説明

炭化ケイ素マイクロチューブの冷却照射による壁厚制御法

【課題】
現状では、壁厚が10μm以下の任意の壁厚に制御してSiCマイクロチューブを製造することが困難であり、工業的に量産されている直径15μmのSiC繊維を、用途に適した任意の壁厚に制御して中空化することは不可能である。
【解決手段】
ケイ素系高分子繊維を冷却しながら電離放射線を照射することにより表面のみ酸化し、酸化部分を熱処理により架橋した後、有機溶媒により繊維中心部の未架橋部分を抽出して中空繊維とし、これを不活性ガス中で焼成して、壁厚(チューブの肉厚)SiCが2〜10μmの炭化ケイ素(SiC)マイクロチューブを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiCマイクロチューブの壁厚を2〜20μmの範囲で任意に制御可能な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、SiCマイクロチューブの製造方法としては、ケイ素系高分子であるポリカルボシラン繊維を電子線で中空化する方法がある。これは次の工程からなる方法による。
1.ケイ素高分子を紡糸し、直径数十μmの繊維とする。
【0003】
2.室温、空気中で電離放射線を照射して表面のみを酸化する。
3.不活性ガス中で熱処理し、酸化層を架橋て溶媒に不溶化する。
4.繊維内部の未架橋部を有機溶媒で抽出し、中空化する。
【0004】
5.不活性ガス中、1000℃以上の熱処理でセラミック化する。
しかし、上記方法では、放射線照射における線量率や酸素分圧を変化させることによりチューブの壁厚を制御することは可能であるが、室温における電子線照射では、電子線のエネルギーで試料の温度が上昇するため、チューブの壁厚を10μm以下に制御する事が困難である。
【0005】
上記方法に関する文献としては次のものが知られている。即ち、ケイ素系ポリマーの放射線照射によるマイクロセラミックチューブの製造法(特許文献1)、シリコン基ポリマーを放射線に曝すことによりマイクロセラミックチューブを製造する方法(特許文献2)、放射線酸化によるポリマー前駆体からの炭化ケイ素マイクロチューブの改良(非特許文献1)、及び電子線の照射効果で実現した炭化ケイ素セラミックスマイクロチューブ(非特許文献2)等である。
【特許文献1】特開2003−082532号公報
【特許文献2】U.S.P. No. 6,780,370
【非特許文献1】Development of Silicon Carbide Micro Tube from Precursor Polymer by Radiation Oxidation, Masaki Sugimoto, Akira Idesaki, Shigeru Tanaka, and Kiyohito Okamura, Key Eng. Mater., 247, 133-136, (2003)
【非特許文献2】吉川正人、杉本雅樹著、「コンバーテック,377」 P56-60, (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、現状では、壁厚が10μm以下の任意の壁厚に制御してSiCマイクロチューブを製造することが困難であり、工業的に量産されている直径15μmのSiC繊維を、用途に適した任意の壁厚に制御して中空化することは不可能である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は電離放射線の照射条件を制御する事で壁厚が2〜10μmのSiCマイクロチューブを製造する方法を提供することにある。本発明者は、電離放射線により酸化されるケイ素系高分子の層の厚さが、電離放射線によりケイ素高分子を切断する事により生成する活性点(ラジカル)量と、ケイ素高分子表面から拡散により内部に侵入する酸素量とに関係しており、酸素の拡散量を電離放射線照射時の試料温度により制御可能である点に着目し本発明を完成させた。
【0008】
これは以下の原理による。ケイ素系高分子繊維に空気中で放射線を照射すると、繊維中に均一に生成する活性ラジカルと酸素が反応する。放射線の線量率が大きい場合、表面から繊維内部への酸素の拡散速度よりも繊維表層で活性ラジカルと酸素が反応する速度の方が大きくなるため、繊維の表層のみが酸化される。この際、照射時の試料を冷却するとケイ素高分子中の酸素の拡散速度が小さくなるため、単位時間に拡散により繊維に侵入する酸素量が減少し、より表層に近い部分ですべての酸素が活性ラジカルと反応するため酸化される部分に相当する壁厚が小さくなる。
【0009】
したがって、特に、本発明は、ケイ素系高分子繊維を-40〜0℃の温度に冷却しながら電離放射線を照射することにより表面のみ酸化し、酸化部分を熱処理により架橋した後、有機溶媒により繊維中心部の未架橋部分を抽出して中空繊維とし、これを不活性ガス中で焼成して、壁厚(チューブの肉厚)SiCが2〜10μmの任意の壁厚で炭化ケイ素(SiC)マイクロチューブを製造する方法である。
【発明の効果】
【0010】
工業的に量産されているケイ素系高分子繊維である外径20μmのポリカルボシラン繊維を任意の壁厚に制御して外径15μmのSiCマイクロチューブの製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1に、本発明の放射線照射を用いたマイクロセラミックチューブの製造工程の一例を示す。原料のケイ素高分子繊維を、-40〜0℃の温度で酸素分圧が0.5〜50kPaとなるように不活性ガスと酸素を混合したガスを流通させ電子線を照射し表層を酸化する。この際、電子線の線量は、ケイ素高分子が酸素により架橋される線量より大きく、かつ繊維中心部が放射線により無酸素で架橋される線量より小さい1〜5MGyの範囲で設定する必要がある。
【0012】
表層のみ酸化されたケイ素高分子繊維を、アルゴン雰囲気または真空中で熱処理し酸化部分を架橋することで溶媒に不溶化する。この際、繊維の導入された酸素量に対応する適切な温度を230〜300℃の範囲で設定する。中空化処理は、未架橋のケイ素高分子が可溶なシクロヘキサン、THF(テトラヒドロフラン)などの有機溶媒中で保持することで行う。不活性ガス雰囲気で1000℃以上まで加熱することでケイ素高分子をセラミック化してSiCマイクロチューブに転換する。
【実施例】
【0013】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に示す。
SiCセラミックスの原料物質となるケイ素高分子であるポリカルボシラン(PCS)を外径20μmに繊維化する。この繊維を液化炭酸ガスの気化熱により冷却可能な試料台上に設置し、ガス置換可能な電子線照射容器中に入れ、ヘリウム/酸素の混合ガスを流通させながら2MeVの電子線を0.4〜1.6kGy/secの線量率で2.4MGyまで照射する。照射後、200〜300℃の範囲で不活性ガスまたは真空中で加熱する事で酸化された表面層部分を架橋し、有機溶媒に不溶化する。室温においてシクロヘキサンにより繊維中心部の未架橋部分を抽出し、中空繊維とする。得られた中空繊維をアルゴン中、1000℃で焼成しセラミックチューブ化してSiCマイクロチューブとする。こうして得られたマイクロSiCチューブの外径は約15μmであり、その壁厚は図2に示すように温度、酸素分圧、電子線の線量率により決まる。室温で照射した場合8μmが下限である。一方、-20℃で電子線照射した場合、酸素分圧 20kPaでは4〜10μm、酸素分圧10kPaでは2〜5μmの範囲でSiCマイクロチューブの壁厚が制御可能である。
【0014】
即ち、酸素分圧 20kPaにおいて、室温で電子線照射した場合には、最上段の線グラフに示されるとおり、SiCマイクロチューブの平均壁厚が厚く、しかもその壁厚は8μm程度で下限となる。又、酸素分圧 20kPaにおいて、-20℃で電子線照射した場合、中段の線グラフで示されるとおり、 SiCマイクロチューブの平均壁厚は4〜10μmであり、更に又、酸素分圧10kPaにおいて、-20℃で電子線照射した場合、最下段の線グラフで示されるとおり、SiCマイクロチューブの平均壁厚は2〜5μmである。
【産業上の利用の可能性】
【0015】
ケイ素系高分子から合成されるSiCはアモルファス構造を呈し、水素ガスを選択透過する機能を有している。SiCマイクロチューブをガス分離フィルターとして応用した場合、その大きな表面積から高効率化が可能であり、熱化学水素製造法などの耐熱・耐蝕性のガス分離フィルターが必至な工程へ応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の冷却電子線照射によるセラミックチューブの製造工程の一例を示す模式図である。
【図2】本発明により合成されたSiCマイクロチューブ壁厚の実測結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素系高分子繊維を冷却しながら電離放射線を照射することにより表面のみ酸化し、酸化部分を熱処理により架橋した後、有機溶媒により繊維中心部の未架橋部分を抽出して中空繊維とし、これを不活性ガス中で焼成して、壁厚(チューブの肉厚)SiCが2〜10μmの任意の壁厚で炭化ケイ素(SiC)マイクロチューブを製造する方法。
【請求項2】
ケイ素系高分子が、ポリカルボシラン、ポリチラノカルボシラン、ポリチタノカルボシラン、又はポロカルボシランとポリビニルシランとのブレンドポリマーである請求項1記載の方法。
【請求項3】
SiCマイクロチューブの壁厚を電離放射線照射時の温度により制御する請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
SiCマイクロチューブの壁厚を電離放射線の線量率により制御する請求項1又は請求項2の記載の方法。
【請求項5】
SiCマイクロチューブの壁厚を電離放射線照射時の雰囲気中の酸素分圧により制御する請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項6】
SiCマイクロチューブの壁厚を、電離放射線照射時の温度により、電離放射線の線量率により、及び電離放射線照射時の雰囲気中の酸素分圧によりなる少なくとも2つを組み合わせて制御する請求項1又は請求項2の記載の方法。
【請求項7】
冷却温度がー40〜0℃である請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の方法。





【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−176924(P2006−176924A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371267(P2004−371267)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】