはオクトライト(Octolite,登録商標)424−50)を添加した。この場合の効力維持剤は、アクリル系のロープレックス(Rhoplex,登録商標)AC−264であった。抗酸化剤系の摩擦調節組成物の例を表13に記す。
【0180】
【表14】
【0181】
表13に記した組成物の効力維持性を実施例8の場合と同様にしてアムスラー試験機を用いて測定した。抗酸化剤がない組成物の場合の消尽速度が0.0026mg/分であるのに対し、アクリル系の効力維持剤、ロープレックス(Rhoplex,登録商標)AC264を含む組成物の消尽速度は約0.0019となったので、効力維持剤の存在下では組成物の効力維持性が向上することがわかる。
【0182】
実施例9:各種の抗酸化剤を含む組成物
組成物を実施例1と同様にして調製したが、ただし、標準製造法のステップ1で組成物に効力維持剤を添加または非添加で各種の抗酸化剤を加えた。試験に用いた抗酸化剤は以下のものである:
アミン型抗酸化剤、たとえばウイングステイ(Wingstay,登録商標)29(グッドイヤー・ケミカルズ(Goodyear Chemicals));
スチレン化フェノール型抗酸化剤、たとえばウイングステイ(Wingstay,登録商標)S(グッドイヤー・ケミカルズ(Goodyear Chemicals));
ヒンダード型抗酸化剤、たとえばウイングステイ(Wingstay,登録商標)L(グッドイヤー・ケミカルズ(Goodyear Chemicals));
チオエステル型抗酸化剤、たとえばウイングステイ(Wingstay,登録商標)SN−1(グッドイヤー・ケミカルズ(Goodyear Chemicals));
ヒンダードフェノールとチオエステルとを含む相乗効果ブレンド、たとえばオクトライト(Octolite,登録商標)424−50(チアルコ・ケミカル(Tiarco Chemical))。
試験した組成物を表14に記す。
【0183】
【表15】
【0184】
表14に記した組成物の効力維持性を実施例8の場合と同様にしてアムスラー試験機を用いて測定した。それぞれの組成物の消尽速度は図7Aに示されている。図7Aからわかるように、抗酸化剤を含まない摩擦調節組成物の場合に比較して、すべての抗酸化剤が摩擦調節組成物の効力維持性の向上を示した。抗酸化剤の濃度を高くすると(「相乗効果剤HC」)、消尽速度を低下させる効果が一段と大きくなった。
【0185】
表14に記したのと同様な一連の組成物を調製したが、ただし、組成物には効力維持剤(ロープレックス(Rhoplex,登録商標)AC−264)を添加し(8.82重量%)、それに相当する分だけ水の重量%を減らした。これらの組成物の効力維持性は、実施例8の場合と同様にしてアムスラー試験機で測定した。それぞれの組成物の消尽速度は図7Bに示されている。抗酸化剤を含まない摩擦調節組成物の場合に比較して、試験したすべての抗酸化剤が摩擦調節組成物の効力維持性の向上を示した。この場合もまた、抗酸化剤の濃度を高くすると(「相乗効果剤HC」)、消尽速度を低下させる効果が一段と大きくなった。
【0186】
実施例10:金属表面から液状の凝固点降下剤を除去するのに必要な時間
凝固点降下剤を含むHPFまたはVHPF組成物を用いて処理した金属表面の滑り−転がり接触における滑りを抑制する目的で、その組成物の凝固点降下剤成分を選択して、鋼鉄表面の間で発生する、たとえば列車の車輪が処理したレールに接触することによる、圧力および熱のもとで、蒸発、脱水または分解するような特性を有するようにすることができる。
【0187】
この実施例においては、摩擦調節組成物の液状成分の一部を形成することが可能な液状凝固点降下剤の候補のいくつかについて、レール/車両の車輪界面をシミュレートした1対の接触している金属表面から、それらを除去するのに必要な時間に関する評価を行う。接触している金属表面から、プロピレングリコールの場合よりも短い消失時間を示すような凝固点降下剤が、本発明のVHPF、HPFおよびLCF組成物において適していると考えられる。プロピレングリコールの場合よりも長い消失時間を示す凝固点降下剤は、HPFおよびLCF組成物の中で使用することができる。
【0188】
凝固点降下剤は、フリージング・ポイント・デバイス(Freezing Point Device,ニスク・インストラメンツ(Nisku Instruments)製)を使用して凝固点温度を試験することによって識別された。サンプルの凝固点降下剤をサンプルチューブにとり、それを固体二酸化炭素で冷却したイソプロピルアルコールが入っているデュワー瓶の中に挿入する。温度計と撹拌器とをサンプルチューブの中へ入れる。サンプルの凝固点は、サンプルの温度低下が一定となるところを観察する。凝固点降下剤を求めるためには、その降下剤を水と共に混合し、−20℃の凝固点を得るために必要な降下剤の量を求めた(データは示さず)。降下剤−水混合物中に50%(w/w)以下の量で存在し、その凝固点が−20℃以下であるような凝固点降下剤は、さらなる試験をするのに適したものとみなした。
【0189】
凝固点降下剤の消失時間は、実施例1に記載したようなアムスラー試験機を用いて求めたが、ただし、レールディスク上に所望の厚みのコーティングを与えるよう調節しながら、クリーンにしたレールディスクに凝固点降下剤だけを塗布した。凝固点降下剤は、細いペイントブラシを用いて塗布し、レールディスクの表面に完全な塗膜を作るようにした。組成物の塗布量は、組成物を塗布する前後のディスクの重量測定により求めた。コーティングの量は、ディスク1枚あたり、2〜12mgの範囲であった。そのディスクをアムスラー試験機の上に取り付け、互いに接触させて、約760Nの荷重下においた。塗布したサンプルは、試験の前に乾燥時間を与えることなく、レールディスクに塗布した直後に試験を行った。試験は3〜4%のクリープレベルで実施した(ディスク直径53mmおよび49.5mm)。摩擦係数は、アムスラー試験機の二つのホイールを一定速度(232.2RPM)で回転させながら測定したトルクから、コンピューターを用いて求めた。ディスクからそれぞれのサンプルを除去するのに必要な時間、すなわち消失時間は、摩擦係数を0.4に達するようにするのに必要とした時間とした。この試験の結果を表15に示す。
【0190】
【表16】
【0191】
これらの試験から、凝固点降下剤のいくつかは、プロピレングリコール(2468秒)の消失時間よりも短い消失時間を示し、そのためHPF、VHPFおよびLCF組成物において使用するのに適していることが示された。
【0192】
潤滑剤成分たとえばHPFおよびLCF組成物を含む本発明のいくつかの組成物においては、その組成物に潤滑性を付与する溶媒成分の存在が受容可能であり、その凝固点降下剤成分は、蒸発、脱水または分解によってその組成物から直ちに除去される必要はない。したがって、プロピレングリコールの消失時間よりも長い消失時間を示す凝固点降下剤もまた、本発明のHPFまたはLCF組成物の中で使用できる。
【0193】
凝固点降下剤の消失時間は、それらの蒸気圧の値と相関がある。したがって、蒸気圧の値もまた、候補化合物の群から好適な凝固点降下剤の候補を選択する際の手段として使用することができる。約0.1(20℃)以上の蒸気圧を有することを特徴とする凝固点降下剤は、正の摩擦特性を示す摩擦調節組成物、たとえばHPFおよびVHPF組成物、さらにはLCF組成物において使用することができる。同様にして、約0.1(20℃)未満の蒸気圧を有することを特徴とする凝固点降下剤は、潤滑剤を含む摩擦調節組成物、たとえばLCFおよびHPF組成物において使用するのに好適であろう。
【0194】
実施例11:HPF液状摩擦調節組成物
この実施例においては、高い正の摩擦係数を示すことを特徴とする液状組成物について述べる。それらの組成物の成分および関連する凝固点を、表16および17にリストアップした。表16および17において、左から右への順で、PG(プロピレングリコール);ダウアノール(Dowanol,登録商標)DPM;プログライド(Proglyde,登録商標)DMM(2種の濃度);アクロソルブ(Acrosolv,登録商標)PTB;アクロソルブ(Acrosolv,登録商標)PnP;およびクライオテック(Cryotech,登録商標)PnPを凝固点降下剤(FDP)として使用している。
【0195】
2種以上の凝固点降下剤を共に混合すると相乗効果、すなわち凝固点の低下が認められるので、本明細書に記載する組成物の中で、凝固点降下剤を組み合わせたものを使用することも可能である。たとえばプロピレングリコール(7%w/w)とダウアノール(Dowanol,登録商標)DPM(23.5%w/w)の両方を含む組成物は−24.5℃の凝固点を示すが(表16参照)、それに対して、プロピレングリコールまたはダウアノール(Dowanol,登録商標)DPMのいずれかだけをそれ自体30.5%(w/w、プロピレングリコールおよびダウアノール(Dowanol,登録商標)DPMの全量)含む組成物は、それぞれ、−15℃または−9℃の凝固点を示すにとどまる。同様にして、プロピレングリコール(14.83%w/w)とプログライド(Proglyde,登録商標)DMM(19.0%w/w)との両方を含む組成物は、−28.0℃の凝固点を示す(表16参照)。しかしながら、プロピレングリコールまたはプログライド(Proglyde,登録商標)DPMのいずれかだけをそれ自体33.83.0%(w/w、プロピレングリコールおよびダウアノール(Dowanol,登録商標)DPMの全量)含む組成物は、それぞれ、−20℃または−10℃の凝固点を示すにとどまる。同様の相乗効果が得られることが、凝固点降下剤の他の組合せにおいても観察された(たとえば表16参照)。
【0196】
【表17】
【0197】
【表18】
【0198】
この液状摩擦調節組成物は実施例1と同様にして調製し、霧化スプレーによってレールに塗布することができるが、塗布方法を霧化スプレーに限定することはないし、この組成物をレールにしか使用しないというわけでもない。
【0199】
液状の制御組成物のそれぞれを日光に暴露されるレールの区間に塗布し、薬剤が塗布された直後にそのレールの上に18軸からなる列車を通過させた。レールの頭頂部の摩擦係数をプッシュ・トライボメータ(push tribometer)で測定すると、いずれの場合も約0.33であることが判ったが、これは、薬剤に要求される範囲の内である。
【0200】
この液状の摩擦調節組成物は、レールの曲線部における横圧、騒音、波状摩耗の開始を抑制し、エネルギー消費量を抑えることができるので、レールシステム中において使用するのには好適である。
【0201】
実施例12:摩擦調節組成物(HPF)
この実施例においては、高い正の摩擦係数を示すことを特徴とするまた別の組成物について述べる。この組成物の成分を表18に記す。この組成物は、−28℃の凝固点を示す。
【0202】
【表19】
【0203】
この摩擦調節組成物は、混合ドラムの中に室温で、水の全量の内の35%に、レオロジー調節剤(すなわち、ベントナイト(モンモリロナイトナトリウム))および濡れ剤(すなわち、ノニルフェノキシポリオール)を徐々に添加して調製する。この混合物の成分を充分に混合すると、粘稠なゲルが形成される。混合しながら、残りの成分を以下の順序で加える:水(残りの65%)、アンモニア、エーテルE.B.(使用するならば)、その他各種液状物、必要に応じて固体の潤滑剤(たとえばモリブデン)およびその他の固形物。それらの成分を完全に混合して、均質な混合物とすることにより、固体の潤滑剤を確実に充分に分散させる。得られる組成物は粘度が高く、チキソトロピックな液状物で、静置するとゼリー状となる。撹拌またはポンプ輸送すると、その組成物の粘度が低下する。その組成物は、連続相がレオロジー調節剤であるマトリックスであって、不連続相の固体潤滑剤を含む。
【0204】
上述の組成物は、当業者周知のたとえばポンプまたはブラシの手段を用いて、連結部またはレール表面などに塗布することができる。その組成物は、組成物の膜がレールの上に均質に広がるように塗布する。その膜は、直径がおよそ1/8インチのビーズとなるのが好ましい。
【0205】
結合剤は、組成物中の水を吸収することによって機能する。時間が経過すると、組成物が脱水されて固体のビーズを残し、それによって、潤滑剤および摩擦調節剤が、前に使用されたグリースまたはポリマー潤滑剤組成物の上でレールへ付着するのを促進する。 その結合剤はさらに、レールの上を車輪が通過した後も潤滑剤および摩擦調節剤の分散状態を維持し、また水の再吸収を抑制する。したがって、その組成物は雨によって簡単に除去されるようなことはない。
【0206】
この摩擦調節組成物は、レールの曲線部における横圧、騒音、波状摩耗の開始を抑制し、エネルギー消費量を抑えることができるので、レールシステム中において使用するのには好適である。
【0207】
実施例13:液状摩擦調節組成物(VHPF)
この実施例においては、高い正の摩擦係数を示すことを特徴とする液状組成物について述べる。この組成物の成分を表19に記す。この組成物は、−28℃の凝固点を示す。
【0208】
【表20】
【0209】
この液状摩擦調節組成物は実施例22と同様にして調製し、霧化スプレーによってレールに塗布することができるが、塗布方法を霧化スプレーに限定することはないし、この組成物をレールにしか使用しないというわけでもない。
【0210】
この組成物は、滑りの相対速度(クリーページ)が0から約2.5%に上がるにつれて、0〜0.45の範囲の正の鋼鉄対鋼鉄摩擦特性を与え、クリーページが約30%まで上がると、その値も約0.72まで上がる。それらの摩擦係数のレベルは、従来の潤滑剤によって得られる鋼鉄対鋼鉄の摩擦係数よりも実質的に高く、米国特許第5,173,204号明細書および米国特許第5,308,516号明細書に開示されている潤滑剤組成物の摩擦係数よりも高い。
【0211】
実施例14:液状摩擦調節組成物(LCF)
この実施例においては、高い正の摩擦係数を示すことを特徴とする液状組成物について述べる。この組成物の成分を表20に記す。この組成物は、−28℃の凝固点を示す。
【0212】
【表21】
【0213】
この液状摩擦調節組成物は実施例22と同様にして調製し、霧化スプレーによってレールに塗布することができるが、塗布方法を霧化スプレーに限定することはないし、この組成物をレールにしか使用しないというわけでもない。
【0214】
実施例12に記載したのと同様な試験を実施したところ同様の結果が得られた。
【0215】
実施例15:レールの頭頂部へのHPF摩擦調節組成物塗布によるレールの摩耗の抑制
この実施例では、レールの頭頂部にHPF摩擦調節組成物を塗布することによってレールのゲージおよびヘッドの摩耗速度を抑制することが可能であることを示す。この実施例においては、ノース・バンクーバー(North Vancouver)とスクアミッシュ(Squamish)との間の35.5マイルのメイン軌道(マイル3.5から39まで)において、ハイレール(Hi−rail)塗布システムから霧化スプレーとして下記のHPF摩擦調節組成物を塗布した。
【0216】
【表22】
【0217】
噴霧塗布は、1週間に5日実施した。マイル3.5から14までの間のすべての曲線部において、両方のレールの頭頂部に、レール1本あたり1.5L/マイルの量で塗布した。マイル14からマイル39までは、曲線部のローレールのみに塗布し、その量はレール1本あたり0.5L/マイルの速度であった。
【0218】
その軌道部分の特性は下記の表に示す通りである。
【0219】
【表23】
【0220】
上記軌道部分における年間平均の輸送トン数は一定で13〜14MGTであった。貨物列車は268,000ポンド(軸荷重33.5トン)である。ほとんどのレールは、ヘッド部分を特別に硬化させたものである。油圧及び機械式のゲージフェースグリース潤滑器によって、軌道のゲージフェースは潤滑されていた。
【0221】
車上搭載型の光学的レールの摩耗測定システムを用いて、レールの摩耗速度と、1997年から現在までに蓄積されたデータに基づく年間軌道プログラム基準(annual track program requirements)を求めた(N.E.フーパー(N.E.Hooper)「レデューシング・レール・コスツ・スルー・イノベーティブ・メソッヅ(Reducing Rail Costs through Innovative Methods)」、レールウェイ・トラック・アンド・ストラクチャーズ(Railway Track and Structures)、1993年7月)。摩擦調節剤塗布の前および後においてノース・バンクーバー(North Vancouver)とスクアミッシュ(Squamish)との間で集めたレールの摩耗データを、インダストリアル・メトリックス・インコーポレーテッド(Industrial Metrics Inc.)からのレール・ウェア・アナリスト(Rail Wear Analyst)ソフトウェア(バージョン8.1.)を用いて解析した。このソフトウェアを使用すれば、大量のレーザーベースまたは光学ベースのレールの摩耗データを、詳しく加工、解析することが可能となる。このソフトウェアは、レールの摩耗速度を従来の値と比較する場合には、特に有用である。図8A〜Dの結果は、1トンあたりに正規化した%ヘッド損耗およびゲージ摩耗速度を曲率の関数として示しているが、A)は1997年6月から2001年6月までの期間(ベースライン)であり、B)は2001年6月から2002年6月までの期間(摩擦調節剤塗布)である。このデータから、TOR摩擦調節剤のスプレー塗布を導入することで、%ヘッド損耗とゲージ摩耗速度のいずれもが、60〜75%の範囲(曲率の大きさに依存する)で抑制されていることが判る。この期間においては、輸送トン数は比較的一定のレベルに留まっていた。図9A〜Bには、1997年から始まって継続的に年ごとに測定した、特定の1カ所の半マイルの区間における、ゲージ摩耗およびヘッド損耗を示している。2002年5月(摩擦調節剤塗布後1年)の測定値が黒で示されていて、その前年以降実質的に摩耗が増えていないことを示している。
【0222】
線路脇用グリース潤滑剤の塗布をせずに、同様の実験を実施したが、その結果%ヘッドおよびゲージ両方の摩耗速度においては同様の抑制が得られ、レールのゲージおよびヘッドの摩耗が同様に制御されていることを示していた。
【0223】
すべての参考文献は、参考として引用し本明細書に組み入れられているものとする。
【0224】
本発明について、好ましい実施態様を述べてきた。しかしながら、本明細書に記載された発明の範囲を逸脱することなく各種の変更や修正が可能であることは、当業熟練者には明らかであろう。明細書中の、「含んだ」(comprising)という用語は、非制限的な(open−ended)用語として使用されており、「含むが、限定はされない(including but not limited to)」というのと実質的に等価であり、また、「含む」(comprises)という用語もそれと同じような意味をもっている。参考文献を引用したからといっても、それらが、本発明に対する先行技術であると認めているわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0225】
【図1】3つのタイプの異なる摩擦調節配合について、摩擦係数と%クリープの関係を表したグラフである。図1Aは、中性の摩擦特性を有することを特徴とする摩擦調節剤における摩擦係数と%クリープの関係を示している(実施例1、LCF参照)。図1Bは、正の摩擦特性を有することを特徴とする摩擦調節剤における摩擦係数と%クリープの関係を示している(実施例1、HPF参照)。図1Cは、正の摩擦特性、さらに詳しくは非常に高い正の摩擦特性を有することを特徴とする摩擦調節剤における摩擦係数と%クリープの関係を示している(実施例1、VHPF参照)。
【図2】乾燥した車輪−レールシステムおよび本発明の液状の摩擦調節組成物を含む車輪−レールシステムについて、貨車の騒音である鳴きを表したグラフである。
【図3】本発明の液状の摩擦調節組成物の効力維持性を表したグラフである。図3Aは、アムスラー試験機を使用して測定した効力維持性を組成物中の効力維持剤(ロープレックス(Rhoplex)AC264)の重量パーセントの関数として表している。図3Bは、摩擦調節剤組成物を一切使用せずに6度の曲線部を繰返して列車を通過させたときの横圧のベースラインを示す。図3Cは6度の曲線部に実施例1(HPF)の摩擦調節組成物を塗布し、固化時間をおかずに繰返して列車を通過させた時の横圧の低下を示す。図3Dは、6度の曲線部に実施例1(HPF)の摩擦調節組成物を0.150L/マイルの割合で塗布した後で、繰返して列車を通過させた時の横圧の低下を示す。横圧の増加が観察されるのは車軸が約5,000回通過してから後であって、摩擦調節剤組成物を列車の運行の前に固化させておく。効力維持剤を使用しないと、約100から200回の車軸通過後には、横圧の上昇が観察される(データ省略)。図3Eは、摩擦調節組成物の塗布割合を上げると、横圧が減少する結果をまとめたものである。
【図4】本発明の液状の摩擦調節組成物の効力維持性を組成物中のレオロジー調節剤の重量パーセントの関数として表したグラフである。
【図5】抗酸化剤(たとえばオクトライト424−50(Octlite 424−50)(登録商標)、ただしこれに限定されるわけではない)および効力維持剤(たとえばダウ・ラテックス226(Dow Latex 226)(登録商標)、ただしこれに限定されるわけではない)を含む液状の摩擦調節組成物の効力維持性をサイクル数および組成物の消尽量の関数として表したグラフである。
【図6】抗酸化剤(たとえばオクトライト424−50(Octlite 424−50)(登録商標)、ただしこれに限定されるわけではない)は含むが効力維持剤を含まない液状の摩擦調節組成物の効力維持性を、サイクル数および組成物の消尽量の関数として表したグラフである。
【図7】効力維持剤の存在下または非存在下における各種の抗酸化剤を含む液状の摩擦調節組成物の効力維持性を表したグラフである。図7Aは、効力維持剤が存在しない場合の各種の抗酸化剤を含む液状の摩擦調節組成物の効力維持性をサイクル数および組成物の消尽量の関数として示したものである。図7Bは、アクリル樹脂系の効力維持剤(ロープレックスAC264(Rhoplex AC264)(登録商標))を存在させた場合の各種の抗酸化剤を含む液状の摩擦調節組成物の効力維持性をサイクル数および組成物の消尽量の関数として示したものである。
【図8】ブリティッシュ・コロンビア州ノース・バンクーバー(North Vancouver,BC)とブリティッシュ・コロンビア州スクアミッシュ(Squamish,BC)との間の軌道の一部におけるゲージとヘッドの摩耗速度(トンあたりに正規化)を曲率の関数として表したグラフである。図8Aは、1997年6月から2001年6月までの軌道のレールゲージ摩耗速度のベースラインを表す。図8Bは、2001年6月から2002年6月までの1年間における軌道のレールゲージ摩耗速度を表すが、ここで、その1年間は軌道のヘッド部分にはHPF摩擦調節組成物を噴霧した。図8Cは、1997年6月から2001年6月までの軌道のヘッド摩耗速度のベースラインを表す。図8Dは、2001年6月から2002年6月までの1年間における軌道のヘッド摩耗速度を表すが、ここで、その1年間は軌道のヘッド部分にはHPF摩擦調節組成物を噴霧した。
【図9A−B】1999年1月から2000年5月までの間、ブリティッシュ・コロンビア州ノース・バンクーバー(North Vancouver,BC)とブリティッシュ・コロンビア州スクアミッシュ(Squamish,BC)との間の1/2マイルの軌道部分におけるレールゲージ摩耗およびレールヘッド摩耗を表したグラフである。その軌道は、2002年5月の測定をするまで、約1年間にわたってHPF摩擦調節組成物を用いて処理した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールの摩耗、鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御するための方法であって、一つ若しくは二つ以上のレールまたは一つ若しくは二つ以上の鉄道車両の車輪の一つまたは二つ以上の接触表面に高い正の摩擦(HPF)組成物を塗布することを含み、前記一つまたは二つ以上のレールと、前記一つまたは二つ以上の鉄道車両の車輪とが滑り接触または滑り−転がり接触している、方法。
【請求項2】
前記一つまたは二つ以上のレールがローレールとハイレールとを含み、そのそれぞれがヘッドおよびゲージフェース/ゲージコーナーを有し、前記HPF組成物が、ローレールのヘッドまたはローレールとハイレールとの両方のヘッドに塗布され、前記ローレールとハイレールとの両方の摩耗が制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記HPF組成物が、ローレールのヘッドに塗布される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記HPF組成物が、ローレールとハイレールとの両方のヘッドに塗布される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記方法が、線路脇用グリース潤滑剤を塗布することなく、実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記HPF組成物をローレール、ハイレールまたはローレールとハイレールとの両方のゲージフェース/ゲージコーナーに塗布することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記HPF組成物が、
(a)約30〜約95パーセントの水;
(b)約0.5〜約50パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.02〜約40重量パーセントの潤滑剤および
(d)約0.5〜約30重量パーセントの摩擦調節剤ならびに
以下のものの一つまたは二つ以上:
(i)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤;
(ii)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤;
(iii)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤および
(iv)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記HPF組成物が、
(a)約40〜約95パーセントの水;
(b)約0.5〜約50パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.5〜約40パーセントの効力維持剤;
(d)約0.5〜約40重量パーセントの潤滑剤および
(e)約0.5〜約25重量パーセントの摩擦調節剤、
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記HPF組成物が、
(a)約40〜約95重量パーセントの水;
(b)約0.5〜約50重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤;
(d)約0.5〜約40重量パーセントの潤滑剤;
(e)約0.5〜約25重量パーセントの摩擦調節剤および
(f)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤、
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記HPF組成物が、
(a)約50〜約80重量パーセントの水;
(b)約1〜約10重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約1〜約5重量パーセントの摩擦調節剤;
(d)約1〜約16重量パーセントの効力維持剤および
(e)約1〜約13重量パーセントの潤滑剤、
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記HPF組成物が、
(a)約50〜約80重量パーセントの水;
(b)約1〜約10重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約1〜約5重量パーセントの摩擦調節剤;
(d)約1〜約16重量パーセントの効力維持剤;
(e)約1〜約13重量パーセントの潤滑剤および
(f)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤、
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記HPF組成物が、
(a)約30〜約55重量パーセントの水;
(b)約0.5〜約20重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤;
(d)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤;
(e)約0.5〜約20重量パーセントの効力維持剤;
(f)約0.02〜約30重量パーセントの潤滑剤および
(g)約0.5〜約30重量パーセントの摩擦調節剤、
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
ハイレールまたはローレールとハイレールとの両方のゲージフェース/ゲージコーナーに中性摩擦特性(LCF)組成物を塗布することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
前記中性摩擦特性(LCF)組成物が、ハイレールのゲージフェースに塗布される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記中性摩擦特性(LCF)組成物が、ローレールとハイレールとの両方のゲージフェースに塗布される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記LCF組成物が、
(a)約30〜約95パーセントの水;
(b)約0.5〜約50パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.02〜約40重量パーセントの潤滑剤および
以下のものの一つまたは二つ以上:
(i)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤;
(ii)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤;
(iii)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤および
(iv)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤、
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記LCF組成物が、
(a)約40〜約80重量パーセントの水;
(b)約0.5〜約50重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤;および
(d)約1〜約40重量パーセントの潤滑剤
を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記LCF組成物が、
(a)約40〜約80重量パーセントの水;
(b)約0.5〜約50重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約1〜約40重量パーセントの潤滑剤;
(d)約0.5〜約90重量パーセントの効力維持剤;および
(e)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤、
を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記LCF組成物が、
(a)約30〜約55重量パーセントの水;
(b)約0.5〜約20重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤;
(d)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤;
(e)約0.5〜約20重量パーセントの効力維持剤;および
(f)約1〜約30重量パーセントの潤滑剤、
を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
二つの鋼鉄要素の一方または両方の摩耗を減少させるための方法であって、高い正の摩擦(HPF)組成物を前記二つの鋼鉄要素の一方または両方の一つまたは二つ以上の表面に塗布することを含み、前記二つの鋼鉄要素が滑り接触または滑り−転がり接触している、方法。
【請求項1】
レールの摩耗、鉄道車両の車輪の摩耗またはその両方を制御するための方法であって、一つ若しくは二つ以上のレールまたは一つ若しくは二つ以上の鉄道車両の車輪の一つまたは二つ以上の接触表面に高い正の摩擦(HPF)組成物を塗布することを含み、前記一つまたは二つ以上のレールと、前記一つまたは二つ以上の鉄道車両の車輪とが滑り接触または滑り−転がり接触している、方法。
【請求項2】
前記一つまたは二つ以上のレールがローレールとハイレールとを含み、そのそれぞれがヘッドおよびゲージフェース/ゲージコーナーを有し、前記HPF組成物が、ローレールのヘッドまたはローレールとハイレールとの両方のヘッドに塗布され、前記ローレールとハイレールとの両方の摩耗が制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記HPF組成物が、ローレールのヘッドに塗布される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記HPF組成物が、ローレールとハイレールとの両方のヘッドに塗布される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記方法が、線路脇用グリース潤滑剤を塗布することなく、実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記HPF組成物をローレール、ハイレールまたはローレールとハイレールとの両方のゲージフェース/ゲージコーナーに塗布することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記HPF組成物が、
(a)約30〜約95パーセントの水;
(b)約0.5〜約50パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.02〜約40重量パーセントの潤滑剤および
(d)約0.5〜約30重量パーセントの摩擦調節剤ならびに
以下のものの一つまたは二つ以上:
(i)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤;
(ii)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤;
(iii)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤および
(iv)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記HPF組成物が、
(a)約40〜約95パーセントの水;
(b)約0.5〜約50パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.5〜約40パーセントの効力維持剤;
(d)約0.5〜約40重量パーセントの潤滑剤および
(e)約0.5〜約25重量パーセントの摩擦調節剤、
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記HPF組成物が、
(a)約40〜約95重量パーセントの水;
(b)約0.5〜約50重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤;
(d)約0.5〜約40重量パーセントの潤滑剤;
(e)約0.5〜約25重量パーセントの摩擦調節剤および
(f)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤、
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記HPF組成物が、
(a)約50〜約80重量パーセントの水;
(b)約1〜約10重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約1〜約5重量パーセントの摩擦調節剤;
(d)約1〜約16重量パーセントの効力維持剤および
(e)約1〜約13重量パーセントの潤滑剤、
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記HPF組成物が、
(a)約50〜約80重量パーセントの水;
(b)約1〜約10重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約1〜約5重量パーセントの摩擦調節剤;
(d)約1〜約16重量パーセントの効力維持剤;
(e)約1〜約13重量パーセントの潤滑剤および
(f)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤、
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記HPF組成物が、
(a)約30〜約55重量パーセントの水;
(b)約0.5〜約20重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤;
(d)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤;
(e)約0.5〜約20重量パーセントの効力維持剤;
(f)約0.02〜約30重量パーセントの潤滑剤および
(g)約0.5〜約30重量パーセントの摩擦調節剤、
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
ハイレールまたはローレールとハイレールとの両方のゲージフェース/ゲージコーナーに中性摩擦特性(LCF)組成物を塗布することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
前記中性摩擦特性(LCF)組成物が、ハイレールのゲージフェースに塗布される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記中性摩擦特性(LCF)組成物が、ローレールとハイレールとの両方のゲージフェースに塗布される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記LCF組成物が、
(a)約30〜約95パーセントの水;
(b)約0.5〜約50パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.02〜約40重量パーセントの潤滑剤および
以下のものの一つまたは二つ以上:
(i)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤;
(ii)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤;
(iii)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤および
(iv)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤、
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記LCF組成物が、
(a)約40〜約80重量パーセントの水;
(b)約0.5〜約50重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.5〜約40重量パーセントの効力維持剤;および
(d)約1〜約40重量パーセントの潤滑剤
を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記LCF組成物が、
(a)約40〜約80重量パーセントの水;
(b)約0.5〜約50重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約1〜約40重量パーセントの潤滑剤;
(d)約0.5〜約90重量パーセントの効力維持剤;および
(e)約0.5〜約2重量パーセントの抗酸化剤、
を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記LCF組成物が、
(a)約30〜約55重量パーセントの水;
(b)約0.5〜約20重量パーセントのレオロジー調節剤;
(c)約0.1〜約20重量パーセントの粘稠性調節剤;
(d)約10〜約30重量パーセントの凝固点降下剤;
(e)約0.5〜約20重量パーセントの効力維持剤;および
(f)約1〜約30重量パーセントの潤滑剤、
を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
二つの鋼鉄要素の一方または両方の摩耗を減少させるための方法であって、高い正の摩擦(HPF)組成物を前記二つの鋼鉄要素の一方または両方の一つまたは二つ以上の表面に塗布することを含み、前記二つの鋼鉄要素が滑り接触または滑り−転がり接触している、方法。
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図4】
【図5】
【図6】
【公表番号】特表2007−523782(P2007−523782A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504126(P2006−504126)
【出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【国際出願番号】PCT/CA2004/000635
【国際公開番号】WO2004/096960
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(502156179)ケルサン テクノロジーズ コーポレーション (1)
【氏名又は名称原語表記】Kelsan Technologies Corp.
【住所又は居所原語表記】#1140−1148 West 15th Street, North Vancouver, British Columbia, V7P 1M9 Canada
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【国際出願番号】PCT/CA2004/000635
【国際公開番号】WO2004/096960
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(502156179)ケルサン テクノロジーズ コーポレーション (1)
【氏名又は名称原語表記】Kelsan Technologies Corp.
【住所又は居所原語表記】#1140−1148 West 15th Street, North Vancouver, British Columbia, V7P 1M9 Canada
【Fターム(参考)】
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