説明

無段変速機用プーリ

【課題】CVTを備えた車両が高速(OD)走行する場合でも、燃費の悪化をもたらさず、また、変速レスポンスの低下により変速制御が複雑、且つ、困難になることがないCVT用プーリを提供する。
【解決手段】CVTに用いられる、駆動力が入力するドライブプーリと、ドライブプーリとの間に駆動力伝達手段が掛け回されて伝達された駆動力を出力するドリブンプーリとからなるCVT用プーリにおいて、ドライブプーリ11の傾斜面外周側部分11aの傾斜角度を、傾斜面外周側以外の部分11bの傾斜角度より小さく、ドリブンプーリ12の傾斜面内周側部分12aの傾斜角度を、傾斜面内周側以外の部分12bの傾斜角度より小さく形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無段変速機用プーリに関し、特に、車両に備えられ、駆動力を伝達する伝達手段としてベルトやチェーン等が掛け回された無段変速機用プーリに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動力を伝達する伝達手段としてVベルトを用いた無段変速装置(Continuously Variable Transmission:CVT)が知られており、このようなものとして、例えば、「Vベルト式無段変速装置」(特許文献1参照)がある。
【0003】
従来の「Vベルト式無段変速装置」(特許文献1参照)は、原動軸側に軸装されたドライブプーリと、従動軸に軸装されたドリブンプーリと、これら2つのプーリ間に巻装されたVベルトとを備え、原動軸の回転速度が上昇するにつれてドライブプーリのVベルト巻装径が大きくなると同時にドリブンプーリのVベルト巻装が小さくなるように構成されたVベルト式無段変速装置において、ドライブプーリのVベルト挟み角を外周側から内周側に向かって狭くし、その外周側のVベルト挟み角をVベルトのV角度に近付ける一方、ドリブンプーリのVベルト挟み角を外周側から内周側に向かって広くし、その内周側のVベルト挟み角をVベルトのV角度に近付けたことを特徴としている。
【0004】
この従来の「Vベルト式無段変速装置」においては、ドライブプーリのVベルト挟み角が外周側で広くなっているのに対し、ドリブンプーリでは、その挟み角が内周側で広くなっている。なお、ドライブプーリとドリブンプーリの間に掛け渡された駆動力伝達手段(ベルトやチェーン等)が、ドライブプーリ外周側とドリブンプーリ内周側に位置した状態になるのは、例えば、CVTを備えた車両が高速(オーバドライブ、Over Drive:OD)走行する場合である。
【特許文献1】特開平08−326859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プーリのVベルト挟み角が広いと、プーリから駆動力伝達手段(ベルトやチェーン等)への動力伝達、及び駆動力伝達手段からプーリへの動力伝達に必要なプーリ押し付け圧力を大きくする必要がある。この結果、燃費の悪化をもたらすことになってしまう。なお、ここでの高速(OD)走行は、変速比が最も大きい状態を指しており、CVTでは変速比が最も大きい状態での運転頻度が高いことから、燃費悪化の主要因の一つになっている。
【0006】
また、一般的に、Vベルトは、プーリへの挟み角を小さくしたほうが、プーリ押し付け圧力を小さくできることから燃費が良くなるが、挟み角を小さくすると、Vベルトへの半径方向の力が減少するため、変速レスポンスの低下を招き、変速制御が複雑、且つ、困難になってしまうことが避けられなかった。
この発明の目的は、CVTを備えた車両が高速(OD)走行する場合でも、燃費の悪化をもたらさず、また、変速レスポンスの低下により変速制御が複雑、且つ、困難になることがないCVT用プーリを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、この発明に係るCVT用プーリは、CVT(Continuously Variable Transmission)に用いられる、駆動力が入力するドライブプーリと、前記ドライブプーリとの間に駆動力伝達手段が掛け回されて伝達された駆動力を出力するドリブンプーリとからなるCVT用プーリにおいて、前記ドライブプーリの傾斜面外周側部分の傾斜角度を、前記傾斜面外周側以外の部分の傾斜角度より小さく、前記ドリブンプーリの傾斜面内周側部分の傾斜角度を、前記傾斜面内周側以外の部分の傾斜角度より小さく形成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、CVTに用いられる、駆動力が入力するドライブプーリと、ドライブプーリとの間に駆動力伝達手段が掛け回されて伝達された駆動力を出力するドリブンプーリとからなるCVT用プーリは、ドライブプーリの傾斜面外周側部分の傾斜角度が、傾斜面外周側以外の部分の傾斜角度より小さく、ドリブンプーリの傾斜面内周側部分の傾斜角度が、前記傾斜面内周側以外の部分の傾斜角度より小さく形成されている。
このため、CVTを備えた車両が高速(OD)走行する場合でも、燃費が悪化することがなく、また、変速レスポンスの低下が抑制されるので、変速レスポンスの低下により変速制御が複雑、且つ、困難になることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。
図1は、この発明の一実施の形態に係るCVT用プーリを備えたCVTの断面説明図である。図1に示すように、無段変速装置(CVT)10は、ドライブプーリ(プライマリプーリ)11とドリブンプーリ(セカンダリプーリ)12のCVT用プーリと共に、ドライブプーリ11とドリブンプーリ12の間に掛け回された、ベルトやチェーン等の駆動力伝達手段13を有している。このCVT10は、例えば、車両に備えられて、車両走行時の変速比を無段階に変化させることができる。
【0010】
ドライブプーリ11には、エンジン(図示しない)からの駆動力が、トルクコンバータ14、更に前後進切替部15を経て伝達され、ドリブンプーリ12から出力された駆動力は、出力ギヤ16を介してリダクションギヤ17aを備えた減速部17、更にディファレンシャル部18を経て、駆動軸(図示しない)に伝達される。
ドライブプーリ11とドリブンプーリ12は、共に、固定プーリに対し可動プーリを移動させてプーリの溝幅を変更することができ、駆動する側であるドライブプーリ11と駆動される側であるドリブンプーリ12の溝幅を連続的に変えることで、駆動する側と駆動される側の駆動力伝達手段13の伝達ピッチを変化させ、これによって滑らかな無段階変速を行なうことができる。
【0011】
図2は、図1のドライブプーリとドリブンプーリを拡大して示す断面説明図である。図2に示すように、ドライブプーリ11とドリブンプーリ12は、高速(OD)走行時の駆動力伝達手段13の走行路となるプーリ傾斜面の傾斜角度を、走行路とならないプーリ傾斜面の傾斜角度より小さくしている。
【0012】
つまり、高速(OD)走行時の駆動力伝達手段13の走行路である、ドライブプーリ11の傾斜面外周側部分11aの傾斜角度(プーリ角度)αが、他の部分、即ち、ドライブプーリ11の傾斜面外周側以外の部分11bの傾斜角度(プーリ角度)βより小さく(α<β)形成されている。同様に、高速(OD)走行時の駆動力伝達手段13の走行路である、ドリブンプーリ12の傾斜面内周側部分12aの傾斜角度(プーリ角度)αが、他の部分、即ち、ドリブンプーリ12の傾斜面内周側以外の部分12bの傾斜角度(プーリ角度)βより小さく(α<β)形成されている。
【0013】
この結果、ドライブプーリ11のプーリ溝は、径方向に沿う断面の傾斜角度が外周側で小さく内周側で大きい二段階傾斜面からなるV字形状を有し、ドリブンプーリ12のプーリ溝は、径方向に沿う断面の傾斜角度が外周側で大きく内周側で小さい二段階傾斜面からなるV字形状を有することになる。
このように、CVT10用のプーリ(ドライブプーリ11、ドリブンプーリ12)が、高速(OD)走行時のプーリ押し付け圧力を小さくする構造を有することにより、CVT10の高速走行時の燃料消費を抑制することができる。加えて、プーリ挟み角度小のときに不利益要因となる変速レスポンスの悪化を、プーリ挟み角度(傾斜面傾斜角度)小の部分を一部に限定する構造により最小に抑えることができる。
【0014】
ここで、一般的に、Vベルトはプーリへの挟み角を小さくしたほうが、プーリ押し付け圧力を小さくできるため燃費が良くなることについて説明する。
平ベルトの状態では、ベルトがプーリを押す力Nは、
N=F
となることにより、Vベルトがプーリを押す力は、安定した状態では、平ベルトに対し1/[2sin(α/2)]倍となる。ここで、Fはベルトを押し込む力、αはV溝角度である。更に、Vベルトは、プーリとの接触面が二箇所あるため、ベルト1本でのプーリを押す力は、2Nとなる。よって、
2N=F/sin(α/2)
となる。
【0015】
これは、くさび効果によりベルトがプーリを押す力が増えたことを表す。即ち、摩擦係数をμ、見かけの摩擦係数をμ´とすると、
μ´=(1/0.34)μ
より、見かけの摩擦係数μ´はμの約3倍となり、くさび効果がない平ベルトに対し、Vベルト伝動の場合は、初張力が同じであればより大きな伝達力を発生することができる。
つまり、一般的なCVTの(α/2)は11度で約5.2倍。これを9度にすると約6.4倍になり、11度のときの約1.2倍(20%アップ)となる。これは、張力が同じ、即ち、プーリ圧力が同じとしたときなので、同じ伝達力(トルク)を伝えるのには、プーリ圧力を落とせることになる。
【0016】
Vベルトの角度(狭角)と摩擦係数の関係については、
sin(α/2)≧μrcos(α/2)
∴tan(α/2)≧μr
となる。ここで、径方向の摩擦係数μrは0.1以上なので、一般的なCVTの(α/2)である11度は、tan11°≒0.19で十分大きく、安全係数を考えると狭角化は、tan8°≒0.14位が限度となる。CVTの変速時も、ベルトの半径方向への移動なので、狭角である程、動き難い(変速レスポンスが悪い)ことも分かる(参考文献:「ベルト伝動の実用設計」ベルト伝動技術懇話会編 (株)養賢堂 1996 P40〜P45)。
【0017】
CVT10用のプーリ(ドライブプーリ11、ドリブンプーリ12)に掛け回される駆動力伝達手段13として、例えば、ベルト又はチェーンを使用することができるが、ベルト又はチェーンのプーリ(ドライブプーリ11、ドリブンプーリ12)への接触部は、プーリ傾斜面の角度違いに対応できる形状に形成することが望ましい。
【0018】
つまり、駆動力伝達手段13として、ベルト19又はチェーン20を使用する場合は、ベルト19又はチェーン20の、それぞれのプーリ(ドライブプーリ11、ドリブンプーリ12)との接触部である側端面を、二段階傾斜面であるプーリ傾斜面(傾斜面外周側部分11aと傾斜面外周側以外の部分11b、傾斜面内周側部分12aと傾斜面内周側以外の部分12b)の傾斜角度の違いに対応する角度違い対応形状である、移動方向に沿って二種類の傾斜角度からなる角度違い形状(図3参照)、或いは移動方向に沿う円弧形状(図4参照)、或いは球面形状に形成する。
【0019】
ドライブプーリ11の傾斜面に対応した、角度違い形状及び円弧形状の具体例を、図3及び図4に示す。図3は、この発明に係るプーリとベルトの接触例を示す説明図であり、図4は、この発明に係るプーリとチェーンの接触例を示す説明図である。
図3に示すように、ベルト19は、ドライブプーリ11との接触部である側端面を、二段階傾斜面であるプーリ傾斜面外周側部分11aに対応した側端面19aと、プーリ傾斜面外周側以外の部分11bに対応した側端面19bからなる、角度違い形状としている。また、図4に示すように、チェーン20は、ドライブプーリ11との接触部である側端面を、二段階傾斜面であるプーリ傾斜面外周側部分11aとプーリ傾斜面外周側以外の部分11bに対応した側端面20aからなる、円弧形状としている。
【0020】
また、ドライブプーリ11とドリブンプーリ12のそれぞれのプーリ角度変化部である、二種類の傾斜角度面を繋ぐ接続部分(傾斜面外周側部分11aと傾斜面外周側以外の部分11b、傾斜面内周側部分12aと傾斜面内周側以外の部分12b)は、駆動力伝達手段13(ベルト又はチェーン等)がプーリ角度変化部をできるだけ滑らかに通過することができるように、二種類の傾斜角度からなる影響を少なくする大円弧形状とすることが望ましい。
【0021】
図5は、この発明に係るプーリの角度変化部を示し、(a)はプーリ挟み角度小から大への変化部の断面説明図、(b)はプーリ挟み角度大から小への変化部の断面説明図である。図5に示すように、ドライブプーリ11のプーリ角度変化部である、二種類の傾斜角度からなる傾斜面接続部分(傾斜面外周側部分11aと傾斜面外周側以外の部分11b)は、二種類の傾斜角度面を滑らかに繋ぐ、接続部分の半径方向断面において駆動力伝達手段13の接触面が凹型((a)参照)の大円弧形状とし、ドリブンプーリ12のプーリ角度変化部である、二種類の傾斜角度からなる傾斜面接続部分(傾斜面内周側部分12aと傾斜面内周側以外の部分12b)は、二種類の傾斜角度面を滑らかに繋ぐ、接続部分の半径方向断面において駆動力伝達手段13の接触面が凸型((b)参照)の大円弧形状とする。
【0022】
つまり、ドライブプーリ11及びドリブンプーリ12は、それぞれの異なった傾斜角度からなる駆動力伝達手段接触面を、傾斜面接続部分の半径方向断面において円弧形状(図5参照)となるように形成した。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の一実施の形態に係るCVT用プーリを備えたCVTの断面説明図である。
【図2】図1のドライブプーリとドリブンプーリを拡大して示す断面説明図である。
【図3】この発明に係るプーリとベルトの接触例を示す説明図である。
【図4】この発明に係るプーリとチェーンの接触例を示す説明図である。
【図5】この発明に係るプーリの角度変化部を示し、(a)はプーリ挟み角度小から大への変化部の断面説明図、(b)はプーリ挟み角度大から小への変化部の断面説明図である。
【符号の説明】
【0024】
10 CVT
11 ドライブプーリ
11a 傾斜面外周側部分
11b 傾斜面外周側以外の部分
12 ドリブンプーリ
12a 傾斜面内周側部分
12b 傾斜面内周側以外の部分
13 駆動力伝達手段
14 トルクコンバータ
15 前後進切替部
16 出力ギヤ
17 減速部
17a リダクションギヤ
18 ディファレンシャル部
19 ベルト
20 チェーン
α,β 傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CVT(Continuously Variable Transmission)に用いられる、駆動力が入力するドライブプーリと、前記ドライブプーリとの間に駆動力伝達手段が掛け回されて伝達された駆動力を出力するドリブンプーリとからなるCVT用プーリにおいて、
前記ドライブプーリの傾斜面外周側部分の傾斜角度を、前記傾斜面外周側以外の部分の傾斜角度より小さく、前記ドリブンプーリの傾斜面内周側部分の傾斜角度を、前記傾斜面内周側以外の部分の傾斜角度より小さく形成したことを特徴とするCVT用プーリ。
【請求項2】
前記駆動力伝達手段は、
前記ドライブプーリ或いは前記ドリブンプーリとの接触部が、前記ドライブプーリ或いは前記ドリブンプーリのそれぞれの傾斜角度の違いに対応する角度違い対応形状を有することを特徴とする請求項1に記載のCVT用プーリ。
【請求項3】
前記ドライブプーリ及び前記ドリブンプーリは、
それぞれの異なった傾斜角度からなる駆動力伝達手段接触面を、傾斜面接続部分の半径方向断面において円弧形状となるように形成したことを特徴とする請求項1または2に記載のCVT用プーリ。
【請求項4】
前記駆動力伝達手段は、ベルト或いはチェーンであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のCVT用プーリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−204013(P2009−204013A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44569(P2008−44569)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】