説明

焼却炉

【課題】コンパクトで燃焼効率がよく、排出ガスが無煙、無臭でしかもダイオキシン等の有害物質や、粉塵、COなどの発生を著しく減少させることのできるとともに、消費燃料の少ない焼却炉を提供する。
【解決手段】焼却物を乾溜ガス化する乾溜ガス室2を内部に備えた炉体1と、乾溜ガス室で発生した乾溜ガスを焼却するための燃焼筒4と、燃焼筒4内に乾溜ガスを流入するための乾溜ガス流入孔5と、燃焼筒4内の乾溜ガスを燃焼させるための燃焼器6と、燃焼筒4内の排ガスを外部に排出するための煙突12とからなり、前記燃焼筒4は乾溜ガス室2の領域を貫通して配置され筒壁からの放射熱により焼却物を加熱して乾溜ガス室4内に乾溜ガスを発生させるように形成されており、更に、燃焼筒4内の排ガスの一部を乾溜ガス室2に還流する排気循環流路8が設けられている構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば家庭ゴミ等の一般廃棄物や、産業廃棄物等の焼却処理に用いられる焼却炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、焼却炉として、炉体に設けられた開閉可能な投入口から焼却物を投入して燃焼室内でバーナーにより焼却物を燃焼させ、燃焼により生じる煤煙を煙突体から排出する構造のものが一般的であるが、このような一次的な燃焼方式では、炉体内での焼却物の燃焼が不完全燃焼となり易く、ダイオキシンなどの有害物質や粉塵、COを含む煤煙などを大量に大気中に放出し、環境汚染の大きな原因となっている。
【0003】
そこで、焼却物を燃焼させるための一次燃焼室に加え、この一次燃焼室からの燃焼ガスを更に燃焼させるための二次燃焼室を一次燃焼室の上方で炉体内部に形成し、再燃バーナーにより再燃焼させるようにして、COなどの未燃焼ガスや煤煙の燃焼を促進するようにしたものが、例えば特許文献1や特許文献2で提案されている。
【0004】
しかし、この特許文献1や特許文献2の燃焼炉は、二次燃焼室を設けたことによりある程度の燃焼効果を高めることができるが、二次燃焼室が一次燃焼室の上段に隔壁によって区分けされた状態で個別に設けられているため、焼却炉全体が大型化すると共に、二次燃焼室の熱が一次燃焼室内の焼却物の加熱に利用されることがないので、熱損失が大きく燃料費等の運転コストが高くついて不経済であるといった問題点があった。
【0005】
また、別案として、炉体内に乾溜ガス室を設けて、この乾溜ガス室に輻射筒を貫通させ、バーナーで輻射筒内に火炎を供給して輻射筒の輻射加熱により乾溜ガス室内で焼却物を輻射加熱することにより乾溜ガスを発生させ、輻射筒に連なる燃焼室で乾溜ガスを燃焼するようしたものが特許文献3で開示されている。
【0006】
この特許文献3の焼却炉によれば、燃焼室で焼却される乾溜ガスの熱はバーナーの火炎と共に全て排気筒から外部に排出される構成となっているため熱損失が大きく、構造が簡単ではあるが燃焼効率が悪くて燃費が高くつく等の欠点がある。また、焼却物に水分が多く含むような場合には、筒からの輻射熱だけでは水分を蒸発させるのに時間がかかり、トータル的な燃焼時間が長くなるといった問題点があった。
【特許文献1】特開平9−159128号公報
【特許文献2】特開平5−231624号公報
【特許文献3】特開2003−56814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は上記の課題を解決することを図るものであって、コンパクトで燃焼効率がよく、排出ガスが無煙、無臭でしかもダイオキシン等の有害物質や、粉塵、COなどの発生を著しく減少させることのできる焼却炉を低コストで提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する為に本発明では次のような技術的手段を講じた。即ち、本発明に係る焼却炉にあっては、焼却物を乾溜ガス化するための乾溜ガス室を内部に備えた炉体と、乾溜ガス室に焼却物を投入するための投入口と、乾溜ガス室で発生した乾溜ガスを焼却するための燃焼筒と、燃焼筒内に乾溜ガスを流入するために燃焼筒周壁に形成された乾溜ガス流入孔と、燃焼筒内に流入した乾溜ガスを燃焼させるための燃焼器と、燃焼筒内の排ガスを外部に排出するための煙突とからなり、燃焼筒は乾溜ガス室の領域を貫通して配置され筒壁からの放射熱により焼却物を加熱して乾溜ガス室内に乾溜ガスを発生させるように形成されており、更に、燃焼筒内の排ガスの一部を乾溜ガス室に還流する排気循環流路が設けられている構造とした。
【発明の効果】
【0009】
本発明の焼却炉は上記の如く構成したので、燃焼室の筒壁からの放射熱によって焼却物が加熱されて乾溜ガス化され、この乾溜ガスが燃焼筒内に流入して燃焼器により燃焼されることにより無煙、無臭でしかもダイオキシン等の有害物質や、粉塵、COなどの発生を著しく減少させることができ、加えて、燃焼筒内の排ガスの一部を乾溜ガス室に還流する排気循環流路を設けた構造となっているため、燃焼器の火炎や乾溜ガス燃焼後の高温の排ガスを再度焼却物の加熱に利用することができ、これにより燃焼筒の筒壁からの放射熱と還流された高温の排ガスの加熱によって燃焼効率を一層高めることができるとともに、燃費の節減を図ることができる、といった優れた効果がある。
【0010】
(その他の課題を解決するための手段及び効果)
上記発明において、前記燃焼筒が、乾溜ガス室を上下に貫通して配置されていてその上端に燃焼器が設けられ、乾溜ガス室の上部で燃焼筒周壁に乾溜ガスを流入させるための前記乾溜ガス流入孔が設けられており、燃焼筒下部に前記乾溜ガス室に連なる排気循環通路並びに前記煙突に連なる排気口が設けられている構成とするのがよい。
これにより、燃焼筒内の乾溜ガス燃焼後の高温の排ガスの熱を、燃焼筒上部から下部にわたって広い範囲で筒壁からの放射熱として有効に利用できると共に、燃焼筒から乾溜ガス室に連なる排気循環流路を簡単に形成できて構造の簡略化を図ることができる。
【0011】
また本発明では、乾溜ガス室内の焼却物を燃焼させて燃焼ガスを乾溜ガス室に生じさせるための第2の燃焼器を乾溜ガス室に設ける構造としてもよい。
これにより、乾溜ガス室内での乾溜ガスの発生を更に促進させることができる。
【0012】
また本発明では、前記燃焼器が、燃料噴射ノズルと、該噴射ノズルの燃料噴射軸線に対して接線方向に空気を供給する空気旋回供給器とを備えていて、供給される空気に渦流を発生させるように形成されている構造とするのがよい。
これにより、空気と燃料とが効率よく混合、攪拌され、燃焼効率を高めることが可能となる。
【実施例】
【0013】
以下において本発明にかかる焼却炉の具体的な内容を図に示した実施例に基づき説明する。図1並びに図2は本発明の焼却炉の第1の実施例を示すものであって、符号1で炉本体を示す。炉本体1の内部には乾溜ガス室2が設けられ、焼却物をこの乾溜ガス室2に投入するための投入口3が炉本体1の壁面に設けられている。また、乾溜ガス室2内には上下に貫通する燃焼筒4が設けられている。
【0014】
前記燃焼筒4は、乾溜ガス室2内の上部で乾溜ガスを燃焼筒4内に流入するための乾溜ガス流入孔5が設けられており、この乾溜ガス流入孔5から燃焼筒4内に流入した乾溜ガスを燃焼させるためのバーナー等の燃焼器6が燃焼筒4の上端に設けられている。また、燃焼筒4の下部には乾溜ガスを燃焼することによって生じた排ガスを外部に排出するための煙突12が排気口7を介して接続されている。更に、燃焼筒4内の排ガスの一部を燃焼筒4の下部から乾溜ガス室2の下方部分に還流する排気循環流路8が設けられている。この排気循環流路8は燃焼筒4の下端を乾溜ガス室2で開口させることによって形成されている。
【0015】
上記燃焼器6は、燃料噴射ノズル9と、該噴射ノズル9の燃料噴射軸線に対して接線方向に空気を供給する空気旋回供給器10、燃焼用空気取入れ口11並びに点火装置(図示外)とを備えていて、空気旋回供給器10は図3に示すように、断面リング状の形態をなし、外周面から内側空間に向かって接線方向に開口した複数の空気導入孔10aを備え、ここから導入した空気と燃料噴射ノズル9からの燃料とによる火炎に渦流を発生させるように形成されている。
【0016】
上記の構成において、乾溜ガス室2に焼却物Cを投入して燃焼器6を作動させると、燃焼筒4の筒壁から生じる放射熱と、排気循環流路8からの燃焼筒4の高温の排ガスによって乾溜ガス室2内に乾溜ガスが発生する。この乾溜ガスは、乾溜ガス流入孔5から燃焼筒4内に流入して燃焼器6の火炎により燃焼され、その排ガスの一部は煙突から外部に排出され、残りは排気循環流路8から乾溜ガス室2に還流される。このようにして、燃焼筒4内での乾溜ガスの燃焼によって焼却物がほぼ完全に燃焼され、煙突12から排出される排ガスが無煙、無臭で、しかもダイオキシン等の有害物質や、粉塵、COなどの含有量を著しく減少させることができると共に、燃焼筒4の筒壁からの放射熱と還流された高温の排ガスの加熱によって燃焼効率を高めることができ、燃費の節減を図ることができる。尚、前記燃焼筒4は、炉本体1内に配置される部分において、鉄等の熱伝導性に優れた材料で形成するのが好ましい。これにより燃焼筒4の筒壁からの放射熱の熱量を高めることができる。
【0017】
また、燃焼器6において、噴射ノズル9の燃料噴射軸線に対して空気旋回供給器10の空気導入孔10aから接線方向に空気が供給されるので、点火された火炎に渦流が発生して空気と燃料とが効率よく混合攪拌され、効率よく燃焼させることができる。
【0018】
図4は、図1で示した実施例の燃焼筒4の下端と煙突12との連絡部分に若干の修正を加えたものであって、煙突12に連なる配管13を燃焼筒4の下端開口部から差し込んで形成されており、配管13と燃焼筒4の筒壁との隙間が排気循環流路8として形成されている。この場合も、先の図1で示した実施例と同様な効果を発揮することができる。
【0019】
また本発明では、図5に示すように、燃焼筒4の一部を乾溜ガス室2に貫通させ、他の部分を炉体1の外部に配置するようにしてもよい。この場合、燃焼筒4の筒壁からの乾溜ガス室2内に与える放射熱量は低下するが、排気循環流路8からの高温の還流排ガスによって充分に熱量を補填することができる。
【0020】
尚、本発明では必要に応じて、例えば、燃焼し難い焼却物を焼却するような場合には、図6に示すように、第2の燃焼器14を乾溜ガス室2の下方に設置するようにしてもよい。
【0021】
更に加えて本発明では、図7に示すように、炉本体1の外側で、燃焼筒4の排気口7から煙突12に連なる煙道12’の中間位置に、流量調節弁15を設けてつまみ15`を操作することにより煙道12’の流量を調節出来るようにするのが好ましい。これにより、焼却物の量や内容に応じて変化する乾溜ガスの発生の程度に対応して、流量調節弁15を操作することにより、乾溜ガス室2に還流される排ガス流量を調節することが出来る。
【0022】
本発明では上記した実施例に特定されるものではく、本発明の構成要件を備え、且つ上記した効果を有する範囲内で適宜変更して実施することができることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の焼却炉は家庭用に限らず、事業所や工場内での簡易焼却炉としても広範囲に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る焼却炉の一実施例を示す断面図。
【図2】上記焼却炉の平面図。
【図3】本発明における燃焼器の空気旋回供給器を示すものであって、図1に於けるA−A線に沿った拡大断面図。
【図4】本発明に係る焼却炉の別の実施例を示す断面図。
【図5】本発明に係る焼却炉の更に別の実施例を示す断面図。
【図6】本発明に係る焼却炉の他の実施例を示す断面図。
【図7】本発明に係る焼却炉の更に他の実施例を示す断面図。
【符号の説明】
【0025】
1 炉本体
2 乾溜ガス室
3 投入口
4 燃焼筒
5 乾溜ガス流入孔
6 燃焼器
8 排気循環流路
9 燃料噴射ノズル
10 空気旋回供給器
11 空気取入れ口
12 煙突


【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却物を乾溜ガス化するための乾溜ガス室を内部に備えた炉体と、乾溜ガス室に焼却物を投入するための投入口と、乾溜ガス室で発生した乾溜ガスを焼却するための燃焼筒と、燃焼筒内に乾溜ガスを流入するために燃焼筒周壁に形成された乾溜ガス流入孔と、燃焼筒内の乾溜ガスを燃焼させるための燃焼器と、燃焼筒内の排ガスを外部に排出するための煙突とからなり、前記燃焼筒は乾溜ガス室の領域を貫通して配置され筒壁からの放射熱により焼却物を加熱して乾溜ガス室内に乾溜ガスを発生させるように形成されており、更に、燃焼筒内の排ガスの一部を乾溜ガス室に還流する排気循環流路が設けられている焼却炉。
【請求項2】
前記燃焼筒が乾溜ガス室を上下に貫通して配置されていてその上端に燃焼器が設けられ、乾溜ガス室の上部で燃焼筒周壁に乾溜ガスを流入させるための前記乾溜ガス流入孔が設けられており、燃焼筒下部に前記乾溜ガス室に連なる排気循環通路並びに前記煙突に連なる排気口が設けられている請求項1に記載の焼却炉。
【請求項3】
乾溜ガス室内の焼却物を燃焼させて燃焼ガスを乾溜ガス室に生じさせるための第2の燃焼器が乾溜ガス室に設けられている請求項1又は請求項2に記載の焼却炉。
【請求項4】
前記燃焼器が、燃料噴射ノズルと、該噴射ノズルの燃料噴射軸線に対して接線方向に空気を供給する空気旋回供給器とを備えていて、供給される空気に渦流を発生させるように形成されている請求項1〜請求項3に記載の焼却炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−39365(P2008−39365A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−218202(P2006−218202)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【出願人】(391058369)株式会社エイチ・エスコーポレーション (8)
【Fターム(参考)】