説明

潤滑剤供給装置及びこれを用いた運動案内装置

【課題】 軌道軸の表面に対して潤滑剤を供給することができ、もって経時的使用においても軌道軸に対する移動部材の移動を円滑化することが可能な潤滑剤供給装置を提供する。
【解決手段】 転動体を介して軌道軸に組み付けられる移動部材に装着され、かかる移動部材と軌道軸の相対的運動に伴って該軌道軸に潤滑剤を供給する潤滑剤供給装置であって、前記潤滑剤が貯留される貯留空間を有する潤滑剤貯蔵器と、一部が前記貯留空間に露出すると共に前記潤滑剤貯蔵器に回転自在に保持される一方、前記軌道軸の表面を転動し、この転動に伴って前記貯留空間内の潤滑剤を軌道軸の表面に転写する回転体と、から構成され、前記回転体の外側面には、複数の凹陥部が形成され、前記潤滑剤貯蔵器には、前記貯留空間内の潤滑剤を前記回転体に向けて押圧する圧力付与機構が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば転動体を介して軌道軸と移動部材とが相対的に移動自在に係合した運動案内装置において、かかる軌道軸の表面に対して潤滑剤を供給する潤滑剤供給装置、更にはこれを用いた運動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、軌道軸の表面に潤滑剤を供給する潤滑剤供給装置としては、特許文献1に記載されたものが知られている。この潤滑剤供給装置は、潤滑剤が貯蔵されるケーシング部材と、このケーシング部材に回転自在に保持されると共に軌道軸の表面を転動する潤滑用転動体とから構成されている。前記ケーシング部材内には潤滑剤含有部材が収容される一方で、前記潤滑用転動体はこの潤滑剤含有部材に摺接しており、かかる潤滑用転動体が軌道軸の表面を転動することで前記潤滑剤含有部材内の潤滑剤が軌道軸の表面に供給されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−145771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このように構成された特許文献1の潤滑剤供給装置では、前記潤滑剤含有部材が多孔体の構造を有する焼結樹脂から形成されている。このため、潤滑剤として、基油に対して増ちょう剤により構造粘性を具備させた粘度の高いグリースを用いた場合、このグリースの充填によって潤滑剤含有部材の目詰まりが発生してしまい、潤滑剤供給装置の潤滑機能が減じられてしまう。また、前記潤滑剤含有部材に対してグリースが詰まると、潤滑用転動体を介した軌道軸の表面に対するグリースの供給が滞ってしまい、軌道軸の表面に対するグリースの供給量が安定しないおそれがある。
【0005】
このような特許文献1の潤滑剤供給装置において、前記潤滑剤含有部材の構成を用いずにケーシング部材内総てをグリースで満たす構成とし、このケーシング部材内のグリースに潤滑用転動体を摺接させるように構成することも考えられる。
【0006】
しかし、かかる場合、前記潤滑用転動体の転動により該潤滑用転動体の外周面にグリースそのものが付着することはなく、グリースに含有される潤滑成分のみが付着することになる。この構成では、グリースに含まれた潤滑成分のみが軌道軸に供給されてしまい、軌道軸の表面に対してグリースを供給することはできず、また、ケーシング部材内にはグリースの残滓のみが残ってしまう。
【0007】
一方、特許文献1の潤滑剤供給装置において、潤滑剤として、増ちょう剤によって構造粘性が具備されたものではない高粘度の潤滑油を用いた場合、この高粘度潤滑油を前記潤滑剤含有部材に含有させると、かかる潤滑剤含有部材内では高粘度潤滑油の流動速度が低下し、もって軌道軸に沿った移動部材の移動速度に比べて軌道軸の表面に対する高粘度潤滑油の供給速度が遅くなってしまう。その結果、軌道軸に対して十分に高粘度潤滑油を塗布することができなくなってしまう恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はこのような課題を鑑みなされたものであり、その目的とするところは、軌道軸の表面に対して潤滑剤を供給することができ、もって経時的使用においても軌道軸に対する移動部材の移動を円滑化することが可能な潤滑剤供給装置を提供することにある。
【0009】
すなわち、本発明は、転動体を介して軌道軸に組み付けられる移動部材に装着され、かかる移動部材と軌道軸の相対的運動に伴って該軌道軸に潤滑剤を供給する潤滑剤供給装置であって、前記潤滑剤が貯留される貯留空間を有する潤滑剤貯蔵器と、一部が前記貯留空間に露出すると共に前記潤滑剤貯蔵器に回転自在に保持される一方、前記軌道軸の表面を転動し、この転動に伴って前記貯留空間内の潤滑剤を軌道軸の表面に転写する回転体と、から構成されており、前記回転体の外側面には複数の凹陥部が形成される一方、前記潤滑剤貯蔵器には前記貯留空間内の潤滑剤を前記回転体に向けて押圧する圧力付与機構が設けられている。
【発明の効果】
【0010】
このような本発明を適用した潤滑剤供給装置では、前記潤滑剤貯蔵器に貯留空間内の潤滑剤を前記回転体に向けて押圧する圧力付与機構が設けられている。また、前記回転体の外側面には複数の凹陥部が形成される一方、該回転体の一部は潤滑剤貯蔵器の貯留空間に露出している。この構成において、例えば潤滑剤としてグリースを用いた場合、前記貯留空間内のグリースはかかる回転体の外側面に形成された凹陥部に入り込むことになる。その結果として、前記回転体が軌道軸の表面を転動することで、回転体の凹陥部に入り込んだグリースを軌道軸の表面に転写させることが可能となる。そして、グリース自体は粘度が高く、流動性が低いため、このグリースを軌道軸の表面に転写させることで、グリースは軌道軸の表面に滞留することとなり、もって長期にわたり軌道軸に対する移動部材の移動を円滑化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の潤滑剤供給装置を適用可能な運動案内装置の一例を示す分解斜視図である。
【図2】第一実施形態に係る本発明の潤滑剤供給装置の内部構造を示す正面断面図である。
【図3】図2に示す潤滑剤供給装置が備える回転体の一部を切り欠いた正面半断面図である。
【図4】図2に示す回転体と保持部との係止関係を示す拡大断面図である。
【図5】前記軌道軸に対して潤滑剤供給装置が組み付けられていない状態における前記回転体と保持部との係止関係を示す拡大断面図である。
【図6】本発明の潤滑剤供給装置が備えるケーシング本体の第二実施形態を示す正面断面図である。
【図7】本発明の潤滑剤供給装置が備えるケーシング本体の第三実施形態を示す正面断面図である。
【図8】前記回転体を保持する保持部の第二実施形態を示す拡大断面図である。
【図9】前記回転体としてローラ部材を適用した場合の該回転体と保持部との係止関係を示す拡大断面図である。
【図10】潤滑剤供給装置が軌道軸から取り外された状態におけるローラ部材としての回転体と保持部との係止関係を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を用いて本発明を適用した潤滑剤供給装置の実施形態を詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の潤滑剤供給装置の一例とこれが装着される運動案内装置の一例としての直線案内装置を示す分解斜視図である。この直線案内装置は、直線状に延びる軌道軸としての軌道レール1と、転動体としての多数のボール3を介して前記軌道レール1に組み付けられると共に前記ボール3の無限循環路を備える移動部材としての移動ブロック2と、この移動ブロック2の移動方向の前後両端面に固定され、前記移動ブロック2の移動に応じて前記軌道レール1の表面に潤滑剤としてのグリースを供給するグリース供給装置4(潤滑剤供給装置)とから構成されており、前記ボール3の循環によって前記移動ブロック2が軌道レール1に沿って往復運動するように構成されている。尚、前記グリース供給装置4の外側にはシール部材(図示外)が装着されており、該シール部材は軌道レール1に付着した塵芥などが移動ブロック2の内部に侵入するのを防止している。
【0014】
前記軌道レール1の長手方向に沿って形成された各側面には前記ボール3が転動するボール転走面11が二条ずつ設けられ、軌道レール1全体として四条のボール転走面11が設けられている。また、軌道レール1には、該軌道レール1を固定部に固定するための取付け孔12が長手方向に沿って所定の間隔で形成されている。
【0015】
一方、前記移動ブロック2は、テーブル等の機械装置の取り付け面21を備えると共にボール3を循環させるためのボール戻し孔22が形成されたブロック本体23と、このブロック本体23の移動方向前後両端面に固定された一対のエンドプレート24とから構成されている。
【0016】
各エンドプレート24には、前記軌道レール1の転走面11上を転動してきたボール3を掬い上げ、前記ブロック本体23のボール戻し孔22に送り込む一方、かかるボール戻し孔22を転動してきたボール3を前記転走面11に送り込む方向転換路(図示せず)が形成されている。そして、固定ボルト25を用いて前記一対のエンドプレート24が前記ブロック本体23に固定されることにより、前記移動ブロック2にボール3の無限循環路が具備されるようになっている。また、各エンドプレート24には前記グリース供給装置4を固定するための取付け孔26が設けられている。
【0017】
図2は前記グリース供給装置4を示すものであり、該グリース供給装置4の内部構造を示す正面断面図である。このグリース供給装置4は、前記軌道レール1の長手方向から前記エンドプレート24に固定される潤滑剤貯蔵器としてのグリース貯蔵器5と、このグリース貯蔵器5に回転自在に保持されると共に前記軌道レール1の転走面11に当接する回転体6とから構成されている。
【0018】
図3は、前記回転体6を示す正面半断面図である。この回転体6は合成樹脂製であり、略球体に形成されている。また、この回転体6の外周面には複数の凹陥部61が形成されると共に、各凹陥部61の間は該回転体6の最大外径をなす陸部62が形成されている。このように構成された回転体6は前記軌道レール1の転走面11に当接するようにして前記グリース貯蔵器5に保持されている。すなわち、グリース貯蔵器5に対して合計四つの回転体6が保持されている。尚、図3では回転体6の外周面の構成を明確にするため、該回転体6の一部を切欠いて描いている。
【0019】
一方、前記グリース貯蔵器5は、前記グリースの貯留空間51を有するケーシング本体52と、このケーシング本体52に形成された貯留空間51を密閉する蓋部材53とから構成されており、これらケーシング本体52及び蓋部材53には前記軌道レール1が遊嵌する凹所54が形成されている(図1参照)。
【0020】
図2に示すように、前記ケーシング本体52には該ケーシング本体52の輪郭に沿って形成された周壁52a、及びこの周壁52aと共にグリースが貯留される貯留空間51を構成する仕切壁52bが形成されている。また、前記ケーシング本体52の幅方向中央部には前記貯留空間51に対してグリースを封入するための封入口55が設けられており、この封入口55には図1に示すように、グリースニップル56が装着されるようになっている。前記封入口55の周囲には前記周壁52aと連続すると共に前記グリースニップル56を支持する支持壁52cが形成されており、該支持壁52cには前記封入口55がグリースの貯留空間51に向けて開放されるよう、開口部52dが形成されている。
【0021】
更に、前記ケーシング本体52には貯留空間51の内部に圧力を掛けるための圧力付与機構7が一対設けられており、各圧力付与機構7は前記貯留空間51の一部をなすと共に前記周壁52a、仕切壁52b及び蓋部材53の間で摺動する押圧板71と、この押圧板71をグリース貯蔵器5の幅方向中央に付勢するバネ部材72とから構成されている。
【0022】
上記周壁52aには軌道レール1の各転走面11と対向する位置に保持部57が形成されており、この保持部57には上記回転体6が回転自在に保持されている。図4に示すように、前記保持部57は、略球体に形成された回転体6の最大直径部を覆うようにして帯状に形成されている。すなわち、この保持部57は前記貯留空間51に向けて開放された第一開口部57a、及び前記ケーシング本体52の凹所54に向けて開放された第二開口部57bを有している。かかる第一開口部57aの開口直径D1は前記回転体6の最大直径より小さく設定される一方、前記第二開口部57bの開口直径d1も前記回転体6の最大直径より小さく設定されている。すなわち、前記保持部57に保持された回転体6は、その一部が第一開口部57aを通してグリース貯蔵器5の貯留空間51内に、前記第二開口部57bを通して前記凹所54内に露出している。
【0023】
また、前記保持部57の内周面の曲率半径は前記回転体6の球面の曲率半径よりも僅かに大きく設定されているため、前記回転体6は前記保持部57内に、回転自在に且つ離脱不能に保持されている。尚、図4では前記保持部57と回転体6との係止関係を理解し易くするため、紙面手前側の保持部57の構成を省略して描いている。
【0024】
本発明を適用したグリース供給装置4では、上記保持部57がケーシング本体52の周壁52aと別に成形されていても差し支えなく、その一方でかかる周壁52aと一体に成形されていても差し支えない。
【0025】
そして、図2に示すように、前記ケーシング本体52には前記エンドプレート24に設けられた取付け孔26と連通する固定ボルト孔58が形成されており、この固定ボルト孔58及びエンドプレート24の取付け孔26に固定ボルト59を螺合させることで、上記構成からなるグリース供給装置4はエンドプレート24に固定されるようになっている。
【0026】
このように構成された本実施形態のグリース供給装置4において、前記封入口55を介してグリース貯蔵器5の貯留空間51にグリースが封入されると、かかる貯留空間51内の圧力が高まり、前記保持部57に保持された回転体6は保持部57の第二開口部57bに向けて押圧されることになる。
【0027】
図5に示すように、本実施形態のグリース供給装置4が軌道レール1に組み付けられていない状態では、前記第二開口部57bの開口直径d1は前記回転体6の最大直径よりも小さく設定されているので、前記回転体6の最大外径をなす陸部62が前記第二開口部57bに係止されることになる。これにより前記貯留空間51内のグリースが保持部57の第二開口部57bから漏出されないよう、回転体6と保持部57との間が密封されるようになる。すなわち、本実施形態に係る第二開口部57bは本発明が有する第一シール部に相当する構成である。尚、図5では前記回転体6と保持部57との係止関係を明確にするため、該回転体6の外周面の構成を省略して描いている。
【0028】
前記回転体6が保持部57の第二開口部57bに対して係止され、グリース貯蔵器5の貯留空間51が密封された後、更に封入口55から貯留空間51内にグリースが封入されると、前記各圧力付与機構7の押圧板71は前記グリース貯蔵器5の両側面に向けて押圧され、この押圧板71を付勢しているバネ部材72は縮小することになる。その結果、前記貯留空間51内に封入されたグリースには押圧板71を介して継続的に押圧力が作用することになる。
【0029】
一方、図2及び図4に示すように、グリース供給装置4が移動ブロック2と共に軌道レール1に組み付けられた状態では、前記凹所54内に露出した回転体6の一部が軌道レール1の転走面11に当接し、これにより前記回転体6は保持部57の第一開口部57aに向けて押圧されることになる。
【0030】
ここで、前記第一開口部57aの開口直径D1は回転体6の最大直径より小さく設定されているため、かかる回転体6が軌道レール1により押圧されると、該回転体6の最大外径をなす陸部62が前記第一開口部57aに係止されることになる。このように、前記陸部62が保持部57の第一開口部57aに係止されることで、前記回転体6と保持部57との間が密封されるようになっている。すなわち、本実施形態に係る第一開口部57aは、本発明が有する第二シール部に相当する構成である。尚、図4では、前記回転体6と保持部57との係止関係を明確にするため、該回転体6の外周面の構成を省略して描いている。
【0031】
このようにして前記軌道レール1に組み付けられたグリース供給装置4が移動ブロック2と共に該軌道レール1に沿って移動すると、前記回転体6の回転軸L1から軌道レール1の転走面11までの距離A1が回転体6の回転軸L1から該回転体6が係止する第一開口部57aまで距離B1よりも長く設定されているため、前記回転体6が第一開口部57aに係止されていたとしても回転トルクが発生し、かかる回転体6が軌道レール1の転走面11上を転動することになる。
【0032】
回転体6が前記軌道レール1の転走面11上を転動する際、貯留空間51内のグリースは前記圧力付与機構7によって回転体6に向けて押圧される一方、前記回転体6は軌道レール1の転走面11により前記貯留空間51に向けて押圧されている。このため、回転体6が転走面11上を転動すると、かかる回転体6の外周面に形成された凹陥部61内にグリースが入り込む。
【0033】
前記凹陥部61内に入り込んだグリースは回転体6の回動と共に前記保持部57内を通過し、その後粘度の高いグリースはかかる転走面11上に転写されることになる。これにより、前記貯留空間51内に貯留されたグリースが回転体6を介して間接的に軌道レール1の転走面11に供給される。
【0034】
その一方で、前記回転体6が転走面11上を転動すると、回転体6の最大外径をなす陸部62にはグリースに含有された潤滑成分が付着することになるが、回転体6の陸部62に付着された潤滑成分は前記第一開口部57aによってかき取られ、前記保持部57内に進入することなく前記貯留空間51内に貯留されることになる。
【0035】
以上の構成からなるグリース供給装置4及びこれを用いた直線案内装置によれば、前記圧力付与機構7により貯留空間51内のグリースが回転体6に向けて押圧され、これによりグリースが回転体6の外周面に形成された凹陥部61に入り込むことになる。かかる状態で軌道レール1の転走面11に沿って前記回転体6が転動することで、回転体6の凹陥部61に入り込んだグリースを軌道レール1の転走面11に転写させることが可能となる。
【0036】
そして、グリース自体は粘度が高く、流動性が低いため、このグリースを軌道レール1の転走面11に転写させることでグリースは軌道レール1の転走面11に滞留することとなり、その結果長期にわたって転走面11及びこの転走面11上を転動するボール3の潤滑を行うことができ、もって軌道レール1に対する移動ブロック2の移動を円滑化を図ることが可能となる。
【0037】
また、上記構成からなるグリース供給装置4及びこれを用いた直線案内装置によれば、前記回転体6を構成する陸部62が保持部57の第一開口部57aに係止され、これにより前記回転体6と保持部57との間が密封されるようになっている。このため、前記陸部62に付着したグリース内の潤滑成分のみが軌道レール1の転走面11上に供給されることはなく、前記凹陥部61内に入り込んだグリースを軌道レール1の転走面11上に供給させることが可能となる。その結果、軌道レール1の転走面11やボール3を潤滑する上で必要最低限の量のグリースを長期にわたって安定的に軌道レール1に供給することが可能である。
【0038】
更に、上記構成からなるグリース供給装置4では、前記軌道レール1に組み付けられていない状態において、前記回転体6の最大外径をなす陸部62が前記保持部57の第二開口部57bに係止され、これにより前記回転体6と保持部57との間が密封されるようになっている。このため、前記移動ブロック2及び軌道レール1に対してグリース供給装置4のみを固定するにあたり、該グリース供給装置4内にグリースが貯留されている状態であっても、かかるグリース供給装置4からグリースが漏れ出すのを防ぐことが可能である。
【0039】
また、本実施形態にかかるグリース供給装置4では前記回転体6が合成樹脂製であるが、かかる回転体6を例えば発泡ウレタンや合成ゴム等からなり弾性体として成形することも可能である。このように回転体6を成形すれば、回転体6の弾性変形により該回転体6と軌道レール1の転走面11との接触面積が大きくなる。その結果、前記凹陥部61に入り込んだグリースをより確実に軌道レール1の転走面11に転写させることが可能となる。
【0040】
図6及び図7は、本発明のグリース供給装置4に適用可能なケーシング本体52の変形例を示すものである。図6は前記ケーシング本体52の第二実施形態を示す正面断面図であり、図7は前記ケーシング本体52の第三実施形態を示す正面断面図である。尚、図2に示すケーシング本体52と同様の構成に関しては同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0041】
図6に示すケーシング本体152には、グリースが貯蔵されるための貯留空間151が一つ設けられており、かかるグリースケーシング本体152の両側面には前記貯留空間151にグリースを封入するための一対の封入口155が貫通形成されている。また、このケーシング本体152は前記貯留空間151内のグリースに圧力を付与するための圧力付与機構の構成に関して図2に示すケーシング本体52と異なり、該ケーシング本体152ではグリースの貯留空間151に対して単一の圧力付与機構107が設けられている。
【0042】
このように、ケーシング本体152に対して単一の貯留空間151が設けられている構成であっても、貯留空間151に封入されるグリース自体は流動性が低く、且つ圧力付与機構107によってグリースは回転体6に寄せられているので、グリースが貯留空間151内で偏在することがない。このため、グリース供給装置4が装着された直線案内装置が様々な姿勢で使用されたとしても、総ての回転体6に対してグリースを確実に供給することができ、その結果として四条の転走面11に対してグリースを確実に付着させることが可能となる。
【0043】
一方、図7に示すように、第三実施形態に係るケーシング本体252では、仕切壁252bによって区切られた一対の貯留空間251が設けられており、各貯留空間251は互いに独立している。各貯留空間251にはこれら貯留空間内のグリースに対して圧力を付与するための圧力付与機構7が設けられており、一対の圧力付与機構7は前記仕切壁252bを中心として左右対称となるように設けられている。また、本実施形態に係るケーシング本体252の両側面には、第二実施形態に係るケーシング本体152と同様に、各貯留空間251に連通するグリース封入のための封入口255が一対設けられている。
【0044】
前記第一実施形態に係るケーシング本体52では、前記支持壁52cで区切られた貯留空間51が支持壁52cに形成された開放部52dによって連通していたが、この第三実施形態に係るケーシング本体252では、各貯留空間251が完全に区切られて互いに独立している。このため、個々の貯留空間251に圧力付与機構7を設けることにより、当該貯留空間251内のグリースが少なくなっても、前記回転体6に対してグリースを確実に供給することが可能となる。
【0045】
上述した第二実施形態に係るケーシング本体152及び第三実施形態に係るケーシング本体252では、前記回転体6を回転自在に保持するための保持部の構成に関して、上記第一実施形態のケーシング本体52が備える保持部57の構成を適用することが可能である。
【0046】
次に、本発明のグリース供給装置4が備える保持部57の変形例に関して図8を用いて説明する。図8は前記保持部の第二実施形態を示す拡大断面図である。
【0047】
図4に示された第一実施形態に係る保持部57では、かかる保持部57に係る内周面の断面が単一の曲率からなる円弧状に形成されているが、図8に示す第二実施形態の保持部157ではその内周面の断面が段部として形成されている。すなわち、第二実施形態に係る保持部157は、前記ケーシング本体52に設けられた凹所54に連通する第一係止面157aと、前記貯留空間51に連通する第二係止面157bとを備えている。前記第一係止面157a及び第二係止面157bは略円弧状に形成されており、第一係止面157aの曲率半径は前記第二係止面157bの曲率半径よりも大きく設定されている。また、第一係止面157a及び第二係止面157bの曲率半径は、前記回転体6の球面の曲率半径よりも大きく設定されている。
【0048】
また、本実施形態に係る保持部157は、前記第一係止面157aによって形成されて前記凹所54に向けて開放された第一開口部158を有する一方、前記第二係止面157bによって形成されて前記貯留空間51に向けて開放された第二開口部159を有する。前記第一開口部158の開口直径D2は前記回転体6の最大直径よりも小さく設定される一方、前記第二開口部159の開口直径d2は回転体6の最大直径よりも小さく設定されている。
【0049】
すなわち、本実施形態の保持部157によれば、グリース供給装置4が軌道レール1に組み付けられていない状態にあっては、前記圧力付与機構7の構成により保持部157に保持された回転体6がケーシング本体52が有する凹所54に向けて押圧されているため、かかる回転体6の最外径をなす陸部62が前記第一開口部158に係止されることになる。これにより、前記グリースの貯留空間51は密封され、該貯留空間51からのグリースの漏出を防止することが可能となっている。
【0050】
その一方で、グリース供給装置4が軌道レール1に組み付けられている状態では、回転体6が軌道レール1の転走面11により貯留空間51に向けて押圧されるため、前記回転体6の最外径をなす陸部62が前記保持部157の第二開口部159に係止されることになる。
【0051】
このように構成された保持部157の構成においても、第一実施形態の保持部57と同様に、回転体6の転動により、貯留空間51内のグリースが前記回転体6の外周面に形成された凹陥部61内に入り込む一方、グリース内の潤滑成分が回転体6の最大外径をなす陸部62に付着することになる。そして、凹陥部61内のグリースは軌道レール1の転走面11に転写される一方、陸部62に付着した潤滑成分は保持部157の第二開口部158によってかき取られ、保持部157内に進入することなく貯留空間51内に貯留されることになる。
【0052】
図4及び図8で示された本発明を適用したグリース供給装置では、保持部57,157に対して略球体に形成された回転体6が保持されているが、この回転体6の構成はこれに限定されず、図9に示すようにローラ部材として形成されていても差し支えない。
【0053】
図9に示す回転体106は、軸部材161を備えた軸付きローラ部材として形成されており、この回転体106は軸部材161を介して前記ケーシング本体52に設けられた保持部57に軸支されている。この回転体106の外側面には上記回転体6と同様に複数の凹陥部(図示せず)が形成されている。
【0054】
このように、回転体をローラ部材として構成した場合であっても、前記封入口55を介してグリース貯蔵器5の貯留空間51にグリースが封入されると、留空間51内の圧力が高まり、図10に示すように、前記保持部57に保持された回転体106はケーシング本体52に設けられた凹所54に向けて変位することになる。そして、グリース供給装置4が軌道レール1に組み付けられていない状態では、回転体106が保持部57に係止してこれら回転体106と保持部57との間が密封され、その結果貯留空間51内からのグリースの漏出を防ぐことができるようになっている。
【0055】
その一方で、図9に示すように、グリース供給装置4が移動ブロック2と共に軌道レール1に組み付けられた状態では、前記回転体106が軌道レール1の転走面11に当接し、これにより該回転体106はグリース貯蔵器5の貯留空間51に向けて変位することになる。
【0056】
そして、回転体106が軌道レール1の転走面11上を転動すると、かかる回転体106に形成された凹陥部内にグリースが入り込むことになり、この回転体106の凹陥部内に入り込んだグリースは保持部57内を通過して軌道レール1の転走面11へと転写されることになる。
【0057】
尚、上述した実施形態では、潤滑剤としてグリースを用いた例を説明したが、かかる潤滑剤としては、グリースのように増ちょう剤により構造粘性が具備されたものに限らず、その性質により高粘度である潤滑油を用いることも可能である。
【0058】
尚、本発明が適用可能な軌道レールを備えた直線案内装置としてボールの無限循環路を備えたものを説明したが、かかる直線案内装置としてはボールの無限循環路を有していない所謂有限式の直線案内装置であっても差し支えない。また、上記直線案内装置としては、移動ブロック2及び軌道レール1間に、ボール3を介在させない所謂すべり案内装置を採用しても差し支えない。
【0059】
また、上記実施形態では、本発明を適用した潤滑剤供給装置を直線案内装置に適用した例を示したが、本発明を適用した潤滑剤供給装置は例えば、前記軌道レール1が一定の曲率で形成された曲線案内装置や、ねじ軸及びこのねじ軸に螺合するナット部材からなる送りねじ装置に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…軌道レール(軌道軸)、2…移動ブロック(移動部材)、3…ボール(転動体)、4…グリース供給装置(潤滑剤供給装置)、5…グリース貯蔵器(潤滑剤貯蔵器)、51,151,251…貯留空間、6,106…回転体、61…凹陥部、7,107…圧力付与機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動体を介して軌道軸に組み付けられる移動部材に装着され、かかる移動部材と軌道軸の相対的運動に伴って該軌道軸に潤滑剤を供給する潤滑剤供給装置であって、
前記潤滑剤が貯留される貯留空間を有する潤滑剤貯蔵器と、一部が前記貯留空間に露出すると共に前記潤滑剤貯蔵器に回転自在に保持される一方、前記軌道軸の表面を転動し、この転動に伴って前記貯留空間内の潤滑剤を軌道軸の表面に転写する回転体と、から構成され、
前記回転体の外側面には、複数の凹陥部が形成され、
前記潤滑剤貯蔵器には、前記貯留空間内の潤滑剤を前記回転体に向けて押圧する圧力付与機構が設けられていることを特徴とする潤滑剤供給装置。
【請求項2】
前記潤滑剤は、増ちょう剤と基油からなるグリースであることを特徴とする請求項1記載の潤滑剤供給装置。
【請求項3】
前記潤滑剤貯蔵器には前記回転体を保持する保持部が設けられ、かかる保持部には、前記軌道軸から移動部材が取り外された状態で回転体が係止し、前記貯留空間を密封するシール部が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の潤滑剤供給装置。
【請求項4】
前記回転体は球体に形成される一方、前記保持部の内側面の曲率半径は前記回転体の球面の曲率半径よりも大きく設定され、
前記保持部には、前記軌道軸に移動部材が組み付けられた状態で前記回転体が係止し、前記貯留空間を密封する第二シール部が設けられていることを特徴とする請求項3記載の潤滑剤供給装置。
【請求項5】
前記回転体は、弾性体からなることを特徴とする請求項1乃至請求項4記載の潤滑剤供給装置。
【請求項6】
長手方向に沿って転動体転走面が形成された軌道軸と、多数の転動体を介して前記軌道軸に組み付けられると共に該軌道軸と相対的に運動する移動部材と、から構成され、
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の潤滑剤供給装置が前記移動部材に装着されていることを特徴とする運動案内装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−19441(P2013−19441A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152057(P2011−152057)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】