説明

無線送信装置

【課題】無線送信装置において、歪補償即応性を確保して回路規模の小型化が可能となることを目的とする。
【解決手段】複数系統の増幅器と、複数系統の歪補償回路と、複数系統の変調回路を備え、複数系統の送信データそれぞれに対する増幅器の出力信号を互いに異なる周波数の中間周波信号に変換して多重したデジタル多重信号を出力する共用回路と、共用回路の出力するデジタル多重信号を復調して多重データを得る復調回路と、多重データから前記複数系統のフィードバック送信データそれぞれを抽出する複数系統のフィルタ回路と、を有し、複数系統の送信データそれぞれと前記複数系統のフィードバック送信データそれぞれとの誤差に応じて前記複数系統の歪補償回路における前記逆特性の更新を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の送信系統を有する無線送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近頃の移動体通信システムでは、高速データ通信を実現する1つの方法として、複数のアンテナ、送信回路を用いたMIMO(Multiple Input Multiple Output)伝送技術の適用が求められている。この場合、無線送信装置は複数系統の送信系統を有する。
【0003】
また、移動体通信に利用される無線送信装置では高い電力効率が求められる。しかし、電力増幅器の線形性と電力効率は一般に相反する特性であり、電力増幅器を線形性の高い領域で使用すると電力効率は低くなり、電力効率を高くするためには電力増幅器を線形性の低い領域で使用しなければならない。電力増幅器の線形性と電力効率を両立させるための歪補償方法の一つとしてプリディストーション方式が知られている。プリディストーション方式は、電力増幅器の入力信号に対して増幅器の歪み特性と逆の特性を予め付加しておくことで電力増幅器の出力において歪みのない所望信号を得る方法である。
【0004】
図1は従来の2系統の送信系統を有する無線送信装置の一例の構成図を示す。図1において、ベースバンド処理回路11は、図示しない上位装置からの送信データ授受、及び、2系統で送信する送信データI,Qの生成を行う。送信1系の歪補償回路21は複素乗算回路211、アドレス生成部212、遅延回路213、加算回路214、LUT(Look Up Table)215を有している。同様に、送信2系の歪補償回路22は複素乗算回路221、アドレス生成部222、遅延回路223、加算回路224、LUT225を有している。
【0005】
アドレス生成部212は送信データの振幅等からLUT215のアドレスを生成してLUT215に供給する。遅延回路213は送信データを所定期間遅延して加算回路214に供給する。これにより、LUT215からはアドレスに応じた歪補償係数が読み出され複素乗算回路211に供給される。複素乗算回路211は送信データI,Qに歪補償係数を複素乗算することでプリディストーション信号を生成してフォワード回路31に供給する。加算回路214は遅延回路213にて時間合わせして供給される送信データと直交復調回路72からフィードバックされたデータとを減算して誤差データを生成し、誤差データに応じてLUT215の更新を行う。送信2系の歪補償回路22は送信1系の歪補償回路21と同様の動作を行う。
【0006】
送信1系のフォワード回路31はD/A変換器311、直交変調器312、電力増幅器313、方向性結合器314を有している。同様に、送信2系のフォワード回路32はD/A変換器321、直交変調器322、電力増幅器323、方向性結合器324を有している。
【0007】
歪補償回路21の出力するプリディストーション信号はD/A変換器311でアナログ化されて直交変調器312に供給される。直交変調器312はフォワード用発振器51から供給される搬送波をプリディストーション信号で直交変調することで、位相変調処理及び無線周波数信号への変換処理を行う。直交変調器312から出力される被変調信号つまり送信信号は電力増幅器313で電力増幅されたのち、方向性結合器314を経てアンテナ41から送信される。フォワード回路32はフォワード回路31と同様の動作を行い、送信信号はアンテナ42から送信される。
【0008】
送信1系のフィードバック回路61は周波数変換部611とA/D変換器612を有している。同様に、送信2系のフィードバック回路62は周波数変換部621とA/D変換器622を有している。周波数変換部611は方向性結合器314から供給される送信信号の一部つまり送信1系フィードバック信号FB1をフィードバック用発振器71で発生されたローカル信号を用いて中間周波数信号IF1に変換する。この中間周波数信号IF1はA/D変換器612でデジタル化されて直交復調回路72に供給される。直交復調回路72は中間周波数信号IF1の直交復調を行って得たデータI,Qを加算回路214にフィードバックする。送信2系のフィードバック回路62及び直交復調回路73はフィードバック回路61及び直交復調回路72と同様の動作を行う。
【0009】
ところで、帰還信号と対応する参照信号とを送信系統毎に時分割に切り替えて歪補償係数を算出し、2系統の送信フィードバック信号を共用化し回路規模の増加を抑えた送信機が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0010】
また、フィードバック中間周波数信号と受信中間周波数信号とを合成した後にA/D変換し、デジタル合成信号が歪補正処理回路と受信処理回路それぞれに入力されて、歪補正及び受信データ生成を行う技術が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010‐41470号公報
【特許文献2】特開2007‐19703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、図1に示す2系統送信装置では、歪補償回路を含めた送信処理回路が送信1系統の場合に比べて2倍の回路規模となるため、装置の大型化や消費電力増加及びコスト増加という問題があった。
【0013】
また、特許文献1に記載された技術では、2系統の帰還信号をスイッチ回路で切り替え時分割することでフィードバック回路を共用し、2系統の歪補償処理を時分割で実施して、回路規模及び消費電力増加を抑制している。しかし、初期歪補償処理において一方の歪補償処理が完了するまでもう一方の歪補償動作ができず、2系統分の初期歪補償処理が完了する時間が単純に2倍となる。また、初期歪補償処理後の歪補償監視動作において一方の歪補償動作を監視/補正しているときに、もう一方の送信データに変動があった場合に歪補償処理の即時追従が不可能であるため、歪補償特性の収束性に問題がある。更には、スイッチ回路で選択された送信系の帰還信号に対して、もう一方の帰還信号が影響しないようにするためにスイッチ回路のアイソレーションを十分にとる必要があり、高性能のスイッチ回路を用いることによるコスト増加の問題があった。
【0014】
また、特許文献2に記載された技術では、フィードバック中間周波数信号と受信中間周波数信号を合成してA/D変換したのち、歪補正用直交復調回路と受信用直交復調回路のそれぞれで復調し、歪補償系へのフィードバックベースバンド信号と受信ベースバンド信号とを生成している。このため、復調回路を2系統持つ必要があり、回路規模が大きくなるという問題があった。
【0015】
開示の無線送信装置は、歪補償即応性を確保して回路規模の小型化が可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
開示の一実施形態による無線送信装置は、複数系統の送信データそれぞれに対し、前記複数系統の増幅器と、前記送信データに前記増幅器の入力対出力特性の逆特性を予め与えて歪補償処理を行う前記複数系統の歪補償回路と、前記歪補償回路の出力を用いて変調を行う前記複数系統の変調回路を備え、前記複数系統の変調回路が出力する送信信号を前記複数系統の増幅器で増幅して前記複数系統のアンテナから送信すると共に、前記複数系統の増幅器の出力信号の一部を取り出して前記複数系統の歪補償回路にフィードバックして前記逆特性の更新を行う無線送信装置であって、
前記複数系統の送信データそれぞれに対する前記増幅器の出力信号を互いに異なる周波数の中間周波信号に変換して多重したデジタル多重信号を出力する共用回路と、
前記共用回路の出力するデジタル多重信号を復調して多重データを得る復調回路と、
前記多重データから前記複数系統のフィードバック送信データそれぞれを抽出する前記複数系統のフィルタ回路と、
を有し、
前記複数系統の送信データそれぞれと前記複数系統のフィードバック送信データそれぞれとの誤差に応じて前記複数系統の歪補償回路における前記逆特性の更新を行う。
【発明の効果】
【0017】
本実施形態によれば、歪補償即応性を確保して回路規模の小型化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来の2系統の送信系統を有する無線送信装置の一例の構成図である。
【図2】無線送信装置の第1実施形態の構成図である。
【図3】図2の各部の信号波形と出力イメージを示す図である。
【図4】無線送信装置の第2実施形態の構成図である。
【図5】無線送信装置の第3実施形態の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて実施形態を説明する。
【0020】
<第1実施形態>
図2は2系統の送信系統を有する無線送信装置の第1実施形態の構成図を示す。図2において、図1と同一部分には同一符号を付す。図2において、ベースバンド処理回路11は、図示しない上位装置からの送信データ授受、及び、2系統で送信する送信データI,Qの生成を行う。
【0021】
送信1系の歪補償回路21は複素乗算回路211、アドレス生成部212、遅延回路213、加算回路214、LUT(Look Up Table)215を有している。同様に、送信2系の歪補償回路22は複素乗算回路221、アドレス生成部222、遅延回路223、加算回路224、LUT225を有している。
【0022】
アドレス生成部212は送信データの振幅等からLUT215のアドレスを生成してLUT215に供給する。遅延回路213は送信データを所定期間遅延して加算回路214に供給する。これにより、LUT215からはアドレスに応じた歪補償係数が読み出され複素乗算回路211に供給される。この歪補償係数は電力増幅器の入力対出力特性の逆特性を送信データに与え歪補償処理を行うためのものである。複素乗算回路211は送信データI,Qに歪補償係数を複素乗算することでプリディストーション信号を生成してフォワード回路31に供給する。加算回路214は遅延回路213にて時間合わせして供給される送信データとベースバンド復調部80からフィードバックされたデータとを減算して誤差データを生成し、誤差データに応じてLUT215の更新を行う。送信2系の歪補償回路22は送信1系の歪補償回路21と同様の動作を行う。
【0023】
送信1系のフォワード回路31はD/A変換器311、直交変調器312、電力増幅器313、方向性結合器314を有している。同様に、送信2系のフォワード回路32はD/A変換器321、直交変調器322、電力増幅器323、方向性結合器324を有している。
【0024】
歪補償回路21の出力するプリディストーション信号はD/A変換器311でアナログ化されて直交変調器312に供給される。直交変調器312はフォワード用発振器51から供給される搬送波をプリディストーション信号で直交変調することで、位相変調処理及び無線周波数信号への変換処理を行う。直交変調器312から出力される被変調信号つまり送信信号は電力増幅器313で電力増幅されたのち、方向性結合器314を経てアンテナ41から送信される。方向性結合器314は送信信号の一部を取り出してフィードバック信号FB1として出力する。フォワード回路32はフォワード回路31と同様の動作を行い、送信信号はアンテナ42から送信される。
【0025】
フィードバック共用回路60は周波数変換部601,602、周波数合成部(ハイブリッド:HYB)603、A/D変換器604を有している。周波数変換部601は方向性結合器314から供給される送信信号の一部つまり送信1系フィードバック信号FB1をフィードバック用発振器711で発生されたローカル信号を用いて中間周波数信号FB−IF1に変換する。周波数変換部602は方向性結合器324から供給される送信信号の一部つまり送信2系フィードバック信号FB2をフィードバック用発振器712で発生されたローカル信号を用いて中間周波数信号FB−IF2に変換する。
【0026】
ここで、フィードバック用発振器711から供給されるローカル信号FB−LO1とフィードバック用発振器712から供給されるローカル信号FB−LO2との関係は、A/D変換器604のサンプリング周波数の1/4の周波数分の間隔とする。これにより、A/D変換器604の有効帯域(サンプリング周波数の1/2)に均等に配置/合成された中間周波数を得ることができる。図3(A)に周波数合成部603の出力波形を示す。
【0027】
なお、例えばA/D変換器604のサンプリング周波数FADCを245.76MHzとし、中間周波数信号FB−IF1,FB−IF2それぞれの帯域幅IF−BWを10MHzとすると、FADC/4=61.44MHzであり、IF−BW×6=60MHzであるので、FADC/4≧IF−BW×6の関係になる。
【0028】
1系及び2系の中間周波数信号FB−IF1,FB−IF2は周波数合成部603で周波数合成つまり周波数多重された後、A/D変換器604にてデジタル化されてベースバンド復調部80に供給される。
【0029】
ベースバンド復調部80は直交復調回路81、フィルタ回路82、NCO(Nemerically Controlled Oscillators)83、乗算器84、フィルタ回路85、NCO86、乗算器87を有している。
【0030】
直交復調回路81はA/D変換器604の出力するデジタル多重信号を一括でデジタル復調してベースバンド信号を生成する。なお、このベースバンド信号はFB−IF1及びFB−IF2が合成されたままの復調データである。フィルタ回路(FIL)82は送信1系のFB−IF1に相当するフィードバックベースバンド信号FB−BB1のみを抽出つまり周波数選択し、フィルタ回路85は送信2系のFB−IF2に相当するフィードバックベースバンド信号FB−BB2のみ抽出する。
【0031】
送信1系側はNCO83及び乗算器84により、フィードバックベースバンド信号FB−BB1をA/D変換器604のサンプリング周波数の1/4の周波数を中心周波数とするベースバンド信号に周波数変換つまり周波数シフトする。図3(B)に乗算器84の出力イメージを示す。また、送信2系側はNCO86及び乗算器87により、フィードバックベースバンド信号FB−BB2をA/D変換器604のサンプリング周波数の1/4の周波数を中心周波数とするベースバンド信号に周波数変換つまり周波数シフトする。図3(C)に乗算器87の出力イメージを示す。上記の周波数変換により送信1系と送信2系のベースバンド信号の中心周波数を同一としているために、以降のデジタル処理におけるクロックを共通化することができる。
【0032】
乗算器84の出力するベースバンド信号は歪補償回路21に供給され、乗算器87の出力するベースバンド信号は歪補償回路22に供され、送信1系/送信2系それぞれで加算回路214,224でLUT215,225の歪補償係数の更新が行われる。
【0033】
本実施形態によれば、送信1系及び送信2系におけるフィードバック信号の中間周波数信号を合成したのち、1つのA/D変換器604と1つの直交復調回路81でベースバンド信号を復調する。これにて、送信1系及び送信2系の歪補償処理を同時に実行することができ、2系統の歪補償処理を時分割で実行する場合に比べて歪補償動作の収束性を確保できる。また、回路規模が大きいA/D変換器604とデジタル回路の直交復調回路81を1つにすることができ、フィルタ回路82,NCO83,乗算器84,フィルタ回路85,NCO86,乗算器87はデジタル回路で回路規模は小さいために,回路規模の増大を抑制することができる。
【0034】
<第2実施形態>
図4は2系統の送信系統を有する無線送信装置の第2実施形態の構成図を示す。この実施形態ではデジタル直交変調部を用いる。図4において、図2と同一部分には同一符号を付す。図4において、ベースバンド処理回路11は、図示しない上位装置からの送信データ授受、及び、2系統で送信する送信データI,Qの生成を行う。
【0035】
送信1系の歪補償回路21は複素乗算回路211、アドレス生成部212、遅延回路213、加算回路214、LUT215を有している。同様に、送信2系の歪補償回路22は複素乗算回路221、アドレス生成部222、遅延回路223、加算回路224、LUT225を有している。
【0036】
アドレス生成部212は送信データの振幅等からLUT215のアドレスを生成してLUT215に供給する。遅延回路213は送信データを所定期間遅延して加算回路214に供給する。これにより、LUT215からはアドレスに応じた歪補償係数が読み出され複素乗算回路211に供給される。この歪補償係数は電力増幅器の入力対出力特性の逆特性を送信データに与え歪補償処理を行うためのものである。複素乗算回路211は送信データI,Qに歪補償係数を複素乗算することでプリディストーション信号を生成してフォワード回路33に供給する。加算回路214は遅延回路213にて時間合わせして供給される送信データとベースバンド復調部80からフィードバックされたデータとを減算して誤差データを生成し、誤差データに応じてLUT215の更新を行う。送信2系の歪補償回路22は送信1系の歪補償回路21と同様の動作を行う。
【0037】
送信1系のフォワード回路33はデジタル直交変調部315、FW(フォワード)周波数変換部316、電力増幅器313、方向性結合器314を有している。同様に、送信2系のフォワード回路34はデジタル直交変調部325、FW周波数変換部326、電力増幅器323、方向性結合器324を有している。
【0038】
歪補償回路21の出力するプリディストーション信号はデジタル直交変調部315にてデジタル直交変調処理され、中心周波数fxのアナログの被変調信号が出力される。この被変調信号はFW周波数変換部316でフォワード/フィードバック共用発振器511から供給される周波数f1−fxのローカル信号を用いて中心周波数f1のフォワード中間周波数信号FW−IF1に周波数変換される。FW周波数変換部316の出力するフォワード中間周波数信号FW−IF1つまり送信信号は電力増幅器313で電力増幅されたのち、方向性結合器314を経てアンテナ41から送信される。方向性結合器314は送信信号の一部を取り出してフィードバック信号として出力する。
【0039】
同様に、歪補償回路22の出力するプリディストーション信号はデジタル直交変調部325にてデジタル直交変調処理され、中心周波数fyのアナログの被変調信号が出力される。この被変調信号はFW周波数変換部326でフォワード/フィードバック共用発振器512から供給される周波数f1−fyのローカル信号を用いて中心周波数f1のフォワード中間周波数信号FW−IF2に周波数変換される。FW周波数変換部326の出力するフォワード中間周波数信号FW−IF2つまり送信信号は電力増幅器323で電力増幅されたのち、方向性結合器324を経てアンテナ42から送信される。方向性結合器324は送信信号の一部を取り出してフィードバック信号として出力する。
【0040】
フィードバック共用回路60は周波数変換部601,602、周波数合成部603、A/D変換器604を有している。周波数変換部601は方向性結合器314から供給される中心周波数f1の送信信号の一部つまりフォワード中間周波数信号FW−IF1をフォワード/フィードバック共用発振器511で発生された周波数f1−fxのローカル信号を用いて中心周波数fxの中間周波数信号FB−IF1に変換する。また、周波数変換部602は方向性結合器324から供給される中心周波数f1の送信信号の一部つまりフォワード中間周波数信号FW−IF2をフォワード/フィードバック共用発振器512で発生された周波数f1−fyのローカル信号を用いて中心周波数fyの中間周波数信号FB−IF2に変換する。
【0041】
このとき、図3(A)に示すように、中間周波数信号FW−IF1と中間周波数信号FW−IF2の周波数関係つまり周波数fx,fyをA/D変換器604のサンプリング周波数の1/4の間隔とする。これにより、第1実施形態におけるフォワード用発振器51とフィードバック用発振器711(又は712)を、第2実施形態ではフォワード/フィードバック共用発振器511(又は512)で共用することができる。
【0042】
ベースバンド復調部80は直交復調回路81、フィルタ回路82、NCO(Nemerically Controlled Oscillators)83、乗算器84、フィルタ回路85、NCO86、乗算器87を有している。
【0043】
直交復調回路81はA/D変換器604の出力するデジタル多重信号を一括でデジタル復調してベースバンド信号を生成する。なお、このベースバンド信号はFB−IF1及びFB−IF2が合成されたままの復調データである。フィルタ回路82は送信1系のFB−IF1に相当するフィードバックベースバンド信号FB−BB1のみを抽出し、フィルタ回路85は送信2系のFB−IF2に相当するフィードバックベースバンド信号FB−BB2のみ抽出する。
【0044】
送信1系側はNCO83及び乗算器84により、フィードバックベースバンド信号FB−BB1をA/D変換器604のサンプリング周波数の1/4の周波数を中心周波数とするベースバンド信号に周波数変換つまり周波数シフトする。図3(B)に乗算器84の出力イメージを示す。また、送信2系側はNCO86及び乗算器87により、フィードバックベースバンド信号FB−BB2をA/D変換器604のサンプリング周波数の1/4の周波数を中心周波数とするベースバンド信号に周波数変換つまり周波数シフトする。図3(C)に乗算器87の出力イメージを示す。上記の周波数変換により送信1系と送信2系のベースバンド信号の中心周波数を同一としているために、以降のデジタル処理におけるクロックを共通化することができる。
【0045】
乗算器84の出力するベースバンド信号は歪補償回路21に供給され、乗算器87の出力するベースバンド信号は歪補償回路22に供され、送信1系/送信2系それぞれで歪補償係数の更新が行われる。
【0046】
本実施形態によれば、デジタル直交変調部315,325を用いることにより、FW周波数変換部とフィードバック共用回路の周波数変換部に供給するローカル信号を、送信1系と送信2系それぞれで共用でき、例えば1系のみ送信する場合の消費電力を削減でき、一方の送信系の発振器が故障した場合でも他方の送信系は運用を継続することが可能となる。また、発振器の個数削減によりコスト低減が可能である。
【0047】
<第3実施形態>
図5は2系統の送信系統を有する無線送信装置の第3実施形態の構成図を示す。この実施形態では歪補償処理とVSWR処理を切り替える。図5において、図2と同一部分には同一符号を付す。図5において、ベースバンド処理回路11は、図示しない上位装置からの送信データ授受、及び、2系統で送信する送信データI,Qの生成を行う。
【0048】
送信1系の歪補償回路23は複素乗算回路211、アドレス生成部212、遅延回路213、加算回路214、LUT215、ラッチ回路216を有している。同様に、送信2系の歪補償回路22は複素乗算回路221、アドレス生成部222、遅延回路223、加算回路224、LUT225、ラッチ回路226を有している。
【0049】
アドレス生成部212は送信データの振幅等からLUT215のアドレスを生成してLUT215に供給する。遅延回路213は送信データを所定期間遅延して加算回路214に供給する。これにより、LUT215からはアドレスに応じた歪補償係数が読み出され複素乗算回路211に供給される。この歪補償係数は電力増幅器の入力対出力特性の逆特性を送信データに与え歪補償処理を行うためのものである。複素乗算回路211は送信データI,Qに歪補償係数を複素乗算することでプリディストーション信号を生成してフォワード回路35に供給する。加算回路214は遅延回路213にて時間合わせして供給される送信データとベースバンド復調部80からフィードバックされたデータとを減算して誤差データを生成し、誤差データに応じてLUT215の更新を行う。送信2系の歪補償回路24は送信1系の歪補償回路23と同様の動作を行う。
【0050】
送信1系のフォワード回路35はD/A変換器311、直交変調器312、電力増幅器313、方向性結合器314、サーキュレータ317を有している。方向性結合器314は送信信号の一部を取り出してフィードバック信号FB1としてスイッチ回路911に供給する。サーキュレータ317はアンテナで反射された反射波信号であるアンテナ端リバース信号RVS1を取り出してスイッチ回路911に供給する。同様に、送信2系のフォワード回路36はD/A変換器321、直交変調器322、電力増幅器323、方向性結合器324、サーキュレータ327を有している。方向性結合器324は送信信号の一部を取り出してフィードバック信号FB2としてスイッチ回路912に供給する。サーキュレータ317はアンテナで反射された反射波信号であるアンテナ端リバース信号RVS2を取り出してスイッチ回路912に供給する。
【0051】
タイミング生成回路901は歪補償処理とVSWR(電圧定在波比)処理を切り替えるタイミング信号を生成する。ここでは、一定周期で歪補償処理期間をVSWR処理期間に対し例えば1/32〜1/8程度の割合に設定し、歪補償処理期間を例えば値1で指示し、VSWR処理期間を値0で指示するタイミング信号を生成する。
【0052】
送信1系のVSWR演算回路902はVSWR処理期間にVSWRを演算し、得られたVSWR値が所定の閾値を超えると送信1系のアラームを発生して図示しない上位装置に通知する。送信2系のVSWR演算回路903はVSWR処理期間にVSWRを演算し、得られたVSWR値が所定の閾値を超えると送信2系のアラームを発生して上位装置に通知する。
【0053】
スイッチ回路911は方向性結合器314とサーキュレータ317の出力を切り替えて周波数変換部601に供給する。スイッチ回路912は方向性結合器324とサーキュレータ327の出力を切り替えて周波数変換部602に供給する。
【0054】
歪補償回路21の出力するプリディストーション信号はD/A変換器311でアナログ化されて直交変調器312に供給される。直交変調器312はフォワード用発振器51から供給される搬送波をプリディストーション信号で直交変調することで、位相変調処理及び無線周波数信号への変換処理を行う。直交変調器312から出力される被変調信号つまり送信信号は電力増幅器313で電力増幅されたのち、方向性結合器314、サーキュレータ317を経てアンテナ41から送信される。フォワード回路36はフォワード回路35と同様の動作を行い、送信信号はアンテナ42から送信される。
【0055】
フィードバック共用回路60は周波数変換部601,602、周波数合成部603、A/D変換器604を有している。周波数変換部601はスイッチ回路911から供給される送信信号の一部つまり送信1系フィードバック信号FB1又はアンテナ端リバース信号RVS1をフィードバック用発振器711で発生されたローカル信号を用いて中間周波数信号IF1に変換する。周波数変換部602はスイッチ回路912から供給される送信信号の一部つまり送信2系フィードバック信号FB2又はアンテナ端リバース信号RVS2をフィードバック用発振器712で発生されたローカル信号を用いて中間周波数信号IF2に変換する。
【0056】
ここで、フィードバック用発振器711から供給されるローカル信号FB−LO1とフィードバック用発振器712から供給されるローカル信号FB−LO2との関係は、A/D変換器604のサンプリング周波数の1/4の周波数分の間隔とする。これにより、A/D変換器604の有効帯域(サンプリング周波数の1/2)に均等に配置/合成された中間周波数を得ることができる。
【0057】
1系の中間周波数信号IF1(フィードバック信号FB1又はアンテナ端リバース信号RVS1の中間周波数信号)、2系の中間周波数信号IF2(フィードバック信号FB2又はアンテナ端リバース信号RVS2の中間周波数信号)は周波数合成部603で周波数合成つまり周波数多重された後、A/D変換器604にてデジタル化されてベースバンド復調部80に供給される。
【0058】
ベースバンド復調部80は直交復調回路81、フィルタ回路82、NCO83、乗算器84、フィルタ回路85、NCO86、乗算器87を有している。
【0059】
直交復調回路81はA/D変換器604の出力するデジタル多重信号を一括でデジタル復調してベースバンド信号を生成する。なお、このベースバンド信号はFB−IF1及びFB−IF2、又はアンテナ端リバース中間周波数信号RVS−IF1及びRVS−IF2が合成されたままの復調データである。フィルタ回路82は送信1系のFB−IF1又はRVS−IF1に相当するベースバンド信号FB/RVS−BB1のみを抽出し、フィルタ回路85は送信2系のFB−IF2又はRVS−IF2に相当するベースバンド信号FB/RVS−BB2のみ抽出する。
【0060】
送信1系側はNCO83及び乗算器84により、ベースバンド信号FB/RVS−BB1をA/D変換器604のサンプリング周波数の1/4の周波数を中心周波数とするベースバンド信号に周波数変換つまり周波数シフトする。また、送信2系側はNCO86及び乗算器87により、ベースバンド信号FB/RVS−BB2をA/D変換器604のサンプリング周波数の1/4の周波数を中心周波数とするベースバンド信号に周波数変換つまり周波数シフトする。
【0061】
乗算器84の出力するベースバンド信号は歪補償回路23に供給され、乗算器87の出力するベースバンド信号は歪補償回路24に供され、送信1系/送信2系それぞれで歪補償係数の更新が行われる。
【0062】
この第3実施形態においては、タイミング生成回路901で生成されたタイミング信号により、送信1系の方向性結合器314の出力であるフィードバック信号FB1とサーキュレータ317の出力であるアンテナ端リバース信号RVS1とがスイッチ回路911で切り替えられて周波数変換部601に供給される。また、上記タイミング信号により、送信2系の方向性結合器324の出力であるフィードバック信号FB2とサーキュレータ327の出力であるアンテナ端リバース信号RVS2とがスイッチ回路912で切り替えられて周波数変換部602に供給される。これにより、ベースバンド復調部80には、歪補償処理期間にフィードバック信号が供給され、VSWR処理期間にアンテナ端リバース信号が供給される。
【0063】
送信1系の歪補償回路23において、補償処理期間では歪補償処理を実行し、VSWR処理期間では歪補償処理を停止して停止直前の歪補償係数をラッチ回路216に保持する。VSWR処理回路902は、歪補償処理期間に供給されるフィードバックベースバンド信号FB−BB1の電力値を算出してVSWR処理の基準電力値Pref1とし、VSWR処理期間に供給されるリバースベースバンド信号RVS−BB1から電力値Prvs1を算出し、Pref1とPrvs1からVSWR1を算出する。
【0064】
送信2系の歪補償回路24においても同様に、補償処理期間では歪補償処理を実行し、VSWR処理期間では歪補償処理を停止して停止直前の歪補償係数をラッチ回路226に保持する。VSWR処理回路903は、歪補償処理期間に入力されるフィードバックベースバンド信号FB−BB2の電力値を算出してVSWR処理の基準電力値Pref2とし、VSWR処理期間で入力されリバースベースバンド信号RVS−BB2から電力値Prvs2を算出し、Pref2とPrvs2からVSWR2を算出する。
【0065】
なお、本実施形態では、歪補償処理期間とVSWR処理期間の比率において、リバース信号の電力取り込みに必要十分な時間のみをVSWR処理期間に割り当てることで歪補償特性が劣化することがないように歪補償処理期間を確保している。このように、歪補償処理期間とVSWR処理期間とを生成するタイミング生成回路と、VSWR演算回路と、フィードバック信号とリバース信号を切り替えて出力するスイッチ回路とを用いることにより、歪補償特性を確保しつつ時分割でVSWR処理を実行できる。このため、VSWR専用回路を用いる場合に比べて回路規模及びコスト削減が可能である。
【0066】
なお、上記第3実施形態では、第1実施形態にタイミング生成回路901,VSWR演算回路902,903,スイッチ回路911,912を設けて歪補償処理とVSWR処理を切り替える構成として説明をしたが、第2実施形態にタイミング生成回路901,VSWR演算回路902,903,スイッチ回路911,912を設けて歪補償処理とVSWR処理を切り替える構成としてもよい。
【0067】
なお、上記第1乃至第3実施形態では2系統の送信系統を有する無線送信装置について説明をしたが、3系統以上の複数系統の送信系統を有する無線送信装置に適用することができる。
【0068】
このように、上記の各実施形態によれば、フィードバック回路の部品を削減でき、A/D変換器604以降の直交復調回路81,フィルタ回路82,NCO83,乗算器84,フィルタ回路85,NCO86,乗算器87における処理はすべてデジタル処理で実現可能である。かつ、合成された2系統のフィードバックIF信号を直交復調回路81で一括して復調するのでデジタル処理回路の削減が可能である。これにより、2系統の歪補償処理を同時に行う時分割処理での課題である初期歪補償処理時間の増加を回避できる。また、送信データの変動に対して即時追従処理が可能となるため、従来の歪補償性能を保ちながら装置の小型化、低コスト化を図ることができる。また、フォワード回路のD/A変換器311,直交変調器312を、デジタル直交変調部315,FW周波数変換部316で構成することで、フォワード用ローカル信号とフィードバック用ローカル信号を送信系毎に共用できるため、ローカル信号を生成する発振器の削減が可能となる。
【符号の説明】
【0069】
11 ベースバンド処理回路
21,22,23,24 歪補償回路
211,221 複素乗算回路
212,222 アドレス生成部
213,223 遅延回路
214,224 加算回路
215,225 LUT
216,226 ラッチ回路
31,32,33,34,35,36 フォワード回路
311,321 D/A変換器
312,322 直交変調器
313,323 電力増幅器
314,324 方向性結合器
315,325 デジタル直交変調部
316,326 FW周波数変換部
317,327 サーキュレータ
41,42 アンテナ
51 フォワード用発振器
511,512 フォワード/フィードバック共用発振器
60 フィードバック共用回路
61,62 フィードバック回路
601,602,611,612 周波数変換部
603 周波数合成部
604,612,622 A/D変換器
71,711,712 フィードバック用発振器
72,73,81 直交復調回路
80 ベースバンド復調部
82,85 フィルタ回路
83,86 NCO
84,87 乗算器
901 タイミング生成回路
902,903 VSWR演算回路
911,912 スイッチ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数系統の送信データそれぞれに対し、前記複数系統の増幅器と、前記送信データに前記増幅器の入力対出力特性の逆特性を予め与えて歪補償処理を行う前記複数系統の歪補償回路と、前記歪補償回路の出力を用いて変調を行う前記複数系統の変調回路を備え、前記複数系統の変調回路が出力する送信信号を前記複数系統の増幅器で増幅して前記複数系統のアンテナから送信すると共に、前記複数系統の増幅器の出力信号の一部を取り出して前記複数系統の歪補償回路にフィードバックして前記逆特性の更新を行う無線送信装置であって、
前記複数系統の送信データそれぞれに対する前記増幅器の出力信号を互いに異なる周波数の中間周波信号に変換して多重したデジタル多重信号を出力する共用回路と、
前記共用回路の出力するデジタル多重信号を復調して多重データを得る復調回路と、
前記多重データから前記複数系統のフィードバック送信データそれぞれを抽出する前記複数系統のフィルタ回路と、
を有し、
前記複数系統の送信データそれぞれと前記複数系統のフィードバック送信データそれぞれとの誤差に応じて前記複数系統の歪補償回路における前記逆特性の更新を行うことを特徴とする無線送信装置。
【請求項2】
請求項1記載の無線送信装置において、
前記複数系統のフィルタ回路が出力する送信データそれぞれの中心周波数を同一周波数にシフトする前記複数系統の周波数シフト回路を
有することを特徴とする無線送信装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の無線送信装置において、
前記複数系統の変調回路それぞれは、
前記歪補償回路の出力をアナログ化するD/A変換器と、
前記D/A変換器の出力信号を用いて変調を行う変調部と、
を有することを特徴とする無線送信装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載の無線送信装置において、
前記複数系統の変調回路それぞれは、
前記歪補償回路の出力をデジタル変調するデジタル変調部と、
前記デジタル変調回路の出力信号を周波数変換する周波数変換部と、
を有することを特徴とする無線送信装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の無線送信装置において、
前記複数系統のアンテナで反射された反射波信号を取り出す前記複数系統のサーキュレータと、
補償処理期間と電圧定在波比処理期間とを切り替えるタイミング信号を生成するタイミング生成回路と、
前記補償処理期間に前記複数系統の増幅器の出力信号の一部を取り出したフィードバック信号を出力し、前記電圧定在波比処理期間に前記反射波信号を出力して前記共用回路に供給する前記複数系統のスイッチ回路と、
前記複数系統のフィルタ回路から前記補償処理期間に出力される前記複数系統のフィードバック送信データと前記電圧定在波比処理期間に出力される前記複数系統の反射波信号のデータから前記複数系統の電圧定在波比を演算する前記複数系統の演算回路と、
を有することを特徴とする無線送信装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−46365(P2013−46365A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184982(P2011−184982)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】