説明

潤滑油組成物

【課題】DLCコーティングを施した材料と金属との摩擦システムに使用され、低摩擦係数でかつ耐摩耗性に優れる潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】DLCコーティング部材と金属部材との摺動部分に使用される潤滑油組成物であって、潤滑油基油に、(A)有機Mo化合物と、(B)Caスルフォネート、CaフェネートおよびCaサリシレートの中から選ばれる少なくとも一種の過塩基性Ca塩を配合してなり、前記過塩基性Ca塩の過塩素酸法塩基価が150〜500mgKOH/gである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティングを施した材料と金属との摩擦システムに使用される潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
変速機や内燃機関のように、様々な摺動動部分を持つシステムを潤滑する潤滑油組成物には、摺動面における摩擦係数が低いことや、材料に対する耐焼付き性が求められる。また、摩擦部分として鋼−鋼であった摺動部材に対し、鋼表面をDLCなどの耐摩耗・低摩擦材料によりコーティング処理を行って鋼−DLCのような摺動部材に代え、摩擦低減や耐焼付き性の向上を図ることも行われている。
このような、鋼−DLCからなる摺動部材用としては、従来の鋼−鋼からなる摺動部材に対して使用されるものとは異なった配合処方の潤滑油組成物が要求される。例えば、有機モリブデン(Mo)化合物と脂肪族アミン系化合物を配合して、鋼−DLCからなる摺動部に使用する低摩擦剤組成物が開示されている(特許文献1参照)。この低摩擦材組成物によれば、手動変速機におけるベアリング部や、終減速機におけるサイドギヤ背面とデフケース内面間において、低摩擦係数と耐摩耗性に優れる旨が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−098495号公報(〔発明の効果〕〔0014〕等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の低摩擦剤組成物によっても、内燃機関用やギヤ油等のへの幅広い展開を考慮すると、その摩擦係数低減効果や耐摩耗性は必ずしも十分ではない。
そこで、本発明は、DLCコーティングを施した材料と金属との摩擦システムに使用され、低摩擦係数でかつ耐摩耗性に優れる潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、以下に示す潤滑油組成物を提供するものである。
(1)DLCコーティング部材と金属部材との摺動部分に使用される潤滑油組成物であって、潤滑油基油に、(A)有機Mo化合物と、(B)Caスルフォネート、CaフェネートおよびCaサリシレートの中から選ばれる少なくとも一種の過塩基性Ca塩を配合してなり、前記過塩基性Ca塩の過塩素酸法塩基価が150〜500mgKOH/gであることを特徴とする潤滑油組成物。
(2)上述の(1)に記載の潤滑油組成物において、前記DLCにおける水素含有量が20原子%以下であることを特徴とする潤滑油組成物。
(3)上述の(1)または(2)に記載の潤滑油組成物において、前記(A)成分がMoDTCであることを特徴とする潤滑油組成物。
(4)上述の(1)〜(3)のいずれか一つに記載の潤滑油組成物において、前記(B)成分がCaスルフォネートであることを特徴とする潤滑油組成物。
(5)上述の(1)〜(4)のいずれか一つに記載の潤滑油組成物において、前記(A)成分が、Mo量換算かつ組成物全量基準で50〜5000質量ppm配合されたことを特徴とする潤滑油組成物。
(6)上述の(1)〜(5)のいずれか一つに記載の潤滑油組成物において、前記(B)成分が、Ca量換算かつ組成物全量基準で300〜6000質量ppm配合されたことを特徴とする潤滑油組成物。
(7)上述の(1)〜(6)のいずれか一つに記載の潤滑油組成物において、前記潤滑油基油における硫黄分が0.03質量%以下、粘度指数が100以上、飽和分が90質量%以上であることを特徴とする潤滑油組成物。
(8)上述の(1)〜(7)のいずれか一つに記載の潤滑油組成物において、極圧剤、油性剤、酸化防止剤、分散剤および粘度指数向上剤の中から選ばれる少なくとも一種の添加剤が配合されたことを特徴とする潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、DLCコーティングを施した材料と金属との摩擦システムに使用され、低摩擦係数でかつ耐摩耗性に優れる潤滑油組成物を提供することができる。それ故、本発明の潤滑油組成物は、前記した摩擦システムを有する変速機、内燃機関、ギア、油圧システム、およびタービンなどに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、DLCコーティング部材(以下、単に「DLC部材」あるいは「DLC」ともいう。)と金属部材との摺動部分に使用される潤滑油組成物であって、潤滑油基油に、(A)有機Mo化合物と、(B)過塩基性Ca塩を配合してなるものである。以下に、本発明の潤滑油組成物を詳細に説明する。
【0008】
〔DLCコーティング部材〕
基材にコーティングされるDLCは、主に炭素(C)によるグラファイトのsp2結合とダイアモンドのsp3結合からなり,水素(H)を若干含むアモルファス構造である。具体的には、炭素だけから成るアモルファスカーボン、水素を含有する水素アモルファスカーボン、およびチタン(Ti)やモリブデン(Mo)等の金属元素を一部に含むMeCが挙げられる。
上記DLC部材は、水素含有量が増加すると摩擦係数が増加することから、水素含有量が20原子%以下であることが好適であり、より好ましくは10原子%以下、さらに好ましくは5原子%以下、最も好ましくは0.5原子%以下である。
水素含有量の低いDLC部材を得るには、スパッタリング法やイオンプレーティング法など、水素を実質的に使用しないPVD法によってコーティングすることが好ましい。なお、DLCのコーティング時に水素を含まないガスを用いるだけでなく、必要に応じて反応容器や基材保持具のベーキングや、基材表面のクリーニングを十分に行うことが好ましい。
なお、上記DLC部材に用いられる基材としては、例えば浸炭鋼、焼入鋼、アルミニウム等の非鉄金属などが好適に使用できる。
【0009】
〔基油〕
本発明の潤滑油組成物に用いる基油としては、鉱物油(鉱油)および合成系基油(合成油)のうち少なくともいずれかが用いられる。鉱油や合成油としては、熱安定性の観点より硫黄分(JIS K 2541準拠)が0.03質量%以下、高温での粘度の保持性の観点より粘度指数(JIS K 2284準拠)が100以上、酸化安定性の観点より飽和分(ASTM D2140準拠、%CPと%CNの合計)が90質量%以上であることが好ましい。
【0010】
前記した性状を満たす鉱油としては、高度精製鉱油が好ましい。高度精製鉱油の具体例としては、例えば、パラフィン基系原油、中間基系原油あるいはナフテン基系原油を常圧蒸留するかあるいは常圧蒸留の残渣油を減圧蒸留して得られる留出油を常法に従って精製することによって得られる精製油、あるいは精製後更に深脱ロウ処理することによって得られる深脱ろう油、更には水素化処理によって得られる水添処理油などを挙げることができる。この際の精製法は特に制限はなく様々な方法が使用される。
【0011】
通常は(a)水素化処理、(b)脱ロウ処理(溶剤脱ロウまたは水添脱ロウ)、(c)溶剤抽出処理、(d)アルカリ蒸留または硫酸洗浄処理、(e)白土処理を単独で、あるいは適宜順序で組み合わせて行う。また、同一処理を複数段に分けて繰り返し行うことも有効である。例えば、1)留出油を水素化処理するか、または水素化処理した後、アルカリ蒸留または硫酸洗浄処理を行う方法、2)留出油を水素化処理した後、脱ロウ処理する方法、3)留出油を溶剤抽出処理した後、水素化処理する方法、4)留出油に二段あるいは三段の水素化処理を行う、またはその後にアルカリ蒸留または硫酸洗浄処理する方法、更には、5)上述した1)〜4)のような処理の後、再度脱ロウ処理して深脱ロウ油とする方法などがある。上記の方法のうち、本発明において用いられる高度精製鉱油としては、深脱ロウ処理によって得られる鉱油が、低温流動性,低温時でのワックス析出がない等の点から好適である。この深脱ロウ処理は、苛酷な条件下での溶剤脱ロウ処理法やゼオライト触媒を用いた接触脱ロウ処理法などによって行われる。
【0012】
また、前記した性状を満たす合成油としては、例えば、ポリブテン、ポリオレフィン[α−オレフィン単独重合体や共重合体(例えばエチレン−α−オレフィン共重合体)など]、各種のエステル(例えば、ポリオールエステル、二塩基酸エステル)、各種のエーテル(例えば、ポリフェニルエーテルなど)、ポリアルキレングリコールなどが挙げられる。
【0013】
本発明においては、基油として、上記鉱油を1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記合成油を1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらには、鉱油1種以上と合成油1種以上とを組み合わせて用いてもよい。
基油の粘度については特に制限はなく、潤滑油組成物の用途に応じて異なるが、100℃の動粘度が2〜30mm/sであることが好ましく、より好ましくは3〜15mm/s、さらにより好ましくは4〜10mm/sである。
【0014】
〔(A)成分〕
本発明の潤滑油組成物においては、(A)成分として有機Mo化合物が用いられる。この有機Mo化合物としては、例えばモリブデンジチオホスフェート(MoDTP)、モリブデンアミン塩およびモリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)などが挙げられるが、これらの中でMoDTCが摩擦係数低減効果の点で好適である。
【0015】
MoDTCとしては、例えば下記式(1)で示される硫化オキシモリブデンジチオカーバメイト構造のものが好ましい。
【0016】
【化1】

【0017】
上記式中、RおよびRは、それぞれ炭素数4〜24の炭化水素基、xおよびyは、それぞれ1〜3の数を示し、xとyの和は4である。
ここで、炭素数4〜24の炭化水素基としては、例えば、炭素数4〜24のアルキル基、炭素数4〜24のアルケニル基、炭素数6〜24のアリール基、炭素数7〜24のアリールアルキル基などが挙げられる。炭化水素基の炭素数が4以上であると基油に対する溶解性が良好であり、また炭素数24以下であると良好な効果が発揮されると共に、入手も容易となる。前記RおよびRは、たがいに同一でも異なっていてもよい。
上記炭素数4〜24のアルキル基および炭素数4〜24のアルケニル基は、直鎖状、分岐鎖状および環状のいずれであってもよく、このようなものとしては、例えばn−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種オクタデシル基、各種イコシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、オレイル基、リノレイル基などが挙げられる。また、上記炭素数6〜24のアリール基および炭素数7〜24のアリールアルキル基は、その芳香環上にアルキル基などの置換基が1個以上導入されていてもよく、このようなものとしては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ブチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、ベンジル基、メチルベンジル基、ブチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基、ブチルフェネチル基などが挙げられる。
【0018】
本発明の潤滑油組成物においては、(A)成分の有機Mo化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、組成物全量基準かつMo換算量として50〜5000質量ppmの範囲である。Mo量が50質量ppm未満であると摩擦低減効果が十分ではない。一方、Mo量が5000質量ppmを超えても摩擦低減効果の向上はあまり認められない。(A)成分のより好ましい配合量は、Moとして200〜3000質量ppmであり、さらに好ましくは500〜2000質量ppmである。
【0019】
〔(B)成分〕
本発明の潤滑油組成物においては、(B)成分として、過塩素酸法塩基価が150〜500mgKOH/gである過塩基性Ca塩が配合される。この過塩基性Ca塩としては、Caスルフォネート、CaフェネートおよびCaサリシレートの中から選ばれる少なくとも一種が用いられる。
(B)成分である過塩基性Ca塩は、従来、金属系清浄剤として内燃機関用潤滑油に添加されてきたが、本発明では耐摩耗剤として作用する。しかし、過塩基性Ca塩の塩基価が150mgKOH/g未満では、DLC部材と金属部材との摺動部分に被膜が生成しにくくなり耐摩耗性が十分発揮できない。一方、塩基価が500mgKOH/gを超えると、(A)成分の効果が十分に発揮できず、耐摩耗性がむしろ悪化する。好ましい塩基価は250mgKOH/g以上であり、特に300〜500mgKOH/gが好ましい。
【0020】
また、過塩基性Ca塩としては、耐摩耗性の点で、Caスルフォネートが最も好ましい。Caスルフォネートとしては、炭素数1〜50のアルキル基を有するアルキルベンゼンスルフォネートが清浄分散性の点で好適である。
【0021】
本発明の潤滑油組成物においては、(B)成分として、前記の過塩基性Ca塩を一種用いてもよく、二種以上組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、Ca量換算かつ組成物全量基準で300〜6000質量ppmの範囲が好ましい。(B)成分の配合量が300質量ppm未満であると、DLC部材と金属部材との摺動部分における摩擦係数が大きくなってしまうおそれがある。一方、(B)成分の配合量が6000質量ppmを超えても摩擦低減効果の向上はそれほど認められない。(B)成分のより好ましい配合量は、800〜5000質量ppmであり、さらに好ましい配合量は1000〜4000質量ppmであり、最も好ましくは2000〜4000質量ppmである。
【0022】
本発明の潤滑油組成物には、必要に応じて、極圧剤、油性剤、酸化防止剤、分散剤および粘度指数向上剤の中から選ばれる少なくとも一種の添加剤を配合することができる。
極圧剤としては、リン系極圧剤と硫黄系極圧剤が挙げられる。リン系極圧剤 としては、例えばリン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルアミン塩、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステルおよび酸性亜リン酸エステルアミン塩などを挙げることができる。硫黄系極圧剤としては、分子内に硫黄原子を有し、潤滑剤基油に溶解または均一に分散して、極圧剤 や優れた摩擦特性を発揮しうるものであればよい。このようなものとしては、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チアジアゾール化合物、チオリン酸エステル(チオフォスファイト、チオフォスフェート)、チオテルペン化合物、などを挙げることができる。
好ましい配合量は、極圧剤 としての効果および経済性のバランスなどの点から、組成物全量基準で0.01〜2.0質量%程度、好ましくは0.05〜1.5質量%である。
【0023】
油性剤としては、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪族飽和および不飽和モノカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの重合脂肪酸、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸などのヒドロキシ脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族飽和および不飽和モノアルコール、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの脂肪族飽和および不飽和モノアミン、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪族飽和および不飽和モノカルボン酸アミドなどが挙げられる。
これらの油性剤 の好ましい配合量は、組成物全量基準で0.01〜10質量%の範囲であり、0.1〜5質量%の範囲が特に好ましい。
【0024】
酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート等の硫黄系酸化防止剤、ホスファイト等のリン系酸化防止剤、さらにモリブデン系酸化防止剤が挙げられる。これらの酸化防止剤は単独でまたは複数種を任意に組合せて含有させることができる。その配合量は、潤滑油組成物基準で0.01〜5質量%が好ましく、0.2〜3質量%が更に好ましい。
【0025】
分散剤としては、数平均分子量が900〜3,500のポリブテニル基を有するポリブテニルコハク酸イミド、ポリブテニルベンジルアミン、ポリブテニルアミン、およびこれらのホウ酸変性物等の誘導体等が挙げられる。これらの分散剤は、単独でまたは複数種を任意に組合せて含有させることができるが、その配合量は、組成物基準で0.1〜20質量%の範囲が好ましい。
【0026】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン−ジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体など)などが挙げられる。これら粘度指数向上剤の配合量は、配合効果の点から、組成物全量基準で、0.5〜15質量%程度であり、好ましくは1〜10質量%である。
【0027】
上述した組成を有する本発明の潤滑油組成物は、DLCコーティングを施した材料と金属との摩擦システムに使用した際に、摩擦係数が低く、かつ耐摩耗性に優れる。それ故、本発明の潤滑油組成物は、前記した摩擦システムを有する変速機、内燃機関、ギア、油圧システム、およびタービンなどに好適である。
【実施例】
【0028】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
〔実施例1〜3、比較例1〜4〕
表1に示す配合処方の潤滑油組成物(試料油)を調製した後、以下に示す摩擦試験により摩擦特性および摩耗特性を評価した。なお、テストピース基材に対してDLCコーティングを施さないものについても同様に評価を行い、参考例とした。結果を表1に示す。
【0029】
<摩擦試験>
ボール・オン・プレート往復式摩耗試験機(オプチモール社製、SRV型)を用い、下記の条件にて、試料油の摩擦試験を行った。
(1)テストピース:
ボール材:高炭素軸受鋼 SUJ2
ディスク(基材):SUJ2に1.2μmの膜厚でDLCコーティングを施した(水素濃度:1.0原子%)
(2)振幅:6mm
(3)振動数:2Hz
(4)荷重:10N
(5)温度:40℃
(6)試験時間:120min
(7)測定項目:120min経過後の動摩擦係数および摩耗痕幅
(8)測定方法:試験片球(鋼球)を前記テストピースの上で往復させ、動摩擦係数を測定するとともに、テストピース上の摩耗痕の広がり量を顕微鏡を用いてX(横)、Y(縦)方向を測定し、平均して摩耗幅(μm)を求めた。
【0030】
【表1】

【0031】
<注>
1)合成炭化水素(ポリ−αオレフィン)、100℃動粘度:5.6mm/s、粘度指数:136、硫黄分:0.001質量%以下
2)A1:MoDTC
(アルキルモリブデンジチオカーバメイト、アルキル基はC8、C13混合)
3)A2:MoDTC
(アルキルモリブデンジチオカーバメイト、アルキル基はC8)
4)A3:MoDTC
(アルキルモリブデンジチオカーバメイト、アルキル基はC13)
5)B1:過塩基性Caスルフォネート
(過塩素酸法塩基価(TBN):400mgKOH/g)
6)B2:過塩基性Caスルフォネート
(過塩素酸法塩基価(TBN):250mgKOH/g)
7)B3:過塩基性Caスルフォネート
(過塩素酸法塩基価(TBN):300mgKOH/g)
8)C1:ZnDTP
【0032】
〔評価結果〕
表1の結果から、本発明の潤滑油組成物である実施例1〜3の組成物は、摩擦指数が低く、耐摩耗性にも優れていることがわかる。一方、比較例1は(A)成分のみを配合した例であるが、摩擦係数は低くなるものの、耐焼付き性が不足し、摩耗巾が著しく増大している。比較例2は(B)成分のみを配合した例であり、摩耗巾は若干小さくなるものの、摩擦係数が高い。比較例3は、(B)成分は配合するものの、(A)成分に代えてZnDTPを配合した例であるが、摩擦係数が高い。比較例4は(A)成分と(B)成分をともに配合せず、(A)成分と同様の目的で配合されるZnDTPを配合した例であるが摩擦係数が高い。なお、参考例として、実施例1と同じ配合処方を用いて、鋼/鋼間で摩擦試験を行ったが、摩擦係数も高く、摩耗巾も大きい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の潤滑油組成物は、DLCコーティングを施した材料と金属との摩擦システムに好適に使用できる。例えば、前記した摩擦システムを有する変速機、内燃機関、ギア、油圧システム、およびタービンなどに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティング部材と金属部材との摺動部分に使用される潤滑油組成物であって、
潤滑油基油に、(A)有機モリブデン(Mo)化合物と、(B)Caスルフォネート、CaフェネートおよびCaサリシレートの中から選ばれる少なくとも一種の過塩基性Ca塩を配合してなり、
前記過塩基性Ca塩の過塩素酸法塩基価が150〜500mgKOH/gであることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の潤滑油組成物において、
前記DLCにおける水素含有量が20原子%以下であることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の潤滑油組成物において、
前記(A)成分がMoDTCであることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の潤滑油組成物において、
前記(B)成分がCaスルフォネートであることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の潤滑油組成物において、
前記(A)成分が、Mo量換算かつ組成物全量基準で50〜5000質量ppm配合されたことを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の潤滑油組成物において、
前記(B)成分が、Ca量換算かつ組成物全量基準で300〜6000質量ppm配合されたことを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の潤滑油組成物において、
前記潤滑油基油における硫黄分が0.03質量%以下、粘度指数が100以上、飽和分が90質量%以上であることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の潤滑油組成物において、
極圧剤、油性剤、酸化防止剤、分散剤および粘度指数向上剤の中から選ばれる少なくとも一種の添加剤が配合されたことを特徴とする潤滑油組成物。

【公開番号】特開2009−215406(P2009−215406A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59668(P2008−59668)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人日本トライボロジー学会が2007年9月10日に発行した『トライボロジー会議予稿集 佐賀 2007−9』
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】