説明

炭化ケイ素単結晶の製造方法

【課題】単結晶に割れ等の損傷を起こすことなく、種結晶の成長面の全ての領域から、多結晶のない良質な炭化ケイ素単結晶を成長させる。
【解決手段】炭化ケイ素単結晶の製造方法は、炭化ケイ素を含む昇華用原料21および種結晶27を坩堝7内に対向して配置し、昇華用原料21を加熱して生じる昇華ガスGによって種結晶27上に炭化ケイ素単結晶を成長させる炭化ケイ素単結晶41の製造方法であって、炭化ケイ素を含む粉体を加圧成形したのち仮焼して、所定の硬度を有する昇華用原料21を作製するステップと、昇華用原料21を坩堝7内の上部に配置し、種結晶27を坩堝7内の底部6に載置するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体デバイス用基板等に使用される炭化ケイ素単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化ケイ素単結晶を製造する方法として昇華再結晶法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載された坩堝は、上端に開口部が設けられた筒状の坩堝本体と、坩堝本体の開口部を封鎖する蓋体とから構成され、この蓋体の裏面に種結晶を取り付ける一方、坩堝本体内の底面に昇華用原料を収容している。そして、昇華用原料を加熱して昇華ガスを発生させ、種結晶上に単結晶を成長させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−201097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された従来の製造方法においては、種結晶の成長面(下面)に支持部材を係止させることにより、種結晶を蓋体に機械的に固定している。しかし、種結晶の係止部分には昇華ガスが接触しないため、係止部分から成長する結晶は、多結晶になり易く、製品となる単結晶の歩留まりが低下するおそれがあった。
【0005】
また、支持部材を用いずに、種結晶を接着剤を介して蓋体の裏面に固定する方法もある。しかし、蓋体と単結晶との熱膨張率は異なるため、蓋体近傍を加熱した場合に単結晶に対して蓋体から熱応力が加わる結果、単結晶に割れ等の損傷を引き起こすおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は、単結晶に割れ等の損傷を起こすことなく、種結晶の成長面の全ての領域から良質な炭化ケイ素単結晶を成長させることができる炭化ケイ素単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明は次のような特徴を有している。本発明の第1の特徴は、炭化ケイ素を含む昇華用原料(昇華用原料21)および種結晶(種結晶27)を坩堝(坩堝7)内に対向して配置し、前記昇華用原料を加熱して生じる昇華ガス(昇華ガスG)によって前記種結晶上に炭化ケイ素単結晶を成長させる炭化ケイ素単結晶(炭化ケイ素単結晶41)の製造方法であって、炭化ケイ素を含む粉体を加圧成形したのち仮焼して、所定の硬度を有する前記昇華用原料を作製するステップと、前記昇華用原料を坩堝内の上部に配置し、前記種結晶を前記坩堝内の底部(底部6)に載置するステップとを含むことを要旨とする。
【0008】
このように、本発明では坩堝の底部に種結晶を載置するので、種結晶を保持するために種結晶の成長面を覆うような支持部材を用いず、支持部材によって昇華ガスの成長面への接触を妨げることがない。よって、種結晶の成長面の全ての領域から、多結晶のない良質な炭化ケイ素単結晶を成長させることができるため、単結晶の製品歩留まりが向上する。また、炭化ケイ素の粉体を加圧して成形体を形成し、該成形体を仮焼して前記昇華用原料とするため、昇華用原料は一定の硬度および強度を有し、保持部材によって坩堝本体の上部に確実に保持することができる。
【0009】
本発明の第2の特徴は、前記種結晶(種結晶27)の外周近傍から上方に向けて筒状に延びるガイド部材(ガイド部材29)を用いて、前記昇華ガス(昇華ガスG)を前記種結晶に導くことを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る炭化ケイ素単結晶の製造方法によれば、単結晶に割れ等の損傷を起こすことなく、種結晶の成長面の全ての領域から、多結晶のない良質な炭化ケイ素単結晶を成長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る炭化ケイ素単結晶の製造装置を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る製造方法を用いて成長させた炭化ケイ素単結晶の側面図である。
【図3】図3は、比較例に係る製造方法を用いた成長結晶の断面図である。
【図4】図4は、図3の保持部材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る炭化ケイ素単結晶の製造方法の詳細を図面に基づいて説明する。具体的には、(1)炭化ケイ素単結晶の製造装置の全体構成、(2)炭化ケイ素単結晶の製造方法、(3)比較例の説明、(4)作用効果、(5)その他の実施形態について説明する。
【0013】
図面は模式的なものであり、各材料層の厚みやその比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0014】
(1)炭化ケイ素単結晶の製造装置1の全体構成
炭化ケイ素単結晶の製造装置1の全体構成について図1を用いて説明する。図1は本発明の実施形態に係る炭化ケイ素単結晶の製造装置1を示す断面図である。
【0015】
この製造装置1は、蓋体3および坩堝本体5を有する坩堝7と、坩堝7を囲うように配置される石英管9と、石英管9の外周側に巻回された加熱部11とを備える。坩堝本体5は、下端部が開口し、上端部が上壁面13によって封鎖されており、材質は黒鉛から形成されている。
【0016】
坩堝本体5の内壁面は、上側に配置された上側内壁面15と、該上側内壁面15よりも大きな径に形成された下側内壁面17とからなる。そして、上側内壁面15と下側内壁面17との境界には、段差部19が形成されている。坩堝本体5の上部には、後述する昇華用原料21を保持する保持部材23が上側内壁面15から突出して形成されている。この保持部材23は、円環状に形成されており、保持部材23の上面で昇華用原料21の下面21aの外周縁を保持する。また、坩堝本体5の下端部の内周側には、蓋体3に螺合するねじ部23が形成されている。
【0017】
蓋体3は、坩堝本体5の下端部の開口を封鎖するように、坩堝本体5のねじ部23に螺合されており、材質は黒鉛から形成されている。蓋体3の上面の中央部には、上方に突出する円盤状の台座25が形成されており、この台座25の上に円盤状の種結晶27が載置されている。ここで、種結晶27は、機械的に台座25に保持することなく、かつ、接着剤も使用することなく、単に台座25の上に載せているのみである。このように、種結晶27は坩堝7の底部6に載置されている。なお、種結晶27は、炭化ケイ素からなる。
【0018】
また、台座25の外周近傍から斜め上方に向けて拡大しながら延びる筒状のガイド部材29が設けられている。すなわち、ガイド部材29における下端の基部31は、同一径の円筒状に形成されて台座25および種結晶27の周囲を保持しており、基部31の上端から上側の本体部33は、基部31の径よりも徐々に拡大しつつ斜め上方に延びる、断面逆ハの字状に形成されている。
【0019】
本体部33の上端縁33aは、坩堝本体5の内壁面の段差部25に係止されている。ガイド部材29によって、昇華用原料21および種結晶27を加熱して単結晶を成長させるときに、昇華用原料21から種結晶27に向かう昇華ガスGの流れを種結晶27に集約させる。
【0020】
昇華用原料21は、炭化ケイ素の粉体を加圧して成形体を形成し、成形体を仮焼して得られる。従って、昇華用原料21は一定の硬度および強度を有するため、図1に示すように、保持部材23によって保持しても破損や割れ等は起きない。加熱部11は、坩堝本体5の上壁面13および昇華用原料21の高さ位置に配置された第1誘導加熱コイル35と、蓋体3、台座25および種結晶27の高さ位置に配置された第2誘導加熱コイル37と、これらの第1誘導加熱コイル35および第2誘導加熱コイル37の間の高さ位置に配置された干渉防止コイル39とからなる。
【0021】
(2)炭化ケイ素単結晶の製造方法
次いで、炭化ケイ素単結晶の製造方法について説明する。図1に示す第1誘導加熱コイル35、第2誘導加熱コイル37および干渉防止コイル39に電流を流して、種結晶27および昇華用原料21を加熱する。ここで、昇華用原料21を種結晶27よりも高い温度に加熱する。
【0022】
これにより、昇華用原料21の一部が昇華して昇華ガスGが発生し、該昇華ガスGが下方に流れ、ガイド部材29によって種結晶27に集められる。図2に示すように、種結晶27の上に、欠陥のない炭化ケイ素単結晶41が成長する。
【0023】
(3)比較例の説明
次に、図3および図4を用いて比較例を説明する。図3は比較例に係る製造方法を用いた成長結晶の断面図、図4は図3の保持部材を示す斜視図である。
【0024】
比較例では、図3に示すように、種結晶27を台座125の下面125aに支持部材43を介して機械的に支持している。この支持部材43は、図4に示すように、同一径の筒状に形成された本体部45と、該本体部45の下端から径方向内側に向けて延びる係止面47とから、断面略L字状に形成されている。従って、種結晶27の下面49の外周縁49aは、下側から支持部材43の係止面47で覆われるため、この覆われた部分には、昇華ガスGが接触しない。
【0025】
図3に示すように、比較例に係る成長結晶51のうち、係止面47の内周端47aよりも径方向内側の部位には、欠陥のない炭化ケイ素単結晶53が形成される。これに対し、係止面47の内周端47aよりも径方向外側の部位には、多結晶55が形成される。これは、種結晶27の下面49の外周縁49aが支持部材43の係止面47で覆われているため、昇華ガスGが種結晶27に接触しないからである。
【0026】
(4)作用効果
本実施形態に係る炭化ケイ素単結晶の製造方法では、種結晶27を坩堝7の底部6に載置するため、種結晶27を保持するために種結晶27の成長面を覆うような支持部材を用いる必要がない。これにより、昇華ガスGの成長面への接触が支持部材によって妨げられることがない。
【0027】
そのため、種結晶27の成長面の全ての領域から、多結晶55のない良質な炭化ケイ素単結晶41を成長させることができ、単結晶41の製造上の歩留まりが向上する。また、炭化ケイ素の粉体を加圧してできる成形体を仮焼して昇華用原料21とするため、昇華用原料21は一定の硬度および強度を有する。このため、保持部材23によって坩堝本体5の上部に確実に保持することができる。
【0028】
また、本実施形態に係る炭化ケイ素単結晶の製造方法では、種結晶27の外周近傍から上方に向けて筒状に延びるガイド部材29を用いて、昇華ガスGを効率的に種結晶27に集めることができる。
【0029】
(5)その他の実施形態
なお、前述した実施の形態の開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0030】
本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態などを含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は、上述の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0031】
1…炭化ケイ素単結晶の製造装置、 6…底部、 7…坩堝、 21…昇華用原料、 27…種結晶、 29…ガイド部材、 41…炭化ケイ素単結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素を含む昇華用原料および種結晶を坩堝内に対向して配置し、前記昇華用原料を加熱して生じる昇華ガスによって前記種結晶上に炭化ケイ素単結晶を成長させる炭化ケイ素単結晶の製造方法であって、
炭化ケイ素を含む粉体を加圧成形したのち仮焼して、所定の硬度を有する前記昇華用原料を作製するステップと、
前記昇華用原料を坩堝内の上部に配置し、前記種結晶を前記坩堝内の底部に載置するステップと、
を含む炭化ケイ素単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記種結晶の外周近傍から上方に向けて筒状に延びるガイド部材を用いて、前記昇華ガスを前記種結晶に導く請求項1に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−36035(P2012−36035A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176400(P2010−176400)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】