説明

潤滑油組成物

【課題】特にディーゼル機関車の銀軸受を保護するためのクランクケース潤滑油組成物として有用な潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】本発明の潤滑油組成物は、(A)主要量の潤滑粘度の油、および(B)銀摩耗防護添加剤組成物、および(C)一種もしくは二種以上の清浄剤を含む潤滑油組成物に関する。本発明の銀摩耗防護添加剤組成物は、(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩との混合物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、ディーゼル機関車の銀軸受を保護するためのクランクケース用潤滑油組成物として有用な潤滑油組成物であって、(A)主要量の潤滑粘度の油、(B)銀摩耗防護添加剤組成物、および(C)一種もしくは二種以上の清浄剤を含む潤滑油組成物に関するものである。本発明の銀摩耗防護添加剤組成物は、(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩との混合物からなる。
【背景技術】
【0002】
ヘビーデューティー(高負荷)ディーゼルエンジン用潤滑油として、酸化に対して安定であってエンジン堆積物の生成を制限するクランクケース潤滑油が必要とされている。さらに、これらクランクケース潤滑油は、燃料の燃焼過程で生成する酸を中和するために高いアルカリ度も保有していなければならない。
【0003】
米国や他の国々で使用されている多数の高負荷ディーゼル機関車や船用ディーゼルエンジンでは、別の潤滑上の問題が生じている。一般に、旧式の高負荷ディーゼルエンジンには、銀又は銀メッキ軸受などの銀で表面仕上げしたエンジン部分がある。銀メッキ軸受は、旧式の針状ころ軸受よりも優れた潤滑性および耐食性を有すると共に、疲れ強さおよび許容荷重も改善されている。残念なことには、これら銀メッキ軸受は、高負荷ディーゼルエンジン用潤滑油中の多数の従来添加剤と不適合である。さらに、銀又は銀メッキ軸受には独特の問題も生じている。その理由は、ジ−アルキルジ−チオンリン酸亜鉛などの軸受保護添加剤の多くは、他の物質、例えば黄銅や銅、鉛、青銅、アルミニウムで表面仕上げした軸受を保護するのには効果があるが、銀又は銀メッキ軸受には腐食性であるからである。
【0004】
過去において銀保護は、主として塩素化パラフィンや長鎖脂肪酸、硫黄含有化合物を含む潤滑油の使用によって行われていた。しかし、塩素化化合物には環境上の問題があることが分かり、また高硫黄含有化合物は別の望ましくない影響を及ぼす。よって、上述した欠点を持たずに銀保護を行うような潤滑油が大いに必要とされている。多数の特許文献に銀保護用潤滑油組成物が開示されているが、いずれも本発明の潤滑油組成物で観察されるほど保護が増大していない。
【0005】
特許文献1には、潤滑剤に耐摩耗性を付与する添加剤の組成物が開示されており、この組成物を潤滑剤と組み合わせても、その潤滑剤を銀腐食性とすることはない。この組成物は、(A)リンチオン酸のトリエステル、および(B)オルト−リン酸のトリエステル、または(C)有機塩基の炭化水素リン酸エステルの混合物を含んでいる。
【0006】
特許文献2には、二酸化炭素と反応させたマンニッヒ塩基を混ぜた硫化アルキルフェネートをアルカリ土類金属酸化物又は水酸化物で中和して得られた反応生成物を含む潤滑油組成物が開示されている。この特許文献には、その発明の潤滑油が鉄道用ディーゼルエンジンの銀軸受を保護することが示唆されている。
【0007】
特許文献3には、ホルムアルデヒドおよび/または容易に分解して遊離ホルムアルデヒドを発生する任意の化合物を使用して、硫化及びリン硫化添加剤によって生じる銀腐食を有効に防ぎながら、これら硫黄含有添加剤の酸化防止性または他の望ましい特性を妨害しない発明が開示されている。
【0008】
特許文献4には、脂肪基の脂肪族炭素原子数が少なくとも12の油溶性脂肪酸約1乃至3質量部と、エステル基の脂肪族炭素原子数が1〜約30の部分エステル化リン酸の第三級脂肪族第一級アミン塩約1乃至3質量部とを含む重要な新規組成物が開示されている。組成物は潤滑剤に望ましい摩擦特性を付与する。
【0009】
特許文献5には、銀不活性のキャリヤとチオカルバミン酸化合物とからなる銀不働態化組成物が開示されている。
【0010】
特許文献6には、アルカリ及びアルカリ土類金属フェネート、塩素化炭化水素質成分、硫黄含有化合物、ナフチルアミンおよびジアミン成分を含み、銀と青銅両方のエンジン構成部分において耐摩耗性の改善を示す潤滑油組成物が開示されている。
【0011】
特許文献7には、アルキルフェノラートを含む過塩基性アルカリ土類金属と塩素化硫化アルキルフェノールとからなる成分の組合せを含む潤滑油組成物が開示されている。
【0012】
特許文献8には、優れた潤滑剤用安定剤として、1,2−ジオールまたは1−メルカプト−2−ヒドロキシ化合物からP25との反応で生成したジ又はトリ−チオリン酸ジ−エステルの混合物が開示されている。
【0013】
特許文献9には、ベンゾトリアゾール化合物からなる銀腐食防止剤を、約0.5乃至2.0質量%の濃度で存在させて含む鉄道用ディーゼル潤滑油が開示されている。
【0014】
特許文献10には、N−アルキルアミノメチル−5−アミノ−1H−テトラゾールを含む鉄道用ディーゼルエンジン潤滑油のための銀腐食防止剤が開示されている。
【0015】
特許文献11には、リン酸エステルの混合物を含む潤滑油添加剤であって、該リン酸エステルは、モノ−チオリン酸エステルを本質的に含まず、かつ(a)二炭化水素ジ−チオリン酸水素エステルと(b)炭化水素リン酸二水素エステルの無硫黄混合物とからなり、該組成物の少なくとも50%が、炭化水素基の炭素数が10〜30の炭化水素アミンで中和されている添加剤が開示されている。
【0016】
特許文献12には、(1)アルカリ金属ホウ酸塩、(2)油溶性硫黄化合物、(3)リン酸水素ジ−アルキル、および(4)中和リン酸エステルの混合物を含む潤滑油が開示されていて、該リン酸エステルは、モノ−チオリン酸エステルを本質的に含まず、相乗的に相互作用して潤滑剤に優れた耐負荷性を与える。
【0017】
特許文献13には、潤滑油基材、無灰分散剤、過塩基性アルカリ土類金属アルキルフェノラートとアルキルスルホネート化合物の混合物、および炭素原子数60までのポリヒドロキシ化合物、または炭素原子数60までのポリヒドロキシ化合物と塩素化炭化水素の混合物を含む鉄道用ディーゼルエンジンのための潤滑油組成物が開示されている。
【0018】
特許文献14には、塩素化炭化水素が配合されないかもしくは低いレベルで配合されている、鉄道用ディーゼルエンジンの銀摩耗を防護する潤滑油が開示されている。組成物は、(1)C1〜C12多価アルコールのC8〜C22脂肪酸エステルまたはそのようなエステルの混合物、および(2)上記(1)のポリヒドロキシ化合物と塩素化パラフィンとからなる混合物からなる群より選ばれる銀保護化合物を含んでいる。
【0019】
特許文献15には、銀軸受部分を有する内燃機関に使用するように設計された、TBNが10〜30で塩素を本質的に含まない潤滑油組成物であって、ある種の不飽和脂肪族カルボン酸の混合により該軸受の保護をもたらす組成物が開示されている。
【0020】
特許文献16には、主要量の潤滑粘度の油と、アミン、ギ酸およびC5〜C60カルボン酸の反応生成物からなる少量の銀摩耗及び銅腐食防護添加剤とを含む潤滑油組成物にて、内燃機関の銀部分を保護し、銅腐食を防止する方法、および銀摩耗及び銅摩耗防護添加剤が開示されている。
【0021】
特許文献17には、(1)(a)炭化水素リン酸エステル及びそのアミン塩と、(b)炭化水素置換ジチオリン酸のアルキレン結合付加物およびα,β−不飽和カルボニル含有化合物とからなる耐摩耗性パッケージ;(2)(a)炭化水素ジフェニルアミンと、(b)立体障害のあるヒンダードフェノールとからなる酸化防止剤パッケージ;(3)金属不活性化剤;および(4)潤滑粘度の油を含む潤滑油組成物が開示されている。この発明は更に、潤滑油組成物の製造方法、および工業用油、特に油圧作動油でのその使用にも関する。
【0022】
特許文献18には、少なくとも一種のモノ−チオリン酸ジ−アルキルの炭化水素アミン塩を含む油溶性潤滑剤添加剤パッケージが開示されている。特許文献のその発明の目的は、ガソリン又はディーゼルエンジンに使用される低硫黄、低灰分及び低リン量の油を配合するのに使用できる添加剤パッケージを提供することにある。
【0023】
【特許文献1】英国特許第1415964号明細書
【特許文献2】加国特許第810120号明細書
【特許文献3】米国特許第2959546号明細書
【特許文献4】米国特許第3267033号明細書
【特許文献5】米国特許第3649373号明細書
【特許文献6】米国特許第3775321号明細書
【特許文献7】米国特許第4169799号明細書
【特許文献8】米国特許第4244827号明細書
【特許文献9】米国特許第4278553号明細書
【特許文献10】米国特許第4285823号明細書
【特許文献11】米国特許第4575431号明細書
【特許文献12】米国特許第4717490号明細書
【特許文献13】米国特許第4764296号明細書
【特許文献14】米国特許第4820431号明細書
【特許文献15】米国特許第5244591号明細書
【特許文献16】米国特許第5302304号明細書
【特許文献17】米国特許出願第10/463932号(出願公開第2004/0259743A1号)明細書
【特許文献18】米国特許出願第10/630026号(出願公開第2005/0026791A1号)明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の課題は、上述した欠点を持たずに銀保護を行うような潤滑油を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、特にディーゼル機関車の銀軸受を保護するためのクランクケース用潤滑油組成物として有用な潤滑油組成物であって、(A)主要量の潤滑粘度の油、(B)銀摩耗防護添加剤組成物、および(C)一種もしくは二種以上の清浄剤を含む潤滑油組成物に関する。本発明の銀摩耗防護添加剤組成物は、(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩との混合物からなる。
【0026】
具体的には、本発明は、下記の成分を含む、特にディーゼル機関車用クランクケース潤滑油組成物として有用な潤滑油組成物に関する:
(A)主要量の潤滑粘度の油、
(B)(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩との混合物からなる銀摩耗防護添加剤組成物、および
(C)一種もしくは二種以上の清浄剤。
【0027】
上記潤滑油組成物の銀摩耗防護添加剤組成物において、(B)の(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩の混合物と、(C)の一種もしくは二種以上の清浄剤との比は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01:10質量%乃至約5:10質量%の範囲にあることが好ましい。好ましくは、(B)と(C)の比は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.05:10質量%乃至約3:10質量%の範囲にある。より好ましくは、(B)の混合物と(C)の比は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.1:10質量%乃至約1:10質量%の範囲にある。
【0028】
上記潤滑油組成物の銀摩耗防護添加剤組成物において、(B)の(i)と(ii)の比は、(i)と(ii)の全モル量に基づき約80:20モル%乃至約20:80モル%の範囲にある。より好ましくは、(B)の(i)と(ii)の比は、(i)と(ii)の全モル量に基づき約60:40モル%乃至約40:60モル%の範囲にある。最も好ましくは、(B)の(i)と(ii)の比は、(i)と(ii)の全モル量に基づき約50:50モル%である。
【0029】
上記潤滑油組成物の銀摩耗防護添加剤組成物において、炭化水素アミン塩を製造するのに用いられるジ−アルキルジ−チオリン酸は、モノ−チオリン酸(エステル)を本質的に含まない。
【0030】
上記潤滑油組成物の銀摩耗防護添加剤組成物において、ジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基は独立に、直鎖又は分枝鎖アルキル基である。好ましくは、ジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基は直鎖アルキル基である。
【0031】
上記潤滑油組成物の銀摩耗防護添加剤組成物において、ジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基は独立に、炭素原子数約3〜炭素原子数約40であることが好ましい。より好ましくは、ジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基は独立に、炭素原子数約3〜炭素原子数約20である。最も好ましくは、ジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基は独立に、炭素原子数約4〜炭素原子数約10である。
【0032】
上記潤滑油組成物の銀摩耗防護添加剤組成物に用いられる炭化水素アミン塩を作るのに用いられる炭化水素アミンの炭化水素基は、炭素原子数約8〜炭素原子数約40であることが好ましい。より好ましくは、炭化水素アミンの炭化水素基は炭素原子数約12〜炭素原子数約20である。炭化水素基は脂肪族基であることが好ましい。より好ましくは、脂肪族基はアルキル基またはアルケニル基である。最も好ましくは、炭化水素基はアルケニル基である。
【0033】
上記潤滑油組成物の銀摩耗防護添加剤組成物に用いられるジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩および酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩は、一炭化水素アミン塩、二炭化水素アミン塩、または三炭化水素アミン塩またはそれらの混合物である。好ましくは、ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩および酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩は、一炭化水素アミン塩である。
【0034】
上記潤滑油組成物の銀摩耗防護添加剤組成物において、ジ−アルキルジ−チオリン酸のアルキル基はn−ヘキシルであり、酸性リン酸アルキルではn−ブチルであり、そして炭化水素アミンの炭化水素基はオレイルであることが最も好ましい。
【0035】
上記潤滑油組成物に用いられる(C)の一種もしくは二種以上の清浄剤は、中性又は低、中、高過塩基性金属清浄剤の一種又は混合物であってよく、それらには硫化金属清浄剤も含まれる。高過塩基性硫化金属清浄剤は、高過塩基性硫化炭酸塩化金属清浄剤であってもよい。金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属であることが好ましい。より好ましくは、金属はカルシウムまたはマグネシウムなどのアルカリ土類金属である。最も好ましくは、アルカリ土類金属はカルシウムである。
【0036】
本発明の潤滑油組成物の全塩基価は、約5乃至約30の範囲にある。好ましくは、潤滑油組成物の全塩基価は約15乃至約25の範囲にある。これは、アルカリ度または中和能の測定値であり、上記潤滑油組成物の銀摩耗防護添加剤組成物に用いられる清浄剤である金属塩の添加によってもたらされる。金属塩の機能は、ディーゼル用潤滑油を汚染する燃焼副生物としてディーゼルエンジン内で見られる硫酸などの酸性酸化生成物を中和することにある。各種の清浄剤、例えば過塩基性硫化及び/又は炭酸塩化アルキルフェネート、過塩基性アルキルサリチレート、および過塩基性アルキル又はアルカリールスルホネートを使用することができる。種々の清浄剤の混合物も本発明の潤滑油組成物に使用することができる。これら清浄剤は市販されていて容易に入手できる。
【0037】
本発明の潤滑油組成物は、EMD2−567C「二ホラー(2−Holer)」エンジン試験に合格するものである。
【0038】
上記潤滑油組成物は更に、分散剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤および腐食防止剤から選ばれる一種もしくは二種以上の潤滑油添加剤を含んでいてもよい。好ましくは、上記潤滑油組成物は更に一種もしくは二種以上の分散剤を含む。より好ましくは、分散剤は無灰分散剤である。最も好ましくは、無灰分散剤は無水コハク酸の誘導体である。
【0039】
本発明の別の態様は、下記の成分を含む潤滑油濃縮物に関する:
(A)約90質量%乃至約10質量%の潤滑粘度の油、および
(B)約10質量%乃至約90質量%の、(a)(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩との混合物を含む銀摩耗防護添加剤組成物、および(b)一種もしくは二種以上の清浄剤。
【0040】
上記潤滑油濃縮物の銀摩耗防護添加剤組成物において(B)で、(a)の(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩の混合物と、(b)の一種もしくは二種以上の清浄剤との比は、潤滑油濃縮物の全質量に基づき約0.01:10質量%乃至約5:10質量%の範囲にあることが好ましい。好ましくは、(a)と(b)の比は、潤滑油濃縮物の全質量に基づき約0.05:10質量%乃至約3:10質量%の範囲にある。より好ましくは、(a)と(b)の比は、潤滑油濃縮物の全質量に基づき約0.1:10質量%乃至約1:10質量%の範囲にある。
【0041】
上記潤滑油濃縮物の銀摩耗防護添加剤組成物において、(a)の(i)と(ii)の比は、(i)と(ii)の全モル量に基づき約80:20モル%乃至約20:80モル%の範囲にある。より好ましくは、(a)の(i)と(ii)の比は、(i)と(ii)の全モル量に基づき約60:40モル%乃至約40:60モル%の範囲にある。最も好ましくは、(a)の(i)と(ii)の比は、(i)と(ii)の全モル量に基づき約50:50モル%である。
【0042】
上記潤滑油濃縮物の銀摩耗防護添加剤組成物において、炭化水素アミン塩を製造するのに用いられるジ−アルキルジ−チオリン酸は、モノ−チオリン酸(エステル)を本質的に含まない。
【0043】
上記潤滑油濃縮物の銀摩耗防護添加剤組成物において、ジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基は独立に、直鎖又は分枝鎖アルキル基である。好ましくは、ジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基は直鎖アルキル基である。
【0044】
上記潤滑油濃縮物の銀摩耗防護添加剤組成物において、ジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基は独立に、炭素原子数約3〜炭素原子数約40であることが好ましい。より好ましくは、ジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基は独立に、炭素原子数約3〜炭素原子数約20である。最も好ましくは、ジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基は独立に、炭素原子数約4〜炭素原子数約10である。
【0045】
上記潤滑油濃縮物の銀摩耗防護添加剤組成物において、炭化水素アミン塩を作るのに用いられる炭化水素アミンの炭化水素基は、炭素原子数約8〜炭素原子数約40であることが好ましい。より好ましくは、炭化水素アミンの炭化水素基は炭素原子数約12〜炭素原子数約20である。炭化水素基は脂肪族基であることが好ましい。より好ましくは、脂肪族基はアルキル基またはアルケニル基である。最も好ましくは、炭化水素基はアルケニル基である。
【0046】
上記潤滑油濃縮物の銀摩耗防護添加剤組成物に用いられるジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩および酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩は、一炭化水素アミン塩、二炭化水素アミン塩、または三炭化水素アミン塩またはそれらの混合物である。好ましくは、ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩および酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩は、一炭化水素アミン塩である。
【0047】
上記潤滑油濃縮物の銀摩耗防護添加剤組成物に用いられるとき、ジ−アルキルジ−チオリン酸のアルキル基はn−ヘキシルであり、酸性リン酸アルキルではn−ブチルであり、そして炭化水素アミンの炭化水素基はオレイルであることが最も好ましい。
【0048】
上記潤滑油濃縮物に用いられる(b)の一種もしくは二種以上の清浄剤は、低、中又は高過塩基性金属清浄剤の混合物であってもよく、それらは硫化及び/又は炭酸塩化した金属清浄剤であってもよい。金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属であることが好ましい。より好ましくは、金属はカルシウムまたはマグネシウムなどのアルカリ土類金属である。最も好ましくは、アルカリ土類金属はカルシウムである。
【0049】
上記潤滑油組成物は更に、分散剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤および腐食防止剤からなる群より選ばれる一種もしくは二種以上の潤滑油添加剤を含んでいてもよい。好ましくは、上記潤滑油組成物は更に一種もしくは二種以上の分散剤を含む。より好ましくは、分散剤は無灰分散剤である。最も好ましくは、無灰分散剤は無水コハク酸の誘導体である。
【0050】
本発明の別の態様は、特にディーゼル機関車のクランクケースの銀軸受を保護する方法であって、銀軸受を下記の成分を含む潤滑油組成物と接触させることからなる方法に関する:
(A)主要量の潤滑粘度の油、
(B)(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩との混合物からなる銀摩耗防護添加剤組成物、および
(C)一種もしくは二種以上の清浄剤。
【0051】
上記方法の銀摩耗防護添加剤組成物において、(B)の(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩の混合物と、(C)の一種もしくは二種以上の清浄剤との比は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01:10質量%乃至約5:10質量%の範囲にあることが好ましい。好ましくは、(B)と(C)の比は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.05:10質量%乃至約3:10質量%の範囲にある。より好ましくは、(B)と(C)の比は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.1:10質量%乃至約1:10質量%の範囲にある。
【0052】
上記潤滑方法の銀摩耗防護添加剤組成物において、(B)の(i)と(ii)の比は、(i)と(ii)の全モル量に基づき約80:20モル%乃至約20:80モル%の範囲にある。より好ましくは、(B)の(i)と(ii)の比は、(i)と(ii)の全モル量に基づき約60:40モル%乃至約40:60モル%の範囲にある。最も好ましくは、(B)の(i)と(ii)の比は、(i)と(ii)の全モル量に基づき約50:50モル%である。
【0053】
上記方法の銀摩耗防護添加剤組成物において、炭化水素アミン塩を製造するのに用いられるジ−アルキルジ−チオリン酸は、モノ−チオリン酸(エステル)を本質的に含まない。
【0054】
上記方法の銀摩耗防護添加剤組成物において、ジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基は独立に、直鎖又は分枝鎖アルキル基である。好ましくは、ジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基は直鎖アルキル基である。
【0055】
上記方法の銀摩耗防護添加剤組成物において、ジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基は独立に、炭素原子数約3〜炭素原子数約40であることが好ましい。より好ましくは、ジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基は独立に、炭素原子数約3〜炭素原子数約20である。最も好ましくは、ジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基は独立に、炭素原子数約4〜炭素原子数約10である。
【0056】
上記方法の銀摩耗防護添加剤組成物において、炭化水素アミン塩を得るのに用いられる炭化水素アミンの炭化水素基は、炭素原子数約8〜炭素原子数約40であることが好ましい。より好ましくは、炭化水素アミンの炭化水素基は、炭素原子数約12〜炭素原子数約20である。炭化水素基は脂肪族基であることが好ましい。より好ましくは、脂肪族基はアルキル基またはアルケニル基である。最も好ましくは、炭化水素基はアルケニル基である。
【0057】
上記方法の銀摩耗防護添加剤組成物に用いられるジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩および酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩は、一炭化水素アミン塩、二炭化水素アミン塩、または三炭化水素アミン塩またはそれらの混合物である。好ましくは、ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩および酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩は、一炭化水素アミン塩である。
【0058】
該方法の銀摩耗防護添加剤組成物に用いられるとき、ジ−アルキルジ−チオリン酸のアルキル基はn−ヘキシルであり、酸性リン酸アルキルではn−ブチルであり、そして炭化水素アミンの炭化水素基はオレイルであることが最も好ましい。
【0059】
上記方法の潤滑油組成物に用いられる(C)の一種もしくは二種以上の清浄剤は、中性又は低、中、高過塩基性金属清浄剤の混合物であってもよく、それらは硫化及び/又は炭酸塩化した金属清浄剤であってもよいし、そうでなくてもよい。金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属であることが好ましい。より好ましくは、金属はカルシウムまたはマグネシウムなどのアルカリ土類金属である。最も好ましくは、アルカリ土類金属はカルシウムである。
【0060】
上記潤滑油組成物は更に、分散剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤および腐食防止剤から選ばれる一種もしくは二種以上の潤滑油添加剤を含む。好ましくは、上記潤滑油組成物は更に一種もしくは二種以上の分散剤を含む。より好ましくは、分散剤は無灰分散剤である。最も好ましくは、無灰分散剤は無水コハク酸の誘導体である。
【0061】
本発明の更に別の態様は、下記の成分を含む銀面保護組成物にある:
(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩との混合物。
【0062】
上記銀面保護組成物において、銀保護組成物の(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩との比は、ジ−アルキルジ−チオリン酸及び酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩の全モル量に基づき約80:20モル%乃至約20:80モル%の範囲にある。好ましくは、(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩との比は、ジ−アルキルジ−チオリン酸及び酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩の全モル量に基づき50:50モル%である。
【0063】
上記方法の銀面保護組成物において、ジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基は独立に、炭素原子数約3〜炭素原子数約40であることが好ましい。より好ましくは、ジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基は独立に、炭素原子数約3〜炭素原子数約20である。最も好ましくは、ジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基は独立に、炭素原子数約4〜炭素原子数約10である。
【0064】
上記方法の銀面保護組成物において、炭化水素アミン塩を作るのに用いられる炭化水素アミンの炭化水素基は、炭素原子数約8〜炭素原子数約40であることが好ましい。より好ましくは、炭化水素アミンの炭化水素基は、炭素原子数約12〜炭素原子数約20である。炭化水素基は脂肪族基であることが好ましい。より好ましくは、脂肪族基はアルキル基またはアルケニル基である。最も好ましくは、炭化水素基はアルケニル基である。
【0065】
上記潤滑油濃縮物の銀面保護組成物に用いられるとき、ジ−アルキルジ−チオリン酸のアルキル基はn−ヘキシルであり、酸性リン酸アルキルではn−ブチルであり、そして炭化水素アミンの炭化水素基はオレイルであることが最も好ましい。
【0066】
本発明の銀面保護組成物は更に、有機溶剤を含んでいてもよい。有機溶剤は、アルカノール、ハロゲン化炭化水素、エーテルまたはケトンから選ばれることが好ましい。
【発明の効果】
【0067】
(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩との混合物を添加することにより、ディーゼル機関車のクランクケースの銀及び銀メッキ軸受を、従来のディーゼル潤滑油に使用されている過塩基性清浄剤によって生じる摩耗から防護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0068】
本明細書で使用されるとき、以下の用語は、特に断わらない限りは以下の意味を有する。
【0069】
「アルカリ金属」は、本明細書で使用するとき、周期表のI族金属を意味し、例えばナトリウム、カリウムおよびリチウムである。
【0070】
「アルカリ土類金属」は、本明細書で使用するとき、周期表のII族金属を意味し、例えばカルシウムおよびマグネシウムである。
【0071】
「清浄剤」は、本明細書で使用するとき、溶液状態の酸中和化合物を油に分散させるように設計された添加剤を意味する。清浄剤は、通常はアルカリ性であり、燃料の燃焼過程で生成して阻止されないままであるとエンジン部分に腐食を起こすような酸と反応する。本発明に使用するのに適した清浄剤は、例えばアルキルスルホネート、アルキルフェネート及びマンニッヒ塩基縮合物のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩である。これら清浄剤は、硫化及び/又は炭酸塩化していてもよい。多くの清浄剤が市販されていて容易に入手できる。
【0072】
「分散剤」は、本明細書で使用するとき、ススおよび燃焼生成物を油充填された本体内で懸濁状態に保ち、それによりスラッジやラッカーとして堆積するのを防ぐ添加剤を意味する。無灰分散剤の例としては、コハク酸イミドおよびコハク酸エステルがある。多数の分散剤が市販されている。
【0073】
「炭化水素アミン」は、本明細書で使用するとき、第一級炭化水素アミン、第二級炭化水素アミンまたは第三級炭化水素アミンを意味する。炭化水素基は、炭素と水素とからなる有機基を意味し、脂肪族、脂環式、芳香族またはそれらの混合物であってもよい。炭化水素基は脂肪族基であることが好ましい。より好ましくは、脂肪族基はアルキル基またはアルケニル基である。最も好ましくは、炭化水素基はアルケニル基である。ジ−アルキルジ−チオリン酸及び酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩はモノアミン塩であって、脂肪族アルキル基は炭素原子数約8〜炭素原子数約40であることが好ましい。炭化水素アミンはアミンの混合物であってもよい。代表的な脂肪族アルキルアミンとしては、ペンタデシルアミン、オクタデシルアミンおよびセチルアミン等が挙げられる。最も好ましいのはオレイルアミンである。
【0074】
「機関車用ディーゼルエンジン油(潤滑油組成物)」は、本明細書で使用するとき、鉄道機関車の他に、海洋引船、定置原動力用途に見られるような中速ディーゼルエンジンに使用されるエンジン油を包含するため、中速ディーゼルエンジン用潤滑油組成物と同一の意味を持つ。
【0075】
「過塩基性」は、本明細書で使用するとき、アルカリ土類金属アルキルフェネート、アルキルサリチレート及びアルキルスルホネートであって、有機部の当量数に対するアルカリ土類金属の当量数の比が1より大きいものを意味する。低過塩基性は、全塩基価(TBN)が1より大きく20以下のアルカリ土類金属アルキルフェネート、アルキルサリチレート及びアルキルスルホネートを意味し、中過塩基性は、TBNが20より大きく200以下のアルカリ土類金属アルキルフェネート、アルキルサリチレート及びアルキルスルホネートを意味する。高過塩基性は、TBNが200より大きいアルカリ土類金属アルキルフェネート、アルキルサリチレート及びアルキルスルホネートを意味する。
【0076】
「モノ−チオリン酸エステル」は、本明細書で使用するとき、下記式を有する化合物を意味する:
【0077】
【化1】

【0078】
式中、R’R”およびR"'は独立に、水素または炭素原子数約3〜炭素原子数約40のアルキルである。
【0079】
「銀保護」は、本明細書で使用するとき、本発明の潤滑油組成物がディーゼル機関車クランクケースの銀及び銀メッキ軸受を、清浄性および堆積物抑制のためにそのような潤滑油に使用された過塩基性清浄剤の有害な悪影響から防護する能力を意味する。如何なる理論にも制限を受けるものではないが、本発明の潤滑油組成物中のジ−アルキルジ−チオリン酸のアルキルアミン又はアルケニルアミン塩および酸性リン酸アルキルのアルキルアミン又はアルケニルアミン塩は、過塩基性清浄剤の存在下で、ディーゼル機関車クランクケースの銀及び銀メッキ軸受の摩耗防護をもたらすと考えられる。
【0080】
「全塩基価」又は「TBN」は、本明細書で使用するとき、試料1グラムにおけるKOHのミリグラムと等価な塩基の量を意味する。従って、TBN値が高いほど、生成物のアルカリ性が強く、よってアルカリ度が高いことを意味する。
【0081】
特に明記しない限り、百分率は全て質量%である。
【0082】
[潤滑油組成物]
本発明によれば、(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩の混合物を添加することにより、ディーゼル機関車のクランクケースの銀及び銀メッキ軸受を、従来のディーゼル潤滑油に使用されている過塩基性清浄剤によって生じる摩耗から保護することができる。
【0083】
本発明の潤滑油組成物は、(A)主要量の潤滑粘度の油、(B)(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩の混合物からなる銀摩耗防護添加剤組成物、および(C)一種もしくは二種以上の清浄剤を含んでいる。任意に、銀摩耗防護添加剤組成物は一種もしくは二種以上の分散剤を含んでいてもよい。以下に詳細に述べる化合物を単にブレンドする、または混合することにより、本発明の潤滑油組成物を製造することができる。所望の濃度の添加剤を含む潤滑油組成物のブレンドを容易にするために、これら化合物を他の種々の添加剤と一緒に適切な比率で、濃縮物またはパッケージとして予備ブレンドすることもできる。
【0084】
(潤滑粘度の油)
潤滑粘度の油または基油は、本明細書で使用するとき、潤滑油を意味し、潤滑粘度の鉱油であっても合成油であってもよいが、好ましくは内燃機関のクランクケースに使用できるものである。クランクケース潤滑油の粘度は通常、−17.8℃で約1300センチストークス乃至98.9℃で22.7センチストークスである。潤滑油は合成原料からでも天然原料からでも誘導することができる。本発明に基油として使用される鉱油としては、パラフィン系、ナフテン系、および一般に潤滑油組成物に使用されるその他の油を挙げることができる。合成油としては、炭化水素合成油および合成エステルが挙げられる。使用できる合成炭化水素油としては、適正な粘度を有するアルファオレフィンの液状重合体を挙げることができる。特に有用なものはC6〜C12アルファオレフィンの水素化液状オリゴマー、例えば1−デセン三量体である。同様に、適正な粘度のアルキルベンゼン、例えばジドデシルベンゼンも使用することができる。使用できる合成エステルとしては、モノカルボン酸及びポリカルボン酸とモノヒドロキシアルカノール及びポリオールとのエステルが挙げられる。代表的な例としては、ジドデシルアジペート、ペンタエリトリトールテトラカプロエート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、およびジラウリルセバケート等がある。モノ及びジカルボン酸とモノ及びジヒドロキシアルカノールとの混合物から合成された複合エステルも使用することができる。炭化水素油と合成油のブレンドも使用できる。例えば、10質量%乃至25質量%の水素化1−デセン三量体と、75質量%乃至90質量%の37.8℃で683センチストークスの鉱油とのブレンドは、優れた油基材となる。フィッシャー・トロプシュ合成誘導基油も、本発明の潤滑油組成物に用いることができる。
【0085】
[ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩および酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩]
一般に、本発明の潤滑油組成物におけるジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩の所望の濃度は、本発明の潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約5.0質量%の範囲にある。好ましくは、ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩は、本発明の潤滑油組成物の全質量に基づき約0.05質量%(0.5質量%)乃至約3.0質量%の範囲にある。最も好ましくは、ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩は、本発明の潤滑油組成物の全質量に基づき約0.1質量%乃至約1.0質量%の範囲にある。
【0086】
銀摩耗防護添加剤組成物に使用されるジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と酸性リン酸アルキルの塩は、(1)まず、所望のジ−アルキルジ−チオリン酸と酸性リン酸アルキルの混合物を作り、次に混合物の炭化水素アミン塩を合成することにより、あるいは(2)ジ−アルキルジ−チオリン酸と酸性リン酸アルキルの各々の炭化水素アミン塩を別個に作り、次にその二つの塩を混合して各々が所望の比率のものを得ることにより、製造することができる。
【0087】
(ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩)
ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩は、下記式を有する化合物のアルキルアミン又はアルケニルアミン塩である:
【0088】
【化2】

【0089】
式中、RおよびR1は独立に、炭素原子数約3〜炭素原子数約40の直鎖又は分枝鎖アルキル基である。好ましくは、RおよびR1は直鎖アルキル基である。
【0090】
炭化水素アミン塩を作るのに用いられるジ−アルキルジ−チオリン酸の例としては、ジ−2−エチル−1−ヘキシル水素ジ−チオリン酸、ジ−ヘキシル水素ジ−チオリン酸、ジ−イソオクチル水素ジ−チオリン酸、ジ−プロピル水素ジ−チオリン酸、ジ−ブチル水素ジ−チオリン酸、およびジ−4−メチル−2−ペンチル水素ジ−チオリン酸を挙げることができる。好ましいジ−チオリン酸は、ジ−ヘキシル水素ジ−チオリン酸、ジ−ブチル水素ジ−チオリン酸、およびジ−n−ヘキシル水素ジ−チオリン酸である。炭化水素アミン塩を得るために本発明において用いられる最も好ましいジ−アルキルジ−チオリン酸は、ジ−n−ヘキシル水素ジ−チオリン酸である。
【0091】
ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩は、第一級炭化水素アミン、第二級炭化水素アミン、または第三級炭化水素アミンまたはそれらの混合物を用いて製造される。好ましくは、炭化水素基は脂肪族基である。より好ましくは、脂肪族基はアルキル基またはアルケニル基である。最も好ましくは、炭化水素基はアルケニル基である。ジ−アルキルジ−チオリン酸及び酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩はモノ−アミン塩であって、その脂肪族アルキル基は炭素原子数約8〜炭素原子数約40であることが好ましい。炭化水素アミンはアミンの混合物であってもよい。代表的な脂肪族アルキルアミンとしては、ペンタデシルアミン、オクタデシルアミン、およびセチルアミン等を挙げることができる。最も好ましいのはオレイルアミンである。
【0092】
ジ−アルキルジ−チオリン酸およびそのアルキルアミン又はアルケニルアミン塩の製造方法は、当該分野ではよく知られている。
【0093】
本発明の潤滑油組成物に使用されるアルキルアミン又はアルケニルアミン塩を作るのに用いられるジ−アルキルジ−チオリン酸は、モノ−チオリン酸(エステル)を本質的に含まない。
【0094】
(酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩)
酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩は、本明細書で使用するとき、リン酸一水素ジ−アルキルとリン酸二水素モノ−アルキルとの混合物を意味する。これらの化合物は下記式を有する:
【0095】
【化3】

【0096】
式中、R2、R3およびR4は独立に、炭素原子数約3〜炭素原子数約40の直鎖又は分枝鎖アルキルである。好ましくは、R2、R3およびR4は直鎖アルキル基である。
【0097】
本発明の炭化水素アミン塩を製造するのに用いることができる酸性リン酸アルキルの例としては、リン酸二水素プロピル、リン酸水素ジプロピル、リン酸二水素ブチル、リン酸水素ジブチル、リン酸二水素ペンチル、リン酸水素ジペンチル、リン酸二水素ヘキシル、リン酸水素ジヘキシル、リン酸二水素ヘプチル、リン酸水素ジヘプチル、リン酸二水素オクチル、リン酸水素ジオクチル、リン酸二水素デシル、およびリン酸水素ジデシル等がある。好ましいのはリン酸水素ジブチルとリン酸二水素ブチルの混合物である。最も好ましいのはリン酸二水素ブチルである。
【0098】
酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩は、第一級炭化水素アミン、第二級炭化水素アミン、または第三級炭化水素アミンまたはそれらの混合物を用いて製造される。好ましくは、炭化水素基は脂肪族基である。より好ましくは、脂肪族基はアルキル基またはアルケニル基である。最も好ましくは、炭化水素基はアルケニル基である。ジ−アルキルジ−チオリン酸及び酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩はモノ−アミン塩であって、その脂肪族アルキル基は炭素原子数約8〜炭素原子数約40であることが好ましい。炭化水素アミンはアミンの混合物であってよい。代表的な脂肪族アミンとしては、ペンタデシルアミン、オクタデシルアミン、およびセチルアミン等を挙げることができる。最も好ましいのはオレイルアミンである。
【0099】
ジ−アルキルジ−チオリン酸およびそのアルキルアミン又はアルケニルアミン塩の製造方法は、当該分野ではよく知られている。
【0100】
[清浄剤]
清浄剤は、ディーゼル燃料の場合に硫酸などの酸性酸化生成物を中和して堆積物を抑制するために潤滑油に使用される。本発明の銀摩耗防護添加剤組成物に使用できる清浄剤は、中性又は低、中、高過塩基性清浄剤、またはそれらの混合物であってよい。清浄剤は、硫化及び/又は炭酸塩化していてもよい。一般に、低及び中過塩基性清浄剤と高過塩基性清浄剤との比は、本発明の潤滑油組成物中の清浄剤の全質量に基づき約70:30質量%乃至約30:70質量%の範囲にある。好ましくは、低及び中過塩基性清浄剤と高過塩基性清浄剤の比は、銀摩耗防護添加剤組成物中の清浄剤の全質量に基づき約60:40質量%乃至約40:60質量%の範囲にある。より好ましくは、低及び中過塩基性清浄剤と高過塩基性清浄剤の比は、潤滑油組成物中の清浄剤の全質量に基づき約50:50質量%である。
【0101】
本発明の潤滑油組成物に用いられる銀摩耗防護添加剤組成物と清浄剤との比は、本発明の潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01:10質量%乃至約5:10質量%の範囲にある。好ましくは、本発明の潤滑油組成物中の銀摩耗防護添加剤組成物と清浄剤の比は、本発明の潤滑油組成物の全質量に基づき約0.05:10質量%乃至約3:10質量%の範囲にある。より好ましくは、本発明の潤滑油組成物中の銀摩耗防護添加剤組成物と清浄剤との比は、本発明の潤滑油組成物の全質量に基づき約0.1:10質量%乃至約1:10質量%の範囲にある。
【0102】
(低及び中過塩基性金属清浄剤)
低及び中過塩基性金属清浄剤の例としては、低又は中過塩基性スルホン酸、サリチル酸、カルボン酸又はフェノール、またはフェノール、アルデヒド及びアミンのマンニッヒ縮合物がある。これら清浄剤は硫化していても硫化していなくてもよい。これら清浄剤は、アルカリ金属清浄剤またはアルカリ土類金属清浄剤であってよい。好ましくはアルカリ土類金属清浄剤であり、より好ましくはカルシウム清浄剤である。これら清浄剤のTBNは1より大きく200以下である。より好ましくは清浄剤は、金属がアルカリ土類金属でアルキル基の炭素原子数が約6〜約30である中過塩基性硫化アルキルフェネートである。これら清浄剤は当該分野ではよく知られていて市販されてもいる。
【0103】
(高過塩基性清浄剤)
各種の過塩基性物質を使用することができ、例えば硫化及び/又は炭酸塩化フェネート、サリチレート及びスルホネートがあり、容易に入手できる。高過塩基性清浄剤は、アルカリ土類金属、好ましくはカルシウムの塩である。これら清浄剤のTBNは200より大きい。より好ましくは高過塩基性清浄剤は、金属がアルカリ土類金属でアルキル基の炭素原子数が約6〜約30である過塩基性硫化炭酸塩化アルキルフェネートである。これら清浄剤は市販されていて容易に入手できる。
【0104】
[その他の添加剤]
本発明の潤滑油組成物は一般に、本発明のジ−アルキルジ−チオリン酸のアルキルアミン又はアルケニルアミン塩と酸性リン酸アルキルのアルキルアミン又はアルケニルアミン塩に加えて、本発明の潤滑油組成物に所望の特性を付与するために使用される他の添加剤も含有していてもよい。よって、潤滑油は、分散剤、酸化防止剤、腐食防止剤、および温度による粘度変化を調整するための粘度指数向上剤など、一種もしくは二種以上の添加剤を含有していてもよい。
【0105】
ディーゼル機関車クランクケース潤滑油用の従来の潤滑油組成物に望まれる特性を付与するという見地から最良の全体的な結果を得るためには、潤滑油は、所望の中和能をもたらすために本発明のジ−アルキルジ−チオリン酸のアルキルアミン又はアルケニルアミン塩と酸性リン酸アルキルのアルキルアミン又はアルケニルアミン塩および充分な量の清浄剤を含有すると共に、上記部類の添加剤の各々の有効量での混合性ある組合せも含有する。
【0106】
(分散剤)
本発明の潤滑油組成物は任意に無灰分散剤を含有する。一般に無灰分散剤は、アルケニルコハク酸無水物とアミンを反応させることによって生成する窒素含有分散剤である。そのような分散剤の例としては、アルケニルコハク酸イミドおよびアルケニルコハク酸アミドがある。これら分散剤は更に、例えばホウ素またはエチレンカーボネートとの反応によって変性されていてもよい。長鎖炭化水素置換カルボン酸とヒドロキシ化合物から誘導されるエステル系無灰分散剤も用いることができる。好ましい無灰分散剤は、ポリイソブテニルコハク酸無水物から誘導されるものである。これら分散剤は市販されている。
【0107】
(酸化防止剤)
酸化防止剤は、潤滑油が老化したり、あるいは空気の存在下で酸化するときに潤滑油中で自然に起こる分解過程を防ぐために潤滑油に使用される。これら酸化過程はガムやラッカー、スラッジの形成を引き起こし、その結果、酸度及び粘度の増加をもたらす。使用できる酸化防止剤の例としては、ヒンダードフェノール、アルキル化及び非アルキル化芳香族アミン、リン酸アルキル又はアリール、チオジカルボン酸のエステル、カルバミン酸又はジ−チオリン酸の塩がある。
【0108】
(粘度指数向上剤)
粘度指数向上剤は、温度の変化による粘度変化を調整するために潤滑油に添加される。粘度指数向上剤の幾つかの市販されている例としては、オレフィン共重合体、ポリブテン、ポリメタクリレート、ビニルピロリドン、およびメタクリレート共重合体がある。
【0109】
(腐食防止剤)
腐食防止剤は、攻撃されやすい金属面を保護するために潤滑油に含有される。そのような腐食剤は一般に、非常に少量で、約0.02質量%乃至約1.0質量%の範囲で使用される。腐食防止剤は、金属ジ−チオリン酸塩のようにそれ自体が銀及び銀メッキ軸受を腐食するものであってはならない。使用することができる腐食防止剤の例としては、2,5−ジ−t−ノニルジチオ−1,3,5−チアジアゾールを含む、2,5−ジメルカプト−1,3,5−チアジアゾールの誘導体がある。
【0110】
既述した物質に加えて、本発明の潤滑油組成物は、流動点降下剤や消泡剤など他の添加剤も含んでいてもよい。各種の添加剤物質または本明細書に記載した部類の物質は、よく知られた物質であり、容易に購入したり、あるいは公知の方法またはその明らかな改良法により製造することができる。
【0111】
銀摩耗防護添加剤として本発明に用いられるジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩の混合物は、銀面の保護のためにも使用することができる。具体的には、本発明の別の態様は、下記の成分を含む銀面保護組成物である:
(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩との混合物。
【0112】
銀面保護組成物において、銀面保護組成物中の(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩との比は、ジ−アルキルジ−チオリン酸及び酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩の全モル量に基づき約80:20モル%乃至約20:80モル%の範囲にある。より好ましくは、(i)と(ii)の比は(i)と(ii)の全モル量に基づき50:50モル%である。
【0113】
本発明の銀面保護組成物は更に有機溶剤を含有していてもよい。有機溶剤は、用いられるなら、アルカノール、ハロゲン化炭化水素、アルキルエーテルまたはアルキルケトンから選ばれることが好ましい。アルカノールは、モノ−アルカノールであってもジ−アルカノールであってもよい。アルキルエーテルは、モノ−アルキルエーテルであってもジ−アルキルエーテルであってもよい。好適な有機溶剤の例としては、エタノール、ジオキサン、1,1,1−トリクロロエタン、および四塩化炭素がある。
【0114】
上記態様における有機溶剤を、ゼリー状石油またはパラフィン油などの炭化水素で置き換えることも考えられる。
【実施例】
【0115】
[実施例1] 改良銀ディスク摩耗・摩擦試験を用いた銀摩耗評価
台上試験である改良銀ディスク摩耗・摩擦試験を使用して、本発明の銀摩耗添加剤組成物を含む潤滑油組成物の耐摩耗性および摩擦特性を決定した。試験機は、ゼネラル・モーターズ社(General Motors, Inc.)の電動部(EMD)により製造された鉄道用ディーゼルエンジンの銀製ピンはめ込み式軸受のメッキに用いられたものと同一品質の、直径0.64センチメートル、厚み1.59ミリメートルの銀ディスク3枚を備えた組立装置内に、直径1.27センチメートル、ANSI52100等級の鋼球が置かれてなるファレックス四球試験機の改良型である。これらのディスクは、銀耐摩耗性および摩擦特性を試験するための油試料を含む溜め内に、三角形をなすように固定されて位置している。鋼球は3枚の銀ディスクの上に位置して接触している。試験を実施する際には、レバーアームに好適な質量を掛けることによって鋼球を3枚のディスクに特定の圧力で押し付けながら、鋼球を回転させる。銀ディスク上で鋼球の回転を1分当り300回転、運転荷重23キログラム、260℃で30分間続ける。
【0116】
低出力顕微鏡を用いてディスク上の摩耗痕を検査して測定することにより試験結果を求め、また歪ゲージで摩擦係数を測定する。2.2ミリメートルかそれ以下の摩耗痕径は通常、銀摩耗防護が充分であることを示す。低い摩擦係数もまた要求される。
【0117】
改良銀摩耗・摩擦試験を使用して本発明の銀摩耗防護添加剤組成物を評価するために、下記第1表に記載するように潤滑油組成配合物を製造した。
【0118】
配合物A−Eは、TBNがおよそ114で、アルキル基が炭素原子12個を含む中過塩基性カルシウム硫化アルキルフェネート、およびTBNがおよそ250で、アルキル基が炭素原子12個を含む高過塩基性カルシウム硫化炭酸塩化アルキルフェネートを含有した。配合物A〜Eはまた、無灰分散剤、粘度指数向上剤および消泡剤も含有した。基油を使用して配合物A〜Eの各々を100%に調製した。配合物のTBNはおよそ17であった。下記第1表に、配合物A〜Eの詳細を記載する。
【0119】
本発明の銀摩耗防護添加剤組成物に用いられるオレイルアミンジ−n−ヘキシルジ−チオリン酸と酸性リン酸ブチルオレイルアミンを、三種類の異なる濃度で添加することにより試験配合物B〜Dを製造した。ジ−n−ヘキシルジ−チオリン酸のオレイルアミン塩1.0モルと、酸性リン酸ブチルのオレイルアミン塩1.15モルとを含む銀摩耗防護添加剤組成物を使用して、配合物B−Dを製造した。比較配合物Eは、ジ−チオリン酸ジ−n−ヘキシルのオレイルアミン塩だけを含有した。
【0120】
比較配合物Aは、本発明の銀摩耗防護添加剤組成物に用いられるジ−n−ヘキシルジ−チオリン酸のオレイルアミン塩と酸性リン酸ブチルのオレイルアミン塩の混合物も、ジ−n−ヘキシルジ−チオリン酸のオレイルアミン塩単独でもいずれも含有しなかった。配合物Aについて得られたデータを基線として使用した。
【0121】
【表1】

【0122】
本発明の銀摩耗防護添加剤組成物の銀摩耗防護性能を、改良銀ディスク摩耗・摩擦試験で得られた摩耗痕データと摩擦係数データを用いて、ジ−チオリン酸ジ−n−ヘキシルのオレイルアミン塩単独と比較して決定した。下記第2表に、改良銀ディスク摩耗・摩擦試験データをまとめて示す。
【0123】
第 2 表
─────────────────────────
配合物 摩耗痕 摩擦係数
(μm)
─────────────────────────
比較配合物A 2.22 0.1490
─────────────────────────
試験配合物B 2.23 0.1523
試験配合物C 2.09 0.1123
試験配合物D 2.04 0.1200
─────────────────────────
比較配合物E 2.15 0.1528
─────────────────────────
【0124】
上記の第2表のデータは、本発明の銀摩耗防護添加剤組成物に用いられるジ−n−ヘキシルジ−チオリン酸のオレイルアミン塩と酸性リン酸ブチルのオレイルアミン塩を、0.2質量%および0.5質量%の濃度で含む試験配合物C及びDが、ジ−チオリン酸ジ−n−ヘキシルのオレイルアミン塩だけを0.2質量%の濃度で含む比較配合物Eよりも、著しく良好な銀摩耗防護性を与えることを明らかにしている。同じ0.2質量%の濃度でも、本発明の銀摩耗防護添加剤組成物に用いられるジ−n−ヘキシルジ−チオリン酸のオレイルアミン塩と酸性リン酸ブチルオレイルアミンの混合物を含む試験配合物Cが、ジ−チオリン酸ジ−n−ヘキシルのオレイルアミン塩だけを含む比較配合物Eよりもずっと良い性能を示したことは、驚くべきことであり予測できなかったことである。この台上試験で配合物Eが銀摩耗防護性を示さなかったので、下記実施例2のエンジン試験には配合物Eを入れなかった。
【0125】
[実施例2] EMD2−567Cエンジン試験を用いた銀摩耗評価
下記第3表に記載する潤滑油配合物について、標準銀軸受摩耗試験であるEMD2−567Cエンジン試験、銀メッキリストピンの損傷評点を査定するのに使用される「二ホラー試験」としても一般に知られているが、により銀摩耗防護性の評価を行った。
【0126】
「二ホラー試験」は、試験期間がおよそ35時間で、9時間20分の慣らし運転期間と25時間の耐久期間とから構成される。試験では、生産リストピン軸受を備えた生産エンジンに比べて相当な改良を加えることで意図的に感度を上げた2個の試験軸受(左側に1個、右側に1個)を使用した。改良には、はめ込み式軸受に鉛オーバレイを用いないことが含まれ、また試験軸受は中心給油または油スロットを利用しない。鉛オーバレイによる固定という追加の利点無しに、あるいは油穴供給や分配スロットによりもたらされる給油特性の改善無しに、軸受の清浄仕上げ銀面に直接供されるのは、焼入鋼リストピンの製造したままの表面である。倍率10の顕微鏡下で軸受の銀汚れを観察し、EMD損傷デメリット法に従って評価する。合格限界は軸受毎に最大40デメリットであり、そして可能性のある鉄道用エンジン油候補を全規模現地試験に進める前に、一回の試験で二個の軸受の合格が要求される。
【0127】
EMD2−567Cエンジン試験を使用して本発明の銀摩耗防護添加剤組成物を評価するために、下記第3表に記載するように潤滑油組成配合物F〜Jを製造した。
【0128】
配合物F〜Jは、TBNがおよそ114でアルキル基が炭素原子12個を含む中過塩基性カルシウム硫化アルキルフェネート、およびTBNがおよそ250でアルキル基が炭素原子12個を含む高過塩基性カルシウム硫化炭酸塩化アルキルフェネートを含有した。配合物F〜Jはまた、無灰分散剤、粘度指数向上剤および消泡剤も含有した。基油を使用して配合物F〜Jの各々を100%に調製した。配合物のTBNはおよそ17であった。下記第3表に、配合物F〜Jの詳細を記載する。
【0129】
比較配合物F及びJは、本発明の銀摩耗防護添加剤組成物に用いられるジ−n−ヘキシルジ−チオリン酸のオレイルアミン塩と酸性リン酸ブチルのオレイルアミン塩を含有しなかった。比較配合物F及びJは比較のために用いた。台上試験の改良銀ディスク摩耗・摩擦試験に用いた、ジ−チオリン酸ジ−n−ヘキシルのオレイルアミン塩だけを含む比較配合物Eは、EMD2−567Cエンジン試験には使用しなかった、というのは、上記第2表にまとめた台上試験データが、比較配合物Eに比べて試験配合物C及びDが著しく良好な銀摩耗防護性を与えることを明らかにしたからである。比較配合物Eを用いて費用のかかるエンジン試験を実施することは、無駄であると思われた。
【0130】
本発明の銀摩耗防護添加剤組成物に用いられるジ−n−ヘキシルジ−チオリン酸のオレイルアミン塩と酸性リン酸ブチルのオレイルアミン塩を、二種類の異なる濃度で添加して試験配合物G−Iを製造した。ジ−n−ヘキシルジ−チオリン酸のオレイルアミン塩と酸性リン酸ブチルのオレイルアミン塩を、モル比50:50で含む銀摩耗防護添加剤組成物を用いて、配合物G〜Iを製造した。
【0131】
【表2】

【0132】
下記第4表に、EMD2−567Cエンジン試験の結果をまとめて示す。
【0133】
第 4 表
──────────────────────────────
配合物 ピストンピン軸受 合格/不合格
デメリット
左 右
──────────────────────────────
比較配合物F 慣らし運転不合格 不合格
──────────────────────────────
試験配合物G 10.5 18.0 合格
試験配合物H 12.0 13.5 合格
試験配合物I 23.0 15.5 合格
──────────────────────────────
比較配合物J 慣らし運転不合格 不合格
──────────────────────────────
【0134】
EMD2−567Cエンジン試験で得られたデータは、本発明の銀摩耗防護添加剤組成物を含む配合物G〜Iは、銀軸受の保護の決定に使用したEMD2−567Cエンジン試験に合格したが、一方、本発明の銀摩耗防護添加剤組成物に用いられるジ−n−ヘキシルジ−チオリン酸のオレイルアミン塩と酸性リン酸ブチルのオレイルアミン塩の混合物を含まなかった配合物F及びJは、慣らし運転で不合格になったことを明らかにしている。
【0135】
上記第2表で、本発明の銀摩耗防護添加剤組成物に用いられるジ−n−ヘキシルジ−チオリン酸のオレイルアミン塩と酸性リン酸ブチルのオレイルアミン塩の混合物0.1質量%についての改良銀ディスク摩耗・摩擦試験(台上試験)データは、台上試験が、この混合物の銀摩耗防護性を0.1質量%というこのように低い濃度では検出できなかったことを示しているが、上記第4表に記したEMD2−567Cエンジン試験データは、この混合物が0.1質量%濃度で銀摩耗防護添加剤として有効であることをはっきりと示している。台上試験に用いた極端な条件、すなわち短期間かつ加速した応力のために、台上試験で銀摩耗防護を検出するにはこの濃度は低過ぎるのかもしれない。
【0136】
一般に、石油工業で台上試験は、特別な性能基準を嘱望させてエンジン試験又は現地試験での追加の多大な出費を正当化しうる化合物を、確定するための迅速な審査手段としてしばしば使用されている。台上試験データは、エンジン試験で性能を示す濃度を確定することでも役立っている、ただし、本発明の場合で分かったように、台上試験で性能を示さないような低い濃度であっても、実際のエンジン試験では非常に良い性能を示すことがある。エンジン試験は、商品開発のための化合物を確定するのにはるかに信頼できる試験であり、事実、エンジン試験に合格することが工業的な要求条件である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分を含む潤滑油組成物:
(A)主要量の潤滑粘度の油、
(B)(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩との混合物を含む銀摩耗防護添加剤組成物、および
(C)一種もしくは二種以上の清浄剤。
【請求項2】
潤滑油組成物中の(B)の銀摩耗防護添加剤組成物と(C)の一種もしくは二種以上の清浄剤との比が、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01:10質量%乃至約5:10質量%の範囲にある請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
潤滑油組成物中の(B)の銀摩耗防護添加剤組成物と(C)の一種もしくは二種以上の清浄剤との比が、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.05:10質量%乃至約3:10質量%の範囲にある請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
潤滑油組成物中の(B)の銀摩耗防護添加剤組成物と(C)の一種もしくは二種以上の清浄剤との比が、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.1:10質量%乃至約1:10質量%の範囲にある請求項3に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
(B)の銀摩耗防護添加剤組成物中の(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩との比が、ジ−アルキルジ−チオリン酸及び酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩の全モル量に基づき約80:20モル%乃至約20:80モル%の範囲にある請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
(B)の銀摩耗防護添加剤組成物中の(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩との比が、ジ−アルキルジ−チオリン酸及び酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩の全モル量に基づき約60:40モル%乃至約40:60モル%の範囲にある請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
(B)の銀摩耗防護添加剤組成物中の(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩との比が、ジ−アルキルジ−チオリン酸及び酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩の全モル量に基づき約50:50モル%である請求項6に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
(B)のジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩が、モノ−チオリン酸を本質的に含まない請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
(B)のジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基が独立に、直鎖又は分枝鎖アルキル基である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
ジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基が直鎖アルキル基である請求項9に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
(B)のジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基が独立に、炭素原子数約3〜炭素原子数約40である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
ジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基が独立に、炭素原子数約3〜炭素原子数約20である請求項11に記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
ジ−アルキルジ−チオリン酸および酸性リン酸アルキルのアルキル基が独立に、炭素原子数約4〜炭素原子数約10である請求項12に記載の潤滑油組成物。
【請求項14】
(B)の炭化水素アミンの炭化水素基が脂肪族基である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項15】
脂肪族基がアルキル基またはアルケニル基である請求項14に記載の潤滑油組成物。
【請求項16】
炭化水素アミンのアルキル基またはアルケニル基が、炭素原子数約8〜炭素原子数約40である請求項14に記載の潤滑油組成物。
【請求項17】
炭化水素アミンのアルキル基またはアルケニル基が、炭素原子数約12〜炭素原子数約20である請求項16に記載の潤滑油組成物。
【請求項18】
(B)のジ−アルキルジ−チオリン酸及び酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩が、一炭化水素アミン塩、二炭化水素アミン塩、三炭化水素アミン塩またはそれらの混合物である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項19】
ジ−アルキルジ−チオリン酸及び酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩が、一炭化水素アミン塩である請求項18に記載の潤滑油組成物。
【請求項20】
(B)のジ−アルキルジ−チオリン酸のアルキル基がn−ヘキシルであり、酸性リン酸アルキルのアルキル基がn−ブチルであり、そして炭化水素アミンの炭化水素基がオレイルである請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項21】
(C)の一種もしくは二種以上の清浄剤が、中過塩基性硫化金属清浄剤と高過塩基性硫化炭酸塩化金属清浄剤との混合物である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項22】
金属がアルカリ金属またはアルカリ土類金属である請求項21に記載の潤滑油組成物。
【請求項23】
金属がアルカリ土類金属である請求項22に記載の潤滑油組成物。
【請求項24】
アルカリ土類金属がカルシウムまたはマグネシウムである請求項23に記載の潤滑油組成物。
【請求項25】
清浄剤が、中過塩基性硫化カルシウムアルキルフェネートと高過塩基性硫化炭酸塩化カルシウムアルキルフェネートとの混合物である請求項21に記載の潤滑油組成物。
【請求項26】
潤滑油組成物の全塩基価が約5乃至約30の範囲にある請求項21に記載の潤滑油組成物。
【請求項27】
全塩基価が、全潤滑油組成物に基づき約15乃至約25の範囲にある請求項26に記載の潤滑油組成物。
【請求項28】
潤滑油組成物が更に、分散剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤および腐食防止剤からなる群より選ばれる一種もしくは二種以上の潤滑油添加剤を含む請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項29】
潤滑油組成物が更に一種もしくは二種以上の分散剤を含む請求項28に記載の潤滑油組成物。
【請求項30】
分散剤が無灰分散剤である請求項29に記載の潤滑油組成物。
【請求項31】
無灰分散剤が無水コハク酸の誘導体である請求項30に記載の潤滑油組成物。
【請求項32】
潤滑油組成物が、EMD2−567Cエンジン試験に合格するものである請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項33】
下記の成分を含む潤滑油濃縮物:
(A)約90質量%乃至約10質量%の潤滑粘度の油、および
(B)約10質量%乃至約90質量%の、(a)(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩との混合物を含む銀摩耗防護添加剤組成物、および(b)一種もしくは二種以上の清浄剤。
【請求項34】
(B)のジ−アルキルジ−チオリン酸のアルキル基がn−ヘキシルであり、酸性リン酸アルキルのアルキル基がn−ブチルであり、そして炭化水素アミンの炭化水素基がオレイルである請求項33に記載の潤滑油濃縮物。
【請求項35】
(B)のジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩が、モノ−チオリン酸を本質的に含まない請求項33に記載の潤滑油濃縮物。
【請求項36】
潤滑油濃縮物が更に、分散剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤および腐食防止剤からなる群より選ばれる一種もしくは二種以上の潤滑油添加剤を含む請求項33に記載の潤滑油濃縮物。
【請求項37】
潤滑油濃縮物が更に一種もしくは二種以上の分散剤を含む請求項36に記載の潤滑油濃縮物。
【請求項38】
ディーゼル機関車のクランクケースの銀軸受を保護する方法であって、銀軸受を請求項1に記載の潤滑油組成物と接触させることからなる方法。
【請求項39】
ディーゼル機関車のクランクケースの銀軸受を保護する方法であって、銀軸受を請求項20に記載の潤滑油組成物と接触させることからなる方法。
【請求項40】
ディーゼル機関車のクランクケースの銀軸受を保護する方法であって、銀軸受を請求項25に記載の潤滑油組成物と接触させることからなる方法。
【請求項41】
下記の成分を含む銀面保護組成物:
(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩との混合物。
【請求項42】
銀面保護組成物中の(i)ジ−アルキルジ−チオリン酸の炭化水素アミン塩と(ii)酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩との比が、ジ−アルキルジ−チオリン酸及び酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩の全モル量に基づき約80:20モル%乃至約20:80モル%の範囲にある請求項41に記載の銀面保護組成物。
【請求項43】
銀面保護組成物が更に有機溶剤を含む請求項41に記載の銀面保護組成物。
【請求項44】
有機溶剤が、アルカノール、ハロゲン化炭化水素、エーテルまたはケトンからなる群より選ばれる請求項43に記載の銀面保護組成物。

【公開番号】特開2007−23289(P2007−23289A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197390(P2006−197390)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(598037547)シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー (135)
【Fターム(参考)】