説明

無秩序なセフォベシンナトリウム塩を安定させる方法

本発明は、非晶質又は他の無秩序状態である、セフォベシンナトリウム塩を含む医薬組成物を安定させる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本出願は、医薬組成物を安定させる方法に関する。特に、本発明は、非晶質又は他の無秩序状態であるセフォベシンナトリウム塩を含む医薬組成物の安定性を増加する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
技術背景
長期保存の間の非晶質状態又は他の無秩序状態系における、望ましくない変化を導き得る物理的及び化学的方法の理解は、薬学の基本概念である。そのような変化は、薬物の安定性及び生物学的利用能の如き様々な医薬特性に影響を与え得る化学修飾、及び相変化を含み得る。
【0003】
凍結乾燥(freeze−drying)又は凍結乾燥(lyophilization)は、製剤原料を安定させるために使用されるよく知られた方法である。凍結乾燥は、当業者に知られたいずれかの方法により達成され得る。凍結乾燥は通常3つのステージからなり、当該ステージは、以下の:
1)凍結すること(液体水の除去)による当該製品の濃縮;
2)そのように形成された氷の昇華;及び
3)拡散/脱離/蒸発による残留非凍結水の当該生成物からの除去、
からなる。その化学組成、及び凍結乾燥条件に依存して、当該乾燥生成物は、全体的又は部分的に無秩序又は非晶質となる。
【0004】
国際特許公開第WO99/30688号は、溶液を凍結乾燥する方法を記載する。当該方法は、その共融温度又はガラス転移温度より低い温度で又はそれより低い温度まで当該溶液を凍結するステップ、及び第一乾燥段階において、昇華により当該溶液の少なくとも一部を除去するステップを含む。当該容液は、溶媒昇華の比率を上げるための促進賦形剤が含まれる。
【0005】
凍結乾燥が固体状態における多くの製剤原料の安定化のために使用される標準的方法となる一方、多くの凍結乾燥された材料は、保存の間に化学的分解に供され得る。それ故、医薬組成物を安定化する方法を探索するための調査が続けられている。当該文献は、非晶質の材料を安定化する1つの方法として、アニーリングを開示する。
【0006】
S.V.Vasenkov,et al.,“The influence of deep traps for gas molecules on oxygen transport in the glass of 2−methylpentanol−2”,Chem.Phys.195(1995)305−311による研究において、2−メチルペンタノール−2における遊離基の酸化に関するTgの僅かに上のアニーリングの効果が報告された。当該ガラス状サンプルが、液体窒素における2−メチルペンタノール−2を「凍結すること」、その後ガンマ線照射することにより製造された。当該論文における図3に示されるように、Tg=163Kの僅かに上の166Kでのアニーリングは、増大された不安定性を示し得る酸化率を増大した。さらなる試験において、B.V.Bol’shakov,et al.,は、ブタノール中のtert−ブチルラジカルの酸化に関する熱アニーリングの効果を議論する、“Formation of deep gas traps in glassy n−butanol”,Phys.Chem.Chem.Phys.2000,2,4793−4795。当該ガラス状サンプルは、液体窒素中において、n−ブタノール中にジフェニルアミン及びtert−ブチルクロライドを含んだ溶液を「凍結すること」、その後UV照射することにより製造された。当該熱アニーリングは、当該基質、n−ブタノールのTgより上の温度で実施された。
【0007】
“Thermal treating as a fool for sustained release of indomethacin from Eudragit RS and RL matrices”,Int.G.Pharm.246(2002)171−177においてS.Azarmiらは、どのように当該Tgより上の熱処理が使用され、非晶質のポリマー基質中に組み込まれたインドメタシンの溶出速度を低減するのかを記載する。この場合において、溶出速度は、熱処理の時間及び温度の関数として測定され、化学的安定性は測定されなかった。当該活性物質であるインドメタシンは、熱処理の間に結晶化した。
【0008】
米国特許第6,284,282号は、肺への投与のためのスプレー凍結乾燥された組成物の製造方法を記載する。当該組成物は、蛋白質を含む液状製剤を霧化することにより製造された。当該蛋白質の凍結水溶液は、周囲温度未満でのアニーリングに供され、その後の昇華率を増大した。
【0009】
Peptide and Protein Delivery 第2版,V.H.Less,Marcel DekkerにおいてM.J.Pikalは、60℃(当該アニーリング時間は特定されていなかった。)でのアニーリングにより凍結乾燥された抗菌性のモキサラクタム(ジナトリウム塩)を記載する。当該非晶質モキサラクタムは、凍結乾燥過程の最終段階の間、60℃で加熱された。アニールされたサンプル、及び対照サンプル(アニーリングされていない)の安定性は、25及び40℃での安定性試験の間、モキサラクタムの脱炭酸比率を測定することにより測定された(当該安定性試験の持続時間は、特定されていなかった。)。脱炭酸比率は、対照におけるよりも当該アニールされたサンプルにおいての方が低かった(すなわち、安定性が高かった。)。
【化1】

【0010】
当該文献は、最適なアニーリング条件(すなわち、温度、及び時間の最適値を選択すること)の測定の仕方を教示しない。当該文献中の具体的な提言は、当該アニーリングは当該非晶質材料のガラス転移温度Tgをはるかに下回って実施されるべきであることのみである。さらに、当該文献の実施例において、アニーリングは、脱炭酸分解経路に反して、当該非晶質モキサラクタムを安定化したことに留意すべきである。モキサラクタムの7−N−アシル側鎖の脱炭酸は、知られた分解経路であり、そして、Pharmaceutical),4(2),137〜141ページにおけるByrnにより報告される。
【化2】

【発明の開示】
【0011】
本発明の概要
ある態様において、本発明は、非晶質状態又は他の無秩序状態である以下の(式I):
【化3】

により表される化合物、及び場合により1又は複数の医薬として許容される賦形剤を含む医薬組成物を安定させる方法であって、以下のステップ:
a)当該組成物の重量に基づく約5重量%未満の残留溶媒量を有するまで、当該組成物を凍結乾燥する;
b)前記組成物を、約45℃から約90℃の範囲の温度まで加熱する;
c)約1秒から約14日間の期間、ステップ(b)において前記組成物が加熱された温度で、前記組成物を保持する;
d)ステップ(b)において前記組成物が加熱された温度より低い温度まで、前記組成物を冷却する、
を含む当該方法に関する。
【0012】
他の態様において、本発明は、当該ステップ(a)の溶媒が水であり、かつ当該水の残留量が2重量%未満であることを提供する。
【0013】
さらに他の態様において、当該ステップ(b)の加熱温度は、約55℃から約80℃の範囲内である。
【0014】
本発明の他の態様において、当該ステップ(c)の温度は、約5分から約40時間の期間、保持される。
【0015】
他の態様において、当該ステップ(a)の溶媒は水であり、かつ当該水の残留量は1重量%未満である。
【0016】
本発明の他の態様において、当該ステップ(b)の加熱温度は、約60℃から約75℃の範囲内である。
【0017】
本発明の他の態様において、当該ステップ(c)の温度が、約20分から約10時間の期間、保持されることが提供される。
【0018】
本発明の他の態様において、当該医薬組成物は、緩衝化剤、防腐剤、充填剤、及びそれらの混合物からなる群より選択される1又は複数の賦形剤をさらに含む。
【0019】
本発明の他の態様において、当該医薬組成物は、クエン酸塩緩衝剤、メチルパラベン、及びプロピルパラベンをさらに含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
定義
本発明出願の明細書及び特許請求の範囲において、言及は、以下の意味を有すると定義される多くの用語に合わせて作られるだろう。
【0021】
単数形の「a」、「an」、及び「the」は、特に文脈に明らかな指示のない限り、複数形の対象も含む。
【0022】
「任意の」又は「場合により」は、続いて記載される事象又は状況が生じ得るか、又は生じ得ないことを意味する。
【0023】
本明細書中に使用される「安定する」とは、(i)当該材料がより長期の保存期間を有すること、(ii)当該材料が、「非安定化」材料と同期間、高温で保存され得ること、又は(iii)当該材料が、「非安定化」材料と比較したとき、化学的分解又は物理的変化のより少ない量の状況にあること、を意味する。
【0024】
「処理された材料」は、熱処理された又はアニールされた医薬として許容される賦形剤を場合により含み得る活性医薬品をいう。
【0025】
本明細書中に使用される「賦形剤」は、いわゆる当業者により知られる補助成分をいい、例えば、緩衝剤、充填剤、共溶媒、溶媒、防腐剤、等張化調整剤であって、その存在が急速溶解性の凍結乾燥製品を提供し又は当該製剤の保存期間を延長し又は特別の規制基準を満足するための助けとなり得るものをいう。
【0026】
当該製薬材料は活性薬物を含み得、並びに製品に残留する賦形剤及び溶媒も含み得る。当該溶媒は、水性溶媒、有機溶媒又は水性/有機溶媒の混合溶媒となり得る。有力な溶媒及び共溶媒の例は、水及びエタノールである。防腐剤の例は、メチルパラベン、及びプロピルパラベンである。典型的な緩衝剤は、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、炭酸塩、及びグリシンを含む。
【0027】
本発明の使用に好適な水溶性の充填剤は、凍結乾燥のために通常使用される、医薬として許容される不活性の固形材料の内のいずれかとなり得る。そのような充填剤は、例えば、グルコース、マルトース、スクロース、及びラクトースの如き糖;ソルビトール及びマンニトールの如き多価アルコール;グリシンの如きアミノ酸;ポリビニルピロリドンの如きポリマー;デキストランの如き多糖類;リン酸ナトリウム又はリン酸カリウム、又は塩化ナトリウムの如き特定の無機塩類を含む。
【0028】
本発明の組成物において使用される式(I)の化合物の重量に対する充填剤の重量の比率は、使用される充填剤に依存して、一般的に約0.01から100の範囲内である。好ましい態様において、ポリヒドロキシ化合物が最適な充填剤である。
【0029】
非晶質の固体又はガラスは、対応する結晶体の長距離秩序の欠如した高エネルギー準固体である。
【0030】
非晶質材料は結晶質材料よりも通常化学的安定性が少ない。当該非晶質材料の化学的安定性は、本発明の方法により改良され得る。
【0031】
「他の無秩序状態」は、部分的な結晶質、及び、例えば、一又は二次元の移行秩序(液晶)、又は配向性無秩序(配向的に無秩序な結晶)を有する、又は立体配座の無秩序(立体配座的に無秩序な結晶)を有する結晶質の中間相をいう。
【0032】
本明細書中に使用される「非晶質」は、いくつかの「他の無秩序状態」において存在し得るそれらの材料を含む。
【0033】
「ガラス転移温度」は、記号Tgにより表示され、非晶質又は無秩序な状態が不安定な状態から塑性状態へ変化する温度をいう。
【0034】
一般的に、Tgは、示差走査熱量測定法(DSC)を使用して測定され、そして標準的には、当該組成物の熱容量(Cp)の変化の開始が当該転移を通過する走査上で生ずる温度として扱われる。本明細書中において、別段の指示のない限り、Tgはこの方法により測定される。Tgは、組成物、及びアニーリングの範囲に依存する。
【0035】
「熱処理」又は「アニーリング」は、医薬組成物を特定の温度まで加熱すること、規定の期間当該温度で保持すること、次いで当該組成物を冷却することをいう。
【0036】
「残留溶媒」は、先の乾燥過程の如き先のプロセシング過程から残留する液体溶媒をいう。
【0037】
「医薬組成物」は、少なくとも1つの活性医薬品を含み、1又は複数の医薬として許容される賦形剤を含み得る組成物をいう。当該用語「医薬組成物」、「製薬材料」、及び「医薬製剤」は、本明細書中において相互交換可能に使用される。
【0038】
式(I)により表される化合物の製剤は、乾燥により、好ましくは当業者によく知られる凍結乾燥により単離される。通常、当該凍結乾燥製剤は、当該製剤をゼロ未満の温度に冷却し凍結させることにより、アンプル凍結乾燥、バイアル凍結乾燥、トレイ凍結乾燥、又は慣習的な方法などで製造される。次いで、当該凍結材料は、溶媒として当該溶液中に元々含まれていた水成分を昇華するにより真空下で乾燥され、それ故、凍結乾燥された固形が残る。それ故、例えば続いて、上記賦形剤及び式(I)の化合物は、注入用の適量の水に撹拌下で溶解する。さらに、水は所望の最終量に到達するまで加えられる。当該得られた溶液は、澄まされ、滅菌ろ過され、そして所望の容量の滅菌容器(例えばバイアル)中に無菌で分配される。
【0039】
当該凍結乾燥された製剤は、非晶質又は他の無秩序な状態における式(I)の化合物である。生成物溶液が必要とされるとき、それは、十分量の注入のための水、注入のための静菌水又は他の医薬として許容される賦形剤(例えば、塩化ナトリウムの等張液、エタノール緩衝剤又はクエン酸塩緩衝剤を有する注入用水、及びベンジルアルコールを有する注入用静菌水)の中に当該乾燥製剤を溶解することにより再構成され得、患者への非経口投与のために要求される強度の溶液を産生する。
【0040】
本発明の詳細な説明
本発明者等は、非晶質又は他の無秩序状態である式(I)により表されるセフォベシンナトリウム塩の化学的安定性を増大する新規アニーリング条件を決定した。
【0041】
非晶質の凍結乾燥されたセフォベシンナトリウム塩を、4つの異なる温度、60℃、75℃、160℃、及び170℃でアニールした。本発明等は、60℃及び75℃でのアニーリングが当該化合物の安定性を増大し、一方、160℃及び170℃でのアニーリングが許容できない程の分解をもたらすことを見出した。
【0042】
本発明のある態様において、当該医薬組成物は、以下の式(I):
【化4】

により表される化合物の約0.1重量%から約100重量%を含み、ここで当該式(I)の化合物は、非晶質又は他の無秩序状態である。
【0043】
本発明の医薬組成物は、当該医薬組成物(製剤)の重量に基づいて、残留溶媒の重量の約5%未満、好ましくは約2%未満、及び最も好ましくは約1%未満を含む。最も好ましくは、当該溶媒は水である。
【0044】
本発明のある態様において、当該製薬材料は凍結乾燥過程に供され、その後熱処理に供される。当該材料は「前処理」され得、すなわち、当該材料はプロセシングに供され、そして熱処理過程の前に保存されるか、又は当該材料は熱処理の直前にプロセシングに供される。
【0045】
凍結乾燥及び熱処理の条件の間、当該活性医薬品は、部分的に又は完全にガラス状又は非晶質形態とならなくてはならない。
【0046】
本発明において、結晶体、すなわち高い秩序構造は熱処理の間に生じず;当該製剤は非晶質形態のままであった。本発明の出願人等は、当該活性剤の結晶化を生ずることなく、本発明に従い実施された熱処理が非晶質セフォベシンナトリウム塩の化学的安定性を増大するということを予想外に発見した。
【0047】
本発明の好ましい態様において、当該活性医薬品は、セファロスポリン化合物又はその医薬として許容される塩である。セファロスポリンは、広範に使用される抗菌剤である。本発明の方法に記載の通り処理され得るセファロスポリン化合物は、米国特許第6,001,997号、同第6,020329号、及び同第6,077,952に記載されており、これらの内容全てを文献として本明細書中に援用する。
【0048】
以下の式(I)のセファロスポリン化合物は、広域セファロスポリン抗菌剤であり、そして動物において細菌感染の治療に使用される。式(I)の化合物のアルカリ金属塩、及び任意の医薬として許容される賦形剤を含む医薬組成物も、本発明の方法に従い安定化され得る。ある態様において、当該活性医薬品は、(6R,7R)−7−[[(2Z)−(2−アミノ−4−チアゾリル)(メトキシイミノ)アセチル]アミノ]−8−オキソ−3−[2(S)−テトラヒドロ−2−フラニル]−5−チア−1−アザビシクロ[4.2.0]オクト−2−エン−2−カルボン酸、モノナトリウム塩である。当該式の化合物は、本明細書中において「セフォベシンナトリウム塩」として言及される。
【0049】
式(I)のセファロスポリン化合物は、当該処理された材料の最大約100%を占め得る。他の場合、いずれかの特定の剤形の要件に依存して、緩衝剤、防腐剤、及び他の医薬として許容される賦形剤が使用され得る。
【化5】

【0050】
当該処理された材料に使用される特定の賦形剤は、投与の所望の形態に依存するだろう。投与の各所望する形態について適する賦形剤は、本分野において知られている。本発明のある態様において、当該処理された材料は、注入剤形である。注入可能な製剤として好適な賦形剤は、当業者によく知られ、そして、防腐剤、安定剤、乳化剤、可溶化剤、酸化防止剤、緩衝剤、充填剤、溶剤、及び等張化剤を非制限的に含む。例えば、Handbook of Pharmaceutical Excipients,第3版.,A.H.Kibbe(Ed.),APhA,Washington,D.C.,2000を参照のこと。
【0051】
本発明の態様のある例において、当該処理された材料は、式(I)のセファロスポリン化合物、及び場合により水の如き溶媒を含む。当該式(I)の化合物は、約5から約300mg/mlの濃度で、好ましくは約5から約200mg/mlで水に溶解され得、滅菌ろ過を使用して滅菌され、ガラスバイアルに満たされ、そして凍結乾燥され得る。
【0052】
本発明のそのような態様において、水/セファロスポリン混合物の温度は、最初の乾燥段階において、約−20℃から約−40℃に低減され、そして圧力は約50から約400ミリトールにされた。これらの条件で、当該混合物中の水が昇華される。当該最初の乾燥段階の後、第2乾燥段階は、約50から約400ミリトールの圧力下、約20℃から約40℃で実施される。好ましくは、当該水含有量が約1.0重量%又はそれ未満に低減される。その後、当該温度は、Tgより高く増大され、そして熱処理が実施される。
【0053】
本発明において、期待されるのは、本明細書中に記載の方法により処理された材料がより安定となり、そして、加水分解、二量化、異性化、及び他の化学反応機構による分解に供されないことであり、及び/又は未処理材料と比較して物理的安定性を増大することである。
【0054】
前述の発明は例証目的でいくらか詳細に記載しているけれども、本願の特許請求の範囲から離れることなしに、変化及び改良を行うことが可能であることは本分野における当業者ならば容易に明らかだろう。
【実施例】
【0055】
実施例1
75℃でのアニーリング
式(I)の化合物であるセフォベシンナトリウム塩を、ACS DobFar(Italy)から入手した。注入のための水(WFI)を、商業的供給源B−Braunから入手した。
【化6】

【0056】
セフォベシンナトリウム塩を、200mgセフォベシンナトリウム塩/mlの濃度でWFI中に溶解した。この溶液を、0.22μ滅菌ろ過材でろ過した。この溶液の4.25mlを、層流フードの中で、20mlのFlint Type I Tubler バイアルの中に満たした。20mm Lyophile D777−1、B2TR FluoroTec 単一孔ストッパーを、当該バイアル中に不十分に挿入した。当該バイアルを、Vertis凍結乾燥機(Gardiner,New York)を使用し、以下のサイクル:−40℃で凍結し、その後、−18℃の棚温度で、約42時間、及び60ミリトールの真空で、真空乾燥する;第2に、40℃の温度で、約12時間、及び60ミリトール真空で乾燥する、を使用して凍結乾燥した。当該凍結乾燥機のチャンバーを窒素でバックフラッシュし、そして当該バイアルにふたをかぶせアルミニウム・シェルで密封した。当該凍結乾燥段階は、非晶質セフォベシンナトリウム塩を製造した。
【0057】
非晶質凍結乾燥セフォベシンナトリウム塩を、密封されたバイアル中、75℃で、20分、及び60分の間、アニールした。未処理セフォビシンナトリウム塩を有する密封されたバイアル(対照)、及びアニールされたセフォビシンナトリウム塩を有するバイアルを、周囲湿度で6週間、及び12週間、40℃で保持した。
【0058】
逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)を使用し、セフォビシンナトリウム塩の分解を測定した。HPLCを、256nmでのUV検出器セット、及びKromasil Cカラム 4.6×250mm、5μm、100オングストローム孔サイズ(Waters,Milford,MA)を有するWaters Alliance(Milford,MA)システムで実施した。カラム温度を30±2℃にし、そして当該サンプルを5±3℃で自動サンプラー中に保持し、そして当該流速を1ml/分とした。傾斜法を使用し、ここで移動相Aは、(9:1)0.025Mのリン酸ナトリウム緩衝液、pH6.5:HPLC用水におけるアセトニトリルからなり、移動相Bは、(4:6)0.025Mのリン酸ナトリウム緩衝液、pH6.5:HPLC用水におけるアセトニトリルからなるものだった。
【0059】
当該凍結乾燥された固体をWFIに溶解し、当該溶液をHPLCカラムの中に注入した。セフォビシンナトリウム塩、及び約1.6の相対保持時間を有する主な分解物の内容を、A/ΣAとして計算した、ここでAは、セフォビシンナトリウム塩か分解物のいずれかのピーク面積であり、及びΣAは、全クロマトグラフのピークの全面積である。この分解物を、二量体として暫定的に同定した。2つのアニールされたサンプル及び対照サンプルから得られた安定性データを、図1にグラフとして示す。より低い純度(下図)及び二量体のより高い値(上図)において表示されるように、20及び60分間でのアニーリング(75℃で)は、いくらかの分解(図1、最初の時点)をもたらすことが見られる。しかしながら、周囲湿度で40℃で12週間の保存期間後、対照と比較して、アニールされたサンプル中の全体的な純度はより高く、及び二量体レベルはより低かった。これは、アニールされたサンプルのより高い安定性を示す。
【0060】
より数量的なアニーリングによる安定性を表示するために、分解速度定数を、セフォビシンナトリウム塩の損失データ(図1、下図)から、ゼロ次速度モデルを使用して測定した。当該速度定数kを、表1に示した。アニールされたサンプルについてのkは、対照(アニーリングなし)のものよりも低いことがわかる。さらに、比反応速度定数、k/k(ここで、kは対照の速度定数である)を、対照に関して計算した。当該k/kを、75℃でのアニーリング時間の関数として図2にプロットする。
【0061】
それ故、12週の時点(図1)でのより高い純度及び二量体のより低い値、及び当該アニールされた材料における分解のより低い比率(表1、図2)は、アニーリングが当該セフォベシンナトリウム塩の熱安定性を増大したことを例証する。
【0062】
【表1】

【0063】
実施例2
60℃でのアニーリング
非晶質の凍結乾燥されたセフォベシンナトリウム塩を、契約研究所、UCONN,Storrs,CTにおいて、60℃で、300分、密封されたバイアル中でアニールした。未処理サンプル(対照)、及びアニールされたサンプルを、6ヶ月間、40℃で安定して放置した。逆相高速液体クロマトグラフィーを使用し、実施例1に記載のように分解を測定した。
【0064】
40℃で6ヶ月間保存した後、当該アニールされたサンプルの純度は対照の純度より高く、一方、二量体値は対照の値よりも低かった(表2)。より高い純度、及びより低い二量体値(表2)は、60℃でのアニーリングが分解率を低減し、非晶質セフォベシンナトリウム塩を安定化することを示した。
【0065】
【表2】

【0066】
実施例3
160℃/120分、及び170℃/45分でアニーリング
セフォビシンナトリウム塩を含む凍結乾燥された製剤を、以下のように製造した。セフォビシンナトリウム塩を、pH6.7のクエン酸塩緩衝剤に溶解した。2つの非活性成分(防腐剤)である、メチルパラベン及びプロピルパラベンを、セフォビシンナトリウム塩の溶解が視覚的に完全となった後、添加した。当該溶液は、200mg/mlのセフォビシンナトリウム塩、50mMのクエン酸塩緩衝剤、4.5mg/mlのメチルパラベン、及び0.5mg/mlのプロピルパラベンを含んだ。当該溶液を、20mlのガラスバイアルに満たした、4.25ml/バイアル。当該バイアルを、単一孔D777−1で不十分に栓をし、そして凍結乾燥機(Hull 450 FXS800S,Warminster,PA)にロードした。当該溶液を−40℃で凍結し、その後、−10℃の棚温度、及び約200ミリトールの真空で、第1乾燥し、当該製品温度が−12℃に達した後、第2乾燥を、40℃の棚温度で、約12時間、及び200ミリトール真空で実施した。凍結乾燥されたセフォビシンナトリウム塩を契約施設、SmithKline Beecham Corporation,Conshocken,PAの中で製造した。当該凍結乾燥されたサンプルは、約0.3重量%の含水量だった。当該凍結乾燥されたサンプルを、密封バイアル中、160℃で、120分間、及び170℃/45分間、アニールした。未処理サンプル(対照)、及び当該アニールされたサンプルをHPLCで試験した、ここでHPLC条件は実施例1に示される。当該純度結果を表3に示す。160℃及び170℃での双方での処理は、実施例1及び2と比較して、著しい分解をもたらすことがわかり得る。
【0067】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、本発明の方法により処理された2つのサンプル、及び未処理のサンプルの保存性のグラフ表示である。
【図2】図2は、アニーリング時間の関数によるセフォベシンナトリウム塩の分解速度定数のグラフ表示である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質状態である以下の式(I):
【化1】

により表される化合物、及び場合により1又は複数の医薬として許容される賦形剤を含む医薬組成物を安定させる方法であって、以下のステップ:
a)前記組成物の重量に基づく約5重量%未満の残留溶媒量を有するまで、当該組成物を凍結乾燥する;
b)前記組成物を、約45℃〜約90℃の範囲の温度まで加熱する;
c)約1秒から約14日間の期間、ステップ(b)において前記組成物が加熱された温度で、前記組成物を保持する;
d)ステップ(b)において前記組成物が加熱された温度より低い温度まで、前記組成物を冷却する、
を含む前記方法。
【請求項2】
前記溶媒が水であり、かつ当該水の残留量が2重量%未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(b)の加熱温度が、約55℃〜約80℃の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップ(c)の温度が、約5分〜約40時間の間、保持される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒が水であり、かつ当該水の残留量が1重量%未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップ(b)の加熱温度が、約60℃〜約75℃の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(c)の温度が、約20分〜約10時間の間、保持される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記医薬組成物が、緩衝剤、防腐剤、充填剤、及びそれらの混合物からなる群より選択される1又は複数の賦形剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記医薬組成物が、クエン酸塩緩衝剤、メチルパラベン、及びプロピルパラベンをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
非晶質状態である以下の式(I):
【化2】

により表される化合物を含む、請求項1に記載の方法により製造される医薬組成物。
【請求項11】
クエン酸塩緩衝剤、メチルパラベン、及びプロピルパラベンをさらに含む、請求項10に記載の医薬組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2007−533724(P2007−533724A)
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−508993(P2007−508993)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【国際出願番号】PCT/IB2005/000955
【国際公開番号】WO2005/102274
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(397067152)ファイザー・プロダクツ・インク (504)
【出願人】(506354733)ユニバーシティ オブ コネチカット (1)
【Fターム(参考)】