説明

炭素繊維強化炭素からの成形物体の製造

【課題】炭素繊維からなる強化材を含む炭素マトリックスから成形物体を製造するに当たり、繊維束から所定の寸法を持つ強化材を形成可能とし、成形材料に混入するとき束内で繊維の結合および平行な空間的配置を維持可能にする。
【解決手段】形状安定的に硬化した炭化可能な結合剤で結合され、平行に整列した炭素繊維から調整された所定の長さ、幅および厚さを有する束を製造し、繊維束と炭化可能なマトリックス形成剤と選択的補助物質とを混合して成形材料を製造し、ニアネットシェープ成形型内で温度を高めて成形材料を加圧してニアネットシェープ素地を製造し、炭化可能なマトリックス形成剤を硬化させ、引き続き離型し、素地を炭化させ、炭化した成形物体とし、炭化した成形物体を炭化可能なマトリックス形成剤で選択的に再含浸して炭化し、CVI法で炭素マトリックスを析出することで、炭化した成形物体を圧縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素短繊維で強化された炭素から成形物体、例えばブレーキディスクを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化炭素マトリックス(CFRC材料)を含み、炭素/炭素複合材料(C/C材料)とも称される複合材料は、機械的および熱的負荷容量が高い特徴を有する。それ故に、これらの複合材料は特に高性能ブレーキ用、例えば飛行機用、又は競争スポーツにおける好適な材料である。
強化炭素繊維はしばしば平面的又は三次元的繊維形成物の形態で、例えば編織布又はニードルパンチド予備成形物として存在する。しかし両方の形態は比較的大きな製造費用を要し、複雑な幾何学形状に対して限定的な適応力を有するだけである。
選択案は、緩い短繊維および/又は短繊維束から繊維強化材を構成することにある。
複数の各種機能層を含む炭素繊維強化炭素からなる摩擦要素が特許文献1に開示されている。この摩擦要素は、機械的強度の高さで際立つ、代表的には10〜20mm厚の少なくとも1つの構造層と、好適な摩擦特性と高い耐摩耗性とを有する代表的には3〜7mm厚の少なくとも1つの摩擦層とを含む。
構造層の繊維強化材は比較的粗い組織を持ち、フィラメントストランド(ロービング)の束状セグメントにより形成される。セグメントは平均長さが5〜60mmであり、ほぼ平行に整列した1000〜320000本の個別フィラメントを含む。切断して束とされるフィラメントストランドは、束の分解を防止すべく予備含浸しておける。
摩擦層の繊維強化材は細かな組織のものであり、粉砕された個別フィラメント又は0.05〜60mm、有利には0.2〜2mmの平均長さを有する100本未満の個別フィラメントの束によって形成される。
構造層中の繊維束は、摩擦層中の個別繊維と同様に不規則に分布している。両方の層の間に繊維強化材および炭素マトリックスの組織への連続的移行部が存在し、層は一体部材を形成する。
特許文献1に開示されたのと同様に、繊維束をフィラメントストランドの切断により製造する場合、フィラメントストランドの予備含浸により束の分解は防止できる。しかしこうして得た束は、個別フィラメントの平均的長さと数とでのみ限定されており、適切に調整可能な所定の幅(並置された繊維の数に依存する繊維の長手広がりに垂直な寸法)および厚さ(重なり合った繊維の数に依存する長さおよび幅に垂直な寸法)を有していない。即ちフィラメントストランド内で、個別フィラメントは並置されていたり、重なり合っていたりし、それらの配置は外部条件(圧力、引張力、混合時の剪断力等)に強く左右される。含浸剤が硬化し、この時点での配置でフィラメントを固定する迄、フィラメントストランド又はそれから切断したセグメントはこれらの外部条件に曝されている。
【特許文献1】米国特許第5242746号明細書
【特許文献2】欧州特許出願第1645671号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、炭素繊維からなる強化材を含む炭素マトリックスから成形物体(C/C成形物体)を製造する方法であって、繊維束から所定の寸法を有する強化材を構成することを可能とし、成形材料に混入した際束内で繊維の結合と平行な空間的配置とを維持できる方法を提供することを目的とする。束内での繊維の所定の配置は炭素マトリックス内での強化繊維の適切な配置を可能とし、もって強化材の負荷に応じた設計を可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
炭素短繊維束で強化した炭素マトリックスから成形物体、殊にブレーキディスクを製造する本発明に係る方法は、以下の工程を含む。
形状安定的に硬化した炭化可能な結合剤で結合させ、平行に整列した炭素繊維から所定の長さ、幅および厚さを有する束を製造又は用意する工程、
繊維束と炭化可能なマトリックス形成剤と選択的補助物質とを混合して成形材料を製造する工程、
ニアネットシェープ成形型内で温度を高めて成形材料を加圧し、ニアネットシェープ素地を製造し、炭化可能なマトリックス形成剤を硬化させ、引き続き離型する工程、
素地を炭化させ、炭化した成形物体とする工程、
必要に応じ炭化した成形物体を機械的に再加工する工程、
炭化した成形物体を炭化可能なマトリックス形成剤で選択的に再含浸し、炭化する工程、および
CVI法で炭素マトリックスを析出することで、炭化した成形物体を圧縮する工程。
【0005】
本発明の第2の態様によれば、本方法は、以下の工程を含む。
炭化した結合剤により結合され、平行に整列した炭素繊維から所定の長さ、幅および厚さを有する束を製造又は用意する工程、
機械的に生成した流動床内で、炭化可能なマトリックス形成剤を繊維束に含浸する工程、
含浸した繊維束と炭化可能なマトリックス形成剤と選択的補助物質とを混合して成形材料を製造する工程、
ニアネットシェープ成形型内で温度を高めて成形材料を加圧することでニアネットシェープ素地を製造し、炭化可能なマトリックス形成剤を硬化させ、引き続き離型する工程、
素地を炭化させ、炭化した成形物体とする工程、
必要に応じ炭化した成形物体を機械的に再加工する工程、
炭化した成形物体に炭化可能なマトリックス形成剤を選択的に再含浸し、炭化する工程
および
CVI法で炭素マトリックスを析出することで、炭化した成形物体を圧縮する工程。
この操作様式では、繊維束を流動床内での含浸によって圧縮する。それ故に、含浸した繊維束を有する成形材料からなる素地と、それから得られる炭化した成形物体は、第1の態様におけるよりも強く圧縮される。それ故に第2方法変更態様では、炭化した成形物体をCVI析出によって圧縮するのに必要な時間は僅かである。
【0006】
本発明のその他の詳細、変更態様および諸利点を、以下の詳しい説明、実施例および図面から明らかにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
炭素繊維とは出発材料に係りなくあらゆる種類の炭素繊維を意味し、ポリアクリロニトリル繊維、ピッチ繊維、セルロース繊維が最も一般的な出発材料である。
【0008】
平行に整列した炭素繊維と形状安定的に硬化されたポリマー結合剤とを含み、所定の長さ、幅および厚さを持つ繊維束を製造する方法が特許文献2に開示されている。本発明用に適合する態様において、この方法は以下の工程を含む。
多数の平行な炭素繊維フィラメントを含む少なくとも1つのフィラメントストランドに炭化可能な結合剤を含浸させてプリプレグを得る工程、
少なくとも1つの含浸させたフィラメントストランド又は平行に配置し含浸させた複数のフィラメントストランドを加圧し、平行に配列したフィラメントからなる所定の厚さの積層体ウェブ(一方向積層体、以下でUD積層体と称す)とし、熱処理によって結合剤を硬化させ、こうして形状安定した所定の厚さの積層体ウェブを得る工程、および
必要に応じ個々の帯材に分離されたUD積層体ウェブを切断して所定の幅および長さのセグメント(繊維束)とする工程。
繊維を諸平面で並べて平行に配置するのを容易にすべく、フィラメントストランドは含浸前に扇状に広げるとよい。
プリプレグの結合剤質量含有率は25〜48%であり、選択した含浸条件に依存する。プリプレグは面積比重量は200〜500g/m2である。
単数又は複数の並置し、含浸したフィラメントストランドの形態のプリプレグを、ローラミル、カレンダ、ベルトプレス又は別の好適な連続的加圧装置内に通す。該加圧装置内で、前後に配置され、内法幅が減少する複数のローラニップによって、フィラメントストランドから過剰量の結合剤を押し出し、各ストランドが3つを超える、重なった繊維層を含むのでなく、実質平行に延びるフィラメントを有する単一の繊維層のみを含む迄ストランドを平らに圧縮するとよい。プリプレグの圧縮は暖状態(200℃迄の温度)で行い、炭化可能な結合剤は完全硬化するか、又は少なくとも、個別フィラメントがそれらの平行な配置で左右および上下で固定された形状安定したフィラメントストランドが得られる程度に迄硬化するかのいずれかである。
硬化した結合剤で結合した扁平なフィラメントストランドの冷却も、加圧装置内で行うとよい。連続的加圧装置からの進出時、平行フィラメントからなる厚さ0.15〜0.4mmの扁平な積層体ウェブ(一方向積層体、以下で「UD積層体」と称す)が生ずる。積層体ウェブは、取扱い性向上のため必要なら、20〜60mm幅の帯材に分離できる。
次にこのUD積層体ウェブ又は帯材を長さに従って、繊維束の所望の幅に一致した幅の条帯に切断する。このために、単数又は複数の並置された切断ローラが適する。積層体ウェブ又は帯材をまだ完全には硬化していない状態で、帯材経路中に張架したワイヤによって条帯へと切断することもできる。
条帯を、好ましくは連続的に作動する横切断機構に直接供給し、所望の長さのセグメント(繊維束)に切断する。しかし、条帯切断と別の操作で、別の速度で横切断を行ってもよい。この目的のために、選択した幅に切断した条帯をコイルに巻取って横切断機構へ搬送する。所望する長さへの条帯の連続的横切断は、ナイフローラで行うとよい。
こうして得た繊維束は均一な所定の長さ、幅および厚さを持つ。束の厚さ、即ち重なる繊維層の数は、フィラメントストランドを圧縮して積層体ウェブとする際に調整できる。束の幅、即ち繊維層に平行に並べられた繊維の数によって決まる、繊維方向に垂直な寸法は、積層体ウェブ又は帯材を条帯へと縦切断する際に調整できる。束の長さ、即ち繊維方向における寸法は、条帯をセグメント(繊維束)へと横切断する際に調整できる。こうして製造した繊維束の少なくとも90%は、長さが平均長さの90〜110%の間にあり、幅が平均幅の90〜110%の間にある。
こうして得た繊維束は極めて良好な取扱い性を示し、流動性で流し込み可能であり、容易に別の成分と混合して比較的均質な成形材料となる。束の内部で繊維は形状安定して硬化した結合剤により結合され、こうして束は更に加工時に分解することがなく、束内部の繊維はそれらの平行な空間的配置で固定されている。
本発明方法で特に適するのは、厚さ0.15〜0.4mm、長さ6〜15mm、幅0.5〜3.5mmの繊維束である。細い繊維束、即ち僅かな厚さ(極力単に1つの繊維層)と僅かな幅(最大1mm)とを有するものが好ましい。それは、こうして成形材料内で特別均一な繊維分布、そしてそれに伴い、成形材料の均一な密度と、成形物体の均一な組織を達成できるからである。成形物体の組織が均一であればある程、負荷の下で機能不全を起こす可能性は一層小さくなる。
【0009】
繊維束は、炭化可能なマトリックス形成剤と、必要に応じ補助物質と混合されて成形材料となる。
炭化可能なマトリックス形成剤とは、炭素含有ポリマー材料、例えば非酸化性雰囲気中での加熱時に実質炭素からなる熱分解残留物を生ずる樹脂である。炭化可能なマトリックス形成剤は、粉末状乾燥樹脂又は湿潤樹脂である。マトリックス形成剤として特にフェノール樹脂が適する。成形材料に占める繊維束の質量含有率は70〜80%である。乾燥樹脂をマトリックス形成剤として用いる際、混合過程は揺動回転型混合器内で行う。湿潤樹脂を使用する場合、例えばアイリッヒ混合器で達成可能な集中的完全混合が必要である。
繊維束内の形状安定的に硬化した結合剤が平行に並置した繊維を結合すると、マトリックス形成剤との混合時の繊維束の分解を防止できる。こうして、成形材料内の繊維束は十分に統一された所定の長さ、幅および厚さを示す。必要に応じ、例えば摩擦的性質を改善する炭化珪素等の補助物質、そして酸素流入時にガラス形成により酸化作用を妨げる、例えば炭化ジルコニウム、炭化タンタル又はホウ化タンタル等の酸化阻止物質を成形材料に加え得る。成形材料に占める補助物質の質量含有率は、合計して最高で10%である。
【0010】
本発明方法の有利な1展開では、成形材料の製造前に、繊維束に含まれた炭化可能な結合剤をまず炭化し、又は選択的にUD積層体内の結合剤を束の切断前に炭化する。こうして得た束は、炭化した結合剤で結合され、平行に整列した炭素繊維を含む。結合剤の炭化時の体積減少により、束は開放気孔であり、炭化可能な他のマトリックス形成剤を直接吸収する。炭化可能なマトリックス形成剤とは、炭素含有ポリマー材料、例えば非酸化性雰囲気中で加熱すると実質炭素からなる熱分解残留物を形成するフェノール樹脂である。
含浸した繊維束が表面に付着する樹脂で互いに粘着するのを防止すべく、含浸は機械的に生成した流動床内で行うとよい。これは羽根混合器で生成できる。炭素繊維束をまずフルード数1未満で混合しながら、樹脂の硬化又は乾燥に十分な温度に予熱する。引き続きフルード数を短時間1.5〜4、好ましくは最大2.5に高めつつ樹脂を添加し、その混入後、樹脂が完全に硬化又は乾燥して束がもはや互いに粘着し得なくなる迄、流動床を1未満のフルード数に保つ。
この含浸時、炭化した結合剤により結合されて平行に整列した炭素繊維からなる束は、炭化可能なマトリックス形成剤の固有質量の35%迄吸収する。
含浸プロセスの更なる詳細については、同じ出願人が同日に提出した特許出願「炭素繊維束の含浸方法」の明細書を参照されたい。
含浸した繊維束と、炭化可能なマトリックス形成剤と、必要に応じ補助物質とから、上記の方法で成形材料を製造できる。
【0011】
成形材料から、ニアネットシェープに設計した成形型を用いて素地、例えばブレーキディスクを製造できる。加圧は、代表的には1.5〜5N/mm2の圧力、120〜200℃の温度で行う。熱間押出が好ましい。硬化後、型から離型し、ニアネットシェープ素地を取り出す。
次工程で、素地内の炭化可能なマトリックス形成剤を炭素マトリックスに転換し、炭化した成形物体を得る。このため素地は保護ガス雰囲気中、即ち非酸化性条件の下で、実質炭素からなる残留物へとマトリックス形成剤の熱分解が起きる温度迄ゆっくり加熱し、この温度で一定時間保つ。ガス状熱分解生成物の急激な遊離に伴い成形物体内に亀裂が生じるのを防止すべく、加熱は十分にゆっくり行う。代表的には加熱を900℃に至る迄1K/分前後の速度で行い、次にこの温度に約1時間保つ。引き続き物体をゆっくりと再び室温に冷却する。炭化時、成形物体はマトリックス形成剤からのガス状熱分解生成物の分離に伴い質量が減少し、その結果多孔度が増加する。炭化した成形物体の密度は代表的には約1.3〜1.45g/cm3である。質量損失を補うべく、炭化した成形物体を炭化可能なマトリックス形成剤(樹脂又はピッチ)で再含浸し、次に再度炭化させるとよい。
【0012】
炭化した成形物体は、必要なら、機械的に再加工し得る。例えばブレーキディスクの場合には冷却通路を設け、又は穴を穿つことができる。
しかし、消失コアを用いて既に素地製造時にこのような賦形を行うこともできる。製造すべき空洞の寸法に一致した外寸法の消失コアを、製造すべき空洞の位置で成形材料内に挿入することで、空洞を含む成形物体を加圧法で製造することは周知である。加圧温度において殆ど残りなく熱分解し、こうして所望の空洞を残す材料でコアを形成できる。
【0013】
多孔質炭化成形物体を、化学的気相浸透(CVI)で炭素マトリックスを析出することにより再圧縮し、その密度を1.6〜1.8g/cm3の値に上昇させる。化学気相浸透による炭素析出法は周知である。好適な炭素供与体ガスはメタンである。
成形材料に混入前に繊維束を炭化可能なマトリックス形成剤で含浸し、一層密な素地とすることで、CVIによる再圧縮に必要な時間を約10〜30%減らし得る。炭化した成形物体を炭化可能なマトリックス形成剤で再含浸し、引き続き炭化しても、CVI用に必要な時間の匹敵する短縮が可能である。
【0014】
本発明により製造した成形物体内での繊維束の配列は不規則に、即ち統計的に分布させておくことができる。これが好ましいのは、物体があらゆる空間方向において近似的に均一な負荷に曝されるときである。
しかし特定方向に顕著な負荷を受ける成形物体には、負荷に即した繊維束の配列が望ましい。これは、繊維束を含む成形材料の成形型への注入時に、簡単な措置、例えば充填格子の使用により達成できる。
ブレーキディスクには、発生する引張り負荷に応じ、接線方向に繊維束を配置するとよい。このために使用する充填格子は、同心に配置した複数のリングを含む。
【実施例】
【0015】
本発明方法の1実施例を、ブレーキディスクの製造を例として以下に説明する。
【0016】
繊維束の製造
各々50000本のほぼ平行な個別フィラメントを含む炭素繊維ストランドにフェノール樹脂(Hexion社のNorsophen 1203)を含浸させ、樹脂の質量含有率35%、面積比重量320g/m2のプリプレグを作った。
このプリプレグを連続的に速度1m/分、圧力1MPa(10バール)、ベルトプレスで180℃において圧縮して厚さ200μmの積層体ウェブとし、同時に形状安定した積層体ウェブが得られる迄硬化させた。
UD積層体ウェブを次に各々50mm幅の個別帯材に分離した。帯材を上記の如く、長さ9.4mm、幅1mmのセグメント(繊維束)に裁断した。
【0017】
成形材料の製造
2400gの繊維束を揺動回転型混合器に移し、600gの粉末樹脂(Hexion社のフェノール樹脂SP227を炭化可能なマトリックス形成剤として)を注ぎかけ、5分間互いに混合した。
【0018】
素地の製造
成形型の注入過程を図1に略示する。製造すべきブレーキディスクの幾何学形状に一致したキャビティを有する成形型1に、繊維束3を含む成形材料を充填した。繊維束3の接線方向整列を達成すべく使用する充填格子2は複数の同心リングを含み、リング間の距離は繊維束3の長さよりも小さいか又はそれに等しくした。図2は、充填格子2が成形型1上にどのように配置しているかを概略的に示す。注入時、繊維束3を有する成形材料は充填格子2の同心リングの間の空隙を落下し、繊維束3は図3に略示した実質接線方向配置となる。充填した成形型を熱間押出で30分間、4.0N/mm2の圧力、160℃の温度に曝し、引き続き離型した。加圧過程の間にフェノール樹脂が硬化した。ブレーキディスクの形態のニアネットシェープ素地が得られた。
【0019】
炭化
素地を、保護ガス炉内で窒素雰囲気下に1K/分の加熱速度で900℃に加熱した。フェノール樹脂は実質炭素からなる残留物へと分解した。この温度に1時間保持した。その後、炭化した成形物体を室温に冷やした。
【0020】
CVIによる再圧縮
炭化した多孔質成形物体中に、化学気相浸透法(CVI)で炭素マトリックスを析出させた。CVIはメタンを炭素供与体として1100℃において行った。炭化した成形物体の密度は炭素析出に伴い1.3から1.8g/cm3に上昇した。
【0021】
ブレーキディスクの特性
フライホイールマス試験台で、μ=0.5〜0.6の摩擦係数を得た。繊維束の接線方向配列によって、曲げ試験で得たブレーキディスク強度は、繊維束を不規則に配置したブレーキディスクに比べて12〜20%上昇した。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】繊維束が接線方向で整列したブレーキディスク製造用の型の充填を示す。
【図2】充填格子を有する型を示す。
【図3】型内で充填格子によって調整された接線方向繊維配置を示す。
【符号の説明】
【0023】
1 成形型、2 充填格子、3 繊維束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維束で強化した炭素マトリックスから成形物体を製造する方法であって、以上の工程を含む方法。
形状安定的に硬化した炭化可能な結合剤によって結合され、平行に整列した炭素繊維から、所定の長さ、幅および厚さを有する束を製造又は用意する工程、
繊維束と炭化可能なマトリックス形成剤と選択的補助物質とを混合して成形材料を製造する工程、
ニアネットシェープ成形型内で温度を高めて成形材料を加圧してニアネットシェープ素地を製造し、炭化可能なマトリックス形成剤を硬化させ、引き続き離型する工程、
素地を炭化させ、炭化した成形物体とする工程、
必要に応じ炭化した成形物体を機械的に再加工する工程、および
CVI法で炭素マトリックスを析出することによって、炭化した成形物体を圧縮する工程。
【請求項2】
第1工程で製造又は用意した繊維束内の結合剤を炭化し、成形材料の製造前に繊維束を機械的に生成した流動床内で、炭化可能なマトリックス形成剤で再含浸することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
繊維束の製造が、以下の工程を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
多数の平行な炭素繊維フィラメントを含む少なくとも1つのフィラメントストランドに炭化可能な結合剤を含浸させてプリプレグを得る工程、
少なくとも1つの含浸させたフィラメントストランド又は平行に配置される複数の含浸させたフィラメントストランドを加圧して、平行に配列したフィラメントからなる所定の厚さの積層体ウェブ(UD積層体)とし、熱処理によって結合剤を硬化させ、こうして形状安定した限定的厚さの積層体ウェブを得る工程、および
必要に応じ個々の帯材に分離されたUD積層体ウェブを切断して限定的幅および長さのセグメント(繊維束)とする工程。
【請求項4】
繊維束の厚さを0.15〜0.4mm、繊維束の長さを6〜15mm、繊維束の幅を0.5〜3.5mmの値に調整することを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
繊維束の幅が1mmであることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
炭化可能なマトリックス形成剤がフェノール樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項7】
成形材料に占める繊維束の質量含有率が70〜80%であることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項8】
成形材料が、最高10%の質量含有率の補助物質を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項9】
成形材料が、炭化珪素等の摩擦的補助物質、炭化ジルコニウム、炭化タンタル又はホウ化タンタル等の酸化防止物質の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
成形材料を充填格子を通して成形型に注入し、繊維束を充填格子によって整列させることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項11】
素地の製造を、ニアネットシェープに設計した成形型を用いて1.5〜5N/mm2の範囲内の圧力、120〜200℃の温度において熱間押出で行うことを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項12】
炭化した成形物体を、化学気相浸透前に、炭化可能なマトリックス形成剤で再含浸し、その後に再度炭化することを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項13】
炭化した成形物体の再含浸用に使用する炭化したマトリックス形成剤が樹脂又はピッチであることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
化学気相浸透時メタンを炭素供与体として利用することを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項15】
成形物体がブレーキディスクであることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項16】
複数の同心リングを含む充填格子を通して成形材料を成形型に注入し、繊維束を接線方向に整列させることを特徴とする請求項15記載の方法。
【請求項17】
炭素繊維束で強化された炭素からなる成形物体であって、炭素マトリックスが、炭化可能なマトリックス形成剤の熱分解残留物と化学気相浸透(CVI)によって析出された炭素とを含むものにおいて、適切に調整された所定の寸法の炭素繊維が束内に存在し、束の厚さが0.15〜0.4mm、束の長さが6〜15mm、束の幅が0.5〜3.5mmに調整されており、炭素繊維が束内で平行に整列していることを特徴とする成形物体。
【請求項18】
繊維束の幅が1mmであることを特徴とする請求項17記載の成形物体。
【請求項19】
成形物体内で繊維束の配列が不規則であることを特徴とする請求項17又は18記載の成形物体。
【請求項20】
成形物体内の繊維束が成形物体の負荷方向に応じて整列していることを特徴とする請求項17又は18記載の成形物体。
【請求項21】
成形物体がブレーキディスクであり、このブレーキディスク内で繊維束が接線方向に配置されたことを特徴とする請求項17又は18記載の成形物体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−277087(P2007−277087A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99426(P2007−99426)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(501090803)エスゲーエル カーボン アクチエンゲゼルシャフト (47)
【Fターム(参考)】