説明

滞空ミサイル迎撃システム

【課題】低空で飛来するミサイルをより確実に迎撃する滞空ミサイル迎撃システムを得る。
【解決手段】滞空体により地形や建造物等による影響を受けない上空に滞留し、電波センサ及び光波センサを用いて低空で飛来するミサイルを全周方向かつ比較的遠距離から探知し追尾する。加えて、迎撃ミサイルを回動式のパレットに複数格納し、迎撃ミサイルを発射する際は、所望する飛翔経路の方向に迅速に指向させて発射するとともに、多くの射撃機会を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛来するミサイルを迎撃する機構を滞空体に備えた滞空ミサイル迎撃システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自己の陣営に向かって低空で飛来するミサイル等の目標は、地形や建造物等が障害となって早期に探知することが難しい。また探知された場合においても、これら目標に対して迎撃ミサイルにより対処する際には、その飛翔経路上に障害物等があると射撃が困難になることが考えられる。
【0003】
このように地形や建造物等の制約を受けることなく、迎撃ミサイルを用いる手法として、航空機に迎撃ミサイルを搭載し機上から射撃する手法が考えられる。しかし、この場合には航空機の飛行方向との兼ね合いで、必ずしも全周の任意の方向からの脅威に迅速に対処することが難しい。あわせて、航空機自身への搭載重量や空力特性上の制約から、搭載する迎撃ミサイルシステムの規模が自ずと制限を受けるため、同時・多数の脅威に対処することも難しい。
【0004】
また、他の手法としては、飛来するミサイルの飛行経路上の空中に立ちふさがるように停止して、ミサイルが近傍を通過、あるいは接触した場合に起爆するように構成した対空防御装置に関する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2000−266499号公報(第6ページ、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1に記載の手法では、滞空手段としてプロペラが使用されている。また、目標を検知した後にその飛行経路上に滞空すべく、このプロペラを使用して移動する。このため、ジェット噴射機構等を補助的に使用したとしても、所定位置まで移動して滞空するまでに時間を要してしまい、高速で飛来するミサイル等の目標に対処する場合には、接触あるいは接近によりこの目標に打撃を与えることのできる範囲が限定されるという問題があった。また、飛来するミサイルの飛行経路を正確に見きわめ、かつその飛行経路上の空中に自身を正確に滞空させることは、技術的に困難を伴うという問題があった。
【0006】
本発明は上述の事情を考慮してなされたものであり、低空で飛来するミサイルをより確実に迎撃する滞空ミサイル迎撃システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の滞空ミサイル迎撃システムは、飛来するミサイルを探知しその目標情報を取得するセンサと、迎撃ミサイルを格納するパレットと、このパレットを回転させるパレット回転機構と、前記センサからの目標情報に基づき要撃計算を行なって前記迎撃ミサイルを所定の発射方向に指向させるように前記パレット回転機構を回転させるとともに、この迎撃ミサイルの発射を管制する射撃管制部とを滞空体に備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低空で飛来するミサイルをより確実に迎撃することのできる滞空ミサイル迎撃システムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明に係る滞空ミサイル迎撃システムを実施するための最良の形態について、図1乃至図5を参照して説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明に係る滞空ミサイル迎撃システムの外観の一例を示す概要図である。この事例では、目標情報を取得するセンサとして電波センサ及び光波センサの両方を備え、電波センサとしてはレーダ、光波センサとしては赤外センサとした場合を示している。
【0011】
図1に例示した滞空ミサイル迎撃システム1は、滞空体11、筐体12、航行用プロペラ13、パレット14、迎撃ミサイル15、レーダアンテナ16、及び赤外センサ17から構成されている。滞空体11は、上空に滞留することのできる、例えば飛行船、気球等である。筐体12はこの滞空体11の下側に配置され、後述する機材を含む各種の機材・機構が収納される。航行用プロペラ13は筐体12の側方に配置され、滞空体11を含むこの滞空ミサイル迎撃システム1を所定の空間に航行・滞留させる。
【0012】
パレット14は筐体12の下方に配置され、複数の迎撃ミサイル15を格納するとともに、パレット回転機構(図示せず)により回転可能にしている。レーダアンテナ16は滞空体11の全周側面に配置され、電波センサとしてのレーダ波を送受信して飛翔するミサイル等を探知する。赤外センサ17は、方位角方向、及び高低角方向に回転可能な機構とともに筐体12の下方に配置され、光波センサとして飛翔するミサイル等から放射される赤外線を検知する。
【0013】
図2は、本発明に係る滞空ミサイル迎撃システムの構成の一例を示すブロック図である。この図2に例示した滞空ミサイル迎撃システムは、制御部21、姿勢情報取得部22、レーダ制御処理部23、レーダアンテナ24、赤外センサ制御処理部25、赤外センサ26、射撃管制部27、及びパレット回転機構28を備えている。
【0014】
制御部21は、滞空体11の滞留位置及び姿勢制御を含むシステム全体の制御を行なう。姿勢情報取得部22は、滞空体11の滞空中における姿勢情報を取得し、制御部21ならびに後述するレーダ制御処理部23及び赤外センサ制御処理部26に送出する。取得する姿勢情報は、例えば3軸方向の姿勢角である。
【0015】
電波センサとしてのレーダ制御処理部23は、姿勢情報取得部22からの姿勢情報に基づく補正を加味しながらレーダアンテナ24によりレーダ信号を送受信し、低空で飛来するミサイル等の目標を比較的遠距離から探知・追尾してその目標情報を取得する。光波センサとしての赤外センサ制御処理部25も、同様に姿勢情報に基づく補正を加味しながら、赤外センサ26からの信号を処理してその目標情報を取得する。赤外センサ26は、目標から放射される赤外線等を検知する。
【0016】
射撃管制部27は、レーダ制御処理部23及び赤外センサ制御処理部25からの目標情報に基づき要撃計算を実行するとともに、その計算結果に基づきパレット回転機構28を制御し、図1中のパレット14に格納された複数の迎撃ミサイル15の発射を制御する。パレット回転機構28は、この射撃管制部27からの制御によりパレット14を回転させる。
【0017】
図3は、本実施例におけるパレットへの迎撃ミサイルの格納方法をモデル化して示す図である。図3(a)に示した事例では、回転軸33に回動可能に係止されたパレット31に、2つの迎撃ミサイル32がその発射方向を反対方向にして配置されている。また、図3(b)に示した事例では、同様に回転軸33に回動可能に係止されたパレット31に、複数(図中では8つ)の迎撃ミサイル32が、回転軸33を中心にして放射状に配置されている。そして、いずれの事例においても、上記したパレット回転機構28により回転軸33を中心に例えば方位方向に回動し、滞空体11の姿勢を大きく変えることなく、短時間のうちに迎撃ミサイル32を所定の方位に指向させる。
【0018】
次に、前出の図1乃至図3、ならびに図4の説明図及び図5のフローチャートを参照して、上述のように構成された滞空ミサイル迎撃システムの動作について説明する。
【0019】
図4は、この滞空ミサイル迎撃システム1が、対象目標を迎撃する場面の一例をモデル化して示す概念図である。この事例では、定点滞留している滞空ミサイル迎撃システム1が飛来するミサイルを探知し、迎撃ミサイルを発射する場面をモデル化している。また、図5は、その動作を説明するためのフローチャートである。
【0020】
まず、図5のフローチャートにおいて、滞空ミサイル迎撃システム1は、制御部21の制御のもとで所定の空間に向け航行し、定点滞留する。同時に、電波センサ、及び光波センサを用いて目標の探知を開始する。すなわち、レーダ制御処理部24の制御のもとでレーダアンテナ16によりレーダ信号の送受信を行なうとともに、赤外センサ17により受光した赤外線等を赤外センサ制御処理部26で処理し、対象目標の探知を開始する(ST51)。
【0021】
対象目標となるミサイル41が低空で飛来し、レーダアンテナ16の覆域42内に進入してくると、レーダ制御処理部24はこれを捕捉して目標情報を取得し、射撃管制部23に送出する。取得する目標情報としては、例えば対象目標の距離、方向、速度を含む情報であり、姿勢情報取得部22からの姿勢情報に基づく補正がなされたものである。そして、対象目標の追尾を開始し、取得した目標情報を継続して射撃管制部23に送出する。一方、赤外センサ17も同様に、対象目標となるミサイル41の発する赤外線等の光波43を受光してこれを追尾しながら目標情報を継続して取得し、射撃管制部23に送出する(ST52)。
【0022】
射撃管制部23では、レーダ制御処理部24及び赤外センサ処理部26からの目標情報を受けとり、これら目標情報に基づき、対象目標となるミサイル41の迎撃に必要な要撃演算を実行する。この要撃演算においては、対象目標となるミサイル41と迎撃ミサイル15との会合点を予測する(ST53)。
【0023】
この予測結果に基づき射撃方向を決定し、パレット14内に複数格納した迎撃ミサイルの中から発射対象の迎撃ミサイル15を選択する。ここに、射撃方向の決定にあたっては、例えば会合点に向けて最短経路となる方向としたり、あるいは障害物等を迂回する経路となる方向とするなど、運用場面により種々の決定手法を適用できる。また、迎撃ミサイルの選択にあたっては、例えば、すでに射撃方向に指向しているもの、あるいはパレット14を回転させることにより最短時間で指向させることができるもの等の選択手法を適用できる。
【0024】
さらに、迎撃ミサイル15の発射準備として、この発射対象の迎撃ミサイル15に対して、会合点に向けての自身の飛翔経路や対象目標となるミサイル41の飛来方向等の要撃情報を送出するとともに、パレット回転機構28に制御情報を送出してパレット14を回転させ、迎撃ミサイル15を所定の射撃方向に指向させる(ST54)。
【0025】
そして、射撃管制部23は追尾動作を継続しながら、対象目標となるミサイル41が所定の射程条件となったタイミングで、迎撃ミサイル15の発射を指示する(ST55)。この発射指示により迎撃ミサイル15は会合点に向けて飛翔し、ミサイル41に接近後は、自身の有するセンサを用いた自律誘導等によりさらに接近してミサイル41に会合する(ST56)。
【0026】
この後、動作終了が指示されるまでは、上述したST52のステップからの一連の動作を繰り返すことによって、新たな目標を探知して迎撃する動作を継続できる。また、例えば、同時に探知した複数の目標への連続射撃や同一目標への複数回射撃等、すでに要撃計算済みの対象目標がある場合には、迎撃ミサイル15の発射準備のステップとなるST54のステップから繰り返すといった動作も可能である。さらに、ST51からのステップを繰返して滞留位置を移動することによって、新たな位置に滞留して動作を継続することも可能である(ST57)。
【0027】
以上説明したように、本実施例の滞空ミサイル迎撃システムにおいては、滞空体により地形や建造物等による影響を受けにくい上空に滞留し、電波センサ及び光波センサを用いて低空で飛来するミサイルを全周方向かつ比較的遠距離から探知し追尾しているので、時間的余裕を持って対象目標に対処できる。加えて、迎撃ミサイルは回動式のパレットに格納されており、迎撃ミサイルを発射する際は、所望する飛翔経路の方向に迅速に指向させて発射することができる。従って、低空で飛来するミサイルをより確実に迎撃することのできる滞空ミサイル迎撃システムを得ることができる。
【0028】
また、自身が滞空しているため迎撃ミサイルの射程範囲も急激かつ大幅に変動することがないので、対象目標となるミサイルが接近中あるいは通過後を問わず、この射程範囲内を飛翔中に複数の迎撃ミサイルを用いてより多くの射撃機会を確保でき、迎撃の確実性をより高めることができる。
【0029】
さらに、滞空体を用いることによって十分なペイロードと滞空時間を確保し、複数の迎撃ミサイルを搭載・格納しつつ、所望する領域に滞空位置を変えながら動作させることができるので、特に長時間にわたる連続運用等を含む種々の運用形態に対応させることができる。
【0030】
なお、本発明は、上述した実施例のそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素及びそれらの組み合わせを種々に変形して具体化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る滞空ミサイル迎撃システムの外観の一例を示す概要図。
【図2】本発明に係る滞空ミサイル迎撃システムの構成の一例を示すブロック図。
【図3】パレットへの迎撃ミサイルの格納方法をモデル化して示す図。
【図4】本発明に係る滞空ミサイル迎撃システムの動作場面の一例をモデル化して示す概念図。
【図5】図4の場面における動作を説明するためのフローチャート。
【符号の説明】
【0032】
1 滞空ミサイル迎撃システム
11 滞空体
12 筐体
13 航行用プロペラ
14、31 パレット
15、32 迎撃ミサイル
16、24 レーダアンテナ
17、26 赤外センサ
21 制御部
22 姿勢情報取得部
23 レーダ制御処理部
25 赤外センサ制御処理部
27 射撃管制部
28 パレット回転機構
33 回転軸
41 ミサイル
42 レーダアンテナ覆域
43 光波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛来するミサイルを探知しその目標情報を取得するセンサと、
迎撃ミサイルを格納するパレットと、
このパレットを回転させるパレット回転機構と、
前記センサからの目標情報に基づき要撃計算を行なって前記迎撃ミサイルを所定の発射方向に指向させるように前記パレット回転機構を回転させるとともに、この迎撃ミサイルの発射を管制する射撃管制部とを
滞空体に備えたことを特徴とする滞空ミサイル迎撃システム。
【請求項2】
前記センサは、電波センサ及び光波センサ、または電波センサもしくは光波センサのいずれか一方としたことを特徴とする請求項1に記載の滞空ミサイル迎撃システム。
【請求項3】
前記パレットに、複数の迎撃ミサイルをその発射方向を反対方向にして配置したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の滞空ミサイル迎撃システム。
【請求項4】
前記パレットに、複数の迎撃ミサイルをその発射方向を放射状にして配置したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の滞空ミサイル迎撃システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−122013(P2008−122013A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308069(P2006−308069)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】