炭素繊維を使用した鉄筋コンクリート製柱状構造物のじん性補強方法
【課題】新耐震基準を満たすじん性能を、補強材の巻き付け間隔を最適化することにより、従来よりも強化繊維の使用量を少なくしコストを低減させ、さらに施工後に中規模の地震等が発生した場合にも、コンクリートへのひび割れ等の導入の確認が容易であるじん性補強方法を提供する。
【解決手段】鉄筋コンクリート製柱状構造物1の上下端部から2D(Dは柱断面高さを示す)以下のじん性補強区間に炭素繊維含有補強材料2を柱状構造物の端部より巻き付け間隔(P)が、5cm以上であり、P/Dが1/3以下となるように所定間隔を空けて巻き付け補強することを特徴とする鉄筋コンクリート製柱状構造物のじん性補強方法。
【解決手段】鉄筋コンクリート製柱状構造物1の上下端部から2D(Dは柱断面高さを示す)以下のじん性補強区間に炭素繊維含有補強材料2を柱状構造物の端部より巻き付け間隔(P)が、5cm以上であり、P/Dが1/3以下となるように所定間隔を空けて巻き付け補強することを特徴とする鉄筋コンクリート製柱状構造物のじん性補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製の柱、あるいは、橋脚、煙突等のコンクリート製柱状構造物の炭素繊維を用いた補強方法に関し、特にじん性能を向上させる補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製の柱、あるいは、橋脚、煙突等の既設コンクリート構造物は、経年劣化による耐力の低下もさることながら、建造時の設計基準によっても大きく強度が異なっている。また、先の阪神・淡路大震災においては、昭和56年施行の新耐震設計法の基準を満たす建築物の被害が軽微であったとの経験から、新耐震基準での見直しが行われ、既設構造物についても新耐震基準への適合が求められている。
【0003】
既設構造物の場合、取り壊し、新たに建造すれば新耐震基準を満たした構造物も得られるが、建造に長期間を要し、その費用も多大である。したがって、通常は、著しく劣化していない限りは、耐震補強工事が実施される。
【0004】
このような耐震補強工事として、鋼板接着工法(鋼板を柱に巻き付ける補強工法)が知られている。しかし、鋼板は重量が大きいために、施工性に劣り、また、錆の発生等、長期耐久性に問題があった。
【0005】
一方、軽量で、長期耐久性を有するという観点から、強化繊維を用いた補強材料を使用した補強方法が知られている。強化繊維を用いた補強工事では、まず、補強すべき個所の不陸修正等を行った後、必要によりプライマー層を形成し、強化繊維シートを貼り付け、常温硬化性樹脂を含浸し、硬化させることで、補修・補強面に繊維強化樹脂(FRP)板へ転化させ、当該表面へ固着させる。また、予め硬化させたFRP板を貼り付ける工法も知られている。
【0006】
非特許文献1には、炭素繊維シート利用による耐震補強工法を鉄道高架柱に拡大適用することを目的に、その工法及び施工指針が示されている。補強工法としては、部材のせん断耐力の向上を目的としたせん断補強、部材のじん性能の向上を目的としたじん性補強、部材の曲げ耐力の向上を目的とした曲げ補強の3種の工法に分けられている。
【0007】
炭素繊維シートにより耐震補強を行う場合、柱中央部のせん断補強と柱上下端部のじん性補強を組み合わせて行うのが一般的である(図12参照)。せん断補強の補強区間は柱高さLの全区間に及ぶのに対し、じん性補強は、柱上下端部の柱幅D(柱断面高さ)の2倍(2D)の区間に行う。
【0008】
図13は、塑性ヒンジ領域において鉄筋コンクリート製柱におけるコンクリートが粒塊化した状態を示している。従来のじん性補強における補強方法は、塑性ヒンジ領域において粒塊化したコンクリートが外に逃げ出すのを拘束封じ込むように補強するのが一般的である。従って、炭素繊維シート巻き立てによるじん性補強においても、隙間なく補強材料で覆って補強されている。
【0009】
またFRPを所定量全面に貼り付けた場合、過去の実験例においては、終局時に塑性ヒンジ領域となる基部の鉄筋のはらみ出しにより強化繊維が破断し、コンクリート構造物が脆性的に破壊することが知られている。特にFRPの補強量が少ない時、強化繊維の破断は顕著に発生する。
【0010】
このように、新耐震基準を満たすじん性能を達成するためには、極めて多くのFRPを積層する必要があり、コスト的に現実的ではなく、採用事例も数少ない。
【0011】
また、このような方法で施工した場合、施工後は強化繊維板でコンクリート表面が覆われてしまうため、例えば、中規模の地震が発生した場合に、コンクリートにひび割れ等が発生していないかどうかの診断が非常に困難である。
【0012】
また、炭素繊維シートによる全面巻き付けでは、段差や突起、不陸等の調整処理は、十分な接着性を得るために必須の処理であり、工程が煩雑となり、コスト増、施工期間の長期化等の原因ともなっている。
【0013】
たとえば、図14は、大きな段差がある場合の下地処理を示すもので、段差上部を削り取り、下部は削り取った面に連続するようにモルタル等を詰めて補修する必要がある。また、型枠目違い等による小さな段差についても、削り取り処理を行った後、プライマ塗布面の指触硬化後にエポキシ系パテ等を用いた平滑処理により炭素繊維シートが柱表面に密着するように整えなければならないとされている。
【0014】
特許文献1(特開昭62−244977号公報)及び特許文献2(特開昭62−242058号公報には、コンクリート製既存柱の耐震補強方法として、高強度長繊維ストランドをスパイラル状に捲回する工法が示されている。また、特許文献3(特開2000−73586号公報)には、FRP補強テープを用いて袖壁等の障害物があっても補強テープを捲き回す部分の袖壁に開口を設けて捲き回す方法が開示されている。また、特許文献4(特開2002−115403号公報)には、同様に壁付きコンクリート柱を補強するにあたり、壁に柱の長手方向に間隔をあけて複数の貫通孔を形成し、該各貫通孔を通して柱の外周に強化繊維ストランドの束を巻き付けることが提案されている。このような、ストランドやテープ等を用いて補強すれば施工後の確認も可能である。
【0015】
これら特許文献1〜4に記載の工法は、いずれもコンクリート構造物のせん断補強について検討したものであり、新耐震基準を満たすじん性能について何ら言及されていない。
【非特許文献1】「炭素繊維シートによる鉄道高架橋柱の耐震補強工法設計・施工指針」第3版、(財)鉄道総合技術研究所、平成15年7月4日発行
【特許文献1】特開昭62−244977号公報
【特許文献2】特開昭62−242058号公報
【特許文献3】特開2000−73586号公報
【特許文献4】特開2002−115403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、新耐震基準を満たすじん性能を、補強材の巻き付け間隔を最適化することにより、従来のシート貼り付け工法と同等或いは少ない炭素繊維量で達成でき、また、下地処理のコスト、期間を低減させ、さらに施工後に中規模の地震等が発生した場合にも、コンクリートへのひび割れ等の導入の確認が容易であるじん性補強方法を提供することにある。さらに終局に達しても強化繊維が破断することなくコンクリート構造物の脆性的な破壊を防ぐ補強方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、本発明者らは、強化繊維として耐環境性に優れ、長期に安定な炭素繊維を用い、これを所定間隔をあけて巻き付けることにより、強化繊維の必要量を低減させ、かつ、従来の炭素繊維シートによる全区間補強に見られた終局時の鉄筋はらみ出しを防止し、かつひび割れ等の導入の確認が容易となる補強方法が提供できることを見いだした。
【0018】
すなわち、本発明は、鉄筋コンクリート製柱状構造物の上下端部から2D(Dは柱断面高さを示す)以下のじん性補強区間に炭素繊維含有補強材料を柱状構造物の端部より巻き付け間隔(P)が、5cm以上であり、P/Dが1/3以下となるように所定間隔を空けて巻き付け補強することを特徴とする鉄筋コンクリート製柱状構造物のじん性補強方法に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、炭素繊維を所定間隔をあけて巻きつけ、コンクリート構造物にかかる応力を構造物全体に分散させることにより、少ない強化繊維量で所定の変形性能まで補強部材が持ち堪えることができ、かつ従来の炭素繊維シートによる全区間補強に見られた終局時の鉄筋はらみ出しや、補強量が少ない場合の強化繊維の破断も生じることがなくなるため、コンクリート構造物のじん性能を大きく向上させることができる。
【0020】
また、所定の間隔を空けて巻き付けることにより、特に段差等があったとしても大がかりな下地処理が不要となり、コストの低減、施工期間の短縮を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明において、じん性補強に関して使用する用語は、非特許文献1の記載に準拠するものである。せん断余裕度とは、曲げ耐力に対するせん断耐力の比であり、(Vu・a/Mu)で表される。ここで、Vuは柱部材の設計補強せん断耐力、aはせん断スパン、Muは柱部材の設計補強曲げ耐力である。じん性率μは、降伏点の耐力Py(供試体の軸方向引張鉄筋が降伏したときの水平荷重)を保持できる限界変位δlimitを降伏点変位δy(供試体の軸方向引張鉄筋が降伏したときの水平変位)で除した値である。非特許文献1には、炭素繊維シートによるじん性補強の設計補強じん性率μはせん断余裕度に関連する評価式が示されている。
【0022】
柱部材の設計せん断耐力Vuは、コンクリートの分担分Vcd、せん断補強筋の分担分Vsd、炭素繊維シートの分担分VCFdの和であり、補強される鉄筋コンクリート柱が同じであれば、設計せん断耐力Vuは炭素繊維シートの分担分VCFdによって増減する。じん性補強における炭素繊維シートの曲げ耐力に対する寄与分は、せん断耐力に対する寄与分より小さいため、炭素繊維シートの補強量に応じてせん断余裕度が変化することになる。従って、同じ炭素繊維シートを使用するのであれば、せん断余裕度が低いほど炭素繊維使用量が少なくなる。
【0023】
本発明の間隔を空けて巻き付けるじん性補強方法では、少ないせん断余裕度において高いじん性能が得られることから、じん性補強設計に際して、あらかじめ低いせん断余裕度に設計しても十分なじん性補強が可能となる。すなわち、炭素繊維の使用量を低減できることになる。特に本発明では、炭素繊維量の削減は、設計じん性率が低い場合に期待できる。
【0024】
本発明では、じん性補強区間に対し、炭素繊維含有補強材料を所定の間隔を空けて巻き付けて補強する。つまり、じん性補強区間全面に補強材料を巻き付けるのではなく、補強材料を巻き付ける部分と巻き付けない部分とが交互になる。この結果、部材にかかる力が適度に分散し、終局時に鉄筋のはらみ出し自体を防止することができる。従来の炭素繊維シート巻き立てによる全区間補強方法では、主鉄筋の座屈の開始を抑制する効果はあまりないと考えられていた(たとえば、「論文 炭素繊維巻立て補強橋脚の変形性能に関する検討」コンクリート工学年次論文集、Vol.22,No.3,2000,p235-240参照)が、本発明の工法により主鉄筋のはらみ出し(座屈)が抑制できるという効果は、全く予測し得ない効果である。従来の炭素繊維シート巻き立てによる全区間補強では、特に基部から1.5D以下の塑性ヒンジ領域に大きなひずみとなって力が加わり、鉄筋のはらみ出しが生じており、補強部材が少ない場合にはそのはらみ出しにより補強部材が切断され、部材の脆性的破壊をもたらしていた。そのため、設計じん性率が低い場合にも安全性を考慮して多くの炭素繊維量が必要であったが、本発明では少ない補強量で高いじん性能が得られると共に、終局時の鉄筋はらみ出しが防止される結果、脆性的な破壊をも防止できるという優れた効果を有するものである。
【0025】
所定の間隔を空けて巻き付ける方法としては、図1に示すように、RC柱の材軸方向に直角な方向に縞状に巻き付ける方法(フープ巻き)(同図(a))、柱の材軸方向に斜めに巻き付ける方法があり、斜めに巻き付ける場合には、長尺の補強材料を使用して螺旋状に巻き付ける(スパイラル巻き)こともできる(同図(b))。なお、斜めに螺旋状に巻き付ける場合においても、同図(b)に示すように、開始部と終端部とは、固定を容易にするために材軸方向に直角な方向に巻き付けるのが望ましい。
【0026】
鉄筋コンクリート製柱では、材軸方向に配される主筋と、この主筋を取り巻くように所定間隔で配される帯筋とが配筋されている。帯筋は、旧建築基準においてもD/2以下のピッチで配筋することが規定されていた。本発明では、この帯筋よりも狭いピッチで帯状に炭素繊維含有補強材料で補強する必要がある。本発明ではP/Dが1/3以下となるように補強材料を巻き付ける。また、ピッチPがあまりに狭くなりすぎると、全面補強と差がなくなり、本発明の効果が得られなくなる。従って、5cm以上のピッチで補強を行う。
【0027】
補強部材の巻き付け幅Wと補強ピッチPとの関係を図2に示す。同図(a)は、補強部材の幅が巻き付け幅Wに一致する場合を示すもので、ここでは炭素繊維シート帯の例を示している。同図(b)は補強部材の巻き付け幅Wよりも狭い部材幅の補強部材で補強した場合を示しており、ここでは、紐状の部材で補強した場合を示している。炭素繊維含有補強材料の巻き付け幅Wは、上記ピッチPにおいて補強部材間に隙間が形成される幅とすればよい。たとえば、最小ピッチの5cmとする場合は、それよりも狭い幅、たとえば3cmの幅とすればよい。ここで、所定の補強量を得るために、ピッチを広くとると各縞の断面を大きくする必要がある。このため、巻き付け幅Wを広げるか、断面高さHを高く(積層数を増やす)する必要がある。断面高さHが巻き付け幅Wにおいて、W/Hで表されるアスペクト比が1以上、好ましくは1.5以上となるように幅Wと高さHを決定すればよい。炭素繊維シート帯を用いる場合、幅1cm〜10cmの範囲内であって、W/Pが1/2以下となる帯をその部材幅で所用枚数使用するのが望ましく、また、組紐等の場合も、巻き付け幅Wが1〜10cmの範囲内であって、W/Pが1/2以下となるように所定数巻き回して巻き付けるのが望ましい。さらには、幅Wを2〜5cmとし、本発明の規定の範囲内でより狭ピッチとすることがより好ましい。
【0028】
<補強材料>
本発明で使用する炭素繊維含有補強材料としては、一方向に配向した炭素繊維シートの帯や、炭素繊維フィラメントを収束させたストランド、ストランドを撚り合わせたロープ及び紐、さらには炭素繊維フィラメントを組み打ちした組紐などが使用できる。
【0029】
本発明で使用する組紐(「打ち紐」とも呼ばれる)とは、機械製造されるもので、大きく分けて8打(ヤツウチ)、16打(ジュウロクウチ)、金剛打(コンゴウウチ)、その他多数打ち紐に分類される。又、扁平な形状に組む平打ちと、丸く組む丸打ちとがある。図3に、丸打ちにした組紐側面の概略図を示す。特に、組紐を用いると、後述する実施例に示すように、少ないせん断余裕度で極めて高いじん性率を達成することができる。
【0030】
使用する強化繊維は、炭素繊維を使用するが、ガラス繊維、アラミド繊維、その他有機繊維等を問題のない範囲で混合して使用することができ、その用途に応じて適宜選択することができる。使用する炭素繊維としては、例えば、JIS K 7073に準拠した炭素繊維強化プラスチックの引張試験方法において、高強度タイプでは、2.45×105N/mm2、中弾性タイプでは4.40×105N/mm2、高弾性タイプでは6.40×105N/mm2の引張弾性率を有する材料を使用する。
【0031】
さらに本発明では、炭素繊維等の強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸して補強材料とする。含浸する樹脂は、常温硬化型あるいは熱硬化型のエポキシ樹脂、ポリエステル系樹脂などの熱硬化性樹脂、メチルメタクリレート等のラジカル反応系樹脂などが使用できる。特に、常温硬化型のエポキシ系樹脂を用いるのが好ましく、例えば、コニシ(株)製の商品名「ボンドE2500」シリーズ、「ボンドE206」シリーズなどが使用できる。
【0032】
<補強方法>
本発明では、炭素繊維含有補強材料を柱などのコンクリート構造物の周囲に所定の間隔を空けて巻き付けて補強を行う。補強量は、非特許文献1のじん性補強設計に示されているように、構造物の降伏震度、等価固有周期から設計塑性率(設計じん性率)を求め、非特許文献1の設計補強じん性率の評価式に準拠して、安全側に設計される。従来の全区間補強では、終局時の鉄筋はらみ出しによる強化繊維の破断を加味して、設計じん性率が比較的低くても良い場合でも、評価式から計算される補強量よりも多めに補強する必要があるが、本発明では評価式から計算される補強量で十分以上の効果を有しており、評価式から計算される補強量よりも少ない補強量でも高いじん性補強効果を示す。後述の実施例に示すように、本発明ではせん断余裕度2.2でじん性率7を達成できることから、これを目安に補強量の低減を図ることができる。
【0033】
鉄筋コンクリート製の柱をじん性補強するには、非特許文献1に記載されるように、柱の上下端部から2Dのじん性補強区間に対して施工を行う。2Dのじん性補強区間を越えてせん断補強区間に及んだとしても問題はないが、せん断補強を行うには、じん性補強の補強量ではオーバースペックとなるため、無駄となる。たとえば、3cm幅の炭素繊維シートを用いてその部材幅を巻き付け幅Wとし、10cmピッチで補強する場合、じん性率10を達成するには約5層のまき付けが必要となるが、必要なせん断性能を達成するには、同じピッチでまき付けを行うと約0.2層となる。つまり、25倍も補強量が異なっている。しかしながら、本発明においても、従来と同様に、じん性補強とせん断補強とを併せて行うことは好ましい。じん性補強区間を除くせん断補強区間の補強方法は、特に限定されるものではなく、従来の方法が適用できる。特に、柱全体に応力を分散させるためには、せん断補強部分にも間隔を空けて補強を行う工法を適用することが好ましい。たとえば、図4に示すように、じん性補強区間に対しては本発明の工法によるじん性補強を施し、じん性補強区間を除くせん断補強区間には、ピッチを広げたり、積層回数を減らすなどして補強量を減らしてせん断補強を行うことができる。
【0034】
又、柱等の断面が矩形の場合、角部に面取り処理を施し、R形状を形成しておくことが好ましい。さらに、表面の美観を保持したり、補強部材の耐久性をさらに向上するために、補強部材を巻き付けた表面に仕上げ用モルタルを塗ったり、塗料などを吹き付けたりして仕上げを行うことができる。又、巻き付け部の柱に浅い溝を穿設し、該溝に補強部材を埋め込むように巻回した後モルタル等で埋め込むことで、柱の外観形状を保持したままで補強することもできる。なお、本発明では、従来のシート貼り付け工法において行われていた段差処理等の大がかりな下地処理は不要となるため、そのような段差のある構造物に対しては、その分、工期及びコストの低減が図れる。
【0035】
又、補強部位には補強部材とコンクリートとの接着性を向上するため、プライマー処理を施すことは好ましい態様である。プライマーとしては、補強部材への含浸樹脂と同様に、常温硬化型あるいは熱硬化型のエポキシ樹脂、ポリエステル系樹脂などの熱硬化型接着剤などが好ましく使用できる。例えば、コニシ(株)製商品名「ボンドE800」シリーズなどのプライマーが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例においては、補強効果を確認するために、以下の試験方法により評価を行った。
【0037】
<試験体>
試験体は図5に示すように、符号12で示されるスタブ部分1200mm×1200mm×500mm、柱部分300mm×300mm×1000mm(主筋13:12−D19,帯筋14:6φ@200)のRC柱11を使用した。試験体の作成には、鋼製型枠を使用し、コンクリート打設後7日間で脱型した後、屋内で養生を行った。この試験体のコーナー部はR=20mmの面取りを行ったのち、炭素繊維による補強を行った。
【0038】
<補強部材>
使用した炭素繊維は、東レ製商品名「トレカT700S-12K」(引張強度=4900MPa、引張弾性率=230GPa、TEX=800g/km)を使用し、組紐には、5本7束で組み上げ、幅15mm、重量30g/mとした。又、帯には同じ炭素繊維を用いて、幅30mm、重量30g/mの直線状の帯を作製した。
【0039】
このように作製した組紐及び帯に、エポキシ系樹脂(コニシ(株)製商品名「ボンドE2500」)を含浸し、補強部材を作製した。各作製された補強部材の物性を下記表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
<載荷試験>
試験体の補強区間全面にプライマー(コニシ(株)製商品名「ボンドE810L」)を塗布し、縞状(フープ巻)に補強部材を巻き付けた。補強部材の巻き付け量は、(財)鉄道総合技術研究所「炭素繊維シートによる鉄道高架橋柱の耐震補強工法 設計・施工指針」に準拠(設計式は μ=2.8+1.15×(Vu・a/Mu))して決定した。載荷試験は、CF組紐、CF帯を施工後、室温で7日間養生した後に実施した。各組合せについて表2に示す。
【0042】
試験体はスタブ部分をPC鋼棒によって反力床に固定し、頂部に圧縮応力1N/mm2に相当する一定軸力の鉛直載荷を加え、柱高さ800mmの位置で水平方向に正負交番繰返し載荷を行った。
【0043】
【表2】
【0044】
計測は、載荷荷重をロードセルで、試験体の変位を変位計で柱各所の変位を測定した。計測は試験体が破壊に至るまで、あるいは試験機の変形性能の限界(15δ)まで荷重を付与して実施した。試験終了時の挙動について、表3に示す。又、変位と荷重との関係を示す荷重−変位曲線を、図6〜10にそれぞれ示す。
【0045】
【表3】
【0046】
図11に、せん断余裕度と最大じん性能実験値との関係を示す。図11には、非特許文献1の設計補強じん性率の評価式もあわせて示す。図11から明らかなとおり、CF帯を使用した試験体(No.2〜4)では、炭素繊維シートで設計した最大じん性能とほぼ匹敵する結果が得られた。組紐状CFを使用した試験体(No.5)では、炭素繊維シートで設計した最大じん性能より格段に優れた結果となった。また本発明を適用した試験体(No.2〜5)では、いずれも終局時に主鉄筋のはらみ出しは見られず、CF補強材の破断、脆性的な破壊は生じなかった。また、何れの場合も試験後の表面状態の確認が容易であった。
【0047】
実験値のじん性率を満足するために必要な炭素繊維量を仕様書評価式から計算すると下表のとおりとなる。No.4の結果からは、最大じん性能が低くても良い場合には、炭素繊維量の削減効果が確認できた。なお、炭素繊維シートによる全面補強の実際の施工にあたっては、終局時の鉄筋のはらみ出しによるシート破断を考慮して、さらに多くの炭素繊維が使用されることを考慮すれば、本発明の方法では、この数値以上の削減効果が期待できる。また、組紐状CFを用いたNo.5でも、炭素繊維量の削減効果が確認された。
【0048】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】補強部材の巻き付け方法を説明する図であり、(a)は縞状に、(b)は螺旋状に巻いた状態を示す。
【図2】補強部材の巻き付け幅Wと巻き付け間隔Pとの関係を説明する図であり、(a)は帯状の補強部材を用いた場合、(b)は紐状の補強部材を用いた場合を示す。
【図3】組紐状炭素繊維補強部材の概略側面図を示す。
【図4】本発明によるじん性補強方法とせん断補強方法とを組み合わせた補強方法を示す図である。
【図5】実施例で使用した試験体(コンクリート柱)を説明する図である。
【図6】試験体No.1(無補強時)の荷重−変位曲線を示すグラフである。
【図7】試験体No.2(帯、5cmピッチ)の荷重−変位曲線を示すグラフである。
【図8】試験体No.3(帯、10cmピッチ)の荷重−変位曲線を示すグラフである。
【図9】試験体No.4(帯、10cmピッチ)の荷重−変位曲線を示すグラフである。
【図10】試験体No.5(組紐、10cmピッチ)の荷重−変位曲線を示すグラフである。
【図11】せん断余裕度とじん性率との関係を示すグラフである。
【図12】柱部材のじん性補強区間とせん断補強区間を説明する図である。
【図13】RC柱の終局時の破壊状況を説明する図である。
【図14】従来工法(シート工法)における下地処理(段差処理)を説明する図である。
【符号の説明】
【0050】
1、11 鉄筋コンクリート(RC)柱
2 補強部材
12 スタブ
13 主筋
14 帯筋
P ピッチ
W 巻き付け幅
H 巻き付け高さ
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製の柱、あるいは、橋脚、煙突等のコンクリート製柱状構造物の炭素繊維を用いた補強方法に関し、特にじん性能を向上させる補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製の柱、あるいは、橋脚、煙突等の既設コンクリート構造物は、経年劣化による耐力の低下もさることながら、建造時の設計基準によっても大きく強度が異なっている。また、先の阪神・淡路大震災においては、昭和56年施行の新耐震設計法の基準を満たす建築物の被害が軽微であったとの経験から、新耐震基準での見直しが行われ、既設構造物についても新耐震基準への適合が求められている。
【0003】
既設構造物の場合、取り壊し、新たに建造すれば新耐震基準を満たした構造物も得られるが、建造に長期間を要し、その費用も多大である。したがって、通常は、著しく劣化していない限りは、耐震補強工事が実施される。
【0004】
このような耐震補強工事として、鋼板接着工法(鋼板を柱に巻き付ける補強工法)が知られている。しかし、鋼板は重量が大きいために、施工性に劣り、また、錆の発生等、長期耐久性に問題があった。
【0005】
一方、軽量で、長期耐久性を有するという観点から、強化繊維を用いた補強材料を使用した補強方法が知られている。強化繊維を用いた補強工事では、まず、補強すべき個所の不陸修正等を行った後、必要によりプライマー層を形成し、強化繊維シートを貼り付け、常温硬化性樹脂を含浸し、硬化させることで、補修・補強面に繊維強化樹脂(FRP)板へ転化させ、当該表面へ固着させる。また、予め硬化させたFRP板を貼り付ける工法も知られている。
【0006】
非特許文献1には、炭素繊維シート利用による耐震補強工法を鉄道高架柱に拡大適用することを目的に、その工法及び施工指針が示されている。補強工法としては、部材のせん断耐力の向上を目的としたせん断補強、部材のじん性能の向上を目的としたじん性補強、部材の曲げ耐力の向上を目的とした曲げ補強の3種の工法に分けられている。
【0007】
炭素繊維シートにより耐震補強を行う場合、柱中央部のせん断補強と柱上下端部のじん性補強を組み合わせて行うのが一般的である(図12参照)。せん断補強の補強区間は柱高さLの全区間に及ぶのに対し、じん性補強は、柱上下端部の柱幅D(柱断面高さ)の2倍(2D)の区間に行う。
【0008】
図13は、塑性ヒンジ領域において鉄筋コンクリート製柱におけるコンクリートが粒塊化した状態を示している。従来のじん性補強における補強方法は、塑性ヒンジ領域において粒塊化したコンクリートが外に逃げ出すのを拘束封じ込むように補強するのが一般的である。従って、炭素繊維シート巻き立てによるじん性補強においても、隙間なく補強材料で覆って補強されている。
【0009】
またFRPを所定量全面に貼り付けた場合、過去の実験例においては、終局時に塑性ヒンジ領域となる基部の鉄筋のはらみ出しにより強化繊維が破断し、コンクリート構造物が脆性的に破壊することが知られている。特にFRPの補強量が少ない時、強化繊維の破断は顕著に発生する。
【0010】
このように、新耐震基準を満たすじん性能を達成するためには、極めて多くのFRPを積層する必要があり、コスト的に現実的ではなく、採用事例も数少ない。
【0011】
また、このような方法で施工した場合、施工後は強化繊維板でコンクリート表面が覆われてしまうため、例えば、中規模の地震が発生した場合に、コンクリートにひび割れ等が発生していないかどうかの診断が非常に困難である。
【0012】
また、炭素繊維シートによる全面巻き付けでは、段差や突起、不陸等の調整処理は、十分な接着性を得るために必須の処理であり、工程が煩雑となり、コスト増、施工期間の長期化等の原因ともなっている。
【0013】
たとえば、図14は、大きな段差がある場合の下地処理を示すもので、段差上部を削り取り、下部は削り取った面に連続するようにモルタル等を詰めて補修する必要がある。また、型枠目違い等による小さな段差についても、削り取り処理を行った後、プライマ塗布面の指触硬化後にエポキシ系パテ等を用いた平滑処理により炭素繊維シートが柱表面に密着するように整えなければならないとされている。
【0014】
特許文献1(特開昭62−244977号公報)及び特許文献2(特開昭62−242058号公報には、コンクリート製既存柱の耐震補強方法として、高強度長繊維ストランドをスパイラル状に捲回する工法が示されている。また、特許文献3(特開2000−73586号公報)には、FRP補強テープを用いて袖壁等の障害物があっても補強テープを捲き回す部分の袖壁に開口を設けて捲き回す方法が開示されている。また、特許文献4(特開2002−115403号公報)には、同様に壁付きコンクリート柱を補強するにあたり、壁に柱の長手方向に間隔をあけて複数の貫通孔を形成し、該各貫通孔を通して柱の外周に強化繊維ストランドの束を巻き付けることが提案されている。このような、ストランドやテープ等を用いて補強すれば施工後の確認も可能である。
【0015】
これら特許文献1〜4に記載の工法は、いずれもコンクリート構造物のせん断補強について検討したものであり、新耐震基準を満たすじん性能について何ら言及されていない。
【非特許文献1】「炭素繊維シートによる鉄道高架橋柱の耐震補強工法設計・施工指針」第3版、(財)鉄道総合技術研究所、平成15年7月4日発行
【特許文献1】特開昭62−244977号公報
【特許文献2】特開昭62−242058号公報
【特許文献3】特開2000−73586号公報
【特許文献4】特開2002−115403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、新耐震基準を満たすじん性能を、補強材の巻き付け間隔を最適化することにより、従来のシート貼り付け工法と同等或いは少ない炭素繊維量で達成でき、また、下地処理のコスト、期間を低減させ、さらに施工後に中規模の地震等が発生した場合にも、コンクリートへのひび割れ等の導入の確認が容易であるじん性補強方法を提供することにある。さらに終局に達しても強化繊維が破断することなくコンクリート構造物の脆性的な破壊を防ぐ補強方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、本発明者らは、強化繊維として耐環境性に優れ、長期に安定な炭素繊維を用い、これを所定間隔をあけて巻き付けることにより、強化繊維の必要量を低減させ、かつ、従来の炭素繊維シートによる全区間補強に見られた終局時の鉄筋はらみ出しを防止し、かつひび割れ等の導入の確認が容易となる補強方法が提供できることを見いだした。
【0018】
すなわち、本発明は、鉄筋コンクリート製柱状構造物の上下端部から2D(Dは柱断面高さを示す)以下のじん性補強区間に炭素繊維含有補強材料を柱状構造物の端部より巻き付け間隔(P)が、5cm以上であり、P/Dが1/3以下となるように所定間隔を空けて巻き付け補強することを特徴とする鉄筋コンクリート製柱状構造物のじん性補強方法に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、炭素繊維を所定間隔をあけて巻きつけ、コンクリート構造物にかかる応力を構造物全体に分散させることにより、少ない強化繊維量で所定の変形性能まで補強部材が持ち堪えることができ、かつ従来の炭素繊維シートによる全区間補強に見られた終局時の鉄筋はらみ出しや、補強量が少ない場合の強化繊維の破断も生じることがなくなるため、コンクリート構造物のじん性能を大きく向上させることができる。
【0020】
また、所定の間隔を空けて巻き付けることにより、特に段差等があったとしても大がかりな下地処理が不要となり、コストの低減、施工期間の短縮を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明において、じん性補強に関して使用する用語は、非特許文献1の記載に準拠するものである。せん断余裕度とは、曲げ耐力に対するせん断耐力の比であり、(Vu・a/Mu)で表される。ここで、Vuは柱部材の設計補強せん断耐力、aはせん断スパン、Muは柱部材の設計補強曲げ耐力である。じん性率μは、降伏点の耐力Py(供試体の軸方向引張鉄筋が降伏したときの水平荷重)を保持できる限界変位δlimitを降伏点変位δy(供試体の軸方向引張鉄筋が降伏したときの水平変位)で除した値である。非特許文献1には、炭素繊維シートによるじん性補強の設計補強じん性率μはせん断余裕度に関連する評価式が示されている。
【0022】
柱部材の設計せん断耐力Vuは、コンクリートの分担分Vcd、せん断補強筋の分担分Vsd、炭素繊維シートの分担分VCFdの和であり、補強される鉄筋コンクリート柱が同じであれば、設計せん断耐力Vuは炭素繊維シートの分担分VCFdによって増減する。じん性補強における炭素繊維シートの曲げ耐力に対する寄与分は、せん断耐力に対する寄与分より小さいため、炭素繊維シートの補強量に応じてせん断余裕度が変化することになる。従って、同じ炭素繊維シートを使用するのであれば、せん断余裕度が低いほど炭素繊維使用量が少なくなる。
【0023】
本発明の間隔を空けて巻き付けるじん性補強方法では、少ないせん断余裕度において高いじん性能が得られることから、じん性補強設計に際して、あらかじめ低いせん断余裕度に設計しても十分なじん性補強が可能となる。すなわち、炭素繊維の使用量を低減できることになる。特に本発明では、炭素繊維量の削減は、設計じん性率が低い場合に期待できる。
【0024】
本発明では、じん性補強区間に対し、炭素繊維含有補強材料を所定の間隔を空けて巻き付けて補強する。つまり、じん性補強区間全面に補強材料を巻き付けるのではなく、補強材料を巻き付ける部分と巻き付けない部分とが交互になる。この結果、部材にかかる力が適度に分散し、終局時に鉄筋のはらみ出し自体を防止することができる。従来の炭素繊維シート巻き立てによる全区間補強方法では、主鉄筋の座屈の開始を抑制する効果はあまりないと考えられていた(たとえば、「論文 炭素繊維巻立て補強橋脚の変形性能に関する検討」コンクリート工学年次論文集、Vol.22,No.3,2000,p235-240参照)が、本発明の工法により主鉄筋のはらみ出し(座屈)が抑制できるという効果は、全く予測し得ない効果である。従来の炭素繊維シート巻き立てによる全区間補強では、特に基部から1.5D以下の塑性ヒンジ領域に大きなひずみとなって力が加わり、鉄筋のはらみ出しが生じており、補強部材が少ない場合にはそのはらみ出しにより補強部材が切断され、部材の脆性的破壊をもたらしていた。そのため、設計じん性率が低い場合にも安全性を考慮して多くの炭素繊維量が必要であったが、本発明では少ない補強量で高いじん性能が得られると共に、終局時の鉄筋はらみ出しが防止される結果、脆性的な破壊をも防止できるという優れた効果を有するものである。
【0025】
所定の間隔を空けて巻き付ける方法としては、図1に示すように、RC柱の材軸方向に直角な方向に縞状に巻き付ける方法(フープ巻き)(同図(a))、柱の材軸方向に斜めに巻き付ける方法があり、斜めに巻き付ける場合には、長尺の補強材料を使用して螺旋状に巻き付ける(スパイラル巻き)こともできる(同図(b))。なお、斜めに螺旋状に巻き付ける場合においても、同図(b)に示すように、開始部と終端部とは、固定を容易にするために材軸方向に直角な方向に巻き付けるのが望ましい。
【0026】
鉄筋コンクリート製柱では、材軸方向に配される主筋と、この主筋を取り巻くように所定間隔で配される帯筋とが配筋されている。帯筋は、旧建築基準においてもD/2以下のピッチで配筋することが規定されていた。本発明では、この帯筋よりも狭いピッチで帯状に炭素繊維含有補強材料で補強する必要がある。本発明ではP/Dが1/3以下となるように補強材料を巻き付ける。また、ピッチPがあまりに狭くなりすぎると、全面補強と差がなくなり、本発明の効果が得られなくなる。従って、5cm以上のピッチで補強を行う。
【0027】
補強部材の巻き付け幅Wと補強ピッチPとの関係を図2に示す。同図(a)は、補強部材の幅が巻き付け幅Wに一致する場合を示すもので、ここでは炭素繊維シート帯の例を示している。同図(b)は補強部材の巻き付け幅Wよりも狭い部材幅の補強部材で補強した場合を示しており、ここでは、紐状の部材で補強した場合を示している。炭素繊維含有補強材料の巻き付け幅Wは、上記ピッチPにおいて補強部材間に隙間が形成される幅とすればよい。たとえば、最小ピッチの5cmとする場合は、それよりも狭い幅、たとえば3cmの幅とすればよい。ここで、所定の補強量を得るために、ピッチを広くとると各縞の断面を大きくする必要がある。このため、巻き付け幅Wを広げるか、断面高さHを高く(積層数を増やす)する必要がある。断面高さHが巻き付け幅Wにおいて、W/Hで表されるアスペクト比が1以上、好ましくは1.5以上となるように幅Wと高さHを決定すればよい。炭素繊維シート帯を用いる場合、幅1cm〜10cmの範囲内であって、W/Pが1/2以下となる帯をその部材幅で所用枚数使用するのが望ましく、また、組紐等の場合も、巻き付け幅Wが1〜10cmの範囲内であって、W/Pが1/2以下となるように所定数巻き回して巻き付けるのが望ましい。さらには、幅Wを2〜5cmとし、本発明の規定の範囲内でより狭ピッチとすることがより好ましい。
【0028】
<補強材料>
本発明で使用する炭素繊維含有補強材料としては、一方向に配向した炭素繊維シートの帯や、炭素繊維フィラメントを収束させたストランド、ストランドを撚り合わせたロープ及び紐、さらには炭素繊維フィラメントを組み打ちした組紐などが使用できる。
【0029】
本発明で使用する組紐(「打ち紐」とも呼ばれる)とは、機械製造されるもので、大きく分けて8打(ヤツウチ)、16打(ジュウロクウチ)、金剛打(コンゴウウチ)、その他多数打ち紐に分類される。又、扁平な形状に組む平打ちと、丸く組む丸打ちとがある。図3に、丸打ちにした組紐側面の概略図を示す。特に、組紐を用いると、後述する実施例に示すように、少ないせん断余裕度で極めて高いじん性率を達成することができる。
【0030】
使用する強化繊維は、炭素繊維を使用するが、ガラス繊維、アラミド繊維、その他有機繊維等を問題のない範囲で混合して使用することができ、その用途に応じて適宜選択することができる。使用する炭素繊維としては、例えば、JIS K 7073に準拠した炭素繊維強化プラスチックの引張試験方法において、高強度タイプでは、2.45×105N/mm2、中弾性タイプでは4.40×105N/mm2、高弾性タイプでは6.40×105N/mm2の引張弾性率を有する材料を使用する。
【0031】
さらに本発明では、炭素繊維等の強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸して補強材料とする。含浸する樹脂は、常温硬化型あるいは熱硬化型のエポキシ樹脂、ポリエステル系樹脂などの熱硬化性樹脂、メチルメタクリレート等のラジカル反応系樹脂などが使用できる。特に、常温硬化型のエポキシ系樹脂を用いるのが好ましく、例えば、コニシ(株)製の商品名「ボンドE2500」シリーズ、「ボンドE206」シリーズなどが使用できる。
【0032】
<補強方法>
本発明では、炭素繊維含有補強材料を柱などのコンクリート構造物の周囲に所定の間隔を空けて巻き付けて補強を行う。補強量は、非特許文献1のじん性補強設計に示されているように、構造物の降伏震度、等価固有周期から設計塑性率(設計じん性率)を求め、非特許文献1の設計補強じん性率の評価式に準拠して、安全側に設計される。従来の全区間補強では、終局時の鉄筋はらみ出しによる強化繊維の破断を加味して、設計じん性率が比較的低くても良い場合でも、評価式から計算される補強量よりも多めに補強する必要があるが、本発明では評価式から計算される補強量で十分以上の効果を有しており、評価式から計算される補強量よりも少ない補強量でも高いじん性補強効果を示す。後述の実施例に示すように、本発明ではせん断余裕度2.2でじん性率7を達成できることから、これを目安に補強量の低減を図ることができる。
【0033】
鉄筋コンクリート製の柱をじん性補強するには、非特許文献1に記載されるように、柱の上下端部から2Dのじん性補強区間に対して施工を行う。2Dのじん性補強区間を越えてせん断補強区間に及んだとしても問題はないが、せん断補強を行うには、じん性補強の補強量ではオーバースペックとなるため、無駄となる。たとえば、3cm幅の炭素繊維シートを用いてその部材幅を巻き付け幅Wとし、10cmピッチで補強する場合、じん性率10を達成するには約5層のまき付けが必要となるが、必要なせん断性能を達成するには、同じピッチでまき付けを行うと約0.2層となる。つまり、25倍も補強量が異なっている。しかしながら、本発明においても、従来と同様に、じん性補強とせん断補強とを併せて行うことは好ましい。じん性補強区間を除くせん断補強区間の補強方法は、特に限定されるものではなく、従来の方法が適用できる。特に、柱全体に応力を分散させるためには、せん断補強部分にも間隔を空けて補強を行う工法を適用することが好ましい。たとえば、図4に示すように、じん性補強区間に対しては本発明の工法によるじん性補強を施し、じん性補強区間を除くせん断補強区間には、ピッチを広げたり、積層回数を減らすなどして補強量を減らしてせん断補強を行うことができる。
【0034】
又、柱等の断面が矩形の場合、角部に面取り処理を施し、R形状を形成しておくことが好ましい。さらに、表面の美観を保持したり、補強部材の耐久性をさらに向上するために、補強部材を巻き付けた表面に仕上げ用モルタルを塗ったり、塗料などを吹き付けたりして仕上げを行うことができる。又、巻き付け部の柱に浅い溝を穿設し、該溝に補強部材を埋め込むように巻回した後モルタル等で埋め込むことで、柱の外観形状を保持したままで補強することもできる。なお、本発明では、従来のシート貼り付け工法において行われていた段差処理等の大がかりな下地処理は不要となるため、そのような段差のある構造物に対しては、その分、工期及びコストの低減が図れる。
【0035】
又、補強部位には補強部材とコンクリートとの接着性を向上するため、プライマー処理を施すことは好ましい態様である。プライマーとしては、補強部材への含浸樹脂と同様に、常温硬化型あるいは熱硬化型のエポキシ樹脂、ポリエステル系樹脂などの熱硬化型接着剤などが好ましく使用できる。例えば、コニシ(株)製商品名「ボンドE800」シリーズなどのプライマーが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例においては、補強効果を確認するために、以下の試験方法により評価を行った。
【0037】
<試験体>
試験体は図5に示すように、符号12で示されるスタブ部分1200mm×1200mm×500mm、柱部分300mm×300mm×1000mm(主筋13:12−D19,帯筋14:6φ@200)のRC柱11を使用した。試験体の作成には、鋼製型枠を使用し、コンクリート打設後7日間で脱型した後、屋内で養生を行った。この試験体のコーナー部はR=20mmの面取りを行ったのち、炭素繊維による補強を行った。
【0038】
<補強部材>
使用した炭素繊維は、東レ製商品名「トレカT700S-12K」(引張強度=4900MPa、引張弾性率=230GPa、TEX=800g/km)を使用し、組紐には、5本7束で組み上げ、幅15mm、重量30g/mとした。又、帯には同じ炭素繊維を用いて、幅30mm、重量30g/mの直線状の帯を作製した。
【0039】
このように作製した組紐及び帯に、エポキシ系樹脂(コニシ(株)製商品名「ボンドE2500」)を含浸し、補強部材を作製した。各作製された補強部材の物性を下記表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
<載荷試験>
試験体の補強区間全面にプライマー(コニシ(株)製商品名「ボンドE810L」)を塗布し、縞状(フープ巻)に補強部材を巻き付けた。補強部材の巻き付け量は、(財)鉄道総合技術研究所「炭素繊維シートによる鉄道高架橋柱の耐震補強工法 設計・施工指針」に準拠(設計式は μ=2.8+1.15×(Vu・a/Mu))して決定した。載荷試験は、CF組紐、CF帯を施工後、室温で7日間養生した後に実施した。各組合せについて表2に示す。
【0042】
試験体はスタブ部分をPC鋼棒によって反力床に固定し、頂部に圧縮応力1N/mm2に相当する一定軸力の鉛直載荷を加え、柱高さ800mmの位置で水平方向に正負交番繰返し載荷を行った。
【0043】
【表2】
【0044】
計測は、載荷荷重をロードセルで、試験体の変位を変位計で柱各所の変位を測定した。計測は試験体が破壊に至るまで、あるいは試験機の変形性能の限界(15δ)まで荷重を付与して実施した。試験終了時の挙動について、表3に示す。又、変位と荷重との関係を示す荷重−変位曲線を、図6〜10にそれぞれ示す。
【0045】
【表3】
【0046】
図11に、せん断余裕度と最大じん性能実験値との関係を示す。図11には、非特許文献1の設計補強じん性率の評価式もあわせて示す。図11から明らかなとおり、CF帯を使用した試験体(No.2〜4)では、炭素繊維シートで設計した最大じん性能とほぼ匹敵する結果が得られた。組紐状CFを使用した試験体(No.5)では、炭素繊維シートで設計した最大じん性能より格段に優れた結果となった。また本発明を適用した試験体(No.2〜5)では、いずれも終局時に主鉄筋のはらみ出しは見られず、CF補強材の破断、脆性的な破壊は生じなかった。また、何れの場合も試験後の表面状態の確認が容易であった。
【0047】
実験値のじん性率を満足するために必要な炭素繊維量を仕様書評価式から計算すると下表のとおりとなる。No.4の結果からは、最大じん性能が低くても良い場合には、炭素繊維量の削減効果が確認できた。なお、炭素繊維シートによる全面補強の実際の施工にあたっては、終局時の鉄筋のはらみ出しによるシート破断を考慮して、さらに多くの炭素繊維が使用されることを考慮すれば、本発明の方法では、この数値以上の削減効果が期待できる。また、組紐状CFを用いたNo.5でも、炭素繊維量の削減効果が確認された。
【0048】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】補強部材の巻き付け方法を説明する図であり、(a)は縞状に、(b)は螺旋状に巻いた状態を示す。
【図2】補強部材の巻き付け幅Wと巻き付け間隔Pとの関係を説明する図であり、(a)は帯状の補強部材を用いた場合、(b)は紐状の補強部材を用いた場合を示す。
【図3】組紐状炭素繊維補強部材の概略側面図を示す。
【図4】本発明によるじん性補強方法とせん断補強方法とを組み合わせた補強方法を示す図である。
【図5】実施例で使用した試験体(コンクリート柱)を説明する図である。
【図6】試験体No.1(無補強時)の荷重−変位曲線を示すグラフである。
【図7】試験体No.2(帯、5cmピッチ)の荷重−変位曲線を示すグラフである。
【図8】試験体No.3(帯、10cmピッチ)の荷重−変位曲線を示すグラフである。
【図9】試験体No.4(帯、10cmピッチ)の荷重−変位曲線を示すグラフである。
【図10】試験体No.5(組紐、10cmピッチ)の荷重−変位曲線を示すグラフである。
【図11】せん断余裕度とじん性率との関係を示すグラフである。
【図12】柱部材のじん性補強区間とせん断補強区間を説明する図である。
【図13】RC柱の終局時の破壊状況を説明する図である。
【図14】従来工法(シート工法)における下地処理(段差処理)を説明する図である。
【符号の説明】
【0050】
1、11 鉄筋コンクリート(RC)柱
2 補強部材
12 スタブ
13 主筋
14 帯筋
P ピッチ
W 巻き付け幅
H 巻き付け高さ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート製柱状構造物の上下端部から2D(Dは柱断面高さを示す)以下のじん性補強区間に炭素繊維含有補強材料を柱状構造物の端部より巻き付け間隔(P)が、5cm以上であり、P/Dが1/3以下となるように所定間隔を空けて巻き付け補強することを特徴とする鉄筋コンクリート製柱状構造物のじん性補強方法。
【請求項2】
前記炭素繊維含有補強材料として、幅(W)が1cm〜10cmの範囲内であって、W/Pが1/2以下となる炭素繊維を一方向に配向した炭素繊維シート帯を用い、その部材幅で所用枚数巻き付けることを特徴とする請求項1に記載の鉄筋コンクリート製柱状構造物のじん性補強方法。
【請求項3】
前記炭素繊維含有補強材料として、組紐状炭素繊維含有補強材料を用い、所定数巻き回して幅(W)が1cm〜10cmの範囲内であって、W/Pが1/2以下となるように巻き付けることを特徴とする請求項1に記載の鉄筋コンクリート製柱状構造物のじん性補強方法。
【請求項1】
鉄筋コンクリート製柱状構造物の上下端部から2D(Dは柱断面高さを示す)以下のじん性補強区間に炭素繊維含有補強材料を柱状構造物の端部より巻き付け間隔(P)が、5cm以上であり、P/Dが1/3以下となるように所定間隔を空けて巻き付け補強することを特徴とする鉄筋コンクリート製柱状構造物のじん性補強方法。
【請求項2】
前記炭素繊維含有補強材料として、幅(W)が1cm〜10cmの範囲内であって、W/Pが1/2以下となる炭素繊維を一方向に配向した炭素繊維シート帯を用い、その部材幅で所用枚数巻き付けることを特徴とする請求項1に記載の鉄筋コンクリート製柱状構造物のじん性補強方法。
【請求項3】
前記炭素繊維含有補強材料として、組紐状炭素繊維含有補強材料を用い、所定数巻き回して幅(W)が1cm〜10cmの範囲内であって、W/Pが1/2以下となるように巻き付けることを特徴とする請求項1に記載の鉄筋コンクリート製柱状構造物のじん性補強方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−332667(P2007−332667A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165932(P2006−165932)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(593171673)広成建設株式会社 (8)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【出願人】(592105620)ジェイアール西日本コンサルタンツ株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(593171673)広成建設株式会社 (8)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【出願人】(592105620)ジェイアール西日本コンサルタンツ株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
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