説明

無線IC冊子

【課題】この発明は、記憶可能な情報量を多くでき且つ安定した通信処理が可能な無線IC冊子を提供することを課題とする。
【解決手段】無線IC冊子1は、2枚の表紙2、4の間に複数枚の中紙6a〜6dを綴じて構成されている。各中紙6は、それぞれ、LSI12およびアンテナ14を有する無線ICシート8とアモルファス金属シート10を貼り合わせて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無線によるデータ通信が可能な無線IC冊子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線IC冊子として、表紙に電磁波を遮断もしくは通しにくいシールド部材を用いた冊子が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この冊子の内部には、非接触で外部と電波により情報の授受が可能なICチップおよびアンテナを有するICユニットが設けられている。
【0003】
この冊子では、シールド部材として、アルミニウム、銅、鉄等の金属、パーマロイ等の合金、フェライト等を用いており、表紙を開いてICユニットを情報読取ユニットに対向させて情報の授受を行なう際に、アンテナから出る電磁波をシールドするようにしている。これにより、外部からの不正目的のための電波による偽造や変造を防止するようにしている。
【0004】
しかし、上述したパーマロイやフェライトをシールド部材として用いた場合、十分な磁気シールド機能を果たす反面、渦電流による損失が比較的大きく、エネルギーロスが大きいため、通信距離が短くなってしまう問題がある。
【0005】
また、近年、このような無線IC冊子の分野では、サービスの多様化に伴いICチップに記憶する情報量が多くなる傾向にある。このため、複数のICチップを搭載可能な無線IC冊子の出現が望まれている。
【0006】
しかし、例えば、上述した従来の無線IC冊子の複数のページにICチップを搭載した場合、特定のページに取り付けられたICチップとの間で無線通信しようとしたとき、他のICチップと不所望に通信を確立してしまう可能性があり、正常な通信処理が実施できなくなる可能性がある。
【特許文献1】特開平11−348471号公報(段落[0014]、図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明の目的は、記憶可能な情報量を多くでき且つ安定した通信処理が可能な無線IC冊子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の無線IC冊子は、LSIおよびアンテナをそれぞれ有する複数枚のICシートを綴じ、各ICシートの互いに対向しない面にアモルファス金属層を貼り合わせたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の無線IC冊子は、LSIおよびアンテナをそれぞれ有する複数枚のICシートを綴じ、これら複数枚のICシートのうち第1のICシートに貼り付けられて当該第1のICシートをシールドするとともに当該第1のICシートを反対側に開いた状態で当該第1のICシートの隣に綴じられた第2のICシートをシールドするように機能するアモルファス金属層を、上記複数枚のICシートそれぞれに貼り合わせたことを特徴とする。
【0010】
上記発明によると、LSIおよびアンテナを有するICシートそれぞれにアモルファス金属層を貼り合わせたため、各ICシートのICチップと無線通信をするとき、別のICチップと通信してしまう不具合を防止できる。
【発明の効果】
【0011】
この発明の無線IC冊子は、上記のような構成および作用を有しているので、記憶可能な情報量を多くでき且つ安定した通信処理ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながらこの発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1には、この発明の実施の形態に係る無線IC冊子1(以下、単に、冊子1と称する)を開いた状態の概略斜視図を示してある。また、図2には、冊子1を図1矢印II方向から見た図を示してある。冊子1として、例えば、銀行の預金通帳、社員証、学生証などの個人認証用媒体がある。
【0013】
冊子1は、矩形の2枚の表紙2、4(図示のように1枚の表紙を2つ折りにしても良い)の間に略同じ形の複数枚の中紙6を挟んで一辺を綴じて形成されている。複数枚の中紙6は、それぞれ、無線ICシート8(ICシート)とアモルファス金属シート10(アモルファス金属層)を1枚ずつ同じ向きで貼り合わせて形成されている。
【0014】
言い換えると、各アモルファス金属シート10は、各無線ICシート8が互いに対向しない面にそれぞれ貼り合わせられている。さらに言い換えると、アモルファス金属シート10と無線ICシート8は交互に重ねられ、1枚ずつ2枚1組として貼り合わされてそれぞれ中紙6を形成している。なお、図2では、説明を分かり易くするために各中紙6の各シート8、10の厚さを誇張して図示してあるが、実際の各シートは、その一辺が一纏めにして綴じられている。
【0015】
全ての無線ICシート8は、LSI12およびコイルアンテナ14(アンテナ)を有する。LSI12およびアンテナ14は、図3に示す等価回路を構成している。無線ICシート8は、図4に示すリーダ・ライタ20から供給される磁力線をアンテナ14を介して電力に変換し、この電力によってLSI12を動作させ、残りの電力でリーダ・ライタ20にレスポンスを返す。このように、無線ICシート8は、非接触によりリーダ・ライタ20との間でデータ通信を行なう。
【0016】
無線ICシート8は、厚さ0.038[mm]のポリエチレンテフタレート(PET)の基材(図示せず)上に厚さ0.03[mm]のアンテナ14のパターンをアルミニウムにより形成し、且つLSI12をフリップチップ方式により実装し、さらにこのPETの表裏面をPET−G(非結晶性ポリエステル)シート(図示せず)で挟んで真空ホットプレスにて一体化することで形成されている。
【0017】
これら表裏面のPET−Gシートは、当該無線ICシート8のアンテナ14と当該無線ICシート8に貼り合わせられるアモルファス金属シート10との間にギャップを形成するための樹脂層として機能する。また、このPET−Gシートは、当該無線ICシート8に貼り合わせられるアモルファス金属シート10から離間した反対側に隣接して綴じられた他の中紙6のアモルファス金属シート10と自身のアンテナ14との間にギャップを形成する樹脂層としても機能する。
【0018】
アモルファス金属シート10は、厚さ0.1[mm]のアモルファス金属により形成され、貼り合わせられる無線ICシート8のアンテナ14を少なくとも部分的に覆う位置およびサイズに形成されている。また、アモルファス金属シート10は、貼り合わせられる無線ICシート8から離間した反対側に隣接して綴じられている中紙6の無線ICシート8に組み込まれたアンテナ14を部分的に覆う位置およびサイズに形成されている。
【0019】
本実施の形態では、アモルファス金属シート10は、無線ICシート8のアンテナ14の全体を覆う大きさに形成されている。さらに具体的には、本実施の形態では、アモルファス金属シート10は、それぞれ、無線ICシート8の略全面に貼り付けられている。
【0020】
以上のように、本実施の形態の冊子1は、複数枚の中紙6それぞれにリーダ・ライタ20との間で無線通信するためのアンテナ14およびLSI12を有するため、一冊の冊子1に記憶可能な情報量を飛躍的に多くでき、サービスの多様化に対応できる。
【0021】
以下、上記構造の冊子1とリーダ・ライタ20との間の無線通信時におけるアモルファス金属シート10の機能について、図4を参照して説明する。なお、ここでは、説明を分かり易くするため、2枚の表紙2、4の間に4枚の中紙6a〜6dを綴じた冊子1を例にとって説明する。特に、この冊子1は、綴じた状態(図示せず)で、全ての中紙6において、表紙2側に無線ICシート8が位置し表紙4側にアモルファス金属シート10が位置するように2枚のシート8、10がそれぞれ貼り合わされているものとする。
【0022】
上記構造の冊子1をリーダ・ライタ20に翳す際、図4に示すように、冊子1の通信を所望するページを開いた状態でリーダ・ライタ20のアンテナ22(以下、R/Wアンテナ22と称する)に近付ける。ここでは、通信を所望するページは、表紙4側に開かれた図4中左側のリーダ・ライタ20に最も近い中紙6cとなっている。
【0023】
この状態で、リーダ・ライタ20のR/Wアンテナ22からの磁束30が、通信対象となる無線ICシート8を有する中紙6cのアンテナ14の開口部を通過し、当該無線ICシート8のLSI12に電力供給される。このとき、R/Wアンテナ22からの磁束30がアンテナ14とアモルファス金属シート10との間を通ってループを形成する必要があるため、無線ICシート8を構成したPET−Gシートがギャップを形成する機能を担っている。このように、磁束30がアンテナ14を通過することで、当該無線ICシート8のLSI12とリーダ・ライタ20との間で無線通信が可能となる。
【0024】
なお、このとき、通信対象となる中紙6cにおいて、アモルファス金属シート10が無線ICシート8のリーダ・ライタ20から離間した側に貼り付けられているため、R/Wアンテナ22からの磁束30が冊子1を通り抜けて外部に漏洩する心配がない。また、このアモルファス金属シート10は、当該中紙6cと表紙4との間に綴じられた他の中紙6dに対し、R/Wアンテナ22からの磁束30をシールドするよう機能する。
【0025】
つまり、リーダ・ライタ20に近接した中紙6cにおいて、無線ICシート8のリーダ・ライタ20から離間した裏面側にアモルファス金属シート10を貼り付けたことにより、通信対象外の中紙6dの無線ICシート8に組み込まれたLSI12との間で不所望に通信を確立してしまう不具合を防止でき、確実な通信処理が可能となる。言い換えると、アモルファス金属シート10は、高い透磁率を有するため、電磁波を効果的に遮蔽することができ、ノイズの発生を防止できる。
【0026】
また、アモルファス金属シート10は、鉄などの金属シートと比較して、電磁波により生じる渦電流による損失が少ないため、エネルギーロスが少なく、通信距離を略維持できる。言い換えると、シールド部材としてアモルファス金属シート10を採用することで、電磁波を十分に遮蔽できるとともに十分な通信距離を確保できる。
【0027】
ところで、図4に示すように冊子1のページを開いた状態でR/Wアンテナ22に翳すと、表紙2側、すなわち図中右側(反対側)に開かれたページの無線ICシート8をR/Wアンテナ22からの漏れ磁束が通過する可能性がある。このように、通信対象外の無線ICシート8を漏れ磁束が通過すると、不所望なノイズ成分となる可能性がある。
【0028】
これに対し、本実施の形態では、各中紙6において無線ICシート8にアモルファス金属シート10を貼り合わせたため、中紙が表紙2側に開かれた状態で、自身の無線ICシート8に組み込まれたアンテナ14に対し、リーダ・ライタ20からの磁束30をシールドすることができる。
【0029】
より具体的には、例えば、表紙2側の中紙6bのアモルファス金属シート10に着目すると、このアモルファス金属シート10は、冊子1が図4に示す状態に開かれているとき、当該中紙6bの無線ICシート8(第1のICシート)をリーダ・ライタ20からの磁束30からシールドするよう機能する。また、当該アモルファス金属シート10は、当該中紙6bが表紙4側(反対側)に開かれた状態で、すなわち図4で中紙6cの位置に配置された状態で、上述したように、盗聴を防止するよう機能するとともに、隣に綴じられている中紙6cの無線ICシート8(第2のICシート)をリーダ・ライタ20からの磁束30からシールドするよう機能する。
【0030】
つまり、各中紙6に設けられたアモルファス金属シート10は、それぞれ、当該中紙6が開かれる側に応じて、すなわち当該中紙6の姿勢変化に応じて、異なる機能を発揮する。具体的には、図4において、当該中紙6が表紙4側に開かれた状態では、表紙4との間に配置された他の中紙の無線ICシート8をシールドし、表紙2側に開かれた状態では、自身の無線ICシート8をシールドする。
【0031】
以上のように、本実施の形態によると、LSI12およびアンテナ14を有する複数枚の無線ICシート8を綴じた冊子1を構成したため、一冊の冊子1に複数個のLSI12を搭載でき、冊子1に記憶することのできる情報の量を飛躍的に多くできる。また、その上で、冊子1の各ページにアモルファス金属シート10を貼り付けたため、通信対象外の中紙6に組み込まれたLSI12との間で不所望に通信を確立してしまう不具合を防止でき、確実且つ安定した通信処理が可能となる。
【0032】
また、アモルファス金属シート10は、冊子1をリーダ・ライタ20のR/Wアンテナ22に翳した状態で、データ通信による電磁波が外部に漏れることを防止でき、不正目的の電波によってデータが改竄されたりすることを防止できる。
【0033】
また、本実施の形態によると、電磁波のシールド層としてアモルファス金属を用いたため、渦電流による損失を小さくでき、エネルギーロスを小さくでき、シールド層を設けない場合と比較して通信距離が短くなる不具合を防止できる。つまり、本実施の形態によると、十分な通信距離を確保した上で、データ通信のセキュリティーを向上させることがでる。
【0034】
なお、この発明は、上述した実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上述した実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、上述した実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良い。
【0035】
例えば、上述した実施の形態では、冊子1の全ての中紙6の略全面にアモルファス金属シート10を貼り付けた場合について説明したが、これに限らず、無線ICシート8のアンテナ14に少なくとも部分的に重なる位置にアモルファス金属シート10を貼り付ければ良い。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明の実施の形態に係る無線IC冊子を開いた状態を示す概略斜視図。
【図2】図1の冊子を矢印II方向から見た図。
【図3】図1の冊子の各ページに組み込まれた回路構成を説明するための図。
【図4】図1の冊子の各ページに貼り付けられたアモルファス金属シートの機能を説明するための動作説明図。
【符号の説明】
【0037】
1…無線IC冊子、2、4…表紙、6、6a〜6d…中紙、8…無線ICシート、10…アモルファス金属シート、12…LSI、14…コイルアンテナ、20…リーダ・ライタ、22…R/Wアンテナ、30…磁束。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LSIおよびアンテナをそれぞれ有する複数枚のICシートを綴じ、各ICシートの互いに対向しない面にアモルファス金属層を貼り合わせたことを特徴とする無線IC冊子。
【請求項2】
上記アモルファス金属層は、貼り合わせられるICシートのアンテナを少なくとも部分的に覆う位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の無線IC冊子。
【請求項3】
上記アモルファス金属層は、貼り合わせられるICシートから離間した裏面側に綴じられる別のICシートのアンテナを少なくとも部分的に覆う位置に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の無線IC冊子。
【請求項4】
上記アモルファス金属層は、貼り合わせられるICシートのアンテナ全体を覆うサイズに形成されていることを特徴とする請求項1に記載の無線IC冊子。
【請求項5】
上記複数枚のICシートは、それぞれ、貼り合わせられる上記アモルファス金属層と自身のアンテナとの間にギャップを形成するための樹脂層を有することを特徴とする請求項1に記載の無線IC冊子。
【請求項6】
LSIおよびアンテナをそれぞれ有する複数枚のICシートを綴じ、これら複数枚のICシートのうち第1のICシートに貼り付けられて当該第1のICシートをシールドするとともに当該第1のICシートを反対側に開いた状態で当該第1のICシートの隣に綴じられた第2のICシートをシールドするように機能するアモルファス金属層を、上記複数枚のICシートそれぞれに貼り合わせたことを特徴とする無線IC冊子。
【請求項7】
上記第1のICシートに貼り合わせられたアモルファス金属層は、当該第1のICシートのアンテナを少なくとも部分的に覆う位置に設けられていることを特徴とする請求項6に記載の無線IC冊子。
【請求項8】
上記第1のICシートに貼り合わせられたアモルファス金属層は、上記第2のICシートのアンテナを少なくとも部分的に覆う位置に設けられていることを特徴とする請求項7に記載の無線IC冊子。
【請求項9】
上記第1のICシートに貼り合わせられたアモルファス金属層は、当該第1のICシートのアンテナ全体を覆うサイズに形成されていることを特徴とする請求項6に記載の無線IC冊子。
【請求項10】
上記複数枚のICシートは、それぞれ、貼り合わせられる上記アモルファス金属層と自身のアンテナとの間にギャップを形成するための樹脂層を有することを特徴とする請求項6に記載の無線IC冊子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−144861(P2007−144861A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−343984(P2005−343984)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】