説明

潤滑油組成物

【課題】湿式クラッチの動力伝達能力及び/又は省燃費性に優れた、湿式クラッチ用もしくは二輪車用4サイクルエンジン用潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】鉱油系基油及び/又は合成系基油からなる潤滑油基油に、組成物全量基準で、(A)一般式(a)又は(b)で表されるリン含有酸の金属塩を、リン量として0.01〜0.2質量%、(B)金属系清浄剤を、金属量として0.005〜0.5質量%、及び(C)無灰分散剤を窒素量として0.01〜0.4質量%含有することを特徴とする、湿式クラッチ用もしくは二輪車用4サイクルエンジン用潤滑油組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式クラッチ用もしくは二輪車用4サイクルエンジンに好適な潤滑油組成物に関し、詳しくは、湿式クラッチの動力伝達能力や省燃費性能に優れる、湿式クラッチ用もしくは二輪車用4サイクルエンジン用の潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題、特に二酸化炭素の排出量削減の観点から、自動車の省燃費化は重要課題の1つであり、そのために自動車の軽量化、燃焼の改善及びエンジンの低摩擦化、駆動系装置の開発・改良等が検討されている。
【0003】
例えば、エンジンの低摩擦化では、動弁系構造の改良、ピストンリングの本数低減、摺動部材の表面粗さ低減等の材料面からの改良とともに、希薄燃焼エンジンや燃料直接噴射エンジンの開発、省燃費エンジン油の適用が進められている。
【0004】
また、駆動系装置においては、手動変速機、自動変速機等の材料面からの低摩擦化だけでなく、スリップロックアップクラッチ付きの自動変速機や、金属ベルト式あるいはトロイダル式等の無段変速機等、動力伝達性能に優れた新しい技術が開発され、省燃費性能の向上がはかられている。
【0005】
さらに最近では、低粘度化や低摩擦化による省燃費性能を有し、かつ湿式クラッチや金属ベルト等の動力伝達性能に優れた適正な摩擦特性を有する変速機油が要望されている。
【0006】
また、エンジンだけでなく変速機や変速機の動力伝達部(湿式クラッチ)を1つのクランクケースに納めた二輪車用4サイクルエンジンに使用される潤滑油においては、エンジン油及び変速機油の双方の要求性能を満たす必要があるが、上記同様、省燃費性能への要望が高まってきている。
【0007】
そして上述のエンジンや駆動装置並びに二輪車用4サイクルエンジンは小型・軽量化、高出力化がさらに進められ、それに伴い、これらに使用される潤滑油への熱負荷がこれまで以上に高くなり、潤滑油の劣化が促進される状況にある。したがって、廃油削減の観点からも、初期の特性を長期にわたり維持することが重視される傾向にある。
【0008】
一方、ガソリン車、特に最近ではディーゼル車あるいは二輪車においては、排ガス浄化のために、EGR装置や、三元触媒や酸化触媒、NOx吸収還元触媒、パティキュレートフィルタ(DPF)等の排ガス浄化装置が装着され始めており、これらの排ガス処理装置の性能維持を目的として、ガソリンやディーゼル燃料の低硫黄化が進められている。また、これと併せ、上記と同様な目的からエンジン油においてはさらなる低灰化や低リン化が検討され始めている。
【0009】
エンジン油の低灰化や低リン化には、金属系清浄剤の使用量の低減や、優れた酸化防止剤兼摩耗防止剤として添加されるジチオリン酸亜鉛の使用量の低減、あるいはこれを使用しない試みがなされているが、従来のエンジン油の性能を損ねる可能性があり、低灰化、低リン化は極めて困難な課題となっている。
【0010】
省燃費エンジン油としては、例えば、特定の潤滑油基油に特定の添加剤(アルカリ土類金属サリシレート系清浄剤、モリブデンジチオカーバメート系摩擦低減剤等)を特定量含有するエンジン油組成物が提案されている(特許文献1参照)。また特定の基油に特定の添加剤(金属系清浄剤、摩擦調整剤等)を含有させることでオイル消費量を低減し、エンジン回転数が3000〜13000rpmにかけて優れた省燃費性能を有する二輪車用4サイクルエンジン油組成物が提案されている(特許文献2参照)。
【0011】
しかしながら、これらの省燃費エンジン油をそのまま二輪車用4サイクルエンジンに適用した場合、湿式クラッチの滑りが著しく、クラッチの動力伝達能力に劣るだけでなく、変速フィーリングの悪化、摩擦材の過熱、焼け、摩耗、破損等の発生が懸念され、省燃費性と湿式クラッチの滑り防止を両立することが極めて困難であることは当業者の常識的な見解となっていた。
【0012】
したがって、このような省燃費エンジン油はクラッチ滑り対策がなされた特殊な二輪車への適用にとどまっており、広く一般に使用可能な、省燃費と湿式クラッチの摩擦特性に優れた二輪車用4サイクルエンジン油が切望されていた。
【0013】
このような観点から、省燃費性能と湿式クラッチ滑り防止性能を両立でき、JASO T 903−98規定の性能分類上MA級(クラッチ滑りが発生しない。)と判定される二輪車用4サイクルエンジン油組成物が提案されている(特許文献3、4参照)。
【特許文献1】特開平8−302378号公報
【特許文献2】特開2000−087070号公報
【特許文献3】特開2001−214184号公報
【特許文献4】特開2003−41283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、これらの提案は、いずれもジチオリン酸亜鉛を必須成分として含有するものであり、潤滑油の長寿命化の観点やシフトフィーリングの観点からは未だ改善の余地がある。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、ジチオリン酸亜鉛を使用しない場合であっても、湿式クラッチの動力伝達能力及び/又は省燃費性に優れた、湿式クラッチ用もしくは二輪車用4サイクルエンジン用潤滑油組成物を提供することである。また、湿式クラッチの動力伝達能力に優れるとともに、エンジンの低摩擦化をも実現した、省燃費性に優れた、湿式クラッチを有する二輪車用4サイクルエンジン用潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のリン化合物と金属系清浄剤を特定量含有する潤滑油組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち本発明は、鉱油系基油及び/又は合成系基油からなる潤滑油基油に、組成物全量基準で、(A)一般式(a)又は(b)で表されるリン含有酸の金属塩を、リン量として0.01〜0.2質量%、(B)金属系清浄剤を、金属量として0.005〜0.5質量%、及び(C)無灰分散剤を窒素量として0.01〜0.4質量%含有することを特徴とする、湿式クラッチ用もしくは二輪車用4サイクルエンジン用潤滑油組成物を提供して前記課題を解決するものである。
【0018】
【化1】


[式中、Rは炭素数1〜30の炭化水素含有基を示し、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素含有基を示し、pは0又は1を示す。]
【0019】
【化2】


[式中、Rは炭素数1〜30の炭化水素含有基を示し、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素含有基を示し、qは0又は1を示す。]
【0020】
この発明によれば、湿式クラッチの摩擦特性を改善できるとともに、動力伝達能力にも優れた潤滑油組成物を提供することができる。
【0021】
本発明において、(A)リン含有酸の金属塩における金属量(M)とリン量(P)との質量比(M/P)は、1〜3であることが好ましく、1.2〜1.8であることがより好ましい。
【0022】
このようにすることによって、摩耗防止性能を向上させることができる。
【0023】
また、本発明において、ジチオリン酸亜鉛の含有量は、リン量として0.01質量%未満又は本質的に含有しないことが好ましい。
【0024】
このようにすることによって、過酷な劣化条件においても潤滑油の劣化を防止して長寿命の潤滑油を得ることができ、また、シフトフィーリングをより高めることができる。
【0025】
また、本発明において、潤滑油組成物は、(E1)モリブデンジチオホスフェート及びモリブデンジチオカーバメートから選ばれる有機モリブデン化合物を含有しないことが好ましい。
【0026】
このようにすることによって、湿式クラッチの摩擦特性と動力伝達能力に優れる組成物とすることができる。
【0027】
また、本発明において、潤滑油組成物は、(E)有機モリブデン化合物を含有することも好ましい。
【0028】
このようにすることによって、エンジンの低摩擦化を実現できるとともに省燃費効果をより高めることができ、さらには、シフトフィーリングもより改善できる。
【0029】
また、本発明において、(C)無灰分散剤が、ホウ素含有コハク酸イミドと、ホウ素を含有しないモノ及び/又はビスコハク酸イミドとからなり、かつホウ素含有コハク酸イミドの含有量が、組成物全量基準で、ホウ素元素換算量で、0.005〜0.2質量%であることが好ましい。
【0030】
このようにすることによって、湿式クラッチの摩擦特性をより改善でき、高温清浄性や耐熱性にも優れた組成物とすることができる。
【0031】
また、本発明において、潤滑油組成物中の硫酸灰分量は、組成物全量基準で1質量%以下であることが好ましい。
【0032】
このようにすることによって、排ガス浄化装置への影響をより低減することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の潤滑油組成物は、従来必須添加剤として使用されてきたジチオリン酸亜鉛に代えて特定のリン含有酸の金属塩を適用することで、湿式クラッチの摩擦特性を改善でき、動力伝達能力に優れた潤滑油組成物が提供できる。これはモリブデンジチオカーバメートやモリブデンジチオホスフェートを使用しない場合でもエンジンの低摩擦化が実現でき、省燃費性も改善できるものである。さらに、モリブデンジチオカーバメートやモリブデンジチオホスフェートを使用する場合には、大幅なエンジンの低摩擦化が実現でき、湿式クラッチを有しないエンジンにおいても省燃費性に優れるものである。また、モリブデンジチオカーバメートやモリブデンジチオホスフェートを使用しても、湿式クラッチにおける摩擦特性を高いレベルで維持できるので、動力伝達能力とエンジンの低摩擦化の両面から省燃費化が達成できる優れた潤滑油組成物を提供することができる。したがって、本発明の潤滑油組成物は、湿式クラッチを有する装置用の潤滑油組成物として、特には湿式クラッチを有する二輪車用4サイクルエンジン油として、有用である。また、本発明の潤滑油組成物は、湿式クラッチを有しない装置、例えば、湿式クラッチを有しない二輪車用4サイクルエンジン油としても有用である。
【0034】
本発明のこのような作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための最良の形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の潤滑油組成物について詳述する。
本発明の潤滑油組成物(以下、単に潤滑油組成物ともいう。)に用いられる潤滑油基油としては、通常の潤滑油に使用される鉱油系基油及び/又は合成系基油であれば特に制限なく使用することができる。
【0036】
鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、フィッシャートロプシュプロセス等により製造されるGTLWAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される潤滑油基油等が例示できる。
【0037】
鉱油系基油の全芳香族分は、特に制限はないが、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下である。全芳香族分は0質量%でもよいが、添加剤の溶解性の点で1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。基油の全芳香族分が40質量%を超える場合は、酸化安定性が劣るため好ましくない。
【0038】
なお、上記全芳香族分とは、ASTM D2549に準拠して測定した芳香族留分(aromatic fraction)含有量を意味する。通常この芳香族留分には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン、これらのアルキル化物、ベンゼン環が四環以上縮合した化合物、及びピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ芳香族を有する化合物等が含まれる。
【0039】
また、鉱油系基油中の硫黄分は、特に制限はないが、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.2質量%以下であることが好ましい。鉱油系基油の硫黄分を低減することで酸化防止性や排ガス後処理装置への影響を低減することができる。
【0040】
合成系基油としては、具体的には、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリα−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;マレイン酸ジブチル等のジカルボン酸類と炭素数2〜30のα−オレフィンとの共重合体;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
【0041】
本発明では、潤滑油基油として、鉱油系基油、合成系基油又はこれらの中から選ばれる2種以上の潤滑油の任意混合物等が使用できる。例えば、1種以上の鉱油系基油、1種以上の合成系基油、1種以上の鉱油系基油と1種以上の合成系基油との混合油等を挙げることができる。
【0042】
本発明における潤滑油基油は、その粘度に格別の限定はないが、100℃における動粘度の下限値は2mm/sであることが好ましく、さらに好ましくは3mm/sである。一方、100℃における動粘度の上限値は10mm/sであることが好ましく、さらに好ましくは8mm/sである。潤滑油基油の100℃における動粘度を2mm/s以上とすることによって、十分な油膜形成が可能であり、潤滑性により優れ、また、高温条件下での基油の蒸発損失がより小さい、すなわち油消費量が少ない潤滑油組成物を得ることが可能となる。一方、100℃における動粘度を10mm/s以下とすることによって流体抵抗が小さくなるため、潤滑個所での摩擦抵抗がより小さい、すなわち省燃費性能に優れた潤滑油組成物を得ることが可能となる。
【0043】
また、本発明における潤滑油基油の粘度指数に格別の限定はないが、80以上であることが好ましく、100以上であることがさらに好ましく、粘度指数が120以上である潤滑油基油を、好ましくは15質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上含有することがさらに好ましく、粘度指数が120以上である潤滑油基油とすることが特に好ましい。粘度指数の上限については特に制限はなく、ノルマルパラフィン、スラックワックスやGTLワックス等、あるいはこれらを異性化したイソパラフィン系鉱油のような135〜180程度のものや、コンプレックスエステル系基油やHVI−PAO系基油のような150〜250程度のものも使用することができる。粘度指数を80以上とすることで、省燃費性に優れ、高温条件下での基油の蒸発損失がより小さい潤滑油組成物を得ることが可能となる。
【0044】
また、本発明の潤滑油基油のNOACK蒸発量は20質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは16質量%以下であり、特に好ましくは5〜15質量%以下である。潤滑油基油のNOACK蒸発量を20質量%以下とすることで、高温条件下での潤滑油の蒸発損失がより小さく、排ガス浄化装置やピストンや燃焼室への堆積による悪影響を回避可能な潤滑油組成物を得ることが可能となる。なお、ここでいうNOACK蒸発量とは、CEC L−40−T−87に準拠して測定された蒸発量を意味する。
【0045】
本発明の潤滑油組成物は、(A)成分として、一般式(a)又は(b)で表されるリン含有酸の金属塩を含有する。(A)成分を使用することで、従来のジチオリン酸亜鉛を含有する二輪車用4サイクルエンジン用潤滑油組成物と比べ、クラッチのつながりがよくなり、シフトフィーリングが改善される傾向にある。
【0046】
(A)成分としては、一般式(a)又は(b)で表されるリン含有酸と、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等の金属塩基との金属塩を例示することができる。
【0047】
【化3】


[式中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素含有基を示し、pは0又は1を示す。]
【0048】
【化4】


[式中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素含有基を示し、qは0又は1を示す。]
【0049】
上記一般式(a)、(b)中、R〜Rで表される炭素数1〜30の炭化水素含有基としては、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基等の炭化水素基を特に好ましい例として挙げることができる。なお、該炭化水素含有基としては、該炭化水素基を有するのであれば、硫黄、窒素、酸素から選ばれる1種又は2種以上を分子中に有するものであってもよい。
【0050】
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、1級アルキル基でも、2級アルキル基でも、3級アルキル基であってもよい。)を挙げることができる。
【0051】
上記シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7のシクロアルキル基を挙げることができる。また上記アルキルシクロアルキル基としては、例えば、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、メチルエチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基等の炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基(アルキル基のシクロアルキル基への置換位置も任意である。)を挙げることができる。
【0052】
上記アルケニル基としては、例えば、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である。)を挙げることができる。
【0053】
上記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を挙げることができる。また上記アルキルアリール基としては、例えば、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等の炭素数7〜18のアルキルアリール基(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、またアリール基への置換位置も任意である。)を挙げることができる。
【0054】
上記アリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基等の炭素数7〜12のアリールアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい。)を挙げることができる。
【0055】
上記R〜Rで表される炭素数1〜30の炭化水素基は、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、さらに好ましくは炭素数3〜18、さらに好ましくは炭素数4〜12のアルキル基、特に好ましくは炭素数6〜10のアルキル基である。
【0056】
一般式(a)で表されるリン含有酸としては、例えば、上記炭素数1〜30の炭化水素含有基を1つ有する亜リン酸モノエステル、(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素含有基を2つ有する亜リン酸ジエステル、(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素含有基を3つ有する亜リン酸トリエステル、(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸ジエステル;及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0057】
一般式(b)で表されるリン含有酸としては、例えば、上記炭素数1〜30の炭化水素含有基を1つ有するリン酸モノエステル、(ヒドロカルビル)ホスホン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素含有基を2つ有するリン酸ジエステル、(ヒドロカルビル)ホスホン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素含有基を3つ有するリン酸トリエステル、(ヒドロカルビル)ホスホン酸ジエステル;及びこれらの混合物などが挙げられる。なお、一般式(a)及び(b)の例示における「ヒドロカルビル」は、上記炭素数1〜30の炭化水素含有置換基を意味する。
【0058】
また、一般式(a)又は(b)で表されるリン含有酸の金属塩は、一般式(a)又は(b)で表されるリン含有酸に、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等の金属塩基を作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和することにより得ることができる。
【0059】
上記金属塩基における金属としては、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、モリブデン、マンガン等の重金属等が挙げられる。これらの中ではカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、モリブデン及び亜鉛が好ましく、亜鉛が特に好ましい。
【0060】
なお、上記リン化合物の金属塩は、金属の価数あるいはリン化合物のOH基の数に応じてその構造が異なり、したがって、リン化合物の金属塩の構造については何ら限定されない。例えば、酸化亜鉛1molとリン酸ジエステル(OH基が1つの化合物)2molを反応させた場合、下記式(c)で表わされる構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【0061】
【化5】


[式中、Rはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素含有基を示す。]
【0062】
また、例えば、酸化亜鉛1molとリン酸モノエステル(OH基が2つの化合物)1molとを反応させた場合、下記式(d)で表わされる構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【0063】
【化6】


[式中、Rは水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素含有基を示す。]
【0064】
本発明において、上記リン含有酸の金属塩は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
本発明にかかるリン含有酸の金属塩としては、より好ましい具体例としては、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する亜リン酸ジエステルの亜鉛塩、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を1個有するリン酸のモノエステルの亜鉛塩、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有するリン酸のジエステルの亜鉛塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を1個有する(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸の亜鉛塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸モノエステルの亜鉛塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を1個有する(ヒドロカルビル)ホスホン酸の亜鉛塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する(ヒドロカルビル)ホスホン酸モノエステルの亜鉛塩が挙げられ、炭素数3〜18のアルキル基、好ましくは炭素数4〜12のアルキル基を有するリン酸モノエステル及び/又はリン酸ジエステルの亜鉛塩がより好ましく、炭素数3〜18のアルキル基、好ましくは炭素数4〜12のアルキル基を有するリン酸ジエステルの亜鉛塩が特に好ましい。
【0066】
本発明の(A)成分の最も好ましいものとしては、本発明の効果に加え、潤滑油基油に対する溶解性と耐摩耗性とのバランスに優れる点で、炭素数4〜12、好ましくは炭素数6〜10のアルキル基を有するリン酸モノエステル及び/又はリン酸ジエステルの金属塩がよく、その金属量(M)とリン量(P)との質量比(M/P)が、好ましくは1〜3であるが、リン酸モノエステル及びリン酸ジエステル混合物の金属塩がさらによく、その該M/P値が好ましくは1.1〜2.5、さらに好ましくは1.2〜1.8であることが望ましい。
【0067】
本発明の潤滑油組成物において、上記(A)成分の含有量は、組成物全量を基準として、リン元素換算で、通常0.01〜0.2質量%であるが、好ましくは0.02〜0.15質量%、より好ましくは0.04〜0.12質量%である。上記(A)成分のリン元素換算での含有量が0.01質量%未満の場合は、トランスミッションやギヤの耐久性が不十分となる傾向にあり、0.2質量%を超えても添加量に見合うだけの効果が得られず、また、溶解性が不十分となることがある。
【0068】
本発明の潤滑油組成物は、(B)成分として金属系清浄剤を含有する。金属系清浄剤としては、特に制限はなく、公知のアルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネート系清浄剤、アルカリ金属又はアルカリ土類金属フェネート系清浄剤、アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート系清浄剤、アルカリ金属又はアルカリ土類金属ナフテネート系清浄剤、アルカリ金属又はアルカリ土類金属ホスホネート系清浄剤及びこれらの2種以上の混合物(コンプレックスタイプも含む。)等が挙げられる。
【0069】
ここでいうアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウム、バリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属であることが好ましく、カルシウム又はマグネシウムであることが特に好ましい。なお、これら金属系清浄剤の全塩基価及び添加量は要求される潤滑油の性能に応じて任意に選択することができる。
【0070】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネートとしては、分子量300〜1500、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩であり、カルシウム塩が好ましく用いられる。
【0071】
上記アルカリ金属又はアルキル芳香族スルホン酸としては、具体的にはいわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸等が挙げられる。
【0072】
上記石油スルホン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が用いられる。
【0073】
また合成スルホン酸としては、例えば洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、炭素数2〜12のオレフィン(エチレン、プロピレン等)のオリゴマーをベンゼンにアルキル化したりすることにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したもの、あるいはジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したもの等が用いられる。
【0074】
これらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては特に制限はないが、通常発煙硫酸や無水硫酸が用いられる。
【0075】
本発明においては、これらアルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネートのうち、石油系のものは中高温における省燃費性及び湿式クラッチにおける静摩擦特性を特に改善する効果があり、また、合成系のものは高温における省燃費性、動摩擦特性及び制動時間特性を特に改善する効果があるため、必要に応じて使いわけることができる。
【0076】
また、本発明においては、低摩擦性に優れるとともに、(A)成分と併用した場合の摩耗防止性に優れる点で、エチレンオリゴマーから誘導される炭素数6〜40、好ましくは炭素数10〜30、より好ましくは炭素数14〜20又は20〜26のアルキル基を有するアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が好ましく挙げられる。エチレンオリゴマーから誘導される炭素数6〜40のアルキル基としては、摩擦低減効果により優れる点で、好ましくは炭素数10〜30のアルキル基が望ましい。このような化合物は、エチレンオリゴマーから得られる、炭素数6〜40、好ましくは炭素数10〜30、さらに好ましくは炭素数14〜20又は20〜26の直鎖α−オレフィンを用いてベンゼンやナフタレン等の芳香族化合物をアルキル化し、これを発煙硫酸や硫酸を用いてスルホン化して得たアルキル芳香族スルホン酸を、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基と反応させたり、又はナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としたり、さらにはアルカリ金属塩をアルカリ土類金属塩と置換させること等によって得ることができる。
【0077】
このようなアルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネートとしては、上記のような中性の金属スルホネートだけでなく、上記中性アルカリ土類金属スルホネートと過剰のアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属塩基(水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性アルカリ土類金属スルホネートや、炭酸ガス及び/又はホウ酸もしくはホウ酸塩の存在下で上記中性アルカリ土類金属スルホネートをアルカリ土類金属の塩基と反応させることにより得られる炭酸塩過塩基性アルカリ土類金属スルホネート、ホウ酸塩過塩基性アルカリ土類金属スルホネートも含まれる。これら中性アルカリ土類金属スルホネート、塩基性アルカリ土類金属スルホネート、過塩基性アルカリ土類金属スルホネート及びこれらの混合物等を好ましく用いることができる。
【0078】
本発明においては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネートの金属比は特に制限はなく、通常1〜40のものを使用することができるが、摩耗防止性により優れる点で、金属比が2以上のアルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネート系清浄剤を使用することが好ましく、金属比が6〜20、さらに好ましくは8〜15のものが望ましい。なお、ここでいう金属比とは、金属系清浄剤における金属元素の価数×金属元素含有量(モル%)/せっけん基含有量(モル%)で表されるものであり、せっけん基とは、金属塩を形成する相手方の有機基であり、アルカリ金属又はスルホネートにおいてはスルホン酸含有基を示す。
【0079】
また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネートの塩基価は任意であり、通常0〜500mgKOH/gであるが、含有量あたりの高温清浄性向上効果及び摩耗防止性に優れる点から、塩基価が100〜450mgKOH/g、好ましくは200〜400mgKOH/gのものを用いるのが望ましい。なおここでいう塩基価は、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味している。
【0080】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属フェネートとしては、具体的には、炭素数4〜40、好ましくは炭素数6〜18の直鎖状又は分枝状のアルキル基を少なくとも1個有するアルキルフェノールと硫黄を反応させて得られるアルキルフェノールサルファイド又はこのアルキルフェノールとホルムアルデヒドを反応させて得られるアルキルフェノールのマンニッヒ反応生成物のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が好ましく用いられる。アルカリ金属又はアルカリ土類金属フェネートとしては、エチレンオリゴマーから誘導される炭素数6〜40、好ましくは炭素数10〜18のアルキル基を少なくとも1個有するアルキルフェノールと硫黄を反応させて得られるアルキルフェノールサルファイド又はこのアルキルフェノールとホルムアルデヒドを反応させて得られるアルキルフェノールのマンニッヒ反応生成物のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が好ましく用いられる。
【0081】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属フェネートには、上記のようにして得られたアルカリ金属又はアルカリ土類金フェネート(中性塩)に、さらに過剰のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩やアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩基(アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、炭酸ガス又はホウ酸もしくはホウ酸塩の存在下で上記中性塩をアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得られる過塩基性塩も含まれる。
【0082】
なお、これらの反応は、通常、溶媒(ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤、軽質潤滑油基油等)中で行われ、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
【0083】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属フェネートの塩基価は、通常0〜500mgKOH/g、好ましくは20〜450mgKOH/gのものを使用することができる。
【0084】
本発明においては、これらアルカリ金属又はアルカリ土類金属フェネートは、低温から高温における省燃費性及び湿式クラッチにおける摩擦特性を改善できることから好ましく使用することができる。
【0085】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートとしては、その構造に特に制限はないが、炭素数1〜40のアルキル基を1〜2個有するサリチル酸の金属塩、好ましくはアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が好ましく用いられる。また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートとしては、エチレンオリゴマーから誘導される炭素数6〜40のアルキル基を有するアルキルサリチル酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を用いることが好ましい。
【0086】
本発明の潤滑油組成物に用いることのできるアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートとしては、低温粘度特性により優れる点で、モノアルキルサリチル酸金属塩の構成比が高い方が好ましく、例えば、モノアルキルサリチル酸金属塩の構成比が85〜100mol%、ジアルキルサリチル酸金属塩の構成比が0〜15mol%であって、3−アルキルサリチル酸金属塩の構成比が40〜100mol%であるアルキルサリチル酸金属塩、及び/又はその(過)塩基性塩であることが好ましい。また、サリシレート系清浄剤としては、高温清浄性や塩基価維持性により優れる点でジアルキルサリチル酸金属塩を含むものが好ましい。
【0087】
ここでいうモノアルキルサリチル酸金属塩は、3−アルキルサリチル酸金属塩、4−アルキルサリチル酸金属塩、5−アルキルサリチル酸金属塩等のアルキル基を1つ有するアルキルサリチル酸金属塩を意味し、モノアルキルサリチル酸金属塩の構成比は、アルキルサリチル酸金属塩100mol%に対し、85〜100mol%、好ましくは88〜98mol%、さらに好ましくは90〜95mol%であり、モノアルキルサリチル酸金属塩以外のアルキルサリチル酸金属塩、例えばジアルキルサリチル酸金属塩の構成比は、0〜15mol%、好ましくは2〜12mol%、さらに好ましくは5〜10mol%である。また、3−アルキルサリチル酸金属塩の構成比は、アルキルサリチル酸金属塩100mol%に対し、40〜100mol%、好ましくは45〜80mol%、さらに好ましくは50〜60mol%である。なお、4−アルキルサリチル酸金属塩及び5−アルキルサリチル酸金属塩の合計の構成比は、アルキルサリチル酸金属塩100mol%に対し、上記3−アルキルサリチル酸金属塩、ジアルキルサリチル酸金属塩を除いた構成比に相当し、0〜60mol%、好ましくは20〜50mol%、さらに好ましくは30〜45mol%である。ジアルキルサリチル酸金属塩を少量含むことで高温清浄性、低温特性に優れ、塩基価維持性にも優れる組成物を得ることができ、3−アルキルサリシレートの構成比を40mol%以上とすることで、5−アルキルサリチル酸金属塩の構成比を相対的に低くすることができ、油溶性を向上させることができる。
【0088】
また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートを構成するアルキルサリチル酸金属塩におけるアルキル基としては、炭素数6〜40、好ましくは炭素数10〜19又は炭素数20〜30、さらに好ましくは炭素数14〜18又は炭素数20〜26のアルキル基、特に好ましくは炭素数14〜18のアルキル基である。炭素数10〜40のアルキル基としては、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、及びトリアコンチル基等の炭素数10〜40のアルキル基が挙げられる。これらアルキル基は直鎖状であっても分枝状であってもよく、1級アルキル基、2級アルキル基、3級アルキル基であってもよいが、本発明においては上記所望のサリチル酸金属塩を得やすい点で、2級アルキル基であることが特に好ましい。
【0089】
また、アルキルサリチル酸金属塩における金属としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属等が挙げられ、カルシウム、マグネシウムであることが好ましく、カルシウムであることが特に好ましい。
【0090】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートは、公知の方法等で製造することができ、特に制限はないが、例えば、フェノール1molに対し1mol又はそれ以上の、エチレン、プロピレン、ブテン等の重合体又は共重合体等の炭素数6〜40のオレフィン、好ましくはエチレンオリゴマー等の直鎖α−オレフィンを用いてアルキレーションし、炭酸ガス等でカルボキシレーションする方法、あるいはサリチル酸1molに対し1mol又はそれ以上の当該オレフィン、好ましくは当該直鎖α−オレフィンを用いてアルキレーションする方法等により得たモノアルキルサリチル酸を主成分とするアルキルサリチル酸に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基と反応させたり、又はナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としたり、さらにアルカリ金属塩をアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる。ここで、フェノール又はサリチル酸とオレフィンの反応割合を、好ましくは、例えば1:1〜1.15(モル比)、より好ましくは1:1.05〜1.1(モル比)に制御することでモノアルキルサリチル酸金属塩とジアルキルサリチル酸金属塩の構成比を所望の割合に制御することができる。また、オレフィンとしてエチレンオリゴマーから得られる直鎖α−オレフィンを用いることで、3−アルキルサリチル酸金属塩、5−アルキルサリチル酸金属塩等の構成比を所望の割合に制御しやすくなるとともに、好ましい2級アルキルを有するアルキルサリチル酸金属塩を主成分として得ることができるため、特に好ましい。
【0091】
好ましく用いられるアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートは、上記のようにして得られたアルカリ金属又はアルカリ土類金サリシレート(中性塩)に、さらに過剰のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩やアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩基(アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、炭酸ガス又はホウ酸もしくはホウ酸塩の存在下で上記中性塩をアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得られる過塩基性塩も含まれる。
【0092】
なお、これらの反応は、通常、溶媒(ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤、軽質潤滑油基油等)中で行われ、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
【0093】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートとして最も好ましいものとしては、高温清浄性と塩基価維持性並びに低温粘度特性のバランスに優れる点から、モノアルキルサリチル酸金属塩の構成比が85〜95mol%、ジアルキルサリチル酸金属塩の構成比が5〜15mol%、3−アルキルサリチル酸金属塩の構成比が50〜60mol%、4−アルキルサリチル酸金属塩及び5−アルキルサリチル酸金属塩の構成比が35〜45mol%であるアルキルサリチル酸金属塩、及び/又はその(過)塩基性塩である。ここでいうアルキル基としては、2級アルキル基であることが特に好ましい。
【0094】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートの塩基価は、通常0〜500mgKOH/g、好ましくは20〜300mgKOH/g、特に好ましくは100〜200mgKOH/gであり、これらの中から選ばれる1種又は2種以上併用することができる。なお、ここでいう塩基価とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0095】
本発明において、(B)金属系清浄剤の含有量は、組成物全量基準で、金属換算量として0.005〜0.5質量%であるが、好ましくは0.05〜0.4質量%であり、より好ましくは0.1〜0.3質量%、特に好ましくは0.15〜0.25質量%である。
【0096】
本発明の潤滑油組成物には、(C)無灰分散剤を窒素量として0.01〜0.4質量%含有する。無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる公知の無灰分散剤、例えば、コハク酸イミド系無灰分散剤、ポリアミン系無灰分散剤、ベンジルアミン系無灰分散剤、コハク酸エステル系無灰分散剤等を挙げることができ、ホウ素化合物、リン化合物、硫黄化合物あるいはホウ素を含有しないコハク酸イミドの項で後述する含酸素有機化合物で変性されたものも含まれる。これらは数平均分子量が通常700〜3500の炭化水素基を少なくとも1つ有するものを例示することができる。
【0097】
本発明における無灰分散剤としては、コハク酸イミド系無灰分散剤(以下単にコハク酸イミド、あるいはコハク酸イミド系分散剤ということもある)を使用することが好ましく、ホウ素含有コハク酸イミド及び/又はホウ素を含有しないコハク酸イミドを含有させることが好ましい。
【0098】
ホウ素を含有しないコハク酸イミドとしては、下記の一般式(e)で表されるモノコハク酸イミド、一般式(f)で表されるビスコハク酸イミド及びこれらを含酸素有機化合物で変性したもの等が例示できる。
【0099】
【化7】

【0100】
【化8】

【0101】
式(e)又は(f)において、R、R及びRは、それぞれ個別にポリブテニル基を示し、nは2〜7の整数を示す。
【0102】
上記R、R及びRで表されるポリブテニル基は、その数平均分子量が700以上であることが好ましく、さらに好ましくは900以上であり、一方、ポリブテニル基の数平均分子量は3500以下であることが好ましく、さらに好ましくは1500以下である。
【0103】
数平均分子量を700以上とすることによって、清浄性、分散性により優れた潤滑油組成物を得ることが可能となる。一方、数平均分子量を3500以下とすることによって、低温流動性により優れた潤滑油組成物を得ることが可能となる。
【0104】
また、スラッジ抑制効果に優れる点から、nの下限値は2で、好ましくは3であり、一方、nの上限値は7で、好ましくは6である。
【0105】
ここで、ポリブテニル基は、1-ブテンとイソブテンの混合物又は高純度イソブテンを塩化アルミニウム、フッ化ホウ素等の触媒で重合して得られるポリブテン(ポリイソブテン)から得ることができ、ポリブテン混合物中において末端にビニリデン構造を有するものが通常5〜100モル%含有される。
【0106】
このポリブテン(ポリイソブテン)としては、製造過程の触媒に起因し、残留する微量のフッ素分や塩素分をさらに適当な処理法により除去されたものも使用することができ、したがってこれらのフッ素や塩素等のハロゲン元素の含有量は50質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは10質量ppm以下、さらに好ましくは5質量ppm以下、特に好ましくは1質量ppm以下であるものも使用できる。
【0107】
一般式(e)又は(f)で表されるコハク酸イミドの製造法は特に制限はない。例えば、上記ポリブテンを塩素化したもの、好ましくは塩素やフッ素が充分除去されたポリブテンを無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得られるポリブテニルコハク酸を、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、あるいはペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンと反応させる方法を利用することができる。
【0108】
なお、ビスコハク酸イミドを製造する場合は、該ポリブテニルコハク酸をポリアミンの2倍量(モル比)反応させればよく、モノコハク酸イミドを製造する場合は、該ポリブテニルコハク酸とポリアミンを等量(モル比)で反応させればよい。
【0109】
また、ホウ素を含有しないコハク酸イミドは、例えば、一般式(e)又は(f)で表される化合物に含酸素有機化合物等を作用させて残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化したりした化合物であってもよい。
【0110】
含酸素有機化合物としては、具体的には、例えば、ギ酸、酢酸、グリコール酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸等の炭素数1〜30のモノカルボン酸;シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸もしくはこれらの無水物、又はエステル化合物;炭素数2〜6のアルキレンオキサイド;ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート等が挙げられる。
【0111】
このような含酸素有機化合物を作用させることで、例えば、一般式(e)又は(f)の化合物におけるアミノ基又はイミノ基の一部又は全部が下記の一般式(g)で示す構造になると推定される。
【0112】
【化9】

【0113】
ここでR10は水素原子、炭素数1〜24のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、又は−O−(R11O)Hで表されるヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレン基を示し、R11は炭素数1〜4のアルキレン基を示し、mは1〜5の整数を示す。
【0114】
ホウ素含有コハク酸イミドは、上記一般式(e)又は(f)の化合物にホウ素化合物を作用させたものであり、ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル類等が挙げられる。
【0115】
ホウ酸としては、具体的には例えばオルトホウ酸、メタホウ酸及びテトラホウ酸等が挙げられる。
【0116】
ホウ酸塩としては、ホウ酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩等が挙げられ、より具体的には、例えばメタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウム、過ホウ酸リチウム等のホウ酸リチウム;メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等のホウ酸ナトリウム;メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等のホウ酸カリウム;メタホウ酸カルシウム、二ホウ酸カルシウム、四ホウ酸三カルシウム、四ホウ酸五カルシウム、六ホウ酸カルシウム等のホウ酸カルシウム;メタホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウム、六ホウ酸マグネシウム等のホウ酸マグネシウム;及びメタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等のホウ酸アンモニウム等が挙げられる。
【0117】
また、ホウ酸エステルとしては、ホウ酸と好ましくは炭素数1〜6の脂肪族アルコールとのエステル等が挙げられ、より具体的には例えば、ホウ酸モノメチル、ホウ酸ジメチル、ホウ酸トリメチル、ホウ酸モノエチル、ホウ酸ジエチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸モノプロピル、ホウ酸ジプロピル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸モノブチル、ホウ酸ジブチル、ホウ酸トリブチル等が挙げられる。
【0118】
本発明に使用されるホウ素含有コハク酸イミドは、そのホウ素量と窒素量の質量比(B/N比)に特に制限はないが、その下限値は0.2、好ましくは0.3、さらに好ましくは0.5であり、一方その上限値は1.2、好ましくは1、さらに好ましくは0.9である。B/N比が上記下限値未満の場合、本発明の効果が小さく、一方、B/N比が上記上限値を超える場合、酸化安定性に劣るため、それぞれ好ましくない。
【0119】
本発明においては、上記コハク酸イミド系分散剤として、上記ホウ素含有コハク酸イミドとホウ素を含有しないモノ又はビスコハク酸イミドをそれぞれ単独でも使用することができるが、湿式クラッチにおける摩擦特性をより改善できることから、上記ホウ素含有コハク酸イミドを単独で使用するか、上記ホウ素含有コハク酸イミドとホウ素を含有しないモノ及び/又はビスコハク酸イミドとを併用することが好ましい。ホウ素含有コハク酸イミドとホウ素を含有しないコハク酸イミドを併用する場合の好ましい混合比(質量比)は、前者:後者が100:0〜20:80であり、さらに好ましくは、90:10〜40:60であり、特に好ましくは70:30〜45:55である。
【0120】
本発明における上記コハク酸イミド系分散剤の含有量は、組成物全量基準で、窒素元素換算量で、その下限値は0.01質量%であり、好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.08質量%であり、一方、その上限値は0.4質量%、好ましくは0.3質量%、より好ましくは0.2質量%である。上記コハク酸イミド系分散剤の含有量が組成物全量基準で、窒素元素換算量で、上記下限値以上とすることで、中高温における省燃費性、湿式クラッチにおける摩擦特性が十分改善され、一方、その含有量が組成物全量基準で、窒素元素換算量で、上記上限値を超えると、省燃費性、低温粘度特性の悪化及び抗乳化性が悪化する傾向にある。
【0121】
また同様な理由から、上記ホウ素含有コハク酸イミドの含有量の下限値は、組成物全量基準でホウ素元素換算量で好ましくは0.005質量%、より好ましくは0.01質量%、さらに好ましくは0.02質量%である。一方、その上限値は、組成物全量基準でホウ素元素換算量で好ましくは0.2質量%、好ましくは0.1質量%、さらに好ましくは0.08質量%、特に好ましくは0.05質量%である。ホウ素含有コハク酸イミドの含有量が上記上限値を超える場合は上記理由とともに、排ガス浄化装置への影響が懸念されるため、好ましくない。
【0122】
本発明の潤滑油組成物には、(E)成分として有機モリブデン化合物を含有させることもできる。有機モリブデン化合物としては、(E1)モリブデンジチオホスフェート及びモリブデンジチオカーバメートから選ばれる有機モリブデン化合物及び(E2)モリブデンジチオホスフェート及びモリブデンジチオカーバメート以外の有機モリブデン化合物が挙げられる。(E2)成分としては、(E1)以外の有機モリブデン化合物であって、構成元素として硫黄を含有する有機モリブデン化合物及び構成元素として硫黄を含有しない有機モリブデン化合物が挙げられる。
【0123】
(E1)成分のような有機モリブデン化合物を含有することで、エンジンの摩擦を大幅に低減することで省燃費性能を向上させることができ、また、(E2)成分のような有機モリブデン化合物を含有することで、酸化安定性の向上や粘度増加抑制をはかることができ、長期にわたり初期の湿式クラッチ摩擦特性あるいは初期のエンジンの摩擦特性を維持することが可能となる。特に、(E1)成分のような有機モリブデン化合物を含有することで、潤滑油組成物における湿式クラッチの摩擦特性を高いレベルで維持しながら、エンジンの摩擦を大幅に低減できるため、この両面からの省燃費性能向上効果が期待できる。本発明においては、エンジンの摩擦低減効果がより大きいことから(E1)成分を必須として含有させることが特に望ましい。
【0124】
モリブデンジチオホスフェートとしては、例えば、下記一般式(h)で表される化合物が挙げられる。
【0125】
【化10】

【0126】
上記式(h)中、R12、R13、R14及びR15は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数2〜30、好ましくは炭素数5〜18、より好ましくは炭素数5〜12のアルキル基、又は炭素数6〜18、好ましくは炭素数10〜15の(アルキル)アリール基等の炭化水素基を示す。またY、Y、Y及びYは、それぞれ個別に、硫黄原子又は酸素原子を示す。
【0127】
アルキル基として好ましい例としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられ、これらは1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよく、また直鎖状でも分枝状でもよい。
【0128】
(アルキル)アリール基の好ましい例としては、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等が挙げられ、そのアルキル基は1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよく、また直鎖状でも分枝状でもよい。さらにこれら(アルキル)アリール基には、アリール基へのアルキル基の置換位置が異なる、全ての置換異性体が含まれる。
【0129】
ジチオホスフェートとしては、具体的には、硫化モリブデンジエチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジプロピルジチオホスフェート、硫化モリブデンジブチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジペンチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジヘキシルジチオホスフェート、硫化モリブデンジオクチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジデシルジチオホスフェート、硫化モリブデンジドデシルジチオホスフェート、硫化モリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオホスフェート、硫化モリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジエチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジデシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオホスフェート(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また、アルキルフェニル基のアルキル基の結合位置は任意である)、及びこれらの混合物等が例示できる。なお、これらモリブデンジチオホスフェートとしては、1分子中に異なる炭素数及び/又は構造の炭化水素基を有する化合物も、好ましく用いることができる。
【0130】
モリブデンジチオカーバメートとしては、具体的には、下記一般式(i)で表される化合物を用いることができる。
【0131】
【化11】

【0132】
上記式(i)中、R16、R17、R18及びR19は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数2〜24、好ましくは炭素数4〜13のアルキル基、又は炭素数6〜24、好ましくは炭素数10〜15の(アルキル)アリール基等の炭化水素基を示す。またY、Y、Y及びYは、それぞれ個別に、硫黄原子又は酸素原子を示す。
【0133】
アルキル基として好ましい例としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられ、これらは1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよく、また直鎖状でも分枝状でもよい。
【0134】
(アルキル)アリール基の好ましい例としては、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等が挙げられ、そのアルキル基は1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよく、また直鎖状でも分枝状でもよい。さらにこれら(アルキル)アリール基には、アリール基へのアルキル基の置換位置が異なる、全ての置換異性体が含まれる。また、上記構造以外のモリブデンジチオカーバメートとしては、WO98/26030あるいはWO99/31113に開示されるようなチオ又はポリチオ−三核モリブデンにジチオカーバメート基が配位した構造を有するもの等が挙げられる。
【0135】
好ましいモリブデンジチオカーバメートとしては、具体的には、硫化モリブデンジエチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジプロピルジチオカーバメート、硫化モリブデンジブチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジペンチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジヘキシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジオクチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジデシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジドデシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカーバメート、硫化モリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジエチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカーバメート(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また、アルキルフェニル基のアルキル基の結合位置は任意である)、及びこれらの混合物等が例示できる。なお、これらモリブデンジチオカーバメートとしては、1分子中に異なる炭素数及び/又は構造の炭化水素基を有する化合物も、好ましく用いることができる。
【0136】
また、モリブデンジチオホスフェート及びモリブデンジチオカーバメート以外の有機モリブデン化合物(E2)としては、(E1)以外の、構成元素として硫黄を含有する有機モリブデン化合物が挙げられる。構成元素として硫黄を含有する有機モリブデン化合物としては、モリブデン化合物(例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩又はアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等)と、硫黄含有有機化合物(例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステル等)あるいはその他の有機化合物との錯体等、あるいは、上記硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、あるいは酸化モリブデンの硫化物、モリブデン酸の硫化物の等の硫黄含有モリブデン化合物と、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物の項で後述するアミン化合物、コハク酸イミド、有機酸、アルコール等の硫黄を含まない有機化合物との錯体等、あるいは後述する、構成元素として硫黄を含まないモリブデン化合物と、該硫黄を含まない有機化合物と、硫黄源(元素イオウ、硫化水素、五硫化リン、酸化硫黄、無機硫化物、ヒドロカルビル(ポリ)スルフィド、硫化オレフィン、硫化エステル、硫化ワックス、硫化カルボン酸、硫化アルキルフェノール、チオアセトアミド、チオ尿素等)とを反応させた硫黄含有有機モリブデン化合物等様々なものを挙げることができる。これらの硫黄含有有機モリブデン化合物は、例えば特開昭56−10591号公報、米国特許第4263152号公報等に詳細な製造方法が記載されている。
【0137】
また、モリブデンジチオホスフェート及びモリブデンジチオカーバメート以外の有機モリブデン化合物(E2)としては、構成元素として硫黄を含有しない有機モリブデン化合物を用いることもできる。
【0138】
構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物としては、具体的には、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられ、中でも、モリブデン−アミン錯体、有機酸のモリブデン塩及びアルコールのモリブデン塩が好ましい。
【0139】
上記モリブデン−アミン錯体を構成するモリブデン化合物としては、三酸化モリブデン又はその水和物(MoO・nHO)、モリブデン酸(HMoO)、モリブデン酸アルカリ金属塩(MMoO;Mはアルカリ金属を示す)、モリブデン酸アンモニウム((NHMoO又は(NH[Mo24]・4HO)、MoCl、MoOCl、MoOCl、MoOBr、MoCl等の硫黄を含まないモリブデン化合物が挙げられる。これらのモリブデン化合物の中でも、モリブデン−アミン錯体の収率の点から、6価のモリブデン化合物が好ましい。さらに、入手性の点から、6価のモリブデン化合物の中でも、三酸化モリブデン又はその水和物、モリブデン酸、モリブデン酸アルカリ金属塩、及びモリブデン酸アンモニウムが好ましい。
【0140】
また、モリブデン−アミン錯体を構成するアミン化合物としては、特に制限されないが、窒素化合物としては、具体的には、モノアミン、ジアミン、ポリアミン及びアルカノールアミンが挙げられる。より具体的には、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、ジウンデシルアミン、ジドデシルアミン、ジトリデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジペンタデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジヘプタデシルアミン、ジオクタデシルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、メチルブチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、及びプロピルブチルアミン等の炭素数1〜30のアルキル基(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルキルアミン;エテニルアミン、プロペニルアミン、ブテニルアミン、オクテニルアミン、及びオレイルアミン等の炭素数2〜30のアルケニル基(これらのアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルケニルアミン;メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ペンタノールアミン、ヘキサノールアミン、ヘプタノールアミン、オクタノールアミン、ノナノールアミン、メタノールエタノールアミン、メタノールプロパノールアミン、メタノールブタノールアミン、エタノールプロパノールアミン、エタノールブタノールアミン、及びプロパノールブタノールアミン等の炭素数1〜30のアルカノール基(これらのアルカノール基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルカノールアミン;メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、及びブチレンジアミン等の炭素数1〜30のアルキレン基を有するアルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミン;ウンデシルジエチルアミン、ウンデシルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、オレイルジエタノールアミン、オレイルプロピレンジアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン等の上記モノアミン、ジアミン、ポリアミンに炭素数8〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物やイミダゾリン等の複素環化合物;これらの化合物のアルキレンオキシド付加物;及びこれらの混合物等が例示できる。これらのアミン化合物の中でも、第1級アミン、第2級アミン及びアルカノールアミンが好ましい。
【0141】
モリブデン−アミン錯体を構成するアミン化合物が有する炭化水素基の炭素数は、好ましくは4以上であり、より好ましくは4〜30であり、特に好ましくは8〜18である。アミン化合物の炭化水素基の炭素数が4未満であると、溶解性が悪化する傾向にある。また、アミン化合物の炭素数を30以下とすることにより、モリブデン−アミン錯体におけるモリブデン含量を相対的に高めることができ、少量の配合で効果をより高めることができる。
【0142】
また、モリブデン−コハク酸イミド錯体としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたような硫黄を含まないモリブデン化合物と、炭素数4以上のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミドとの錯体が挙げられる。コハク酸イミドとしては、無灰分散剤の項で述べた炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドあるいはその誘導体や、炭素数4〜39、好ましくは炭素数8〜18のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミド等が挙げられる。コハク酸イミドにおけるアルキル基又はアルケニル基の炭素数が4未満であると溶解性が悪化する傾向にある。また、炭素数30を超え400以下のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミドを使用することもできるが、当該アルキル基又はアルケニル基の炭素数を30以下とすることにより、モリブデン−コハク酸イミド錯体におけるモリブデン含有量を相対的に高めることができ、少量の配合で効果をより高めることができる。
【0143】
また、有機酸のモリブデン塩としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたモリブデン酸化物あるいはモリブデン水酸化物、モリブデン炭酸塩又はモリブデン塩化物等のモリブデン塩基と、有機酸との塩が挙げられる。有機酸としては、前記(A)成分の項で例示した、硫黄を含有しないリン含有酸、及びカルボン酸が好ましい。
【0144】
カルボン酸のモリブデン塩を構成するカルボン酸としては、一塩基酸又は多塩基酸のいずれであってもよい。
【0145】
一塩基酸としては、炭素数が通常2〜30、好ましくは4〜24の脂肪酸が用いられ、その脂肪酸は直鎖のものでも分岐のものでもよく、また飽和のものでも不飽和のものでもよい。具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸、直鎖状又は分岐状のブタン酸、直鎖状又は分岐状のペンタン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタン酸、直鎖状又は分岐状のオクタン酸、直鎖状又は分岐状のノナン酸、直鎖状又は分岐状のデカン酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン酸、直鎖状又は分岐状のドデカン酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデカン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のノナデカン酸、直鎖状又は分岐状のイコサン酸、直鎖状又は分岐状のヘンイコサン酸、直鎖状又は分岐状のドコサン酸、直鎖状又は分岐状のトリコサン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコサン酸等の飽和脂肪酸、アクリル酸、直鎖状又は分岐状のブテン酸、直鎖状又は分岐状のペンテン酸、直鎖状又は分岐状のヘキセン酸、直鎖状又は分岐状のヘプテン酸、直鎖状又は分岐状のオクテン酸、直鎖状又は分岐状のノネン酸、直鎖状又は分岐状のデセン酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン酸、直鎖状又は分岐状のドデセン酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデセン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のノナデセン酸、直鎖状又は分岐状のイコセン酸、直鎖状又は分岐状のヘンイコセン酸、直鎖状又は分岐状のドコセン酸、直鎖状又は分岐状のトリコセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコセン酸等の不飽和脂肪酸、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0146】
また、一塩基酸としては、上記脂肪酸の他に、単環又は多環カルボン酸(水酸基を有していてもよい)を用いてもよく、その炭素数は、好ましくは4〜30、より好ましくは7〜30である。単環又は多環カルボン酸としては、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基を0〜3個、好ましくは1〜2個有する芳香族カルボン酸又はシクロアルキルカルボン酸等が挙げられ、より具体的には、(アルキル)ベンゼンカルボン酸、(アルキル)ナフタレンカルボン酸、(アルキル)シクロアルキルカルボン酸等が例示できる。単環又は多環カルボン酸の好ましい例としては、安息香酸、サリチル酸、アルキル安息香酸、アルキルサリチル酸、シクロヘキサンカルボン酸等が挙げられる。
【0147】
また、多塩基酸としては、二塩基酸、三塩基酸、四塩基酸等が挙げられる。多塩基酸は鎖状多塩基酸、環状多塩基酸のいずれであってもよい。また、鎖状多塩基酸の場合、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、また、飽和、不飽和のいずれであってもよい。鎖状多塩基酸としては、炭素数2〜16の鎖状二塩基酸が好ましく、具体的には例えば、エタン二酸、プロパン二酸、直鎖状又は分岐状のブタン二酸、直鎖状又は分岐状のペンタン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタン二酸、直鎖状又は分岐状のオクタン二酸、直鎖状又は分岐状のノナン二酸、直鎖状又は分岐状のデカン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン二酸、直鎖状又は分岐状のドデカン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプテン二酸、直鎖状又は分岐状のオクテン二酸、直鎖状又は分岐状のノネン二酸、直鎖状又は分岐状のデセン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン二酸、直鎖状又は分岐状のドデセン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン二酸、アルケニルコハク酸及びこれらの混合物等が挙げられる。また、環状多塩基酸としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸の脂環式ジカルボン酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸、トリメリット酸等の芳香族トリカルボン酸、ピロメリット酸等の芳香族テトラカルボン酸等が挙げられる。
【0148】
また、アルコールのモリブデン塩としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたような硫黄を含まないモリブデン化合物と、アルコールとの塩が挙げられ、アルコールは1価アルコール、多価アルコール、多価アルコールの部分エステルもしくは部分エーテル化合物、水酸基を有する窒素化合物(アルカノールアミン等)などのいずれであってもよい。なお、モリブデン酸は強酸であり、アルコールとの反応によりエステルを形成するが、当該モリブデン酸とアルコールとのエステルも本発明でいうアルコールのモリブデン塩に包含される。
【0149】
一価アルコールとしては、通常炭素数1〜24、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜8のものが用いられ、このようなアルコールとしては直鎖のものでも分岐のものでもよく、また飽和のものであっても不飽和のものであってもよい。炭素数1〜24のアルコールとしては、具体的には例えば、メタノール、エタノール、直鎖状又は分岐状のプロパノール、直鎖状又は分岐状のブタノール、直鎖状又は分岐状のペンタノール、直鎖状又は分岐状のヘキサノール、直鎖状又は分岐状のヘプタノール、直鎖状又は分岐状のオクタノール、直鎖状又は分岐状のノナノール、直鎖状又は分岐状のデカノール、直鎖状又は分岐状のウンデカノール、直鎖状又は分岐状のドデカノール、直鎖状又は分岐状のトリデカノール、直鎖状又は分岐状のテトラデカノール、直鎖状又は分岐状のペンタデカノール、直鎖状又は分岐状のヘキサデカノール、直鎖状又は分岐状のヘプタデカノール、直鎖状又は分岐状のオクタデカノール、直鎖状又は分岐状のノナデカノール、直鎖状又は分岐状のイコサノール、直鎖状又は分岐状のヘンイコサノール、直鎖状又は分岐状のトリコサノール、直鎖状又は分岐状のテトラコサノール及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0150】
また、多価アルコールとしては、通常2〜10価、好ましくは2〜6価のものが用いられる。2〜10の多価アルコールとしては、具体的には例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜15量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜15量体)、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜8量体、例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)及びこれらの2〜8量体、ペンタエリスリトール及びこれらの2〜4量体、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0151】
また、多価アルコールの部分エステルとしては、上記多価アルコールの説明において例示された多価アルコールが有する水酸基の一部がヒドロカルビルエステル化された化合物等が挙げられ、中でもグリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンジオレート、ペンタエリスリトールモノオレート、ポリエチレングリコールモノオレート、ポリグリセリンモノオレート等が好ましい。
【0152】
また、多価アルコールの部分エーテルとしては、上記多価アルコールの説明において例示された多価アルコールが有する水酸基の一部がヒドロカルビルエーテル化された化合物、多価アルコール同士の縮合によりエーテル結合が形成された化合物(ソルビタン縮合物等)などが挙げられ、中でも3−オクタデシルオキシ−1,2−プロパンジオール、3−オクタデセニルオキシ−1,2−プロパンジオール、ポリエチレングリコールアルキルエーテル等が好ましい。
【0153】
また、水酸基を有する窒素化合物としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたアルカノールアミン、並びに当該アルカノールのアミノ基がアミド化されたアルカノールアミド(ジエタノールアミド等)などが挙げられ、中でもステアリルジエタノールアミン、ポリエチレングリコールステアリルアミン、ポリエチレングリコールジオレイルアミン、ヒドロキシエチルラウリルアミン、オレイン酸ジエタノールアミド等が好ましい。
【0154】
(E)有機モリブデン化合物としては、初期における摩擦低減効果に優れる点で、モリブデンジチオホスフェート及びモリブデンジチオカーバメートから選ばれる1種又は2種以上の硫黄含有有機モリブデン化合物(E1)を使用することが好ましく、他の成分との相乗効果により低温から高温にわたり省燃費性能を向上させ、かつ湿式クラッチにおける摩擦特性を格段に向上できることから、モリブデンジチオカーバメートであることが特に好ましい。また、高温清浄性に優れ、粘度増加を抑制し、省燃費性能を長期間維持しやすい点で、モリブデンジチオホスフェート及びモリブデンジチオカーバメート以外の有機モリブデン化合物(E2)を使用することが好ましい。なお(E2)成分としては、上記に例示したもののうち、硫黄含有モリブデン化合物(例えば硫化モリブデン、オキシ硫化モリブデン、モリブデン酸の硫化物等)と、構成元素として硫黄を含まない有機化合物(アミン化合物、コハク酸イミド、アルコール、カルボン酸等)との錯体又は塩、構成元素として硫黄を含まないモリブデン化合物(オキシモリブデン、モリブデン酸等)と、構成元素として硫黄を含まない有機化合物(アミン化合物、コハク酸イミド、アルコール、カルボン酸等)との錯体又は塩、硫黄含有モリブデン化合物もしくは構成元素として硫黄を含まないモリブデン化合物と、構成元素として硫黄を含まない有機化合物と、硫黄源とを反応させた有機モリブデン化合物から選ばれる1種又は2種以上の有機モリブデン化合物が好ましい。
【0155】
本発明の組成物に(E)有機モリブデン化合物を含有させる場合、その含有量は特に制限されないが、組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で、好ましくは0.001質量%以上であり、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、好ましくは0.03質量%以上である。また、好ましくは0.2質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.06質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下である。その含有量が0.001質量%未満の場合、エンジンの摩擦低減効果や酸化防止性向上効果あるいは粘度増加抑制効果が小さく、一方、含有量が0.2質量%を超える場合、含有量に見合う効果が得られず、また、潤滑油組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。
【0156】
また、本発明の組成物に(E)有機モリブデン化合物を含有させる場合、有機モリブデン化合物に起因するモリブデン元素換算量に対する上記コハク酸イミド系分散剤の窒素元素換算量の質量比は、その下限値に特に制限はないが、好ましくは1、より好ましくはが1.5であり、1.8であることが好ましく、2.1であることが特に好ましい。一方、当該質量比の上限値は特に制限はないが通常100であり、10であることが好ましく、5であることがさらに好ましく、4であることが特に好ましい。当該質量比を上記範囲とすることで、湿式クラッチにおける摩擦特性及び/又は省燃費性能に優れた組成物を得ることができる。
【0157】
また、本発明の別の好ましい態様として、(E1)成分を含有しない潤滑油組成物も挙げることができる。(E1)成分を含有させないことによって、湿式クラッチの摩擦特性に優れ、動力伝達能力にも優れた潤滑油組成物とすることができる。なお、ここでいう湿式クラッチの摩擦特性としては、例えば、後述するJASO T 903−98規定の性能分類上MA級(クラッチ滑りが発生しない)となるような摩擦特性が挙げられ、クラッチ滑りが発生しにくく、動力伝達能力に優れるため、省燃費性能が改善される。また、ジチオリン酸亜鉛を主成分として含有する従来の二輪車用4サイクルエンジン油と比べ、クラッチのつながりがよく、変速フィーリングが改善される傾向にある。
【0158】
本発明の潤滑油組成物は、上記構成により、湿式クラッチの動力伝達能力及び/又は省燃費性に優れたものであるが、その性能をさらに高める目的で、公知の潤滑油添加剤を本発明の組成物に添加することができる。このような添加剤としては、例えば、本発明の(A)成分以外の極圧剤及び摩耗防止剤、モリブデンジチオカーバメート及びモリブデンジチオホスフェート以外の摩擦調整剤、コハク酸イミド系分散剤以外の無灰分散剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、錆止め剤、腐食防止剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤着色剤及びゴム膨潤剤等を挙げることができる。これらは、単独で又は数種類を組み合わせて使用することができる。
【0159】
(A)成分以外の極圧剤及び摩耗防止剤としては、ジチオリン酸亜鉛、(亜)リン酸エステル系化合物、硫黄系極圧剤等を挙げることができる。
【0160】
ジチオリン酸亜鉛としては、具体的には炭素数1〜30、好ましくは炭素数3〜8の炭化水素基を有するジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛である。ここでいう炭素数1〜30の炭化水素基としては、前記(A)成分の項で述べた、炭素数1〜30の炭化水素基と同義であり、その好ましい例や範囲も同様であり、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を例示することができ、炭素数3〜8のアルキル基であることが最も好ましい。また、これらジアルキルジチオリン酸亜鉛は、1分子中に異なる炭素数や異なる構造のアルキルを有する化合物であってもよい。
【0161】
ジチオリン酸亜鉛として特に好ましい化合物としては、具体的には、ジプロピルジチオリン酸亜鉛、ジブチルジチオリン酸亜鉛、ジペンチルジチオリン酸亜鉛、ジヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジヘプチルジチオリン酸亜鉛、ジオクチルジチオリン酸亜鉛(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)及びこれらの中から選ばれる2種以上の化合物の任意混合比での混合物等が例示できる。
【0162】
本発明において、ジチオリン酸亜鉛は、第1級アルキル基を有するジチオリン酸亜鉛(プライマリーZDTP)でも第2級アルキル基を含有するジチオリン酸亜鉛(セカンダリーZDTP)でもよいが、これらの混合物であることが好ましく、その混合比(質量比)は、前者:後者が好ましくは5:95〜50:50、さらに好ましくは10:90〜40:60であることが望ましい。当該混合比を上記好ましい範囲内とすることで、摩耗防止性能に優れた組成物を得ることができる。
【0163】
ジチオリン酸亜鉛の含有量の上限値は、組成物全量基準で、亜鉛元素換算量で0.2質量%であり、好ましくは0.1質量%、さらに好ましくは0.06質量%である。ジチオリン酸亜鉛を含有することで、有機モリブデン化合物との相互作用により摺動面における二硫化モリブデンが生成しやすく、エンジンの摩擦低減効果に優れた組成物を得ることができ、上記ジチオリン酸亜鉛の含有量が組成物全量基準で、亜鉛元素換算量で上記上限値を超える場合は、リンや亜鉛による排ガス浄化装置への影響が懸念され、また高温における省燃費性能及び湿式クラッチの摩擦特性に劣りやすくなる。
【0164】
本発明の潤滑油組成物は、ジチオリン酸亜鉛の含有量が亜鉛元素換算量として0.01質量%未満又は本質的に含有しないことも好ましい。ジチオリン酸亜鉛の代わりに(A)成分を主成分として使用することで、摩耗防止性に優れるとともに、過酷な劣化条件においても潤滑油の劣化を防止して長寿命の潤滑油を得ることができ、また、ジチオリン酸亜鉛を使用しなくても、湿式クラッチにおける摩擦特性を同等以上に向上させることができ、変速フィーリングをより高めることができるという、ジチオリン酸亜鉛を必須とした従来技術では予想しえない格別な効果を奏する。ここで、「本質的に含有しない」とは、ジチオリン酸亜鉛が添加剤として潤滑油組成物に積極的に添加されていない状態をいい、別の添加剤の不純物等として、意図せずに混入してしまった場合も含めるものである。
【0165】
(亜)リン酸エステル系化合物としては、例えば、リン酸モノエステル類、リン酸ジエステル類、リン酸トリエステル類、亜リン酸モノエステル類、亜リン酸ジエステル類、亜リン酸トリエステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類及びこれらの塩を挙げることができる。これらの化合物は、通常炭素数2〜30、好ましくは炭素数3〜20の炭化水素基を含有しており、炭素数2〜30の炭化水素基としては、具体的には、(A)成分の項で述べたアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基及びアリールアルキル基(これらは置換基を有していてもよい)を挙げることができる。
【0166】
(亜)リン酸エステル系化合物として好ましい化合物としては、具体的には、以下のものを挙げることができる。
【0167】
モノプロピルホスフェート、モノブチルホスフェート、モノペンチルホスフェート、モノヘキシルホスフェート、モノペプチルホスフェート及びモノオクチルホスフェート等のリン酸モノアルキルエステル(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい);モノフェニルホスフェート、モノクレジルホスフェート等のリン酸モノ(アルキル)アリールエステル;ジプロピルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジペンチルホスフェート、ジヘキシルホスフェート、ジペプチルホスフェート、ジオクチルホスフェート等のリン酸ジアルキルエステル(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい);ジフェニルホスフェート、ジクレジルホスフェート等のリン酸ジ(アルキル)アリールエステル;トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリペプチルホスフェート、トリオクチルホスフェート等のリン酸トリアルキルエステル(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい);トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート等のリン酸トリ(アルキル)アリールエステル;
【0168】
モノプロピルホスファイト、モノブチルホスファイト、モノペンチルホスファイト、モノヘキシルホスファイト、モノペプチルホスファイト、モノオクチルホスファイト等の亜リン酸モノアルキルエステル(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい);モノフェニルホスファイト、モノクレジルホスファイト等の亜リン酸モノ(アルキル)アリールエステル;ジプロピルホスファイト、ジブチルホスファイト、ジペンチルホスファイト、ジヘキシルホスファイト、ジペプチルホスファイト、ジオクチルホスファイト等の亜リン酸ジアルキルエステル(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい);ジフェニルホスファイト、ジクレジルホスファイト等の亜リン酸ジ(アルキル)アリールエステル;トリプロピルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリペンチルホスファイト、トリヘキシルホスファイト、トリペプチルホスファイト、トリオクチルホスファイト等の亜リン酸トリアルキルエステル(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい);トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト等の亜リン酸トリ(アルキル)アリールエステル;及びこれらの混合物。
【0169】
(亜)リン酸エステル類の塩としては、具体的には、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、リン酸トリエステル、亜リン酸モノエステル、亜リン酸ジエステル、あるいは亜リン酸トリエステルに、アンモニアや炭素数1〜20の炭化水素基又は水酸基含有炭化水素基のみを分子中に含有するアミン化合物等の含窒素化合物を作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和した塩等が例示できる。
【0170】
含窒素化合物としては、具体的には、以下のものを挙げることができる。
【0171】
アンモニア;モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノブチルアミン、モノペンチルアミン、モノヘキシルアミン、モノヘプチルアミン、モノオクチルアミン、ジメチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、エチルプロピルアミン、ジプロピルアミン、メチルブチルアミン、エチルブチルアミン、プロピルブチルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン及びジオクチルアミン等のアルキルアミン(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい);モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、モノブタノールアミン、モノペンタノールアミン、モノヘキサノールアミン、モノヘプタノールアミン、モノオクタノールアミン、モノノナノールアミン、ジメタノールアミン、メタノールエタノールアミン、ジエタノールアミン、メタノールプロパノールアミン、エタノールプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、メタノールブタノールアミン、エタノールブタノールアミン、プロパノールブタノールアミン、ジブタノールアミン、ジペンタノールアミン、ジヘキサノールアミン、ジヘプタノールアミン及びジオクタノールアミン等のアルカノールアミン(アルカノール基は直鎖状でも分枝状でもよい);及びこれらの混合物。
【0172】
これらの(亜)リン酸エステル系化合物は、1種類あるいは2種類以上を任意に配合することができる。本発明においては、(亜)リン酸エステル系化合物は、リン酸モノエステル類、リン酸ジエステル類、亜リン酸モノエステル類、亜リン酸ジエステル類、チオリン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類及びこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、さらに好ましくは、(亜)リン酸モノエステル類、(亜)リン酸ジエステル類及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である。また、これらを構成する炭化水素基の炭素数は、好ましくは、4〜20、さらに好ましくは、6〜18である。
【0173】
本発明の潤滑油組成物における(亜)リン酸エステル系化合物は、二輪車用4サイクルエンジンにおいて、エンジン回転数が低回転(例えば1,000rpm)及び高回転(例えば10,000rpmを超える)である場合にさらなる省燃費効果が発揮されることが確認されており、含有することがより好ましい。
【0174】
本発明の潤滑油組成物における(亜)リン酸エステル系化合物を含有させる場合、その好ましい下限値としては、組成物全量基準でリン元素換算量として0.005質量%であり、さらに好ましくは、0.01質量%であり、一方その上限値は、組成物全量基準でリン元素換算量として0.1質量%であり、好ましくは0.08質量%であり、さらに好ましくは、0.04質量%である。(亜)リン酸エステル系化合物の含有量が上記上限値を超える場合、含有量に見合うだけの効果が得られないばかりか、低リン化することができないため好ましくない。
【0175】
硫黄系極圧剤としては、ジスルフィド類、ポリスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類、硫化エステル、ジチオカーバメート、ジチオカルバミン酸亜鉛等の硫黄含有化合物等が挙げられる。
【0176】
また、その他の摩耗防止剤としては、ホウ酸エステル、無灰系摩耗防止剤、金属系摩耗防止剤等公知のものを使用することができる。
【0177】
本発明の潤滑油組成物において、これら硫黄系極圧剤やその他の摩耗防止剤を含有させる場合の含有量は、組成物全量基準で、通常0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。
【0178】
モリブデンジチオカーバメート及びモリブデンジチオホスフェート以外の摩擦調整剤としては、例えば、脂肪族アルコール、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル、脂肪族アミン、脂肪族アミン塩、脂肪族アミド等、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基を有する摩擦調整剤が使用できる。
【0179】
これらの摩擦調整剤は本発明の有機モリブデン化合物の代わりに使用しても、あるいは併用しても省燃費性能及び湿式クラッチにおける摩擦特性に優れた組成物を得ることができる。
【0180】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤等の無灰系酸化防止剤、有機金属系酸化防止剤等、潤滑油に一般的に使用されているものであれば使用可能である。酸化防止剤の添加により、潤滑油組成物の酸化防止性をより高められ、本発明の組成物の酸化安定性、高温清浄性及び塩基価維持性をより高めることができる。
【0181】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2’−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル置換脂肪酸エステル類等を好ましい例として挙げることができる。これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0182】
アミン系酸化防止剤としては、例えば、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、及びジアルキルジフェニルアミンを挙げることができる。これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0183】
また、有機金属系酸化防止剤としては、金属を含有し、酸化防止効果の認められる公知の有機金属系酸化防止剤を使用することができるが、上述した有機モリブデン化合物のうちの(E2)成分を好ましく使用することができる。
【0184】
上記フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、有機金属酸化防止剤は組み合わせて配合してもよい。
【0185】
本発明の潤滑油組成物において酸化防止剤を含有させる場合、その含有量は、通常潤滑油組成物全量基準で0.01〜20質量%であり、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜5質量%である。その含有量が20質量%を超える場合は、配合量に見合った十分な性能が得られないため好ましくない。
【0186】
粘度指数向上剤としては、非分散型粘度指数向上剤や分散型粘度指数向上剤が使用可能であり、具体的には、非分散型又は分散型のポリメタクリレートやオレフィンコポリマー、あるいはポリイソブテン、ポリスチレン、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ジエン共重合体及びその水素化物等が使用できる。これらの重量平均分子量は、一般に5,000〜1,000,000であるが、省燃費性能をより高めるために、重量平均分子量が100,000〜1,000,000、好ましくは200,000〜900,000、特に好ましくは400,000〜800,000である上記粘度指数向上剤を使用することが望ましい。
【0187】
なお、本発明の潤滑油組成物を二輪車用4サイクルエンジンに使用する場合、剪断安定性を高める必要があることから、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ジエン共重合体及びその水素化物等のオレフィンコポリマー系粘度指数向上剤を用いることが好ましい。また、剪断安定性を良好に維持しながら粘度指数を高め、省燃費性能をより高めることができるとともに、高温清浄性やスラッジ分散性を高めることができる点で、オレフィンコポリマー系粘度指数向上剤と分散型のポリメタクリレート系粘度指数向上剤を併用することが特に好ましい。
【0188】
粘度指数向上剤を含有させる場合の含有量は、通常、組成物全量基準で0.1〜20質量%であり、好ましくは1〜15質量%、さらに好ましくは3〜12質量%、特に好ましくは8〜12質量%である。また、オレフィンコポリマー系粘度指数向上剤と分散型のポリメタクリレート系粘度指数向上剤を併用する場合の配合割合は、特に制限はないが、配合する質量比で、好ましくは95:5〜20:80、より好ましくは90:10〜60:40である。
【0189】
流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマー、アルキル化芳香族化合物、フマレート−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が使用できるが、重量平均分子量が50,000を超え150,000以下、好ましくは、80,000〜120,000のポリメタクリレートが好ましい。
【0190】
錆止め剤としては、例えば、アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート等が使用できる。
【0191】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系の化合物等が使用できる。
【0192】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0193】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、及びβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0194】
消泡剤としては、潤滑油用の消泡剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、ジメチルシリコーン、フルオロシリコーン等のシリコーン類が挙げられる。これらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で配合することができる。消泡剤としては、例えば、シリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリシレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール、アルミニウムステアレート、オレイン酸カリウム、N−ジアルキル−アリルアミンニトロアミノアルカノール、イソアミルオクチルホスフェートの芳香族アミン塩、アルキルアルキレンジホスフェート、チオエーテルの金属誘導体、ジスルフィドの金属誘導体、脂肪族炭化水素のフッ素化合物、トリエチルシラン、ジクロロシラン、アルキルフェニルポリエチレングリコールエーテルスルフィド、フルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
【0195】
着色剤としては、通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、また任意の量を配合することができるが、通常その配合量は、組成物全量基準で0.001〜1.0質量%である。
【0196】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合、その含有量は組成物全量基準で、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、ゴム膨潤剤ではそれぞれ0.005〜5質量%、金属不活性化剤では0.005〜1質量%、流動点降下剤では、0.01〜1質量%、消泡剤では0.0001〜1質量%、着色剤では0.001〜1.0質量%の範囲で通常選ばれる。
【0197】
本発明の潤滑油組成物は、湿式クラッチの摩擦特性及び/又は省燃費性優れるだけでなく、摩耗防止性能、高温酸化安定性、清浄性等にも優れた性能を持ち合わせており、又、JASO二輪車用4サイクルエンジン油規格(JASO T 903−98)に適合するのに十分な性能を有するものである。この規定の1つには、組成物の硫酸灰分量が組成物全量基準で1.2質量%以下であることが必要とされるが、本発明の組成物は、硫酸灰分量が好ましくは1.0質量%以下であり、さらに0.8質量%以下、特に0.7質量%以下という低灰型の潤滑油とすることができる。ここで硫酸灰分とは、JIS K2272に準拠して測定した硫酸灰分、即ち、試料を燃やして生じた炭化残留物に硫酸を加えて恒量した灰分を意味する。
【0198】
また本発明の潤滑油組成物は、そのリン元素含有量が、組成物全量基準で好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.12質量%以下であるが、他の構成成分を調整することで、0.1質量%以下、さらには0.08質量%以下とすることができる。
【0199】
本発明のこのような低灰型、低リン型の潤滑油組成物は、排ガス浄化装置に与える影響を極めて少なくすることができ、三元触媒、酸化触媒、NOx吸蔵還元触媒、EGR装置、DPF等の排ガス浄化装置を装着した車に対して有利に用いることができる。
【0200】
発明の潤滑油組成物は、100℃における動粘度が5.6mm/s以上であることが好ましく、さらに好ましくは9.3mm/s以上である。一方、100℃における動粘度は21.9mm/s以下であることが好ましく、さらに好ましくは16.3mm/s以下、特に好ましくは12.5mm/s以下である。潤滑油組成物の動粘度を上記のような範囲にとすることで高い省燃費性能を付与することが可能となる。
【0201】
また、本発明の潤滑油組成物は、150℃におけるTBS粘度を2.9mPa・s以上とすることが好ましく、通常5mPa・s以下であるが、好ましくは4.5mPa・s以下、より好ましくは3.7mPa・s以下、より好ましくは3.2mPa・s以下である。TBS粘度を2.9mPa・s以上とすることで、トランスミッションやギヤの潤滑性を良好に保ち、4.5mPa・s以下、特に3.7mPa・s以下とすることで省燃費性能により優れた組成物を得ることができる。なお、ここでいうTBS(Taperd bearing simulator)粘度とは、高温高せん断下における実効粘度を示し、ASTM D4683(Standard Test Method for Measuring Viscosity at High Shear Rate and High Temperature by Tapered Bearing Simulator)に準拠した方法により測定される、150℃、せん断速度10/sにおける粘度のことである。
【0202】
本発明の潤滑油組成物は、湿式クラッチの摩擦特性及び/又は省燃費性に優れるため、湿式クラッチを有する駆動系装置用あるいは二輪車用4サイクルエンジン用として好適であるが、湿式クラッチを有する二輪車用4サイクルエンジン用として特に好適である。その他省燃費性が要求される潤滑油、例えばガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン等の内燃機関用、特に排ガス後処理装置を装着した内燃機関用や摩擦調整機能を必要とされる各種潤滑油にも使用することもできる。
【実施例】
【0203】
以下、本発明の内容を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0204】
表2の組成となるように、本発明の潤滑油組成物(実施例1、2)及び比較用の潤滑油組成物(比較例1、2)、並びに参考用の潤滑油組成物(参考例1)を150℃におけるTBS粘度が2.9〜3.2mPa・sとなるように調製した。基油の割合は基油全量基準、各添加剤の添加量は組成物全量基準である。これらの組成物について、以下に示すSRV摩擦試験及び湿式クラッチ摩擦特性試験を行い、省燃費性能及び湿式クラッチにおける摩擦特性の評価を行った。評価結果も併せて表2に示す。
【0205】
[SRV摩擦試験]
荷重400N、振動数50Hz、振幅1.5mm、油温40℃の条件にて、SRV摩擦試験機を用いてSRV摩擦試験を行った。摩擦係数が低いものほどエンジンの摩擦低減効果に優れ、省燃費性能に優れることを示す。特に、40℃における摩擦係数が低いものほど、始動時の省燃費性能が改善されていることを示す。
【0206】
[クラッチ摩擦特性試験]
JASO二輪車用4サイクルエンジン油規格(JASO T 903−98)に規定されている、クラッチ摩擦特性についての性能分類を行った。すなわち、JASO T 904−98に準拠した試験条件に従って動摩擦係数、静摩擦係数及び制動時間を測定し、下記算出方法によって動摩擦特性指数、静摩擦特性指数及び制動時間指数を求め、これらの指数を下記表1に従ってMA又はMBに性能分類した。MAに分類される組成物は動摩擦係数、静摩擦係数及び制動時間の全てにおいて優れた性能を有することを示している。一方、MBに分類される組成物はいずれかの指数が基準より低いことを示し、湿式クラッチ滑り防止性能が劣ることを示している。
【0207】
算出方法(例:動摩擦特性指数)
動摩擦特性指数=1+(μd(s)−μd(B))/(μd(A)−μd(B))
μd(s):供試油の動摩擦係数
μd(A):JAFRE−A(高摩擦特性標準油)の動摩擦係数
μd(B):JAFRE−B(摩擦調整剤入り低摩擦特性標準油)の動摩擦係数
静摩擦特性指数、制動時間指数も同様の算出方法にて求めるものとする。
【0208】
【表1】

【0209】
【表2】

【0210】
表2に示す結果から明らかなように、ジチオリン酸亜鉛を主成分として含有し、モリブデンジチオカーバメート及びモリブデンジチオホスフェートを含有しない潤滑油組成物である比較例1の組成物は、SRV摩擦係数が高かった。これに対し、ジチオリン酸亜鉛に代えて特定のリン含有酸金属塩を用いた実施例1の組成物は、SRV摩擦係数が低くなり、湿式クラッチの摩擦特性も各指数を総合的に見て改善されていることがわかる。
【0211】
また、ジチオリン酸亜鉛を主成分として含有し、モリブデンジチオカーバメートを含有する従来の省燃費エンジン油である比較例2の組成物は、SRV摩擦係数は低いものの、湿式クラッチの摩擦特性は大幅に劣り、湿式クラッチにおける動力伝達能力が劣るものであった。これに対し、ジチオリン酸亜鉛に代えて特定のリン含有酸金属塩を用い各種添加剤を最適化した実施例2の組成物は、SRV摩擦係数が十分低いレベルであるとともに、湿式クラッチの摩擦特性も格段に改善されており、エンジンの低摩擦化と湿式クラッチにおける動力伝達能力の両面から省燃費性能を向上できる優れた組成物である。なお、実施例2の組成物の80℃におけるSRV摩擦係数は、実施例1の組成物のそれに対し50%以上低減できることが確認されている。この結果は、実施例1と比べても湿式クラッチ摩擦特性を高いレベルで維持しながら、エンジンの大幅な低摩擦化を実現できる優れたものである。
【0212】
なお、参考例1の組成物は、モリブデンジチオカーバメートを含有し、ジチオリン酸亜鉛や各種添加剤を最適化し、本発明者らによりクラッチ滑り防止とエンジンの低摩擦化の両立が達成された、優れた組成物(特開2003−41283号公報参照)であるが、実施例2の組成物は、同公報において必須成分であるジチオリン酸亜鉛を用いない場合であっても、SRV摩擦係数が同等レベルであるだけでなく、湿式クラッチの摩擦特性がさらに改善できていることがわかる。
【0213】
以上、現時点において、最も実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う潤滑油組成物もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油系基油及び/又は合成系基油からなる潤滑油基油に、組成物全量基準で、
(A)一般式(a)又は(b)で表されるリン含有酸の金属塩を、リン量として0.01〜0.2質量%、
(B)金属系清浄剤を、金属量として0.005〜0.5質量%、及び
(C)無灰分散剤を窒素量として0.01〜0.4質量%
含有することを特徴とする、湿式クラッチ用もしくは二輪車用4サイクルエンジン用潤滑油組成物。
【化1】

[式中、Rは炭素数1〜30の炭化水素含有基を示し、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素含有基を示し、pは0又は1を示す。]
【化2】

[式中、Rは炭素数1〜30の炭化水素含有基を示し、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素含有基を示し、qは0又は1を示す。]
【請求項2】
前記(A)リン含有酸の金属塩における金属量(M)とリン量(P)との質量比(M/P)が、1〜3であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記(A)リン含有酸の金属塩における金属量(M)とリン量(P)との質量比(M/P)が、1.2〜1.8であることを特徴とする請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
ジチオリン酸亜鉛の含有量がリン量として0.01質量%未満又は本質的に含有しないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
(E1)モリブデンジチオホスフェート及びモリブデンジチオカーバメートから選ばれる有機モリブデン化合物を含有しないことを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
(E)有機モリブデン化合物を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記(C)無灰分散剤が、ホウ素含有コハク酸イミドと、ホウ素を含有しないモノ及び/又はビスコハク酸イミドとからなり、かつホウ素含有コハク酸イミドの含有量が、組成物全量基準で、ホウ素元素換算量で、0.005〜0.2質量%であることを特徴と請求項1〜6のいずれかの項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記潤滑油組成物中の硫酸灰分量が、組成物全量基準で1質量%以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかの項に記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2008−239762(P2008−239762A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81247(P2007−81247)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】