滑り基礎構造
【課題】根切りコスト、免震層構築コスト、免震装置コスト等を大幅に低減した、地震力低減効果の高い滑り基礎構造を提供する。
【解決手段】下部基礎板と上部基礎板の間に、低摩擦抵抗材料を配設した滑り基礎構造であって、上部基礎板内部に空間を設け、該空間に復元力装置を配設したことを特徴とする。
【解決手段】下部基礎板と上部基礎板の間に、低摩擦抵抗材料を配設した滑り基礎構造であって、上部基礎板内部に空間を設け、該空間に復元力装置を配設したことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時に建物に入力される地震力を低減し、建物の耐震性能を向上させる滑り基礎構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震安全対策に対する社会的要請の高まりとともに、大地震発生時に建物に加わる地震力を低減する免震構造が注目されており、既に数多くの免震建物が建設されている。
【0003】
一般に基礎免震と呼ばれる免震構造では、図1に示すような、免震層5の上下に剛強な上部基礎梁3及び下部基礎梁4を設置して、建物の重量を支え、かつ、復元機能を持つ免震装置(積層ゴム)6aと、地震エネルギーを吸収する免震装置(ダンパー)6bを設置する方式の免震構造が多く採用されている。
【0004】
しかしながら、戸建て住宅や低層建物を免震構造化しようとする場合、建物の上屋にかかるコストに対し、根切りコスト、二重の基礎梁構築コスト、免震装置コスト等の免震層構築のためのコストがかかり、コスト面から免震構造化できないケースが多く発生している。
【0005】
このような状況を背景にして、滑り支承手段に減衰機能と復元機能とを持たせた免震装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。この装置は、コンパクトに一体化された構成であり、機能性、施工性の点で優れたものである。
【0006】
しかしながら、この装置では、上部構造体の重量を支える基礎滑り面に集中的に応力が働き、支承部に大きな圧縮応力が働くため、滑り面の滑り材が潰れる可能性が考えられる。そのため、潰れが発生しない滑り材を選定する必要があり、これらの滑り材が限られた高価な材料であるためにコスト高となることが考えられる。また、免震層の設置が必要であり、さらにその分のコストが考慮される。
【0007】
その他の提案としては、建物に対応する表層地盤を掘削して形成した地盤領域とベタ基礎との間に、免震用マット部材を配置し、従来の戸建て住宅工法を大きく変えることなく建物に作用する地震力を低減させることのできる地盤減震構造が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0008】
しかしながら、この提案では復元力装置がなく、ずれた際は地中に設置されているセンタリング機構を用いて、ジャッキ等で建物を元の位置に戻さなければならないため地震後の作業が必要となる。また、センタリング機構が地中に設置されているため、センタリング機構のメンテナンスが容易に行えないという問題がある。また免震用のマットを用いるため、さらにその分コスト高となる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−179621号公報
【特許文献2】特開2008−101451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、根切りコスト、免震層構築コスト、免震装置コスト等を大幅に低減した、地震力低減効果の高い滑り基礎構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の滑り基礎構造は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0012】
第1:下部基礎板と上部基礎板の間に、低摩擦抵抗材料を配設した滑り基礎構造であって、上部基礎板に空間を設け、該空間に復元力装置を配設している。
【0013】
第2:前記第1の滑り基礎構造において、低摩擦抵抗材料の摩擦係数が0.1〜0.3の範囲内である。
【0014】
第3:前記第1又は第2の滑り基礎構造において、復元力装置が、弾性部材と、弾性部材上部を上部基礎板に固定するための固定部材と、弾性部材下部を下部基礎板に固定するための固定部材から構成されている。
【0015】
第4:前記第1又は第2の滑り基礎構造において、復元力装置が、支柱に接合された弾性部材と、弾性部材を空間側面に固定するための固定部材と、支柱を下部基礎板に固定するための固定部材から構成されている。
【発明の効果】
【0016】
上記第1の発明によれば、下部基礎板と上部基礎板の間に低摩擦抵抗材料を配設しているので、滑り支承等の装置を用いることなく安価に建物重量を支え、さらに地震動の上部基礎板への伝達を低減することができる。
【0017】
さらに、上部基礎板内部に空間を設け、該空間に復元力装置を配設しているので、地震後の上部基礎板の残留変形(上部基礎板と下部基礎板のずれ)を制御することができる。
【0018】
上記第2の発明によれば、低摩擦抵抗材料の摩擦係数を0.1〜0.3の範囲内と限定したので、地震動の上部基礎板への低減をより確実に顕著なものとすることができる。
【0019】
上記第3、第4の発明によれば、復元力装置が、固定部材を上・下部基礎板に固定するための固定部材、又は、固定部材を空間側面に固定するための固定部材と、支柱を下部基礎板に固定するための固定部材から構成されているので、復元力装置の設置・交換が簡単であり設置・交換コストを大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来の免震構造を示す概略断面図である。
【図2】本発明の滑り基礎構造を適用した場合の概略断面図である。
【図3】本発明の滑り基礎構造の復元力装置の一形態であり、弾性部材にゴムを使用した場合の概略断面図である。
【図4】本発明の滑り基礎構造の復元力装置の一形態であり、弾性部材にコイルバネを使用した場合の概略断面図である。
【図5】本発明の滑り基礎構造の復元力装置の一形態であり、弾性部材に複数のコイルバネを使用した場合の概略断面図である。
【図6】本発明の滑り基礎構造の復元力装置の一形態であり、弾性部材を支持する支柱と、弾性部材を使用し、弾性部材を複数のせん断ゴムとした場合の概略断面図である。
【図7】本発明の滑り基礎構造の復元力装置の一形態であり、弾性部材を支持する支柱と、弾性部材を使用し、弾性部材を複数のコイルバネとした場合の概略断面図である。
【図8】本発明の滑り基礎構造の復元力装置の地震時の動きを模式的に示した断面図である。(1)は、地震発生前の通常の状態を示す概略断面図である。(2)は、地震発生時、下部基礎板が左に揺れた状態を示す概略断面図である。(3)は、地震発生時、下部基礎板が右に揺れた状態を示す概略断面図である。(4)は、地震が終わった状態を示す概略断面図である。
【図9】(a)は、滑り面を全面とする場合の概略図である。(b)は、滑り面を支承基礎とする場合の概略図である。
【図10】本発明の滑り基礎構造における低摩擦抵抗材料の効果を確認するための装置の概略図である。
【図11】測定結果の加速度と時間の関係を示すグラフである。
【図12】摩擦係数と風荷重による静止摩擦力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0022】
本発明の滑り基礎構造は、図2に示すように、構造物2を支える上部基礎板8と下部基礎板7の間に低摩擦抵抗材料9を配設し、上部基礎板8内部に設けた空間10に復元力装置を配設した構造となっている。
【0023】
本発明の滑り基礎構造に用いる低摩擦抵抗材料9としては、後述する低摩擦抵抗材料9の摩擦係数が範囲内のものであれば特に制限はなく、例えば、黒鉛粉末、黒鉛シート、テフロン(登録商標)シート、高分子系ポリエチレンシート、バリウムフェライトシート、石材等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。また、これらの1種又は2種以上を重ねて用いてもよい。
【0024】
本発明で用いられる上記の低摩擦抵抗材料9は、その摩擦係数が0.1〜0.3の範囲内、好ましくは0.15〜0.25の範囲内である。
【0025】
本発明の免震基礎構造体において、上部基礎板8と下部基礎板7の間に摩擦抵抗の下限値を考慮しない低摩擦抵抗材料9を用いた場合、地震力以外の建築物に加えられる外力、例えば暴風時の風荷重により建築物が動いてしまう可能性が考えられる。
【0026】
このようなこと考慮して、下記実験データをもとに摩擦係数の下限値を見出した。
【0027】
接地面積が10m×10mの平均的な建物を想定した場合の、接地面の摩擦係数と風荷重による静止摩擦力を示すデータとして図12に示すものがある。
【0028】
この結果より、上記の条件においては、摩擦係数が0.1あれば風荷重によって建物が動かないことが考察される。
【0029】
次に、摩擦係数の上限を考慮しない場合には、地震発生時の地震力が加えられても、上部基礎板8と下部基礎板7の間に滑りが発生せず、本発明の滑り基礎構造の効果が十分に発揮されない可能性が考えられる。
【0030】
これに対し、日本建築学会関東支部の「耐震構造の設計」(2003.7.P100)によれば、建物の性能グレードが基準級(免震、耐震、制震性能なし)であって、加速度が300Gal(cm/s2)のときに、建物の修復レベルが小規模修復〜中規模修復のレベルであるとの試算がある。この中規模修復レベルとは、中規模の建物修復により機能がほぼ完全に回復するレベルとされている。
【0031】
ここで、摩擦係数(μ)は加速度(a)と重力加速度(g:980cm/s2)により次式(1)で表される。
μ=a/g (1)
式(1)より、上記中規模修復レベルの基準となる加速度が300Gal(cm/s2)の場合の摩擦係数は約0.3と算出することができる。従って、低摩擦抵抗材料の摩擦係数が0.3以下であれば300Gal(cm/s2)以上の加速度が建物にかからないものと考察される。
【0032】
本発明の滑り基礎構造に用いられる低摩擦抵抗材料9の摩擦係数は、上記のデータを根拠として摩擦係数の下限及び上限を決定するものである。
【0033】
本発明の滑り基礎構造の下部基礎板7は上部基礎板8を、低摩擦抵抗材料9を介してほぼ全面で支持している。滑り面を全面にする優位性については、以下の検討の結果を考慮した。
【0034】
滑り面を全面とする場合と、滑り面を支承基礎とする場合の比較を図9(a)及び図9(b)に示す。
【0035】
図9(a)は、滑り面を全面とする場合を示し、建物の一辺、即ち基礎の一辺をBとしている。図9(b)は、滑り面を支承基礎とした場合を示し、建物の一辺をBとし、一辺がB/20の支承基礎を建物四隅に配置している。
【0036】
ここで、全面基礎とした場合と、支承基礎とした場合のそれぞれの最大軸応力σを比較すると以下のとおりとなる。
【0037】
全面基礎では、軸力:N、基礎底面積:A、建物重量:Wとした場合、N=W、A=B×Bとなり、最大軸応力σを下記式(2)で表すことができる。
σ=N/A=W/B2 (2)
支承基礎では、軸力:N、基礎底面積:A、建物重量:Wとした場合、N=W、A=B2/100となり、最大軸応力σを下記式(3)で表すことができる。
σ=N/A=100W/B2 (3)
全面基礎と支承基礎の、それぞれの最大軸応力σを比較すると、全面基礎とした場合には、支承基礎の場合の1/100の最大軸応力σであることがわかる。即ち、配設する低摩擦材料9にかかる最大軸応力σも1/100であり、低摩擦抵抗材料9の選択幅を広くすることができる。
【0038】
本発明の滑り基礎構造の上部基礎板8内部に設ける空間10は復元力装置を配設するためのものであり、上部基礎板8の強度、及び低摩擦抵抗材料9の表面積が確保される範囲内であれば、空間10の大きさ、形状は特に制限されるものではない。
【0039】
復元力装置は、弾性部材11と、弾性部材11を上部基礎板8に取付け可能な取付鋼板13で構成されている。弾性部材11の上部は取付鋼板13に固定されており、取付鋼板13は上部基礎板8と図示しない取付手段により固定されている。取付手段は特に制限されるものではないが、通常公知の取付手段、例えばボルトとナットによって取付け、固定することができる。
【0040】
弾性部材11の下部は、直接下部基礎板7に固定しても、取付部材を介して固定しても構わない。取付手段としては、取付鋼板13と上部基礎板8と同様の方法により取付け、固定することができる。
【0041】
復元力装置の弾性部材11は、強力な復元力を有するものであれば特に制限はなく、例えば、ゴムやバネ、機械的なショックアブソーバー等を用いることができる。ゴムとしては単層ゴム、積層ゴム、せん断ゴム等、バネとしてはコイルばね等を挙げることができる。またこれらを1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0042】
これらの復元力装置の具体例としては、図3に示すような弾性部材11をゴム12としたものや、図4に示すようなコイルバネ14としたもの、図5に示すような複数のコイルバネ15としたものを例示することができる。
【0043】
さらに、復元力装置の他の具体例としては、図6に示すような、支柱17に接合されたせん断ゴム16と、該せん断ゴム16を空間10側面に固定するための固定部材18と、支柱17を下部基礎板7に固定するための取付鋼板19及び、空間10の上部を塞ぐための蓋20から構成したものや、図7に示すよう複数のコイルバネ21を用いたものを例示することができる。
【0044】
図6、図7のような構成としたものは、図3、図4、図5の構成としたものに比べて復元力装置のメンテナンスをより容易に行うことができるため好ましい。
【0045】
復元力装置は、全てを同一種類のものとしてもよいし、複数種を併用しても構わない。また、その設置個数や大きさ、性能は、建物の大きさ、建物重量に応じて適宜選択的に設定することができる。
【0046】
復元力装置の高さは空間10の高さ(上部基礎板8の高さ)と一致しているため、建物を支えるものではない。即ち、地震力が加わったときに低摩擦抵抗材料9の作用によって生じる上部基礎板8と下部基礎板7の滑りを制御して揺れを抑え、さらに揺れが終わった時点で上部基礎板8と下部基礎板7のズレを元の位置に復元するための装置である。
【0047】
次に、本発明の滑り基礎構造の動作について詳細に説明する。
【0048】
図8(1)〜(4)は、通常時、地震時、地震終了時における、各時点における本発明の滑り基礎構造の動作を示したものである。
【0049】
図8(1)は、弾性部材11には地震力は加わっておらず撓みのない状態である。
【0050】
図8(2)は、地震の発生により下部基礎板7が左方向に揺れた状態であるが、低摩擦抵抗材料9の作用により上部基礎板8の位置には変化がない。従って図示しない構造物内では殆ど揺れを感じていない状態である。
【0051】
図8(3)は下部基礎板7が右方向に揺れた状態であり、図4(2)と同様に低摩擦抵抗材料9の作用により上部基礎板8の位置には変化がない。
【0052】
図8(4)は地震の終了時であり、揺れが終了した時点で弾性部材11の撓みが元に戻ろうとする復元力により上部基礎板8を下部基礎板7と同様の位置に戻す。
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
図10に示す装置を用いて本発明の滑り基礎構造の低摩擦抵抗材料の効果を確認した。
【0055】
図10において、振動台テーブル22上にコンクリート盤23を固定し、この上に摩擦係数0.2の黒鉛粉末24を配設した。さらに黒鉛粉末24の上にピンコロ25及び加速度計26を配設した。
【0056】
この状態で、振動台テーブル22に加速度700Gal(cm/s2)、波長が1.35秒の振動を与えて、ピンコロ25にかかる加速度を測定した。その結果をグラフにして図11に示す。
【0057】
この結果から、加速度700Galの入力に対してピンコロ25にかかる加速度は約200Galであることがわかる。即ち、本発明の低摩擦抵抗材料を配設することにより、その上の構造物には200Galより大きい加速度が加わらないことが確認された。
【0058】
本発明の滑り基礎構造においては、上記の低摩擦抵抗材料の効果に加えて、復元力装置による効果により、さらに優れた耐震効果を有する滑り基礎構造とすることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 地盤
2 構造物
3 上部基礎梁
4 下部基礎梁
5 免震層
6a 免震装置(積層ゴム)
6b 免震装置(ダンパー)
7 下部基礎板
8 上部基礎板
9 低摩擦抵抗材料
10 空間
11 弾性部材
12 ゴム
13 取付鋼板
14 コイルバネ
15 複数のコイルバネ
16 せん断ゴム
17 支柱
18 固定部材
19 取付鋼板
20 蓋
21 複数のコイルバネ
22 振動台テーブル
23 コンクリート盤
24 黒鉛粉末
25 ピンコロ
26 加速度計
27 地盤加速度
28 ピンコロ加速度
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時に建物に入力される地震力を低減し、建物の耐震性能を向上させる滑り基礎構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震安全対策に対する社会的要請の高まりとともに、大地震発生時に建物に加わる地震力を低減する免震構造が注目されており、既に数多くの免震建物が建設されている。
【0003】
一般に基礎免震と呼ばれる免震構造では、図1に示すような、免震層5の上下に剛強な上部基礎梁3及び下部基礎梁4を設置して、建物の重量を支え、かつ、復元機能を持つ免震装置(積層ゴム)6aと、地震エネルギーを吸収する免震装置(ダンパー)6bを設置する方式の免震構造が多く採用されている。
【0004】
しかしながら、戸建て住宅や低層建物を免震構造化しようとする場合、建物の上屋にかかるコストに対し、根切りコスト、二重の基礎梁構築コスト、免震装置コスト等の免震層構築のためのコストがかかり、コスト面から免震構造化できないケースが多く発生している。
【0005】
このような状況を背景にして、滑り支承手段に減衰機能と復元機能とを持たせた免震装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。この装置は、コンパクトに一体化された構成であり、機能性、施工性の点で優れたものである。
【0006】
しかしながら、この装置では、上部構造体の重量を支える基礎滑り面に集中的に応力が働き、支承部に大きな圧縮応力が働くため、滑り面の滑り材が潰れる可能性が考えられる。そのため、潰れが発生しない滑り材を選定する必要があり、これらの滑り材が限られた高価な材料であるためにコスト高となることが考えられる。また、免震層の設置が必要であり、さらにその分のコストが考慮される。
【0007】
その他の提案としては、建物に対応する表層地盤を掘削して形成した地盤領域とベタ基礎との間に、免震用マット部材を配置し、従来の戸建て住宅工法を大きく変えることなく建物に作用する地震力を低減させることのできる地盤減震構造が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0008】
しかしながら、この提案では復元力装置がなく、ずれた際は地中に設置されているセンタリング機構を用いて、ジャッキ等で建物を元の位置に戻さなければならないため地震後の作業が必要となる。また、センタリング機構が地中に設置されているため、センタリング機構のメンテナンスが容易に行えないという問題がある。また免震用のマットを用いるため、さらにその分コスト高となる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−179621号公報
【特許文献2】特開2008−101451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、根切りコスト、免震層構築コスト、免震装置コスト等を大幅に低減した、地震力低減効果の高い滑り基礎構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の滑り基礎構造は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0012】
第1:下部基礎板と上部基礎板の間に、低摩擦抵抗材料を配設した滑り基礎構造であって、上部基礎板に空間を設け、該空間に復元力装置を配設している。
【0013】
第2:前記第1の滑り基礎構造において、低摩擦抵抗材料の摩擦係数が0.1〜0.3の範囲内である。
【0014】
第3:前記第1又は第2の滑り基礎構造において、復元力装置が、弾性部材と、弾性部材上部を上部基礎板に固定するための固定部材と、弾性部材下部を下部基礎板に固定するための固定部材から構成されている。
【0015】
第4:前記第1又は第2の滑り基礎構造において、復元力装置が、支柱に接合された弾性部材と、弾性部材を空間側面に固定するための固定部材と、支柱を下部基礎板に固定するための固定部材から構成されている。
【発明の効果】
【0016】
上記第1の発明によれば、下部基礎板と上部基礎板の間に低摩擦抵抗材料を配設しているので、滑り支承等の装置を用いることなく安価に建物重量を支え、さらに地震動の上部基礎板への伝達を低減することができる。
【0017】
さらに、上部基礎板内部に空間を設け、該空間に復元力装置を配設しているので、地震後の上部基礎板の残留変形(上部基礎板と下部基礎板のずれ)を制御することができる。
【0018】
上記第2の発明によれば、低摩擦抵抗材料の摩擦係数を0.1〜0.3の範囲内と限定したので、地震動の上部基礎板への低減をより確実に顕著なものとすることができる。
【0019】
上記第3、第4の発明によれば、復元力装置が、固定部材を上・下部基礎板に固定するための固定部材、又は、固定部材を空間側面に固定するための固定部材と、支柱を下部基礎板に固定するための固定部材から構成されているので、復元力装置の設置・交換が簡単であり設置・交換コストを大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来の免震構造を示す概略断面図である。
【図2】本発明の滑り基礎構造を適用した場合の概略断面図である。
【図3】本発明の滑り基礎構造の復元力装置の一形態であり、弾性部材にゴムを使用した場合の概略断面図である。
【図4】本発明の滑り基礎構造の復元力装置の一形態であり、弾性部材にコイルバネを使用した場合の概略断面図である。
【図5】本発明の滑り基礎構造の復元力装置の一形態であり、弾性部材に複数のコイルバネを使用した場合の概略断面図である。
【図6】本発明の滑り基礎構造の復元力装置の一形態であり、弾性部材を支持する支柱と、弾性部材を使用し、弾性部材を複数のせん断ゴムとした場合の概略断面図である。
【図7】本発明の滑り基礎構造の復元力装置の一形態であり、弾性部材を支持する支柱と、弾性部材を使用し、弾性部材を複数のコイルバネとした場合の概略断面図である。
【図8】本発明の滑り基礎構造の復元力装置の地震時の動きを模式的に示した断面図である。(1)は、地震発生前の通常の状態を示す概略断面図である。(2)は、地震発生時、下部基礎板が左に揺れた状態を示す概略断面図である。(3)は、地震発生時、下部基礎板が右に揺れた状態を示す概略断面図である。(4)は、地震が終わった状態を示す概略断面図である。
【図9】(a)は、滑り面を全面とする場合の概略図である。(b)は、滑り面を支承基礎とする場合の概略図である。
【図10】本発明の滑り基礎構造における低摩擦抵抗材料の効果を確認するための装置の概略図である。
【図11】測定結果の加速度と時間の関係を示すグラフである。
【図12】摩擦係数と風荷重による静止摩擦力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0022】
本発明の滑り基礎構造は、図2に示すように、構造物2を支える上部基礎板8と下部基礎板7の間に低摩擦抵抗材料9を配設し、上部基礎板8内部に設けた空間10に復元力装置を配設した構造となっている。
【0023】
本発明の滑り基礎構造に用いる低摩擦抵抗材料9としては、後述する低摩擦抵抗材料9の摩擦係数が範囲内のものであれば特に制限はなく、例えば、黒鉛粉末、黒鉛シート、テフロン(登録商標)シート、高分子系ポリエチレンシート、バリウムフェライトシート、石材等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。また、これらの1種又は2種以上を重ねて用いてもよい。
【0024】
本発明で用いられる上記の低摩擦抵抗材料9は、その摩擦係数が0.1〜0.3の範囲内、好ましくは0.15〜0.25の範囲内である。
【0025】
本発明の免震基礎構造体において、上部基礎板8と下部基礎板7の間に摩擦抵抗の下限値を考慮しない低摩擦抵抗材料9を用いた場合、地震力以外の建築物に加えられる外力、例えば暴風時の風荷重により建築物が動いてしまう可能性が考えられる。
【0026】
このようなこと考慮して、下記実験データをもとに摩擦係数の下限値を見出した。
【0027】
接地面積が10m×10mの平均的な建物を想定した場合の、接地面の摩擦係数と風荷重による静止摩擦力を示すデータとして図12に示すものがある。
【0028】
この結果より、上記の条件においては、摩擦係数が0.1あれば風荷重によって建物が動かないことが考察される。
【0029】
次に、摩擦係数の上限を考慮しない場合には、地震発生時の地震力が加えられても、上部基礎板8と下部基礎板7の間に滑りが発生せず、本発明の滑り基礎構造の効果が十分に発揮されない可能性が考えられる。
【0030】
これに対し、日本建築学会関東支部の「耐震構造の設計」(2003.7.P100)によれば、建物の性能グレードが基準級(免震、耐震、制震性能なし)であって、加速度が300Gal(cm/s2)のときに、建物の修復レベルが小規模修復〜中規模修復のレベルであるとの試算がある。この中規模修復レベルとは、中規模の建物修復により機能がほぼ完全に回復するレベルとされている。
【0031】
ここで、摩擦係数(μ)は加速度(a)と重力加速度(g:980cm/s2)により次式(1)で表される。
μ=a/g (1)
式(1)より、上記中規模修復レベルの基準となる加速度が300Gal(cm/s2)の場合の摩擦係数は約0.3と算出することができる。従って、低摩擦抵抗材料の摩擦係数が0.3以下であれば300Gal(cm/s2)以上の加速度が建物にかからないものと考察される。
【0032】
本発明の滑り基礎構造に用いられる低摩擦抵抗材料9の摩擦係数は、上記のデータを根拠として摩擦係数の下限及び上限を決定するものである。
【0033】
本発明の滑り基礎構造の下部基礎板7は上部基礎板8を、低摩擦抵抗材料9を介してほぼ全面で支持している。滑り面を全面にする優位性については、以下の検討の結果を考慮した。
【0034】
滑り面を全面とする場合と、滑り面を支承基礎とする場合の比較を図9(a)及び図9(b)に示す。
【0035】
図9(a)は、滑り面を全面とする場合を示し、建物の一辺、即ち基礎の一辺をBとしている。図9(b)は、滑り面を支承基礎とした場合を示し、建物の一辺をBとし、一辺がB/20の支承基礎を建物四隅に配置している。
【0036】
ここで、全面基礎とした場合と、支承基礎とした場合のそれぞれの最大軸応力σを比較すると以下のとおりとなる。
【0037】
全面基礎では、軸力:N、基礎底面積:A、建物重量:Wとした場合、N=W、A=B×Bとなり、最大軸応力σを下記式(2)で表すことができる。
σ=N/A=W/B2 (2)
支承基礎では、軸力:N、基礎底面積:A、建物重量:Wとした場合、N=W、A=B2/100となり、最大軸応力σを下記式(3)で表すことができる。
σ=N/A=100W/B2 (3)
全面基礎と支承基礎の、それぞれの最大軸応力σを比較すると、全面基礎とした場合には、支承基礎の場合の1/100の最大軸応力σであることがわかる。即ち、配設する低摩擦材料9にかかる最大軸応力σも1/100であり、低摩擦抵抗材料9の選択幅を広くすることができる。
【0038】
本発明の滑り基礎構造の上部基礎板8内部に設ける空間10は復元力装置を配設するためのものであり、上部基礎板8の強度、及び低摩擦抵抗材料9の表面積が確保される範囲内であれば、空間10の大きさ、形状は特に制限されるものではない。
【0039】
復元力装置は、弾性部材11と、弾性部材11を上部基礎板8に取付け可能な取付鋼板13で構成されている。弾性部材11の上部は取付鋼板13に固定されており、取付鋼板13は上部基礎板8と図示しない取付手段により固定されている。取付手段は特に制限されるものではないが、通常公知の取付手段、例えばボルトとナットによって取付け、固定することができる。
【0040】
弾性部材11の下部は、直接下部基礎板7に固定しても、取付部材を介して固定しても構わない。取付手段としては、取付鋼板13と上部基礎板8と同様の方法により取付け、固定することができる。
【0041】
復元力装置の弾性部材11は、強力な復元力を有するものであれば特に制限はなく、例えば、ゴムやバネ、機械的なショックアブソーバー等を用いることができる。ゴムとしては単層ゴム、積層ゴム、せん断ゴム等、バネとしてはコイルばね等を挙げることができる。またこれらを1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0042】
これらの復元力装置の具体例としては、図3に示すような弾性部材11をゴム12としたものや、図4に示すようなコイルバネ14としたもの、図5に示すような複数のコイルバネ15としたものを例示することができる。
【0043】
さらに、復元力装置の他の具体例としては、図6に示すような、支柱17に接合されたせん断ゴム16と、該せん断ゴム16を空間10側面に固定するための固定部材18と、支柱17を下部基礎板7に固定するための取付鋼板19及び、空間10の上部を塞ぐための蓋20から構成したものや、図7に示すよう複数のコイルバネ21を用いたものを例示することができる。
【0044】
図6、図7のような構成としたものは、図3、図4、図5の構成としたものに比べて復元力装置のメンテナンスをより容易に行うことができるため好ましい。
【0045】
復元力装置は、全てを同一種類のものとしてもよいし、複数種を併用しても構わない。また、その設置個数や大きさ、性能は、建物の大きさ、建物重量に応じて適宜選択的に設定することができる。
【0046】
復元力装置の高さは空間10の高さ(上部基礎板8の高さ)と一致しているため、建物を支えるものではない。即ち、地震力が加わったときに低摩擦抵抗材料9の作用によって生じる上部基礎板8と下部基礎板7の滑りを制御して揺れを抑え、さらに揺れが終わった時点で上部基礎板8と下部基礎板7のズレを元の位置に復元するための装置である。
【0047】
次に、本発明の滑り基礎構造の動作について詳細に説明する。
【0048】
図8(1)〜(4)は、通常時、地震時、地震終了時における、各時点における本発明の滑り基礎構造の動作を示したものである。
【0049】
図8(1)は、弾性部材11には地震力は加わっておらず撓みのない状態である。
【0050】
図8(2)は、地震の発生により下部基礎板7が左方向に揺れた状態であるが、低摩擦抵抗材料9の作用により上部基礎板8の位置には変化がない。従って図示しない構造物内では殆ど揺れを感じていない状態である。
【0051】
図8(3)は下部基礎板7が右方向に揺れた状態であり、図4(2)と同様に低摩擦抵抗材料9の作用により上部基礎板8の位置には変化がない。
【0052】
図8(4)は地震の終了時であり、揺れが終了した時点で弾性部材11の撓みが元に戻ろうとする復元力により上部基礎板8を下部基礎板7と同様の位置に戻す。
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
図10に示す装置を用いて本発明の滑り基礎構造の低摩擦抵抗材料の効果を確認した。
【0055】
図10において、振動台テーブル22上にコンクリート盤23を固定し、この上に摩擦係数0.2の黒鉛粉末24を配設した。さらに黒鉛粉末24の上にピンコロ25及び加速度計26を配設した。
【0056】
この状態で、振動台テーブル22に加速度700Gal(cm/s2)、波長が1.35秒の振動を与えて、ピンコロ25にかかる加速度を測定した。その結果をグラフにして図11に示す。
【0057】
この結果から、加速度700Galの入力に対してピンコロ25にかかる加速度は約200Galであることがわかる。即ち、本発明の低摩擦抵抗材料を配設することにより、その上の構造物には200Galより大きい加速度が加わらないことが確認された。
【0058】
本発明の滑り基礎構造においては、上記の低摩擦抵抗材料の効果に加えて、復元力装置による効果により、さらに優れた耐震効果を有する滑り基礎構造とすることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 地盤
2 構造物
3 上部基礎梁
4 下部基礎梁
5 免震層
6a 免震装置(積層ゴム)
6b 免震装置(ダンパー)
7 下部基礎板
8 上部基礎板
9 低摩擦抵抗材料
10 空間
11 弾性部材
12 ゴム
13 取付鋼板
14 コイルバネ
15 複数のコイルバネ
16 せん断ゴム
17 支柱
18 固定部材
19 取付鋼板
20 蓋
21 複数のコイルバネ
22 振動台テーブル
23 コンクリート盤
24 黒鉛粉末
25 ピンコロ
26 加速度計
27 地盤加速度
28 ピンコロ加速度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部基礎板と上部基礎板の間に、低摩擦抵抗材料を配設した滑り基礎構造であって、上部基礎板内部に空間を設け、該空間に復元力装置を配設したことを特徴とする滑り基礎構造。
【請求項2】
低摩擦抵抗材料の摩擦係数が0.1〜0.3の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の滑り基礎構造。
【請求項3】
復元力装置が、弾性部材と、弾性部材上部を上部基礎板に固定するための固定部材と、弾性部材下部を下部基礎板に固定するための固定部材から構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の滑り基礎構造。
【請求項4】
復元力装置が、支柱に接合された弾性部材と、弾性部材を空間側面に固定するための固定部材と、支柱を下部基礎板に固定するための固定部材から構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の滑り基礎構造。
【請求項1】
下部基礎板と上部基礎板の間に、低摩擦抵抗材料を配設した滑り基礎構造であって、上部基礎板内部に空間を設け、該空間に復元力装置を配設したことを特徴とする滑り基礎構造。
【請求項2】
低摩擦抵抗材料の摩擦係数が0.1〜0.3の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の滑り基礎構造。
【請求項3】
復元力装置が、弾性部材と、弾性部材上部を上部基礎板に固定するための固定部材と、弾性部材下部を下部基礎板に固定するための固定部材から構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の滑り基礎構造。
【請求項4】
復元力装置が、支柱に接合された弾性部材と、弾性部材を空間側面に固定するための固定部材と、支柱を下部基礎板に固定するための固定部材から構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の滑り基礎構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−184950(P2011−184950A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51331(P2010−51331)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(506365500)JPホーム株式会社 (2)
【出願人】(510065067)▲高▼松建設株式会社 (1)
【出願人】(593089046)青木あすなろ建設株式会社 (10)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(506365500)JPホーム株式会社 (2)
【出願人】(510065067)▲高▼松建設株式会社 (1)
【出願人】(593089046)青木あすなろ建設株式会社 (10)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]