説明

炭素繊維用サイズ剤、その水分散液、炭素繊維、及び炭素繊維強化複合材料

【課題】素繊維に対して安定した収束性と開繊性といった工程通過性を備えさせ、そして良好なマトリックス樹脂含浸性とを具備させ得る炭素繊維用サイズ剤を提供する。
【解決手段】所定範囲の125℃における表面自由エネルギー値を有する3種のエポキシ化合物からなる混合物(D)が水に分散している水分散液(d)と、下記の式(化1)で表される成分(E)が水に溶解した水溶液(e)とを、前記混合物(D)と前記成分(E)との質量比(D)/(E)が3/5〜3/1の範囲内となるように混合する。


(式中、R1、R2は水素又はアルキル基であって、R1、R2は同一であってもよく、異なっていてもよい。又m、nは、それぞれ1以上の整数であり、m+nが54〜100である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維用サイズ剤、その水分散液、炭素繊維、及び炭素繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等のマトリックス樹脂に炭素繊維を強化材として複合した炭素繊維強化複合材料は、航空宇宙用途や産業用途、或いは釣り竿、ゴルフクラブシャフト等の汎用スポーツ用途まで幅広く用いられている。かかる炭素繊維強化複合材料の製造において、炭素繊維をフィラメント又はトウの状態のまま引き揃え、ストランド状、シート状、織物又は編物状にした後、マトリックス樹脂と複合(含浸)して得られるプリプレグとして使用されることがある。中でも、離型紙上に薄くマトリックス樹脂を塗布した上に炭素繊維を一方向に並べる一方向炭素繊維プリプレグの製造や、樹脂浴中に炭素繊維を通過させるディッピング法などの製造において品質の高い繊維強化複合材料を成形し得るようにするためには、炭素繊維にマトリックス樹脂を含浸させる含浸工程において、数千本のフィラメントからなる炭素繊維束を均一に開繊させることにより、マトリックス樹脂の含浸が容易に行なえるようにすることが必要である。
【0003】
しかしながら、炭素繊維は伸度が小さくかつ脆い性質であるために機械的摩擦等によって毛羽が発生し易く、取り扱い性がすこぶる悪い。又マトリックス樹脂に対する濡れ性にも乏しいために、強化複合材料の強化材として使用したときに、該炭素繊維の強化材としての優れた性質を十分に発揮させることができない。
【0004】
一方、プリプレグを釣り竿やゴルフシャフト等といった管状の炭素繊維強化複合材料を成型する場合、一般にマンドレルと呼ばれる円錐状の金属製芯材に対して、予め所望の寸法に裁断してあるプリプレグを巻き付けた後、その上からプラスチック製フィルムを、該プラスチック製フィルムが少しずつオーバーラップするよう、張力をかけながら螺旋状に巻き付けた後、加熱硬化して管状の成形体を得る。
【0005】
この管状の炭素繊維強化複合材料の成型において、加熱条件等により硬化時にマンドレルの大径側から小径側に向かってプリプレグが移動する現象(以下、炉落ちと呼ぶ)が発生する場合がある。この炉落ちは、プラスチック製フィルムによりプリプレグが締め付けられている状況下で、加熱によりマトリックス樹脂が低粘度化して、樹脂の流動性が増加すると、マンドレルがテーパーを有しているため、大径側から小径側に分力が生じ、この方向にプリプレグが移動するために生じる現象である。炉落ちが発生すると、強化繊維は部分的に蛇行するため、外観品位の低下や著しく強度が低下する場合や小径部における反りの発生原因ともなる。
【0006】
我々の検討の結果、この「炉落ち」の現象は、プリプレグの樹脂含有率が高く、該プリプレグの表面にマトリックス樹脂が過剰に存在する場合や、もしくは急激に昇温して加熱する条件で硬化しようとした場合に発生する頻度が高いことが確認されている。
【0007】
さらにはプリプレグを構成する炭素繊維の線径が小さくなればなる程、マトリックス樹脂の炭素繊維束内部への浸透(含浸性)が低下する傾向にある。
【0008】
この「炉落ち」の現象の発生を防止するために、プリプレグ製造工程において、該プリプレグ表面にマトリックス樹脂が存在しないような製造条件を選ぶことは可能であるが、表面にマトリックス樹脂が殆ど存在しないようなプリプレグを用いて釣り竿やゴルフシャフト等といった管状の炭素繊維強化複合材料を成型する場合、プリプレグの粘着性が極端に低下するために、マンドレルへの巻付け作業が困難になるという欠点を有する。
【0009】
すなわち、以上のような欠点を改良するために、炭素繊維用サイズ剤には、炭素繊維の取り扱い性の向上、炭素繊維の成型加工適正向上、得られる成型品の機械特性向上の他に、マトリックス樹脂との濡れ性、すなわちプリプレグ製造工程での含浸性の向上、及び成型品の製造工程における、プリプレグ表面に存在するマトリックス樹脂の炭素繊維束内部への浸透性(含浸性)の向上が求められ、従来から、各種の化合物によるサイズ剤の使用が試みられている。
【0010】
例えば、特許文献1には、ポリグリシジルエーテル類からなるサイズ剤の溶剤溶液を炭素繊維に付与することが説明されている。
【0011】
しかし、ポリグリシジルエーテル類からなるサイズ剤は、これの溶剤溶液をサイジング液として使用するものであるために、サイジング工程での工業的な取り扱い性や安全性などが、水系のサイズ剤に比較して悪いという欠点を有しており、又ビスフェノールA型グリシジルエーテルを利用したサイズ剤は、特に乳化剤を全く含まない状態ではマトリックス樹脂との間の濡れ性が悪く、良好な炭素繊維強化複合材料が得られない。
【0012】
特許文献2〜4等には、ビスフェノールAにアルキレンオキシド基の数10分子を付加させてなる化合物からなるサイズ剤が提案されている。特許文献2及び3に記載されているサイズ剤は、金属との間の摩擦係数が小さく、糸切れや毛羽立ちの度合いが低減した炭素繊維にすることが可能であり、優れた工程通過性を有する炭素繊維にすることができる。又、その付着量や、サイズ剤として使用する化合物の分子量の適正化を図ることにより、優れた界面接着性を有するものにすることが可能である。更に、特許文献4に記載されているサイズ剤は、プリホームの製造工程での炭素繊維の取り扱い性を向上させると共に、その後のサイズ剤の除去が容易である等の特性を備えている。
【0013】
しかしながら、上記の特許文献2及び3に記載されているサイズ剤、特にエチレンオキサイドを付加させた反応生成物からなるサイズ剤は、分子中の(CH2−CH2−O)基等の親水基の存在によって空気中の水分を吸着し易く、粘着性が増加して、いわゆる「べとつき」を生じる。この粘着性の増加は、サイジング処理された炭素繊維の各加工工程中においてローラー等との抵抗を増加させることになり、又毛羽等が付着して堆積する原因にもなり、更には炭素繊維束の開繊性を低下させる要因ともなる。上記したように毛羽等の発生原因や、炭素繊維束の開繊性を低下させる要因となる。
【0014】
従って、このサイズ剤を使用する場合には、炭素繊維束に良好な工程通過性と開繊性とを備えさせるためにサイズ剤の付着量を最小限に抑えなければならなく、このことがサイズ剤の付着量斑による物性斑に繋がるために、その付着量の厳密な制御を行なわなければならないという煩雑性を伴う。又、樹脂の含浸時の作業条件に制約を有するために工程の作業可能な許容範囲が狭められ、該サイズ剤による含浸方法が特定の方法に制限されるという欠点をも有する。
【0015】
更に上記の特許文献4に記載されているサイズ剤は、水洗いによる除去が可能であることが最も重要な性能であるために、サイズ剤をなす化合物が低分子量である方がよく、従って低エチレンオキサイド付加物が選択されるが、これらの化合物は室温で液状であってその粘度が小さいために、炭素繊維に十分な収束性を付与することができない。
【0016】
又、特許文献5には、ポリエステル樹脂とポリエーテル樹脂を必須成分とするサイズ剤で炭素繊維をサイジング処理することにより、プリプレグ製造工程での擦過による毛羽の発生を抑制し、取り扱い性の向上とともに、樹脂含浸の際における開繊性を向上させることで、炭素繊維へのマトリックス樹脂の含浸性を向上させる技術が説明されている。
【0017】
しかし、この技術はプリプレグ製造工程における含浸性を向上させることはできても、炉落ち現象のような成型品の製造工程中に、プリプレグ表面に存在するマトリックス樹脂の炭素繊維束内部への浸透(含浸性)を向上させることはできない。
【特許文献1】特開昭50−59589号公報
【特許文献2】特開平1−272867号公報
【特許文献3】特開平7−9444号公報
【特許文献4】特開平6−212565号公報
【特許文献5】特開平10−131052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従って、本発明は上記の従来技術における問題点を解決するものであり、炭素繊維に対して安定した収束性と開繊性といった工程通過性を備えさせ、そして良好なマトリックス樹脂含浸性とを具備させ得る炭素繊維用サイズ剤、その水分散液、炭素繊維、及び炭素繊維強化複合材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記課題は、以下に記載する構成による本発明の炭素繊維用サイズ剤、その水分散液、炭素繊維、及び炭素繊維強化複合材料によって解決される。
【0020】
本発明の炭素繊維用サイズ剤は、下記の、成分(A)と成分(B)と成分(C)とからなる混合物(D)と、下記の式(化1)で表される成分(E)とを含有する炭素繊維用サイズ剤であって、前記混合物(D)と前記成分(E)との質量比(D)/(E)が3/5〜3/1の範囲内である炭素繊維用サイズ剤である。
成分(A):分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物であって、125℃における表面自由エネルギーの値EAが21〜24mJ/m2である;
成分(B):分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物であって、125℃における表面自由エネルギーの値EBが28〜34mJ/m2である;
成分(C):分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物であって、125℃における表面自由エネルギーの値ECが37〜42mJ/m2である;
混合物(D):成分(A)20〜80質量%と成分(B)10〜50質量%と成分(C)10〜40質量%とからなる混合物;
成分(E):下記の式(化1)で表される化合物。
【0021】
【化1】

【0022】
(式中、R1、R2は水素又はアルキル基であって、R1、R2は同一であってもよく、異なっていてもよい。又m、nは、それぞれ1以上の整数であり、m+nが54〜100である。)
本発明の炭素繊維用サイズ剤の水分散液は、前記炭素繊維用サイズ剤と、界面活性剤と、水とを含有し、前記混合物(D)が水中に分散している炭素繊維用サイズ剤の水分散液である。
【0023】
本発明の炭素繊維用サイズ剤の水分散液の製造方法は、下記の、水分散液(d)と水溶液(e)とを混合する炭素繊維用サイズ剤の水分散液の製造方法である。
水分散液(d):水中に分散した前記混合物(D)と、前記界面活性剤とを含有する水分散液;
水溶液(e):前記成分(E)が溶解した水溶液。
【0024】
本発明の炭素繊維は、前記炭素繊維用サイズ剤が付着した炭素繊維であって、前記炭素繊維用サイズ剤の量が炭素繊維の0.1〜5.0質量%である炭素繊維である。
【0025】
更に本発明の炭素繊維強化複合材料は、前記炭素繊維を強化材として含む炭素繊維強化複合材料である。
【発明の効果】
【0026】
炭素繊維に対して安定した収束性と開繊性といった工程通過性を備えさせ、そして良好なマトリックス樹脂含浸性とを具備させ得る炭素繊維用サイズ剤、その水分散液、炭素繊維、及び炭素繊維強化複合材料を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の炭素繊維用サイズ剤は、分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物であって、125℃における表面自由エネルギーの値EAが21〜24mJ/m2である成分(A)20〜80質量%と、分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物であって、125℃における表面自由エネルギーの値EBが28〜34mJ/m2である成分(B)10〜50質量%と、分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物であって、125℃における表面自由エネルギーの値ECが37〜42mJ/m2である成分(C)10〜40質量%とからなる混合物(D)と、下記の式(化1)で表される成分(E)とを、前記混合物(D)と前記成分(E)との質量比(D)/(E)が3/5〜3/1の範囲内となるように混合したものからなる。
【0028】
【化2】

【0029】
(式中、R1、R2は水素又はアルキル基であって、R1、R2は同一であってもよく、異なっていてもよい。又m、nは、それぞれ1以上の整数であり、m+nが54〜100である。)
そして、本発明の炭素繊維用サイズ剤は、前記各組成成分を含有していることにより、炭素繊維に対して安定した収束性と開繊性能を備えさせ、同時に優れたマトリックス樹脂含浸性とを具備させることが可能な炭素繊維用サイズ剤を付与するものになる。
【0030】
通常の炭素繊維の125℃における表面自由エネルギーは40〜50mJ/m2程度であり、かかる表面自由エネルギーを具備する炭素繊維の表面を濡らす液体としては、表面自由エネルギーの小さいものが有利である。
【0031】
これに対して、マトリックス樹脂として一般的に用いられるエポキシ樹脂の125℃における表面自由エネルギーは、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂が39mJ/m2程度、ビスフェノールF型やフェノールノボラック型のエポキシ樹脂が40mJ/m2程度、クレゾールノボラック型のエポキシ樹脂が36mJ/m2程度であり、さらに、炭素繊維の表面に付着したサイズ剤は、マトリックス樹脂の含浸過程において、界面近傍のマトリックス樹脂中に溶解して拡散していくことが分かっている。
【0032】
かかる状況下にあって、マトリックス樹脂との間の濡れ性に優れる炭素繊維用サイズ剤として、表面自由エネルギーの比較的小さい化合物からなる成分(A)と、通常のマトリックス樹脂と同等の表面自由エネルギーを有する化合物からなる成分(C)と、さらにそれらの中間程度の表面自由エネルギーを有する化合物からなる成分(B)を併用することによって、各成分による非常に効果的な機能を相乗させることができる。
【0033】
つまり、上記のように表面自由エネルギーを有する成分(A)と、成分(B)と、成分(C)とを含有するサイズ剤を付着させてある炭素繊維に、マトリックス樹脂を含浸させると、炭素繊維の表面に付着させてあるサイズ剤が含浸マトリックス樹脂中に溶解する。そして、マトリックス樹脂に溶解したサイズ剤成分のうち、表面自由エネルギーが低い化合物からなる成分(A)が炭素繊維表面における拡張濡れを促進させ、その結果、マトリックス樹脂が炭素繊維の表面を迅速に濡らすと推測される。一方、通常のマトリックス樹脂と同等の表面自由エネルギーを有する化合物からなる成分(C)は、マトリックス含浸樹脂との相溶性に優れているために、炭素繊維の表面に付着しているサイズ剤が含浸マトリックス樹脂に溶解するのを助長させる機能を果たすと推測される。一方、表面自由エネルギーの値が、成分(A)と成分(C)の中間程度の表面自由エネルギーを有する化合物からなる成分(B)は、上記した成分(A)の機能、成分(C)の両方の機能を促進する役割を果たすと推測される。
【0034】
ここで、前記成分(A)と成分(B)と成分(C)とからなる混合物(D)において、成分(A)は20〜80質量%、成分(B)は10〜50質量%、成分(C)は10〜40質量%で含有されていることが重要である。
【0035】
前記成分(A)と成分(B)と成分(C)とからなる混合物(D)において、成分(A)の含有量が20質量%未満となると、含浸マトリックス樹脂の拡張濡れを促進させる機能が十分ではなくなり、又80質量%を超えると炭素繊維の表面に付着したサイズ剤の含浸マトリックス樹脂への溶解性が十分でなくなる。前記混合物(D)における成分(A)の含有率は、20〜76質量%がより好ましい。
【0036】
又、前記成分(A)と成分(B)と成分(C)とからなる混合物(D)において、成分(C)の含有量が10質量%未満となると、炭素繊維の表面に付着したサイズ剤の含浸マトリックス樹脂への溶解性が十分でなくなり、又40質量%を超えると含浸マトリックス樹脂の拡張濡れを促進させる機能が十分ではなくなる。前記混合物(D)における成分(C)の含有率は、12〜30質量%がより好ましい。
【0037】
又、前記成分(A)と成分(B)と成分(C)とからなる混合物(D)において、成分(B)の含有量が10質量%未満となる場合や50質量%を超える場合、成分(A)が含浸マトリックス樹脂の拡張濡れを促進させる機能や成分(C)が炭素繊維の表面に付着しているサイズ剤が含浸マトリックス樹脂に溶解するのを助長させる両方の機能を促進する役割を十分に果たすことができなくなる。前記混合物(D)における成分(B)の含有率は、12〜50質量%がより好ましい。
【0038】
前記成分(A)、成分(B)または成分(C)をなすエポキシ化合物が有するエポキシ基としては、例えばグリシジル基や、下記に示す構造の環式脂肪族エポキシ基などが挙げられる。
【0039】
【化3】

【0040】
成分(A)と成分(B)と成分(C)をなす化合物としては、分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物の一部のエポキシ基に、他の官能基を導入した変性エポキシ化合物を使用することも可能である。例えば、メタクリル酸とのエステル化で変性したエポキシ化合物は、ビニルエステル樹脂や不飽和ポリエステル樹脂との間の界面接着性をより向上させる作用を果たす。
【0041】
更に、成分(A)としてのエポキシ化合物は、1種のみの単独であっても、又は複数種の混合物であってもよい。更に、成分(B)としてのエポキシ化合物は、1種のみの単独であっても、又は複数種の混合物であってもよい。更に、成分(C)としてのエポキシ化合物は、1種のみの単独であっても、又は複数種の混合物であってもよい。
【0042】
分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物であって、125℃における表面自由エネルギーの値EAが21〜24mJ/m2である成分(A)の例としては、下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(例えば、エピクロンHP−7200シリーズ:大日本インキ化学工業株式会社製商品名)、トリスヒドロキシンフェニルメタン型エポキシ樹脂(例えば、エピコート1032H60、1032S50:ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名)、DPPノボラック型エポキシ樹脂(例えば、エピコート157S65、157S70:ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名)等。
【0044】
中でも、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシンフェニルメタン型エポキシ樹脂、DPPノボラック型エポキシ樹脂は、その骨格中に芳香族基を含んでいることにより、得られる炭素繊維強化複合材料の耐熱性を悪化させることがなく、好適である。
【0045】
成分(A)としては、前記のように分子中に1個のエポキシ基を有する化合物を使用することもできるが、分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物からなる成分を使用すると、マトリックス樹脂との間の界面接着性がより向上するので、分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物からなる成分を使用することがより好ましい。
【0046】
一方、分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物であって、125℃における表面自由エネルギーの値EBが28〜34mJ/m2である成分(B)の例としては、下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(例えば、エピコート828:ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名)の片末端をメタクリル酸エステル変性した化合物等、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂の片末端をエステル変性した化合物、ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加ジグリシジルエーテルの片末端をエステル変性した化合物、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル(例えば、エポライト4000:共栄社化学株式会社製商品名、YX8034:ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名)、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加ジグリシジルエーテル(例えば、エポライト3002:共栄社化学株式会社製商品名、EP4000、EP4005:株式会社アデカ製商品名)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の一部を変性した化合物(例えば、EXA−4850−150、EXA−4850−1000:大日本インキ化学工業株式会社製商品名)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂の一部をウレタン変性した化合物(例えば、EPU−78−11:株式会社アデカ製商品名)等。
【0048】
成分(B)としては、前記のように分子中に1個のエポキシ基を有する化合物を使用することもできるが、分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物からなる成分を使用すると、成分(A)の場合と同様に、マトリックス樹脂との間の界面接着性がより向上するので、分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物からなる成分を使用することがより好ましい。
【0049】
一方、分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物であって、125℃における表面自由エネルギーの値ECが37〜42mJ/m2である成分(C)の例としては、下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(例えば、エピコート807:ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名)、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂等。
【0051】
成分(C)としては、前記のように分子中に1個のエポキシ基を有する化合物を使用することもできるが、分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物からなる成分を使用すると、成分(A)や成分(B)の場合と同様に、マトリックス樹脂との間の界面接着性がより向上するので、分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物からなる成分を使用することがより好ましい。
【0052】
本発明の炭素繊維サイズ剤は、前記混合物(D)と下記の式(化1)で表される成分(E)を含むことが重要である。
【0053】
【化4】

【0054】
(式中、R1、R2は水素又はアルキル基であって、R1、R2は同一であってもよく、異なっていてもよい。又m、nは、それぞれ1以上の整数であり、m+nが54〜100である。)
上記の式(化1)で表される成分(E)は、ビスフェノール型骨格からなる中心部の両端にエチレンオキサイドが付加した構造をなすものであり、成分(E)において、R1、R2は、マトリックス樹脂として使用する樹脂の種類等に合わせて選択されるが、一般的には水素又は炭素数1〜2のアルキル基が好ましい。
【0055】
上記の式(化1)で表される成分(E)において、特にビスフェノールA型或いはビスフェノールF型からなる中心部を有する化合物は、その構造が比較的剛直であるために、炭素繊維に対して良好な力学的特性を付与することができる。又、このビスフェノールA型或いはビスフェノールF型からなる中心部を有する化合物は、π共役系を有しているために、微小なグラファイト結晶で構成されている炭素繊維に対して良好な親和性を有している。これによって、上記の式(化1)で表される成分(E)としては、特にビスフェノールA型或いはビスフェノールF型からなる中心部を有する化合物であることが好ましい。
【0056】
上記の式(化1)で表される成分(E)におけるビスフェノール型骨格からなる中心部の両端に付加しているエチレンオキサイドの付加量は、中心部の左、右で一致している必要はないが、上記の式(化1)で表される成分(E)が、一般的にビスフェノール化合物にエチレンオキサイドを付加して得られるものであるために、ビスフェノール型骨格からなる中心部の両端に付加しているエチレンオキサイドの付加量は、中心部の左、右での付加量があまり相違するものではなくなる(すなわちm=n)ことが多い。
【0057】
上記の式(化1)で表される成分(E)は、m+nが54〜100であることが必要である。
【0058】
ここで、m+nが53以下の化合物の多くは、室温で安定な液状を呈するものや、その融点が室温(23℃)〜30℃付近のものである。室温で安定な液状を呈するものも、粘度が小さくなりすぎるためにサイズ剤に必要な特性を発現し得なく、しかも空気中の水分の吸着によって著しく粘着性が増加するために、その性状が不安定であり、さらに水溶性が不足するためにこれを水に溶解させた水溶液の安定性が悪い。室温(23℃)で固状であっても、その融点が室温(23℃)〜30℃付近である場合、炭素繊維を取り扱う際の雰囲気温度によって固体から液体に変化する。そのため、炭素繊維フィラメントの収束性が弱くなるため、炭素繊維束の柔軟性と樹脂の含浸工程での炭素繊維束の開繊性は向上する一方で、炭素繊維トウの取り扱い性は低下する。
【0059】
また、m+nが100を超える化合物は、分子量の増加によって固着性が増す。このために、炭素繊維フィラメントの収束性が強くなり、炭素繊維束の柔軟性と樹脂の含浸工程での炭素繊維束の開繊性とを著しく阻害するようになる。更に、分子中の親水基が大きくなりすぎて、マトリックス樹脂との相溶性が悪くなる。特に樹脂の含浸工程において、炭素繊維の表面から含浸用樹脂中に溶解して拡散するときの溶解性が、分子中の親水基の存在によって低下し、又大きな分子量のためにその拡散速度が低下する。従って、この化合物が炭素繊維とマトリックス樹脂との界面及びその近傍に偏在してしまい、複合材料の機械的物性、特に炭素繊維と樹脂との界面強度を低下させる要因になる。
【0060】
以上の理由により、上記の式(化1)で表される成分(E)としては、m+nが60〜90であるものがより好ましい。
【0061】
一般に、エポキシ化合物を用いて炭素繊維用サイズ剤を得る場合、構成する成分は室温(23℃)で液状であるエポキシ化合物のみとすると、収束性は極端に低いものとなり、安定した取り扱い性を付与することができなくなる。従って、良好な収束性を付与するためには室温(23℃)で固状であるエポキシ化合物を併用することが多い。
【0062】
しかしながら、室温(23℃)で固状であるエポキシ化合物を併用した場合、炭素繊維の収束性は良好になるが、気温の影響を受けやすく、気温の低下する冬期間においては、収束性が極端に高くなり、炭素繊維の柔軟性は低下し、プリプレグ製造工程等における炭素繊維の開繊性を低下させ、樹脂含浸性をも低下させることになる。
【0063】
上記のような収束性の変化を低減させるために、炭素繊維に対する炭素繊維用サイズ剤の付着量を低くし、室温(23℃)で固状であるエポキシ化合物の影響を最小限に抑えることは可能であるが、このことはサイズ剤の付着量斑による物性斑に繋がるために、その付着量の厳密な制御を行なわなければならないという煩雑性を伴う。
【0064】
一方、上記の式(化1)で表される化合物において、m+nが54〜100であるもの、より好ましくはm+nが60〜90であるものは、室温(23℃)において多少粘着性を有するものもあるが、多くの場合は固状を呈する。この式(化1)で表されるような室温(23℃)固状の化合物は、同時に蝋状の性質を有しているために、室温(23℃)付近での良好な収束性と同時に、プリプレグ製造工程等における搾過工程によって、容易に開繊する機能を炭素繊維に付与することができるのである。
【0065】
なお、特許文献2〜4等に説明されている炭素繊維用サイズ剤は、ビスフェノール類にエチレンオキシド基の数10分子を付加させてなる化合物からなり、エチレンオキシド基の付加モル数が50以下の化合物である。ここではエチレンオキシド基の付加モル数が51以上になると、マトリックス樹脂として適用するエポキシ樹脂との相溶性が悪くなることから、マトリックス樹脂と炭素繊維との接着性が低下するために、十分な機械的強度を有する複合材料にはならないとして説明されている。
【0066】
しかしながら、エチレンオキシド基の付加モル数が51以上の化合物であっても、本発明のサイズ剤のように、エポキシ化合物と所定の割合で混合した混合物にすることにより、マトリックス樹脂と炭素繊維との間において、接着性が低下するという問題は解決される。
【0067】
つまり、本発明の炭素繊維用サイズ剤は、上記の成分(A)20〜80質量%と成分(B)10〜50質量%と成分(C)10〜40質量%とからなる混合物(D)と、上記の式(化1)で表される成分(E)とを、前記混合物(D)と前記成分(E)との質量比(D)/(E)が3/5〜3/1の範囲内となるように含有するものである。
【0068】
本発明の炭素繊維用サイズ剤の水分散液は、前記炭素繊維用サイズ剤と、界面活性剤と、水とを含有し、前記混合物(D)が水中に分散している炭素繊維用サイズ剤の水分散液である。係る炭素繊維用サイズ剤の水分散液は、以下の水分散液(d)と水溶液(e)とを混合することによって得ることができる。
水分散液(d):水中に分散した前記混合物(D)と、前記界面活性剤とを含有する水分散液;
水溶液(e):前記成分(E)が溶解した水溶液。
【0069】
すなわち、本発明の炭素繊維用サイズ剤の水分散液は、前記の混合物(D)と界面活性剤とを含有し、該混合物(D)が水に分散している水分散液(d)と、上記の式(化1)で表される成分(E)が水に溶解した水溶液(e)とを、前記混合物(D)と前記成分(E)との質量比(D)/(E)が3/5〜3/1の範囲内となるように混合することを特徴とする。
【0070】
本発明で用いる水分散液(d)では、前記混合物(D)を水に分散させるために界面活性剤を用いるわけであるが、この界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤やアニオン系界面活性剤が好適に用いられる。
【0071】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば脂肪族ノニオン、フェノール系ノニオンなどの界面活性剤を利用することができる。脂肪族ノニオン系界面活性剤としては、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、グリセロールの脂肪酸エステル、ソルビトールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステルなどが挙げられる。又、フェノール系ノニオン界面活性剤としては、アルキルフェノール系ノニオン、多環フェノール系ノニオンなどが挙げられる。
【0072】
前記ノニオン系界面活性剤としてのエチレンオキサイド付加物としては、ポリエチレンオキサイド鎖中の一部にプロピレンオキサイドユニットをランダムあるいはブロック状に具備させたタイプのものが好適である。脂肪酸エチレンオキサイド付加物や多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物としては、モノエステルタイプ、ジエステルタイプ、トリエステルタイプ、テトラエステルタイプなどのノニオン系界面活性剤を使用し得る。
【0073】
エポキシ樹脂を水に分散させる場合において、従来からノニオン系界面活性剤が一般的に用いられているが、このノニオン系界面活性剤は一般に分子中に比較的長いエチレンオキサイド鎖を有しているため、乳化能力に優れている一方、長いエチレンオキサイド鎖は、炭素繊維強化複合材料の耐熱性を低下させる主原因となっている。一方、エチレンオキサイド鎖の短いノニオン系界面活性剤もあるが、そのようなエチレンオキサイド鎖の短いノニオン系界面活性剤は、耐熱性を低下させる作用は小さいものの、十分な乳化能力を具備していない。
【0074】
これに対して、イオン性を有するアニオン系界面活性剤は、乳化作用をエチレンオキサイド鎖に頼るものではなく、しかも十分な乳化能を具備している。従って、得られる炭素繊維強化複合材料に耐熱性が必要な場合においては、該耐熱性を低下させる要因を含むことのないように、アニオン系界面活性剤を使用することが好ましい。
【0075】
炭素繊維強化複合材料の耐熱性を低下させることのないアニオン系界面活性剤としては、アンモニウムイオンを対イオンとし、かつアルキレンオキサイドの付加量が10モル以下であるフェノール系基を疎水基とする化合物であることが好ましい。かかるアニオン系界面活性剤の添加により、マトリックス樹脂との間の界面接着性に優れ、かつ耐熱樹脂をマトリックス樹脂として使用したときの炭素繊維強化複合材料の耐熱性を低下させることのないものになし得る。
【0076】
又、前記アニオン系界面活性剤は、アンモニウムイオンを対イオンとするものであることが好ましい。つまり、対イオンがアルカリ金属やアルカリ土類金属イオンからなるアニオン系界面活性剤は、これらのアルカリ金属やアルカリ土類金属イオンが、得られる炭素繊維強化複合材料に混入してその熱安定性を低下させる弊害を生じる場合がある。
【0077】
さらに、前記アニオン系界面活性剤の疎水基はフェノール系基であることが好ましい。すなわち、骨格中に芳香族環を有するエポキシ樹脂をマトリックス樹脂として使用することによって、耐熱性を備えた炭素繊維強化複合材料にする場合が多く、疎水基が脂肪族系基からなるアニオン系界面活性剤に比較して疎水基がフェノール系基からなるアニオン系界面活性剤の方が、この骨格中に芳香族環を有するエポキシ樹脂との相溶性が良好であり、これによって優れた機械特性や耐熱性を具備する炭素繊維強化複合材料にすることができる。
【0078】
前記アニオン系界面活性剤としては、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩などを用いることができる。中でも、硫酸エステル塩、スルホン酸塩等によるアニオン系界面活性剤は、エポキシ樹脂の乳化能力に優れており、より好適である。
【0079】
アニオン系界面活性剤としての前記硫酸エステル塩は、例えばアルキルベンゼンポリエチレングリコールエーテル硫酸エステル塩や多環フェニルエーテルポリエチレングリコールエーテル硫酸エステル塩などであり、更に、アルキルベンゼンポリエチレングリコールエーテル硫酸エステル塩や多環フェニルエーテルポリエチレングリコールエーテル硫酸エステル塩におけるポリエチレンオキサイド鎖中の一部にプロピレンオキサイドユニットをランダム又はブロック状に具備させたもの等を用いることもできる。アニオン系界面活性剤としての前記スルホン酸塩は、例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、多環フェニルエーテルスルホン酸塩などである。
【0080】
本発明で用いる水分散液(d)において、界面活性剤の含有量は、水分散液(d)の安定性を悪化させたり、サイズ剤のサイジング効果を低下させたりしない限りは、特に限定されるものではないが、目安としては、界面活性剤の含有量は、水分散液(d)中の水以外の成分の8〜30質量%にすることが好ましく、10〜25質量%にするのがより好ましい。水分散液(d)中の水以外の成分の8質量%未満になると、水分散液(d)の安定性が悪くなる場合があり、又30質量%を超えるようになると、サイズ剤のサイジング効果が低下する場合がある。
【0081】
前記の成分(E)は、前記の混合物(D)と界面活性剤とを含有し、該混合物(D)が水に分散している水分散液(d)に対して、直接添加して水分散液(d)中の水に溶解させてもかまわないが、上記したように、該成分(E)において、m+nが54〜100であるもの、より好ましくはm+nが60〜90であるものは、室温(23℃)において多少粘着性を有するものもあるが、多くの場合は固状を呈するため、予め水に溶解させて水溶液としてから前記の水分散液(d)に対して混合する方が煩雑さを伴わない。
【0082】
本発明の炭素繊維用サイズ剤の水分散液において、上記の混合物(D)と成分(E)との質量比(D)/(E)は、(D)/(E)=3/5〜3/1の範囲内とすることが好ましい。混合物(D)と成分(E)との質量比(D)/(E)が3/5よりも小さくなると、混合物(D)によるマトリックス樹脂の含浸性や、マトリックス樹脂と炭素繊維との間における接着性を十分なものとすることが困難となる。一方、混合物(D)と成分(E)との質量比(D)/(E)が3/1よりも大きくなると、成分(E)による安定した収束性と開繊維性を付与することが困難となる。
【0083】
なお、他のサイズ剤成分は、水分散液(d)に添加してもよく、水溶液(e)に添加してもよく、また水分散液(d)と水溶液(e)を混合した後に添加してもよい。
【0084】
本発明の炭素繊維用サイズ剤の水分散液において、前記成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(E)他のサイズ剤成分、界面活性剤及び水以外に、他の成分を含んでいてもよい。本発明の炭素繊維サイジング用の水分散液に含まれる他の成分は、上記した本発明の炭素繊維用サイズ剤によって奏される機能が損なわれることのない範囲内で配合されるものであり、例えばエステル化合物、ウレタン化合物、ポリアミド化合物、ポリイミド化合物などが挙げられる。
【0085】
本発明の水分散液(d)の固形分濃度(水分散液中の水以外の成分の濃度、以下「濃度」)は、水が連続相として存在する濃度範囲であれば問題なく、通常10〜50質量%程度の濃度で調製する。サイジング剤の水分散液の調整段階で濃度を10質量%未満としても問題はないが、水分散液中の水の占める割合が大きくなり、水分散液の調製から使用(炭素繊維のサイジング処理)までの間の運搬・保管などの面で不経済な面がある。
【0086】
本発明の水溶液(e)の固形分濃度(水溶液中の水以外の成分の濃度、以下「濃度」)は、前記の成分(E)が溶解する濃度範囲であればあれば問題なく、10〜70質量%程度の濃度とすれば良い。水溶液の調整段階で濃度を10質量%未満としても問題はないが、前記したように、運搬・保管などの面で不経済な面があるため、使用(炭素繊維のサイジング処理)するに際して、所望の付着量となるように、これを0.1〜10質量%程度の低濃度水性液に希釈して、炭素繊維に付着させる方法が一般的である。また、濃度を50質量%以上としても問題はないが、高濃度になると粘調な液体となり、使用に際して煩雑さをともなう。
【0087】
これらの水分散液(d)および水溶液(e)は、使用(炭素繊維のサイジング処理)するに際して、所望の付着量となるように、これを0.1〜10質量%程度の低濃度となるように水で希釈して、炭素繊維に付着させる方法が一般的である。
【0088】
本発明の炭素繊維サイジング剤、界面活性剤及び水で構成される本発明の炭素繊維用サイズ剤の水分散液の固形分濃度(水分散液中の水以外の成分の濃度、以下「濃度」)は、水が連続相として存在する濃度範囲であれば問題なく、通常10〜50質量%程度の濃度で調製する。サイジング剤の水分散液の調整段階で濃度を10質量%未満としても問題はないが、水分散液中の水の占める割合が大きくなり、水分散液の調製から使用(炭素繊維のサイジング処理)までの間の運搬・保管などの面で不経済な面があるため、使用(炭素繊維のサイジング処理)するに際して、所望の付着量となるように、これを0.1〜10質量%程度の低濃度水性液に希釈して、炭素繊維に付着させる方法が一般的である。
【0089】
この炭素繊維用サイズ剤の水分散液を用いてサイジング処理し、上記炭素繊維用サイズ剤を炭素繊維に対して付与することにより、安定した収束性と開繊性とを有し、同時に良好な樹脂含浸性を具備し、かつ複合材料の機械的特性を低下させることのない炭素繊維になし得るのである。
【0090】
一般に、炭素繊維用サイズ剤を炭素繊維に付与する際には、水、又はアセトンなどの有機溶剤に、炭素繊維用サイズ剤を分散又は溶解させたサイズ剤液として用いられるが、サイズ剤を水に分散させた水分散液にして用いる方が、有機溶剤に溶解又は分散させて用いる場合に比較して、工業的にも、又安全性の面においても、より優れたものになる。
【0091】
そこで、本発明では、炭素繊維を前記した本発明の炭素繊維用サイズ剤の水分散液を用いてサイジング処理することが好ましい。本発明の炭素繊維は、サイジング処理により、炭素繊維の表面に、前記した本発明の炭素繊維用サイズ剤の水分散液に含まれる炭素繊維用サイズ剤が付着しているものである。サイジング処理によって炭素繊維の収束性や耐擦過性が優れたものになると共に、マトリックス樹脂に対する濡れ性やマトリックス樹脂との間の界面接着力を十分に向上させて、得られる炭素繊維強化複合材料に良好な力学的特性が備えられるようにするために、炭素繊維の質量に対して0.1〜5.0質量%のサイズ剤を付着させてあることが好ましく、0.2〜3.0質量%のサイズ剤を付着させてあることが、より好ましい。
【0092】
サイジング処理に付する炭素繊維は、ピッチ系、レーヨン系あるいはポリアクリロニトリル系などのいずれの原料物質から得られたものであってもよく、高強度タイプ(低弾性率炭素繊維)、中高弾性炭素繊維又は超高弾性炭素繊維のいずれでもよい。
【0093】
本発明の炭素繊維用サイズ剤の水分散液を使用する炭素繊維のサイジング処理は、該炭素繊維用サイズ剤の分散液を、ローラー浸漬法、ローラー接触法等によって炭素繊維に付与し、これを乾燥することによって行なうことができる。なお、炭素繊維の表面へのサイズ剤の付着量の調節は、サイズ剤液の濃度調整や絞り量調整によって行なうことができる。又乾燥は、熱風、熱板、加熱ローラー、各種赤外線ヒーターなどを利用して行なうことができる。
【0094】
本発明の炭素繊維は、炭素繊維の表面に、前記した本発明の炭素繊維用サイズ剤が付着していることによって、機械的摩擦などによる毛羽の発生等が少なくなり、又マトリックス樹脂に対する濡れ性や接着性に優れたものになる。
【0095】
本発明の炭素繊維は、製織、切断等の工程通過性に優れており、例えば織布、一方向配列シート、不織布、マット等のシート状物に加工することが容易である。特に製織工程を経る場合には、通常は炭素繊維に擦過による毛羽立ちが発生し易いが、本発明の炭素繊維は、炭素繊維の表面に付着しているサイズ剤によって、毛羽立ちが効果的に抑えられたものになる。
【0096】
本発明の炭素繊維を使用したシート状物は、例えば織布、一方向配列シート、不織布、マット等からなるものである。織布としてはその織り組織が特に限定されるものではなく、平織り、綾織り、朱子織り、或いはこれらの組織を変化させたものであってもよく、また、緯糸と経糸との両糸が共に、本発明の炭素繊維からなっていても、他の炭素繊維や炭素繊維以外の繊維との混織であってもよい。一方向配列シート、不織布、マットについても、本発明の炭素繊維のみからなっていても、他の炭素繊維や炭素繊維以外の繊維との混織であってもよい。なお、炭素繊維以外の繊維としては、硝子繊維、チラノ繊維、SiC繊維などの無機繊維や、アラミド、ポリエステル、PP、ナイロン、ポリイミド、ビニロンなどの有機繊維が好適である。
【0097】
本発明の炭素繊維強化複合材料は、本発明の炭素繊維を強化材として含む炭素繊維強化複合材料からなるものである。例えば、本発明の炭素繊維を使用したシート状物を強化材として含む炭素繊維強化複合材料からなるものでもよい。このような本発明の炭素繊維強化複合材料は、例えば、本発明の炭素繊維を使用したシート状物をマトリックス樹脂で含浸した一方向プリプレグ、クロスプリプレグ、トウプレグ、短繊維強化樹脂含浸シート、短繊維マット強化樹脂含浸シート等を硬化成形して得られる。
【0098】
強化材に含浸させるためのマトリックス樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、ラジカル重合系樹脂であるアクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱可塑性アクリル樹脂、さらにはフェノール樹脂等が好適である。
【0099】
前記炭素繊維強化複合材料を得るための硬化成形に供されるマトリックス樹脂で含浸した強化材は、通常の方法、例えばホットメルト法、溶剤法、シラップ法、又はシートモールドコンパウンド(SMC)に用いられる増粘樹脂法などの方法によって得られる。
【0100】
本発明の炭素繊維強化複合材料は、強化材として使用されている前記のサイズ剤でサイジング処理された炭素繊維に対する、マトリックス樹脂としてのエポキシ樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などのラジカル重合系樹脂、或いはフェノール樹脂などの含浸性に優れており、炭素繊維とマトリックス樹脂との間の界面接着力が強く、これによって良好な力学的特性を具備するものになる。
【0101】
更に、本発明の炭素繊維強化複合材料は、該炭素繊維強化複合材料に使用してある炭素繊維が、前記の通り、マトリックス樹脂含浸性に優れており、しかも耐熱発現性をも具備するものであるために、例えば土建分野や航空宇宙分野での大型の成形体をなす炭素繊維強化複合材料として好適であり、RTM(レジントランスファーモールディング)、VARTM(バキュームアシステドレジントランスファーモールディング)或いはRI(レジンインフージョン)法による硬化成形への適応性が高く、優れた機械的物性を有する硬化成形体を高生産性の下に成形することが可能である。
【実施例】
【0102】
以下、本発明の炭素繊維用サイズ剤の水分散液、炭素繊維、該炭素繊維を使用したシート状物、及び炭素繊維強化複合材料のそれぞれの具体的な構成を、実施例に基づいて説明する。
【0103】
〔エポキシ化合物などの125℃における表面自由エネルギーの測定〕
自動表面張力計(商品名:CBVP−A3型、協和界面科学製)にH型恒温槽(協和界面科学製)を取り付けて、白金製プレートにて、ウイルヘルミー法によって125℃における表面自由エネルギーを3回測定し、その平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0104】
(実施例1)
〔炭素繊維用サイズ剤の水分散液(d)および水溶液(e)の調製と混合〕
炭素繊維用サイズ剤の水分散液(d)は、表3に記載したように成分(A)、成分(B)及び成分(C)からなる混合物(D)、その他の成分(2)及び界面活性剤とをイオン交換水を加え、ホモミキサーを用いた転送乳化によって得た。また、水分散液(d)における水以外の成分の濃度は40質量%となるように調整した。
【0105】
一方、水溶液(e)は成分(E)をイオン交換水に添加し、攪拌しながら溶解させて得た。また、水溶液(e)の濃度は70質量%となるように調整した。
【0106】
〔サイズ剤の水分散液のサイズ剤濃度〕
アルミシャーレ(直径45mm、深さ10mm)に上記の方法で得られたサイズ剤の水分散液を秤量した。105℃で1時間乾燥後、サイズ剤の水分散液の乾燥前質量W1、サイズ剤の水分散液の乾燥後質量W2をそれぞれ測定し、下記計算式(1)によりサイズ剤濃度を測定した。
【0107】
サイズ剤の水分散液のサイズ剤濃度(%)=W2/W1×100 …式(1)
〔炭素繊維のサイジング処理方法〕
サイズ剤を付与していない炭素繊維束パイロフィルMR60H(商品名、三菱レイヨン(株)製;フィラメント数24000本、繊維径5μm)を、サイズ剤の水分散液(水分散液(d)と水溶液(e)の混合液、以下「水分散液」と表すこともある)を満たしてあるフリーローラーを有する浸漬槽内に浸漬させた後、140℃の雰囲気下で10分間の乾燥処理を施してからボビンに巻き取った。このとき、浸漬槽内におけるサイズ剤の水分散液は、表3に記載したような成分割合となり、かつ水分散液の濃度が2.0質量%程度となるように、水分散液(d)及び水溶液(e)をそれぞれ希釈した後に混合したものを用いた。
【0108】
〔炭素繊維へのサイズ剤の付着量〕
メチルエチルケトンによるソックスレー抽出法によりサイズ剤付与後の炭素繊維のサイズ剤付着量を測定した。抽出時間は1時間とした。
【0109】
〔炭素繊維の収束性の安定性(環境安定性)〕
上記の方法で得られた、サイズ剤を付与した炭素繊維の収束性について、15℃、室温(23℃)、35℃のそれぞれの雰囲気下における該炭素繊維の触感によって以下の通りに評価した。
【0110】
いずれの温度においても触感の変化が小さく、収束性が安定である…「○」
いずれかの温度において、触感の大きな変化があり、収束性が不安定である…「×」
表3で示した炭素繊維用サイズ剤を付与した炭素繊維は、いずれの温度においても触感の変化が小さく、収束性が安定であり、環境安定性は十分と言えるものであった。評価結果を表3に示す。
【0111】
〔一方向炭素繊維プリプレグ製造方法〕
Bステージ化したエポキシ樹脂組成物(三菱レイヨン(株)製:#350;130℃硬化タイプ)からなるマトリックス樹脂をロールコーターで片側表面が離型処理されている離型紙に単位面積あたり31g/m2で均一に塗布した。その樹脂担持シートの樹脂側に、上記の方法で得られたサイズ剤を付与した炭素繊維を繊維目付が125g/m2になるように一方向に引き揃えて貼り付けた。さらにその炭素繊維側から上記と同様の単位面積あたり31g/m2で均一に樹脂を塗布した樹脂担持シートの樹脂側の面を炭素繊維織布側にして重ね合わせ、これらを100℃、線圧:2kg/cmで加圧加熱して含浸させた。その後、片面の離型紙を剥離し、その面に保護フィルムを貼り付けることにより、炭素繊維目付が125g/m2であり、樹脂含有率(以下、「RC」とする。)が33質量%の一方向炭素繊維プリプレグを作製した。
【0112】
〔一方向炭素繊維プリプレグの外観と樹脂の吸い込み方〕
上記の方法で得られた一方向炭素繊維プリプレグの外観と、該プリプレグから保護フィルムを剥がしたときの一方向炭素繊維プリプレグの表面に存在する樹脂の吸い込み方(=樹脂含浸性のよしあし)を、以下の通りに評価した。
【0113】
未含浸部に起因する色斑がなく、平滑性が良好であり、樹脂吸い込み方が良好である…「○」
未含浸部に起因する色斑がなく、平滑性が良好であるが、樹脂吸い込み方が緩慢である…「×」
表3で示した炭素繊維用サイズ剤を付与した炭素繊維を用いた場合、得られた一方向炭素繊維プリプレグは、未含浸部に起因する色斑がなく、平滑性が良好であり、樹脂吸い込み方が極めて良好であった。評価結果を表3に示す。
【0114】
〔ゴルフシャフトの炉落ち評価〕
上記のようにして得た一方向プリプレグを、離型剤を塗布したマンドレル(テーパー率17.81/1000)に対して、斜交層(±45°)が2層、ストレート層(0°)が3層、となるように巻き付けた。更にその上からテンション4kgFで厚さ0.03mm、幅20mmのポリプロピレン製テープを2.0mmピッチでラッピングし、硬化炉にて大径側を上にして吊下げ、図1に示す条件で硬化させた。硬化後、マンドレルを脱芯して、上記ポリプロピレン製テープを取り外した。同様の方法で合計10本のシャフトを成型し、得られたシャフト成型品について、炉落ち及び繊維蛇行の程度によって以下のように評価した。
【0115】
10本中、全て炉落ちがない(=繊維の蛇行がない)場合…「○」
10本中、1〜2本の炉落ちがあるが、極めて小さな繊維蛇行の場合…「△」
10本中、3本以上の炉落ちがあり、極めて大きな繊維蛇行の場合…「×」
表3で示した炭素繊維用サイズ剤を付与した炭素繊維からなる一方向炭素繊維プリプレグを用いて、上述した条件で成型、硬化したシャフト成型品には、いずれも炉落ちは観察されず、非常に良好な樹脂含浸性を示した。評価結果を表3に示す。
【0116】
(実施例2〜9)
表3に示したサイズ剤の組成とした以外は、実施例1と同様の方法でサイズ剤及びサイズ剤の水分散液、これを用いた炭素繊維のサイジング処理、得られた炭素繊維からなる一方向炭素繊維プリプレグ作製、そしてこれを用いた炉落ち評価用ゴルフシャフト作製を実施し、評価した。
【0117】
得られた炭素繊維は、いずれの温度においても触感の変化が小さく、収束性が安定であり、またこの炭素繊維からなる一方向炭素繊維プリプレグの外観と樹脂の吸い込み方はいずれも極めて良好であった。またこの一方向炭素繊維プリプレグを用いたシャフト成型品には、いずれも炉落ちは観察されず、非常に良好な樹脂含浸性を示した。評価結果を表3に示す。
【0118】
(比較例1〜8)
表4に示したサイズ剤の組成とした以外は、実施例1と同様の方法でサイズ剤及びサイズ剤の水分散液、これを用いた炭素繊維のサイジング処理、得られた炭素繊維からなる一方向炭素繊維プリプレグ作製、そしてこれを用いた炉落ち評価用ゴルフシャフト作製を実施し、実施例1と同様の評価を実施した。なお、成分(E)の比較として用いたその他の成分(1)は、成分(E)と同様に水溶液として調整した。
【0119】
比較例1〜3で得られた炭素繊維は、各温度における触感の変化が大きく、特に15℃の環境下においては炭素繊維の柔軟性が極端に失われていた。一方、この炭素繊維からなる一方向炭素繊維プリプレグの外観と樹脂の吸い込み方はいずれも極めて良好であった。またこの一方向炭素繊維プリプレグを用いたシャフト成型品には、いずれも炉落ちは観察されず、非常に良好な樹脂含浸性を示したが、上記したように、各温度における触感の変化が大きいため、これらの環境安定性は満足できるものではなかった。評価結果を表4に示す。
【0120】
比較例4〜6で得られた炭素繊維は、各温度における触感の変化が大きく、特に15℃の環境下においては炭素繊維の柔軟性が極端に失われていた。一方、この炭素繊維からなる一方向炭素繊維プリプレグは、未含浸部に起因する色斑がなく、平滑性が良好であったが、樹脂の吸い込み方は緩慢であり、また、シャフト成型品には、成型された10本のうち、殆どで炉落ちが観察され、樹脂含浸性は満足できるものではなかった。評価結果を表4に示す。
【0121】
比較例7〜8で得られた炭素繊維は、各温度における触感の変化は小さかった。また、この炭素繊維からなる一方向炭素繊維プリプレグは、未含浸部に起因する色斑がなく、平滑性が良好であったが、樹脂の吸い込み方は緩慢であり、また、シャフト成型品には、成型された10本のうち、殆どで炉落ちが観察され、樹脂含浸性は満足できるものではなかった。評価結果を表4に示す。
【0122】
【表1】

【0123】
【表2】

【0124】
【表3】

【0125】
【表4】

【0126】
以上説明したように、本発明の炭素繊維用サイズ剤の水分散液は、サイズ剤によってサイジング処理された炭素繊維を強化材とする炭素繊維強化複合材料に優れた機械特性を発現させる要因になるエポキシ基を有する化合物を含有するものであり、しかも該エポキシ基を有する化合物として、炭素繊維表面への含浸マトリックス樹脂の拡張濡れを促進させるところの低表面自由エネルギー成分と、含浸マトリックス樹脂へのサイズ剤成分の溶解を促進させる相溶性成分と、さらにはこれらの機能を相乗させるような成分とをバランス良く含有するために各種のマトリックス樹脂に対する優れた含浸性を炭素繊維に付与するものであると同時に、室温で固状であると同時に蝋状の性質を兼備する成分を混合することにより、気温の変化などの影響を受けにくく、優れた環境安定性を炭素繊維に付与するものである。
【0127】
また、本発明の炭素繊維用サイズ剤の水分散液は、炭素繊維用サイズ剤を界面活性剤を使用して水に分散させてなるものと、水に可溶な成分を水に溶解させたものの混合物であるために、炭素繊維にサイジング処理を施すときのサイジング液として、工業的にも、又安全性の面からも優れたものであり、又良好な液安定性を有しているために、優れた取り扱い性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】実施例で製造したゴルフシャフトの硬化条件を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の、成分(A)と成分(B)と成分(C)とからなる混合物(D)と、下記の式(化1)で表される成分(E)とを含有する炭素繊維用サイズ剤であって、前記混合物(D)と前記成分(E)との質量比(D)/(E)が3/5〜3/1の範囲内である炭素繊維用サイズ剤。
成分(A):分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物であって、125℃における表面自由エネルギーの値EAが21〜24mJ/m2である;
成分(B):分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物であって、125℃における表面自由エネルギーの値EBが28〜34mJ/m2である;
成分(C):分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物であって、125℃における表面自由エネルギーの値ECが37〜42mJ/m2である;
混合物(D):成分(A)20〜80質量%と成分(B)10〜50質量%と成分(C)10〜40質量%とからなる混合物;
成分(E):下記の式(化1)で表される化合物。
【化1】

(式中、R1、R2は水素又はアルキル基であって、R1、R2は同一であってもよく、異なっていてもよい。又m、nは、それぞれ1以上の整数であり、m+nが54〜100である。)
【請求項2】
請求項1記載の炭素繊維用サイズ剤と、界面活性剤と、水とを含有し、前記混合物(D)が水中に分散している炭素繊維用サイズ剤の水分散液。
【請求項3】
請求項2記載の炭素繊維用サイズ剤の水分散液の製造方法であって、下記の、水分散液(d)と水溶液(e)とを混合する炭素繊維用サイズ剤の水分散液の製造方法。
水分散液(d):水中に分散した前記混合物(D)と、前記界面活性剤とを含有する水分散液;
水溶液(e):前記成分(E)が溶解した水溶液。
【請求項4】
請求項1記載の炭素繊維用サイズ剤が付着した炭素繊維であって、前記炭素繊維用サイズ剤の量が炭素繊維の0.1〜5.0質量%である炭素繊維。
【請求項5】
請求項4に記載の炭素繊維を強化材として含む炭素繊維強化複合材料。

【図1】
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【公開番号】特開2008−280623(P2008−280623A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123352(P2007−123352)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】