説明

灰類処理方法と灰類処理設備

【課題】鉄やアルミニウムをできるだけ灰中に残留させ、銅、鉛、亜鉛、カドミウムなどの有用金属を選択的かつ安価に抽出可能な灰類処理方法と灰類処理設備を提供する。
【解決手段】硫酸の存在下において、塩素イオンを含む水溶液中で灰類を溶解し、この灰類中の金属を抽出する灰類処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は灰類処理方法と灰類処理設備に関し、詳しくは、灰類中に含まれる銅、鉛、亜鉛などの有用かつ有害な金属類を抽出・処理する灰類処理方法と灰類処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ごみ(一般廃棄物)の大部分(約70%。約10万t/日)は焼却処分されており、その結果、焼却されたごみ重量の約9%の焼却灰と約1%の焼却飛灰が発生している。これらの灰中には、鉛、カドミウム、亜鉛、銅などの金属が高い濃度(約1,000〜10,000ppm)で含まれており、そのまま埋め立てると埋め立て地周辺の土壌、地下水汚染などを引き起こす可能性がある。
【0003】
なかでも、焼却飛灰は鉛、カドミウム、亜鉛などの揮発性の高い金属を高濃度で含んでおり、粒径が小さく比表面積が大きいことから、金属を溶出し易い。そのため、これらについては、(1)溶融固化法、(2)セメント固化法、(3)薬剤処理法、(4)酸などの溶媒による抽出法などの中間処理法が義務づけられるに至っている。
【0004】
(1)溶融固化法は、焼却灰や焼却飛灰を融点よりも高い温度でスラグ化し、これを冷却固化してスラグ内に金属を閉じ込め安定化させる方法であるが、溶融時に融点の低い金属が揮発して、溶融飛灰に移行するので、通常の焼却飛灰より高濃度の金属が含まれるようになり、この溶融飛灰を別途再処理する必要が生じる。
【0005】
(2)セメント固化法は、焼却飛灰をセメント及び水と共に混練して、その内部に金属を封じ込める方法であるが、セメントの添加により体積が増加したり、アルカリ性条件下で溶出し易い鉛を多く含む飛灰の処理には適さない等の問題点がある。
【0006】
(3)薬剤処理法は、焼却飛灰をキレート剤および水と混練して、飛灰中の金属とキレート剤とを反応させて不溶性の金属キレート化合物を製造し、飛灰の安定化を図るものであるが、高価なキレート剤を用いるため、処理コストが高くなる。また、溶融飛灰のように、金属含有量が多く、塩を多量に含むものには効果が小さい。同時に有用金属がキレート剤により固定化されてしまい、金属の再利用ができない。
【0007】
(4)酸による抽出法は、酸性溶液中に灰を懸濁させ、金属イオンにして抽出した後、種々の方法でこの金属イオンを溶解度の低い固体沈殿として回収・安定化する方法であり、上記各方法が有する問題点がなく、灰中の有価金属を回収・再資源化し易いといえる(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平9−316557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術の酸抽出法は、ごみ焼却の過程や溶融処理の過程で発生する塩化水素や亜硫酸ガスの有害酸性ガス処理のために、消石灰などのアルカリ剤を吹き込んで中和処理しているので、焼却飛灰や溶融飛灰中には未反応のアルカリ剤が高濃度に残存しており、抽出用として投入される酸の大半は残存アルカリ剤と中和して消費されてしまう。
【0009】
しかも、灰中には、毒性が低く液相中に抽出しても回収が困難な鉄やアルミニウムが大量に含まれており、これらも有価金属と共に溶出して酸を消費する。さらに、溶出した金属を溶液から回収する際には中和工程が必要となり、そのために多量のアルカリ剤が必要になり、高い処理コストが必要となっている。
【0010】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点に鑑みて、鉄やアルミニウムをできるだけ灰中に残留させ、銅、鉛、亜鉛、カドミウムなどの有用金属を選択的かつ安価に抽出可能な灰類処理方法と灰類処理設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、請求項記載の発明により達成される。すなわち、本発明に係る灰類処理方法の特徴構成は、硫酸の存在下において、塩素イオンを含む水溶液中で灰類を溶解し、この灰類中の金属を抽出することにある。
【0012】
この構成によれば、灰類中の鉄やアルミニウムの溶出をできるだけ抑えて、銅、鉛などの有用金属を選択的に効率よく抽出でき、しかも抽出液として高価な薬剤(チオ硫酸ナトリウム等)や多量のアルカリ剤を使用することがないため、処理コストの低い処理方法を実施することができる。尚、本明細書で「灰類」とは、都市ごみや産業廃棄物の焼却の過程で発生する焼却灰や焼却飛灰、更にはこれらを溶融処理する際に発生する溶融飛灰をも含む概念として用いる。
【0013】
その結果、鉄やアルミニウムを灰中にできるだけ残留させ、銅、鉛、亜鉛、カドミウムなどの有用金属を選択的かつ安価に抽出する灰類処理方法を提供することができた。
【0014】
前記塩素イオン濃度が3M以上であり、溶解後の最終pHが7.75以下、2.63以上であることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、有用金属を選択的に一層効率よく抽出できる。溶解後の最終pHが2.63未満であると、鉄、アルミニウムの溶解度が上昇するため好ましくない。より好ましくは、最終pHが7.09以下、4.00以上である。
【0016】
前記灰類から溶解抽出した抽出液に対して硫化物沈殿法により安定化処理を行うことが好ましい。
【0017】
この構成によれば、抽出液から有用金属を確実に高い回収率で回収可能になり、回収した金属(硫化物)を種々の用途、例えば非鉄製錬などの原料として利用することができる。例えば、硫化剤として水硫化ナトリウムを用いると、抽出液中の銅、鉛、亜鉛、カドミウムを100%回収することができる。
【0018】
前記安定化処理した後、更に固液分離処理を行うと共に、分離された液体分を前記溶解槽に送給して再利用することが好ましい。
【0019】
この構成によれば、分離された液体分を溶解槽で再度溶剤に利用することより、溶解のための水および薬剤の使用量が最小限となり、処理コストの低減や省資源に効果的となる。
【0020】
また、本発明に係る灰類処理設備の特徴構成は、硫酸の存在下において、塩素イオンを含む水溶液中で灰類を溶解し、前記灰類中の金属を抽出する溶解槽を有することにある。
【0021】
この構成によれば、鉄やアルミニウムを灰中にできるだけ残留させ、銅、鉛、亜鉛、カドミウムなどの有用金属を選択的かつ安価に抽出可能な灰類処理設備を提供することができる。
【0022】
前記溶解槽において、前記灰類から溶解抽出した抽出液に対して硫化剤を加えることにより安定化処理を行う沈殿槽を有することが好ましい。
【0023】
この構成によれば、灰類中の有用金属を硫化物として回収して、種々な用途に利用できる。
【0024】
前記沈殿槽により処理された被処理物に対して固液分離を行う固液分離装置が設けられていて、この固液分離装置により分離された液体分を、前記溶解槽に送給して再利用可能に構成されていることが好ましい。
【0025】
この構成によれば、金属類の溶解に必要な薬剤の使用量を最小限にでき、処理コストを低減し、省資源となる設備を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る灰類処理装置の概略構成を示す。この灰類処理装置は、被処理物である灰類を溶解抽出液と共に混合して灰類中の金属成分を抽出する溶解槽1と、溶解槽1で処理された処理液を凝集剤で処理する前段沈殿槽2と、凝集剤で処理された灰の固形部分と液体部分とを分離する前段固液分離装置3と、更に溶解抽出した金属類を安定化するために、後段沈殿槽4が配置されており、必要に応じて抽出ろ液に対して凝集剤が加えられると共に、後段の固液分離装置5にて固液分離されるようになっている。もっとも、溶解槽1と前段沈殿槽2を設ける代わりに前段沈殿槽2のみとし、前段沈殿槽2に灰類と溶解抽出液を投入して金属成分を抽出する溶解槽としてもよい。以下、本実施形態では、灰類として飛灰を例に挙げて説明する。
【0027】
溶解槽1では飛灰が投入され、これに塩素イオンと硫酸とを含む水溶液からなる溶解抽出液が投入されて混合・撹拌され、飛灰中の金属類が抽出される。塩素イオンを含む水溶液とは、塩素イオンを含む水溶液である限り特に限定されるものではなく、例えば、水中に塩素イオンを含有する塩を溶解すること等の方法によって得られるものを全て含む。この場合、塩素イオン源として塩化ナトリウム、塩化カルシウムのような塩素イオンを含む塩を用いてもよい。
【0028】
塩素イオン濃度は、飛灰中の金属含有量などによって異なるが、好ましくは3M以上であり、より好ましくは4M以上である。かかる濃度とすることにより、効率的に飛灰中の金属を溶解抽出することができる。つまり、塩素イオンの濃度が3M未満であると、有用金属を選択的に効率良く抽出し難くなり好ましくない。
【0029】
この水溶液に関し、抽出された金属イオンが水酸化物の形態で固化することを避けるため、かつ鉛以外の有用金属を抽出させ、しかも沈殿回収工程で固液分離に悪影響を及ぼす鉄、アルミニウムの抽出を抑制するため、抽出後のpHが酸性域となるように硫酸が添加される。硫酸は、pH=3.0以下となるように添加されることが好ましく、具体的に、硫酸濃度は0.28〜1.00M添加されることが好ましい。
【0030】
溶解槽1中では、予め投入された飛灰に溶解抽出液を投入してから撹拌・混合してもよいし、その逆であってもよいが、飛灰中の金属を効率よく抽出するためには、例えば、飛灰が溶融飛灰の場合、水溶液に対して1〜50重量%であることが好ましい。溶融飛灰の場合、1重量%未満であると処理量が少ないため効率が悪く、50重量%を越えると抽出に時間がかかり効率的でない。5〜20重量%であることがより好ましい。溶解槽1中での撹拌は、通常、1時間程度で十分である。尚、図1で、Mは撹拌機を駆動する電動機を示す。
【0031】
以上の方法により、飛灰中の銅、鉛、亜鉛、カドミウム等の有用金属が効率よく抽出されることになるが、そのメカニズムは、以下のように考えられる。
【0032】
飛灰中の鉛は、溶融抽出液中の塩素イオンにより、(PbCl42-や(PbCl3)-のような塩化物錯体を形成し、抽出中に溶出する。一方、銅、亜鉛、カドミウムは、硫酸と反応して、金属イオンとして溶液中に溶出してくる。
【0033】
このようにして本実施形態による方法では、飛灰中の重金属類を選択的に抽出できるものと理解される。なお、本実施形態を実施するに当たり、上記メカニズムによる反応に限定されるものではない。
【0034】
次に、後段における抽出ろ液中の金属の安定化につき説明する。もっとも、安定化処理は、固液分離した抽出ろ液を対象としてもよいし、固液分離しない抽出液を対象としてもよい。
【0035】
溶解槽1で処理された処理液は前段沈殿槽2に送給され、ここで凝集剤を加えられて処理され、前段固液分離装置3により凝集剤で処理された灰の固形部分(溶解残渣)と液体部分とを分離される。飛灰中の金属回収を目的とする場合、固液分離した抽出ろ液を沈殿槽4に送給し、ここで、抽出ろ液は、硫化物沈殿法により硫化剤のような沈殿剤を加えられて電動機Mの駆動力を利用して撹拌され安定化される。他方、溶解残渣は再溶融するかあるいは埋め立て処分する。
【0036】
ここに、硫化物沈殿法とは、溶液中にHSを添加するか、あるいは発生させ、下記の化1式により、硫化物として固化・沈殿させる方法をいう。硫化物沈殿を行う硫化剤としては、水流化ソーダ、硫化ソーダ、硫化水素ガス等を使用できる。
【0037】
[化1]
(M* Clmn‐+HS=M*S+H++mCl
**+ HS =M**S + H+
ここに、M* は鉛を、M**は亜鉛、カドミウム、銅であり、m,nは整数を表す。
【0038】
飛灰中の金属回収を目的とする場合は、固液分離装置4により分離された固体分は金属回収物として回収されて山元還元され、一方、液体分は再度、ポンプPにより溶解槽1に送給されるか、下水道などに放流される。
【実施例】
【0039】
ストーカ式ごみ焼却炉から排出された焼却灰と焼却飛灰をプラズマ式溶融炉にて溶融した際に発生する溶融飛灰を、バグフィルターで集塵した灰について、灰中に含まれる金属の抽出を行った。この溶融飛灰1kg中に含まれる主な金属をプラズマ発光分析法で分析したところ、銅:1.4g,鉛:27.8g,亜鉛:102.1g,カドミウム:1.2g,カルシウム:69.8g,アルミニウム:4.9g,鉄:3.3gであった。抽出液は、5M NaCl+H2SO4の混合液を用い、硫酸添加量を変えることにより溶解最終pHを11.64から0.00に制御した。
【0040】
抽出は、容量50mLのガラス栓付き三角フラスコに飛灰試料1gと所定抽出液10mLを入れて、大気中にて25℃の条件下で振盪・撹拌して行った。1時間後、抽出液を孔径0.2μmのミリポアフィルターにてろ過し、ろ液中の金属量をプラズマ発光法で定量測定し、各金属の溶出量を求めた。ろ液については、pHも測定した。得られた各金属の抽出率と硫酸濃度の関係を図2に、抽出率と硫酸濃度、最終pHとの関係を表1に示す。
【0041】
銅は、硫酸濃度が約0.07M以上(pH:7.70以下)になると抽出され始め、硫酸濃度が約0.28M(pH:2.63)になるまで略直線的に抽出率は増加し、硫酸濃度が約0.30M以上(pH:1.18以下)になると100%抽出されることがわかる。
【0042】
【表1】

鉛は、硫酸濃度が約0.07M(pH:7.70)になるとかなり抽出され、硫酸濃度が約0.17M以上(pH:6.94以下)になると略100%近く抽出されることがわかる。
【0043】
亜鉛は、鉛と同様に硫酸濃度が約0.07M(pH:7.70)になるとかなり抽出され、硫酸濃度が約0.22M以上(pH:6.46以下)になると略100%近く抽出されることがわかる。
【0044】
カドミウムは、硫酸濃度が約0.03M(pH:8.97)になるとかなり抽出され、硫酸濃度が約0.22M以上(pH:6.46以下)になると100%抽出されることがわかる。以上のように、本実施形態によれば、灰類中の銅、鉛、亜鉛、カドミウムのような金属が高収率で回収可能である。
【0045】
一方、鉄については、硫酸濃度が約0.30M(pH:1.18)になると抽出され始め、硫酸濃度が約0.50M(pH:0)になると50%強抽出される。アルミニウムについては、硫酸濃度が約0.28M(pH:2.63)になると抽出され始め、硫酸濃度が約0.50M(pH:0)になると約30%程度抽出される。
【0046】
〔別実施の形態〕
(1)上記実施形態では、沈殿槽を2個直列に配列した例を示したが、沈殿槽は、更に多くを直列に配置して、上流側の沈殿槽による処理され固液分離された液体分を、下流側の沈殿層に送給し、回収率を高めるようにしてもよい。
(2)溶解槽、沈殿槽の仕様、形式などは特に限定されるものではなく、種々のものを使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態に係る灰類処理装置の概略全体構成図
【図2】各金属の抽出率と硫酸濃度の関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0048】
1 溶解槽
2,4 沈殿槽
3,5 固液分離装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸の存在下において、塩素イオンを含む水溶液中で灰類を溶解し、この灰類中の金属を抽出する灰類処理方法。
【請求項2】
前記塩素イオン濃度が3M以上であり、溶解後の最終pHが7.75以下、2.63以上である請求項1の灰類処理方法。
【請求項3】
前記灰類から溶解抽出した抽出液に対して硫化物沈殿法により安定化処理を行う請求項1又は2の灰類処理方法。
【請求項4】
前記安定化処理した後、更に固液分離処理を行うと共に、分離された液体分を前記溶解槽に送給して再利用する請求項3の灰類処理方法。
【請求項5】
硫酸の存在下において、塩素イオンを含む水溶液中で灰類を溶解し、前記灰類中の金属を抽出する溶解槽を有する灰類処理設備。
【請求項6】
前記溶解槽において、前記灰類から溶解抽出した抽出液に対して硫化剤を加えることにより安定化処理を行う沈殿槽を有する請求項5の灰類処理設備。
【請求項7】
前記沈殿槽により処理された被処理物に対して固液分離を行う固液分離装置が設けられていて、この固液分離装置により分離された液体分を、前記溶解槽に送給して再利用可能に構成されている請求項6の灰類処理設備。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−35156(P2006−35156A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−221426(P2004−221426)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000133032)株式会社タクマ (308)
【出願人】(800000024)北海道ティー・エル・オー株式会社 (20)
【Fターム(参考)】