説明

潤滑剤の塗布状態検査装置及び塗布状態検査方法

【課題】ナックルへのベアリング圧入過程においてナックル内径の圧入摺動面に塗布される潤滑剤の塗布状態の良否を的確に判定することができ、且つ検査の信頼性を向上させる潤滑剤の塗布状態検査装置及び塗布状態検査方法を提供する。
【解決手段】車両の懸架装置を構成するナックルと該ナックルに圧入されるベアリング13と該ナックルのベアリング圧入面に塗布される潤滑剤に対して紫外光を照射してカメラで撮影してその撮像画像に対して二値化処理を施し、前記ナックルのベアリング圧入面に沿って略円環形状の判定領域10を設定する判定領域設定手段と、前記ベアリング13の圧入によって前記圧入面から前記判定領域10にはみ出す潤滑剤12のはみ出し領域から前記圧入面に塗布された潤滑剤の塗布状態の良否を判定する良否判定手段とを備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光成分を含有する潤滑剤が塗布される被検査体に対して紫外光を照射し、前記紫外光が照射される被検査体をカメラで撮影し、その撮像画像に対して二値化処理を施して前記潤滑剤の塗布状態を検査する潤滑剤の塗布状態検査装置及び塗布状態検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フロントアクスルAss’y組立工程において、ナックルにベアリングを圧入する工程があり、その際、図9に示すように、事前にナックル21の内径にグリスのような潤滑剤22を塗布し、ベアリング23を圧入している。符号25は、スナップリングである。
【0003】
このようにして、組み付けられるフロントアクスルについて図10を用いて説明する。図10はフロントアクスルの断面図である。
図10に示すフロントアクスルでは、ナックル21にはアーム(不図示)が複数本設けられており、ナックル21の内側に潤滑剤22を塗布した後にベアリング23を圧入し、そこにハブ29を圧入する。ベアリング23は、スナップリング25のような係止部材によって抜け止めが施される。
その後、キャリバーなどを組んでいった状態で車体のラインへフロントアクスルAssyという形で送り、ハブ29の内径スプラインへドライブシャフト27を組み付ける。
【0004】
上述したように、ナックル21の内径(圧入摺動面)に潤滑剤22を予め塗布した後にベアリング23を圧入すると、図10の符号Aの位置に余分な潤滑剤が押出され、はみ出してくる。潤滑剤がはみ出すことは問題ではなく、グリスの塗布忘れやムラがあると機能的に問題があるため、グリスのはみ出し状態を検査する必要があるが、従来、作業者による限度見本との目視比較確認により行われていた。しかし、作業者によって比較確認の判定にバラツキが生じたり、人件費が発生するため、コストアップ要因となる。
【0005】
そこで、上記した問題点を改善するためグリス塗布状態の検査工程を自動化しているが、一般的に前記検査工程の自動化の手法として、画像処理装置が採用されている。
例えば、特許文献1(特開2007−240526号公報)には、潤滑剤が塗布された検査対象を撮像し、撮像画像に基づいて潤滑剤の塗布状態を検査する発明が提案されている。詳しくは、転がり軸受の保持器における、蛍光成分を有する潤滑剤の塗布状態を検査する検査装置であって、紫外光を照射する紫外光源と、前記紫外光源に照射された転がり軸受けを撮像する撮像手段とを備え、紫外光を照射した状態でベアリングを撮像し、撮像画像に対して二値化処理を行った後、潤滑剤の領域の面積に基づいて保持器における潤滑剤の塗布状態を判断するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−240526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示される発明は、転がり軸受の保持器における発明であって、ナックルの内径にベアリングを圧入する場合には適用されない。
また、特許文献1には、潤滑剤の塗布状態がはみ出しであることを検知するものの、潤滑剤はみ出し状態の良い場合と悪い場合についての良否判定については述べられていない。
【0008】
そこで、本発明はかかる従来技術の課題に鑑み、ナックルへのベアリング圧入過程においてナックル内径の圧入摺動面に塗布される潤滑剤の塗布状態の良否を的確に判定することができ、且つ検査の信頼性を向上させる潤滑剤の塗布状態検査装置及び塗布状態検査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため、蛍光成分を含有する潤滑剤が塗布される被検査体に対して紫外光を照射する紫外光照射手段と、前記被検査体をカメラで撮影する撮影手段と、該撮影手段により得られる撮像画像に対して二値化処理を施して前記潤滑剤の塗布状態を得る画像処理手段とを備える潤滑剤の塗布状態検査装置において、前記被検査体は、車両の懸架装置を構成するナックルと該ナックルに圧入されるベアリングと該ナックルのベアリング圧入面に塗布される潤滑剤よりなり、前記塗布状態検査装置は、該ナックルの該ベアリング圧入面に沿って略円環形状の判定領域を設定する判定領域設定手段と、前記ベアリングの圧入によって前記圧入面から前記判定領域にはみ出す潤滑剤のはみ出し領域から前記圧入面に塗布された潤滑剤の塗布状態の良否を判定する良否判定手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
かかる発明によれば、前記ナックルのベアリング圧入面に塗布される潤滑剤がベアリングの圧入によって前記圧入面からはみ出る潤滑剤のはみ出し領域上に、前記潤滑剤の塗布状態を検査するための前記略円環形状の判定領域を設定することにより、ベアリング圧入面に沿って潤滑剤の塗布状態を検査することができるため、潤滑剤の塗布状態の良否を的確に判定することが可能である。
また、前記ベアリングの圧入によって前記圧入面から前記判定領域にはみ出す潤滑剤のはみ出し領域から前記圧入面に塗布された潤滑剤の塗布状態の良否を判定する良否判定手段を備えるため、従来技術のように作業者の目視比較確認による結果のバラツキや誤判定を減少して信頼性を向上させる潤滑剤の塗布状態検査装置を提供でき、検査工程の自動化が可能となる。
【0011】
さらに、前記良否判定手段は、前記略円環形状の判定領域内における潤滑剤のはみ出し領域の周方向の切れ目の有無を計測する切れ目有無計測手段と、前記判定領域内における該はみ出し領域の面積を計測する面積計測手段と、前記はみ出し領域の径方向の幅を計測する幅計測手段とを備え、夫々の計測結果に基づいて前記圧入面に塗布された潤滑剤の塗布状態の良否を判定することを特徴とする。
このように、前記良否判定手段として、切れ目有無計測手段と面積計測手段と幅計測手段とを備えて潤滑剤の塗布状態の良否を判定することにより、より詳しい潤滑剤の塗布状態を基に、的確且つ従来技術よりも検査時間を短縮させて潤滑剤の塗布状態を検査することができる。よって、検査の信頼性が向上し、低コスト化が図れる。
【0012】
また、前記切れ目有無計測手段は、前記二値化処理が施された撮像画像の色の変化具合を数値化した潤滑剤の欠陥度合に基づいて計測されることを特徴とする。
前記二値化処理が施された撮像画像の色の変化具合を数値化した潤滑剤の欠陥度合に基づいて、前記略円環形状の判定領域内における潤滑剤のはみ出し領域の周方向の切れ目の有無を計測することにより、潤滑剤はみ出し領域の全周にわたって1mm以下の微少な切れ目を検出することができる。よって、潤滑剤の塗布量の変化を検知して塗布状態の良否を的確に判定することができる。
【0013】
さらに、前記幅計測手段は、前記二値化処理が施された撮像画像に対してエッジ処理を行って前記潤滑剤のはみ出し領域の中心から内径までの距離を求めるエッジ処理手段と、該エッジ処理手段から得られる前記距離に基づいて演算処理にて前記はみ出し領域の径方向の幅を算出する演算手段とを具備することを特徴とする。
このように、前記二値化処理が施された撮像画像に対してエッジ処理手段と、演算手段とを用いることにより、ナックル内径の潤滑剤が塗布される内面(圧入摺動面)の反射光による潤滑剤のはみ出し領域の誤判定を抑制することができる。よって、塗布状態検査の信頼性を向上させることができる。
【0014】
さらにまた、前記面積計測手段は、前記二値化処理が施された撮像画像における白領域を特定し、該白領域の面積が潤滑剤の領域の面積として計測されることを特徴とする。
このように、前記二値化処理が施された撮像画像における白領域を特定し、該白領域の面積が潤滑剤の領域の面積として計測されることにより、潤滑剤の識別を容易にして潤滑剤の有無を計測することができる。
また、前記切れ目有無計測手段において、滑剤の欠陥度合が小さな値となるのは潤滑剤に切れ目がなく正常である場合の他に、潤滑剤が塗布されていない領域が連続する異常である場合が考えられるが、前記切れ目有無計測手段とあわせて面積計測手段を用いることにより潤滑剤の塗布面積から正常か異常かを判断することができるので、潤滑剤の塗布状態を正しく検査することができる。
【0015】
また、蛍光成分を含有する潤滑剤が塗布される被検査体に対して紫外光を照射し、前記紫外光が照射される被検査体をカメラで撮影し、その撮像画像に対して二値化処理を施して前記潤滑剤の塗布状態を検査する潤滑剤の塗布状態検査方法において、前記被検査体は、車両の懸架装置を構成するナックルと該ナックルに圧入されるベアリングと該ナックルのベアリング圧入面に塗布される潤滑剤とし、該ナックルの該ベアリング圧入面に沿って略円環形状の判定領域を設定し、前記ベアリングの圧入によって前記圧入面から該判定領域にはみ出す潤滑剤のはみ出し領域から前記圧入面に塗布された潤滑剤の塗布状態の良否を判定検査することを特徴とする。
【0016】
かかる潤滑剤の塗布状態検査方法の発明によれば、前記ベアリングの圧入面に沿って略円環形状の判定領域を設定し、前記ベアリングの圧入によって前記圧入面から該判定領域にはみ出す潤滑剤のはみ出し領域からの該圧入面に塗布された潤滑剤の塗布状態の良否を判定することにより、的確且つ検査の信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ナックルへのベアリング圧入過程においてナックル内径の圧入摺動面に塗布される潤滑剤の塗布状態の良否を的確に判定することができ、且つ検査の信頼性を向上させる潤滑剤の塗布状態検査装置及び塗布状態検査方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る潤滑剤の塗布状態検査装置の全体図である。
【図2】図1の一部拡大断面図である。
【図3】ベアリング圧入後の撮像画像の一例である。
【図4】面積計測手段を説明する図である。
【図5】略円環形状の判定領域内に潤滑剤が無い場合を説明する図である。
【図6】切れ目有無判定手段を説明する図である。
【図7】幅計測手段を説明する図である。
【図8】ナックル内径の反射光の対策を説明する図であり、(a)はエッジ処理、(b)は演算処理を示す。
【図9】ナックルにベアリングを圧入する工程を説明する図である。
【図10】フロントアクスル断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0020】
図1は本発明の実施形態に係る潤滑剤の塗布状態検査装置の全体図である。図1に示す塗布状態検査装置は、検査対象となるワークを搬送する搬送コンベア5と、ワークの潤滑剤塗布状態を検査する測定ユニット1と、測定ユニット1を上下に昇降させる昇降シリンダ7とで構成される。
なお、図示しないが、測定ユニット1を挟んで昇降シリンダ7と対峙する位置に点検用開閉シャッターが備えられている。
【0021】
搬送コンベア5で搬送されるワークは、測定ユニット1によって潤滑剤の塗布状態を検査される。ワークが測定ユニット1の真下にくると測定ユニット1が下降し、検査を行う。検査後、測定ユニット1は上昇し、次のワークが搬送される。
本発明においてワークとは、ナックルの内径の内面(圧入摺動面)に予めグリスを塗布してベアリングを圧入した後の状態のものであり、図1に示す検査装置はナックルにベアリングを圧入したときにベアリングの圧入面に沿って押出されてはみ出す潤滑剤のはみ出し領域に基づき、前記圧入面に塗布される潤滑剤の塗布状態を検査するものである。
【0022】
次に、測定ユニット1について図2を用いて説明する。図2は図1の一部拡大断面図であり、図1の測定ユニット1を拡大して示す一部拡大断面図である。
図2に示す測定ユニット1は、ワーク2の塗布状態を撮影するカメラ4と、カメラ4に取りつけられて用いられるレンズ6と、ワーク2に紫外光を照射する紫外光照明部8と、紫外光の外部への漏洩を防ぐゴム製の遮光カバー3とで構成されている。紫外光照明部8は、傾斜面を有しており、円環状に配置される発光素子(LED)群9からなり、ワーク2へ紫外光を照射する。符号5は、ワーク2を搬送する搬送コンベアである。
【0023】
搬送コンベア5でワーク2が搬送されてくると、ワーク2の潤滑剤の塗布状態を検査するために測定ユニット1が下降し、紫外光照明部8により紫外光が照射され、カメラ4で撮影され、その撮像画像を画像処理装置(不図示)へ送る。ワーク2に紫外光を照射すると潤滑剤が青く発光し、潤滑剤の識別が容易になり画像処理装置による検査工程の自動化が可能となる。図3にワークに紫外光が照射されたときの撮像画像の一例を示す。
【0024】
図3に示すように、ナックル11にベアリング13を圧入することにより略円環形状に押出される潤滑剤12は、紫外光を受けて蛍光を発する蛍光成分が含まれているため、紫外光照明部の照射により青く発光する。
なお、図3に示す撮像画像では、ナックル11やベアリング13のような金属面は白色に、例えばベアリング13の端面側に設けられる車速検知用のABS磁気エンコーダー(不図示)は黒色に撮影されるため、紫外光を照射して得られる撮像画像は画像装置に取り込むことにより容易に色で識別し易くなる。よって、ABS磁気エンコーダーを内蔵して設けて、該ABS磁気エンコーダーと同系色である潤滑剤がはみ出して重なったとしても、紫外光を照射して識別することができる。
【0025】
本実施形態では、ナックルに塗布される潤滑剤としてモリブデン含有のグリスが用いられる。モリブデンは金属面が互いに接触する際の摩擦を低減する。また、グリスにはモリブデンの他にジフェニルアミンが含まれているために、紫外光照射によりジフェニルアミンが分解してグリスを青く発光させる。
【0026】
次に、青く発光して識別し易くなった潤滑剤の塗布状態を検査するために、画像処理装置へ送られた撮像画像について潤滑剤のはみ出し状態を計測し、良否判定を行う。
まず、予め登録された比較用の登録マスターモデルとの座標変換を行い、位置ずれを修正する。その後、撮像画像に対して二値化処理を施す。二値化処理は、画像を構成する各画素の明るさを、一定の基準値により、黒色と白色の2つの値に変換する作業のことである。ここで、一定の基準値のことを閾値という。基準とする閾値の値によって、2値化を施した画像は異なるが、本実施形態では、図3に示す撮像画像の二値化処理画像を図4に示す。
【0027】
上述したようにして二値化処理を行うと、潤滑剤12は白色に変換される。よって、ナックルにベアリングを圧入するときに押出されてはみ出す潤滑剤12は、図4のように略円環形状の白領域となって表示される。また、潤滑剤12が塗布されない金属面は黒色に変換される。
【0028】
この図4を用いて、判定領域内における潤滑剤のはみ出し領域の面積を計測する面積計測手段について説明する。
二値化処理後、ベアリング13の圧入によって前記圧入面からはみ出る潤滑剤12の略円環形状の領域上に、潤滑剤12の塗布状態を検査するための略円環形状の判定領域10を設定する。判定領域10は潤滑剤12の略円環形状の領域の全周に渡るように設定されるが、図4に示すように、ABS磁気エンコーダー設けるために円環形状の一部を欠けさせた形としても良い。
【0029】
面積計測手段では、判定領域10内の白色面積を計測し、潤滑剤12の有無を計測することができる。図4は潤滑剤12が判定領域10内に有る場合を示している。一方、略円環形状の判定領域10内に潤滑剤が無い場合は、図5のように潤滑剤12を表す白色面積が少なくなる。なお、図5中に記載の符号は、図4と同じであるため、その説明を省略する。
このようにして、判定領域10内の潤滑剤はみ出し領域の面積を計測し、その良否を判定する。本実施形態では、80ドット以下でNGとする。
【0030】
次に、判定領域内の潤滑剤はみ出し領域の周方向の切れ目の有無を計測する切れ目有無判定手段について、図6を用いて説明する。
前記面積計測手段と同様にして、二値化処理後、ベアリング13の圧入によって前記圧入面からはみ出る潤滑剤12の略円環形状の領域上に、潤滑剤12の塗布状態を検査するための略円環形状の判定領域10を設定する。
【0031】
前記切れ目有無計測手段は、前記二値化処理が施された撮像画像の色の変化具合を数値化した潤滑剤の欠陥度合に基づいて計測される。判定領域10において、二値化処理画像の色の変化が大きくなると欠陥度が大きくなり、色の変化が小さくなると欠陥度が小さくなる。
図6によれば、潤滑剤12のはみ出し領域に切れ目14が存在する。切れ目14では、色の変化が大きく欠陥度が大きくなる。よって、欠陥度により、判定領域10内の潤滑剤はみ出し領域の切れ目の有無を計測することができる。なお、切れ目が大きくなるほど欠陥度が大きくなるため、切れ目の有無だけでなく大きさも計測することができる。
【0032】
また、前記切れ目有無計測手段は二値化処理が施された撮像画像の色の変化具合を数値化した潤滑剤の欠陥度合に基づいて計測されるために欠陥度が小さいときは潤滑剤に切れ目がない正常な場合、若しくは潤滑剤に大きな切れ目が続いて存在する等の異常な場合が考えられるが、前記面積計測手段とあわせて評価することにより、上述した正常な場合か異常な場合かを判断することができるので、潤滑剤の塗布状態を正しく検査することができる。
【0033】
なお、本実施形態では欠陥率70%以上をNGとすると、1mm以下の切れ目を計測することができる。例えば、判定領域10内に切れ目14が1箇所でも検出されるとNGとし、さらに、0.5mm以下の切れ目はOKとすることにより、潤滑剤の塗布状態の良否を的確に判定することが可能となる。
【0034】
次いで、潤滑剤はみ出し領域の径方向の幅を計測する幅計測手段について、図7及び図8を用いて説明する。図7は、幅計測手段を説明するための二値化処理された撮像画像の一例について説明する。
潤滑剤はみ出し領域の径方向の幅を計測するために、前記面積計測手段と同様にして、画像処理装置へ送られた撮像画像について二値化処理を行った後、略円環形状の潤滑剤12のはみ出し領域上に計測範囲Bを複数設け、前記計測範囲Bで潤滑剤12のはみ出し幅を計測する。計測範囲Bは円周上に16箇所設けることが好ましいが、図7ではその記載を省略する。潤滑剤はみ出し領域の径方向の幅は、16箇所設けられる計測範囲Bでの径方向の幅を計測することにより算出される。
【0035】
そのとき、ナックル内面への反射光により、符号Dで示されるように、実際の潤滑剤のはみ出し幅Fと測定される潤滑剤のはみ出し幅Fが異なり誤判定が発生する。この誤判定を抑制するために、ナックル内径の反射光の対策をとる必要があり、図8を用いて説明する。
【0036】
図8(a),(b)に示す潤滑剤12のはみ出し領域は、図7のはみ出し領域を簡略化して示したものである。まず、図8(a)に示すようにエッジ処理を行い、はみ出し領域の円環形状の内から外方向の黒領域(潤滑剤なし)から白領域(潤滑剤有り)の変化点であるC点を求める。そして、はみ出し領域の円環形状の中心からC点までの距離を求め、これをXとする。
【0037】
エッジ処理後、図8(b)に示すように、ナックル内径Zと、はみ出し領域の円環形状の中心からC点までの距離Xを用い、演算処理にて潤滑剤12のはみ出し幅Yを算出する。演算処理にて潤滑剤12のはみ出し幅Yは、Y=Z/2−Xによって算出され、エッジ処理と演算処理をともに用いることにより、ナックル内面の反射光による誤判定を抑制することができる。
【0038】
以上のように、前記略円環形状の判定領域内における潤滑剤のはみ出し領域の周方向の切れ目の有無を計測する切れ目有無計測手段と、前記判定領域内における該はみ出し領域の面積を計測する面積計測手段と、前記はみ出し領域の径方向の幅を計測する幅計測手段とにより計測された潤滑剤の塗布状態について、それぞれ良否判定することにより、総合判定結果を出力する。
その後、良否判定されたワークは、次の工程へ搬送されたり、作業者による点検を行ったりする。なお、各計測手段において、一つでも不良(NG)が出ると対象のワークは不良品と判定される。
このようにして、各計測手段に基づいて良否判定を行うことにより、潤滑剤の塗布状態の良否判定を的確に行い、検査の信頼性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、ナックルへのベアリング圧入過程においてナックル内径の圧入摺動面に塗布される潤滑剤の塗布状態の良否を的確に判定することができ、且つ検査の信頼性を向上させることができるので、潤滑剤の塗布状態検査装置及び塗布状態検査方法への適用に際して有益である。
【符号の説明】
【0040】
1 測定ユニット
2 ワーク
3 遮光カバー
4 カメラ
5 搬送コンベア
6 レンズ
7 昇降シリンダ
8 紫外光照明部
9 発光素子(LED)群
10 判定領域
11 ナックル
12 潤滑剤(グリス)
13 ベアリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光成分を含有する潤滑剤が塗布される被検査体に対して紫外光を照射する紫外光照射手段と、前記被検査体をカメラで撮影する撮影手段と、該撮影手段により得られる撮像画像に対して二値化処理を施して前記潤滑剤の塗布状態を得る画像処理手段とを備える潤滑剤の塗布状態検査装置において、
前記被検査体は、車両の懸架装置を構成するナックルと該ナックルに圧入されるベアリングと該ナックルのベアリング圧入面に塗布される潤滑剤よりなり、
前記塗布状態検査装置は、該ナックルの該ベアリング圧入面に沿って略円環形状の判定領域を設定する判定領域設定手段と、前記ベアリングの圧入によって前記圧入面から前記判定領域にはみ出す潤滑剤のはみ出し領域から前記圧入面に塗布された潤滑剤の塗布状態の良否を判定する良否判定手段とを備えることを特徴とする潤滑剤の塗布状態検査装置。
【請求項2】
前記良否判定手段は、前記略円環形状の判定領域内における潤滑剤のはみ出し領域の周方向の切れ目の有無を計測する切れ目有無計測手段と、前記判定領域内における該はみ出し領域の面積を計測する面積計測手段と、前記はみ出し領域の径方向の幅を計測する幅計測手段とを備え、夫々の計測結果に基づいて前記圧入面に塗布された潤滑剤の塗布状態の良否を判定することを特徴とする請求項1記載の潤滑剤の塗布状態検査装置。
【請求項3】
前記切れ目有無計測手段は、前記二値化処理が施された撮像画像の色の変化具合を数値化した潤滑剤の欠陥度合に基づいて計測されることを特徴とする請求項2記載の潤滑剤の塗布状態検査装置。
【請求項4】
前記幅計測手段は、前記二値化処理が施された撮像画像に対してエッジ処理を行って前記潤滑剤のはみ出し領域の中心から内径までの距離を求めるエッジ処理手段と、該エッジ処理手段から得られる前記距離に基づいて演算処理にて前記はみ出し領域の径方向の幅を算出する演算手段とを具備することを特徴とする請求項2記載の潤滑剤の塗布状態検査装置。
【請求項5】
前記面積計測手段は、前記二値化処理が施された撮像画像における白領域を特定し、該白領域の面積が潤滑剤の領域の面積として計測されることを特徴とする請求項2記載の潤滑剤の塗布状態検査装置。
【請求項6】
蛍光成分を含有する潤滑剤が塗布される被検査体に対して紫外光を照射し、前記紫外光が照射される被検査体をカメラで撮影し、その撮像画像に対して二値化処理を施して前記潤滑剤の塗布状態を検査する潤滑剤の塗布状態検査方法において、
前記被検査体は、車両の懸架装置を構成するナックルと該ナックルに圧入されるベアリングと該ナックルのベアリング圧入面に塗布される潤滑剤とし、該ナックルの該ベアリング圧入面に沿って略円環形状の判定領域を設定し、前記ベアリングの圧入によって前記圧入面から該判定領域にはみ出す潤滑剤のはみ出し領域から前記圧入面に塗布された潤滑剤の塗布状態の良否を判定検査することを特徴とする潤滑剤の塗布状態検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−243325(P2010−243325A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91920(P2009−91920)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】