説明

炭水化物の熱分解方法

本発明は、高められた温度で、ケイ素酸化物の添加下での、炭水化物または炭水化物混合物の工業的な熱分解のための方法、それにより得られる熱分解生成物、および高温でのケイ酸および炭素からのソーラーシリコン製造の際の還元剤としてのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭水化物、殊に糖の熱分解のための工業的な方法、それにより得られる熱分解生成物、および高温でのケイ酸および炭素からのソーラーシリコンの製造の際の還元剤としてのその使用に関する。
【0002】
炭水化物、例えば単糖、オリゴ糖、および多糖をガスクロマトグラフィーにおいて熱分解することが公知である。
【0003】
US5882726号は、炭素−炭素−組成物の製造方法を開示しており、そこでは、低溶融糖の熱分解が実施されている。
【0004】
GB733376号から、糖の溶液の精製のための、並びに300ないし400℃での熱分解のための方法が得られる。
【0005】
同様に、電子伝導物質を生産するために、高温の際の糖を熱分解することが公知である(WO2005/051840号)。
【0006】
大工業の炭水化物の熱分解の際、カラメル化および発泡によって問題が生じることがあり、それはプロセスの運転およびプロセスシーケンスを著しく邪魔することがある。
【0007】
さらに、純粋なケイ素の製造の際に、わずかな割合の不純物を有する還元剤として(US4294811号、WO2007/106860号)、または結合剤として(US4247528号)、とりわけ糖を使用することも公知である。
【0008】
本発明は、発泡が回避される、炭水化物、殊に糖の熱分解方法を提供するという課題に基づいている。
【0009】
この課題は、本発明によれば、特許請求の範囲内の記述に相応して解決される。
【0010】
従って、驚くべきことに、ケイ素酸化物、好ましくはSiO2、殊に沈降ケイ酸および/または熱分解法ケイ酸の添加によって、発泡作用を抑制できることが見出された。従って、炭水化物の熱分解のための産業的なプロセスを単純且つ経済的に、今や、邪魔な発泡もなく、行うことができる。さらにまた、本発明による方法の実施の際、カラメル形成ももはや観察されなかった。
【0011】
さらにまた、好ましい実施態様において有利にも、例えば1600℃の熱分解温度を約700℃に下げることができ、そこで特にエネルギーが節約される(低温運転方式)。従って、本発明による方法は有利には400℃より高い温度、特に好ましくは400ないし700℃、および非常に特に好ましくは400ないし600℃で行われる。この方法は、極めてエネルギー効率的であり、それに加えてカラメル形成が低減され、且つ、ガス状の反応生成物の取り扱いを簡単にするという長所を有する。同様に好ましくは、反応を800〜1600℃の間、特に好ましくは900〜1500℃の間、殊に1000〜1400℃で実施し、その際、有利にはグラファイト含有熱分解生成物が得られる。グラファイト含有熱分解生成物が好ましい場合、1300〜1500℃の熱分解温度を狙うべきである。本方法を、有利には保護ガスおよび/または減圧(真空)下で行う。従って、本発明による方法を有利には1mbar〜1bar(周囲圧力)、殊に1〜10mbarの圧力で実施する。適切には、使用される熱分解装置を熱分解の開始前に乾燥させ、且つ、不活性ガス、例えば窒素またはArまたはHeを用いた洗浄によって、実質的に酸素なく洗浄する。本発明による方法の際の熱分解の持続時間は、通常、前記の熱分解温度で1分〜48時間の間、好ましくは1/4時間〜18時間の間、殊に1/2〜12時間の間であり、その際、所望の熱分解温度を達するまでの加熱時間は、同じオーダーで追加的に、殊に1/4時間〜8時間の間であってよい。本方法を、通常、バッチ式で行ってよいが、それを連続的に行ってもよい。
【0012】
本発明によって得られるCに基づく熱分解生成物は、殊にグラファイト部分を有する石炭、およびケイ酸、および他の炭素形態、例えばコークスの任意の部分を含有し、且つ特に不純物、例えばB−、P−、As−、およびAl−化合物が少ない。従って、本発明による熱分解生成物を、有利には、高温でのケイ酸からのソーラーシリコンの製造の際の還元剤として使用できる。殊に、本発明によるグラファイト含有熱分解生成物を、その伝導特性に基づき、アーク反応器内で使用できる。
【0013】
それ故、本発明の対象は、高められた温度で、ケイ素酸化物の添加下での、炭水化物または炭水化物混合物の、工業的な、即ち、産業的な熱分解のための方法である。
【0014】
炭水化物成分として、本発明による方法の際、好ましくは単糖、即ちアルドースまたはケトース、例えばトリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトース、特にグルコース並びにフルクトースを使用するが、しかしさらに、相応する前記のモノマーに基づくオリゴ糖および多糖、例えばラクトース、マルトース、サッカロース、ラフィノース(いくつかまたはその誘導体しか挙げていない)、アミロースおよびアミロペクチンを含むデンプン、グリコーゲン、グリコサンおよびフルクトサンまで(いくつかの多糖しか挙げていない)を使用する。
【0015】
場合によっては、上記で挙げられた炭水化物を、イオン交換体の使用下での処理によってさらに精製でき、その際、炭水化物を適した溶剤、有利には水中で溶解し、イオン交換樹脂、好ましくはアニオン性樹脂またはカチオン性樹脂を充填されたカラムを介してみちびき、生じる溶液を、例えば、加熱によって溶剤部分を(殊に減圧下で)除去することによって濃度を上げ、且つ、そのように精製された炭水化物を、例えば溶液を冷却し、且つ引き続き、とりわけろ過または遠心分離によって結晶性部分を分離することによって、有利には結晶質で得る。
【0016】
しかし、上記で挙げられた炭水化物の少なくとも2つからの混合物も、炭水化物もしくは炭水化物成分として、本発明による方法の際に使用できる。特に、本発明による方法の際、経済的な量で使用可能な結晶糖、例えばサトウキビまたは甜菜からの溶液もしくは果汁の結晶化によって自体公知の方法で得ることができる糖、即ち、市販の結晶糖、例えば精製糖、好ましくは物質固有の融点/軟化範囲並びに平均粒径1μm〜10cm、特に好ましくは10μm〜1cm、殊に100μm〜0.5cmを有する結晶糖が好ましい。粒径の測定は、例えば(限定されずに)、ふるい分析、TEM、SEMまたは光学顕微鏡によって行うことができる。しかし、炭水化物を溶解した形態、例えば(限定されずに)、水溶液で使用することもでき、その際、溶剤は本来の熱分解温度に達する前に、もちろん多かれ少なかれ迅速に蒸発する。
【0017】
ケイ素酸化物成分として、本発明による方法の際、好ましくはSiOx(x=0.5ないし1.5)、SiO、SiO2、ケイ素酸化物(水和物)、水性または含水SiO2を、熱分解ケイ酸または沈降ケイ酸の形態で、湿らせ、乾燥させ、または焼結させて、例えばAerosil(登録商標)またはSipernat(登録商標)、またはケイ酸ゾルもしくはケイ酸ゲル、多孔質または緻密なケイ酸ガラス、珪砂、石英ガラス繊維、例えば光ファイバー、石英ガラス球、または上記で挙げられた成分の少なくとも2つからの混合物を使用する。
【0018】
好ましくは、本発明による方法の際、0.1〜600m2/g、特に好ましくは10〜500m2/g、殊に100〜200m2/gの内部表面積を有するケイ酸を使用する。内部表面積もしくは比表面積の測定は、例えばBET法に従って行うことができる(DIN ISO 9277)。
【0019】
好ましくは、平均粒径10nmから1mm、殊に1〜500ミクロンを有するケイ酸を使用する。ここでも、粒径の測定を、とりわけTEM(透過型電子顕微鏡)、SEM(走査型電子顕微鏡)または光学顕微鏡によって行うことができる。
【0020】
本発明による方法の際に使用されるケイ酸は、有利には高い(99%)ないしは極めて高い(99.9999%)純度を有し、その際、不純物、例えばB−、P−、As−並びにAl−化合物の含有率は、全体として有利には≦10質量ppm、殊に≦1質量ppmであるべきである。不純物の測定を、例えば(限定されずに)ICP−MS/OES(誘導結合分析−質量分析/光学電子顕微鏡分析法)並びにAAS(原子吸光分析法)によって行うことができる。
【0021】
従って、本発明による方法の際、炭水化物を脱泡剤、即ち、SiO2として計算されたケイ素酸化物成分に対して、質量比1000:0.1〜0.1:1000で使用できる。好ましくは、炭水化物成分対ケイ素酸化物成分の質量比を、800:0.4ないし1:1、特に好ましくは500:1ないし100:13、非常に特に好ましくは250:1ないし100:7に調節できる。
【0022】
本発明による方法の実施のための装置として、例えば誘導加熱される真空反応器を使用でき、その際、該反応器はステンレス鋼で仕上げられていてよく、並びに、反応に関しては、適した不活性物質、例えば高純度SiC、Si33、高純度石英ならびにケイ酸ガラス、高純度の炭素もしくはグラファイト、セラミックで被覆または裏張りされている。しかし、他の適した反応容器、例えば、相応する反応るつぼもしくは反応槽を収容するための真空チャンバーを有する誘導炉も使用できる。
【0023】
一般的に、本発明による方法を以下の通りに行う:
反応器内部並びに反応容器を適切に乾燥させて(例えば室温〜300℃の間の温度に加熱されていてもよい)不活性ガスで洗浄する。引き続き、熱分解される炭水化物もしくは炭水化物混合物を、脱泡剤成分としてのケイ素酸化物と共に、熱分解装置の反応室もしくは反応容器に充填する。予めこの装入物を完全に混合し、減圧下で脱気し、且つ、保護ガス下で準備された反応器内に移送してよい。その際、反応器は既にわずかに加熱されていてよい。引き続き、温度を所望の熱分解温度へと連続的または段階的に移行させ、且つ、圧力を下げて、反応混合物から出るガス状の分解生成物を可能な限り迅速に排出できるようにしてよい。その際、殊にケイ素酸化物の添加によって有利にも、反応混合物の発泡が極めて大幅に回避される。熱分解反応の終了後、熱分解生成物をしばらく、有利には1000ないし1500℃の範囲の温度で熱的な後処理をしてよい。
【0024】
通常、高純度の炭素を含有する、熱分解生成物もしくは組成物がそのように得られる。特に有利には、本発明による方法の生成物を、ケイ酸もしくは高純度ケイ酸からのソーラーシリコン製造のための還元剤として使用できる。そのために、本発明による熱分解生成物を、さらなる成分、例えば純粋または高純度のSiO2、活性剤、例えばSiC、結合剤、例えばオルガノシラン、オルガノシロキサン、炭水化物、シリカゲル、天然または合成樹脂、並びに高純度の加工助剤、例えば圧縮助剤、タブレット化助剤、または押し出し助剤、例えばグラファイトの添加下で、例えば造粒、ペレット化、タブレット化、押し出しによって、定義された形態にできる(いくつかの例しか挙げていない)。
【0025】
従って本発明の対象は、本発明による方法から得られる組成物もしくは熱分解生成物である。
【0026】
それ故、同様に、本発明の対象は、炭素対ケイ素酸化物(二酸化ケイ素として計算)の含有率が400対0.1〜0.4対1000、好ましくは400:0.4〜4:10; 特に好ましくは400:2〜4:1.3; 殊に400:4〜40:7である熱分解生成物である。
【0027】
殊に、本発明による方法の直接的な方法の生成物は、その高い純度および多結晶シリコン、殊に光起電設備ソーラーシリコンの製造について、さらに医学用途についての有用性を特徴とする。
【0028】
かかる本発明による組成物(略して熱分解物もしくは熱分解生成物とも称される)を特に有利に、殊にアーク炉内での高温でのSiO2還元によるソーラーシリコンの製造の際の装入物として使用できる。従って、本発明による直接的な方法の生成物を、単純且つ経済的に、C−含有還元剤として、例えばUS4247528号、US4460556号、US4294811号、並びにWO2007/106860号から得られる方法において使用できる。
【0029】
本発明の対象はさらに、比較的高温で、殊にアーク炉内でのSiO2の還元によるソーラーシリコン製造の際の装入物としての、本発明による組成物(熱分解生成物)の使用である。
【0030】
本発明を以下の実施例並びに比較例によって、本発明の対象を限定することなく、より詳細に説明し、且つ、具体的に示す。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】比較例および実施例の図である。
【図2】実施例1からの熱分解生成物の電子顕微鏡写真を示す図である。
【0032】
実施例:
比較例1
市販の精製糖を、保護ガス下、石英ガラス容器中で融解し、引き続き、約1600℃に加熱した。その際、該反応混合物は激しく泡立ち、部分的に漏出し、同様に、カラメル形成が観察され、且つ、熱分解生成物が反応容器の壁にこびりついたままであった(図1a)参照)。
【0033】
実施例1
市販の精製糖をSiO2(Sipernat(登録商標)100)と共に、質量比20:1(糖:SiO2)で混合し、融解し、且つ、約800℃に加熱した。その際、カラメル形成は観察されず、さらに発泡も生じなかった。グラファイト含有の、粒子形態の熱分解生成物が得られ、それは有利にも本質的に反応容器の壁に捕らえられていなかった(図1b)並びに図2(実施例1からの熱分解生成物の電子顕微鏡写真)参照)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素酸化物の添加下での、高められた温度での炭水化物または炭水化物混合物の工業的な熱分解のための方法。
【請求項2】
ケイ素酸化物として、少なくとも1つの二酸化ケイ素の形態、殊に高純度ないしは極めて高純度の熱分解ケイ酸または沈降ケイ酸を使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
炭水化物成分として、少なくとも1つの結晶糖を使用することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
炭水化物およびケイ素酸化物(それぞれ合計で計算)を、質量比1000対0.1〜0.1対1000で使用することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
熱分解を、反応器内で、酸素除外下で実施することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
熱分解を、400〜700℃の間の温度で実施することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
または700℃より上で、熱分解を1mbar〜1barの間の圧力で、不活性ガス雰囲気中で実施することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法によって得られる組成物(熱分解生成物)。
【請求項9】
炭素対ケイ素酸化物(二酸化ケイ素として計算)の含有率が400対0.1〜0.4:1000である熱分解生成物。
【請求項10】
請求項8または9に記載の組成物(熱分解生成物)、または請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法によって製造されるもしくは得られる組成物(熱分解生成物)の、比較的高い温度での、殊にアーク炉内でのSiO2の還元によるソーラーシリコンの製造の際の装入物としての使用。
【請求項11】
炭水化物、好ましくはイオン交換体カラムによって精製された炭水化物と、ケイ素酸化物、好ましくはB−、P−、As−並びにAl化合物の含有率が合計で≦10質量ppmである高純度ケイ素酸化物とからの混合物を、400〜700℃の温度で熱分解し、且つ、熱分解生成物を引き続き高純度ケイ素の製造のために使用することを特徴とする、シリコン、好ましくはソーラーシリコンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−504089(P2012−504089A)
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−528352(P2011−528352)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【国際出願番号】PCT/EP2009/062497
【国際公開番号】WO2010/037699
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】