説明

炭化水素の水蒸気分解用触媒、その製造方法、及びその触媒を利用した炭化水素の水蒸気分解による軽質オレフィンの製造方法

本発明は、軽質オレフィン製造用の炭化水素の水蒸気分解触媒、その製造方法、及びその触媒を利用した炭化水素の水蒸気分解によるオレフィンの製造方法を提供する。本発明の触媒は、KMgPOそれ自体の触媒、担持されたKMgPO触媒及びKMgPO焼成触媒である。それぞれの触媒は、KMgPOを触媒成分として含めて製造したり、KMgPOの前駆体水溶液に担体を含浸させて製造したり、KMgPOの粉末またはその前駆体の粉末を金属酸化物と混合した後に焼成させて製造できる。また、本発明は、熱分解触媒の存在下に水蒸気分解反応を実施して、エチレン、プロピレンなどの軽質オレフィンを製造する方法に関し、KMgPOを成分として含む触媒を使用すれば、一般熱分解工程時よりオレフィンの収率を上昇させ、触媒に堆積するコークスの量を減少させて、触媒活性を長く維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽質オレフィン製造用の炭化水素の水蒸気分解用触媒、及びその製造方法に関する。さらに詳細には、本発明は、炭化水素を水蒸気分解して軽質オレフィンを製造するとき、触媒に生じるコークスの量を低減させ、軽質オレフィンの収率を向上させつつ、高温での熱安定性に優れた炭化水素の水蒸気分解用触媒及びその触媒の製造方法に関する。さらに本発明は、前記触媒を利用した軽質オレフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン及びプロピレンは、石油化学製品の重要な基礎原料である。エチレン及びプロピレンは、主に天然ガスやナフサ、ガスオイルのように、パラフィン系化合物を主成分とする炭化水素を水蒸気存在下で800℃以上の高温で熱分解して製造する。炭化水素の水蒸気分解反応でエチレン及びプロピレンの収率を上げるためには、炭化水素の転化率を高めるか、またはオレフィンの選択率を高めねばならない。しかし、純粋な水蒸気分解反応のみで炭化水素の転化率やオレフィンの選択率を高めるには限界があるため、オレフィンの収率を高めうる多様な方法が提案されてきた。
【0003】
炭化水素の水蒸気分解反応でエチレン及びプロピレンの収率を向上させうる方法として、触媒を使用した水蒸気分解方法が提案された。
【0004】
特許文献1は、マグネシウム酸化物及びジルコニウム酸化物で構成された触媒、特許文献2は、アルミン酸カルシウムを基本成分とする触媒、特許文献3は、ジルコニウム酸化物に担持されたマンガン酸化物触媒、特許文献4は、マグネシウム酸化物に担持された鉄触媒、特許文献5は、バリウム酸化物、アルミナ、及びシリカで構成された触媒を使用する方法を開示した。しかし、このような触媒は、炭化水素の水蒸気分解反応で、触媒のコーキングが激しいという共通の問題点がある。
【0005】
高温での炭化水素分解反応は、コークスを激しく発生させる。このようなコークスを除去するために、反応物の希釈剤として水蒸気を使用するが、コーキングは、依然として激しく発生し、反応器の壁面に累積されて色々な問題を発生させる。すなわち、熱分解反応管の壁面に累積されたコークスは、熱伝逹抵抗を増加させて炭化水素に伝えられる熱伝逹量を減少させる。このとき、熱伝逹抵抗が増加すれば、反応に必要な十分な熱量を供給するために、反応器をさらに高く加熱せねばならず、それは、反応器の表面温度の上昇をもたらして反応器の寿命を短縮させる。また、反応器の壁面に累積されたコークスは、反応器の有効断面積を減少させて反応器の差圧を高め、結果的に、反応物の圧縮注入にさらに多くのエネルギーが要求される。
【0006】
上述のように、炭化水素の水蒸気分解反応では、コークスのために熱伝逹抵抗や差圧が増加して、反応器の正常操業が不可能になり、反応器の正常操業のためには、反応器の運転を中断し、コークスを除去せねばならない。特に、炭化水素の水蒸気分解反応に触媒を使用すれば、コークスは、反応器の壁面だけでなく、触媒の表面にも累積されるので、コーキングによる問題がさらに深化する恐れがある。触媒の表面にコークスが累積されれば、触媒の性能が低下するだけでなく、累積されたコークスによって触媒層にかかる差圧が急上昇するので、正常的な反応器操業のためには、反応器の運転をさらに頻繁に中断せねばならない場合が発生しうる。触媒の表面は、気相で生成されたコークス前駆体を捕集/凝縮する作用を行うこともあり、触媒成分によっては、コークス生成を促進する活性を有するため、炭化水素の水蒸気分解反応用触媒は、コーキングを最大限防止できる性質を有さねばならない。
【0007】
商業規模の水蒸気分解反応器は、通常、30ないし60日周期でコークスを除去するが、そのために、反応器操業を中断し、水蒸気雰囲気下で空気を吹き込みつつ、コークスを焼成して除去する。コークスの除去にかかる時間は、反応器に累積されたコークス量によって変わるが、通常、1ないし2日がかかる。しかし、コークス除去性能が不十分な触媒を使用してコークス除去周期が大きく短縮されれば、触媒を使用してエチレン及びプロピレンの収率を高めても、単位時間当たりのエチレン及びプロピレン生産量が、単純な熱分解工程に比べて減少する。さらに、コークス除去のための追加費用が大きく増加しうる。したがって、炭化水素の水蒸気分解反応で触媒を使用する工程が経済性を有するためには、触媒のコーキングを最小化してコークス除去周期を延長させうる触媒が要求される。
【0008】
特許文献6は、ジルコニア触媒にアルカリ金属酸化物を添加する触媒、特許文献7は、アルミナ担体にホウ素酸化物で修飾されたバナジン酸カリウム触媒を開示しており、それら発明は、触媒中のコークス生成を減らすための方法として、コークスをガス化して除去する方法を提示している。このようなアルカリ金属酸化物やバナジン酸カリウム化合物は、生成されたコークスをCOにガス化する性能を有しているため、コークス除去に非常に効果的であり、また担持量を増やすことによって、コークス除去性能を向上させ、コークス除去周期もそれだけさらに延長しうる。しかし、このようなアルカリ金属酸化物やバナジン酸カリウム触媒は、前記成分の低い融点によって高温の熱分解反応器の内部で液状で存在する可能性があり、速い反応ガスのフローのために触媒成分が揮発されて、反応時間が過ぎるにつれて損失が生じ、それによって触媒の寿命が短縮する。そのような触媒損失を補償するために、反応中に触媒成分を添加せねばならないという問題点がある。
【特許文献1】米国特許第3,644,557号明細書
【特許文献2】米国特許第3,969,542号明細書
【特許文献3】米国特許第4,111,793号明細書
【特許文献4】欧州特許第0212320A2号公報
【特許文献5】米国特許第5,600,051号明細書
【特許文献6】米国特許第3,872,179号明細書
【特許文献7】ロシア国特許第1,011,236号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来の技術の問題点を解決するために、本発明は、炭化水素を水蒸気分解してオレフィンを製造するとき、収率を向上させ、同時に発生するコークスを減少させ、高温での熱安定性に優れた炭化水素の水蒸気分解用触媒を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、触媒成分としてKMgPOを含む触媒の製造方法、詳細には、担体にKMgPOの前駆体水溶液を含浸させることを含む担持触媒の製造方法、KMgPOの粉末またはその前駆体の粉末を金属酸化物と混合した後に焼成することを含む焼成触媒の製造方法、を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、上記触媒の存在下で、炭化水素を水蒸気分解してオレフィンを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的及びその他の目的は、後述する本発明の態様によって何れも達成されうる。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、KMgPOを触媒成分として含む炭化水素の水蒸気分解用触媒を提供する。また、KMgPOが担体に担持された担持触媒である炭化水素の水蒸気分解用触媒を提供する。このとき、前記担体は、αアルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、ジルコニウム酸化物、マグネシウム酸化物、アルミン酸マグネシウム、アルミン酸カルシウム、ゼオライトからなる群から選択されうる。
【0014】
上記担持触媒は、KMgPOの担持量が担持触媒の総重量に対して0.5ないし30重量%であることができる。KMgPOは、硝酸マグネシウム水化物、水酸化カリウム、及びリン酸アンモニウム塩から製造されるKMgPO前駆体から得ることができる。
【0015】
上記担持触媒は、KMgPO前駆体を水に溶解してKMgPO前駆体水溶液を製造し、担体をその水溶液で含浸させて製造する。この方法はさらに、前記担持触媒を焼成するステップをさらに含んでよい。焼成は、1000ないし1400℃の温度条件で22ないし26時間実施する。
【0016】
上記担持触媒の製造方法においては、KMgPO前駆体は硝酸マグネシウム水化物、水酸化カリウム、及びリン酸アンモニウム塩から製造されることができ、担体は、αアルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、ジルコニウム酸化物、マグネシウム酸化物、アルミン酸マグネシウム、アルミン酸カルシウム及びゼオライトからなる群から選択されうる。
【0017】
また、本発明は、KMgPOの粉末またはKMgPOの前駆体の粉末と、金属酸化物との焼成によって得られる焼成触媒を提供する。前記焼成触媒のKMgPO含量は焼成触媒の総重量を基準にして0.5ないし50重量%であることができる。前記金属酸化物は、αアルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、ジルコニウム酸化物、マグネシウム酸化物、アルミン酸マグネシウム、アルミン酸カルシウム、ゼオライトからなる群から選択されうる。KMgPO前駆体は、硝酸マグネシウム水化物、水酸化カリウム、及びリン酸アンモニウム塩から製造されうる。
【0018】
上記焼成触媒は、KMgPOの粉末またはKMgPOの前駆体の粉末を金属酸化物の粉末と混合し、この混合物を焼成して製造する。このとき、焼成は、1000ないし1400℃の温度条件で22ないし26時間実施する。
【0019】
上記焼成触媒の製造方法において、上記金属酸化物は、αアルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、ジルコニウム酸化物、マグネシウム酸化物、アルミン酸マグネシウム、アルミン酸カルシウム、ゼオライトからなる群から選択されうる。
【0020】
また、本発明は、KMgPOを触媒成分として含む触媒、担持触媒、及び焼成触媒からなる群から選択される触媒の存在下で、炭化水素を水蒸気分解するオレフィンの製造方法を提供する。水蒸気分解反応後、空気、空気及び水蒸気、または水蒸気の存在下、500ないし1300℃で、触媒表面に生成したコークスを除去することによって触媒が再生されうる。
【0021】
水蒸気分解は、反応温度600ないし1000℃、水蒸気/炭化水素の重量比0.3ないし1.0、及びLHSV(Liquid Hourly Space Velocity)(空間速度)が1ないし20hr−1で実施できる。
【0022】
水蒸気分解は、固定層反応器、流動層反応器及び移動相反応器からなる群から選択される反応器によって実施されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明すれば、次の通りである。
本発明のKMgPOを触媒成分とする炭化水素の水蒸気分解用触媒は、3つの形態である。一つの形態は、(a) KMgPOそれ自体であり、他の一つの形態は、(b) KMgPOが担体に担持された担持触媒であり、残りの他の一つの形態は、(c) KMgPO-アルミン酸マグネシウムの混合物が焼成された焼成触媒である。
【0024】
本発明の触媒の一つの形態であるKMgPOが担体に担持された担持触媒に関しては、担持触媒の総重量を基準にしてKMgPOが0.5ないし30重量%担持される。KMgPOの含有量が0.5重量%未満の場合は、触媒効果は不充分となるおそれがある。一方、30重量%を超過した場合は、KMgPOの含有量に応じた触媒効果が得られない可能性がある。
【0025】
本発明で用いる担体としては、αアルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、ジルコニウム酸化物、マグネシウム酸化物、アルミン酸マグネシウム、アルミン酸カルシウム、ゼオライトなどの通常用いられる担体を何れも使用しうる。表面積が0.1m/g以下であるアルミナが好ましい。
【0026】
上記担持触媒は以下のように製造できる。最初に、KMgPOの前駆体である、硝酸マグネシウム水化物、水酸化カリウム、及びリン酸アンモニウム塩を水に溶解して水溶液を製造する。次に、この水溶液をαアルミナに初期含浸法あるいは液相含浸法で含浸させ、120℃で10時間以上乾燥させる。担持触媒の本製造法は、KMgPOが担体に堅固に固定されるように、KMgPOが含浸された担体を高温で焼成処理するステップをさらに含みうる。このとき、焼成を1000ないし1400℃の温度条件で、22ないし26時間実施することが望ましい。特に、焼成温度が1400℃を超える場合には、KMgPOが溶融し、KMgPOの損失を招くおそれがある。
【0027】
また、本発明の触媒のもう一つの形態であるKMgPO及び金属酸化物の混合物が焼成された焼成触媒は、焼成触媒の総重量を基準としてKMgPOの含有量は0.5ないし50重量%である。KMgPOの含有量が0.5重量%未満の場合は、触媒としての効果が不充分であるおそれがあり、50重量%を超える場合は、KMgPOの含有量に応じた触媒効果が得られないおそれがある。
【0028】
本発明に用いる金属酸化物は、αアルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、ジルコニウム酸化物、マグネシウム酸化物、アルミン酸マグネシウム、アルミン酸カルシウム、及びゼオライトからなる群から選択されうる。
【0029】
上記焼成触媒は以下のように製造しうる。KMgPOの粉末、または硝酸マグネシウム水化物、水酸化カリウム、及びリン酸アンモニウム塩から得られるKMgPO前駆体粉末を、金属酸化物と物理的に混合し、高温で焼成し、一定の形態に成形する。このとき、焼成は、1000ないし1400℃の温度条件で22ないし24時間実施しうる。焼成温度が1400℃を超える場合には、KMgPOが蒸発し、それによりKMgPO4の損失を招くおそれがある。
【0030】
本発明は、触媒成分としてKMgPOを含む触媒、上記担持触媒、及び上記焼成触媒からなる群から選択される触媒の存在下で炭化水素を水蒸気分解することによるオレフィンの製造方法を提供する。このとき、水蒸気分解反応は、通常の水蒸気分解条件で実施する。すなわち、上記の炭化水素の水蒸気分解触媒の存在下に、反応温度600ないし1000℃、水蒸気/炭化水素の重量比0.3ないし1.0、及びLHSV(空間速度)1ないし20hr−1の条件で、水蒸気分解反応を実施する。
【0031】
炭化水素の上記水蒸気分解に使用できる反応器としては、固定層反応器、流動層反応器、移動相反応器がある。このとき、炭化水素の水蒸気分解反応を固定層反応器で実施する場合には、αアルミナにKMgPOを担持した担持触媒を使用する。この触媒は、レーシック(LASIK)リング状やその他の特殊な形態に触媒を成形できる。
【0032】
また、炭化水素の水蒸気分解のあいだに、KMgPOを含有する触媒上に形成されたコークスは、空気、空気及び水蒸気、または水蒸気の存在下で500ないし1300℃の温度に加熱して除去する。
【0033】
以下、下記の実施例及び比較例を通して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、実施例に限定されるものではない。
【0034】
[実施例1]
触媒の製造に担体としてαアルミナを用い、それは以下の物理特性を有していた:球形、直径5mm、表面積0.04m/g、孔隙率21.89%、平均気孔直径19.76nm。
硝酸マグネシウム水化物155.8g、水酸化カリウム34.1g、及びリン酸アンモニウム塩70.0gのKMgPOの前駆体成分を、100gの水に溶解して水溶液を得た。この水溶液を、上記αアルミナ100gに初期含浸法で含浸させた。得られた担持触媒を110℃のオーブンで10時間以上乾燥し、次に1000℃の温度で24時間焼成した。この焼成した触媒は、表2に示したように、αアルミナ重量を基準にして15重量%のKMgPOを含んでいた。
【0035】
[実施例2]
1100℃の焼成温度を使用したことを除いて、実施例1と同様に焼成触媒を調製した。焼成した触媒は、表2に示したように、αアルミナ重量を基準にして15重量%のKMgPOを含んでいた。
【0036】
[実施例3]
1200℃の焼成温度を使用したことを除いて、実施例1と同様に焼成触媒を調製した。焼成した触媒は、表2に示したように、αアルミナ重量を基準にして15重量%のKMgPOを含んでいた。
【0037】
[実施例4]
硝酸マグネシウム水化物102.8g、水酸化カリウム22.5g、及びリン酸アンモニウム塩46.2gを用い、焼成温度が1200℃であったことを除いて、実施例1と同様に焼成触媒を調製した。焼成した触媒は、表2に示したように、αアルミナ重量を基準にして10重量%のKMgPOを含んでいた。
【0038】
[実施例5]
硝酸マグネシウム水化物207.2g、水酸化カリウム45.3g、及びリン酸アンモニウム塩93.1gを用い、焼成温度が1200℃であったことを除いて、実施例1と同様に焼成触媒を調製した。焼成した触媒は、表2に示したように、αアルミナ重量を基準にして20重量%のKMgPOを含んでいた。
【0039】
[比較例1]
触媒を使用せずにナフサの水蒸気分解反応を実施した。
【0040】
[比較例2]
触媒調製のための担体としてαアルミナを用い、これは以下の物理特性を有していた:球形、直径5mm、表面積0.04m/g、孔隙率21.89%、平均気孔直径19.76nm。
水酸化カリウム4.06g、バナジン酸アンモニウム8.48g、及びホウ酸3.54gのバナジン酸カリウムの前駆体成分を40gの水に溶解して水溶液を得た。この水溶液を、初期含浸法で上記αアルミナに含浸させた。この含浸したαアルミナを空気雰囲気中、110℃のオーブンで10時間以上乾燥し、さらに焼成炉中、750℃で4時間焼成した。調製した焼成触媒は、αアルミナ重量を基準にして10重量%のバナジン酸カリウム及び2重量%のホウ素酸化物を含んでいた。
【0041】
[比較例3]
リン酸カリウムの前駆体であるリン酸カリウム水化物(KPO・1HO)12.6gを40gの水に溶かして水溶液を得た。この水溶液を比較例2のαアルミナ100gに、初期含浸法で含浸させた。得られた担持触媒を110℃のオーブンで10時間以上乾燥させ、さらに焼成炉中、1000℃で4時間焼成した。焼成した触媒は以下の表2に示したとおり、αアルミナ重量を基準にして10重量%のリン酸カリウムを含んでいた。
【0042】
[比較例4]
リン酸カリウムの前駆体としてリン酸カリウム水化物17.3gを用いたことを除いて、比較例3と同様にして焼成触媒を調製した。この焼成触媒は、表2に示したように、αアルミナの重量を基準にして15重量%のリン酸カリウムを含んでいた。
【0043】
[比較例5]
リン酸カリウムの前駆体としてリン酸カリウム水化物21.8gを用いたことを除いて、比較例3と同様にして焼成触媒を調製した。この焼成触媒は、表2に示したように、αアルミナの重量を基準にして20重量%のリン酸カリウムを含んでいた。
【0044】
[試験例1]
実施例1ないし5及び比較例2ないし5の触媒を用いて、下記の方法に従い、エチレン及びプロピレンを製造した。このとき、水蒸気分解反応のための炭化水素としてナフサを用い、用いたナフサの組成及び物性を下記表1にまとめた。
【0045】
【表1】

【0046】
反応剤として用いたナフサ及び水は、定量ポンプで反応器に供給した。このとき、ナフサと水は重量比2:1で用い、ナフサの流量(LHSV)を10hr−1に設定した。反応器に供給したナフサ及び水は、気化器を経て混合し、1次予熱器で550℃に加熱し、次に2次予熱器で650℃に加熱し、触媒を充填した石英反応器(長さ:45cm、直径:3/8インチ)に注入した。
【0047】
上記石英反応器は、3段に構成した電気炉によって880℃に加熱した。2次予熱器を通った水蒸気とナフサ混合物を石英反応器内で接触分解させた。反応生成物は、直列に連結した2つの凝縮器を通過する間に、水及び重質油は液相に凝縮されて回収され、気相混合物はオンラインに連結したガスクロマトグラフィで分析した後に排出された。エチレンの収率を下記計算式1によって計算した。その他の生成物(プロピレン)の収率も同様の方法で計算した。
[計算式1] エチレンの収率(重量%)= エチレン生成量/ナフサ供給量x100
【0048】
ナフサの接触水蒸気分解及び非接触水蒸気分解の結果を下記表2に示した。反応が終わった後、比較的高いレベルのコークスを含む触媒層の低い部分に形成されたコークスを集めて定量した。エチレン及びプロピレン収率は、4時間の反応の間のナフサ供給量を基準とした重量%として表した。コークスの量は、反応終了後に回収した触媒の重量を基準にした重量%として表した。
【0049】
【表2】

【0050】
表2に示したとおり、触媒成分としてKMgPOを使用した実施例1〜3のエチレン及びプロピレンの収率は、非触媒分解を行った比較例1の収率と比較して大きく増加した。実施例1〜3のエチレン及びプロピレンの収率は、触媒成分としてバナジン酸カリウム及びホウ素酸化物を用いた比較例2及び触媒成分としてリン酸カリウムを用いた比較例4の収率と類似していた。しかし、実施例1〜3の触媒上に形成されたコークスの量は、比較例2及び4と比較して、それぞれ56〜80重量%及び4〜57重量%まで大きく減少した。実施例1〜3の触媒の製造において、よりいっそう高い焼成温度を用いることは、エチレン及びプロピレンの収率を増加させることはなかったが、触媒上に堆積されるコークスの量を大きく減少させた。しかし、1400℃を超えて焼成することは、KMgPOを溶融させて、KMgPOの喪失をもたらすおそれがある。
【0051】
触媒成分の含有量の変化による影響も表2に示した。実施例4〜5の場合、KMgPO含量が増加しても、エチレン及びプロピレン収率は類似した値を示すが、触媒上に生成したコークスの量は大きく減少した。しかし、表面積0.1m/g以下のアルミナ担体を用いた場合、30重量%を超えるKMgPOが含まれても、含量に応じた効果が現れない。バナジン酸カリウム及びホウ素酸化物を触媒成分として用いた比較例2の触媒、及びリン酸カリウムを触媒成分として用いた比較例3及び比較例5の触媒と比較して、カルシウム化合物が同じ含有量においては、実施例4及び実施例5のエチレン及びプロピレン収率は、比較例2、3及び5の収率と類似している。しかし、実施例4と5の触媒上に生成したコークス量は、比較例2の場合並びに比較例3及び5の場合と比較して、それぞれ56重量%及び44〜53重量%まで減少した。
【0052】
[実施例6及び比較例6〜7]
バナジン酸カリウム及びホウ素酸化物を担持した触媒の最も大きい短所の一つは、高温での熱分解の間に触媒成分が失われるという点である。触媒成分の喪失を測定するために、1分当たり2.8gのスチームを流す条件下で、実施例6及び比較例6〜7の各触媒を880℃の反応器に満たし、20時間の反応後に触媒成分の量を測定した。実施例6及び比較例6〜7の各触媒の触媒成分の初期量に対する触媒成分の喪失量(重量%)を以下の表3に示した。
【0053】
【表3】

【0054】
表3に示したとおり、触媒成分としてバナジン酸カリウム及びホウ素酸化物を用いた比較例6の場合、880℃での20時間の水蒸気分解の後、カルシウム及びバナジウムの喪失量は約20重量%であり、しかもほとんど全てのホウ素が失われていた。したがって、バナジン酸カリウム及びホウ素酸化物から構成された触媒は、炭化水素の水蒸気分解の間に顕著に失われることが理解できる。しかし、リン酸カリウム及びKMgPOを触媒成分として用いた比較例7及び実施例6の場合、触媒成分の喪失がほとんどないということが分かった。
【0055】
[実施例7]
硝酸マグネシウム水化物、水酸化カリウム及びリン酸アンモニウム塩から得られたKMgPO前駆体粉末を、アルミン酸マグネシウム粉末と重量比2:8で混合した。この混合物を1300℃の温度で空気雰囲気下24時間焼成し、さらに造粒して、焼成触媒を製造した。
【0056】
[比較例2]
実施例1と同様の方法で、実施例7の焼成触媒の存在下でのナフサの水蒸気分解によってエチレン及びプロピレンを製造し、その結果を以下の表4に示した。
【0057】
【表4】

【0058】
表4に示したとおり、触媒を使用せずにナフサを熱分解した比較例1の収率と比較して、実施例7の触媒を用いて生産したエチレン及びプロピレンは収率の増加を示した。
【0059】
バナジン酸カリウム及びホウ素酸化物を触媒成分として使用した比較例2と実施例7を比較すると、エチレン及びプロピレン収率は類似している。しかし、実施例7の触媒上に生成したコークス量は、比較例2に比べて24重量%まで大きく減少した。
【0060】
〔産業上の利用可能性〕
上記説明から明らかなとおり、KMgPOを触媒成分として含む触媒の存在下で炭化水素の水蒸気分解を行った場合は、一般的な非接触分解法によって製造される軽質オレフィンに比べて、エチレン及びプロピレンなどの軽質オレフィンの収率が顕著に向上する。
【0061】
加えて、一般的な接触式炭化水素水蒸気分解法と比べて、本発明の接触式炭化水素水蒸気分解法は、エチレン及びプロピレンなどの軽質オレフィンの収率に影響を与えることなく、触媒上に生成するコークスの量を顕著に低下させることができる。したがって、触媒活性を長期間維持することができ、且つ分解装置にかかる圧力降下を減らすことができる。さらに、KMgPOが高温での熱安定性に優れているため、触媒の寿命を長くでき、固定層反応器、移動相反応器、及び流動層反応器の全てにおいて接触式水蒸気分解を行うことができる。
【0062】
本発明は、記載された具体例を中心に詳細に説明されたが、本発明の範囲及び技術的思想の範囲内で多様な変形及び修正が可能であることは、当業者に明白なものであり、このような変形及び修正が、特許請求の範囲に属することも当然である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
KMgPOを触媒成分として含む、炭化水素の水蒸気分解用触媒。
【請求項2】
前記触媒は、KMgPOが担体に担持された担持触媒であることを特徴とする請求項1に記載の炭化水素の水蒸気分解用触媒。
【請求項3】
前記担体が、αアルミナ、シリカ、シリカ‐アルミナ、ジルコニウム酸化物、マグネシウム酸化物、アルミン酸マグネシウム、アルミン酸カルシウム及びゼオライトからなる群から選択されることを特徴とする請求項2に記載の炭化水素の水蒸気分解用触媒。
【請求項4】
前記担持触媒は、KMgPOの担持量が担持触媒の総重量に対して0.5ないし30重量%であることを特徴とする請求項2に記載の炭化水素の水蒸気分解用触媒。
【請求項5】
前記KMgPOの前駆体が硝酸マグネシウム水化物、水酸化カリウム、及びリン酸アンモニウム塩から製造されることを特徴とする請求項2に記載の炭化水素の水蒸気分解用触媒。
【請求項6】
KMgPO前駆体を水に溶解してKMgPO前駆体水溶液を製造するステップと、
担体に前記水溶液を含浸させて担持触媒を製造するステップと、
を含んでなることを特徴とする炭化水素の水蒸気分解用触媒の製造方法。
【請求項7】
前記担持触媒を焼成するステップをさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の炭化水素の水蒸気分解用触媒の製造方法。
【請求項8】
前記焼成を1000ないし1400℃の温度条件で、22ないし26時間実施することを特徴とする請求項7に記載の炭化水素の水蒸気分解用触媒の製造方法。
【請求項9】
前記KMgPOの前駆体が、硝酸マグネシウム水化物、水酸化カリウム、及びリン酸アンモニウム塩から製造されることを特徴とする請求項6に記載の炭化水素の水蒸気分解用触媒の製造方法。
【請求項10】
前記担体が、αアルミナ、シリカ、シリカ‐アルミナ、ジルコニウム酸化物、マグネシウム酸化物、アルミン酸マグネシウム、アルミン酸カルシウム及びゼオライトからなる群から選択されることを特徴とする請求項6に記載の炭化水素の水蒸気分解用触媒の製造方法。
【請求項11】
前記触媒が、KMgPOの粉末またはKMgPOの前駆体の粉末と、金属酸化物との焼成触媒であることを特徴とする請求項1に記載の炭化水素の水蒸気分解用触媒。
【請求項12】
前記焼成触媒のKMgPOの含量が、前記焼成触媒の総重量に対して0.5ないし50重量%であることを特徴とする請求項11に記載の炭化水素の水蒸気分解用触媒。
【請求項13】
前記金属酸化物が、αアルミナ、シリカ、シリカ‐アルミナ、ジルコニウム酸化物、マグネシウム酸化物、アルミン酸マグネシウム、アルミン酸カルシウム及びゼオライトからなる群から選択されることを特徴とする請求項11に記載の炭化水素の水蒸気分解用触媒。
【請求項14】
前記KMgPOの前駆体が、硝酸マグネシウム水化物、水酸化カリウム、及びリン酸アンモニウム塩から製造されることを特徴とする請求項11に記載の炭化水素の水蒸気分解用触媒。
【請求項15】
KMgPOの粉末またはKMgPOの前駆体の粉末を金属酸化物の粉末と混合するステップと、
前記混合物を焼成してKMgPO−金属酸化物の焼成触媒を製造するステップと、
を含んでなることを特徴とする炭化水素の水蒸気分解用触媒の製造方法。
【請求項16】
前記焼成を1000ないし1400℃の温度条件で、22ないし26時間実施することを特徴とする請求項15に記載の炭化水素の水蒸気分解用触媒の製造方法。
【請求項17】
前記金属酸化物が、αアルミナ、シリカ、シリカ‐アルミナ、ジルコニウム酸化物、マグネシウム酸化物、アルミン酸マグネシウム、アルミン酸カルシウム及びゼオライトからなる群から選択されることを特徴とする請求項15に記載の炭化水素水蒸気分解用触媒の製造方法。
【請求項18】
前記KMgPOを触媒成分として含む触媒、担持触媒及び焼成触媒からなる群から選択される触媒の添加下で、炭化水素を水蒸気分解するオレフィンの製造方法。
【請求項19】
前記水蒸気分解が、反応温度600ないし1000℃、水蒸気/炭化水素の重量比が0.3ないし1.0、及びLHSVが1ないし20hr−1で実施されることを特徴とする請求項18に記載のオレフィンの製造方法。
【請求項20】
前記水蒸気分解が、固定層反応器、流動層反応器及び移動相反応器からなる群から選択される反応器中で実施されることを特徴とする請求項18に記載のオレフィンの製造方法。
【請求項21】
水蒸気分解の後、空気、水蒸気、又は空気及び水蒸気の混合物の存在下で、500ないし1300℃の温度に加熱して、触媒の表面に形成されたコークスを除去することによって前記触媒が再生されることを特徴とする請求項18に記載のオレフィンの製造方法。

【公表番号】特表2006−525106(P2006−525106A)
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500690(P2006−500690)
【出願日】平成16年5月7日(2004.5.7)
【国際出願番号】PCT/KR2004/001068
【国際公開番号】WO2004/105939
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド  (1,221)
【出願人】(505411778)エルジー・ペトロケミカル・カンパニー・リミテッド (3)
【Fターム(参考)】