説明

炭化製品の発熱抑制処理方法

【課題】石灰及びバインダを含むコーティング材で炭化製品を被覆し発熱抑制処理するに際し、バインダ及びバインダの調製及び貯蔵等のための要するコストを削減し得て炭化製品の発熱抑制処理を安価に行うことのできる発熱抑制処理方法を提供する。
【解決手段】下水処理場で有機物含有の生汚泥Aを脱水処理した後の脱水汚泥Cを乾燥処理し、乾燥汚泥を炭化炉Fで炭化処理して得た炭化製品を、石灰及びバインダを含むコーティング材で処理して、炭化製品をコーティング材で被覆し発熱抑制処理するに際し、下水処理場で生汚泥Aに加えられて汚泥粒子を凝集させ、フロック生成させる有機高分子凝集剤を貯蔵タンクDから分取してバインダとして用いるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有機物含有汚泥を炭化処理して得た炭化製品の発熱抑制処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭等から排出される有機物含有の排水は一般に下水処理場で活性汚泥法等により排水処理される。
この排水処理に伴って余剰の有機物含有の下水汚泥が発生するが、排水処理量の増加とともに下水汚泥の発生量も年々増加し、その処理処分が大きな問題となっている。
下水汚泥を処分するに際し、その下水汚泥には多量の水が含有されていてそのままでは処分できず、そこで減量化のために濃縮及び脱水処理したり、或いは更に焼却したり、溶融したりするなど様々な処理が現在施されている。
【0003】
しかしながら下水汚泥を焼却或いは溶融処理すると多量のエネルギーを消費し、処理コストが高いものとなる。
そこでエネルギー消費の少ない下水汚泥の処理の方法の一つとして、下水汚泥を乾留処理により炭化することが提案されている。
この炭化処理は、下水汚泥が固形物中に炭素分を45質量%程度含んでいることから、焼却,溶融処理のように汚泥中の炭素分を消費してしまうのでなく、汚泥を無酸素或いは低酸素状態で熱分解(炭化)することにより炭素分を残留させ、新しい組成を持つ炭化物(炭化製品)として生成させるものである。
【0004】
下水処理場では、図5に示しているように含水率99%程度の殆んどが水から成る生汚泥Aを脱水処理して脱水汚泥Cとするが、その際生汚泥Aをそのまま脱水機Bにかけることはできず、先ず生汚泥Aに有機高分子凝集剤を加えて汚泥粒子を凝集させ、フロック化させた上で、これを脱水機Bにかけ含水率80%程度の脱水汚泥Cとする。
詳しくは、予め所定濃度に調製してある貯蔵タンクD内の有機高分子凝集剤を貯蔵タンクDから取り出し、これを生汚泥Aに加えて凝集処理した上で脱水機Bにかけて脱水し、脱水汚泥Cとする。
【0005】
従来にあって、上記の炭化処理は先ずこの脱水汚泥Cを乾燥機E内部に投入して、そこで含水率40%程度まで乾燥する。
この乾燥処理では、汚泥の乾燥を行うとともに、これをその後の炭化処理に適した適正粒度、例えば10mm程度の大きさの団子状の粒とする造粒を併せて行う。
そしてこのようにして得た乾燥汚泥を炭化炉F内に投入し、これを炭化炉F内で乾留処理して汚泥を炭化製品とし、炭化炉Fから排出する。
【0006】
図6はこの炭化処理を行うための従来の炭化処理設備の具体的構成を示している。
図中200は熱風発生炉で、脱水汚泥Cを乾燥するための熱源となる熱風がここで発生せしめられる。
201は受入ホッパであり、含水率80%程度まで脱水された脱水汚泥Cが、この受入ホッパ201に先ず受け入れられる。
ここに受け入れられた脱水汚泥Cは、中継ホッパ202を経て定量供給装置204,搬送装置205により造粒機を兼ねた乾燥機Eへと送られ、ここで所定の含水率、具体的には40%程度の含水率まで乾燥処理されるとともに、粒径10mm程度の団子状の粒に造粒される。
【0007】
乾燥機Eは、図7に示しているように回転ドラム208の内部に撹拌軸210を有している。ここで撹拌軸210は、回転ドラム208の中心から偏心した位置に設けられている。
この撹拌軸210からは複数の撹拌羽根212が放射状に延び出している。
一方、回転ドラム208の内周面には、周方向に所定間隔で複数の板状のリフター214が回転ドラム208と一体回転する状態で設けられている。
その結果として、回転ドラム208内部の汚泥(脱水汚泥C)は回転ドラム208の回転に伴って、リフター214により底部から上方に持ち上げられ、そしてその頂部近くで自重により落下する。
落下した汚泥は、その下側に位置する撹拌羽根212の高速回転により細かく砕かれ、回転ドラム208の底部側へと落下する。
【0008】
回転ドラム208内部の汚泥はこのような撹拌作用を受けながら、図6の熱風発生炉200から乾燥機Eの内部に導かれた熱風に曝されて乾燥処理され、次第に水分が減少していく。
そしてこの回転ドラム208の傾斜勾配により、更には撹拌羽根212による破砕及びその際の飛散作用によって、汚泥が回転ドラム208内部を適正な粒度に造粒されながら軸方向に漸次送られて行く。
このようにして乾燥機Eで乾燥及び造粒処理された後の乾燥汚泥は、続いて搬送装置216,220により中継ホッパ218を経て炭化炉Fへと搬送され、そこで10mm程度の適正な粒度に造粒された含水率40%程度の団子状の乾燥汚泥が乾留処理により炭化される。
【0009】
この炭化炉Fは外熱式ロータリーキルン型のもので、この炭化炉Fには、図8にも示しているように炉体224の内部に乾留容器としての円筒形状のレトルト226が設けられており、前段の乾燥機Eで乾燥及び造粒処理された乾燥汚泥が、図示を省略するスクリューフィーダにてレトルト226内部に投入される。
【0010】
投入された乾燥汚泥は、先ず炉体224内部に配設された助燃バーナ(外熱室用バーナ)228による外熱室230内部の雰囲気加熱によって加熱される。
すると乾燥汚泥中に含まれていた可燃ガスが、レトルト226に設けられた吹出パイプ232を通じて外熱室230の雰囲気中に抜け出し、そしてこの可燃ガスが着火して以後はその可燃ガスの燃焼によりレトルト226内部の汚泥の加熱が行われる。
この段階で助燃バーナ228は燃焼停止される。
【0011】
図8に示しているように、炉体224の内部には外熱室230と仕切られた排ガス処理室234が設けられており、外熱室230からの排ガスはここに導かれる。
この排ガス処理室234には排ガス処理室用バーナ236が設けられており、排ガス処理室234内に導かれた排ガス中の未燃ガスが、この排ガス処理室用バーナ236にて2次燃焼される。
【0012】
レトルト226内部の汚泥は、図中左端からレトルト226の回転とともに図中右方向に移って行き(レトルト226には若干の勾配が設けてある)、そして最終的に乾留残渣(炭化製品)がレトルト226の図中右端の出口238、つまり炭化炉Fから排出される。
一方炭化炉Fから排出された排ガスは、図6に示しているように熱交換器を経て煙突から大気に放出される。
この種の汚泥の炭化処理設備は、例えば下記特許文献1,特許文献2に開示されている。
【0013】
以上のようにして得られた炭化製品は現在園芸用土壌,融雪剤等に利用されており、またその他にも様々な用途が検討されている。
その1つとして、かかる炭化製品を燃料として利用することが考えられている。
例えば下記特許文献3には、かかる炭化製品を燃料として用いる点が開示されている。
【0014】
ところで、炭化炉から排出された炭化製品は一旦貯蔵所に貯蔵されるが、この炭化製品は発熱性の成分を含んでおり、貯蔵中に或いは搬送中に炭化製品が自己発熱を起こして温度上昇し、場合によってその温度が一定温度を超えると燃焼に到ってしまう。
【0015】
特に炭化製品を燃料用として用いる場合には、通常は600℃を超える高温度で行われる炭化処理が、高カロリー成分を多く残留させるように600℃程度以下の低温度で行われ、このような低温度で炭化処理された炭化製品は特に発熱性が高く、上記の自己発熱、更にはその自己発熱に基づいて燃焼に到り易い性質を有している。
従って炭化製品の有効利用を図るためにはこうした自己発熱を抑制し、燃焼に到ってしまうのを未然に防止しておくことが必要である。
【0016】
そこで本発明者らは、有機物含有汚泥を脱水処理した後の脱水汚泥を乾燥機に通して乾燥処理し、乾燥汚泥を炭化炉に通して炭化処理して得た炭化製品を、石灰及び石灰を炭化製品の表面に定着させるバインダを含んだコーティング材で処理し、炭化製品をコーティング材で被覆する炭化製品の発熱抑制処理方法を案出し、先の特許願(特願2007−85937:未公開)において提案している。
【0017】
炭化炉から排出された炭化製品の自己発熱の現象は、炭化製品が空気中の酸素と接触して生ずる酸化反応、特に炭化製品の活性部位が空気中の酸素との接触により酸化反応することにより生ずるものである。
【0018】
しかるに上記の発熱抑制処理方法に従って炭化製品の表面をコーティング材で被覆処理した場合、炭化製品の表面と空気中の酸素との接触が絶たれて炭化製品の酸化反応、即ち自己発熱が効果的に抑制され、従ってその自己発熱に基づいて炭化製品が燃焼に到るのが有効に防止される。
【0019】
この発熱抑制処理方法において、コーティング材に含まれるバインダは石灰の粉末粒子を炭化製品の表面に定着させる働きをなすものである。
即ちこのようなバインダがコーティング材に含まれていないと、炭化製品の表面を被覆した石灰の粉末粒子がコーティング処理後に炭化製品から剥離し易い。
【0020】
しかるにコーティング材にバインダを含有させておくことで、そのバインダが石灰の粉末粒子を炭化製品の表面に定着させる働きをなし、コーティング処理後において石灰の粉末粒子が炭化製品の表面を被覆した状態に良好に保たれ、その後においても炭化製品の自己発熱が抑制される。
【0021】
この発熱抑制処理方法において、コーティング材に含まれる石灰は次のような意義を有している。
炭化製品の用途として、石炭火力発電所でこれを石炭燃料とともに燃焼させ発電する燃料としての用途が検討されている。
【0022】
この石炭燃料の燃焼による発電プロセスでは、石炭燃料中に微量に含まれている硫黄とか塩等が酸性ガスとなって排ガス中に含まれてくる。そのため燃焼工程の後段で排ガス中にCa剤を吹き込んで酸性ガスを中和し、有害成分を除去した上で排ガスを大気放出することが行われる。
【0023】
この場合において、上記発熱抑制処理方法では炭化製品表面に予めCa剤がコーティングされているため、後段で排ガス中に吹き込むCa剤の量を少なくすることができ、排ガスの排出径路上で吹き込まれるCa剤のための所要コストを低減できる効果が得られる。
【0024】
この先願発明では、バインダとしてポリビニルアルコール(PVA)を用いることを例示している。
しかしながらPVAは高価な薬剤であり、しかもバインダとしてPVAを用いる場合、PVA原液を貯留する設備、水に溶解して所定濃度の溶液とするための設備等が必要となり、それらに要する材料コストや設備コストによって、炭化製品の発熱抑制処理のためのコストが高くなってしまう問題が生ずる。
【0025】
尚、下記特許文献4には「下水汚泥を原料とする固形燃料の製造方法」についての発明が示され、そこにおいて、下水汚泥を炭化して得られた汚泥活性炭を乾燥汚泥に混合し固形燃料として用いる点、またそこに生石灰又は消石灰を添加しても良い点が開示されている。
しかしながらこの特許文献4に開示のものは乾燥汚泥を固形燃料として用いるもので、炭化後の汚泥活性炭は消臭剤として乾燥汚泥に加えられるものであり、また生石灰,消石灰も脱臭剤としてのもので、本発明とは異なったものである。
【0026】
【特許文献1】特開平11−37644号公報
【特許文献2】特開平11−33599号公報
【特許文献3】特開2000−80386号公報
【特許文献4】特開平11−323359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明は以上のような事情を背景とし、石灰及び石灰を炭化製品の表面に定着させるバインダを含むコーティング材で炭化製品を被覆し炭化製品を発熱抑制処理するに際し、バインダ及びバインダの調製及び貯蔵等のためのコストを削減し得て、炭化製品の発熱抑制処理を安価に行うことのできる発熱抑制処理方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
而して請求項1のものは、下水処理場で有機物含有の生汚泥を脱水処理した後の脱水汚泥を乾燥機に通して乾燥処理し、乾燥汚泥を炭化炉に通して炭化処理して得た炭化製品を、石灰と該石灰を該炭化製品の表面に定着させるバインダとを含むコーティング材で処理して、該炭化製品を該コーティング材で被覆し、発熱抑制処理するに際し、前記下水処理場において前記生汚泥を脱水機にかけて前記脱水汚泥とする際に該生汚泥に加えられて汚泥粒子を凝集させ、フロック生成させる有機高分子凝集剤を、該下水処理場に備えられている貯蔵タンクから分取して前記バインダとして用いることを特徴とする。
【0029】
請求項2のものは、請求項1において、前記有機高分子凝集剤を固形分質量で前記炭化製品の固形分質量1kgあたり0.1mg以上の量で用いることを特徴とする。
【0030】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、前記有機高分子凝集剤を濃度0.2%以下の溶液状態で用いることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0031】
以上のように本発明は、下水処理場で生汚泥を脱水処理した後の脱水汚泥を乾燥及び炭化処理して得た炭化製品に対し、石灰及びこれを炭化製品の表面に定着させるバインダを含むコーティング材で処理して、炭化製品をコーティング材で被覆し発熱抑制処理するに際し、もともと下水処理場で生汚泥の汚泥粒子を凝集させるために用いられている有機高分子凝集剤を、その貯蔵タンクから分取して上記のバインダとして用いるようになしたものである。
【0032】
下水処理場で生汚泥の汚泥粒子を凝集させるために用いられている有機高分子凝集剤は、高分子量の長い鎖状の分子構造を持った有機物質であって、その高分子量に基づいて汚泥粒子を架橋し、凝集反応させてフロックを生成するもので、その高分子量に起因して溶液(水溶液)状態で粘性の高い物質である。
【0033】
本発明者らはこの点に着眼し、かかる有機高分子凝集剤を上記の発熱抑制処理の際のバインダとして用いたところ、この有機高分子凝集剤がバインダとしての機能を十分に発揮することを確認した。
本発明はこのような知見に基づいてなされたものである。
【0034】
本発明では、もともと下水処理場で汚泥粒子の凝集のために用いられている有機高分子凝集剤を、その貯蔵タンクから分取してバインダとして用いることから、例えば上記のようなPVAをバインダとして用いる場合のように、専用の貯蔵設備や溶解設備等を不要となすことができ、更に専用のバインダを調製するための特別の工程も不要となすことができ、炭化製品を発熱抑制処理するためのコストを安価となすことができる。
【0035】
尚、有機高分子凝集剤としては一般にポリアクリルアミド系のものが多く用いられており、本発明ではこのような有機高分子凝集剤を用いることが可能であるが、特に下水処理場で汚泥の凝集用に用いられているものは、汚泥粒子がマイナス帯電しているケースが多いことから、カチオン系有機高分子凝集剤が用いられることが多い。とりわけポリアクリル酸エステル系の有機高分子凝集剤が用いられることが多い。
従って本発明でバインダとして用いる有機高分子凝集剤は、このカチオン系且つポリアクリル酸エステル系の有機高分子凝集剤の使用が主となる。
【0036】
本発明は、汚泥凝集用に用いる有機高分子凝集剤を貯蔵タンクから分取してコーティング材のバインダとして用いるものであり、そのことによって、バインダ調製のための専用の貯蔵設備や溶解設備等を不要となし得るものである。
但し本発明では、貯蔵タンクに貯蔵されている有機高分子凝集剤を貯蔵状態の濃度でのみ用いるものではなく、適宜水を加えて希釈した濃度で用いるようになすこともできる。
【0037】
但しその際、有機高分子凝集剤を固形分質量で炭化製品の固形分質量1kgあたり0.1mg以上の量で用いることが望ましい(請求項2)。
これよりも有機高分子凝集剤の量が少ないとバインダとしての働きを有効に発揮させることが難しい。
【0038】
一方でその濃度としては、0.2%を上限としてこれ以下の濃度の溶液(水溶液)状態で用いるのが望ましい(請求項3)。
下水処理場で汚泥凝集用として用いられる有機高分子凝集剤は0.2%以下の濃度で一般に用いられており、この有機高分子凝集剤をバインダとして用いる本発明にあっては、これよりも高い濃度で用いようとすると、高分子凝集剤を添加するための設備が必要となって望ましくない。
そこで本発明では汚泥凝集用として用いる際の濃度である0.2%を上限として、これ以下の濃度(但し好ましくは0.005%以上の濃度)の溶液状態で有機高分子凝集剤をバインダとして用いることが望ましい。
尚、有機高分子凝集剤をバインダとして用いる際の粘度については種々の粘度が可能であるが、10〜300mPa・sの粘度状態でこれを用いるのが好適である。
【0039】
またコーティング材としては、炭化製品固形分を基準として質量%で5%以上の生石灰を含んだものを用いることが望ましい。
或いは石灰として消石灰を用いる場合には、炭化製品固形分を基準として質量%で2%以上の消石灰を含んだものを用いることが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
次に本発明の実施形態を以下に詳しく説明する。
図1において、Dは下水処理場に設置されている高分子凝集剤の貯蔵タンクで、そこに有機高分子凝集剤が所定濃度の溶液(水溶液)状態で貯蔵され、内部の有機高分子凝集剤が生汚泥Aに添加される。
【0041】
詳しくは下水処理場において、含水率99%程度の生汚泥Aに貯蔵タンクD内の有機高分子凝集剤が添加されることで、生汚泥粒子が凝集しフロック化される。そしてその後において生汚泥Aが脱水機Bにかけられて脱水処理され、含水率80%程度の脱水汚泥Cとなる。
この間の処理の工程は図5に基づいて先に説明したのと同様である。
脱水汚泥Cは、続いて乾燥機Eにて乾燥処理され、そして乾燥汚泥が炭化炉Fに供給されて、そこで炭化処理される。
この間の処理の内容も基本的に上記したのと同様である。
【0042】
この実施形態では、炭化炉Fから排出された炭化製品を、図2にも示しているように冷却器Gで冷却し、その後にコーティング処理装置Hにて炭化製品表面をコーティング材でコーティング処理する。
詳しくは、冷却器Gによる冷却後の炭化製品に、石灰ホッパ12に収容した石灰(消石灰又は生石灰)及びバインダの添加混合機14にて溶液状態のバインダを添加し、パドルミキサ式の混練機16により全体を混合する。
【0043】
このとき、図1に示しているように下水処理場に設置されている貯蔵タンクD内の有機高分子凝集剤、つまり下水処理場で生汚泥Aの凝集処理用に用いられている有機高分子凝集剤を貯蔵タンクDから分取し、これをバインダとして添加混合機14にて炭化製品に添加して混合し、炭化製品表面をコーティング処理する。
【0044】
尚、貯蔵タンクDに貯蔵されている有機高分子凝集剤は予め所定濃度に調製された溶液(水溶液)状態のものであるため、これをそのまま、即ち特に水を加えて希釈することなく添加混合機14にて添加することが可能である。
但し必要に応じて更に水を加えて希釈し、濃度を落した上で添加混合することも可能である。
【0045】
このようにしてコーティング材にて被覆処理された炭化製品は続いて添加混合機14から排出され、石炭火力発電所での燃料用途として好適に使用される。
【実施例】
【0046】
<実施例1>
炭化炉Fで400℃以下の低温で炭化処理されて炭化炉Fから排出された、表1に示す化学組成の炭化製品500g(固形分質量)に対し、表2に示しているように消石灰とバインダから成るコーティング材を水とともに加えてそれらを混合し、炭化製品の表面をコーティング材で被覆処理し、その後に炭化製品の自己発熱試験を行って発熱性を調べた。
尚表1では、炭化製品の化学組成と併せて、下水汚泥を脱水機にかけて脱水した後の脱水汚泥(含水率は約80%)の化学組成も併せて示している。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
ここではバインダとして下水処理場(A市場化センター)で用いられている有機高分子凝集剤を用いた。また比較のためにPVAをバインダとして用いたものについても試験を行った。
この実施形態において、有機高分子凝集剤はポリアクリル酸エステル系(イオン性:カチオン)のもので、試験はダイヤニトリックス(株)社製のダイヤフロック(商品名)を用いた。
またポリビニルアルコール(PVA)として、中部サイデン(株)社製のパンスターPX25(商品名)を用いた。
尚有機高分子凝集剤,PVAのそれぞれは表3に示す溶解濃度のものを用いた。それぞれについての粘度が表3に併せて示してある。
【0050】
【表3】

【0051】
表2に示しているように、この実施例では炭化製品500gに対し質量基準で消石灰を5%の量で用い、またバインダをそれぞれ2%の量で用いた。
また最終的に試料含水率が15%となるように、有機高分子凝集剤を用いたものについては82.6gの水を加え、またPVAを用いたものについては82.6gの水を加えている。
尚、炭化製品の粒子の平均粒径3mmに対し、消石灰粉末の平均粒径は0.01mmで、消石灰の粉末粒子は炭化製品の粒子に対し十分微細なものである。
【0052】
自己発熱試験は国連勧告バケット法に準じ、図3に示しているように空気循環式の恒温槽20の内部に、試料を入れたステンレス製網かご22をセットし、そしてその試料の中心部に熱電対24を挿入し、恒温槽20の内部を105℃まで昇温してその温度に保持し、このときの試料の温度変化を追跡することにより行った。
その結果が図4に示してある。
【0053】
図4に示しているように、コーティング処理していないもの(図中b)は自己発熱を起し、恒温槽の設定温度である105℃を超えて大きく温度上昇し、燃焼に到ったのに対し、消石灰5%及びバインダとして有機高分子凝集剤を含むコーティング材でコーティング処理したもの(図中d)、更に消石灰5%及びバインダとしてのPVAを含むコーティング材でコーティング処理したもの(図中c)については効果的に自己発熱が抑制され、最終的に恒温槽の温度である105℃に温度収束した。
尚図4には、恒温槽内の温度も併せて示してある(図中a)。
【0054】
この図4の結果から、バインダとして下水処理場で用いられている有機高分子凝集剤を用いたものについても、バインダとしてPVAを用いたものとほぼ同等の効果を奏することが見て取れる。
【0055】
<実施例2>
次にバインダとして上記の有機高分子凝集剤を用いるに際し、溶解濃度と添加量との影響を調べるべく、表4に示しているように水500gに対する有機高分子凝集剤の添加量を種々変化させて、表4に示す様々な濃度のバインダ溶液を調製した。
このときの溶液の粘度は、表5に示した通りである。
尚、粘度測定は回転粘度計(B型粘度計)を用いて行った。
詳しくは、バインダ溶液の温度を20℃、ロータ回転数を60rpmとし、試料中のロータを一定速度で回転させ、ロータにかかる粘性トルクを測定した。
【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
次に、表6に示しているように炭化製品500gに対し消石灰25g(添加率5%)及び種々の量の有機高分子凝集剤から成るバインダを水とともに添加して炭化製品表面をコーティング処理し、自己発熱試験を行った。
【0059】
尚、表6において例えば有機高分子凝集剤を1.0g(添加率0.2%)加えるに際し、表7に示すように様々な溶解濃度のものを用いた。
また同様に有機高分子凝集剤2.5g(添加率0.5%)を加えるに際し、表7に示すような種々の溶解濃度のものを用いて行った。
添加量5.0g(添加率1.0%),10.0g(添加率2.0%)についても同様である。
【0060】
【表6】

【0061】
そして表7に示す様々なバインダ添加率,バインダ溶解濃度の下でバインダ添加したものについて自己発熱試験を行ったところ、結果は表7に示す通りであった。
尚表7のおいて各添加量,各溶解濃度の下での結果の数値は、自己発熱試験における昇温温度(℃)を表している。
ここでも自己発熱評価は上記の国連勧告バケット法に基づいて行った。このときの恒温槽の温度は105℃で、評価は48時間後までの経過時間での昇温温度を測定することにより行った。
【0062】
【表7】

【0063】
以上の結果から、バインダ溶解濃度0.005%,バインダ添加率0.2%の下でも昇温温度が6.5℃と低く、十分な効果を発揮することが分る。
尚、バインダ溶解濃度0.005%,バインダ添加率0.2%におけるバインダの添加量は0.1「mg−バインダ/kg−炭化製品」である。
【0064】
以上本発明の実施形態,実施例を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態の発熱抑制処理方法の工程の概略を炭化処理の工程の概略とともに示した図である。
【図2】図1の要部工程を示した図である。
【図3】自己発熱試験の説明図である。
【図4】自己発熱試験の結果を示した図である。
【図5】従来の汚泥の炭化処理方法の工程の一例を示した図である。
【図6】図5の要部工程を詳しく示した図である。
【図7】図6における乾燥機の構成を示す図である。
【図8】図6における炭化炉を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
A 生汚泥
B 脱水機
C 脱水汚泥
D 貯蔵タンク
E 乾燥機
F 炭化炉
H コーティング処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水処理場で有機物含有の生汚泥を脱水処理した後の脱水汚泥を乾燥機に通して乾燥処理し、乾燥汚泥を炭化炉に通して炭化処理して得た炭化製品を、石灰と該石灰を該炭化製品の表面に定着させるバインダとを含むコーティング材で処理して、該炭化製品を該コーティング材で被覆し、発熱抑制処理するに際し、前記下水処理場において前記生汚泥を脱水機にかけて前記脱水汚泥とする際に該生汚泥に加えられて汚泥粒子を凝集させ、フロック生成させる有機高分子凝集剤を、該下水処理場に備えられている貯蔵タンクから分取して前記バインダとして用いることを特徴とする炭化製品の発熱抑制処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記有機高分子凝集剤を固形分質量で前記炭化製品の固形分質量1kgあたり0.1mg以上の量で用いることを特徴とする炭化製品の発熱抑制処理方法。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、前記有機高分子凝集剤を濃度0.2%以下の溶液状態で用いることを特徴とする炭化製品の発熱抑制処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−13491(P2010−13491A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−171808(P2008−171808)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】