無線通信装置
【課題】再生品質およびリアルタイム性を低下させることなく、異なる無線通信ネットワークへのハンドオーバが可能な無線通信装置を提供する。
【解決手段】第1無線通信ネットワーク15から第2無線通信ネットワーク16へハンドオーバする際に、ハンドオーバ制御部36により、事前に、ハンドオーバまでの準備時間と、第1無線通信ネットワーク15および第2無線通信ネットワーク16におけるそれぞれの遅延時間とを取得し、これらの取得情報に基づいて、実行中のアプリケーションの再生速度を制御する。
【解決手段】第1無線通信ネットワーク15から第2無線通信ネットワーク16へハンドオーバする際に、ハンドオーバ制御部36により、事前に、ハンドオーバまでの準備時間と、第1無線通信ネットワーク15および第2無線通信ネットワーク16におけるそれぞれの遅延時間とを取得し、これらの取得情報に基づいて、実行中のアプリケーションの再生速度を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる無線通信ネットワーク間でのハンドオーバが可能な無線通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、IETF(Internet Engineering Task Force)では、ユビキタス環境の実現に向けて、例えば携帯電話ネットワークや無線LAN等、異なる複数の無線通信ネットワーク間でのハンドオーバを可能として、シームレスな移動を行うIPモビリティ技術が検討されている。このIPモビリティ技術における具体的なプロトコルとしては、通信端末個々の移動をサポートするモバイルIPv4およびモバイルIPv6(以下、これらを総称してモバイルIPと略称する)があり、ネットワーク単位での移動をサポートするNEMO(Network Mobility)がある。
【0003】
ところで、無線通信ネットワークを介して、VoIPなどのリアルタイム性を有するアプリケーション(以下、適宜、アプリと略称する)を実行する場合、無線通信経路の許容帯域は、フェージング等の伝搬環境に依存して変化し、その許容帯域の変化に応じて通信端末が受信するパケットの到着間隔も変化する。
【0004】
このため、一般には、通信端末にジッタバッファを設けて、受信したパケットを一旦、ジッタバッファに溜め込み、その後、アプリに応じた間隔でジッタバッファからパケットを読み出して再生することにより、パケットの揺らぎ、すなわち到着間隔のずれ(ジッタ)によるパケットの再生間隔のずれを吸収して、再生音質等の再生品質の低下を防止するようにしている。また、ジッタが大きく、ジッタバッファ内のパケットがなくなって無音等が発生してしまう場合や、短時間で大量にパケットを受信して、パケットがジッタバッファに入りきらない場合などは、再生速度を変えたり、受信したパケットを破棄したり、ジッタバッファのサイズを変更したり、している。
【0005】
一方、通信端末が受信するパケットの下り絶対遅延時間、すなわち、相手通信端末から送信されたパケットが、無線通信ネットワークを介して受信されるまでに要する時間は、無線通信ネットワークに応じて異なる。このため、通信端末が移動する無線通信装置の場合には、異なる無線通信ネットワークにハンドオーバした際に、例えば、ハンドオーバ先の下り絶対遅延時間が、ハンドオーバ元の下り絶対遅延時間より長いと、その差の分だけ、パケットの受信空き時間が生じることになる。
【0006】
このような場合、例えば、ジッタバッファからのパケットの読み出し間隔を、アプリに応じた一定の間隔として、一定の再生速度でパケットを再生するようにすると、ハンドオーバ元の無線通信ネットワークから受信した最後のパケットが、ジッタバッファから読み出されるまでに要する時間(すなわち、ジッタバッファ標準遅延時間)よりも、上記の受信空き時間が長い場合には、その長い分の時間は、ジッタバッファ内のパケットが空となる。その結果、少なくとも、この時間帯は、パケットの再生が行われないため、無音等の状態となって再生品質の低下を招くことになる。
【0007】
図10は、この場合のジッタバッファの制御方法を説明するための図で、図10(a)は、ジッタバッファが単位時間当たりに受信するパケット数、図10(b)は、ジッタバッファからのパケットの再生速度(読み出し間隔)、図10(c)は、ジッタバッファ内のパケット数を示している。また、図11は、この場合のパケットの流れを示しており、「送信」は、相手通信端末によるパケットの送信タイミング、「受信」は、無線通信装置のジッタバッファが受信するパケットの受信タイミング、「再生」は、無線通信装置によるパケットの再生タイミング(ジッタバッファからのパケットの読み出しタイミング)を示している。なお、ここでは、ハンドオーバ元の無線通信ネットワークAおよびハンドオーバ先の無線通信ネットワークBの各々において、受信パケットに揺らぎ(到着間隔のずれ)はないものとして示している。
【0008】
図10および図11から明らかなように、ハンドオーバ先の無線通信ネットワークBにおける下り絶対遅延時間TddnBが、ハンドオーバ元の無線通信ネットワークAにおける下り絶対遅延時間TddnAよりも長く、かつ、(TddnB−TddnA)が、ジッタバッファ内に標準のパケット数が蓄積されている場合に受信パケットが受けるジッタバッファ標準遅延時間Taよりも長い場合には、Tn={(TddnB−TddnA)−Ta}、の時間は、パケットの再生が行われないことになる。しかも、この場合には、ハンドオーバ先の無線通信ネットワークBからパケットを受信したら、直ちに再生することになるため、ジッタを吸収できないことになる。
【0009】
このようなハンドオーバ時の不具合を改善し得るものとして、例えば、パケットの受信状況を監視し、パケットが通常の受信間隔で受信できなかった場合には、ジッタバッファからのパケットの読み出し、すなわちパケットの再生速度を制御するようにしたジッタバッファの制御方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
図12は、特許文献1に開示されたジッタバッファの制御方法を説明するための図で、図12(a)〜(c)は、図10(a)〜(c)と同様に、ジッタバッファの単位時間当たりの受信パケット数、再生速度、ジッタバッファ内のパケット数を示している。また、図13は、この場合のパケットの流れを示している。
【0011】
図12および図13においては、下り絶対遅延時間がTddnAの無線通信ネットワークAから、TddnAよりも長い下り絶対遅延時間TddnBの無線通信ネットワークBにハンドオーバした場合のように、それまでの受信間隔でパケットが受信できなかった場合には、受信間隔の増加に従って、ジッタバッファ内のパケットの再生速度を徐々に低速とし、その後、受信間隔が正常に戻った場合には、ジッタバッファ内のパケット数に応じて、再生速度を通常の再生速度まで徐々に増加させるように制御している。
【0012】
【特許文献1】特開2006−238445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、図12および図13に示したジッタバッファの制御方法においては、単に、それまでの受信間隔でパケットが受信できなかった場合に、ジッタバッファに現在溜まっているパケットの再生速度を徐々に遅くするように制御しており、パケットの受信間隔がどれだけ空くかは検知していない。このため、ハンドオーバ先の下り絶対遅延時間TddnBが比較的長い場合には、再生速度の低速変化が大きくなって、再生品質の低下を招くことが懸念される。
【0014】
また、図12および図13は、ジッタバッファ内のパケットが空となって、無音等が発生しなかった場合の制御例を示しているが、実際には、パケットの受信間隔がどれだけ空くかは未知であるため、ジッタバッファ標準遅延時間Taやハンドオーバ先の下り絶対遅延時間TddnBによっては、ジッタバッファ内のパケットが空となって、無音等が発生することも懸念される。なお、無音等の発生を防止するため、ジッタバッファ標準遅延時間Taを、より大きくすることも考えられるが、このようにすると、例えば、VoIPにおいては、相手端末からのパケットの再生に遅れが生じるため、リアルタイム性に欠けることになる。
【0015】
したがって、かかる点に鑑みてなされた本発明の目的は、再生品質およびリアルタイム性を低下させることなく、異なる無線通信ネットワークへのハンドオーバが可能な無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成する請求項1に係る無線通信装置の発明は、
第1無線通信ネットワーク、および該第1無線通信ネットワークと異なる第2無線通信ネットワークに接続して無線通信を実行する無線通信部と、
該無線通信部を介してリアルタイム通信系のアプリケーションを実行する実行部と、
前記第1無線通信ネットワークに接続して前記アプリケーションを実行中に、当該第1無線通信ネットワークにおける無線リンクの通信品質を取得する通信品質取得部と、
該通信品質取得部により取得した前記通信品質に基づいて、前記第1無線通信ネットワークから前記第2無線通信ネットワークへのハンドオーバの準備を開始するか否かを決定する決定部と、
前記アプリケーションの実行中に、前記決定部がハンドオーバ準備の開始を決定すると、前記通信品質取得部が取得した通信品質に基づいてハンドオーバを開始するまでのハンドオーバ準備時間を推定する推定部と、
前記決定部がハンドオーバ準備の開始を決定すると、前記第1無線通信ネットワークおよび前記第2無線通信ネットワークにおけるそれぞれの遅延時間を計測する計測部と、
前記推定部により推定した準備時間と、前記計測部により計測した前記第1無線通信ネットワークおよび前記第2無線通信ネットワークにおけるそれぞれの遅延時間とに基づいて、前記実行部による当該アプリケーションの再生速度を制御する制御部と、
を備えることを特徴とするものである。
【0017】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の無線通信装置において、
前記制御部は、前記第1無線通信ネットワークにおける遅延時間と第2無線通信ネットワークにおける遅延時間とを比較し、前記第2無線通信ネットワークにおける遅延時間の方が、前記第1無線通信ネットワークにおける遅延時間よりも所定時間以上長い場合に、前記実行部による当該アプリケーションの再生速度を遅くすることを特徴とするものである。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の無線通信装置において、
前記制御部は、ハンドオーバの準備を開始してから、前記実行部による当該アプリケーションの再生速度を遅くすることを特徴とするものである。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項2に記載の無線通信装置において、
前記実行部は、ジッタバッファと、該ジッタバッファのデータ量を監視するジッタバッファ監視部と、を備え、
前記制御部は、前記第2無線通信ネットワークへのハンドオーバが完了した後、前記ジッタバッファ監視部が監視する前記ジッタバッファのデータ量が所定量を越えると、当該アプリケーションの再生速度を通常の速度に戻すことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、第1無線通信ネットワークから第2無線通信ネットワークへハンドオーバする際に、事前に、ハンドオーバまでの準備時間と、第1無線通信ネットワークおよび第2無線通信ネットワークにおけるそれぞれの遅延時間とを取得するので、例えば、ハンドオーバ先の第2無線通信ネットワークの遅延時間が、ハンドオーバ元の第1無線通信ネットワークの遅延時間よりも長い場合には、ハンドオーバ準備の開始を決定した時点から、どれだけの時間経過後に、どれだけの時間に亘ってパケットが到着しないかを知ることができる。これにより、パケットが到着しない期間にも、ハンドオーバ元の第1無線通信ネットワークから受信したパケットを再生できるように、ハンドオーバ準備の開始を決定した時点から、長い時間をかけて第1無線通信ネットワークおよび第2無線通信ネットワーク間における遅延時間差を吸収するように、再生速度を制御することができるので、標準の再生速度との差を小さくして、標準速度に近い速度で再生することができる。したがって、再生品質およびリアルタイム性を低下させることなく、第1無線通信ネットワークから第2無線通信ネットワークへのハンドオーバが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施の形態に係る無線通信装置が使用可能な通信ネットワークの概略構成を示す図である。図1において、移動ノードである無線通信装置11は、対向ノードである相手通信端末12との間で、リアルタイム通信系のアプリであるVoIPによる通話を行うものとする。無線通信装置11は、第1無線通信ネットワーク15と第2無線通信ネットワーク16との間で、ハンドオーバが可能となっている。第1無線通信ネットワーク15および第2無線通信ネットワーク16は、パケットネットワーク17を介して、インターネット18に結合されている。
【0023】
ここで、第1無線通信ネットワーク15は、例えば無線LANからなり、第2無線通信ネットワーク16は、例えばcdma2000 EV−DOの携帯電話ネットワークからなり、第1無線通信ネットワーク15の方が、第2無線通信ネットワーク16よりも、下り絶対遅延時間が短くなっている。なお、図1において、符号15aは、第1無線通信ネットワーク15のアクセスポイントを示し、符号16aは、第2無線通信ネットワーク16の基地局を示している。
【0024】
相手通信端末12は、例えば送受話器12aが接続され、ソフトフォンがインストールされたパーソナルコンピュータからなり、図示しないインターネットサービスプロバイダを介してインターネット18に接続されている。
【0025】
また、パケットネットワーク17およびインターネット18には、それぞれ通信を制御するSIP(Session Initiation Protocol)サーバ21および22が接続されている。さらに、インターネット18には、無線通信装置11宛の受信パケットを、無線通信装置11が接続されている無線通信ネットワークに転送するホームエージェント(HA)23が接続されている。
【0026】
図1に示す通信ネットワークにおいては、HA23に、無線通信装置11が本来属する無線通信ネットワークで用いるホームアドレスを登録するとともに、ハンドオーバ時に、ハンドオーバ先の無線通信ネットワーク16の気付けアドレス(care of address)を登録することにより、異なる無線通信ネットワーク間でのハンドオーバを可能としている。なお、このようなIPモビリティ技術については、上述したモバイルIPや、NEMOにおいて公知であるので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0027】
本実施の形態では、説明の便宜上、無線通信装置11が本来属する無線通信ネットワークを第1無線通信ネットワーク15として、この第1無線通信ネットワーク15から第2無線通信ネットワーク16へハンドオーバするものとする。
【0028】
図2は、図1に示した本実施の形態に係る無線通信装置11の概略構成を示す機能ブロック図である。無線通信装置11は、第1無線通信ネットワーク15に対応する第1無線I/F(インターフェース)31と、第2無線通信ネットワーク16に対応する第2無線I/F32と、VoIPのアプリを実行する電話機能部33と、第1無線通信ネットワーク15および第2無線通信ネットワーク16への接続を制御する通信処理部34と、第1無線通信ネットワーク15および第2無線通信ネットワーク16の無線情報を取得する無線情報取得部35と、第1無線通信ネットワーク15と第2無線通信ネットワーク16との間のハンドオーバを制御するハンドオーバ制御部36と、を有する。
【0029】
通信処理部34は、無線通信を実行する無線通信部を構成するもので、電話機能部33と相手通信端末12との間で、第1無線通信ネットワーク15または第2無線通信ネットワーク16を介して通話を行うとともに、ハンドオーバ制御部36による制御のもとに、HA23と通信するように、第1無線I/F31または第2無線I/F32の接続を制御する。
【0030】
無線情報取得部35は、無線情報として、第1無線I/F31および第2無線I/F32から、それぞれ対応する第1無線通信ネットワーク15および第2無線通信ネットワーク16の通信品質を取得し、その取得した通信品質をハンドオーバ制御部36に供給する。ここで、通信品質は、例えば、無線状態を表すRSSI(Received Signal Strength Indicator)を取得する。したがって、本実施の形態では、無線情報取得部35が、無線リンクの通信品質を取得する通信品質取得部を構成している。
【0031】
ハンドオーバ制御部36は、無線情報取得部35からの通信品質に基づいて、ハンドオーバを予定するか否か、すなわちハンドオーバの準備を開始するか否かの決定を含むハンドオーバ情報を生成し、そのハンドオーバ情報に基づいてハンドオーバを制御する。
【0032】
図3は、図2に示した無線通信装置11の電話機能部33の概略構成を示す機能ブロック図である。電話機能部33は、例えばソフトフォンからなり、公知のソフトフォンの構成と同様に、ボタン入力部41、画面表示部42、マイク43、エンコーダ44、パケット送信部45、パケット受信部46、ジッタバッファ47、デコーダ48、スピーカ49、ジッタバッファ監視部50、ジッタバッファ制御部51、SIP制御部52、および全体の動作を制御する全体制御部53を有する。
【0033】
全体制御部53は、ボタン入力部41や画面表示部42を介して、ユーザの操作情報を取得し、その取得情報に基づいて全体の動作を制御する。また、SIP制御部52は、通話の開始や終了のSIPの手続きを制御する。通話中は、マイク43から取得した音声データを、エンコーダ44でエンコードし、そのエンコードしたデータを、パケット送信部45からパケットにいれて、通信処理部34を経て相手通信端末12へ送信する。
【0034】
また、通信処理部34を経てパケット受信部46で受信した相手通信端末12からのパケットは、ジッタバッファ47に一旦取り込んでから読み出し、その読み出したパケットは、デコーダ48でペイロード部分をデコードして、スピーカ49から再生音声として出力する。なお、ジッタバッファ47のパケットの受信状況や、ジッタバッファ47内のパケット数の状態は、ジッタバッファ監視部50で監視し、その監視結果に基づいて、ジッタバッファ制御部51により、ジッタバッファ47からのパケットの読み出し速度や、受信したパケットの破棄などの処理を制御する。
【0035】
本実施の形態では、電話機能部33に、さらに、ハンドオーバ情報取得部55および再生速度計算部56を設けている。ハンドオーバ情報取得部55は、ハンドオーバ制御部36からのハンドオーバ情報を一定間隔毎に監視して、ハンドオーバの予定があるか否かの情報を取得する。ハンドオーバの予定があった場合には、ハンドオーバ情報取得部55は、さらに、ハンドオーバ制御部36から所要のハンドオーバ情報を取得して、その取得した所要のハンドオーバ情報を再生速度計算部56に供給する。
【0036】
再生速度計算部56は、ハンドオーバ情報取得部55から取得した所要のハンドオーバ情報に基づいて、ジッタバッファ47のパケットの読み出し速度、すなわち受信パケットの再生速度(本実施の形態では、VoIPアプリの再生速度)を制御するか否かを判定する。制御する場合には、再生速度計算部56は、当該取得した所要のハンドオーバ情報と、ジッタバッファ監視部50によるジッタバッファ47の監視結果とに基づいて、受信パケットの再生速度を計算し、その計算結果をジッタバッファ制御部51に供給する。これにより、ジッタバッファ制御部51は、受信パケットの再生速度が、再生速度計算部56で計算された再生速度となるように、ジッタバッファ47からの受信パケットの読み出しを制御する。したがって、本実施の形態では、電話機能部33が、リアルタイム通信系のアプリケーションを実行する実行部、および当該アプリケーションの再生速度を制御する制御部を構成している。
【0037】
以下、本実施の形態に係る無線通信装置11の動作について説明する。
【0038】
本実施の形態では、ハンドオーバ制御部36において、第1無線I/F31および第2無線I/F32からそれぞれ取得した通信品質に基づいて、ハンドオーバの予定を決定する。例えば、第1無線通信ネットワーク15と無線リンクを形成して通話を行っている場合に、第1無線I/F31から取得した通信品質がハンドオーバ予定決定閾値よりも悪くなり、かつ第2無線I/F32の通信品質がハンドオーバ予定決定閾値以上となった場合には、ハンドオーバ制御部36において、第2無線通信ネットワーク16へのハンドオーバ予定を決定する、すなわちハンドオーバ準備の開始を決定する。なお、通話に使用していない第2無線通信ネットワーク16の通信品質は、例えば、基地局16aから送信される報知情報を受信して取得する。
【0039】
ハンドオーバ制御部36は、ハンドオーバ予定を決定した場合には、ハンドオーバ開始までのハンドオーバ準備時間T1、現在使用中の無線通信ネットワーク(ここでは、第1無線通信ネットワーク15)におけるハンドオーバ元下り絶対遅延時間Tddn1、ハンドオーバ先の無線通信ネットワーク(ここでは、第2無線通信ネットワーク16)におけるハンドオーバ先下り絶対遅延時間Tddn2を取得し、これらの情報を所要のハンドオーバ情報として、ハンドオーバ予定有りを示す情報とともに、電話機能部33に供給する。したがって、本実施の形態では、ハンドオーバ制御部36が、ハンドオーバの準備を開始するか否かを決定する決定部、ハンドオーバ準備時間を推定する推定部、および第1無線通信ネットワーク15および第2無線通信ネットワーク16におけるそれぞれの遅延時間を計測する計測部を構成している。
【0040】
次に、ハンドオーバ制御部36による、ハンドオーバ準備時間T1、ハンドオーバ元下り絶対遅延時間Tddn1、ハンドオーバ先下り絶対遅延時間Tddn2の取得方法について説明する。
【0041】
(ハンドオーバ準備時間T1の取得方法)
ハンドオーバ準備時間T1は、例えば、図4(a)および(b)に示すように、通信品質を決定する無線状態(Rs)の単位時間の変化率ΔRs(傾き)に基づいて算出する。ここで、変化率ΔRsは、無線状態がハンドオーバ予定決定閾値を下回ってハンドオーバ予定を決定した時点で計測して取得することもできるが、本実施の形態では、当該通話中において、ハンドオーバの予定決定時点から所定時間前までの変化率平均値ΔRsrmsを取得する。
【0042】
このため、ハンドオーバ制御部36は、下記の(1)式に従って、現在使用中の無線通信ネットワークにおける無線状態の変化率ΔRs(t)を所定のタイミングで算出して、所定時間前(例えば、2sec前)までの複数の変化率ΔRs(t)をメモリに保持するようにし、ハンドオーバ予定を決定したら、その時点で保持していた所定時間前までの変化率平均値ΔRsrmsを算出する。
[数1]
ΔRs(t)=|{Rs(t)−Rs(t-Δt)}/Δt| ・・・(1)
【0043】
その後、ハンドオーバ制御部36は、算出した変化率平均値ΔRsrmsが、予め設定した変化率閾値Rsrefよりも小さいか否かを判定する。その結果、ΔRsrms≦Rsrefの場合、すなわち、無線状態の変化が緩やかな場合には、図4(a)に示すように、ハンドオーバ準備時間T1を、予め設定した標準時間Tref(例えば、5sec)とする。
【0044】
これに対し、ΔRsrms>Rsrefの場合、すなわち、無線状態の変化が急激な場合には、例えば、T1=Tref(Rsref/ΔRsrms)、を演算して、変化率ΔRsrmsが大きいほど、ハンドオーバ準備時間T1を、標準時間Trefよりも短く設定する。図4(b)は、ΔRsrms>Rsrefの場合で、ハンドオーバ準備時間T1を、標準時間Trefのほぼ半分の時間(2.5sec)に設定した場合を示している。
【0045】
(絶対遅延時間Tddn1、Tddn2の取得方法)
ハンドオーバ元下り絶対遅延時間Tddn1およびハンドオーバ先下り絶対遅延時間Tddn2は、例えば、以下に説明する第1〜第4の絶対遅延時間取得方法のいずれかによって取得する。なお、本実施の形態では、相手通信端末(CN)12とHA23との間のネットワークは切替わらないので、この間の絶対遅延時間は考慮しないものとする。
【0046】
(a)第1の絶対遅延時間取得方法
ハンドオーバ制御部36においてハンドオーバの予定を決定したら、電話機能部33および/または通信処理部34を制御して、無線通信装置11と時間同期しているHA23に対して送信タイムスタンプを有する計測用パケットの送信を要求し、これにより、HA23から、第1無線通信ネットワーク15および第2無線通信ネットワーク16の双方に計測用パケットを送信させる。無線通信装置11は、HA23から送信された計測用パケットを、対応する第1無線I/F31および第2無線I/F32を介してそれぞれ受信し、その受信時刻と計測用パケットのタイムスタンプとから、対応するネットワークの下り絶対遅延時間Tddn1およびTddn2を計測する。なお、ハンドオーバ元の無線通信ネットワークの下り絶対遅延時間が、通話中の受信パケットから計測できる場合には、当該無線通信ネットワークへの計測用パケットの送出は省略することができる。
【0047】
(b)第2の絶対遅延時間取得方法
ハンドオーバ制御部36においてハンドオーバの予定を決定したら、電話機能部33および/または通信処理部34を制御して、無線通信装置11と時間同期しているHA23に対してその旨を通知し、これにより、上記第1の絶対遅延時間取得方法と同様に、HA23から、第1無線通信ネットワーク15および第2無線通信ネットワーク16の双方に計測用パケットを送信して、対応するネットワークの下り絶対遅延時間Tddn1およびTddn2を計測する。
【0048】
(c)第3の絶対遅延時間取得方法
ハンドオーバ制御部36においてハンドオーバの予定を決定したら、電話機能部33および/または通信処理部34を制御して、無線通信装置11から該無線通信装置11と時間同期しているHA23に対して、第1無線通信ネットワーク15および第2無線通信ネットワーク16の双方から、PINGやRTCP等の計測用パケットを送信し、その返信を受信して、対応するネットワークの下り絶対遅延時間Tddn1およびTddn2を計測する。
【0049】
(d)第4の絶対遅延時間取得方法
ハンドオーバ制御部36においてハンドオーバの予定を決定すると、IEEE802.21において検討されているハンドオーバ技術を利用して、各無線通信ネットワークの絶対遅延時間を取得する。その例示を以下に行う。
第1無線通信ネットワーク15の絶対遅延時間(Tddn1)の取得方法を以下に説明する。
無線通信装置11は、第1無線通信ネットワーク15の第1インフォメーションサーバに保持されている次の値を取得する。
・遅延時間を計測するために動作する計測用サーバ(例えば、インターネット18の基幹ネットワーク網に接続しているものとする)から第1無線通信ネットワーク15で接続している現在のアクセスポイント15aまでの片道遅延時間の標準値(Tn3)
・アクセスポイント15aとそこに繋がる端末間の上下の遅延時間の標準値(下り:Trdn3,上り:Trup3)
さらに、無線通信装置11は、PING等の計測用パケットをHA23に対して送信し、その返信を受信して、無線通信装置11とHA23との間の往復遅延時間Trt1を計測する。
そして、これらの値から第1無線通信ネットワーク15の絶対遅延時間Tddn1を、下記の(2)式に従って計算する。ただし、アクセスポイント15aとHA23との間の片道遅延時間が取得できないため、この片道遅延時間をTn3と、{Trt1-(Tn3+Trdn3+Tn3+Trup3)}/2との加算により近似値とする。
[数2]
Tddn1=Tn3+Trdn3+{Trt1-(Tn3+Trdn3+Tn3+Trup3)}/2 ・・・(2)
【0050】
次に、ハンドオーバ先である第2無線通信ネットワーク16の絶対遅延時間(Tddn2)の取得方法を以下に説明する。
無線通信装置11は、第1無線通信ネットワーク15の第1インフォメーションサーバを経由して、ハンドオーバ先の第2無線通信ネットワーク16に接続されている第2インフォメーションサーバに保持されている次の値を取得する。なお、第2インフォメーションサーバへは、無線通信装置11またはアクセスポイント15aで取得した無線通信装置11の位置情報を送信する。
・無線通信装置11が接続されると予想される基地局16aと計測用サーバとの間の片道遅延時間の標準値(Tn4)
・基地局16aとそこに繋がる端末間の上下の遅延時間の標準値(下り:Trdn4,上り:Trup4)
そして、これらの値から第2無線通信ネットワーク16の絶対遅延時間Tddn2を、下記の(3)式に従って計算する。ただし、基地局16aとHA23との間の片道遅延時間が取得できないため、この片道遅延時間をTn4と、{Trt1-(Tn3+Trdn3+Tn3+Trup3)}/2との加算により近似値とする。
[数3]
Tddn2=Tn4+Trdn4+{Trt1-(Tn3+Trdn3+Tn3+Trup3)}/2 ・・・(3)
【0051】
以上のようにして、ハンドオーバ制御部36は、ハンドオーバ準備時間T1、ハンドオーバ元下り絶対遅延時間Tddn1、およびハンドオーバ先下り絶対遅延時間Tddn2を取得して、それらの取得情報を電話機能部33に供給する。
【0052】
また、ハンドオーバ制御部36は、ハンドオーバ予定を決定した場合には、無線処理部34を制御して、第2無線I/F32を第2無線通信ネットワーク16に接続する。その後、ハンドオーバ制御部36は、ハンドオーバ準備時間T1が経過した時点で、ハンドオーバ先の第2無線通信ネットワーク16を介してHA23にRegistration Request(NEMOでは、Binding Update)を送信して、HA23にハンドオーバ先の気付けアドレス(care of address)を登録する。その際、Registration RequestメッセージのRegistration Request Fieldの8ビットをセットし(NEMOでは、Multiple care of addressを使用し)、第1無線通信ネットワーク15でも第2無線通信ネットワーク16でも通信できるようにする。これによりHA23から返信されるハンドオーバ完了情報であるRegistration Reply(NEMOでは、Binding Acknowledge)を受信したら、ハンドオーバ元の第1無線通信ネットワーク15の気付けアドレスの登録を解除し、接続を切断して、以後は、ハンドオーバ先の第2無線通信ネットワーク16を介してVoIPアプリを継続するように通信処理部34を制御するとともに、受信したハンドオーバ完了情報を電話機能部33に供給する。
【0053】
図5は、電話機能部33の要部の動作を示すシーケンス図である。電話機能部33のハンドオーバ情報取得部55は、ハンドオーバ制御部36からのハンドオーバ情報を一定間隔毎に監視し、ハンドオーバ予定有りの情報を取得した場合には、さらに、ハンドオーバ制御部36からの所要のハンドオーバ情報であるハンドオーバ準備時間T1、ハンドオーバ元下り絶対遅延時間Tddn1、ハンドオーバ先下り絶対遅延時間Tddn2を取得して、その取得した所要のハンドオーバ情報を再生速度計算部56に供給する。
【0054】
再生速度計算部56は、ハンドオーバ情報取得部55から取得した所要のハンドオーバ情報に基づいて、第2無線通信ネットワーク16の下り絶対遅延時間(Tddn2)と第1無線通信ネットワーク15の下り絶対遅延時間(Tddn1)との差T2(T2= Tddn2- Tddn1)を算出して、所定値(>0)を超えるか否かを判定し、所定値を超える場合には、当該取得した所要のハンドオーバ情報と、ジッタバッファ監視部50によるジッタバッファ47の監視結果とに基づいて、下記の(4)式から、ジッタバッファ47の受信パケットの再生速度vを計算する。なお、(4)式において、V1は、標準の再生速度を示し、Taは、ジッタバッファ47内の標準パケット数であるジッタバッファ標準遅延時間を示し、Tbは、ハンドオーバ予定有りの情報を受信した時点でのジッタバッファ47のパケット数であるジッタバッファ現在遅延時間を示している。また、再生速度(V,V1)は、時間比(時間/時間)で表している。
[数4]
V={V1・T1-(Ta-Tb)}/(T1+T2) ・・・(4)
【0055】
再生速度計算部56で算出した再生速度Vは、ジッタバッファ制御部51に供給し、これにより、受信パケットを標準の再生速度V1よりも低速の再生速度Vで再生するように、ジッタバッファ47からの受信パケットの読み出しを制御する。
【0056】
ここで、ジッタバッファ制御部51による受信パケットの再生速度制御は、例えば、以下に説明する第1の再生速度制御方法または第2の再生速度制御方法の何れかにより実行する。
【0057】
(a)第1の再生速度制御方法
標準の再生速度V1に対するジッタバッファ47からのパケットの読み出し間隔をTR1、上記(4)式における{V1・T1-(Ta-Tb)}/(T1+T2)をk、算出した再生速度Vに対応するジッタバッファ47からのパケットの読み出し間隔をTR、するとき、TR=TR1/k、とする。例えば、標準の再生速度V1では、ジッタバッファ47内のパケットを20msecの間隔で読み出して再生するVoIPアプリの場合において、再生速度Vを標準の再生速度V1の80%(k=0.8)とする場合には、ジッタバッファ47からのパケットの読み出し間隔TRを、TR=20/0.8(msec)、とする。
【0058】
(b)第2の再生速度制御方法
ハンドオーバのための再生速度のコントロールを開始したら、その直後に再生したパケット(最初のパケット)のタイムスタンプと、その再生時間とを組み合わせて記録する。その後のパケットについては、下記(5)式で示す時間Tvに、ジッタバッファ47から読み出して再生する。なお、(5)式において、TDは、遅延時間で、初期値は0である。
[数5]
Tv=(パケットのタイムスタンプ−最初のパケットのタイムスタンプ)+(最初のパケットの再生時間+TD) ・・・(5)
【0059】
ここで、ジッタバッファ47からパケットを読み出す際、[{V1/(V1-v)}-1]個目に読み出したパケットは、コピーしてデコーダ48内のメモリに記憶し、コピー元のパケットを再生した後、次の再生タイミングでコピーしたパケットを読み出して再生する。例えば、再生速度Vを、通常の再生速度V1の80%とする場合には、図6に示すように、ジッタバッファ47内の順次の4個のパケットP1〜P4を順番に読み出して再生するとともに、4個目のパケットP4はコピーし、そのコピーしたパケットP4′は、コピー元のパケットP4を再生した後、次の再生タイミングで再生する。その後、ジッタバッファ47からパケットP5を読み出す際は、上記(5)式のTDを、コピーによる再生間隔の時間分増加する。なお、[{V1/(V1-v)}-1]個目に読み出すパケットが、届いていなかったり、破棄されたりして、ジッタバッファ47にない場合には、次の再生タイミングのパケットに対して、同様の処理を行う。
【0060】
以上のようにして、ジッタバッファ制御部51による受信パケットの再生速度制御を実行する。その後、ハンドオーバ情報取得部55がハンドオーバ制御部36からハンドオーバ完了情報を取得したら、再生速度計算部56は、ジッタバッファ監視部50から一定時間毎にパケットの受信間隔時間を取得して、取得した受信間隔時間の所定時間における平均値を算出し、その算出したパケット受信間隔平均値と、当該VoIPアプリでの標準の受信間隔との差が、閾値以内に入ったか否かを監視する。
【0061】
その結果、閾値以内に入った場合には、再生速度計算部56は、ハンドオーバ先からのパケットを受信したと判定して、その時点でのジッタバッファ47内のパケット数(データ量)をジッタバッファ監視部50から取得し、その取得したパケット数が所定量を超えているか否かを判断する。
【0062】
その結果、ジッタバッファ47内のパケット数が所定量を超えていない場合には、t=(Ta-Tb)/ (V1-V)の後に、通常の再生速度制御に戻すようにジッタバッファ制御部51に指示する。これに対し、ジッタバッファ47内のパケット数が所定量を超えている場合には、直ちに通常の再生速度制御に戻すようにジッタバッファ制御部51に指示する。すなわち、再生速度計算部56が、ハンドオーバ先からのパケットを受信したと判断したら、ジッタバッファ制御部51は、ジッタバッファ47内のパケット数が所定量を超えると、通常の再生速度V1に戻すようにジッタバッファ47の読み出しを制御する。
【0063】
図7は、ハンドオーバ先からのパケットを受信したと判断してから、t=(Ta-Tb)/ (V1-V)の後に、通常の再生速度制御に戻す場合のジッタバッファ47の制御方法を説明するための図である。図7において、(a)は、ジッタバッファ47が単位時間当たりに受信するパケット数、(b)は、ジッタバッファ47からのパケットの再生速度(読み出し間隔)、(c)は、ジッタバッファ47内のパケット数を示している。
【0064】
図8および図9は、ハンドオーバ先からのパケットを受信したと判断してから、直ちに通常の再生速度制御に戻す場合のジッタバッファ47の制御方法を説明するための図である。図8において、(a)〜(c)は、図7(a)〜(c)と同様に、ジッタバッファ47が単位時間当たりに受信するパケット数、ジッタバッファ47からのパケットの再生速度(読み出し間隔)、ジッタバッファ47内のパケット数を示している。
【0065】
また、図9は、パケットの流れを示しており、「送信」は、相手通信端末12によるパケットの送信タイミング、「受信」は、無線通信装置11のジッタバッファ47が受信するパケットの受信タイミング、「再生」は、無線通信装置11によるパケットの再生タイミング(ジッタバッファ47からのパケットの読み出しタイミング)を示している。なお、ここでは、ハンドオーバ元の第1無線通信ネットワーク15およびハンドオーバ先の第2無線通信ネットワーク16の各々において、受信パケットに揺らぎ(到着間隔のずれ)はないものとして示している。
【0066】
本実施の形態によれば、絶対遅延時間Tddn1の短い第1無線通信ネットワーク15から、絶対遅延時間Tddn2の長い第2無線通信ネットワーク16にハンドオーバする場合、事前に、ハンドオーバまでの準備時間T1と、各絶対遅延時間Tddn1およびTddn2を取得するようにしたので、ハンドオーバ準備の開始を決定した時点から、どれだけの時間経過後に、どれだけの時間に亘ってパケットが到着しないかを知ることができる。これにより、パケットが到着しない期間にも、ハンドオーバ元の第1無線通信ネットワーク15から受信したパケットを再生できるように、ハンドオーバ準備の開始を決定した時点から、長い時間をかけて第1無線通信ネットワーク15および第2無線通信ネットワーク16間における絶対遅延時間差T2(T2= Tddn2- Tddn1)を吸収するように、再生速度Vを制御することができるので、標準の再生速度V1との差を小さくできる。
【0067】
したがって、ハンドオーバによるジッタの再生音への影響を少なくできるとともに、事前に再生速度を落とすことにより、無線状態の悪化によって予想よりもジッタが大きくなった場合にも無音の発生を防止できるので、再生品質およびリアルタイム性を低下させることなく、第1無線通信ネットワーク15から第2無線通信ネットワーク16へのハンドオーバが可能となる。
【0068】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。例えば、本発明は、VoIPのアプリを実行する場合に限らず、映像や音楽等のマルチメディアデータをストリーミング再生する場合のようなリアルタイム通信系のアプリを実行する場合にも有効に適用できる。この場合には、アプリの実行部を、電話機能部に代えて、同様のジッタバッファの制御機能を有するマルチメディア機能部で構成すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施の形態に係る無線通信装置が使用可能な通信ネットワークの概略構成を示す図である。
【図2】図1に示した無線通信装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示した無線通信装置の電話機能部の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図4】図2に示したハンドオーバ制御部によるハンドオーバ準備時間の算出方法を説明するための図である。
【図5】図3に示した電話機能部の要部の動作を示すシーケンス図である。
【図6】図3に示したジッタバッファ制御部による受信パケットの再生速度制御方法の一例を説明するための図である。
【図7】図3に示した電話機能部におけるジッタバッファの一制御例を説明するための図である。
【図8】図3に示した電話機能部におけるジッタバッファの他の制御例を説明するための図である。
【図9】図8に示した制御例によるパケットの流れを示す図である。
【図10】従来のジッタバッファの制御方法の一例を説明するための図である。
【図11】図10に示した制御方法によるパケットの流れを示す図である。
【図12】従来のジッタバッファの制御方法の他の例を説明するための図である。
【図13】図12に示した制御方法によるパケットの流れを示す図である。
【符号の説明】
【0070】
11 無線通信装置
12 相手通信端末
12a 送受話器
15 第1無線通信ネットワーク
15a アクセスポイント
16 第2無線通信ネットワーク
16a 基地局
17 パケットネットワーク
18 インターネット
21,22 SIPサーバ
23 ホームエージェント(HA)
31 第1無線I/F
32 第2無線I/F
33 電話機能部
34 通信処理部
35 無線情報取得部
36 ハンドオーバ制御部
47 ジッタバッファ
50 ジッタバッファ監視部
51 ジッタバッファ制御部
55 ハンドオーバ情報取得部
56 再生速度計算部
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる無線通信ネットワーク間でのハンドオーバが可能な無線通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、IETF(Internet Engineering Task Force)では、ユビキタス環境の実現に向けて、例えば携帯電話ネットワークや無線LAN等、異なる複数の無線通信ネットワーク間でのハンドオーバを可能として、シームレスな移動を行うIPモビリティ技術が検討されている。このIPモビリティ技術における具体的なプロトコルとしては、通信端末個々の移動をサポートするモバイルIPv4およびモバイルIPv6(以下、これらを総称してモバイルIPと略称する)があり、ネットワーク単位での移動をサポートするNEMO(Network Mobility)がある。
【0003】
ところで、無線通信ネットワークを介して、VoIPなどのリアルタイム性を有するアプリケーション(以下、適宜、アプリと略称する)を実行する場合、無線通信経路の許容帯域は、フェージング等の伝搬環境に依存して変化し、その許容帯域の変化に応じて通信端末が受信するパケットの到着間隔も変化する。
【0004】
このため、一般には、通信端末にジッタバッファを設けて、受信したパケットを一旦、ジッタバッファに溜め込み、その後、アプリに応じた間隔でジッタバッファからパケットを読み出して再生することにより、パケットの揺らぎ、すなわち到着間隔のずれ(ジッタ)によるパケットの再生間隔のずれを吸収して、再生音質等の再生品質の低下を防止するようにしている。また、ジッタが大きく、ジッタバッファ内のパケットがなくなって無音等が発生してしまう場合や、短時間で大量にパケットを受信して、パケットがジッタバッファに入りきらない場合などは、再生速度を変えたり、受信したパケットを破棄したり、ジッタバッファのサイズを変更したり、している。
【0005】
一方、通信端末が受信するパケットの下り絶対遅延時間、すなわち、相手通信端末から送信されたパケットが、無線通信ネットワークを介して受信されるまでに要する時間は、無線通信ネットワークに応じて異なる。このため、通信端末が移動する無線通信装置の場合には、異なる無線通信ネットワークにハンドオーバした際に、例えば、ハンドオーバ先の下り絶対遅延時間が、ハンドオーバ元の下り絶対遅延時間より長いと、その差の分だけ、パケットの受信空き時間が生じることになる。
【0006】
このような場合、例えば、ジッタバッファからのパケットの読み出し間隔を、アプリに応じた一定の間隔として、一定の再生速度でパケットを再生するようにすると、ハンドオーバ元の無線通信ネットワークから受信した最後のパケットが、ジッタバッファから読み出されるまでに要する時間(すなわち、ジッタバッファ標準遅延時間)よりも、上記の受信空き時間が長い場合には、その長い分の時間は、ジッタバッファ内のパケットが空となる。その結果、少なくとも、この時間帯は、パケットの再生が行われないため、無音等の状態となって再生品質の低下を招くことになる。
【0007】
図10は、この場合のジッタバッファの制御方法を説明するための図で、図10(a)は、ジッタバッファが単位時間当たりに受信するパケット数、図10(b)は、ジッタバッファからのパケットの再生速度(読み出し間隔)、図10(c)は、ジッタバッファ内のパケット数を示している。また、図11は、この場合のパケットの流れを示しており、「送信」は、相手通信端末によるパケットの送信タイミング、「受信」は、無線通信装置のジッタバッファが受信するパケットの受信タイミング、「再生」は、無線通信装置によるパケットの再生タイミング(ジッタバッファからのパケットの読み出しタイミング)を示している。なお、ここでは、ハンドオーバ元の無線通信ネットワークAおよびハンドオーバ先の無線通信ネットワークBの各々において、受信パケットに揺らぎ(到着間隔のずれ)はないものとして示している。
【0008】
図10および図11から明らかなように、ハンドオーバ先の無線通信ネットワークBにおける下り絶対遅延時間TddnBが、ハンドオーバ元の無線通信ネットワークAにおける下り絶対遅延時間TddnAよりも長く、かつ、(TddnB−TddnA)が、ジッタバッファ内に標準のパケット数が蓄積されている場合に受信パケットが受けるジッタバッファ標準遅延時間Taよりも長い場合には、Tn={(TddnB−TddnA)−Ta}、の時間は、パケットの再生が行われないことになる。しかも、この場合には、ハンドオーバ先の無線通信ネットワークBからパケットを受信したら、直ちに再生することになるため、ジッタを吸収できないことになる。
【0009】
このようなハンドオーバ時の不具合を改善し得るものとして、例えば、パケットの受信状況を監視し、パケットが通常の受信間隔で受信できなかった場合には、ジッタバッファからのパケットの読み出し、すなわちパケットの再生速度を制御するようにしたジッタバッファの制御方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
図12は、特許文献1に開示されたジッタバッファの制御方法を説明するための図で、図12(a)〜(c)は、図10(a)〜(c)と同様に、ジッタバッファの単位時間当たりの受信パケット数、再生速度、ジッタバッファ内のパケット数を示している。また、図13は、この場合のパケットの流れを示している。
【0011】
図12および図13においては、下り絶対遅延時間がTddnAの無線通信ネットワークAから、TddnAよりも長い下り絶対遅延時間TddnBの無線通信ネットワークBにハンドオーバした場合のように、それまでの受信間隔でパケットが受信できなかった場合には、受信間隔の増加に従って、ジッタバッファ内のパケットの再生速度を徐々に低速とし、その後、受信間隔が正常に戻った場合には、ジッタバッファ内のパケット数に応じて、再生速度を通常の再生速度まで徐々に増加させるように制御している。
【0012】
【特許文献1】特開2006−238445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、図12および図13に示したジッタバッファの制御方法においては、単に、それまでの受信間隔でパケットが受信できなかった場合に、ジッタバッファに現在溜まっているパケットの再生速度を徐々に遅くするように制御しており、パケットの受信間隔がどれだけ空くかは検知していない。このため、ハンドオーバ先の下り絶対遅延時間TddnBが比較的長い場合には、再生速度の低速変化が大きくなって、再生品質の低下を招くことが懸念される。
【0014】
また、図12および図13は、ジッタバッファ内のパケットが空となって、無音等が発生しなかった場合の制御例を示しているが、実際には、パケットの受信間隔がどれだけ空くかは未知であるため、ジッタバッファ標準遅延時間Taやハンドオーバ先の下り絶対遅延時間TddnBによっては、ジッタバッファ内のパケットが空となって、無音等が発生することも懸念される。なお、無音等の発生を防止するため、ジッタバッファ標準遅延時間Taを、より大きくすることも考えられるが、このようにすると、例えば、VoIPにおいては、相手端末からのパケットの再生に遅れが生じるため、リアルタイム性に欠けることになる。
【0015】
したがって、かかる点に鑑みてなされた本発明の目的は、再生品質およびリアルタイム性を低下させることなく、異なる無線通信ネットワークへのハンドオーバが可能な無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成する請求項1に係る無線通信装置の発明は、
第1無線通信ネットワーク、および該第1無線通信ネットワークと異なる第2無線通信ネットワークに接続して無線通信を実行する無線通信部と、
該無線通信部を介してリアルタイム通信系のアプリケーションを実行する実行部と、
前記第1無線通信ネットワークに接続して前記アプリケーションを実行中に、当該第1無線通信ネットワークにおける無線リンクの通信品質を取得する通信品質取得部と、
該通信品質取得部により取得した前記通信品質に基づいて、前記第1無線通信ネットワークから前記第2無線通信ネットワークへのハンドオーバの準備を開始するか否かを決定する決定部と、
前記アプリケーションの実行中に、前記決定部がハンドオーバ準備の開始を決定すると、前記通信品質取得部が取得した通信品質に基づいてハンドオーバを開始するまでのハンドオーバ準備時間を推定する推定部と、
前記決定部がハンドオーバ準備の開始を決定すると、前記第1無線通信ネットワークおよび前記第2無線通信ネットワークにおけるそれぞれの遅延時間を計測する計測部と、
前記推定部により推定した準備時間と、前記計測部により計測した前記第1無線通信ネットワークおよび前記第2無線通信ネットワークにおけるそれぞれの遅延時間とに基づいて、前記実行部による当該アプリケーションの再生速度を制御する制御部と、
を備えることを特徴とするものである。
【0017】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の無線通信装置において、
前記制御部は、前記第1無線通信ネットワークにおける遅延時間と第2無線通信ネットワークにおける遅延時間とを比較し、前記第2無線通信ネットワークにおける遅延時間の方が、前記第1無線通信ネットワークにおける遅延時間よりも所定時間以上長い場合に、前記実行部による当該アプリケーションの再生速度を遅くすることを特徴とするものである。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の無線通信装置において、
前記制御部は、ハンドオーバの準備を開始してから、前記実行部による当該アプリケーションの再生速度を遅くすることを特徴とするものである。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項2に記載の無線通信装置において、
前記実行部は、ジッタバッファと、該ジッタバッファのデータ量を監視するジッタバッファ監視部と、を備え、
前記制御部は、前記第2無線通信ネットワークへのハンドオーバが完了した後、前記ジッタバッファ監視部が監視する前記ジッタバッファのデータ量が所定量を越えると、当該アプリケーションの再生速度を通常の速度に戻すことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、第1無線通信ネットワークから第2無線通信ネットワークへハンドオーバする際に、事前に、ハンドオーバまでの準備時間と、第1無線通信ネットワークおよび第2無線通信ネットワークにおけるそれぞれの遅延時間とを取得するので、例えば、ハンドオーバ先の第2無線通信ネットワークの遅延時間が、ハンドオーバ元の第1無線通信ネットワークの遅延時間よりも長い場合には、ハンドオーバ準備の開始を決定した時点から、どれだけの時間経過後に、どれだけの時間に亘ってパケットが到着しないかを知ることができる。これにより、パケットが到着しない期間にも、ハンドオーバ元の第1無線通信ネットワークから受信したパケットを再生できるように、ハンドオーバ準備の開始を決定した時点から、長い時間をかけて第1無線通信ネットワークおよび第2無線通信ネットワーク間における遅延時間差を吸収するように、再生速度を制御することができるので、標準の再生速度との差を小さくして、標準速度に近い速度で再生することができる。したがって、再生品質およびリアルタイム性を低下させることなく、第1無線通信ネットワークから第2無線通信ネットワークへのハンドオーバが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施の形態に係る無線通信装置が使用可能な通信ネットワークの概略構成を示す図である。図1において、移動ノードである無線通信装置11は、対向ノードである相手通信端末12との間で、リアルタイム通信系のアプリであるVoIPによる通話を行うものとする。無線通信装置11は、第1無線通信ネットワーク15と第2無線通信ネットワーク16との間で、ハンドオーバが可能となっている。第1無線通信ネットワーク15および第2無線通信ネットワーク16は、パケットネットワーク17を介して、インターネット18に結合されている。
【0023】
ここで、第1無線通信ネットワーク15は、例えば無線LANからなり、第2無線通信ネットワーク16は、例えばcdma2000 EV−DOの携帯電話ネットワークからなり、第1無線通信ネットワーク15の方が、第2無線通信ネットワーク16よりも、下り絶対遅延時間が短くなっている。なお、図1において、符号15aは、第1無線通信ネットワーク15のアクセスポイントを示し、符号16aは、第2無線通信ネットワーク16の基地局を示している。
【0024】
相手通信端末12は、例えば送受話器12aが接続され、ソフトフォンがインストールされたパーソナルコンピュータからなり、図示しないインターネットサービスプロバイダを介してインターネット18に接続されている。
【0025】
また、パケットネットワーク17およびインターネット18には、それぞれ通信を制御するSIP(Session Initiation Protocol)サーバ21および22が接続されている。さらに、インターネット18には、無線通信装置11宛の受信パケットを、無線通信装置11が接続されている無線通信ネットワークに転送するホームエージェント(HA)23が接続されている。
【0026】
図1に示す通信ネットワークにおいては、HA23に、無線通信装置11が本来属する無線通信ネットワークで用いるホームアドレスを登録するとともに、ハンドオーバ時に、ハンドオーバ先の無線通信ネットワーク16の気付けアドレス(care of address)を登録することにより、異なる無線通信ネットワーク間でのハンドオーバを可能としている。なお、このようなIPモビリティ技術については、上述したモバイルIPや、NEMOにおいて公知であるので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0027】
本実施の形態では、説明の便宜上、無線通信装置11が本来属する無線通信ネットワークを第1無線通信ネットワーク15として、この第1無線通信ネットワーク15から第2無線通信ネットワーク16へハンドオーバするものとする。
【0028】
図2は、図1に示した本実施の形態に係る無線通信装置11の概略構成を示す機能ブロック図である。無線通信装置11は、第1無線通信ネットワーク15に対応する第1無線I/F(インターフェース)31と、第2無線通信ネットワーク16に対応する第2無線I/F32と、VoIPのアプリを実行する電話機能部33と、第1無線通信ネットワーク15および第2無線通信ネットワーク16への接続を制御する通信処理部34と、第1無線通信ネットワーク15および第2無線通信ネットワーク16の無線情報を取得する無線情報取得部35と、第1無線通信ネットワーク15と第2無線通信ネットワーク16との間のハンドオーバを制御するハンドオーバ制御部36と、を有する。
【0029】
通信処理部34は、無線通信を実行する無線通信部を構成するもので、電話機能部33と相手通信端末12との間で、第1無線通信ネットワーク15または第2無線通信ネットワーク16を介して通話を行うとともに、ハンドオーバ制御部36による制御のもとに、HA23と通信するように、第1無線I/F31または第2無線I/F32の接続を制御する。
【0030】
無線情報取得部35は、無線情報として、第1無線I/F31および第2無線I/F32から、それぞれ対応する第1無線通信ネットワーク15および第2無線通信ネットワーク16の通信品質を取得し、その取得した通信品質をハンドオーバ制御部36に供給する。ここで、通信品質は、例えば、無線状態を表すRSSI(Received Signal Strength Indicator)を取得する。したがって、本実施の形態では、無線情報取得部35が、無線リンクの通信品質を取得する通信品質取得部を構成している。
【0031】
ハンドオーバ制御部36は、無線情報取得部35からの通信品質に基づいて、ハンドオーバを予定するか否か、すなわちハンドオーバの準備を開始するか否かの決定を含むハンドオーバ情報を生成し、そのハンドオーバ情報に基づいてハンドオーバを制御する。
【0032】
図3は、図2に示した無線通信装置11の電話機能部33の概略構成を示す機能ブロック図である。電話機能部33は、例えばソフトフォンからなり、公知のソフトフォンの構成と同様に、ボタン入力部41、画面表示部42、マイク43、エンコーダ44、パケット送信部45、パケット受信部46、ジッタバッファ47、デコーダ48、スピーカ49、ジッタバッファ監視部50、ジッタバッファ制御部51、SIP制御部52、および全体の動作を制御する全体制御部53を有する。
【0033】
全体制御部53は、ボタン入力部41や画面表示部42を介して、ユーザの操作情報を取得し、その取得情報に基づいて全体の動作を制御する。また、SIP制御部52は、通話の開始や終了のSIPの手続きを制御する。通話中は、マイク43から取得した音声データを、エンコーダ44でエンコードし、そのエンコードしたデータを、パケット送信部45からパケットにいれて、通信処理部34を経て相手通信端末12へ送信する。
【0034】
また、通信処理部34を経てパケット受信部46で受信した相手通信端末12からのパケットは、ジッタバッファ47に一旦取り込んでから読み出し、その読み出したパケットは、デコーダ48でペイロード部分をデコードして、スピーカ49から再生音声として出力する。なお、ジッタバッファ47のパケットの受信状況や、ジッタバッファ47内のパケット数の状態は、ジッタバッファ監視部50で監視し、その監視結果に基づいて、ジッタバッファ制御部51により、ジッタバッファ47からのパケットの読み出し速度や、受信したパケットの破棄などの処理を制御する。
【0035】
本実施の形態では、電話機能部33に、さらに、ハンドオーバ情報取得部55および再生速度計算部56を設けている。ハンドオーバ情報取得部55は、ハンドオーバ制御部36からのハンドオーバ情報を一定間隔毎に監視して、ハンドオーバの予定があるか否かの情報を取得する。ハンドオーバの予定があった場合には、ハンドオーバ情報取得部55は、さらに、ハンドオーバ制御部36から所要のハンドオーバ情報を取得して、その取得した所要のハンドオーバ情報を再生速度計算部56に供給する。
【0036】
再生速度計算部56は、ハンドオーバ情報取得部55から取得した所要のハンドオーバ情報に基づいて、ジッタバッファ47のパケットの読み出し速度、すなわち受信パケットの再生速度(本実施の形態では、VoIPアプリの再生速度)を制御するか否かを判定する。制御する場合には、再生速度計算部56は、当該取得した所要のハンドオーバ情報と、ジッタバッファ監視部50によるジッタバッファ47の監視結果とに基づいて、受信パケットの再生速度を計算し、その計算結果をジッタバッファ制御部51に供給する。これにより、ジッタバッファ制御部51は、受信パケットの再生速度が、再生速度計算部56で計算された再生速度となるように、ジッタバッファ47からの受信パケットの読み出しを制御する。したがって、本実施の形態では、電話機能部33が、リアルタイム通信系のアプリケーションを実行する実行部、および当該アプリケーションの再生速度を制御する制御部を構成している。
【0037】
以下、本実施の形態に係る無線通信装置11の動作について説明する。
【0038】
本実施の形態では、ハンドオーバ制御部36において、第1無線I/F31および第2無線I/F32からそれぞれ取得した通信品質に基づいて、ハンドオーバの予定を決定する。例えば、第1無線通信ネットワーク15と無線リンクを形成して通話を行っている場合に、第1無線I/F31から取得した通信品質がハンドオーバ予定決定閾値よりも悪くなり、かつ第2無線I/F32の通信品質がハンドオーバ予定決定閾値以上となった場合には、ハンドオーバ制御部36において、第2無線通信ネットワーク16へのハンドオーバ予定を決定する、すなわちハンドオーバ準備の開始を決定する。なお、通話に使用していない第2無線通信ネットワーク16の通信品質は、例えば、基地局16aから送信される報知情報を受信して取得する。
【0039】
ハンドオーバ制御部36は、ハンドオーバ予定を決定した場合には、ハンドオーバ開始までのハンドオーバ準備時間T1、現在使用中の無線通信ネットワーク(ここでは、第1無線通信ネットワーク15)におけるハンドオーバ元下り絶対遅延時間Tddn1、ハンドオーバ先の無線通信ネットワーク(ここでは、第2無線通信ネットワーク16)におけるハンドオーバ先下り絶対遅延時間Tddn2を取得し、これらの情報を所要のハンドオーバ情報として、ハンドオーバ予定有りを示す情報とともに、電話機能部33に供給する。したがって、本実施の形態では、ハンドオーバ制御部36が、ハンドオーバの準備を開始するか否かを決定する決定部、ハンドオーバ準備時間を推定する推定部、および第1無線通信ネットワーク15および第2無線通信ネットワーク16におけるそれぞれの遅延時間を計測する計測部を構成している。
【0040】
次に、ハンドオーバ制御部36による、ハンドオーバ準備時間T1、ハンドオーバ元下り絶対遅延時間Tddn1、ハンドオーバ先下り絶対遅延時間Tddn2の取得方法について説明する。
【0041】
(ハンドオーバ準備時間T1の取得方法)
ハンドオーバ準備時間T1は、例えば、図4(a)および(b)に示すように、通信品質を決定する無線状態(Rs)の単位時間の変化率ΔRs(傾き)に基づいて算出する。ここで、変化率ΔRsは、無線状態がハンドオーバ予定決定閾値を下回ってハンドオーバ予定を決定した時点で計測して取得することもできるが、本実施の形態では、当該通話中において、ハンドオーバの予定決定時点から所定時間前までの変化率平均値ΔRsrmsを取得する。
【0042】
このため、ハンドオーバ制御部36は、下記の(1)式に従って、現在使用中の無線通信ネットワークにおける無線状態の変化率ΔRs(t)を所定のタイミングで算出して、所定時間前(例えば、2sec前)までの複数の変化率ΔRs(t)をメモリに保持するようにし、ハンドオーバ予定を決定したら、その時点で保持していた所定時間前までの変化率平均値ΔRsrmsを算出する。
[数1]
ΔRs(t)=|{Rs(t)−Rs(t-Δt)}/Δt| ・・・(1)
【0043】
その後、ハンドオーバ制御部36は、算出した変化率平均値ΔRsrmsが、予め設定した変化率閾値Rsrefよりも小さいか否かを判定する。その結果、ΔRsrms≦Rsrefの場合、すなわち、無線状態の変化が緩やかな場合には、図4(a)に示すように、ハンドオーバ準備時間T1を、予め設定した標準時間Tref(例えば、5sec)とする。
【0044】
これに対し、ΔRsrms>Rsrefの場合、すなわち、無線状態の変化が急激な場合には、例えば、T1=Tref(Rsref/ΔRsrms)、を演算して、変化率ΔRsrmsが大きいほど、ハンドオーバ準備時間T1を、標準時間Trefよりも短く設定する。図4(b)は、ΔRsrms>Rsrefの場合で、ハンドオーバ準備時間T1を、標準時間Trefのほぼ半分の時間(2.5sec)に設定した場合を示している。
【0045】
(絶対遅延時間Tddn1、Tddn2の取得方法)
ハンドオーバ元下り絶対遅延時間Tddn1およびハンドオーバ先下り絶対遅延時間Tddn2は、例えば、以下に説明する第1〜第4の絶対遅延時間取得方法のいずれかによって取得する。なお、本実施の形態では、相手通信端末(CN)12とHA23との間のネットワークは切替わらないので、この間の絶対遅延時間は考慮しないものとする。
【0046】
(a)第1の絶対遅延時間取得方法
ハンドオーバ制御部36においてハンドオーバの予定を決定したら、電話機能部33および/または通信処理部34を制御して、無線通信装置11と時間同期しているHA23に対して送信タイムスタンプを有する計測用パケットの送信を要求し、これにより、HA23から、第1無線通信ネットワーク15および第2無線通信ネットワーク16の双方に計測用パケットを送信させる。無線通信装置11は、HA23から送信された計測用パケットを、対応する第1無線I/F31および第2無線I/F32を介してそれぞれ受信し、その受信時刻と計測用パケットのタイムスタンプとから、対応するネットワークの下り絶対遅延時間Tddn1およびTddn2を計測する。なお、ハンドオーバ元の無線通信ネットワークの下り絶対遅延時間が、通話中の受信パケットから計測できる場合には、当該無線通信ネットワークへの計測用パケットの送出は省略することができる。
【0047】
(b)第2の絶対遅延時間取得方法
ハンドオーバ制御部36においてハンドオーバの予定を決定したら、電話機能部33および/または通信処理部34を制御して、無線通信装置11と時間同期しているHA23に対してその旨を通知し、これにより、上記第1の絶対遅延時間取得方法と同様に、HA23から、第1無線通信ネットワーク15および第2無線通信ネットワーク16の双方に計測用パケットを送信して、対応するネットワークの下り絶対遅延時間Tddn1およびTddn2を計測する。
【0048】
(c)第3の絶対遅延時間取得方法
ハンドオーバ制御部36においてハンドオーバの予定を決定したら、電話機能部33および/または通信処理部34を制御して、無線通信装置11から該無線通信装置11と時間同期しているHA23に対して、第1無線通信ネットワーク15および第2無線通信ネットワーク16の双方から、PINGやRTCP等の計測用パケットを送信し、その返信を受信して、対応するネットワークの下り絶対遅延時間Tddn1およびTddn2を計測する。
【0049】
(d)第4の絶対遅延時間取得方法
ハンドオーバ制御部36においてハンドオーバの予定を決定すると、IEEE802.21において検討されているハンドオーバ技術を利用して、各無線通信ネットワークの絶対遅延時間を取得する。その例示を以下に行う。
第1無線通信ネットワーク15の絶対遅延時間(Tddn1)の取得方法を以下に説明する。
無線通信装置11は、第1無線通信ネットワーク15の第1インフォメーションサーバに保持されている次の値を取得する。
・遅延時間を計測するために動作する計測用サーバ(例えば、インターネット18の基幹ネットワーク網に接続しているものとする)から第1無線通信ネットワーク15で接続している現在のアクセスポイント15aまでの片道遅延時間の標準値(Tn3)
・アクセスポイント15aとそこに繋がる端末間の上下の遅延時間の標準値(下り:Trdn3,上り:Trup3)
さらに、無線通信装置11は、PING等の計測用パケットをHA23に対して送信し、その返信を受信して、無線通信装置11とHA23との間の往復遅延時間Trt1を計測する。
そして、これらの値から第1無線通信ネットワーク15の絶対遅延時間Tddn1を、下記の(2)式に従って計算する。ただし、アクセスポイント15aとHA23との間の片道遅延時間が取得できないため、この片道遅延時間をTn3と、{Trt1-(Tn3+Trdn3+Tn3+Trup3)}/2との加算により近似値とする。
[数2]
Tddn1=Tn3+Trdn3+{Trt1-(Tn3+Trdn3+Tn3+Trup3)}/2 ・・・(2)
【0050】
次に、ハンドオーバ先である第2無線通信ネットワーク16の絶対遅延時間(Tddn2)の取得方法を以下に説明する。
無線通信装置11は、第1無線通信ネットワーク15の第1インフォメーションサーバを経由して、ハンドオーバ先の第2無線通信ネットワーク16に接続されている第2インフォメーションサーバに保持されている次の値を取得する。なお、第2インフォメーションサーバへは、無線通信装置11またはアクセスポイント15aで取得した無線通信装置11の位置情報を送信する。
・無線通信装置11が接続されると予想される基地局16aと計測用サーバとの間の片道遅延時間の標準値(Tn4)
・基地局16aとそこに繋がる端末間の上下の遅延時間の標準値(下り:Trdn4,上り:Trup4)
そして、これらの値から第2無線通信ネットワーク16の絶対遅延時間Tddn2を、下記の(3)式に従って計算する。ただし、基地局16aとHA23との間の片道遅延時間が取得できないため、この片道遅延時間をTn4と、{Trt1-(Tn3+Trdn3+Tn3+Trup3)}/2との加算により近似値とする。
[数3]
Tddn2=Tn4+Trdn4+{Trt1-(Tn3+Trdn3+Tn3+Trup3)}/2 ・・・(3)
【0051】
以上のようにして、ハンドオーバ制御部36は、ハンドオーバ準備時間T1、ハンドオーバ元下り絶対遅延時間Tddn1、およびハンドオーバ先下り絶対遅延時間Tddn2を取得して、それらの取得情報を電話機能部33に供給する。
【0052】
また、ハンドオーバ制御部36は、ハンドオーバ予定を決定した場合には、無線処理部34を制御して、第2無線I/F32を第2無線通信ネットワーク16に接続する。その後、ハンドオーバ制御部36は、ハンドオーバ準備時間T1が経過した時点で、ハンドオーバ先の第2無線通信ネットワーク16を介してHA23にRegistration Request(NEMOでは、Binding Update)を送信して、HA23にハンドオーバ先の気付けアドレス(care of address)を登録する。その際、Registration RequestメッセージのRegistration Request Fieldの8ビットをセットし(NEMOでは、Multiple care of addressを使用し)、第1無線通信ネットワーク15でも第2無線通信ネットワーク16でも通信できるようにする。これによりHA23から返信されるハンドオーバ完了情報であるRegistration Reply(NEMOでは、Binding Acknowledge)を受信したら、ハンドオーバ元の第1無線通信ネットワーク15の気付けアドレスの登録を解除し、接続を切断して、以後は、ハンドオーバ先の第2無線通信ネットワーク16を介してVoIPアプリを継続するように通信処理部34を制御するとともに、受信したハンドオーバ完了情報を電話機能部33に供給する。
【0053】
図5は、電話機能部33の要部の動作を示すシーケンス図である。電話機能部33のハンドオーバ情報取得部55は、ハンドオーバ制御部36からのハンドオーバ情報を一定間隔毎に監視し、ハンドオーバ予定有りの情報を取得した場合には、さらに、ハンドオーバ制御部36からの所要のハンドオーバ情報であるハンドオーバ準備時間T1、ハンドオーバ元下り絶対遅延時間Tddn1、ハンドオーバ先下り絶対遅延時間Tddn2を取得して、その取得した所要のハンドオーバ情報を再生速度計算部56に供給する。
【0054】
再生速度計算部56は、ハンドオーバ情報取得部55から取得した所要のハンドオーバ情報に基づいて、第2無線通信ネットワーク16の下り絶対遅延時間(Tddn2)と第1無線通信ネットワーク15の下り絶対遅延時間(Tddn1)との差T2(T2= Tddn2- Tddn1)を算出して、所定値(>0)を超えるか否かを判定し、所定値を超える場合には、当該取得した所要のハンドオーバ情報と、ジッタバッファ監視部50によるジッタバッファ47の監視結果とに基づいて、下記の(4)式から、ジッタバッファ47の受信パケットの再生速度vを計算する。なお、(4)式において、V1は、標準の再生速度を示し、Taは、ジッタバッファ47内の標準パケット数であるジッタバッファ標準遅延時間を示し、Tbは、ハンドオーバ予定有りの情報を受信した時点でのジッタバッファ47のパケット数であるジッタバッファ現在遅延時間を示している。また、再生速度(V,V1)は、時間比(時間/時間)で表している。
[数4]
V={V1・T1-(Ta-Tb)}/(T1+T2) ・・・(4)
【0055】
再生速度計算部56で算出した再生速度Vは、ジッタバッファ制御部51に供給し、これにより、受信パケットを標準の再生速度V1よりも低速の再生速度Vで再生するように、ジッタバッファ47からの受信パケットの読み出しを制御する。
【0056】
ここで、ジッタバッファ制御部51による受信パケットの再生速度制御は、例えば、以下に説明する第1の再生速度制御方法または第2の再生速度制御方法の何れかにより実行する。
【0057】
(a)第1の再生速度制御方法
標準の再生速度V1に対するジッタバッファ47からのパケットの読み出し間隔をTR1、上記(4)式における{V1・T1-(Ta-Tb)}/(T1+T2)をk、算出した再生速度Vに対応するジッタバッファ47からのパケットの読み出し間隔をTR、するとき、TR=TR1/k、とする。例えば、標準の再生速度V1では、ジッタバッファ47内のパケットを20msecの間隔で読み出して再生するVoIPアプリの場合において、再生速度Vを標準の再生速度V1の80%(k=0.8)とする場合には、ジッタバッファ47からのパケットの読み出し間隔TRを、TR=20/0.8(msec)、とする。
【0058】
(b)第2の再生速度制御方法
ハンドオーバのための再生速度のコントロールを開始したら、その直後に再生したパケット(最初のパケット)のタイムスタンプと、その再生時間とを組み合わせて記録する。その後のパケットについては、下記(5)式で示す時間Tvに、ジッタバッファ47から読み出して再生する。なお、(5)式において、TDは、遅延時間で、初期値は0である。
[数5]
Tv=(パケットのタイムスタンプ−最初のパケットのタイムスタンプ)+(最初のパケットの再生時間+TD) ・・・(5)
【0059】
ここで、ジッタバッファ47からパケットを読み出す際、[{V1/(V1-v)}-1]個目に読み出したパケットは、コピーしてデコーダ48内のメモリに記憶し、コピー元のパケットを再生した後、次の再生タイミングでコピーしたパケットを読み出して再生する。例えば、再生速度Vを、通常の再生速度V1の80%とする場合には、図6に示すように、ジッタバッファ47内の順次の4個のパケットP1〜P4を順番に読み出して再生するとともに、4個目のパケットP4はコピーし、そのコピーしたパケットP4′は、コピー元のパケットP4を再生した後、次の再生タイミングで再生する。その後、ジッタバッファ47からパケットP5を読み出す際は、上記(5)式のTDを、コピーによる再生間隔の時間分増加する。なお、[{V1/(V1-v)}-1]個目に読み出すパケットが、届いていなかったり、破棄されたりして、ジッタバッファ47にない場合には、次の再生タイミングのパケットに対して、同様の処理を行う。
【0060】
以上のようにして、ジッタバッファ制御部51による受信パケットの再生速度制御を実行する。その後、ハンドオーバ情報取得部55がハンドオーバ制御部36からハンドオーバ完了情報を取得したら、再生速度計算部56は、ジッタバッファ監視部50から一定時間毎にパケットの受信間隔時間を取得して、取得した受信間隔時間の所定時間における平均値を算出し、その算出したパケット受信間隔平均値と、当該VoIPアプリでの標準の受信間隔との差が、閾値以内に入ったか否かを監視する。
【0061】
その結果、閾値以内に入った場合には、再生速度計算部56は、ハンドオーバ先からのパケットを受信したと判定して、その時点でのジッタバッファ47内のパケット数(データ量)をジッタバッファ監視部50から取得し、その取得したパケット数が所定量を超えているか否かを判断する。
【0062】
その結果、ジッタバッファ47内のパケット数が所定量を超えていない場合には、t=(Ta-Tb)/ (V1-V)の後に、通常の再生速度制御に戻すようにジッタバッファ制御部51に指示する。これに対し、ジッタバッファ47内のパケット数が所定量を超えている場合には、直ちに通常の再生速度制御に戻すようにジッタバッファ制御部51に指示する。すなわち、再生速度計算部56が、ハンドオーバ先からのパケットを受信したと判断したら、ジッタバッファ制御部51は、ジッタバッファ47内のパケット数が所定量を超えると、通常の再生速度V1に戻すようにジッタバッファ47の読み出しを制御する。
【0063】
図7は、ハンドオーバ先からのパケットを受信したと判断してから、t=(Ta-Tb)/ (V1-V)の後に、通常の再生速度制御に戻す場合のジッタバッファ47の制御方法を説明するための図である。図7において、(a)は、ジッタバッファ47が単位時間当たりに受信するパケット数、(b)は、ジッタバッファ47からのパケットの再生速度(読み出し間隔)、(c)は、ジッタバッファ47内のパケット数を示している。
【0064】
図8および図9は、ハンドオーバ先からのパケットを受信したと判断してから、直ちに通常の再生速度制御に戻す場合のジッタバッファ47の制御方法を説明するための図である。図8において、(a)〜(c)は、図7(a)〜(c)と同様に、ジッタバッファ47が単位時間当たりに受信するパケット数、ジッタバッファ47からのパケットの再生速度(読み出し間隔)、ジッタバッファ47内のパケット数を示している。
【0065】
また、図9は、パケットの流れを示しており、「送信」は、相手通信端末12によるパケットの送信タイミング、「受信」は、無線通信装置11のジッタバッファ47が受信するパケットの受信タイミング、「再生」は、無線通信装置11によるパケットの再生タイミング(ジッタバッファ47からのパケットの読み出しタイミング)を示している。なお、ここでは、ハンドオーバ元の第1無線通信ネットワーク15およびハンドオーバ先の第2無線通信ネットワーク16の各々において、受信パケットに揺らぎ(到着間隔のずれ)はないものとして示している。
【0066】
本実施の形態によれば、絶対遅延時間Tddn1の短い第1無線通信ネットワーク15から、絶対遅延時間Tddn2の長い第2無線通信ネットワーク16にハンドオーバする場合、事前に、ハンドオーバまでの準備時間T1と、各絶対遅延時間Tddn1およびTddn2を取得するようにしたので、ハンドオーバ準備の開始を決定した時点から、どれだけの時間経過後に、どれだけの時間に亘ってパケットが到着しないかを知ることができる。これにより、パケットが到着しない期間にも、ハンドオーバ元の第1無線通信ネットワーク15から受信したパケットを再生できるように、ハンドオーバ準備の開始を決定した時点から、長い時間をかけて第1無線通信ネットワーク15および第2無線通信ネットワーク16間における絶対遅延時間差T2(T2= Tddn2- Tddn1)を吸収するように、再生速度Vを制御することができるので、標準の再生速度V1との差を小さくできる。
【0067】
したがって、ハンドオーバによるジッタの再生音への影響を少なくできるとともに、事前に再生速度を落とすことにより、無線状態の悪化によって予想よりもジッタが大きくなった場合にも無音の発生を防止できるので、再生品質およびリアルタイム性を低下させることなく、第1無線通信ネットワーク15から第2無線通信ネットワーク16へのハンドオーバが可能となる。
【0068】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。例えば、本発明は、VoIPのアプリを実行する場合に限らず、映像や音楽等のマルチメディアデータをストリーミング再生する場合のようなリアルタイム通信系のアプリを実行する場合にも有効に適用できる。この場合には、アプリの実行部を、電話機能部に代えて、同様のジッタバッファの制御機能を有するマルチメディア機能部で構成すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施の形態に係る無線通信装置が使用可能な通信ネットワークの概略構成を示す図である。
【図2】図1に示した無線通信装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示した無線通信装置の電話機能部の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図4】図2に示したハンドオーバ制御部によるハンドオーバ準備時間の算出方法を説明するための図である。
【図5】図3に示した電話機能部の要部の動作を示すシーケンス図である。
【図6】図3に示したジッタバッファ制御部による受信パケットの再生速度制御方法の一例を説明するための図である。
【図7】図3に示した電話機能部におけるジッタバッファの一制御例を説明するための図である。
【図8】図3に示した電話機能部におけるジッタバッファの他の制御例を説明するための図である。
【図9】図8に示した制御例によるパケットの流れを示す図である。
【図10】従来のジッタバッファの制御方法の一例を説明するための図である。
【図11】図10に示した制御方法によるパケットの流れを示す図である。
【図12】従来のジッタバッファの制御方法の他の例を説明するための図である。
【図13】図12に示した制御方法によるパケットの流れを示す図である。
【符号の説明】
【0070】
11 無線通信装置
12 相手通信端末
12a 送受話器
15 第1無線通信ネットワーク
15a アクセスポイント
16 第2無線通信ネットワーク
16a 基地局
17 パケットネットワーク
18 インターネット
21,22 SIPサーバ
23 ホームエージェント(HA)
31 第1無線I/F
32 第2無線I/F
33 電話機能部
34 通信処理部
35 無線情報取得部
36 ハンドオーバ制御部
47 ジッタバッファ
50 ジッタバッファ監視部
51 ジッタバッファ制御部
55 ハンドオーバ情報取得部
56 再生速度計算部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1無線通信ネットワーク、および該第1無線通信ネットワークと異なる第2無線通信ネットワークに接続して無線通信を実行する無線通信部と、
該無線通信部を介してリアルタイム通信系のアプリケーションを実行する実行部と、
前記第1無線通信ネットワークに接続して前記アプリケーションを実行中に、当該第1無線通信ネットワークにおける無線リンクの通信品質を取得する通信品質取得部と、
該通信品質取得部により取得した前記通信品質に基づいて、前記第1無線通信ネットワークから前記第2無線通信ネットワークへのハンドオーバの準備を開始するか否かを決定する決定部と、
前記アプリケーションの実行中に、前記決定部がハンドオーバ準備の開始を決定すると、前記通信品質取得部が取得した通信品質に基づいてハンドオーバを開始するまでのハンドオーバ準備時間を推定する推定部と、
前記決定部がハンドオーバ準備の開始を決定すると、前記第1無線通信ネットワークおよび前記第2無線通信ネットワークにおけるそれぞれの遅延時間を計測する計測部と、
前記推定部により推定した準備時間と、前記計測部により計測した前記第1無線通信ネットワークおよび前記第2無線通信ネットワークにおけるそれぞれの遅延時間とに基づいて、前記実行部による当該アプリケーションの再生速度を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1無線通信ネットワークにおける遅延時間と第2無線通信ネットワークにおける遅延時間とを比較し、前記第2無線通信ネットワークにおける遅延時間の方が、前記第1無線通信ネットワークにおける遅延時間よりも所定時間以上長い場合に、前記実行部による当該アプリケーションの再生速度を遅くすることを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記制御部は、ハンドオーバの準備を開始してから、前記実行部による当該アプリケーションの再生速度を遅くすることを特徴とする請求項2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記実行部は、ジッタバッファと、該ジッタバッファのデータ量を監視するジッタバッファ監視部と、を備え、
前記制御部は、前記第2無線通信ネットワークへのハンドオーバが完了した後、前記ジッタバッファ監視部が監視する前記ジッタバッファのデータ量が所定量を越えると、当該アプリケーションの再生速度を通常の速度に戻すことを特徴とする請求項2に記載の無線通信装置。
【請求項1】
第1無線通信ネットワーク、および該第1無線通信ネットワークと異なる第2無線通信ネットワークに接続して無線通信を実行する無線通信部と、
該無線通信部を介してリアルタイム通信系のアプリケーションを実行する実行部と、
前記第1無線通信ネットワークに接続して前記アプリケーションを実行中に、当該第1無線通信ネットワークにおける無線リンクの通信品質を取得する通信品質取得部と、
該通信品質取得部により取得した前記通信品質に基づいて、前記第1無線通信ネットワークから前記第2無線通信ネットワークへのハンドオーバの準備を開始するか否かを決定する決定部と、
前記アプリケーションの実行中に、前記決定部がハンドオーバ準備の開始を決定すると、前記通信品質取得部が取得した通信品質に基づいてハンドオーバを開始するまでのハンドオーバ準備時間を推定する推定部と、
前記決定部がハンドオーバ準備の開始を決定すると、前記第1無線通信ネットワークおよび前記第2無線通信ネットワークにおけるそれぞれの遅延時間を計測する計測部と、
前記推定部により推定した準備時間と、前記計測部により計測した前記第1無線通信ネットワークおよび前記第2無線通信ネットワークにおけるそれぞれの遅延時間とに基づいて、前記実行部による当該アプリケーションの再生速度を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1無線通信ネットワークにおける遅延時間と第2無線通信ネットワークにおける遅延時間とを比較し、前記第2無線通信ネットワークにおける遅延時間の方が、前記第1無線通信ネットワークにおける遅延時間よりも所定時間以上長い場合に、前記実行部による当該アプリケーションの再生速度を遅くすることを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記制御部は、ハンドオーバの準備を開始してから、前記実行部による当該アプリケーションの再生速度を遅くすることを特徴とする請求項2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記実行部は、ジッタバッファと、該ジッタバッファのデータ量を監視するジッタバッファ監視部と、を備え、
前記制御部は、前記第2無線通信ネットワークへのハンドオーバが完了した後、前記ジッタバッファ監視部が監視する前記ジッタバッファのデータ量が所定量を越えると、当該アプリケーションの再生速度を通常の速度に戻すことを特徴とする請求項2に記載の無線通信装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−159449(P2009−159449A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337123(P2007−337123)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
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