説明

潤滑剤供給装置及びこの潤滑剤供給装置を備える運動案内装置

【課題】軌道部材に形成された転動体転走部および転動体並びにねじ軸に形成されたねじ軸用転動体転走部およびねじ軸用転動体に十分な潤滑剤を供給することができ、潤滑剤供給装置の交換作業を運動案内装置の分解を行うことなく、機上で交換可能な構造を備える潤滑剤供給装置及びこの潤滑剤供給装置を組み込んだ運動案内装置を提供する。
【解決手段】転動体転走溝に塗布する潤滑剤を貯留する第1室と、ボールねじ軸用転動体転走溝に塗布する潤滑剤を貯留する第2室とを備える潤滑剤供給装置において、前記第1室及び前記第2室の少なくとも一方は、分割されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動部材及びねじ軸に対する移動部材の相対的な移動に伴って、軌道部材及びねじ軸に潤滑剤を塗布する潤滑剤供給装置、並びにこの潤滑剤供給装置が組みつけられた運動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、互いに対向する側壁を有し、断面形状がU字状又はC字状に形成された軌道部材と、側壁の間に設置され、両側面に転動体転走溝、中央に形成した貫通孔にボールねじ用転動体転走溝を一体に構成し、貫通孔にボールねじ軸を挿通させた運動案内装置が知られている。
【0003】
また、運動案内装置を使用する際には、転動体が転走する転動体転走溝や転動体を良好に潤滑する必要がある。転動体転走溝や転動体に潤滑剤を塗布することなく、無給油のまま運動案内装置を使用すると、転動体転走溝や転動体の摩耗が生じ、製品寿命に影響するからである。このような運動案内装置に潤滑剤を供給する潤滑剤供給装置として、特許文献1に記載された潤滑剤供給装置およびこの潤滑剤供給装置を取り付けた運動案内装置が知られている。
【0004】
特許文献1に記載された運動案内装置は、底壁と一対の側壁を備え横断面形状が略U字状をなすとともに上記一対の側壁の内側面にそれぞれガイド溝を備えた軌道部材と、上記軌道部材の内側に移動可能に配置された移動部材と、を具備してなる運動案内装置において、上記移動部材の移動方向両端のうち少なくとも一端側であってそれぞれ左右両側に上記ガイド溝に潤滑剤を供給する潤滑剤供給装置を独立した状態で取り付けて構成されている。
【0005】
このような構成によると、軌道部材のガイド溝に潤滑剤を供給する潤滑剤供給装置を左右両側に独立した状態で取り付けているので、潤滑剤供給装置の取付構造が改良され、その取扱性を向上させると共に信頼性を高めることを可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−41305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の潤滑剤供給装置およびこの潤滑剤供給装置を組み付けた運動案内装置の構成によると、移動部材に貫通したボールねじ軸の外周面に形成されたボールねじ軸用転動体転走溝およびボールねじ軸用転動体に対して潤滑剤を供給することができないといった問題があった。
【0008】
また、ボールねじ軸用転動体転走溝およびボールねじ軸用転動体に対して潤滑剤を供給するための構造として潤滑剤供給装置に移動部材に形成された貫通孔に対応した孔を形成し、当該孔にボールねじ軸を貫通させてボールねじ軸用転動体転走溝およびボールねじ軸用転動体に潤滑剤を塗布する構造が知られている。
【0009】
しかし、このような構造の運動案内装置を加工機に組み込んだ状態で、潤滑剤供給装置に貯留されている潤滑剤が枯渇すると、機上での潤滑剤供給装置の交換作業は困難であった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであって、軌道部材に形成された転動体転走溝および転動体並びにボールねじ軸に形成されたボールねじ軸用転動体転走溝およびボールねじ軸用転動体に十分な潤滑剤を供給することができ、潤滑剤供給装置の交換作業を運動案内装置の分解を行うことなく、機上で交換可能な構造を備える潤滑剤供給装置およびこの潤滑剤供給装置を組み込んだ運動案内装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る潤滑剤供給装置は、所定間隔を隔てて互いに対向する側壁を有し、前記側壁の間に長手方向に沿って開口部が形成された軌道部材と、前記側壁間に挿入され、前記軌道部材の長手方向に対して往復移動可能に配置されるとともに、長手方向の両端に側蓋が取り付けられた移動部材と、前記側壁と前記側壁に対向する前記移動部材の側面との間に転走自在に設けられる複数の転動体と、前記移動部材に貫通形成された貫通孔に複数のねじ軸用転動体を介して螺合されるボールねじ軸と、を備え、前記側壁には、複数の前記転動体が転走する転動体転走溝が長手方向に沿って形成され、前記移動部材の側面には、前記転動体転走溝と対向するように負荷転動体転走溝が形成され、前記移動部材には前記負荷転動体転走溝と平行に貫通する転動体戻し通路が設けられ、前記側蓋に、前記転動体転走溝と前記負荷転動体転走溝との間を転走する前記転動体を前記転動体戻し通路に方向転換させる方向転換路が形成され、前記ボールねじ軸の外周面に螺旋状のボールねじ軸用転動体転走溝が形成された運動案内装置の少なくとも一方の前記側蓋の端部に取り付けられ、前記転動体転走溝に塗布する潤滑剤を貯留する第1室と、前記ボールねじ軸用転動体転走溝に塗布する潤滑剤を貯留する第2室とを備える潤滑剤供給装置において、前記第1室及び前記第2室の少なくとも一方は、分割されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、分割体が転動体転走溝に塗布する潤滑剤を貯留する第1室と、ボールねじ軸用転動体転走溝に塗布する潤滑剤を貯留する第2室とを有しているので、転動体転走溝およびボールねじ軸用転動体転走溝に十分な潤滑剤を供給することができる。さらに、本発明によれば、第1室及び第2室の少なくとも一方は、分割された分割体を備えているので、運動案内装置を分解することなく、機上で潤滑剤供給装置を交換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る運度案内装置を示す一部断面斜視図。
【図2】リニアガイド部の転動体を示す概略図。
【図3】ボールねじ部の転動体を示す斜視図。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る運動案内装置の上面図。
【図5】潤滑剤供給装置の分割体の構成図
【図6】潤滑剤供給装置の分解図。
【図7】潤滑剤供給装置の概要を示す断面図。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る運動案内装置を示す断面図。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る運動案内装置を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1の実施形態]
以下、本発明に係る潤滑剤供給装置およびこの潤滑剤供給装置を組み込んだ運動案内装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0015】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る運度案内装置を示す一部断面斜視図であり、図2は、リニアガイド部の転動体を示す概略図であり、図3は、ボールねじ部の転動体を示す斜視図であり、図4は、本発明の第1の実施形態に係る運動案内装置の上面図であり、図5は、潤滑剤供給装置の分割体の構成図であり、図6は、潤滑剤供給装置の分解図であり、図7は、潤滑剤供給装置の概要を示す断面図である。
【0016】
図1に示すように、本実施形態に係る運動案内装置1は、所定間隔を隔てて互いに対向する側壁11,11と、側壁11,11の下端を連絡する底壁11aとを有し、側壁11,11の間に長手方向に沿って底壁11aと対向するように開口部12が形成されることで、断面略U字形に形成された軌道部材10と、軌道部材10の側壁11,11間に挿入され、軌道部材10の長手方向に対して往復移動可能に配置された移動部材20とを備えている。移動部材20は、側壁11と対向する両側面にリニアガイド部と、中央にボールねじ部とが一体構造とされており、移動部材20に螺合させたボールねじ軸30に電動モータ等の駆動源により回転を加えると、移動部材20は軌道部材10の延設方向に沿って直線運動を行う。なお、案内する対象物は、開口部12を介して移動部材20と連結されており、移動部材20の移動に伴って対象物を案内することができる。このような運動案内装置1は、リニアガイド部とボールねじ部とが一体に構成されているので、最小のスペースで高剛性、高精度のアクチュエータ機能を有する。
【0017】
次に、運動案内装置1のリニアガイド部について説明を行う。軌道部材10は、上述したように、断面略U字形状に形成されており、互いに対向する一対の側壁11,11を有する。側壁11,11には、軌道部材10の延設方向に沿って転動体転走溝13,13が形成されている。転動体転走溝13,13は、それぞれの側壁11,11に上下に各2条ずつ、合計で4条形成されている。転動体転走溝13,13は、断面が転動体40の半径よりも若干大きい曲率を有する単一の円弧、所謂サーキュラアーク形状に形成されている。なお、図示していないが、軌道部材10の長手方向の両端にはねじ軸30を回転自在に保持するハウジングがそれぞれ設けられている。また一方のハウジングにはねじ軸30を回転駆動する駆動源が取り付けられている。
【0018】
移動部材20の軸方向の両端面には、側蓋25および潤滑剤供給装置50が取り付けられている。さらに、移動部材20の側壁11,11と対向する左右両側面には、側壁11,11に形成された転動体転走溝13,13に対応する負荷転動体転走溝21,21が形成される。負荷転動体転走溝21,21も転動体転走溝13,13と同様に断面が転動体40の半径よりも若干大きい曲率を有する単一の円弧、所謂サーキュラアーク形状に形成されている。転動体転走溝13と負荷転動体転走溝21との間に転動体40を循環させる転動体循環路の一部である負荷転動体転走路16を構成している。
【0019】
移動部材20は、両側面と後述する貫通孔22との間に負荷転動体転走溝21,21から所定の間隔を隔て、且つ負荷転動体転走溝21,21と平行に軸方向に貫通する転動体戻し通路14,14が形成されている。また、移動部材20は、側蓋25と対向する面に負荷転動体転走路16と転動体戻し通路14との両端を接続して、転動体40を循環させる略U字状の方向転換路15が形成されている。このように、負荷転動体転走路16、転動体戻し通路14および方向転換路15によって環状の転動体循環路が形成されている。なお、方向転換路15の外周側は、方向転換路の外周側構成部として側蓋25に形成されており、側蓋25を組み付けることで方向転換路15を構成している。
【0020】
転動体循環路には、リテーナ41に回転自在に保持された複数の転動体40…が配列されている。図2に示すように、リテーナ41は、転動体40の間に介在されており、転動体40の配列方向に沿って配置された連結帯41aによって一連に連結されている。連結帯41aは方向転換路15での転動体40の転走を阻害しないように可撓性を有しており、方向転換路15内では自在に屈曲する。このように、リニアガイド部の転動体循環路では転動体40…は平面内で2次元的な運動をする。
【0021】
次に、運動案内装置1のボールねじ部について説明を行う。図1に示すように、移動部材20の中央部には貫通孔22が形成されており、この貫通孔22にボールねじ軸30が螺合されている。ボールねじ軸30の外周面には、螺旋状のボールねじ軸用転動体転走溝31が形成されている。このボールねじ軸用転動体転走溝31の断面形状は、ボールねじ軸用転動体45の半径よりも若干曲率半径の大きい2つの円弧からなるゴシックアーチ形状に形成される。一方、移動部材20の貫通孔22には、ボールねじ軸用転動体転走溝31に対応するボールねじ軸用負荷転動体転走溝23が形成されている。このボールねじ軸用負荷転動体転走溝23の断面形状もボールねじ軸用転動体転走溝31と同様にゴシックアーチ形状に形成されており、ボールねじ軸用転動体転走溝31とボールねじ軸用負荷転動体転走溝23との間でボールねじ軸用転動体循環路の負荷転走路が構成される。
【0022】
移動部材20は、上述した負荷転走路の一端と他端を連結するボールねじ軸用転動体戻し通路24を備えている。ボールねじ軸用転動体転走溝31とボールねじ軸用負荷転動体転走溝23との間には複数のボールねじ軸用転動体45…が配列されており、ボールねじ軸30の回転に伴って負荷転走路内を荷重を負荷しながら転走する。負荷転走路の一端に至ったボールねじ軸用転動体45は、ボールねじ軸用転動体戻し通路24によって掬い上げられ、負荷転走路の他端に戻されて循環している。
【0023】
ボールねじ軸用転動体45…の間にはスペーサ46が介在しており、隣接するボールねじ軸用転動体45が互いに接触することを防止し、低発塵および低騒音を実現している。図3に示すように、ボールねじ部の負荷転走路は螺旋状に形成され、ボールねじ軸用転動体戻し通路24は、ボールねじ軸用転動体45の進行方向周りの捩れを有している。このようにボールねじ部においてはボールねじ軸用転動体45およびスペーサ46は3次元的に方向転換し、複雑な態様で運動する。したがって、ボールねじ部においては、リニアガイド部のようにスペーサ46を連結帯で連結することなく、スペーサ46はそれぞれ分離されて配列されている。
【0024】
次に、図4から図7を参照して、第1の実施形態に係る潤滑剤供給装置50について説明を行う。図4に示すように、潤滑剤供給装置50は、移動部材20に取り付けられた側蓋25の外側に取り付けられる。本実施形態においては、移動部材20の両端に潤滑剤供給装置50を取り付けた場合について説明するが、潤滑剤供給装置50は、移動部材20の一方端のみに取り付けても構わない。
【0025】
図4に示すように、潤滑剤供給装置50は、側蓋25に取り付けられた位置決め板36に分割体51,51を組み付けられている。さらに、分割体51,51の端部にはエンドシール36aが取り付けられており、潤滑剤供給装置50内に外部から塵埃等が混入することを防止している。
【0026】
図5に示すように、分割体51,51は、一対のリニアガイド部分割体54,54と、一対のボールねじ部分割体55,55から構成されており、合計4部品から構成されている。このように、本実施形態に係る潤滑剤供給装置50は、リニアガイド部分割体54,54およびボールねじ部分割体55,55に分割されているので、各部材の小型化を図ることができ、軌道部材10の開口部12からリニアガイド部分割体54,54およびボールねじ部分割体55,55を着脱することができ、潤滑剤付運動案内装置を分解することなく、潤滑剤供給装置の交換を機上で行うことができる。
【0027】
図6及び図7に示すように、リニアガイド部分割体54,54は、軌道部材10の転動体転走溝13に潤滑剤を貯留し、塗布する第1室52を備えており、ボールねじ部分割体55,55は、ボールねじ軸30のボールねじ軸用転動体転走溝31に潤滑剤を貯留し塗布する第2室53を備えている。この第1室52と第2室53とは互いに分離されており、第1室52の潤滑剤が第2室53内に移動しないように構成されている。
【0028】
第1室52および第2室53内には、潤滑剤を貯留する貯留体が収納されており、該貯留体には転動体転走溝13に接触する第1の塗布体52aおよびボールねじ軸用転動体転走溝31に接触する第2の塗布体53aがそれぞれ連絡している。貯留体は一定の厚みのフェルトからなっており、例えば空隙率約80%のレーヨン+羊毛フェルトが用いられる。また、第1及び第2の塗布体52a,53aも同様にフェルトで形成されているが、第1及び第2の塗布体52a,53aに用いられるフェルトは、貯留体に用いられるフェルトよりも空隙率が低くなっている。具体的には、第1及び第2の塗布体52a,53aのフェルトには、空隙率約50%程度の羊毛フェルトが用いられる。
【0029】
潤滑剤には、転動体の円滑な転走を実現できればどのような潤滑剤を用いても構わないが、例えば、摺動面油、タービン油などの潤滑油が用いられてもよいし、リチウム系グリース、ウレア系グリースなどのグリースが用いられてもよい。
【0030】
また、潤滑剤供給装置50は、移動部材20の側蓋25の端面形状と略同一に形成されており、貫通孔22に相当する位置では、第2室53がボールねじ軸30を取り囲むように形成されている。さらに、ボールねじ部分割体55はボールねじ軸30を中心に左右に分割されている。
【0031】
このように、潤滑剤供給装置50は、ボールねじ軸30を中心に左右の側壁方向へ複数に分割されているので、リニアガイド部分割体54,54及びボールねじ部分割体55,55をボールねじ軸30の径方向から着脱することが可能となり、機上において潤滑剤供給装置50の分解を行うことなく、リニアガイド部分割体54,54及びボールねじ部分割体55,55の交換作業を行うことができる。
【0032】
また、図6に示すように、リニアガイド部分割体54,54およびボールねじ部分割体55,55は、側蓋25に取り付けられる位置決め板56に取り付けられている。位置決め板56は、側蓋25の端面形状と略同一に形成されており、貫通孔22に相当する位置にボールねじ軸30が貫通可能に孔59が形成されている。さらに、位置決め板56は、位置決め孔56a,56bが複数形成されており、位置決め孔56aとリニアガイド部分割体54の位置決め孔54aとによってリニアガイド部分割体54を位置決めし、位置決め孔56bとボールねじ部分割体55の位置決め孔55aとによってボールねじ部分割体55の位置決めを行っている。なお、ボールねじ部分割体55,55同士の位置決めは、ねじ部分割体55,55の一方に形成された切欠57aと他方に形成された突部57bとが凹凸係合することで互いに位置決めされている。
【0033】
このように、リニアガイド部分割体54とボールねじ部分割体55とがそれぞれ位置決め板56に取り付けられるので、リニアガイド部分割体54とボールねじ部分割体55との位置をそれぞれ調整することができ、転動体転走溝13およびボールねじ軸用転動体転走溝31に適切な状態で潤滑剤を塗布できる。
【0034】
なお、第1室52と第2室53とに貯留される潤滑剤の貯留量は、転動体転走溝13およびボールねじ軸用転動体転走溝31の面積比から適切な容積が確保されている。ボールねじ軸用転動体転走溝31は、ボールねじ軸30の外周に螺旋状に形成されているため、直線状に形成されている転動体転走溝13よりも表面積が大きくなっている。ボールねじ軸用転動体転走溝31の表面積は、ボールねじ軸30の軸径、BCD、ボールねじのリードから計算により求めることができ、一般的な運動案内装置では、ボールねじ軸用転動体転走溝31の表面積は、転動体転走溝13の表面積の2〜20倍となっている。
【0035】
このように、転動体転走溝13およびボールねじ軸用転動体転走溝31に適切な量の潤滑剤を塗布するために、第2室53の潤滑剤の貯留量は、第1室52の潤滑剤の貯留量の2倍以上に形成されることが好ましい。リニアガイド部の転動体転走溝13の長さと、ボールねじ部のボールねじ軸用転動体転走溝31の長さの比率は2倍以上である。そのため、第2室53の潤滑剤の貯留量が第1室52の潤滑剤の貯留量の2倍以下となると、ボールねじ部の潤滑が不十分になる。第2室53の潤滑剤の貯留量を第1室52の潤滑剤の貯留量の2倍以上に形成することで、転動体転走溝13およびボールねじ軸用転動体転走溝31に十分に潤滑剤を塗布することができる。
【0036】
特に好ましくは、第2室53の潤滑量の貯留量は第1室52の潤滑剤の貯留量の2〜20倍であると好適である。第2室53の潤滑剤の貯留量が第1室52の潤滑剤の貯留量の20倍以上となると、ボールねじ軸用転動体転走溝31へ供給する潤滑剤量より、リニアガイド部の転動体転走溝13へ供給する潤滑剤量が極端に少なくなり、転動体転走溝13に潤滑不良が生じる可能性がある。また、潤滑不良が生じると、転動体転走溝13の表面に油膜切れが生じ、転動体と転動体転走溝13とが互いに金属接触することとなり、異常摩耗、転がり疲労、製品寿命の短縮に繋がる。また、ボールねじ軸用転動体転走溝31に供給する潤滑剤量を、転動体転走溝13に供給する潤滑剤量の2倍以下とすると、ボールねじ軸用転動体転走溝31へ供給する潤滑剤量が極端に少なくなる。従って、転動体転走溝13及びボールねじ軸用転動体転走溝31に供給する潤滑剤量を均等にするために、ボールねじ軸用転動体転走溝31の螺旋距離を、リニアガイド部の転動体転走溝13の直線距離に対して2〜20倍に設計すると好適である。
【0037】
潤滑剤供給装置50は、このように形成されているので、軌道部材10に対して移動部材20が移動することに伴って、第1及び第2の塗布体52a,53aから転動体転走溝13およびボールねじ軸用転動体転走溝31に潤滑剤が塗布される。また、潤滑剤の塗布に伴って、第1及び第2の塗布体52a,53aが吸収している潤滑剤が少なくなると、毛細管現象によって潤滑剤が第1室52,第2室53の貯留体から供給される。
【0038】
[第2の実施形態]
以上説明した第1の実施形態に係る運動案内装置1では、断面略U字形の軌道部材10を用いた場合について説明を行った。次に説明する第2の実施形態に係る運動案内装置2は、第1の実施形態とは異なる形態を有する軌道部材10aの実施例について説明を行うものである。なお、上述した第1の実施形態の場合と同一又は類似する部材については、同一符号を付して説明を省略する。
【0039】
図8は、第2の実施形態に係る運動案内装置2を示す断面図である。図8に示すように第2の実施形態に係る運動案内装置2は、開口部12を有し、外表面が円弧状に形成されており、軌道部材10aが断面略C字形に形成されている。
【0040】
軌道部材10aは、外表面が円弧状に形成されているので、断面二次係数が上がり、曲げ剛性を高くすることができる。なお、移動部材20や潤滑剤供給装置50の構成は上述した第1の実施形態に係る運動案内装置1と同様である。
【0041】
[第3の実施形態]
以上説明した第2の実施形態に係る運動案内装置2では、断面略C字形の軌道部材10を用いた場合について説明を行った。次に説明する第3の実施形態に係る運動案内装置3は、第2の実施形態とは異なる形態を有する潤滑剤供給装置の実施例について説明を行うものである。なお、上述した第1および第2の実施形態の場合と同一又は類似する部材については、同一符号を付して説明を省略する。
【0042】
図9は、第3の実施形態における運動案内装置を示す断面図である。図9に示すように第3の実施形態に係る運動案内装置3は、軌道部材10aが第2の実施形態に係る軌道部材と同様に、開口部12を有し、外表面が円弧状に形成されており、断面略C字形に形成されている。
【0043】
また、第3の実施形態に係る運動案内装置3は、開口部12を通るように、補助室58が取り付けられている。補助室58は、第1室52や第2室53と同様に内部にフェルトなどからなる貯留体を備え、潤滑剤を貯留する部材であり、連絡体58a,58aを介して第2室53に潤滑剤を供給可能に接続されている。
【0044】
このように、第3の実施形態に係る運動案内装置3は、第2室53に潤滑剤を供給する補助室58を備えているので、第2室53に貯留された潤滑剤が減少した場合でも、潤滑剤を供給することができるので、ボールねじ部分割体55,55の交換頻度を抑えることができる。
【0045】
なお、第3の実施形態に係る運動案内装置3では、補助室58は、第2室53に接続された場合について説明したが、補助室58は、第1室52に接続しても構わない。この場合、リニアガイド部分割体54,54の交換頻度を抑えることができる。
【0046】
なお、本発明は、上記実施形態に限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、種々の変更が可能である。例えば、本実施形態では、軌道部材は断面U字形または断面C字形に形成した場合について説明したが、軌道部材の形状はこれに限られず、求められる剛性や加工性に応じて適宜変更することが可能である。
【0047】
また、転動体にはボールのほか、円筒状のローラを用いても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係る潤滑剤供給装置およびこの潤滑剤供給装置を組み込んだ運動案内装置は、適切な容量を有する第1室および第2室を有しているので、転動体転走溝およびボールねじ軸用転動体転走溝に十分な潤滑剤を塗布することができる。
【符号の説明】
【0049】
1,2,3 運動案内装置, 10,10a 軌道部材, 11 側壁, 12 開口部, 13 転動体転走溝, 14 転動体戻し通路, 15 方向転換路, 16 負荷転動体転走路, 20 移動部材, 21 負荷転動体転走溝, 22 貫通孔, 23 ボールねじ軸用負荷転動体転走溝, 24 ボールねじ軸用転動体戻し通路, 25 側蓋, 30 ボールねじ軸, 31 ボールねじ軸用転動体転走溝, 40 転動体, 45 ボールねじ軸用転動体, 50 潤滑剤供給装置, 52 第1室, 53 第2室, 54 リニアガイド部分割体, 55 ボールねじ部分割体, 56 位置決め板, 57a 切欠, 58 補助室。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定間隔を隔てて互いに対向する側壁を有し、前記側壁の間に長手方向に沿って開口部が形成された軌道部材と、
前記側壁間に挿入され、前記軌道部材の長手方向に対して往復移動可能に配置されるとともに、長手方向の両端に側蓋が取り付けられた移動部材と、
前記側壁と前記側壁に対向する前記移動部材の側面との間に転走自在に設けられる複数の転動体と、
前記移動部材に貫通形成された貫通孔に複数のねじ軸用転動体を介して螺合されるボールねじ軸と、を備え、
前記側壁には、複数の前記転動体が転走する転動体転走溝が長手方向に沿って形成され、
前記移動部材の側面には、前記転動体転走溝と対向するように負荷転動体転走溝が形成され、前記移動部材には前記負荷転動体転走溝と平行に貫通する転動体戻し通路が設けられ、
前記側蓋に、前記転動体転走溝と前記負荷転動体転走溝との間を転走する前記転動体を前記転動体戻し通路に方向転換させる方向転換路が形成され、
前記ボールねじ軸の外周面に螺旋状のボールねじ軸用転動体転走溝が形成された運動案内装置の少なくとも一方の前記側蓋の端部に取り付けられ、
前記転動体転走溝に塗布する潤滑剤を貯留する第1室と、前記ボールねじ軸用転動体転走溝に塗布する潤滑剤を貯留する第2室とを備える潤滑剤供給装置において、
前記第1室及び前記第2室の少なくとも一方は、分割されていることを特徴とする潤滑剤供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の潤滑剤供給装置において、
前記第1室と前記第2室は、前記移動部材の軸方向端面に取り付けられた位置決め板に組み付けられることを特徴とする潤滑剤供給装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の潤滑剤供給装置において、
前記第2室の潤滑剤の貯留量は、前記第1室の潤滑剤の貯留量の2倍以上であることを特徴とする潤滑剤供給装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の潤滑剤供給装置において、
前記分割体には、前記第1室または前記第2室に潤滑剤を供給する補助室が取付可能であることを特徴とする潤滑剤供給装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の潤滑剤供給装置を取り付けてなる運動案内装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−180891(P2012−180891A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43886(P2011−43886)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】