説明

潤滑油

【課題】水分の親和性に優れ、水分が混入した場合でも乳化して、相分離による油膜の切断を防止し、これにより摺動部の焼付を防止でき、しかもマルチグレードの潤滑油として優れた粘度特性を有し、自動車駆動系用潤滑油などとして好適に使用可能な潤滑油を提供する。
【解決手段】本発明に係る潤滑油は、基油と、ヒドロキシル価が22〜37で、構造中に水酸基を有するポリ(メタ)アクリレートを含む粘度指数向上剤とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分の親和性に優れた潤滑油、特に自動車、農業用車両、建設機械等の車両の駆動系用潤滑油として好適に用いられる潤滑油に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両用や工業用に用いられる潤滑油としては、出来るだけ広い温度領域で粘度が変化しない高粘度指数の潤滑油が求められる。このような潤滑油としては、鉱油、合成油等の基油に、ポリ(メタ)アクリレート等の粘度指数向上剤を配合したものが用いられるが、高粘度指数の潤滑油を得るために、種々の官能基を有するポリ(メタ)アクリレートが用いられており、水酸基を有するポリ(メタ)アクリレートも用いられている。
【0003】
ところで潤滑油は、転がり接触系、滑り接触系等において、接触系を構成する要素間に油膜を形成して、しゅう動する要素間の干渉を防ぐように用いられる。このような潤滑系では、使用の際に装置内に水分が混入する可能性があるが、水分の混入により油膜が切れると、潤滑性能が低下する。このような潤滑性能の低下が生じないようにするために、装置にドレンコック等の分離水を除去する手段を設け、潤滑油として抗乳化性のものを用い、分離水を除去するのが一般的である。
【0004】
特許文献1(特開2005−290182)には、抗乳化性のポリ(メタ)アクリレートを含む粘度指数向上剤を用いて、水分離性を高くしたギヤ用潤滑油が提案されている。しかしここでは抗乳化性とするために、水酸基を有しないポリ(メタ)アクリレートが示されているだけであり、水酸基を有するポリ(メタ)アクリレートにより水分の親和性を付与した潤滑油を得ることは示されていない。
【0005】
また特許文献2(特開2007−197509)には、抗乳化性が高い潤滑油用スラッジ分散剤として、極性基を有するポリ(メタ)アクリレートを用いるものが提案され、極性基として水酸基も例示されている。しかしここで用いられる重合体は異なる単量体から構成される1種類の重合体であり、また極性基として水酸基を有するものの実施例は示されていない。この重合体はスラッジ分散性に優れる一方、水分離性が高いものが示されているだけであり、水酸基を有するポリ(メタ)アクリレートにより水分の親和性を付与した乳化性の潤滑油を得ることは示されていない。
【0006】
前述のように多くの潤滑系では、分離水を排出できる構造となっているため、ここで用いられる潤滑油は水分離性が高いものが要求される。これに対し自動車の駆動系は外部から水分が浸入しにくい構造になっているため、ドレンコック等の分離水を除去する手段は設けられていない。このような潤滑系でも浸水等の事故により外部から水分が浸入する場合があるが、少量の場合には使用を継続することにより、混入した水分は自然蒸発して除去されるように配慮されている。しかし潤滑油中に混入した水が大量の場合は、水は乳化せず相分離するが、この状態では油膜が切断されて潤滑性能が低下し、摺動部が水に漬かり簡単に焼付が生じるという問題点がある。
【0007】
またマルチグレードの潤滑油には、基油に粘度指数向上剤としてポリマーが添加されるが、このポリマーに要求される特性としては、1)高い増粘効果(粘度指数向上効果)、2)優れた低温粘度特性、3)優れたせん断安定性、などが上げられる。この他に、流動点降下機能も要求されるときもある。上記の1)から3)の項目は互いに深い繋がりを持った関係で、1)の増粘性を上げれば、3)のせん断安定性が一般に悪くなるが、これはポリマーの分子量が大きくなるためである。また2)はポリマーの種類、構造や分子量も関係する。
【0008】
近年、潤滑油には1)から3)までの機能が同時に要求されるが、1つのポリマーだけでこれらの機能を満たすことが難しくなって来た。例えば、せん断安定性を改善するために、低分子量のポリマーが使用されるが、その結果として、1)の増粘効果が悪くなり、多量にポリマーを使用しなければならない。その影響として製品のコストアップが起きるばかりでなく、粘度指数向上効果が満足できないことも発生する。すなわち、ポリマーを添加して増粘させるが、高温側(100℃)の増粘分αと低温側(40℃)の増粘分βの関係は、αがβに比べて大きければ、粘度指数向上効果が大きく、少ないポリマーの添加で所望の粘度グレードを実現できる。しかしαがβに比べて小さいと、低温側の増粘が高くなり過ぎても、高温側の増粘が目標に達せず、粘度指数向上効果が小さい結果、大量の添加が必要になったり、あるいは所望の粘度グレードが実現できなくなる問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−290182
【特許文献2】特開2007−197509
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記従来の問題点を解決するため、水分の親和性に優れ、水分が混入した場合でも乳化して、相分離による油膜の切断を防止し、これにより摺動部の焼付を防止でき、しかもマルチグレードの潤滑油として優れた粘度特性を有し、自動車、農業用車両、建設機械等の車両などの駆動系用潤滑油として好適に使用可能な潤滑油を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は次の潤滑油である。
(1) 基油と、
構造中に水酸基を有し、かつヒドロキシル価が22〜37のポリ(メタ)アクリレートを含む粘度指数向上剤と
を含むことを特徴とする潤滑油。
(2) 粘度指数向上剤が、構造中に水酸基を有するポリ(メタ)アクリレート50〜100質量部、および構造中に水酸基を有しないポリ(メタ)アクリレート50〜0質量部を含むものである上記(1)記載の潤滑油。
(3) 粘度指数向上剤のポリ(メタ)アクリレートが質量平均分子量5,000から50,000のものである上記(1)または(2)記載の潤滑油。
(4) 粘度指数向上剤の添加量は、希釈油を除いたネットポリマーとして潤滑油組成物の全重量を基準として1〜8質量%である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の潤滑油。
(5) 潤滑油が、極圧剤、摩耗防止剤、流動点降下剤、酸化防止剤、金属不活性剤、油性向上剤、消泡剤および防錆剤から選ばれる他の添加剤を含む上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の潤滑油。
(6) 潤滑油が車両の駆動系用として用いられるものである上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の潤滑油。
【0012】
本発明の潤滑油は水分の親和性に優れた潤滑油であり、特に自動車駆動系など、分離水を除去する手段は設けられていない潤滑系において、混入した水分を乳化して、相分離による油膜の切断を防止するような潤滑油として好適に用いられるものである。
【0013】
本発明で用いる基油は、潤滑油の基油として一般に用いられている基油が使用でき、その起源、精製方法等は制限されない。使用可能な基油としては、高度精製基油と呼ばれる鉱油、合成油などを使用することができる。API(American Petroleum Institute,米国石油協会)基油カテゴリーでグループ1、グループ2、グループ3、グループ4、グループ5などに属する基油が1種単独で、または複数種の混合物として、使用することができる。
【0014】
本発明で用いられる鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油などが潤滑油基油として例示できる。本発明で用いられる好ましい基油としては、高度水素化精製基油があげられる。
【0015】
上記の鉱油基油以外の潤滑油基油としては、特に限定されず、従来から使用されている合成油が使用でき、用途などに応じて適宜選択、選定し、鉱油と任意の比率で使用することができる。例えば、ポリ−α−オレフィン、α−オレフィンコポリマー、ポリブテン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、多価アルコールエステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、シクロアルカン系化合物などを挙げることができる。また、天然ガスからフィッシャートロプシュプロセス等により製造されるFTワックスを異性化する手法で製造される潤滑油基油等が例示できる。
【0016】
基油の粘度指数は特に制限されないが、低温から高温まで優れた粘度特性が得られるように、その値は90以上であることが好ましく、さらに好ましくは100以上であり、最も好ましくは110以上である。潤滑油基油の粘度指数が90未満の場合は、添加する粘度指数向上剤であるポリ(メタ)アクリレートの添加量が増加したり、分子量の大きなポリ(メタ)アクリレートを使用するためせん断安定性が悪化することがある。粘度指数の上限については特に制限はなく、ノルマルパラフィン、スラックワックス、GTL(ガストゥリキッド)ワックス等、あるいはこれらを異性化したイソパラフィン系鉱油のような120〜180程度のものや、コンプレックスエステル系基油やPAO(ポリα−オレフィン)系基油のような150〜250程度のものも使用することができる。
【0017】
基油の100℃における動粘度は2〜6mm2/sが好ましく、さらに好ましくは2〜5mm2/sである。100℃における動粘度が2mm2/s未満の場合には、潤滑箇所で油膜形成が不十分であるため潤滑性が劣り歯面の焼き付きや摩耗が心配され、また、基油の蒸発損失が大きくなることがある。
【0018】
基油の40℃における動粘度は5〜35mm2/sが好ましく、さらに好ましくは6〜27mm2/sである。40℃における動粘度が5mm2/s未満の場合には、潤滑箇所で油膜形成が不十分であるため潤滑性が劣り歯面の焼き付きや摩耗が心配され、また、基油の蒸発損失が大きくなる。
【0019】
上記の基油に配合する粘度指数向上剤は、構造中に水酸基を有し、かつヒドロキシル価が22〜37のポリ(メタ)アクリレートを含むものである。上記水酸基を含有するポリ(メタ)アクリレートとしては、水酸基を有する構造単位から構成される共重合体であって、炭素数1〜20のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートと、水酸基含有ビニル単量体を必須の構成単量体とする共重合体があげられる。本発明において、「(メタ)アクリ」は、「アクリ」または「メタクリ」を意味する。
【0020】
上記炭素数1〜20のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(a)として、具体的には、
(a1)炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート:例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−またはiso−プロピル(メタ)アクリレート、n−,iso−またはsec−ブチル(メタ)アクリレート、
【0021】
(a2)炭素数8〜20のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート:例えば、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−イソデシル(メタ)アクリレート、n−ウンデシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、2−メチルウンデシル(メタ)アクリレート、n−トリデシル(メタ)アクリレート、2−メチルドデシル(メタ)アクリレート、n−テトラデシル(メタ)アクレレート、2−メチルトリデシル(メタ)アクリレート、n−ペンタデシル(メタ)アクリレート、2−メチルテトラデシル(メタ)アクリレート、n−ヘキサデシル(メタ)アクリレート、およびn−オクタデシル(メタ)アクリレート、n−エイコシル(メタ)アクリレート、n−ドコシル(メタ)アクリレート、ドバノール23[三菱化学(株)製の炭素数12/炭素数13のオキソアルコール混合物]のメタクリレート、ドバノール45[三菱化学株式会社製の炭素数13/炭素数14のオキソアルコール混合物]のメタクリレートなど、
【0022】
(a3)炭素数5〜7のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート:例えば、n−ペンチル(メタ)アクリレートおよびn−ヘキシル(メタ)アクリレートなど、が挙げられる。
【0023】
上記単量体(a1)〜(a3)のうち好ましいのは、(a1)および(a2)に属する単量体であり、さらに好ましくは(a2)の単量体である。上記(a1)のうち好ましいのは、粘度指数の観点から、アルキル基の炭素数1〜2の単量体である。また上記(a2)のうち好ましいのは、基油への溶解性と低温特性の観点から、アルキル基の炭素数10〜20、さらに好ましくは炭素数12〜14の単量体である。
【0024】
上記した炭素数1〜20のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートと、共重合体を構成する水酸基含有ビニル単量体(b)は、分子中に1個またはそれ以上(好ましくは1または2個)の水酸基を含有するビニル単量体である。具体例としては、
(b1) ヒドロキシアルキル(炭素数2〜6)(メタ)アクリレート:例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2または3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1−メチル−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなど、
【0025】
(b2) モノ−またはジ−ヒドロキシアルキル(炭素数1〜4)置換(メタ)アクリルアミド:例えば、N,N−ジヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ−2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミドなど、
(b3)ビニルアルコール(酢酸ビニル単位の加水分解により形成される)、
【0026】
(b4)炭素数3〜12のアルケノール:例えば、(メタ)アリルアルコール、クロチルアルコール、イソクロチルアルコール、1−オクテノール、1−ウンデセノールなど、
(b5)炭素数4〜12のアルケンジオール:例えば、1−ブテン−3−オール、2−ブテン−1−オール、2−ブテン−1,4−ジオールなど、
(b6)ヒドロキシアルキル(炭素数1〜6)アルケニル(炭素数3〜10)エーテル:例えば、2−ヒドロキシエチルプロペニルエーテルなど、
【0027】
(b7)水酸基含有芳香族単量体:例えば、o−,m−またはp−ヒドロキシスチレンなど、
(b8)多価(3〜8価)アルコール:例えば、アルカンポリオール、その分子内もしくは分子間脱水物、糖類(例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ジグリセリン、蔗糖)のアルケニル(炭素数3〜10)エーテルもしくは(メタ)アクリレート(例えば、蔗糖(メタ)アリルエーテル)など、
【0028】
(b9)ポリオキシアルキレン鎖と水酸基を含有するビニル単量体:例えば、ポリオキシアルキレングリコール(アルキレン基の炭素数2〜4、重合度2〜50)もしくはポリオキシアルキレンポリオール{上記3〜8価のアルコールのポリオキシアルキレンエーテル(アルキル基の炭素数2〜4、重合度2〜100)}のモノ(メタ)アクリレートまたはモノ(メタ)アリルエーテル{例えば、ポリエチレングリコール(重合度2〜9)モノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(重合度2〜12)モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(重合度2〜30)モノ(メタ)アリルエーテル}などが挙げられる。
【0029】
上記単量体(b1)〜(b9)のうち、粘度指数向上効果の観点から、好ましいのは単量体(b1)、特に2−ヒドロキシエチルメタクリレートである。
【0030】
上記水酸基を含有するポリ(メタ)アクリレートの共重合体を構成する単量体(a)および単量体(b)の割合は、粘度指数の観点から以下のようになることが好ましい。
上記単量体(a)は、好ましくは50〜95質量%、さらに好ましくは75〜85質量%である。上記単量体(a)として単量体(a1)を用いる場合、単量体(a1)は、好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは1〜10質量%である。上記単量体(a)として単量体(a2)を用いる場合、単量体(a2)は、好ましくは50〜95質量%、さらに好ましくは70〜90質量%である。
【0031】
上記単量体(b)は、好ましくは5〜50質量%、さらに好ましくは7〜30質量%、特に好ましくは11〜15質量%である。
上記単量体(a)と単量体(b)の合計の割合は、好ましくは55〜100質量%、さらに好ましくは82〜100質量%であり、残部は以下の他の単量体とすることができる。
【0032】
上記水酸基を含有するポリ(メタ)アクリレートの共重合体に上記単量体(a)、単量体(b)と共に他の単量体を共重合させることができ、こうした他の単量体として、窒素原子含有単量体(c)がある。具体的には、
(c1)ニトロ基含有単量体:例えば、4−ニトロスチレンなど、
【0033】
(c2)1〜3級アミノ基含有ビニル単量体:例えば、
(c2−1)1級アミノ基含有ビニル単量体;例えば、炭素数3〜6のアルケニルアミン[(メタ)アリルアミン、クロチルアミンなど]、アミノアルキル(炭素数2〜6)(メタ)アクリレート[アミノエチル(メタ)アクリレートなど]、
(c2−2)2級アミノ基含有ビニル単量体;例えば、アルキル(炭素数1〜6)アミノアルキル(炭素数2〜6)(メタ)アクリレート[t−ブチルアミノエチルメタクリレート、メチルアミノエチル(メタ)アクリレートなど]、ジフェニルアミン(メタ)アクリルアミド[4−ジフェニルアミン(メタ)アクリルアミド、2−ジフェニルアミン(メタ)アクリルアミドなど]、炭素数6〜12のジアルケニルアミン[ジ(メタ)アリルアミンなど]、
【0034】
(c2−3) 3級アミノ基含有ビニル単量体、例えば、ジアルキル(炭素数1〜4)アミノアルキル(炭素数2〜6)(メタ)アクリレート[ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなど]、ジアルキル(炭素数1〜4)アミノアルキル(炭素数2〜6)(メタ)アクリルアミド[ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなど]、3級アミノ基含有芳香族ビニル系単量体[N,N−ジメチルアミノスチレン、など]、
(c2−4)含窒素複素環含有ビニル系単量体[モルホリノエチル(メタ)アクリレート、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルピロール、N−ビニルピロリドン、N−ビニルチオピロリドンなど]がある。
【0035】
(c3)両性ビニル単量体:
例えば、N−(メタ)アクリロイルオキシ(もしくはアミノ)アルキル(炭素数1〜10)N,N−ジアルキル(炭素数1〜5)アンモニウム−N−アルキル(炭素数1〜5)カルボキシレート(もしくはサルフェート)、例えば、N−(メタ)アクリロイルオキシエチルN,N−ジメチルアンモニウムN−メチルカルボキシレート、N−(メタ)アクリロイルアミノプロピルN,N−ジメチルアンモニウムN−メチルカルボキシレート、およびN−(メタ)アクリロイルオキシエチルN,N−ジメチルアンモニウムプロピルサルフェートなど、
(c4)ニトリル基含有単量体:例えば、(メタ)アクリロニトリルなど、がある。
【0036】
また、こうした他の単量体として、脂肪族炭化水素系ビニル単量体(d)がある。例えば、炭素数2〜20のアルケン[エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン、ペンテン、ヘプテン、ジイソブチレン、オクテン、ドデセン、オクタデセンなど]、および炭素数4〜12のアルカジエン[ブタジエン、イソプレン、1,4−ペンタジエン、1,6ヘプタジエン、1,7−オクタジエンなど]がある。
【0037】
さらに、脂環式炭化水素系ビニル単量体(e):例えば、シクロヘキセン、(ジ)シクロペンタジエン、ピネン、リモネン、インデン、ビニルシクロヘキセン、およびエチリデンビシクロヘプテンなどがある。
【0038】
また、芳香族炭化水素系ビニル単量体(f):例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4−ジメチルスチレン、4−エチルスチレン、4−イソプロピルスチレン、4−ブチルスチレン、4−フェニルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ベンジルスチレン、4−クロチルベンゼン、および2−ビニルナフタレンなどがある。
【0039】
そして、ビニルエステル、ビニルエーテル、ビニルケトン類(g):例えば、炭素数2〜12の飽和脂肪酸のビニルエステル[酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、オクタン酸ビニルなど]、炭素数1〜12のアルキル,アリールもしくはアルコキシアルキルのビニルエーテル[メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、ビニル2−メトキシエチルエーテル、ビニル2−ブトキシエチルエーテルなど]、および炭素数1〜8のアルキルもしくはアリールのビニルケトン[メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、フェニルビニルケトンなど]がある。
【0040】
さらに、不飽和ポリカルボン酸のエステル(h):例えば、不飽和ポリカルボン酸のアルキル,シクロアルキルもしくはアラルキルエステルが挙げられ、このうち不飽和ジカルボン酸[マレイン酸、フマール酸、イタコン酸など]の炭素数1〜8のアルキルジエステル[ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルマレエート、ジオクチルマレエート]などがある。
【0041】
また、ポリオキシアルキレン鎖含有ビニル単量体(水酸基を含まないもの)(i):例えば、ポリオキシアルキレングリコール(アルキレン基の炭素数2〜4、重合度2〜50)もしくはポリオキシアルキレンポリオール[上記3〜8価のアルコールのポリオキシアルキレンエーテル(アルキル基の炭素数2〜4、重合度2〜100)]のモノアルキル(炭素数1〜18)エーテルのモノ(メタ)アクリレート[例えば、メトキシポリエチレングリコール(分子量110〜310)(メタ)アクリレート、ラウリルアルコールエチレンオキシド付加物(2〜30モル)(メタ)アクリレートなど]を用いることもできる。
【0042】
そして、カルボキシル基含有ビニル単量体(j):例えば、モノカルボキシル基含有ビニル単量体、例えば、不飽和モノカルボン酸[(メタ)アクリル酸、α−メチル(メタ)アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸など]、不飽和ジカルボン酸のモノアルキル(炭素数1〜8)エステル[マレイン酸モノアルキルエステル、フマール酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステルなど];2個以上のカルボキシル基を含有するビニル単量体、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などを共重合用の単量体として用いることができる。
【0043】
上記した追加的な単量体(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、(j)のうち、好ましいのは単量体(c)であり、単量体(c)のうちの2種以上を併用することもできる。上記単量体(c)のうち、好ましいものは単量体(c2)、さらに好ましいものはジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、およびジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートである。
【0044】
上記の水酸基を含有するポリ(メタ)アクリレートの質量平均分子量は、好ましくは10,000〜50,000、さらに好ましくは7,500〜35,000、特に好ましくは5,000〜30,000である。質量平均分子量が上記範囲であると良好なせん断安定性を与えることができる。なお、この質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィーによるものであり、ポリスチレンに換算して求めたものである。また、上記質量平均分子量は、重合時の温度、単量体濃度(溶媒濃度)、触媒量または連鎖移動剤量などにより調整することができる。
【0045】
この水酸基を含有するポリ(メタ)アクリレートの分散度(Mw/Mn)は、好ましくは1〜2.5、さらに好ましくは1.2〜2、特に好ましくは1.5〜1.7である。分散度が小さい方が、せん断安定性が良好である。なお、数平均分子量(Mn)は、質量平均分子量(Mw)と同様にして求めたものである。
【0046】
この水酸基を含有するポリ(メタ)アクリレートの溶解性パラメーターは、好ましくは8.6〜11、さらに好ましくは9.2〜10.5、特に好ましくは9.3〜9.7である。溶解性パラメーター値が上記範囲内では、基油への溶解性がさらに良好になる。なお、この溶解性パラメーター値は、Fedors法(Polym.Eng.Sci.14(2)、152,(1974)によって算出したものである。
【0047】
さらに、水酸基を含有するポリ(メタ)アクリレートのHLBは、好ましくは0.5〜7、さらに好ましくは1〜6.5、特に好ましくは1.5〜6である。HLBがこの範囲内にあると乳化性が特に良好である。このHLB値は、有機性無機性の概念に基づく小田法のHLB(「新・界面活性剤入門」三洋化成工業株式会社発行、P128)によって算出される値である。
【0048】
粘度指数向上剤として使用する、水酸基を含有するポリ(メタ)アクリレートのヒドロキシル価は22〜37、好ましくは25〜35、より好ましくは28〜33である。ヒドロキシル価の測定はJIS K3342(1961)に準拠して測定をして得られる数値で、添加剤中の水酸基の量を示す値である。
【0049】
本発明の粘度指数向上剤は、上記の構造中に水酸基を含有するポリ(メタ)アクリレートを含むものであり、構造中に水酸基を含有するポリ(メタ)アクリレートのみを含むものでもよいが、構造中に水酸基を有するポリ(メタ)アクリレートと、構造中に水酸基を有しないポリ(メタ)アクリレートとを含むものが好ましい。構造中に水酸基を有しないポリ(メタ)アクリレートとしては、潤滑油の粘度指数向上剤として一般に用いられているものが用いられ、例えば前記単量体(a)の1種または2種以上の重合体があげられる。
【0050】
構造中に水酸基を有するポリ(メタ)アクリレートと、構造中に水酸基を有しないポリ(メタ)アクリレートとを含む場合、構造中に水酸基を有するポリ(メタ)アクリレート50〜100質量部、好ましくは60〜100質量部、さらに好ましくは70〜100質量部、および構造中に水酸基を有しないポリ(メタ)アクリレート50〜0質量部、好ましくは40〜0質量部、さらに好ましくは30〜0質量部である。
【0051】
上記の粘度指数向上剤を基油に配合して潤滑油が形成されるが、粘度指数向上剤の添加量は、希釈油を除いたネットポリマーとして、潤滑油組成物の全重量を基準として1〜8質量%、好ましくは1〜6質量%である。
【0052】
粘度指数向上剤を基油に配合した潤滑油は、粘度指数が90〜220、好ましくは100〜200、100℃における動粘度は4〜13mm2/sが好ましく、さらに好ましくは6〜10mm2/s、40℃における動粘度は20〜61mm2/sが好ましく、さらに好ましくは38〜48mm2/sであり、特にSAEの粘度グレードが75W/80から75W/85が好ましく、このような粘度特性を有する潤滑油が得られるように、粘度指数向上剤を配合する。
【0053】
本発明の潤滑油組成物には、潤滑油用の添加剤として一般的に用いられている他の添加剤を配合することができ、例えば一般的な極圧剤、摩耗防止剤、流動点降下剤、酸化防止剤、金属不活性剤、油性向上剤、消泡剤、防錆剤ならびにその他の公知の潤滑油用添加剤を挙げることができる。
【0054】
本発明の潤滑油に添加する極圧剤としては、硫黄系極圧剤、リン系極圧剤、硫黄−リン系極圧剤あるいはこれらの混合物を含有することができる。
硫黄系添加剤としては、硫化オレフィンで代表される炭化水素サルファイド化合物および硫化油脂からなる群より選択される少なくとも一種の硫黄化合物を含有する添加剤を挙げることができる。
【0055】
炭化水素サルファイド化合物としては、モノサルファイド化合物、ジサルファイド化合物、トリサルファイド化合物、ポリサルファイド化合物を包含する。特に好適なポリサルファイド化合物は、硫化オレフィン(ジイソブチレンポリサルファイド)である。硫化オレフィンとしては、ポリイソブチレン等のオレフィン類を硫化剤により硫化して得られるものを用いることができ、本発明に係る潤滑油組成物には硫黄元素として1〜5重量%、特に15〜3重量%のポリサルファイドが好適である。
また、硫化油脂としては、油脂類と硫黄との反応生成物を挙げることができ、硫黄元素含有量が5〜20重量%のものが用いられる。
このような硫黄系添加剤は、潤滑油組成物の全重量を基準で、硫黄元素量として、1〜5質量%の範囲で配合され、特に好ましい配合量は、1.5〜3質量%である。
【0056】
リン系極圧剤としては、リン酸エステル、亜リン酸エステル、及びこれらのアミン塩等が挙げられる。リン酸エステル、亜リン酸エステルは、モノ、ジ、トリエステルのいずれでもよく、そのアルコール残基としては、炭素数4〜30のアルキル基、例えば、ブチル、オクチル、ラウリル、ステアリル、オレイル基など、炭素数6〜30のアリール基、例えば、フェニル基など、炭素数7〜30のアルキル置換アリール基、例えば、メチルフェニル、オクチルフェニル基などが挙げられる。
【0057】
硫黄‐リン系極圧剤としては、上記の硫黄系極圧剤とリン系極圧剤とを組みあわせて配合したものや、硫黄‐リン系化合物が挙げられる。
硫黄‐リン系化合物としては、チオリン酸エステル系化合物が挙げられる。チオリン酸エステル類は、モノ、ジ、トリエステルのいずれでもよく、そのアルコール残基としては炭素数4〜30のアルキル基、例えば、ブチル、オクチル、ラウリル、ステアリル、オレイル基など、炭素数6〜30のアリール基、例えば、フェニル基など、炭素数7〜30のアルキル置換アリール基、例えば、メチルフェニル、オクチルフェニル基などが挙げられる。
【0058】
これらのリン系添加剤は、1種または2種以上を用いることができ、その配合量は、潤滑油組成物全重量基準で、リン量として0.05〜0.3質量%、好ましくは0.1〜0.25質量%の範囲で用いられる。リン系添加剤は、摩耗防止効果が大きく、硫黄系添加剤の極圧剤としての効果を増進する助剤としての作用も有しており、酸性リン酸エステル、酸性亜リン酸エステルのアミン塩は、特にギヤの摩耗防止性に優れたものである。
【0059】
本発明において使用できる摩耗防止剤としては、Zn−ジアルキルジチオリン酸、Zn−ジアルキルジチオカルバメート、Mo−ジアルキルジチオフォスフェート、Mo−ジアルキルジチオカルバメート等の有機金属系化合物等が挙げられる。これらは、単独または複数組み合わせて用いてもよく、潤滑油組成物の全重量を基準で、0.01〜5質量%配合することができる。
【0060】
本発明において使用できる流動点降下剤としては、例えばポリメタクリレート系のポリマーが挙げられる。その添加量は、潤滑油の全量基準で、0.01〜5質量%の範囲で単独で、または複数組合わせて使用できる。流動点降下剤として用いられるポリメタクリレートは、通常平均分子量、が100,000程度で分子量分布が小さいものであり、側鎖のアルキル基の長さにより、流動点の向上効果が異なるので、流動点が高い基油には、側鎖の長いものが、低流動点基油には側鎖の短いものが効果的である。
【0061】
本発明において使用できる酸化防止剤としては、例えばアミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤を挙げることができる。これらの酸化防止剤は、通常潤滑油に実用的に使用されるものがそのまま使用できる。これらの酸化防止剤は、潤滑油の全量基準で、0.01〜5質量%の範囲で単独で、または複数組合わせて使用できる。
【0062】
本発明において使用できる金属不活性剤としては、例えばベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体などが挙げられる。これらの金属不活性剤は、潤滑油の全量基準で、0.01〜0.5質量%の範囲で単独で、または複数組合わせて使用できる。
【0063】
本発明において使用できる油性向上剤としては、例えば多価アルコールの脂肪酸エステルを配合することができる。例えば、グリセロール、ソルビトール、アルキレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、キシリトール等の多価アルコールの炭素数1〜24の飽和または不飽和脂肪酸の部分または完全エステルを用いることができる。これらの油性向上剤は、潤滑油の全量基準で、0.01〜5質量%の範囲で単独で、または複数組合わせて使用できる。
【0064】
本発明において消泡性を付与するために、使用できる消泡剤としては、例えばジメチルポリシロキサン、ジエチルシリケート、フルオロシリコーン等のオルガノシリケート類、ポリアルキルアクリレート等の非シリコーン系消泡剤が挙げられる。これらの消泡剤は、潤滑油の全量基準で、0.0001〜0.1質量%の範囲で単独で、または複数組合わせて使用できる。
【0065】
本発明において使用できる防錆剤としては、例えば、主として防錆効果を有する酸アミド、ザルコシン酸、アスパラギン酸誘導体、コハク酸エステル、あるいはスルホネート系から選ばれる少なくとも1種の添加剤が使用できる。これらの防錆剤は、潤滑油の全量基準で0.01〜0.1質量%の範囲で単独でまたは複数組合わせて使用できる。
【0066】
本発明の潤滑油は、前記基油に前記粘度指数向上剤を配合し、さらに必要に応じて添加する他の添加剤を配合し、前記粘度指数および動粘度となるように添加剤の量、組合せ等を選択して製造される。また本発明の潤滑油は、JISK2520に基づく、乳化度が、30分後でも乳化層が60以上であることが好ましい。
【0067】
こうして製造される本発明の潤滑油は、一般の潤滑系において、一般の潤滑油と同様に使用することができるが、特に自動車、農業用車両、建設機械等の車両の駆動系のように、分離水を除去する手段は設けられていない潤滑系における潤滑油として用いるのに適している。このような分離水を除去する手段は設けられていない潤滑系において本発明の潤滑油を使用すると、水分が浸入した場合でも、乳化により相分離することがなく、これにより摺動部の焼付を防止することができる。自動車、農業用車両、建設機械等の車両の駆動系は、エンジンから車輪や無限軌道に至る動力伝達系であり、手動変速機やデファレンシャル装置あるいは自動変速機のようなしゅう動部を含む系である。
【0068】
潤滑油に水分が浸入て乳化すると、若干潤滑油の粘度特性が低下するが、本発明の潤滑油は前記粘度指数向上剤を配合することにより、マルチグレードの潤滑油として優れた粘度特性を有しているので、若干粘度特性が低下しても、自動車等の車両の駆動系用潤滑油として使用可能な粘度特性を維持することができる。潤滑油に混入した水分は使用中に蒸発して除去され、潤滑油の粘度特性は回復し、長期にわたって使用可能である。
【発明の効果】
【0069】
本発明の潤滑油は、基油に、構造中に水酸基を有し、かつヒドロキシル価が22〜37のポリ(メタ)アクリレートを含む粘度指数向上剤を配合することにより、水分の親和性に優れ、水分が混入した場合でも乳化して、相分離による油膜の切断を防止し、これにより摺動部の焼付を防止でき、しかもマルチグレードの潤滑油として優れた粘度特性を有し、自動車、農業用車両、建設機械等の車両などの駆動系用潤滑油として好適に使用可能な潤滑油を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0070】
以下本発明について、参考例、実施例および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。各例における%は重量%であり、試験方法は次の通りである。
【0071】
(1)動粘度(Vk40):JIS−K−2283による40℃の動粘度(mm/s)
(2)動粘度(Vk100):JIS−K−2283による100℃の動粘度(mm/s)
(3)粘度指数:JIS−K−2283による粘度指数
【0072】
〔乳化性試験方法〕:
潤滑油の水との乳化性を評価するもので、JIS K2520の水分離性試験方法に準拠している。
試験条件1:水(60ml)+試験油(20ml)を試験用容器に移し、54℃±1℃に温度調節を行っている恒温水槽に、少なくとも30分間は静置して安定させる。温度が安定したら、攪拌板をサンプルの入った容器に挿して、1500rpmで5分間攪拌させ、攪拌が終了してからどのくらいの時間、乳化状態を維持できるか乳化層の定量評価をする。
試験条件2:試験条件1のサンプルを水(40ml)+試験油(40ml)とし、静置時間を20または30分間にする他は、試験条件1と同様の試験手順、評価基準による。
【0073】
〔4球摩耗試験〕:
シェル式四球試験機により、玉軸受用鋼球を用い、回転数1200rpmおよび1500rpm、荷重400N、温度75℃(1200rpm)、温度80℃(1500rpm)で時間30分の条件で実施し、固定球の摩耗痕径を求めた。なお実施例と比較例の新油および乳化性試験を行った乳化油についても摩耗試験に供した。
【0074】
また各例において用いた基油および添加剤は次の通りである。
基油A:高度水素化精製基油、100℃における動粘度;約4mm/s、40℃における動粘度;19.5mm/s、粘度指数;123。
水酸基含有ポリメタクリレート(PA):ヒドロキシル価;28、数平均分子量;10,000、質量平均分子量;15,000、ポリマー純分(ネットポリマー);54質量%。
水酸基非含有ポリメタクリレート(PB):アクルーブ728(三洋化成工業株式会社製、商標)、数平均分子量;22,000、質量平均分子量;40,000、ポリマー純分;30質量%。
水酸基非含有ポリメタクリレート(PC):アクルーブ504(三洋化成工業株式会社製、商標)、数平均分子量;70,000、質量平均分子量;180,000、ポリマー純分;20質量%。
硫黄−リン系極圧剤:アングラモール99(ルーブリゾール社製、商標)。
流動点降下剤:ルブランVI-721(東邦化学(株)製、商標)。
【実施例】
【0075】
〔参考例1〕:
上記の基油Aに、水酸基含有ポリメタクリレート(PA)を20重量%を混合した試料を、上記の試験条件1に従って乳化性試験を行い、乳化状態を評価した。攪拌乳化後、30分後の乳化層は70mlであった。
【0076】
〔参考例2〕:
上記の基油Aに、水酸基含有ポリメタクリレート(PA)を15重量%と、水酸基を含有しない通常のポリメタクリレート(PB)を2.5重量%を混合した試料を、上記の試験条件1に従って評価を行った。攪拌乳化後、30分後の乳化層は67mlであった。
【0077】
〔比較参考例1〕:
上記の基油Aに、水酸基を含有しない通常のポリメタクリレート(PB)を10重量%を混合した試料を、上記の試験条件1に従って評価を行った。攪拌乳化後、30分後の乳化層は0mlであった。
【0078】
上記参考例および比較参考例の結果を表1に示すが、参考例1および参考例2は、乳化層が60mL以上を示すのに対して、水酸基含有ポリメタクリレート(PA)を含まない比較参考例1は全く乳化層が生成しなかった。
【0079】
【表1】

【0080】
〔実施例1〜3〕:
実施例1〜3の潤滑油として、粘度グレードが75W/80となるように、水酸基含有ポリメタクリレート(PA)を10%、水酸基を含有しない通常のポリメタクリレート(PC)を7.5重量%、流動点降下剤を1%、さらに硫黄−リン系極圧剤を、APIのサービス分類に基づくギヤ油の性能分類で、GL−3(実施例1)、GL−4(実施例2)およびGL−5(実施例3)の添加量で混合して潤滑油を製造した。これらの潤滑油について、100℃における動粘度(Vk100)、40℃における動粘度(Vk40)、および粘度指数(VI)を測定するとともに、前記4球摩耗試験により、温度75℃(1200rpm)、温度80℃(1500rpm)の摩耗痕径(mm)を求めた。上記の結果を表2に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
〔比較例1〜3〕:
実施例1〜3において、水酸基含有ポリメタクリレート(PA)を配合せず、通常のポリメタクリレート(PC)だけを配合して比較例1〜3の潤滑油を製造した。これらの潤滑油について、同様に100℃における動粘度(Vk100)、40℃における動粘度(Vk40)、および粘度指数(VI)を測定するとともに、前記4球摩耗試験により、温度75℃(1200rpm)、温度80℃(1500rpm)の摩耗痕径(mm)を求めた。上記の結果を表3に示す。
【0083】
【表3】

【0084】
上記表1および表2の結果より、実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、および実施例3と比較例3は極圧剤添加量が同じであるが、磨耗条件が同じこれらの例を比較すると、4球摩耗試験の2つの試験条件ともに、水酸基含有ポリメタクリレート(PA)を添加した実施例1〜3の方が、比較例1〜3よりも耐摩耗性に優れる結果が得られた。
【0085】
上記実施例1と比較例1の潤滑油について、前記乳化性試験の試験条件2に従って乳化させた後に4球摩耗試験(温度75℃(1200rpm))を行った結果、ならびに乳化20または30分後の乳化(分離)状態を表4に示す。
【0086】
【表4】

【0087】
表4に示すように、実施例1では、水を入れない場合(表2)より摩耗痕径は大きくなったが、比較例1では回転直後に焼付いてしまった。これは実施例1では、水が完全に乳化しているため、油膜が形成されたのに対して、比較例1では、油水が分離して、摺動部分に油膜が形成されなかったためであると推測される。この結果、本発明の潤滑油は、水を取り込んで乳化した結果、焼付きを防げたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、一般の潤滑系における潤滑油として使用でき、特に自動車、農業用車両、建設機械等の車両の駆動系用潤滑油などのように、分離水を除去する手段は設けられていない潤滑系における潤滑油として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、
構造中に水酸基を有し、かつヒドロキシル価が22〜37のポリ(メタ)アクリレートを含む粘度指数向上剤と
を含むことを特徴とする潤滑油。
【請求項2】
粘度指数向上剤が、構造中に水酸基を有するポリ(メタ)アクリレート50〜100質量部、および構造中に水酸基を有しないポリ(メタ)アクリレート50〜0質量部を含むものである請求項1記載の潤滑油。
【請求項3】
粘度指数向上剤のポリ(メタ)アクリレートが質量平均分子量5,000から50,000のものである請求項1または2記載の潤滑油。
【請求項4】
粘度指数向上剤の添加量は、希釈油を除いたネットポリマーとして潤滑油組成物の全重量を基準として1〜8質量%である請求項1ないし3のいずれかに記載の潤滑油。
【請求項5】
潤滑油が、極圧剤、摩耗防止剤、流動点降下剤、酸化防止剤、金属不活性剤、油性向上剤、消泡剤および防錆剤から選ばれる他の添加剤を含む請求項1ないし4のいずれかに記載の潤滑油。
【請求項6】
潤滑油が車両の駆動系用として用いられるものである請求項1ないし5のいずれかに記載の潤滑油。

【公開番号】特開2010−285471(P2010−285471A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138099(P2009−138099)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】