説明

無機ナノ材料内包タンパク分子の2次元配置方法

【課題】本発明は、金属や半導体など無機ナノ材料内包タンパク分子を基板上に、高密度で局所選択的に2次元配置可能な方法を提供する。
【解決手段】同種あるいは異種の無機ナノ材料を内包させた互いに相反する電荷を帯びたタンパク分子を交互に基板上に塗布する工程を備える。相反する電荷を帯びたタンパク分子を交互に基板上に塗布することにより、無機ナノ材料内包タンパク分子を基板上に、高密度で局所選択的に2次元配置が行える。2次元配置方法の場合、従前のPBLH法の場合と異なり、有機物質を全く用いないことから有機物質の影響が無く、かつ、塗布するといったプロセスのためにMEMSプロセスとの融合が容易となり、タンパク分子の各種デバイス応用が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属や半導体など無機ナノ材料を内包させたタンパク分子を基板上に高密度・局所選択的に2次元配置させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
生物はタンパク質や核酸などの超分子構造物質から構成されている。特にタンパク質はX線構造解析がなされていることからもわかるように、原子レベルで構造が同じである。そこで、籠状タンパク質の内部空間を化学反応場としてナノ粒子を作製すると、大きさがまったく同じナノ粒子ができることとなる。そのサイズはナノメートルオーダーであり、金属や半導体をこのナノメートルの空間で作製することにより、量子効果素子に利用できるナノドットを得ることができることになる。
【0003】
金属や半導体など無機ナノ材料を内包させたタンパク分子は、その自己組織化の能力を用いて、シリコンなどの基板上に2次元配置が可能である。タンパク質部分は内部のコアに比べて不安定であるため、熱処理やオゾン処理によって除去することができ、還元処理などを行うことでナノドット配列が得られることが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。このナノドット配列を利用して、メモリ等への適用可能性が研究されている。
【0004】
近年、超分子構造物質の一種で、フェリチン(Ferritin)と呼ばれる直径約12nmの球殻構造の内部に金属ナノ粒子を内包したタンパク分子の半導体デバイスへの応用が注目されている。これは、フェリチン固有の構造と優れた均一性によって、再現性の高いナノデバイスの開発が期待できるためである。
【0005】
このフェリチンをシリコン基板の上に2次元的に配列させる方法として、気液界面現象を利用した転写法であるPBLH(Poly1BenzilLHistidine)法が知られている。PBLH法は、フェリチンタンパク分子の溶解液(タンパク溶液)を密度・表面張力がタンパク質より大きな液体(展開液)に注入することにより、タンパク溶液はその気液界面で表面張力により立体構造を失って変性タンパク質の薄膜が生成され、フェリチンタンパク分子の本来持つ自己組織能力によって2次元結晶を作製できることを利用し、該結晶を疎水性処理したシリコン基板表面に転写するものである。
シリコン基板に転写して、フェリチンタンパク分子を半導体表面に2次元配列させた後、室温以上の加熱処理、或いは、UVオゾン処理によって、外側のタンパクを除去しコアのみとする。該コアは、金属酸化物となって、フェリチンタンパク分子のサイズピッチでシリコン基板上に配置させることができるというものである。
【0006】
上述のPBLH法は、フェリチンタンパク分子の配置密度をタンパク溶液のフェリチンタンパク分子濃度に依存させて制御できるものの、2次元配置は一律なものとならざるを得なかった。
そこで、負電荷を帯びたシリコン基板表面上に正電荷を帯びた材料の薄膜を形成して該材料をパターニングし、その後、負電荷に制御した金属内包タンパク分子をパターニングされた材料に吸着させる方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0007】
このパターニングされた材料に吸着させる方法によれば、金属内包タンパク分子が選択的にシリコン基板に吸着され、パターニングされて配置できることになる。
しかしながら、負電荷に制御した金属内包タンパク分子を正電荷の材料に吸着させる方法だけでは、金属内包タンパク分子の配置密度を高めることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−45990号公報
【特許文献2】特開2006−269905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した如く、従来から行われてきたPBLH法は、フェリチンタンパク分子の配置密度をタンパク溶液のフェリチンタンパク分子濃度に依存させて制御できるものの、2次元配置は一律なものとならざるを得なかった。また、タンパク分子全体に有機物質が全面コーティングされることになり、有機物質の影響が懸念されている。さらに、PBLH法は気液界面現象を利用した転写法であることから、MEMS(Micro Electro Mechanical System)プロセスとの融合が困難であり、タンパク分子の各種デバイス応用の障害となっていた。
【0010】
また、上述のパターニングされた材料に吸着させる方法では、金属内包タンパク分子の配置密度を高めることができなかった。
【0011】
上記状況に鑑みて、本発明は、金属や半導体など無機ナノ材料内包タンパク分子を基板上に、高密度に、かつ、局所選択的に、2次元配置可能な方法を提供することを目的とする。特に、半導体デバイス等への応用が注目されるフェリチンを基板上に、高密度に、かつ、局所選択的に2次元配置可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、試行錯誤の上、無機ナノ材料内包タンパク分子を正電荷と負電荷に制御して、それを交互に基板上に塗布することでタンパク分子を高密度に2次元配置できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、上記目的を達成すべく、本発明のタンパク分子の2次元配置方法は、同種あるいは異種の無機ナノ材料を内包させた互いに相反する電荷を帯びたタンパク分子を交互に基板上に塗布する工程を備えるものである。
相反する電荷を帯びたタンパク分子を交互に基板上に塗布することにより、無機ナノ材料内包タンパク分子を基板上に、高密度に、かつ、局所選択的に、2次元配置が行えるのである。かかる2次元配置方法の場合、上述のPBLH法の場合と異なり、有機物質を全く用いないことから有機物質の影響が無く、かつ、塗布するといったプロセスのためにMEMSプロセスとの融合が容易となり、タンパク分子の各種デバイス応用が可能となる。
【0014】
また、本発明のタンパク分子の2次元配置方法は、同種あるいは異種の無機ナノ材料を内包させた正電荷を帯びた表面修飾フェリチンタンパク分子と負電荷を帯びたフェリチンタンパク分子とを交互に基板上に塗布する工程を備えるものである。
ここで、正電荷を帯びた表面修飾フェリチンタンパク分子としては、チタン結合ペプチド(TBP:Titanium-Binding Peptide)を表面修飾したフェリチンが好適に用いられる。TBP−フェリチン(以下、本明細書では、“TBF”と記す。)は、pH5において分子全体で弱い正電荷を帯びている。TBFは、シリコン酸化膜などの半導体構成材料の表面に吸着しやすい性質を有している。また、負電荷を帯びたフェリチンタンパク分子としては、N末端アミノ酸を8残基欠損させたフェリチンが好適に用いられる。これらのタンパク分子を交互に基板上に塗布することで、凝集することなく高密度な2次元配置が可能となるのである。
【0015】
また、上記の本発明のタンパク分子の2次元配置方法において、交互塗布回数を制御することにより、タンパク分子の2次元配置密度を制御することが好ましい。
交互塗布回数を増加することにより、高密度化を図ることができるが、交互塗布回数を増加していくと、いずれ密度は一定の値となる。一定値となる前は、交互塗布回数と密度は1次線形の関係であり、交互塗布回数を制御することにより、タンパク分子の2次元配置密度を制御することができるのである。
さらに、塗布するタンパク分子の溶液濃度を調整することにより、密度調整の分解能を高めることができる。
【0016】
また、上記の本発明のタンパク分子の2次元配置方法において、基板上に正電荷もしくは負電荷を帯びた材料を被覆し、被覆材料とは異なる電荷を帯びたタンパク分子を基板上に塗布する工程、被覆材料と同じ電荷を帯びたタンパク分子を基板上に塗布する工程、これらの工程を交互に繰り返し行うことが好ましい。
基板の種類を問わず、基板上に正電荷もしくは負電荷を帯びた材料を被覆することにより、まず被覆材料とは異なる電荷を帯びたタンパク分子を基板上に塗布する工程を施し、次に被覆材料と同じ電荷を帯びたタンパク分子を基板上に塗布する工程を施し、これらの工程を交互に繰り返し行うことが可能である。それにより、タンパク分子の高密度化を図ることができる。
【0017】
また、上記の本発明のタンパク分子の2次元配置方法において、基板が負電荷を帯びた半導体基板であり、正電荷を帯びたタンパク分子を基板上に塗布する工程、負電荷を帯びたタンパク分子を基板上に塗布する工程、これらの工程を交互に繰り返し行うが好ましい。
基板がシリコン酸化膜基板の場合、表面が負電荷を帯びていることから、まず正電荷を帯びたタンパク分子を基板上に塗布する工程を施し、次に負電荷を帯びたタンパク分子を基板上に塗布する工程を施し、これらの工程を交互に繰り返し行うことが可能である。それにより、タンパク分子の高密度化を図ることができる。
【0018】
また、上記の本発明のタンパク分子の2次元配置方法において、フォトレジストを用いたリフトオフ工程を更に加えて、基板上に局所選択的に塗布を行い、タンパク分子を2次元配置させることが好ましい。
これにより、タンパク分子の脱離が極めて少ない、局所選択的な高密度の2次元配置が可能となる。リフトオフ工程において、ポストベーク時間を制御することにより、剥離処理後の基板上のタンパク分子の残存率および2次元配置密度を向上させることが可能である。
【0019】
上述した本発明のタンパク分子の2次元配置方法を用いて、高密度の無機ナノ材料含有薄膜を作製することができる。
【0020】
また、上述した本発明のタンパク分子の2次元配置方法を用いて、金属を内包したフェリチンタンパク分子を局所選択的に密度制御してパターン形成し、パターン形成された該フェリチンタンパク分子が内包している金属を種として、カーボンナノチューブを形成させることができる。
本発明のタンパク分子の2次元配置方法を用いて、高密度に2次元配置されたフェリチンタンパク分子内の鉄ナノ粒子を触媒として利用することで、高密度なカーボンナノチューブを任意の場所にパターニング形成することが可能である。
これにより、例えば、MEMS振動デバイス上の特定箇所のみに、フェリチンタンパク分子を局所選択的に配置した後、熱CVD(chemical vapor deposition)法によってカーボンナノチューブを形成することができる。
【0021】
上記のカーボンナノチューブの作製方法により形成させたカーボンナノチューブを、例えば振動デバイスに利用することで振動センサデバイスを作ることができる。また、カーボンナノチューブの水素吸蔵特性を利用することで水素ガスセンサを作ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、フェリチンなどの無機ナノ材料内包タンパク分子を基板上に、高密度に、かつ、局所選択的に、2次元配置できるといった効果を有する。
また、高密度で局所選択的に2次元配置させたフェリチンタンパク分子内の鉄ナノ粒子を触媒として用いて、高密度なカーボンナノチューブを任意の場所に形成することができるといった効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1のタンパク分子の2次元配置方法のプロセス模式図
【図2】TBFとFer8Sの交互塗布工程の進行に伴い、フェリチンタンパク分子の数が増加する様子の模式図
【図3】実施例1のタンパク分子の2次元配置方法の処理フロー図
【図4】多段階交互塗布工程を施した基板表面のフェリチンタンパク分子のSEM像
【図5】多段階交互塗布工程に伴い、高密度な2次元配置が実現できることの説明図
【図6】多段階塗布後のフェリチンの吸着密度を示すグラフ
【図7】(1)はTBF吸着密度の滴下後保持時間依存性を示すグラフで、(2)はTBF−Fer8Sの2段階塗布時のFer8S吸着密度の滴下後保持時間依存性を示すグラフ
【図8】実施例2のタンパク分子の2次元配置方法の処理フロー図
【図9】実施例2のタンパク分子の2次元配置方法の説明図
【図10】実施例2のタンパク分子の2次元配置方法のリフトオフ結果のAFM画像、(1)は“T8T8”のリフトオフ結果のAFM画像であり、(2)は“T8T8T8”のリフトオフ結果のAFM画像
【図11】TBF吸着基板のベーク処理(リフトオフの前処理)時間がリフトオフ工程後の吸着密度に及ぼす影響を示すグラフ
【図12】TBF吸着密度のリフトオフ工程時間依存性を示すグラフ
【図13】リフトオフ工程の処理温度がTBF吸着密度に及ぼす影響を示すグラフ
【図14】作製した試料におけるフェリチンの選択吸着状態を表すAFM画像(1)
【図15】作製した試料におけるフェリチンの選択吸着状態を表すAFM画像(1)
【図16】実施例3のタンパク分子の2次元配置方法を用いたカーボンナノチューブの作製処理フロー図
【図17】実施例3のタンパク分子の2次元配置方法を用いたカーボンナノチューブの作製処理の説明図
【図18】実施例3で作製したカーボンナノチューブのSEM像
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。以下に説明する本実施態様は、限定されることなく全ての点において考慮すべきものであり、特許請求の範囲の意味及び均等の範囲内で起こる全ての変化は、それに含まれることが意図されるものとする。
【実施例1】
【0025】
図1は、実施例1のタンパク分子の2次元配置方法のプロセス模式図である。図1(1)はアポフェリチン(Apoferritin)の模式図である。このアポフェリチンを、バイオミネライゼーションによって無機ナノ材料である鉄(Fe)を内包させたフェリチンを生成できる。
【0026】
フェリチンは、生体内の鉄イオンをコントロールする物質として多くの動物内に広く存在する。フェリチンは鉄貯蔵タンパク質といわれ、24個のサブユニットが自己組織的に集合し球体を形成する超分子である。フェリチンの直径は約12nmであり、中心の空孔は約7nmである。この空孔には通常約2000個の鉄原子が内包され、金属コアを形成している。このフェリチンの外殻を除去し、酸素を除去することにより、鉄酸化物コアをFeやFeOなどの導体や半導体に性質を変えることができる。なお、コアを形成する金属は酸化鉄に限られない。目的とする半導体の性質に応じて、遺伝子組み換えによりニッケル等他の金属に置換することが可能である。
【0027】
バイオミネライゼーションに生成したフェリチンに対して、チタン結合ペプチドを表面修飾したフェリチンタンパク分子(TBF)の模式図を図1(2)に示す。このTBFは、弱い正電荷を帯びている。
また、フェリチンからN末端アミノ酸を8残基欠損させたフェリチンタンパク分子(Ferritin lacking 8 amino acid residues)(以下、「Fer8S」と記す。)の模式図を図1(3)に示す。このFer8Sは、弱い負電荷を帯びている。
図1(4)に示すように、シリコン(Si)基板上に、弱い正電荷を帯びたTBFと弱い負電荷を帯びたFer8Sを交互に塗布する工程を繰り返す。具体的には、シリコン基板上にシリコン酸化膜を形成した上に、TBFとFer8Sの交互塗布を行う。
【0028】
図2は、TBFとFer8Sの交互塗布工程の進行に伴い、フェリチンタンパク分子の数が増加する様子を模式的に示したものである。
図2(1)は、基板上にまずTBFを塗布した状態の模式図を示している(この状態を“T”と記す。)。シリコン基板上に形成した酸化膜は負電荷を帯びている。このため、最初に正電荷を帯びたTBFを塗布する。
図2(2)は、基板上にTBFを塗布した後にFer8Sを塗布した状態の模式図を示している(この状態を“TS”と記す。)。図2(3)は、基板上にTBFを塗布した後にFer8Sを塗布し、その後再び、2回目のTBFを塗布した状態の模式図を示している(この状態を“TST”と記す。)。そして、これらの工程を繰り返していく。図2(4)は、基板上にTBFを塗布する工程およびFer8Sを塗布する工程を複数回繰り返した状態の模式図を示している(この状態を“TST...S”と記す。)。
【0029】
図3に、実施例1のタンパク分子の2次元配置方法の処理フロー図を示す。
先ず、シリコン基板に30nmの厚さのシリコン酸化膜(SiO)を形成する(ステップS101)。次に、シリコン酸化膜上にTBFを塗布する。TBFの塗布に用いる溶液は、濃度1.0mg/mlであり、溶媒はPHを5.0に調整するため50mMのMESを用いた緩衝液を用意し、フェリチン分子の凝集を防ぐため溶内にNaClを150mMになるように調整する。基板上にTBFの溶液を滴下し(ステップS111)、30分常温で保持した後(ステップS112)、15分純水洗浄を行い(ステップS113)、水分をブロワで除去する(ステップS114)。
【0030】
その後、Fer8Sを塗布する。Fer8Sの塗布に用いる溶液は、濃度1.0mg/mlであり、溶媒はPHを7.0に調整するため0.5mMのMES/Trisを用いた緩衝液を用意した。基板上にFer8Sの溶液を滴下し(ステップS121)、30分常温で保持した後(ステップS122)、15分純水洗浄を行い(ステップS123)、水分をブロワで除去する(ステップS124)。
TBF塗布工程(ステップS111〜S114)とFer8S塗布工程(ステップS121〜S124)を繰り返す(ステップS131)。
【0031】
図4は、上述の多段階交互塗布工程を施した基板表面のフェリチンタンパク分子のSEM像を示している。図4(1)は“T”(TBSを塗布した状態)、図4(2)は“T8”(TBFを塗布した後Fer8Sを塗布した状態)、図4(3)は“T8T”(TBFを塗布した後Fer8Sを塗布し更にTBFを塗布した状態)、図4(4)は“T8T8”(TBF塗布工程−Fer8S塗布工程−TBF塗布工程−Fer8S塗布工程)、図4(5)は“T8T8T”(TBF塗布工程−Fer8S塗布工程−TBF塗布工程−Fer8S塗布工程−TBF塗布工程)、図4(6)は“T8T8T8”(TBF塗布工程−Fer8S塗布工程−TBF塗布工程−Fer8S塗布工程−TBF塗布工程−Fer8S塗布工程)、図4(7)は“T8T8T8T”(TBF塗布工程−Fer8S塗布工程−TBF塗布工程−Fer8S塗布工程−TBF塗布工程−Fer8S塗布工程−TBF塗布工程)、図4(8)は“T8T8T8T8”(TBF塗布工程−Fer8S塗布工程−TBF塗布工程−Fer8S塗布工程−TBF塗布工程−Fer8S塗布工程−TBF塗布工程−Fer8S塗布工程)を示している。
【0032】
図4(1)〜(8)のSEM像から、交互塗布回数が増加するにつれて、フェリチンタンパク分子の粒子密度が高くなり、高密度な2次元配置が実現できることが確認できる。
【0033】
図5は、上記の多段階交互塗布工程に伴い、高密度な2次元配置が実現できることを説明する模式図である。図5(1)では、表面が負電荷を帯びている基板に、弱い正電荷を帯びたTBFを吸着させている。次に、弱い負電荷を帯びたFer8Sを塗布した場合、基板との関係では同じ負電荷であるため排斥し合うことになる。しかし、図5(2)に示すように、正電荷を帯びたTBFが基板表面に吸着されていると、そのTBFとFer8Sが正負の電荷により引き合って、結果的に基板に吸着されるのである。
【0034】
ここで、図4(1)〜(8)の各段階における塗布工程後のフェリチンの基板への吸着密度について説明する。
図6は、多段階塗布後のフェリチンの吸着密度を示すグラフである。図3のフローで説明したように、各フェリチン溶液を滴下した後、純水洗浄とブロワ乾燥を繰り返している。
図6のグラフから、“T”、“T8”、“T8T”、“T8T8”の繰り返し工程が増加するにつれて、吸着密度が1次線形に沿って増加していることがわかる。“T8T8”以降の繰り返しでは、吸着密度の増加率が下がり、限界密度に近づいていることがわかる。
9000(molecules/μm)は、高密度な状態となっている。従来は“T”の状態の密度であったことから、本発明の2次元配置方法により2倍以上の高密度化が実現できたことが理解できる。
【0035】
次に、TBFの基板への吸着密度について、TBF溶液の滴下後の保持時間依存性について説明する。
図7(1)は、TBF吸着密度の滴下後保持時間依存性を示すグラフである。TBF溶液を滴下した後に各時間経過後に純水洗浄し水分をブロワで除去したものである。
図7(1)から、TBF吸着密度は、TBF溶液滴下後の保持時間に影響が無いことが確認できる。
【0036】
また、TBF−Fer8Sの2段階塗布時のFer8S滴下後の保持時間が吸着密度に及ぼす影響について説明する。
図7(2)は、TBF−Fer8Sの2段階塗布時のFer8S吸着密度の滴下後保持時間依存性を示すグラフである。TBF−Fer8Sの2段階塗布時のFer8S溶液を滴下した後に各時間経過後に純水洗浄し水分をブロワで除去したものである。
図7(2)から、TBF−Fer8Sの2段階塗布時のFer8S吸着密度は、Fer8S溶液滴下後の保持時間に影響が無いことが確認できる。
【0037】
以上説明したように、シリコン基板上にTBFとFer8Sの多段階交互塗布工程を施すことにより、フェリチンタンパク分子の高密度な2次元配置を実現することが理解できよう。
【実施例2】
【0038】
実施例2では、実施例1のフェリチンタンパク分子の高密度な2次元配置を利用し、さらにリフトオフ工程を加えて、高密度で局所選択的な2次元配置方法について説明する。
図8は実施例2のタンパク分子の2次元配置方法の処理フロー図を示している。また、図9に実施例2のタンパク分子の2次元配置方法の説明図を示す。
実施例2のタンパク分子の2次元配置方法では、先ず、Si基板の表面に形成された酸化膜(SiO)の上にネガ型レジストを作製する(図8のステップS201,図9(1))。次に、図9(2)に示すように、ネガ型レジストをプリベークし(図8のステップS203)、1次露光し(図8のステップS205)、反転ベークし(図8のステップS207)、全面露光し(図8のステップS209)、現像する(図8のステップS211)。そして、実施例1に示したようなフェリチンの多段階交互塗布を施す(図8のステップS213)。その後、フェリチンを吸着されたものを110℃でポストベークする(図8のステップS215)。最後に、剥離液を用いてリフトオフ(Lift−off)処理を行う(図8のステップS217)。
【0039】
ここで、試料作製方法について詳細に述べる。
まず、フォトリソグフライーによりシリコン酸化膜基板上にネガ型レジストのラインパターン(線幅20μm、間隔30μm)を作製した。90℃のホットプレート上で脱水ベークした厚さ2μm のシリコン酸化膜基板上に、スピンコーターを用いて界面活性剤OAP(東京応化製)を順番に塗布した。レジスト塗布後の基板に対し、90℃のホットプレート上で2分のプリベークを行い、マスクアライナーで1.8S露光した後現像処理を行った。現像液にはNMD−3(東京応化製)を用い、基板を現像液に5分間浸した後で1分の純粋洗浄を行った上で、ブロワを用いて水分を除去した。
【0040】
TBFの塗布に用いる溶液は、濃度1.05mg/mlであり、溶媒はPHを5.0に調整するため50mMのMESを用いた緩衝液を用意し、フェリチン分子の凝集を防ぐため溶内にNaClを150mMになるように調整した。レジストのラインパターンを作製した基板上にフェリチン溶液を滴下し、30分常温で保持した後、15分純水洗浄を行い、水分をブロワで除去した。その後、110℃のホットプレート上で8分ポストベークを行った上で、常温の剥離液106(東京応化製)に5分間浸すことで、フォトレジストと共に、そこに吸着したフェリチンをリフトオフし、15分純水で洗浄した後、ブロワで水分を除去した。なお、比較用に、ポストベークしない試料と、ポストベークせず、かつ剥離液に浸す時間を10分にした試料も作製した。
【0041】
図10は、実施例2のタンパク分子の2次元配置方法のリフトオフ結果のAFM画像をしめしている。図10(1)は、“T8T8”のリフトオフ結果のAFM画像であり、図10(2)は“T8T8T8”のリフトオフ結果のAFM画像である。“T8T8T8”のリフトオフ結果のAFM画像(図10(2))の方が、“T8T8”のリフトオフ結果のAFM画像(図10(1))と比べて、ライン&スペースのパターンの境界部分がより明確であり、かつ、フェリチン吸着領域のフェリチンタンパク分子の脱離が少なく高密度であることがわかる。
【0042】
また、図11に、TBF吸着基板のベーク処理(リフトオフの前処理)時間がリフトオフ工程後の吸着密度に及ぼす影響を示すグラフを示す。
図11のグラフ中、“with ethanol”は剥離処理後エタノールに10分浸してから純水洗浄した場合の結果であり、“without ethanol”は剥離処理後エタノールに浸すことなく直接純水洗浄した場合の結果を示している。
図11のグラフから、4〜5分程度以上のベーク処理を行ったものはリフトオフ工程後のTBF吸着密度が一定となり、TBF吸着基板のベーク処理時間がリフトオフ工程後の吸着密度に及ぼす影響はないことが確認できる。
従って、高密度化のためには、ベーク処理時間は所定時間以上行うことが必要である。
【0043】
次に、図12は、TBF吸着密度のリフトオフ工程時間依存性(常温の場合)を示すグラフを示している。図11と同様、図12のグラフ中、“with ethanol”は剥離処理後エタノールに10分浸してから純水洗浄した場合の結果であり、“without ethanol”は剥離処理後エタノールに浸すことなく直接純水洗浄した場合の結果を示している。また、それぞれについて“after baking”と表記のあるものは、剥離処理前に110℃で10分間ベークした場合の結果である。
図12のグラフから、20〜30分程度以上のリフトオフ工程を行ったものはリフトオフ工程後のTBF吸着密度が一定となり、TBF吸着基板のリフトオフ工程時間がリフトオフ工程後の吸着密度に及ぼす影響はないことが確認できる。
従って、高密度化のためには、リフトオフ工程時間は所定時間以上行うことが必要である。
【0044】
次に、図13は、リフトオフ工程の処理温度がTBF吸着密度に及ぼす影響を示すグラフを示している。ここで、剥離液に浸した後はエタノールに10分間浸してから純水洗浄を行っている。図13のグラフから、リフトオフ工程の処理温度が40℃を超えたあたりから、TBF吸着密度に影響を及ぼすことがわかる。
従って、高密度化のためには、リフトオフ工程の処理温度は所定温度以下で行うことが必要である。
【0045】
作製した試料におけるフェリチンの選択吸着状態を表すAFM画像を図14に示す。ラインパターンがフェリチンによって良好に形成されている(図14(a))。拡大するとその境界の明確さが確認できる(図14(b))。ラインパターンのライン領域には高密度なフェリチン吸着が確認できる(図14(c))。一方、ラインスペース領域にはごくわずかに吸着物が見られるものの(図14(b))、それ以外にはほとんど吸着していないことが確認できる(図14(d))。
【0046】
また、図15から、剥離液に浸す時間を5分(図15(a))から10分(図15(b))に増加させると、最終的なフェリチンの吸着密度が減少することがわかる。さらに、フェリチンの塗布後にポストベークを行うことで、剥離液に浸した際に基板表面からフェリチンが脱離しにくくなり、吸着密度を高く保つ効果が得られていることが、ポストベークを行った場合(図14(b))と行わなかった場合(図15(a))との比較から確認できる。
【実施例3】
【0047】
実施例3では、実施例2のタンパク分子の2次元配置方法を用いたカーボンナノチューブの作製について説明する。
図16は、実施例3のタンパク分子の2次元配置方法を用いたカーボンナノチューブの作製の処理フローを示している。また、図17に実施例3のタンパク分子の2次元配置方法を用いたカーボンナノチューブの作製処理の説明図を示す。
上述の実施例2において、フェリチンをリフトオフで選択吸着させた試料のうち、ポストベーク8分、剥離液に浸す時間5分のものを準備する(図16のステップS301,図17(1))。準備した試料に対して、熱CVDによりカーボンナノチューブ(CNT)を作製する(図16のステップS303,図17(2))。そして、試料を入れた炉の温度が300℃になった時点で流量50ml/minで30分間供給し水素還元する(図16のステップS305)。その後、常温になるまで冷却する(図16のステップS307)。なお、300℃に昇温した時点の炉内圧力は44Paであり、冷却時は300℃になるまで水素の供給を続ける。
【0048】
図18に実施例3で作製したカーボンナノチューブ(CNT)のSEM像を示す。図18(1)は“T”(TBFの塗布工程)の基板上に作製したCNTを示している。図18(1)で左のSEM像は、リフトオフ工程により形成されたライン部分を示している。また、真ん中のSEM像はそれを更に拡大したものであり、右のSEM像は真ん中のSEM像を更に拡大したものである。以下、図18(2)〜(4)も同様である。
図18(2)は“T8”(TBFの塗布工程−Fer8Sの塗布工程)の基板上に作製したCNTを示している。また、図18(3)は“T8T8”(TBFの塗布工程−Fer8Sの塗布工程を2回繰り返したもの)の基板上に作製したCNTを示している。また、図18(4)は“T8T8T8”(TBFの塗布工程−Fer8Sの塗布工程を3回繰り返したもの)の基板上に作製したCNTを示している。
図18(1)〜(4)から、交互塗布の繰り返し工程が増加するにつれて、カーボンナノチューブ(CNT)が高密度で作製されることが確認できる。
【0049】
以上、図18のリフトオフを施した試料に熱CVD処理を行って得られたCNTのSEM画像から、フェリチンの吸着領域にCNTが選択的に形成されていることがわかる。すわなち、基板上に選択的な吸着パターンを作製し、フェリチン内部に含まれる鉄粒子を触媒として熱CVDにより、CNTを微小領域に限定して形成できるのである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、量子ドット半導体デバイスやカーボンナノチューブを利用した各種センサに有用である。
【符号の説明】
【0051】
1 アポフェリチン
2 TBF(Titanium-Binding Peptide Ferritin)
3 Fer8S(Ferritin lacking 8 amino acid residues)
4 フェリチンコア
5 TBP(Titanium-Binding Peptide)
6 TBF溶液の液滴
7 Fer8S溶液の液滴
10 シリコン基板
11 シリコン酸化膜
20 ネガ型レジスト
25 ヒーター
30 高密度フェリチン配列膜
40 カーボンナノチューブ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
同種あるいは異種の無機ナノ材料を内包させた互いに相反する電荷を帯びたタンパク分子を交互に基板上に塗布する工程を備えたことを特徴とするタンパク分子の2次元配置方法。
【請求項2】
同種あるいは異種の無機ナノ材料を内包させた正電荷を帯びた表面修飾フェリチンタンパク分子と負電荷を帯びたフェリチンタンパク分子とを交互に基板上に塗布する工程を備えたことを特徴とするタンパク分子の2次元配置方法。
【請求項3】
請求項2に記載のタンパク分子の2次元配置方法において、前記正電荷を帯びた表面修飾フェリチンタンパク分子がチタン結合ペプチド(TBP)を表面修飾したフェリチンタンパク分子であり、前記負電荷を帯びたフェリチンタンパク分子がN末端アミノ酸を8残基欠損させたフェリチンタンパク分子であること。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク分子の2次元配置方法において、
交互塗布回数を制御することにより、タンパク分子の2次元配置密度を制御すること。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のタンパク分子の2次元配置方法において、基板上に正電荷もしくは負電荷を帯びた材料を被覆し、被覆材料とは異なる電荷を帯びたタンパク分子を基板上に塗布する工程、前記被覆材料と同じ電荷を帯びたタンパク分子を基板上に塗布する工程、これらの工程を交互に繰り返し行うこと。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のタンパク分子の2次元配置方法において、基板が負電荷を帯びた半導体基板であり、正電荷を帯びたタンパク分子を基板上に塗布する工程、負電荷を帯びたタンパク分子を基板上に塗布する工程、これらの工程を交互に繰り返し行うこと。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のタンパク分子の2次元配置方法において、
フォトレジストを用いたリフトオフ工程を更に加えて、基板上に局所選択的に塗布を行い、タンパク分子を2次元配置させること。
【請求項8】
請求項7に記載のタンパク分子の2次元配置方法において、前記リフトオフ工程において、ポストベーク時間を制御して、剥離処理後の基板上のタンパク分子の残存率および2次元配置密度を向上させること。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載のタンパク分子の2次元配置方法を用いた無機ナノ材料含有薄膜の作製方法。
【請求項10】
請求項7又は8のいずれかに記載のタンパク分子の2次元配置方法を用いて、
金属を内包したフェリチンタンパク分子を局所選択的に密度制御してパターン形成し、
パターン形成された該フェリチンタンパク分子が内包している金属を種として、カーボンナノチューブを形成させたことを特徴とするカーボンナノチューブの作製方法。
【請求項11】
請求項10に記載のカーボンナノチューブの作製方法を用いて形成させたカーボンナノチューブを利用したセンサデバイス。
【請求項12】
請求項10に記載のカーボンナノチューブの作製方法を用いて形成させたカーボンナノチューブを利用した水素ガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−183519(P2011−183519A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52413(P2010−52413)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年9月10日 社団法人 精密工学会主催の「2009年度精密工学会秋季大会 学術講演会」において文書をもって発表
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】