説明

無線局方向推定装置及び無線局方向推定・電波発射装置、並びに無線局方向推定方法

【課題】 高精度な無線局の位置推定が可能な無線局方向推定装置及び無線局方向推定・電波発射装置、並びに無線局方向推定方法を提供すること。
【解決手段】 アレーアンテナ1、周波数探知手段2、及び電波到来方向推定手段3により、所望の電波の電波到来方向を推定する。レイトレース法無線局位置推定手段5は、推定された電波到来方向と、3次元地図データを有する標高・地図データベース4からの3次元地図データとに基づき、レイトレース法により無線局の位置を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線局から発射されている電波を受信して、受信した電波から無線局の方向を推定する無線局方向推定装置及び無線局方向推定・電波発射装置、並びに無線局方向推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電波の利用状況は著しく増加し、平成16年6月末現在において国内の無線局数は8千8百万局以上が運用されている。特に携帯電話等に見られる移動体通信事業者の無線局はそのうち8千7百万局以上存在している。携帯電話の大多数は800MHz帯に存在し、一部周波数における利用状況が非常に混雑したものとなっている。この周波数帯にパーソナル無線機を改造した不法無線局が出現し、合法無線局の運用を妨げている。このような不法無線局に対して、電波の到来方向を検出する方位探知装置の基本的なものとしては、八木アンテナのような指向性空中線を用いて電波の到来方向を探知するものがある。
【0003】
また、無指向性空中線及び指向性空中線を利用して、方位探知を行うものがあった(例えば、特許文献1参照)。このように従来型の探知装置は空中線の指向性を用いて方位角を推定する方式である。
【0004】
従来の方位探知装置は以上のように構成されているので、指向性空中線の半値角(ビーム幅)により最大受信電力の方位精度が±10〜20°に探知精度が制限されてしまう。そのため、高精度の探知ができなかった。更に物理的に指向性空中線を回転させる必要がある。
【0005】
そこで、不法無線局等の発見したい希望局の電波に対してアレーアンテナ技術を用いて受信した電波の到来方向を電子的に掃引・推定し、推定方向に対して送信ビームフォーミングを行うことで希望波と同じ方向に電子的に指向性を制御することのできる電波方位位置探知装置があった(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第2619144号明細書
【特許文献2】特願2003−107144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の無線局方向推定装置にあっては、アレーアンテナ技術を用いて精度の高い無線局位置推定が可能となっているが、不法無線局だけではなくETCシステムに見られるような近接距離での合法無線局に対する運用する場合には、更に高い精度の位置推定が求められる。
【0007】
本発明は、上記従来の事情に鑑みてなされたものであって、高精度な無線局の位置推定が可能な無線局方向推定装置及び無線局方向推定・電波発射装置、並びに無線局方向推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の無線局方向推定装置は、所望の電波を受信する指向性アンテナと、前記指向性アンテナの出力から前記所望の電波の周波数を探知する周波数探知手段と、前記周波数探知手段の出力結果から、複数の電波到来波の方向を推定する電波到来方向推定手段と、3次元の地図データを用いて、前記受信した到来波及び推定された電波到来波方向に基づき、レイトレース法によって前記電波を発信している無線局の位置を推定する位置推定手段と、を備える。
【0009】
この構成により、指向性アンテナを用いて電波到来方向を推定すると共に、3次元地図データを用いたレイトレース法を用いて無線局の位置を推定するので、高精度な無線局の位置推定を行うことができる。
【0010】
また、本発明の無線局方向推定装置において、前記指向性アンテナはアレーアンテナである。
【0011】
この構成により、高精度な電波到来方向の推定を行うことができる。
【0012】
本発明の無線局方向推定・電波発射装置は、所望の電波を受信する指向性アンテナと、前記指向性アンテナの出力から前記所望の電波の周波数を探知する周波数探知手段と、前記周波数探知手段の出力結果から受信した電波の複数の電波到来方向を推定する電波到来方向推定手段と、3次元の地図データを用いて、前記推定された複数の電波到来波に基づき、レイトレース法によって前記電波を発信している無線局の位置を推定する位置推定手段と、を有する無線局方向推定部と、前記位置推定手段により推定された前記無線局の位置に基づいて、送信電波の指向性を演算する送信ビーム形成手段と、前記演算された指向性に基づいて送信電波を発射する送信電波発射手段とを有する電波発射部と、を備える。
【0013】
この構成により、指向性アンテナを用いて電波到来方向を推定し、3次元地図データを用いたレイトレース法を用いて無線局の位置を推定するので、高精度な無線局の位置推定が可能となると共に、推定された位置に対して電波を送信できるので、所望の無線局へのスポット送信が可能となる。
【0014】
また、本発明の無線局方向推定・電波発射装置では、前記無線局方向推定部において、前記位置推定手段は、前記受信した信号のドップラ周波数を測定するドップラ周波数測定手段を有し、前記測定されたドップラ周波数に基づいて前記無線局の移動位置を推定するものであり、前記電波発射部の前記送信ビーム形成手段は、前記推定された無線局の移動位置に基づいて、前記無線局の移動に追従するように前記送信電波の指向性を制御する。
【0015】
この構成により、対象となる無線局の移動速度や移動方向等の情報が取得可能となり、その情報に合わせて無線局の位置を推定することができる。また、その結果を用いて予測して送信ビームフォーミングを行うことで、あらかじめ移動する位置へ送信電波の指向性を制御させることができる。
【0016】
また、本発明の無線局方向推定・電波発射装置において、前記無線局方向推定部の前記指向性アンテナ、前記周波数探知手段、及び前記電波到来方向推定手段を含む受信系と、前記位置推定手段とが第一の通信回線で接続され、前記第一の通信回線を制御する第一の通信回線制御手段と、前記電波発射部を含む送信系と、前記位置推定手段とが第二の通信回線で接続され、前記第二の通信回線を制御する第二の通信回線制御手段と、を更に備える。
【0017】
この構成により、受信系と送信系とを別々の場所に設置し、これらの遠隔制御を行うことができる。
【0018】
また、本発明の無線局方向推定・電波発射装置において、複数の前記受信系と、複数の前記送信系とを更に備え、前記位置推定手段は、前記第一の通信回線制御手段を介して前記複数の受信系からの情報を受信し、前記第二の通信回路制御手段を介して前記複数の前記送信系に情報を送信する。
【0019】
この構成により、複数の受信系及び複数の送信系を別々の場所に設置し、これらを遠隔制御することができるので、広範囲かつ迅速な無線局方向推定及び電波発射を行うことができる。
【0020】
本発明の無線局方向推定方法は、指向性アンテナを用いて所望の電波を受信するステップと、前記指向性アンテナの出力から前記所望の電波の周波数を探知するステップと、前記探知した周波数から受信した電波の複数の電波到来方向を推定するステップと、3次元の地図データを用いて、前記推定された複数の電波到来波に基づき、レイトレース法によって前記電波を発信している無線局の位置を推定するステップと、を有する。
【0021】
この方法により、指向性アンテナを用いて電波到来方向を推定すると共に、3次元地図データを用いたレイトレース法を用いて無線局の位置を推定するので、高精度な無線局の位置推定を行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高精度な無線局の位置推定が可能な無線局方向推定装置及び無線局方向推定・電波発射装置、並びに無線局方向推定方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る無線局位置推定装置の概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、第1の実施形態の無線局位置推定装置は、指向性アンテナの一例であるアレーアンテナ1と、周波数探知手段2と、電波到来方向推定手段3と、3次元地図データを有する標高・地図データベース4と、レイトレース法無線局位置推定手段5とを備えている。
【0024】
まず、アレーアンテナ1、周波数探知手段2及び電波到来方向推定手段3を有する受信系の動作を説明する。図2は本発明の第1の実施形態の受信系の動作説明図である。
【0025】
アレーアンテナ1は、複数の無指向性アンテナ素子を有して構成されており、1つずつのアンテナにおける利得・指向性は同一特性である。ある1つの電波をアレーアンテナ1で受信するとアンテナ素子ごとに受信電力が誘起されるが、その際に電波発射源から各アンテナ素子までの航路差は異なることから振幅、位相、遅延時間が異なって受信される。周波数探知手段2は、受信した電波の周波数を掃引して、所望の電波の発見を行なう。
【0026】
電波到来方向推定手段3は、周波数探知手段2の出力に基づいて、電波到来方向の推定演算を行う。図2に示すように、周波数探知手段2の出力をA/D変換してディジタルデータを取り込み(ステップS301)、それぞれ振幅、位相、遅延時間を求め(ステップS302)、各アンテナ素子間の相関を計算し(ステップS303)、固有値分解(ステップS304)、S/N分離(ステップS305)、スペクトル演算(ステップS306)を行った後、ピーク検出(ステップS307)し、到来方向推定演算(ステップS308)を行い、電波の到来方向の推定を行う。
【0027】
電波到来方向推定の演算方法として有名なものにMUSIC(Multiple Signal Classification)法やCapon法が挙げられる。上述の動作により到来方向の推定が可能となる。なお、MUSIC法を用いた電波到来方向推定では、例えば900MHz帯において6〜8素子数のアレーアンテナにて推定精度1〜2度を得ることができる。
【0028】
また、アレーアンテナは各アンテナ素子を一列に並べる直線アレー方式と、各アンテナ素子を円周上に等間隔で並べる円形アレー方式とがある。
【0029】
直線アレー方式は、各アンテナの素子間結合は隣接アンテナだけを考えればよく、素子間相関は良好である。素子を並べた面がアンテナ開口面となるので、開口面に対して電波が到来するとき、推定精度が向上する一方、素子を並べた方向上に電波が到来すると開口面が狭くなるので、推定精度が劣化する。そのため、直線アレー方式は道路等に平行して設置するのが良い。
【0030】
一方、円形アレー方式は、各アンテナの素子間結合が直線アレー方式に比べて強くなり、各アンテナ素子間の相関は直線アレー方式に比べ劣化するが、アンテナ開口面が360度全方向に向いている。そのため、円形アレー方式はビル等の高層建築物の屋上に設置して平面上の全方向における電波到来を行うのに適している。
【0031】
このようにして、受信系によって得られた到来方向推定結果は、標高・地図データベース4から3次元地図データと共に、レイトレース法無線局位置推定手段5に入力される。
【0032】
図3は、レイトレース手法による無線位置推定方法の原理を示す図である。レイトレース手法は、電波を幾何光学として電波を光線(レイ)と見立てる。フェルマーの原理によって、屈折率が一定で同質の媒体上では伝搬路は通過時間が極小となるような経路をとる。したがって、図3(a)に示すように、レイは直進し自由空間減衰、障害物による反射、壁や窓を減衰しながら透過して進む。また、図3(b)に示すように、建物の角ではレイが回折や散乱を経て受信点に到達する。
【0033】
反射や透過による減衰は入射角、分極、障害物の材質や厚みに依存し、計算することができる。回折端では新たな波源として、レイを発射するよう置き換えることができる。これらのことから、伝搬路に存在する障害物の数が有限であれば、伝搬路は限られた数のレイで表現することができる。このように、幾何光学を基に、受信点に到達したレイの数とその強度から受信電界、遅延、パス経路を導き出す手法をレイトレーシング法と呼ばれている。
【0034】
次に、本実施形態の無線位置推定方法について説明する。図4は、本発明の第1の実施形態のレイトレース手法による無線局位置推定方法の動作説明図である。
【0035】
図4に示すように、標高・地図データベース4には、二種類のデータを格納されている。一方は標高データベースであり、例えば国土地理院が発行する標高データ等の海抜高を格納したもので、地表面の凹凸による電波発射源・受信系の高度と伝搬路の大地面や建物標高を反映させるために利用する。
【0036】
他方、地図データベースは河川や山岳等の自然環境、国道や県道等の道路、公共施設や高層ビル、一般家屋等の建物データを格納したもので、レイトレース法に必要となる正確な3次元としての地図環境情報を用いるために利用する。
【0037】
この標高・地図データベース4の出力結果と、電波到来方向推定手段3の出力結果をレイトレース法無線局位置推定手段5に入力する。これにより、受信点においてアレーアンテナで受信した各到来波の振幅・位相を、標高・地図データベースで伝搬環境情報を用いてレイの伝搬路を逆算することで、対象となる無線局の位置が推定することができる。
【0038】
図5は、本発明の第1の実施形態に係る無線局位置推定装置による位置推定動作を説明する概念図である。この図では、ある地域内に存在する対象無線局を発見する様子を示している。
【0039】
まず、アレーアンテナ1は、無線局を監視する対象となる地域に設置する。なお、アレーアンテナ1は直線型の場合開口面が直線配置と直交する関係にあるので、対象地域に対して開口面が向くように設置する。
【0040】
周波数探知手段2は、対象無線局の送信電波を見つけ出し、電波到来方向手段で各到来波の方向、振幅、位相を算出する。一方、標高・地図データベース4では海抜高も含めた3次元地図環境を生成する。
【0041】
アレーアンテナ1で受信した情報と、3次元地図データは、レイトレース法無線局位置推定手段5に入力される。レイトレース法無線局位置推定手段5は、電波の反射・屈折・回折・散乱を基にしたレイトレースシミュレーションを行うことで電波伝搬解析を行う。この結果と各到来波の方向、振幅、位相を合わせて評価することでより正確な対象無線局の位置を推定することができる。特に無線局の位置を3次元的に推定することができる。
【0042】
このような本発明の第1の実施形態の無線局位置推定装置によれば、アレーアンテナで検出された電波到来方向推定情報と、レイトレース手法による高精度伝搬解析を組み合わせ、電波の発射源の位置を高い精度で推定することができる。すなわち、指向性アンテナを用いて電波到来方向を推定すると共に、3次元地図データを用いたレイトレース法を用いて無線局の位置を推定するので、高精度な無線局の位置推定を行うことができる。
【0043】
(第2の実施形態)
図6は、本発明の第2の実施形態に係る無線局位置推定・電波発射装置の概略構成を示すブロック図である。同図において、第1の実施形態で説明した図1と重複する部分には同一の符号を付す。
【0044】
図6に示すように、本実施形態の無線局位置推定・電波発射装置は、図1に示される無線局位置推定装置の構成に加え、送信ビームフォーミング6と、送信電波発射手段7と、送信アレーアンテナ8とを有する送信系を有する。
【0045】
送信ビームフォーミング6は、レイトレース法無線局位置推定手段5から得られた電波到来位置推定結果に基づいて送信電波の指向性を演算し、その指向性を有する電波を送信アレーアンテナ8で送信する。この動作は、図2で示した電波到来方向推定手段3の演算処理と同様に、無指向性の各アンテナ素子で構成されている送信アレーアンテナ8に対し、位相・振幅・遅延時間等の重み付けを各アンテナ素子に対して行う。この結果、八木アンテナに見られるような指向性空中線を用いなくても指向性制御を行うことが可能となる。
【0046】
送信電波発射手段7は、送信ビームフォーミング6で電子的に形成された指向性に基づいて送信信号を送信アレーアンテナ8から所望の目的方向に送信を行う。
【0047】
なお、受信アレーアンテナ1及び送信アレーアンテナ8は別々に構成してもよいし、アンテナを共用して1つのアレーアンテナから送信及び受信を行ってもよい。
【0048】
更に、無線通信は通常対向局との通信であり、同時に2局以上の電波が発射されることがある。ここで、アレーアンテナ技術では受信アレーアンテナ1の素子数から1引いた値まで同時に受信した無線局到来方向を推定することが可能である。例えば8素子の受信アレーアンテナの場合、8から1引いた7波まで同時に到来方向推定を行うことが可能である。複数波の受信結果をもとにして、複数波の送信ビームフォーミングを行って送信することも可能である。
【0049】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る無線局位置推定・電波発射装置の概略構成を示すブロック図である。なお、対象無線局が不法無線局である場合について説明する。
【0050】
第1の実施形態と同様にして対象無線局である不法無線局の位置を推定すると、その不法無線局に対して通信を止めるように警告電波(規正電波)を出す。その際、推定を行なった結果を用いて送信ビームフォーミング6で不法無線局へ指向性を向けるよう、送信アレーアンテナ8の各アンテナ素子の位相・振幅・遅延時間を演算する。送信電波発射手段7は送信すべき規正電波を、送信ビームフォーミング6により演算された指向性に基づき、送信アレーアンテナ8から、推定された位置へ向かって規正電波を送出する。
【0051】
この図では受信系と送信系は別個の場所に設置した場合を示しているが、受信系及び送信系は同一場所に設置しても良い。特に受信アレーアンテナ1及び送信アレーアンテナ6は共用することも可能である。
【0052】
このような本発明の第2の実施形態の無線局位置推定・電波発射装置によれば、指向性アンテナを用いて電波到来方向を推定し、3次元地図データを用いたレイトレース法を用いて無線局の位置を推定するので、高精度な無線局の位置推定が可能となると共に、推定された位置に対して電波を送信できるので、所望の無線局へのスポット送信が可能となる。
【0053】
(第3の実施形態)
図8は、本発明の第3の実施形態に係る無線局位置推定・電波発射装置の概略構成を示すブロック図である。同図において、第1〜2の実施形態で説明した図と重複する部分には同一の符号を付す。
【0054】
図8に示すように、本実施形態の無線局位置推定・電波発射装置は、第1及び第2の実施形態で説明した構成に加え、電波到来方向推定手段3で得られた結果に基づいてドップラ周波数計算を行うドップラ周波数計算手段9を備えている。
【0055】
ドップラ周波数計算手段は、電波到来方向推定手段3から入力された各到来波の方向・振幅・位相情報に基づいて計算することで、対象となる無線局の移動方向及び移動速度を求める。レイトレース法無線局位置推定手段5は、この計算結果に基づいて、対象無線局の移動先を推定する。
【0056】
対象の無線局が例えば車両に設置されたものであれば、移動している場合おおよその無線局は道路上を移動するので、移動方向を地図データベースの道路データとパターンマッチングすることができる。結果としてより精度の高い位置推定が可能となる。
【0057】
更に、位置推定及び移動予測結果を送信ビームフォーミングに適用することで対象無線局の現在いる場所及び予測して移動する予定の場所に対する送信ができる。
【0058】
図9は、本発明の第3の実施形態に係る無線局位置推定・電波発射装置による位置推定動作を説明する概念図である。例えば、図9に示されるように、無線局が送信アンテナAを備えた無線設備積載車両Cのように、位置を推定する対象となる無線局が移動体の場合、各到来波はドップラ効果により周波数の変動が生じている。各到来波における周波数変動をドップラ周波数計算手段9にて算出し、対象となる無線局の移動速度及び加速度を得る。
【0059】
この情報をレイトレース法無線局位置推定手段5の演算に反映させることで、移動する無線局の位置推定を行う。更に車両等による移動体通信の特性として、ほとんどの無線局は道路上を移動するので、標高・地図データベース4から提供される地図環境情報のうち道路情報にパターンマッチングを行うことで無線局位置の推定精度を更に高めることができる。
【0060】
レイトレース法無線局位置推定手段にて対象無線局の位置推定結果を送信側に反映し、送信ビームフォーミングを行って送信アレーアンテナから電波を出力することで、対象無線局の予測される移動先へ予め送信又は追従しながら通信を行うことができる。
【0061】
このような本発明の第3の実施形態によれば、対象となる無線局の移動速度や移動方向等の情報が取得可能となり、その情報に合わせて無線局の位置を推定することができる。また、その結果を用いて予測して送信ビームフォーミングを行うことで、あらかじめ移動する位置へ送信電波の指向性を制御させることができる。
【0062】
(第4の実施形態)
図10は、本発明の第4の実施形態に係る無線局位置推定・電波発射装置の概略構成を示すブロック図である。同図において、第1〜3の実施形態で説明した図と重複する部分には同一の符号を付す。
【0063】
図10に示すように、本実施形態の無線局位置推定・電波発射装置は、第1〜第3の実施形態で説明した構成に加え、第1の回線制御手段10と、第2の回線制御手段21とを有している。
【0064】
第1の回路制御手段10及び第2の回路制御手段は、受信アレーアンテナ1、周波数探知手段2、及び電波到来方向推定手段3を有して構成される受信系と、送信ビームフォーミング6、送信電波発射手段7、及び送信アレーアンテナ8を有して構成される送信系を分離して設置することが可能にするものである。
【0065】
第1の回路制御手段10は、受信系の出力結果を電話等の回線制御を行い遠隔場所にて管理制御し、第2の回路制御手段11は、レイトレース法無線局位置推定手段5の出力結果を電話等の回線制御に伝送する。遠隔制御機能を有することで、受信系手段と送信系手段を同一場所又は別々の場所に設置し、遠隔制御できるという作用を有する。
【0066】
図11は、本発明の第4の実施形態に係る無線局位置推定・電波発射装置による位置推定動作を説明する概念図である。図11に示されるように、受信系と、送信系とは分離して設置される。第1の回線制御手段10は、受信系の出力結果を電話等の回線制御を行い遠隔場所にて管理制御する。レイトレース法無線局位置推定手段5の出力結果は電話等の回線に伝送され、第2の回線制御手段11は、送信系に結果を伝送する。
【0067】
このようにして、第1の回線制御手段10及び第2の回線制御手段11を設けることにより、送信系及び受信系を別々の場所に置くことが可能となる。また、第1の回線制御手段、レイトレース法無線局位置推定手段5、又は回線制御手段11のいずれかが遠隔制御手段としての機能を備えれば、受信系と送信系を山頂やビル屋上等に設置して、事務所等の遠隔地から電波の情報を収集や規正電波を発射することができる作用を有する。不法無線局は出現場所及び出現時間が乱数的であるので、遠隔制御できるシステムは不確定な不法無線局発見のための電波監視人員を削減できる利点がある。
【0068】
このような本発明の第4の実施形態によれば、受信系と送信系とを別々の場所に設置し、これらの遠隔制御を行うことができる。
【0069】
(第5の実施形態)
図12は、本発明の第5の実施形態に係る無線局位置推定・電波発射装置の概略構成を示すブロック図である。同図において、第1〜4の実施形態で説明した図と重複する部分には同一の符号を付す。
【0070】
図12に示すように、本実施形態の無線局位置推定・電波発射装置は、受信系を2つ以上、送信系を2つ以上備える。なお、図12では、アレーアンテナ1、周波数探知手段2及び電波到来方向推定手段3を有する受信系と、アレーアンテナ12、周波数探知手段13及び電波到来方向推定手段14を有する受信系との2つの受信系を有する場合が示されている。また、送信ビームフォーミング6、送信電波発射手段7、及び送信アレーアンテナ8を有する送信系と、送信ビームフォーミング15、送信電波発射手段16、及び送信アレーアンテナ17を有する送信系との2つの送信系を有する場合が示されている。
【0071】
第1の回線制御手段10は、前記受信系の出力結果を電話等の回線制御を行い遠隔場所にて管理制御し、第2の回線制御手段11は、前記レイトレース法無線局位置推定手段5の出力結果を電話等の回線制御に伝送するものである。
【0072】
複数箇所に設置した電波到来方向推定を行う受信系にて目的の電波を発見したら、発見した電波方向推定情報を関係者や遠隔地等に自動連絡し、更に複数ある送信系の1つ又は複数箇所から送信を行うことで目的の電波発見後の処理を迅速に行う作用を有する。
【0073】
図13は、本発明の第5の実施形態に係る無線局位置推定・電波発射装置による位置推定動作を説明する概念図である。図13に示すように、複数箇所に設置した電波到来方向推定を行う受信系にて目的の電波を発見したら、発見した電波方向推定情報を関係者や遠隔地等に自動連絡し、更に複数ある送信系の1つ又は複数箇所から送信を行うことで目的の電波発見後の処理を迅速に行うことができる。先にも述べたとおり、不法無線局は出現場所及び出現時間が乱数的であるので、複数箇所を一斉に遠隔制御できるシステムは不確定な不法無線局発見のための電波監視人員を削減できる利点がある。
【0074】
このような本発明の第5の実施形態によれば、複数の受信系及び複数の送信系を別々の場所に設置し、これらを遠隔制御することができるので、広範囲かつ迅速な無線局方向推定及び電波発射を行うことができる
【0075】
以上説明した、本発明の第1ないし第5の実施形態の無線局位置推定装置又は無線局位置推定・電波発射装置は、例えば、不法無線局への対策のほか、ETCシステムや、RFタグリーダ/ライタを用いた近距離無線システム、無線LAN等の近距離無線ネットワーク等の合法無線局への対策にも適用することが可能である。すなわち、不法無線局への電波監視運用や電波規正運用、合法局の電波監視や電波干渉を抑えて環境を整理する等に好適である。
【0076】
例えば、ETCでは無線局が車線ごとに設けられるなど、ETCや無線LANでは、無線局が比較的接近して設けられる場合があるため、複数の無線局から出力された電波が互いに干渉しやすい環境にある。したがって、本発明の実施形態の無線局位置推定装置/無線局位置推定・電波発射装置を用いることにより、受信アンテナが設置された場所にどの無線局からの電波が送信されているかが明確となるので、その情報を用いて無線局の送信電力や送信方向を制御することにより、より好ましい通信環境を得ることができる。また、本発明の実施形態の無線局位置推定・電波発射装置の送信系では、所望の無線局へのスポット送信が可能であるので、その無線局用の制御情報を送信することが可能となる。
【0077】
また、RFタグリーダ/ライタを用いた近距離無線システムでは、使用者がリーダ/ライタを携帯して移動する場合が多い。したがって、本発明の実施形態の無線局位置推定装置/無線局位置推定・電波発射装置を用いてリーダ/ライタからの電波を監視し、検出されたリーダ/ライタに対して、警告や、送信電力・送信方向の制御等を行うことにより、移動するリーダ/ライタによる周囲への影響を抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の無線局方向推定装置及び無線局方向推定・電波発射装置、並びに無線局方向推定方法は、高精度な無線局の位置推定が可能な効果を有し、不法無線局の取締りや、合法無線局の監視等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る無線局位置推定装置の概略構成を示すブロック図
【図2】本発明の第1の実施形態の受信系の動作説明図
【図3】レイトレース手法による無線位置推定方法の原理を示す図
【図4】本発明の第1の実施形態のレイトレース手法による無線局位置推定方法の動作説明図
【図5】本発明の第1の実施形態に係る無線局位置推定装置による位置推定動作を説明する概念図
【図6】本発明の第2の実施形態に係る無線局位置推定・電波発射装置の概略構成を示すブロック図
【図7】本発明の第2の実施形態に係る無線局位置推定・電波発射装置による位置推定動作を説明する概念図
【図8】本発明の第3の実施形態に係る無線局位置推定・電波発射装置の概略構成を示すブロック図
【図9】本発明の第3の実施形態に係る無線局位置推定・電波発射装置による位置推定動作を説明する概念図
【図10】本発明の第4の実施形態に係る無線局位置推定・電波発射装置の概略構成を示すブロック図
【図11】本発明の第4の実施形態に係る無線局位置推定・電波発射装置による位置推定動作を説明する概念図
【図12】本発明の第5の実施形態に係る無線局位置推定・電波発射装置の概略構成を示すブロック図
【図13】本発明の第5の実施形態に係る無線局位置推定・電波発射装置による位置推定動作を説明する概念図
【符号の説明】
【0080】
1、12 受信アレーアンテナ
2、13 周波数探知手段
3、14 電波到来方向推定手段
4 標高・地図データベース
5 レイトレース法無線局位置推定手段
6、15 送信ビームフォーミング
7、16 送信電波発射手段
8、17 送信アレーアンテナ
9 ドップラ周波数計算手段
10 第1の回線制御手段
11 第2の回線制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の電波を受信する指向性アンテナと、
前記指向性アンテナの出力から前記所望の電波の周波数を探知する周波数探知手段と、
前記周波数探知手段の出力結果から、複数の電波到来波の方向を推定する電波到来方向推定手段と、
3次元の地図データを用いて、前記受信した到来波及び推定された電波到来波方向に基づき、レイトレース法によって前記電波を発信している無線局の位置を推定する位置推定手段と、
を備える無線局方向推定装置。
【請求項2】
請求項1記載の無線局方向推定装置であって、
前記指向性アンテナはアレーアンテナである無線局方向推定装置。
【請求項3】
所望の電波を受信する指向性アンテナと、前記指向性アンテナの出力から前記所望の電波の周波数を探知する周波数探知手段と、前記周波数探知手段の出力結果から受信した電波の複数の電波到来方向を推定する電波到来方向推定手段と、3次元の地図データを用いて、前記推定された複数の電波到来波に基づき、レイトレース法によって前記電波を発信している無線局の位置を推定する位置推定手段と、を有する無線局方向推定部と、
前記位置推定手段により推定された前記無線局の位置に基づいて、送信電波の指向性を演算する送信ビーム形成手段と、前記演算された指向性に基づいて送信電波を発射する送信電波発射手段とを有する電波発射部と、
を備える無線局方向推定・電波発射装置。
【請求項4】
請求項3記載の無線局方向推定・電波発射装置であって、
前記無線局方向推定部において、前記位置推定手段は、前記受信した信号のドップラ周波数を測定するドップラ周波数測定手段を有し、前記測定されたドップラ周波数に基づいて前記無線局の移動位置を推定するものであり、
前記電波発射部の前記送信ビーム形成手段は、前記推定された無線局の移動位置に基づいて、前記無線局の移動に追従するように前記送信電波の指向性を制御する無線局方向推定・電波発射装置。
【請求項5】
請求項3又は4記載の無線局方向推定・電波発射装置であって、
前記無線局方向推定部の前記指向性アンテナ、前記周波数探知手段、及び前記電波到来方向推定手段を含む受信系と、前記位置推定手段とが第一の通信回線で接続され、前記第一の通信回線を制御する第一の通信回線制御手段と、
前記電波発射部を含む送信系と、前記位置推定手段とが第二の通信回線で接続され、前記第二の通信回線を制御する第二の通信回線制御手段と、
を更に備える無線局方向推定・電波発射装置。
【請求項6】
請求項5記載の無線局方向推定・電波発射装置であって、
複数の前記受信系と、複数の前記送信系とを更に備え、前記位置推定手段は、前記第一の通信回線制御手段を介して前記複数の受信系からの情報を受信し、前記第二の通信回路制御手段を介して前記複数の前記送信系に情報を送信する無線局方向推定・電波発射装置。
【請求項7】
指向性アンテナを用いて所望の電波を受信するステップと、
前記指向性アンテナの出力から前記所望の電波の周波数を探知するステップと、
前記探知した周波数から受信した電波の複数の電波到来方向を推定するステップと、
3次元の地図データを用いて、前記推定された複数の電波到来波に基づき、レイトレース法によって前記電波を発信している無線局の位置を推定するステップと、
を有する無線局方向推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−170698(P2006−170698A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361252(P2004−361252)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】