説明

焦点検出装置

【課題】光源の色温度による焦点検出位置の変化(誤差)を小さくする焦点検出装置を簡易な構成で得る。
【解決手段】撮影レンズの予定焦点面上の被写体像を、対をなすセパレータレンズによって対をなす焦点検出センサ上に再結像させ、この対となる像の相対的位置ずれを検出して焦点位置を検出する焦点検出装置において、上記対をなす各焦点検出センサをそれぞれ、像の相対的位置ずれが生じる方向に画素が並ぶ2ラインに形成し、上記セパレータレンズから上記2ライン焦点検出センサに至る光路中に、上記予定焦点面上の被写体像を波長の長短に応じて分光して上記2ライン焦点検出センサに与える回折格子を設け、該2ライン焦点検出センサ上の分光被写体像の相対的位置ずれによって得られる色収差情報により、上記2ライン焦点検出センサにより検出した焦点位置を補正する補正手段を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として一眼レフカメラに用いられ、撮影レンズの被写体に対する合焦状態を検出する焦点検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、一眼レフカメラ等の焦点検出装置としては、撮影レンズの射出瞳の異なる部分を通過した光束をそれぞれ焦点検出光学系の再結像レンズ系(コンデンサレンズ及びセパレータレンズ)により焦点検出センサ(ラインセンサ)上に一対の像として結像させ、この焦点検出センサの一対の出力信号の関係に基づいて撮影レンズの合焦状態を検出する構成が知られている。このような焦点検出装置においては、焦点検出センサ上の第1及び第2の像の間隔が所定長のときに合焦、所定長よりも短いときには撮像面より物体側に焦点を結ぶいわゆる前ピン、所定長よりも長いときには撮像面より奥側に焦点を結ぶいわゆる後ピンと判定され(位相差検出方式)、合焦位置からのピントずれの量がデフォーカス量として出力される。
【0003】
このような焦点検出装置の焦点検出センサには可視光領域及び赤外光領域の波長に対して感度を有する受光素子が用いられることがある。このような装置では、撮影レンズの色収差によって、異なる波長の光に対して異なった焦点検出をしてしまう。例えば、被写体の輝度が低い時、被写体に可視光より長波長の赤外合焦補助光(色温度の低い光)を投光して合焦信号を得て撮影レンズ(フォーカシングレンズ)を駆動すると、実際に被写体を撮像する撮像素子は主に可視光領域の光を検出するように設定されているので、被写体は撮像素子の撮像面上に合焦しない。また、可視光より短波長の紫外光成分が含まれる蛍光灯照明下(色温度の高い光)で合焦信号を得ると、同様に、被写体は撮像面上に合焦しないという状況が生じる。特に、長焦点距離を有する撮影レンズではこの色収差が大きい。従って一眼レフカメラに長焦点の交換レンズを装着し、この長焦点レンズを介して入射した被写体光を前記のような焦点検出センサによって光電変換し、その光電出力によって焦点を検出すると、色収差による焦点検出誤差が著しく大きくなる。
【0004】
通常はこのような焦点検出誤差を少なくするべく、赤外光をカットするフィルタが挿入されるが、低輝度時に用いる補助投光は、被写体が人物であってもその人物にまぶしさを感じさせないよう近赤外が利用されるため、この近赤外光は透過させるようなフィルタ特性となる。そこで特公平8-3575号公報(特許文献1)では、近赤外光から長波長域をカットして可視光のみを透過するフィルタをさらに備え、いずれか一方のフィルタを光路中に切り替えて挿入する方法が提案されている。
【0005】
また近赤外波長域を透過させることで生じるレンズの色収差によって異なった焦点検出が行なわれることを補正する従来例としては、特公平1-45883号公報(特許文献2)に記載されているものがある。これは被写体からの光束のうち可視光による光電信号と、近赤外光による光電信号を個別に取り出す受光手段を同一基板に形成し、入射する全ての波長の光により検出される合焦位置に対する所望の波長の光による合焦位置までの補正値を前記個別に取り出した光電信号に基づいて定めるようにしている。
【0006】
特許第2666274号公報(特許文献3)には、焦点検出装置の焦点検出のための受光素子面の近傍に被写体の色温度を検出するべく所定のフィルタ手段を持ったセンサ部を焦点検出センサと同一の基板上に配置すること、そして被写体の色温度情報を出力する構成が示されている。
【0007】
さらに、特公平3-73847号(特許文献4)では可視光及び可視光以外の光に対して感度を有する焦点検出部での色温度による検出誤差を焦点検出部と別体に設けられた色温度測定手段の出力を用いて補正するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平8-3575号公報
【特許文献2】特公平1-45883号公報
【特許文献3】特許第2666274号公報
【特許文献4】特公平3-73847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のように機械的な切り替え手段を設けると、焦点検出装置が大型化し、駆動部分の信頼性も問題となる。特許文献2のように焦点検出センサと近赤外光を検出するセンサを同一基板上に配置する場合、近赤外光のみを受光するセンサの配置が問題となる。焦点検出センサと近赤外光受光センサは被写体の異なる部分から来る光をそれぞれ受光するため、被写体の構造(近赤外光反射率)によっては全く異なる光を受光することになり、適切な補正ができない可能性がある。また近年、焦点検出点の多点化、さらにエリア化が進み、焦点検出センサが基板上に細密配置され、近赤外光のみを受光するセンサの配置が困難になってきている。特許文献3や4のように、焦点検出部と別体に色温度測定手段を設ける場合は途中で別体に設けた色温度測定手段へ分岐する分岐部分を余計に設ける必要があり、よってファインダー側や焦点検出部側へ導く光量が減ってしまうという問題がある。
【0010】
本発明は、従来の焦点検出装置についての以上の問題意識に基づき、光源の色温度による焦点検出位置の変化(誤差)を小さくする焦点検出装置を簡易な構成で得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による焦点検出装置は、撮影レンズの予定焦点面上の被写体像を、対をなすセパレータレンズによって焦点検出センサ上に対をなす像を再結像させ、この対となる像の相対的位置ずれを検出して焦点位置を検出する焦点検出装置において、上記焦点検出センサをそれぞれ、上記像の相対的位置ずれが生じる方向に画素が並ぶ2ラインに形成し、上記セパレータレンズから上記2ライン焦点検出センサに至る光路中に、上記予定焦点面上の被写体像を波長の長短に応じて分光して上記2ライン焦点検出センサにそれぞれ与える回折格子を設け、該2ライン焦点検出センサ上の分光被写体像の相対的位置ずれによって得られる色収差情報により、上記2ライン焦点検出センサにより検出した焦点位置を補正する補正手段を設けたことに特徴を有する。
【0012】
実際的には、回折格子は、基準波長より長波長の光と短波長の光をそれぞれ互いに異なる方向に回折させるように形成する。
【0013】
回折格子は、撮影レンズからの光束をセパレータレンズに向けて偏向させる反射ミラーの反射面に設けることが好ましい。
【0014】
本発明の回折格子は、予定焦点面上に設けることもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、予定焦点面上の被写体像を波長の長短に応じて分光して2ライン焦点検出センサに与えることができるので、2ライン焦点検出センサ上の分光被写体像の相対的位置ずれによって得られる色収差情報により、上記2ライン焦点検出センサにより検出した焦点位置を補正することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用する一眼レフカメラの焦点検出装置の光学系を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態にかかる焦点検出装置の光学系の要部を示す斜視図である。
【図3】同実施形態にかかる焦点検出装置の原理を説明する平面図であって、(A)は被写体光が青色領域の場合、(B)は被写体光が緑色(基準光)の場合、(C)は被写体光が赤色領域の場合の分光被写体像の様子を示した図である。
【図4】同実施形態にかる焦点検出装置において、色収差が発生している様子及び色収差を補正した様子を示した平面図であって、(A)は短波長光では合焦位置よりも手前に結像するが基準波長光では合焦する様子を、(B)は短波長光で合焦すると基準波長光では合焦位置を越えて結像する様子を、(C)は基準波長光で合焦した様子を、(D)は長波長光で合焦すると基準波長光では合焦位置より手前に結像する様子を、(E)は長波長光では合焦位置を越えて結像するが基準波長光では合焦する様子を示す図である。
【図5】同実施形態の焦点検出装置を搭載した一眼レフカメラの回路構成を示したブロック図である。
【図6】反射型のブレーズ回折格子を使用した実施形態の光学系の要部を示す、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図7】反射型のブレーズ回折格子の実施例を拡大して示す斜視図である。
【図8】透過型のブレーズ回折格子の実施例を拡大して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明について、図に示した最良の実施形態を参照して説明する。図1乃至図5は、本発明による焦点検出装置の第1の実施形態を示している。一眼レフカメラの撮影レンズを透過した光束は、周知のように、メインミラー(半透過ミラー)で一部が反射され残部が透過する。反射された光束はファインダーに導かれ、透過した光束は、メインミラー後方の第二ミラーで下方へ反射されて焦点検出部に導かれ、その予定焦点面に結像する。図1と図2は、全ての反射面を展開した状態で、この予定焦点面(一次結像面)11以降の光学系(焦点検出部)を示している。予定焦点面11の後方には、コンデンサレンズ13、131、132、セパレータレンズ群15及び焦点検出センサ(ラインセンサ群)17が順に配置されている。セパレータレンズ群15は、コンデンサレンズ13の子午面及び赤道面に関する対称位置に配置された複数対(図示例では4対)のセパレータレンズ15a、15b、及びセパレータレンズ15c、15d、15e、15f、15g、15hを備えている。ここで、子午面、赤道面は、コンデンサレンズ13の光軸Oを通る面であって、予定焦点面11の横方向(水平方向)、縦方向(垂直方向)と平行な面をいう。なお、通常は、セパレータレンズのコンデンサレンズ13側に、各セパレータレンズに対する開口を有するセパレータマスクが配置されている。また、セパレータレンズの位置、数は測距位置数及び縦線検出、横線検出に応じて定められるもので、その対の数は問わない。
【0018】
焦点検出センサ17は、セパレータレンズ群15の各対に対応する複数対のラインセンサ17a、17b、ラインセンサ17c、17d、ラインセンサ17e、17f、ラインセンサ17g、17hを有しており、撮影レンズによって予定焦点面11上に結像される被写体像が、コンデンサレンズ13及びセパレータレンズ群15の各セパレータレンズ15a、15b、15c、15d、15e、15f、15g、15hによって、対応するラインセンサ17a、17b、ラインセンサ17c、17d、ラインセンサ17e、17f、ラインセンサ17g、17h上に再結像される。なお、以下の説明において、ラインセンサ17a、17bの並び方向を横方向あるいは水平方向と、ラインセンサ17c、17dの並び方向を縦方向あるいは鉛直方向と呼ぶことがある。
【0019】
図2には、第1の実施形態の中央横方向検出(縦線検出)に関する構成の要部のみを示した。この実施形態では、予定焦点面11の中央横線検出領域から出た光束が透過するセパレータレンズ15a、15bと予定焦点面11との間に透過ブレーズ型の回折格子21を配置した。この回折格子21は、予定焦点面11の中心を通る水平線で上下に二分割された、第1回折格子22及び第2回折格子23からなる。第1、第2回折格子22、23は透過型のブレーズ回折格子であって、光軸と平行に入射した光が、セパレータレンズ15a、15bの並び方向であって、かつ互いに異なる方向に回折するように配置されている。なお、第1、第2回折格子22、23は、回折格子が入射側、射出側のいずれの側に位置させて配置してもよい。
【0020】
第1、第2の透過回折格子22、23により回折された被写体光は、コンデンサレンズ13で集束され、セパレータレンズ15a、15bによって、2ラインラインセンサ17a1、17a2、2ラインラインセンサ17b1、17b2上に分光被写体像を形成(投影)する。
【0021】
セパレータレンズ15a、15bで再結像される被写体像を受光する一対の2ラインのラインセンサ17a、17bは、それぞれの画素が並ぶ方向と平行に並列配置された2ラインラインセンサ17a1、17a2、2ラインラインセンサ17b1、17b2で形成されている。なお、各2ラインラインセンサ17a1、17a2、2ラインラインセンサ17b1、17b2の画素の並び方向は、セパレータレンズ15a、15bによって形成される一対の被写体像が合焦状態に応じて相対的位置ずれを生じる方向である。
【0022】
次に、この実施形態の詳細について、さらに図3及び図4を参照して説明する。図3及び図4は、図2に示した実施形態をより模式的に示した平面図である。
【0023】
回折格子21に入射した光束は、波長に応じた回折角で回折する。図2に示した回折格子22、23による回折角は、基準波長による回折角度を挟んでそれぞれ正負逆向きの回折角を生じるが、この実施形態では基準波長光のm次回折光が回折格子板法線と平行に進むように、図示しない部材、例えば、薄い楔プリズムなどにより設定している。
【0024】
図3に、基準波長光源で照らされた被写体の第1、第2回折格子22、23による回折角(出射方向)が同一となるように形成した実施形態を示した。この実施形態では、被写体を実際に撮像する撮像素子が感度を有する波長のうちの代表的な波長である基準波長光が、第1、第2回折格子22、23によって同一方向に進むように回折するので、第1、第2回折格子22、23に入射した被写体光は、2ラインラインセンサ17a1、17a2、2ラインラインセンサ17b1、17b2上に、ずれの無い一体の像として分光被写体像を形成する。図3(B)は合焦状態における一体の像の状態で、この時の一対の被写体像の間隔が通常の合焦状態を示す間隔(相対的位置)である。図3(A)は合焦位置を越えた位置に焦点を結んだ状態(いわゆる後ピン)で、一対の被写体像の間隔は上記合焦状態における間隔より広くなっている。図3(C)は合焦位置の手前に焦点を結んだ状態(いわゆる前ピン)で、一対の被写体像の間隔は上記合焦状態における間隔より狭くなっている。
【0025】
この実施形態では、2ラインラインセンサ17a1、17a2、17b1、17b2に形成された分光被写体像の間隔により、焦点が合焦位置、その手前または越えた位置に結ばれているかを検出し、基準波長光が合焦位置に焦点を結ぶようにフォーカシングレンズLFを駆動する。
【0026】
一方、基準波長光(例えば緑色)Gよりも波長が短い短波長光(例えば青色)B及び波長が長い長波長光(例えば赤色)Rは、回折格子22、23に入射し、射出する回折光が、基準波光Gを挟んで異なる回折角度を有し、正負(上下)方向に回折し進む。図4に示した実施例の場合、短波長光Bは回折格子22では基準波長光Gよりも上方に、回折格子23では基準波長光Gよりも下方に向かって回折し(図4(B))、長波長光の場合は回折格子22では基準波長光Gよりも下方に、回折格子23では基準波長光Gよりも上方に向かって回折している(図4(D))。そうしてそれぞれの短波長光B、長波長光Gは、セパレータレンズ15a、15bによって、2ラインラインセンサ17a1、17a2、2ラインラインセンサ17b1、17b2上に分光被写体像を形成している。つまり、短波長光Bは、回折格子22では、所定の基準波長光Gによって到達するべき基準波長よりも小さい回折角により、その到達位置は、基準波長光Gによる到達位置よりも、左外側へ移動する。図2にでは、回折格子22のブレーズ形状の谷側へスポットが移動することになる。これは、短波長化により回折角度が、基準波長時よりも小さくなるためである。一方逆に、光源の波長が長波長側にシフトした場合は、図2に示すような回折格子22の山側方向へスポットが移動する。
【0027】
ここで、基準波長光Gより短い波長光Bを多く含む照明で照らされた被写体で合焦させた図4(B)の場合、基準波長光Gによって撮像素子に実際撮影される像は後ピン(基準波長光Gにおいては一対の分光像間隔が広い図3(A)の状態)となっていて、基準波長光Gより長い波長光Rを多く含む照明で照らされた被写体で合焦させた図4(D)の場合、基準光源の波長域によって撮像素子に実際撮影される像は前ピン(基準光源においては一対の分光像間隔が狭い図3(C)の状態)となっている。
【0028】
また、この実施形態では、短波長光Bと長波長光Rは、図4(B)、図4(D)に示すように、各第1、第2の透過回折格子22、23において上記基準波長の回折角とは異なる回折角で回折するように形成されている。ここでは、短波長光Bと長波長光Rは、基準波長光Gにおける回折光の状態(図4(C))を挟んで逆方向に進むよう設定されている。しかもその方向は、第1、第2の透過回折格子22、23とで逆に設定されている。そのため、短波長光Bにより2ラインラインセンサ17a、17b上に形成された分光被写体像は、図において上下方向にずれている(図4(A)、(B))。同様に長波長領域の光Rにより2ラインラインセンサ17a、17b上に形成された分光被写体像は、図において上下方向にずれている(図4(D)、(E))。そうして分光被写体像のずれ方向は、短波長光Bと長波長光Rとで逆方向である。
【0029】
そこでこの実施形態では、一対の一方の2ラインラインセンサ17a1、17a2(基準ラインセンサ)に、波長に応じてそれぞれ形成された各被写体像を全体として捉えた全体被写体像と、他方の2ラインラインセンサ17b1、17b2(参照ラインセンサ)に形成された全体被写体像との間隔(位相差)によって合焦状態(デフォーカス量、デフォーカス方向)を検出する。こうすることによって、図4に示すように、基準波長だけでなく、それよりも短波長、長波長において2ラインラインセンサ17a1、17a2、17b1、17b2に分離されて結像された像であっても、各波長毎に合焦を検出してフォーカシングレンズLFを駆動し、各波長における合焦状態を作ることができる。つまり、色収差による合焦誤差を補正している。
【0030】
この実施形態では、少なくともいずれか一方の2ラインラインセンサ17a1、17a2の一方のラインセンサ17a1に形成された分光被写体像と他方のラインセンサ17a2に形成された分光被写体像のずれ方向及びずれ量によって色収差を検出する。例えば、図4(A)の場合、被写体は基準波長より短い波長の光Bを多く含む光源で照らされているので、一方の2ラインラインセンサ17a1に結像している被写体像(分光被写体像)は、基準波長の光Gによる合焦状態を示す図4(C)の場合より下方向に変位して(ずれて)いる。逆に他方の2ラインラインセンサ17a2に結像している分光被写体像は、図4(C)の場合より上方向に変位している。
【0031】
一方、図4(E)の場合、被写体は基準波長より長い波長の光Rを多く含む光源で照らされているので、一方の2ラインラインセンサ17a1に結像している被写体像(分光被写体像)は、図4(C)の場合より下方向(図4(A)とは逆方向)に変位して(ずれて)いる。他方の2ラインラインセンサ17a2に結像している分光被写体像は、図4(C)の場合より上方向(図4(A)とは逆方向)に変位している。そうして、これらの変位方向から被写体を照らす照明光の波長域、変位量から撮影レンズの色収差を検出する。なお、色収差の検出は、一対の2ラインラインセンサ17a1、17a2、及び2ラインラインセンサ17b1、17b2の両方を使用してもよい。
【0032】
以上のように、被写体光の色(波長)によって合焦誤差が発生するが、本実施形態では、各2ラインラインセンサ17a1、17a2と17b1、17b2上に形成された分光被写体像のずれ方向及びずれ量により色(波長)を検出できるので、分光被写体像のずれ方向及びずれ量から色収差情報を求めて、焦点調節レンズ群LFのデフォーカス方向及びデフォーカス量を補正することができる。
【0033】
なお、この補正に必要な関数、データは、予め測定してメモリー手段に記憶しておき、必要に応じて読み出し、また演算するなどの方法により実施できる。例えば、図4(B)、(D)の状態を補正しようとすると、2ラインラインセンサ17a1、17a2の像のずれから波長(色)を検出し、その波長に応じた補正値をメモリー手段から読み出し、フォーカシングレンズLFの位置を補正する。その結果を、図4(A)、(E)に示した。
【0034】
図5には、この焦点検出装置を搭載した一眼レフカメラの主要光学構成及び回路構成を示した。交換レンズLにより予定焦点面11に集束された被写体像光は、回折格子21、コンデンサレンズ13、セパレータレンズ15a、15bによって分光被写体像が1対の2ラインラインセンサ17a1、17a2、2ラインラインセンサ17b1、17b2上に形成される。ラインセンサの各画素によって光電変換され、蓄積される。ラインセンサに蓄積された電荷は、画素単位で電圧に変換されて、画素信号として位相差検出部31、色収差検出部33に出力される。
【0035】
位相差検出部31は、一対の2ラインラインセンサ17a1、17a2と17b1、17b2の出力に基づき位相差(分光被写体像間隔)を検出し、デフォーカス方向(前ピン、後ピン)及びデフォーカス量を検出する。一方、色収差検出部33は、各2ラインラインセンサ17a1、17a2と17b1、17b2の出力に基づき、分光被写体像のずれ方向及びずれ量から色収差による上記デフォーカス方向及びデフォーカス量の誤差を検出する。
【0036】
AF演算部35は、位相差検出部31が検出した位相差を、色収差検出部33が検出した色収差に基づいて補正し、レンズ駆動方向及び駆動量を演算して、AF制御部37を介してレンズ駆動用アクチュエータ39を駆動し、焦点調節レンズ群LFを光軸に沿って合焦位置まで移動させる。
【0037】
図6には、ブレーズ型回折格子として反射型の回折格子27を使用した実施形態を示した。図6(A)は平面図、図6(B)は側面図である。この回折格子27は、予定焦点面11に配置された反射ミラー28上に形成されていて、反射ミラー28と共に、撮影レンズL、セパレータレンズ15a、15b間のAF光路を略90゜曲げる作用も有する。
【0038】
回折格子27は、撮影レンズLを透過した被写体光束を反射する一対のブレーズ型回折格子27a、27bからなる。さらに各回折格子27a、27bは、図2、図3に示したように回折方向が逆方向となるように向けて並列に並べられている。回折格子27aで反射した光束は、セパレータレンズ15aによってラインセンサ17a1上に分光被写体像を形成し、セパレータレンズ15bによってラインセンサ17b1上に分光被写体像を形成し、回折格子27bで反射した光束は、セパレータレンズ15aによってラインセンサ17a2上に分光被写体像を形成し、セパレータレンズ15bによってラインセンサ17b2上に分光被写体像を形成する。
【0039】
図7に反射型のブレーズ型回折格子25、27の要部を拡大して示した。図示したブレーズ型回折格子25の場合、各法線に対する入射角α、出射角(回折角)βを図中のように定義する。入射角α、出射角(回折角)βは、下記式(a)、(b)、(c)の関係を有する。ただし、mは回折次数、λは入射光の波長、λbはブレーズ波長、pは格子ピッチ、θbはブレーズ角である。
sinα+sinβ=mλ/p ・・・(a)
θb=(α+β)/2 ・・・(b)
λb=(2p/m)sin(θb)・cos(α-θb) ・・・(c)
【0040】
式(a)に示されるようにブレーズ型回折格子は、反射の場合には、回折格子法線からの入射角α、出射角βは、基本的には、波長λとピッチpによって決まる。また、ブレーズ角θdは、式(b)に示されるように入、出射角α、βの和の1/2である。このブレーズ角θdにおける波長λがブレーズ波長であり、式(c)のようになる。例えば、入射角αが10度、ピッチpが2.5μmのブレーズ回折格子に波長λが0.5μmの光(緑色の光)が入射した場合、その回折角βは、1.51度であり、ブレーズ角θbは約5.6度となり、その際のブレーズ波長は約0.5μmとなり、可視光域を最も効率良く反射させることができる。
【0041】
図では、回折格子の形状を鋸歯状の溝形状を示したが、正弦波状の溝形状や矩形の溝形状の場合も同様に構成できる。
【0042】
図8には、透過型の回折格子21要部の拡大図を示した。ここに示す透過型の回折格子の場合、被写体光は平面側から入射し、出射面画の格子で回折する。
(式1)

【0043】
基本的には、設定されるブレーズ角θdは、式1に示すように波長λとピッチpに依存する。回折角βは、入射角α、屈折率nがそれに加わる。例えば、波長λが0.5μm、ピッチpが10μm、屈折率nが1.5 の場合は、1次回折角βは約2.9度、ブレーズ角θbは5.7度となる。
【0044】
このように任意の設計パラメーターを用いることにより回折角βを自由に設定できるので、波長λとピッチpの関係より、可視光を最も効率良く透過させることができる回折角βを容易に設定できる。
また、回折格子の形状を鋸歯状の溝形状を示したが、正弦波状の溝形状や矩形の溝形状のものも同様に構成できる。
【0045】
以上の実施形態では、予定焦点面11の中央領域を焦点検出領域とする光学系を示したが、他の焦点検出領域に関する光学系にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
11 予定焦点面(一次結像面)
13 コンデンサレンズ
15 セパレータレンズ群
15a 15b セパレータレンズ
17 焦点検出センサ(ラインセンサ群)
17a 17b 2ラインラインセンサ(2ライン焦点検出センサ)
17a1 17a2 ラインセンサ
17b1 17b2 ラインセンサ
21 透過ブレーズ型の回折格子
22 第1回折格子
23 第2回折格子
27 反射ブレーズ型の回折格子
27a 27b 回折格子
28 反射ミラー
31 位相差検出部
33 位相差検出部
35 AF演算部
37 AF制御部
39 レンズ駆動アクチュエータ
L 交換レンズ
LF フォーカシングレンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影レンズの予定焦点面上の被写体像を、対をなすセパレータレンズによって焦点検出センサ上に対をなす像を再結像させ、この対となる像の相対的位置ずれを検出して焦点位置を検出する焦点検出装置において、
上記焦点検出センサをそれぞれ、上記像の相対的位置ずれが生じる方向に画素が並ぶ2ラインに形成し、
上記セパレータレンズから上記2ライン焦点検出センサに至る光路中に、上記予定焦点面上の被写体像を波長の長短に応じて分光して上記2ライン焦点検出センサにそれぞれ与える回折格子を設け、
該2ライン焦点検出センサ上の分光被写体像の相対的位置ずれによって得られる色収差情報により、上記2ライン焦点検出センサにより検出した焦点位置を補正する補正手段を設けたことを特徴とする焦点検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の焦点検出装置において、回折格子は、基準波長より長波長の光と短波長の光をそれぞれ互いに異なる方向に回折させる焦点検出装置。
【請求項3】
請求項2記載の焦点検出装置において、回折格子は、撮影レンズからの光束をセパレータレンズに向けて偏向させる反射ミラーの反射面に設けられている焦点検出装置。
【請求項4】
請求項2又は3記載の焦点検出装置において、回折格子は、上記予定焦点面上に設けられている焦点検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−181590(P2010−181590A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24551(P2009−24551)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】