説明

炉後硬化を伴わないエチレン−アクリル接合ピストン

自動式の変速機用のピストンは、鋼材から形成された円筒形部分、およびそれに接合したエラストマーを含む。エラストマーは、エチレンアクリルポリマー、充填剤およびヘキサメチレンジアミン硬化剤を含む。エラストマーは金属の円筒形部分に圧縮成形または射出成形される。成形ステップ中に、エラストマーは硬化させられ、自動式の変速機における使用に十分な架橋密度、強度および他の物性を達成する。したがって、ピストンは後硬化ステップなしで形成される。このピストンは、後硬化ステップで形成されたピストンより遅い摩耗速度およびより長い期待寿命をあたえる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願への相互参照
この出願は、2010年1月8日に提出された、米国暫定特許出願連続番号第61/293307号に対する優先権を主張し、ここに引用により援用される。
【0002】
発明の背景
1. 発明の分野
この発明は、自動式の変速機のピストンの金属材料に結合するのに好適なエラストマーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
2. 先行技術の説明
自動式の変速機のピストンは、典型的には、クラッチ、ギアシフト、ブレーキバンドを油圧で係合し作動させるよう、および他の機械的な動作を実行するよう、用いられる。自動式の変速機のピストンは、強度、信頼性、および長い耐用寿命を有さなければならず、なぜならば、そのようなピストンの故障は変速機全体の故障に至る場合があるからである。したがって、ピストンとピストンが沿って移動するシリンダまたはシャフトとの間において流体を封止するために、ゴムまたはエラストマーのリングが、ピストンの金属成分のまわりにしばしば配置される。エラストマー封止は、摩擦による摩耗に対して大きな抵抗をあたえて耐用寿命を改善し、ピストンの全体的な強度に寄与する。
【0004】
優れた強度、信頼性および耐用寿命を有する既存の自動式の変速機のピストンは、フェデラル・モーグルのUNIPISTON(R)であり、それは単一ピースであり、接合され、封止される。単一ピース設計は、複数ピース設計と比較して、漏洩通路数がより少なく、信頼性が改善され、よりコンパクトな設計をあたえる。しかしながら、自動式の変速機のピストンを形成するプロセスはかなりの時間および製造コストを必要とする。プロセスは、典型的には、金属基部を形成するステップ、エラストマーを調製するステップ、エラストマーを金属基部に圧縮または射出成形するステップ、ピストンを炉後硬化させるステップ、およびさまざまな他のステップ含む。多数のプロセスステップ、時間および関連する製造コストは、信頼性のある自動式の変速機のピストンの製造を妨げる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の概要
この発明の1つの局面は、自動式の変速機で用いられるピストンを提供し、それは、金属材料から形成された円筒形部分、および円筒形部分に結合したエラストマーを含む。エラストマーは、エラストマーの総重量に基いて、25〜75重量%の量のエチレン−アクリルポリマーおよび少なくとも0.5重量%の量の硬化剤を含む。エチレンアクリルポリマーは、エチレンアクリルポリマーの総重量に基いて、アクリル酸メチルを40〜70重量%の量で、およびエチレンモノマーを20〜60重量%の量で含む。エラストマーは、一期間の間少なくとも100℃の温度にエラストマーを連続的に晒すことによって硬化させられる。エラストマーは、第2の期間の間少なくとも100℃の温度にエラストマーを連続的に晒さずに硬化させられる。
【0006】
この発明は、さらに、ピストンを形成する方法にも向けられる。この方法は、エラストマーの総重量に基いて、25〜75重量%の量のエチレン−アクリルポリマーおよび少なくとも0.5重量%の量の硬化剤を含むエラストマーをあたえることを含み、エチレンアクリルポリマーは、エチレンアクリルポリマーの総重量に基いて、アクリル酸メチルを40〜70重量%の量で、およびエチレンモノマーを20〜60重量%の量で含む。次に、この方法は、金属材料から形成される円筒形部分にエラストマーを結合するステップを含む。結合ステップはエラストマーを硬化させるステップを含む。硬化ステップは一期間の間少なくとも100℃の温度にエラストマーを連続的に晒すことを含む。ピストンは、第2の期間の間少なくとも100℃の温度にエラストマーを連続的に晒さずに形成される。
【0007】
単一ピース接合ピストンは、エラストマーを円筒形部分に結合した後、第2の期間の間少なくとも100℃の温度にエラストマーを連続的に晒すステップを含む炉後硬化ステップなしで形成される。円筒形部分にエラストマーを結合するステップの間において、エラストマーの十分な架橋が起きて、たとえばギアシフトを作動させるために油圧でクラッチを係合するよう、自動式の変速機の用途におけるピストンの使用に好適な強度、耐熱性および他の物性をあたえる。炉後硬化ステップなしで形成されたエラストマーは、後硬化ステップで形成された比較例のエラストマーより遅い摩耗速度およびより長い期待寿命をあたえる。
【0008】
ピストンを形成するこの方法は、後硬化ステップを必要とする単一ピース接合ピストンを形成する他の方法と比較して、製造コストを有意に節約する。この方法は、さらに後硬化ステップを含む方法と比較して、CO排出および天然ガス消費における有意な低減を含む、低減された環境上のフットプリントをあたえる。
【0009】
この発明の他の利点は、添付の図面に関して考慮されたとき、以下の詳細な記載を参照して一層よく理解され、容易に十分に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施例のピストンの斜視図である。
【図2】線2−2に沿ってとられた図1のピストンの拡大した断片的な断面図である。
【図3】第2の実施例のピストンの斜視図である。
【図4】第2の実施例のピストンの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な記載
自動式の変速機のための例示的なピストン20は、金属材料から形成された円筒形部分22を含み、円筒形部分22に結合されたエラストマー24が、図1に示される。ピストン20を製造する方法は後硬化ステップなしで円筒形部分22にエラストマーを結合するステップを含む。
【0012】
ピストン20の円筒形部分22は鋼1010のような金属材料から形成される。円筒形部分22は、他の種類の鋼、アルミニウム、アルミニウム合金または他の金属材料からも形成することができる。図1に示されるように、ピストン20の円筒形部分22は、中央開口を包含するクラウン26およびスカート28を含むことができる。円筒形部分22は、さらに、図3および図4に示されるように、円筒形リング30、または自動式の変速機システムに対して好適な他の設計を含むことができる。円筒形部分22は、典型的には、頂部表面、内側表面および外側表面を含む。
【0013】
円筒形部分22は、図1に示されるように、そこに形成された少なくとも1つの溝32を含むことができる。それは、潤滑油または油圧油を所定の位置に向けるか、または他の目的のために用いることができる。円筒形部分22の溝32は、ピストン20内へ、およびその周囲に沿って、軸方向に延在することができる。円筒形部分22は、ピストン20内に径方向に延在する溝32の少なくとも1つの溝32、またはピストン20内に軸方向に延在し、ピストン20の周囲に沿って互いから間隔を置かれた複数個の溝32を含むことができる。円筒形部分22は、さらに、そこに形成された少なくとも1つの削除部34を含むことができる。たとえば、図4に示されるように、円筒形部分22は、ピストン20内に軸方向に延在し、ピストン20の周囲に沿って互いから間隔を置かれた複数の削除部34を含むことができる。図3に示されるように、削除部34はさらにピストン20内に径方向に延在することができる。
【0014】
図2に示されるように、円筒形部分22は、カルシウム修飾燐酸亜鉛化成被覆のような化成被覆36で被覆されることができる。化成被覆は、いくらかの表面粗さをあたえ、金属円筒形部分22の表面積を増加させる。図2に示されるように、有機シランカップリング剤のような接着剤38を化成被覆に配置することができる。化成被覆は、金属の円筒形部分22に接着剤を担持するのを支援し、エラストマーと金属の円筒形部分22との間においていくらかの機械的な連結を可能にする。
【0015】
エラストマーは、ピストン20の円筒形部分22に、典型的には円筒形部分22の周囲に沿って、結合される。エラストマーは、円筒形部分22上に、ならびに接着剤および化成被覆上に配置することができる。エラストマーは、円筒形部分22の外側表面、内側表面、頂部表面またはすべての表面の部分に結合することができる。エラストマーは、典型的には、高圧、摩擦および摩耗を受ける位置に配置され、したがって、エラストマーの位置は、円筒形部分22の設計およびピストン20の特定の用途に依存して変化し得る。エラストマーはピストン20に結合され、ピストン20は後硬化ステップなしで形成される。それはさらに以下に論じられる。
【0016】
エラストマーはエチレン−アクリルポリマーおよび硬化剤を含む。エラストマーは、さらに、典型的には、充填剤、いくつかの加工助剤および劣化防止剤を含む。エラストマーの各成分の(重量%)重量パーセントが測定されるのは、エラストマーが未硬化状態であるときであり、それは、エラストマーがピストン20の金属の円筒形部分22に結合される前、つまり圧縮成形、射出成形または接合の前である。
【0017】
エラストマーは、エチレン−アクリルポリマーを、エラストマーの総重量に基いて25〜75重量%、好ましくは35〜65重量%、より好ましくは、40〜50重量%の量で含む。
【0018】
エチレン−アクリルポリマーはアクリル酸メチル(C)、エチレンモノマー(C)を含み得る。好ましくは、エチレン−アクリルポリマーはアクリル酸メチルおよびエチレンモノマーおよび硬化部位モノマーを含む。一実施例では、エチレン−アクリルポリマーは、アクリル酸メチル、エチレンモノマーおよび硬化部位モノマーのターポリマーとして称される。アクリル酸メチルは、エチレン−アクリルポリマーの総重量に基いて、40〜70重量%、45〜65重量%、または50〜60重量%の量で存在する。エチレンモノマーは、エチレン−アクリルポリマーの総重量に基いて、20〜60重量%、25〜55重量%、または35〜50重量%の量で存在する。硬化部位モノマーは、エチレン−アクリルポリマーの総重量に基いて、10重量%、0.1〜8重量%、または0.5〜5重量%までの量で存在する。
【0019】
エチレン−アクリルポリマーの硬化部位モノマーは好ましくは酸性である。一実施例では、硬化部位モノマーは以下の化学構造を有する:
【0020】
【化1】

【0021】
ここで、X、YおよびZは、1〜1,000,000の範囲の整数から独立して選択され;各Rは、水素または任意の長さの炭化水素鎖を含む群から独立して選択される。
【0022】
エラストマーは、充填剤を、典型的にはカーボンブラックを、エラストマーの総重量に基いて、20〜約70重量%、30〜50重量%、または35〜45重量%の量で含む。1つの好ましい実施例では、カーボンブラックはASTM DグレードN550規格を満たす。
【0023】
エラストマーは、さらに、硬化剤を、エラストマーの総重量に基いて、少なくとも0.5重量%、または約0.5〜10重量%、0.5〜5重量%、または0.5〜1重量%の量で含む。1つの好ましい実施例では、硬化剤はヘキサメチレンジアミン、またはカルバミン酸ヘキサメチレンジアミンである。代替的に、硬化剤は1つ以上の他の成分を含むことができる。硬化剤は架橋を促進するために用いられる。
【0024】
エチレン−アクリルポリマー、カーボンブラックおよび硬化剤に加えて、好ましいエラストマーは、加工助剤、劣化防止剤、硬化促進剤および他の充填剤のような付加的な成分を含む。付加的な成分は、典型的には、エラストマーの総重量に基いて、約25重量%まで、または1〜20重量%、または5〜15重量%の総量で存在する。
【0025】
エラストマーの加工助剤は、典型的には、可塑剤を約10重量%までの量で含む。一実施例では、エラストマーはエーテルエステル可塑剤を含む。しばしば用いられる他の加工助剤は、エラストマーの総重量に基いて、ステアリン酸を0.3〜2重量%の量で;ポリオキシエチレンオクタデシルエーテルリン酸塩を0.3〜1重量%の量で;1−オクタデカンアミンを0.3〜1重量%の量で;ソルビタンモノステアラートを2.5重量%までの量で;セバシン酸ビス(N−ブチル)を4重量%までの量で;および第三級アミン錯体を2.5重量%までの量で、含む。
【0026】
エラストマーの好ましい劣化防止剤は、エラストマーの総重量に基いて2重量%までの量の、置換されたジフェニルアミン酸化防止剤である。好ましい充填剤は、カーボンブラックに加えて、エラストマーの総重量に基いて15重量%までの量の、沈殿させられた水和された非晶質シリカである。エラストマーの好ましい硬化促進剤は、エラストマーの総重量に基いて約2.5重量%までの量のΝ,Ν’ジ−o−トリグアニジンである。表1は、エラストマーの例示的な組成を含む。
【0027】
【表1】

【0028】
*エラストマーの総重量に基く、円筒形部分22に結合する前のエラストマーの重量%。
エラストマーは、エラストマーを円筒形部分22に結合するステップ中において、後硬化ステップなしで硬化される。エラストマーは、一期間の間少なくとも100℃の温度にエラストマーを連続的に晒すことによって硬化させられ、第2の期間の間少なくとも100℃の温度にエラストマーを連続的に晒さずに硬化させられる。
【0029】
エラストマーがピストン20に結合され硬化させられた後、エラストマーはアミド架橋を含む。アミド架橋は、圧縮成形中のような、エラストマーをピストン20に結合するプロセス中に形成される。エラストマーは、典型的には、後硬化ステップ中に形成されるであろうイミド架橋をほとんどまたはまったく含まない。一実施例では、エラストマーは、エラストマーの架橋の総量に基いて5%未満、または1%未満のイミド架橋を含む。架橋の組成および量は、エラストマーを円筒形部分22に結合し、エラストマーを周囲温度に冷却させた直後に判断される。架橋の組成および量は、ピストン20が高温に晒される、自動車の変速機または他のエンジン用途でピストン20を用いる前に測定される。架橋の組成および量が自動車の変速機でピストン20を用いる前に測定されるのは、さらなる架橋再配列または形成がピストン20の高温でのそのような使用中に生じるかもしれないからである。アミド架橋は、自動式の変速機の用途における使用に対して十分な架橋密度および強度をエラストマーにあたえる。エラストマーがピストン20に結合されると架橋が生じるので、架橋の組成および密度は、エラストマーがピストン20に結合された後、測定される。
【0030】
エラストマーの架橋密度は溶剤膨潤試験によって判断することができる。そこではエラストマーの溶剤膨潤指数が測定される。溶剤膨潤試験はエラストマーのサンプルを溶剤に72時間の間25℃の温度で置くことを含む。エラストマーが金属の円筒形部分22に結合された後、エラストマーのサンプルが得られる。溶剤膨潤指数は以下の等式:(吸収された溶剤の重量÷エラストマーサンプルの重量)×100によって判断される。炉後硬化ステップなしでピストン20に接合されたエラストマーの溶剤膨潤指数は、エラストマーの架橋密度が自動式の変速機の用途のような自動車用途における使用に対して十分であることを示す。付加的な後硬化ステップは、エラストマーの架橋密度に有意な増大をあたえない。
【0031】
上に記載された組成を有するエラストマーを含むピストン20には、さらに、自動式の変速機の用途のような自動車用途で用いるための、十分な引張り強さ、引張り係数および耐熱性がある。たとえば、ピストン20を用いて、油圧でクラッチを係合して、ギアシフトを作動させることができる。
【0032】
ピストン20を形成する方法は、まず、エラストマーの総重量に基いて、25〜75重量%の量のエチレン−アクリルポリマーおよび少なくとも0.5重量%の量の硬化剤を含むエラストマーをあたえるステップを含む。エチレンアクリルポリマーは、エチレンアクリルポリマーの総重量に基いて、アクリル酸メチルを40〜70重量%の量で、およびエチレンモノマーを20〜60重量%の量で含む。次に、この方法はピストン20の円筒形部分22にエラストマーを結合するステップを含む。自動式の変速機のエンジンにおけるエラストマーの使用に対する十分な量で架橋をあたえるために、結合は、少なくとも100℃の熱で生じる。エラストマーは結合ステップ中に硬化される。十分な架橋および他の望ましい属性は結合ステップ中に達成される。したがって、この方法は、エラストマーが円筒形部分22に結合された後、後硬化ステップを含まない。
【0033】
ピストン20を形成する方法の一例は、まず、バンバリーミキサのような内部ゴムミキサまたは開放型ロール機においてエラストマーを混合することを含む。この方法は、典型的にはバンバリーミキサを介する2つのパスを含む。ミキサを介する第1のパス中において、この方法はミキサを約24rpmの速度に設定することを含む。この方法は、次いで、置換されたジフェニルアミン酸化防止剤、ステアリン酸、エーテルエステル可塑剤、1−オクタデカンアミンおよびソルビタンモノステアラートをミキサに追加しながら、約24rpmで混合し続けて、第1の混合物を形成することを含む。
【0034】
次に、エチレン−アクリルポリマーが、カーボンブラックと共に、第1の混合物に添加され、約24rpmで混合される。エチレン−アクリルポリマーおよびカーボンブラックが混合物に添加された後、混合速度を下げて、約5分の間、または混合物が約105℃の温度に到達するまで、混合し続ける。次に、この方法は混合速度を増加させてミキサを一掃することを含む。
【0035】
ミキサが一掃された後、この方法は、混合速度を下げて、温度が約105℃に到達するまで、混合し続けることを含む。次に、この方法は、約36rpmに混合速度を増加させながら、第1の混合物に可塑剤およびシリカを添加することを含む。混合速度を約36rpmに増加させた後、再び混合速度を下げて、約45秒の間混合し続ける。次いで、第1の混合物はミキサからミル上に下げられるか落とされる。第1の混合物はシート状に延ばされ、ミキサを介する第2のパス用、およびさらなる処理用に、保存される。
【0036】
ミキサを介する第2のパスは、ミキサを再び約24rpmの速度に設定すること、およびミキサを介する第1のパスからの第1の混合物の半分を約24rpmで混合することを含む。次いで、この方法は、Ν,Ν’ジ−o−トリグアニジンおよびカルバミン酸ヘキサメチレンジアミンを第1の混合物に添加して第2の混合物を形成することを含む。Ν,Ν’ジ−o−トリグアニジンおよびカルバミン酸ヘキサメチレンジアミンが添加された後、第1のパスからの第1の混合物の他の半分が、ミキサに追加される。次いで、この方法は、混合速度を下げながら第1の混合物および第2の混合物をともに約30秒間混合して最終混合物を形成することを含む。エラストマーの最終混合物は下げられるかミキサから外へ落とされ、シート状に延ばされ、さらなる処理のために未加硫または未硬化状態で保存される。代替的に、エラストマーを形成する方法は、上に記載されたものとは異なるステップ、付加的なステップ、または数が少ないステップを含む。
【0037】
エラストマーは様々な方法によってピストン20に結合されてもよいが、典型的には、圧縮成形または射出成形プロセスによって結合される。未硬化エラストマーは、まず適切な品質のためにエラストマーを試験することによって圧縮または射出成形プロセスのために調製される。各成分の重量%はこの時に測定される。圧縮成形については、この方法は、エラストマーを好適なサイズおよび形状の数片に切断することを含む。切断は、端部に回転ナイフ刃を備えた押出成形機、または他の好適な方法によって実行される。エラストマーのバッチが押出成形機に充填される。エラストマーのチューブが押し出される。そして、押出成形機の端部の回転ナイフが、エラストマーを圧縮成形のためのリング状の前成形物に切断する。代替的に、エラストマーは射出成形のために粒状体または帯状体に切断される。
【0038】
ピストン20の円筒形部分22は、エラストマーの調製と平行して、圧縮または射出成形プロセスのために準備され、様々な方法によって準備されてもよい。たとえば、円筒形部分22は、鋼1010のような帯鋼のコイルにスタンピングすることによって形成される。次に、スタンピングされた鋼の円筒形部分22は、カルシウム修飾燐酸亜鉛化成被覆のような化成被覆で被覆される。上に述べられるように、化成被覆はいくらかの表面粗さをあたえ、鋼円筒形部分22の表面積を増加させる。次に、有機シランカップリング剤のような接着剤が化成被覆上に塗布される。上に述べられるように、化成被覆は、金属の円筒形部分22に接着剤を担持するのを支援し、エラストマーと金属の円筒形部分22との間においていくらかの機械的な連結を可能にする。
【0039】
エラストマーおよび金属材料から形成された円筒形部分22が準備された後、この方法は、典型的には、少なくとも100℃、または少なくとも150℃、または少なくとも180℃の温度で、圧縮または射出成形などによって、エラストマーを円筒形部分22に結合するステップを含み、エラストマーがピストン20に結合された後、硬化ステップを伴わない。
【0040】
圧縮成形については、円筒形部分22に結合されたエラストマーは、圧縮成形プレスに置かれる。円筒形部分22は開いた型に置かれる。そして、未硬化エラストマー調製物は、型において円筒形部分22上に置かれる。円筒形部分22上のエラストマーの位置は、円筒形部分22の寸法および自動式の変速機におけるピストン20の意図した用途に依って変動してもよい。次に、この方法は、成形プレスを閉じて、円筒形部分22およびエラストマーを、少なくとも100℃、少なくとも150℃、または少なくとも180℃の温度および高圧に晒すことを含む。例示的方法では、円筒形部分22およびエラストマーは、成形プレスにおいて約190℃に到達する温度に晒される。エラストマーは成形プレスにおいて加硫または硬化を完成するが、それは、十分な時間が経過し、十分に高い温度に到達した後、起こる。エラストマーが硬化した後、成形プレスが開かれる。成形プレスを閉じてから開くまでに経過した時間は典型的には2〜5分であるが、それは、成形プレスの温度、エラストマーの特定のバッチの化学反応速度、ならびに成形されているエラストマーおよび円筒形部分22の厚みに依存して、それより長くも短くもあり得る。エラストマーは、硬化または加硫が圧縮型において起こるときに、円筒形部分22に化学的に結合される。加硫が起こった後、成形プレスは開かれ、接合したピストン20は、さらなる処理のために成形プレスから除去されて冷却される。
【0041】
代替的に、圧縮成形プロセスの代りに、この方法は、エラストマーを円筒形部分22に結合するための射出成形プロセスを含むことができる。この場合、円筒形部分は射出成形機の型に置かれる。エラストマーは粒状体に形成される。エラストマー粒状体は射出成形機のホッパ内に供給され、型内に押込められ、型において円筒形部分に結合される。エラストマーは冷却し、円筒形部分に硬化し、次いで、さらなる処理のために型から取除かれる。
【0042】
上に述べたように、エラストマーは結合ステップ中に硬化し、十分な架橋、強度ならびに他の望ましい物理的および化学的属性を達成する。硬化ステップは一期間の間少なくとも100℃の温度にエラストマーおよび円筒形部分を連続的に晒すことを含む。結合ステップの後、自動車用途においてはピストン20を用いる前に、ピストン20は、100℃未満、好ましくは20℃未満の温度で維持される。この方法は、エラストマーが円筒形部分に結合された後、エンジン用途においてピストン20を用いる前に、後硬化ステップまたは第2の硬化ステップを含まない。ピストン20は、典型的にはエラストマーおよび円筒形部分を第2の期間の間少なくとも100℃の温度に晒すことを含むであろう後硬化ステップを受けない。
【0043】
上に述べたように、エラストマーの架橋は、実質的に結合ステップ中に完成する。それは、自動式の変速機のような自動車用途において使用に対する十分な強度および他の物性をエラストマーにあたえる。結合ステップ中に、エチレン−アクリルポリマーのアクリル酸メチル、エチレンおよび硬化部位モノマーは、ヘキサメチレンジアミンのような硬化剤と反応して、エラストマーにおいてアミド架橋をあたえる。一実施例では、ヘキサメチレンジアミンが硬化剤として用いられると、以下の機序1が結合ステップ中に起きてアミド架橋を形成する。
【0044】
【化2】

【0045】
ここで、X、YおよびZは、1〜1,000,000の範囲の整数から独立して選択され;各Rは、水素または任意の長さの炭化水素鎖を含む群から独立して選択される。エラストマーおよび金属材料から形成された円筒形部分22が準備された後、この方法は、典型的には、少なくとも100℃、または少なくとも150℃、または少なくとも180℃の温度で、圧縮または射出成形などによって、エラストマーを円筒形部分22に結合するステップを含み、エラストマーがピストン20に結合された後、硬化ステップを伴わない。
【0046】
ポリマー鎖間のアミド架橋が結合ステップ中に形成されるとき、十分な架橋密度が達成される。エラストマーを形成するプロセスは、架橋を、後硬化ステップ無しで、エラストマーの潜在的な引張り強さの約70〜90%、典型的には80%をあたえるのに十分な量で含む。後硬化ステップのない、エラストマーの潜在的な引張り強さの強度。後硬化ステップのないエラストマーの強度は自動式の変速機における使用に対して十分である。後硬化ステップ中にあたえることができる付加的な強度は必要ではない。たとえば、後硬化ステップなしで形成されたエラストマーは、13MPaの引張り強さを有するかもしれず、後硬化ステップで達成することができるかもしれない潜在的な引張り強さは15.6MPaである。
【0047】
上に記載された成形プロセスの1つによるように、エラストマーを円筒形部分に結合した後、エラストマーは所望形状にトリミングされる。たとえば、ピストン20は、円筒形部分を通りすぎて延在する、唇状部のようなエラストマーの部分を有してもよく、それは円筒形部分の縁部と整列するようトリミングされる。エラストマーの唇状部をトリミングするために、典型的にはトリミングセルが用いられる。エラストマーをトリミングした後、ピン、ばねおよび逆止め弁のようなさらなる金具類が、ピストン20の用途によって、ピストン20に追加されてもよい。さらなる金具類がある場合には、それを追加した後、ピストン20は顧客への出荷のために梱包される。
【0048】
先行技術において開示されるように、接合したピストンを形成する方法は、典型的には、金属ピストンにゴムを結合するか成形した後に炉後硬化ステップを含む。上に示唆されるように、後硬化は、典型的には、結合ステップ中に起こる硬化に加えて第2の硬化ステップを含むだろう。後硬化ステップは、典型的には、エラストマーがピストン20に結合された後、炉または他の熱源の存在下で起こる。後硬化は、典型的には、炉で、少なくとも100℃または少なくとも150℃、典型的には約180℃の温度において、数時間の間、典型的には約4時間行われる。
【0049】
しかしながら、この発明のピストン20は炉後硬化ステップなしで形成される。この方法は、エラストマーが円筒形部分に結合された後、意図的にあたえられた熱源によって硬化することを含まない。この発明の方法は典型的には円筒形部分にエラストマーを結合した後に周囲温度でピストン20を維持することを含む。エラストマーの任意の後硬化またはさらなる硬化が結合ステップの後およびピストン20が自動車用途において用いられる前に起こる場合、その硬化は、周囲温度、または100℃未満、好ましくは40℃未満の温度で起こる。
【実施例1】
【0050】
実験1
表1のエラストマーのある物性を試験するために実験が行われた。試験された物性は、典型的には自動式の変速機の金属ピストン20に接合したエラストマーに関連する物性だった。そのような属性はしばしば自動車産業規格を満たさなければならない。試験、手順および対応する試験結果は表2にリスト化される。
【0051】
【表2】

【0052】
実験1の試験結果は、後硬化ステップなしで形成されたエラストマーが自動式の変速機における使用に対して好適であることを示す。
【実施例2】
【0053】
実験2
第2の実験を行って、後硬化ステップなしで形成した表1のエラストマーのある物性を、後硬化ステップで形成された比較例のエラストマーの物性と比較した。
【0054】
実験2は圧縮型において表1のエラストマーをピストン20に結合することを含んだ。ピストン20に表1のエラストマーを結合するステップの間において、機序1が起こってエラストマーのアミド架橋を形成する。
【0055】
【化3】

【0056】
ここで、X、YおよびZは、1〜1,000,000の範囲の整数から独立して選択され;各Rは、水素または任意の長さの炭化水素鎖を含む群から独立して選択される。次いで、表1のエラストマーは後硬化ステップなしで試験された。
【0057】
実験2は、さらに、圧縮型においてピストンに比較例のエラストマーを結合することを含んだ。その点において、比較例のエラストマーは、アミド架橋を含む発明の表1と同じ組成を有した。しかしながら、圧縮型の後、比較例のエラストマーは後硬化ステップを受けた。ピストンに結合された比較例のエラストマーは、約180℃の温度で硬化炉に置かれ、4時間の間その温度で維持された。
【0058】
後硬化ステップ中に、アミド架橋は、以下の機序2に従うイミド架橋にゆっくり再配列され:
【0059】
【化4】

【0060】
ここで、各Rは、水素または任意の長さの炭化水素鎖を含む群から独立して選択される。後硬化させられた比較例のエラストマーは、次いで、試験できる状態となった。
【0061】
後硬化ステップの後、後硬化させられたエラストマーの引張り強さ、引張り係数、トルク、溶解力指数、摩耗速度および期待寿命が、上に記載された試験手順に従って試験された。表3は、後硬化ステップなしで形成されたエラストマーの物性と後硬化ステップで形成された比較例のエラストマーの物性との間の比較を含む。
【0062】
【表3】

【0063】
実験2の溶剤膨潤指数およびトルク試験結果は、エラストマーの架橋密度は、後硬化ステップ中に有意には増加しないことを示す。トルク試験は、エラストマーが後硬化ステップ中に14%の増大を経験するに過ぎないことを示す。実験2は、エラストマー引張り強さの80%および引張り係数の67%は、圧縮成形のような結合ステップ中に達成されることも示す。後硬化ステップなしで達成された架橋密度、引張り強さ、および引張り係数は、自動式の変速機の用途における使用に対して十分なエラストマーをあたえる。
【0064】
期待寿命試験は、590psiの圧力で拡張継続期間エンジン試験を用いて行われた。高圧ストローカを用いて故障までのサイクル数を判断した。表1のエラストマーは故障までに1,711サイクルに到達した。一方、比較例のエラストマーは故障までにわずか238サイクルしか到達しなかった。したがって、実験3は、表1のエラストマーが比較例のエラストマーの期待寿命より約7倍大きな期待寿命を有することを示した。いくつかの摩耗速度試験も行われ、表1のエラストマーは比較例のエラストマーよりも摩耗が約7〜49%少ないことを示した。
【0065】
明らかに、この発明の多くの修正および変形が上記の教示に照らして可能であり、この発明の範囲内にありながら具体的に記載された通り以外に実施されてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動式の変速機で用いられるピストンであって:
金属材料から形成された円筒形部分と、
前記円筒形部分に結合されたエラストマーとを含み、
前記エラストマーは前記エラストマーの総重量に基いて25〜75重量%の量のエチレン−アクリルポリマーを含み、
前記エチレンアクリルポリマーは、前記エチレンアクリルポリマーの総重量に基いて、アクリル酸メチルを40〜70重量%の量で、およびエチレンモノマーを20〜60重量%の量で含み、
前記エラストマーは前記エラストマーの総重量に基いて少なくとも0.5重量%の量で硬化剤を含み、
前記エラストマーは、一期間の間少なくとも100℃の温度に前記エラストマーを連続的に晒すことによって硬化させられ、第2の期間の間少なくとも100℃の温度に前記エラストマーを連続的に晒さずに硬化させられる、ピストン。
【請求項2】
前記エラストマーが前記円筒形部分に結合された後、前記ピストンは後硬化ステップなしで形成される、請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記エラストマーはアミド架橋を含む、請求項1に記載のピストン。
【請求項4】
前記エラストマーは、エラストマーの架橋の総量に基いて、0〜5%の量でイミド架橋を含む、請求項1に記載のピストン。
【請求項5】
前記エチレン−アクリルポリマーは、前記エチレン−アクリルポリマーの総重量に基いて10重量%までの量で硬化部位モノマーを含む、請求項1に記載のピストン。
【請求項6】
前記エチレン−アクリルポリマーの前記硬化部位モノマーは以下の化学構造を有し、
【化1】

ここで、X、YおよびZは、1〜1,000,000の範囲の整数から独立して選択され;各Rは、水素または任意の長さの炭化水素鎖を含む群から独立して選択される、請求項5に記載のピストン。
【請求項7】
前記硬化剤はヘキサメチレンジアミンを含む、請求項1に記載のピストン。
【請求項8】
前記エチレンアクリルポリマーは、前記エチレンアクリルポリマーの総重量に基いて、前記アクリル酸メチルを50〜60重量%の量で、前記エチレンモノマーを35〜50重量%の量で、および硬化部位モノマーを酸性で0.5〜5重量%の量で含む、請求項1に記載のピストン。
【請求項9】
前記エラストマーは一期間の間少なくとも100℃で硬化させられる、請求項1に記載のピストン。
【請求項10】
前記エラストマーは前記円筒形部分に結合される一方で硬化させられる、請求項1に記載のピストン。
【請求項11】
前記エラストマーは、前記エラストマーの潜在的な引張り強さの70〜90%の引張り強さを含む、請求項1に記載のピストン。
【請求項12】
前記円筒形部分上に置かれる化成被覆と、前記化成被覆上に置かれる接着剤と、前記接着剤上に置かれる前記エラストマーとを含む、請求項1に記載のピストン。
【請求項13】
前記円筒形部分は周囲を呈し、前記円筒形部分内およびその前記周囲に沿って軸方向に延在する少なくとも1つの溝を含む、請求項1に記載のピストン。
【請求項14】
前記円筒形部分は、前記円筒形部分内に径方向に延在する複数個の削除部を含む、請求項1に記載のピストン。
【請求項15】
前記エラストマーは、前記エチレンアクリルポリマーを35〜65重量%の量で、前記硬化剤を0.5〜5重量%の量で含み、前記硬化剤は、ヘキサメチレンジアミンを含み、前記エラストマーはさらに、30〜50重量%の量の充填剤、およびアミド架橋を含む、請求項1に記載のピストン。
【請求項16】
自動式の変速機で用いられるピストンを形成する方法であって:
エラストマーの総重量に基いて、25〜75重量%の量のエチレン−アクリルポリマーおよび少なくとも0.5重量%の量の硬化剤を含むエラストマーをあたえるステップを含み、エチレンアクリルポリマーは、エチレンアクリルポリマーの総重量に基いて、アクリル酸メチルを40〜70重量%の量で、およびエチレンモノマーを20〜60重量%の量で含み、前記方法はさらに、
金属材料から形成された円筒形部分にエラストマーを結合するステップを含み、
前記結合するステップはエラストマーを硬化させるステップを含み、前記硬化させるステップは、一期間の間少なくとも100℃の温度にエラストマーを連続的に晒すこと、および第2の期間の間少なくとも100℃の温度にエラストマーを連続的に晒さないことを含む、方法。
【請求項17】
前記結合するステップの後に後硬化ステップを含まない、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記硬化するステップは前記エラストマーにおいてアミド架橋を形成するステップを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記エラストマーを硬化させるステップは、エラストマーの架橋の総量に基いて0〜5%の量でイミド架橋を形成するステップ含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記硬化させるステップは一期間の間少なくとも100℃の温度にある、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−516588(P2013−516588A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548144(P2012−548144)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【国際出願番号】PCT/US2011/020480
【国際公開番号】WO2011/085173
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(599058372)フェデラル−モーグル コーポレイション (234)
【Fターム(参考)】