説明

無偏光ビームスプリッタ

【課題】Auを用いた無偏光ビームスプリッタにおいて、取扱時や加工時においてAu層に傷がつくのを防止するとともに、Au層のプリズムからの剥離を防止し、且つ波長640〜820nmの可視域の光に使用できるようにする。
【解決手段】第1のプリズムの斜面に、誘電体材料からなる1層以上の下地層、層厚13〜35nmのAu層、誘電体材料からなる1層以上の保護層を順次積層形成し、前記保護層の最外層と第2のプリズムの斜面を接着剤で接合する。そして波長640〜680nm及び波長760〜810nmにおける、P偏光及びS偏光の所定入射角度での平均反射率R(%)と平均透過率T(%)、Au層の層厚D(nm)が下記式(1)を満足するようにする。
25.2×X2+12.4×X+6.84<D<31.6×X2+12.6×X+10.4 ・・・(1)
ただし、X=R/(R+T)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無偏光ビームスプリッタに関し、より詳細には光ピックアップなどの光学機器に用いられるAu層を有する無偏光ビームスプリッタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
無偏光ビームスプリッタは、特定の入射角度と波長において、偏光状態にかかわらず入射光を所定の割合で透過光と反射光に分岐するものである。誘電体層を積層形成することによってこのような無偏光ビームスプリッタを作製することもできるが、誘電体層を数十層にも積層しなければならず、生産性が悪くまた数十層も高精度で層形成することは技術的に困難であった。また誘電体層の積層構造によって、広い波長帯域に亘ってP偏光とS偏光の反射率と透過率をそれぞれ同じにしたまま、反射光と透過光の比率を3:7〜7:3の比率で分離することは困難であった。特に反射光と透過光の比率を5:5にすることは困難であった。
【0003】
そこで特許文献1には、直角プリズムの斜面に第1誘電体層、Ag層、第2誘電体層を形成し、且つAg層を中心として第1誘電体層と第2誘電体層の層構成を対称とした無偏光ビームスプリッタが提案されている。しかしAgは腐食しやすく、無偏光ビームスプリッタの製造工程で使用される水などによって変質することがある。このため、Ag層を用いた無偏光ビームスプリッタは耐久性の点で問題があった。
【0004】
一方、特許文献2には、Ag層に換えてAu層を用いた無偏光ビームスプリッタが提案されている。確かにAuは腐食が発生せず安定した材料であるので、耐久性の問題は解消される。しかし、Auは軟らかいため取扱時や加工時において傷がつきやすい。またAuは可視光域で光吸収があり、特許文献2の無偏光ビームスプリッタでは赤外域の光に限定して使用している。
【特許文献1】特開昭60−113203号公報
【特許文献2】特開昭61−11701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、Auを用いた無偏光ビームスプリッタにおいて、取扱時や加工時においてAu層に傷がつくのを防止するとともに、Au層のプリズムから剥離を防止し、且つDVD(波長650nm近傍:640〜680nm)やCD(波長780nm近傍:760〜810nm)で使用される波長640〜820nmの可視域の光にも適応できようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため本発明の無偏光ビームスプリッタでは、第1のプリズムの斜面に、誘電体材料からなる1層以上の下地層、厚さ13〜35nmのAu層、誘電体材料からなる1層以上の保護層を順次積層形成し、前記保護層の最外層と第2のプリズムの斜面を接着剤で接合し、波長640〜680nm及び波長760〜810nmにおける、P偏光及びS偏光の所定入射角度での平均反射率R(%)と平均透過率T(%)、そしてAu層の層厚D(nm)が下記式(1)を満足する構成とした。
【0007】
25.2×X2+12.4×X+6.84<D<31.6×X2+12.6×X+10.4 ・・・(1)
ただし、X=R/(R+T)
ここで、設計の自由度を大きくするとともに耐擦り性を向上させる観点から、前記保護層を、屈折率が1.8以上の高屈折率層、屈折率が1.5〜1.8(ただし1.5と1.8は含まず)の中間屈折率層、屈折率が1.5以下の低屈折率層が積層されてなる構成とするのが好ましい。また、耐擦り性と密着性の観点から、前記下地層および前記保護層におけるAu層と接する層を中間屈折率層にするのが好ましい。
【0008】
Auの剥離を一層防止すると共に光学特性を向上させる観点から、前記下地層は2層以上であるのが好ましい。
【0009】
また耐擦り性を向上させる観点から、前記保護層の層厚の総和は400nm以上であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の無偏光ビームスプリッタでは、プリズムの斜面に、誘電体材料からなる1層以上の下地層を形成し、その上にAu層を形成したので、プリズムとAu層の密着度が上がりAu層の剥離が効果的に防止される。またAu層の上に、誘電体材料からなる1層以上の保護層を形成したので、従来に比べて耐擦り性が格段に向上した。さらに、Au層の層厚を13〜35nmとすることによって、波長640〜820nmの可視域の光のAu層による吸収を10%以下に抑えられるようになった。
【0011】
さらに、本発明の無偏光ビームスプリッタでは、所定波長における、P偏光及びS偏光の平均反射率R(%)と平均透過率T(%)、そしてAu層の層厚D(nm)が上記式(1)を満足する構成としたので、Au層の光吸収を抑えることができ、平均反射率R(%)と平均透過率T(%)の合計が88%超という高効率な分光特性が得られる。また本発明の無偏光ビームスプリッタでは、DVDの使用波長帯域(640〜680nm)やCDの使用波長帯域(760〜810nm)におけるP偏光とS偏光の反射率の差及び透過率の差がいずれも10%以内となり、本件発明の無偏光ビームスプリッタは、DVDやCDに搭載される光ピックアップの光学部品として好適に使用される。加えて、DVDの使用波長帯域(640〜680nm)における平均反射率と、CDの使用波長帯域(760〜810nm)の平均反射率の差が10%以内で、且つDVDの使用波長帯域における平均透過率と、CDの使用波長帯域の平均透過率の差が10%以内となり、本件発明の無偏光ビームスプリッタは、DVD及びCDの双方に使用可能で安定した分光性能が発揮される。
【0012】
保護層を、屈折率の異なる3種類の屈折率層が積層されてなるものにすると、設計の自由度が大きくなり耐擦り性も一層向上する。また、前記下地層および前記保護層におけるAu層と接する層を中間屈折率層にすると、密着性と耐擦り性が一層向上する。
【0013】
また前記下地層を2層以上とすると、Auの剥離を一層防止でき、また光学特性を向上させることができるようになる。
【0014】
さらに前記保護層の層厚の総和を400nm以上とすると、耐擦り性を向上させることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の無偏光ビームスプリッタの大きな特徴の一つは、Au層の上に誘電体材料からなる1層以上の保護層を設けたことにある。Au層上に保護層を設けることによって、取扱時や加工時においてAu層に擦り傷などがつくのが防止される。また後述するように、Au層を所定層厚とすることと相まって、可視域の入射光であっても偏光状態にかかわらず所望の割合で透過光と反射光に分岐できるようになった。
【0016】
形成する保護層の層数に特に限定はないが、Au層を保護すると同時に所望の光学特性を得るためには7層以上とするのが望ましい。また複数の誘電体層を形成する場合、その層構成としては、高屈折率層、低屈折率層、中間屈折率層の3種類の誘電体層を積層させることが推奨される。さらに、Au層と接する誘電体層としては中間屈折率層が好ましい。Au層と接する誘電体層を中間屈折率層とすることによって、保護層全体の硬さを向上させることができるからである。加えて、耐擦り性の観点からは、保護層の総層厚は400nm以上とするのが好ましい。
【0017】
保護層で使用する誘電体材料としてはTiO2やTa25、La23、Al23、SiO2などの酸化物およびこれらの混合物など従来公知のものが挙げられる。これらの中で、屈折率が1.8以上の高屈折率材料としては、TiO2(屈折率:2.13)、TiO2とLa23の混合物(メルクジャパン社製「サブスタンスH4」、屈折率:1.80)、TiO2とTa25の混合物(キヤノンオプトロン社製「OA−600」、屈折率:1.97)などが挙げられる。また屈折率が1.5〜1.8(ただし、1.5と1.8は含まず)の中間屈折率材料としては、Al23(屈折率:1.62)、Al23とLa23の混合物(メルクジャパン社製「サブスタンスM3」、屈折率:1.73)などが挙げられる。屈折率が1.5以下の低屈折率材料としては、SiO2(屈折率:1.45)、SiO2とAl23の混合物(メルクジャパン社製「サブスタンスL5」、屈折率:1.48)などが挙げられる。なお、ここで表示した屈折率は波長700nmの光に対するものである。
【0018】
また、本発明の無偏光ビームスプリッタのもう一つの大きな特徴は、Au層の層厚を13〜35nmの範囲としたことにある。Au層の層厚をかかる範囲とすることによって、DVD(波長650nm近傍:640〜680nm)やCD(波長780nm近傍:760〜810nm)で使用される波長帯域の光のAu層による吸収を10%以下と小さく抑えられる。Au層の層厚が13nmより薄いと反射率が低下し、逆に層厚が35nmより厚いと光吸収が大きくなる。なお、Auの屈折率は700nmの波長光において0.13であり、吸収係数は3.84である。
【0019】
さらに本発明の無偏光ビームスプリッタの大きな特徴は、所定波長における、P偏光及びS偏光の所定入射角度での平均反射率R(%)と平均透過率T(%)、そしてAu層の層厚D(nm)が上記式(1)を満足することにある。ここで、上記式(1)は後述する実施例・比較例のデータ及びそれらのデータからの推測値に基づき2次回帰法によって算出したものである。この不等式を満足することによって、DVD及びCDの使用波長帯域におけるP偏光とS偏光の反射率の差及び透過率の差が小さくなる。すなわち、P偏光とS偏光とがほぼ同じ割合で反射及び透過するようになる。さらに、DVDの使用波長帯域における平均反射率と、CDの使用波長帯域の平均反射率の差が小さくなるとともに、DVDの使用波長帯域における平均透過率と、CDの使用波長帯域の平均透過率の差も小さくなる。すなわち、波長640〜820nmの波長域における反射率および透過率の変動が少なくなる。加えて、所望の平均反射率Rと平均透過率Tが決まれば、上記式(1)からAu層の層厚Dを決めることができる。
【0020】
図38に、後述する実施例・比較例で測定したP偏光及びS偏光の平均反射率R(%)と平均透過率T(%)から求めたX=R/(R+T)と、Au層の層厚D(nm)との関係を示すグラフを示す。Au層の層厚Dが、2つの曲線で挟まれた斜線領域内であると、後述の実施例から明らかなように、DVD及びCDの使用波長帯域におけるP偏光とS偏光の反射率の差及び透過率の差がいずれも10%以内となる。また、DVDの使用波長帯域における平均反射率と、CDの使用波長帯域の平均反射率の差が10%以内で、且つDVDの使用波長帯域における平均透過率と、CDの使用波長帯域の平均透過率の差が10%以内となる。一方、Au層の層厚Dが前記の斜線領域から外れていると、後述の比較例から明らかなように、P偏光及びS偏光において波長640〜820nmの範囲で安定して所望の反射率R及び透過率Tを得ることができない(比較例1〜5)。
【0021】
なお、図38において、Au層の層厚Dが上記式(1)の下限よりも小さい領域では、誘電体層の積層数を増やすことによって必要な特性は得られるものの、誘電体層の層数増加によって特性の安定性が低下するとともに製造コストが増加し、Au層を用いる利点がなくなる。他方、Au層の層厚Dが上記式(1)の上限よりも大きい領域では、反射率がAu層の層厚におおよそ比例し、透過率がAu層の層厚におおよそ反比例するため、反射光と透過光の所望の分離比が高効率で得られない。平均反射率R(%)と平均透過率T(%)、Au層の層厚D(nm)とはさらに下記式を満足するのがより好ましい。
28.4×X2+10.6×X+7.55<D<25.2×X2+17.1×X+8.99
【0022】
そしてまた、本発明の無偏光ビームスプリッタの大きな特徴は、プリズムの斜面とAu層の間に誘電体材料からなる1層以上の下地層を形成したことにある。かかる下地層を形成したことによってAu層のプリズムからの剥離が有効に防止され、また前述のAu層の層厚と相まって、可視域の入射光であっても偏光状態にかかわらず所望の割合で透過光と反射光に分岐できるようになった。
【0023】
形成する下地層の層数に特に限定はないが、プリズムとAu層の密着性を上げると共に光学特性を向上させる観点からは2層以上とするのが好ましい。下地層で使用する誘電体材料としては、保護層で例示したものがここでも例示できる。また、保護層の場合と同様に、Au層と接する誘電体層としては中間屈折率層が好ましい。Au層と接する誘電体層を中間屈折率層とすることによって、下地層全体の硬さを向上させることができるからである。
【0024】
Au層の形成方法としては無加熱の真空蒸着が望ましい。150℃以上の加熱を行うとAu層の反射率が低下してしまうからである。一方、各誘電体層の形成方法についてもAu層の形成方法に合わせて無加熱の真空蒸着としてもよいが、誘電体層を無加熱の真空蒸着で形成すると強度が弱くなることがあるので、層を緻密に形成できるIAD(Ion Assisted Deposition)法を用いて誘電体層を形成することが推奨される。これにより誘電体層の耐久性が向上する。
【0025】
本発明で使用する接着剤としては、プリズムとほぼ同じ屈折率を有する接着剤を使用するのが好ましい。また生産性などを考慮すれば、紫外線硬化型や可視光硬化型、熱硬化型などの接着剤の使用が推奨される。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
真空蒸着装置(「BMC−800」シンクロン社製)を用いて、表1に示す下地層、Au層、保護層を第1の直角プリズムの斜面に形成した。蒸着条件は、真空度が1.2×10-3Paで、基板加熱は行わず、誘電体材料の加熱は電子ビーム法により、Auの加熱は抵抗加熱法により行った。そして、接着剤によって第2の直角プリズムの斜面と保護層の最外層とを接合して無偏光ビームスプリッタとした。図1に、作製した無偏光ビームスプリッタの概略構成図を示す。この無偏光ビームスプリッタは、波長640〜820nmの入射光の反射率および透過率がそれぞれ50%となるように設計されたものである。作製した無偏光ビームスプリッタについて、Au層に対して光の入射角度と45°として、P偏光およびS偏光の反射率および透過率をそれぞれ測定した。測定結果を図2及び図3に示す。
【0027】
また、上記と同様にして、直角プリズムの斜面に光学積層膜を形成したサンプルを3つ作製し、耐擦り性試験として、溶剤(「EE3310」オリンパス社製)を含浸させた紙フキン(「ダスパー」小津産業社製)で、光学積層膜が形成された直角プリズムの斜面を強さ5Nで30回擦り、表面のキズの有無及び程度を目視により観察した。この結果、サンプルの内2つは光学積層膜にキズは見られなかった。また残る1つのサンプルには光学積層膜に薄いキズが1,2本見られたが、実用上問題のない範囲のものであった。なお、保護層を設けない場合はAu層が剥げてしまった。
【0028】
【表1】

「M3」:Al23とLa23の混合物(メルクシ゛ャハ゜ン社製「サフ゛スタンスM3」、屈折率:1.73)
【0029】
(実施例2)
実施例1と同様にして、表2に示す下地層、Au層、保護層を第1の直角プリズムの斜面に形成した後、第2の直角プリズムの斜面と接着剤で接合して無偏光ビームスプリッタを作製した。この作製した無偏光ビームスプリッタについて、実施例1と同様にして、P偏光およびS偏光の反射率および透過率をそれぞれ測定した。加えて、Au層に対する光の入射角度を45°±7°として、P偏光およびS偏光の反射率および透過率についてもそれぞれ測定した。測定結果を合わせて図4及び図5に示す。
【0030】
【表2】

「M3」:Al23とLa23の混合物(メルクシ゛ャハ゜ン社製「サフ゛スタンスM3」、屈折率:1.73)
「H4」:TiO2とLa23の混合物(メルクシ゛ャハ゜ン社製「サフ゛スタンスH4」、屈折率:1.80)
【0031】
(実施例3)
実施例1と同様にして、表3に示す下地層、Au層、保護層を第1の直角プリズムの斜面に形成した後、第2の直角プリズムの斜面と接着剤で接合して無偏光ビームスプリッタを作製した。この作製した無偏光ビームスプリッタについて、実施例1と同様にして、P偏光およびS偏光の反射率および透過率をそれぞれ測定した。測定結果を図6及び図7に示す。
【0032】
また、実施例3と同様にして、直角プリズムの斜面に光学積層膜を形成したサンプルを3つ作製し、実施例1で行った耐擦り性試験をここでも行った。この結果、サンプルの内2つは光学積層膜にキズは見られなかった。また残る1つのサンプルには光学積層膜に薄いキズが1,2本見られたが、実用上問題のない範囲のものであった。
【0033】
【表3】

【0034】
(実施例4,5)
この無偏光ビームスプリッタは、波長640〜820nmの入射光の反射率および透過率がそれぞれ約50%となるように設計されたもので、実施例1〜3に対し、表4及び表5に示すように、Au層の層厚と下地層、保護層とを変更したものである。図8〜図11に、P偏光及びS偏光の反射率および透過率の計算結果を示す。
【0035】
【表4】

【0036】
【表5】

【0037】
(実施例6〜8)
この無偏光ビームスプリッタは、波長640〜820nmの入射光の反射率および透過率がそれぞれ約30%及び約70%となるように設計されたもので、実施例1〜3に対し、表6〜表8に示すように、Au層の層厚と下地層、保護層とを変更したものである。図12〜図17に、P偏光及びS偏光の反射率および透過率の計算結果を示す。
【0038】
【表6】

【0039】
【表7】

【0040】
【表8】

【0041】
(実施例9)
この無偏光ビームスプリッタは、波長640〜820nmの入射光の反射率および透過率がそれぞれ約40%及び約60%となるように設計されたもので、実施例1〜3に対し、表9に示すように、Au層の層厚と下地層、保護層とを変更したものである。図18及び図19に、P偏光及びS偏光の反射率および透過率の計算結果を示す。
【0042】
【表9】

【0043】
(実施例10)
この無偏光ビームスプリッタは、波長640〜820nmの入射光の反射率および透過率がそれぞれ約60%及び約40%となるように設計されたもので、実施例1〜3に対し、表10に示すように、Au層の層厚と下地層、保護層とを変更したものである。図20及び図21に、P偏光及びS偏光の反射率および透過率の計算結果を示す。
【0044】
【表10】

【0045】
(実施例11〜13)
この無偏光ビームスプリッタは、波長640〜820nmの入射光の反射率および透過率がそれぞれ約70%及び約30%となるように設計されたもので、実施例1〜3に対し、表11〜表13に示すように、Au層の層厚と下地層、保護層とを変更したものである。図22及び図27に、P偏光及びS偏光の反射率および透過率の計算結果を示す。
【0046】
【表11】

【0047】
【表12】

【0048】
【表13】

【0049】
(比較例1,2)
この無偏光ビームスプリッタは、波長640〜820nmの入射光の反射率および透過率がそれぞれ約30%及び約70%となるように設計されたもので、実施例1〜3に対し、表14及び表15に示すように、Au層の層厚と下地層、保護層とを変更したものである。図28〜図31に、P偏光及びS偏光の反射率および透過率の計算結果を示す。
【0050】
【表14】

【0051】
【表15】

【0052】
(比較例3)
この無偏光ビームスプリッタは、波長640〜820nmの入射光の反射率および透過率がそれぞれ約50%及び約50%となるように設計されたもので、実施例1〜3に対し、表16に示すように、Au層の層厚と下地層、保護層とを変更したものである。図32及び図33に、P偏光及びS偏光の反射率および透過率の計算結果を示す。
【0053】
【表16】

(比較例4,5)
この無偏光ビームスプリッタは、波長640〜820nmの入射光の反射率および透過率がそれぞれ約70%及び約30%となるように設計されたもので、実施例1〜3に対し、表17及び表18に示すように、Au層の層厚と下地層、保護層とを変更したものである。図34〜図37に、P偏光及びS偏光の反射率および透過率の計算結果を示す。
【0054】
【表17】

【0055】
【表18】

【0056】
図2〜37は、横軸を波長とし、縦軸を反射率または透過率として、P偏光およびS偏光の各波長における反射率・透過率を示したものである。波長640〜820nmの入射光の反射率および透過率が約50%および約50%となるように設計され、Au層の層厚Dが上記式(1)を満足する実施例1〜5の無偏光ビームスプリッタでは、図2〜図11から明らかなように、前記波長域においてP偏光とS偏光の反射率および透過率はいずれも、実使用上問題のない47%±6%の範囲に入っていた。加えて、Au層に対する光の入射角度を45°±7°とした場合も、図4及び図5に代表して示すように、前記波長域においてP偏光とS偏光の反射率および透過率は、実使用上問題のない47%±6%の範囲に入っていた。なお、他の実施例についても、Au層に対する光の入射角度を45°±7°とした場合のP偏光とS偏光の反射率および透過率を測定したが、光入射角度が45°のものと近似する値であり、これを光入射角度が45°のデータと合わせて一つのグラフに表すとグラフが見づらくなるため、他の実施例のグラフでは光入射角度が45°±7°のデータは表示していない。
【0057】
また、反射率と透過率の割合を変化させた場合も、Au層の層厚Dが上記式(1)を満足するときは所望の反射率および透過率が得られた。すなわち、前記波長域の入射光の反射率および透過率が約30%および約70%となるように設計された実施例6〜8の無偏光ビームスプリッタでは、図12〜図17から明らかなように、前記波長域においてP偏光とS偏光の反射率および透過率はいずれも、実使用上問題のない27%±6%及び67%±6%の範囲に入っていた。また図には表していないが、光入射角度を45°±7°とした場合も実使用上問題のない範囲に入っていた。
【0058】
さらに、前記波長域の入射光の反射率および透過率が約40%及び約60%となるように設計された実施例9の無偏光ビームスプリッタでは、図18〜図19から明らかなように、前記波長域においてP偏光とS偏光の反射率および透過率はいずれも、実使用上問題のない37%±6%及び57%±6%の範囲に入っていた。そしてまた、前記波長域の入射光の反射率および透過率が約60%及び約40%となるように設計された実施例10の無偏光ビームスプリッタでは、図20〜図21から明らかなように、前記波長域においてP偏光とS偏光の反射率および透過率はいずれも、実使用上問題のない57%±6%及び37%±6%の範囲に入っていた。前記波長域の入射光の反射率および透過率が約70%及び約30%となるように設計された実施例11〜13の無偏光ビームスプリッタでは、図22〜図27から明らかなように、前記波長域においてP偏光とS偏光の反射率および透過率はいずれも、実使用上問題のない67%±6%及び27%±6%の範囲に入っていた。またこれら実施例の無偏光ビームスプリッタにおいて、光入射角度を45°±7°とした場合も前記波長域におけるP偏光とS偏光の反射率および透過率はいずれも実使用上問題のない範囲に入っていた。
【0059】
これに対して、Au層の層厚Dが上記式(1)を満足しない場合は、いずれの無偏光ビームスプリッタも所望の反射率と透過率とすることができなかった。すなわち、反射率および透過率が約30%及び約70%となるように設計され、実施例6〜8に対応する比較例1及び比較例2の無偏光ビームスプリッタでは、図28〜図31から明らかなように、P偏光とS偏光の反射率および透過率の少なくとも一方は、前記波長域において実使用上問題のない27%±6%及び67%±6%の範囲から外れていた。また、反射率および透過率が約50%及び約50%となるように設計され、実施例1〜5に対応する比較例3の無偏光ビームスプリッタでは、図32及び図33から明らかなように、P偏光とS偏光の反射率および透過率の少なくとも一方は、前記波長域において実使用上問題のない47%±6%の範囲から外れていた。そしてまた、反射率および透過率が約70%及び約30%となるように設計され、実施例11〜13に対応する比較例4及び比較例5の無偏光ビームスプリッタでは、図34〜図37から明らかなように、P偏光とS偏光の反射率および透過率の少なくとも一方は、前記波長域において実使用上問題のない67%±6%及び27%±6%の範囲から外れていた。
【0060】
表19に、以上の実施例・比較例における、Au層の層厚D(nm)及び波長640〜680nm及び波長760〜810nmにおけるP偏光及びS偏光の平均反射率R(%)と平均透過率T(%)、X=R/(R+T)をまとめて示す。なお、平均反射率Rは入射角度45°での値である。そして図38に、Au層の層厚D(nm)とX=R/(R+T)との関係を示すグラフを示す。図中の2つの曲線は、実施例のデータ及びそれらのデータからの推測によって求めた相関曲線である。また実施例は白丸、比較例は黒丸で表している。図38に関する説明は前述のとおりである。
【0061】
【表19】

【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の無偏光ビームスプリッタの一実施形態を示す概説図である。
【図2】実施例1の無偏光ビームスプリッタの反射率を示すグラフである。
【図3】実施例1の無偏光ビームスプリッタの透過率を示すグラフである。
【図4】実施例2の無偏光ビームスプリッタの反射率を示すグラフである。
【図5】実施例2の無偏光ビームスプリッタの透過率を示すグラフである。
【図6】実施例3の無偏光ビームスプリッタの反射率を示すグラフである。
【図7】実施例3の無偏光ビームスプリッタの透過率を示すグラフである。
【図8】実施例4の無偏光ビームスプリッタの反射率を示すグラフである。
【図9】実施例4の無偏光ビームスプリッタの透過率を示すグラフである。
【図10】実施例5の無偏光ビームスプリッタの反射率を示すグラフである。
【図11】実施例5の無偏光ビームスプリッタの透過率を示すグラフである。
【図12】実施例6の無偏光ビームスプリッタの反射率を示すグラフである。
【図13】実施例6の無偏光ビームスプリッタの透過率を示すグラフである。
【図14】実施例7の無偏光ビームスプリッタの反射率を示すグラフである。
【図15】実施例7の無偏光ビームスプリッタの透過率を示すグラフである。
【図16】実施例8の無偏光ビームスプリッタの反射率を示すグラフである。
【図17】実施例8の無偏光ビームスプリッタの透過率を示すグラフである。
【図18】実施例9の無偏光ビームスプリッタの反射率を示すグラフである。
【図19】実施例9の無偏光ビームスプリッタの透過率を示すグラフである。
【図20】実施例10の無偏光ビームスプリッタの反射率を示すグラフである。
【図21】実施例10の無偏光ビームスプリッタの透過率を示すグラフである。
【図22】実施例11の無偏光ビームスプリッタの反射率を示すグラフである。
【図23】実施例11の無偏光ビームスプリッタの透過率を示すグラフである。
【図24】実施例12の無偏光ビームスプリッタの反射率を示すグラフである。
【図25】実施例12の無偏光ビームスプリッタの透過率を示すグラフである。
【図26】実施例13の無偏光ビームスプリッタの反射率を示すグラフである。
【図27】実施例13の無偏光ビームスプリッタの透過率を示すグラフである。
【図28】比較例1の無偏光ビームスプリッタの反射率を示すグラフである。
【図29】比較例1の無偏光ビームスプリッタの透過率を示すグラフである。
【図30】比較例2の無偏光ビームスプリッタの反射率を示すグラフである。
【図31】比較例2の無偏光ビームスプリッタの透過率を示すグラフである。
【図32】比較例3の無偏光ビームスプリッタの反射率を示すグラフである。
【図33】比較例3の無偏光ビームスプリッタの透過率を示すグラフである。
【図34】比較例4の無偏光ビームスプリッタの反射率を示すグラフである。
【図35】比較例4の無偏光ビームスプリッタの透過率を示すグラフである。
【図36】比較例5の無偏光ビームスプリッタの反射率を示すグラフである。
【図37】比較例5の無偏光ビームスプリッタの透過率を示すグラフである。
【図38】無偏光ビームスプリッタの反射率とAu層の層厚との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0063】
1 第1の直角プリズム
2 第2の直角プリズム
3 下地層
4 Au層
5 保護層
6 接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長640〜820nmの光が入射する無偏光ビームスプリッタであって、第1のプリズムの斜面に、誘電体材料からなる1層以上の下地層、厚さ13〜35nmのAu層、誘電体材料からなる1層以上の保護層を順次積層形成し、前記保護層の最外層と第2のプリズムの斜面を接着剤で接合してなり、
波長640〜680nm及び波長760〜810nmにおける、P偏光及びS偏光の所定入射角度での平均反射率R(%)と平均透過率T(%)、そしてAu層の層厚D(nm)が下記式(1)を満足することを特徴とする無偏光ビームスプリッタ。
25.2×X2+12.4×X+6.84<D<31.6×X2+12.6×X+10.4 ・・・(1)
ただし、X=R/(R+T)
【請求項2】
前記保護層が、屈折率が1.8以上の高屈折率層、屈折率が1.5〜1.8(ただし1.5と1.8は含まず)の中間屈折率層、屈折率が1.5以下の低屈折率層が積層されてなるものである請求項1記載の無偏光ビームスプリッタ。
【請求項3】
前記下地層および前記保護層におけるAu層と接する層が、中間屈折率層である請求項2記載の無偏光ビームスプリッタ。
【請求項4】
前記下地層が2層以上である請求項1〜3のいずれかに記載の無偏光ビームスプリッタ。
【請求項5】
前記保護層の層厚の総和が400nm以上である請求項1〜4のいずれかに記載の無偏光ビームスプリッタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【公開番号】特開2007−133375(P2007−133375A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266190(P2006−266190)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】