説明

焦点距離可変プリズム、及びそれを用いたプリズム光学系

【課題】光学性能面で有利で、かつ、小型化を実現可能とする焦点距離可変プリズムを提供する。
【解決手段】焦点距離可変プリズム2は、第1の透過型液体14と、該第1の透過型液体14とは屈折率の異なる第2の透過型液体15と、反射型液体18とを有し、第1の透過型液体14と第2の透過型液体15との境界に形成される透過面16及び第2の透過型液体15と反射型液体18との境界に形成される反射面19を電気制御することで、透過面16及び反射面19の形状を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焦点距離可変プリズム、及びそれを用いたプリズム光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、3面以上の光の透過面及び反射面から成るプリズムを用いて、光路を折り曲げたり、又は光路を折り畳んだりすることで、そのプリズムを採用する光学系全体の小型化や薄型化を図る技術がある。しかしながら、通常のプリズムのみでは、固体素子であるためプリズム自体の焦点距離を変えることはできない。そこで、プリズムを用いたプリズム光学系では、ズームやフォーカスを行うために、種々の構成要素を加える例がある。特許文献1は、3角プリズムの入射側又は射出側に、焦点距離可変型の透過型液体レンズを隣接させた光学素子を開示している。この透過型液体レンズは、電圧を印加することで電解質液体と非電解質液体との境界面の曲率半径を可変とするエレクトロウェッティング駆動(EW駆動)によるレンズである。また、更なる薄型化や広角化のために、特許文献2は、特に被写体側の画角を分割し、全体を分割プリズムとした光学系を開示している。この光学系では、プリズムと可変ミラー(ディフォーマブルミラー)とのユニットを被写体画角の分割毎に複数配置し、各可変ミラーが分割画角毎にフォーカスを行う。更に、上記の透過型液体レンズに対して、特許文献3に開示された反射型液体レンズを採用することも考えられる。この反射型液体レンズは、透明液体と磁性流体とで構成され、該磁性流体に与える磁界の強さにより、磁性流体の曲率半径を可変とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−191647号公報
【特許文献2】特開2001−4809号公報
【特許文献3】特開2007−121980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示す光学素子では、採用する液体レンズが透過型のみである。また、特許文献2に示す光学系では、光線が光路内のプリズムで射出と入射とを繰り返す。したがって、屈折力(光学的パワー)を有する屈折面による色収差が発生する可能性がある。また、特許文献1、2では、プリズムの近傍に焦点距離可変型の光学素子(以下、単に「可変素子」と表記する)を配置しているが、この可変素子とプリズムとが干渉しないよう考慮すると、光学系全体が大型化する。例えば、ズーム動作を行う場合、バリエータとコンペンセーターとのそれぞれの機能を有する少なくとも2面の可変面が必要となる。したがって、光学系として1つのプリズムと2つの可変素子との少なくとも3つの構成要素が必要となるため、大型化や調整工程の増加となり、それに伴いコストアップの原因となる。更に、特許文献3に示す反射型液体レンズは、磁性流体の磁界制御方法で制御するが、この磁界制御のための機構が比較的大きく、また、応答性も悪いため、実用的ではない。
【0005】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、光学性能面で有利で、かつ、小型化を実現可能とする焦点距離可変プリズムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の焦点距離可変プリズムは、第1の透過型液体と、該第1の透過型液体とは屈折率の異なる第2の透過型液体と、反射型液体とを有し、第1の透過型液体と第2の透過型液体との境界に形成される透過面及び第2の透過型液体と反射型液体との境界に形成される反射面を電気制御することで、透過面及び反射面の形状を変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、光学性能面で有利で、かつ、小型化を実現可能とする焦点距離可変プリズムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態に係るプリズム光学系の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係るプリズム光学系の構成を示す概略図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係るプリズム光学系の構成を示す概略図である。
【図4】本発明の第4実施形態に係るプリズム光学系の構成を示す概略図である。
【図5】本発明の第5実施形態に係るプリズム光学系の構成を示す概略図である。
【図6】本発明の第6実施形態に係るプリズム光学系の構成を示す概略図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係るプリズム光学系の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について図面等を参照して説明する。
【0010】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態に係る焦点距離可変プリズムを採用したプリズム光学系について説明する。図1は、本実施形態に係るプリズム光学系の構成を示す概略図である。なお、図1において、被写体(物体)からプリズム光学系へ向かう方向にZ軸を取り、該Z軸に対して垂直な面における垂直方向と水平方向とにX軸及びY軸を取って説明する。このプリズム光学系10は、焦点距離を可変とするプリズム光学系であり、例えば、薄型デジタルカメラに採用される90度屈曲のズーム光学系等に応用可能である。以下、各実施形態に示すプリズム光学系も同様である。プリズム光学系10は、被写体側から順に、第1単焦点光学系1と、焦点距離が可変の全体プリズム2と、第2単焦点光学系3と、撮像素子4とを備える。ここで、第1単焦点光学系1は、更なる薄型化を図るためであれば必須ではない。また、第2単焦点光学系3は、従来のズーム光学系であってもよい。この場合、第2単焦点光学系3は、後述する全体プリズム2でのズームと連動する。更に、撮像素子4は、例えば、CCD、又はCMOS等のセンサーである。
【0011】
全体プリズム2は、本実施形態の特徴となる焦点距離可変プリズムであり、光線の入射面を形成する透過部11と、該透過部11に対して45度チルト偏心した反射面を形成する反射部12と、該反射部12で反射した光線を外部へ出射する出射面13とを有する。まず、透過部11は、被写体側に第1電解質液体14を配置し、透過側に非電解質液体15を配置することで第1境界面(透過面)16を形成する液体レンズである。この透過部11は、エレクトロウェッティング駆動、即ち、外周部に設置された略環状の第1電極17から電圧を印加することで、第1境界面16の形状(曲率半径)を変形させる。本実施形態では、第1電解質液体14として、第1の透過型液体である水とNaCl電解液との混合液を採用する。一方、非電解質液体15としては、第2の透過型液体であるシリコンオイルを採用する。この場合、透過液体可変面である第1境界面16は、プリズム光学系10におけるコンペンセーター及びフォーカス部として機能する。反射部12は、被写体側に非電解質液体15を配置し、反射側に第2電解質液体18を配置することで第2境界面(反射面)19を形成する液体レンズである。この反射部12も、外周部に設置された略環状の第2電極20から電圧を印加することで、第2境界面19の形状を変形させる。本実施形態では、第2電解質液体18として、反射型液体である水銀、アルミ溶液、又は銀溶液うちのいずれかを採用する。この場合、反射液体可変面である第2境界面19は、プリズム光学系10におけるズームバリエータとして機能する。なお、出射面13は、液体レンズの構成を取らず、単に非電解質液体15で形成される面である。このように本実施形態の全体プリズム2は、光の通過面として、入射面、第1境界面16、第2境界面19(反射面)、出射面13を備える。
【0012】
ここで、反射部12を構成する非電解質液体15は、図1に示すように透過部11を構成する非電解質液体15と一体であり反射面を含む内部プリズムを形成する。この内部プリズムの体積、即ち、非電解質液体15の体積は、全体プリズム2の体積のうちの大部分を占める必要があるため、非電解質液体15の量は、透過部11及び反射部12を構成する電解質液体の総量よりも4倍以上とすることが望ましい。これにより、各境界面16、19の形状を制御するための消費電力の低減が可能となる。
【0013】
また、全体プリズム2では、透過部11と反射部12との各構成要素である第1電解質液体14と第2電解質液体18とが、非電解質液体15を介して互いに隔離している。したがって、図1に示すように、第1電極17と第2電極20とのなす角の基点である電極接触部2aにて各電極17、20を一体化することで、印加電圧を制御する制御部は、その一体化した電極をグランドとして利用する。この場合、制御部は、第1電解質液体14及び第2電解質液体18のそれぞれに対して電圧を印加することで、複数の境界面(第1境界面16及び第2境界面19)の形状を連動して電気制御する。これにより、電圧を印加する構造を簡略化しつつ、制御部は、各境界面16、19の形状を個別に制御することができる。この電極の共通化により、全体プリズム2の構造の単純化が可能となる。
【0014】
また、一般に、ズーム光学系では、広角側での最大画角光線の入射角度は、入射面への入射角が大きく、一方、望遠側での最大画角光線の入射角度は、入射面への入射角が小さい。しかしながら、この入射角の差が大きい、即ち、高倍ズームの光学系であるほど、光学設計が難しく、光学系が大型化する可能性が高い。そこで、全体プリズム2の入射側に第1境界面16を形成する透過部11を配置して、広角側では第1境界面16を負の屈折力が強くなるように設定することで、入射角度を小さくする。一方、望遠側では第1境界面16の負の屈折力を緩め、入射角度を小さいままとする。これにより、第1境界面16を通過した光線の角度は、広角と望遠とで近似するので、それ以後のズーム変倍動作がほぼ不要となり、プリズム光学系10の小型化が可能となる。
【0015】
更に、透過液体可変面である第1境界面16における形状変化に対する焦点距離の変動値は、第1電解質液体14と非電解質液体15との屈折率の差で決まる。例えば、第1電解質液体14として採用する上記混合液は、屈折率n=1.4であり、非電解質液体15として採用するシリコンオイル(A)は、屈折率n=1.55である。したがって、この場合の屈折率の差Δnは、Δn=0.15と小さな値となり、焦点距離の変動幅を大きく取ることが難しい。一方、反射型液体可変面である第2境界面19では、焦点距離の変動値は、非電解質液体15の屈折率値+1で決まる。例えば、非電解質液体15では、屈折率n=1.55であるから、変動値は、1.55+1=2.55である。即ち、反射部12は、反射型液体を採用して反射面(第2境界面19)を形成しているので、透過型液体を採用した透過面(第1境界面16)に比べ、同じ形状変化でも焦点距離の変動幅を、2.55/0.15=17倍大きくすることができる。更に、本実施形態では、反射液体可変面である第2境界面19は、ズームバリエータとして機能するものであるため、色収差の発生を抑えることが可能となる。
【0016】
なお、本実施形態では、非電解質液体15として屈折率n=1.55のシリコンオイル(A)を採用したが、非電解質液体15は、これに限らず、屈折率n≧1.55の物質であれば更に望ましい。このとき、非電解質液体15の屈折率nが1.55よりも大きければ、その非電解質液体15で満たされた内部プリズムの空気換算光路長が短くなり、結果的に内部プリズムの小型化が可能となる。一方、屈折率n<1.55の場合では、透過部11における第1電解質液体14と非電解質液体15との屈折率の差Δnが小さくなり、結果的に第1境界面16による焦点距離の可変量が小さくなる。
【0017】
以上のように、本実施形態の全体プリズム2によれば、色収差の低減や焦点距離の可変量等の光学性能面で有利な全体プリズム2を、小型化された1部品で達成することができる。更に、全体プリズム2は、各電極をグランドとして共通化できるので、全体プリズム2、ひいてはプリズム光学系10全体の低価格化や、プリズム光学系10を内包する鏡筒の構造等の簡略化にも寄与する。
【0018】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る焦点距離可変プリズムを採用したプリズム光学系について説明する。図2は、本実施形態に係るプリズム光学系30の構成を示す概略図である。なお、以下の各図では、各実施形態の特徴となる全体プリズムの構造と、撮像素子の配置とを示し、その他の構成要素の記載は省略する。本実施形態の全体プリズム31は、第1実施形態の全体プリズム2では光の通過面が3面であるのに対して、入射面、2つの反射面、及び出射面の4面から成る焦点距離可変プリズムである。この場合、全体プリズム31は、まず、光線の入射面を形成する第1透過部33と、該第1透過部33に対して略30度チルト偏心した反射面を形成する第1反射部34とを有する。更に、全体プリズム31は、第1反射部34で反射した光線を受け、第2透過部36に対して略30度チルト偏心した反射面を形成する第2反射部35と、該第2反射部35で反射された光線の出射面を形成し、光線を撮像素子32へ導く第2透過部36とを有する。
【0019】
ここで、第1透過部33及び第2透過部36の構成は、第1実施形態の透過部11の構成とそれぞれ同一である。また、第1反射部34及び第2反射部35の構成は、第1実施形態の反射部12の構成とそれぞれ同一である。但し、第2透過部36を構成する第4電解質液体37は、透過型液体であれば、第1透過部33を構成する第1電解質液体38と同一でもよいし、異なる物質でもよい。同様に、第2反射部35を構成する第3電解質液体39も、反射型液体であれば、第1反射部34を構成する第2電解質液体40と同一でもよいし、異なる物質でもよい。いずれの場合においても、各電解質液体37〜40は、第1実施形態の全体プリズム2と同様に、共通の非電解質液体41に隣接する。なお、本実施形態では、非電解質液体41として、第1実施形態におけるシリコンオイル(A)に対して、屈折率の異なるシリコンオイル(B)(屈折率n=1.6)を採用することが望ましい。また、この場合、第1反射部34及び第2反射部35における反射液体可変面である第2境界面42及び第3境界面43は、プリズム光学系30におけるズームバリエータ及びコンペンセーターとしての機能を有する。また、このような全体プリズム31の構成によれば、第1実施形態の全体プリズム2と同様に、各電解質液体37〜40に電圧を印加する各電極のうち、少なくとも1組の共通化が可能である。
【0020】
このように、本実施形態の全体プリズム31によれば、第1実施形態の効果に加えて、2つの反射液体可変面(第2境界面42及び第3境界面43)を採用して光路を折り畳むことにより、チルト方向(図中Z方向)の厚みを薄くすることができる。更に、反射液体可変面は、上述の通り、焦点距離の変動を大きくすることができるので、色収差の発生、及び変動を低減しつつ、ズーム倍率の拡大化が可能となる。
【0021】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る焦点距離可変プリズムを採用したプリズム光学系について説明する。図3は、本実施形態に係るプリズム光学系50の構成を示す概略図である。本実施形態の全体プリズム51は、第2実施形態の全体プリズム31を被写体に対して絶縁体53を介して左右対称(鏡対象)に備えた構成を有し、被写体側の画角を左側と右側とに分割した焦点距離可変プリズムである。また、本実施形態の撮像素子52は、分割撮像のため、全体プリズム51を構成する一方の分割光学系51aから導かれる光線を受光する第1撮像素子52aと、他方の分割光学系51bから導かれる光線を受光する第2撮像素子52bとの2つの撮像素子からなる。この場合、被写体を基準として左側に位置する第1撮像素子52aは、同様に左側に位置する分割光学系51aから導かれる光線を受光面の左側で受光するように、入射光に対して水平方向で右側にある程度ずらして配置される。一方、被写体を基準として右側に位置する第2撮像素子52bは、同様に右側に位置する分割光学系51bから導かれる光線を受光面の右側で受光するように、入射光に対して水平方向で左側にある程度ずらして配置される。これにより、光学系の厚さをそのままとして、画角を2倍程度、例えば、通常1つの入射面で30度程度の画角を左右併せて60度程度とする広角化が可能となる。更に、全体プリズム51では、左右の光学系は、絶縁体53を介して接続されるので、第2実施形態の全体プリズム31と同様に左右それぞれの光学系において各電解質液体に電圧を印加する各電極の共通化が可能である。このように、本実施形態の全体プリズム51によれば、第2実施形態と同様の効果に加えて、各分割光学系51a、51bの画角は、第2実施形態のプリズム光学系30の画角の半分となるため、更なる薄型化が可能となる。例えば、このプリズム光学系50では、厚さが2〜数mmでもズーム動作が可能となる。なお、本実施形態では、撮像素子52を画角の分割数に対応して同数設置しているが、例えば、1つの撮像素子52で左右共用することも可能である。この撮像素子の共用は、以下の実施形態でも同様である。
【0022】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係る焦点距離可変プリズムを採用したプリズム光学系について説明する。図4は、本実施形態に係るプリズム光学系60の構成を示す概略図である。本実施形態の全体プリズム61は、第3実施形態の全体プリズム51を構成する左右の分割光学系51a、51bを合成、即ち、非電解質液体で形成される内部プリズムを共用とした焦点距離可変プリズムである。この場合、全体プリズム61は、まず、光線の入射面を形成する、左右の第1透過部62及び第2透過部63と、該第1透過部62及び第2透過部63に対してそれぞれ略30度チルト偏心した反射面を形成する、第1反射部64及び第2反射部65とを有する。更に、全体プリズム31は、第1反射部64及び第2反射部65でそれぞれ反射した光線を受け、第1透過部62及び第2透過部63と略平行な反射面を形成する第3反射部66と、該第3反射部66で反射された光線の出射面を形成する第3透過部67とを有する。この場合も、上記実施形態と同様に、各透過部62、63、67を構成する各電解質液体68、69、74は、透過型液体であり、一方、各反射部64、65、66を構成する各電解質液体70、71、75は、反射型液体である。この全体プリズム61の構成によれば、各入射面、反射面、及び出射面に隣接する非電解質液体72では、第3反射部66で反射された光線は、第3透過部67に進む際に、図4に示すように交差する。また、本実施形態の撮像素子73は、第3実施形態の撮像素子52と同様に第1撮像素子73aと第2撮像素子73bとの左右2つの撮像素子からなる。但し、本実施形態では、非電解質液体72内で光線が交差するので、被写体を基準として左側に位置する第1撮像素子73aは、第3実施形態の第1撮像素子52aとは逆に、入射光に対して水平方向で左側にある程度ずらして配置される。一方、被写体を基準として右側に位置する第2撮像素子73bも、入射光に対して水平方向で右側にある程度ずらして配置される。更に、本実施形態の全体プリズム61では、非電解質液体72を左右の光学系で共用としているので、左右の光学系の全ての電極をグランドとして共通化することができる。このように、本実施形態の全体プリズム61によれば、左右の光学系で第3反射部66と第3透過部67とを共用するので、第3実施形態の全体プリズム51と比較して、ズーム及びフォーカスの制御面を減らし、構成の簡略化が可能となる。
【0023】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態に係る焦点距離可変プリズムを採用したプリズム光学系について説明する。図5は、本実施形態に係るプリズム光学系80の構成を示す概略図である。本実施形態の全体プリズム81は、第3及び第4実施形態の全体プリズム50、60の構成を変更し、臨界角条件により、全反射面、かつ、透過面として機能する反射透過面を有する焦点距離可変プリズムである。この場合、全体プリズム81は、まず、被写体に対して偏心した光線の入射面を形成する、左右の第1透過部82及び第2透過部83と、該第1透過部82及び第2透過部83に対してそれぞれ略30度チルト偏心した反射透過面84とを有する。また、全体プリズム81は、反射透過面84で反射した光線を受け、再度、反射透過面84に対して光線を反射する左右の第1反射部85及び第2反射部86を有する。この第1反射部85及び第2反射部86も、光線を反射透過面84に導くために、該反射透過面84に対してそれぞれ略30度チルト偏心している。更に、各透過部82、83、及び各反射部85、86に隣接する非電解質液体87は、第4実施形態と同様に、左右の光学系で共用である。なお、このプリズム光学系80における左右の各撮像素子88a、88bは、上記実施形態とは異なり、被写体からの光線が左右の光学系でそれぞれ斜めに傾いた、即ち、被写体に対して偏心した画角で入射するので、入射光に対してずらして配置する必要はない。このように、本実施形態の全体プリズム81によれば、第4実施形態の効果に加えて、臨界角条件による反射透過面84を採用し、全反射面と透過面とを同一面で機能させるので、更なる薄型化が可能となる。
【0024】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態に係る焦点距離可変プリズムを採用したプリズム光学系について説明する。図6は、本実施形態に係るプリズム光学系90の構成を示す概略図である。本実施形態の全体プリズム91は、第3実施形態の全体プリズム50と同様に、被写体側の画角を左側と右側とに分割した焦点距離可変プリズムである。更に、全体プリズム91では、全体プリズム50とは異なり、被写体からの光線の入射方向(Z方向)に対して垂直方向(X方向)に設置された左右の2つの撮像素子92、93にそれぞれ出射光を導くように出射面を設定する。この場合、まず、全体プリズム91を構成する左側の分割光学系91aは、光線の入射面を形成する第1透過部94と、該第1透過部94に対して略30度チルト偏心した反射面を形成する第1反射部95とを有する。また、分割光学系91aは、第1反射部95で反射した光線を受け、該光線を、第1透過部94を通過する光線に対して垂直方向に公差するように反射させる反射面を形成する第2反射部96を有する。更に、分割光学系91aは、第2反射部96で反射された光線の出射面を形成し、光線を撮像素子92へ導く第2透過部97を有する。なお、全体プリズム91を構成する右側の分割光学系91bも、絶縁体98を基準として、左側の分割光学系51bと左右対称で同一構成(符号99〜102)を有する。また、各透過部94、97及び各反射部95、96の構成、及び内部プリズム103が非電解質液体で形成される点は、第3実施形態と同様である。また、本実施形態では、被写体を基準として左側に位置する第1撮像素子92は、左側の分割光学系91aから導かれる光線を受光面の左側で受光するように、入射光に対して水平方向で右側(Z方向下側)にある程度ずらして配置される。一方、被写体を基準として右側に位置する第2撮像素子93も、右側に位置する分割光学系91bから導かれる光線を受光面の右側で受光するように、入射光に対して水平方向で左側(Z方向下側)にある程度ずらして配置される。このように、本実施形態の全体プリズム91によれば、第3実施形態と同様の効果に加えて、全体プリズム91内の光路が「4」の字型であることから、全体プリズム91の体積を縮小させ、体積効率を良好とすることが可能である。なお、プリズム光学系90は、図7に示すように、左右の分割光学系91a、91bを構成する各第2反射部96、101の電解質液体96a、101aを1つの電解質液体104として共用させることも可能である。但し、この場合、各第2反射部96、101を構成する各電極をそれぞれ絶縁するための絶縁体105が2箇所に備わる。
【0025】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0026】
2 全体プリズム
14 第1電解質液体
15 非電解質液体
16 第1境界面
18 第2電解質液体
19 第2境界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の透過型液体と、該第1の透過型液体とは屈折率の異なる第2の透過型液体と、反射型液体とを有し、前記第1の透過型液体と前記第2の透過型液体との境界に形成される透過面及び前記第2の透過型液体と前記反射型液体との境界に形成される反射面を電気制御することで、前記透過面及び前記反射面の形状を変化させることを特徴とする焦点距離可変プリズム。
【請求項2】
前記第1の透過型液体、および前記反射型液体は、電解質液体であり、
前記第2の透過型液体は、非電解質液体であることを特徴とする請求項1に記載の焦点距離可変プリズム。
【請求項3】
前記第1の透過型液体は、光線の入射側の面に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の焦点距離可変プリズム。
【請求項4】
前記非電解質液体である前記第2の透過型液体の量は、前記電解質液体である第1の透過型液体及び前記反射型液体の総量の4倍以上であることを特徴とする請求項2に記載の焦点距離可変プリズム。
【請求項5】
前記第2の透過型液体の屈折率nは、
n≧1.55
を満たすことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の焦点距離可変プリズム。
【請求項6】
前記透過面及び前記反射面の形状を変化させるための複数の電極を有し、
前記複数の電極のうち、少なくとも1組の前記電極を共通化し、前記第1の透過型液体と前記反射型液体とにかける電圧を異ならせて電気制御することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の焦点距離可変プリズム。
【請求項7】
少なくとも1つのプリズムと、該プリズムを通過した光線を受光する撮像素子とを有するプリズム光学系であって、
前記プリズムは、請求項1〜6のいずれか1項に記載の焦点距離可変プリズムであることを特徴とするプリズム光学系。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−133026(P2012−133026A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283595(P2010−283595)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】