説明

潤滑剤トランスファピニオンを備えた潤滑装置

例えば潤滑剤ポンプによって油溜めから潤滑剤ラインを介して供給される潤滑剤、特にグリースを少なくとも1つの歯車(2)または類似物に塗布するための少なくとも1つの潤滑ピニオン(1)を備え、該潤滑ピニオン(1)が少なくとも1つの潤滑剤出口(8)を開通させた外歯形を有する、潤滑装置を記載する。潤滑ピニオン(1)の外歯形の歯(7)は、インボリュート歯形に対して短縮された歯面プロファイルを有し、周方向の歯面のアデンダム(hk)および/または幅は、基準円の半径方向外側に位置する歯面部で低減されている。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、例えば潤滑剤ポンプによって油溜めから潤滑剤導管を介して輸送される潤滑剤、特にグリースを少なくとも1つの歯車に塗布するための少なくとも1つの潤滑剤トランスファピニオンを備え、該潤滑剤トランスファピニオンが少なくとも1つの潤滑剤出口付き外歯を特徴とする、潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車を潤滑するためのこの型の装置は、例えばDE20121923U1から公知である。この公報でクラウン歯車モジュールと呼ばれる潤滑剤トランスファピニオンは、インボリュート歯形を備えた従来の歯車の外輪郭を有する。この公知の潤滑剤トランスファピニオンが潤滑対象歯車と噛合すると、基準円の半径方向外側に位置する潤滑剤トランスファピニオンの歯の先端領域は、基準円の半径方向内側に位置する潤滑対象歯車の歯の基部領域と係合する。したがって、潤滑剤は不規則かつ不均等に潤滑対象歯車に塗布され、特に潤滑対象歯車の歯の基部領域に蓄積する。加えて、潤滑剤の供給は、高いトライボロジー的応力を受ける接触歯面の領域でときどき不充分になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
それに対して、本発明は、非常に単純な設計を有し、かつ潤滑対象歯車上の潤滑剤の分配の改善を達成することを可能にする、上記の型の潤滑装置を利用可能にすることの問題に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によると、この問題は基本的に、潤滑剤トランスファピニオンの外部歯形の歯が、インボリュート歯形と比較して短縮された歯面プロファイルを有し、周方向の歯面のアデンダムおよび/または幅は、基準円の半径方向外側に位置する歯面部で低減されている。アデンダムを縮小するために、歯の今まで存在した先端を特に低減することを提案する。この場合、アデンダムは、潤滑剤トランスファピニオンの外径と潤滑剤トランスファピニオンの基準直径との間の2分の1と定義される。換言すると、アデンダムとは、基準円から半径方向外側に突出する各歯の領域の高さを指す。インボリュート歯形では、これは通常、先の尖った歯の領域である。このアデンダムがインボリュート歯形のアデンダムと比較して低減されると、潤滑剤トランスファピニオンの歯の潤滑対象歯車の基部領域内への侵入深さは低減される。驚いたことに、この結果、より高いトライボロジー的応力を受ける領域における潤滑剤の分配が著しく改善され、潤滑対象歯車の基部領域における潤滑剤の望ましくない蓄積が防止されることが突き止められた。これは、基準円の半径方向外側に位置する歯面部における周方向の歯面の幅の低減にも同様に当てはまり、したがって潤滑対象歯車への潤滑剤の不規則かつ不均等な塗布、および特に、潤滑対象歯車の歯の基部領域における潤滑剤の蓄積を、防止することも可能になる。
【0005】
歯のアデンダムは、インボリュート歯形と比較して約25%〜約95%、特に約50%〜約80%低減することが好ましい。潤滑剤トランスファピニオンの外歯形の歯が、インボリュート歯形と比較して約75%低減されたアデンダムを有すると、特に有利であることが突き止められた。換言すると、アデンダムは今や、インボリュート歯形の理論的プロファイルのわずか約25%ということになる。この場合、歯を基準円より下に位置する値まで短縮すると、潤滑剤トランスファピニオンはもはや潤滑対象歯車によって駆動されなくなるので、潤滑剤トランスファピニオンの歯は、基準円の半径方向外側に位置する領域だけで短縮される。
【0006】
しかし、潤滑剤トランスファピニオンの外歯形の歯が、インボリュート歯形と比較して約25%〜50%低減された歯高を有することも可能であり、その場合、外歯形は特に約25%低減されたアデンダムを有することができる。
【0007】
低減されたアデンダムを有する、本発明により修正されたプロファイルは、インボリュート歯形と比較して、外歯形の輪郭に関して変更することもできる。例えば潤滑剤トランスファピニオンの外歯形の歯は、丸みを帯びた輪郭を持つことができる。これは例えば、歯の先端の領域ではより大きい半径を持ち、それが横方向にそれぞれ、より小さい半径へと変形することにより、実現することができる。潤滑剤トランスファピニオンの外歯形の歯は、基準円の半径方向外側に位置する歯面部における周方向の歯面の幅が、インボリュート歯形と比較して低減されるように、丸みを帯びた輪郭を持つことができる。
【0008】
しかし、代替的に、潤滑剤トランスファピニオンの外歯形の歯の先端の輪郭は、いずれかの希望する他の仕方で実現することも可能である。例えば、特にインボリュート歯形の先端輪郭と同様の先の尖った輪郭を持ち、実現することもできる。
【0009】
潤滑対象歯車に潤滑剤を均等かつ適切に供給するために、潤滑剤トランスファピニオンは、潤滑剤供給ラインから出発してそれぞれ歯の1つにおける少なくとも1つの潤滑剤出口に通じる、幾つかの潤滑剤導管を特徴とすることが好ましい。潤滑剤供給ラインは、潤滑剤ポンプを介して油溜めに接続することができ、本発明の1つの好適な実施形態では、潤滑剤トランスファピニオンの軸線の領域または潤滑剤トランスファピニオンの軸線付近の領域に配設することができる。
【0010】
この実施形態の改良版では、潤滑剤トランスファピニオンの各歯に少なくとも2つの潤滑剤出口を配設することを提案する。これにより、潤滑対象歯車の各歯に潤滑剤を供給することが可能になる。
【0011】
潤滑対象歯車の各歯の両歯面に潤滑剤を供給するために、本発明の別の実施形態では、潤滑剤トランスファピニオンの各歯面に少なくとも1つの潤滑剤出口を設ける。
【0012】
潤滑剤トランスファピニオンは、少なくとも部分的に金属から構成することができ、または少なくとも部分的にプラスチックから製造することができる。潤滑剤トランスファピニオンおよび潤滑対象歯車は、異なる材料から構成することもできる。
【0013】
潤滑剤トランスファピニオンの出口開口を、基準円の領域および/または基準円と歯元円との間の領域の歯面に配設すると、最も高いトライボロジー的応力を受ける潤滑対象歯車の位置に潤滑されることが確実になる。
【0014】
歯面の出口開口は、潤滑剤トランスファピニオンの軸線方向に、歯面の軸線方向の幅のほぼ全体にわたって延びる、横溝またはチャネルに通じることが好ましい。この結果、潤滑剤は潤滑剤トランスファピニオンおよび潤滑対象歯車の基本的に幅全体にわたって分配される。
【0015】
本発明はさらに、少なくとも1つの潤滑対象歯車を備え、潤滑システムの潤滑剤トランスファピニオンが少なくとも1つの歯車と噛合する、ギア組立体に関する。この場合、本発明は、筒状ギアの形に実現された歯車の潤滑に限定されず、それぞれ潤滑剤トランスファピニオンと噛合するかさ歯車、はすば歯車、クラウンホイール、エンドレススクリュ、歯付きラック、または楕円歯車にも使用することができる。
【0016】
以下で、本発明の1実施形態について、図面を参照しながら説明する。これに関して、記載および/または図示する全ての特徴は、請求項におけるそれらの組合せまたは他の請求項へのそれらの言及に関係なく、個別に、または任意の組合せで、本発明の目的を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】潤滑対象歯車と噛合した本発明の潤滑剤トランスファピニオンの一部分を示す。
【図2】図1と比較してさらに回転した位置にある、潤滑対象歯車と噛合した潤滑剤トランスファピニオンを示す。
【図3】図1に係る潤滑剤トランスファピニオンの斜視図を示す。
【図4】本発明の潤滑剤トランスファピニオンの一部を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図は、基準直径dを有する潤滑装置の潤滑剤トランスファピニオン1の一部分を示す。潤滑剤トランスファピニオン1は、インボリュート歯形を特徴とする潤滑対象歯車2と噛合する。潤滑対象歯車2もまた、図に部分的に示されているだけである。
【0019】
潤滑剤供給ライン4は、潤滑剤トランスファピニオン1の軸線3の領域に配設され、略半径方向に延びる潤滑剤導管5は、上記潤滑剤供給ラインから出発し、潤滑剤トランスファピニオン1の歯7の歯面6にあるそれぞれの潤滑剤出口8に各々通じる。図1によると、潤滑剤出口8は実質的に基準円の領域に位置する。図1では、右歯面に配設された潤滑剤トランスファピニオン1の潤滑剤出口は、潤滑対象歯車2と接触するが、図2の潤滑剤トランスファピニオン1は時計方向にさらに回転したので、左歯面に配設された潤滑剤トランスファピニオン1の潤滑剤出口8が、潤滑対象歯車2と接触する。
【0020】
潤滑剤トランスファピニオン1の歯の先端輪郭は、図には実線で図示される。図における潤滑剤トランスファピニオン1の中心の歯は、インボリュート歯形の理論的プロファイルの場合の潤滑剤トランスファピニオンの歯の先端輪郭を破線で示す。実線と破線を比較すると、潤滑剤トランスファピニオン1の歯の先端輪郭および歯高が、インボリュート歯形の理論的プロファイルと比較して、変化していることがはっきりと分かる。
【0021】
潤滑剤トランスファピニオン1の歯7のアデンダムhkは、インボリュート歯形の理論的プロファイルと比較して、低減されている。この場合、アデンダムは、潤滑剤トランスファピニオン1の外径dkと潤滑剤トランスファピニオン1の基準直径dとの間の差の2分の1と定義される。図示された実施形態では、潤滑剤トランスファピニオン1の歯7のアデンダムは、インボリュート歯形の理論的プロファイルのアデンダムの約0.2〜約0.7の値に相当するだけである。潤滑剤トランスファピニオン1の歯7は、潤滑対象歯車2の歯の間の基部領域内に、かなり低減された深さに侵入する。
【0022】
加えて、潤滑剤トランスファピニオン1の歯7の先端輪郭は、通常の先の尖ったインボリュート歯形と比較して、すなわち図示の実施形態では丸みを帯びた先端輪郭に変化する。これはまた、潤滑対象歯車2の歯面に潤滑剤を実質的に基準円の領域で、すなわち潤滑対象歯車2の基部領域に蓄積することなく、放出させる。潤滑剤を潤滑剤トランスファピニオン1の幅全体に分配させるために、潤滑剤は潤滑剤出口8から、図3に示す軸方向チャネル9または横溝内に放出される。
【0023】
図4は特に、図示の実施形態では中心の半径rがより大きく、それが両側でより小さい半径rに変化することによって、潤滑剤トランスファピニオン1の歯7の先端輪郭が画定されることを示す。周方向の歯面の幅は、基準円の半径方向外側に位置する歯面部のみで低減されている。アデンダムに関してのみならず、周方向の歯面の幅に関しても、破線で示される理論的プロファイルと比較して修正された潤滑剤トランスファピニオン1の歯7のこのプロファイルのため、潤滑対象歯車2の特に歯面に潤滑剤が供給されるように、潤滑グリースのような潤滑剤は運ばれることが防止される。
【符号の説明】
【0024】
1…潤滑剤トランスファピニオン、2…潤滑対象歯車、3…軸線、4…潤滑剤供給ライン、5…潤滑剤導管、6…歯面、7…歯、8…潤滑剤出口、9…チャネル、d…基準直径、dk…外径、hk…アデンダム、r…より小さい半径、r…より大きい半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
例えば潤滑剤ポンプによって油溜めから潤滑剤導管を介して輸送される潤滑剤、特にグリースを少なくとも1つの歯車(2)または類似物に塗布するための少なくとも1つの潤滑剤トランスファピニオン(1)を備え、前記潤滑剤トランスファピニオン(1)が少なくとも1つの潤滑剤出口(8)を持つ外歯形を特徴とする潤滑装置であって、前記潤滑剤トランスファピニオン(1)の外歯形の歯(7)が、インボリュート歯形と比較して短縮された歯面プロファイルを有し、前記歯面の周方向のアデンダム(hk)および/または幅が、基準円の半径方向外側に位置する歯面部で低減されていることを特徴とする潤滑装置。
【請求項2】
前記潤滑剤トランスファピニオン(1)の外歯形の歯(7)のアデンダム(hk)が、インボリュート歯形と比較して約25%〜約90%、特に約50%〜約80%低減されていることを特徴とする、請求項1に記載の潤滑装置。
【請求項3】
前記潤滑剤トランスファピニオン(1)の外歯形の歯(7)のアデンダム(hk)が、インボリュート歯形と比較して約75%低減されていることを特徴とする、請求項2に記載の潤滑装置。
【請求項4】
前記潤滑剤トランスファピニオン(1)の外歯形の歯(7)が丸みを帯びた先端輪郭を有し、特に3つの半径(r、r)により丸みを付けた先端輪郭を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の潤滑装置。
【請求項5】
前記歯面の周方向の幅が、基準円の半径方向外側に位置する歯面部でインボリュート歯形と比較して低減されるように、前記潤滑剤トランスファピニオン(1)の外歯形の歯(7)が丸みを帯びた先端輪郭を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の潤滑装置。
【請求項6】
前記潤滑剤トランスファピニオン(1)の外歯形の歯(7)が、尖った先端輪郭を有し、特にインボリュート歯形と同様の先端輪郭を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の潤滑装置。
【請求項7】
前記潤滑剤トランスファピニオン(1)が、前記潤滑剤トランスファピニオンの軸線(3)またはこの軸線付近の領域に配設された潤滑剤供給ライン(4)から出発して、前記歯(7)の1つにおける少なくとも1つの潤滑剤出口(8)にそれぞれ通じる、幾つかの潤滑剤導管(5)を備えることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の潤滑装置。
【請求項8】
前記潤滑剤トランスファピニオン(1)の各歯(7)に少なくとも2つの潤滑剤出口(8)が配設されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の潤滑装置。
【請求項9】
前記潤滑剤出口(8)が、前記潤滑剤トランスファピニオン(1)の軸線方向に特に前記歯面(6)のほぼ幅全体にわたって延びる横溝またはチャネル(9)によって接続されることを特徴とする、請求項8に記載の潤滑装置。
【請求項10】
少なくとも1つの潤滑剤出口(8)が、前記潤滑剤トランスファピニオン(1)の各歯面(6)および/または横溝またはチャネル(9)に通じることを特徴とする、請求項8または9に記載の潤滑装置。
【請求項11】
ピッチ円(8)の領域および/またはピッチ円と歯元円との間の領域における潤滑剤出口(8)の少なくとも幾つかが、前記潤滑剤トランスファピニオン(1)の前記歯面(6)に通じることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の潤滑装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の潤滑システムの前記潤滑剤トランスファピニオン(1)が少なくとも1つの歯車(2)と噛合する、少なくとも1つの歯車(2)または類似物を備えたギア組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−537749(P2009−537749A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510309(P2009−510309)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際出願番号】PCT/EP2007/003666
【国際公開番号】WO2007/131604
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(508307975)リンカーン ゲーエムベーハー (5)
【Fターム(参考)】