説明

無線タグ及び無線タグを有する導電性パイプ

【課題】導電性パイプの内部に全ての構成部品が収容されるように取り付けても、導電性パイプの外部から情報を読み取ることが可能な無線タグ、及びそのような無線タグを備えた導電性パイプを提供する。
【解決手段】中空状の導電性パイプ(10)の内側に取り付けられる無線タグは、導電性パイプ(10)に接触し、導電性パイプ(10)と電気的に接続される接点(3)と、導電性パイプ(10)の内部に、導電性パイプ(10)の長手方向に沿って、かつ導電性パイプ(10)の内壁と所定の距離を保って配置されることにより、導電性パイプ(10)とともに同軸線路を形成する導線(2)と、一端が接点(3)と電気的に接続され、他端が導線(2)と電気的に接続され、リーダライタから発信された質問信号に対する応答信号を生成する無線タグ回路(4)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、無線タグ及び無線タグを有する導電性パイプに関し、特に中空状の導電性パイプの内側に取り付けられる無線タグ及びそのような無線タグを有する導電性パイプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、在庫管理及び物流管理などを行うために、無線自動識別(以下、RFIDという)技術を利用したシステムが広く用いられている。RFID技術を利用したシステムは、管理対象となる物品等に取り付けられる無線タグと、リーダライタとを有し、無線タグとリーダライタの間で無線通信が行われる。そしてリーダライタは、無線タグに記憶された識別情報などを読み取ることにより、個々の無線タグを識別できる。そのため、係るシステムは、無線タグが取り付けられた物品を個別に管理することができる。
【0003】
特に、特許文献1には、無線タグの剥がれ落ち防止や防水のために、管理対象となる雷管の金属製管体内部に無線タグを取り付け、その金属製管体の外部へと延ばされた脚線をモノポールアンテナとして機能させることが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−125650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなRFID技術を利用したシステムを、金属パイプの管理に利用することが検討されている。このような場合においても、無線タグの剥がれ落ち防止及び破損防止のために、無線タグは金属パイプの内部に取り付けられることが望ましい。また、一般的に金属パイプは、用途に応じて長さを調節するため、金属パイプの一端を他の金属パイプの端部に嵌合することにより連結可能なように形成されるものもある。そのため、無線タグは、その嵌合部分よりも奥側に取り付けられることが望ましい。そしてその嵌合部分の長さは、例えば、半径30mmの金属パイプにおいて、約150mmにもなる。
【0006】
しかしながら、金属パイプのように、導電性の材料で形成された導電性パイプについて、遮断周波数よりも低周波数の電波はそのようなパイプの内部に伝播することができない。金属パイプを円形導波管とみなせば、遮断周波数fcは、下記の式で与えられる。
【数1】

上式において、bは金属パイプの半径(単位mm)である。例えば、半径30mmの金属パイプの場合、遮断周波数fcは約2.9GHzとなる。一方、RFIDシステムにおいて現在利用されている電波または電磁波の周波数は、例えば、マイクロ波帯の2.45GHz、UHF帯の860-960MHz、HF帯の13.56MHzなどであり、何れも遮断周波数fcよりも低周波数である。そのため、それらの電波または電磁波は、金属パイプ内に伝播することができない。そこで、特許文献1に記載のように、金属パイプの外部にまで延びる導線をアンテナとして用いる無線タグを金属パイプの内部に取り付けることが考えられる。
【0007】
しかし、金属パイプは、建設資材などの構造物の材料または足場などの枠組みに用いられる場合があり、上記のように端部同士で連結されたり、端部を固定しない状態でクレーンで吊り上げられたり、積み重ねて置かれるなど、様々な扱い方をされる。そのため、無線タグのアンテナが金属パイプの外部に突出していると、金属パイプを運搬したり、金属パイプ同士を連結する際にその導線が破損したり、導線に異常な負荷がかかってその導線に接続された無線タグが外れるおそれがある。
【0008】
そこで、本願は、導電性パイプの内部に全ての構成部品が収容されるように取り付けても、導電性パイプの外部から情報を読み取ることが可能な無線タグ、及びそのような無線タグを備えた導電性パイプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一つの実施形態によれば、中空状の導電性パイプの内側に取り付けられる無線タグが提供される。係る無線タグは、導電性パイプに接触し、導電性パイプと電気的に接続される接点と、導電性パイプの内部に、導電性パイプの長手方向に沿って、かつ導電性パイプの内壁と所定の距離を保って配置されることにより、導電性パイプとともに同軸線路を形成する導線と、一端が接点と電気的に接続され、他端が導線と電気的に接続され、リーダライタから発信された質問信号に対する応答信号を生成する無線タグ回路とを有する。
【0010】
また、他の実施形態によれば、導電性パイプが提供される。係る導電性パイプは、導電性を有する中空状のパイプ部材と、パイプ部材と電気的に接続される接点と、パイプ部材の内部に、パイプ部材の長手方向に沿って、かつパイプ部材の内壁と所定の距離を保って配置されることにより、パイプ部材とともに同軸線路を形成する導線と、一端が接点と電気的に接続され、他端が導線と電気的に接続され、リーダライタから発信された質問信号に対する応答信号を生成する無線タグ回路とを有する。
【発明の効果】
【0011】
本願に開示された無線タグは、剥がれ落ち防止または破損防止のために、導電性パイプの内部に全ての構成部品が収容されるように取り付けることが可能である。そして係る無線タグは、導電性パイプの内部に取り付けても、その導電性パイプの外部から無線タグの情報を読み取ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図を参照しつつ、第1の実施形態による無線タグについて説明する。
第1の実施形態による無線タグは、金属パイプの内部に設置された場合に、その金属パイプとともに同軸線路を形成するような導線を有する。そのような導線を有することにより、係る無線タグは、リーダライタから放射された質問信号である電波あるいは電磁波(以下、簡単化のために単に電波という)を金属パイプ内に伝播させて、その無線タグの情報を読み取ることを可能としたものである。
【0013】
図1は、第1の実施形態による無線タグを金属パイプに取り付けた場合に形成される回路の模式図である。図1に示すように、金属パイプ10の内部に取り付けられた無線タグ1は、導線2と、金属パイプの内壁に接触し、導電性を有する接点3と、無線タグチップ4とを有する。
【0014】
導線2は、導電性を有する銅、鉄などの材料で形成される。そして導線2は、金属パイプ10の内径の中心軸に沿って、金属パイプ10と接触しないように配置される。また導線2の一端2aは、金属パイプ10の外へはみ出さないように、金属パイプ10の開口10aよりも金属パイプ10の奥側に配置される。さらに導線2の一端2aは、リーダライタ(図示せず)から放射される電波がその開口10aから金属パイプ10の内部へ到達可能な距離よりも開口10aの近くに配置される。
【0015】
そして導線2と金属パイプ10とは、同軸線路を形成する。したがって、リーダライタから放射される電波が、金属パイプ10の遮断周波数よりも低い周波数を有していても、導線2に沿って金属パイプ10の内部へ伝播することが可能となる。
【0016】
さらに、導線2の径は、金属パイプ10と導線2により形成される同軸線路の特性インピーダンスを、金属パイプ10外部の空間の特性インピーダンスと整合させるように設定される。ここで、金属パイプ10と導線2の間に、空気しか存在しない場合は、金属パイプ10と導線2により形成される同軸線路の特性インピーダンスZは以下の式で求めることができる。
【数2】

上式において、a、bはそれぞれ導線2の半径及び金属パイプ10の内側半径である。また、空間の特性インピーダンスは、周知のように約377Ωである。そのため、例えば、金属パイプ10の内側半径が30mmの場合、上式により、導線2の半径を約0.05mmとすれば、両者の特性インピーダンスを整合させることができる。
【0017】
図2(a)及び(b)に、リーダライタから放射された電波による、金属パイプ10内部の電界強度のシミュレーション結果を示す。なお、この例では、金属パイプ10の内側半径は30mmであり、リーダライタは、金属パイプ10の開口から500mmのところに配置されるものとする。そしてリーダライタの等価等方放射電力は4W(4Weirp)であり、放射された電波の周波数は953MHzである。図2(a)は、金属パイプ10内に導線2が存在しない場合の電界強度の模式図を示し、図2(b)は、金属パイプ10内に、空間の特性インピーダンスとインピーダンス整合がとれる太さの導線2が存在する場合の電界強度の模式図を示す。
【0018】
図2(a)に示すように、金属パイプ10内に導線2が存在しない場合、電界強度が1V/m以上の領域210は、開口から約30mm入ったところまでであり、それ以上奥側では電界強度は1V/m未満まで低下する。しかし、無線タグが応答するためには、通常1V/m以上の電界強度が必要とされる。そのため、金属パイプ10の開口から30mmのところよりも奥側に無線タグを設置すると、その無線タグはリーダライタに対して応答することができない。
一方、図2(b)に示すように、金属パイプ10内に導線2が存在する場合、導線2に沿って1V/m以上の電界強度を有する領域210が存在し、リーダライタから放射された電波が金属パイプ10の内部にまで伝達されていることが分かる。
【0019】
無線タグチップ4は、無線タグとしての機能を提供するために、整流回路、メモリ及びマイクロプロセッサユニットなどを有する。そして無線タグチップ4は、それらの各構成要素を組み込んだ集積回路である。本実施形態では、無線タグチップ4は、いわゆるパッシブ方式を採用している。そのため、無線タグチップ4は、リーダライタから受信した質問信号を、整流回路により直流電圧に変換してマイクロプロセッサユニット等を駆動するために提供する。そしてマイクロプロセッサは、リーダライタから質問信号を受信すると、メモリから無線タグ1を他の無線タグと識別するための識別コードを読み取って、その識別コードで質問信号を変調して応答信号を生成する。なお、本実施形態に係る無線タグで利用可能な無線タグチップは、内蔵バッテリからの給電を利用して応答波を生成するアクティブ方式あるいはセミアクティブ方式を採用するものであってもよい。また、無線タグとリーダライタ間の通信に使用される電波の周波数は、RFIDシステムにおいて利用される何れの周波数でもよく、例えばUHF帯の953MHzとすることができる。
【0020】
また、無線タグチップ4は、整流回路に接続される二つの端子を有する。その二つの端子の一方は、導線2に電気的に接続される。また、二つの端子の他方は、接点3を介して金属パイプ10と電気的に接続される。これにより、導線2、無線タグチップ4、接点3、金属パイプ10の順に接続される回路が形成される。そして上記のように、導線2に沿って金属パイプ10の内部を電波が伝播可能となるので、金属パイプ10の開口10aが、無線タグ1のアンテナとしての機能を果たし、リーダライタからの質問信号の受信及びリーダライタへの応答信号の発信が可能となる。
【0021】
図3(a)及び(b)は、それぞれ、金属パイプ10に実装するための取り付け機構を有する、本実施形態に係る無線タグ1の概略斜視図及び金属パイプ10の開口側から見た無線タグ1の概略平面図である。図3(a)及び(b)に示すように、無線タグ1は、上述した導線2、無線タグチップ4とともに、それらを配置するための円形基板6及び複数のバネ7を有する。
【0022】
円形基板6は、絶縁体で形成される。そして円形基板6の表面には、プリント配線5a及び5bが形成されている。また、円形基板6の表面の略中央には、導線2を取り付けるための孔が形成されており、その孔の周囲を取り囲むようにプリント配線5aの一端が形成されている。そして導線2は、その孔に挿入されて、基板6に取り付けられる。さらに導線2は、基板6に取り付けられた根元部分で、半田などの導電性材料により固定され、プリント配線5aと電気的に接続される。なお、導線2は、他の公知の様々な方法により、プリント配線5aと電気的に接続されるように、基板6に取り付けられてもよい。
また、無線タグチップ4も、円形基板6の表面に配置され、無線タグチップ4の整流回路に接続される二つの端子が、それぞれプリント配線5a及び5bと電気的に接続される。
【0023】
複数のバネ7は、円形基板6の周囲に等間隔に配置される。各バネ7は、無線タグ1が金属パイプ10の内側に取り付けられたときに、金属パイプ10の内壁に対して押圧するように復元力を及ぼすことにより、無線タグ1を金属パイプ10の内部に固定する。また複数のバネ7のうちの一つは、プリント配線5bと電気的に接続され、接点3として機能するよう、導電性を有する材料で形成される。このように、接点3として機能するバネが金属パイプ10の内壁を押圧するように形成されるので、上記の回路を確実に形成させることができる。
【0024】
さらに、金属パイプ10の内壁に、バネ7と円形基板6の空隙8に嵌合するための突起11を形成してもよい。そして、空隙8を突起11と位置合わせして、空隙8に突起11を嵌合させることにより、無線タグ1を金属パイプ10内の所定位置に固定することができる。またこのように無線タグ1を固定することにより、無線タグ1が金属パイプ10から脱落することを防止できる。なお、所定位置は、例えば、金属パイプ10内を伝播する電界の定在波の振幅が最大となる位置の近傍とすることができ、電波の伝播に関する公知のシミュレーションを行うことなどによって予めその位置を決定することができる。
【0025】
図4に、導線が基板から外れることを防止するための補強部材を備えた無線タグの別の形態の概略斜視図を示す。図4に示すように、基板6の導線2の取り付け部の表面に樹脂などの補強部材9を設けて、導線2を固定することにより、導線2が基板6から外れることを防止できる。また、導線2の周囲全体を樹脂などの絶縁体材料で被覆して保護してもよい。この場合には、金属パイプ外の空間の特性インピーダンスと金属パイプ内の特性インピーダンスを整合させるために、導線の太さを絶縁体材料の誘電率に応じて調整する必要がある。なお、この場合の金属パイプ内の特性インピーダンスは、金属パイプを円形導波路とした同軸線路とみなすと、公知の式で求められるため、詳細な説明は省略する。
【0026】
図5(a)及び(b)は、それぞれ、金属パイプ10に実装するための別の取り付け機構を有する無線タグ1のの概略斜視図及び金属パイプ10の開口側から見た無線タグ1の概略平面図である。図5(a)及び(b)に示す実施形態では、無線タグ1は、金属パイプ10内に設けられた棒状ストッパ12に固定される。そのために、無線タグ1は、上述した導線2、無線タグチップ4、プリント配線5a、5bとともに、それらを配置するための絶縁体の基板16と、係合部材17a、17bと、接触部材18a、18bとを有する。なお、基板16上への導線2、無線タグチップ4及びプリント配線5a、5bの配置は、図3に示した実施形態に係る無線タグと同様であるため、ここではその説明を省略する。
【0027】
係合部材17a及び17bは、基板16の背面に設けられる。そして係合部材17a、17bは、無線タグ1を取り付けるために金属パイプ10の奥側へ移動させると、係合部材17a及び17bの先端部間の間隔が棒状ストッパ12の表面に沿って開閉する。そして、係合部材17a及び17bは、棒状ストッパ12を上下から挟んで、基板16を固定する。
接触部材18aは、基板16の上方に設けられ、一方、接触部材18bは、基板16の下方に設けられる。各接触部材18a、18bは、導電性を有する金属などの材料で形成される。さらに各接触部材18a、18bは、板バネ状に形成され、その先端部が金属パイプ10の内壁を押圧するように復元力を及ぼす。そして接触部材18aは、接点3として機能するよう、プリント配線5bと電気的に接続される。このため、上記の回路を確実に形成させることができる。
【0028】
なお、図5(a)及び(b)に示した無線タグ1についても、導線2が基板16から外れることを防止するために、基板16の導線2の取り付け部の表面に樹脂などの補強部材を充填して固定してもよい。また、導線2の周囲全体を樹脂などの絶縁体材料で被覆して保護してもよい。
【0029】
以上説明してきたように、第1の実施形態に係る無線タグは、金属パイプの内部に設置された場合に、その金属パイプとともに同軸線路を形成する導線を有する。そのため、係る無線タグは、リーダライタから放射された電波を金属パイプ内に伝播させることができる。したがって、無線タグの破損防止または剥がれ落ち防止のために、係る無線タグを金属パイプの内部に設置しても、その無線タグは金属パイプの外部に設置されたリーダライタに対して応答することができる。さらに、係る無線タグ1は、リーダライタと通信するために、導線の先端を金属パイプの開口より外側へ突出させる必要がない。そのため、金属パイプを運搬したり、金属パイプ同士を連結する際に導線が何等かの物と接触することが防止される。したがって、導線が破損したり、導線に異常な負荷がかかって導線に接続された無線タグが外れることも防止される。さらに、本実施形態に係る無線タグを金属パイプの内部に取り付けて、係る無線タグがリーダライタに対して応答できるようにするために、金属パイプ自体に特別な加工をする必要がない。そのため、係る無線タグは、既存の金属パイプにも使用することができる。
【0030】
次に、第2の実施形態に係る無線タグについて説明する。
図6は、第2の実施形態に係る無線タグを金属パイプに取り付けた場合に形成される回路の模式図である。図6に示すように、第2の実施形態に係る無線タグ21は、導線22と、金属パイプの内壁に接触し、導電性を有する接点23と、無線タグチップ24とを有する。なお、第2の実施形態に係る無線タグ21と第1の実施形態に係る無線タグ1とは、導線22の形状以外は同様の構成を有する。そして係る無線タグ21も、図3〜5に示した構成を適用することにより、金属パイプへ実装することができる。そこで、以下では導線22についてのみ説明する。
【0031】
第2の実施形態に係る無線タグ21は、同軸線路を形成するための導線22の径を、上記の実施形態に係る無線タグ1の導線2の径よりも大きくして、導線22の設計精度及び製造精度を向上させることを図るものである。
【0032】
上記の(2)式から明らかなように、導線22の径が大きくなるにつれて、金属パイプ10と導線22により形成される同軸線路の特性インピーダンスは低下する。そこで本実施形態では、その同軸線路の特性インピーダンスが金属パイプ10の外部の空間の特性インピーダンスと整合するために必要な長さだけ、導線22の先端22aが金属パイプ10の開口10aよりも奥側に位置するよう、導線22の長さが調節される。開口10aから導線22の先端22aまでの長さを、以下では便宜上インピーダンス整合長という。
このインピーダンス整合長lは、特性インピーダンス解析のための公知のシミュレーションを行うことによって求めることができる。例えば、金属パイプ10の内側半径が30mmで、導線22の直径を1.5mmとした場合、インピーダンス整合長lは30mmとなる。また、インピーダンス整合長lは、金属パイプの内側半径を大きくするほど、長くすることができる。
ここで、シミュレーションによる設計の例を示す。マクスウェルの方程式を解くような、モーメント法やFDTD法の電磁界シミュレータを用いて、リーダライタからの放射電界が、タグチップの両端の端子に発生させる電圧を計算する。実際に製造に耐えうる導線22の太さが決まっている場合、インピーダンス整合長lを、タグチップの両端の端子に発生する電圧が最大となるように最適化を行い、決定する。
【0033】
上記のように、第2の実施形態に係る無線タグは、金属パイプとともに同軸線路を形成するための導線の径を、金属パイプの開口近傍にまで導線を延ばした場合よりも大きくできるので、その導線の設計精度及び製造精度を向上させることができる。また、導線の径が大きくなることにより、導線自体の強度も向上させることができるので、第2の実施形態に係る無線タグは、第1の実施形態に係る無線タグよりも破損し難い構造を有することができる。さらに、係る無線タグを金属パイプに取り付けた場合、導線の先端がインピーダンス整合長だけ金属パイプの開口よりも奥側に位置する。そのため、第2の実施形態に係る無線タグは、導線が意図せずに何等かの物と接触して、無線タグが金属パイプから外れたり、破損することを防止することが容易となる。
【0034】
次に、インピーダンスの整合性を向上させることが可能な、第3の実施形態に係る無線タグについて説明する。
図7は、第3の実施形態に係る無線タグを金属パイプに取り付けた場合に形成される回路の模式図である。図7に示すように、第3の実施形態に係る無線タグ31は、導線32と、金属パイプの内壁に接触し、導電性を有する接点33と、無線タグチップ34とを有する。なお、第3の実施形態に係る無線タグ31と第1の実施形態に係る無線タグ1とは、導線32の形状以外は同様の構成を有する。そして係る無線タグ31も、図3〜5に示した構成を適用することにより、金属パイプへ実装することができる。そこで、以下では導線32についてのみ説明する。
【0035】
第3の実施形態において、導線32は、金属パイプ10の開口10a側に位置する細線部32aと、無線タグチップ34側に位置する太線部32bを有する。細線部32aの先端は、図1に示した実施形態の無線タグ1の導線2の先端と同様に、金属パイプ10の開口10aの近傍に位置する。また細線部32aの長さは、上記のインピーダンス整合長に相当する。さらに細線部32aの径は、無線タグ1の導線2と同様に、金属パイプ10及び細線部32aからなる同軸線路の特性インピーダンスが金属パイプ10外部の空間の特性インピーダンスと整合されるように設定される。
一方、太線部32bの長さは、金属パイプ10内を伝播する電波の波長(以下、管内波長という)λGの1/4に相当する。そして、細線部32aにおける同軸線路の特性インピーダンスをZ1、太線部32bにおける同軸線路の特性インピーダンスをZ0、無線タグチップ34の特性インピーダンスをZ2とすると、インピーダンスZ0が以下の関係を満たすように、太線部32bの径は設定される。
【数3】

【0036】
第3の実施形態に係る無線タグ31は、導線の径を上記のようにステップ状に変化させることにより、同軸線路部分の特性インピーダンスを変換して、無線タグチップ34の特性インピーダンスと良好に整合させることができる。
【0037】
次に、インピーダンスの整合性を向上させることが可能な、第4の実施形態に係る無線タグについて説明する。
図8は、第4の実施形態に係る無線タグを金属パイプに取り付けた場合に形成される回路の模式図である。図8に示すように、第4の実施形態に係る無線タグ41は、導線42と、金属パイプの内壁に接触し、導電性を有する接点43と、無線タグチップ44とを有する。なお、第4の実施形態に係る無線タグ41と第1の実施形態に係る無線タグ1とは、導線42の形状以外は同様の構成を有する。そして係る無線タグ41も、図3〜5に示した構成を適用することにより、金属パイプへ実装することができる。そこで、以下では導線42についてのみ説明する。
【0038】
第4の実施形態において、導線42は、金属パイプ10の開口10a側に位置するインピーダンス変換部42aと、無線タグチップ44側に位置するインピーダンス整合部42bを有する。ここで、インピーダンス整合部42bの径は、インピーダンス整合部42bの特性インピーダンスが無線タグチップ44の特性インピーダンスと一致するように設定される。
一方、インピーダンス変換部42aの先端は、第1の実施形態の無線タグ1の導線2の先端と同様に、金属パイプ10の開口10aの近傍に位置する。そしてインピーダンス変換部42aの先端部における径は、金属パイプ10の開口10a近傍における、金属パイプ10と導線42により形成される同軸線路の特性インピーダンスを金属パイプ10外部の空間の特性インピーダンスと整合させるように設定される。
またインピーダンス変換部42aの長さlTは、管内波長λGの1/4未満に設定される。さらにインピーダンス変換部42aは、先端側からインピーダンス整合部42bに向かうにつれて、徐々に径が太くなるテーパ状の形状を有している。そしてインピーダンス変換部42aは、インピーダンス整合部42bと接続される部分においてインピーダンス整合部42bと同じ径を有する。そのため、インピーダンス変換部42aは、金属パイプ10の開口部10aにおける同軸線路の特性インピーダンスを、インピーダンス整合部42bにおける同軸線路の特性インピーダンスに変換する。
【0039】
したがって、第4の実施形態に係る無線タグ41は、導線の径を上記のようにテーパ状に変化させることにより、同軸線路の特性インピーダンスを変換して、無線タグチップ44の特性インピーダンスと良好に整合させることができる。
【0040】
次に、金属パイプ内を伝播する電波の定在波を軽減させることが可能な、第5及び第6の実施形態に係る無線タグについて説明する。
図9(a)及び(b)は、それぞれ、第5及び第6の実施形態による無線タグを金属パイプに取り付けた場合に形成される回路の模式図である。図9(a)に示した、第5の実施形態に係る無線タグ51は、導線52と、金属パイプ10の内壁に接触し、導電性を有する接点53と、無線タグチップ54と、終端抵抗56とを有する。係る無線タグ51は、第1の実施形態に係る無線タグ1と比較して、終端抵抗56を有する点でのみ相違する。したがって、以下では終端抵抗56に関してのみ説明する。
【0041】
終端抵抗56は、導線52及び金属パイプ10により形成される同軸線路の特性インピーダンスと同じ特性インピーダンスを有する。そして終端抵抗56は、導線52と金属パイプ10の間に、無線タグチップ54と並列に接続される。例えば、無線タグ54が図3に示すような実装形態を有する場合、終端抵抗56は、基板6上に設けられる。そして終端抵抗56の一端は、プリント配線5aを延長して電気的に接続され、終端抵抗56の他端は、バネ7の何れかと、プリント配線5a及び5bと接触しないように設けられた別のプリント配線により電気的に接続される。
【0042】
同様に、図9(b)に示した第6の実施形態に係る無線タグ62も、導線62と、金属パイプ10の内壁に接触し、導電性を有する接点63と、無線タグチップ64と、終端抵抗66とを有する。係る無線タグ61は、第2の実施形態に係る無線タグ21と比較して、終端抵抗66を有する点でのみ相違する。
そして終端抵抗66は、第5の実施形態に係る無線タグ51の終端抵抗56と同様に、導線62及び金属パイプ10により形成される同軸線路の特性インピーダンスと同じ特性インピーダンスを有する。そして終端抵抗66は、導線62と金属パイプ10の間に、無線タグチップ64と並列に接続される。
【0043】
このような終端抵抗を設けることにより、導線52あるいは62と金属パイプ10により形成される同軸線路で受信した電波の反射を抑制できる。そのため、導線52若しくは62に沿って伝播する電波の定在波は軽減される。これにより、金属パイプ10内を導線2に沿って伝播する電波による電界強度を、金属パイプ10の開口からの距離または管内波長λGによらず相対的に均質化することができる。また、導線52あるいは62の長さは自由に設定できる。
したがって、第5の実施形態に係る無線タグ51及び第6の実施形態に係る無線61は、無線タグ54または64の設置位置の自由度を向上させることができ、係る無線タグを金属パイプに取り付ける際の作業性を向上させることができる。
【0044】
なお、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではない。例えば、上記の各実施形態において、金属パイプとともに同軸線路を形成するための導線は、その導線が直接金属パイプと接触しない限り、金属パイプの長手方向の中心軸からずれて配置されてもよい。また、上記の各実施形態に係る無線タグを取り付ける金属パイプの形状は、円筒形に限定されず、矩形あるいは6角形などの多角形状の断面形状を有していてもよい。例えば矩形の断面形状を有するパイプの場合、開口の長辺方向の長さをaとして、遮断周波数fcは3×105/2a(MHz)となる。そのため、リーダライタから放射される質問波の周波数をUHF帯とするRFIDシステムを利用する場合、長辺aは157mm以上長くなければ、質問信号はパイプ内部に伝播しない。このように、質問信号の周波数が遮断周波数fcより低い場合でも、上述した無線タグは、パイプ内部に取り付けて、その質問信号をパイプ内部に伝播させることができ、その質問信号に対して応答することができる。
さらに、本願に開示した無線タグを取り付けるパイプは、金属製のパイプに限られない。導電性を有する材料で作成された、中空状のパイプであれば、本願に開示した無線タグを好適に使用することができる。
以上のように、当業者は、本発明の範囲内で、実施される形態に合わせて様々な変更を行うことができる。
【0045】
以上説明した実施形態及びその変形例に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
中空状の導電性パイプ(10)の内側に取り付けられる無線タグであって、
前記導電性パイプ(10)に接触し、前記導電性パイプ(10)と電気的に接続される接点(3)と、
前記導電性パイプ(10)の内部に、前記導電性パイプ(10)の長手方向に沿って、かつ前記導電性パイプ(10)の内壁と所定の距離を保って配置されることにより、前記導電性パイプ(10)とともに同軸線路を形成する導線(2)と、
一端が前記接点(3)と電気的に接続され、他端が前記導線(2)と電気的に接続され、リーダライタから発信された質問信号に対する応答信号を生成する無線タグ回路(4)と、
を有する無線タグ。(1)(図1)
(付記2)
前記導線(2)の先端部は、前記導電性パイプ(10)外部の空間の特性インピーダンスと前記同軸線路の特性インピーダンスが整合される長さだけ、前記導電性パイプ(10)の開口(10a)から前記導電性パイプ(10)の奥側に位置する、付記1に記載の無線タグ。(2)(図6)
(付記3)
前記同軸線路の特性インピーダンスと等しい特性インピーダンスを有し、前記導線(2)と前記導電性パイプ(10)の間に、前記無線タグ回路(4)と並列に接続される抵抗(56、66)をさらに有する、付記1または2に記載の無線タグ。(3)(図9)
(付記4)
前記導線は、前記無線タグ回路(4)と接続される側の直径が、前記導電性パイプ(10)の開口部(10a)に近い側における直径よりも大きくなるように形成されて、前記同軸線路の特性インピーダンスを前記無線タグ回路(4)の特性インピーダンスと一致させるよう変換する、付記1に記載の無線タグ。(4)(図7、図8)
(付記5)
前記導線の直径は、前記無線タグ回路(4)と接続される側においてステップ状に大きくなる、付記4に記載の無線タグ。(図7)
(付記6)
前記導線は、前記導電性パイプ(10)の開口部(10a)に近い先端部から、前記無線タグ回路(4)と接続される側に向かうにつれてテーパ状に直径が大きくなるインピーダンス変換部(42a)を有する、付記4に記載の無線タグ。(図8)
(付記7)
導電性を有する中空状のパイプ部材(10)と、
前記パイプ部材(10)と電気的に接続される接点(3)と、
前記パイプ部材(10)の内部に、前記パイプ部材(10)の長手方向に沿って、かつ前記パイプ部材(10)の内壁と所定の距離を保って配置されることにより、前記パイプ部材(10)とともに同軸線路を形成する導線(2)と、
一端が前記接点(3)と電気的に接続され、他端が前記導線(2)と電気的に接続され、リーダライタから発信された質問信号に対する応答信号を生成する無線タグ回路(4)と、
を有する導電性パイプ。(5)(図1)
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】第1の実施形態による無線タグを金属パイプの取り付けた場合に形成される回路の模式図である。
【図2】(a)は、金属パイプ内に導線が存在しない場合の電界強度の模式図であり、(b)は、金属パイプ内に、空間の特性インピーダンスとインピーダンス整合がとれる太さの導線が存在する場合の電界強度の模式図である。
【図3】(a)は、金属パイプに実装するための取り付け機構を有する、第1の実施形態に係る無線タグの概略斜視図であり、(b)は、第1の実施形態に係る無線タグの概略平面図である。
【図4】基板上の導線の取り付け部に補強材を充填した構造を示した概略図である。
【図5】(a)は、金属パイプに実装するための別の取り付け機構を有する、第1の実施形態に係る無線タグの概略斜視図であり、(b)は、第1の実施形態に係る無線タグの概略平面図である。
【図6】第2の実施形態に係る無線タグを金属パイプの取り付けた場合に形成される回路の模式図である。
【図7】第3の実施形態に係る無線タグを金属パイプの取り付けた場合に形成される回路の模式図である。
【図8】第4の実施形態に係る無線タグを金属パイプの取り付けた場合に形成される回路の模式図である。
【図9】(a)は、第5の実施形態に係る無線タグを金属パイプの取り付けた場合に形成される回路の模式図であり、(b)は、第6の実施形態に係る無線タグを金属パイプの取り付けた場合に形成される回路の模式図である。
【符号の説明】
【0047】
1、21、31、41、51、61 無線タグ
2、22、32、42、52、62 導線
3、23、33、43、53、63 接点
4、24、34、44、54、64 無線タグチップ
56、66 終端抵抗
10 金属パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空状の導電性パイプの内側に取り付けられる無線タグであって、
前記導電性パイプに接触し、前記導電性パイプと電気的に接続される接点と、
前記導電性パイプの内部に、前記導電性パイプの長手方向に沿って、かつ前記導電性パイプの内壁と所定の距離を保って配置されることにより、前記導電性パイプとともに同軸線路を形成する導線と、
一端が前記接点と電気的に接続され、他端が前記導線と電気的に接続され、リーダライタから発信された質問信号に対する応答信号を生成する無線タグ回路と、
を有する無線タグ。
【請求項2】
前記導線の先端部は、前記導電性パイプ外部の空間の特性インピーダンスと前記同軸線路の特性インピーダンスが整合される長さだけ、前記導電性パイプの開口から前記導電性パイプの奥側に位置する、請求項1に記載の無線タグ。
【請求項3】
前記同軸線路の特性インピーダンスと等しい特性インピーダンスを有し、前記導線と前記導電性パイプの間に、前記無線タグ回路と並列に接続される抵抗をさらに有する、請求項1または2に記載の無線タグ。
【請求項4】
前記導線は、前記無線タグ回路と接続される側の直径が、前記導電性パイプの開口部に近い側における直径よりも大きくなるように形成されて、前記同軸線路の特性インピーダンスを前記無線タグ回路の特性インピーダンスと一致させるよう変換する、請求項1に記載の無線タグ。
【請求項5】
導電性を有する中空状のパイプ部材と、
前記パイプ部材と電気的に接続される接点と、
前記パイプ部材の内部に、前記パイプ部材の長手方向に沿って、かつ前記パイプ部材の内壁と所定の距離を保って配置されることにより、前記パイプ部材とともに同軸線路を形成する導線と、
一端が前記接点と電気的に接続され、他端が前記導線と電気的に接続され、リーダライタから発信された質問信号に対する応答信号を生成する無線タグ回路と、
を有する導電性パイプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−272768(P2009−272768A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119911(P2008−119911)
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】