説明

無段変速機

【課題】トロイダル式無段変速装置の無段変速回転をプラネタリギヤ機構を迂回して出力軸に伝達し得る第2伝達軸を備えることで、耐久性の向上やコンパクト化が可能な無段変速機を提供する。
【解決手段】無段変速機1には、バリエータ10と、プラネタリギヤ機構30と、ロー・ハイ切換え機構20と、出力軸3とが備えられている。この無段変速機1に、出力ディスク12A,12Bの無段変速回転をプラネタリギヤ機構30に伝達するスリーブ71と、出力ディスク12A,12Bの無段変速回転をプラネタリギヤ機構30を迂回して出力軸3に伝達し得るカウンタシャフト75とを備えることで、ローモード時にあっては入力軸2の回転と無段変速回転とをプラネタリギヤ機構30で回転合成して出力軸3に伝達し、ハイモード時にあってはカウンタシャフト75を介して無段変速回転を出力軸3に伝達するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に適用されて好適な無段変速機に係り、特に入力軸の回転とトロイダル式無段変速装置の無段変速回転とを回転合成するプラネタリギヤ機構を備えた無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トロイダル式無段変速装置を用い、一軸状に各部材を配置した無段変速機が提案されている(特許文献1)。該無段変速機は、トロイダル式無段変速装置(バリエータ)とプラネタリギヤ装置とを組合せて、該トロイダル式無段変速装置の変速回転と入力軸からの入力回転とをトルク循環しつつ合成し、該合成回転を反転・減速して出力するローモードと、該合成回転をそのまま出力するハイモードとを備えて、ギヤニュートラル(GN)を含む自動車の出力回転として適当な正逆変速回転を得ている(IVT;infinitely variable transmission)。
【0003】
上記一軸状の無段変速機は、入力ディスク、出力ディスク及びこれら両ディスクの間に配置されて両ディスクとの接触半径位置を変更し得るローラからなるトロイダル式無段変速装置と、入力側から順に第1、第2、第3のピニオン(スリーステップピニオン)を軸方向に配置したキャリヤを有するプラネタリギヤ機構と、第4、第5のピニオンを軸方向に配置したキャリヤを有する反転ギヤ機構と、第3のピニオンに噛合する第3のサンギヤと反転ギヤ機構の入力側サンギヤとを連結する連結部材と、反転ギヤ機構の出力側サンギヤを停止し得るローブレーキ及びプラネタリギヤの第2のサンギヤ(ハイモード時出力ギヤ)と出力軸との間に介在するハイクラッチからなるロー・ハイ切換え機構と、を備えて構成されている。
【0004】
これにより、この無段変速機は、ローブレーキを係合すると共にハイクラッチを解放したローモードにあっては、入力軸の回転を直接入力するキャリヤと無段変速装置を介して反転・変速された第1のサンギヤの回転とをプラネタリギヤ機構にて合成・減速して第3のサンギヤに出力し、更に該出力ギヤの回転を連結部材を介して反転ギヤ機構に入力し、該反転ギヤ機構にて回転を反転して出力軸に出力している。ローブレーキを解放すると共にハイクラッチを係合したハイモードにあっては、第2のサンギヤの回転がハイクラッチを介して出力軸に伝達される。
【0005】
一方、トロイダル式無段変速装置を用い、出力ディスクの回転をカウンタシャフト(カウンタ軸)を介して出力する二軸状の伝達経路で構成され、ローモード時に該トロイダル式無段変速装置の変速回転と入力軸からの入力回転とをトルク循環して合成する無段変速機(特許文献2)や、ハイモード時にトルク循環して合成する無段変速機(特許文献3)も提案されている。
【0006】
上記二軸状の無段変速機のうちローモード時にトルク循環するものは、上述と同様なトロイダル式無段変速装置(ハーフトロイダル式)と、該トロイダル式無段変速装置の出力ディスクに外周側で噛合し、該出力ディスクの変速回転を入力軸と平行な軸上で変速回転を伝達するカウンタシャフトと、サンギヤ、キャリヤ、及びリングギヤを有するプラネタリギヤと、入力軸の回転を該キャリヤに入力自在にするロークラッチと、該キャリヤとリングギヤとを一体的に係合するハイクラッチとを備えて構成されている。
【0007】
これにより、この無段変速機は、ロークラッチを係合すると共にハイクラッチを解放したローモードにあっては、入力軸の回転を直接入力するキャリヤと無段変速装置及びカウンタシャフトを介して(無段変速装置で反転、カウンタギヤで再反転されて)変速されたサンギヤの回転とをプラネタリギヤにて合成・減速してリングギヤに出力し、該リングギヤより出力軸に出力している。ローブレーキを解放すると共にハイクラッチを係合したハイモードにあっては、無段変速装置の変速回転がカウンタシャフトを介してサンギヤだけに入力され、該サンギヤの回転がハイクラッチの係合により一体回転するプラネタリギヤを介して出力軸に出力される。
【0008】
また、上記二軸状の無段変速機のうちハイモード時にトルク循環するものは、上述と同様なトロイダル式無段変速装置(ハーフトロイダル式)と、該トロイダル式無段変速装置の出力ディスクに外周側で噛合し、該出力ディスクの変速回転を入力軸と平行な軸上で変速回転を伝達するカウンタシャフトと、該カウンタシャフトに接続される第1のサンギヤ、連結された第1のキャリヤ及び第2のリングギヤ、連結された第1のリングギヤ及び第2のキャリヤを有するプラネタリギヤ機構と、第2のサンギヤの回転を固定自在なローブレーキと、入力軸の回転を第1のキャリヤに入力自在にするハイクラッチとを備えて構成されている。
【0009】
これにより、この無段変速機は、ロークラッチを係合すると共にハイクラッチを解放したローモードにあっては、無段変速装置及びカウンタシャフトを介して反転・変速された第1のサンギヤの回転をプラネタリギヤ機構にて合成・減速して第1のリングギヤ及び第2のキャリヤに出力し、出力軸に出力している。ローブレーキを解放すると共にハイクラッチを係合したハイモードにあっては、カウンタシャフトを介して無段変速装置の変速回転が入力された第1のサンギヤの回転と入力軸の回転が入力された第1のキャリヤの回転とをプラネタリギヤ機構により合成し、第1のリングギヤより出力軸に出力している。
【0010】
なお、この無段変速機において後進時には、後進ブレーキにより第1のキャリヤの回転を固定し、第1のサンギヤに入力される無段変速装置の変速回転を反転して第1のリングギヤより出力軸に出力している。
【0011】
【特許文献1】国際公開公報 WO03/100295A1
【特許文献2】特開平11−63148号公報
【特許文献3】特開2004−144300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上記一軸状の無段変速機は、プラネタリギヤ機構で上記変速回転と入力回転とをトルク循環して合成し、その合成回転をハイモード出力とするため、特にローモード時は該合成回転を反転・減速するギヤ(第3のピニオン、第3のサンギヤ、反転ギヤ機構等)が必要となる。そのため、軸方向の短縮化が難しく、軸方向に対する無段変速機のコンパクト化の妨げとなっていた。
【0013】
一方、上述した二軸状の無段変速機は、プラネタリギヤ機構においてローモードとハイモードとの一方しかトルク循環を行わず、それにより異なる変速比や反転状態を形成しているため、減速ギヤや反転ギヤ機構等を配設することを不要とし、軸方向に対する無段変速機のコンパクト化を図ることが可能となる。
【0014】
しかしながら、ローモードであってもハイモードであってもカウンタシャフトを用いて無段変速装置の変速回転を伝達しているため、特にローモードにおいて減速比が大きい回転を伝達する必要があり、つまり大きなトルクを伝達する必要があるので、カウンタシャフトや該カウンタシャフトを回転支持するベアリング等の耐久性の向上の妨げになるという問題がある。また、カウンタシャフトの強度や耐久性を向上するためには、該カウンタシャフトを大径化したり、上記ベアリング等の回転支持部材を大きくしたりする必要が生じる。そのため、無段変速機のコンパクト化の妨げとなってしまう。
【0015】
更に、上記プラネタリギヤ機構には、ローモードであってもハイモードであっても無段変速装置の変速回転が入力されるため、各ギヤの歯数が両モードに対応し得る歯数に制限されてしまい、サンギヤ径、ピニオン径、リングギヤ径等に制限が生じて、プラネタリギヤ機構の肥大化を招いてしまい、特に径方向における無段変速機のコンパクト化の妨げになるという問題もある。
【0016】
そこで本発明は、トロイダル式無段変速装置の出力ディスクの無段変速回転をプラネタリギヤ機構を迂回して出力軸に伝達し得る第2伝達軸を備え、もって耐久性の向上やコンパクト化が可能な無段変速機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に係る本発明は(例えば図1乃至図8参照)、駆動源に接続される入力軸(2)と、前記入力軸(2)の回転に基づき入力ディスク(11A,11B)に入力される回転を無段変速回転(Vout)に変速して出力ディスク(12A,12B)より出力するトロイダル式無段変速装置(10)と、プラネタリギヤ機構(30)と、ロー係合要素(L)とハイ係合要素(H)との係合状態によってローモードとハイモードとを切換えし得るロー・ハイ切換え機構(20)と、駆動車輪に接続される出力軸(3)と、を備えた無段変速機(1)において、
前記出力ディスク(12A,12B)の無段変速回転(Vout)を前記プラネタリギヤ機構(30)に伝達する第1伝達軸(71)と、
前記出力ディスク(12A,12B)の無段変速回転(Vout)を前記プラネタリギヤ機構(30)を迂回して前記出力軸(3)に伝達し得る第2伝達軸(75,175,275)と、を備え、
前記ローモード時にあっては、前記入力軸(2)の回転と前記第1伝達軸(71)の無段変速回転(Vout)とを前記プラネタリギヤ機構(30)で回転合成して前記出力軸(3)に伝達し、
前記ハイモード時にあっては、前記第2伝達軸(75,175,275)を介して前記無段変速回転(Vout)を前記出力軸(3)に伝達する、
ことを特徴とする無段変速機(1)にある。
【0018】
請求項2に係る本発明は(例えば図1乃至図7参照)、前記トロイダル式無段変速機(10)は、前記入力軸(2)上に配設されてなり、
前記入力ディスク(11A,11B)には、前記入力軸(2)の回転が入力されてなる、
ことを特徴とする請求項1記載の無段変速機(1,1)にある。
【0019】
請求項3に係る本発明は(例えば図1乃至図5参照)、前記第2伝達軸は、一端に固着された入力ギヤ(73)と他端に固着された出力ギヤ(76)とを有して前記入力軸(2)と平行な軸上に配置されたカウンタシャフト(75)からなり、
少なくとも前記ハイモード時に前記出力ディスク(12A,12B)に連動して前記無段変速回転(Vout)で回転すると共に前記カウンタシャフト(75)の入力ギヤ(73)に噛合する無段回転出力ギヤ(72)と、
少なくとも前記ハイモード時に前記出力軸(3)に連動する出力軸連動ギヤ(78)と、
前記カウンタシャフト(75)の出力ギヤ(76)と前記出力軸連動ギヤ(78)とに噛合する反転ギヤ(77)と、を備えた、
ことを特徴とする請求項2記載の無段変速機(1)にある。
【0020】
請求項4に係る本発明は(例えば図6及び図7参照)、前記第2伝達軸は、一端に固着された入力部材(174)と他端に固着された出力ギヤ(176)とを有して前記入力軸(2)と平行な軸上に配置されたカウンタシャフト(175)からなり、
前記出力ディスク(12A,12B)に連動して前記無段変速回転(Vout)で回転し得る無段回転出力部材(172)と、
前記無段回転出力部材(172)と前記カウンタシャフト(175)の入力部材(174)とに巻回係着されたベルト状部材(173)と、
前記カウンタシャフト(175)の出力ギヤ(176)に噛合すると共に少なくとも前記ハイモード時に前記出力軸(3)に連動する出力軸連動ギヤ(178)と、を備えた、
ことを特徴とする請求項2記載の無段変速機(1)にある。
【0021】
請求項5に係る本発明は(例えば図1乃至図7参照)、前記入力軸(2)、前記トロイダル式無段変速装置(10)、前記プラネタリギヤ機構(30)、前記ロー・ハイ切換え機構(20)、及び前記出力軸(3)が、一軸上に配置されてなる、
ことを特徴とする請求項3又は4記載の無段変速機(1,1)にある。
【0022】
請求項6に係る本発明は(例えば図8参照)、前記入力軸(2)に同軸上で接続されると共に、PTO装置に接続されるドライブシャフト(210)と、
前記入力軸(2)に固着された入力回転出力ギヤ(201)と、
前記入力回転出力ギヤ(201)に噛合する反転入力ギヤ(202)と、
前記反転入力ギヤ(202)に固着され、前記入力軸(2)と平行な軸上に配置された回転軸(203)と、を備えてなり、
前記トロイダル式無段変速機(10)及び前記プラネタリギヤ機構(30)は、前記回転軸(203)上に配設されてなり、
前記入力ディスク(11A,11B)には、前記回転軸(203)の回転が入力されてなる、
ことを特徴とする請求項1記載の無段変速機(1)にある。
【0023】
請求項7に係る本発明は(例えば図8参照)、前記第2伝達軸は、一端に固着された入力ギヤ(273)と他端に固着された出力ギヤ(276)とを有して前記ドライブシャフト(210)上に回転自在に配置されたカウンタシャフト(275)からなり、
少なくとも前記ハイモード時に前記出力ディスク(12A,12B)に連動して前記無段変速回転(Vout)で回転すると共に前記カウンタシャフト(275)の入力ギヤ(273)に噛合する無段回転出力ギヤ(272)と、
少なくとも前記ハイモード時に前記出力軸(3)に連動する出力軸連動ギヤ(278)と、を備えた、
ことを特徴とする請求項6記載の無段変速機(1)にある。
【0024】
請求項8に係る本発明は、前記入力軸(2)、前記ドライブシャフト(210)、及び前記カウンタシャフト(275)が、第1軸(CT1)上に配置され、
前記トロイダル式無段変速装置(10)、前記プラネタリギヤ機構(30)、前記ロー・ハイ切換え機構(20)、及び前記出力軸(3)が、前記第1軸(CT1)と平行な第2軸(CT2)上に配置されてなる、
ことを特徴とする請求項7記載の無段変速機(1)にある。
【0025】
請求項9に係る本発明は(例えば図3、図4、及び図7参照)、前記ハイ係合要素は、前記第2伝達軸(75,175)と前記出力ディスク(12A,12B)との間に介在するハイクラッチ(H)である、
ことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか記載の無段変速機(1)にある。
【0026】
請求項10に係る本発明は(例えば図1、図3、図5、図6、図7、及び図8参照)、前記ロー係合要素は、前記プラネタリギヤ機構(30)と前記出力軸(3)との間に介在するロークラッチ(L)である、
ことを特徴とする請求項1ないし9のいずれか記載の無段変速機(1)にある。
【0027】
請求項11に係る本発明は(例えば図1、図3、図5、図6、図7、及び図8参照)、前記プラネタリギヤ機構(30)は、前記第1伝達軸(71)に接続されたサンギヤ(S)と、前記ロークラッチ(L)を介して前記出力軸(3)に接続されたリングギヤ(R)と、前記サンギヤ(S)に噛合する第1ピニオン(P1)及び前記リングギヤ(R)に噛合する第2ピニオン(P2)を軸支すると共に前記入力軸(2)に接続されたキャリヤ(C)と、を有するダブルピニオンプラネタリギヤ(DP)からなる、
ことを特徴とする請求項10記載の無段変速機(1)にある。
【0028】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0029】
請求項1に係る本発明によると、出力ディスクの無段変速回転をプラネタリギヤ機構に伝達する第1伝達軸と、出力ディスクの無段変速回転をプラネタリギヤ機構を迂回して出力軸に伝達し得る第2伝達軸とを備え、ローモード時にあっては入力軸の回転と第1伝達軸の無段変速回転とをプラネタリギヤ機構で回転合成して出力軸に伝達し、ハイモード時にあっては第2伝達軸を介して無段変速回転を出力軸に伝達するように構成したので、例えば一軸状の無段変速機に比して軸方向における無段変速機のコンパクト化を図ることができるものでありながら、ローモードでトルク伝達を行わない第2伝達軸やその回転支持部材の耐久性の向上、及びコンパクト化を図ることができ、径方向における無段変速機のコンパクト化も図ることができる。
【0030】
また、プラネタリギヤ機構がローモード時だけトロイダル式無段変速装置の無段変速回転を伝達するように構成されるので、プラネタリギヤ機構の各ギヤにおける歯数の制限が低減され、特にピニオン径等を小径化することができて、プラネタリギヤ機構のコンパクト化を図ることができ、径方向における無段変速機のコンパクト化を図ることができる。
【0031】
請求項2に係る本発明によると、トロイダル式無段変速機は入力軸上に配設されてなり、入力ディスクには入力軸の回転が入力されるので、トロイダル式無段変速装置の入力ディスクに入力軸からの正転回転を入力することができ、出力ディスクから反転回転を出力することができる。
【0032】
請求項3に係る本発明によると、第2伝達軸が入力軸と平行な軸上に配置されたカウンタシャフトであるので、トロイダル式無段変速装置の無段変速回転をプラネタリギヤ機構を迂回して出力軸に伝達することを可能とすることができる。また、反転ギヤを備えているので、トロイダル式無段変速装置で入力軸の回転に対して反転された無段変速回転が再反転されてカウンタシャフトに伝達されるが、該反転ギヤでカウンタシャフトの回転を再反転することができ、つまり出力回転を正転回転で出力軸に伝達することができる。
【0033】
請求項4に係る本発明によると、第2伝達軸が入力軸と平行な軸上に配置されたカウンタシャフトであるので、トロイダル式無段変速装置の無段変速回転をプラネタリギヤ機構を迂回して出力軸に伝達することを可能とすることができる。また、トロイダル式無段変速装置の無段変速回転をベルト状部材によりカウンタシャフトに伝達するので、トロイダル式無段変速装置で入力軸回転に対して反転された無段変速回転を反転せずにカウンタシャフトに伝達することができ、つまり出力回転を正転回転で出力軸に伝達することができる。
【0034】
請求項5に係る本発明によると、入力軸、トロイダル式無段変速装置、プラネタリギヤ機構、ロー・ハイ切換え機構、及び出力軸が、一軸上に配置されているので、例えばFRタイプの自動車のような、前後方向一方側に駆動源があり、前後方向他方側の車輪が駆動輪となる車輌に用いて好適とすることができる。
【0035】
請求項6に係る本発明によると、トロイダル式無段変速機は入力軸と平行な軸上に配置された回転軸上に配設されてなり、入力ディスクには回転軸の回転が入力されるので、トロイダル式無段変速装置の入力ディスクに入力軸の回転に基づく反転回転を入力することができ、出力ディスクから正転回転を出力することができる。
【0036】
請求項7に係る本発明によると、第2伝達軸は、入力軸と同軸上であるドライブシャフト上に回転自在に配置されたカウンタシャフトであり、トロイダル式無段変速機及びプラネタリギヤ機構は入力軸と平行な軸上に配置された回転軸上に配設されているので、トロイダル式無段変速装置の無段変速回転をプラネタリギヤ機構を迂回して出力軸に伝達することを可能とすることができる。また、トロイダル式無段変速装置で入力軸の回転に対して正転回転である無段変速回転が反転されてカウンタシャフトに伝達されるが、カウンタシャフトの回転を再反転して出力軸連動ギヤに伝達することができ、つまり出力回転を正転回転で出力軸に伝達することができる。
【0037】
請求項8に係る本発明によると、入力軸、ドライブシャフト、及びカウンタシャフトが、第1軸上に配置され、トロイダル式無段変速装置、プラネタリギヤ機構、ロー・ハイ切換え機構、及び出力軸が、第1軸と平行な第2軸上に配置されるので、例えばトラクタのような、PTO装置を介して作業機等を接続可能な作業車輌に用いて好適とすることができる。
【0038】
請求項9に係る本発明によると、ハイ係合要素は、第2伝達軸と出力ディスクとの間に介在するハイクラッチであるので、第2伝達軸は、ローモード時において、高回転となる無段変速回転を入力せず、低回転である出力軸の回転で回転させることができ、ローモード時におけるオイルの撹拌ロスの低減や、第2伝達軸の回転支持部材における耐久性の向上を図ることができる。
【0039】
請求項10に係る本発明によると、ロー係合要素は、プラネタリギヤ機構と出力軸との間に介在するロークラッチであるので、ローモード時において、プラネタリギヤ機構における入力軸の回転と無段変速回転との合成回転を出力軸に伝達することができる。
【0040】
請求項11に係る本発明によると、プラネタリギヤ機構は、第1伝達軸に接続されたサンギヤと、ロークラッチを介して出力軸に接続されたリングギヤと、サンギヤに噛合する第1ピニオン及びリングギヤに噛合する第2ピニオンを軸支すると共に入力軸に接続されたキャリヤとを有するダブルピニオンプラネタリギヤからなるので、入力軸の回転と無段変速回転とを合成して出力するトルク循環を可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
<第1の実施の形態>
以下、本発明に係る第1の実施の形態を図1乃至図5に沿って説明する。まず、図1及び図2に沿って、本発明の第1の実施の形態に係る無段変速機1の概略構成を説明する。なお、本無段変速機1は、特にFR(フロントエンジン・リヤドライブ)タイプの車輌等に搭載して好適であるため、以下の説明においては、図中左側を「前方側」、図中右側を「後方側」という(図2を除く)。
【0042】
第1の実施の形態に係る無段変速機(IVT)1は、図1に示すように、入力軸2と、トロイダル式無段変速装置(以下、「バリエータ」という)10と、第1伝達軸(以下、単に「スリーブ軸」という)71と、プラネタリギヤ機構30と、ロー・ハイ切換え機構20と、出力軸3とを、入力軸2(出力軸3)と同軸上に備えており、入力軸2と平行な軸上に第2伝達軸(以下、「カウンタシャフト」という)75を備えている。
【0043】
バリエータ10は、フルトロイダル式からなり、入力軸2上に連結された入力ディスク11Aと、後述のプラネタリギヤ機構30のキャリヤCを介して入力軸2に連結された入力ディスク11Bと、スリーブ軸71に連結された2個の出力ディスク12A,12Bと、それら2個の入力ディスク11A,11B及び出力ディスク12A,12Bの間に挟持されるパワーローラ14A,14Bとを有する。入力ディスク11A,11B及び出力ディスク12A,12Bは、それぞれ対向するように配置され、2列のパワーローラを挟んでダブルキャビティ13A,13Bを構成して、各ディスク同士のスラスト力を打消す構成からなる。
【0044】
パワーローラ14A,14Bは、環状のダブルキャビティ13A,13Bにおける周方向の略々均等な位置に複数個(例えば1つのキャビティに3個)配置されており、不図示の球面軸受、レバー等からなるリンク機構を油圧制御により押圧駆動される。また、詳しくは後述するように、入力ディスク11A,11Bがパワーローラ14A,14Bを挟持する挟持圧が油圧により制御されて、パワーローラ14A,14Bが自律的に傾斜することで、入力ディスク11A,11Bと出力ディスク12A,12Bとの接触半径が変更されて、無段に連続して変速する。本バリエータ10にあっては、入力ディスク11A,11Bに対して出力ディスク12A,12Bが反転回転するので、速度比は−(マイナス)になる。そして、出力ディスク12A,12Bには、内周側においてスリーブ軸71が連結されていると共に、カウンタギヤ(無段回転出力ギヤ)72が該出力ディスク12A,12Bと連動し得るように配設されている。
【0045】
プラネタリギヤ機構30は、ダブルピニオンプラネタリギヤ(以下、単に「プラネタリギヤ」という)DPからなり、2個のピニオンP1,P2(第1ピニオン、第2ピニオン)を有するキャリヤCと、ピニオンP1に噛合するサンギヤSと、ピニオンP2に噛合するリングギヤRとを有している。サンギヤSは、上記出力ディスク12A,12Bに接続されたスリーブ軸71に連結されており、キャリヤCは、入力軸2に接続されていると共に入力ディスク11Bに接続されている。そして、リングギヤRは、ロー・ハイ切換え機構20のロークラッチ(ロー係合要素)Lに接続されており、該ロークラッチLの係合によって出力軸3に接続される。
【0046】
一方、上記カウンタシャフト75は、前方側の端部に固着され、上記カウンタギヤ72に噛合する入力ギヤ73と、後方側の端部に固着された出力ギヤ76とを有して構成されている。該カウンタシャフト75の出力ギヤ76と出力軸連動ギヤ78との間には、両ギヤ76,78に噛合する反転ギヤ77が配設されており、該出力軸連動ギヤ78は、ロー・ハイ切換え機構20のハイクラッチ(ハイ係合要素)Hに接続されている。そして、該出力軸連動ギヤ78は、ハイクラッチHの係合によって出力軸3に接続される。
【0047】
なお、図1に示す無段変速機のスケルトン図においては、ハイクラッチHが、出力軸連動ギヤ78と出力軸3との間に介在するように配置されているものを説明したが、詳しくは後述する本発明に係る無段変速機1においては、出力ディスク12A,12Bとカウンタギヤ72との間に介在するように配置されている。
【0048】
ついで、上記無段変速機1の作用について図1及び図2に沿って説明する。
【0049】
例えば無段変速機1を搭載した車輌の発進時又は後進時においては、不図示のシフトレバーや油圧制御装置による油圧制御に基づきロー・ハイ切換え機構20が制御されて、ハイクラッチHが解放されると共にロークラッチLが係合され、無段変速機1はローモード状態にされる。すると、図1に示すように、エンジン出力軸に連結している入力軸2の回転が、バリエータ10の入力ディスク11A,11B、及びプラネタリギヤDPのキャリヤCに伝達される。このうち入力ディスク11A,11Bに入力された入力軸2の回転はバリエータ10で変速され、出力ディスク12A,12Bよりバリエータ出力回転Voutが出力されて、サンギヤSに入力される。
【0050】
サンギヤSにバリエータ出力回転Voutが入力されると、図2に示すように、プラネタリギヤDPにおいて、入力軸2の回転(キャリヤCの回転)とバリエータ出力回転Vout(サンギヤSの回転)とがトルク循環により合成されて、リングギヤRより出力される。このリングギヤRの出力回転は、バリエータ10の変速比の幅に応じて、減速の逆転回転からニュートラル位置(GNポイント)を介して減速の正転回転までの幅に変速された出力回転となる。そして、このリングギヤRの出力回転は、図1に示すように、ローモード状態の出力回転OutLとして、ロークラッチLを介して出力軸3に出力される。
【0051】
以上のような伝達経路を形成するローモード時においては、バリエータ出力回転Vout(バリエータ10の変速比)が、図2中の一転鎖線で示すギヤニュートラル状態GNである際に、リングギヤRの回転がニュートラル状態となり、つまりローモード時の出力回転OutLがニュートラル状態となる。この状態においては、エンジン回転数(入力軸2の回転)と出力軸3の回転とが無関係となるので、例えば走行レンジに切換える際にバリエータ10の変速比をギヤニュートラル状態GNに合せた後にロークラッチLを係合することで、回転数差を吸収することが不要であり、トルクコンバータ等の回転数差を吸収する装置を設ける必要がない。
【0052】
ここで、例えば不図示のシフトレバーがリバース(R)レンジであって、このギヤニュートラル状態GNより例えば車速やアクセル開度に応じてバリエータ10の変速比を大きくしていくと(図2中のバリエータ出力回転Voutを下方側にシフトしていくと)、出力軸3の出力回転OutLは、反転回転側に増速していき、後進側に増速されていく。
【0053】
また反対に、例えば不図示のシフトレバーがドライブ(D)レンジであって、ギヤニュートラル状態GNより例えば車速やアクセル開度に応じてバリエータ10の変速比を小さくしていくと(図2中のバリエータ出力回転Voutを上方側にシフトしていくと)、出力軸3の出力回転OutLは、正転回転側に増速していき、前進側に増速されていく。
【0054】
つづいて、上述のローモード状態で出力軸3の出力回転OutLが増速されていき(バリエータ10の変速比が小さくされていき)、図2中の上端の変速比に達して例えば車速やアクセル開度に応じて変速判断がなされると、不図示の油圧制御装置による油圧制御に基づきロー・ハイ切換え機構20が制御されて、ロークラッチLが解放されると共にハイクラッチHが係合され、無段変速機1はハイモード状態にされる。
【0055】
すると、図1に示すように、バリエータ出力回転Voutがカウンタギヤ72及び入力ギヤ73を介してカウンタシャフト75に反転入力され、該カウンタシャフト75の回転が出力ギヤ76、反転ギヤ77及び出力軸連動ギヤ78を介して(反転、再反転されて)出力軸3に出力される。
【0056】
上述のローモード状態とハイモード状態との切換え(シンクチェンジ)においては、バリエータ10の変速比(バリエータ出力回転Vout)が最も小さくなる同じ変速比で切換えが行われるように各ギヤのギヤ比が設定されている。つまりローモード状態においては、バリエータ10の変速比が小さく変速されていくと出力回転OutLが増速され、シンクチェンジを境に、ハイモード状態においては、反対にバリエータ10の変速比が大きく変速されていくと出力回転OutHが増速されていく。
【0057】
なお、以上説明したローモード時において、図1に示す無段変速機のようにハイクラッチHを出力軸3と出力軸連動ギヤ78との間に配設した場合は、カウンタシャフト75等がバリエータ出力回転Voutに基づき空転回転し、後述の図3に示す無段変速機のようにハイクラッチHを出力ディスク12A,12Bとカウンタギヤ72との間に配設した場合は、カウンタシャフト等が出力軸3の回転(ローモード出力回転OutL)に基づき空転回転することになる。
【0058】
また、上記ハイモード時においては、サンギヤSにバリエータ出力回転Voutが入力され、入力軸2の回転がキャリヤCに入力されるため、リングギヤRがローモード出力回転OutLで空転回転することになる。
【0059】
ついで本発明の第1の実施の形態に係る無段変速機1の詳細な構成を図3乃至図5に沿って説明する。図3は無段変速機の全体断面図、図4は無段変速機の前方部分を示す拡大断面図、図5は無段変速機の後方部分を示す拡大断面図である。
【0060】
無段変速機(IVT)1は、ミッションケース7内に収納されており、該ケース7は、筒状のメインケース5、該メインケース5の前側に固定されるハウジングケース4及びメインケース5の後側に固定されるエンドケース6からなる。ハウジングケース4は、その前端をエンジンに結合され、ダンパ装置(図示せず)が収納される。即ち、本IVT1は、前述したようにギヤニュートラル(GN)を有するので、従来の自動変速機(AT)及び無段変速機(CVT)に必要とされた、トルクコンバータ等の発進装置が不要となり、従ってハウジングケース4内には、エンジンの振動及び脈動等を吸収するダンパ装置のみで足りる。
【0061】
メインケース5には、トロイダル式無段変速装置(バリエータ)10と、ロー・ハイ切換え機構20のハイクラッチHと、プラネタリギヤ機構30とが配置されており、エンドケース6にはロー・ハイ切換え機構20のロークラッチLが配置され、メインケース5の後端面とエンドケース6の前端面とが連結・固定され、一体の収納部が形成される。メインケース5の下方は、開口されており、かつ該開口は油圧制御装置90を収納するオイルパン94により閉塞されている。該オイルパン94部分に、オイルポンプ93とバルブボディ91と、フォルクラムブロック92とが収納される状態で、メインケース5の開口部分に固定されている。
【0062】
ハウジングケース4とメインケース5とに挟まれるように前隔壁板8が固定されており、図4に詳示するように、該隔壁板8の中心ボス部8aには、ニードルベアリングb1を介して入力軸(主軸)2の前側部分が回転自在に支持されている。該入力軸2の先端部2a(前方端部)は、ハウジングケース内部4aに延び、該ハウジングケース内部4aのダンパ装置を介してエンジン出力軸と連結している。
【0063】
入力軸2には、円筒状の支持板41が上記ボス部8aを内包する形で一体に固定されており、該支持板41の前方側と前隔壁板8との間にはバリエータ10の逆入力防止(緩み防止)用のワンウェイクラッチFが配設されている。該支持板41の外周側には、ドラム部材42が固着されており、該ドラム部材42の内周面と入力軸2の外周面との間には、入力ディスク11Aが支持されていると共に、入力ディスク11Aの外周側後方部分とドラム部材42の後方先端部分とがスプライン係合している。入力ディスク11Aの背面(前方側)には、該支持板41と該ドラム部材42とによりシリンダが形成されており、バリエータ10の挟持力を生じさせる油圧アクチュエータ40が内包されている。
【0064】
該油圧アクチュエータ40には、板バネ45を挟んでピストン43、44が配設されており、ピストン43と上記シリンダとの間に油室46と、ピストン44と入力ディスク11Aとの間に油室47とが形成されたダブルピストン構造となっている。該油室46,47には、バルブボディ91から、メインケース5内の油路a1,a2、前隔壁板8内の油路a3,a4、及び支持板41内の油路a5,a6を介して作動油圧が供給され、それによって入力ディスク11Aを入力軸2に対して後方側に押圧する。
【0065】
一方、入力軸2の外周側の略中程から後方にかけては、スリーブ軸71がニードルベアリングb2、b10(図5参照)を介して回転自在に支持されており、該スリーブ軸71の前方外周部分には、出力ディスク12A,12Bがスプライン係合して配設され、後方外周部分には、入力ディスク11Bが回転自在に嵌合し、更に後方端部にはサンギヤSが形成されている(図3、図5参照)。
【0066】
出力ディスク12Bは、後方側のディスク部12Baと内周側のスリーブ軸71を被覆するスリーブ部12Bbとを有しており、該スリーブ部12Bbの前方端部が出力ディスク12Aの背面(後方側)に当接して、上記油圧アクチュエータ40の押圧力を、入力ディスク11A、パワーローラ14A、出力ディスク12A、スリーブ部12Bbを介してディスク部12Baに伝達する。なお、該ディスク部12Baに伝達された押圧力は、パワーローラ14B、入力ディスク11B、後述のキャリヤC、抜け止め部材102を介して入力軸2の後方部分で受圧され、つまりバリエータ10の挟持力は入力軸2を介した閉ループ系とされる。
【0067】
前方側の入力ディスク11Aに形成された環状円弧面11aと、出力ディスク12Aに形成された環状円弧面12aとの間にそれぞれ複数枚(3枚)のパワーローラ14Aが挟持されており、同様に後方側の入力ディスク11Bに形成された環状円弧面11aと、出力ディスク12Bに形成された環状円弧面12aとの間にそれぞれ複数枚(3枚)のパワーローラ14Bが挟持されている。前記互いに対向する円弧面11a,12aにより断面円形状の2個のキャビティ13A,13Bが形成され、パワーローラ14A,14Bは、その中心が各円形キャビティ13A,13Bの中心にあってかつ該中心を通るセンタ軸を中心に回転する。即ち、バリエータ10は、フルトロイダルダブルキャビティ型からなり、従ってダブルキャビティ(2列)からなることにより、1列のものに比してトルク容量が2倍となると共に、入力ディスク同士、出力ディスク同士でスラスト力を打消し合い、軸受負荷とならず、かつパワーローラ14A,14Bの2個の接触点がキャビティ13A、13Bの中心点の互いに反対側にあって打消し合うので、パワーローラに殆どスラスト力が作用しない。
【0068】
各キャビティ13A,13Bに位置する3個の各パワーローラ14A,14Bには、それぞれリンク機構(不図示)が連結されており、該リンク機構を介してパワーローラ14A,14Bを傾斜駆動する油圧アクチュエータ(不図示)がフォルクラムブロック92内(後方側のフォルクラムブロックはカウンタシャフト75とオフセットされて配置されているため不図示)に備えられている。つまり、フォルクラムブロック92の制御ブロックには、パワーローラ14A,14Bの数と同じ油圧アクチュエータと、各アクチュエータに連通する油圧回路とが形成されており、各アクチュエータは、バルブボディ91からの制御された所定油圧が作用する。
【0069】
なお、上記油圧アクチュエータ40が、各パワーローラ14A,14Bが入力ディスク11A,11B及び出力ディスク12A,12Bの各円弧面11a,12aに所定圧力で押付ける押付け力を作用しており、これによりトラクションオイルの介在の基に、各パワーローラと各ディスクとの間にトラクション力が作用する。即ち、バリエータ10は、トラクションドライブにより入力ディスク11A,11Bと出力ディスク12A,12Bとの間に動力が伝達される。また、各パワーローラ14A,14Bは、上記リンク機構及び油圧アクチュエータ(リアクション力)により傾斜制御されると共に、パワーローラとディスクとの接触面に作用するトラクション力(油圧アクチュエータ40)とリアクション力との関係に基づき、パワーローラ14A,14Bの傾きが自律的に制御されて変速制御される。
【0070】
また、フルトロイダルバリエータ10は、パワーローラ14A,14Bにスラスト力が作用せず、パワーローラ14A,14Bを軸に直交方向にシフトさせることにより、少ない力で変速が可能であるが、反対方向に回転すると、パワーローラ14A,14Bの挟持力が緩んでしまう。このため、万一、エンジンの逆転により、バリエータ10に逆方向の回転が作用しても、上記ワンウェイクラッチFによりバリエータ10が逆回転することを阻止している。
【0071】
一方、上記出力ディスク12A,12Bの間における上記スリーブ部12Bbの外周側前方部分には、メインケース5に固着された支持板101が、スラストベアリングb7,b9及びニードルベアリングb8を介して被嵌されていると共に、該支持板101のボス部101aの外周部には、ボールベアリングb3,b4を介してカウンタギヤ72が回転自在に配設されている。また、上記スリーブ部12Bbの外周側後方部分には、ディスク部12Baの背面(前方側)を利用する形でロー・ハイ切換え機構20のハイクラッチHが配設されている。
【0072】
ハイクラッチHは、外摩擦板51a及び内摩擦板51bからなる摩擦板51と、該摩擦板51を係脱自在にする油圧サーボ50とを有している。出力ディスク12Bのディスク部12Baの外周側には、ドラム部材52が回転不能に固着されており、該ドラム部材52の内周側に上記外摩擦板51aがスプライン係合している。また、上記内摩擦板51bは、上記カウンタギヤ72に連結されたハブ部材58にスプライン係合している。
【0073】
上記油圧サーボ50は、上記ディスク部12Baの背面をシリンダとする形で、スリーブ部12Bbに対して軸方向に摺動自在なピストン部材53と、該スリーブ部12Bbに軸方向前方側に対して係止されたキャンセルプレート54と、該ピストン部材53と該キャンセルプレート54との間に縮設されたリターンスプリング55とを有しており、これらにより作動油室56とキャンセル油室57とを形成している。
【0074】
該作動油室56には、バルブボディ91に接続された支持板101内の油路a11,a12、スリーブ部12Bb内の油路a13,a14を介して作動油が(ハイモード時に)供給される。該作動油室56に油圧が供給されるとピストン部材53の外周側端部が摩擦板51を押圧してハイクラッチHが係合し、これにより出力ディスク12A,12Bとカウンタギヤ72とが一体回転する。なお、該キャンセル油室57には、不図示の潤滑油路より潤滑油が供給されており、潤滑油の供給により油密状にされて、ハイクラッチHの解放時に遠心油圧をキャンセルする。
【0075】
上記支持板101の下方側には、軸穴101bが形成されており、スラストベアリングb5を介してカウンタシャフト75の前方端部が回転自在に支持されている。該カウンタシャフト75の前方部分には、上記カウンタギヤ72に噛合する入力ギヤ73が回転不能にスプライン係合して配設されており、つまり上記ハイクラッチHの係合時(ハイモード時)は出力ディスク12A,12Bの回転(以下、「バリエータ出力回転Vout」という)がカウンタシャフト75に伝達される。
【0076】
一方、図5に示すように、入力軸2の後方外周側には、プラネタリギヤ機構30のプラネタリギヤDPが配設されている。プラネタリギヤDPのキャリヤCは、前方側の前キャリヤプレートCfと後方側の後キャリヤプレートCrとがピニオンシャフトCp1,Cp2を支持しながら連結されて構成されており、該後キャリヤプレートCrの内周側が入力軸2に支持されると共に前方部分がスプライン係合して、該キャリヤC全体が入力軸2の回転と一体的に回転する。該後キャリヤプレートCrの後面には、抜け止め部材(例えば入力軸2に螺合するナット等)102が配置されており、キャリヤC全体が入力軸2に対して後方側に移動不能に係止されている。
【0077】
上記前キャリヤプレートの前端にはドックmが形成されており、また入力ディスク11Bの背面にもドックnが形成されており、両ドックm,nが係合することにより入力ディスク11BとキャリヤCとは回転方向に一体に連結されている。また、両ドックm,nの外周側には、入力ディスク11BとキャリヤCの前キャリヤプレートCfとの間に嵌合してスプロケット103が一体的に配設されており、該スプロケット103は不図示のチェーンを介してオイルポンプ93の駆動軸に接続されている。即ち、エンジン回転が入力軸2に入力されると、キャリヤCを介してスプロケット103が回転し、オイルポンプ93が連動する形で駆動される。
【0078】
上記ピニオンシャフトCp1,Cp2には、第1ピニオンP1と第2ピニオンP2とが回転自在に支持されている。第1ピニオンP1には、上記スリーブ軸71の後端外周側に形成されたサンギヤSが噛合しており、第2ピニオンP2には、リングギヤRが噛合している。該リングギヤRは、後端側においてフランジ状部材81に支持されると共にスプライン係合している。なお、プラネタリギヤDPには、不図示の油路から後述の出力軸3に形成された油路a31,a32、及び入力軸2内の油路a33,a34を介してサンギヤSの内周側より潤滑油が供給される。
【0079】
上記フランジ状部材81は、入力軸2の後端外周面にニードルベアリングb14を介して回転自在に支持されており、内周部分の外周側にはロークラッチLに接続されるハブ部材82がスプライン係合すると共に軸方向移動不能に係止されている。また、ハブ部材82の更に外周側には、スラストベアリングb13を介してフランジ状部材83が回転自在に支持されており、フランジ状部材83の更に外周側には、該フランジ状部材83にスプライン係合した出力軸連動ギヤ78がスラストベアリングb11及びニードルベアリングb12を介して回転自在に支持されている。なお、該出力軸連動ギヤ78は、該フランジ状部材83、後述のドラム部材62、パーキングギヤ85、スリーブ部材86を介して出力軸3に連結されており、つまり出力軸連動ギヤ78を含む各部材は、出力軸3に連動する形となっている。
【0080】
上記出力軸連動ギヤ78の内周部分の外周側には、ボルト111,112,113等によりメインケース5に固着された支持板102が配設されており、該支持板102の内周部分のボス部102aにベアリングb17,b18を介して該出力軸連動ギヤ78が回転自在に支持されている。また、該支持板102の下方側には、軸穴102bが形成されており、ベアリングb19を介して上述のカウンタシャフト75の後方端部が回転自在に支持されている。該カウンタシャフト75の後方部分には、出力ギヤ76が形成されており、反転ギヤ77(図1参照)が噛合している。該反転ギヤ77は、カウンタシャフト75及び入力軸2に平行な軸状に回転自在に配置されており、即ち入力軸2の軸中心と反転ギヤ77の軸中心とカウンタシャフト75の軸中心は、軸方向視くの字状の位置関係となっている。そして、該反転ギヤ77は、出力軸連動ギヤ78に噛合しており、つまり反転ギヤ77、出力ギヤ76、カウンタシャフト75、入力ギヤ73、及びカウンタギヤ72(図3、図4参照)は、出力軸3に連動する形となっている。
【0081】
一方、上記エンドケース6内には、前方先端が入力軸2の後端に回転自在に嵌合されると共に、該エンドケース6にボールベアリングb21を介して回転自在に支持され、該エンドケース6より突出された出力軸3が配設されている。該出力軸3の突出部分にはフランジ部材3aがスプライン係合すると共にナット3bにより抜け止めされており、不図示のドライブシャフトに連結される。そして、該出力軸3は、ドライブシャフト、ディファレンシャル装置等を介して駆動車輪に接続される。
【0082】
出力軸3の外周側には、エンドケース6の内周部分においてボルト114,115等によって固着されたボス部材87が配設されており、出力軸3は、ニードルベアリングb15及びスラストベアリングb16を介して該ボス部材87にも回転自在に支持されている。該ボス部材87の外周側には、ロー・ハイ切換え機構20のロークラッチLが配設されている。
【0083】
該ボス部材87の外周側には、前端部分内周側が出力軸3に固着されたスリーブ部材86が回転自在に支持されており、該スリーブ部材86の後端部分外周側にはパーキングギヤ85が固着されている。更に該パーキングギヤ85の前方端部にはドラム部材62が固着されており、該ドラム部材62、パーキングギヤ85、及びスリーブ部材86によりロークラッチLの油圧サーボ60のシリンダを形成するクラッチドラムを構成している。
【0084】
なお、パーキングギヤ85の外周面には歯面85aが形成されており、不図示のパーキングロッドがパーキングギヤ機構の駆動に基づき係合し得るように構成され、パーキング状態を形成するようになっている。また、パーキングギヤ85の歯面85aの後方側には、出力軸回転数を検出するための、出力軸回転センサのレゾルバ89が配設されている。
【0085】
上記ロークラッチLは、外摩擦板61a及び内摩擦板61bからなる摩擦板61と、該摩擦板61を係脱自在にする油圧サーボ60とを有している。上記ドラム部材62の内周側には該外摩擦板61aがスプライン係合しており、該内摩擦板61bは、リングギヤRに連結されたハブ部材82にスプライン係合している。また、該ドラム部材62の内周側先端部分には、出力軸連動ギヤ78に連結されたフランジ状部材83がスプライン係合すると共に軸方向前方側に対して係止されている。
【0086】
上記油圧サーボ60は、上記パーキングギヤ85の側面をシリンダとする形で、スリーブ部材86に対して軸方向に摺動自在なピストン部材63と、該スリーブ部材86に軸方向前方側に対して係止されたキャンセルプレート64と、該ピストン部材63と該キャンセルプレート64との間に縮設されたリターンスプリング65とを有しており、これらにより作動油室66とキャンセル油室67とを形成している。
【0087】
該作動油室66には、バルブボディ91に接続されたボス部87内の油路a21,a22,a23、スリーブ部材86内の油路a24を介して作動油が(ローモード時に)供給される。該作動油室66に油圧が供給されるとピストン部材63の外周側端部が摩擦板61を押圧してロークラッチLが係合し、これにより上記プラネタリギヤDPのリングギヤRと出力軸3とが一体回転する。なお、該キャンセル油室67には、不図示の潤滑油路より潤滑油が供給されており、潤滑油の供給により油密状にされて、ロークラッチLの解放時に遠心油圧をキャンセルする。
【0088】
以上説明したように本発明の第1の実施の形態に係る無段変速機1によると、出力ディスク12A,12Bのバリエータ出力回転Voutをプラネタリギヤ機構30に伝達するスリーブ軸71と、出力ディスク12A,12Bのバリエータ出力回転Voutをプラネタリギヤ機構30を迂回して出力軸3に伝達し得るカウンタシャフト75とを備え、ローモード時にあっては入力軸2の回転とスリーブ軸71のバリエータ出力回転Voutとをプラネタリギヤ機構30で回転合成して出力軸3に伝達し、ハイモード時にあってはカウンタシャフト75を介してバリエータ出力回転Voutを出力軸3に伝達するように構成したので、例えば一軸状の無段変速機に比して軸方向における無段変速機1のコンパクト化を図ることができるものでありながら、ローモードでトルク伝達を行わないカウンタシャフト75やその回転支持部材(ベアリングb3,b4,b5,b19,b17,b18や支持板101,102等)の耐久性の向上、及びコンパクト化を図ることができ、径方向における無段変速機1のコンパクト化も図ることができる。
【0089】
また、プラネタリギヤ機構30がローモード時だけバリエータ10の出力回転Voutを伝達するように構成されているので、プラネタリギヤ機構30の各ギヤ(S,P1,P2,R)における歯数の制限が低減され、特に第1ピニオンP1,P2の径を小径化することができて、プラネタリギヤ機構30のコンパクト化を図ることができ、径方向における無段変速機1のコンパクト化を図ることができる。
【0090】
また、バリエータ10は入力軸2上に配設されてなり、入力ディスク11A,11Bには入力軸2の回転が入力されるので、バリエータ10の入力ディスク11A,11Bに入力軸2からの正転回転を入力することができ、出力ディスク12A,12Bから反転回転を出力することができる。
【0091】
更に、カウンタシャフト75が入力軸2と平行な軸上に配置されているので、バリエータ10の出力回転Voutをプラネタリギヤ機構30を迂回して出力軸3に伝達することを可能とすることができる。また、反転ギヤ77を備えているので、バリエータ10で入力軸2の回転に対して反転されたバリエータ出力回転Voutが再反転されてカウンタシャフト75に伝達されるが、該反転ギヤ77でカウンタシャフト75の回転を再反転することができ、つまり出力回転を正転回転で出力軸3に伝達することができる。
【0092】
また、入力軸2、バリエータ10、プラネタリギヤ機構30、ロー・ハイ切換え機構20、及び出力軸3が、一軸上に配置されているので、例えばFRタイプの自動車のような、前後方向一方側に駆動源があり、前後方向他方側の車輪が駆動輪となる車輌(4輪駆動車も含む)に用いて好適とすることができる。
【0093】
更に、カウンタシャフト75と出力ディスク12A,12Bとの間に介在するハイクラッチHを備えているので、カウンタシャフト75は、ローモード時において、高回転となるバリエータ出力回転Voutを入力せず、低回転である出力軸3の回転(即ちローモード時出力回転Lout)で回転させることができ(図2参照)、ローモード時におけるオイルの撹拌ロスの低減や、カウンタシャフト75の回転支持部材(ベアリングb3,b4,b5,b19,b17,b18や支持板101,102等)における耐久性の向上を図ることができる。
【0094】
また、プラネタリギヤ機構30と出力軸3との間に介在するロークラッチLを備えているので、ローモード時において、プラネタリギヤ機構30における入力軸2の回転とバリエータ出力回転Voutとの合成回転を出力軸3に伝達することができる。
【0095】
更に、プラネタリギヤ機構30は、スリーブ軸71に接続されたサンギヤSと、ロークラッチLを介して出力軸3に接続されたリングギヤRと、サンギヤSに噛合する第1ピニオンP1及びリングギヤRに噛合する第2ピニオンP2を軸支すると共に入力軸2に接続されたキャリヤCとを有するダブルピニオンプラネタリギヤDPからなるので、入力軸2の回転とバリエータ出力回転Voutとを合成して出力するトルク循環を可能とすることができる。
【0096】
<第2の実施の形態>
ついで、上記第1の実施の形態を一部変更した第2の実施の形態について図6及び図7に沿って説明する。なお、本第2の実施の形態においては、第1の実施の形態と同様な部分に、同符号を付して、その説明を省略する。
【0097】
本第2の実施の形態に係る無段変速機1は、特にFR(フロントエンジン・リヤドライブ)タイプの車輌等に搭載して好適であり、上記第1の実施の形態に係る無段変速機1に比して、図6及び図7に示すように、出力ディスク12A,12Bとカウンタシャフト75との伝達経路をギヤでなく、伝達ベルト173及びプーリ172,174で構成し、また、反転ギヤ77を無くして構成したものである(図1参照)。
【0098】
詳細には、図7に示すように、ハイクラッチHの伝達経路出力側には、カウンタギヤ72の代わりにカウンタプーリ(無段回転出力部材)172が配設されており、一方のカウンタシャフト(第2伝達軸)175の前方側(伝達経路入力側)には、入力ギヤ73の変わりに入力プーリ(入力部材)174が配設されている。そして、それらカウンタプーリ172と入力プーリ174とには伝達ベルト(ベルト状部材)173が巻回されている。また、カウンタシャフト175の後方側(伝達経路出力側)には、出力軸連動ギヤ178に直接噛合する出力ギヤ176が配設されている。
【0099】
即ち、ハイクラッチHを係合したハイモードにおいて、バリエータ10の出力ディスク12A,12Bからの出力回転Voutは、カウンタプーリ172、伝達ベルト173、入力プーリ174を介してカウンタシャフト175に入力される。この際、バリエータ出力回転Vout(入力軸2の回転に対して反転回転)は、そのまま同回転方向でカウンタシャフト175に伝達される。また、該カウンタシャフト175の回転は、出力ギヤ176を介して出力軸連動ギヤ178に反転されて伝達され、つまり出力軸3には正転回転としてのバリエータ出力回転Voutが出力される。
【0100】
なお、ロークラッチLを係合したローモード時にあっては、第1の実施の形態と同様に、出力軸3の回転が出力軸連動ギヤ178、カウンタシャフト175、伝達ベルト173、カウンタプーリ172等に伝達されるが、勿論この際のカウンタシャフト175の回転は第1の実施の形態に対して逆回転である。
【0101】
これにより無段変速機1においては、バリエータ10の出力回転Voutをプラネタリギヤ機構30を迂回して出力軸3に伝達することを可能とすることができるものでありながら、バリエータ出力回転Voutを伝達ベルト173によりカウンタシャフト175に伝達するので、バリエータ10で入力軸2の回転に対して反転されたバリエータ出力回転Voutを反転せずにカウンタシャフト175に伝達することができ、出力軸連動ギヤ178に反転出力するため、つまり出力回転を正転回転で出力軸3に伝達することができる。
【0102】
なお、第2の実施の形態に係る無段変速機1は、以上説明した部分の構成・作用・効果以外、第1の実施の形態に係る無段変速機1と同様であるので、その説明を省略する。
【0103】
<第3の実施の形態>
ついで、上記第1の実施の形態を一部変更した第3の実施の形態について図8に沿って説明する。なお、本第3の実施の形態においては、第1の実施の形態と同様な部分に、同符号を付して、その説明を省略する。
【0104】
本第3の実施の形態に係る無段変速機1は、例えばトラクタ等の作業車輌に搭載して好適なものであり、上記第1の実施の形態に係る無段変速機1に比して、入力軸2と出力軸3とが同軸上に配置されるのではなく(図1参照)、図8に示すように、入力軸2と同軸上である第1軸CT1上に、例えば図示を省略したPTO(Power Take Off)装置に接続されるドライブシャフト210、及びカウンタシャフト275を配置し、該入力軸2と平行な異なる第2軸CT2上に、回転軸203、バリエータ10、プラネタリギヤ機構30、及びロー・ハイ切換え機構20を配置して構成したものである。
【0105】
詳細には、図8に示すように、無段変速機1は、入力軸2に接続されたドライブシャフト210を備えており、該ドライブシャフト210の外周側に、スリーブ状に形成されたカウンタシャフト275が該ドライブシャフト210に対して回転自在に配設されている。該ドライブシャフト210の後端(図8中右方側)には、例えば不図示のPTO装置のPTOドライブシャフトが接続されており、該PTO装置により変速された回転が車輌後部より突出するPTOシャフトに出力される。なお、該PTOシャフトには、例えば耕耘ロータリ等の作業機が接続可能となっており、該PTOシャフトから該作業機に駆動回転として伝達される。
【0106】
一方、上記入力軸2には、入力回転出力ギヤ201が固着されており、該入力回転出力ギヤ201は反転入力ギヤ202に噛合している。該反転入力ギヤ202は、第2軸CT2上にある回転軸203に固着されており、該回転軸203には、入力回転出力ギヤ201及び反転入力ギヤ202により入力軸2の回転が反転されて入力される。該回転軸203上には、バリエータ10及びプラネタリギヤ機構30のプラネタリギヤDPが配設されており、該回転軸203は、バリエータ10の入力ディスク11A、プラネタリギヤDPのキャリヤC、及び該キャリヤCを介して入力ディスク11Bに接続されている。
【0107】
なお、上記第1の実施の形態と同様に、バリエータ10の出力ディスク12A,12Bの内周側には、サンギヤSに接続されたスリーブ軸71が連結されており、また、リングギヤRは、ロー・ハイ切換え機構20のロークラッチLに接続されている。そして、該リングギヤRは、ロークラッチLの係合によって出力軸3に接続される。
【0108】
上記バリエータ10の出力ディスク12A,12Bには、上記第1の実施の形態と同様に、カウンタギヤ(無段回転出力ギヤ)272が該出力ディスク12A,12Bと連動し得るように配設されている。また同様に、カウンタシャフト275には、前方側の端部に固着され、上記カウンタギヤ272に噛合する入力ギヤ273と、後方側の端部に固着された出力ギヤ276とが配設されて構成されている。そして、本実施の形態に係る無段変速機1においては、上記出力ギヤ276が出力軸連動ギヤ278に直接噛合しており、該出力軸連動ギヤ278が、ロー・ハイ切換え機構20のハイクラッチHに接続されている。そして、該出力軸連動ギヤ278は、ハイクラッチHの係合によって出力軸3に接続される。
【0109】
なお、図8に示す無段変速機のスケルトン図においては、ハイクラッチHが、出力軸連動ギヤ278と出力軸3との間に介在するように配置されているものを説明したが、上記第1の実施の形態と同様に、出力ディスク12A,12Bとカウンタギヤ272との間に介在するように配置されたものであってもよい。
【0110】
ついで、上記無段変速機1の作用について図8に基づき説明する。
【0111】
本第3の実施の形態に係る無段変速機1において、エンジン出力軸に連結している入力軸2の回転は、入力回転出力ギヤ201とドライブシャフト210に伝達される。該ドライブシャフト210に入力された入力軸2の回転は、不図示のPTOドライブシャフトに入力され、例えば不図示のPTO変速レバー等の操作に基づきPTO装置により変速されて、PTOシャフトに出力される。一方、上記入力回転出力ギヤ201に入力された入力軸2の回転は、反転入力ギヤ202によって反転(ギヤ比によって減速乃至増速)されて、回転軸203に入力される。そして、該回転軸203の反転回転は、バリエータ10の入力ディスク11A,11B、及びプラネタリギヤDPのキャリヤCに伝達される。
【0112】
ここで、例えばハイクラッチHが解放されると共にロークラッチLが係合されたローモード状態にあっては、入力ディスク11A,11Bに入力された反転回転がバリエータ10で更に反転されて変速され、出力ディスク12A,12Bよりスリーブ軸71を介して出力されるバリエータ出力回転VoutがサンギヤSに入力される。
【0113】
サンギヤSにバリエータ出力回転Voutが入力されると、プラネタリギヤDPにおいて、回転軸203の反転回転(キャリヤCの回転)とバリエータ出力回転Vout(サンギヤSの回転)とがトルク循環により合成されて、リングギヤRより出力される。このリングギヤRの出力回転は、第1の実施の形態と同様に、バリエータ10の変速比の幅に応じて、減速の逆転回転からニュートラル位置(GNポイント)を介して減速の正転回転までの幅に変速された出力回転となるが、この際の出力回転方向は、上記第1の実施の形態(図2参照)と正逆反対の回転方向である。そして、このリングギヤRの出力回転は、ローモード状態の出力回転OutLとして、ロークラッチLを介して出力軸3に出力される。
【0114】
なお、本無段変速機1において、ギヤニュートラル状態GNである際は、同様にエンジン回転数(入力軸2の回転)と出力軸3の回転とが無関係となるが、この間もドライブシャフト210にはエンジンの回転が入力されるため、PTO装置の変速状態によって、PTOシャフトに駆動回転を出力可能となっている。
【0115】
一方、例えばロークラッチLが解放されると共にハイクラッチHが係合されたハイモード状態にあっては、入力ディスク11A,11Bに入力された反転回転がバリエータ10で反転されて変速され、出力ディスク12A,12Bよりカウンタギヤ272及び入力ギヤ273を介して出力されるバリエータ出力回転Voutがカウンタシャフト275に反転入力される。そして、該カウンタシャフト275の回転が、出力ギヤ276及び出力軸連動ギヤ278を介して再反転されて、正転回転として出力軸3に出力される。
【0116】
なお、第1の実施の形態と同様に、ローモード時において、ハイクラッチHを出力軸3と出力軸連動ギヤ278との間に配設した場合は、カウンタシャフト275等がバリエータ出力回転Voutに基づき空転回転し、ハイクラッチHを出力ディスク12A,12Bとカウンタギヤ272との間に配設した場合は、カウンタシャフト275等が出力軸3の回転(ローモード出力回転OutL)に基づき空転回転することになる。
【0117】
以上説明したように本発明の第3の実施の形態に係る無段変速機1によると、バリエータ10は入力軸3と平行な軸CT2上に配置された回転軸203上に配設されてなり、入力ディスク11A,11Bには回転軸203の回転が入力されるので、バリエータ10の入力ディスク11A,11Bに入力軸2の回転に基づく反転回転を入力することができ、出力ディスク12A,12Bから正転回転を出力することができる。
【0118】
更に、入力軸2と同軸CT1上であるドライブシャフト210上にカウンタシャフトが回転自在に配置されてなり、バリエータ10及びプラネタリギヤ機構30は入力軸2と平行な軸CT2上に配置された回転軸203上に配設されているので、バリエータ10の出力回転Voutをプラネタリギヤ機構30を迂回して出力軸3に伝達することを可能とすることができる。また、バリエータ10で入力軸2の回転に対して正転回転である出力回転Voutが反転されてカウンタシャフト275に伝達されるが、カウンタシャフト275の回転を再反転して出力軸連動ギヤ278に伝達することができ、つまり出力回転を正転回転で出力軸3に伝達することができる。
【0119】
また、入力軸2、ドライブシャフト210、及びカウンタシャフト275が、第1軸CT1上に配置され、バリエータ10、プラネタリギヤ機構30、ロー・ハイ切換え機構20、及び出力軸3が、第1軸CT1と平行な第2軸CT2上に配置されるので、例えばトラクタのような、PTO装置を介して作業機等を接続可能な作業車輌に用いて好適とすることができる。
【0120】
なお、第3の実施の形態に係る無段変速機1は、以上説明した部分の構成・作用・効果以外、第1の実施の形態に係る無段変速機1と同様であるので、その説明を省略する。
【0121】
なお、以上説明した第1乃至第3の実施の形態においては、無段変速装置としてフルトロイダル式無段変速装置を用いたものを一例に説明したが、勿論、ハーフトロイダル式無段変速装置を用いても構わない。また、バリエータは、2つのキャビティを形成するダブルキャビティ型のものを説明したが、1つのキャビティであってもよく、反対に3つ以上のキャビティを構成するものであってもよい。
【0122】
また、第1乃至第3の実施の形態において、第2伝達軸としてカウンタシャフトを用いたものを説明したが、これに限らず、例えば入力軸2の軸中心と同軸上でメインケース5の内周面に沿って回転するようなドラム状の部材を用いる等、第1伝達軸と第2伝達軸とが同軸上に配置されるものであってもよく、つまりバリエータ10の出力回転をプラネタリギヤ機構を迂回して出力軸3に伝達できるものであれば、どのようなものであってもよい。
【0123】
更に、第2の実施の形態において、カウンタシャフト175と出力ディスク12A,12Bとを回転接続するものとして、ベルト及びプーリを用いたものを説明したが、チェーン及びスプロケットであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】第1の実施の形態に係る無段変速機を示すスケルトン図である。
【図2】第1の実施の形態に係る無段変速機の速度線図である。
【図3】第1の実施の形態に係る無段変速機を示す全体断面図である。
【図4】第1の実施の形態に係る無段変速機の前方部分を示す断面図である。
【図5】第1の実施の形態に係る無段変速機の後方部分を示す断面図である。
【図6】第2の実施の形態に係る無段変速機を示すスケルトン図である。
【図7】第2の実施の形態に係る無段変速機を示す断面図である。
【図8】第3の実施の形態に係る無段変速機を示すスケルトン図である。
【符号の説明】
【0125】
1 無段変速機
2 入力軸
3 出力軸
10 トロイダル式無段変速装置(バリエータ)
11A 入力ディスク
11B 入力ディスク
12A 出力ディスク
12B 出力ディスク
20 ロー・ハイ切換え機構
30 プラネタリギヤ機構
71 第1伝達軸(スリーブ軸)
72 無段回転出力ギヤ(カウンタギヤ)
73 入力ギヤ
75 第2伝達軸、カウンタシャフト
76 出力ギヤ
77 反転ギヤ
78 出力軸連動ギヤ
172 無段回転出力部材(カウンタプーリ)
173 ベルト状部材(伝達ベルト)
174 入力部材(入力プーリ)
175 第2伝達軸、カウンタシャフト
176 出力ギヤ
178 出力軸連動ギヤ
201 入力回転出力ギヤ
202 反転入力ギヤ
203 回転軸
210 ドライブシャフト
272 無段回転出力ギヤ
273 入力ギヤ
275 第2伝達軸、カウンタシャフト
276 出力ギヤ
278 出力軸連動ギヤ
L ロー係合要素(ロークラッチ)
H ハイ係合要素(ハイクラッチ)
DP ダブルピニオンプラネタリギヤ
S サンギヤ
C キャリヤ
P1 第1ピニオン
P2 第2ピニオン
R リングギヤ
Vout 無段変速回転
CT1 第1軸
CT2 第2軸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源に接続される入力軸と、前記入力軸の回転に基づき入力ディスクに入力される回転を無段変速回転に変速して出力ディスクより出力するトロイダル式無段変速装置と、プラネタリギヤ機構と、ロー係合要素とハイ係合要素との係合状態によってローモードとハイモードとを切換えし得るロー・ハイ切換え機構と、駆動車輪に接続される出力軸と、を備えた無段変速機において、
前記出力ディスクの無段変速回転を前記プラネタリギヤ機構に伝達する第1伝達軸と、
前記出力ディスクの無段変速回転を前記プラネタリギヤ機構を迂回して前記出力軸に伝達し得る第2伝達軸と、を備え、
前記ローモード時にあっては、前記入力軸の回転と前記第1伝達軸の無段変速回転とを前記プラネタリギヤ機構で回転合成して前記出力軸に伝達し、
前記ハイモード時にあっては、前記第2伝達軸を介して前記無段変速回転を前記出力軸に伝達する、
ことを特徴とする無段変速機。
【請求項2】
前記トロイダル式無段変速機は、前記入力軸上に配設されてなり、
前記入力ディスクには、前記入力軸の回転が入力されてなる、
ことを特徴とする請求項1記載の無段変速機。
【請求項3】
前記第2伝達軸は、一端に固着された入力ギヤと他端に固着された出力ギヤとを有して前記入力軸と平行な軸上に配置されたカウンタシャフトからなり、
少なくとも前記ハイモード時に前記出力ディスクに連動して前記無段変速回転で回転すると共に前記カウンタシャフトの入力ギヤに噛合する無段回転出力ギヤと、
少なくとも前記ハイモード時に前記出力軸に連動する出力軸連動ギヤと、
前記カウンタシャフトの出力ギヤと前記出力軸連動ギヤとに噛合する反転ギヤと、を備えた、
ことを特徴とする請求項2記載の無段変速機。
【請求項4】
前記第2伝達軸は、一端に固着された入力部材と他端に固着された出力ギヤとを有して前記入力軸と平行な軸上に配置されたカウンタシャフトからなり、
前記出力ディスクに連動して前記無段変速回転で回転し得る無段回転出力部材と、
前記無段回転出力部材と前記カウンタシャフトの入力部材とに巻回係着されたベルト状部材と、
前記カウンタシャフトの出力ギヤに噛合すると共に少なくとも前記ハイモード時に前記出力軸に連動する出力軸連動ギヤと、を備えた、
ことを特徴とする請求項2記載の無段変速機。
【請求項5】
前記入力軸、前記トロイダル式無段変速装置、前記プラネタリギヤ機構、前記ロー・ハイ切換え機構、及び前記出力軸が、一軸上に配置されてなる、
ことを特徴とする請求項3又は4記載の無段変速機。
【請求項6】
前記入力軸に同軸上で接続されると共に、PTO装置に接続されるドライブシャフトと、
前記入力軸に固着された入力回転出力ギヤと、
前記入力回転出力ギヤに噛合する反転入力ギヤと、
前記反転入力ギヤに固着され、前記入力軸と平行な軸上に配置された回転軸と、を備えてなり、
前記トロイダル式無段変速機及び前記プラネタリギヤ機構は、前記回転軸上に配設されてなり、
前記入力ディスクには、前記回転軸の回転が入力されてなる、
ことを特徴とする請求項1記載の無段変速機。
【請求項7】
前記第2伝達軸は、一端に固着された入力ギヤと他端に固着された出力ギヤとを有して前記ドライブシャフト上に回転自在に配置されたカウンタシャフトからなり、
少なくとも前記ハイモード時に前記出力ディスクに連動して前記無段変速回転で回転すると共に前記カウンタシャフトの入力ギヤに噛合する無段回転出力ギヤと、
少なくとも前記ハイモード時に前記出力軸に連動する出力軸連動ギヤと、を備えた、
ことを特徴とする請求項6記載の無段変速機。
【請求項8】
前記入力軸、前記ドライブシャフト、及び前記カウンタシャフトが、第1軸上に配置され、
前記トロイダル式無段変速装置、前記プラネタリギヤ機構、前記ロー・ハイ切換え機構、及び前記出力軸が、前記第1軸と平行な第2軸上に配置されてなる、
ことを特徴とする請求項7記載の無段変速機。
【請求項9】
前記ハイ係合要素は、前記第2伝達軸と前記出力ディスクとの間に介在するハイクラッチである、
ことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか記載の無段変速機。
【請求項10】
前記ロー係合要素は、前記プラネタリギヤ機構と前記出力軸との間に介在するロークラッチである、
ことを特徴とする請求項1ないし9のいずれか記載の無段変速機。
【請求項11】
前記プラネタリギヤ機構は、前記第1伝達軸に接続されたサンギヤと、前記ロークラッチを介して前記出力軸に接続されたリングギヤと、前記サンギヤに噛合する第1ピニオン及び前記リングギヤに噛合する第2ピニオンを軸支すると共に前記入力軸に接続されたキャリヤと、を有するダブルピニオンプラネタリギヤからなる、
ことを特徴とする請求項10記載の無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−271057(P2007−271057A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100666(P2006−100666)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【出願人】(301037257)トロトラック・(ディベロップメント)・リミテッド (13)
【Fターム(参考)】