説明

無線フィールド機器およびこれを用いた無線制御ネットワークシステム

【課題】省電力のためにスリープ動作を行う無線フィールド機器およびこれを用いた無線制御ネットワークシステムのメンテナンス性および信頼性を向上させること。
【解決手段】アクセスポイントを介して無線通信するインフラストラクチャモード又は近距離の機器同士で直接通信するアドホックモードにより無線通信を行う無線通信手段と、前記無線通信手段の一部の機能を停止させてスリープ状態にする演算制御手段を備える無線フィールド機器において、近隣の機器から前記無線通信手段をスリープ状態から通常状態とし前記アドホックモードでの通信に切り替えるためのモード切替信号を受信するモード切替信号送受信手段と、前記モード切替信号を受信すると前記無線通信手段を制御してスリープ状態から通常状態とし前記アドホックモードに切り替える通信モード制御手段と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信を行うフィールド機器(以下、無線フィールド機器という)およびこれを用いた無線制御ネットワークシステムに関し、特に省電力のためにスリープ動作を行う無線フィールド機器およびこれを用いた無線制御ネットワークシステムのメンテナンス性と信頼性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、たとえばインダストリアルオートメーションにおけるプロセス制御システムを、無線フィールド機器を備えている無線制御ネットワークシステムを利用して構成することが提案されている。これは、従来の制御システムが有線ネットワークとして構成されていたことに起因して、通信距離の制限や配線の引き回しの制約などで温度や流量などを測定するセンサをプラント内の最適位置に設置できず、制御精度が低下する不都合を解消するためのものである。
【0003】
無線フィールド機器は、プロセス制御システムおよび無線制御ネットワークシステムにおける現場設置計器として、いろいろなものが用いられている。フィールド機器には、たとえばプロセス制御系の測定制御現場(フィールド)で用いられる温度・圧力・流量などの各種物理量を測定するセンサや制御機器などがある。
【0004】
また従来より、フィールド機器が有線ネットワークと無線ネットワークを相互接続するためのアクセスポイントを介して通信するインフラストラクチャモードと近距離の機器同士で直接通信するアドホックモードとの両者を有する無線ネットワーク通信方式が提案されていた。さらに、一つのフィールド機器が通信相手である他の無線フィールド機器またはモバイル端末との間でアクセスポイントを不要とする近距離通信が可能な場合にはアドホックモードで通信し、アドホックモード通信が不可能な場合にはインフラストラクチャモードで通信することを状況により自動的に切換えできる無線ネットワーク通信方式も提案されている。
【0005】
図5は、従来の無線フィールド機器およびこれを用いた無線制御ネットワークシステムの構成図である。図5において、無線フィールド機器1は、アクセスポイント2を介してモバイル端末3または他の無線フィールド機器と通信するインフラストラクチャネットワークと近距離のフィールド機器同士で直接通信するアドホックネットワークとを有している。
【0006】
モバイル端末3は、たとえば、無線制御ネットワークシステムにおけるオペレータの現場巡回作業またはメンテナンス時にフィールド機器と通信を行うものである。モバイル端末3は、工場やビルのようなフィールドで使用される無線フィールド機器を用いた無線制御ネットワークシステムにおいて設備の監視・保守作業 (i.e., 現場巡回作業)を行う際に用いられる。
【0007】
無線フィールド機器1は、通信相手となるモバイル端末3または他の無線フィールド機器とアドホックネットワークを介して通信可能であるとの情報を図示しない自己のキャッシュメモリに記録している。
【0008】
無線フィールド機器1は、通信開始に際しては通信相手のモバイル端末3または無線フィールド機器をデータベースを利用して検索し、このフィールド機器が記録されている場合にはアドホックネットワークで通信できるか否かを調べる。
【0009】
具体的には、無線フィールド機器1は、記録されていないモバイル端末3またはフィールド機器に対しては、まずアドホックモードで送受信の可能性を確認する。無線フィールド機器1は、アドホックモードで通信可能な場合にはデータベースに記録して通信を確立し、アドホックモードでの通信が不可能な場合にはインフラストラクチャモードに切換えて通信手順を開始する。
【0010】
また無線フィールド機器1は、既に記録されているモバイル端末3または無線フィールド機器に対しては、アドホックモードで通信手順を開始して通信が確立されるが、既にその状態でないため通信が不能な場合にはインフラストラクチャモードに切換えて通信手順が開始される。同様に、通信中のモバイル端末3または他の無線フィールド機器が移動のためアドホックネットワークから外れた際に、この無線フィールド機器は、アクセスポイントを介したインフラストラクチャモードに自動的に切換えて可能な限り通信を維持している。
【0011】
なお、無線フィールド機器1は、キャッシュメモリに記録されたモバイル端末3または他の無線フィールド機器を相手先として通信する際、アクセスポイント2を介することなく、モバイル端末3または他の無線フィールド機器との通信にアドホックモードを通信開始当初から自動的に選択する。
【0012】
このような無線フィールド機器に関連する先行技術文献として、下記の特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−128785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ここで、無線通信を行う無線フィールド機器は、無線通信を行わない期間(以下、スリープ期間)では、無線通信部の一部の機能を停止して必要最小限の電力で動作する(スリープ状態)ことにより、スリープ時の電力消費量の低減・スリープ時間の確保による省電力化・フィールド機器の長期間の連続動作を可能としている。
【0015】
しかしながら、従来の無線フィールド機器では、省電力のために各無線フィールド機器の無線通信手段がスリープ状態にある場合には大部分の時間が通信不可能な状態にあるのでインフラストラクチャモードとアドホックモードとの切替えを適宜実行できないという問題があった。
【0016】
また、このスリープ状態の際に発生する実行不可能な無線通信があるので、従来の無線フィールド機器およびこのフィールド機器により構成される無線制御ネットワークシステムのメンテナンス性と信頼性が低くなっているという問題があった。
【0017】
本発明は上述の問題点を解決するものであり、その目的は、省電力のためにスリープ動作を行う無線フィールド機器およびこれを用いた無線制御ネットワークシステムのメンテナンス性および信頼性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
アクセスポイントを介して無線通信するインフラストラクチャモード又は近距離の機器同士で直接通信するアドホックモードにより無線通信を行う無線通信手段と、前記無線通信手段の一部の機能を停止させてスリープ状態にする演算制御手段を備える無線フィールド機器において、
近隣の機器から前記無線通信手段をスリープ状態から通常状態とし前記アドホックモードでの通信に切り替えるためのモード切替信号を受信するモード切替信号送受信手段と、
前記モード切替信号を受信すると前記無線通信手段を制御してスリープ状態から通常状態とし前記アドホックモードに切り替える通信モード制御手段と、を備えることを特徴とする無線フィールド機器である。
【0019】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の無線フィールド機器において、
前記モード切替信号送受信手段は、無線フィールド機器の監視および保守を行うモバイル端末から、前記モード切替信号を受信することを特徴とする。
【0020】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の無線フィールド機器において、
あらかじめ設定されるファンクションブロックを実行しセンサとして動作する前記演算制御手段と、
通信相手との物理的距離を測定し電波送信出力値を制御する無線出力制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0021】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3いずれかに記載の仮想マシンサーバにおいて、
前記モード切替信号送受信手段は、
前記モバイル端末からパッシブタグによりモード切替信号を受信することを特徴とする。
【0022】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4いずれかに記載の仮想マシンサーバにおいて、
前記演算制御手段は、
前記モード切替信号を受信した後に前記無線通信手段の動作が不実施となってからあらかじめ定められた時間だけを経過すると前記無線通信手段の一部の機能を停止させてスリープ状態にすることを特徴とする。
【0023】
請求項6記載の発明は、
請求項1〜5いずれかに記載の無線フィールド機器と、
非接触ICで構成され前記の無線フィールド機器の無線通信手段をスリープ状態から通常状態とし通信モードを前記アドホックモードに切り替えるためのモード切替信号をパッシブタグにより送信する手段とを具備し無線フィールド機器の監視および保守を行うモバイル端末と、
を備えることを特徴とする無線制御ネットワークシステムである。
【0024】
請求項7記載の発明は、請求項6に記載の無線制御ネットワークシステムにおいて、
前記モバイル端末は、
アクセスポイントを介して前記無線フィールド機器と通信するインフラストラクチャモードと近距離のフィールド機器と直接通信するアドホックモードとにより無線通信を行う手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
このように、本発明によれば、省電力のためにスリープ動作を行う無線フィールド機器であっても、非接触ICから構成されるモード切替信号送受信手段がモバイル端末からのタグを用いたモード切替信号を受信することにより、モバイル端末からスリープ動作中のフィールド機器へのアクセスが容易になり、無線制御ネットワークシステム全体の省電力性を損なうことなくメンテナンス性の向上に貢献できる。また従来のスリープ状態の際に発生する実行不可能な無線通信があることによる通信の信頼性低下の問題点も解決でき通信の信頼性向上に貢献できる。
【0026】
また、本発明のフィールド機器によれば、モバイル端末6とメンテナンスの際など必要に応じてアドホックモードによる通信を行うことにより、従来は電波の放出範囲がアクセスポイントまでのカバーすることが必要であったところ、近隣のモバイル端末とアドホックモードによる通信を行うことで電波の放出範囲を抑制して出力を低くすることでき、他のフィールド機器あるいは共存する他の無線ネットワークシステム (たとえばISA100.11a)に与える電波ノイズの影響を小さくすることができる。
【0027】
また、本発明のフィールド機器によれば、モバイル端末6とメンテナンスの際など必要に応じてアドホックモードによる通信を行うことにより、モバイル端末とフィールド機器がアクセスポイントを介さず直接通信を行うことができトラフィック量の抑制に繋がり、通信信頼性やスループットの向上に貢献できる。
【0028】
また、本発明のフィールド機器は、プラント制御に無線通信技術を適用すると運用/敷設コストの低減を見込める点で有効であり、従来の有線通信では難しいとされていたプラント設備の多点測定といった新たな付加価値を提供することも可能になる。
【0029】
具体的には、プラントシステムでは現場作業員による機器の巡回メンテナンス作業が行われる一方で、フィールド機器には長期間の連続動作が要求されるので、無線機器の省電力性能が要求されるため無線機器にスリープ機能を搭載して動作デューティーを抑えることが必要である。このプラントシステムに本発明技術を適用することで、センサネットワークの省電力性とモバイル端末によるフィールド機器のメンテナンス作業を両立することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る無線フィールド機器およびこれを用いた無線制御ネットワークシステムの構成例を示す構成図である。
【図2】図1の無線フィールド機器4の構成ブロック図である。
【図3】本発明に係る無線フィールド機器4とモバイル端末6の動作説明図である。
【図4】図3の動作を無線フィールド機器4とモバイル機器6の動作フロー図の形で説明した動作説明図である。
【図5】従来の無線フィールド機器およびこれを用いた無線制御ネットワークシステムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、本発明に係る無線フィールド機器およびこれを用いた無線制御ネットワークシステムの構成例を示す構成図であり、図5等と共通する部分には同一の符号を付けて適宜説明を省略する。図5との相違点は、フィールド機器が無線通信を行う際のインフラストラクチャモードとアドホックモードの切り替えを行う通信モード制御手段と、モバイル端末6などの外部機器とデータの送受信を行い特にフィールド機器の動作状態をスリープ状態から通常状態としインフラストラクチャモードからアドホックモードの切り替えるための切替信号を受信するモード切替信号送受信手段とを備える点で相違する。
【0032】
図1において、無線制御ネットワークシステムは、無線フィールド機器4と、フィールド機器が有線ネットワークと無線ネットワークを相互接続するためのアクセスポイント5と、無線制御ネットワークシステムにおけるオペレータの現場巡回作業またはメンテナンス時にフィールド機器と無線通信を行うモバイル機器6と、から構成される。
【0033】
また、無線フィールド機器4は、無線通信を行わない期間(スリープ期間)では、無線通信部の一部の機能を停止して必要最小限の電力で動作する(スリープ状態となる)ことにより、スリープ時の電力消費量の低減・スリープ時間の確保による省電力化を図るものである。
【0034】
モバイル端末6は、ノートパソコンやPDAのような持ち運びが可能な端末であって、たとえば工場やビルのようなフィールドで使用される無線フィールド機器を用いた無線制御ネットワークシステムにおいて設備の監視・保守作業 (現場巡回作業)を行う際に用いられるものである。
【0035】
無線フィールド機器4、アクセスポイント5、モバイル機器6は、無線通信を介してデータの送受信を行なう。また無線フィールド機器4、アクセスポイント5、モバイル機器6は、主に無線通信にてデータ送受信を行なう。
【0036】
アクセスポイント5は、有線ネットワークと無線フィールド機器4、アクセスポイント5、モバイル機器6で構成される無線ネットワークに相互接続する。有線ネットワークには図示しないフィールド機器、他のネットワーク機器が接続される。
【0037】
図2は図1の無線フィールド機器4の構成ブロック図であり、図2において、無線フィールド機器4は、IEEE802.11a/b/g/n(具体的な規格は問わない)を利用して無線通信を行う無線通信手段41と、無線通信を行う際のインフラストラクチャモードとアドホックモードの切り替えを行う通信モード制御手段42と、通信相手との物理的距離を測定し電波送信出力を適切な値に制御する無線出力制御手段43と、モバイル端末6などの外部機器とデータの送受信を行い特にフィールド機器の無線通信手段の動作状態をスリープ状態から通常状態としインフラストラクチャモードからアドホックモードの切り替えるための切替信号(以下、モード切替信号という)を受信するモード切替信号送受信手段44と、他の機器と通信を行うための通信プロトコル(例えばTCP/IP(Transmission Control Protocol)プロトコル)の仕様に則するようにデータ変換し無線通信手段41と演算制御手段46とにデータを伝達するネットワーク通信スタック手段45とから構成される。
【0038】
また、無線フィールド機器4は、あらかじめ設定されるファンクションブロックを実行しフィールド機器4の各部・各機能を制御してセンサやアクチュエータなどとして動作するとともに他のフィールド機器またはモバイル端末と無線通信を行い、フィールド機器の設定や各種情報の受け渡しを行う演算制御手段46と、あらかじめ設定されるファンクションブロックを実行するためのプログラム、アプリケーション、フィールド機器間で行なわれる制御通信用のプロトコル情報などを記憶するなどを記憶する記憶手段47と、からも構成される。
【0039】
通信モード制御手段42は、インフラストラクチャモードおよびアドホックモードで使用するチャネル情報とアクセスポイント5のアドレス情報を有し、アドホックモードで通信相手を特定する際にはたとえばビーコン探索を行う。
【0040】
無線出力制御手段43は、無線通信手段内に含まれることが多いがそれとは別途、無線フィールド機器内に備えられるものでも構わない。この場合の具体的な手法の例として通信RSSI(Received Signal Strength Indication, Received Signal Strength Indicator(受信信号強度))を元に出力を制御する方法を用いることができる.
【0041】
モード切替信号送受信手段44は、接触型、非接触型のどちらの形態でもよく、非接触型ICタグの場合であればパッシブ型のRFIDを適用可能とするものでもよい。
【0042】
通信スタック手段45は、他の無線フィールド機器またはアクセスポイント、モバイル機器2などと通信を行うために、たとえば、演算制御手段46から受信するデータを通信プロトコルの仕様に則するようにデータ変換し無線通信手段41を制御して無線通信を行う、または無線通信手段41から受信するデータを変換し演算制御手段46に伝達する。
【0043】
演算制御手段46は、無線通信を行わない期間(スリープ期間)では、無線通信手段41の一部の機能を停止して必要最小限の電力で動作する(スリープ状態にする)。これにによ、スリープ時の電力消費量の低減・スリープ時間の確保による省電力化・フィールド機器の長期間の連続動作を可能となる。
【0044】
次に特に図示しないがモバイル機器6の構成について説明する。モバイル機器5は、IEEE802.11a/b/g/n(具体的な規格は問わない)を利用して無線通信を行う無線通信手段と、無線通信を行う際のインフラストラクチャモードとアドホックモードの切り替えを行う通信モード制御手段と、通信相手との物理的距離を測定し電波送信出力を適切な値に制御する無線出力制御手段と、フィールド機器4とデータの送受信を行い特にフィールド機器4にモード切替信号を送信するモード切替信号送受信手段と、他の機器と通信を行うための通信プロトコルの仕様に則するようにデータ変換し無線通信手段と演算制御手段とにデータを伝達する通信スタック手段と、から構成される。
【0045】
またモバイル機器6は、現場作業員がフィールド機器の設定や監視を行うためのアプリケーション・ソフトウェアを記憶する記憶手段と、オペレータからのフィールド機器の設定情報などの入力を受信する入力手段と、無線通信手段を制御してフィールド機器4と通信を行いフィールド機器の設定情報の受け渡しを行う演算制御手段からも構成される。
【0046】
また特に図示しないがアクセスポイント5の構成についても説明する。アクセスポイント5は、IEEE802.11a/b/g/n(具体的な規格は問わない)を利用してフィールド機器4、モバイル機器6と無線通信を行う無線通信手段と、他の機器と通信を行うための通信プロトコルの仕様に則するようにデータ変換し無線通信手段と演算制御手段とにデータを伝達する通信スタック手段と、有線ネットワークと無線ネットワークとから受信するデータをそれぞれ有線用、無線用にデータ変更して転送するルータ・ブリッジなどのアプリケーション・ソフトウェアを記憶する記憶手段と、アクセスポイント全体を制御してアクセスポイントとして動作させる演算制御手段からも構成される。
【0047】
このような構成のもと、本発明の無線フィールド機器およびこれを用いた無線制御ネットワークシステムは、次のような動作を行う。図3は本発明に係る無線フィールド機器4とモバイル端末6の動作説明図、図4は図3の動作を無線フィールド機器4とモバイル機器6の動作フロー図の形で説明した動作説明図である。図3と図4に割り振られている(1)〜(9)までの番号は相互に対応するものである。以下、図3および図4中に記載した(1)〜(9)の各機器の動作について説明する。
【0048】
図3の(1)において、モバイル端末6のモード切替信号送受信手段は、フィールド機器4にアドホックモードとして動作することを要求するためモード切替信号を送信する。このとき、モバイル端末6のモード切替信号送受信手段は、モード切替信号がフィールド機器4に到達できるものであれば、接触型、非接触型のどちらの通信方式を用いても構わない。
【0049】
なお、モバイル端末6のモード切替信号送受信手段は非接触ICから構成され、フィールド機器4のモード切替信号送受信手段44はタグリーダから構成されるものでもよい。この場合、モバイル端末6のモード切替信号送受信手段はパッシブタグを用いてモード切替信号を送信する。また、モバイル端末6のモード切替信号送受信手段は、フィールド機器からのタグ読み取り機構を有しているものでもよく、モード取得信号を送信すると同時にタグからフィールド機器4のアドレス情報などを同時に取得するものでも良い。
【0050】
(2)において、フィールド機器4は、モード切替信号送受手段44を介してモバイル端末6からモード切替信号を受信すると無線通信手段を制御して動作状態をスリープ状態から通常状態に切り替える(いいかえればスリープ状態から起床(ウェイクアップ)する)。これにより、フィールド機器4は、モード切替信号中のモバイル端末6の情報を取得できる。
【0051】
(3)において、フィールド機器4の通信モード制御手段42は、モバイル端末6からのモード切替信号に基づき、通信モードをインフラストラクチャモードからアドホックモードに変更する。なお、以降アドホックモードでの無線通信ではチャネルとモバイル端末のアドレスの情報が必要となるが、これらの情報を特定できるものであればどのようなものでもよい。たとえばフィールド機器に事前に定義して記憶しておいたり、ビーコン探索によりモバイル端末6のアドレス等の情報を収集・取得したりするものでもよい。
【0052】
(4)において、モバイル端末6の通信モード制御手段は、モード切替信号を送信した後、自機の通信モードをインフラストラクチャモードからアドホックモードに変更する。なお、以降アドホックモードでの無線通信ではチャネルとフィールド機器4のアドレス等の情報が必要となるが、これらの情報を特定できるものであればどのようなものでもよい。たとえばフィールド機器に事前に定義して記憶しておいたり、ビーコン探索によりモバイル端末6のアドレス等の情報を収集・取得したりするものでもよい。またこれらに加えて,モバイル端末がマスター機器として動作する場合は周波数チャネルをスキャンして帯域使用率の低いチャネルを選択しても良い。この場合、モバイル端末6は、ビーコン発信/探索を行いフィールド機器4とのチャネル共有を行う。
【0053】
(5)において、モバイル端末6とフィールド機器4は、無線制御ネットワークシステムにおけるオペレータの現場巡回作業またはメンテナンスに係る機器設定や情報取得などに必要な通信をアドホックモードにて行う。この際は、モバイル端末6とフィールド機器4の無線出力制御手段は、受信強度などの情報をもとに送信出力を互いに適宜変更するものでもよい。
【0054】
(6)において、フィールド機器4の通信モード制御手段42は、(5)で説明した動作に係る通信が終了するとモバイル端末が通信モードをインフラストラクチャモードに変更する。(5)の動作に係る通信終了の合図は、(3)〜(5)の通信内に含める方法や一定時間経過後に自動で変更する方法などがある。この動作は(7)と順不同とする。
【0055】
(7)フィールド機器4の演算制御手段46は、無線通信を行わない期間が予め定められた期間に達すると無線通信部の一部の機能を停止して必要最小限の電力で動作するスリープ状態となる。これにより、スリープ時の電力消費量の低減・スリープ時間の確保による省電力化に貢献できる。
【0056】
(8)において、モバイル端末6の通信モード制御手段は、(5)で説明した動作に係る通信が終了すると、フィールド機器が通信モードをインフラストラクチャモードに変更する。
【0057】
(9)モバイル端末6は、必要に応じてアクセスポイント5を経由して有線ネットワーク上の基幹系のネットワークノード(たとえば、制御サーバ)等に情報を転送する。
【0058】
この結果、本発明の無線フィールド機器は、省電力のためにスリープ動作を行う無線フィールド機器であっても、非接触ICから構成されるモード切替信号送受信手段がモバイル端末からのタグを用いたモード切替信号を受信することにより、モバイル端末からスリープ動作中のフィールド機器へのアクセスが容易になり、無線制御ネットワークシステム全体の省電力性を損なうことなくメンテナンス性の向上に貢献できる。また従来のスリープ状態の際に発生する実行不可能な無線通信があることによる通信の信頼性低下の問題点も解決でき通信の信頼性向上に貢献できる。
【0059】
また、本発明のフィールド機器4によれば、モバイル端末6とメンテナンスの際など必要に応じてアドホックモードによる通信を行うことにより、従来は電波の放出範囲がアクセスポイントまでカバーすることが必要であったところ、近隣のモバイル端末とアドホックモードによる通信を行うことで電波の放出範囲を抑制して出力を低くすることでき、他のフィールド機器あるいは共存する他の無線ネットワークシステム (たとえばISA100.11a)に与える電波ノイズの影響を小さくすることができる。
【0060】
また、本発明のフィールド機器4によれば、モバイル端末6とメンテナンスの際など必要に応じてアドホックモードによる通信を行うことにより、モバイル端末とフィールド機器がアクセスポイントを介さず直接通信を行うことができトラフィック量の抑制に繋がり、通信信頼性やスループットの向上に貢献できる。
【0061】
また、本発明のフィールド機器は、プラント制御に無線通信技術を適用すると運用/敷設コストの低減を見込める点で有効であり、従来の有線通信では難しいとされていたプラント設備の多点測定といった新たな付加価値を提供することも可能になる。
【0062】
具体的には、プラントシステムでは現場作業員による機器の巡回メンテナンス作業が行われる一方で、フィールド機器には長期間の連続動作が要求されるので、無線機器の省電力性能が要求されるため無線機器にスリープ機能を搭載して動作デューティーを抑えることが必要である。このプラントシステムに本発明技術を適用することで、センサネットワークの省電力性とモバイル端末によるフィールド機器のメンテナンス作業を両立することが可能になる。
【0063】
以上説明したように、本発明のフィールド機器は、モバイル端末の非接触ICで構成されるモード切替信号送受信手段から受信したタグを用いたモード切替信号に基づき、スリープ状態であれば通常状態に復帰するとともに通信モードをインフラストラクチャモードからアドホックモードに切り替えて近隣に存在するモバイル端末と直接無線通信を行うことにより、モバイル端末からスリープ動作中のフィールド機器へのアクセスが容易になり、無線制御ネットワークシステム全体の省電力性を損なうことなく設備点検作業を行うことが可能な無線インフラを構築することに貢献できる。
【符号の説明】
【0064】
1、4 無線フィールド機器
41 無線通信手段
42 通信モード制御手段
43 無線出力制御手段
44 モード切替信号送受信手段
45 通信スタック手段
46 演算制御手段
47 記憶手段
2、5 アクセスポイント
3、6 モバイル端末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセスポイントを介して無線通信するインフラストラクチャモード又は近距離の機器同士で直接通信するアドホックモードにより無線通信を行う無線通信手段と、前記無線通信手段の一部の機能を停止させてスリープ状態にする演算制御手段を備える無線フィールド機器において、
近隣の機器から前記無線通信手段をスリープ状態から通常状態とし前記アドホックモードでの通信に切り替えるためのモード切替信号を受信するモード切替信号送受信手段と、
前記モード切替信号を受信すると前記無線通信手段を制御してスリープ状態から通常状態とし前記アドホックモードに切り替える通信モード制御手段と、を備えることを特徴とする無線フィールド機器。
【請求項2】
前記モード切替信号送受信手段は、無線フィールド機器の監視および保守を行うモバイル端末から、前記モード切替信号を受信することを特徴とする請求項1記載の無線フィールド機器。
【請求項3】
あらかじめ設定されるファンクションブロックを実行しセンサとして動作する前記演算制御手段と、
通信相手との物理的距離を測定し電波送信出力値を制御する無線出力制御手段と、
を備えることを特徴とする請求項1または2記載の無線フィールド機器。
【請求項4】
前記モード切替信号送受信手段は、
前記モバイル端末からパッシブタグによりモード切替信号を受信することを特徴とする
請求項1〜3いずれかに記載の無線フィールド機器。
【請求項5】
前記演算制御手段は、
前記モード切替信号を受信した後に前記無線通信手段の動作が不実施となってからあらかじめ定められた時間だけを経過すると前記無線通信手段の一部の機能を停止させてスリープ状態にすることを特徴とする
請求項1〜4いずれかに記載の無線フィールド機器。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の無線フィールド機器と、
非接触IC(Integrated Circuit)で構成され前記の無線フィールド機器の無線通信手段をスリープ状態から通常状態とし通信モードを前記アドホックモードに切り替えるためのモード切替信号をパッシブタグにより送信する手段とを具備し無線フィールド機器の監視および保守を行うモバイル端末と、
を備えることを特徴とする無線制御ネットワークシステム。
【請求項7】
前記モバイル端末は、
アクセスポイントを介して前記無線フィールド機器と通信するインフラストラクチャモードと近距離のフィールド機器と直接通信するアドホックモードとにより無線通信を行う手段を備えることを特徴とする請求項6記載の無線制御ネットワークシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−278553(P2010−278553A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126743(P2009−126743)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】