説明

無アルカリガラス基板

【課題】 本発明の目的は、薄肉のガラス基板であっても、製造工程におけるカセットへの出し入れが容易で、また実開平5−12098号に開示されているような梱包体への収納も容易であり、しかも電子機器に装着した時の画像面の歪みが少ない無アルカリガラス基板を提供することを目的とする。
【解決手段】 縦寸法が500mm以上、横寸法が600mm以上、厚みが0.7mm以上であり、重量%で、SiO2 50〜68%、Al23 14〜25%、B23 3〜15%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、SrO 0〜10%、BaO 0〜10%、ZnO 0〜5%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 5〜20%、ZrO2 0〜5%、TiO2 0〜5%、Y23 0〜5%の組成を有し、Al23、MgO、ZrO2、TiO2、Y23を合量で16重量%以上含有し、密度が2.6g・cm-3以下、ヤング率/密度が29GPa/g・cm-3以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ等のディスプレイ基板として用いられる無アルカリガラス基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ等のディスプレイ基板としては、矩形状のガラス基板が広く使用されている。
【0003】
この種のガラス基板には、用途に応じて様々な特性が要求され、例えばTFT型アクティブマトリックス液晶ディスプレイに使用されるガラス基板の場合には、ガラス中にアルカリ金属酸化物が含有されていると、熱処理中にアルカリイオンが成膜された半導体物質中に拡散し、膜特性の劣化を招くため、実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないことが要求される。
【0004】
また近年、TFT型アクティブマトリックス液晶ディスプレイ等の電子機器は、パーソナルな分野への応用が進められており、機器の軽量化が要求されている。これに伴ってガラス基板にも軽量化が要求され、薄肉化が進められている。
【0005】
さらにこの種の電子機器は、大型化も進められており、これに伴って大型のガラス基板も要求されている。すなわち、この種の電子機器を製造する場合には、ガラスメーカーで成形された大型のガラス基板(素板)の上に複数分のデバイスを作製し、デバイス毎に分割切断して製品とするため、電子機器が大型化するほど、ガラス基板をより大きくする必要がある。
【0006】
しかしながら、このようにガラス基板が大型化するほど、ガラス基板の強度が低下するため、その厚みを極端に薄くすることは不可能である。そこでガラスの密度を低下することによって、軽量化を実現する試みがなされており、現在では量産化されている低密度ガラス基板も幾つか存在する。
【特許文献1】特開平9−48632号公報
【特許文献2】特開平9−156953号公報
【特許文献3】国際公開第97/11919号
【特許文献4】国際公開第97/11920号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したようにTFT型アクティブマトリックス液晶ディスプレイに用いられるガラス基板は、大型化、薄肉化が進められているが、これに伴い各種の問題が生じている。
【0008】
すなわちこの種のガラス基板は、ガラスメーカーで成形された後、切断、徐冷、検査、洗浄等の工程を通過され、これらの工程中、ガラス基板は、複数段の棚が形成されたカセットに出し入れされる。このカセットは、左右の内側面に形成された棚に、ガラス基板の両辺を載置するようにして水平方向に保持できるようになっているが、大型のガラス基板はたわみ量が大きいため、ガラス基板をカセットの棚に入れる際に、ガラス基板の一部がカセットに接触して破損したり、カセットの棚からガラス基板を取り出す際に、大きく揺動して不安定となりやすい。このような形態のカセットは、電子機器メーカーでも使用されるため、同様の問題が発生している。
【0009】
またこのような大型のガラス基板をガラスメーカーから電子機器メーカーに輸送する際、実開平5−12098号に開示されているような箱状の上下支持部材を用いて上下方向から挟み込む形態の梱包体が使用されることがあるが、下側の支持部材に形成された複数の保持溝にガラス基板を1枚づつ挿入した後で、ガラス基板が大きくたわむと、上側の支持部材に形成された複数の保持溝に各ガラス基板を挿入するのが困難となり、作業性が大幅に低下する。
【0010】
さらに電子機器が大型化するほど、これに装着されるガラス基板が、たわみやすくなるため、電子機器の画像面が歪んで見える虞れがある。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、大型で、薄肉のガラス基板であっても、製造工程におけるカセットへの出し入れが容易で、また実開平5−12098号に開示されているような梱包体への収納も容易であり、しかも電気機器に装着した時の画像面の歪みが少ない無アルカリガラス基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ガラス基板のたわみ量は、ガラスの密度に比例して変化するため、低密度のガラス基板は、たわみ量が小さくなる傾向にはあるが、ガラスの密度を低下することによって、ガラス基板のたわみ量を小さくするには限界がある。
【0013】
その理由は、ガラス基板のたわみ量が、ヤング率によっても変化するためであり、ヤング率/密度(比ヤング率)の値を大きくしなければ、たわみ量の大幅な低減は困難である。
【0014】
しかしながら現在、市販されている低密度ガラス基板は、比ヤング率の小さいガラスから作製されているため、これらのガラス基板の大型化、薄肉化を図ると、たわみ量が大きくなり、上記したような問題が生じる。
【0015】
本発明の無アルカリガラス基板は、縦寸法が500mm以上、横寸法が600mm以上、厚みが0.7mm以下であり、重量%で、SiO2 50〜68%、Al23 14〜25%、B23 3〜15%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、SrO 0〜10%、BaO 0〜10%、ZnO 0〜5%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 5〜20%、ZrO2 0〜5%、TiO2 0〜5%、Y23 0〜5%の組成を有し、Al23、MgO、ZrO2、TiO2、Y23を合量で16重量%以上含有し、密度が2.6g・cm-3以下、ヤング率/密度が29GPa/g・cm-3以上であることを特徴とする。
【0016】
また本発明の無アルカリガラス基板は、好ましくは、重量%で、SiO2 50〜68%、Al23 14〜18.5%、B23 7.5〜15%、MgO 0〜5%、CaO 0〜10%、SrO 0〜2%、BaO 0〜7%、ZnO 0〜0.5%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 5〜20%、ZrO2 0〜1%、TiO2 0〜5%、Y23 0〜5%の組成を有し、Al23、MgO、ZrO2、TiO2、Y23を合量で16重量%以上含有し、密度が2.51g・cm-3以下、ヤング率/密度が30.2GPa/g・cm-3以上であることを特徴とする。
【0017】
また本発明の無アルカリガラス基板は、好ましくは、Al23、MgO、ZrO2、TiO2、Y23を合量で18重量%以上含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の無アルカリガラス基板は、軽量であり、またたわみ量が小さいため、大型で薄肉であっても、製造上、梱包上の問題が発生せず、しかも良好な画像面を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の無アルカリガラス基板は、密度が2.6g・cm-3以下であり、比ヤング率が29GPa/g・cm-3以上であるため、大型で薄肉のガラス基板、具体的には、ガラス基板の縦寸法が500mm以上、横寸法が600mm以上、厚みが0.7mm以下であっても、軽量で、問題とならない程度のたわみ量に抑えることができる。
【0020】
本発明のガラス基板の構成成分の内、比ヤング率の上昇に効果のある成分は、Al23、MgO、ZrO2、TiO2、Y23の5成分であり、これらの成分の合量が16重量%未満になると、比ヤング率を29GPa/g・cm-3以上にすることが困難となるため、合量で16重量%以上、好ましくは18重量%以上含有させる。
【0021】
またTFT型アクティブマトリックス液晶ディスプレイに使用されるガラス基板には、フォトエッチング工程において使用される種々の酸、アルカリ等の薬品によって劣化しないような耐薬品性を有することや、成膜、アニール等の工程における熱処理によって熱収縮しないように、高い歪点、具体的には650℃以上の歪点を有することが望まれる。また製造コストや良品率等を考慮すると、溶融性や成形性に優れていることや、TFTの材料の熱膨張係数に近似した熱膨張係数を有することも望まれる。
【0022】
このような特性を満足し、しかもガラス基板の密度を低下し、比ヤング率を上昇させやすい組成は、重量%で、SiO2 50〜68%、Al23 14〜25%、B23 3〜15%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、SrO 0〜10%、BaO 0〜10%、ZnO 0〜5%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 5〜20%、ZrO2 0〜5%、TiO2 0〜5%、Y23 0〜5%であり、各成分の限定理由は、次のとおりである。
【0023】
SiO2は、ガラスのネットワークフォーマーとなる成分であり、50%より少ないと、ガラスの密度を2.6g・cm-3以下にすることが困難となる。また耐薬品性、特に耐酸性が低下すると共に、歪点が低くなるため好ましくない。一方、68%より多いと、高温粘度が大きくなり、溶融性が悪くなるため好ましくない。SiO2のより好ましい含有量は、55〜64%である。
【0024】
Al23は、ガラスの密度を低下させると共に、比ヤング率を上昇させ、且つ、歪点を高くする成分であり、14%より少ないと、比ヤング率を29GPa/g・cm-3以上にすることが困難となり、歪点が低くなるため好ましくない。一方、25%より多いと、耐酸性が悪くなるため好ましくない。Al23のより好ましい含有量は、16〜22%である。
【0025】
23は、ガラスの密度を低下させると共に、融剤として作用し、ガラスの粘性を下げ、溶融性を改善する成分であり、3%より少ないと、ガラスの密度を2.6g・cm-3以下にすることが困難となり、融剤としての作用も不十分となるため好ましくない。一方、15%より多いと、ガラスの歪点が低下し、耐酸性も悪くなるため好ましくない。
【0026】
MgOは、二価のアルカリ土類酸化物の中でも、比較的密度を上げずに比ヤング率を上昇させやすい成分であり、また歪点を下げることなく、高温粘性を下げ、ガラスの溶融性を改善する作用も有しているが、10%より多いと、密度を2.6g・cm-3以下にすることが困難であり、耐酸性も悪化するため好ましくない。MgOのより好ましい含有量は、0〜8%である。
【0027】
CaOも、MgOと同様に歪点を下げずに高温粘性を下げ、ガラスの溶融性を改善する成分であるが、10%より多いと、ガラスの歪点が低下するため好ましくない。
【0028】
SrOとBaOは、いずれもガラスの耐薬品性を向上させる成分であるが、これらを多量に含有させると、密度を2.6g・cm-3以下にすることが困難となるため、各々10%以下に抑えることが好ましい。
【0029】
ZnOは、溶融性を改善するための成分であるが、5%より多いと、歪点が低下するため好ましくない。
【0030】
但し、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合量が、5%より少ないと、ガラスの高温での粘性が高くなり、溶融性が悪くなると共にガラスが失透しやすくなり、一方、20%より多いと、密度を2.6g・cm-3以下にすることが困難となるため好ましくない。
【0031】
ZrO2は、比ヤング率を上昇させると共に、ガラスの耐薬品性、特に耐酸性を改善する作用を有する成分であるが、5%より多いと、ガラス中にジルコニアの失透物が析出するため好ましくない。
【0032】
TiO2は、ガラスの耐薬品性を改善すると共に、高温粘性を低下し、溶融性を向上させる成分であるが、多量に含有させると、ガラスに着色を生じ、透過率が低下するため、5%以下に抑えることが好ましい。
【0033】
23も、比ヤング率を上昇させる作用を有する成分であるが、5%より多いと、ガラスの耐薬品性が悪化するため好ましくない。
【0034】
また本発明においては、上記の成分以外にも、特性を損なわない範囲で他の成分を添加させることも可能であり、例えば清澄剤として、As23、Sb23、F2、Cl2、SO3等を各々3%まで添加することが可能である。
【0035】
但し、一般に融剤として使用されるPbOやP25は、ガラスの耐薬品性を著しく低下させるため、添加を避けるべきである。特にPbOは、ガラス溶融時に融液の表面から揮発し、環境を汚染する虞れもあるため好ましくない。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の無アルカリガラス基板を実施例に基づいて詳細に説明する。
【0037】
表1〜3は、本発明のガラス基板(試料No.1〜11)と比較例のガラス基板(試料No.12〜15)を示すものである。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
表中の各試料は、次のようにして作製した。
【0042】
まず表の組成となるようにガラス原料を調合し、白金ポットで1580℃で24時間溶融した後、スロットダウン法を用いて板状に成形した。次いでこれらの板状ガラスの両面を光学研磨することによって、縦寸法が550mm、横寸法が650mm、厚みが0.7mmの大型で薄肉のガラス基板を作製した。
【0043】
表から明らかなように実施例であるNo.1〜11の各試料は、いずれも密度が2.58g・cm-3以下であるため軽量で、また比ヤング率が29.3GPa/g・cm-3以上であるため、たわみ量が19.0mm以下と小さかった。
【0044】
それに対し、比較例であるNo.12〜15の各試料は、いずれも比ヤング率が27.6GPa/g・cm-3以下であるため、たわみ量が20.2mm以上と大きかった。またNo.12、13及び15の各試料は、密度が高かった。
【0045】
尚、表中の密度は、周知のアルキメデス法によって測定し、ヤング率は、曲げ共振法により測定したものであり、1GPa≒101.9Kgf/mm2である。また、たわみ量は、図1に示すように、ガラス基板10の縦方向の両辺付近10a、10aを支持片11、11で支持し、スパン640mmで水平方向に配置した時の最大たわみ量を測定したものである。
【0046】
さらに歪点は、ASTM C336−71の方法に基づいて測定した。102.5ポイズに相当する温度は、高温粘度である102.5ポイズに相当する温度を示すものであり、この温度が低いほど、溶融成形性に優れていることになる。
【0047】
また耐塩酸性は、各試料を80℃に保持された10重量%塩酸水溶液に24時間浸漬した後、それらの表面状態を目視で観察することによって評価した。ガラス基板の表面が変色したものは×、全く変化のないものは○で示した。熱膨張係数は、ディラトメ−ターを用いて、30〜380℃における平均熱膨張係数を測定したものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】ガラス基板の最大たわみ量の測定方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0049】
10 ガラス基板
11 支持片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦寸法が500mm以上、横寸法が600mm以上、厚みが0.7mm以上であり、重量%で、SiO2 50〜68%、Al23 14〜25%、B23 3〜15%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、SrO 0〜10%、BaO 0〜10%、ZnO 0〜5%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 5〜20%、ZrO2 0〜5%、TiO2 0〜5%、Y23 0〜5%の組成を有し、Al23、MgO、ZrO2、TiO2、Y23を合量で16重量%以上含有し、密度が2.6g・cm-3以下、ヤング率/密度が29GPa/g・cm-3以上であることを特徴とする無アルカリガラス基板。
【請求項2】
重量%で、SiO2 50〜68%、Al23 14〜18.5%、B23 7.5〜15%、MgO 0〜5%、CaO 0〜10%、SrO 0〜2%、BaO 0〜7%、ZnO 0〜0.5%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 5〜20%、ZrO2 0〜1%、TiO2 0〜5%、Y23 0〜5%の組成を有し、Al23、MgO、ZrO2、TiO2、Y23を合量で16重量%以上含有し、密度が2.51g・cm-3以下、ヤング率/密度が30.2GPa/g・cm-3以上であることを特徴とする請求項1記載の無アルカリガラス基板。
【請求項3】
Al23、MgO、ZrO2、TiO2、Y23を合量で18重量%以上含有することを特徴とする請求項1又は2記載の無アルカリガラス基板。

【図1】
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【公開番号】特開2007−8812(P2007−8812A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256375(P2006−256375)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【分割の表示】特願平10−108689の分割
【原出願日】平成10年4月3日(1998.4.3)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】