説明

炭素材料及びその製造方法

【課題】極めて短時間で緻密な炭素材料が得られるというSPS法の利点を十分に発揮しつつ、硬さと物性値の向上を図ることができる炭素材料及びその製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】型内に炭素骨材及びバインダーを混合した混合粉を充填する第1ステップと、上記混合粉を加圧しつつ、放電プラズマ焼結法にて焼結する第2ステップと、により作製される炭素材料であって、ショア硬さのHSD値が60以上で、熱膨張率の異方比、電気抵抗率の異方比、又は熱伝導率の異方比が1.5以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料及びその製造方法に関し、特に、SPS(放電プラズマシンタリング)法を用いた炭素材料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、高密度で高強度な炭素材料(黒鉛材料)は、放電加工用電極、半導体製造装置用部品、イオン注入装置用部品、連続鋳造部材、ヒートシンク、熱交換器等に用いられている。このような炭素材料としては、原料であるグラファイトを一次粉砕した後、バインダーを添加して混練し、更に二次粉砕した後、型押成形等により成形した成形品を一次焼成(例えば、900℃で1ヶ月間)する。次いで、当該一次焼成品にピッチ含浸を行った後、二次焼成(例えば、700℃で約2週間)し、最後に黒鉛化処理(例えば、アチェソン炉にて2800℃以上の温度で約2ヶ月間)を行うことによって作製していた。更に、かさ密度が2.0Mg/m以上の炭素材料を作製するには、上記黒鉛化処理を終了した後に、再度、ピッチ含浸工程、二次焼成工程、及び、黒鉛化処理工程を繰り返す必要があった(下記特許文献1〜3参照)。
【0003】
しかしながら、上記炭素材料の製造方法では、詰粉に詰めて焼結工程を行わなければならず、しかも、高密度にするにはピッチ含浸工程を経ることが必須となるため、製造工程が煩雑になる。また、上記炭素材料の製造方法のうち、黒鉛化処理工程を1回しか行わない製造方法(かさ密度が2.0Mg/m未満の炭素材料を製造する方法)でも、炭素材料の製造には約6ヶ月の期間を要し、黒鉛化処理工程を2回行う製造方法(かさ密度が2.0Mg/m以上の炭素材料を製造する方法)では、更に数ヶ月の期間を要する。したがって、炭素材料の生産コストが高騰する。加えて、炭素材料は金属等の他の材料と組合して使用するが、上記炭素材料では熱膨張率が小さいため、炭素材料と金属等とを接合した場合には接合部分で応力が発生し、当該部分で剥離が生じ易いという課題がある。特に、かさ密度が高い炭素材料は熱膨張率が小さくなって、上記課題が発生し易い。更に、従来の製造方法では、かさ密度のコントロールが困難という課題もある。また、黒鉛化には2800℃以上の高温で、長時間の焼成が必要であるため、エネルギー消費が多くなる。
【0004】
加えて、炭素材料の物性値を所望の範囲内とするには、通常、炭素骨材に対するバインダー量を40重量部以上に規制する必要があった。ところが、焼成工程ではバインダーの50%程度が揮発するので、焼成時間が長くなるだけではなく、揮発成分の焼却処理を行う大きな処理炉を設ける必要がある。また、揮発成分が多いため焼成が難しく、炭素材料を特殊な形状に作製するのが困難という課題もある。
【0005】
このようなことを考慮して、天然黒鉛粉末を原料として、放電プラズマ焼結法(Spark Plasma Sintering Method、以下SPS法と称することがある)という材料調製技術を用いる方法が提案されている。そして、この技術を用いれば、極めて短時間で緻密な炭素材料が得られる旨、記載されている(下記非特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−007436号公報
【特許文献2】特開2006−179140号公報
【特許文献3】特開2008−303108号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of the Material Science of Japan,40(2003)47〜51
【非特許文献2】Letters to the editor/Carbon38(2000)1879−1902
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、出発原料として黒鉛粉末のみを用いたSPS法では、製造された炭素材料物性値が低く、特に硬さが低いという課題を有していた。
【0009】
そこで本発明は、極めて短時間で緻密な炭素材料が得られるというSPS法の利点を十分に発揮しつつ、高い硬さと優れた物性値を有する炭素材料及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するために、ショア硬さのHSD値が60以上で、熱膨張率の異方比が1.5以上であることを特徴とする。
上記構成の如くショア硬さのHSD値(硬さ)が60以上であれば、多くの汎用製品に炭素材料を適用することができる。このように、ショア硬さのHSD値を規制するのは、当該値が60未満になると、針のような先端の尖ったものと接触すると容易に削れるほど脆くなるからである。
加えて、炭素材料と他材料とを接合する場合には、炭素材料と他材料との熱膨張率(CTE)が大きく異なると、接合部において剥離が生じるという問題がある。しかしながら、上記構成の如く、熱膨張率の異方比が1.5以上であれば、少なくとも1方向で他材料との熱膨張率が近くなるので、当該方向には大きな応力(接合面において両者を剥そうとする力)が加わるのを防止できる。この結果、接合面において、他材料から炭素材料が剥れるのを抑制できる。
尚、このように熱膨張率の異方比が高い材料は従来になく、例えば一般的に用いられている等方性炭素材料では、熱膨張率の異方比が約1.00〜1.05程度であり、また、押し出し炭素材料でも、約1.2〜1.3程度である。また、上記作用効果を考慮すれば、熱膨張率の異方比は、2.0以上であることが特に好ましく、2.5以上であることがより一層好ましい。更に、硬さ面では、上記ショア硬さのHSD値は70以上であることが、一層好ましい。
【0011】
ここで、本明細書において、上記熱膨張率の異方比とは、当該材料における方向に依存した熱膨張率の比である。本発明の炭素材料は後述の如く炭素骨材及びバインダーを混合した混合粉を加圧しつつ、SPS法により作製する。この場合、加圧方向と垂直な方向の熱膨張率を熱膨張率Aとし、加圧方向と平行な方向の熱膨張率を熱膨張率Bとしたときに、熱膨張率B/熱膨張率Aを熱膨張率の異方比としている。
【0012】
上記構成において、電気抵抗率の異方比が1.5以上であることが望ましく、また、熱伝導率の異方比が1.5以上であることが望ましい。
これらの理由については下記に述べる。
【0013】
また、本発明は上記目的を達成するために、ショア硬さのHSD値が60以上で、電気抵抗率の異方比が1.5以上であることを特徴とする。
上記構成の如くショア硬さのHSD値が60以上であれば、多くの汎用製品に炭素材料を適用することができる。加えて、電気抵抗率の異方比が1.5以上であれば、例えば、ある方向に多くの電流を流し、これと垂直な方向には少ない電流を流したい場合に対応することができる。
尚、このように電気抵抗率の異方比が高い材料は従来になく、例えば、等方性炭素材料では、電気抵抗率の異方比が約1.00〜1.05程度であり、また、押し出し炭素材料では、約1.2〜1.3程度である。また、上記作用効果を考慮すれば、電気抵抗率の異方比は、1.7以上であることが特に好ましく、1.8以上であることがより一層好ましい。更に、硬さ面では、ショア硬さのHSD値は70以上であることが一層好ましい。
【0014】
ここで、本明細書において、上記電気抵抗率の異方比とは、当該材料における方向に依存した電気抵抗率の比である。本発明の炭素材料は後述の如く炭素骨材及びバインダーを混合した混合粉を加圧しつつ、SPS法により作製する。この場合、加圧方向と垂直な方向の電気抵抗率を電気抵抗率Cとし、加圧方向と平行な方向の電気抵抗率を電気抵抗率Dとしたときに、電気抵抗率D/電気抵抗率Cを電気抵抗率の異方比としている。
【0015】
上記構成において、熱伝導率の異方比が1.5以上であることが望ましい。
これらの理由については下記に述べる。
【0016】
また、本発明は上記目的を達成するために、ショア硬さのHSD値が60以上で、熱伝導率の異方比が1.5以上であることを特徴とする。
上記構成の如くショア硬さのHSD値が60以上であれば、多くの汎用製品に炭素材料を適用することができる。加えて、熱伝導率の異方比が1.5以上であれば、例えば、炭素材料を放熱部材として使用する一方、発熱部材として、発熱部分以外に熱を伝えるのを抑制したい場合に、発熱部材と接する面と平行な面は熱伝導率が低く、発熱部材と接する面と垂直方向には熱伝導率が高くなるように放熱部材を配置すると、発熱部材における発熱部分以外への熱伝導を抑制することが可能となる。即ち、炭素材料をこのようにして用いると、発熱部材と接する面と垂直方向に主たる熱伝導が実行されるため、冷却効率も上がるものと考えられる。
【0017】
尚、このように熱伝導率の異方比が高い材料は従来になく、例えば、等方性炭素材料では、熱伝導率の異方比が約1.00〜1.05程度であり、また、押し出し炭素材料では、約1.2〜1.3程度である。また、上記作用効果を考慮すれば、熱伝導率の異方比は、1.7以上であることが特に好ましい。更に、硬さ面では、ショア硬さのHSD値は70以上であることが一層好ましい。
【0018】
ここで、本明細書において、上記熱伝導率の異方比とは、当該材料における方向に依存した熱伝導率の比である。本発明の炭素材料は後述の如く炭素骨材及びバインダーを混合した混合粉を加圧しつつ、SPS法により作製する。この場合、加圧方向と垂直な方向の熱伝導率を熱伝導率Eとし、加圧方向と平行な方向の熱伝導率を熱伝導率Fとしたときに、熱伝導率E/熱伝導率Fを熱伝導率の異方比としている。
【0019】
少なくとも一方向における熱膨張率が10×10−6/K以上であることが望ましい。
炭素材料の熱膨張率が10×10−6/K以上であれば、金属等の他材料との熱膨張率が近くなり、金属メッキやコーティングを行った場合に、接合部での剥離を抑制できる。尚、参考のために、主たる金属の熱膨張率を下記に示すと、銅(16.8×10−6/K)、金(14.3×10−6/K)、ニッケル(12.3×10−6/K)、コバルト(12.4×10−6/K)、ステンレス(10〜17×10−6/K)、鋼(11×10−6/K)、白金(9×10−6/K)であって、炭素材料の熱膨張率と近似していることがわかる。したがって、これら金属と炭素材料との接合や、これら金属で炭素材料の表面を被覆する場合に、熱応力が生じるのを抑制できる。尚、一般的に用いられている炭素材料の熱膨張率は5×10−6/K程度であり、本発明の炭素材料に比べて小さい。
【0020】
また、炭素材料の熱膨張率は、上記SPS法により作製する場合、加圧方向と平行な方向の熱膨張率が10×10−6/K以上とすることができる。そして、SPS法により炭素材料を作製する際、バインダーを添加しない場合には、熱膨張率を所望の値に制御できない。
【0021】
ここで、炭素材料のかさ密度は1.8Mg/m以上であることが望ましく、特に、1.9Mg/m以上であることが望ましい。また、炭素材料の平均気孔半径は0.5μm以下であることが望ましく、特に0.25μm以下であることが望ましい。更に、炭素材料の曲げ強さは20MPa以上であることが望ましく、特に、30MPa以上であることが望ましい。加えて、炭素材料の圧縮強さは80MPa以上であることが望ましい。
【0022】
また、上記目的を達成するために本発明は、型内に炭素骨材及びバインダーを混合した混合粉を充填する第1ステップと、上記混合粉を加圧しつつ、放電プラズマ焼結法にて焼結する第2ステップと、を有することを特徴とする。
上記方法であれば、成形工程、及び、一次焼成工程、黒鉛化工程等は不要となり(即ち、少ない工程で高性能の炭素材料を製造することができるので)、生産性の向上が図れ、しかも、少ないエネルギーで炭素材料を生産できるので、炭素材料の生産コストを低減できる。また、従来数ヶ月かかっていた製造期間が、本方法では数十分程度に短縮されるため、この点からも生産性の革新的な向上を図ることができる。
【0023】
また、上記方法であれば、焼結時の圧力、温度、時間を調整することで、かさ密度、異方比、緻密度、熱膨張率等を調整することができるので、所望条件の炭素材料を容易に作製することができる。
更に、従来より用いられている等方性材料では、ピッチ含浸して気孔を埋めたとしても、平均気孔半径を0.5μm以下にすることは難しいが、上記方法であれば、ピッチ含浸等の後処理工程を経ることなく、平均気孔半径が0.5μm以下の炭素材料を作製することができる。したがって、緻密な炭素材料を容易に作製することができる。
【0024】
尚、第1ステップにおいてバインダーを添加するのは、バインダーを添加しない場合には、前述のショア硬さのHSD値(硬さ)が60未満になるため、針のような先端の尖ったものと接触すると容易に削れるほど脆くなるのに対して、バインダーを添加した場合には、前述のショア硬さのHSD値が60以上になるため、上記不都合が生じるのを回避できるからである。即ち、バインダーは炭素骨材(炭素粒子)同士の結合を強化するために添加している。
【0025】
上記放電プラズマ焼結法にて焼結する際の温度が2500℃以下であることが望ましい。更に2000℃以下であることが更に好ましい。
2000℃で処理した場合であっても、かさ密度等については、従来技術において2800℃以上で黒鉛化を行ったものと同等以上の特性を得ることができるので、少ないエネルギーで炭素材料を生産できるという利点を十分に発揮させるためである。
【0026】
上記炭素骨材に対する上記バインダーの割合(以下、単に、バインダーの割合と称することがある)が3重量部以上60重量部未満が好ましく、10重量部以上30重量部以下がより好ましい。バインダーの量が3重量部未満になるとバインダーの添加効果を十分に発揮させることができない一方、バインダー量が60重量部以上になると、SPS処理時にバインダー溶解による流動性が高くなり成形が難しくなるからである。
さらに、一般に、炭素骨材に比べてバインダーは、生産量が少なく、高価であるため、特にバインダーの割合を30重量部以下に規制することにより、省資源化と炭素材料の生産コストの低減とを図ることができる。また、バインダーの割合が30重量部を超えると、炭素材料において、バインダーの特性の影響が大きくなることがある一方、バインダーの割合が30重量部以下であれば、バインダーの特性の影響が軽微であるので、バインダー量に関わらず、略同特性の炭素材料を提供できる。更に、バインダーの割合が少ないので、揮発成分を焼却処理する炉を設ける必要がなく、製造装置を小型化できる。
【0027】
上記型は黒鉛製であることが望ましい。
型が黒鉛製であれば、黒鉛は軟らかいということから、型の加工が容易となる。また、容易に特殊形状とすることができるので、所望の形状に近似した形状の炭素材料を作製することができ(即ち、ニアーネットシェイプ化が可能となり)、その後の工程において機械加工量を削減することができる。したがって、生産コストの低減と省資源化とを図ることができる。
【0028】
型内に炭素骨材及びバインダーを混合した混合粉を充填した後、上記混合粉を加圧しつつ、放電プラズマ焼結法にて焼結することにより製造した炭素材料であって、かさ密度が1.9Mg/m以上である炭素材料であることが望ましい。
上記炭素材料では、複雑な工程を経ることなく高密度の炭素材料を製造することが可能である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、製造工程の煩雑化、エネルギー消費の増大、生産コストが高騰等を抑制しつつ、極めて短時間に、緻密で高強度の炭素材料を得ることができるといった優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を以下に説明する。
先ず、粉砕(一次粉砕)された石油コークス100重量部に対しコールタールピッチ20重量部とから成る混合物(粒径100μm以下、理論密度2.3g/cm)を150〜250℃で混捏して揮発分調整を行った後、この混捏されたものを平均粒子径40μmに再粉砕(二次粉砕)する。次に、この再粉砕された混合物を放電プラズマ焼結機(住友石炭鉱業株式会社製SPS−3.20S)の黒鉛製SPSダイ(外径50.6mm、内径20.4mm、高さ60mm)内に装填した。尚、黒鉛製SPSダイ内の混合物は、2つの黒鉛製SPS焼結パンチ(共に、直径20.0mm、厚さ25mm)で加圧できる構成となっている。また、混合物を黒鉛製SPSダイ内に装填する際には、混合物を焼結した後の焼結体と、黒鉛製SPSダイ及び黒鉛製SPS焼結パンチとの離型性を良好に保つべく、両者間にカーボンペーパーを配置している。次いで、上記放電プラズマ焼結機内を約3Paまで減圧した後、約100℃/分の速度で放電プラズマ焼結機内の温度を2000℃まで上昇させた。この際、放電プラズマ焼結機内の温度が1800℃まで上昇した時点で、放電プラズマ焼結機内にアルゴンガスを導入した。この後、上記混合物を40MPaの圧力で加圧しつつ、20分間通電することにより焼結させ、黒鉛から成る炭素材料を得た。
【0031】
尚、放電プラズマ焼結条件としては、特に限定されるものではないが、たとえば加圧力は1MPa〜100MPaの範囲、温度は100℃〜2500℃の範囲、時間は5分〜24時間の範囲で行えばよい。また、これらの条件を変化させることにより、熱膨張率、電気抵抗値、熱伝導率等の値をある程度所望の値に調整することも可能である。
また、原料の炭素粉末(炭素骨材)は特に限定されるものではなく、モザイクコークス、ニードルコークス等種々のものを用いることができる。この炭素骨材の一次粉砕における平均粒径は、1μmから1000μmであればよい。SPS法によれば、これら粉末の特性をそのまま炭素材料に活かせることができるため、求められる特性に合致するように炭素粉末を選択すればよく、例えば、熱膨張率、熱伝導率が高く、電気抵抗率が低いものを得たいときには、ニードルコークスを用いるのが好ましい。更に、炭素粉末の種類は一種類に限定するものではなく、種々の炭素粉末を混合して用いてもよい。特性の異なる炭素粉末を混合すれば、求められる特性に合致させることが容易となる。
【0032】
更に、バインダーの種類は、特に限定されるものではなく、コールタールピッチの他に合成樹脂、石油ピッチでも良い。また、二次粉砕における平均粒径は、1μmから1000μmであればよい。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
実施例1としては、上記形態で示した炭素材料を用いた。
このようにして作製した炭素材料を、以下、本発明材料A1と称する。
【0034】
(実施例2)
コールタールピッチの割合を5重量部とした他は、上記実施例1と同様にして炭素材料を作製した。
このようにして作製した炭素材料を、以下、本発明材料A2と称する。
【0035】
(比較例)
コールタールピッチを添加しない他は、それぞれ、上記実施例1と同様にして炭素材料を作製した。
このようにして作製した炭素材料を、以下、比較材料Zと称する。
【0036】
(実験)
上記本発明材料A1、A2及び比較材料Zにおける熱膨張率の異方比、熱伝導率の異方比、硬さ、電気抵抗率の異方比、曲げ強さ、圧縮強さ、平均気孔半径、及びかさ密度について調べたので、その結果を表1、表2に示す。尚、各測定方法を下記に示す。
【0037】
(1)熱伝導率の測定
直径10mm、厚み3mmに加工した試料を用い、レーザーフラッシュ熱定数測定装置TC−9000(アルバック社製)で熱拡散率を求め、熱容量、かさ密度から室温の熱伝導率を算出した。
(2)平均気孔半径の測定
マイクロメリティックス社水銀ポロシメータを用い、水銀印加圧力からワッシュバーンの式により求めた。ワッシュバーンの式は、r=−2δcosθ/Pで示される〔r:細孔の半径、δ:水銀の表面張力(480dyne/cm)、θ:接触角(本実験では、141.3°を使用)、P:圧力〕。
【0038】
(3)熱膨張率の測定
5×5×20(mm)に加工した試料を用い、熱機械分析装置TMA8310(リガク社製)で、N雰囲気下において1分間に10℃昇温しながら、測定した際の1000℃における値を測定した。
(4)ショア硬さのHSD値(硬さ)の測定
室温にてショア硬さ試験機D型を用いて測定した。
【0039】
(5)曲げ強さの測定
室温にてインストロン型材料試験機を用いて測定した。
(6)圧縮強さの測定
室温にてテンシロン万能試験機を用いて測定した。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
〔熱膨張率の異方比について〕
表1から明らかなように、本発明材料A1、A2の熱膨張率の異方比は、それぞれ、2.70、2.75であり、熱膨張率について異方性を有することが確認できる。尚、比較材料Zに比べて熱膨張率の異方比が若干小さいが、実用上有効とされる1.50以上である。
【0043】
〔熱伝導率の異方比について〕
表1から明らかなように、本発明材料A1、A2の熱伝導率の異方比は、それぞれ、1.56、1.71であり、熱伝導率について異方性を有することが確認できる。尚、比較材料Zに比べて熱伝導率の異方比が若干小さいが、実用上有効とされる1.50以上である。
【0044】
〔電気抵抗率の異方比について〕
表2から明らかなように、本発明材料A1、A2の電気抵抗率の異方比は、それぞれ、1.83、1.87であり、電気抵抗率について異方性を有することが確認できる。尚、比較材料Zに比べて電気抵抗率の異方比が若干小さいが、実用上有効とされる1.50以上である。
【0045】
〔硬さについて〕
表1から明らかなように、本発明材料A1、A2のショア硬さのHSD値(硬さ)は、それぞれ、96、75であり、実用上有効とされる60以上となっており、針のような先端の尖ったものと接触させても容易に削れるものではなかった。それに対して、比較材料Zのショア硬さのHSD値(硬さ)は56であり、針のような先端の尖ったものと接触すると容易に削れるほど脆く、実用レベル未満となっていることが認められる。
【0046】
〔以上の結論〕
以上のことから、本発明材料では、実用上必要とされる硬さを確保しつつ、熱膨張率の異方性、熱伝導率の異方性、及び電気抵抗率の異方性についても、実用レベルを確保できる。
【0047】
〔曲げ強さについて〕
表2から明らかなように、本発明材料A1、A2の曲げ強さは、それぞれ、53MPa、24MPaであり、実用上有効とされる20MPa以上となっているのに対して、比較材料Zの曲げ強さは19MPaであり、実用レベル未満となっていることが認められる。
【0048】
〔圧縮強さについて〕
表2から明らかなように、本発明材料A1、A2の圧縮強さは、それぞれ、176MPa、83MPaであり、実用上有効とされる80MPa以上となっているのに対して、比較材料Zの圧縮強さは65MPaであり、実用レベル未満となっていることが認められる。
【0049】
〔平均気孔半径について〕
表2から明らかなように、本発明材料A1、A2の平均気孔半径は、それぞれ、0.19μm、0.08μmであるのに対して、比較材料Zの平均気孔半径は0.08μmとなっていることが認められる。本発明材料A1については比較材料Zより平均気孔半径が大きいが、実用上有効とされる0.50μm以下である。
【0050】
〔かさ密度について〕
表2から明らかなように、本発明材料A1、A2のかさ密度は、それぞれ、1.93Mg/m、1.87Mg/mであり、実用上有効とされる1.8Mg/m以上となっていることが認められる。比較材料Zのかさ密度は1.88Mg/mであるので、この点については実用レベルを上回っていることが認められる。
【0051】
なお、本明細書における放電プラズマ焼結法は、パルス通電加圧焼結法、放電焼結法、プラズマ活性化焼結法、大電流パルス通電法、パルス通電焼結法などと同一または類似の技術であり、これらの各方法を含む概念とする。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、放電加工用電極、半導体製造装置用部品、イオン注入装置用部品、連続鋳造部材、ヒートシンク、熱交換器等に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショア硬さのHSD値が60以上で、熱膨張率の異方比が1.5以上であることを特徴とする炭素材料。
【請求項2】
電気抵抗率の異方比が1.5以上である、請求項1に記載の炭素材料。
【請求項3】
熱伝導率の異方比が1.5以上である、請求項1又は2に記載の炭素材料。
【請求項4】
ショア硬さのHSD値が60以上で、電気抵抗率の異方比が1.5以上であることを特徴とする炭素材料。
【請求項5】
熱伝導率の異方比が1.5以上である、請求項4に記載の炭素材料。
【請求項6】
ショア硬さのHSD値が60以上で、熱伝導率の異方比が1.5以上であることを特徴とする炭素材料。
【請求項7】
少なくとも一方向における熱膨張率が10×10−6/K以上である、請求項1〜6の何れか1項に記載の炭素材料。
【請求項8】
かさ密度が1.8Mg/m以上である、請求項1〜7の何れか1項に記載の炭素材料。
【請求項9】
平均気孔半径が0.5μm以下である、請求項1〜8の何れか1項に記載の炭素材料。
【請求項10】
曲げ強さが20MPa以上、圧縮強さが80MPa以上である、請求項1〜9の何れか1項に記載の炭素材料。
【請求項11】
型内に炭素骨材及びバインダーを混合した混合粉を充填する第1ステップと、
上記混合粉を加圧しつつ、放電プラズマ焼結法にて焼結する第2ステップと、
を有することを特徴とする炭素材料の製造方法。
【請求項12】
上記第2ステップにおける焼結温度が2500℃以下である、請求項11に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項13】
上記炭素骨材に対するバインダーの割合が30重量部以下である、請求項11又は12に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項14】
上記型は黒鉛製である、請求項11〜13の何れか1項に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項15】
型内に炭素骨材及びバインダーを混合した混合粉を充填した後、上記混合粉を加圧しつつ、放電プラズマ焼結法にて焼結することにより製造した炭素材料であって、かさ密度が1.8Mg/m以上である炭素材料。

【公開番号】特開2011−84410(P2011−84410A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235944(P2009−235944)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】