説明

無線通信システム及び無線装置

【課題】移動体との通信において信頼性の高い無線通信システム及び無線装置を提供すること。
【解決手段】 無線通信装置10は、移動体の移動経路に沿って設けられ、移動体に設けられた移動局無線装置と無線通信を行う。送受信部100は、移動局無線装置から送信された当該移動体の位置情報を受信する。車両ガイド部115は、移動局無線装置への応答信号を生成する。送受信部100は、移動局無線装置に生成された応答信号を送信する。送受信調整部113aは、移動体の位置情報に基づいて送受信部100のアンテナ101又は103の指向範囲を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体と通信するための無線通信システム及び無線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、列車、エレベータ及びエスカレータ等の、人や物を乗せて移動する移動体の運行においては、安全が非常に重要視されている。近年では、移動体の移動や停止を外部から安全に制御するための技術が開発されている。
【0003】
例えば、外部からの制御によって移動体を安全に停止させるためには、移動速度、加速度及び移動方向等の移動体の移動情報を、外部の制御装置が把握しておく必要がある。移動体の移動情報を収集するには、例えば無線通信システムを用いることができる。
【0004】
特許文献1には、高速移動する物体の位置情報を安定した通信品質で収集する移動物体管理システムが開示されている。特許文献1に記載のシステムでは、移動体の移動速度に対応して割り当てられた無線通信チャネルを選択して利用し、高速移動の場合にもハンドオーバーの無いリアルタイム通信を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−108799号公報(段落0083、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、移動体の移動情報の収集に無線通信を用いるシステムでは、移動体が通信エリア内にいるにもかかわらずマルチパス(多重伝播変動)によって通信不能になることがある。このような場合、無線通信の信頼性が損なわれかねない。
【0007】
本発明は、上記のような問題に鑑みなされたもので、移動体との通信において信頼性の高い無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る無線通信システムは、移動体に設けられる移動局無線装置と、前記移動体の移動経路に沿って設けられる固定局無線装置からなる無線通信システムであって、前記移動局無線装置は、前記移動体の位置情報を前記固定局無線装置に送信し、前記固定局無線装置からの応答信号を受信する送受信手段を具備し、前記固定局無線装置は、前記移動局無線装置から送信された前記位置情報を受信する受信手段と、前記移動局無線装置への応答信号を生成する生成手段と、前記移動局無線装置に前記応答信号を送信する送信手段と、前記送信手段のアンテナ指向範囲を前記位置情報に基づいて調整する調整手段を具備する。
【0009】
また、本発明の一実施形態に係る無線装置は、移動体の移動経路に沿って設けられ、前記移動体に設けられた移動局無線装置と無線通信を行う無線装置であって、前記移動局無線装置から送信された前記移動局の位置情報を受信する受信手段と、前記移動局無線装置への応答信号を生成する生成手段と、前記移動局無線装置に前記応答信号を送信する送信手段と、前記送信手段のアンテナ指向範囲を前記位置情報に基づいて調整する調整手段を具備する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、移動体との通信において信頼性の高い無線通信システム及び無線装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る無線通信システムが適用された、走行車両の制御システムの概要を示す図。
【図2】固定局のアンテナの指向性と、反射によるマルチパスの関係を概略的に示す図。
【図3】道路に設置される固定局無線通信装置の構成の概略を示すブロック図。
【図4】道路上を走行し移動無線局として機能する車両に搭載される無線通信装置の構成の概略を示すブロック図。
【図5】固定局の無線通信装置の動作を示すフローチャート。
【図6】移動局の無線通信装置の動作を示すフローチャート。
【図7】固定局の無線通信装置が、隣接局の通信状態を監視する場合の動作を示すフローチャート。
【図8】隣接局と移動局との通信状態の監視する場合の走行車両の制御システムの概要を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る無線通信システムを説明する。以下の説明においては、道路上を走行する自動車と、この自動車と無線通信を行って走行を制御する無線装置からなるシステムに、本実施形態に係る無線通信システムを適用することが想定されている。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る無線通信システムが適用された、走行車両の制御システムの概要を示す図である。
【0014】
図1に示す例では、道路の片側に固定式の無線通信装置(固定無線局(固定局))10Aと10Bが、道路の反対側に同様の固定式の無線通信装置(固定局)10Cが設置されている。固定局10Aがカバーする無線通信範囲はセルAで、固定局10Bがカバーする無線通信範囲はセルBで、固定局10Cがカバーする無線通信範囲はセルCによって表される。各固定局は、隣接するセル同士の一部が重なるように配置されている。
【0015】
セルA内では、固定局10A側の車線を車両C1とC2が走行しており、固定局10C側の車線を車両C5とC6が走行している。セルB内では、固定局10B側の車線を車両C3、C4が走行しており、固定局10C側の車線を車両C7が走行している。また、セルC内では、固定局10A側の車線を車両C2及びC3が走行しており、固定局10C側の車線を車両C5及びC6が走行している。これらの車両C1〜C7のうち、少なくとも1台の車両は無線通信機能を有し、移動無線局(移動局)として機能するものとする。
【0016】
固定局と移動局の間では、例えば無線通信によって情報のやり取りが行われ、移動局の通行が制御される。また、固定局及び移動局がGPS(global positioning system)機能を有する場合、これらの無線局はGPS衛星からのGPS信号を受信し、当該無線局の現在位置等を測定することができる。
【0017】
なお、図1では3つの固定局10A〜10Cが図示されているが、道路に沿って更に多数の固定局が設置されていてもよい。
【0018】
図2は、固定局のアンテナの指向性と、反射によるマルチパスの関係を概略的に示す図である。
【0019】
図2に示す無線通信装置(固定局)10Dは、図1に示す固定局10A〜10Cと同様の無線通信装置である。また、車両C8及びC9は、無線通信機能を有し、移動無線局(移動局)として機能する。
【0020】
図2において、固定局10Dから車両C8に向かうアンテナのカバー範囲(エリアD−1)で示されるように、アンテナの指向性が広いと、反射による多重化が複雑になり、無線のバーストが予測できなくなる。また、車両C8の移動によるフェージングも問題となる。
【0021】
一方、図2において、固定局10Dから車両C9に向かうアンテナのカバー範囲(エリアD−2)で示されるように、アンテナ指向性が狭いと、反射が限定されるため、周囲環境が判明していれば多重により感度が低下する位置を計算することが可能となる。このため、本実施形態に係る無線通信システムは、通信対象となる移動局を強く指向し、カバー範囲が狭い無線信号を固定局から発信できるように、固定局のアンテナを制御する。
【0022】
図3は、道路に設置される無線通信装置(固定局)の構成の概略を示すブロック図である。図1に示す固定局10A〜10C、図2に示す固定局10D、及び図8に示す固定局10E〜10Gに共通する構成は、図3に示す無線通信装置10の構成によって代表される。
【0023】
無線通信装置10は、送受信部100、GPS部107、データ入出力インタフェース108、制御部110、及び入出力装置120を具備している。
【0024】
送受信部100は、高周波無線信号と低周波無線信号を切換えて移動局と通信できるように構成されている。具体的には、送受信部100は、高周波無線の送受信のために高周波用アンテナ101、アレイアンテナ制御装置102、及び高周波無線通信部105を備える。また低周波無線の送受信のために、低周波用アンテナ103、アレイアンテナ制御装置104、及び低周波無線通信部106を具備している。
【0025】
アンテナ101及びアンテナ103は、電波の指向特性を変化させることが可能なアレイアンテナからなる。高周波無線通信部105は、アレイアンテナ制御装置102における設定を制御する。同様に低周波無線通信部106は、アレイアンテナ制御装置104における設定を制御する。アレイアンテナ制御装置102及び104は、設定に基づいてアレイアンテナ101及び103の位相と振幅を制御し、所定の方向にビームを形成して電波の送信と受信を行う。
【0026】
GPS部107は、例えばフィルムアンテナ等のアンテナ素子を具備し、GPS衛星からのGPS信号を受信する。アンテナ素子が3つのGPS衛星からの信号を受信する場合には、無線通信装置10の2次元的な位置(緯度及び経度)を測定できる。また、アンテナ素子が4つの衛星からの信号を受信する場合は、3次元的な位置(緯度、経度及び高度)を測定できる。3つ又は4つの衛星からのGPS信号がGPS部107で受信されると、各衛星からの距離が算出されて、無線通信装置10の位置が測定される。
【0027】
データ入出力インタフェース108は、送受信部100と制御部110の間、及びGPS部107と制御部110の間のデータのやり取りを制御するためのインタフェースである。データ入出力インタフェース108は、必要に応じて、送受信部100又はGPS部107から転送されたデータを、制御部110が処理可能な形式に変換する。あるいは逆に、制御部110からのデータを適切な形式に変換して送受信部110又はGPS部107に転送する。
【0028】
制御部110は、図示しないプロセッサ、プログラムメモリ及びワークメモリを具備しており、無線通信装置10の動作全体を制御する。プログラムメモリに予め記憶された所定のプログラムをプロセッサが読み出して実行することで、無線通信装置10の各種の機能が実現される。また、制御部110は、無線通信装置10が設置される地点の位置情報を保持しているものとする。
【0029】
制御部110は、通信制御部111、入力データ演算処理部112、出力データ演算処理部113、環境検出部114、及び車両ガイド部115を具備している。
【0030】
通信制御部111は、入力データ演算処理部112が処理した入力データを受信して、各部に転送する。また通信制御部111は、各部から送られたデータを集約して出力データ演算処理部113に転送する。
【0031】
入力データ演算処理部112は、送受信部100が受信した無線信号及びGPS部107が受信したGPS信号に基づいて種々の演算処理を行う。入力データ演算処理部112は、入力信号に基づいて固定局及び移動局の位置を算出する位置算出部112aを備えている。
【0032】
出力データ演算処理部113は、送受信部100から出力するデータを生成するための演算処理を行う。また、出力データ演算処理部113は、送受信部110による無線通信の設定を調整するための送受信調整部113aを具備している。
【0033】
環境検出部114は、入力データ演算処理部112による演算結果から、移動局周辺の環境を検出する。環境検出部114によって検出されるのは、例えば移動局周辺の降雨や降雪の状況等による周囲環境の変化である。
【0034】
車両ガイド部115は、入力データ演算処理部112による演算結果に基づいて、移動局に提供するガイド情報を生成する。ガイド情報としては、移動局の進行方向にある固定局の情報、移動局の進行方向の渋滞情報、車両の制御情報等がある。
【0035】
入出力装置120は、例えば操作ボタンや表示パネルを具備する。操作ボタンを操作することで、無線通信装置10に所定の操作信号を与え、設定情報を変更すること等が可能である。また、表示パネルに無線通信装置10の状態を表示することで、無線通信装置10の設定状態を外部から確認することもできる。
【0036】
また、無線通信装置10は、入出力装置120を介してネットワークNWに接続されている。ネットワークNWは、例えば有線又は無線のネットワークであり、LAN(local area network)やWAN(wide area network)等を含む。道路の路測に設置される固定局の無線通信装置10同士は、このネットワークNWによって互いに接続されている。従って、通信エリアが隣接する無線通信装置10の間で、ネットワークNWを介して走行車両(移動局)の情報を共有することができる。
【0037】
図4は、道路上を走行し移動無線局(移動局)として機能する車両に搭載される無線通信装置の構成の概略を示すブロック図である。
【0038】
移動局に設置される無線通信装置20は、送受信部200、計測部207、データ入出力インタフェース208、制御部210、及び入出力装置220を具備している。
【0039】
送受信部200は、高周波無線信号と低周波無線信号を切換えて固定局と通信できるように構成されている。具体的には、送受信部200は、高周波無線の送受信のために高周波用アンテナ201、アレイアンテナ制御装置202、及び高周波無線通信部205を備える。また低周波無線の送受信のために、低周波用アンテナ203、アレイアンテナ制御装置204、及び低周波無線通信部206を具備している。
【0040】
アンテナ201及びアンテナ203は、電波の指向特性を変化させることが可能なアレイアンテナからなる。高周波無線通信部205は、アレイアンテナ制御装置202における設定を制御する。同様に低周波無線通信部206は、アレイアンテナ制御装置204における設定を制御する。アレイアンテナ制御装置202及び204は、設定に基づいてアレイアンテナ201及び203の位相と振幅を制御し、所定の方向にビームを形成して電波の送信と受信を行う。
【0041】
計測部207は、GPS装置、加速度センサ、傾斜センサ等を具備している。GPS装置は、例えばフィルムアンテナ等のアンテナ素子を具備し、GPS衛星からのGPS信号を受信する。加速度センサは、無線通信装置20が搭載された車両が走行する際の加速度を測定する。また傾斜センサは、車両の姿勢制御のために無線通信装置20の傾斜を測定する。
【0042】
データ入出力インタフェース208は、送受信部200と制御部210の間、及び計測207と制御部210の間のデータのやり取りを制御するためのインタフェースである。データ入出力インタフェース208は、必要に応じて、送受信部200又は計測部207から転送されたデータを、制御部210が処理可能な形式に変換する。あるいは逆に、制御部210からのデータを適切な形式に変換して送受信部210又は計測部207に転送する。
【0043】
制御部210は、図示しないプロセッサ、プログラムメモリ及びワークメモリを具備しており、無線通信装置20の動作全体を制御する。プログラムメモリに予め記憶された所定のプログラムをプロセッサが読み出して実行することで、無線通信装置20の各種の機能が実現される。
【0044】
制御部210は、通信制御部211、入力データ演算処理部212、及び出力データ演算処理部213を具備している。
【0045】
通信制御部211は、入力データ演算処理部212が処理した入力データを受信して、各部に転送し、逆に、各部から送られたデータを集約して出力データ演算処理部213に転送する。
【0046】
入力データ演算処理部212は、送受信部200が受信した無線信号及び計測部207の測定結果に基づいて種々の演算処理を行う。入力データ演算処理部212は、計測部207の計測結果に基づいて、移動局の現在位置、移動速度、移動方向等を算出する位置算出部212aを備えている。入力データ演算処理部212は、移動局の現在位置、移動速度、移動方向等の情報を含む位置信号を生成する。
【0047】
出力データ演算処理部213は、送受信部200から送信するデータを生成するための演算処理を行う。また、出力データ演算処理部213は、送受信部210による無線通信の設定を調整するための送受信調整部213aを具備している。
【0048】
入出力装置220は、例えば操作ボタンや表示パネルを具備し、車両に搭載され車両の搭乗者によって操作される。
【0049】
次に、以上のように構成された無線通信装置10及び無線通信装置20の動作について説明する。
図5は、固定局の無線通信装置10の動作を示すフローチャートである。
道路の路側に設けられた無線通信装置10は、道路上を走行する特定の通信対象車両(無線通信機能を有する移動局)から送信される位置信号を受信する(ステップS51)。本実施形態においては、無線通信機能を有する車両からは、当該車両の現在位置や移動速度等の情報を含む位置信号が周期的に無線送信されているものとする。また、位置信号の送信は高周波と低周波を交互に用いて行なわれているものとする(図6参照)。
【0050】
無線通信装置10の入力データ演算処理部112は、受信した位置信号から対象車両の移動情報を検出する(ステップS52)。例えば位置算出部112aは、位置信号に基づいて、対象車両の現在位置、進行方向、移動速度等を算出する。算出された移動情報は出力データ演算処理部113に送られる。また、入力データ演算処理部112は、受信した位置信号が高周波と低周波のいずれを用いて送信されたかも検出する。
【0051】
出力データ演算処理部113では、送受信調整部113aが、当該移動情報に応じて送受信部100におけるアンテナの指向角度と電波出力を調整する(ステップS53)。すなわち送受信調整部113aは、アンテナ101、103のカバー範囲が狭くなり、対象車両への指向性が高くなるように、アレイアンテナ制御装置102、104の設定を調整する。
【0052】
送受信部100からは、車両ガイド部115が生成したガイド情報が、対象車両へ向けて無線送信される(ステップS54)。入力データ演算処理部112が検出した位置信号の送信周波数が高周波であった場合は、ガイド情報も高周波で送信される。位置信号の送信周波数が低周波であった場合は、ガイド情報も低周波で送信される。送受信調整部113aによる調整によって、送受信部100のアンテナのカバー範囲は、対象車両のみを強く指向するように設定されている。このため、マルチパス(多重伝播)を低減することができる(図2参照)。
【0053】
次に、移動局に搭載される無線通信装置20の動作を説明する。
図6は、移動局の無線通信装置20の動作を示すフローチャートである。本実施形態においては、無線通信機能を有し道路上を走行する車両(移動局)に搭載された無線通信装置20は、所定の周期で位置信号を無線送信する。
無線通信装置20の送信部200では、高周波用アンテナ201から当該車両の位置情報が発信される(ステップS61)。ここで、アンテナ201から発信される位置情報には、位置算出部212aが算出した当該移動局の現在位置、移動速度及び移動方向等の移動局の移動情報が含まれる。
【0054】
通信制御部211は、高周波での位置信号の送信から所定の時間が経過したか否かを判定する(ステップS62)。所定の時間が経過していなければ(ステップS62でNo)、所定時間まで待機する。
【0055】
高周波での位置信号の送信から所定時間が経過したら(ステップS62でYes)、低周波用アンテナ203から当該車両の位置情報が発信される(ステップS63)。
【0056】
通信制御部211は再び、低周波での位置信号の送信から所定の時間が経過したか否かを判定する(ステップS64)。所定の時間が経過していなければ(ステップS64でNo)、所定時間まで待機する。
【0057】
低周波での位置信号の送信から所定時間が経過したら(ステップS64でYes)、フローはステップS61の処理に戻る。以降、同様に位置信号の送信が高周波と低周波を交互に用いて繰り返される。
【0058】
固定局では、図5のフローチャートに示すように、移動局から送信される移動情報に基づいて、アンテナの指向性が狭くなるように調整する。このため、マルチパスの影響が低減された無線通信が可能となる。また、移動局からの移動情報は周期的に送信されるため、アンテナの指向範囲の調整を随時行なうことができる。
【0059】
また本実施形態では、固定局と移動局との間の通信状態は、隣接する固定局でも監視するものとする。
【0060】
図7は、固定局の無線通信装置10が、隣接する固定局(隣接局)の通信状態を監視する場合の動作を示すフローチャートである。
無線通信装置10は、隣接する固定局の通信対象車両(無線通信機能を有する移動局)から送信される位置信号を受信する(ステップS71)。無線通信装置10の通信制御部111は、当該隣接局から対象車両に応答信号(ガイド情報)が所定の時間内に送信されたか否かを判定する(ステップS72)。隣接局から対象車両への応答がなされていれば(ステップS72でYes)、隣接局と対象車両の間では正常な通信が行われているとして、処理を終了する。
【0061】
一方、隣接局から対象車両への応答が所定時間内に送信されていない場合(ステップS72でNo)、何らかの理由で隣接局と対象車両の間の通信に障害が生じていると考えられる。この場合、隣接局に代わって、無線通信装置10が応答する。
【0062】
無線通信装置10の入力データ演算処理部112は、受信した位置信号から対象車両の移動情報を検出する(ステップS73)。例えば位置算出部112aは、位置信号に基づいて、対象車両の現在位置、進行方向、移動速度等を算出する。算出された移動情報は出力データ演算処理部113に送られる。また、入力データ演算処理部112は、受信した位置信号が高周波と低周波のいずれを用いて送信されたかも検出する。
【0063】
出力データ演算処理部113では、送受信調整部113aが、当該移動情報に応じて送受信部100におけるアンテナの指向角度と電波出力を調整する(ステップS74)。すなわち送受信調整部113aは、アンテナ101、103のカバー範囲が狭くなり、対象車両への指向性が高くなるように、アレイアンテナ制御装置102、104の設定を調整する。
【0064】
送受信部100からは、車両ガイド部115が生成したガイド情報が、対象車両へ向けて無線送信される(ステップS75)。入力データ演算処理部112が検出した位置信号の送信周波数が高周波の場合は、ガイド情報も高周波で送信される。位置信号の送信周波数が低周波であった場合は、ガイド情報も低周波で送信される。
【0065】
このように、道路の路側に設置された固定局では、隣接局と移動局との間の通信状態を監視している。このため、固定局と移動局の間の無線通信に障害が生じたとしても、隣接局から対象車両に応答を返すことができる。従って無線のバーストを防ぐことができる。
【0066】
図8は、隣接局と移動局との通信状態の監視する場合の走行車両の制御システムの概要を示す図である。
【0067】
図8に示す例では、道路の片側に固定式の無線通信装置(固定無線局(固定局))10E、10F及び10Gが並列している。固定局10Eがカバーする無線通信範囲はセルEで、固定局10Gがカバーする無線通信範囲はセルGによって表される。
【0068】
固定局10EがカバーするセルE内では、車両(移動局)C11が走行しているが、固定局10Eに隣接する固定局10Fでは、この固定局10Eと移動局C11の間の通信状態を図7のフローチャートに示す処理によって監視している。
【0069】
移動局C11から送信された位置信号に対して、固定局10Eからの応答が無い場合は、代わって固定局10Fから応答がなされる。この際、固定局10Fのアンテナ指向範囲はエリアF−1のように、移動局C11に向けて狭く設定される。このため、マルチパスの影響を低減した通信を行うことができる。
【0070】
同様に、固定局10GがカバーするセルG内では、車両(移動局)C12とC14が走行しているが、固定局10Gに隣接する固定局10Fでは、この固定局10Gと移動局C12の間の通信状態、及び固定局10Gと移動局C14の間の通信状態を監視している。
【0071】
移動局C12から送信された位置信号に対して、固定局10Gからの応答が無い場合は、代わって固定局10Fから応答がなされる。この際、固定局10Fのアンテナ指向範囲はエリアF−2のように、移動局C12に向けて狭く設定される。同様に、移動局C14から送信された位置信号に対して、固定局10Gからの応答が無い場合は、代わって固定局10Fから応答がなされる。この際、固定局10Fのアンテナ指向範囲はエリアF−3のように、移動局C14に向けて狭く設定される。
【0072】
このように、移動局と固定局の間に通信の障害が生じていても、隣接する固定局から指向範囲の狭い電波によって移動局に情報が送信される。このため、通信の安定性を確保することができる。
【0073】
次に、上述のフローチャートにおけるそれぞれの処理について、更に詳細に説明する。
本実施形態では、隣接する固定局間で、定期的にネットワークNWを介して、あるいは無線通信による通信を行い、情報を共有している。無線通信装置10の環境検出部114は、入力データ演算処理部112による演算結果や隣接局間での信号到達時間及び電波強度等の情報から、周囲の無線伝播環境の変化を検出する。環境検出部114は、降雨や降雪の状況、季節による周囲環境の変化を検出することができる。従って、図5に示すステップS53及び図7に示すステップS74において、アンテナの指向角や出力レベルを変動させる際に、環境検出部114が検出した環境変化を補正することもできる。
【0074】
例えば、降雨や降雪がある場合、高周波の無線電波については反射が大きくなる。このため、降雨時や降雪時には低周波のみを用いるように設定されてもよい。また、高周波を用いる場合でも、電波をどこかで反射させて、降雨や降雪による反射を打ち消すように設定することもできる。
【0075】
また、図6に示すステップS61及びステップS63では、移動局の位置情報が発信される。この位置情報に、計測部207のGPS装置が位置測量に使用した衛星番号と、車両の高さ情報が含まれていてもよい。
【0076】
本実施形態では、道路の路側に設置される固定局の無線通信装置10もGPS部107を具備している。このため、無線通信装置10の入力データ演算処理部112では、移動局から送られたGPSの衛星番号と車両の高さ情報に基づいて、マルチパス誤差を与える可能性のある衛星を検出することができる。
【0077】
従って位置算出部112aは、図5に示すステップS53及び図7に示すステップS73において、このマルチパス誤差を与える衛星の影響を排除して、対象車両の移動情報をより正確に検出することができる。このため、より正確にアンテナの指向範囲を設定することが可能となる。
【0078】
また、位置算出部112aは、制御部110が保持している設置地点の位置情報と、GPS部107が受信したGPS信号から算出される当該制御部110の位置情報とを比較する。比較の結果、位置情報間にずれが生じていれば、そのずれに基づいて大気中での電波の減衰を見積もることができる。従って、位置算出部112aは、図5に示すステップS53及び図7に示すステップS74において、大気中での減衰の影響を排除して、対象車両の移動情報をより正確に検出することができる。
【0079】
更に、車両と車両が重なる場所ではシャドーイングが発生して通信できない可能性がある。本実施形態では、隣接する固定局の間でネットワークNW又は無線通信を介して車両(移動局)の移動情報を共有している。このため位置算出部112aは、複数の移動局の移動情報に基づいて、移動局と移動局が重なる位置を予測することできる。従って、車両ガイド部115が生成するガイド情報に、当該位置では位置情報の送信のタイミングを変更するよう指示する指示情報を含めることができる。このガイド情報が、図5に示すステップS54又は図7に示すステップS75で移動局に送信される。移動局では、ガイド情報に含まれる当該指示情報に従って、図6に示すステップS61又はステップS63による位置信号の送信タイミングをずらすことができる。このため、車両が重なるような場合であっても、シャドーイングによる通信断の発生を防止できる。
【0080】
また、車両ガイド部115は、車両の移動情報を蓄積することにより、道路の混雑状況等を検出することができる。道路が込んでいる場合には、各車両の移動速度が遅いものと考えられる。このため、位置信号の送信頻度を少なくするように指示する指示情報を生成して、ガイド情報に含めることもできる。このガイド情報が、図5に示すステップS54又は図7に示すステップS75で移動局に送信される。移動局では、ガイド情報に含まれる当該指示情報に従って、図6に示すステップS62又はステップS64で判定する所定時間を長くする。また、移動速度が遅い場合には、車両の位置や速度等について、前回の送信時との差分だけを送信するように指示することもできる。このように構成することで、送受信されるデータの容量を減らすことが可能となる。
【0081】
なお、以上の説明では、道路上を走行する自動車と、この自動車と無線通信を行って走行を制御する無線装置からなるシステムに、本実施形態に係る無線通信システムを適用する例が想定されている。しかしながら本実施形態に係る無線通信システム、列車、エレベータ及びエスカレータ等様々な移動体の制御システムにも同様に適用することができる。
【0082】
また、以上の説明では、移動局の無線通信装置20からは高周波と低周波を交互に用いて位置信号を送信するとした。高周波用アンテナ201と低周波用アンテナ203の送受信周波数は予め定められていてもよいが、高周波無線通信部205及び低周波無線通信部206の制御により、ある程度調整が可能であってもよい。固定局の無線通信装置10についても同様である。
【0083】
本願発明は、前記各実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。さらに、前記各実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、1つの実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されたり、幾つかの実施形態に示される構成要件が組み合わされても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除されたり組み合わされた構成が発明として抽出され得るものである。
【符号の説明】
【0084】
C1〜C14…車両、10A〜10G…無線通信装置、10…無線通信装置、100…送受信部、107…GPS部、108…データ入出力インタフェース、110…制御部、120…入出力装置、20…無線通信装置、200…送受信部、207…計測部、208…データ入出力インタフェース、210…制御部、220…入出力装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に設けられる移動局無線装置と、前記移動体の移動経路に沿って設けられる固定局無線装置からなる無線通信システムであって、
前記移動局無線装置は、前記移動体の位置情報を前記固定局無線装置に送信し、前記固定局無線装置からの応答信号を受信する送受信手段を具備し、
前記固定局無線装置は、
前記移動局無線装置から送信された前記位置情報を受信する受信手段と、
前記移動局無線装置への応答信号を生成する生成手段と、
前記移動局無線装置に前記応答信号を送信する送信手段と、
前記送信手段のアンテナ指向範囲を前記位置情報に基づいて調整する調整手段と、
を具備する無線通信システム。
【請求項2】
前記送信手段は、アレーアンテナを備え、
前記調整手段は、前記アレーアンテナの位相を制御することで前記アンテナ指向範囲を調整する請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記移動局無線装置の送受信手段は、高周波と低周波を交互に用いて前記位置情報を周期的に前記固定局無線装置に送信し、
前記固定局無線装置の送信手段は、前記位置情報の送信に用いられた周波数で、前記応答信号を前記移動局無線装置に送信する請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記固定局無線装置は、隣接する隣接固定局無線装置と当該隣接固定局無線装置の通信対象である隣接移動体に設けられる隣接移動局無線装置との間の通信状態を監視する監視手段を更に具備し、
前記監視手段によって前記通信状態の障害が検出された場合に、
前記受信手段は、前記隣接移動局無線装置から送信された位置情報を受信し、
前記調整手段は、前記隣接移動局無線装置の位置情報に基づいて前記送信手段のアンテナ指向範囲を調整し、
前記送信手段は、前記応答信号を前記隣接移動局無線装置に送信する請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記固定局無線装置は、周囲の無線伝播環境を検出する環境検出手段を更に具備し、
前記調整手段は、前記無線伝播環境に応じて前記送信手段のアンテナ指向範囲及び出力レベルを調整する請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記移動局無線装置は、
複数のGPS(Global positioning system)衛星からのGPS信号を受信する第1のGPS受信手段と、
前記第1のGPS受信手段が受信したGPS信号に基づいて前記移動体の位置を算出する位置算出手段と、
を更に具備し、
前記位置情報は、前記位置算出手段が算出した前記移動体の位置を含み、
前記固定局無線装置は、複数のGPS衛星からのGPS信号を受信する第2のGPS受信手段を更に具備し、
前記位置算出手段による前記移動体の位置の算出においてマルチパス誤差の原因となったGPS衛星を、前記第2のGPS受信手段が受信したGPS信号に基づいて特定し、前記マルチパス誤差の影響を排除して前記移動体の位置を検出する請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記固定局無線装置は、
前記固定局無線装置が設置された位置を予め保持する保持手段と、
前記第2のGPS受信手段が受信したGPS信号に基づいて前記固定局無線装置の位置を算出する算出部を更に具備し、
前記保持手段が保持する位置と、前記算出部が算出した位置とのずれに基づいて、大気による無線電波の減衰量が検出され、
前記調整手段は、前記減衰量に基づいて前記送信手段のアンテナ指向範囲を調整する請求項6に記載の無線通信システム。
【請求項8】
前記固定局無線装置は、
少なくとも1以上の他の固定局無線装置と接続され、当該他の固定局無線装置と前記位置情報を共有し、
前記共有された位置情報から、前記移動体が他の移動体と前記移動経路上で重なる重複位置を予測する予測手段を更に具備し、
前記生成手段は、前記移動体が前記重複位置に達したら前記位置情報の送信タイミングをずらすよう指示する応答信号を生成する請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項9】
前記固定局無線装置は、
少なくとも1以上の他の固定局無線装置と接続され、当該他の固定局無線装置と前記位置情報を共有し、
前記共有された位置情報から、前記移動経路上の混雑状況を予測する予測手段を更に具備し、
前記生成手段は、前記混雑状況に応じたタイミングで前記位置情報を送信するよう指示する応答信号を生成する請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項10】
前記生成手段は、前記移動体の移動方向にある他の固定局無線装置の情報を前記応答信号として生成する請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項11】
移動体の移動経路に沿って設けられ、前記移動体に設けられた移動局無線装置と無線通信を行う無線装置であって、
前記移動局無線装置から送信された前記移動局の位置情報を受信する受信手段と、
前記移動局無線装置への応答信号を生成する生成手段と、
前記移動局無線装置に前記応答信号を送信する送信手段と、
前記送信手段のアンテナ指向範囲を前記位置情報に基づいて調整する調整手段と、
を具備する無線装置。
【請求項12】
前記送信手段は、アレーアンテナを備え、
前記調整手段は、前記アレーアンテナの位相を制御することで前記アンテナ指向範囲を調整する請求項11に記載の無線装置。
【請求項13】
前記送信手段は、前記移動局無線装置からの位置情報の送信に用いられた周波数で、前記応答信号を前記移動局無線装置に送信する請求項11に記載の無線装置。
【請求項14】
隣接する隣接無線装置と当該隣接無線装置の通信対象である隣接移動体に設けられる隣接移動局無線装置との間の通信状態を監視する監視手段を更に具備し、
前記監視手段によって前記通信状態の障害が検出された場合に、
前記受信手段は、前記隣接移動局無線装置から送信された位置情報を受信し、
前記調整手段は、前記隣接移動局無線装置の位置情報に基づいて前記送信手段のアンテナ指向範囲を調整し、
前記送信手段は、前記応答信号を前記隣接移動局無線装置に送信する請求項11に記載の無線装置。
【請求項15】
周囲の無線伝播環境を検出する環境検出手段を更に具備し、
前記調整手段は、前記無線伝播環境に応じて前記送信手段のアンテナ指向範囲及び出力レベルを調整する請求項11に記載の無線装置。
【請求項16】
前記位置情報は、前記移動体において複数のGPS(Global positioning system)衛星からのGPS信号に基づいて算出された前記移動体の位置を含み、
前記無線装置は、複数のGPS衛星からのGPS信号を受信するGPS受信手段を更に具備し、
前記移動体における位置の算出においてマルチパス誤差の原因となったGPS衛星を、前記第2のGPS受信手段が受信したGPS信号に基づいて特定し、前記マルチパス誤差の影響を排除して前記移動体の位置を検出する請求項11に記載の無線装置。
【請求項17】
前記無線装置が設置された位置を予め保持する保持手段と、
前記GPS受信手段が受信したGPS信号に基づいて前記無線装置の位置を算出する算出部を更に具備し、
前記保持手段が保持する位置と、前記算出部が算出した位置とのずれに基づいて、大気による無線電波の減衰量が検出され、
前記調整手段は、前記減衰量に基づいて前記送信手段のアンテナ指向範囲を調整する請求項16に記載の無線装置。
【請求項18】
前記無線装置は、
少なくとも1以上の他の無線装置と接続され、当該他の無線装置と前記位置情報を共有し、
前記共有された位置情報から、前記移動体が他の移動体と前記移動経路上で重なる重複位置を予測する予測手段を更に具備し、
前記生成手段は、前記移動体が前記重複位置に達したら前記位置情報の送信タイミングをずらすよう指示する応答信号を生成する請求項11に記載の無線装置。
【請求項19】
前記無線装置は、
少なくとも1以上の他の無線装置と接続され、当該他の無線装置と前記位置情報を共有し、
前記共有された位置情報から、前記移動経路上の混雑状況を予測する予測手段を更に具備し、
前記生成手段は、前記混雑状況に応じたタイミングで前記位置情報を送信するよう指示する応答信号を生成する請求項11に記載の無線装置。
【請求項20】
前記生成手段は、前記移動体の移動方向にある他の無線装置の情報を前記応答信号として生成する請求項11に記載の無線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−142517(P2011−142517A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2290(P2010−2290)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】