説明

濃度定量装置及び濃度定量方法並びにプログラム

【課題】照射部と観測対象との密着状態を、精度良く測定し、確認することで、任意の層における目的成分の濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量することができる濃度定量装置及び濃度定量方法並びにプログラムを提供する。
【解決手段】本発明の濃度定量装置100は、照射部106と、受光部107と、光路長分布記憶部103と、光路長取得部108と、時間分解波形記憶部105と、照射部106と観測対象とが密着状態であるか否かを判定する密着判定部111と、密着判定部111が照射部106と観測対象とが密着状態であると判定した場合に、受光部107が受光した光の強度を取得する計測光強度取得部113と、任意の層の目的成分の吸収係数を算出する吸収係数算出部117と、吸収係数算出部117が取得した吸収係数に基づいて任意の層の目的成分の濃度を算出する濃度算出部120とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の層により構成される観測対象のうち、任意の層における目的成分の濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量する濃度定量装置及び濃度定量方法並びにプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国は飽食の時代にあって、糖尿病の患者が毎年増加し続けている。そのために、糖尿病性腎炎の患者も毎年増加し続けることとなり、その結果、慢性腎不全の患者も毎年1万人もの増加を続け、患者数は28万人を超えるようになってきている。
一方、高齢化社会の到来により、予防医学に対する要求の高まりを受けて、個人における代謝量管理の重要性が急速に増大している。中でも、血糖値測定は、食前や食後の血糖値を測定することで糖代謝の反応が分かることが知られており、糖尿病のごく初期段階での糖代謝の反応を評価することで、糖尿病の早期診断に基づく早期治療が可能になる。
【0003】
従来、血糖値の測定は、腕あるいは指先等の静脈から採血を行い、この血液中のグルコースに対する酵素活性を測定することで行っている。しかし、このような血糖値の測定方法では、採血が煩雑であり、しかも採血に痛みを伴い、さらには感染症の危険性を伴う等の様々な問題がある。
また、血糖値を連続的に測定する方法としては、静脈に注射針を刺した状態で連続的に血糖値相応のグルコースの定量を行う機器が米国にて開発されており、現在臨床試験中である。しかし、静脈に注射針を刺したままにしているために、血糖値の測定中に針が抜ける危険性や感染症の危険性がある。
そこで、採血無しに頻繁に血糖値を測定することができ、しかも感染症の危険性が無い血糖値の測定装置の開発が求められている。さらには、簡単にかつ常時装着可能であり、小型化可能な血糖値の測定装置の開発が求められている。
【0004】
近赤外の連続光を用いて非侵襲的に血糖値を測定する装置としては、分子吸光の原理を用いた一般的な分光分析測定の原理を適用した装置が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
この装置は、皮膚の赤外スペクトルを用いて生体成分濃度の定量をおこなう場合に、皮下脂肪の影響を受けて生体成分濃度の定量に誤差が生じることに対応したもので、より具体的には、皮膚に近赤外の連続光を照射し、その光吸収量からグルコースの濃度を算出する装置である。
この装置では、予めグルコース濃度と照射する近赤外光の波長と光の吸収量との関係を示す検量線を作成しておき、皮膚に近赤外の連続光を照射し、この皮膚からの戻り光をモノクロメーター等を用いてある波長域を走査し、その波長域の各波長に対する光の吸収量を求め、この各波長における光の吸収量と検量線とを比較することで、血液中のグルコース濃度、すなわち血糖値を算出している。
【0005】
また、1700nm〜1800nmの波長範囲から選択した皮下脂肪の特異吸収波長での吸光度から、皮膚の性状の分類を行い、「皮膚厚さ」の代用特性として検量式を選択している。
さらには、予備的に近赤外の受光部と発光部との間隔を650μmとして推定した「皮膚厚さ」を1.2mm以上、1.2mm未満のいずれかに判断し、受光部と発光部との間隔を650μm、300μmのいずれかに選択した後に検量式を選択している。
【0006】
一方、近赤外光を用いた生体診断としては、例えば、時間分解計測法を用いた生体組織イメージングにより皮膚主成分における近赤外光の吸収量を測定し、この吸収量を基に皮膚主成分の各割合、例えば、血糖相応のグルコース濃度を求める方法が知られている。
この皮膚主成分の吸収量には波長依存性があるので、通常、予め皮膚主成分の定量に影響を及ぼす変動要因を多変量解析で複数の割合で変化させた複数のスペクトラムを作製しておき、皮膚主成分における近赤外光の吸収量の測定結果のスペクトルを上記の複数のスペクトラムと比較し、これらのスペクトラムから一致するスペクトラムを選ぶことにより、皮膚主成分の各割合を推定する方法が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3931638号公報
【特許文献2】特許第3994588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の近赤外の連続光を用いた非侵襲的に血糖値を測定する装置では、特定深さを通過する経路の光の吸収量のみを測定することができず、したがって、特定深さの皮膚主成分における血糖相応のグルコース濃度を精度よく定量することができないという問題点があった。
また、特許文献1の装置では、皮膚表面から皮下脂肪までの深さを「皮膚厚さ」として、皮下脂肪の特異吸収波長での吸光度から皮膚の性状を分類すること、例えば、皮膚表面から皮下脂肪までの深さを「皮膚厚さ」として代用することには、(1)皮膚の真皮と皮下組織の境界は、皮膚の表面からの深さとして均一では無いこと、(2)真皮には脂肪を分泌する汗腺があって脂肪分泌物を蓄えていること、(3)皮下脂肪の特異吸収波長での吸光度から皮膚の性状の分類を行う場合、真皮の細胞及び間質液には脂肪が含まれているので、真皮と皮下脂肪との区別が難しい、等の理由により問題点があった。
【0009】
一般に、皮膚の赤外スペクトルを用いて生体成分濃度の定量を行う場合、受光部と発光部との間隔によって定まるバナナシェイプ特性により、皮膚内での光路の皮膚表面からの深さが概ね推定される。例えば、受光部と発光部との間隔を650μmとすれば、光路の皮膚表面からの深さは325μmと推定され、また、受光部と発光部との間隔を300μmとすれば、光路の皮膚表面からの深さは150μmと推定される。
しかしながら、特許文献1の装置では、上記の理由等により、皮膚の赤外スペクトルを用いて生体成分濃度の定量を行う部位を特定することができず、したがって、真皮中で間質成分の一つとしてグルコースが存在している網状層(Stratum reticulare)を特定部位として、この特定部位を透過する光路での吸光度を選択的に測定することはできない。
【0010】
そこで、近赤外線の照射部及び受光部を備えたセンシング部と、このセンシング部を100〜750gf/cmの接触圧力にて皮膚に接触させる保持手段と、このセンシング部と皮膚表面との接触圧力を測定する測定手段と、この接触圧力が適正接触圧力となったときにその旨を知らせる告知手段とを備えた血糖値測定装置が考えられるが、この血糖値測定装置においても、照射部から皮膚内へ光が入射する状態、及び皮膚から後方散乱する光が受光部へ入射する状態を測定することができないので、計測光強度波形に基づいた適正な密着状態を判断し、その旨を告知することができない。
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、照射部と観測対象との密着状態を、精度良く測定し、確認することで、任意の層における目的成分の濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量することができる濃度定量装置及び濃度定量方法並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の濃度定量装置及び濃度定量方法並びにプログラムを採用した。
すなわち、本発明の濃度定量装置は、複数の層により構成される観測対象のうち、任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置であって、前記観測対象に短時間パルス光を照射する照射部と、前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光する受光部と、前記観測対象に対して照射する短時間パルス光の、前記複数の層の各々の層における光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶部と、前記光路長分布のモデルの所定の時刻における、前記複数の層の各々の層の光路長を取得する光路長取得部と、前記観測対象に対して照射する短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶部と、時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光強度を取得する光強度モデル取得部と、前記照射部から前記観測対象へ短時間パルス光の予備照射を行うことにより、前記照射部から前記観測対象へ照射される短時間パルス光の照射量を制御する照射量制御部と、前記照射量制御部により前記短時間パルス光の照射量が制御された後に、前記短時間パルス光の前記観測対象への入射開始時刻を基準として前記受光部が受光する時刻毎の光強度を測定し、前記受光部が前記観測対象からの後方散乱光を検出し始める時刻と強度との関係に基づき、前記照射部と前記観測対象とが密着状態であるか否かを判定する密着判定部と、前記密着判定部が前記照射部と前記観測対象とが密着状態であると判定した場合に、前記受光部が受光した前記光の強度を取得する光強度取得部と、前記光強度取得部が取得した前記光の強度の光強度分布と、前記光路長取得部が取得した前記複数の層の各々の層の光路長と、前記光強度モデル取得部が取得した光強度モデルとに基づいて、前記任意の層の吸収係数を算出する吸収係数算出部と、前記吸収係数算出部が算出した吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出部と、を備えてなることを特徴とする。
【0013】
本発明の濃度定量装置では、照射量制御部により、照射部から観測対象へ短時間パルス光の予備照射を行うことにより、照射部から観測対象へ照射される短時間パルス光の照射量を制御し、この照射量制御部により短時間パルス光の照射量が制御された後に、密着判定部により、照射部が出力する短時間パルス光の観測対象への入射開始時刻を基準として受光部が受光する時刻毎の光強度を測定し、受光部が観測対象からの後方散乱光を検出し始める時刻と強度との関係に基づき、照射部と観測対象とが密着状態であるか否かを判定し、密着判定部が照射部と観測対象とが密着状態であると判定した場合に、光強度取得部により、受光部が受光した後方散乱光の強度を取得する。
その後、照射量制御部により、照射部から観測対象へ短時間パルス光の予備照射を行うことにより、照射部から観測対象へ照射される短時間パルス光の照射量を制御することができる。
特に、この短時間パルス光の照射量の低減の度合いを、人体が短時間パルス光の照射により受ける被爆量を考慮して、濃度測定時に照射する光出力に対して1/1000〜1/10の範囲内に設定することにより、人体が短時間パルス光を照射される際の被爆量を少なくすることができ、かつ、照射部が出力する短時間パルス光の観測対象へ密着させられた安定な状態で、測定を行うことができ、測定精度を高めることができる。
このように、密着判定部により照射部と観測対象とが密着状態であるか否かを判定し、この密着判定部が照射部と観測対象とが密着状態であると判定した場合に、光強度取得部により、受光部が受光した後方散乱光の強度を取得することにより、照射部と観測対象との密着状態を速やかかつ容易に確認することができ、定量を行う特定部位である任意の層における目的成分の吸収係数、すなわち目的成分の濃度を速やかかつ容易に測定することができ、その結果、任意の層における目的成分の濃度を、非侵襲的にかつ速やかに定量することができる。
【0014】
本発明の濃度定量装置は、前記密着判定部は、前記受光部が受光する時刻毎の光強度として、前記観測対象の表面を伝搬する直接伝搬光の強度と前記観測対象からの後方散乱光の強度を選択し、前記直接伝搬光の強度が前記後方散乱光の強度の1/10以下の場合に、前記照射部と前記観測対象とが密着状態であると判定することを特徴とする。
【0015】
本発明の濃度定量装置では、受光部が受光する時刻毎の光強度として、観測対象の表面を伝搬する直接伝搬光の強度と観測対象からの後方散乱光の強度を選択し、直接伝搬光の強度が後方散乱光の強度の1/10以下の場合に、照射部及び受光部と観測対象とが密着状態であると判定する。
このように、直接伝搬光の強度が後方散乱光の強度の1/10以下の場合に、照射部と観測対象とが密着状態であると判定することで、直接伝搬光の強度と後方散乱光の強度との比を用いて、照射部と観測対象との密着状態を容易かつ簡便に判定することができる。
したがって、目的成分の濃度を速やかかつ簡便に測定することができ、その結果、任意の層における目的成分の濃度を、非侵襲的にかつ速やかに定量することができる。
【0016】
本発明の濃度定量装置は、前記密着判定部に、前記照射部と前記観測対象とが密着状態であるか否かを判定した結果を告知する告知部を備えていることを特徴とする。
この濃度定量装置では、密着判定部に、照射部及び受光部と観測対象とが密着状態であるか否かを判定した結果を告知する告知部を備えたことにより、照射部及び受光部と観測対象とが密着状態であるか否かを速やかかつ容易に知ることができる。
【0017】
本発明の濃度定量装置は、前記密着判定部は、前記照射部と前記観測対象とが密着状態であるか否かを連続的に判定し、前記照射部と前記観測対象とが密着状態と判定した場合に、前記光強度取得部により、前記受光部が受光した前記光の強度を取得し、前記照射部と前記観測対象とが密着状態ではないと判定した場合に、前記照射量制御部により前記照射部から前記観測対象へ短時間パルス光の予備照射を行うことにより、前記照射部から前記観測対象へ照射される短時間パルス光の照射量を制御し、前記照射部と前記観測対象とが密着状態であるか否かを再度判定することを特徴とする。
この濃度定量装置では、密着判定部及び照射量制御部により、照射部から観測対象へ照射される短時間パルス光の照射量の制御、及び照射部と観測対象との密着状態を連続的にモニタリングすることで、照射部と観測対象とが密着状態となった時点での観測対象からの後方散乱光の強度を速やかに取得することができる。
【0018】
本発明の濃度定量装置は、前記光強度取得部が取得した前記光の強度の光強度分布と、前記光路長取得部が取得した前記複数の層の各々の層の光路長と、前記光強度モデル取得部が取得した光強度モデルとに基づいて、前記光強度分布から前記任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲である積分区間を算出する積分区間算出部を備え、前記吸収係数算出部は、前記積分区間算出部が算出した前記積分区間を変化させて前記任意の層における目的成分の吸収係数を算出することを特徴とする。
【0019】
この濃度定量装置では、積分区間算出部が、光強度取得部が取得した光の強度の光強度分布と、光路長取得部が取得した複数の層の各々の層の光路長と、光強度モデル取得部が取得した光強度モデルとに基づいて、光強度分布から任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲である積分区間を算出し、吸収係数算出部が、積分区間算出部が算出した積分区間を変化させて任意の層における目的成分の吸収係数を算出する。
このように、積分区間算出部により算出された積分区間を基に、受光部が受光した光強度から前記積分区間に対応する時間帯の光強度を取得することにより、定量を行う特定部位である任意の層からの光を他の層からの光と区別して測定することができ、任意の層からの光に対する他の層からの光の影響を低減することができる。したがって、任意の層における目的成分の光の吸収量、すなわち目的成分の濃度を精度良く測定することができ、その結果、任意の層における目的成分の濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量することができる。
【0020】
本発明の濃度定量装置は、前記光強度取得部が、前記観測対象の層の数n以上となる複数の時刻t〜tにおける光強度を取得し(但し、nは1以上の自然数、mはn以上の自然数)、前記吸収係数算出部は、自然対数を示すln(・)、前記受光部が時刻tにおいて受光した光強度を示すI(t)、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度を示すN(t)、前記光路長分布のモデルの時刻tにおける第i層の光路長を示すLi(t)、第i層の吸収係数を示すμを用いて、
【数1】

から任意の層の吸収係数を算出する、ことを特徴とする。
【0021】
本発明の濃度定量装置では、光強度取得部が、任意の層の複数の時刻t〜tにおける光強度を取得し、吸収係数算出部が、任意の層の吸収係数を、上記の式(1)から算出する。
このように、後方散乱光を時間分解計測することで、任意の層以外の層からの後方散乱光をノイズとして低減することができ、目的成分の濃度における任意の層以外の層からの影響を低減することができる。したがって、目的成分の濃度をさらに精度良く測定することができる。
【0022】
本発明の濃度定量装置は、前記光強度取得部が、所定の時刻から少なくとも所定の時間τの間の光強度を取得し、前記吸収係数算出部は、自然対数を示すln(・)、前記受光部が時刻tにおいて受光した光強度を示すI(t)、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度を示すN(t)、前記光路長分布のモデルの時刻tにおける第i層の光路長を示すLi(t)、前記観測対象の層の数を示すn、第i層の吸収係数を示すμiを用いて、
【数2】

から任意の層の吸収係数を算出する、ことを特徴とする。
【0023】
本発明の濃度定量装置では、光強度取得部が、所定の時刻から少なくとも所定の時刻τの間の光強度の時間変化を取得し、吸収係数算出部が、任意の層の吸収係数を、上記の式(2)から算出する。
このように、後方散乱光を時間分解計測することで、任意の層以外の層からの後方散乱光をノイズとして低減することができ、目的成分の濃度における任意の層以外の層からの影響を低減することができる。したがって、目的成分の濃度をさらに精度良く測定することができる。
【0024】
本発明の濃度定量装置は、前記照射部が、複数の波長1〜qの光を照射し、前記吸収係数算出部は、前記任意の層における吸収係数を前記照射部が照射した複数の波長毎に算出し、前記濃度算出部は、前記任意の層である第a層における波長iの吸収係数を示すμa(i)、前記観測対象を形成する第j成分のモル濃度を示すgj、第j成分の波長iに対する吸収係数を示すεj(i)、前記観測対象を形成する主成分の個数を示すp、照射部が照射する波長の種類数を示すqを用いて、
【数3】

から前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する、ことを特徴とする。
【0025】
本発明の濃度定量装置では、照射部が、複数の波長1〜qの光を照射し、吸収係数算出部が、任意の層における吸収係数を照射部が照射した複数の波長毎に算出し、濃度算出部が、任意の層における目的成分の濃度を上記の式(3)から算出する。
このように、後方散乱光を時間分解計測することで、任意の層以外の層からの後方散乱光をノイズとして低減することができ、目的成分の濃度における任意の層以外の層からの影響を低減することができる。したがって、目的成分の濃度をさらに精度良く測定することができる。
【0026】
本発明の濃度定量方法は、複数の層により構成される観測対象に短時間パルス光を照射する照射部と、前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光する受光部と、前記観測対象に対して照射する短時間パルス光の、前記複数の層の各々の層における光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶部と、前記観測対象に対して照射する短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶部とを備え、前記観測対象のうち任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置を用いた濃度定量方法であって、前記照射部により、前記観測対象に短時間パルス光を照射し、前記受光部により、前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光し、照射量制御部により、前記照射部から前記観測対象へ短時間パルス光の予備照射を行い、前記照射部から前記観測対象へ照射される短時間パルス光の照射量を制御し、前記照射量制御部により前記短時間パルス光の照射量が制御された後に、密着判定部により、前記受光部が前記後方散乱光を検出し始める時刻と強度との関係に基づき、前記照射部と前記観測対象とが密着状態であるか否かを判定し、光強度取得部により、前記密着判定部が前記照射部と前記観測対象とが密着状態であると判定した場合に、前記受光部が受光した前記光の強度を取得し、光路長取得部により、前記光路長分布のモデルの所定の時刻における、前記複数の層の各々の層の光路長を取得し、光強度モデル取得部により、前記時間分解波形記憶部から、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光強度を取得し、吸収係数算出部により、前記光強度取得部が取得した光強度と前記光路長取得部が取得した前記複数の層の各々の層の光路長と前記光強度モデル取得部が取得した光強度モデルとに基づいて、前記任意の層における目的成分の吸収係数を算出し、濃度算出部により、前記吸収係数算出部が算出した吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する、ことを特徴とする。
【0027】
本発明の濃度定量方法では、照射量制御部により、前記照射部から前記観測対象へ短時間パルス光の予備照射を行い、前記照射部から前記観測対象へ照射される短時間パルス光の照射量を制御し、前記照射量制御部により前記短時間パルス光の照射量が制御された後に、密着判定部により、照射部が出力する短時間パルス光の観測対象への入射開始時刻を基準として受光部が受光する時刻毎の光強度を測定し、受光部が後方散乱光を検出し始める時刻と強度との関係に基づき、照射部と観測対象とが密着状態であるか否かを判定し、密着判定部が照射部と観測対象とが密着状態であると判定した場合に、光強度取得部により、受光部が受光した後方散乱光の強度を取得する。
このように、照射量制御部により、照射部から観測対象へ照射される短時間パルス光の照射量を制御し、密着判定部により照射部と観測対象とが密着状態であるか否かを判定し、この密着判定部が照射部と観測対象とが密着状態であると判定した場合に、光強度取得部により、受光部が受光した後方散乱光の強度を取得することにより、定量を行う特定部位である任意の層における目的成分の吸収係数、すなわち目的成分の濃度を速やかかつ容易に測定することができ、その結果、任意の層における目的成分の濃度を、非侵襲的にかつ速やかに定量することができる。
【0028】
本発明のプログラムは、複数の層により構成される観測対象に短時間パルス光を照射する照射部と、前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光する受光部と、前記観測対象に対して照射する短時間パルス光の、前記複数の層の各々の層における光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶部と、前記観測対象に対して照射する短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶部とを備え、前記観測対象のうち任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置のコンピューターに、前記観測対象に前記短時間パルス光を照射する照射手順、前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光する受光手順、前記照射部から前記観測対象へ短時間パルス光の予備照射を行うことにより、前記照射部から前記観測対象へ照射される短時間パルス光の照射量を制御する照射量制御手順、前記照射量制御手順により前記短時間パルス光の照射量が制御された後に、前記受光手順により前記観測対象からの後方散乱光を検出し始める時刻と強度との関係に基づき、前記照射部と前記観測対象とが密着状態であるか否かを判定する密着判定手順、前記密着判定手順により前記照射部と前記観測対象とが密着状態であると判定された場合に、前記受光手順により受光された前記光の強度を取得する光強度取得手順、前記光路長分布記憶部から、前記光路長分布のモデルの所定の時刻における、前記複数の層の各々の層の光路長を取得する光路長取得手順、前記時間分解波形記憶部から、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光強度を取得する光強度モデル取得手順、前記光強度取得手順により取得された前記光強度分布と、前記光路長取得手段により取得された前記複数の層の各々の層の光路長と、前記光強度モデル取得手順により取得された前記光強度とに基づいて、前記任意の層の吸収係数を算出する吸収係数算出手順、前記吸収係数算出手順により算出された吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出手順、を実行させることを特徴とする。
【0029】
本発明のプログラムでは、濃度定量装置のコンピューターに、観測対象に短時間パルス光を照射する照射手順、短時間パルス光の照射により観測対象から後方散乱される光を受光する受光手順、照射部から観測対象へ短時間パルス光の予備照射を行うことにより、照射部から観測対象へ照射される短時間パルス光の照射量を制御する照射量制御手順、短時間パルス光の観測対象への入射開始時刻を基準として受光手順により受光された時刻毎の光強度を測定し、受光手順により観測対象からの後方散乱光を検出し始める時刻と強度との関係に基づき、照射部と観測対象とが密着状態であるか否かを判定する密着判定手順、を実行させた後、光強度取得手順により取得された光強度分布と、光路長取得手段により取得された複数の層の各々の層の光路長と、光強度モデル取得手順により取得された光強度とに基づいて、任意の層の吸収係数を算出する吸収係数算出手順、吸収係数算出手順により算出された吸収係数に基づいて、任意の層における目的成分の濃度を算出する濃度算出手順、を順次実行させる。
【0030】
このように、短時間パルス光の観測対象への入射開始時刻を基準として受光手順により受光された時刻毎の光強度を測定し、照射量制御手順により、照射部から観測対象へ短時間パルス光の予備照射を行うことにより、照射部から観測対象へ照射される短時間パルス光の照射量を制御し、受光手順により観測対象からの後方散乱光を検出し始める時刻と強度との関係に基づき、照射部と観測対象とが密着状態であるか否かを判定する密着判定手順を実行することで、照射部と観測対象との密着状態を速やかかつ容易に確認することができ、定量を行う特定部位である任意の層における目的成分の吸収係数、すなわち目的成分の濃度を速やかかつ容易に測定することができる。その結果、任意の層における目的成分の濃度を、非侵襲的にかつ速やかに定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施形態の血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図2】皮膚の断面構造を示す模式図である。
【図3】光の波長と皮膚への浸透深さとの関係を示す図である。
【図4】シミュレーション部が算出した各層の光路長分布を示す図である。
【図5】シミュレーション部で得た無吸収時光強度の時間分解波形を示す図である。
【図6】皮膚の主成分の吸収スペクトルを示すグラフである。
【図7】本発明の第1の実施形態の血糖値測定装置を用いて血糖値を測定する手順を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施形態の血糖値測定装置を用いて血糖値を測定する手順を示す図である。
【図9】照射部が皮膚の表面と非接触状態の場合における計測タイミングを示す図である。
【図10】照射部が皮膚の表面と密着不十分状態の場合における計測タイミングを示す図である。
【図11】照射部が皮膚の表面と密着状態の場合における計測タイミングを示す図である。
【図12】照射部と皮膚とが密着不十分状態の場合における検出光強度波形を示す図である。
【図13】真皮層における吸収係数と積分区間との関係を示す図である。
【図14】本発明の第2の実施形態の血糖値測定装置を用いて血糖値を測定する手順を示す図である。
【図15】本発明の第2の実施形態の血糖値測定装置を用いて血糖値を測定する手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の濃度定量装置及び濃度定量方法並びにプログラムを実施するための形態について説明する。
本発明では、濃度定量装置として血糖値測定装置を、観測対象として人の手のひらの皮膚を、目的成分としてグルコースを、それぞれ例に取り説明する。
【0033】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態の血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
この血糖値測定装置100は、手のひら等の皮膚(観測対象)を構成する複数層のうちの真皮層(任意の層)に含まれるグルコース(目的成分)の濃度を非侵襲にて定量する装置であり、シミュレーション部101と、光路長分布算出部102と、光路長分布記憶部103と、時間分解波形算出部104と、時間分解波形記憶部105と、照射部106と、受光部107と、光路長取得部108と、無吸収時光強度取得部(光強度モデル取得部)109と、計測タイミング算出部110と、密着判定部111と、告知部112と、計測光強度取得部(光強度取得部)113と、計測時間分解波形記憶部114と、計測無吸収時光強度取得部115と、積分区間算出部116と、吸収係数算出部117と、吸収係数分布記憶部118と、吸収係数取得部119と、濃度算出部120と、照射量制御部121とを備えている。
【0034】
シミュレーション部101は、吸収係数がゼロの皮膚モデルに対して光を照射するシミュレーションを行う。
光路長分布算出部102は、皮膚に対して照射する短時間パルス光の、この皮膚を構成する各々の層における光路長分布のモデルを算出する。ここでは、吸収係数がゼロの皮膚モデルの光路長分布を算出する。
光路長分布記憶部103は、光路長分布算出部102にて算出した皮膚を構成する各々の層における光路長分布のモデルを記憶する。ここでは、吸収係数がゼロの皮膚モデルの光路長分布を記憶する。
【0035】
ここで、短時間パルス光とは、パルス幅の時間が照射部106から受光部107へ光が空気中を直接伝搬する時間よりも短いパルス光のことであり、例えば、パルス光の半値幅が0.1ps〜10ps、2つのパルス光の間の時間間隔が1ps〜100psのパルス光のことである。
また、光路長分布とは、光(光子)の移動経路の長さ(光路長)を当該光(光子)が受光部107に到達するまでの時間を基に分布関数として表したものである。
【0036】
時間分解波形算出部104は、皮膚に対して照射する短時間パルス光の時間分解波形のモデルを算出する。ここでは、吸収係数がゼロの皮膚モデルの時間分解波形を算出する。
時間分解波形記憶部105は、時間分解波形算出部104にて算出した短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する。ここでは、吸収係数がゼロの皮膚モデルの時間分解波形を記憶する。
【0037】
照射部106は、皮膚に対して短時間パルス光を照射する。この照射部106が照射する複数の短時間パルス光は、皮膚を構成する主成分の各々の成分の吸収スペクトル分布の直交性が高くなる波長の光、すなわち、皮膚を構成する主成分の各々の成分のうち、ある主成分における特定成分の吸収スペクトルの極大値が他の成分の吸収スペクトルの極大値と大きく異なる波長の光を含んでいる。
受光部107は、短時間パルス光が皮膚によって後方散乱した光を受光する。この受光部107は、受光強度を記録する内部メモリー(図示せず)を備えている。なお、この内部メモリーは、受光部107に電気的に接続する外部メモリーに代えた構成としてもよい。
【0038】
ここで、観測対象である人の皮膚組織の構造について説明する。
図2は、人の皮膚組織の断面を示す模式図であり、皮膚31は、表皮層32と、真皮層(任意の層)33と、皮下組織34の3層により構成されている。
表皮層32は、最も外側にある厚み0.2mm〜0.3mmの薄い層で、概ね水を60%程度、蛋白質、脂質及びグルコースを含有する層であり、角質層、顆粒層、有棘層、底層等を含む。
【0039】
真皮層33は、表皮層32下に形成される厚み0.5mm〜2mmの層で、概ね水を60%程度、蛋白質、脂質及びグルコースを含有する層であり、この真皮層33内には神経、毛根、皮脂腺、汗腺、毛包、血管、リンパ管等が存在する。
皮下組織34は、真皮層33下に形成される厚み1〜3mmの層で、大部分が概ね脂質を90%以上含み、残部が水からなる皮下脂肪でできている。
真皮層33内には毛細血管等が発達しており、血中グルコースに応じた物質移動が速やかに起こり、血中グルコース濃度(血糖値)に対して真皮層33中のグルコース濃度も追随して変化すると考えられている。
【0040】
この血糖値測定装置100では、照射部106及び受光部107を所定の入出射間距離Wをおいて皮膚31の表面に密着させ、この密着状態で照射部106から皮膚31の表面に光Rを照射する。照射した光Rは皮膚31内の組織によって散乱され、皮膚31内に拡散する。拡散した光Rの一部は、受光部107に到達する(後方散乱光)。この受光部107に到達した後方散乱光が皮膚31内を伝搬してきた経路は、バナナ型の3次元形状、いわゆるバナナシェイプの経路となる。
【0041】
この照射部106と受光部107との入出射間距離Wと皮膚31内に侵入する光Rの侵入深さとの間には、一定の関係がある。そこで、照射部106と受光部107との入出射間距離Wを規定することにより、皮膚31内に侵入する光Rの侵入深さも一義的に決定されることとなる。例えば、入出射間距離Wを10mmとすると、光Rの侵入深さは10mmとなり、入出射間距離Wを0.8mmとすると、光Rの侵入深さは0.8mmとなる。
【0042】
図3は、光の波長と皮膚への浸透深さとの関係を示す図である。図中、「Nd−YAG」はNd−YAGレーザーが出力するレーザー光の波長を、「Xe」はXeレーザーが出力するレーザー光の波長を、「Cs」はCsレーザーが出力するレーザー光の波長を、「CO」は一酸化炭素レーザーが出力するレーザー光の波長を、「CO」は炭酸ガスレーザーが出力するレーザー光の波長を、それぞれ示している。
図3によれば、真皮層33へ浸透させるのに十分な光としては、Nd−YAGレーザーが出力するレーザー光が好適であることが分かる。
【0043】
光路長取得部108は、光路長分布記憶部103から、光路長分布のモデルの所定の時刻における、皮膚の各々の層の光路長を取得する。ここでは、光路長分布記憶部103からある時刻における光路長を取得する。
無吸収時光強度取得部109は、時間分解波形記憶部105から、短時間パルス光の時間分解波形のモデルの所定の時刻における無吸収時光強度を取得する。ここでは、時間分解波形記憶部105からある時刻における無吸収時光強度を取得する。
【0044】
計測タイミング算出部110は、照射部106が短時間パルス光を照射するトリガー信号の時刻と、受光部107から出力される計測光強度の時刻との時間差である計測タイミングを算出する。
照射量制御部121は、照射部106から観測対象へ短時間パルス光の予備照射を行うことにより、照射部106から観測対象へ照射される短時間パルス光の照射量を制御する。
この照射量制御部121では、特に、この短時間パルス光の照射量の低減の度合いを、人体が短時間パルス光の照射により受ける被爆量を考慮して、濃度測定時に照射する光出力に対して1/1000〜1/10の範囲内に設定する。これにより、人体が短時間パルス光を照射される際の被爆量が少なくなり、かつ、照射部106が出力する短時間パルス光の観測対象へ密着させられた安定な状態で、測定が行われる。その結果、測定精度を高めることが可能になる。
密着判定部111は、照射量制御部121により短時間パルス光の照射量が制御された後に、計測タイミング算出部110から出力される計測タイミングを基に、照射部106が皮膚の表面に密着しているか否かを判定する。
ここでは、計測タイミング算出部110から出力される計測タイミングが、密着判定部111に内蔵されている接触状態記憶部に記憶されている(1)〜(3)のいずれに当てはまるかを判定する。
【0045】
(1)空気を伝搬して皮膚の表面にて反射した光を受けている皮膚の表面に対して「非接触状態」での照射部106が短時間パルス光を照射するトリガー信号の時刻と、受光部107が出力する計測光強度の時刻との時間差である計測タイミング。
(2)空気を伝搬して皮膚の表面にて反射した光と皮膚内を伝搬した光のいずれも受けている皮膚の表面に対して「密着不十分状態」での照射部106が短時間パルス光を照射するトリガー信号の時刻と、受光部107が出力する計測光強度の時刻との時間差である計測タイミング。
(3)皮膚内を伝搬した光のみを受けている皮膚の表面に対して「密着状態」での照射部106が短時間パルス光を照射するトリガー信号の時刻と、受光部107が出力する計測光強度の時刻との時間差である計測タイミング。
【0046】
この密着判定部111には、密着判定部111の判定結果を告知する告知部112が設けられている。この告知部112は、判定結果を音声にて告知するスピーカー等の音声装置、判定結果を画像にて表示する液晶ディスプレイ等の表示装置、判定結果をスピーカー等の音声装置及びLED等の発光装置等にて知らせる告知装置等、のいずれか1種または2種以上を備えている。これらは必要に応じて選択使用することができる。
【0047】
計測光強度取得部113は、密着判定部111が「照射部106が皮膚の表面に密着している」と判定した場合に、受光部107が受光した光のある時刻における光強度を取得する。
計測時間分解波形記憶部114は、計測光強度取得部113が取得した短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する。ここでは、吸収係数がゼロ、すなわち無吸収時の皮膚モデルの時間分解波形を記憶する。
計測無吸収時光強度取得部115は、計測時間分解波形記憶部114が記憶した短時間パルス光の時間分解波形から無吸収時の光強度を取得する。
【0048】
積分区間算出部116は、光路長取得部108が取得した光路長分布のモデルの皮膚の各々の層の光路長と、無吸収時光強度取得部109が取得した短時間パルス光の時間分解波形のモデルの無吸収時光強度と、計測光強度取得部113が取得した受光部107が受光した光の強度分布とに基づいて、前記光の強度分布から任意の層の光強度に対応する領域の時間の範囲を算出する。
【0049】
ここで、積分区間とは、光の強度分布における任意の層の光強度に対応する領域の時間幅のことであり、開始時刻と、終了時刻と、増分時間とにより決定することができる。
例えば、(1)後方散乱した光を受光する受光部107の出力する光強度が計測光強度取得部113の最小検出感度を超えて検出された時刻から最小検出感度と等しい光強度で検出された時刻までの時間、(2)シミュレーション部101で得られる無吸収時光強度を記憶している時間分解波形記憶部105から取得した無吸収時光強度の時間特性、(3)皮膚表面に接する受光部107と照射部106との間隔、(4)シミュレーション部101に与える皮膚モデルのサイズ及び光学特性(散乱係数、吸収係数、非等方性パラメーター、または屈折率)を用いて、積分区間の開始時刻、終了時刻、増分時間を決定する。
【0050】
吸収係数算出部117は、積分区間算出部116が算出した任意の層の光強度に対応する領域の時間の範囲、例えば積分区間の開始時刻、終了時刻、増分時間に基づいて皮膚の任意の層の吸収係数を算出する。
ここでは、積分区間算出部116によって定めた積分区間での任意の層の吸収係数及び推定誤差率を求め、積分区間に対する任意の層の吸収係数及び推定誤差率の分布を算出する。
この吸収係数算出部117では、皮膚における任意の層の吸収係数を、下記の式(4)から算出する。
【0051】
【数4】

【0052】
但し、ln(A)はAの自然対数、I(t)は受光部107が時刻tにて受光した光強度、N(t)は特定波長λkの短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度、Li(t)は皮膚の各々の層における光路長分布のモデルの時刻tにおける第i層の光路長、μiは第i層の吸収係数を示す。
ここで、第1層は表皮層、第2層は真皮層、第3層は皮下組織を示し、μは表皮層の吸収係数、μは真皮層の吸収係数、μは皮下組織の吸収係数を示す。
【0053】
吸収係数分布記憶部118は、吸収係数算出部117が算出した積分区間に対する任意の層の吸収係数及び推定誤差率の分布を記憶する。
吸収係数取得部119は、吸収係数分布記憶部118から取得した積分区間に対する任意の層の吸収係数及び推定誤差率の分布と、積分区間の変化に対する吸収係数変動率の範囲等の基準とを用いて、皮膚の表面からの特定深さにおける層の皮膚主成分における血糖相応のグルコース濃度に基づく吸収係数を取得する。
【0054】
濃度算出部120は、吸収係数取得部19が取得した皮膚の表面からの特定深さにおける層の皮膚主成分における血糖相応のグルコース濃度に基づく吸収係数から、特定深さの層に含まれるグルコースの濃度を算出する。
この濃度算出部20では、皮膚の任意の層におけるグルコースの濃度を、下記の式(5)から算出する。
【0055】
【数5】

【0056】
但し、μaは皮膚の任意の層である第a層における吸収係数、gjは皮膚を構成する第j成分のモル濃度、εjは第j成分の吸収係数、pは皮膚を構成する主成分の個数、qは特定波長λkの種類数を示す。
ここで、第1層は表皮層、第2層は真皮層、第3層は皮下組織を示し、μは表皮層の吸収係数、μは真皮層の吸収係数、μは皮下組織の吸収係数を示す。
【0057】
この血糖値測定装置100では、照射部106は、皮膚に短時間パルス光を照射し、受光部107は、短時間パルス光が皮膚により後方散乱した光を受光し、計測タイミング算出部110は、照射部106が短時間パルス光を照射するトリガー信号の時刻と、受光部107から出力される計測光強度の時刻との時間差である計測タイミングを算出し、密着判定部111は、計測タイミング算出部110から出力される計測タイミングを基に、照射部106が皮膚の表面に密着しているか否かを判定する。
【0058】
ここで、照射部106が皮膚の表面に密着していると判定された場合、告知部112が判定結果を告知するとともに、計測光強度取得部113が、時刻tにおいて受光部107が受光した後方散乱光の光強度を取得する。
一方、照射部106が皮膚の表面に密着していないと判定された場合、告知部112が判定結果を告知するとともに、密着判定部111が「照射部106が皮膚の表面に密着している」と判定するまで、照射部106を皮膚の表面にて摺動させて密着判定部111が「照射部106が皮膚の表面に密着しているか否かを判定する」という動作を繰り返し行う。
【0059】
次いで、光路長取得部108は、光路長分布記憶部103から、皮膚モデルにおける光路長分布の時刻tにおける皮膚の各層の光路長を取得し、無吸収時光強度取得部109は、時間分解波形記憶部105から、皮膚モデルにおける短時間パルス光の時間分解波形の時刻tにおける光の強度を取得する。
【0060】
次いで、積分区間算出部116は、光路長取得部108が取得した光路長分布のモデルの皮膚の各々の層の光路長、例えば、光路長分布記憶部103から取得した光路長と、無吸収時光強度取得部109が取得した短時間パルス光の時間分解波形のモデルにおける光強度、例えば、時間分解波形記憶部105から取得した光強度と、計測光強度取得部113が取得した受光部107が受光した光の強度分布とに基づいて、前記光の強度分布から任意の層の光強度に対応する領域の積分区間を算出する。
【0061】
例えば、(1)後方散乱した光を受光する受光部107の出力する光強度が計測光強度取得部113の最小検出感度を超えて検出された時刻から最小検出感度と等しい光強度で検出された時刻までの時間、(2)シミュレーション部101で得られる無吸収時光強度を記憶している時間分解波形記憶部105から取得した無吸収時光強度の時間特性、(3)皮膚表面に接する受光部107と照射部106との間隔、(4)シミュレーション部101に与える皮膚モデルのサイズ及び光学特性(散乱係数、吸収係数、非等方性パラメーター、または屈折率)を用いて、積分区間の開始時刻、終了時刻、増分時間を決定する。
【0062】
次いで、吸収係数算出部117は、積分区間算出部116によって定めた積分区間での任意の層の吸収係数及び推定誤差率を求め、積分区間に対する任意の層の吸収係数及び推定誤差率の分布を算出する。
次いで、吸収係数分布記憶部118は、吸収係数算出部117が算出した積分区間に対する任意の層の吸収係数及び推定誤差率の分布を記憶する。
次いで、吸収係数取得部119は、吸収係数分布記憶部118から取得した積分区間に対する任意の層の吸収係数及び推定誤差率の分布と、積分区間の変化に対する吸収係数変動率の範囲等の基準とを用いて、皮膚の表面からの特定深さにおける層の皮膚主成分における血糖相応のグルコース濃度に基づく吸収係数を取得する。
【0063】
次いで、濃度算出部120は、吸収係数取得部119が取得した皮膚の表面からの特定深さにおける層の皮膚主成分における血糖相応のグルコース濃度に基づく吸収係数に基づいて、皮膚の表面からの特定深さにおける層に含まれるグルコースの濃度を、上記の式(5)に基づき算出する。
これにより、特定深さの層以外の層によるノイズの影響を軽減して、特定深さの層に含まれるグルコースの濃度を算出することができる。
【0064】
この血糖値測定装置100では、計測タイミング算出部110により、照射部106が短時間パルス光を照射するトリガー信号の時刻と、受光部107から出力される計測光強度の時刻との時間差である計測タイミングを算出し、密着判定部111により、計測タイミング算出部110から出力される計測タイミングを基に、照射部106が皮膚の表面に密着しているか否かを判定するので、照射部106と皮膚の表面との密着状態を確認することができ、特定深さの層に含まれるグルコースの光の吸収量、すなわちグルコースの濃度を、非侵襲的に精度良く測定することができる。
【0065】
次に、血糖値測定装置100の動作を説明する。
血糖値測定装置100により、図2に示す真皮層33中のグルコース濃度を測定する場合、血糖値を測定する前に、予め皮膚モデルの各層における光路長分布と時間分解波形とを算出しておく必要がある。
【0066】
ここで、皮膚モデルの光路長分布及び時間分解波形の算出方法を説明する。
初めに、シミュレーション部101は、皮膚モデルを生成する。皮膚モデルの生成は、皮膚の各層の光散乱係数、吸収係数及び厚みを決定することで行う。ここで、皮膚の各層の散乱係数及び厚みは、個体による差が少ないので、予めサンプルを取ることなどによって決定すると良い。なお、表皮層32の厚みは略0.3mm、真皮層33の厚みは略1.2mm、皮下組織34の厚みは略3.0mmである。
また、ここで用いる皮膚モデルの吸収係数はゼロとする。その理由は、この皮膚モデルを用いて光吸収量を算出するからである。
【0067】
シミュレーション部101は、皮膚モデルを生成すると、この皮膚モデルに光を照射するシミュレーションを行う。このとき、照射部106の位置と受光部107の位置との間の距離を決定しておく必要がある。シミュレーションは、モンテカルロ法を用いて行うと良い。モンテカルロ法によるシミュレーションは、例えば以下のように行われる。
【0068】
まず、シミュレーション部101は、照射する光のモデルを光子(光束)とし、この光子を皮膚モデルに照射する計算を行う。皮膚モデルに照射された光子は、皮膚モデル内を移動する。このとき、光子は、次に進む点までの距離L及び方向θを乱数Rによって決定する。シミュレーション部101は、光子が次に進む点までの距離Lの計算を、式(6)により行う。
【0069】
【数6】

【0070】
但し、ln(A)はAの自然対数を示し、μsは、皮膚モデルの第s層(表皮層、真皮層、皮下組織層の何れか)の散乱係数を示す。
また、シミュレーション部101は、光子が次に進む点までの方向θの計算を、式(7)により行う。
【0071】
【数7】

【0072】
但し、gは、散乱角度の余弦(cos)の平均である非等方性パラメーターを示し、皮膚の非等方性パラメーターは、略0.9である。
シミュレーション部101は、上記式(6)及び式(7)の計算を単位時間毎に繰り返すことにより、照射部106から受光部107までの光子の移動経路を算出することができる。シミュレーション部101は、複数の光子について移動距離の算出を行う。例えば、シミュレーション部101は、10個の光子について移動距離を算出する。
【0073】
図4は、シミュレーション部が算出した各層の光路長分布を示す図である。
図4では、横軸を光子の照射からの経過時間とし、縦軸を光路長の対数表示としている。
シミュレーション部101は、受光部107に到達した光子の各々の移動経路を、移動経路が通過する層毎に分類する。そして、シミュレーション部101は、単位時間毎に到達した光子の移動経路の平均長を分類された層毎に算出することで、図4に示すような皮膚の各層の光路長分布を算出する。
【0074】
また、シミュレーション部101は、単位時間毎に受光部107に到達した光子の個数を算出することで、図5に示すような皮膚モデルの時間分解波形を算出する。
図5は、シミュレーション部101で得た無吸収時光強度(受光光子数と等しい)N(t)の時間分解波形を示す図である。図5では、横軸を光子の照射からの経過時間とし、縦軸を受光部107が検出した光子数としている。
【0075】
上述したような処理により、シミュレーション部101は、複数の波長に対して、皮膚モデルの光路長分布及び時間分解波形を算出する。このとき、シミュレーション部101は、皮膚の主成分(水、たんぱく質、脂質、グルコース等)の吸収スペクトルの差が大きい波長について光路長分布及び時間分解波形を算出すると良い。
【0076】
図6は、皮膚の主成分の吸収スペクトルを示すグラフである。図6では、横軸を照射する光の波長とし、縦軸を吸収係数としている。
図6によれば、グルコースの吸収係数は波長が1600nmのときに極大となり、水の吸収係数は波長が1450nmのときに極大となることがわかる。
したがって、シミュレーション部101は、例えば1400nm、1450nm、1500nm、1600nm、1680nm、1720nm、1740nmというように皮膚の主成分の吸収スペクトルの差が大きい波長について光路長分布及び時間分解波形を算出すると良い。
【0077】
シミュレーション部101が複数の波長に対する皮膚モデルの光路長分布及び時間分解波形を算出すると、光路長分布記憶部103は、算出された光路長分布の情報を記憶し、時間分解波形記憶部105は、算出された時間分解波形の情報を記憶する。
【0078】
次に、この血糖値測定装置100を用いて血糖値を測定する手順について、図7及び図8に基づき説明する。
まず、被測定者が血糖値測定装置100を手首等の皮膚に当て、測定開始スイッチ(図示せず)の押下等により血糖値測定装置100を動作させ、照射部106が、皮膚に対して波長λkの短時間パルス光を照射する(ステップS1)。
この波長λとしては、例えば、シミュレーション部101が光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中の1つが好ましい。
例えば、皮膚を構成する主成分のうち、ある主成分における特定成分の吸収係数が他の成分の吸収係数より大きくなる波長の光、すなわち、特定成分の吸収係数の極小値が他の成分の吸収係数の極小値と大きく異なる波長の光について光路長分布及び時間分解波形を算出すると良い。
【0079】
照射部106が波長λの短時間パルス光を照射すると、受光部107は、照射部106から照射され皮膚によって後方散乱された光を受光する(ステップS2)。
このとき、受光部107は、照射開始からの単位時間毎(例えば、1ピコ秒毎の時刻t〜t)の受光強度を、内部メモリー(図示せず)に記録しておく。
【0080】
次いで、照射量制御部121が、照射部106から観測対象へ短時間パルス光の予備照射を行うことにより、照射部106から観測対象へ照射される短時間パルス光の照射量を、人体が短時間パルス光の照射により受ける被爆量を考慮して、濃度測定時に照射する光出力に対して1/1000〜1/10の範囲内に制御する(ステップS3)。
ここで、短時間パルス光の照射量が濃度測定時に照射する光出力に対して1/1000〜1/10の範囲内に設定されていなかった場合、再度、照射部106が、皮膚に対して波長λkの短時間パルス光を照射する(ステップS1)以降を行う。
次いで、照射部106が皮膚の表面に密着しているか否かを判定する(ステップS4)。
すなわち、計測タイミング算出部110が、照射部106が短時間パルス光を照射するトリガー信号の時刻と、受光部107から出力される計測光強度の時刻との時間差である計測タイミングを算出し、密着判定部111が、計測タイミング算出部110から出力される計測タイミングを基に、照射部106が皮膚の表面に密着しているか否かを判定する。
ここでは、計測タイミング算出部110から出力される計測タイミングが、密着判定部111に内蔵されている接触状態記憶部に記憶されている(1)〜(3)のいずれに当てはまるかを判定する。
【0081】
(1)空気を伝搬して皮膚の表面にて反射した光を受けている皮膚の表面に対して「非接触状態」での照射部106が短時間パルス光を照射するトリガー信号の時刻と、受光部107が出力する計測光強度の時刻との時間差である計測タイミング。
この非接触状態では、図9に示すように、時間の起点である照射部106の出射時刻からtps以内、例えば10ps以内に皮膚におけるリーク光(直接伝搬光)が観測され、出射時刻からtps以降に皮膚からの後方散乱光は観測されない。
【0082】
(2)空気を伝搬して皮膚の表面にて反射した光と皮膚内を伝搬した光のいずれも受けている皮膚の表面に対して「密着不十分状態」での照射部106が短時間パルス光を照射するトリガー信号の時刻と、受光部107が出力する計測光強度の時刻との時間差である計測タイミング。
この密着不十分状態では、図10に示すように、時間の起点である照射部106の出射時刻からtps以内、例えば10ps以内に皮膚におけるリーク光(直接伝搬光)が観測されるとともに、出射時刻からtps以降に皮膚からの後方散乱光が観測される。
【0083】
(3)皮膚内を伝搬した光のみを受けている皮膚の表面に対して「密着状態」での照射部106が短時間パルス光を照射するトリガー信号の時刻と、受光部107が出力する計測光強度の時刻との時間差である計測タイミング。
この密着状態では、図11に示すように、時間の起点である照射部106の出射時刻からtps以降に皮膚からの後方散乱光が観測され、出射時刻からtps以内、例えば10ps以内に皮膚におけるリーク光(直接伝搬光)は観測されない。
【0084】
図12は、照射部106と皮膚とが密着不十分状態の場合における受光部107が受光した検出光強度波形を示したものであり、時間の起点は、照射部106が短時間パルス光を照射した時刻である。
図12中、振幅が小さな検出光強度波形(A)は、照射光が皮膚内を伝搬せずに皮膚表面を伝搬して受光した光によるものであり、この検出光強度波形(A)の後に検出された振幅が大きな検出光強度波形(B)は、照射光が皮膚内を伝搬して受光した光によるものである。
【0085】
このように、皮膚表面を伝搬した光と、皮膚内を伝搬した光とは、明らかに時間差があるので、この時間差を検出することにより明瞭に判別することができることが分かる。
この場合、皮膚表面を伝搬して受光した光の強度が、皮膚内を伝搬した光(後方散乱光)の強度の1/10以下であれば、照射部106と皮膚とが密着状態であると見なすことができるので、皮膚表面を伝搬して受光した光の強度と、皮膚内を伝搬した光(後方散乱光)の強度とを比較することで、照射部106と皮膚とが密着状態であるか否かを判定することが容易である。
【0086】
ここで、密着判定部111が、照射部106が皮膚の表面に密着していると判定した場合、告知部112が判定結果を告知するとともに、計測光強度取得部113が、受光部107が受光した後方散乱光の光強度分布を取得する。このとき、受光部107では、照射開始からの単位時間毎(例えば、1ピコ秒毎の時刻t〜t)の受光強度を内部メモリに記録しておく。
一方、照射部106が皮膚の表面に密着していないと判定した場合、告知部112が判定結果を告知するとともに、再度、「短時間パルス光を照射」(ステップS1)〜「照射部が皮膚の表面に密着しているか否かを判定」(ステップS4)を実行する。
【0087】
このステップS1〜S4の実行は、密着判定部111が「照射部106が皮膚の表面に密着している」と判定するまで、繰り返し行われる。
例えば、密着判定部111が、照射部106と観測対象とが密着状態ではないと判定した場合に、照射量制御部121により照射部106から観測対象へ短時間パルス光の予備照射を行うことにより、照射部106から観測対象へ照射される短時間パルス光の照射量を制御し、照射部106と前記観測対象とが密着状態であるか否かを再度判定する。
このように、密着判定部111及び照射量制御部121により、照射部106から観測対象へ照射される短時間パルス光の照射量の制御、及び照射部106と観測対象との密着状態を連続的にモニタリングすることで、照射部106と観測対象とが密着状態となった時点での観測対象からの後方散乱光の強度を速やかに取得することができる。
密着判定部111が、照射部106が皮膚の表面に密着していると判定した場合、積分区間を変化させて真皮層の吸収係数を算出する(処理A:ステップS5)。
この処理A(ステップS5)は、図8に示す手順により行う。
【0088】
まず、積分区間算出部116は、(1)後方散乱した光を受光する受光部107の出力する光強度が計測光強度取得部113の最小検出感度を超えて検出された時刻から最小検出感度と等しい光強度で検出された時刻までの時間、(2)シミュレーション部101で得られる無吸収時光強度を記憶している時間分解波形記憶部105から取得した無吸収時光強度の時間特性、(3)皮膚表面に接する受光部107と照射部106との間隔、(4)シミュレーション部101に与える皮膚モデルのサイズ及び光学特性(散乱係数、吸収係数、非等方性パラメーター、または屈折率)を用いて、真皮層の光強度に対応する領域の時間の範囲である積分区間を算出する。より具体的には、積分区間の開始時刻、終了時刻、増分時間を算出する(ステップS11)。
【0089】
図13は、真皮層における吸収係数と積分区間との関係を示す図である。図13では、表皮層、真皮層、皮下組織の三層の皮膚モデルを用いており、真皮層の吸収係数に対して表皮層の吸収係数を25%から150%まで変化させている。図15中、Aは25%を、Bは50%を、Cは75%を、Dは100%を、Eは125%を、Fは150%を、それぞれ示している。
図13によれば、14ps〜34psの範囲では、表皮層と真皮層の吸収係数の値が近づくと、予め与えられた真値の吸収係数の値である0.55/mmに近い値で算出されていることが分かる。また、34ps〜54psの範囲では、増加してピークを持つ傾向があることが分かる。これにより、積分区間が広くなるにしたがって、真皮層の吸収係数の値はある特定の範囲(図15では、0.54〜0.56/mm)に収斂していくことが分かる。
【0090】
次いで、計測光強度取得部113は、内部メモリーに記録されている受光強度から、ある時刻tにおける受光強度を皮膚の層の数と同じ数だけ取得する(ステップS12)。
例えば、皮膚の3つの層について4種類の波長を用いて濃度測定を行う場合には、3つの異なる時刻t〜tにおける受光強度I(t)〜I(t)を取得する。ここで、皮膚の層の数と同じ数だけ受光強度を取得する理由は、後述する処理において、皮膚の各層の吸収係数を連立方程式によって算出するためである。
【0091】
また、計測光強度取得部113が光強度を取得する時刻t〜tは、皮膚の各層の光路長分布のピークとなる時刻であると良い。すなわち、照射部106が短時間パルス光を照射した時刻に、既に説明した図4において皮膚の各層の光路長が極大となる時間を加算した時刻の光強度をそれぞれ取得すると良い。
【0092】
計測光強度取得部113が受光強度I(t)〜I(t)を取得すると、光路長取得部108は、光路長分布記憶部103が記憶する波長λの光路長分布から、時刻t〜tにおける皮膚の各層の光路長L(t)〜L(t)、L(t)〜L(t)、L(t)〜L(t)を取得する(ステップS13)。
また、計測光強度取得部113が受光強度I(t)〜I(t)を取得すると、無吸収時光強度取得部109は、時間分解波形記憶部105が記憶する波長λの時間分解波形から、短時間パルス光の時間分解波形のモデルの所定の時刻における光強度、例えば、時刻t〜tにおける検出光子数(無吸収時光強度)N(t)〜N(t)を取得する(ステップS14)。
【0093】
光路長取得部108が皮膚の各層の光路長を取得し、無吸収時光強度取得部109が検出光子数(無吸収時光強度)N(t)〜N(t)を取得すると、吸収係数算出部117は、式(8)に基づいて、積分区間算出部116が算出した、ある積分区間での皮膚の各層の吸収係数μ〜μを算出する(ステップS15)。ここで、吸収係数μは、表皮層の吸収係数を示し、吸収係数μは、真皮層の吸収係数を示し、吸収係数μは、皮下組織の吸収係数を示す。
【0094】
【数8】

【0095】
但し、ln(A)はAの自然対数を示し、N(t)は特定波長λkの短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度を示す。また、Iinは、照射部106が照射した短時間パルス光の光強度を示す。また、Ninは、シミュレーション部101が照射のシミュレーションを行った光子の個数を示す。
【0096】
吸収係数算出部117がある積分区間での皮膚の各層の吸収係数μ〜μを算出すると、吸収係数分布記憶部118は、吸収係数算出部117が算出した、ある積分区間での皮膚の各層の吸収係数μ〜μを記憶する(ステップS16)。
【0097】
吸収係数算出部117がある積分区間での皮膚の各層の吸収係数μ〜μを算出すると、吸収係数算出部117は、設定した積分区間での真皮層33の吸収係数を算出したか否かを判断する(ステップS17)。
本実施形態では、皮膚の主成分を水、たんぱく質、脂質、グルコースの4種類として血糖値の測定を行うので、吸収係数算出部117は、4種類の波長λ〜λに対して吸収係数μ〜μを算出したか否かを判定する。ここで、波長λ〜λは、シミュレーション部301が光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中から選出する。
【0098】
ここで、吸収係数算出部117が設定した積分区間での真皮層33の吸収係数μ〜μに算出しなかった吸収係数があると判断した場合(ステップS17:NO)、再度、ある時刻における受光強度の取得(ステップS12)に戻り、まだ算出していない真皮層の吸収係数を算出し、再度、設定した積分区間での真皮層の吸収係数の算出の可否の判断(ステップS17)を行う。
一方、吸収係数算出部117が設定した積分区間での真皮層の吸収係数μ〜μを算出したと判断した場合(ステップS17:YES)、真皮層の吸収係数分布から吸収係数を取得する(ステップ18)。
【0099】
吸収係数取得部119は、皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の吸収係数を算出したか否かを判断する(ステップS6)。
ここで、吸収係数取得部119が皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の吸収係数を算出していないと判断した場合(ステップS6:NO)、短時間パルス光の照射(ステップS1)に戻り、まだ算出していない皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の吸収係数を算出し、再度、吸収係数の算出の可否の判断(ステップS6)を行う。
【0100】
一方、吸収係数取得部119が皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の吸収係数を算出したと判断した場合(ステップS6:YES)、濃度算出部120は真皮層に含まれるグルコースの濃度を算出する(ステップS7)。
濃度算出部120は、真皮層におけるグルコースの濃度を、下記の式(9)により算出する。
【0101】
【数9】

【0102】
但し、μ2(1)〜μ2(4)は、真皮層における波長λ〜λの吸収係数を示す。また、g〜gは、真皮層におけるそれぞれ皮膚の主成分である水、たんぱく質、脂質、グルコースのモル濃度を示す。また、ε1(1)〜ε1(4)は、波長λ〜λに対する水のモル吸光係数を示し、ε2(1)〜ε2(4)は、波長λ〜λに対するたんぱく質のモル吸光係数を示し、ε3(1)〜ε3(4)は、波長λ〜λに対する脂質のモル吸光係数を示し、ε4(1)〜ε4(4)は、波長λ〜λに対するグルコースのモル吸光係数を示す。
つまり、式(9)のgを算出することで、真皮層に含まれるグルコースのモル濃度を求めることができる。
【0103】
ここで、式(9)によりグルコースのモル濃度を求めることができる理由を説明する。皮膚の散乱係数の波長依存性は小さいので、検出光子数N(t)及び光路長Ln(t)の波長に対する変化は無視することができる。また、ベア・ランベルト(Beer-Lambert)の法則により、吸収係数=モル吸光係数×モル濃度で表すことができる。これにより、2波長で得られた時間分解計測より、検出光子数N(t)を消去することで、真皮層において得られる吸収係数差と皮膚を形成する各成分のモル吸光係数との関係式を示す式(9)を導くことができる。
【0104】
上述の血糖値測定装置100は、コンピューターシステムを内蔵しており、上述した各ステップの処理動作は、プログラムの形式でコンピューター読み取り可能な記録媒体に記憶されている。そこで、このプログラムをコンピューターが読み出して実行することにより、上記の処理動作を行うことができる。
ここで、コンピューター読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等が挙げられる。
また、このコンピュータープログラムを通信回線によりコンピューターに配信し、この配信を受けたコンピューターが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0105】
また、上記プログラムは、上記の各ステップの一部を実現するためのものであってもよい。
さらに、上述した機能をコンピューターシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0106】
以上説明したように、本実施形態によれば、計測タイミング算出部110により、照射部106が短時間パルス光を照射するトリガー信号の時刻と、受光部107から出力される計測光強度の時刻との時間差である計測タイミングを算出し、照射量制御部121により照射部106から観測対象へ照射される短時間パルス光の照射量を制御し、照射量制御部121により短時間パルス光の照射量が制御された後に、密着判定部111により、計測タイミング算出部110から出力される計測タイミングを基に、照射部106が皮膚の表面に密着しているか否かを判定するので、照射部106と皮膚との密着状態を速やかかつ容易に確認することができ、その結果、真皮層におけるグルコースの濃度を精度良く測定することができる。
【0107】
また、積分区間算出部116により、光路長取得部108が取得した光路長分布のモデルの皮膚の各々の層の光路長と、無吸収時光強度取得部109が取得した短時間パルス光の時間分解波形のモデルの無吸収時光強度と、計測光強度取得部113が取得した受光部107が受光した光の強度分布とに基づいて、前記光の強度分布から真皮層の光強度に対応する領域の積分区間を算出するので、積分区間算出部116により算出された積分区間を基に、受光部107が受光した光の強度から前記積分区間に対応する時間帯の光の強度を取得することにより、真皮層からの光を他の層からの光と区別して測定することができ、真皮層からの光に対する他の層からの光の影響を低減することができる。したがって、真皮層におけるグルコースの濃度を精度良く測定することができ、その結果、真皮層におけるグルコースの濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量することができる。
また、積分区間を可変させることにより、真皮層におけるグルコースの濃度の測定精度を高めることができる。
【0108】
なお、本実施形態では、シミュレーション部101が、吸収係数がゼロの皮膚モデルに対して光を照射するシミュレーションを行うこととしたが、シミュレーション部101が行った吸収係数がゼロの皮膚モデルに対して光を照射するシミュレーションの結果を、光路長分布記憶部103及び時間分解波形記憶部105に記憶させておけば、シミュレーション部101を備えなくとも、本実施形態と同様の作用・効果を奏することができる。
また、密着判定部111が、計測タイミング算出部110から出力される照射部106が短時間パルス光を照射するトリガー信号の時刻と、受光部107から出力される計測光強度の時刻との時間差である計測タイミングを基に、照射部106が皮膚の表面に密着しているか否かを判定することとしたが、この密着判定部111による判定を連続的に行うことで、照射部106が皮膚の表面に密着しているか否かを判定することとしてもよい。
【0109】
[第2の実施形態]
図14及び図15は、本発明の第2の実施形態の血糖値測定装置(濃度定量装置)が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
本実施形態の血糖値測定装置は、第1の実施形態の血糖値測定装置100と同一の構成であり、光路長取得部108、無吸収時光強度取得部109、計測光強度取得部113、吸収係数算出部117の動作が異なる。
【0110】
次に、この血糖値測定装置100を用いて血糖値を測定する手順について説明する。
本実施形態では、「照射部106が短時間パルス光を照射」(ステップS21)から「照射部106と皮膚との密着性を判定」(ステップS23)までは、第1の実施形態の手順と全く同一であるから、説明を省略する。
【0111】
ステップS23にて、密着判定部111が、照射部106が皮膚の表面に密着していると判定した場合、積分区間を変化させて真皮層の吸収係数を算出する(処理B:ステップS24)。
この処理B(ステップS24)は、図15に示す動作により行う。
【0112】
まず、積分区間算出部116により、(1)後方散乱した光を受光する受光部107の出力する光強度が計測光強度取得部113の最小検出感度を超えて検出された時刻から最小検出感度と等しい光強度で検出された時刻までの時間、(2)シミュレーション部101で得られる無吸収時光強度を記憶している時間分解波形記憶部105から取得した無吸収時光強度の時間特性、(3)皮膚表面に接する受光部107と照射部16との間隔、(4)シミュレーション部101に与える皮膚モデルのサイズ及び光学特性(散乱係数、吸収係数、非等方性パラメーター、または屈折率)を用いて、積分区間を算出する。より具体的には、積分区間の開始時刻、終了時刻、増分時間を算出する(ステップS31)。
【0113】
次いで、受光部107が受光を完了すると、計測光強度取得部113は、内部メモリーに記録されている受光強度から、ある時刻から時間τの間の受光強度の時間分布を取得する(ステップS32)。
例えば、皮膚の3つの層について4種類の波長を用いて濃度測定を行う場合には、3つの異なる時間τ〜τにおける受光強度の時間分布を取得する。
【0114】
計測光強度取得部113が、時間τの間の受光強度の時間分布を取得すると、光路長取得部108は、光路長分布記憶部103が記憶する波長λの光路長分布から、ある時刻から時間τの間の皮膚の各層の光路長、例えば、光路長L(t)〜L(t)、L(t)〜L(t)、L(t)〜L(t)を取得する(ステップS33)。
また、計測光強度取得部113が、時間τの間の受光強度の時間分布を取得すると、無吸収時光強度取得部109は、時間分解波形記憶部105が記憶する波長λの時間分解波形から、ある時刻から時間τの間の無吸収時光強度、例えば、ある時刻から時間τの間における検出光子数(無吸収時光強度)N(t)〜N(t)を取得する(ステップS34)。
【0115】
光路長取得部108が皮膚の各層の光路長を取得し、無吸収時光強度取得部109が検出光子数(無吸収時光強度)N(t)〜N(t)を取得すると、吸収係数算出部117は、式(10)に基づいて、積分区間算出部116が算出した、ある積分区間での皮膚の各層の吸収係数μ〜μを算出する(ステップS35)。ここで、吸収係数μは、表皮層の吸収係数を示し、吸収係数μは、真皮層の吸収係数を示し、吸収係数μは、皮下組織層の吸収係数を示す。
【0116】
【数10】

【0117】
但し、ln(A)はAの自然対数を示す。また、I(t)は、時刻tにおける受光部107の受光強度を示し、Iinは、照射部106が照射した短時間パルス光の光強度を示す。また、N(t)は、時間分解波形の時刻tにおける検出光子数を示し、Ninは、シミュレーション部301が照射のシミュレーションを行った光子の個数を示す。また、L(t)〜L(t)は、時刻tにおける皮膚の各層の光路長を示す。
【0118】
吸収係数算出部117がある積分区間での皮膚の各層の吸収係数μ〜μを算出すると、吸収係数分布記憶部118は、吸収係数算出部117が算出した、ある積分区間での皮膚の各層の吸収係数μ〜μを記憶する(ステップS36)。
【0119】
吸収係数算出部117がある積分区間での皮膚の各層の吸収係数μ〜μを算出すると、吸収係数算出部117は、設定した積分区間での真皮層の吸収係数を算出したか否かを判断する(ステップS37)。
本実施形態では、皮膚の主成分を水、たんぱく質、脂質、グルコースの4種類として血糖値の測定を行うので、吸収係数算出部117は、4種類の波長λ〜λに対して吸収係数μ〜μを算出したか否かを判定する。ここで、波長λ〜λは、シミュレーション部101が光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中から選出する。
【0120】
ここで、吸収係数算出部117が設定した積分区間での真皮層の吸収係数μ〜μに算出しなかった吸収係数があると判断した場合(ステップS37:NO)、再度、ある時刻における受光強度の取得(ステップS32)に戻り、まだ算出していない真皮層の吸収係数を算出し、再度、設定した積分区間での真皮層の吸収係数の算出の可否の判断(ステップS37)を行う。
一方、吸収係数算出部117が設定した積分区間での真皮層の吸収係数μ〜μを算出したと判断した場合(ステップS37:YES)、真皮層の吸収係数分布から吸収係数を取得する(ステップ38)。
【0121】
吸収係数取得部119は、皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の吸収係数を算出したか否かを判断する(ステップS25)。
ここで、吸収係数取得部119が皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の吸収係数を算出していないと判断した場合(ステップS25:NO)、短時間パルス光の照射(ステップS21)に戻り、まだ算出していない皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の吸収係数を算出し、再度、吸収係数の算出の可否の判断(ステップS25)を行う。
【0122】
一方、吸収係数取得部119が皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の吸収係数を算出したと判断した場合(ステップS25:YES)、濃度算出部120は、上記の式(9)に基づいて、真皮層に含まれるグルコースの濃度を算出する(ステップS26)。
【0123】
このように、本実施形態によれば、吸収係数μ〜μを、時間τの間の光路長の積分値によって算出する。これにより、計測した受光強度I(t)に含まれている誤差による吸収係数μ〜μの算出結果に対する影響を少なくすることができる。
【0124】
以上、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等が可能である。
例えば、上記の各実施形態では、濃度定量装置として血糖値測定装置を、観測対象として人の手のひらの皮膚を、目的成分としてグルコースを、パルス光として短時間パルス光を、それぞれ取ることで、皮膚の真皮層に含まれるグルコースの濃度を測定する場合について説明したが、これに限らず、濃度定量方法を、複数の光散乱媒質の層から形成される観測対象の任意の層における目的成分の濃度を定量する他の装置に用いてもよく、特定波長の短時間パルス光を、特定波長の連続光に替えてもよい。
例えば、携帯型の皮膚主成分の濃度測定装置に適用した場合、皮膚疾患の検査や診断や治療に有効利用することが可能である。
【符号の説明】
【0125】
100…血糖値測定装置(濃度定量装置)、103…光路長分布記憶部、105…時間分解波形記憶部、106…照射部、107…受光部、108…光路長取得部、109…無吸収時光強度取得部(光強度モデル取得部)、113…計測光強度取得部(光強度取得部)、116…積分区間算出部、117…吸収係数算出部、118…吸収係数分布記憶部、120…濃度算出部、121…照射量制御部、31…皮膚(観測対象)、33…真皮層(任意の層)、S1〜S6、S11〜S18、S21〜S26、S31〜S38…ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の層により構成される観測対象のうち、任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置であって、
前記観測対象に短時間パルス光を照射する照射部と、
前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光する受光部と、
前記観測対象に対して照射する短時間パルス光の、前記複数の層の各々の層における光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶部と、
前記光路長分布のモデルの所定の時刻における、前記複数の層の各々の層の光路長を取得する光路長取得部と、
前記観測対象に対して照射する短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶部と、
時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光強度を取得する光強度モデル取得部と、
前記照射部から前記観測対象へ短時間パルス光の予備照射を行うことにより、前記照射部から前記観測対象へ照射される短時間パルス光の照射量を制御する照射量制御部と、
前記照射量制御部により前記短時間パルス光の照射量が制御された後に、前記短時間パルス光の前記観測対象への入射開始時刻を基準として前記受光部が受光する時刻毎の光強度を測定し、前記受光部が前記観測対象からの後方散乱光を検出し始める時刻と強度との関係に基づき、前記照射部と前記観測対象とが密着状態であるか否かを判定する密着判定部と、
前記密着判定部が前記照射部と前記観測対象とが密着状態であると判定した場合に、前記受光部が受光した前記光の強度を取得する光強度取得部と、
前記光強度取得部が取得した前記光の強度の光強度分布と、前記光路長取得部が取得した前記複数の層の各々の層の光路長と、前記光強度モデル取得部が取得した光強度モデルとに基づいて、前記任意の層の吸収係数を算出する吸収係数算出部と、
前記吸収係数算出部が算出した吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出部と、
を備えてなることを特徴とする濃度定量装置。
【請求項2】
前記密着判定部は、前記受光部が受光する時刻毎の光強度として、前記観測対象の表面を伝搬する直接伝搬光の強度と前記観測対象からの後方散乱光の強度を選択し、前記直接伝搬光の強度が前記後方散乱光の強度の1/10以下の場合に、前記照射部と前記観測対象とが密着状態であると判定することを特徴とする請求項1記載の濃度定量装置。
【請求項3】
前記密着判定部は、前記照射部と前記観測対象とが密着状態であるか否かを判定した結果を告知する告知部を備えていることを特徴とする請求項1または2記載の濃度定量装置。
【請求項4】
前記密着判定部は、前記照射部と前記観測対象とが密着状態であるか否かを連続的に判定し、前記照射部と前記観測対象とが密着状態と判定した場合に、前記光強度取得部により、前記受光部が受光した前記光の強度を取得し、
前記照射部と前記観測対象とが密着状態ではないと判定した場合に、前記照射量制御部により前記照射部から前記観測対象へ短時間パルス光の予備照射を行うことにより、前記照射部から前記観測対象へ照射される短時間パルス光の照射量を制御し、前記照射部と前記観測対象とが密着状態であるか否かを再度判定することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の濃度定量装置。
【請求項5】
前記光強度取得部が取得した前記光の強度の光強度分布と、前記光路長取得部が取得した前記複数の層の各々の層の光路長と、前記光強度モデル取得部が取得した光強度モデルとに基づいて、前記光強度分布から前記任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲である積分区間を算出する積分区間算出部を備え、
前記吸収係数算出部は、前記積分区間算出部が算出した前記積分区間を変化させて前記任意の層における目的成分の吸収係数を算出する
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の濃度定量装置。
【請求項6】
前記光強度取得部は、前記観測対象の層の数n以上となる複数の時刻t〜tにおける光強度を取得し(但し、nは1以上の自然数、mはn以上の自然数)、
前記吸収係数算出部は、
自然対数を示すln(・)、前記受光部が時刻tにおいて受光した光強度を示すI(t)、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度を示すN(t)、前記光路長分布のモデルの時刻tにおける第i層の光路長を示すLi(t)、第i層の吸収係数を示すμを用いて、
【数1】

から任意の層の吸収係数を算出する、
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項記載の濃度定量装置。
【請求項7】
前記光強度取得部は、所定の時刻から少なくとも所定の時間τの間の光強度を取得し、
前記吸収係数算出部は、
自然対数を示すln(・)、前記受光部が時刻tにおいて受光した光強度を示すI(t)、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度を示すN(t)、前記光路長分布のモデルの時刻tにおける第i層の光路長を示すLi(t)、前記観測対象の層の数を示すn、第i層の吸収係数を示すμiを用いて、
【数2】

から任意の層の吸収係数を算出する、
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項記載の濃度定量装置。
【請求項8】
前記照射部は、複数の波長1〜qの光を照射し、
前記吸収係数算出部は、前記任意の層における吸収係数を前記照射部が照射した複数の波長毎に算出し、
前記濃度算出部は、
前記任意の層である第a層における波長iの吸収係数を示すμa(i)、前記観測対象を形成する第j成分のモル濃度を示すgj、第j成分の波長iに対する吸収係数を示すεj(i)、前記観測対象を形成する主成分の個数を示すp、照射部が照射する波長の種類数を示すqを用いて、
【数3】

から前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する、
ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項記載の濃度定量装置。
【請求項9】
複数の層により構成される観測対象に短時間パルス光を照射する照射部と、前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光する受光部と、前記観測対象に対して照射する短時間パルス光の、前記複数の層の各々の層における光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶部と、前記観測対象に対して照射する短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶部とを備え、前記観測対象のうち任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置を用いた濃度定量方法であって、
前記照射部により、前記観測対象に短時間パルス光を照射し、
前記受光部により、前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光し、
照射量制御部により、前記照射部から前記観測対象へ短時間パルス光の予備照射を行い、前記照射部から前記観測対象へ照射される短時間パルス光の照射量を制御し、
前記照射量制御部により前記短時間パルス光の照射量が制御された後に、密着判定部により、前記照射部が出力する前記短時間パルス光の前記観測対象への入射開始時刻を基準として前記受光部が受光する時刻毎の光強度を測定し、前記受光部が前記後方散乱光を検出し始める時刻と強度との関係に基づき、前記照射部と前記観測対象とが密着状態であるか否かを判定し、
光強度取得部により、前記密着判定部が前記照射部と前記観測対象とが密着状態であると判定した場合に、前記受光部が受光した前記光の強度を取得し、
光路長取得部により、前記光路長分布のモデルの所定の時刻における、前記複数の層の各々の層の光路長を取得し、
光強度モデル取得部により、前記時間分解波形記憶部から、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光強度を取得し、
吸収係数算出部により、前記光強度取得部が取得した光強度と、前記光路長取得部が取得した前記複数の層の各々の層の光路長と、前記光強度モデル取得部が取得した前記光強度とに基づいて、前記任意の層における目的成分の吸収係数を算出し、
濃度算出部により、前記吸収係数算出部が算出した吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する、
ことを特徴とする濃度定量方法。
【請求項10】
複数の層により構成される観測対象に短時間パルス光を照射する照射部と、前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光する受光部と、前記観測対象に対して照射する短時間パルス光の、前記複数の層の各々の層における光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶部と、前記観測対象に対して照射する短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶部とを備え、前記観測対象のうち任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置のコンピューターに、
前記観測対象に前記短時間パルス光を照射する照射手順、
前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光する受光手順、
前記照射部から前記観測対象へ短時間パルス光の予備照射を行うことにより、前記照射部から前記観測対象へ照射される短時間パルス光の照射量を制御する照射量制御手順、
前記照射量制御手順により前記短時間パルス光の照射量が制御された後に、前記短時間パルス光の前記観測対象への入射開始時刻を基準として前記受光手順により受光された時刻毎の光強度を測定し、前記受光手順により前記観測対象からの後方散乱光を検出し始める時刻と強度との関係に基づき、前記照射部と前記観測対象とが密着状態であるか否かを判定する密着判定手順、
前記密着判定手順により前記照射部と前記観測対象とが密着状態であると判定された場合に、前記受光手順により受光された前記光の強度を取得する光強度取得手順、
前記光路長分布記憶部から、前記光路長分布のモデルの所定の時刻における、前記複数の層の各々の層の光路長を取得する光路長取得手順、
前記時間分解波形記憶部から、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光強度を取得する光強度モデル取得手順、
前記光強度取得手順により取得された前記光強度分布と、前記光路長取得手段により取得された前記複数の層の各々の層の光路長と、前記光強度モデル取得手順により取得された前記光強度とに基づいて、前記任意の層の吸収係数を算出する吸収係数算出手順、
前記吸収係数算出手順により算出された吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出手順、
を実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−43062(P2013−43062A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185108(P2011−185108)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】