説明

滑り止めシート及び防滑層用組成物

【課題】製造時に有機溶媒の揮発を抑制しつつ、良好な防滑性及び耐久性を有するようにする。
【解決手段】シート状のセルロース系基材4と、セルロース系基材4の少なくとも一方の面の表層を構成する防滑層8を有する。防滑層8は、(a)アクリル系のカルボニル基含有共重合体、(b)前記カルボニル基において前記カルボニル基含有共重合体と常温架橋可能であって、前記カルボニル基1モルにつき0.02モル以上1モル以下であって2以上のヒドラジン残基を有する有機ヒドラジン誘導体、及び、(c)平均粒径が20μm以下であって膨張開始温度が80℃〜120℃の熱膨張性マイクロカプセル粒子5であって前記(a)及び前記(b)の総量100質量部に対して0.15質量部超15質量部未満の熱膨張性マイクロカプセル粒子5を含有する水性分散液を加熱することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り止めシート、及び、それを製造するための防滑層用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙、フィルム等のシート状の基材の表面に防滑層が形成された滑り止めシートが知られている。
その防滑層としては、熱膨張性マイクロカプセルを含有する樹脂組成物を基材の表面に塗布し、その後、それを加熱して樹脂を硬化させるとともに熱膨張性カプセルを熱膨張させることで、その表面に凹凸形状に形成されたものがある。
例えば、加熱により流動する樹脂と加熱により軟化するマイクロカプセルとを含んだ樹脂層を準備して、必要に応じ架橋剤とともに加熱して架橋した樹脂をマトリックスとして膨張したマイクロカプセルを含有する防滑層を形成することが知られている(特許文献1、2、3)。
また、樹脂マトリックスとして水系エマルジョンを用いるものも知られている(特許文献4)。
【0003】
防滑層は、膨張したマイクロカプセルによる均質な凹凸形状を耐久性よく維持していることが求められる。このためには、熱膨張したマイクロカプセルを基材表面において樹脂マトリックスに強固に固定するとともに、樹脂マトリックス自身も基材に強固に固定する必要がある。
また、労働環境や地球環境を考慮すれば、製造時において有機溶媒を使用することのないことが好ましい。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1〜3の技術では、架橋した樹脂マトリックスでマイクロカプセル粒子を固定しているものの、有機溶媒を含有する樹脂組成物を用いて架橋した樹脂マトリックスを形成していた。
また、特許文献4の技術では、水系エマルジョンを用いており、有機溶媒の揮発はないものの、樹脂マトリックスの耐久性を確保するには電子線等による架橋工程を実施しなければならなかった。このためには、大がかりな装置が必要となる。
【特許文献1】特許第2743898号公報
【特許文献2】特許第3076524号公報
【特許文献3】特開平11−105176号公報
【特許文献4】特開平5−237974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、製造の際に有機溶媒の揮発を抑制することが可能であり、かつ、大がかりな装置を必要としないとともに、良好な防滑性と耐久性を有する滑り止めシートを提供することを1つの課題とする。また、本発明は、その滑り止めシートを製造するのに好適な組成物を提供することを他の1つの課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、防滑層を形成するのに適した水性媒体中で架橋系について各種検討したところ、アクリル系のカルボニル基含有共重合体のカルボニル−ヒドラジン架橋系を用いることで、上記した課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明の内容は、次のとおりである。
【0007】
本発明の滑り止めシートは、シート状のセルロース系基材と、前記セルロース系基材の少なくとも一方の面の表層を構成する防滑層とを有し、
前記防滑層は、以下の成分(a)〜(c):
(a)アクリル系のカルボニル基含有共重合体、
(b)前記カルボニル基において前記カルボニル基含有共重合体と常温架橋可能であって、前記カルボニル基1モルにつき0.02モル以上1モル以下であって2以上のヒドラジン残基を有する有機ヒドラジン誘導体、及び、
(c)平均粒径が20μm以下であって膨張開始温度が80℃以上120℃以下の熱膨張性カプセル粒子であって、前記(a)及び前記(b)の総量100質量部に対して0.15質量部超15質量部未満の熱膨張性カプセル粒子
を含有する水性分散液を加熱して、前記熱膨張性カプセル粒子を熱膨張させるとともに、前記カルボニル基含有共重合体と前記有機ヒドラジン誘導体とを架橋することにより得られる、滑り止めシートである。
【0008】
この発明によれば、前記水性分散液を用いるため、成膜にあたり、有機溶媒が揮発することが抑制又は回避される。
【0009】
また、この発明においては、前記水性分散液が加熱されることで、熱膨張性マイクロカプセルが熱膨張するとともに、前記水性分散液の水性媒体が蒸発されてカルボニル基含有共重合体粒子の流動・融着が進行し、同時に当該共重合体粒子表面におけるカルボニル基含有共重合体と有機ヒドラジン誘導体との架橋反応が促進される。
加熱と水性媒体の蒸発によって共重合体粒子の流動、融着及び架橋反応が促進されたマトリックスは、加熱により熱膨張するマイクロカプセル粒子に追従しかつ硬化する。このため、膨張したマイクロカプセル粒子は、硬化した共重合体の架橋体をマトリックス樹脂とする防滑層の膜に被覆された状態で、当該防滑層に対して強固に固定される。
こうして、この発明によれば、良好な防滑性と耐久性を有する防滑層を備える滑り止めシートを得ることができる。
【0010】
また、この発明によれば、水性分散液はセルロース系基材に良好な浸透性を有するため、水性分散液が基材に浸透した状態でカルボニル含有共重合体が架橋することから、防滑層が基材に対して強固に固定された滑り止めシートを得ることができる。
【0011】
この発明においては、前記カルボニル基含有共重合体の造膜温度が0℃以上60℃以下であることが好ましい。このような造膜温度範囲を有していることにより、前記水性分散液をセルロース系基材の表面に供給したとき、マイクロカプセル粒子を基材表面上に均一に分散して保持することができるとともに、成膜後の粘着性及び膜の硬化を抑制できる。
【0012】
また、この発明においては、前記カルボニル基含有共重合体は、カルボニル基を含有するアクリルアミド系モノマーを含むモノマー組成物を重合して得られることが好ましく、より好ましくは、アクリルアミド系モノマーはジアセトンアクリルアミドを含んでいる。
さらに、前記カルボニル基含有共重合体は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸アルキルエステルから選択される2種類以上のモノマーを含むモノマー組成物を重合して得られることが好ましく、より好ましくは、前記カルボニル基含有共重合体は、スチレン系モノマーを含むモノマー組成物を重合して得られる。
【0013】
本発明の防滑層形成用組成物は、以下の成分(a)〜(c):
(a)アクリル系のカルボニル基含有共重合体、
(b)前記カルボニル基で前記カルボニル基含有共重合体と常温架橋可能であって、前記カルボニル基1モルにつき0.02モル以上1モル以下であって2以上のヒドラジン残基を有する有機ヒドラジン誘導体、及び
(c)平均粒径が20μm以下であって膨張開始温度が80℃以上120℃以下の熱膨張性カプセル粒子であって、前記(a)及び前記(b)の総量100質量部に対して0.15質量部超15質量部未満の熱膨張性カプセル粒子
を含有する、防滑層形成用組成物である。
【0014】
本発明の防滑層形成用樹脂組成物によれば、上述した作用効果を有する滑り止めシートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、適宜図面に基づいて、本発明の一実施形態の滑り止めシート及び防滑層形成用組成物について詳細に説明する。
便宜上、まず、防滑層形成用樹脂組成物について説明し、その後に、滑り止めシートについて説明する。
【0016】
[防滑層形成用樹脂組成物]
防滑層形成用樹脂組成物(以下、単に本組成物ともいう。)は、アクリル系のカルボニル基含有共重合体と、有機ヒドラジン誘導体と、熱膨張性マイクロカプセル粒子とを含有している。
本組成物は、水、又は、水と相溶性のある有機溶媒と水との水主体の混合液を水性媒体とする水性分散液の形態を採ることができる。水性分散液の水性媒体は、好ましくは水のみからなる。また、水性媒体は、共重合体の有する官能基の種類に応じて、適宜アルカリや酸を含むことができる。
本組成物における、下記の共重合体、有機ヒドラジン誘導体及び熱膨張性マイクロカプセル粒子等の固形分含有量は、15質量%以上65質量%以下であることが好ましい。
【0017】
<アクリル系カルボニル基含有共重合体>
アクリル系のカルボニル基含有共重合体(以下、本共重合体ともいう。)は、少なくとも1種類のアクリル系モノマーを含むモノマー組成物を共重合して得られる共重合体である。
【0018】
本共重合体を重合するのに用いるアクリル系モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレート等のアクリル酸系モノマーが挙げられる。
これらは、単独又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸である。
【0019】
また、他のアクリル系モノマーとしては、一般式:CH2=C(R1)COOR2 (ただし、R1は水素又はメチル基、R2は炭素数が1〜18のアルキル基)で表される(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーが挙げられる。
すなわちメチル基やエチル基、プロピル基やブチル基、アミル基やヘキシル基、ヘプチル基やシクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基やオクチル基、ノニル基やデシル基、ウンデシル基やラウリル基、トリデシル基やテトラデシル基、ステアリル基やオクタデシル基の如き炭素数が1〜18の直鎖又は分岐のアルキル基を有するアクリル酸やメタクリル酸のエステルからなるアクリル酸系アルキルエステルが挙げられる。
これらは、単独又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0020】
さらに、本共重合体は、後述する有機ヒドラジン誘導体と常温で架橋可能なカルボニル基を含有している。こうしたカルボニル基は、常温架橋性のカルボニル基を含有するモノマーを共重合成分として用いることで容易に本共重合体に導入することができる。
このようなカルボニル基含有モノマーとしては、特に限定されないが、カルボニル基を備えるアクリルアミドなどのアクリルアミド系モノマーが挙げられる。
後述する有機ヒドラジン誘導体との常温架橋性を考慮すると、例えば、ジアセトンアクリルアミド、アクロレイン、ホルミルスチロール、β−ヒドロキシプロピルアクリレートアセチルアセテートのようなモノマーを単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
好ましくは、ジアセトンアクリルアミド、アクロレイン及びビニルメチルケトンであり、より好ましくは、ジアセトンアクリルアミドである。ジアセトンアクリルアミドは、アクリル酸アルキルエステルに類した共重合性を有し、エマルジョンにおいて容易に共重合体を得ることができるとともに、有機ヒドラジン誘導体と速やかに架橋反応するからである。
【0021】
なお、既に説明したアクリル系モノマーもカルボニル基を含有しているが、有機ジヒドラジト誘導体との常温架橋には実質的に寄与していないため、本明細書においてカルボニル基含有モノマーとして取り扱わないものとする。
【0022】
また、本共重合体は、(メタ)アクリル酸系モノマー、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー及びカルボニル基含有モノマー以外のモノマーも共重合成分とすることができる。
すなわち、スチレンなどのスチレン系モノマー、アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ビニルエチルエーテル等のビニル系モノマー、エチレン、ブタジエン、イソプレン及びクロロプレン等の各種オレフィン系モノマー等を備えることができる。好ましくは、膜の耐水性向上のため、スチレン等のスチレン系モノマーを共重合成分とすることができる。
こうした各種モノマーは、膜特性等を向上するのに有利な範囲で適宜用いることができる。
【0023】
本共重合体は、その造膜温度が0℃以上60℃以下であることが好ましい。
0℃未満であると、成膜後に粘着性が生じ、ベタツキのため実用上好ましくないからである。
また、60℃を超えると、塗布時及び成膜時においても膜形成が十分でなく熱膨張性マイクロカプセルの保持能力が不足し、熱膨張性マイクロカプセル粒子を均一に分散した状態で内包できなくなるからである。また、成膜後の膜質が硬くて滑りやすくなるからである。
より好ましくは、造膜温度は、5℃以上40℃以下である。
なお、造膜温度は、JIS K6828 合成樹脂エマルジョンの試験方法に準じ、5.11 最低造膜温度に記載の装置で測定する。最低造膜温度測定装置としては、例えば、株式会社東洋精機製作所製のMET造膜試験機を用いることができる。
【0024】
本共重合体においては、基材への密着性、成膜容易性、成膜後の摩擦係数の観点から、(メタ)アクリル酸のほか、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルから選択される2種以上を共重合成分として好ましく用いることができる。
【0025】
また、本重合体において、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の(メタ)アクリル酸系モノマー及びアクリルアミド系カルボニル基含有モノマーの共重合割合は、目的に応じて適宜調整可能である。
例えば、成膜したフィルムの強靱性の観点からは、本共重合体中に(メタ)アクリル酸系モノマーは、80質量%以上99.9質量%以下であることが好ましく、より好ましくは85質量%以上98質量%以下である。
また、架橋性の観点からアクリルアミド系カルボニル基含有モノマーは、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以上15質量%以下である。
【0026】
本共重合体は、上記したモノマーを、有機溶媒中で、それ自体既知の重合法に従って共重合することにより得られる。
共重合に際して用いうる有機溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒;ミネラルスピリツト、芳香族石油ナフサなどの石油系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−プロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノtert−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノn−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノtert−ブチルエーテル等のエチレングリコールエーテル系溶媒;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル等のプロピレングリコールエーテル系溶媒;等が挙げられる。
これらは、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0027】
また、重合開始剤としては、油溶性、水溶性のいずれのタイプのものであってもよい。
油溶性の重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキシド、ステアロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。
水溶性の重合開始剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、tert−ブチルパーオキシアセテート、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビス(2−メチルプロピオンニトリル)、アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノブタン酸)、ジメチルアゾビス(2−メチルプロピオネート)、アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]、アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]−プロピオンアミド}等のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩等が挙げられる。
これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0028】
また、共重合の際には、必要に応じて連鎖移動剤を使用することも可能である。
かかる連鎖移動剤としては、メルカプト基を有する化合物が包含される。例えば、ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルへキシル、2−メチル−5−tert−ブチルチオフェノール、メルカプトエタノ−ル、チオグリセロ−ル、メルカプト酢酸(チオグリコ−ル酸)、メルカプトプロピオネート、n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート等を挙げることができる。
これらは、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0029】
上記の共重合反応は通常、約50〜約200℃、好ましくは約60〜約120℃の温度において行うことができ、かかる条件下に2〜20時間、好ましくは5〜10時間程度で終らせることができる。
このようにして製造される本共重合体は、成膜後のフィルムの強度の観点から、20万〜100万程度の重量平均分子量(Mw)を有することが好ましい。
【0030】
なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフで測定した重量平均分子量をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算した値である。
【0031】
<有機ヒドラジン誘導体>
本組成物は、本共重合体の含有するカルボニル基と架橋する有機ヒドラジン誘導体を含有している。
有機ヒドラジン誘導体としては、特に限定されないが、2以上のヒドラジン残基を有する有機ヒドラジン誘導体を用いる。
具体的には、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジオヒドラジド、ヘキサデカンジオヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフトエ酸ジヒドラジド、1,4−ナフトエ酸ジヒドラジド、4,4’−ビスベンゼンジヒドラジド、ダイマー酸ジヒドラジド、2,6−ピリジンジヒドラジド、イミノジ酢酸ジヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド等を挙げることができる。
これらを、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
このような有機ヒドラジン誘導体としては、好ましくは、アジピン酸ジヒドラジド、こはく酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド及びエチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジドを用いることができ、より好ましくは、アジピン酸ジヒドラジドを用いる。アジピン酸ジヒドラジドは、ジアセトンアクリルアミドのカルボニル基と常温で速やかに反応して耐水性に優れた膜を形成できる。
【0032】
有機ヒドラジン誘導体は、上記常温架橋性のカルボニル基1モルにつき、0.02モル以上1モル以下含有することが好ましい。
この範囲であると成膜後のフィルム強度が高くなるからである。また、0.02モル未満であると、成膜後のフィルム強度が低くなりすぎ、1モルを超えると、余剰のヒドラジンのため後で毒性を呈することがあるからである。
より好ましくは、0.05モル以上0.5モル以下である。
【0033】
<熱膨張性マイクロカプセル粒子>
本組成物は、熱膨張性マイクロカプセル粒子を含有している。
熱膨張性マイクロカプセル粒子としては、例えば、コアセルベーション法や界面重合法等の適宜な方式で調製された任意なものを用いることができる。
熱膨張性マイクロカプセル粒子は、シェルに内包する物質として、n−ブタン、i−ブタン、ペンタン、ネオペンタンのような低沸点炭化水素を含有し、シェルとして、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチルのような(メタ)アクリル酸エステル、スチレンのような芳香族ビニル化合物を主成分とする熱可塑性樹脂を使用したものがある。
このような熱膨張性マイクロカプセル粒子としては、例えば、松本油脂製薬株式会社のマツモトマイクロスフェアー(登録商標)F,日本フィライト株式会社のEXPANCEL(商標)が挙げられる。
【0034】
マイクロカプセル(膨張前)の粒径は、平均粒径が20μm以下であることが好ましい。20μmを超えると塗膜が厚くなるからである。
また、膨張開始温度は、80℃以上120℃以下であることが好ましい。80℃を下回ると膨張しないからであり、120℃を超えるとシェルが破壊されるからである。より好ましくは、80℃以上100℃以下である。
【0035】
また、熱膨張性マイクロカプセル粒子の含有量は、本共重合体(モノマーの総質量)100質量部に対して0.5質量部超10質量部未満であることが好ましい。
0.5質量部以下であると防滑性が不足するからであり、15質量部以上であるとコストが高くなるからである。より好ましくは、1質量部以上5質量部以下である。
【0036】
なお、本組成物には、ブロッキング防止、風合い変更、コスト低減のために、炭酸カルシウム、酸化チタン、水酸化マグネシウム、クレー、けい酸ナトリウム、炭酸マグネシウム等の無機充填剤や、本共重合体の分散性を確保するための分散剤や、界面活性剤、防腐剤等必要に応じて他の添加剤を含むことができる。
【0037】
[滑り止めシート]
次に、本組成物を本共重合体の水性分散液として使用して得られる防滑層を備える、滑り止めシートについて説明する。
滑り止めシートの一例が、図1に示されている。
その滑り止めシート(以下、単に本シートという。)2は、シート状のセルロース系基材4と、その少なくとも片面に形成された防滑層8とを有している。防滑層8は、水性分散液としての本組成物が供給され成膜されて得られる、マイクロカプセル粒子6による凸状部7を有している。
防滑層8は、セルロース系基材4の両面に形成されていてもよい。
また、セルロース系基材4の片面にのみ防滑層8が形成されている場合には、防滑層8が形成されていない面に、粘着層等、本シート2自身を固定するのに好適な層を形成してもよい。
【0038】
本シートにおけるセルロース系基材4としては、セルロース系材料を用いてシート状に形成されている。その代表例としては、紙が挙げられる。その他、不織布や織布、編布等でもよい。紙としては、上質紙、晒クラフト紙、クラフト紙、薄葉紙、純白ロール紙、模造紙、板紙、ボール紙、段ボール紙等、種々のものが該当する。
シート状のセルロース系基材4の厚さは、特に限定しないが、滑り止めシートの適用箇所や強度などに応じて適宜に決定される。
【0039】
防滑層8は、本組成物をセルロース系基材4の表面に供給し、加熱することにより、成膜して得られる。以下、図2に基づいて、防滑層8の形成工程(本シート2の製造方法)について説明する。
【0040】
図2(a)に示すように、セルロース系基材4の表面に、適当な水性媒体を用いて調整した本共重合体の水性分散液(熱膨張性マイクロカプセル粒子と有機ヒドラジン誘導体も含む)としての本組成物10を供給する。
本組成物10がセルロース系基材4の表面に供給されると、本組成物10は、セルロース系基材4の表面において、一定の厚みを持った膜を形成する。
本共重合体の造膜温度が5℃以上60℃以下の場合、常温にてセルロース系基材4の表面に本組成物10が供給されたときには、本組成物10は、セルロース系基材4の表面において、熱膨張性マイクロカプセル粒子(膨張前)5を均一な分散状態で内部に保持しつつ、自らを膜状に保形することができる。
【0041】
なお、このとき、本組成物10中において、本共重合体中のカルボニル基と有機ヒドラジン誘導体とは架橋反応が進行しつつあるが、本組成物10においては、本共重合体と有機ヒドラジン誘導体との濃度の関係で直ちに架橋反応が完了するわけではない。
【0042】
本組成物10のセルロース系基材4への供給方法については、特に限定されず、公知の各種方法を採用することができる。例えば、バーコーター、エアーナイフコーター、グラビアコーター、ロールコーター等を用いることができる。
【0043】
次に、図2(b)に示すように、本組成物10を加熱する。
本組成物10中の熱膨張性マイクロカプセル粒子5の膨張開始温度は、80℃以上120℃以下、好ましくは80℃以上100℃以下であり、本組成物10中の水性媒体の沸点は約100℃である。このため、本組成物10中のマイクロカプセル粒子5が熱膨張可能に、すなわち、少なくとも80℃となるように、加熱する。
【0044】
セルロース系基材4上の本組成物10の加熱方法については、特に限定されず、公知の加熱炉から適切な熱源や炉形態を適宜選択して採用すればよい。
通常、加熱・成膜工程は、セルロース系基材4上に本組成物10を供給したものを適当な熱源を有する加熱炉に導入することで実施することができる。
例えば、熱風乾燥機による加熱においては、設定温度105℃以上140℃以下、加熱時間30秒以上5分以下という条件を設定することもできる。
【0045】
加熱により、分散されている共重合体の粒子の流動しやすくなるとともに、本組成物10中の水性媒体が蒸発し、その結果、分散されている共重合体の粒子が互いに近接されて相互の融着が促進される。同時に、加熱と水性媒体の蒸発とによる高濃度化によって、架橋可能な本共重合体中のカルボニル基と有機ヒドラジン誘導体の架橋反応が促進される。
一方、熱膨張性マイクロカプセル粒子5は、加熱により熱膨張する。
このように、本組成物10の加熱によって、本組成物10においては、水性媒体の蒸発と、本共重合体粒子の流動・融着と、本共重合体の架橋反応と、熱膨張性マイクロカプセル粒子5の膨張とが同時的に進行する。
【0046】
加熱により水性媒体が蒸発しつつ、本共重合体粒子の流動・融着と本共重合体と外部架橋剤である有機ヒドラジン誘導体との架橋反応とが生じるため、本組成物10に含まれる防滑層8の樹脂マトリックス形成成分(本共重合体と有機ヒドラジン誘導体)は、内包するマイクロカプセル粒子5の加熱に伴う膨張を許容し、それに追従することができる。
そして、膨張したマイクロカプセル粒子6を確実に被包して新生した架橋体膜、すなわち、図2(c)に示すように、膨張したマイクロカプセル粒子6を樹脂マトリックスが被覆した凸状部7を備える樹脂膜としての防滑層8を得ることができる。
こうして、本シート2(図1)が製造される。
【0047】
このようにして得られる滑り止めシート2の防滑層8の厚さは、滑り止めシートの使用目的などに応じて適宜に決定しうるが、一般には薄型化やクッション性ないしソフトなタッチ感などの点から、3μm以上1mm以下、より好ましくは10μm以上1mm以下とすることができる。
【0048】
以上のように、本シート2では、防滑層8において、マイクロカプセル粒子6が樹脂マトリックスで確実に被覆されており、マイクロカプセル粒子6が露出されることが抑制されているため、防滑性が耐久性よく継続的に発揮される。
【0049】
本シート2において、本組成物10は水性分散液であるため、加熱の際に、有害な有機溶媒の揮発は顕著に又は完全に回避することができる。
さらに、本組成物10は水分散液であるため、セルロース系基材4の表層への浸透性を有している。この結果、本組成物10中の本共重合体や有機ヒドラジン誘導体は、セルロース系基材4の表層内部でも架橋してアンカー効果を発揮する。このため、防滑層8は、セルロース系基材4の表面に強固に固定され、防滑性の耐久性が確保されている。
【0050】
そして、本発明の滑り止めシートは、製品を積み重ねる際に製品間に挿入して製品の荷崩れを防止する滑り止め用途、各種車両を含む輸送体等におけるテーブルなど不安定なテーブル上における食器等の転倒や移動を抑制する滑り止め用途に使用することができる。
また、本発明の滑り止めシートは、床や階段、手摺や棚、本棚や戸棚、机やテーブル等の表面処理、マットやカーペットや畳等の裏張り、テーブルクロスや靴材、段ボールや手袋等の形成などの滑り止め用途に使用することもできる。
【実施例】
【0051】
表1に示す組成に基づいて、実施例1〜5及び比較例1〜5について各塗工用液を調製し、滑り止めシートを作製した。
すなわち、表1に示す組成でモノマー混合物(アクリル系カルボニル基含有共重合体モノマー)を調製した上、開始剤、乳化剤及び水を用いて乳化重合液を調製し、さらにこれにヒドラジド混合液を加えて乳化重合調整液とした。乳化重合調整液に、熱膨張性マイクロカプセルを加えて塗工用液を調製した。
以下、実施例1を例に挙げて、乳化重合液の調製から塗工用液の調製並びに滑り止めシートの作製工程について説明する。実施例2〜5及び比較例1〜5についても実施例1に準じてそれぞれ滑り止めシートを作製した。
【表1】

【0052】
温度調節機能を持った攪拌機、還流冷却機、及び原料投入口を備えた1Lフラスコ内に、イオン交換水100質量部、及び、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩2質量部、過硫酸カリウム0.6部を入れ、攪拌しながら70℃に昇温した。
そこに、スチレン46質量部、アクリル酸1.6質量部、アクリル酸エチル10質量部、アクリル酸2エチルヘキシル39.7質量部、及び、ジアセトンアクリルアミド2.7質量部の混合液を4時間かけて滴下した。
滴下終了後、70℃で1時間保持した後に、80℃に昇温して、さらに1時間保持した。冷却後、アンモニア水でpHを8〜9に調整して、共重合体の水性分散液(乳化重合液)を得た。
【0053】
次に、この乳化重合液に対して、ヒドラジド基を有する化合物としてあらかじめ60℃の温水9質量部にて希釈された20%アジピン酸ジヒドラジド1.8質量部を添加して、攪拌機により均一に分散して、乳化重合調整液とした。
この乳化重合調整液に、モノマー混合物100質量部に対して3質量部の粒径5μmのマツモトミクロスフェアー(熱膨張マイクロカプセル)を添加して、ディスパーにて20分強制攪拌を行った。
なお、表1には示さないが、消泡剤として、サンノプコ株式会社製SNディフォマー363を0.03質量部添加した。さらに、同じく表1には示さないが、その後、塗工液の粘性調整として、アルカリ増粘タイプの増粘剤を0.35質量部添加して、液の粘度を1750mPa・sとした。
【0054】
こうして作製した塗工液を50g/m2 の晒クラフト紙(30cm×21cm)に、幅5cm、厚み0.05mmのアプリケーターで、ウェット膜厚35μmに塗布した。塗工後、予め120℃の設定温度に調整された熱風乾燥機に速やかに入れて、加熱及び乾燥を行った。
【0055】
得られた実施例1の滑り止めシートにつき、塗膜状態を目視で観察するとともに静摩擦係数を測定した。静摩擦係数は、株式会社東洋精機製作所製のSLIP ANGLE TETER ANによって測定した。また、その測定は、JIS P8147 紙及び板紙の摩擦係数試験方法に準拠して行った。その結果を表1に併せて示す。
【0056】
表1に示すように、実施例1〜5の滑り止めシートについては、いずれも良好な塗膜状態であるとともに、静摩擦係数も52°〜55°であった。
これに対して、比較例1〜5の滑り止めシートにあっては、塗膜強度が低く塗膜が破れるなどして表面が荒れるか、あるいは、摩擦係数が低すぎるかであって、滑り止めシートとしては機能するものではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態の滑り止めシートを示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の滑り止めシートの製造工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0058】
2 滑り止めシート
4 セルロース系基材
5 熱膨張性マイクロカプセル粒子(膨張前)
6 熱膨張したマイクロカプセル粒子
7 凸状部
8 防滑層
10 防滑層形成用組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状のセルロース系基材と、
前記セルロース系基材の少なくとも一方の面の表層を構成する防滑層と
を有し、
前記防滑層は、以下の成分(a)〜(c):
(a)アクリル系のカルボニル基含有共重合体、
(b)前記カルボニル基において前記カルボニル基含有共重合体と常温架橋可能であって、前記カルボニル基1モルにつき0.02モル以上1モル以下であって2以上のヒドラジン残基を有する有機ヒドラジン誘導体、及び、
(c)平均粒径が20μm以下であって膨張開始温度が80℃以上120℃以下の熱膨張性カプセル粒子であって、前記(a)及び前記(b)の総量100質量部に対して0.15質量部超15質量部未満の熱膨張性カプセル粒子
を含有する水性分散液を加熱して、前記熱膨張性カプセル粒子を熱膨張させるとともに、前記カルボニル基含有共重合体と前記有機ヒドラジン誘導体とを架橋することにより得られる、滑り止めシート。
【請求項2】
請求項1に記載の滑り止めシートであって、
前記カルボニル基含有共重合体の造膜温度が0℃以上60℃以下である、滑り止めシート。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の滑り止めシートであって、
前記カルボニル基含有共重合体は、カルボニル基を含有するアクリルアミド系モノマーを含むモノマー組成物を重合して得られる、滑り止めシート。
【請求項4】
請求項3に記載の滑り止めシートであって、
前記アクリルアミド系モノマーは、ジアセトンアクリルアミドを含む、滑り止めシート。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の滑り止めシートであって、
前記カルボニル基含有共重合体は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸アルキルエステルから選択される2種類以上のモノマーを含むモノマー組成物を重合して得られる、滑り止めシート。
【請求項6】
前記カルボニル基含有共重合体は、さらにスチレン系モノマーを含むモノマー組成物を重合して得られる、請求項5に記載の滑り止めシート。
【請求項7】
以下の成分(a)〜(c):
(a)アクリル系のカルボニル基含有共重合体、
(b)前記カルボニル基で前記カルボニル基含有共重合体と常温架橋可能であって、前記カルボニル基1モルにつき0.02モル以上1モル以下であって2以上のヒドラジン残基を有する有機ヒドラジン誘導体、及び、
(c)平均粒径が20μm以下であって膨張開始温度が80℃以上120℃以下の熱膨張性カプセル粒子であって、前記(a)及び前記(b)の総量100質量部に対して0.15質量部超15質量部未満の熱膨張性カプセル粒子
を含有する、防滑層形成用組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−66782(P2009−66782A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234769(P2007−234769)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(592110808)株式会社吉良紙工 (11)
【Fターム(参考)】