説明

無線式踏切警報システム

【課題】駅に近い踏切制御装置が単独で駅における列車進路を把握できるようにする。
【解決手段】車上装置51は、列車10の列車位置や列車長を無線で無線式踏切警報制御装置52へ送信し、無線式踏切警報制御装置52は、無線で列車情報を受信して、それに含まれた列車位置に基づいて踏切12への列車の接近及び通過を判定して踏切警報機23の警報出力を制御するとともに、イ駅13における本線側踏切警報始動点位置ADC(14)と側線側踏切警報始動点位置ADC(15)との使い分けに必要な列車進路情報を無線式駅制御装置59の無線通信から取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道の踏切に設置された踏切警報機の警報出力を制御する踏切警報システムに関し、詳しくは、車上装置から踏切警報制御装置へ列車情報を無線で通知する無線式踏切警報システムに関し、更に詳しくは、駅構内に近接して設けられた踏切に係る無線式踏切警報システムに関する。
【背景技術】
【0002】
最も一般的な踏切警報装置20は有線式のものであり(例えば非特許文献1参照)、その概要構成を模式図で示した図2(a)は、本願発明の踏切警報システムとの対比説明に役立つ部分を描いたものである。簡明化のため、単線の例を図示した。
鉄道の軌道11を横切る踏切12(踏切道)には踏切警報機23が設置され、踏切12から少し離れたところには、踏切12へ進行する列車10を検知する踏切制御子21(列車検知装置)が付設され、それらの間には、踏切制御子21から列車在線情報Q(軌道11のうち検出対象箇所や検出対象区間になっている所に列車が進入しているか否かを示す情報)を入力して列車10の踏切12への接近及び通過に応じて踏切警報機23の警報灯や警報音発生器の警報出力を制御する踏切警報制御装置22が設けられている。なお、踏切警報機23は一対のものが踏切道の両端に分かれて設置される。
【0003】
これらの踏切制御子21と踏切警報制御装置22と踏切警報機23とが信号ケーブルで接続されて最小構成の踏切警報装置20ができあがるが、踏切12にしゃ断桿を昇降させる遮断機が設置されていれば、踏切警報制御装置22は、警報出力に加えてしゃ断桿の昇降制御も行う踏切制御装置に拡張される。即ち、しゃ断桿の昇降制御を行う踏切制御装置も、踏切警報の出力制御を行えば、踏切警報制御装置に該当する。なお、軌道11において、列車10の踏切接近時に警報を開始すべき位置は踏切警報始動点位置ADCと呼ばれ、列車10の踏切通過直後に警報を停止すべき位置は踏切警報終止点位置BDCと呼ばれ、その後に監視状態を初期化すべき位置は踏切警報リセット点位置CDCと呼ばれる。
【0004】
以上は踏切12が駅から離れている場合に関するものであるが、監視対象の踏切が駅に近接して設けられている場合もある。この場合、駅近傍の踏切は先行列車の側線待避と後続列車の本線通過、側線折返し列車などの警報制御条件を駅の連動装置から踏切装置へ信号ケーブルを介して伝送していた。踏切の制御装置はこの条件に対応して警報を開始していた。警報終了は終止点の踏切制御子(無絶縁の短小軌道回路)の「列車なし」の条件で行っている。図面を引用しながら具体例で説明する。図2(b)は、イ駅13に近い踏切12に係る従来の有線式踏切警報制御装置25の模式図である。
【0005】
軌道11に踏切12とイ駅13とが近接して設置されており、しかもイ駅13における列車10の進路が本線14の方なのか側線15の方なのかによって踏切12の踏切警報始動点位置ADCが分かれるほど両者12,13が近接している場合、従来は、有線式踏切警報制御装置25が導入設置される。有線式踏切警報制御装置25は、イ駅13に設置された連動装置26と踏切12の踏切警報制御装置22とが協動するように、上述の踏切警報装置20が機能拡張されたものであり、連動装置26と踏切警報制御装置22とがケーブル接続されて、イ駅13の連動装置26から踏切警報制御装置22へ進路条件や転てつ機の開通条件が伝送されるようになっている。踏切警報制御装置22は列車在線情報Qに加えて連動装置26からの進路条件等も考慮して踏切警報制御を行うようになっている。
【0006】
詳述すると、先ず踏切警報始動点位置ADCが本線側踏切警報始動点位置ADC(14)と側線側踏切警報始動点位置ADC(16)とに分けられて、列車進路がイ駅13で本線14になっているときには本線側踏切警報始動点位置ADC(14)が踏切警報制御に使用され、列車進路がイ駅13で側線15になっているときには側線側踏切警報始動点位置ADC(16)が踏切警報制御に使用される。本線側踏切警報始動点位置ADC(14)は、イ駅13の内方の踏切12とはイ駅13を挟んで反対側になるイ駅13の手前に、すなわち軌道11が本線14と側線15とに分岐する手前の所に、設定される。これに対し、側線側踏切警報始動点位置ADC(16)は、イ駅13の側線15に対して設置されている列車検知用の軌道回路24の特性上、側線15における列車検知用の軌道回路の区間の区切り点である軌道回路区間始点16に設定される。
【0007】
このような有線式踏切警報制御装置25では、連動装置26からの列車進路などの条件と本線側踏切警報始動点位置ADC(14)または側線側踏切警報始動点位置ADC(16)の列車在線情報Qが踏切警報制御装置22に入力されるので、近接駅13の列車進路を反映して適切な時期に踏切12の踏切警報機23が警報出力を開始する。なお、イ駅13や他の駅から離れている踏切警報終止点位置BDCや踏切警報リセット点位置CDCは踏切12がイ駅13や他の駅から離れているとき(図2(a)参照)と同じなので、列車10が踏切警報終止点位置BDCを通過すると警報が停止され、列車10が踏切警報リセット点位置CDCを通過すると、監視状態が初期化される。
【0008】
一方、無線を導入した踏切警報装置や(例えば特許文献1参照)、無線と有線とを併用した踏切制御システムも(例えば非特許文献2参照)、知られている。
これらの無線列車制御システムでは、無線機を列車と地上設備に設置し、地上装置に設置された無線機と伝送が可能となる範囲まで列車の無線機が接近すると、所定の伝送手順に従い通信回線を確立し、情報伝送を開始する。また、地上の踏切制御装置は列車からの無線情報を受信し、踏切警報の開始/終了の制御を行う。さらに、踏切制御装置は列車から「位置や速度」情報を無線受信することで、踏切制御子や関連ケーブルなしで当該踏切の警報開始/終了制御ができる。
【0009】
なお、無線障害などで適正な情報が送受信できない場合、踏切道の手前に列車を停止させる手段を常時用意しておき、踏切が正規に警報遮断していることを確認のうえ、踏切道の手前に列車を停止させる手段を解除することで踏切通行者の安全を担保している。
具体的な一例を述べると、車上装置は車載のデータベースなどから前方の踏切道の位置を認識しており、踏切手前に列車を停止させる速度照査パターンを車上装置内に発生している。無線障害などで、踏切制御装置からの車上速度照査パターンを消去する指示情報を車上装置が受信できない場合、列車の運転士は速度照査パターンにしたがって減速し、踏切道の手前に停止する。
無線障害がなく適正な情報が送受信できる場合、踏切は正規に警報遮断しており、車上装置も適時に車上速度照査パターンを消去する指示情報を受信でき、列車運転士は正規の運転を継続できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−20702号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】鉄道技術者のための電気概論 信号シリーズ8 「踏切保安装置」 社団法人 日本鉄道電気技術協会 平成9年10月30日 4版発行
【非特許文献2】竹内浩一著『無線による列車制御システム(ATACS)』、 社団法人 日本鉄道電気技術協会 平成18年4月発行 「鉄道と電気技術」 第17巻 第4号 24−27頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、無線を導入した踏切警報システムでは(図2(b)参照)、踏切制御子や関連ケーブルなしで当該踏切の警報開始/終了制御ができるようになっている。
しかしながら、そのような従来の無線式踏切警報システムでは、踏切と駅とが近接して設置されている場合、踏切への警報制御条件を連動装置が構成するため、連動装置の論理が複雑になり、連動装置を標準化できない状態である。
また、無警報は安全を損なうため、連動装置から踏切への条件をリレーで構成することは大変な作業であり、入出力リレー架を機器室内に設備する必要がある。
さらに、連動装置を設置している駅の機器室と踏切制御装置の間のケーブル敷設に費用を要する、といった問題がある。
【0013】
踏切制御装置単独では、接近している列車に対する駅の進路がわからないためどの警報開始点から警報すべきか、関連する出発信号機が現示がわからないため警報しなくてもよいのかの判断ができないために上記の問題が発生する。
そこで、踏切警報システムの無線化に際して、駅に近い踏切に設置されている踏切制御装置が単独で駅における列車の進路を把握できるように、踏切警報システムを改良することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の無線式踏切警報システムは、このような課題を解決するために創案されたものであり、列車に搭載されて列車位置を含む列車情報を無線で送信する車上装置と、前記列車の走行する軌道の踏切に臨んで設置された踏切警報機と、地上側に設置されていて前記車上装置から無線で列車情報を受信するとともに該列車情報に含まれている列車位置に基づき前記踏切への前記列車の接近及び通過を判定して前記踏切警報機の警報出力を制御する無線式踏切警報制御装置と、前記軌道が本線と側線とに分かれているところの駅に対して設けられていて前記車上装置から無線で列車情報を受信するとともに列車進路を管理する無線式駅制御装置とを備えた無線式踏切警報システムであって、前記無線式踏切警報制御装置が、前記踏切に係る踏切警報始動点位置をデータ保持していて無線で列車位置を取得する度にその列車位置と前記踏切警報始動点位置とに基づいて前記踏切への列車接近判定と前記踏切警報機の警報出力制御とを行うが、前記踏切警報始動点位置として本線側踏切警報始動点位置と側線側踏切警報始動点位置とをデータ保持するとともに、前記無線式駅制御装置の無線通信から前記踏切の列車進路情報を取得してその列車進路に応じて前記本線側踏切警報始動点位置と前記側線側踏切警報始動点位置とから何れか一つを選出してそれを前記列車接近判定に用いるようになっている、というものである。
【発明の効果】
【0015】
このような本発明の無線式踏切警報システムにあっては、地上装置と列車の制御が無線で行われるが、踏切制御装置は、単独で、間欠的に受信する「車上からの位置情報」と「駅制御装置からの進路設定および信号機現示の情報」とから、適切な警報開始点を選定することや当該進路の出発信号機が停止現示の時は警報開始時機を一定時分遅らせる等の制御を実施することが可能となる。また、駅構内の軌道回路の区切り(絶縁挿入箇所)は列車長や運転時隔を主体に作成されているため、踏切の警報時間としては設計警報時間よりも長くなる傾向がある。無線制御の場合、警報開始点は軌道回路の物理的な区切りに左右されずに決定できる。さらに、信号機の現示も加味して警報の開始時機を制御することで設計警報時間に近づけることができる。
【0016】
すなわち、踏切制御装置単体で駅の列車進路に応じた最適な警報開始時機の制御ができる。列車進路に加えて信号機現示も無線で取得すれば更にきめ細かな制御ができる。また、通信の無線化により、連動装置と踏切とに亘るリレー出力架やケーブル等の敷設がなくなって、工事費の低減ができる。さらに、駅の連動装置から踏切制御の条件を出す必要がなくなって、連動結線の標準化ができる、といった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1について、無線式踏切警報システムの構造を示し、(a)が概要模式図、(b)が詳細ブロック図である。
【図2】(a)が単一の踏切に係る従来の踏切警報システムの模式図であり、(b)が駅に近い踏切に係る従来の踏切警報システムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
このような本発明の無線式踏切警報システムについて、これを実施するための具体的な形態を、図1に示した実施例1により説明する。
なお、その図示に際し従来と同様の構成要素には同一の符号を付して示したので、また、それについて背景技術の欄で述べたことは以下の実施例についても共通するので、重複する再度の説明は割愛し、以下、従来との相違点を中心に説明する。
【実施例1】
【0019】
本発明の無線式踏切警報制御装置および無線式踏切警報システムの実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。
【0020】
ここでも単線の場合を示しており、図1は、(a)が無線式踏切警報システム50の概要模式図、(b)がそれより詳細なブロック図である。
なお、踏切警報始動点位置ADC,踏切警報終止点位置BDCは、何れも車上データベースや地上データベースの位置データにて規定される仮想のものであり、列車検知用の電流が実際に流れる所ではなくなっているので、図1(a)では点線で図示している。
【0021】
また、踏切警報始動点位置ADCは、列車進路がイ駅13で本線14になっているときの本線側踏切警報始動点位置ADC(14)と、列車進路がイ駅13で側線15になっているときの側線側踏切警報始動点位置ADC(15)との総称である。既述した従来の有線式踏切警報制御装置25では連動装置26への依存により側線側踏切警報始動点位置ADC(16)が軌道回路区間始点16に固定されていたが、本発明の無線式踏切警報システム50にあっては無線式踏切警報制御装置52が本線側踏切警報始動点位置ADC(14)と同様に側線側踏切警報始動点位置ADC(15)をデータ保持して列車接近判定に用いるようになっているので、側線側踏切警報始動点位置ADC(15)は軌道回路区間始点16に限定されることなくイ駅13や列車10の状態に応じて柔軟に決められる。
【0022】
この無線式踏切警報システム50(図1参照)が既述した従来の有線式踏切警報制御装置25(図2(b)参照)と相違するのは、踏切制御子21に代えて車上装置51が導入された点と、踏切警報制御装置22に代えて無線式踏切警報制御装置52が導入された点と、連動装置26及び駅装置に代えて無線式駅制御装置59が導入された点である。
【0023】
無線式踏切警報システム50でも(図1参照)、無線式踏切警報制御装置52は踏切警報制御装置22と同じく地上側に設置されて踏切警報機23と有線接続され、無線式駅制御装置59は連動装置26と同じく地上側に設置されてイ駅13における信号機制御を行い、車上装置51は列車10に搭載される。
なお、踏切警報機23は、従来と同じで良く、踏切遮断機が並設されていても良い。踏切警報機23に踏切遮断機が並設されている場合は、無線式踏切警報制御装置52が、従来と同じく機能拡張されて、踏切制御装置になる。
【0024】
車上装置51は、フェールセーフコンピュータに無線機を接続したものからなり、搭載先の列車10の車軸の回転計から列車位置(自列車の先頭位置)を取得するプログラムと、予め設定された搭載先列車10の列車長(自列車の長さ)と各踏切や各駅に係る情報とをデータ保持している不揮発性メモリと、自列車の列車位置と列車長に列車識別番号など適宜なデータを加えて列車情報としこの列車情報を無線で送信する無線通信プログラムとを具えている。なお、踏切に係る情報としては、線区における踏切12の位置や,既述した踏切警報始動点位置ADC,踏切警報終止点位置BDCなどが、基点からの距離を示す所謂キロ程で規定されている。
【0025】
また、駅に係る情報としては、線区におけるイ駅13の位置や,イ駅13における信号機の位置,イ駅13における列車10や他の列車の進路条件,本線14から分岐した側線15の有無などが挙げられる。
さらに、車上装置51は、混信等の心配が無ければ列車情報の送信に際して宛先を特定しないで済ませるようにしても良いが、通信の信頼性を高める等のために列車情報の送信に際して宛先を特定する場合は、近接配置の両装置52,59については宛先を連ねて電文を統合するようになっている。また、そのために電文形式が複数の宛先を含められるように拡張されている。
【0026】
具体的には、イ駅13では軌道11が本線14と側線15とに分岐しており、そのようなイ駅13と踏切12とが軌道11において近接して設置されており、しかも、イ駅13における列車10の進路が本線14の方なのか側線15の方なのかによって踏切12の踏切警報始動点位置ADCが分かれるほど両者12,13が近接している場合には、そこの無線式踏切警報制御装置52や無線式駅制御装置59に宛てて列車情報の電文を車上装置51が送信するようになっている。
【0027】
無線式駅制御装置59は、既述した連動装置26と同様に本線14や側線15の軌道回路による列車検知に基づいてイ駅13の各信号機や転てつ機を制御する他、無線機を搭載していて車上装置51と無線通信するようになっているが、車上装置51から送信された電文の宛先に自装置が含まれていれば信号機等の制御に必要な列車識別番号や列車位置といった情報を取得するようになっている。また、無線式駅制御装置59は、イ駅13の各信号機や転てつ機の制御に必要な列車進路情報をデータ入力等にて予め保持しているので、受信の度に、列車進路と信号機現示の情報を無線で返信することにより、列車10がイ駅13で本線14と側線15の何れに進行するのか更にはその進行が許可されているのか否かといったことを車上装置51に通知するようになっている。
【0028】
無線式踏切警報制御装置52も、フェールセーフコンピュータに無線機を接続したものからなり、車上装置51と無線通信するために無線通信プログラムを具えているが、この無線通信プログラムも、無線式駅制御装置59と同様、車上装置51から送信された電文の宛先に自装置が含まれていれば受信して踏切警報制御に必要な列車位置や列車長といった情報を取得するようになっている。そして、無線通信可能範囲に進入した列車10の車上装置51から列車情報が送信されて来ると、その受信を試行して正常に受信できたときにはその旨の受信ACKを無線で返信するようになっている。
【0029】
また、この無線通信プログラムは、踏切警報機23の警報出力の制御に関する踏切警報開始や踏切警報停止のイベントをも無線で車上装置51へ送信するが、無線式駅制御装置59の返信とタイミングを少しずらして送信するといったことで無線式駅制御装置59との混信を避けるようになっている。さらに、無線式踏切警報制御装置52の無線通信プログラムは、無線式駅制御装置59から車上装置51への返信も受信して、その電文に含まれている列車進路や信号機現示の情報を取得するようにもなっている。なお、このような無線式踏切警報制御装置52と無線式駅制御装置59と車上装置51の無線機は、同期式通信であれ非同期通信であれ交信できれば足り、既述した踏切警報装置や踏切制御システムで使用している無線機でも良く、その廉価版でも良く、他の無線機でも良い。
【0030】
また、無線式踏切警報制御装置52は、プログラムメモリに上述の無線通信プログラムと共に踏切警報制御プログラム53がインストールされており、データ保持用の不揮発性メモリには警報対象踏切に係る踏切係属情報が設定されている。ここで、警報対象踏切は、有線接続されて制御対象になっている踏切警報機23が臨設されている踏切12を指し、その警報対象踏切に係る情報としては、既述した踏切警報始動点位置ADC,踏切警報終止点位置BDCなどが、キロ程で規定されている。しかも、踏切12に近接設置されたイ駅13において軌道11が本線14と側線15とに分岐していることに対応して、上記の踏切警報始動点位置ADCとして本線側踏切警報始動点位置ADC(14)と側線側踏切警報始動点位置ADC(15)とが規定されている。さらに、無線式踏切警報制御装置52のメモリにはイ駅13の進路情報と信号機現示といったデータも保持されている。
【0031】
踏切警報制御プログラム53は、踏切警報開始前には、無線で受信した列車情報に含まれている列車位置に基づき、列車の先頭が踏切警報始動点位置ADCに達したか否かに応じて、警報対象の踏切12への列車10の接近を判定し、列車10が踏切警報始動点位置ADCに達したことが判明したときには踏切警報機23に警報出力を開始させるようになっている。しかも、その際、列車10の列車進路がイ駅13で本線14になっているときには踏切警報始動点位置ADCに本線側踏切警報始動点位置ADC(14)を採択し、列車10の列車進路がイ駅13で側線15になっているときには踏切警報始動点位置ADCに側線側踏切警報始動点位置ADC(15)を採択するようにもなっている。
【0032】
また、踏切警報制御プログラム53は、踏切警報開始後、すなわち踏切警報機23に警報出力を開始させた後は、無線で受信した列車情報に含まれている列車位置と列車長とに基づき、列車の後尾が踏切警報終止点位置BDCを過ぎたか否かに応じて、警報対象の踏切12に係る列車10の通過を判定し、列車10が踏切警報終止点位置BDCを通過したことが判明したときには踏切警報機23に警報出力を停止させるようになっている。
【0033】
なお、踏切12とイ駅13との近接配置が無線式踏切警報制御装置52の動作に影響するのは、列車10がイ駅13の方から踏切12の方へ進行する場合であり(図1(a)参照)、列車10が踏切12の方からイ駅13の方へ逆向きに進行する場合は(図示せず)、踏切12とイ駅13との近接配置が無線式踏切警報制御装置52の動作に影響しないため、踏切警報終止点位置BDCだけでなく踏切警報始動点位置CDCも固定できるので、警報制御処理の説明を省いている。
【0034】
この実施例1の無線式踏切警報システム50システムについて、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。
図1(a)は、無線式踏切警報システム50の設置状態図である。
【0035】
列車10の走行する軌道11に踏切12とイ駅13とが近接設置されているとして(図1(a)参照)、本発明を適用することが可能な両者12,13の接近具合は、踏切12に係る踏切警報始動点位置ADCから踏切12(踏切道)までの範囲の中にイ駅13が収まっている、ということであり、この実施例ではイ駅13の在る方に踏切警報始動点位置ADCを想定しているので、本線側踏切警報始動点位置ADC(14)と踏切12との間にイ駅13が入っている。また、そこは、踏切12の近傍に設置されて踏切警報機23に有線接続された無線式踏切警報制御装置52と軌道11を走行する車上装置51との通信可能範囲に収まるとともに、イ駅13の中か近くに設置された無線式駅制御装置59と軌道11を走行する車上装置51との通信範囲にも収まっている。
【0036】
そのように地上設備が設置されているところへ、車上装置51を搭載した列車10が例えば左から右へ相対的に近いイ駅13に向かって軌道11を走行して来て、車上装置51が無線式駅制御装置59の無線通信可能範囲に入ると、無線通信により列車識別番号(自列車の識別情報)と列車位置(自列車の先頭位置)と列車長(自列車の長さ)とが車上装置51から送信されて無線式駅制御装置59に届く。すると、その度に、イ駅13における信号機現示情報と列車10の列車進路情報とが無線式駅制御装置59から車上装置51へ返信される。この返信は車上装置51と無線式踏切警報制御装置52との通信可否に拘わらず無線式踏切警報制御装置52によって無線傍受され、それに含まれている列車進路や信号機現示の情報が無線式踏切警報制御装置52に取り込まれる。
【0037】
列車10が更に走行してイ駅13に近づき、車上装置51が無線式駅制御装置59だけでなく無線式踏切警報制御装置52についても無線通信可能範囲に入ると、車上装置51から無線で送信される列車識別番号と列車位置と列車長とが無線式駅制御装置59にも無線式踏切警報制御装置52にも届く。そして、この場合も、それが受信される度に、無線式駅制御装置59による上述の返信と、無線式踏切警報制御装置52によるその無線傍受とが行われるが、この場合は更に、無線式踏切警報制御装置52によって踏切警報開始のための判定が行われて、直近に取得した列車進路に基づいて列車10が本線14に進行するのか側線15に進行するのかが判別される。
【0038】
それから、その判定結果に基づいて、列車10が本線14に進行する場合は踏切警報始動点位置ADCとして本線側踏切警報始動点位置ADC(14)が採用され、列車10が側線15に進行する場合は踏切警報始動点位置ADCとして側線側踏切警報始動点位置ADC(15)が採用される。そして、列車10が踏切警報始動点位置ADCに達したことが判明すると、無線式踏切警報制御装置52から踏切警報機23に対して警報出力の開始制御がなされ、踏切警報機23では警報灯が点滅するとともに警報音発生器から警報音が発せられる。こうして、踏切12の警報開始が適切になされる。なお、踏切警報機23に踏切遮断機が並設されている場合、しゃ断桿が降下して踏切12が閉められる。
【0039】
踏切警報の開始後も無線通信により列車識別番号と列車位置と列車長とを含む列車情報が車上装置51から送信されて無線式駅制御装置59にも無線式踏切警報制御装置52にも届く。そして、踏切警報開始後は、無線式踏切警報制御装置52で、列車情報が届く度に、踏切警報停止のための判定が行われて、列車10が踏切警報終止点位置BDCを通過したことが判明すると、無線式踏切警報制御装置52から踏切警報機23に対して警報出力の停止制御がなされ、これによって、踏切警報機23では警報灯が滅灯するとともに警報音発生器が静かになる。こうして、踏切12の警報停止が適切になされる。なお、踏切警報機23に踏切遮断機が並設されている場合は、しゃ断桿が上昇して踏切12が開けられる。
【0040】
そして、列車10が踏切警報終止点位置BDCを通過した後に、そのときの列車位置が車上装置51から無線式踏切警報制御装置52に通知されると、無線式踏切警報制御装置52は、通過した列車10の車上装置51との無線通信に基づく監視状態をリセットして、他の列車10の車上装置51が無線通信可能範囲を入って来るのを待つ。
このように、無線式踏切警報システム50にあっては、監視対象の踏切12とイ駅13とが近接設置されていても、車上装置51と地上側の無線式踏切警報制御装置52及び無線式駅制御装置59との無線通信にて、踏切警報が適切に出力される。
【0041】
また、車上装置51が受信した踏切警報開始や踏切警報停止の情報と列車位置や保持データとの整合チェックを行うことにより、列車10側の走行がより適切なものとなる。
さらに、無線式駅制御装置59が、無線通信にて車上装置51から取得した列車識別番号に基づいて列車10の列車進路を把握して返信するとともに、列車10の列車位置を無線通信にて随時把握して、更に駅構内では本線14や側線15の軌道回路での列車検知結果も利用して、イ駅13の各信号機を制御するので、イ駅13や近傍での列車運行も適切になされる。
【0042】
なお、列車10が上述したのと逆向きで踏切12の方からイ駅13の方へ進行する場合は、踏切12に対して踏切警報始動点位置CDCと踏切警報終止点位置BDCの位置関係になるので、この場合は、踏切12とイ駅13との近接配置が無線式踏切警報制御装置52の動作に影響せず、踏切警報始動点位置CDCが軌道11上の所定位置に固定されるので、その分だけ処理内容が簡素になる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の無線式踏切警報制御装置および無線式踏切警報システムは、上記実施例で示した単線の場合に適用が限られる訳でなく、複線化されたところの踏切や複数路線の並走するところの踏切にも適用することができる。
また、無線障害などで適正な情報が送受信できない場合、踏切道の手前に列車を停止させる手段たとえば既述の車上速度照査パターンを常時用意しておき、踏切が正規に警報遮断していることを確認のうえ、踏切道の手前に列車を停止させる手段を解除する、という踏切通行者の安全担保手法と併用することも可能である。
【符号の説明】
【0044】
10…列車、11…軌道、12…踏切、
13…イ駅、14…本線、15…側線、16…軌道回路区間始点、
20…踏切警報装置(踏切警報システム)、
21…踏切制御子(列車検知装置)、22…踏切警報制御装置、23…踏切警報機、
24…軌道回路、25…有線式踏切警報制御装置、26…連動装置(駅制御装置)、
50…無線式踏切警報システム、
51…車上装置、52…無線式踏切警報制御装置、
53…踏切警報制御プログラム、59…駅制御装置(連動装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車に搭載されて列車位置を含む列車情報を無線で送信する車上装置と、前記列車の走行する軌道の踏切に臨んで設置された踏切警報機と、地上側に設置されていて前記車上装置から無線で列車情報を受信するとともに該列車情報に含まれている列車位置に基づき前記踏切への前記列車の接近及び通過を判定して前記踏切警報機の警報出力を制御する無線式踏切警報制御装置と、前記軌道が本線と側線とに分かれているところの駅に対して設けられていて前記車上装置から無線で列車情報を受信するとともに列車進路を管理する無線式駅制御装置とを備えた無線式踏切警報システムであって、前記無線式踏切警報制御装置が、前記踏切に係る踏切警報始動点位置をデータ保持していて無線で列車位置を取得する度にその列車位置と前記踏切警報始動点位置とに基づいて前記踏切への列車接近判定と前記踏切警報機の警報出力制御とを行うが、前記踏切警報始動点位置として本線側踏切警報始動点位置と側線側踏切警報始動点位置とをデータ保持するとともに、前記無線式駅制御装置の無線通信から前記踏切の列車進路情報を取得してその列車進路に応じて前記本線側踏切警報始動点位置と前記側線側踏切警報始動点位置とから何れか一つを選出してそれを前記列車接近判定に用いるようになっていることを特徴とする無線式踏切警報システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−195120(P2011−195120A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67008(P2010−67008)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000207470)大同信号株式会社 (83)
【Fターム(参考)】