説明

炭素繊維強化樹脂成形材料の製造方法及び炭素繊維強化樹脂成形材料

【課題】簡便且つ低コストで外観性の良好な炭素繊維強化樹脂成形材料の製造技術の提供
【解決手段】開繊済みの炭素繊維11と、樹脂12とからなる炭素繊維強化樹脂成形材料10の製造方法において、炭素繊維21を裁断する裁断工程と、裁断された炭素繊維11を樹脂12に落下させる落下工程と、樹脂12に刺さった炭素繊維11を、所定の方向へ配向する配向工程と、配向された炭素繊維11へ樹脂12を含浸させる含浸工程と、からなることを特徴とする。
【効果】樹脂12に刺さった炭素繊維11を、所定の方向へ配向する。炭素繊維11を所定の方向へ配向することにより、炭素繊維11の折れを防止することができる。炭素繊維11の折れが発生しなければ、製品の外観を良好に保つことができる。簡便且つ低コストで外観性の良好な炭素繊維強化樹脂成形材料10を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開繊済みの炭素繊維と、樹脂とからなる炭素繊維強化樹脂成形材料の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車体の軽量化を目的として、炭素繊維に樹脂を含浸させた炭素繊維強化樹脂成形材料が車体の外板パネル等に用いられる。
このような炭素繊維強化樹脂成形材料は次図に示されるような装置によって製造される。
【0003】
図4は従来の炭素繊維強化樹脂成形材料の製造方法を説明する図であり、(a)に示される炭素繊維強化樹脂成形材料製造装置100は、予め開繊処理されたシート状の炭素繊維101を供給する炭素繊維供給ローラ102と、供給された炭素繊維101を所定の長さに裁断して落下させる裁断機103と、下部ベルトコンベア104と、この下部ベルトコンベア104上の下部フィルム104Fに載せられる下部樹脂107と、この下部樹脂107の上に落下される炭素繊維108と、上部ベルトコンベア109上の上部フィルム109Fにより供給され下部樹脂107に重なるように供給される上部樹脂111と、含浸を促すために上部樹脂111を下部樹脂107に向かって加圧する含浸ローラ112とからなる。
【0004】
下部樹脂107に裁断済みの炭素繊維108が落とされ、その上に上部樹脂111が重ねられて、含浸ローラ112で圧縮されることにより、炭素繊維に樹脂が含浸された炭素繊維強化樹脂成形材料120が製造される。
【0005】
ところで、(a)のb部拡大図である(b)に示すように、含浸ローラ112の手前では、炭素繊維108は自由落下に任せているため、図で左に傾斜した形態の炭素繊維108cや起立した形態の炭素繊維108bや図で右に傾斜した形態の炭素繊維108a、108d、108gが、下部樹脂107に分散される。これらは上部樹脂111を介して含浸ローラ112で強く圧縮されるため、上部・下部ベルトコンベア109、104間では、くの字状に折れ曲がった形態の炭素繊維108e、108fになることがある。
【0006】
図5は従来の炭素繊維強化樹脂成形材料を説明する図であり、(a)に示されるように、折られた炭素繊維108h、108i、108jの一部(108h、108k)は繊維配向が垂直で他と異なることにより、収縮率が異なる。収縮率が異なることにより、上部樹脂111を突き上げ凸部122を形成する。
(b)に示すように凸部122が炭素繊維強化樹脂成形材料120の表面に表れると、炭素繊維強化樹脂成形材料120の外観を害する。そこで、外観を良好にする対策が必要となる。
【0007】
従来、外観を良好にする技術として炭素繊維強化シート状成形材料が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2001−348440公報(第1頁)
【0008】
特許文献1の第1頁[請求項1]には、「炭素繊維からなる短繊維が熱硬化性樹脂中に分散したシート状成形材料において、炭素繊維からなる不織布が表面近傍に配備されていることを特徴とする炭素繊維強化シート状成形材料。」と記載されている。
【0009】
即ち、図5(b)に示されるような炭素繊維強化樹脂成形材料120の表面を不織布で覆うことにより、外観を良好にしようとするものである。
たしかに、外観は良好になるが、反面、不織布の調達費用及び炭素繊維強化樹脂成形材料120の表面を不織布で覆う手間がかかり、製造コストが嵩む。
【0010】
そこで、簡便且つ低コストで外観性の良好な炭素繊維強化樹脂成形材料の製造技術が望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、簡便且つ低コストで外観性の良好な炭素繊維強化樹脂成形材料の製造技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、開繊済みの炭素繊維と、樹脂とからなる炭素繊維強化樹脂成形材料の製造方法において、
前記炭素繊維を裁断する裁断工程と、
裁断された炭素繊維を前記樹脂に落下させる落下工程と、
前記樹脂に刺さった前記炭素繊維を、所定の方向へ配向する配向工程と、
配向された前記炭素繊維へ前記樹脂を含浸させる含浸工程と、からなることを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の炭素繊維強化樹脂成形材料の製造方法で製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、樹脂に刺さった炭素繊維を、所定の方向へ配向する。炭素繊維を所定の方向へ配向することにより、炭素繊維の折れを防止することができる。
炭素繊維の配向は、炭素繊維強化樹脂成形材料製造装置にガイド部材を設ける等の手段により容易に行うことができる。
【0015】
加えて、炭素繊維の折れが防止されるため、炭素繊維強化樹脂成形材料を不織布等で覆う必要がなくなった。この結果、低コストで外観性の良好な炭素繊維強化樹脂成形材料を製造することができる。
【0016】
請求項2に係る発明では、表面が滑らかで外観が良好な炭素繊維強化樹脂成形材料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は本発明に係る炭素繊維強化樹脂成形材料を説明する図であり、炭素繊維強化樹脂成形材料10は、開繊された炭素繊維11と、この炭素繊維11を含浸するための不飽和ポリエステル等の樹脂12とから構成される。
このような炭素繊維強化樹脂成形材料10を製造するための装置を、次図で説明する。
【0018】
図2は本発明に係る炭素繊維強化樹脂成形材料の製造装置を説明する図であり、炭素繊維強化樹脂成形材料製造装置20は、予め開繊処置されたシート状の炭素繊維21を供給する炭素繊維供給ローラ22と、供給された炭素繊維21を所定の長さに裁断して落下させる裁断機23と、下部ベルトコンベア24と、この下部ベルトコンベア24上の下部フィルム24Fに載せられる下部樹脂27と、この下部樹脂27の上に下される炭素繊維11と、炭素繊維11を所定の方向に配向するためのガイド部材29と、上部ベルトコンベア31上の上部フィルム31Fにより供給され下部樹脂27に重なるように供給される上部樹脂33と、含浸を促すために上部樹脂33を下部樹脂27に向かって加圧する含浸ローラ34とからなる。
【0019】
ガイド部材29は図示するように、含浸ローラ34の近傍で且つ含浸ローラ34よりも裁断機23よりの部位に設けられる。
【0020】
下部樹脂27に裁断済みの炭素繊維11が落とされ、その上に上部樹脂33が重ねられて、含浸ローラ34で圧縮されることにより、炭素繊維に樹脂が含浸された炭素繊維強化樹脂成形材料10が製造される。
【0021】
樹脂は、上部樹脂33及び下部樹脂27から構成されるが、含浸ローラ34により、加圧及び含浸されることにより上部及び下部樹脂33、27は一体的に形成される。
従って、炭素繊維強化樹脂成形材料10が成形されると、上部樹脂33及び下部樹脂27の区別はつかなくなる。
【0022】
ガイド部材29にはワイヤーを用いることができる。ワイヤーは、安価且つ丈夫であり、炭素繊維強化樹脂成形材料製造装置20に容易に取り付けることができる。
なお、ガイド部材29には、糸状、紐状及び棒状のものの他治具であっても用いることができる。即ち、炭素繊維を所定の方向に配向することができるものであればこれらのものに限られない。
次図においてガイド部材の作用について説明する。
【0023】
図3は本発明に係るガイド部材の作用を説明する図であり、(a)に示されるように、下部樹脂27及び炭素繊維11は一体的に(1)矢印で示される方向に移動される。
【0024】
ガイド部材29の下面部37よりも上方に突出している炭素繊維11は、(b)に示されるように、下部樹脂27が図面右方向に移動しようとする力により、固定されたガイド部材29に摺接するように下面部37の位置まで倒される。
即ち、炭素繊維11が所定の方向に配向されたということができる。
【0025】
ガイド部材29により倒された炭素繊維11は、(c)に示されるように、含浸ローラ34が配置される位置まで移動される。炭素繊維11はガイド部材29により下面部37よりも低い位置に倒される。下面部37は想像線で示される含浸ローラの下端部38よりも低い位置に配置される。含浸ローラ34の加圧力により炭素繊維11が折られる心配はなくなる。
【0026】
含浸ローラ34により、炭素繊維11、下部樹脂27及び上部樹脂33は含浸され、(d)に示されるように加圧ローラ39で更に加圧される。
以上により、図1に示す炭素繊維強化樹脂成形材料10が得られる。
【0027】
次に、発明の確からしさを実験で確認する。炭素繊維の開繊及び非開繊を変更し、また、所定の方向へ配向する工程の有無を変更し、実験を行った。
【0028】
(実験例)
本発明に係る実験例を以下に述べる。なお、本発明は実験例に限定されるものではない。
【0029】
○実験の概要:
実施例では、(1)開繊工程及び(2)含浸工程で含浸体を得る。この含浸体に、(3)熱キュアリング工程により硬化処理を施し、得られた硬化物について(4)表面粗さ測定工程を実施する。
比較例は、(1)開繊工程、(2)含浸工程、(3)熱キュアリング工程及び(4)表面粗さ測定工程を実施するが、(2)含浸工程の内容が実施例とは異なる。
【0030】
○開繊工程:
・炭素繊維:東邦テナックス製HTA−12K−E30
・開繊処理:供給エア圧0.5MPa、送風口径50mm、繊維進行速度毎分1m条件で空圧により炭素繊維を開繊した。
【0031】
○含浸工程:
・含浸樹脂材料:
高反応性ポリエステル:100重量部
炭酸カルシウム:180重量部
酢ビ系エラストマー:6重量部
硬化剤:1重量部
増粘剤:1重量部
【0032】
・実施例の含浸機:月島機械製のSMC製造設備、ただし図2の形態。すなわち、配向用ガイド部材あり。
・比較例の含浸機:月島機械製のSMC製造設備、ただし図4の形態。すなわち、配向用ガイド部材なし。
【0033】
○熱キュアリング工程:
・成形機:川崎油工製200トンプレス
・熱キュアリング:キャビティ寸法が300mm×300mmの金型に、160mm×160mmに裁断した炭素繊維強化樹脂成形材料(含浸体)を投入する。そして、金型中央部に載せた炭素繊維強化樹脂成形材料(含浸体)に、金型温度140°C、型締め時間4分、型締め圧力10MPaの条件で硬化処理を行う。
【0034】
○表面粗さ測定工程:
・粗さ測定器:ミツトヨ製SV300CNC
・測定範囲:50mm
・測定項目:最大高さ粗さRz(JIS B0601で規定される、最大高さ粗さ)
【0035】
以上の実験の結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表面粗さRzの評価の欄の基準をRa≦5μmを合格とし、Ra>5μmを不合格とした場合、炭素繊維を所定の方向に配向した実施例では4.5μmで合格であった。一方、炭素繊維を所定の方向に配向しなかった比較例では9.3μmで不合格であった。
【0038】
この原因としては、炭素繊維が下部樹脂から突出していることが考えられる。そこで、炭素繊維の立ち数を計測した。炭素繊維の立ち数を参考の欄に示す。なお、炭素繊維の立ち数Lは、含浸ローラ(図2及び図4の含浸ローラ34、112)で含浸される直前に立っていた単位面積あたり(1m)の炭素繊維の数と定義した。即ち、炭素繊維の立ち数LをL(本/m)で表す。
【0039】
実施例では、ガイド部材により炭素繊維が所定の方向に配向されるため、炭素繊維立ちは0(本/m)であり、炭素繊維の折れが発生しない。炭素繊維の折れが発生しないため、炭素繊維のばね作用による凹凸が硬化物の表面に生じず、表面粗さRzが小さくなったものと考えられる。
【0040】
一方、比較例では炭素繊維立ちLが23(本/m)であった。これらの炭素繊維は、含浸工程で含浸ローラに折られる。含浸ローラで折られた炭素繊維のうち一部の炭素繊維のばね作用により、硬化物の表面には凹凸ができるものと考えられる。
【0041】
即ち、本発明に係る実施例では炭素繊維を所定の方向へ配向することにより、炭素繊維の折れを防止することができる。炭素繊維の配向は、炭素繊維強化樹脂成形材料製造装置にガイド部材を設ける等の手段により容易に行うことができる。折れを防止することにより、簡便且つ低コストで表面が滑らかで外観が良好な炭素繊維強化樹脂成形材料を提供することができるということができる。
【0042】
尚、本発明の炭素繊維強化樹脂成形材料は車両の外板パネルの他、二輪車、船艇及び飛行機等にも用いることができ、用途は限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の炭素繊維強化樹脂成形材料は、車両の外板パネルに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る炭素繊維強化樹脂成形材料を説明する図である。
【図2】本発明に係る炭素繊維強化樹脂成形材料の製造装置を説明する図である。
【図3】本発明に係るガイド部材の作用を説明する図である。
【図4】従来の炭素繊維強化樹脂成形材料の製造方法を説明する図である。
【図5】従来の炭素繊維強化樹脂成形材料を説明する図である。
【符号の説明】
【0045】
10…炭素繊維強化樹脂成形材料、11…炭素繊維、12…樹脂、20…炭素繊維強化樹脂成形材料製造装置、21…シート状の炭素繊維、23…裁断機、29…ガイド部材、34…含浸ローラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開繊済みの炭素繊維と、樹脂とからなる炭素繊維強化樹脂成形材料の製造方法において、
前記炭素繊維を裁断する裁断工程と、
裁断された炭素繊維を前記樹脂に落下させる落下工程と、
前記樹脂上に落下した前記炭素繊維を、所定の方向へ配向する配向工程と、
配向された前記炭素繊維へ前記樹脂を含浸させる含浸工程と、からなることを特徴とする炭素繊維強化樹脂成形材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の炭素繊維強化樹脂成形材料の製造方法で製造されたことを特徴とする炭素繊維強化樹脂成形材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−191238(P2009−191238A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36400(P2008−36400)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(503090980)ジャパンコンポジット株式会社 (38)
【Fターム(参考)】