説明

焦電型検出素子及び焦電型検出素子の製造方法

【課題】エッチングによるダメージを低減した焦電型検出素子の製造方法を提供する。
【解決手段】Sn膜271を形成し、パターニングする第1膜形成工程と、Sn膜271に重ねてIn膜272を形成する第2膜形成工程と、焦電体232を形成する第3膜形成工程と、酸素含有雰囲気にて加熱し、Sn膜271とIn膜272から第1電極234を形成するアニール工程と、第1電極234が形成されない場所のIn膜272と焦電体232を除去する除去工程と、を有する。第2膜形成工程が終了するとき、支持部材210上にはIn膜272とSn膜271とが積層されたInSn積層領域273と、In膜272とSn膜271とが積層されていないIn単層領域274と、が配置され、アニール工程ではInSn積層領域273にて第1電極234を形成し、In単層領域274のIn膜272を蒸発させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焦電型検出素子及び焦電型検出素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外検出装置には焦電型またはボロメーター型の赤外線検出装置が知られている。赤外線検出装置は、受光した赤外線の光量や温度によって、焦電体材料の自発分極量が変化すること(焦電効果またはパイロ電子効果と称す)を利用する。そして、焦電型赤外線検出装置には焦電体の両端に起電力(分極による電荷の形成)を生じさせる焦電型と温度によって抵抗値を変化させるボロメーター型がある。焦電型赤外線検出装置は、ボロメーター型赤外線検出装置と比較して、製造工程が複雑である反面、検出感度が優れるという利点がある。
【0003】
焦電型赤外線検出装置のセルは、上部電極と下部電極とに接続された焦電体を含むキャパシターを有し、電極や焦電体の材料に関して、各種の提案がなされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−232896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で示されるように従来の製造方法では、素子構成層の中で最も膜厚の厚い強誘電体層を長時間エッチングする必要がある。これは、通常ドライプロセスが用いられ、ウェットプロセスと比較した場合、プラズマにより素子が高いダメージをうける可能性がある。また、素子の構成及び製造上の理由からドライプロセスが選択されることがある。そこで、焦電型検出素子製造時にエッチングによるダメージを低減した焦電型検出素子の製造方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例に係る焦電型検出素子の製造方法は、基板上にパターニングしたSn膜を形成する第1膜形成工程と、前記Sn膜と重ねてIn膜を形成する第2膜形成工程と、PZT膜を形成する第3膜形成工程と、酸素含有雰囲気にて加熱し、前記Sn膜と前記In膜とからITO膜を形成するアニール工程と、前記ITO膜が形成されない場所の前記In膜と前記PZT膜を除去する除去工程と、を有し、前記第2膜形成工程が終了するとき、前記基板上には前記In膜と前記Sn膜とが積層されたInSn積層領域と、前記In膜と前記Sn膜とが積層されていないIn単層領域と、が配置され、前記アニール工程では前記InSn積層領域にて前記ITO膜を形成し、前記In単層領域の前記In膜を蒸発させることを特徴とする。
【0008】
本適用例によれば、第1膜形成工程において基板上にパターニングしたSn膜を形成している。第2膜形成工程ではSn膜と重ねてIn膜を形成している。第3膜形成工程ではPZT膜を形成している。尚、PZT膜は主にチタン酸ジルコン酸鉛からなる膜を示す。そして、アニール工程にて酸素含有雰囲気にて加熱し、InSn積層領域におけるSn膜とIn膜とからITO(Indium Tin Oxide)膜を形成している。さらに、In単層領域ではIn膜を蒸発させている。これにより、基板からPZT膜を剥離し易くなる。そして、除去工程ではITO膜が形成されない場所のIn膜とPZT膜を除去している。
【0009】
これにより、パターニングされたSn膜の形状にITO膜とPZT膜とが積層された膜が形成される。ITO膜上にPZT膜を積層した膜を形成した後にドライプロセスにてパターニングする方法がある。この方法ではエッチングするときに膜にプラズマを照射するため、ITO膜、PZT膜にダメージが加わる。この方法に比べて、本適用例では、ITO膜、PZT膜にプラズマエッチングを行わない為、素子に対するプラズマダメージを低減することができる。
【0010】
[適用例2]本適用例に係る焦電型検出素子の製造方法は、基板上にIn膜を形成する第1膜形成工程と、前記In膜と重ねてパターニングしたSn膜を形成する第2膜形成工程と、PZT膜を形成する第3膜形成工程と、酸素含有雰囲気にて加熱し、前記Sn膜と前記In膜とからITO膜を形成するアニール工程と、前記ITO膜が形成されない場所の前記In膜と前記PZT膜を除去する除去工程と、を有し、前記第2膜形成工程が終了するとき、前記基板上には前記In膜と前記Sn膜とが積層されたInSn積層領域と、前記In膜と前記Sn膜とが積層されていないIn単層領域と、が配置され、前記アニール工程では前記InSn積層領域にて前記ITO膜を形成し、前記In単層領域の前記In膜を蒸発させることを特徴とする。
【0011】
本適用例によれば、第1膜形成工程において基板上にIn膜を形成している。第2膜形成工程ではIn膜と重ねてパターニングしたSn膜を形成している。第3膜形成工程ではPZT膜を形成している。そして、アニール工程にて酸素含有雰囲気にて加熱し、InSn積層領域におけるSn膜とIn膜とからITO膜を形成している。さらに、In単層領域ではIn膜を蒸発させている。これにより、基板からPZT膜を剥離し易くなる。そして、除去工程ではITO膜が形成されない場所のIn膜とPZT膜を除去している。
【0012】
これにより、パターニングされたSn膜の形状にITO膜とPZT膜とが積層された膜が形成される。ITO膜上にPZT膜を積層した膜を形成した後にドライプロセスにてパターニングする方法がある。この方法ではエッチングするときに膜にプラズマを照射するため、ITO膜、PZT膜にダメージが加わる。この方法に比べて、本適用例では、ITO膜、PZT膜にプラズマエッチングを行わない為、素子に対するプラズマダメージを低減することができる。
【0013】
[適用例3]上記適用例に記載の焦電型検出素子の製造方法では、前記アニール工程は、前記基板を150〜200℃に加熱し前記In単層領域の前記In膜を蒸発させ、且つ前記InSn積層領域の前記In膜と前記Sn膜とを相互拡散させて前記InSn合金領域を形成する第1ステップと、前記基板を300〜500℃に加熱し前記InSn合金領域に前記ITO膜を形成する第2ステップと、前記基板を700〜900℃に加熱し前記PZT膜を結晶化させる第3ステップと、を有することが好ましい。
【0014】
本適用例によれば、アニール工程は、3つのステップにて行われる。第1ステップにおいて基板を150〜200℃に加熱しIn単層領域のInを蒸発させ、且つInSn積層領域のIn膜とSn膜とを相互拡散させてInSn合金領域を形成している。第2ステップでは基板を300〜500℃に加熱しInSn合金領域にITO膜を形成している。そして、第3ステップでは基板を700〜900℃に加熱しPZT膜を結晶化させる。
【0015】
これにより、3つのステップでITO膜とPZT膜の形成を安定して行うことができる為、面内均一性、安定性を向上させることができる。さらに、PZTコートのパターニングを精度良く実現することができる。従って、大掛かりなエッチングプロセスを用いることなく、素子へのダメージを少なくしシンプルな工程で生産性を向上できる。
【0016】
[適用例4]上記適用例に記載の焦電型検出素子の製造方法は、前記Sn膜をパターニングするとき、レジストと前記レジストを除去するエッチャントとが用いられ、前記Sn膜のパターンエッジに前記レジストと前記エッチャント成分による角状のリデポ物を形成することが好ましい。
【0017】
本適用例によれば、パターンエッジの角状リデポ物は、Sn膜をパターニングするときに形成される。尚、パターンエッジはパターニングされたSn膜の外周のエッジを示す。エッチングした後で剥離する工程において、通常、酸素プラズマによるアッシングを行って、剥離液による剥離を行う。このときに、アッシング条件を通常の約10〜70%程度に抑える。これにより、レジストとエッチャント成分によりSn膜のパターンエッジに角状のリデポ物を形成することができる。
【0018】
上記適用例のプロセスでは、酸素雰囲気中でのアニールによりIn膜を蒸発させ、膜リフトオフ現象を利用している。この角状リデポ物がパターンエッジに存在することでリフトオフ時に応力が集中する為、ITO膜をSn膜のパターンエッジでせん断し易くさせることができる。
【0019】
[適用例5]上記適用例に記載の焦電型検出素子の製造方法は、前記PZT膜と重ねて赤外光の一部を反射し他の一部を透過する半透過貴金属膜を形成する貴金属膜形成工程をさらに有することが好ましい。
【0020】
本適用例によれば、ITO膜、PZT膜、半透過貴金属膜を重ねて形成している。これにより、入射した赤外光を半透過貴金属膜とPZT膜との界面と、PZT膜とITO膜との間で、散乱させることが可能となる。これにより、赤外光の検出感度を向上させることができる。
【0021】
[適用例6]本適用例に記載の焦電型検出素子は、基板上にITO膜とPZT膜とが積層された積層膜を有する焦電型検出素子であって、上記適用例に記載の焦電型検出素子の製造方法を用いて形成されていることを特徴とする。
【0022】
本適用例によれば、焦電型検出素子が有する積層膜は上記適用例に記載の焦電型検出素子の製造方法を用いて形成されている。従って、焦電型検出素子はプラズマによるダメージが低減した積層膜を有する素子とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態1に係り、焦電型赤外線検出器を示す要部平面図。
【図2】(a)は、焦電型赤外線検出素子の模式断面図、(b)は、焦電型赤外線検出素子の模式平面図。
【図3】赤外線検出素子の製造方法を示すフローチャート。
【図4】赤外線検出素子の製造方法を説明するための図。
【図5】実施形態2に係り、赤外線検出素子の製造方法を説明するための模式図。
【図6】実施形態3に係り、(a)は、赤外線検出素子の製造方法を示すフローチャート、(b)は、赤外線検出素子の製造方法を説明するための模式図。
【図7】実施形態4に係り、(a)は、赤外線検出素子の構造を示す模式図、(b)は、赤外線検出素子の製造方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。尚、以下の各図においては、各層や各部材を認識可能な程度の大きさにするため、各層や各部材の尺度を実際とは異ならせしめている。
【0025】
(実施形態1)
本実施形態では、焦電型赤外線検出器と焦電型赤外線検出器に含まれる焦電型赤外線検出素子の特徴的な製造方法との例について、図1〜図4に従って説明する。図1は、焦電型赤外線検出器を示す要部平面図である。尚、焦電型赤外線検出器は広義には焦電型検出装置とも称される。まず、焦電型赤外線検出装置の概略構成について説明する。
【0026】
(焦電型赤外線検出装置)
図1に示すように、焦電型赤外線検出装置1は基部100を備えている。基部100には2本のポスト104が立設されている。2本のポスト104に支持された1セル分の赤外線検出器200Aが、2方向例えば直交する2方向に配列されている。尚、1セル分のみの赤外線検出器200Aにて焦電型赤外線検出装置1が構成されても良い。赤外線検出器200Aは基板としての支持部材210を備え、支持部材210がポスト104に支持されている。1セル分の赤外線検出器200Aが占める領域の大きさ及び形状は特に限定されないが、例えば本実施形態では、一辺が数十μmの矩形となっている。
【0027】
赤外線検出器200Aは、2本のポスト104に連結された支持部材210(メンブレンとも称す)と、焦電型検出素子としての赤外線検出素子220A(広義には焦電型検出素子とも称す)と、を含んでいる。1セル分の赤外線検出素子220Aが占める領域の大きさは特に限定されないが、(図中で破線で区画される領域)は、例えば本実施形態では、一辺の長さが10μm程度の矩形である。
【0028】
1セル分の赤外線検出器200Aにおいて2本のポスト104と接続される場所以外の場所は基部100に対して非接触となっている。従って、赤外線検出器200Aと基部100との間には空洞部が形成されている。平面視で赤外線検出器200Aの周囲には、空洞部に連通する開口部102Aが配置される。これにより、1セル分の赤外線検出器200Aは、基部100や隣り合う他の赤外線検出器200Aから熱的に分離されている。
【0029】
支持部材210は、赤外線検出素子220Aを搭載する搭載部210Aと、搭載部210Aに連結された2本のアーム210Bとを有し、2本のアーム210Bの自由端部がポスト104に連結されている。2本のアーム210Bは簡略化して図示されているが、赤外線検出素子220Aを熱分離するためにアーム210Bは細幅でかつ冗長に延在させて搭載部210Aとポスト104とが離れるように形成してもよい。これにより、支持部材210と基部100との間の熱伝導を小さくすることができる。
【0030】
赤外線検出素子220Aは第1電極配線層222(下部電極)及び第2電極配線層224(上部電極)を備えている。第2電極配線層224は、第2電極236(上部電極)上に形成される配線層224Aと、それに接続される配線層224Bを含む。第1電極配線層222、第2電極配線層224の各々は、搭載部210Aからアーム210Bに沿って延在され、ポスト104を介して基部100内の回路に接続される。第1電極配線層222、第2電極配線層224も、赤外線検出素子220Aを基部100から熱分離するために、細幅でかつ冗長に延在形成してもよい。これにより、支持部材210と基部100との間の熱伝導を小さくすることができる。
【0031】
ポスト104には、第1電極配線層222、第2電極配線層224に接続されるプラグ106が配置されている。このプラグ106は、基部100に設けられる行選択回路(行ドライバー)か、または列線を介して検出器からのデータを読み出す読み出し回路に接続される。
【0032】
(焦電型赤外線検出器)
図2(a)は、焦電型赤外線検出素子の模式断面図であり、図2(b)は、焦電型赤外線検出素子の模式平面図である。図2に示すように基部100と支持部材210との間には空洞部102が設置されている。尚、製造工程途中の赤外線検出器200Aでは、空洞部102が第1犠牲層により埋め込まれている。第1犠牲層は、支持部材210及び赤外線検出素子220Aの形成工程前から形成工程後まで存在しており、赤外線検出素子220Aの形成工程後に、等方性エッチングにより除去されるものである。
【0033】
基部100は、シリコン基板110と、シリコン基板110上の絶縁膜(例えばSiO2)にて形成されるスペーサー層120とを含んでいる。ポスト104は、スペーサー層120をエッチングすることで形成され、例えばSiO2にて形成されている。空洞部102は、スペーサー層120を等方性エッチングすることで、ポスト104と同時に形成される。開口部102Aは、支持部材210をパターンエッチングすることで形成される。また、開口部102Aからエッチャントを供給して第1犠牲層を等方性エッチングする。このエッチングのために、空洞部102の露出面には、エッチングストップ層130,140が残存している。
【0034】
支持部材210において赤外線検出素子220Aが設置された面を第1面211Aとする。第1面211A上にはキャパシター230が設置されている。キャパシター230は、PZT膜としての焦電体232と、焦電体232の下面に接続されるITO膜としての第1電極234(下部電極)と、焦電体232の上面に接続される第2電極236(上部電極)とを含んで構成されている。焦電体232と第1電極234とを合わせた膜が積層膜に相当する。第1電極234は、例えば複数層で形成される支持部材210の第1層部材(例えば絶縁層であるSiO2)との密着性を高める密着層を含むことができる。支持部材210において第1面211Aの反対逆側に位置する面を第2面211Bとする。第2面211Bは空洞部102に面している。
【0035】
キャパシター230は第1還元ガスバリア層240に覆われている。これにより、キャパシター230の形成後の工程で還元ガス(水素、水蒸気、OH基、メチル基等)がキャパシター230に侵入することが抑制される。キャパシター230の焦電体232(例えばPZT等)は酸化物であり、酸化物が還元されると酸素欠損を生じて、焦電効果が損なわれる。そこで、第1還元ガスバリア層240は焦電体232の焦電効果が損なわれることを防止する。
【0036】
第1還元ガスバリア層240は、キャパシター230に接する第1バリア層と、第1バリア層に積層される第2バリア層とを含むことができる。第1バリア層は、例えば酸化アルミニウムAl23をスパッタ法により成膜して形成することができる。スパッタ法では還元ガスが用いられないので、キャパシター230が還元されることはない。第2バリア層は、例えば酸化アルミニウムAl23を例えば原子層化学気相成長法(ALCVD(Atomic Layer Chemical Vapor Deposition))により成膜して形成することができる。通常のCVD(Chemical Vapor Deposition)は還元ガスを用いるが、第1層バリア層によりキャパシター230は還元ガスから隔離される。
【0037】
第1還元ガスバリア層240のトータル膜厚は特に限定されないが、50〜70nmが好ましく、本実施形態では例えば60nmとしている。このとき、CVD法で形成される第1バリア層の膜厚は原子層化学気相成長(ALCVD)法により形成される第2バリア層よりも厚く形成される。化学気相成長(CVD)法を用いるとき、第2バリア層の厚さは薄くても35〜65nmとなり、例えば40nmにすることができる。これに対して、原子層化学気相成長(ALCVD)法により形成される第2バリア層の膜厚は薄くでき、例えば酸化アルミニウムAl23の膜厚を5〜30nmにすることができる。第2バリア層の膜厚は特に限定されないが、本実施形態では例えば20nmに成膜して形成している。
【0038】
原子層化学気相成長(ALCVD)法は、スパッタ法等と比較して、優れた埋め込み特性を有する。このため、原子層化学気相成長法は、微細化に対応することが可能となり、第1バリア層、第2バリア層にて還元ガスバリア性を高めることができる。また、スパッタ法で成膜される第1バリア層は第2バリア層に比べて緻密ではないが、それが効を奏して伝熱率を下げる要因となるので、キャパシター230からの熱の散逸を防止できる。
【0039】
第1還元ガスバリア層240上には層間絶縁膜250が形成されている。一般に、層間絶縁膜250の原料ガス(TEOS(Tetra ethoxy silane))が化学反応する際には、水素ガスや水蒸気等の還元ガスが発生する。キャパシター230の周囲に設けた第1還元ガスバリア層240は、この層間絶縁膜250の形成中に発生する還元ガスからキャパシター230を保護するものである。尚、第1還元ガスバリア層240及び層間絶縁膜250は、キャパシター230を保護する保護膜と呼ぶことができる。あるいは、層間絶縁膜250がキャパシター230を保護する保護膜と称される場合には、保護膜としての層間絶縁膜250とキャパシター230との間に第1還元ガスバリア層240を介在配置することができる。
【0040】
層間絶縁膜250上に、第1電極配線層222と第2電極配線層224とが配置される。層間絶縁膜250には、電極配線形成前に予め、第1コンタクトホール252と第2コンタクトホール254が形成される。その際、第1還元ガスバリア層240にも同様にコンタクトホールが形成される。第1コンタクトホール252に埋め込まれた第1プラグ226により、第1電極234(下部電極)と第1電極配線層222とが導通される。同様に第2コンタクトホール254に埋め込まれた第2プラグ228により、第2電極236(上部電極)と第2電極配線層224とが導通される。
【0041】
ここで、層間絶縁膜250が存在しないと、第1電極配線層222と第2電極配線層224をパターンエッチングする際に、その下層の第1還元ガスバリア層240の第2バリア層がエッチングされて、バリア性が低下してしまう。層間絶縁膜250は、第1還元ガスバリア層240のバリア性を担保する上で必要な膜となっている。尚、層間絶縁膜250は水素含有率が低いことが好ましい。そこで、層間絶縁膜250はアニーリングにより脱ガス処理されている。
【0042】
キャパシター230の天面の第1還元ガスバリア層240は、層間絶縁膜250の形成時には第2コンタクトホール254がなく閉じているので、層間絶縁膜250の形成中の還元ガスがキャパシター230に侵入することはない。しかし、第1還元ガスバリア層240に第2コンタクトホール254が形成された後は、バリア性が劣化する。これを防止する一例として、第2プラグ228はバリアメタル層を含むことができる。バリアメタル層は、チタンTiのように拡散性の高いものは好ましくなく、拡散性が少なくかつ還元ガスバリア性の高いチタン・アルミ・ナイトライド(TiAlN)を採用できる。
【0043】
層間絶縁膜250及び第1電極配線層222、第2電極配線層224を覆って、第2還元ガスバリア層260が設置されている。この第2還元ガスバリア層260は、第1犠牲層を等方性エッチングする時のエッチングストップ膜として機能する。さらに、第2還元ガスバリア層260は、その時のエッチャントである例えばフッ素等に起因する還元ガスから赤外線検出素子220Aを保護する。第2還元ガスバリア層260は、例えば酸化アルミニウムAl23を原子層化学気相成長(ALCVD)法により膜厚20〜50nmに成膜されて形成される。
【0044】
本実施形態では、キャパシター230は赤外線吸収体(広義には光吸収体)を含んでいる。さらに、光の入射経路にてキャパシター230よりも上流側に配置される配線層224A及び第2プラグ228は、光を透過する光透過性導電材料にて形成されている。つまり、キャパシター230に配置した赤外線吸収体に入射される光を妨げる配線層224A及び第2プラグ228を光透過性とし、赤外線吸収体への光入射効率を高めている。しかも、赤外線吸収体はキャパシター230内に配置されるので、キャパシター230中の焦電体232への伝熱効率が高くなる。このように、キャパシター230の自発分極量が熱によって変化し、自発分極による電荷を検出することで赤外線を検出する時の検出効率を高めることができる。
【0045】
(赤外線検出素子の製造方法)
次に上述した赤外線検出素子220Aのうち第1電極234と焦電体232の特徴的な製造方法について図3〜図4にて説明する。他の部分の製造方法は公知のフォトリソグラフィ法を用いて製造可能であり説明を省略する。図3は、赤外線検出素子の製造方法を示すフローチャートであり、図4は赤外線検出素子の製造方法を説明するための図である。
【0046】
図3のフローチャートにおいて、ステップS1はSiO2成膜工程に相当し、基板上にSiO2の膜を形成する工程である。次にステップS2に移行する。ステップS2はSn成膜工程に相当し、SiO2の膜に重ねてSn膜を形成する工程である。次にステップS3に移行する。ステップS3はSnフォト工程に相当する。この工程ではSn膜に重ねてレジスト膜を形成しマスキングして露光した後エッチングすることによりレジストをパターニングする工程である。次にステップS4に移行する。ステップS4はSnエッチング工程に相当し、レジスト膜に覆われていない場所のSn膜をエッチングして除去する工程である。次にステップS5に移行する。
【0047】
ステップS5は、Sn剥離工程に相当し、レジスト膜を剥離する工程である。次にステップS6に移行する。ステップS6は、In成膜工程に相当し、Sn膜に重ねてIn膜を形成する工程である。次にステップS7に移行する。ステップS7は、PZTコート工程に相当し、In膜に重ねてPZT膜を形成する工程である。次にステップS8に移行する。ステップS8は、アニール工程に相当し、形成したSn膜とIn膜とを酸素含有雰囲気にて加熱してITO膜を形成する工程である。次にステップS9に移行する。ステップS9は、除去工程に相当し、ITO膜が形成されない場所のIn膜とPZT膜を除去する工程である。以上のステップで第1電極と焦電体とが完成する。
【0048】
ステップS2のSn成膜工程〜ステップS5のSn剥離工程がステップS10の第1膜形成工程に相当し、ステップS6のIn成膜工程が第2膜形成工程に相当する。ステップS7のPZTコート工程が第3膜形成工程に相当する。
【0049】
続いて、工程順に沿って図4を用いて製造方法を説明する。図4は、第1電極と焦電体との製造方法を説明するための模式図である。図4(a)はステップS1のSiO2成膜工程〜ステップS7のPZTコート工程に対応する図である。図4(a)に示すように、ステップS1のSiO2成膜工程において、支持部材210を用意する。そして、支持部材210上に酸化膜270を形成する。支持部材210を酸素雰囲気中にて加熱することにより酸化膜270を形成する。支持部材210はSiからなるので、酸化膜270はSiO2等のシリコン酸化膜である。次に、ステップS2のSn成膜工程において支持部材210上にSn膜271を形成する。Sn膜271はスパッタ法や蒸着法等の方法を用いて成膜することができる。
【0050】
続いて、ステップS3のSnフォト工程において、Sn膜271上にレジスト膜を形成する。レジスト膜はスピンコーター等を用いてレジスト膜の材料を塗布した後、乾燥して形成する。次に、支持部材210を所定のパターンのマスクを介して露光する。そして、レジスト膜をエッチングすることによりレジスト膜をパターニングする。
【0051】
次に、ステップS4のSnエッチング工程において、Sn膜271をエッチングする。このとき、エッチングはドライまたはウェットどちらでも可能である。続いて、ステップS5のSn剥離工程においてレジスト膜を剥離する。支持部材210を酸素プラズマによるアッシングを行った後、剥離液に浸漬してレジスト膜を除去する。これにより、Sn膜271が所定のパターンに形成される。
【0052】
次に、ステップS6のIn成膜工程において、Sn膜271上にIn膜272を形成する。Sn膜271はスパッタ法や蒸着法等の方法を用いて成膜することができる。Sn膜271は所定のパターンとなっていることから、Sn膜271とIn膜272とが積層されている領域と、In膜272が単層となっている領域とが形成される。Sn膜271とIn膜272とが積層されている領域をInSn積層領域273とし、In膜272が単層となっている領域をIn単層領域274とする。
【0053】
続いて、ステップS7のPZTコート工程において、In膜272上にPZT膜としてのPZT前駆体膜275を形成する。焦電体232の前駆体であるゾル状の金属アルコキシド溶液をIn膜272上に塗布した後で乾燥することによりPZT前駆体膜275を形成する。
【0054】
図4(b)及び図4(c)はステップS8のアニール工程に対応する図である。図4(b)に示すように、酸化膜270上にSn膜271、In膜272、PZT前駆体膜275が積層された支持部材210を加熱する。これにより、PZT前駆体膜275は焦電体232であるPZT膜となる。InSn積層領域273ではSn膜271とIn膜272とから第1電極234であるITO膜が形成される。従って、酸化膜270上に第1電極234と焦電体232とが積層される。In単層領域274ではIn膜272が加熱され蒸発する。これにより、焦電体232であるPZT膜は酸化膜270から剥がれ易くなる。
【0055】
図4(c)は、支持部材210を加熱する温度の推移を示す。縦軸は加熱温度を示し、図中上側が下側より高い温度となっている。横軸は時間の推移を示し、時間は図中右側へ推移する。加熱推移線300は支持部材210を加熱する加熱条件の例を示す。加熱推移線300が示すように、支持部材210を常温からIn活性温度300aまで加熱する。In活性温度300aはInの一部が蒸発する温度である。そして、第1ステップ300bにおいて支持部材210をIn活性温度300aのまま維持する。これにより、In単層領域274のIn膜272を蒸発させる。さらに、InSn積層領域273のSn膜271とIn膜272とを相互拡散させてInSn合金領域を形成する。加熱時間は反応が充分行われる時間であればよく特に限定されないが、本実施形態では例えば、1時間に設定している。In活性温度300aはInの融点近くの温度より高ければよく150〜200℃が好ましく、170〜200℃がさらに好ましい。さらには、180〜200℃が好ましい。InSn合金領域を確実に形成することができる。
【0056】
次に、支持部材210をIn活性温度300aからITO形成温度300cまで加熱する。ITO形成温度300cはInSn合金領域がITO膜となる温度である。そして、第2ステップ300dにおいて支持部材210を酸素含有雰囲気中でITO形成温度300cのまま維持する。これにより、InSn合金領域からITO膜を形成する。加熱時間は反応が充分行われる時間であればよく特に限定されないが、本実施形態では例えば、1時間に設定している。ITO形成温度300cはITO膜が形成される温度であればよく300〜500℃が好ましく、350〜450℃がさらに好ましい。さらには、380〜420℃が好ましい。これにより、ITO膜を確実に形成することができる。
【0057】
次に、支持部材210をITO形成温度300cからPZT形成温度300eまで加熱する。PZT形成温度300eはPZT前駆体膜275がPZT膜となる温度である。そして、第3ステップ300fにおいて支持部材210をPZT形成温度300eのまま維持する。これにより、PZT前駆体膜275を結晶化させてPZT膜を形成する。加熱時間は反応が充分行われる時間であればよく特に限定されないが、本実施形態では例えば、1時間に設定している。PZT形成温度300eはPZT膜が形成される温度であればよく700〜900℃が好ましく、750〜850℃がさらに好ましい。さらには、780〜820℃が好ましい。これにより、PZT膜を確実に形成することができる。
【0058】
図4(d)はステップS9の除去工程に対応する図である。図4(c)に示すように、In単層領域274における焦電体232を除去する。InSn積層領域273における酸化膜270上の第1電極234と焦電体232との密着力は強く、In単層領域274における酸化膜270上の焦電体232は密着力が弱い状態となっている。In膜272が蒸発して焦電体232の密着力が弱くなることを膜リフトオフ現象と称す。焦電体232を剥離する方法には支持部材210にブロワー、エアージェット等を用いて気体を吹き付ける方法を用いることができる。他にも、支持部材210を純水等の液中にて攪拌したり液中にて超音波を照射する方法を用いても良い。これにより、支持部材210からIn単層領域274の焦電体232を剥離させ除去することができる。以上のステップで第1電極234と焦電体232とが完成する。
【0059】
以上述べたように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)本実施形態によれば、パターニングされたSn膜271と同じ形状にITO膜とPZT膜との積層膜が形成される。ITO膜上にPZT膜を積層した膜を形成した後にドライプロセスにてパターニングする方法がある。この方法ではエッチングするときに膜にプラズマを照射するため、ITO膜、PZT膜にダメージが加わる。この方法に比べて、本適用例では、ITO膜、PZT膜にプラズマエッチングを行わない為、素子に対するプラズマダメージを低減することができる。
【0060】
(2)本実施形態によれば、ステップS8のアニール工程は第1ステップ300b、第2ステップ300d、第3ステップ300fの3つのステップにて行われている。3つのステップを順に行うことによりITO膜とPZT膜の形成を安定して行うことができる為、面内均一性、安定性を向上させることができる。これによって、PZTコートのパターニングを精度良く実現することができる。従って、大掛かりなエッチングプロセスを用いることなく、素子へのダメージを少なくしシンプルな工程で生産性を向上できる。
【0061】
(3)本実施形態によれば、支持部材210と焦電体232との間の第1電極234にITO膜を用いている。従って、第1電極234に貴金属電極を用いるときより、赤外光反射率を向上させることが可能となる。その結果、焦電体232への赤外光入射効率が向上し、センサー感度を向上させることができる。
【0062】
(4)本実施形態によれば、赤外線検出素子220Aが有する積層膜は上記に記載の製造方法を用いて形成されている。従って、赤外線検出素子220Aはプラズマダメージが低減した積層膜を有する素子とすることができる。
【0063】
(実施形態2)
次に、赤外線検出素子の製造方法の一実施形態について図5の赤外線検出素子の製造方法を説明するための模式図を用いて説明する。本実施形態が実施形態1と異なるところは、Sn膜の周囲に角状のリデポ物が形成されている点にある。尚、実施形態1と同じ点については説明を省略する。
【0064】
図5(a)はステップS2のSn成膜工程〜ステップS7のPZTコート工程に対応する図である。図5(a)に示すように、ステップS5のSn剥離工程において、酸素プラズマによるアッシングを行って、剥離液による剥離を行う。このときに、アッシング条件を通常の約10〜70%程度に抑える。これにより、Sn膜271の周囲にレジストとエッチャント成分により角状のリデポ物271aを形成することができる。Sn膜271の周囲のエッジはパターンエッジとも称す。
【0065】
ステップS6のIn成膜工程ではSn膜271と重ねてIn膜272が形成される。このとき、Sn膜271のリデポ物271aと対向する場所のIn膜272には凸部272aが形成される。凸部272aはリデポ物271aと類似な形状であり、角状となる。ステップS7のPZTコート工程ではPZT前駆体膜275が塗布される。そして、凸部272aはPZT前駆体膜275に覆われる。
【0066】
図5(b)はステップS8のアニール工程に対応する図である。図5(b)に示すように、ステップS8において、InSn積層領域273ではSn膜271とIn膜272とから第1電極234が形成される。このとき、凸部272aは同じ形状の凸部234aとなる。
【0067】
図5(c)はステップS9の除去工程に対応する図である。図5(c)に示すようにステップS9ではIn単層領域274の焦電体232が剥離される。このとき、凸部234aは角状であることから、焦電体232を支持部材210から剥離するとき、凸部234aの先端に応力が集中する。これにより、焦電体232は第1電極234の外周のパターンエッジに沿って容易に剥離することができる。以上のステップで第1電極234と焦電体232とが完成する。
【0068】
以上述べたように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)本実施形態によれば、パターンエッジのリデポ物271aは、Sn膜271をパターニングするときに形成される。そして、リデポ物271aと同じ形状に凸部234aが形成される。本実施形態のプロセスでは、酸素雰囲気中でのアニールによりIn膜272を蒸発させ、膜リフトオフ現象を利用している。この凸部234aがパターンエッジに存在する為リフトオフ時に応力が集中する。従って、焦電体232をパターンエッジの凸部234aでせん断し易くさせることができる。
【0069】
(実施形態3)
次に、赤外線検出素子の製造方法の一実施形態について図6(a)の赤外線検出素子の製造方法を示すフローチャート及び図6(b)の赤外線検出素子の製造方法を説明するための図を用いて説明する。本実施形態が実施形態1と異なるところは、In膜を形成した後にSn膜を形成する点にある。尚、実施形態1と同じ点については説明を省略する。
【0070】
すなわち、本実施形態では図6に示すように、ステップS1のSiO2成膜工程にて支持部材210上に酸化膜270を形成する。次にステップS6に移行する。ステップS6は、In成膜工程に相当し、酸化膜270に重ねてIn膜272を形成する工程である。In膜272をスパッタ法や蒸着法等を用いて成膜する。ステップS6は第1膜形成工程に相当する工程である。次にステップS2に移行する。ステップS2はSn成膜工程に相当し、In膜272に重ねてSn膜271を形成する工程である。Sn膜271をスパッタ法や蒸着法等を用いて成膜する。次にステップS3に移行する。ステップS3はSnフォト工程に相当する。この工程ではSn膜に重ねてレジスト膜を形成しマスキングして露光した後エッチングすることによりレジストをパターニングする工程である。次にステップS4に移行する。ステップS4はSnエッチング工程に相当し、レジスト膜に覆われていない場所のSn膜を除去する工程である。エッチングにはアルカリ系エッチャントを用いるのが望ましい。In(不溶)とSn(可溶)の選択比をとることができる。次にステップS5に移行する。
【0071】
ステップS5は、Sn剥離工程に相当する。支持部材210を酸素プラズマによるアッシングを行った後、剥離液に浸漬してレジスト膜を除去する。これにより、Sn膜271が所定のパターンに形成される。レジスト膜を剥離する前のアッシングプロセスにおいて、完全にレジスト硬化層が除去できる条件を100%とした場合、約10〜70%で実施する。Sn膜271の周囲のパターンエッジに角状のリデポ物271aを形成することができる。ステップS2〜ステップS5はステップS11の第2膜形成工程に相当する工程である。次にステップS7に移行する。ステップS7は、PZTコート工程に相当し、In膜に重ねてPZT膜を形成する工程である。ステップS7は第3膜形成工程に相当する工程である。
【0072】
次にステップS8に移行する。ステップS8は、アニール工程に相当し、形成したSn膜とIn膜とを酸素含有雰囲気にて加熱してITO膜を形成する工程である。このとき、リデポ物271aは図5(b)に示す凸部234aとなる。次にステップS9に移行する。ステップS9は、除去工程に相当し、In単層領域274のIn膜272と焦電体232を除去する工程である。凸部234aがパターンエッジに存在することで、リフトオフ時に応力が集中する。従って、焦電体232をパターンエッジの凸部234aでせん断し易くさせることができる。以上のステップで第1電極234と焦電体232とが完成する。
【0073】
以上述べたように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)本実施形態によれば、パターニングされたSn膜271と同じ形状にITO膜とPZT膜との積層膜が形成される。ITO膜上にPZT膜を積層した膜を形成した後にドライプロセスにてパターニングする方法がある。この方法ではエッチングするときに膜にプラズマを照射するため、ITO膜、PZT膜にダメージが加わる。この方法に比べて、本実施形態では、ITO膜、PZT膜にプラズマエッチングを行わない為、赤外線検出素子220Aに対するプラズマダメージを低減することができる。
【0074】
(2)本実施形態によれば、パターンエッジのリデポ物271aは、Sn膜271をパターニングするときに形成される。そして、アニールによりリデポ物271aと同じ形状に凸部234aが形成される。本実施形態のプロセスでは、酸素雰囲気中でのアニールによりIn膜272を蒸発させ、膜リフトオフ現象を利用している。この凸部234aがパターンエッジに存在することで、リフトオフ時に応力が集中する。従って、焦電体232をパターンエッジの凸部234aでせん断し易くさせることができる。
【0075】
(実施形態4)
次に、赤外線検出素子の製造方法の一実施形態について、図7(a)の赤外線検出素子の構造を示す模式図及び図7(b)の赤外線検出素子の製造方法を示すフローチャートを用いて説明する。本実施形態が実施形態1と異なるところは、ITO膜上に半透過貴金属膜を形成する点にある。尚、実施形態1と同じ点については説明を省略する。
【0076】
すなわち、本実施形態では図7(a)に示すように、支持部材210上に酸化膜270、第1電極234、焦電体232が積層されている。そして、焦電体232上に半透過貴金属膜310及び第2電極236が積層されている。半透過貴金属膜310の材料にはRu、Rh、Pd、Ag、Os、Ir、Pt、Au及びこれらの貴金属を主成分とする合金を用いることができる。尚、半透過貴金属膜310の膜厚は、10〜50nm程度が好ましい。膜厚が10nm未満では赤外光が反射し難くなり、50nmを超えると赤外光が透過し難くなる。
【0077】
図7(b)において、ステップS21は、第1膜形成工程に相当し、第1電極234の材料となる膜を形成する工程である。ステップS21は実施形態1のステップS10または実施形態3のステップS6に相当する。次にステップS22に移行する。ステップS22は、第2膜形成工程に相当し、第1電極234の材料となる膜を形成する工程である。ステップS22は実施形態1のステップS6または実施形態3のステップS11に相当する。次にステップS23に移行する。ステップS23は、第3膜形成工程に相当し、PZT前駆体膜275を形成する工程である。ステップS23は実施形態1または実施形態3のステップS7に相当する。次にステップS8に移行した後、ステップS9に移行する。
【0078】
ステップS8のアニール工程及びステップS9の除去工程は実施形態1と同じ工程であり、説明を省略する。次にステップS24に移行する。ステップS24は、貴金属膜形成工程に相当し、半透過貴金属膜310を形成する工程である。半透過貴金属膜310はスパッタ法や蒸着法を用いて形成することができる。次にステップS25に移行する。ステップS25は、第4膜形成工程に相当し、第2電極236を形成する工程である。第2電極236はスパッタ法や蒸着法を用いて成膜した後フォトリソグラフィ法を用いてパターニングすることができる。尚、この工程で半透過貴金属膜310と第2電極236とを同時にパターニングしても良く、また、半透過貴金属膜310及び第2電極236は別々の工程にてパターニングしても良い。
【0079】
以上述べたように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)本実施形態によれば、第1電極234、焦電体232、半透過貴金属膜310を重ねて形成している。これにより、入射した赤外光を半透過貴金属膜310と焦電体232との界面と、焦電体232と第1電極234との間で、散乱させることが可能となる。これにより、赤外光の検出感度を向上させることができる。
【0080】
以上、いくつかの実施形態について説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるものである。従って、このような変形例は総て本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書または図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書または図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。
【0081】
上記実施形態は、種々の焦電型検出素子、例えば、熱伝対型素子(サーモパイル)、焦電型素子、ボロメーター等に広く適用することができる。検出する光の波長は特に限定されない。
【符号の説明】
【0082】
210…基板としての支持部材、220A…焦電型検出素子としての赤外線検出素子、232…PZT膜としての焦電体、234…ITO膜としての第1電極、271…Sn膜、271a…リデポ物、272…In膜、273…InSn積層領域、274…In単層領域、275…PZT膜としてのPZT前駆体膜、310…半透過貴金属膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にパターニングしたSn膜を形成する第1膜形成工程と、
前記Sn膜と重ねてIn膜を形成する第2膜形成工程と、
PZT膜を形成する第3膜形成工程と、
酸素含有雰囲気にて加熱し、前記Sn膜と前記In膜とからITO膜を形成するアニール工程と、
前記ITO膜が形成されない場所の前記In膜と前記PZT膜を除去する除去工程と、を有し、
前記第2膜形成工程が終了するとき、前記基板上には前記In膜と前記Sn膜とが積層されたInSn積層領域と、前記In膜と前記Sn膜とが積層されていないIn単層領域と、が配置され、前記アニール工程では前記InSn積層領域にて前記ITO膜を形成し、前記In単層領域の前記In膜を蒸発させることを特徴とする焦電型検出素子の製造方法。
【請求項2】
基板上にIn膜を形成する第1膜形成工程と、
前記In膜と重ねてパターニングしたSn膜を形成する第2膜形成工程と、
PZT膜を形成する第3膜形成工程と、
酸素含有雰囲気にて加熱し、前記Sn膜と前記In膜とからITO膜を形成するアニール工程と、
前記ITO膜が形成されない場所の前記In膜と前記PZT膜を除去する除去工程と、を有し、
前記第2膜形成工程が終了するとき、前記基板上には前記In膜と前記Sn膜とが積層されたInSn積層領域と、前記In膜と前記Sn膜とが積層されていないIn単層領域と、が配置され、前記アニール工程では前記InSn積層領域にて前記ITO膜を形成し、前記In単層領域の前記In膜を蒸発させることを特徴とする焦電型検出素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の焦電型検出素子の製造方法であって、
前記アニール工程は、前記基板を150〜200℃に加熱し前記In単層領域の前記In膜を蒸発させ、且つ前記InSn積層領域の前記In膜と前記Sn膜とを相互拡散させてInSn合金領域を形成する第1ステップと、
前記基板を300〜500℃に加熱し前記InSn合金領域に前記ITO膜を形成する第2ステップと、
前記基板を700〜900℃に加熱し前記PZT膜を結晶化させる第3ステップと、を有することを特徴とする焦電型検出素子の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の焦電型検出素子の製造方法であって、
前記Sn膜をパターニングするとき、レジストと前記レジストを除去するエッチャントとが用いられ、前記Sn膜のパターンエッジに前記レジストと前記エッチャント成分による角状のリデポ物を形成することを特徴とする焦電型検出素子の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の焦電型検出素子の製造方法であって、
前記PZT膜と重ねて赤外光の一部を反射し他の一部を透過する半透過貴金属膜を形成する貴金属膜形成工程をさらに有することを特徴とする焦電型検出素子の製造方法。
【請求項6】
基板上にITO膜とPZT膜とが積層された積層膜を有する焦電型検出素子であって、
前記積層膜が請求項1〜5のいずれか一項に記載の焦電型検出素子の製造方法を用いて形成されていることを特徴とする焦電型検出素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−173142(P2012−173142A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35504(P2011−35504)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】