説明

灌漑用ディスクバルブ装置

【課題】フロートの浮力を利用しながらも、確実に導水管の開口を閉塞することができ、更に小型化を実現した灌漑施設用ディスクバルブの提供。
【解決手段】ため池や貯水槽等の灌漑水貯留領域内に設けられた導水管の開口15を、貯水槽内に設けたフロートチャンバー11内のフロート12の上下動に連動して動作するディスク状の弁体16によって開閉する灌漑用ディスクバルブ装置10であって、フロート12の浮力を2つ以上の梃子・クランク機構により増大させると共に、弁体16は、この増大された力で導水管の開口15を開閉させる灌漑用ディスクバルブ装置10とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、貯水ダムなどから送水される灌漑水を貯水槽内に導く導水管において、貯水槽内に一定の量だけ貯留するように、当該導水管の開口を開閉させるディスクバルブに関し、特に、該貯水槽内に設けたフロートチャンバー内のフロートの上下動によりレバー及び弁杆を介して弁体によって導水管の開口を開閉するディスクバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
稲作をはじめとして、農作物の育成に際しては、各々の生育期に適する水の管理が必要であり、よって近年では灌漑に関する技術も種々提案・実用化されている。例えば、水田の水位が所定の水位に達したとき自動的に灌漑を停止する灌漑装置として、水位センサで水田の水位を検出し、検出水位が予め設定された目標水位に一致するように電動弁を操作するものが利用されている。また水位を一定に維持するためにフロートで水位を検知し、その水位が所定値に達するとフロートに作用する浮力で弁を閉じるようにしたいわゆるフロート弁も利用されている。
【0003】
更に、貯水ダムなどの水源の水を減勢して農業用水として使用するための送配水路組織(農業用パイプライン)も広く普及している。このような農業用水路のパイプライン化は、1960年代に始まり、 1990年には整備済み水田の16%にあたる約20万ヘクタールの用水を農業用パイプラインで供給可能となっている。
【0004】
そしてかかる農業灌漑用パイプラインは、送配水のための管路とその付帯施設である調整池、加圧ポンプ、調圧施設(減勢水槽)、給水栓等から構成されているのが通例であり、この調圧施設(減勢水槽)では、調圧施設の水位を一定に保つ設備が必要である。即ち、ポンプまたは、貯水池やダム等の高落差を利用して水を管路(パイプライン)に圧送する場合には、ファームポンド等に貯水したり、管路の途中で圧力をカットして自由水面をつくる為に、減圧及び水位調整装置が必要となる。そしてこのような減圧及び水位調整装置としては、従来、水中に混入する土砂や塵芥等によるトラブル、あるいはウォーターハンマーの防止を目的として、ディスクバルブが使用されている。
【0005】
かかるディスクバルブは、貯水槽内のフロートチャンバー内を貯水槽内水位の変動により上下動するフロートと、このフロートの上下動によって導水管端の開口を開閉する弁体とから構成されており、これは例えば特許文献1(実開昭61−35281号公報)に開示されている。
【0006】
この特許文献1では、水位が最高水位近くになるとディスクバルブの開度が小さくなり、微小開度が長時間続いてキャビテーションが発生するといった問題を解決するべく、貯水槽内に設けられた導水管の上向開口を、該貯水槽内に設けたフロートチャンバー内のフロートの上下動によりレバー及び弁杆を介して弁体によって開閉されるディスクバルブにおいて、前記フロートチャンバーに設けた貯水槽との連通口に複数の開口を備えたシャッターを設け、このシャッターを貯水槽内に設けたサブフロートにより上下動させ、貯水槽内水位が最高位に近づいたときの一定範囲内は連通口を閉じ最高位において連通口を開くように構成したディスクバルブを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭61−35281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の通り、従前においてもフロートの浮力を利用して、その力を梃子の原理により倍加して貯水槽内に設けられた導水管の開口を閉塞するものは提案されている。しかしながら、この貯水槽内に設けられた導水管の開口から放出される水は、その水源との高低差に比例して放出圧力が増大するため、この導水管の開口を確実に閉塞するのは容易ではなかった。
【0009】
そして仮に導水管の開口を完全に閉塞できない場合には、その隙間から放出される水の圧力によってディスクバルブ自体やパッキンなどの変形を生じさせてしまうことも考えられた。また導水管の開口が完全に閉塞されないことにより漏れ出た水により、フロートや、フロートに連動して動作するレバー及び弁杆に負荷を与えることが考えられた。
そこで本発明では、フロートの浮力を利用しながらも、確実に導水管の開口を閉塞することのできるようにした灌漑施設用のディスクバルブを提供することを第一の課題とする。
【0010】
また灌漑施設の設置やメンテナンスの場面においては、そこに設置されるディスクバルブが大型化してしまうと、それを構成する機材の運搬や設置などに障害が生じ、またメンテナンスに際しても作業が困難になるといった課題が有った。更にこのディスクバルブの大型化により、灌漑施設自体の大型化を招来し、そのディスクバルブの設置領域の確保のみならず、灌漑施設自体の設置場所の確保が困難になっていた。
そこで本発明では、上記のように導水管の開口を確実に閉塞可能でありながらも、更に小型化を実現した灌漑施設用ディスクバルブを提供することを第二の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題の何れかを解決する為に、本発明では2つ以上の梃子・クランク機構によってフロートの浮力を倍化し、その力でディスク状の弁体により導水管の開口を閉塞するようにした灌漑用ディスクバルブ装置、即ち複式の梃子・クランク機構を有する灌漑用ディスクバルブ装置を提供するものである。
【0012】
即ち、本発明においては、ため池や貯水槽等の灌漑水貯留領域内に設けられた導水管の開口を、該貯水槽内に設けたフロートチャンバー内のフロートの上下動に連動して動作するディスク状の弁体によって開閉する灌漑用ディスクバルブ装置であって、フロートの浮力を2つ以上の梃子・クランク機構により増大させると共に、前記弁体は、この増大された力で導水管の開口を開閉させる灌漑用ディスクバルブ装置を提供する。
【0013】
上記2つ以上の梃子・クランク機構は、フロートの浮力を入力してこれを倍加する第一の梃子・クランク機構と、この第一の梃子・クランク機構の力を入力して、更に倍加した力を出力する第二の梃子・クランク機構と、更にこの第二の梃子・クランク機構の力を入力してこれを倍加する第三の梃子・クランク機構のように、複数の梃子・クランク機構を使用した複式構造とするものであり、これにより、より大きな力を得て、ディスク状の弁体により導水管の開口を閉塞することが可能になる。ここで、各梃子・クランク機構は、支点を中心に揺動するアーム部材(梃子・クランク部材)によって構成することができ、このアーム部材は、夫々が支点・力点・作用点を具備するものとして構成される。
【0014】
また、上記本発明において、前記2つ以上の梃子・クランク機構は、フロートの浮力を力点に入力する第一の梃子・クランク機構と、当該第一の梃子・クランク機構における作用点における力を入力する第二の梃子・クランク機構とからなり、前記ディスク上の弁体は、この第二の梃子・クランク機構の作用点の力によって導水管の開口を開閉させるように構成することができる。
【0015】
上記第一の梃子・クランク機構は、鋼材を用いて構成したアーム部材によって構成することができる。このアーム部材には、軸状又は棒状に形成されたアッパージョイントを介してフロートの浮力が入力される力点と、固定された構造物であるディスクボディに軸着された支点と、支点を中心として力点の反対側に位置する作用点とを設ける。この時、支点から作用点までの距離を、支点から力点までの距離の2倍以上、望ましくは約4倍程度に設定する。そしてこの作用点には、軸状又は棒状に形成されたローワージョイントを軸着して、この作用点の力を第二の梃子・クランク機構の力点に入力させる。この第二の梃子・クランク機構も鋼材を用いて構成されたアーム部材を使用しており、この力点から離れた位置に作用点、さらにその先に支点が設けられている。この第二の梃子・クランク機構の支点も、前記ディスクボディに軸着することができる。この第二の梃子・クランク機構の支点から力点までの距離を、支点から作用点までの距離の2倍以上、望ましくは約3倍程度に設定する。
【0016】
そして、この第二の梃子・クランク機構の作用点に、軸状又は棒状のディスクジョイントを軸着し、このディスクジョイントの先端を、傘状のディスクキャノピーに連結する。そしてこのディスクキャノピーの下面には、弁体となるディスク部材を設け、このディスク部材を、導水管の開口に正対させると共に、この開口を閉塞するように設置する。
【0017】
以上のように構成したことにより、第一の梃子・クランク機構の力点に入力された力は、複式の梃子・クランク機構により倍加されることになり、フロートの浮力をより大きな力に変換して、ディスク部材の導水管の開口を閉塞する力に変えることができる。
【0018】
特に、上記のような構成において、第二の梃子・クランク機構の力点を第一の梃子・クランク機構における作用点の下方に設置し、第二の梃子・クランク機構の作用点と支点を第一の梃子・クランク機構の支点側に設置することにより、灌漑用ディスクバルブ装置全体を小型化することができる。
【0019】
また、前記第二の梃子・クランク機構の作用点は、その揺動範囲の上下中心位置が、当該第二の梃子・クランク機構の支点と同一水平面上に存在するように設定されることが望ましい。これは、当該第二の梃子・クランク機構の作用点の左右方向の移動距離を少なくするためである。例えば、前記第二の梃子・クランク機構の支点と作用点が同一水平面上に存在する状態において、この第二の梃子・クランク機構の作用点を、当該仮想線よりも下に存在するように構成することができる。
【0020】
また、本発明において、前記ディスク状の弁体(即ち「ディスク部材」)は、傘状に形成されたキャノピー部材の底面中央に設けられており、前記2つ以上の梃子・クランク機構により増大された力は、このキャノピー部材の2か所以上に分散して入力することが望ましい。即ち、ディスク状の弁体を中心として点対称となる位置に分散させて、前記2つ以上の梃子・クランク機構により増大された力を入力することが望ましい。このように構成することにより、ディスク状の弁体を安定して移動させることができ、当該弁体のグラつきを無くして確実に導水管の開口を閉塞することができる為である。
【0021】
そして本発明に係る灌漑用ディスクバルブ装置において、前記2つ以上の梃子・クランク機構は、フロートの浮力を力点に入力する第一の梃子・クランク機構と、当該第一の梃子・クランク機構における作用点における力を入力する第二の梃子・クランク機構とからなり、当該第二の梃子・クランク機構は、ディスク状の弁体が設けられる傘状に形成されたキャノピー部材の下に存在し、当該キャノピー部材に設けられたディスク状の弁体を下向きに引き下げるように構成することが望ましい。導水管の開口から排出される灌漑水の水圧が作用しているキャノピー部材を、押し下げるのではなく引き下げるように構成することにより、ディスク状の弁体のグラつきなどを無くして、より確実に導水管の開口を閉塞できる為である。
【発明の効果】
【0022】
以上のように構成された本発明の灌漑用ディスクバルブ装置によれば、複式の梃子・クランク機構により、フロートの浮力をより大きな力に変えて、貯水槽内に設けられた導水管の開口を閉塞することができる。
【0023】
これにより、貯水槽内に設けられた導水管の開口から放出される水が、水源との高低差に比例して放出圧力が増大した場合であっても、より強い力で導水管の開口を閉塞することができ、確実に導水管の開口を閉塞することのできるようにした灌漑施設用のディスクバルブを提供することができる。
【0024】
そして閉塞後における導水管の開口からの漏水を確実に阻止できるのであるから、漏水の圧力によってディスクバルブ自体やパッキンなどの変形を無くすことができ、また漏れ出た水により、フロートや、フロートに連動して動作するレバー及び弁杆に対して負荷を生じさせることが無くなる。
【0025】
更に、本発明に係る灌漑用ディスクバルブ装置では、2つの梃子・クランク機構を使用することにより、導水管の開口を確実に閉塞可能でありながらも、更に全体として小型化を図った灌漑用ディスクバルブ装置とすることができる。
【0026】
これにより、灌漑施設の設置やメンテナンスに際して、設置するディスクバルブを構成する機材の運搬や設置などを難なく実施することができ、またメンテナンスに際しても作業を容易に行うことができる。更に、ディスクバルブの設置領域や、灌漑施設自体の設置場所の自由度を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施の形態に係る灌漑用ディスクバルブ装置の横方向からみた縦断面図
【図2】(A)は図1の灌漑用ディスクバルブ装置におけるA−A矢視断面図、(B)導水管の開口とディスク状の弁体を備えたキャノピー部材を示す透視側面図、(C1)は(B)におけるC−C方向要部透視断面図、(C2)は(C1)に対応する上面透視図、(D1)は(B)におけるD−D方向要部透視断面図、(D2)は(D1)に対応する上面透視図
【図3】第二の梃子・クランク機構近傍を拡大して示した要部縦断面図
【図4】導水管の開口を閉塞するディスク状の弁体のキャノピー部材に対する設置状況を示す分解図
【図5】灌漑用ディスクバルブ装置の動作状態を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら本実施の形態に係る灌漑用ディスクバルブ装置10を具体的に説明する。
図1は本実施の形態に係る灌漑用ディスクバルブ装置10の横方向からみた縦断面図であり、図2(A)は図1の灌漑用ディスクバルブ装置10におけるA−A矢視断面図であり、(B)導水管の開口15とディスク状の弁体(16)を備えたキャノピー部材を示す透視側面図であり、(C1)は(B)におけるC−C方向要部透視断面図であり、(C2)は(C1)に対応する上面透視図であり、(D1)は図2(B)におけるD−D方向要部透視断面図であり、(D2)は(D1)に対応する上面透視図である。また、図3は第二の梃子・クランク機構近傍を拡大して示した要部縦断面図であり、図4は導水管の開口15を閉塞するディスク状の弁体(16)のキャノピー部材に対する設置状況を示す分解図であり、図5はこの灌漑用ディスクバルブ装置10の動作状態を示す縦断面図である。
【0029】
この実施の形態に係る灌漑用ディスクバルブ装置10は、ため池や貯水槽等の灌漑水貯留領域に設置されるものであり、図1に示すように、主として貯水槽内に設けたフロートチャンバー11と、このフロートチャンバー11内に設けられたフロート12と、このフロート12の浮力を増大させる2つの梃子・クランク機構(13,14)と、貯水槽内に開口する導水管の開口15と、この開口を開閉するディスク状の弁体(16)を具備するディスクキャノピー17とで構成されている。
【0030】
このフロートチャンバー11は、上下方向が解放した筒体に形成されており、その中の水位は貯水槽内の水位と同じになるように構成されている。本実施の形態では貯水槽の底面に土台となるディスクベース21を設置し、これに柱状に形成されたケーシングフート22を複数本立設させると共に、このケーシングフート22の上方に筒状に形成されたケーシング18を設置してフロートチャンバー11を構成している。特にこのケーシング18は筒状であることから、当該ケーシング18の内側に区画されているフロートチャンバー11の下方は開放しており、その為に、仮に当該チャンバー11内(即ちケーシング18内)にゴミなどが入り込んだとしても、下方から難なく放出することができる。
【0031】
またケーシング18で区画されたフロートチャンバー11内には、中空に形成されたフロート12が上下方向に移動自在に収容される。即ち、このフロート12はケーシング18内の水面に浮かぶように構成され、当該ケーシング18内の水位の上昇又は降下に連動して、当該ケーシング18内を上下方向に移動することになる。また当該フロート12には、その内部空間内に水等を注入したり、あるいは水等を排出することにより浮力を調整する為の調整プラグ19を設けている。即ちこの実施の形態においては、上下端部を閉塞した中空円柱状のフロート12であり、その上面には当該フロート12内に水を注入可能な開口とこれを閉塞する部材とからなる上部浮力調整プラグ19が設けられており、このフロート12の下面には当該フロート12内に注入した水を排出可能な開口とこれを閉塞する部材とからなる下部浮力調整プラグ19が設けられている。このように形成されたフロート12において、その浮力を減じる場合には、上部浮力調整プラグ19又は下部浮力調整プラグ19から水を注入すれば良い。一方で、浮力を増大させる場合には、例えば上部浮力調整プラグ19から空気を注入して内部の水を下部浮力調整プラグ19から排出することができる。
【0032】
そしてフロート12の浮力等は梃子・クランク機構に伝えられることになるが、本実施の形態において、当該梃子・クランク機構は、フロート12からの力を力点に入力する第1種梃子に分類される第一の梃子・クランク機構を構成するアッパーアーム13と、このアッパーアーム13の作用点の力を支点に入力する第2種梃子に分類される第二の梃子・クランク機構を構成するローワーアーム14とからなっている。
【0033】
かかる構成の梃子・クランク機構に対してフロート12の浮力等を入力する為、フロート12と第一の梃子・クランク機構を構成するアッパーアーム13の力点との間には、任意に軸真長を調整可能に形成した棒状のアッパージョイント23を設けている。即ち、このアッパージョイント23は、基端側をフロート12の上面に軸着すると共に、その先端部をアッパーアーム13の力点に軸着している。特に本実施の形態では、アッパージョイント23の軸心長を任意に調整可能にするべく、ネジなどにより伸縮長さを調整可能な伸縮管を使用している。アッパージョイント23の軸心長を調整可能としている事により、例えば多くの灌漑水を貯水しなければならない時期は、このアッパージョイント23の軸心長を短くし、灌漑水の貯水量を少なくする場合には、このアッパージョイント23の軸心長を長く設定することができる。
【0034】
そして、上記のアッパージョイント23を介してフロート12の浮力等が入力されるアッパーアーム13は、貯水槽内に存在するディスクボディ20に軸着され、この軸着された部分を支点として揺動するように構成されている。このディスクボディ20は、前記のディスクベース21に立設された鋼材などからなるボディーフート28の上端に設けられており、側面からみた場合に、アッパーアーム13を支持する部分を斜め上方に突出状に設けると共に、当該アッパーアーム13の支点よりも下方を欠いたように湾曲させ、この部分に後述するディスクキャノピー17を配置するように構成している。
【0035】
また、上記アッパーアーム13は、支点部分の幅を広くすると共に、力点や作用点に向かって徐々に幅を狭くするように構成している。このように形成することにより、十分な強度を確保すると共に可能な限り軽量化を図ることができる。なお、このアッパーアーム13は、図2に示すように、2つを平行に配置して使用することもできる。
以上の様にディスクボディ20に軸着したアッパーアーム13の先端側には、前記フロート12の動作によって支点を中心に上下揺動する作用点が設けられる。そしてこの作用点には、下方に延伸するローワージョイント24を軸着している。特に本実施の形態において、このアッパーアーム13は、支点から力点までの距離が支点から作用点までの距離の4倍となる様に設定している。これにより、力点の4倍の力が作用点に生じることになる。
【0036】
このアッパーアーム13の作用点に設けられたローワージョイント24の下端には、第二の梃子・クランク機構を構成するローワーアーム14の力点を軸着している。図3に示すように、このローワーアーム14の支点は前記したディスクボディ20に軸着されており、作用点はこの支点寄りに設けられている。この実施の形態において支点から力点までの距離は、支点から作用点までの距離の約3.2倍程度に設定していることから、力点に入力された力の約3.2倍程度の力を作用点に出力することができる。その結果、フロート12の浮力を約12.8倍程度に増加させて第二の梃子・クランク機構の作用点に出力することができる。なお、第一の梃子・クランク機構を構成するアッパーアーム13の作用点と第二の梃子・クランク機構を構成するローワーアーム14の力点とをつなぐローワージョイント24も、前記アッパージョイント23と同様に軸心長を任意に調整可能にするべく、ネジなどにより伸縮長さを調整可能な伸縮管を使用している。
【0037】
そして上記ローワーアーム14において、その力点が揺動範囲(D)の中央(D/2)に存在するときに、作用点は支点と同一平面上に存在するように構成する。特に本実施の形態では、ローワーアーム14が最も下方に傾いた状態、即ち力点が支点と同一平面上に存在する状態において、作用点は支点と力点を結んだ仮想線(L)よりも下よりに設けられている。このように構成することにより、当該第二の梃子・クランク機構を構成するローワーアーム14の揺動時における作用点の水平方向の変位量を最小限にすることができる。またローワーアーム14が最も下に位置する状態において、力点が支点と同一水平面上に存在することにより、アッパーアーム13からの上向きの力を最大限利用することが可能になり、より強い力で導水管の開口15を閉塞することができる。
【0038】
このローワーアーム14は、2つのローワーアーム14を平行に配置して対をなすように構成されており、それぞれのローワーアーム14の作用点には、軸状に形成したディスクジョイント25を軸着している。そしてこのディスクジョイント25の先端を、傘状のディスクキャノピー17に連結している。このように構成することにより、ローワーアーム14の揺動に応じて、当該ディスクキャノピー17が上下動することができる。
【0039】
特に本実施の形態では、図1に示したように、貯水槽内に灌漑水を導くデリバリー管26の開口に、当該デリバリー管26と略同じ内径の管からなるノズル部材27を連結し、デリバリー管26に連結されたノズル部材27の開口を導水管の開口15としている。なお、デリバリー管26とノズル部材27とは、それぞれの接合面に設けられたフランジによって一体化されており、ノズル部材27は。側面に突起して設けられたフランジ33によって前記ディスクボディ20に軸着されている。またノズル部材27の下端側には、デリバリー管26から導かれる灌漑水の圧力を減じる為に、内径を窄めた減速リング42を設けることも望ましい。
【0040】
そしてこのノズル部材27の側面には、図2及び4に示すように、前記したディスクジョイント25の上下動を案内し、水平方向への変位を無くすためのディスクガイド31を設けている。本実施の形態においては、ディスクジョイント25に突起して設けたプレート部材を挟み込むように支持する溝状のガイドとして具体化している。また、このようなディスクガイド31は、ディスクジョイント25の存在位置だけでなく、その他の位置にも所定間隔で設けることができる。他の位置にディスクガイド31を設けた場合には、ディスクジョイント25によって上下動する傘状のディスクキャノピー17の内側に、中心に向かって突出するプレート部材39を設け、このプレート部材39を案内するように構成することができる。以上の様に複数のディスクガイド31を設けることにより、ディスクキャノピー17を鉛直方向に上下動することができる。
【0041】
そしてこのディスクキャノピー17の下面には、導水管の開口15を閉塞する為の弁体(16)となるディスク部材16を設置している。本実施の形態では、当該ディスク部材16を揺動自在な状態でディスクキャノピー17に取り付けており、特に割りピンによって当該ディスク部材16をディスクキャノピー17に軸止し、ローワーアーム14の揺動する面に対して直交する向きに揺動可能なように取り付けられている。
【0042】
かかるディスク部材16は、図4に示すように、ディスクキャノピー17に対して溶接などによって固定されると共に、下方にキリ孔が設けられた軸受部を有するディスクキャップ34と、この軸受部に割りピン35などによって軸止される突起部と、この突起部の下方に設けられた円盤部とからなるディスク本体36と、このディスク本体36における円盤部の側面及び下面を覆うディスクパッキン37と、このディスクパッキンを保持するフランジ部を有し、前記ディスク本体に嵌合するピンを具備するパッキン押え38とで構成することができる。
【0043】
以上のように構成された灌漑用ディスクバルブ装置10の動作を、図5を参照しながら説明すると、貯水槽内の水位が上昇した場合(HWL)には、これと共にフロート12もケーシング18内を上昇する。このフロート12の浮力がアッパージョイント23を介してアッパーアーム13の力点に入力され、当該力点を押し上げる。此れに伴いアッパーアーム13の作用点には下降する力が生じ、これがローワージョイント24を介してローワーアーム14の力点を押し下げる。このローワージョイント24は第二種の梃子・クランク機構で構成されていることから、支点を中心として作用点には下向きの力が作用し、これにより、ディスクキャノピー17と此れに設けられたディスク本体を引き下げ、導水管の開口15を閉塞することができる。
【0044】
一方、貯水槽内の灌漑水が一定の水位に達していない場合には、フロート12も低い位置に存在し、アッパーアーム13も力点が支点よりも低い位置に存在する。この時、アッパーアーム13の作用点は支点よりも高い位置に存在し、ローワージョイント24を介してローワーアーム14の力点を引き上げる。これにより、ローワーアーム14の作用点も上方に押し上げられ、ディスクジョイント25を介してディスクキャノピー17と此れに設けられたディスク部材16も押し上げられて、導水管の開口15が開放する。なお、本実施の形態に係る灌漑用ディスクバルブ装置10では、この時のアッパーアーム13の傾斜具合を一定の範囲に調整する為、ディスクボディ20には、低水位時(LWL)におけるアッパーアーム13を支持する低水位ストッパー30を設けている。
【0045】
そして、本実施の形態における灌漑用ディスクバルブ装置10では、第一種梃子・クランク機構であるアッパーアーム13の力点、支点、作用点の配置方向とは逆向きに、第二種梃子・クランク機構であるローワーアーム14の力点、作用点、及び支点をこの順序で並ぶように設けている。これにより2つの梃子・クランク機構の全体の長さを減じることができ、灌漑用ディスクバルブ装置10の小型化を実現することができる。特に本実施の形態では、上記の様に2つの梃子・クランク機構を配置している事により、ローワーアーム14の作用点は、アッパーアーム13の支点の下に存在することになるが、前記のように、ディスクボディ20には、ディスクキャノピー17を収容する為の窪みを設けていることから、難なくディスクキャノピーを上下させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
上記本発明の灌漑用ディスクバルブ装置は、農業分野における灌漑施設において利用することができ、その他にも上下水道の管理施設や、液体燃料等の貯留施設、あるいは各種工場における液体の貯留施設において、一定量を貯留する為のバルブとして利用することができる。
【0047】
よって、本発明にかかる灌漑用ディスクバルブ装置は、灌漑施設に限らず様々な用途で使用することができる。
【符号の説明】
【0048】
10 灌漑用ディスクバルブ装置
11 フロートチャンバー
12 フロート
13 アッパーアーム
14 ローワーアーム
15 導水管の開口
16 ディスク部材
17 ディスクキャノピー
18 ケーシング
19 調整プラグ
20 ディスクボディ
21 ディスクベース
22 ケーシングフート
23 アッパージョイント
24 ローワージョイント
25 ディスクジョイント
26 デリバリー管
27 ノズル部材
28 ボディーフート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ため池や貯水槽等の灌漑水貯留領域内に設けられた導水管の開口を、該貯水槽内に設けたフロートチャンバー内のフロートの上下動に連動して動作するディスク状の弁体によって開閉する灌漑用ディスクバルブ装置であって、
フロートの浮力を2つ以上の梃子・クランク機構により増大させると共に、前記弁体は、この増大された力で導水管の開口を開閉させることを特徴とする、灌漑用ディスクバルブ装置。
【請求項2】
前記2つ以上の梃子・クランク機構は、フロートの浮力を力点に入力する第一の梃子・クランク機構と、当該第一の梃子・クランク機構における作用点における力を入力する第二の梃子・クランク機構とからなり、
前記ディスク上の弁体は、この第二の梃子・クランク機構の作用点の力によって導水管の開口を開閉させる、請求項1に記載の灌漑用ディスクバルブ装置。
【請求項3】
前記第二の梃子・クランク機構の作用点は、その回動範囲の上下中心位置が、当該第二の梃子・クランク機構の支点の水平面上に存在するように設定される、請求項2に記載の灌漑用ディスクバルブ装置。
【請求項4】
前記ディスク状の弁体は、傘状に形成されたキャノピー部材の底面中央に設けられており、
前記2つ以上の梃子・クランク機構により増大された力は、このキャノピー部材の2か所以上に分散して入力される、請求項1〜3の何れか一項に記載の灌漑用ディスクバルブ装置。
【請求項5】
前記2つ以上の梃子・クランク機構は、フロートの浮力を力点に入力する第一の梃子・クランク機構と、当該第一の梃子・クランク機構における作用点における力を入力する第二の梃子・クランク機構とからなり、
当該第二の梃子・クランク機構は、ディスク状の弁体が設けられる傘状に形成されたキャノピー部材の下に存在し、当該キャノピー部材に設けられたディスク状の弁体を下向きに引き下げる、請求項1〜4の何れか一項に記載の灌漑用ディスクバルブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−2510(P2013−2510A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132717(P2011−132717)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(511038536)株式会社平山設備工業 (2)
【Fターム(参考)】