説明

漫然状態判定装置

【課題】被験者が漫然状態であるか否かを判定する。
【解決手段】呼吸情報算出部10は、周期的に変化する被験者の呼吸状態から被験者の呼吸周期と呼吸深度とを繰り返して算出する。判定情報算出部11は、呼吸情報算出部10が算出した呼吸周期及び呼吸深度から周期安定指標値及び深度安定指標値をそれぞれ算出する。被験者が安定した呼吸状態を継続することによって、周期安定指標値が周期安定指標閾値未満になり、且つ深度安定指標値が深度安定指標閾値未満になると、漫然状態判定部12は、漫然状態判定条件の成立を前提として、被験者が漫然状態であると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の呼吸周期及び呼吸深度から被験者の漫然状態を判定する判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2004−290324号公報には、シートベルトの固定用バックル等に乗員の呼吸を検出する圧力センサを設け、呼吸の周期と周期の標準偏差から乗員の覚醒状態を判断する装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−290324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の運転時において、運転者が常に周囲のあらゆる対象に注意を向けた緊張度の高い状態を続けると、運転者の疲労は蓄積し、長時間の運転を行う際には運転者にとって大きな身体的負担となる。そのため、運転者は、自然に運転に必要な情報だけを効率よく選択的に収集するようになり、運転者の身体状態は、自己にかかる身体的負担を軽減する方向へ徐々に移行する。このように、無意識に必要な情報だけを効率よく選択的に収集して身体的負担を軽減している身体状態を、漫然状態と称する。漫然状態は、意図的に手を抜いている状態や覚醒度が低下した状態や疲労が増大した状態とは異なり、高効率な運転状態であるといえる。
【0005】
漫然状態は、高効率な運転状態ではあるが、必要最小限の情報収集のみを行い、不要と判断した情報の収集を省略してしまう状態でもあることから、不測の事態に対する反応時において、認知や判断や操作の各行動に遅れが生じる可能性が懸念される。従って、漫然状態から事故に至るリスクを低減させるため、例えば、不測の事態を報知するための警報を発する際に、漫然状態の運転者に対しては通常よりも警報のタイミングを早めることが望ましい。
【0006】
しかし、特許文献1に記載された装置は、運転者が覚醒状態であるか否かを判断するものであり、漫然状態であるか否かを判断するものではない。
【0007】
そこで、本発明は、被験者が漫然状態であるか否かを判定することが可能な判定装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明の第1の態様の漫然状態判定装置は、呼吸情報取得手段と、周期指標値算出手段と、深度指標値算出手段と、判定手段とを備える。
【0009】
呼吸情報取得手段は、周期的に変化する被験者の呼吸状態から被験者の呼吸周期と呼吸深度とを繰り返して取得する。周期指標値算出手段は、呼吸情報取得手段が所定期間内に連続して取得した複数の呼吸周期から被験者の呼吸周期の安定度を示す周期安定指標値を算出する。深度指標値算出手段は、呼吸情報取得手段が所定期間内に連続して取得した複数の呼吸深度から被験者の呼吸深度の安定度を示す深度安定指標値を算出する。
【0010】
判定手段は、周期指標値算出手段が算出した周期安定指標値が予め設定された周期安定指標閾値未満であり、且つ深度指標値算出手段が算出した深度安定指標値が予め設定された深度安定指標閾値未満である場合、被験者が漫然状態であると判定する。
【0011】
上記呼吸情報取得手段は、呼吸状態検出手段と呼吸情報算出手段とを有してもよい。この場合、呼吸状態検出手段は、周期的に変化する被験者の呼吸状態を呼吸曲線として検出する。呼吸情報算出手段は、呼吸状態検出手段が検出した呼吸曲線から被験者の呼吸周期と呼吸深度とを繰り返して算出する。
【0012】
上記構成では、呼吸情報取得手段は、周期的に変化する被験者の呼吸状態から被験者の呼吸周期と呼吸深度とを繰り返して取得し、周期指標値算出手段及び深度指標値算出手段は、呼吸情報取得手段が取得した呼吸周期及び呼吸深度から周期安定指標値及び深度安定指標値をそれぞれ算出する。被験者が安定した呼吸状態を継続することによって、周期安定指標値が周期安定指標閾値未満になり、且つ深度安定指標値が深度安定指標閾値未満になると、判定手段は、被験者が漫然状態であると判定する。すなわち、被験者の呼吸状態を検出することによって、被験者が漫然状態であるか否かを判定することができる。
【0013】
また、本発明の第2の態様は、上記第1の態様の漫然状態判定装置であって、被験者情報取得手段と、閾値記憶手段とをさらに備える。
【0014】
被験者情報取得手段は、被験者に固有の被験者情報を取得する。閾値記憶手段は、周期安定指標閾値及び深度安定指標閾値のうち少なくとも一方の閾値を、被験者情報に応じて複数記憶する。
【0015】
判定手段は、閾値記憶手段に記憶された複数の閾値のうち被験者情報取得手段が取得した被験者情報に対応する閾値を用いて被験者が漫然状態であるか否かを判定する。
【0016】
上記被験者情報取得手段は、被験者の被験者情報の入力操作を受ける被験者情報入力手段を有してもよく、被験者情報は、被験者の年齢情報、性別情報及び体重情報のうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0017】
上記構成では、被験者に固有の被験者情報に応じた閾値を用いて被験者が漫然状態であるか否かを判定するので、判定の精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、被験者の呼吸状態を取得することによって、被験者が漫然状態であるか否かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態にかかる漫然状態判定装置及び衝突判定警報装置のブロック構成図である。
【図2】図1の漫然状態判定装置が実行する漫然状態判定処理を示すフローチャートである。
【図3】呼吸曲線の一例を示す図である。
【図4】図1の衝突判定警報装置が実行する衝突判定警報処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本実施形態の漫然状態判定装置1は、車両に搭載され、車両の運転者を被験者とし、運転者が漫然状態であるか否かを判定する。
【0021】
漫然状態とは、運転者が無意識に必要な情報だけを効率よく選択的に収集して身体的負担を軽減している身体状態であり、生理的に自律神経における副交感神経が優位な状態であると考えられる。副交感神経が優位な状態とは、心拍や呼吸などのサイクルが周期的で安定した状態であることから、漫然状態判定装置1は、呼吸状態が安定している運転者を漫然状態であると判定する。
【0022】
図1に示すように、漫然状態判定装置1は、検出部2と増幅器3とコントロールユニット4と入力部5とを備え、車室には衝突判定警報装置6が設けられている。
【0023】
入力部5は、運転者によって操作されるキーボードであり、運転者が容易に操作可能な位置(例えばインストルメントパネル)に取り付けられる。入力部5は、運転者等からの運転者情報(被験者情報)の入力操作を受け付ける被験者情報入力手段を構成し、入力された運転者情報をコントロールユニット4へ送信する。運転者情報は、運転者に固有の情報であり、運転者の年齢を示す年齢情報と性別を示す性別情報と体重を示す体重情報とを含む。
【0024】
衝突判定警報装置6は、表示部7とスピーカー8と制御部15と記憶部16とを有し、衝突判定警報処理を実行する。表示部7は、液晶ディスプレイであり、運転中の運転者が容易に視認可能な位置(例えばインストルメントパネル)に取り付けられる。記憶部16には、慢性状態フラグ設定領域が設定されている。衝突判定警報処理において、制御部15は、車両の衝突の可能性を判定し、衝突の可能性が高く運転者への警報が必要であると判定した場合に、運転者に対して警報を出力する。例えば、車両と前方の障害物との距離を距離センサ(図示省略)によって逐次検出し、障害物との距離が所定距離以下になったときに、運転者への警報が必要であると判定する。運転者に対する警報の出力は、運転者に対して注意を促すメッセージを表示部7に表示すること、並びにスピーカー8から警報音又は音声を出力することを含む。なお、表示部7は、タッチパネル機能を有してもよい。表示部7がタッチパネル機能を有する場合、表示部7を入力部5として機能させ、キーボードを省略してもよい。
【0025】
検出部2は、車両の運転席に運転者が着座した状態で、運転席のシート背面が運転者の背中から受ける圧力を検出する圧力センサである。検出部2は、車両が作動状態(例えばエンジン・オン状態)のとき、所定時間毎(例えば1msec毎)に繰り返して圧力を検出し、検出した圧力に対応する検出信号を増幅器3へ送信する。増幅器3は、検出部2が出力する検出信号を増幅し、増幅検出信号としてコントロールユニット4へ送信する。圧力センサは、運転席のシート背面に埋め込まれた図示しない弾性変形可能な中空体(例えばシリコーンチューブ)の内圧の変化を検出する。着座した運転者の上半身がシートベルトで拘束される等によってシート背面に密着している場合、運転者が息を吸い込むと、胸部の厚みが増し、シート背面に埋め込まれたシリコーンチューブが圧迫され、シリコーンチューブの内圧が上昇する。反対に、運転者が息を吐き出すと、胸部の厚みが減り、シリコーンチューブは圧迫から解かれ、内圧が低下する。圧力センサは、このように変化するシリコーンチューブの内圧を、運転者の背中から受ける圧力として逐次検出する。なお、本実施形態においては検出部2として圧力センサを例示したが、検出部2として、呼吸に伴い変化する腹部シートベルトとセンサとの距離変化を検出する超音波センサやひずみ変化を計測するストレインゲージを用いてもよい。
【0026】
コントロールユニット4は、CPU(Central Processing Unit)とROM(Read Only Memory)とRAM(Random Access Memory)とを備える。ROM及びRAMは、コントロールユニット4の記憶部14を構成し、ROMは、CPUによって読み出される種々のプログラム(閾値更新プログラム、呼吸状態検出プログラム及び漫然状態判定プログラムを含む)や種々のデータ(判定基準周期及び閾値参照テーブルを含む)を予め記憶している。なお、ROMに記憶される種々のデータは、実験やシミュレーションなどによって得られた測定値や理論値に基づいて設定される。また、これらのデータは、各プログラムに含まれた状態で記憶されてもよい。
【0027】
閾値参照テーブルには、運転者の年齢情報と性別情報と体重情報との組み合わせに応じて周期安定指標閾値Clim及び深度安定指標閾値Dlimが特定されるように、各組み合わせと閾値Clim,Dlimとが対応付けられて記憶されている。閾値Clim,Dlimは、例えば、年齢が高くなるほど値が低くなるように、男性よりも女性の方が値が低くなるように、体重の増加に比例して値が高くなるようにそれぞれ設定される。すなわち、記憶部14は、周期安定指標閾値Clim及び深度安定指標閾値Dlimを運転者情報に応じて複数記憶する閾値記憶手段を構成する。
【0028】
CPUは、閾値更新プログラムに従って閾値更新処理を実行する閾値更新処理部13、呼吸状態検出プログラムに従って呼吸状態検出処理を実行する呼吸状態検出部9及び呼吸情報算出部10、及び漫然状態判定プログラムに従って漫然状態判定処理を実行する判定情報算出部11及び漫然状態判定部12として機能する。
【0029】
RAMには、呼吸状態検出処理における検出結果を記憶する検出データ記憶領域と、呼吸状態検出処理において算出された値を記憶する算出結果記憶領域と、漫然状態の判定に使用する周期安定指標閾値Clim及び深度安定指標閾値Dlimを記憶する判定用閾値記憶領域とが予め設定されている。初期状態の判定用閾値記憶領域には、周期安定指標閾値Clim及び深度安定指標閾値Dlimとして標準的な運転者を想定したデフォルトの閾値がそれぞれ記憶されている。
【0030】
コントロールユニット4が入力部5から運転者情報を受信すると、閾値更新処理部13は、受信した運転者情報に対応する周期安定指標閾値Clim及び深度安定指標閾値Dlimを閾値参照テーブルから選択し、選択した閾値Clim,Dlimを判定用閾値記憶領域に更新して記憶させる。
【0031】
コントロールユニット4が増幅器3から増幅検出信号を受信すると、呼吸状態検出部9は、シート背面が運転者の背中から受ける圧力の検出値(検出圧力)を、受信した増幅検出信号から算出し、算出した検出圧力を記憶部14の検出データ記憶領域に時系列に順次蓄積して記憶させる。検出データ記憶領域は、記憶可能なデータ数の上限(上限データ数)が予め設定された領域であり、記憶されている検出圧力のデータ数が上限データ数に達すると、呼吸状態検出部9は、新規の検出圧力を算出した際に、既に記憶されている検出圧力のうち最初に記憶された最も古い検出圧力を削除し、新規の検出圧力を記憶させる。なお、上限データ数は、後述する周期安定指標値及び深度安定指標値を確実に算出可能な数に設定されている。
【0032】
また、呼吸状態検出部9は、検出データ記憶領域に記憶された所定時間毎の検出圧力に基づき、シート背面が運転者の背中から受ける圧力の時間変化を表す呼吸曲線(図3参照)を推定する。すなわち、検出部2と増幅器3と呼吸状態検出部9とは、周期的に変化する運転者の呼吸状態を呼吸曲線として検出する呼吸状態検出手段を構成する。吸気曲線(シート背面が運転者の背中から受ける圧力)は、運転者が吸い込んだ空気を吐き出すタイミング(以下、吸気期間終端と称する)で正側のピーク(最大値)を示し、運転者が空気を吸い込むタイミング(以下、呼気期間終端と称する)で負側のピーク(最小値)を示す。
【0033】
呼吸情報算出部10は、図3に示すように、呼吸状態検出部9が推定した呼吸曲線から計測可能な全ての呼吸周期C(C1,C2,C3)と呼吸深度D(D1)とを算出(計測)し、算出した呼吸周期Cと呼吸深度Dとを、記憶部12の算出結果記憶領域に時系列に更新して記憶させる。すなわち、呼吸情報算出部10は、呼吸状態検出部9が検出した呼吸曲線から運転者の呼吸周期Cと呼吸深度Dとを繰り返して算出する呼吸情報算出手段を構成する。なお、呼吸情報算出部10は、呼吸曲線から算出した呼吸周期及び呼吸深度と算出結果記憶領域に既に記憶されている呼吸周期及び呼吸深度とをそれぞれ比較し、新規に算出された呼吸周期及び呼吸深度を最新のデータとして算出結果記憶領域に追加して記憶させてもよい。
【0034】
呼吸周期とは、被験者が1回の呼吸に要する時間であり、本実施形態では、吸気期間終端から次の吸気期間終端までの時間幅を呼吸周期として算出する。すなわち、呼吸情報算出部10は、呼吸曲線の正側のピーク間の時間を呼吸周期Cとして算出する。なお、呼吸曲線の負側のピーク間の時間(呼気期間終端から次の呼気期間終端までの時間幅)を呼吸周期として算出してもよく、呼吸曲線の正側のピークから負側のピークまでの時間の2倍を呼吸周期として算出してもよい。
【0035】
呼吸深度とは、被験者の1回の呼吸において周期的に増減する検出可能な値の変化量(最大値と最小値との差)であり、本実施形態では、運転者の1回の呼吸においてシート背面が運転者の背中から受ける圧力の変化量を呼吸深度Dとして算出する。すなわち、呼吸情報算出部10は、1回の呼吸周期での吸気期間終端時の圧力(最大圧力)と呼気期間終端時の圧力(最小圧力)との差を呼吸深度Dとして算出する。なお、図3では、呼吸周期C3に対応する呼吸深度D1のみを図示し、他の呼吸周期C1,C2に対応する呼吸深度の図示を省略している。また、圧力変化に代えて呼吸に伴い変化する腹部シートベルトとセンサとの距離変化を検出する場合、1回の呼吸周期での上記距離の変化量を呼吸深度として算出すればよい。
【0036】
判定情報算出部11は、算出結果記憶領域に記憶された呼吸周期から直近の10周期分の呼吸周期を抽出し、抽出した10周期分の呼吸周期の標準偏差を、運転者の呼吸周期の安定度を示す周期安定指標値として算出する。また、判定情報算出部11は、算出結果記憶領域に記憶された直近の10周期分の呼吸深度を抽出し、抽出した10周期分の呼吸深度の標準偏差を、運転者の呼吸深度の安定度を示す深度安定指標値として算出する。すなわち、判定情報算出部11は、所定期間内の複数の呼吸周期から周期安定指標値を算出する周期指標値算出手段と、所定期間内の複数の呼吸深度から深度安定指標値を算出する深度指標値算出手段とを構成する。なお、抽出対象の周期数は、10周期に限定されるものではなく、呼吸周期及び呼吸深度の安定度またはバラツキ度が把握できる範囲で任意に設定すればよい。また、抽出する周期数に代えて所定の抽出対象時間(例えば30秒)を予め設定し、抽出対象時間に含まれる直近の呼吸周期と呼吸深度とを全て抽出して、各標準偏差を算出してもよい。さらに、標準偏差に代えて、標準誤差や変動係数を周期安定指標値や深度安定指標値として算出してもよい。
【0037】
漫然状態判定部12は、算出結果記憶領域に記憶された呼吸周期から直近の1周期分の呼吸周期を抽出し、抽出した呼吸周期と記憶部14に記憶された所定の判定基準周期とを比較する。比較の結果、抽出した呼吸周期が判定基準周期以上である場合、漫然状態判定部12は、漫然状態判定条件が成立していると判定し、抽出した呼吸周期が判定基準周期未満である場合、漫然状態ではないと判定する。一般に、漫然状態の運転者は息を深く吸って吐く傾向があり、短い周期で呼吸している運転者の場合、仮に呼吸状態が安定していても漫然状態へ移行している可能性は極めて低い。上記判定基準周期は、漫然状態での標準的な呼吸周期よりも明らかに短い呼吸周期で呼吸状態が安定している運転者を漫然状態であると誤判定してしまうことを防止するための判定基準時間であり、上記標準的な呼吸周期以上の所定の時間が設定される。なお、短い周期で呼吸状態が安定している運転者を判別する方法は上記に限定されず、例えば、直近の数周期分の呼吸周期の平均値を判定基準周期と比較してもよく、所定時間内の呼吸周期数を判定標準周期数と比較してもよい。
【0038】
また、漫然状態判定部12は、判定用閾値記憶領域に記憶された周期安定指標閾値Clim及び深度安定指標閾値Dlimと、判定情報算出部11が算出した呼吸周期の標準偏差(周期安定指標値)及び呼吸深度の標準偏差(深度安定指標値)とをそれぞれ比較する。呼吸周期の標準偏差が周期安定指標閾値Clim未満であり、呼吸深度の標準偏差が深度安定指標閾値Dlim未満である場合、漫然状態判定部12は、運転者の呼吸状態が安定していると判定する。さらに、漫然状態判定部12は、上記漫然状態判定条件が成立し、且つ運転者の呼吸状態が安定していると判定した場合に、運転者が漫然状態であると判定する。すなわち、漫然状態判定部12は、運転者が漫然状態であるか否かを判定する判定手段を構成する。
【0039】
また、漫然状態判定部12は、運転者が漫然状態であると判定したとき、漫然状態検出信号を衝突判定警報装置6へ送信し、運転者が漫然状態ではないと判定したとき、漫然状態非検出信号を衝突判定警報装置6へ送信する。漫然状態検出信号又は漫然状態非検出信号を受信した衝突判定警報装置6の制御部15は、漫然状態検出信号の受信に応じて漫然状態フラグをオンに設定し、漫然状態非検出信号の受信に応じて漫然状態フラグをオフに設定する。
【0040】
衝突判定警報装置6の制御部15は、漫然状態フラグの状態を判定し、漫然状態フラグがオフの場合には通常モードで、漫然状態フラグがオンの場合には緊急モードで、それぞれ衝突判定警報処理を実行する。緊急モードでは、運転者への注意喚起が通常モードよりも効果的に行われるように、制御部15が衝突判定警報処理を実行する。緊急モードにおける衝突判定警報処理には、運転者への警報が必要であるか否かの判定基準を通常モードよりも緩和して、通常モードよりも早いタイミングでメッセージの表示及び警報音の出力を行う処理と、表示部7にメッセージを点滅表示する処理と、スピーカー8から出力する警報音又は音声の音量(音圧)を通常モードよりも増大させる処理とが含まれる。なお、緊急モードにおける衝突判定警報処理は、例えば、表示部7の画面の輝度を通常モードよりも高める(画面を明るくする)処理など上記以外の処理であってもよい。
【0041】
次に、コントロールユニット4が実行する閾値更新処理、呼吸状態検出処理及び漫然状態判定処理について説明する。
【0042】
まず、閾値更新処理について説明する。本処理は、車両の始動時(例えばエンジン・オン時)に開始される。本処理が開始されると、閾値更新処理部13は、表示部7に運転者情報の設定案内画面を表示させる。設定案内画面には、運転者情報を更新するか否かの選択を求めるメッセージと、運転者情報の更新を選択する場合に押下する更新用のキーの名称と、更新せずに現在の設定を維持する場合に押下する設定維持用のキーの名称と、デフォルトの設定に戻す場合に押下する初期設定用のキーの名称とが表示される。更新用のキーが押下されると、次に年齢情報の入力欄と性別情報の入力欄と体重情報の入力欄と設定完了用のキーの名称とが表示される。入力部5に各情報が入力されると、入力された情報が対応する入力欄に表示され、設定完了用のキーが押下されると、閾値更新処理部13は、入力された運転者情報に対応する周期安定指標閾値Clim及び深度安定指標閾値Dlimを閾値参照テーブルから選択し、選択した閾値Clim,Dlimを判定用閾値記憶領域に更新して記憶させて、本処理を終了する。設定維持用のキーが押下されると、閾値更新処理部13は、判定用閾値記憶領域に記憶されている閾値Clim,Dlimを更新せずに、本処理を終了する。初期設定用のキーが押下されると、閾値更新処理部13は、判定用閾値記憶領域にデフォルトの閾値を記憶させて、本処理を終了する。また、入力部5が入力操作を全く検知しない状態が所定時間継続した場合、閾値更新処理部13は、判定用閾値記憶領域に記憶されている閾値Clim,Dlimを更新せずに、本処理を終了する。閾値更新処理部13は、本処理の終了時に設定案内画面の表示を終了する。なお、上記各キーには、入力部5のキーボードのキーボタンが割り当てられる。
【0043】
次に、呼吸状態検出処理について説明する。本処理は、検出データ蓄積処理と呼吸情報算出処理とを含む。
【0044】
検出データ蓄積処理は、コントロールユニット4が増幅器3から増幅検出信号を受信する毎に開始される。本処理が開始されると、呼吸状態検出部9は、受信した増幅検出信号から検出圧力を算出し、算出した検出圧力を検出データ記憶領域に時系列に順次蓄積して記憶させて、本処理を終了する。
【0045】
呼吸情報算出処理は、コントロールユニット4が増幅器3から増幅検出信号を受信した回数が所定回数に達する毎に開始される。本処理が開始されると、呼吸状態検出部9は、検出データ記憶領域に記憶された検出圧力に基づいて呼吸曲線(図3参照)を推定する。次に、呼吸情報算出部10は、呼吸状態検出部9が推定した呼吸曲線から計測可能な全ての呼吸周期Cと呼吸深度Dとを算出し、算出した呼吸周期Cと呼吸深度Dとを、記憶部12の算出結果記憶領域に時系列に更新して記憶させて、本処理を終了する。なお、呼吸情報算出処理は、検出データ蓄積処理の終了から連続的に実行されてもよく、所定時間毎に実行されてもよい。例えば、呼吸情報算出処理の実行頻度を規定する所定時間を標準的な呼吸周期に合わせて設定することによって、呼吸曲線の推定や呼吸周期及び呼吸深度の算出を効率的に行うことができる。
【0046】
次に、漫然状態判定処理について、図2のフローチャートを参照して説明する。
【0047】
本処理は、上記呼吸情報算出処理が終了する毎に開始される。本処理が開始されると、漫然状態判定部12は、算出結果記憶領域に記憶された呼吸周期から直近の呼吸周期を抽出し、抽出した呼吸周期が所定の判定基準周期以上であるか否かを判定する(ステップS1)。呼吸周期が所定の判定基準周期以上であると判定した場合(ステップS1:YES)は、ステップS2へ移行し、呼吸周期が所定の判定基準周期未満であると判定した場合(ステップS1:NO)は、ステップS6へ移行する。
【0048】
ステップS2では、判定情報算出部11が算出結果記憶領域に記憶された直近の10周期分の呼吸周期と呼吸深度とを抽出し、周期安定指標値(呼吸周期の標準偏差)と深度安定指標値(呼吸深度の標準偏差)とを算出し、ステップS3へ移行する。
【0049】
ステップS3では、漫然状態判定部12が判定用閾値記憶領域に記憶された周期安定指標閾値Climを読み出し、読み出した閾値ClimとステップS2で算出された周期安定指標値とを比較する。比較の結果、周期安定指標値が閾値Clim未満の場合(ステップS3:YES)はステップS4へ移行し、閾値Clim以上の場合(ステップS3:NO)はステップ6へ移行する。
【0050】
ステップS4では、漫然状態判定部12が判定用閾値記憶領域に記憶された深度安定指標閾値Dlimを読み出し、読み出した閾値DlimとステップS2で算出された深度安定指標値とを比較する。比較の結果、深度安定指標値が閾値Dlim未満の場合(ステップS4:YES)はステップS5へ移行し、閾値Dlim以上の場合(ステップS4:NO)はステップS6へ移行する。
【0051】
ステップS5では、漫然状態判定部12が運転者を漫然状態であると判定し、漫然状態検出信号を衝突判定警報装置6へ送信して、本処理を終了する。漫然状態検出信号を受信した衝突判定警報装置6では、制御部15が漫然状態フラグをオンに設定する。
【0052】
ステップS6では、漫然状態判定部12が運転者を漫然状態ではないと判定し、漫然状態非検出信号を衝突判定警報装置6へ送信して、本処理を終了する。漫然状態非検出信号を受信した衝突判定警報装置6では、制御部15が漫然状態フラグをオフに設定する。
【0053】
次に、衝突判定警報装置6の制御部15が実行する衝突判定警報処理について、図4のフローチャートを参照して説明する。
【0054】
本処理は、車両の始動時に開始され、車両の停止時(例えばエンジン・オフ時)まで所定時間毎に繰り返して実行される。
【0055】
本処理が開始されると、制御部15は、記憶部16の漫然状態フラグの状態を判定する。漫然状態フラグがオンの場合(ステップS7:YES)には、緊急モードで衝突判定警報処理を実行し(ステップS8)、漫然状態フラグがオフの場合(ステップS7:NO)には、通常モードで衝突判定警報処理を実行して(ステップS9)、本処理を終了する。
【0056】
緊急モードでは、運転者への注意喚起が通常モードよりも効果的に行われるように、制御部15が衝突判定警報処理を実行する。
【0057】
本実施形態によれば、呼吸情報算出部10は、周期的に変化する運転者の呼吸状態から運転者の呼吸周期Cと呼吸深度Dとを繰り返して算出し、判定情報算出部11は、呼吸情報算出部10が算出した呼吸周期C及び呼吸深度Dから周期安定指標値及び深度安定指標値をそれぞれ算出する。運転者が安定した呼吸状態を継続することによって、周期安定指標値が周期安定指標閾値Clim未満になり、且つ深度安定指標値が深度安定指標閾値Dlim未満になると、漫然状態判定部12は、漫然状態判定条件の成立を前提として、運転者が漫然状態であると判定する。すなわち、運転者の呼吸状態を検出することによって、運転者が漫然状態であるか否かをリアルタイムに判定することができる。
【0058】
漫然状態判定部12は、運転者の呼吸状態が安定していても呼吸周期が判定基準周期未満である場合には、運転者が漫然状態ではないと判定する。従って、漫然状態での標準的な呼吸周期よりも明らかに短い呼吸周期で呼吸状態が安定している運転者を漫然状態であると誤判定してしまうことを防止することができ、判定精度が向上する。
【0059】
漫然状態判定部12は、運転者に固有の運転者情報に応じた閾値Clim,Dlimを用いて運転者が漫然状態であるか否かを判定するので、判定精度がさらに向上する。
【0060】
また、運転者が漫然状態であると漫然状態判定装置1が判定すると、衝突判定警報装置6は、衝突判定警報処理を通常モードから緊急モードに切り替えて実行する。緊急モードでは、通常モードよりも早いタイミングでメッセージの表示及び警報音が出力され、表示部7にメッセージが点滅表示され、スピーカー8から出力する警報音又は音声の音量が通常モードよりも増大するので、運転者は、警報が発せられた状況であることを通常モードに比べて早期に気づくことができる。従って、不測の状態における反応遅れによって生じる事故リスクを低減させることができ、運転者の漫然状態に起因した事故の発生を未然に防止することができる。
【0061】
なお、同乗者との対話などにより運転者が発話しているときは、運転者の呼吸は乱れるため、運転者が漫然状態ではないと判定される。しかし、このような発話行為は活発な身体状態下で行われるため、発話中の運転者を漫然状態ではないと判定することは誤判定ではない。従って、運転者の呼吸状態を確実に連続して検出可能な状況下において、漫然状態であるか否かを常に適切に判定することができる。
【0062】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、本実施形態による発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。
【0063】
例えば、本実施形態では、運転者情報として運転者の年齢と性別と体重とを用いたが、これらを選択的に用いてもよく、また他の情報を用いてもよい。
【0064】
入力部5に代えて又は加えて、運転席に着座した運転者から運転者情報を検出する運転者情報検出手段を設けてもよい。例えば、運転席に着座した運転者の体重を計測する体重計をシート座部に埋め込むことによって、体重計の検出値を運転者情報として用いることができる。また、着座した運転者の顔を撮像するカメラと、カメラが撮像した顔画像を解析して性別や年齢を推定する画像解析装置を車室内に設けることによって、画像解析装置が推定した性別や年齢を運転者情報として用いることができる。
【0065】
また、漫然状態判定装置1の判定結果を他のシステムに反映させてもよい。例えば、ブレーキペダルの踏み込み量に応じた制動力を発生させるブレーキシステムにおいて、運転者が漫然状態であると判定されているときには、制動開始までのタイムラグを短縮させるために所定の予圧をかけておくことや、通常時と同じ力でブレーキを踏み込んだ場合であっても通常時よりも短い制動距離で停車するように発生させる制動力を通常時よりも増大させることが可能である。これにより、不測の状態における反応遅れによって生じる事故リスクを低減させることができ、運転者の漫然状態に起因した事故の発生を未然に防止することができる。
【0066】
すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、被験者の呼吸周期及び呼吸深度から被験者の漫然状態を判定する判定装置に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0068】
1:漫然状態判定装置
2:検出部(呼吸情報取得手段、呼吸状態検出手段)
3:増幅器(呼吸情報取得手段、呼吸状態検出手段)
4:コントロールユニット
5:入力部(被験者情報取得手段、被験者情報入力手段)
6:衝突判定警報装置
7:表示部
8:スピーカー
9:呼吸状態検出部(呼吸情報取得手段、呼吸状態検出手段)
10:呼吸情報算出部(呼吸情報取得手段、呼吸情報算出手段)
11:判定情報算出部(周期指標値算出手段、深度指標値算出手段)
12:漫然状態判定部(判定手段)
13:閾値更新処理部
14:記憶部(閾値記憶手段)
15:衝突判定警報装置の制御部
16:衝突判定警報装置の記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的に変化する被験者の呼吸状態から当該被験者の呼吸周期と呼吸深度とを繰り返して取得する呼吸情報取得手段と、
前記呼吸情報取得手段が所定期間内に連続して取得した複数の呼吸周期から前記被験者の呼吸周期の安定度を示す周期安定指標値を算出する周期指標値算出手段と、
前記呼吸情報取得手段が前記所定期間内に連続して取得した複数の呼吸深度から前記被験者の呼吸深度の安定度を示す深度安定指標値を算出する深度指標値算出手段と、
前記周期指標値算出手段が算出した周期安定指標値が予め設定された周期安定指標値閾値未満であり、且つ前記深度指標値算出手段が算出した深度安定指標値が予め設定された深度安定指標値未満である場合、前記被験者が漫然状態であると判定する判定手段と、を備えた
ことを特徴とする漫然状態判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の漫然状態判定装置であって、
前記呼吸情報取得手段は、周期的に変化する被験者の呼吸状態を呼吸曲線として検出する呼吸状態検出手段と、当該呼吸状態検出手段が検出した呼吸曲線から前記被験者の呼吸周期と呼吸深度とを繰り返して算出する呼吸情報算出手段とを有する
ことを特徴とする漫然状態判定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の漫然状態判定装置であって、
前記被験者に固有の被験者情報を取得する被験者情報取得手段と、
前記周期安定指標閾値及び前記深度安定指標閾値のうち少なくとも一方の閾値を、被験者情報に応じて複数記憶する閾値記憶手段と、を備え、
前記判定手段は、前記閾値記憶手段に記憶された複数の閾値のうち前記被験者情報取得手段が取得した被験者情報に対応する閾値を用いて前記被験者が漫然状態であるか否かを判定する
ことを特徴とする漫然状態判定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の漫然状態判定装置であって、
前記被験者情報取得手段は、前記被験者の被験者情報の入力操作を受ける被験者情報入力手段を有し、
前記被験者情報は、前記被験者の年齢情報、性別情報及び体重情報のうち少なくとも1つを含む、
ことを特徴とする漫然状態判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−83886(P2012−83886A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228444(P2010−228444)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】