説明

炭酸マンガンの製造方法

【課題】抽出後液のように酸性が強い、マンガン水溶液を原料として、ナトリウム等の不純物の少ない高純度な炭酸マンガンを容易に得ることを目的とする。
【解決手段】 酸性マンガン溶液をアンモニア水でpHを7-8に調整し、該液に炭酸ガスを吹き込み、不純物の少ない炭酸マンガン得る炭酸マンガンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸性のマンガン溶液からマンガンを炭酸マンガンとして回収するにあたって、特にナトリウムに注目して高純度な炭酸マンガンを高回収率で回収することを目的とした発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器やリチウムイオン二次電池のような電池材料加えて合金その他様々な材料においてマンガンの使用量が盛んに行われている。これらの機器・電池・材料等においては、マンガンはマンガンだけでなく他の金属成分が組み合されて使用されている。このため、機器・電池等に使用されていたマンガンをリサイクルするにあたっては、これらの金属成分からマンガンのみを分離することが必要である。この分離のための手法の一つとして酸性抽出剤を用いる方法があり、特開2008-231522(特許文献1)に示されているように一般的に用いられている。しかしながら酸性抽出剤を使用すると、抽出剤から水相に金属成分を取り出すために酸と接触させる必要がある。ここでは抽出剤に含まれるマンガンの多くを水相に移すためには、抽出剤に接触する水相を強酸性に変えておかなければならない。このように抽出工程を通じて得られたマンガン水溶液は強酸性である。
【0003】
このようにして得られた酸性マンガン溶液から酸化マンガンか炭酸マンガンを得ようとするためにpH調整を実施する場合、例えば苛性ソーダや苛性カリのような水酸化物を用いると水相のナトリウムやカリウムイオン濃度が上昇し、目的のマンガンを不純物の混入を防いだ状態で回収する、すなわち高純度なマンガン化合物を得ることは困難であった。
【特許文献1】特開2008-231522
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、マンガン溶液から炭酸塩としてマンガンを分離する際に、pH調整剤・炭酸供給剤として炭酸ナトリウムなどの炭酸塩を直接またはその水溶液を使用して炭酸マンガンの沈殿を生成させろ過により分離することも考えられる。しかしながらこの方法では液中にナトリウム成分がろ液中に混在するため、ろ過、乾燥後にナトリウム分が混入する恐れがある。さらに前述のようにpH調整によって溶液に既にナトリウムが増えているような場合には、さらにナトリウムが析出しやすい条件になってしまうため特に炭酸マンガン中にナトリウムが混入する恐れがある。こういったナトリウムの混入をさけるために多量の洗浄水を使用すると、炭酸マンガンをろ液に流出させてしまうことが考えられる。このように、有価金属をリサイクルする工程において酸性抽出剤を使用した抽出工程によってマンガンだけを取り出したのち高純度な炭酸マンガンを得る方法が必要であった。本発明は、簡便な方法により、高純度の炭酸マンガンを得る方法を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、上記問題点を解決し、以下の発明をなした。(1) 酸性マンガン溶液をアンモニア水でpHを7-8に調整し、該液に炭酸ガスを吹き込み、不純物の少ない炭酸マンガン得る炭酸マンガンの製造方法。(2)上記(1)記載の炭酸マンガン中のNaが、100mass ppm以下である炭酸マンガンの製造方法。(3)上記(1)或いは(2)の何れかにおいて、炭酸ガス吹込み中に、継続して、アンモニア水を添加し、pHを7−8に継続して維持し、不純物の少ない炭酸マンガンを炭酸マンガンの製造方法。(4)上記(3)記載の炭酸マンガン中のNaが、100mass ppm以下である炭酸マンガンの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、以下の効果を得られる。(1)ナトリウムの低い炭酸マンガンを容易に得られる。(2)抽出後液からのマンガンの回収に当たり、酸性が強い液中から炭酸マンガンの生成において、ナトリウム等の不純物が少ない、炭酸マンガンを容易に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において、原料とする酸性マンガン液のマンガン濃度は任意のものを使用できる。炭酸化後のマンガン濃度が5ppm程度に低減するまで炭酸マンガンとして回収できるため、コストに見合うようであれば希薄溶液から炭酸マンガンを回収することも可能である。逆に高濃度な水溶液であっても溶解度を超えて析出が見られないようであれば、原料として使用することが可能である。
【0008】
酸性のマンガン液を炭酸化する前にpHを調整する。本発明ではアンモニア水を使用する。アンモニア水であれば、マンガン以外の金属成分のコンタミをさけることができる。pHは二酸化炭素が溶けるpHであれば良い。アンモニア水は、例えば、20から40mass%程度に調整し、使用することが望ましい。
【0009】
pH5においても、炭酸化は行われるが、反応速度と収率を考慮するとpH7から8が望ましい。 pH調整後のマンガン溶液を、二酸化炭素を用いて炭酸化する。吹き込み速度は製造の規模によって調整すればよい。
【0010】
例えば、ビーカーレベルであれば100ml/分程度が適切であり、スケールアップする場合にはより多量に吹き込むことができる。吹き込んだ二酸化炭素が液中に溶解するよう、吹き込み口はより細かく分かれているほうが良い。また、炭酸ガスを吹込み中は、pHが、低下するが、その調整もアンモニア水で行うことが好ましい。この場合もpHは、7から8に維持することが好ましい。炭酸マンガンを得る為に好適だからである。十分に反応した後、ろ過・洗浄・乾燥することで、高純度の炭酸マンガンを得ることができる。
【実施例】
【0011】
(実施例1) 図1に示す処理フローに沿って、以下本発明の一態様を説明する。マンガン水溶液(pH0、マンガン濃度75g/L)を250ml用意し、28mass%アンモニア水を50ml加えた。添加後のpHは7.1である。このマンガン液に100ml/分の流量で二酸化炭素を吹き込んだ。二酸化炭素の吹き込みを続けると反応によりpHが下がりはじめる。そこで、pHを7〜8に維持するようにアンモニア水をゆっくり滴下していった。液中のマンガンが十分に反応するように、二酸化炭素の吹き込みは3hr行った。二酸化炭素吹込み中のアンモニア水の添加量は50mlに達した。
【0012】
二酸化炭素吹込み後に生成した殿物をろ過して液相より分離した。殿物は乾燥後、X線回折(以下XRDと称す。)を行った。実施例により得られた沈殿のXRDパターンを図2に示す。XRDを行った所、図2に示す矢印のように、炭酸マンガンのピークと一致した。ろ液をICP発光により濃度を測定したところ、マンガン濃度は6ppmであった。これらの結果から、当初のマンガン水溶液に含まれるマンガンのほぼ100%を炭酸マンガンとして回収できたことがわかった。炭酸マンガン中のナトリウム不純物濃度を測定したところ98massppmであった。
【0013】
(比較例1)マンガン水溶液(pH0、マンガン濃度75g/L)を250ml用意し、28mass%アンモニア水を50ml加えた。添加後のpHは7.1である。このマンガン液に100ml/分の流量で二酸化炭素を吹き込んだ。二酸化炭素の吹き込みを続けると反応によりpHが下がりはじめた。液中のマンガンが十分に反応するように、二酸化炭素の吹き込みは3hr行った。pHは6に低下した。 二酸化炭素吹込み後に生成した殿物をろ過して液相より分離した。殿物を乾燥後XRDを行ったところ、炭酸マンガンのピークと一致した。ろ液をICP発光により濃度を測定したところ、マンガン濃度は50g/Lであった。これらの結果から、当初のマンガン水溶液に含まれるマンガンの約33%を炭酸マンガンとして回収できたことがわかった。
【0014】
(比較例2)マンガン水溶液(pH0、マンガン濃度75g/L)を250ml用意し、28%アンモニア水を50ml加えた。添加後のpHは7.1である。このマンガン液に炭酸ナトリウムを50g加え沈殿を生成させた。 生成した殿物をろ過して液相より分離した。殿物は乾燥後XRDを行ったところ、炭酸マンガンのピークと一致した。ろ液をICP発光により濃度を測定したところ、マンガン濃度は5ppm以下であった。これらの結果から、当初のマンガン水溶液に含まれるマンガンのほぼ100%を炭酸マンガンとして回収できたことがわかった。炭酸マンガン中のナトリウム不純物濃度を測定したところ5000ppmであった。
【0015】
(比較例3)マンガン水溶液(pH0、マンガン濃度75g/L)を250ml用意した。このマンガン液に100ml/分の流量で二酸化炭素を吹き込んだ。pHは変化しなかった。沈殿物の生成は観察できなかった。ろ液をICP発光により濃度を測定したところ、マンガン濃度は75g/Lであった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一態様である処理フローを示す。
【図2】本発明の一態様である炭酸マンガンの沈殿のXRDパターンを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性マンガン溶液をアンモニア水でpHを7-8に調整し、該液に炭酸ガスを吹き込み、不純物の少ない炭酸マンガン得ることを特徴とする炭酸マンガンの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の炭酸マンガン中のNaが、100mass ppm以下であることを特徴とする炭酸マンガンの製造方法。
【請求項3】
請求項1或いは請求項2の何れかにおいて、炭酸ガス吹込み中に、継続して、アンモニア水を添加し、pHを7−8に継続して維持し、不純物の少ない炭酸マンガンを得ることを特徴とする炭酸マンガンの製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の炭酸マンガン中のNaが、100mass ppm以下であることを特徴とする炭酸マンガンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−16668(P2011−16668A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160300(P2009−160300)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】