説明

炭化水素類の酸化方法

【課題】調製が容易な固体触媒を使用して脂肪族炭化水素から効率的に酸化脂肪族炭化水素を製造する方法および当該反応に用いる触媒を提供すること。
【解決手段】1種類以上の周期律表第8族の遷移金属及び1種類以上の周期律表第9族の遷移金属を、第5族又は第13族元素の酸化物に担持させてなる固体触媒の存在下、脂肪族炭化水素化合物と分子状酸素とを接触させることを特徴とする酸化脂肪族炭化水素化合物の製造方法及び当該固体触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素類、特に脂肪族炭化水素化合物の酸化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素化合物を酸素酸化して、対応するケトン化合物、アルコール化合物、カルボン酸化合物およびヒドロキシペルオキシド化合物等を得る反応は、アルキルベンゼンの酸素酸化によるフェニルアルキルヒドロペルオキシドの製造プロセスやシクロヘキサンの酸素酸化によるKAオイル(シクロヘキサノンおよびシクロヘキサノールの混合物)の製造プロセス等、様々な有機製品の製造プロセスにおいて行われている。(例えば、特許文献1)
【0003】
【特許文献1】特開2004-002327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、調製が容易な固体触媒を使用して脂肪族炭化水素から効率的に酸化脂肪族炭化水素を製造する方法および当該反応に用いる触媒を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、1種類以上の周期律表第8族の遷移金属及び1種類以上の周期律表第9族の遷移金属を、第5族又は第13族元素の酸化物に担持させてなる固体触媒の存在下、脂肪族炭化水素化合物と分子状酸素とを接触させることを特徴とする酸化脂肪族炭化水素化合物の製造方法及び当該固体触媒に関するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、固体触媒の調製および反応後の触媒の分離・回収が容易であり、脂肪族炭化水素化合物から対応するケトン化合物およびアルコール化合物、さらにはエポキシ化合物、アルデヒド化合物および/またはカルボン酸化合物等の酸化脂肪族炭化水素を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で原料として使用される脂肪族炭化水素化合物としては、例えばペンタン、ヘキサン、2-メチルヘキサン、ヘプタンなどの鎖式脂肪族飽和炭化水素化合物;ペンテン、1-ヘキセンなどの鎖式不飽和脂肪族炭化水素化合物;シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカンのような飽和脂肪族環式炭化水素化合物;シクロペンテン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロノネン、シクロデセンのような不飽和脂肪族環式炭化水素化合物が例示される。
【0008】
本発明の酸化方法で、脂肪族炭化水素化合物を酸化することにより得られる酸化脂肪族炭化水素化合物としては、対応するケトン化合物、アルコール化合物、ヒドロペルオキシド化合物、アルデヒド化合物およびカルボン酸化合物等が例示される。例えば、シクロアルカンのような飽和脂肪族環式炭化水素化合物の酸化であれば、ケトン化合物として該シクロアルカンの有するメチレン基がカルボニル基となったシクロアルカノン化合物等を、アルコール化合物として該炭化水素化合物の有するメチル基(例えば、メチルシクロヘキサンのメチル基)、メチレン基またはメチリジン基がそれぞれヒドロキシメチル基、ヒドロキシメチレン基またはヒドロキシメチリジン基となったシクロアルカノール化合物等を、ヒドロペルオキシド化合物として、該炭化水素化合物の有するメチル基、メチレン基またはメチリジン基がそれぞれヒドロペルオキシメチル基、ヒドロペルオキシメチレン基またはヒドロペルオキシメチリジン基となったヒドロペルオキシシクロアルカン化合物等を、対応するアルデヒド化合物として、該炭化水素の有するメチル基がホルミル基となったシクロアルカンカーブアルデヒド化合物等を、対応するカルボン酸化合物として、該炭化水素の有するメチル基がカルボキシル基となったシクロアルカンカルボン酸化合物が挙げられ、また炭素-炭素結合が開裂して両炭素がカルボキシル基となったジカルボン酸化合物等が挙げられる。鎖式不飽和脂肪族炭化水素化合物や不飽和脂肪族環式炭化水素化合物からは、不飽和結合が酸化されたエポキシ化合物および不飽和結合が酸化され開裂して生成するアルデヒド化合物やカルボン酸化合物が挙げられる。通常、これらの酸化脂肪族炭化水素化合物は、混合物として得られる。シクロアルカンとしてシクロヘキサンからKAオイル(シクロヘキサノンおよびシクロヘキサノールの混合物)が製造される。
【0009】
本発明では、1種類以上の周期律表第8族遷移金属及び1種類以上の周期律表第9族の遷移金属を第5族又は第13族元素の酸化物に担持したものを触媒とする。遷移金属としては、第8族元素としては好ましくはFeおよびRuなどが挙げられ、特にRuが好ましい。Ruの金属種としては、0価、2価、3価もしくは8価のものが例示される。また第9族元素としてはCoが特に望ましい。Co金属種としては、2価もしくは3価ものが例示される。
【0010】
担体として用いられる第5族元素の酸化物として、好ましくは、TaもしくはNbの酸化物、第13族元素の酸化物としてはAlの酸化物が挙げられ、より好ましくはTa2O5、Nb2O5, Al2O3等が挙げられる。
【0011】
担持固体触媒の好ましい金属担持量は、担持する金属種によって異なる。例えばCo及びRuを担持するときのCo担持量は、通常、Co金属換算で、10〜0.01wt%、好ましくは5〜0.1wt%程度であり、Ru担持量は、通常、Ru金属換算で、5〜0.001wt%、好ましくは1〜0.01wt%である。また、担持触媒の使用量は反応基質の種類や目的の反応速度によって異なるが、例えばシクロヘキサンの酸化においてCo及びRuを担持した触媒を加える際の使用量としては、Co金属のシクロヘキサンに対する重量比率で、通常、0.01〜50ppm、好ましくは0.1〜10ppmであり、Ru金属の量は、通常、0.01〜10ppm、好ましくは0.1〜5ppmとなる量である。
【0012】
担持固体触媒の調製においては、特にその方法は制限されるものではないが、例えば、担体への金属種の吸着等を利用することによって調製することができる。すなわち、担持される金属の化合物を水などの溶媒に溶解させ、そこに担体となる固体粉末を加えて吸着させることにより調製される。この懸濁液を、例えば、1〜48時間、好ましくは24〜48時間、室温において攪拌する。この際、必要に応じて溶液のpHを調整することにより、金属を吸着しやすくすることもできる。例えばアルミナ(典型的にはα−アルミナ)を担体として水溶液中で担持触媒を調製するときには、pH 7以上が好ましく、より好ましくは9以上である。そして、固体触媒を濾別後、洗浄、乾燥することによって、所望の担持固体触媒が得られる。
【0013】
担持固体触媒調製に用いられる遷移金属源となる遷移金属の化合物は、使用する溶媒に可溶なものであれば特に限定されるものではない。例えば、コバルトまたはコバルト-ルテニウム担持触媒を調製する際に原料として用いられるコバルト化合物またはルテニウム化合物としては、それぞれの金属の無機酸塩、ハロゲン化物、有機酸塩、アルコキシド、アセチルアセトナートのような錯体、オキソ酸やその塩などが挙げられる。好ましいコバルト化合物としては、例えば酢酸コバルト(II)、塩化コバルト、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、コバルトアセチルアセトナートなどが挙げられる。また、好ましいルテニウム化合物としては、塩化ルテニウム、オクチル酸ルテニウム、ルテノセン、ルテニウムアセチルアセトナート、ビス(イソヘプタジオナト)ノルボルナジエンルテニウムなどが例示される。
【0014】
本発明においては固体触媒、脂肪族炭化水素化合物、分子状酸素の存在下において反応を行うが、その反応実施形態は目的に応じて種々選択することができる。例えば、バッチ式、酸素含有ガスのみを連続的に供給する半連続式または連続式などから選択することができる。
【0015】
脂肪族炭化水素化合物と酸素(分子状酸素)との接触は、酸素(分子状酸素)含有ガスを連続的に供給する場合、通常、脂肪族炭化水素化合物および固体触媒を含む液に酸素含有ガスを供給して行われる。供給する酸素含有ガス中の酸素濃度や供給量は、供給方法にもよるが、例えば、反応の進行等を考慮して、反応系から形外への出口の酸素濃度を測定し、この値を基に、供給する酸素含有ガス中の酸素濃度等を適宜調整して行われる。反応系中に供給される酸素含有ガスとしては、空気の他に酸素ガスが例示される。典型的には空気が用いられ、反応の進行をコントロールするため必要により窒素やヘリウムのような不活性ガスを併用して、反応系から形外への出口の酸素濃度を調整して反応は行われる。反応系から形外への出口の酸素濃度は、例えば、シクロヘキサンを130〜140℃で酸化する際には、反応系から形外への出口の酸素濃度が、好ましくは、0.1〜20%,より好ましくは0.1〜10%の範囲に保たれるように酸素含有ガスの濃度および供給は調整して行われる。
【0016】
酸素含有ガスを系内に連続供給しながら反応を行う場合、供給方法は、通常、脂肪族環式炭化水素化合物および固体触媒を含む液に酸素含有ガスの気泡を分散させるようにして行われ、例えば、ガス導入管を用いても良いし、反応器に吹き出し孔を設けても良い。
【0017】
反応条件は、使用する脂肪族炭化水素化合物の反応性や目的とする生成物の熱的安定性、安全性等を考慮して設定されるが、通常、70〜200℃、好ましくは、100〜160℃の範囲であり、反応圧力は、通常、0.1〜3MPa、好ましくは0.1〜2MPaの範囲である。また、反応は回分式で行っても良いし、連続式で行っても良い。上記ガスの供給および排出を行いながら、脂肪族炭化水素化合物および固体触媒の供給ならびに反応液の抜き出しを行うことにより、連続式で反応を行うことができ、操作性および生産性を高めることができる。
【0018】
反応後の後処理操作については、生成物の性質等に応じて適宜選択することができ、例えば、濾過、濃縮、洗浄、アルカリ処理、酸処理が挙げられ、必要に応じてそれらの2種類以上を組み合わせても良い。アルカリ処理をすることにより、生成物中に含まれるアルコール化合物と副生成物のカルボン酸とからなるエステル化合物をケン化してアルコール化合物を再生できるとともに、ヒドロペルオキシド化合物をケトン化合物やアルコール化合物に変換することができる。また、処理後、必要により所望の化合物を、分離、精製するため、例えば、蒸留晶析等の操作を施してもよい。
【実施例】
【0019】
以下、本発明について実施例をあげてより詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。反応液の分析はガスクロマトグラフィーやイオンクロマトグラフィーを用いて行った。なお、所定の酸素濃度を有する各酸素含有ガスは、それぞれ空気を窒素で希釈することにより調製した。
【0020】
実施例1
酢酸コバルト・四水和物2.0gをイオン交換水30.0gに溶解した(溶液a)。また、塩化ルテニウム・三水和物1.0gをイオン交換水30.0gに溶解した(溶液b)。イオン交換水100gに上記溶液a 1.16gと溶液b 0.15g及びα−Al2O3 4.0gを加え、攪拌しながら0.25 N NaOH水溶液を滴下してpHを11とした。室温において24時間攪拌し、洗浄・濾過後、90℃で減圧乾燥することで触媒A(Co 0.45wt.%, Ru0.05wt%担持α−Al2O3を得た。
【0021】
実施例2
1リットルのガラスオートクレーブにシクロヘキサン300g、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール各0.6g、触媒A 0.3gを入れ、窒素雰囲気下、圧力0.93Mpa、温度140℃に調整した。この中に該圧力および温度を維持しながら、攪拌下、酸素濃度7容量%の酸素含有ガスを300ml/分で吹き込んだ。酸素吸収が認められるようになった後、出口酸素濃度が5%を超えないように空気の比率を段階的に上昇させ、最終的に空気を300ml/分で150分間流通させた。反応液を分析し、転化率8%における各生成物の選択率を算出したところ、シクロヘキサノン35.0%、シクロヘキサノール43.6%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド4.0%であった(合計選択率82.6%)。また、アジピン酸の選択率は2.2%であった。
実施例3
【0022】
α−Al2O3の替わりにNb2O5(和光純薬製)を用いた以外は実施例1と同様にして触媒B(Co 0.45wt.%, Ru0.05wt%担持Nb2O5)を得た。
実施例4
【0023】
触媒Aの替わりに触媒Bを用いた以外は実施例2と同様に、シクロヘキサン酸化を行った。転化率8%における各生成物の選択率を算出したところ、シクロヘキサノン37.4%、シクロヘキサノール37.8%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド7.8%であった(合計選択率83.0%)。また、アジピン酸の選択率は2.1%であった。
【0024】
参考例1
実施例2において触媒Aの代わりに触媒として、シクロヘキサンに対してコバルトが0.14ppmとなるようにオクチル酸コバルトを担持せずに用いて同様に反応と分析を行った。転化率8%における各生成物の選択率を算出したところ、シクロヘキサノン32.6%、シクロヘキサノール36.1%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド12.7%であった(合計選択率81.4%)。また、アジピン酸選択率は3.3%であった。
【0025】
参考例2
実施例2において触媒Aの代わりに触媒として、シクロヘキサンに対してコバルトが0.14ppmとなるようにオクチル酸コバルトを、ルテニウムが0.02ppmとなるようにオクチル酸ルテニウムをそれぞれ担持せずに用いて同様に反応と分析を行った。転化率8%における各生成物の選択率を算出したところ、シクロヘキサノン37.5%、シクロヘキサノール39.6%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド4.3%であった(合計選択率81.4%)。また、アジピン酸選択率は1.9%であった。
実施例5
【0026】
ステンレス製オートクレーブに、基質としてシクロヘキセンを1.6g、溶媒としてアセトニトリルを25ml入れ、ここに触媒A 0.5gを加えた。空気:5kgf/cm2、 窒素:5kgf/cm2雰囲気下で100℃、2時間反応を行ったところ、シクロヘキセン転化率33%でシクロヘキセノン、シクロヘキセノール、シクロヘキセンオキシドがそれぞれ選択率46%、28%、10%で得られた。
実施例6
【0027】
ステンレス製オートクレーブに、ヘキサン15g、シクロヘキサノール0.2gを加えた。空気: 5kgf/cm2、窒素: 5kgf/cm2雰囲気下で140℃、5時間反応を行ったところ、ヘキサン転化率1.5%で3-ヘキサノン、2-ヘキサノン、3-ヘキサノール、2-ヘキサノールがそれぞれ選択率12%、15%、14%、16%で得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類以上の周期律表第8族の遷移金属及び1種類以上の周期律表第9族の遷移金属を、第5族又は第13族元素の酸化物に担持させてなる固体触媒の存在下、脂肪族炭化水素化合物と分子状酸素とを接触させることを特徴とする酸化脂肪族炭化水素化合物の製造方法。
【請求項2】
第8族の元素がRuであり、第9族の元素がCoである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
第5族又は第13族元素の酸化物が、Ta, Nb又はAlの酸化物である請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
脂肪族炭化水素化合物が飽和炭化水素化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
脂肪族炭化水素化合物が脂肪族環式炭化水素化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
脂肪族炭化水素化合物がシクロアルカンである請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
脂肪族炭化水素化合物がシクロヘキサンである請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
1種類以上の周期律表第8族の遷移金属及び1種類以上の周期律表第9族の遷移金属を、第5族又は第13族元素の酸化物に担持させてなることを特徴とする固体触媒。
【請求項9】
第8族の元素がRu、第9族の元素がCoである請求項8に記載の固体触媒。
【請求項10】
第5族元素の酸化物が、TaもしくはNbの酸化物であり、第13族元素の酸化物がAlの酸化物である請求項8または9に記載の固体触媒。

【公開番号】特開2006−160726(P2006−160726A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−308258(P2005−308258)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】